新規なカーボンナノチューブ・リチウムバッテリ
ここに開示されるのは高エネルギ・リチウムバッテリシステムである。このシステムは、陽極/陰極の双方用のカーボンナノチューブおよび/またはその他のナノチューブラ材料からなる。このバッテリは、それぞれカーボンナノチューブからなる2個の活性電極と、バッテリセパレータと、リチウム塩を含んだ電解質とで構成される。セパレータおよび電解質は、当業者によく知られた数多くのもののうちのいずれであってもよい。液体/固体ポリマ電解質はこの高エネルギシステムにさらに向上した安全性を付与する。カーボンナノチューブ電極は、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボール等、あるいはナノ構造化カーボン材料を表すその他の口語名称材料およびそれらのコンビネーションであってよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年9月23日出願の米国特許出願第10/668,976号および2003年5月20日出願の仮出願第60/471,780号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は一部、契約ナンバーN0014−03−M0092のもとで、海軍研究事務所からの合衆国政府の支援を受けて行われた。合衆国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明はエネルギ貯蔵デバイスに関する。特に、本発明は、カーボンナノチューブからなる2個の活性電極、バッテリセパレータおよびリチウム塩を含んだ電解質を有するリチウムイオンバッテリに関する。
【背景技術】
【0004】
消費者向けならびに軍事利用向けの将来のポータブル電力要件はリチウムバッテリ技術にますます大きな比エネルギと出力とを求めることになろう。将来の電力要件に対処するには、リチウムバッテリは>400Wh/kgの持続的な比エネルギを示しかつ>2kW/kg@100Wh/kgのパルス電力性能を有する必要があると予測される。さらに、これらのシステムは広い温度範囲(−20〜90℃)にわたって効果的に動作し、急速な充電が可能である必要があろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの要件に対しては、従来のバッテリまたは従来のシステムの性能の増補によって対処することはできない。よく知られているように、従来のリチウムイオン電極材料はそのリチウム貯蔵能力を制限する物理化学的制約を受けやすい。たとえばメソカーボンマイクロビーズ(mcmb)はリチウムイオン陽極に使用するために入手し得る最良の不規則炭素である。この材料は、ただしそのピークで、Li1C6までしかインターカレーションできず、372mAh/gのLi+容量を達成し得るにすぎない。カーボンナノチューブはLiC3までインターカレーションが可能であり、1000mAh/gの優れた容量を達成することができる。mcmbと同様に、リチウムは可逆的にインターカレーションされることから、カーボンナノチューブは陽極材料としてmcmbを上回る劇的な改善を実現する。こうした厳しい将来の要件に対処するために新規材料が開発される必要があることは明白である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は高エネルギ・リチウムバッテリシステムに関する。このシステムは陽極/陰極の双方用のカーボンナノチューブおよび/またはその他のナノチューブラ材料からなっている。本発明はまた、これらのナノチューブを作製する方法に関する。本発明は、それぞれカーボンナノチューブからなる2個の活性電極、バッテリセパレータおよび、リチウム塩を含んだ電解質で構成されるバッテリに関する。セパレータと電解質とは当業者によく知られた数多くのもののうちのいずれであってもよい。本発明の液体/固体ポリマ電解質はこの高エネルギシステムにさらに向上した安全性を付与する。カーボンナノチューブ電極は、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボール等、あるいはナノ構造化カーボン材料を表すその他の口語名称材料およびそれらのコンビネーションであってよい。
【0007】
本発明の一つの目的はリチウムバッテリ用の高エネルギ電極材料を示すことである。
【0008】
本発明のもう一つの目的は本発明の高エネルギ材料の作製に要されるプロセスを明示することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、200mAh/gを越える非常に高い比エネルギ・バッテリ容量をもたらす新しい電極材料を使用した新規バッテリを示すことである。
本発明のさらに別の目的は、リチウム挿入されたナノチューブ陽極とリチウム金属酸化物ドープされたナノチューブ陰極とを使用して高エネルギバッテリを形成する方法を示すことである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、リチウム金属酸化物を含むさまざまなリチウム源がカーボンナノチューブ陽極へのリチウム挿入に使用し得ることを具体的に示すことである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、“バッキーペーパ[Buckypaper]”と称される紙類似材料と同じ構造を有する2個のカーボンナノチューブ電極からなる高エネルギバッテリの構成を明示することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的はバッキーペーパ電極の作製プロセスを示すことである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、700Wh/kgを超える比エネルギを有するバッテリシステムを実現する新たな電極材料を使用した新規バッテリ・アーキテクチャを示すことである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、3kW/kgを超える比出力を有するバッテリシステムを実現する新たな電極材料を使用した新規バッテリ・アーキテクチャを示すことである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、さまざまなタイプのカーボンナノチューブおよびナノチューブラ材料(実例を完全にリストアップするものではないが、これらには口語名称材料たとえばナノベル、ナノホーン、ピーポッド、複層チューブ等が含まれる)を使用し得るバッテリシステムを示すことである。本発明のさらに別の目的は、安全かつ超高エネルギバッテリを実現するための、高エネルギ電極と新規の難燃性ポリマ・ベースの電解質とのコンビネーションを示すことである。
【0016】
本発明を本発明のその他のさらなるニーズと共にいっそうよく理解するために、添付図面ならびに詳細な説明を参照されたい。本発明の範囲は本願明細書の末尾に記した請求項によって画定されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は高エネルギ・リチウムバッテリシステムに関する。このシステムは陽極/陰極の双方用のカーボンナノチューブおよび/またはその他のナノチューブラ材料からなっている。1実施形態において、本発明は、それぞれカーボンナノチューブからなる2個の活性電極、バッテリセパレータおよび、リチウム塩を含んだ電解質で構成されるバッテリに関する。セパレータと電解質とは従来の技術においてよく知られた多くのもののうちから選択することが可能である。本発明において、液体/固体ポリマ電解質はこの高エネルギシステムにさらに向上した安全性を付与する。別途の研究努力において、安全でかつ高い熱安定性を有する新たなセットのポリ燐酸塩電解質の開発研究が行われた。
【0018】
研究努力により、ポリマ電解質作製用の優れた候補としてポリ燐酸塩とポリホスホネート(PEP)が確認された。たとえばUSSN 09/837,740 ― 同文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― 参照のこと。加えて、液体および固体状態の双方の電解質システムによる成功が実現された。これらの新規材料は単段処理で比較的安価に作製され、ポリエチレンオキシド(PEO)の0.3に比較して0.5という非常に優れたリチウムイオン輸送特性を結果した。熱安定性試験もまた有望な結果をもたらした(>300℃に対して熱的に安定)。−20℃から+90℃までの動作温度範囲を拡大するために、我々はポリ燐酸塩液体電解質を炭酸プロピレン(PC)とブレンドして、ポリ燐酸塩材料の低温性能を向上させることを予定している。これらの液体は極性液体たとえばPCと完全に混和する。
【0019】
PEPの合成は製造コストを最小化する直接単段処理である。ポリマの合成に続いて、液体ポリマにリチウム塩を溶解して濃度1Mとすることによって液体ポリマ電解質(LPE)が作製される。これらの電解質におけるリチウム塩としてのリチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiIm,3M Co.)の使用は極めて上首尾であった。次のステップは、大量の炭酸プロピレンをLPEにブレンドして、改質されたLPEを形成することである。
【0020】
カーボンナノチューブ電極は、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボール等、あるいはナノ構造化カーボン材料を表すその他の口語名称材料およびそれらのコンビネーションであってよい。
【0021】
さらに別の実施形態において、本発明のナノチューブを作製する方法が述べられる。本発明の一面において、ナノチューブを純化してそれらの構造を開放するために要される一連の処理ステップが述べられる。この点で、陽極は陰極とは異なる方法で処理される。また、ナノチューブ陽極の電気化学的リチウム挿入反応も本願明細書に述べられる。
【0022】
消費者向けならびに軍事利用向けのポータブル電力要件はリチウムバッテリ技術にますます大きな比エネルギと出力とを求めている。これらの要件に対処するには、リチウムバッテリ技術における新しいコンセプトが考案、開発される必要がある。ナノ構造化材料とポリマ電解質とはいっそう高エネルギのリチウムバッテリを開発するための新たな方途を提供する。
【0023】
電極開発分野において、カーボンナノチューブに関する最近の研究は、高容量陽極材料としてのグラファイトに代わる最初の固体代替物質への扉を開いた。リチウムインターカレーションされたグラファイトとその他の炭質材料は先進的なリチウムイオンバッテリ用電極として商業的に使用されている。たとえば、M.S.Whittingham,editor,Recent Advances in Rechargeable Li Batteries,Solid State Ionics,volumes 3 and 4,number 69,1994;D.W.Murphy et al., editors,Materials for Advanced Batteries,Plenum Press,New York,1980、参照。これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする。ほとんどの黒鉛状炭素はLi0.3C6(375mAh/g)の化学量論比を示すが、他方、不規則炭素は一般にLi1C6(400mAh/g)である。リチウム挿入された炭素に比較して、リチウム金属陽極は>3000mAh/gの理論容量と965mAh/gの実容量を有している。
【0024】
カーボンナノチューブは可能性を秘めた電極材料として注目を集めている。カーボンナノチューブは閉じた同心多層シェルまたは多層ナノチューブ(MWNT)として存在していることが多い。ナノチューブはまた、単層ナノチューブ(SWNT)として形成されることも可能である。SWNTはバンドルを形成し、これらのバンドルは最密2D三角格子構造を有している。MWNTとSWNTとの双方が製造され、これらの材料の比容量は蒸気輸送反応によって評価された。たとえば、O.Zhou et al., Defects in Carbon Nanotubes,Science:263,pgs.1744−47,1994;R.S.Lee et al., Conductivity Enhancement in Single−Walled Nanotube Bundles Doped with K and Br,Nature:388,pgs.257−59,1997;A.M.Rao et al., Raman Scattering Study of Charge Transfer in Doped Carbon Nanotube Bundles,Nature:388,257−59,1997;C.Bower et al., Synthesis and Structure of Pristine and Cesium Intercalated Single Walled Carbon Nanotubes,Applied Physics:A 67,pgs.47−52,spring 1998、参照。これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする。これらのナノチューブ材料に関する最も高いアルカリ金属飽和値はMC8(M=K,Rb,Cs)であると報告された。これらの値は商業的に普及している現存の材料たとえばグラファイトを上回る有意な進歩を表していない。最近の実験結果は、単層カーボンナノチューブをLi1C3およびそれ以上にまで挿入することが可能であることを示している。粗製材料の容量は実験により600mAh/gを上回ることが確認された。これらの容量は純リチウムのそれに近ずくが、リチウムの安全性の問題を回避している。カーボンナノチューブは高エネルギバッテリの実現の新たな見通しをもたらすと共に従来の電極材料ではこれまで達成し得なかったまったく新規なバッテリデザインを実現する新たな機会をもたらし得ることは明らかである。
【0025】
リチウム挿入されたカーボンナノチューブは、学術文献および特許文献において、リチウムバッテリ用の高エネルギ非金属陽極を作製するための手段として報告されている。特に、Zhow、米国特許第6280697、6422450および6514395号 ― これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― はレーザによって生成されるカーボンナノチューブの作製プロセスとリチウム挿入プロセスを詳細に開示している。ただし、従来の技術は、リチウム挿入されたナノチューブ陽極とリチウム挿入されていないナノチューブ陰極とを使用して高エネルギバッテリを構成するコンセプトを含んでいず、また、セル電圧を高めるためにリチウム金属酸化物を添加して陰極を改質する方法も開示していない。また、従来の技術は、ナノチューブ陰極または陽極に導電性改質材料たとえば導電性ポリマをドープすることも、化学的に異なる第二のナノチューブ電極と組合わせてバッテリを構成する前に一方のナノチューブ電極をフッ素化することも開示していない。
【0026】
従来の商業的なリチウムイオンバッテリ・テクノロジは、正電極用のリチウム挿入された金属酸化物(陰極)と負電極としての(さまざまな形態の)炭素(陽極)に依拠している。リチウムイオンバッテリは陰極のリチウム全体で寿命を開始し、充電されると、このリチウムの一定パーセンテージが陽極に移動させられて、炭素陽極内でインターカレーションされる。充電プロセスが終了すると、バッテリはほぼ4.2Vの開路電圧を有する。このセル電圧のうちほぼ1.15Vは金属酸化物電極の正電位に由来している。これら2つの材料の異なった化学的性質が高い開路電位を保証する。ただし、類似の結果を及ぼすために類似の化学的性質をもった材料を使用することも考えられる。1980年に“ロッキングチェア・コンセプト(rocking chair concept)”、つまり、金属酸化物またはスルフィドをベースとした2つの挿入化合物の使用がLazzariとScrosatiによって提案された(M.Lazzari and B.Scrosati,J.Electrochem.Soc.,Brief Communication,March 1980。この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)。1.8Vの平均電圧で動作するLixWO2/LiyTiS2バッテリが開示された。このシステムは金属リチウム陽極問題を解決し得たが、現存の充電可能なシステムに代わる有力な手段となり得るために必要な実用的なエネルギ密度をもたらすことはできなかった。この先行レポートに続いて、研究者らは、2つの金属酸化物電極の使用から遠ざかり、一定タイプの炭素がリチウムを可逆的にインターカレーションし得ることを見出した。ほとんどの黒鉛状炭素はLi0.3C6(375mAh/g)の化学量論比を示すが、他方、不規則炭素は一般にLi1C6(400mAh/g)である。リチウム挿入された炭素に比較して、リチウム金属陽極は>3000mAh/gの理論容量と965mAh/gの実容量を有している(Linden,D.and Reddy,T.B.,Handbook of Batteries,3rded.p.34.8,McGraw−Hill,NY,2001。この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)。
【0027】
本発明は、それぞれ1または複数のカーボンナノチューブからなる2個の活性電極、バッテリセパレータおよび、リチウム塩を含んだ電解質で構成されるバッテリに関する。セパレータと電解質とは当業者によく知られた多くのもののうちのいずれかであってよい。本発明の液体/固体電解質はこの高エネルギシステムにさらに向上した安全性を付与する。カーボンナノチューブ電極は、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボール等、あるいはナノ構造化カーボン材料を表すその他の口語名称材料およびそれらのコンビネーションであってよい。
【0028】
本願明細書の記述全体を通じて、カーボンナノチューブまたはナノチューブという一般的な用語は当業者によく知られた一連のあらゆるカーボンナノチューブ材料を意味すると理解されることとする。加えて、ナノチューブはセル電圧を高めるためにリチウム金属酸化物とコンビネーションされ、または導電材料たとえば導電性ポリマが化学的にドープされ、ナノチューブの作動機能に影響を及ぼすために熱的に酸化またはフッ素化され、これによってセル電圧を高めることができる。一般に、本発明のナノチューブは本願明細書に詳細に述べる特有の処理を必要とする。
【0029】
本発明の1実施形態において、陽極および陰極の双方にリチウム活性の異なるカーボンナノチューブを使用するリチウムイオン(Li−ion)バッテリが述べられる。一面において、本発明は電極としてのバッキーペーパ構造のカーボンナノチューブの使用に関する。この点で、材料は不活性濾材によるカーボンナノチューブ懸濁液のフィルタリングと、続いての空気中での乾燥と酸化によって形成される。この技法は学術文献によって十分にドキュメンテーションされているが、これまでのところ、バッキーペーパが双方の電極を形成するバッテリは報告されていず、バッテリの双方の電極へのカーボンナノチューブ・バッキーペーパの使用を示す報告も行われていない。
【0030】
図1は本発明の1実施形態を示している。同図に示したバッテリシステム1は、陽極3、陰極5、セパレータ7および、陽極3と陰極5との間の電気導通を可能にする手段8を含んでいる。本発明の一面において、陽極3および/または陰極5はカーボンナノチューブ材料で構成されている。このカーボンナノチューブ材料は、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボールまたはその他の公知のナノ構造化カーボン材料であってよい。陽極3はLiC3陽極であり、セパレータ7はたとえばリチウム塩と溶媒からなっている。セパレータ7は液体またはポリマカチオン透過性電解質を有する絶縁材からなっている。陽極3と陰極5との間の電気導通用の手段8は、陽極と陰極との間の電気導通を可能にする従来の技術においてよく知られた任意の手段であってよい。この種の手段は適切な低い抵抗を有する電線であってよいが、それに限定されるものではない。
【0031】
図2は、従来のリチウムイオン・テクノロジ(図2a+b)と、本発明の全体的コンセプトを表す本発明のリチウムイオン・テクノロジ(図2c+d)との対比を概括的に示すのに有用である。同図において、従来のリチウムイオン・システム9は、メソカーボンマイクロビーズ(mcmb)陽極11と、LiNiCoO2陰極13と、標準セパレータおよび電解質(不図示、図1参照)とからなっている。リチウムイオンバッテリ9はLiNiCoO2陰極13のリチウム全体で寿命を開始する。充電されると(図2a)と、リチウムのほぼ98%がmcmb陽極11に移動させられて、炭素陽極11内でインターカレーションされる。充電プロセスが終了すると、バッテリ9はほぼ4.2Vの開路電圧を有する。このセル電圧のうちほぼ1.15Vは金属酸化物電極13の正電位に由来している。放電すると、先にmcmb陽極にインターカレーションされたリチウムは今や電解質を通過して、LiNiCoO2のスピネル構造中に再蓄積される。
【0032】
対照的に、本発明のバッテリ9′は、リチウム挿入に先立って適切に処理されてリチウム挿入されたSWNT陽極11′で作動を開始する。(この処理の詳細は実施例3、以下記載、に述べられる)。一例として、リチウム挿入は、リチウムフィルムと当業者によく知られている適切な装置とを使用して、ガルバノスタットによって実施することができるが、ただしこれに限定されるものではない。SWNT陰極13′は陽極とは異なった特別な方法で処理される。これは陰極13′に非常に異なった化学的、物理的性質を付与する。集成組付けされた後(図2c+d)、バッテリ9′はセパレータと電解質とを含み(いずれも不図示である)、2つの電極の処理に応じて約2.9〜3.5Vの電圧を有する。放電すると(図2c)、リチウムカチオンは陽極11′から離れて陰極13′に移動し、セル電圧は減少する。流れを逆転してバッテリ9′を充電すると、リチウムカチオンは陽極11′に戻り、セル電圧を回復する。図2d参照。2つの材料の処理はセル電圧の保全にとって重要である。
【0033】
本発明の重要なコンセプトは、陽極および陰極の双方用にリチウム活性の異なるカーボンナノチューブを使用するリチウムイオンバッテリである。図3は本発明の実施形態を構成し得る多様なアプローチを列挙したものである。
【0034】
図3aに示した一つのアプローチは2つの異なったタイプのナノチューブを陽極および陰極用に選択的に使用することを基本としている。一例として、正電極としてのSWNTの使用と、負電極としてのリチウム挿入された多層カーボンナノチューブ(MWNT)の使用を説明するが、これは本発明を制限するものではない。このセルはMWNT電極に存在するリチウムで寿命を開始し、充電されると、Li+はSWNT電極に移動させられることになる。この場合、MWNTの仕事関数はSWNTのそれよりも高い。結果として、最初にMWNTをリチウム挿入することは放電後に比較的高いセル電圧を結果することとなり、これは有利である。このアーキテクチャを逆転しても作動可能なセルが得られるであろうが、これは効率の点から見て多少好ましくないものである。セルの集成組付けに先立ってMWNT電極を化学的または電気化学的にリチウム挿入することが可能である。一つのアプローチは、純粋なリチウム逆電極と適切な電解質およびセパレータを使用してSWNT材料を電気化学的にリチウム挿入することである。1実施形態において、材料は長時間(〜20hrs/材料0.5mg当たり)にわたって、低速(<100micronA/cm2)でリチウム挿入される。この装置は充電前に〜3.0Vのセル電圧を生じ、バッテリが完全に充電されると〜3.2Vのセル電圧を生ずる。充電されると、リチウム挿入されたMWNT陽極は標準水素電極(NHE)に対して〜−3Vの電圧を有し、他方、SWNTは、MWNTに対してSWNTの仕事関数が高いため、NHEに対して〜−0.15Vの電圧を有することになろう。システム中の電極の仕事関数とその可逆電位との間の関係は複雑であるが、Trassati(Trassati,S.,Electroanal Chem and Interfac Electrochem.33,351−78,(1971),Trassati,S.,Surface Sc,335,1−9,(1995)― これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)は、電極の仕事関数が低ければ低いほど、その電位はNHEに対していっそう低いという一般的な規則を表す関係を詳細に記述している。
【0035】
ただし、電解質の活性も同じく考慮されなければならず、たとえば、MWNTとSWNTとの間の仕事関数の差は、Li/Li+に比較してSWNTのより高い電極電圧を結果することがある。Shiraishi(Shiraishi,M.and Ata,M.,Mater Res.Soc.Sympos.No.633,A4.41,Mater.Res.Soc.,Pittsburgh,PA.2001― この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)は、SWNTの仕事関数はMWNTのそれよりも0.15eV高いことを報告している。したがって、これらの材料の間に少なくとも150mVの電圧差を期待することができる。
【0036】
図3bは別途アプローチを示しており、この場合、SWNTはフッ素化によって化学的に改質されるが、その他の酸化処理たとえば塩素化を使用することも可能である。この処理はカーボンナノチューブの仕事関数に影響を及ぼし、さらに、フル充電された場合のセル電圧を高める。たとえばTouhara,et al.(Touhara,H.,et al.,J Fluorine Chemistry,114,181−88,2002,― この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)は、最近、カーボンナノチューブの内側面のフッ素化はLi+インターカレーションの改善および、非プロトン性電解質に浸漬されたフッ素化されたナノチューブからなる電極のOCVの660mVの増加を生ずる旨の報告を行った。より高い仕事関数と化学的改質とのこうした組合わせはLiSWNT/SWNTリチウムイオンバッテリのセル電圧を引上げるための鍵となり得る。その結果は非常に高い容量、>3Vリチウムイオンバッテリとなろう。
【0037】
図3cに見られる、化学的改質のための別途アプローチは、SWNTを有機導電性材料たとえば導電性ポリマ、一例としてたとえばポリ3−オクチルチオフェンで処理することである。また、その他の導電性ポリマをこの目的のために使用することもできよう。一例を挙げれば、このグループの物質は、置換ポリチオフェン、置換ポリピロール、置換ポリフェニレンビニレンおよび置換ポリアニリンであろう。アルキル鎖の末端にスルホン酸基を配することによる、これらの材料のイオンドーピングまたはセルフドーピングはp形導電性ポリマを供するであろう。この処理もまた、ナノチューブの仕事関数を変化させ、それによって、フル充電された場合のセル電圧を高める。
【0038】
図3dに示したように、さらなる別法として、カーボンブラックの代わりにリチウム挿入されたナノチューブを、リチウムイオンバッテリの活性陰極材料として目下使用されている金属酸化物材料と合体させることも可能である。これは二重の利点をもたらすことになろう:1)ナノチューブは結果する複合電極にいっそう高い導電性を供し、それによって、陰極効率を高め、2)リチウム挿入されたナノチューブは陰極の容量を劇的に改善するであろう。高いセル電圧は陰極中のリチウム金属酸化物の存在によって保持されるであろう。
【0039】
考えられ得るさらに別のコンビネーションは、図3eに示したように、リチウム挿入されたSWNT陽極材料と、純SWNTからなる陰極とを使用することである。このシナリオにおいて、SWNT陽極材料はSWNT陰極材料とは異なった方法で処理されよう。一例として、陽極SWNT材料は希薄鉱酸中で再溶融され、水とアセトンで洗浄され、続いて、選択されたガス、一例としてCO2を使用して熱酸化されることができようが、これに限定されるものではない。対照的に、SWNT陰極材料は希薄鉱酸中で再溶融され、次いで、空気中で熱酸化されることができよう。
【0040】
考えられ得るさらに別のコンビネーションは、図3fに示したように、リチウム複合材料陽極たとえば学術文献(Yang,J.,et all,Electrochemical and SolidState Letters,6(8),A154−A156 2003,― この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)に陽極材料として述べられたLiSiC複合材料と、純SWNTからなる陰極とを使用することである。この例において、SWNT陰極材料は希薄鉱酸中で再溶融され、次いで、熱酸化されることができ、LiSiC複合材料の高い容量を補完する高容量を供するであろう。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は本発明のコンセプトを説明することを意図するものであり、本発明の範囲を制限しようとするものではない。
【0042】
実施例1
SWNT/SWNTバッテリの基本的コンセプトを説明するため、当業者によく知られたレーザ融蝕技法を使用して1バッチ分のSWNTが準備された。たとえば、SWNTバンドルを作製するための一つの適切な技法はC.Bower et all,Synthesis and Structure of Pristine and Cesium Intercalated Single−Walled Carbon Nanotubes,Applied Physics:A67,pgs.47−52,spring 1998または米国特許第6,422,450号明細書 ― これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― に述べられている。
【0043】
この1バッチ分のSWNT材料の合成に続いて、材料は5%のHNO3への再溶融によって15時間にわたって純化処理に付され、続いて、脱イオン水によって広範に洗浄された。最終生成物は次いで、不活性多孔質テフロン(登録商標)フィルタによる濾過によって収集された。次いで生成物は空気中で100℃にて15時間にわたって乾燥され、こうしてバッキーペーパが得られた。このバッキーペーパから1cm2の電極が切り取られて、1片のCelgard2350多孔質ポリプロピレン・セパレータと、50:50の炭酸エチレン:炭酸エチルメチル(EC/EMC)に1Mのリチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiIm)を溶解した電解質とを含んだ2電極テストセルに配置された。電極はすべて、セルに集成組付けされる前に、Mettler UMT−2微量天秤を使用して秤量された。これらのステップはすべて、Arを満たしたグローブボックス中で実施された。純リチウム・フィルムが逆電極として使用され、SWNT陽極はセルに10時間にわたって100μA/cm2の電流を通すことによってリチウム挿入された。この処理に続いて、セルは分解、浄化され、リチウム挿入された陽極と新たなセパレータおよび純SWNT陰極とを用いて再び集成組付けされた。陰極材料は、空気中にて500℃にて1時間にわたって加熱された点を別として、陽極材料と同様に処理されていた。完全なセルは次いで、セルに100μA/cm2の負電流を通し(陽極は正、陰極は負)、続いて100μA/cm2の正電流を通すことにより電極から電極へとLi+を循環させるサイクルに付された。この処置の結果は図2に示されており、同図は、セル電圧は負荷下で時間と共に変化するが、ラグはファラデープロセスに標準的に対応している場合と同様に非常に大きいことを示している。使用された材料の重量と使用された電流をベースとして、このシステムの比エネルギは表1にまとめたように計算することができる。
【0044】
【表1】
表1に示したように、このセルの第一回テストシリーズは78Wh/kgの比エネルギを結果した。このテストに続いて、第二のセルが準備された。ただしこの場合、陽極は同様にして処理されたが、酸溶融に続く洗浄プロセスの間に、水洗に続いてSWNT材料がアセトンで洗浄されるステップが加えられた。その他の点では、試料は第一の試料と同様に処理された。この陽極材料に関する結果は第一の結果よりも著しく良好であり、試料は200Wh/kgの比エネルギを示した。これらの結果は本発明の妥当性と新規性とを確実に裏付けている。
【0045】
実施例2
本発明の無比な特性をさらに具体的に示すため、一方のmcmb電極はリチウム挿入され、他方の電極はリチウム挿入されなかった、標準メソカーボンマイクロビーズ(mcmb)材料からなるカーボン/カーボン・バッテリとの間の比較が行われた。mcmb陽極のリチウム挿入は、セパレータとリチウム塩電解質とを含むテストセルにおいて20時間まで、純リチウム陽極から100μA/cm2の電流を通すことによって実施された。SWNT陽極も同様な方法でリチウム挿入された。リチウム挿入に続いて、2つのテストセルは浄化され、次いで再び集成組付けされた。mcmb対照セルでは、新鮮なmcmb電極が陰極として使用された。SWNTセルでは、純SWNTバッキーペーパが陰極として使用された。電極はすべて、セルに集成組付けされる前に、Mettler UMT−2微量天秤を用いて秤量された。これらのセルはそれぞれ個別に、設定電流密度(100μA/cm2)で放電させられ、続いてサイクルテストに付された。これらのステップはすべてArを満たしたグローブボックス中で実施された。mcmbがSWNT材料に代替された対照テストにも同じ手順が使用された。mcmb陽極と陰極との重量はそれぞれ15mgであり、SWNT電極の通常の重量は0.6〜1mgであった。これらの2つのセルの出力の比較は以下の表2にまとめられている。
【0046】
【表2】
表に示したように、SWNTセルは放電プロセス全体にわたってより良好な性能を供するように思われる。このテストにおいて、SWNT陽極は酸溶融試料であり、陰極は純SWNTペーパであった。これら2つの材料の比エネルギが計算され、比較された。これらの結果に関して言えば、SWNTバッテリはmcmb対照バッテリよりも遥かに高い比エネルギ(78Wh/kg)を供することは明らかである。これはSWNTバッテリが対照バッテリよりも遥かに高エネルギであることを示すと共にカーボンナノチューブの特別な性質を際立たせている。加えて、この結果はSWNTバッテリの無比な特性を明確に示している。
【0047】
実施例3
これに限定されるものではないが、一例を挙げれば、SWNT陽極材料の容量をさらに改善する方法として、チューブは弱酸化雰囲気中たとえば二酸化炭素(CO2)中での選択的酸化によって短縮された。二酸化炭素がオキシダントとして使用されたが、その他の酸化ガスたとえばCO,NO,NO2,N2O,O3,SO2,過酸化物、酸化エチレン等 ― ただしこれらに限定されるものではない ― を使用することもできよう。
【0048】
SWNT材料は、適切な時間つまり1.5時間にわたって、酸化ガスの流動下で600℃から1000℃に加熱される。酸化雰囲気は残りのいずれの炭質材料も酸化し、SWNT主鎖上に存在する限定された欠陥部位を導入することができる。こうして、SWNTの一定の短縮化と機能性化とを生じさせることができる。孔径、粒子サイズおよび表面積のそれぞれの増減を生じさせることができる。プロセスは自立型のバッキーペーパで開始、終了する。
【0049】
この処理の利点を明らかにするため、酸化ガス処理されたSWNT試料をリチウム挿入された陽極として使用し、純SWNTを陰極として使用する2つの追加テストが実施された。これらの実験の対照は、mcmb陽極と、LiNiCoO2陰極と、セパレータと、リチウム塩電解質とからなる標準リチウムイオンバッテリであった。この対照は0.1mA/cm2で12時間にわたって充電され、次いで、100mA/cm2で放電させられた。SWNTは事前に通例の方法でリチウム挿入され、次いで、セルが通例の方法で集成組付けされた。これらのステップはすべて、Arを満たしたグローブボックス中で実施された。図4はSWNTセルに関するサイクル結果をまとめたものであり、このセルは何度にもわたって首尾よくサイクルされ得ることを明らかにしている。表3は対照セルと2つのSWNTテストセルとの比較をまとめたものである。
【0050】
【表3】
表1に示したように、いずれのSWNTテストセルも標準mcmb対照よりも優れた比エネルギを示している。第二の対照実験が、Yardney Technical Products(Pawcatuck,CT)によって供給された商業陽極材料から裁断された2つのmcmb電極を使用して実施されたが、この場合、一方の電極は前以てリチウム挿入され、他方の電極はリチウム挿入されていなかった。この制御は、酸化SWNT材料は、従来の不規則炭素に比較して、ロッキングチェアバッテリにおいてリチウムを可逆的にインターカレーションし得るその性質の点で無比であることを立証している。mcmb陽極および陰極の重量はそれぞれ15mgであり、SWNT電極の通常の重量は0.1〜1mgであった。この優れた性能は、第1から第6サイクルまでに309から603Wh/kgへの増加が観察された第二の試料で検証された。第一の設定サイクルは完全な放電が許されず、つまり、電圧ではなく時間(1時間)をベースとして切換えが実施された点からして、実際の性能は報告された値よりも良好であると思われる旨指摘しておくことは重要である。
【0051】
実施例4
本発明のさらに別の実施例として、リチウム挿入されたMWNT陽極 vs 純SWNT陰極のバッテリ構成がテストされて、成果を収めた。このMWNT試料はCVD法で合成されたバッチから得られた。この多層カーボンナノチューブはシクロペンタジエニル鉄ジカルボニル2量体を鉄触媒源として使用する注入化学蒸着(CVD)法 ― J.D.Harris,A.F.Hepp,R.Vander Wal,B.J.Landi,R.P.Raffaelle,T.Gennett,“Organometallic Catalysts for Injection Chemical Vapor Deposition of Carbon Nanotubes”,公表用に提出、この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― によって作製された。トルエンが溶媒として使用された。製造したままのこれらのMWNTは3%w/w鉄でしかなかったことから、金属を除去するその他のいっさいの試みなしに使用された。
【0052】
MWNTバッキーペーパ電極は、この製造されたままの材料から、界面活性剤水溶液への分散によって作製された。二酸化炭素雰囲気中での酸化の後、この電極の一部が裁断されて、通常の方法でリチウム挿入された。SWNT材料に比較してMWNTはリチウムイオン容量が低いことが知られているため、MWNT電極の質量は、純SWNT陰極の200mgに比較して、800mgに増加された。最終的に、MWNT−SWNTセルが集成組付けされて、先に概略した手順に従ってテストされた。このセルは100μA/cm2で充電されて、50μA/cm2で放電され、図5に示した9セットサイクルから看取されるように、その性能は時間と共に130から250Wh/kgに改善した。このセルの性能はSWNTセルに比較して僅かに低下していたとはいえ、結果は ― このセルの陽極は商業的に入手可能なMWNT材料で構成することができる ― ことを示している。これは、適正な処理が行われて、我々の事前リチウム挿入技法が使用されれば、商業的に入手される多層ナノチューブ材料も我々のロッキングチェアバッテリ構成に使用して、成果を得ることができることを示している。
【0053】
実施例5
本発明のさらなる実施例として、フッ素化されたナノチューブ陽極(f−SWNT)を含むセルがテストされた。この場合、商業的に入手可能なf−SWNTと特別に作製されたf−SWNTとの双方が使用された。第一のケースにおいて、f−SWNT陽極はCNI,Inc(Boston,MA)から購入された材料を使用して作製された。加えて、第二のセルが、我々の典型的なCO2手法を使用して作製されて、その後にRice UniversityのProf.John Margraveによってフッ素化されたナノチューブ試料を用いてつくられた。このプロセスは文献中に述べられている(Khabasheku,V.N.;Billups,W.E.and Margrave,JL.,Accts.Of Chem Res.,35,(2),1087−1095,2002。この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)。フッ素化されたCNI−SWNTはCF2とされたが、他方、第二の試料は分析の結果CF0.6であった。これらの試料はすべてリチウム挿入され、我々の標準技法を使用してサイクルテストに付された。CNI試料つまりCF2試料については、フッ素化されたSWNT材料のリチウム容量は高かったが、陽極は優れたサイクル特性も高い比エネルギも示さなかった。ただし、フッ素化はまさに、フッ素化されたSWNT材料のより高い酸化電位のために、予測通りセル電圧を高めた(H.Peng,Z.Gu,J.Yang,J.L.Zimmerman,P.A.Willis,M.J.Bronikowski,R.E.Smalley,R.H.Hauge,J.L.Margrave,Nanoletters,1,625−629(2001);V.N.Khabasheku,W.E.Billups,J.L.Margrave,Acct.Chem.Res.,35,1087,(2002)― これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)。CF0.6試料については、フッ素化されたナノチューブを陰極とし、リチウム挿入された二酸化炭素処理されたSWNTを陽極とした構成において、我々のSWNT−純SWNTに比較可能な性能が示されたが、文献の結果と同様に、リチウムイオンとフッ素との相互作用は、二酸化炭素処理された試料には存在しない有意な量のヒステリシスをもたらす。したがって、フッ素の導入は確かに全体的なセルの性能を僅かに改善するが、フッ素化と結びついた複雑さとコストとの上昇により、このシステムの利用は制限される。
【0054】
実施例6
この新規発明のさらに別の実施例として、リチウム挿入されたSWNT陽極と、純SWNT陰極と、ガラス繊維不織紙セパレータ(Hollingworth and Vose BG03010)と、リン酸ポリエーテル(PEP)に1MのLiImを溶解した、20%の炭酸エチレンを含有した電解質とを使用して、単一セルのバッテリが作製された。PEP電解質ポリマは特許出願09/837,740,Morris et al.― この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― の対象であり、炭酸塩たとえば炭酸エチレンで改質された場合でも難燃性材料であることが明らかとされた。このセルが集成組付けされ、サイクルテストに付され、放電時に以下の結果をもたらした。
【0055】
【表4】
このセルの性能は液体電解質テストセルとほぼ同程度に良好であった。
【0056】
実施例7
本発明のフレキシビリティーのさらなる1実施例として、リチウム挿入されたSWNTバッキーペーパと、リチウム金属酸化物のレースまたはドープされた純SWNT陰極とを使用してセルが製造された。その目的は、SWNT材料よりも高い酸化状態を有するリチウム金属酸化物を組み入れることによってテストセルの電圧を高めることであった。一例としてLiNiCoO2が選択されて使用されたが、これに制限されるものではなく、目下普及している数多くのものによって代表されるその他の任意のリチウム金属酸化物を同様に使用してテストセルの陰極の電圧を高めることができよう。セルを集成組付けした後、セルはテストサイクルに付され、図7に示した結果がもたらされた。図7に示したように、リチウム挿入されたSWNT陽極と純SWNT陰極とを有するセルはLiNiCoO2のドープされたSWNT陰極を有するセルよりも低いセル電圧を結果した。
【0057】
実施例8
RIT(Rochester Institute of Technology)において、LiNiCoO2陰極と非最適化SWNTバッキーペーパ(酸に再溶融、水洗、250℃にて乾燥)とを使用していくつかのコインセルが製造、テストされて、小型セルの結果のさらなる確証が得られた。これらのセルはサイクルテストに付され、また、パルス電力テストにも付された。
【0058】
テストされたナノチューブ陽極コインセルの典型的な充放電挙動は図8に示されている。バッテリは定電流100μA/cm2を使用して電圧が4.2Vに達するまで充電され、その時点で100μA/cm2放電電流に切り換えられた。次いでバッテリは電圧が2.0Vになるまで放電され、その時点で再び充電に切り換えられた。最初の放電サイクルはこうした条件下で166mAh/gというナノチューブ材料の容量を有していた。
【0059】
バッテリテストセルの結果と同様に、コインセルのセル容量はサイクルと共に増加した。CO2処理された、レーザを用いて生成された単層カーボンナノチューブを使用したセルは最初のサイクル後に100mAh/g以下の容量をしめしていたが、6サイクル後には500mAh/gを越えていた。
【0060】
実施例9
試料1の調査中に、セルは、また、そのパルス電力特性を決定するために評価された。図6は、この1パルスにつき、SWNTセルは1ミリアンペア放電で1.25秒にわたって1V以上を保持したことを示している。図9参照。
【0061】
活性材料の重量は0.3mgで、放電中の平均電圧は1.38Vであったため、これから4.6kW/kgのピークパルス出力が結果した。この結果は活性材料の質量を基礎にしているにすぎないとはいえ、SWNTベースのシステムから高い比出力と比エネルギとの双方を得ることが可能であることを明示している。
【0062】
以上に本発明をさまざまな実施形態に関連させて説明したが、本発明はまた、最後に記載された請求項の趣旨と範囲を逸脱することなく、さらに多様な実施形態で実現可能である旨理解される必要があろう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の1実施形態を示す図である。
【図2】本発明の一般的なコンセプトを示す図である。
【図3】本発明のさまざまな実施形態を示す図である。
【図4】SWNT/SWNTバッテリのサイクル挙動をプロットした図である。
【図5】SWNT/フッ化SWNTバッテリのサイクル挙動をプロットした図である。
【図6】MWNT/SWNTバッテリのサイクル挙動をプロットした図である。
【図7】バッテリのSWNT陰極へのLiNiCoO2添加効果をプロットした図である。
【図8】SWNT/LiNiCoO2コインセル・バッテリの挙動をプロットした図である。
【図9】SWNTバッテリの挙動をプロットした図である。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年9月23日出願の米国特許出願第10/668,976号および2003年5月20日出願の仮出願第60/471,780号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は一部、契約ナンバーN0014−03−M0092のもとで、海軍研究事務所からの合衆国政府の支援を受けて行われた。合衆国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明はエネルギ貯蔵デバイスに関する。特に、本発明は、カーボンナノチューブからなる2個の活性電極、バッテリセパレータおよびリチウム塩を含んだ電解質を有するリチウムイオンバッテリに関する。
【背景技術】
【0004】
消費者向けならびに軍事利用向けの将来のポータブル電力要件はリチウムバッテリ技術にますます大きな比エネルギと出力とを求めることになろう。将来の電力要件に対処するには、リチウムバッテリは>400Wh/kgの持続的な比エネルギを示しかつ>2kW/kg@100Wh/kgのパルス電力性能を有する必要があると予測される。さらに、これらのシステムは広い温度範囲(−20〜90℃)にわたって効果的に動作し、急速な充電が可能である必要があろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの要件に対しては、従来のバッテリまたは従来のシステムの性能の増補によって対処することはできない。よく知られているように、従来のリチウムイオン電極材料はそのリチウム貯蔵能力を制限する物理化学的制約を受けやすい。たとえばメソカーボンマイクロビーズ(mcmb)はリチウムイオン陽極に使用するために入手し得る最良の不規則炭素である。この材料は、ただしそのピークで、Li1C6までしかインターカレーションできず、372mAh/gのLi+容量を達成し得るにすぎない。カーボンナノチューブはLiC3までインターカレーションが可能であり、1000mAh/gの優れた容量を達成することができる。mcmbと同様に、リチウムは可逆的にインターカレーションされることから、カーボンナノチューブは陽極材料としてmcmbを上回る劇的な改善を実現する。こうした厳しい将来の要件に対処するために新規材料が開発される必要があることは明白である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は高エネルギ・リチウムバッテリシステムに関する。このシステムは陽極/陰極の双方用のカーボンナノチューブおよび/またはその他のナノチューブラ材料からなっている。本発明はまた、これらのナノチューブを作製する方法に関する。本発明は、それぞれカーボンナノチューブからなる2個の活性電極、バッテリセパレータおよび、リチウム塩を含んだ電解質で構成されるバッテリに関する。セパレータと電解質とは当業者によく知られた数多くのもののうちのいずれであってもよい。本発明の液体/固体ポリマ電解質はこの高エネルギシステムにさらに向上した安全性を付与する。カーボンナノチューブ電極は、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボール等、あるいはナノ構造化カーボン材料を表すその他の口語名称材料およびそれらのコンビネーションであってよい。
【0007】
本発明の一つの目的はリチウムバッテリ用の高エネルギ電極材料を示すことである。
【0008】
本発明のもう一つの目的は本発明の高エネルギ材料の作製に要されるプロセスを明示することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、200mAh/gを越える非常に高い比エネルギ・バッテリ容量をもたらす新しい電極材料を使用した新規バッテリを示すことである。
本発明のさらに別の目的は、リチウム挿入されたナノチューブ陽極とリチウム金属酸化物ドープされたナノチューブ陰極とを使用して高エネルギバッテリを形成する方法を示すことである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、リチウム金属酸化物を含むさまざまなリチウム源がカーボンナノチューブ陽極へのリチウム挿入に使用し得ることを具体的に示すことである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、“バッキーペーパ[Buckypaper]”と称される紙類似材料と同じ構造を有する2個のカーボンナノチューブ電極からなる高エネルギバッテリの構成を明示することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的はバッキーペーパ電極の作製プロセスを示すことである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、700Wh/kgを超える比エネルギを有するバッテリシステムを実現する新たな電極材料を使用した新規バッテリ・アーキテクチャを示すことである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、3kW/kgを超える比出力を有するバッテリシステムを実現する新たな電極材料を使用した新規バッテリ・アーキテクチャを示すことである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、さまざまなタイプのカーボンナノチューブおよびナノチューブラ材料(実例を完全にリストアップするものではないが、これらには口語名称材料たとえばナノベル、ナノホーン、ピーポッド、複層チューブ等が含まれる)を使用し得るバッテリシステムを示すことである。本発明のさらに別の目的は、安全かつ超高エネルギバッテリを実現するための、高エネルギ電極と新規の難燃性ポリマ・ベースの電解質とのコンビネーションを示すことである。
【0016】
本発明を本発明のその他のさらなるニーズと共にいっそうよく理解するために、添付図面ならびに詳細な説明を参照されたい。本発明の範囲は本願明細書の末尾に記した請求項によって画定されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は高エネルギ・リチウムバッテリシステムに関する。このシステムは陽極/陰極の双方用のカーボンナノチューブおよび/またはその他のナノチューブラ材料からなっている。1実施形態において、本発明は、それぞれカーボンナノチューブからなる2個の活性電極、バッテリセパレータおよび、リチウム塩を含んだ電解質で構成されるバッテリに関する。セパレータと電解質とは従来の技術においてよく知られた多くのもののうちから選択することが可能である。本発明において、液体/固体ポリマ電解質はこの高エネルギシステムにさらに向上した安全性を付与する。別途の研究努力において、安全でかつ高い熱安定性を有する新たなセットのポリ燐酸塩電解質の開発研究が行われた。
【0018】
研究努力により、ポリマ電解質作製用の優れた候補としてポリ燐酸塩とポリホスホネート(PEP)が確認された。たとえばUSSN 09/837,740 ― 同文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― 参照のこと。加えて、液体および固体状態の双方の電解質システムによる成功が実現された。これらの新規材料は単段処理で比較的安価に作製され、ポリエチレンオキシド(PEO)の0.3に比較して0.5という非常に優れたリチウムイオン輸送特性を結果した。熱安定性試験もまた有望な結果をもたらした(>300℃に対して熱的に安定)。−20℃から+90℃までの動作温度範囲を拡大するために、我々はポリ燐酸塩液体電解質を炭酸プロピレン(PC)とブレンドして、ポリ燐酸塩材料の低温性能を向上させることを予定している。これらの液体は極性液体たとえばPCと完全に混和する。
【0019】
PEPの合成は製造コストを最小化する直接単段処理である。ポリマの合成に続いて、液体ポリマにリチウム塩を溶解して濃度1Mとすることによって液体ポリマ電解質(LPE)が作製される。これらの電解質におけるリチウム塩としてのリチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiIm,3M Co.)の使用は極めて上首尾であった。次のステップは、大量の炭酸プロピレンをLPEにブレンドして、改質されたLPEを形成することである。
【0020】
カーボンナノチューブ電極は、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボール等、あるいはナノ構造化カーボン材料を表すその他の口語名称材料およびそれらのコンビネーションであってよい。
【0021】
さらに別の実施形態において、本発明のナノチューブを作製する方法が述べられる。本発明の一面において、ナノチューブを純化してそれらの構造を開放するために要される一連の処理ステップが述べられる。この点で、陽極は陰極とは異なる方法で処理される。また、ナノチューブ陽極の電気化学的リチウム挿入反応も本願明細書に述べられる。
【0022】
消費者向けならびに軍事利用向けのポータブル電力要件はリチウムバッテリ技術にますます大きな比エネルギと出力とを求めている。これらの要件に対処するには、リチウムバッテリ技術における新しいコンセプトが考案、開発される必要がある。ナノ構造化材料とポリマ電解質とはいっそう高エネルギのリチウムバッテリを開発するための新たな方途を提供する。
【0023】
電極開発分野において、カーボンナノチューブに関する最近の研究は、高容量陽極材料としてのグラファイトに代わる最初の固体代替物質への扉を開いた。リチウムインターカレーションされたグラファイトとその他の炭質材料は先進的なリチウムイオンバッテリ用電極として商業的に使用されている。たとえば、M.S.Whittingham,editor,Recent Advances in Rechargeable Li Batteries,Solid State Ionics,volumes 3 and 4,number 69,1994;D.W.Murphy et al., editors,Materials for Advanced Batteries,Plenum Press,New York,1980、参照。これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする。ほとんどの黒鉛状炭素はLi0.3C6(375mAh/g)の化学量論比を示すが、他方、不規則炭素は一般にLi1C6(400mAh/g)である。リチウム挿入された炭素に比較して、リチウム金属陽極は>3000mAh/gの理論容量と965mAh/gの実容量を有している。
【0024】
カーボンナノチューブは可能性を秘めた電極材料として注目を集めている。カーボンナノチューブは閉じた同心多層シェルまたは多層ナノチューブ(MWNT)として存在していることが多い。ナノチューブはまた、単層ナノチューブ(SWNT)として形成されることも可能である。SWNTはバンドルを形成し、これらのバンドルは最密2D三角格子構造を有している。MWNTとSWNTとの双方が製造され、これらの材料の比容量は蒸気輸送反応によって評価された。たとえば、O.Zhou et al., Defects in Carbon Nanotubes,Science:263,pgs.1744−47,1994;R.S.Lee et al., Conductivity Enhancement in Single−Walled Nanotube Bundles Doped with K and Br,Nature:388,pgs.257−59,1997;A.M.Rao et al., Raman Scattering Study of Charge Transfer in Doped Carbon Nanotube Bundles,Nature:388,257−59,1997;C.Bower et al., Synthesis and Structure of Pristine and Cesium Intercalated Single Walled Carbon Nanotubes,Applied Physics:A 67,pgs.47−52,spring 1998、参照。これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする。これらのナノチューブ材料に関する最も高いアルカリ金属飽和値はMC8(M=K,Rb,Cs)であると報告された。これらの値は商業的に普及している現存の材料たとえばグラファイトを上回る有意な進歩を表していない。最近の実験結果は、単層カーボンナノチューブをLi1C3およびそれ以上にまで挿入することが可能であることを示している。粗製材料の容量は実験により600mAh/gを上回ることが確認された。これらの容量は純リチウムのそれに近ずくが、リチウムの安全性の問題を回避している。カーボンナノチューブは高エネルギバッテリの実現の新たな見通しをもたらすと共に従来の電極材料ではこれまで達成し得なかったまったく新規なバッテリデザインを実現する新たな機会をもたらし得ることは明らかである。
【0025】
リチウム挿入されたカーボンナノチューブは、学術文献および特許文献において、リチウムバッテリ用の高エネルギ非金属陽極を作製するための手段として報告されている。特に、Zhow、米国特許第6280697、6422450および6514395号 ― これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― はレーザによって生成されるカーボンナノチューブの作製プロセスとリチウム挿入プロセスを詳細に開示している。ただし、従来の技術は、リチウム挿入されたナノチューブ陽極とリチウム挿入されていないナノチューブ陰極とを使用して高エネルギバッテリを構成するコンセプトを含んでいず、また、セル電圧を高めるためにリチウム金属酸化物を添加して陰極を改質する方法も開示していない。また、従来の技術は、ナノチューブ陰極または陽極に導電性改質材料たとえば導電性ポリマをドープすることも、化学的に異なる第二のナノチューブ電極と組合わせてバッテリを構成する前に一方のナノチューブ電極をフッ素化することも開示していない。
【0026】
従来の商業的なリチウムイオンバッテリ・テクノロジは、正電極用のリチウム挿入された金属酸化物(陰極)と負電極としての(さまざまな形態の)炭素(陽極)に依拠している。リチウムイオンバッテリは陰極のリチウム全体で寿命を開始し、充電されると、このリチウムの一定パーセンテージが陽極に移動させられて、炭素陽極内でインターカレーションされる。充電プロセスが終了すると、バッテリはほぼ4.2Vの開路電圧を有する。このセル電圧のうちほぼ1.15Vは金属酸化物電極の正電位に由来している。これら2つの材料の異なった化学的性質が高い開路電位を保証する。ただし、類似の結果を及ぼすために類似の化学的性質をもった材料を使用することも考えられる。1980年に“ロッキングチェア・コンセプト(rocking chair concept)”、つまり、金属酸化物またはスルフィドをベースとした2つの挿入化合物の使用がLazzariとScrosatiによって提案された(M.Lazzari and B.Scrosati,J.Electrochem.Soc.,Brief Communication,March 1980。この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)。1.8Vの平均電圧で動作するLixWO2/LiyTiS2バッテリが開示された。このシステムは金属リチウム陽極問題を解決し得たが、現存の充電可能なシステムに代わる有力な手段となり得るために必要な実用的なエネルギ密度をもたらすことはできなかった。この先行レポートに続いて、研究者らは、2つの金属酸化物電極の使用から遠ざかり、一定タイプの炭素がリチウムを可逆的にインターカレーションし得ることを見出した。ほとんどの黒鉛状炭素はLi0.3C6(375mAh/g)の化学量論比を示すが、他方、不規則炭素は一般にLi1C6(400mAh/g)である。リチウム挿入された炭素に比較して、リチウム金属陽極は>3000mAh/gの理論容量と965mAh/gの実容量を有している(Linden,D.and Reddy,T.B.,Handbook of Batteries,3rded.p.34.8,McGraw−Hill,NY,2001。この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)。
【0027】
本発明は、それぞれ1または複数のカーボンナノチューブからなる2個の活性電極、バッテリセパレータおよび、リチウム塩を含んだ電解質で構成されるバッテリに関する。セパレータと電解質とは当業者によく知られた多くのもののうちのいずれかであってよい。本発明の液体/固体電解質はこの高エネルギシステムにさらに向上した安全性を付与する。カーボンナノチューブ電極は、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボール等、あるいはナノ構造化カーボン材料を表すその他の口語名称材料およびそれらのコンビネーションであってよい。
【0028】
本願明細書の記述全体を通じて、カーボンナノチューブまたはナノチューブという一般的な用語は当業者によく知られた一連のあらゆるカーボンナノチューブ材料を意味すると理解されることとする。加えて、ナノチューブはセル電圧を高めるためにリチウム金属酸化物とコンビネーションされ、または導電材料たとえば導電性ポリマが化学的にドープされ、ナノチューブの作動機能に影響を及ぼすために熱的に酸化またはフッ素化され、これによってセル電圧を高めることができる。一般に、本発明のナノチューブは本願明細書に詳細に述べる特有の処理を必要とする。
【0029】
本発明の1実施形態において、陽極および陰極の双方にリチウム活性の異なるカーボンナノチューブを使用するリチウムイオン(Li−ion)バッテリが述べられる。一面において、本発明は電極としてのバッキーペーパ構造のカーボンナノチューブの使用に関する。この点で、材料は不活性濾材によるカーボンナノチューブ懸濁液のフィルタリングと、続いての空気中での乾燥と酸化によって形成される。この技法は学術文献によって十分にドキュメンテーションされているが、これまでのところ、バッキーペーパが双方の電極を形成するバッテリは報告されていず、バッテリの双方の電極へのカーボンナノチューブ・バッキーペーパの使用を示す報告も行われていない。
【0030】
図1は本発明の1実施形態を示している。同図に示したバッテリシステム1は、陽極3、陰極5、セパレータ7および、陽極3と陰極5との間の電気導通を可能にする手段8を含んでいる。本発明の一面において、陽極3および/または陰極5はカーボンナノチューブ材料で構成されている。このカーボンナノチューブ材料は、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボールまたはその他の公知のナノ構造化カーボン材料であってよい。陽極3はLiC3陽極であり、セパレータ7はたとえばリチウム塩と溶媒からなっている。セパレータ7は液体またはポリマカチオン透過性電解質を有する絶縁材からなっている。陽極3と陰極5との間の電気導通用の手段8は、陽極と陰極との間の電気導通を可能にする従来の技術においてよく知られた任意の手段であってよい。この種の手段は適切な低い抵抗を有する電線であってよいが、それに限定されるものではない。
【0031】
図2は、従来のリチウムイオン・テクノロジ(図2a+b)と、本発明の全体的コンセプトを表す本発明のリチウムイオン・テクノロジ(図2c+d)との対比を概括的に示すのに有用である。同図において、従来のリチウムイオン・システム9は、メソカーボンマイクロビーズ(mcmb)陽極11と、LiNiCoO2陰極13と、標準セパレータおよび電解質(不図示、図1参照)とからなっている。リチウムイオンバッテリ9はLiNiCoO2陰極13のリチウム全体で寿命を開始する。充電されると(図2a)と、リチウムのほぼ98%がmcmb陽極11に移動させられて、炭素陽極11内でインターカレーションされる。充電プロセスが終了すると、バッテリ9はほぼ4.2Vの開路電圧を有する。このセル電圧のうちほぼ1.15Vは金属酸化物電極13の正電位に由来している。放電すると、先にmcmb陽極にインターカレーションされたリチウムは今や電解質を通過して、LiNiCoO2のスピネル構造中に再蓄積される。
【0032】
対照的に、本発明のバッテリ9′は、リチウム挿入に先立って適切に処理されてリチウム挿入されたSWNT陽極11′で作動を開始する。(この処理の詳細は実施例3、以下記載、に述べられる)。一例として、リチウム挿入は、リチウムフィルムと当業者によく知られている適切な装置とを使用して、ガルバノスタットによって実施することができるが、ただしこれに限定されるものではない。SWNT陰極13′は陽極とは異なった特別な方法で処理される。これは陰極13′に非常に異なった化学的、物理的性質を付与する。集成組付けされた後(図2c+d)、バッテリ9′はセパレータと電解質とを含み(いずれも不図示である)、2つの電極の処理に応じて約2.9〜3.5Vの電圧を有する。放電すると(図2c)、リチウムカチオンは陽極11′から離れて陰極13′に移動し、セル電圧は減少する。流れを逆転してバッテリ9′を充電すると、リチウムカチオンは陽極11′に戻り、セル電圧を回復する。図2d参照。2つの材料の処理はセル電圧の保全にとって重要である。
【0033】
本発明の重要なコンセプトは、陽極および陰極の双方用にリチウム活性の異なるカーボンナノチューブを使用するリチウムイオンバッテリである。図3は本発明の実施形態を構成し得る多様なアプローチを列挙したものである。
【0034】
図3aに示した一つのアプローチは2つの異なったタイプのナノチューブを陽極および陰極用に選択的に使用することを基本としている。一例として、正電極としてのSWNTの使用と、負電極としてのリチウム挿入された多層カーボンナノチューブ(MWNT)の使用を説明するが、これは本発明を制限するものではない。このセルはMWNT電極に存在するリチウムで寿命を開始し、充電されると、Li+はSWNT電極に移動させられることになる。この場合、MWNTの仕事関数はSWNTのそれよりも高い。結果として、最初にMWNTをリチウム挿入することは放電後に比較的高いセル電圧を結果することとなり、これは有利である。このアーキテクチャを逆転しても作動可能なセルが得られるであろうが、これは効率の点から見て多少好ましくないものである。セルの集成組付けに先立ってMWNT電極を化学的または電気化学的にリチウム挿入することが可能である。一つのアプローチは、純粋なリチウム逆電極と適切な電解質およびセパレータを使用してSWNT材料を電気化学的にリチウム挿入することである。1実施形態において、材料は長時間(〜20hrs/材料0.5mg当たり)にわたって、低速(<100micronA/cm2)でリチウム挿入される。この装置は充電前に〜3.0Vのセル電圧を生じ、バッテリが完全に充電されると〜3.2Vのセル電圧を生ずる。充電されると、リチウム挿入されたMWNT陽極は標準水素電極(NHE)に対して〜−3Vの電圧を有し、他方、SWNTは、MWNTに対してSWNTの仕事関数が高いため、NHEに対して〜−0.15Vの電圧を有することになろう。システム中の電極の仕事関数とその可逆電位との間の関係は複雑であるが、Trassati(Trassati,S.,Electroanal Chem and Interfac Electrochem.33,351−78,(1971),Trassati,S.,Surface Sc,335,1−9,(1995)― これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)は、電極の仕事関数が低ければ低いほど、その電位はNHEに対していっそう低いという一般的な規則を表す関係を詳細に記述している。
【0035】
ただし、電解質の活性も同じく考慮されなければならず、たとえば、MWNTとSWNTとの間の仕事関数の差は、Li/Li+に比較してSWNTのより高い電極電圧を結果することがある。Shiraishi(Shiraishi,M.and Ata,M.,Mater Res.Soc.Sympos.No.633,A4.41,Mater.Res.Soc.,Pittsburgh,PA.2001― この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)は、SWNTの仕事関数はMWNTのそれよりも0.15eV高いことを報告している。したがって、これらの材料の間に少なくとも150mVの電圧差を期待することができる。
【0036】
図3bは別途アプローチを示しており、この場合、SWNTはフッ素化によって化学的に改質されるが、その他の酸化処理たとえば塩素化を使用することも可能である。この処理はカーボンナノチューブの仕事関数に影響を及ぼし、さらに、フル充電された場合のセル電圧を高める。たとえばTouhara,et al.(Touhara,H.,et al.,J Fluorine Chemistry,114,181−88,2002,― この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)は、最近、カーボンナノチューブの内側面のフッ素化はLi+インターカレーションの改善および、非プロトン性電解質に浸漬されたフッ素化されたナノチューブからなる電極のOCVの660mVの増加を生ずる旨の報告を行った。より高い仕事関数と化学的改質とのこうした組合わせはLiSWNT/SWNTリチウムイオンバッテリのセル電圧を引上げるための鍵となり得る。その結果は非常に高い容量、>3Vリチウムイオンバッテリとなろう。
【0037】
図3cに見られる、化学的改質のための別途アプローチは、SWNTを有機導電性材料たとえば導電性ポリマ、一例としてたとえばポリ3−オクチルチオフェンで処理することである。また、その他の導電性ポリマをこの目的のために使用することもできよう。一例を挙げれば、このグループの物質は、置換ポリチオフェン、置換ポリピロール、置換ポリフェニレンビニレンおよび置換ポリアニリンであろう。アルキル鎖の末端にスルホン酸基を配することによる、これらの材料のイオンドーピングまたはセルフドーピングはp形導電性ポリマを供するであろう。この処理もまた、ナノチューブの仕事関数を変化させ、それによって、フル充電された場合のセル電圧を高める。
【0038】
図3dに示したように、さらなる別法として、カーボンブラックの代わりにリチウム挿入されたナノチューブを、リチウムイオンバッテリの活性陰極材料として目下使用されている金属酸化物材料と合体させることも可能である。これは二重の利点をもたらすことになろう:1)ナノチューブは結果する複合電極にいっそう高い導電性を供し、それによって、陰極効率を高め、2)リチウム挿入されたナノチューブは陰極の容量を劇的に改善するであろう。高いセル電圧は陰極中のリチウム金属酸化物の存在によって保持されるであろう。
【0039】
考えられ得るさらに別のコンビネーションは、図3eに示したように、リチウム挿入されたSWNT陽極材料と、純SWNTからなる陰極とを使用することである。このシナリオにおいて、SWNT陽極材料はSWNT陰極材料とは異なった方法で処理されよう。一例として、陽極SWNT材料は希薄鉱酸中で再溶融され、水とアセトンで洗浄され、続いて、選択されたガス、一例としてCO2を使用して熱酸化されることができようが、これに限定されるものではない。対照的に、SWNT陰極材料は希薄鉱酸中で再溶融され、次いで、空気中で熱酸化されることができよう。
【0040】
考えられ得るさらに別のコンビネーションは、図3fに示したように、リチウム複合材料陽極たとえば学術文献(Yang,J.,et all,Electrochemical and SolidState Letters,6(8),A154−A156 2003,― この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)に陽極材料として述べられたLiSiC複合材料と、純SWNTからなる陰極とを使用することである。この例において、SWNT陰極材料は希薄鉱酸中で再溶融され、次いで、熱酸化されることができ、LiSiC複合材料の高い容量を補完する高容量を供するであろう。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は本発明のコンセプトを説明することを意図するものであり、本発明の範囲を制限しようとするものではない。
【0042】
実施例1
SWNT/SWNTバッテリの基本的コンセプトを説明するため、当業者によく知られたレーザ融蝕技法を使用して1バッチ分のSWNTが準備された。たとえば、SWNTバンドルを作製するための一つの適切な技法はC.Bower et all,Synthesis and Structure of Pristine and Cesium Intercalated Single−Walled Carbon Nanotubes,Applied Physics:A67,pgs.47−52,spring 1998または米国特許第6,422,450号明細書 ― これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― に述べられている。
【0043】
この1バッチ分のSWNT材料の合成に続いて、材料は5%のHNO3への再溶融によって15時間にわたって純化処理に付され、続いて、脱イオン水によって広範に洗浄された。最終生成物は次いで、不活性多孔質テフロン(登録商標)フィルタによる濾過によって収集された。次いで生成物は空気中で100℃にて15時間にわたって乾燥され、こうしてバッキーペーパが得られた。このバッキーペーパから1cm2の電極が切り取られて、1片のCelgard2350多孔質ポリプロピレン・セパレータと、50:50の炭酸エチレン:炭酸エチルメチル(EC/EMC)に1Mのリチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiIm)を溶解した電解質とを含んだ2電極テストセルに配置された。電極はすべて、セルに集成組付けされる前に、Mettler UMT−2微量天秤を使用して秤量された。これらのステップはすべて、Arを満たしたグローブボックス中で実施された。純リチウム・フィルムが逆電極として使用され、SWNT陽極はセルに10時間にわたって100μA/cm2の電流を通すことによってリチウム挿入された。この処理に続いて、セルは分解、浄化され、リチウム挿入された陽極と新たなセパレータおよび純SWNT陰極とを用いて再び集成組付けされた。陰極材料は、空気中にて500℃にて1時間にわたって加熱された点を別として、陽極材料と同様に処理されていた。完全なセルは次いで、セルに100μA/cm2の負電流を通し(陽極は正、陰極は負)、続いて100μA/cm2の正電流を通すことにより電極から電極へとLi+を循環させるサイクルに付された。この処置の結果は図2に示されており、同図は、セル電圧は負荷下で時間と共に変化するが、ラグはファラデープロセスに標準的に対応している場合と同様に非常に大きいことを示している。使用された材料の重量と使用された電流をベースとして、このシステムの比エネルギは表1にまとめたように計算することができる。
【0044】
【表1】
表1に示したように、このセルの第一回テストシリーズは78Wh/kgの比エネルギを結果した。このテストに続いて、第二のセルが準備された。ただしこの場合、陽極は同様にして処理されたが、酸溶融に続く洗浄プロセスの間に、水洗に続いてSWNT材料がアセトンで洗浄されるステップが加えられた。その他の点では、試料は第一の試料と同様に処理された。この陽極材料に関する結果は第一の結果よりも著しく良好であり、試料は200Wh/kgの比エネルギを示した。これらの結果は本発明の妥当性と新規性とを確実に裏付けている。
【0045】
実施例2
本発明の無比な特性をさらに具体的に示すため、一方のmcmb電極はリチウム挿入され、他方の電極はリチウム挿入されなかった、標準メソカーボンマイクロビーズ(mcmb)材料からなるカーボン/カーボン・バッテリとの間の比較が行われた。mcmb陽極のリチウム挿入は、セパレータとリチウム塩電解質とを含むテストセルにおいて20時間まで、純リチウム陽極から100μA/cm2の電流を通すことによって実施された。SWNT陽極も同様な方法でリチウム挿入された。リチウム挿入に続いて、2つのテストセルは浄化され、次いで再び集成組付けされた。mcmb対照セルでは、新鮮なmcmb電極が陰極として使用された。SWNTセルでは、純SWNTバッキーペーパが陰極として使用された。電極はすべて、セルに集成組付けされる前に、Mettler UMT−2微量天秤を用いて秤量された。これらのセルはそれぞれ個別に、設定電流密度(100μA/cm2)で放電させられ、続いてサイクルテストに付された。これらのステップはすべてArを満たしたグローブボックス中で実施された。mcmbがSWNT材料に代替された対照テストにも同じ手順が使用された。mcmb陽極と陰極との重量はそれぞれ15mgであり、SWNT電極の通常の重量は0.6〜1mgであった。これらの2つのセルの出力の比較は以下の表2にまとめられている。
【0046】
【表2】
表に示したように、SWNTセルは放電プロセス全体にわたってより良好な性能を供するように思われる。このテストにおいて、SWNT陽極は酸溶融試料であり、陰極は純SWNTペーパであった。これら2つの材料の比エネルギが計算され、比較された。これらの結果に関して言えば、SWNTバッテリはmcmb対照バッテリよりも遥かに高い比エネルギ(78Wh/kg)を供することは明らかである。これはSWNTバッテリが対照バッテリよりも遥かに高エネルギであることを示すと共にカーボンナノチューブの特別な性質を際立たせている。加えて、この結果はSWNTバッテリの無比な特性を明確に示している。
【0047】
実施例3
これに限定されるものではないが、一例を挙げれば、SWNT陽極材料の容量をさらに改善する方法として、チューブは弱酸化雰囲気中たとえば二酸化炭素(CO2)中での選択的酸化によって短縮された。二酸化炭素がオキシダントとして使用されたが、その他の酸化ガスたとえばCO,NO,NO2,N2O,O3,SO2,過酸化物、酸化エチレン等 ― ただしこれらに限定されるものではない ― を使用することもできよう。
【0048】
SWNT材料は、適切な時間つまり1.5時間にわたって、酸化ガスの流動下で600℃から1000℃に加熱される。酸化雰囲気は残りのいずれの炭質材料も酸化し、SWNT主鎖上に存在する限定された欠陥部位を導入することができる。こうして、SWNTの一定の短縮化と機能性化とを生じさせることができる。孔径、粒子サイズおよび表面積のそれぞれの増減を生じさせることができる。プロセスは自立型のバッキーペーパで開始、終了する。
【0049】
この処理の利点を明らかにするため、酸化ガス処理されたSWNT試料をリチウム挿入された陽極として使用し、純SWNTを陰極として使用する2つの追加テストが実施された。これらの実験の対照は、mcmb陽極と、LiNiCoO2陰極と、セパレータと、リチウム塩電解質とからなる標準リチウムイオンバッテリであった。この対照は0.1mA/cm2で12時間にわたって充電され、次いで、100mA/cm2で放電させられた。SWNTは事前に通例の方法でリチウム挿入され、次いで、セルが通例の方法で集成組付けされた。これらのステップはすべて、Arを満たしたグローブボックス中で実施された。図4はSWNTセルに関するサイクル結果をまとめたものであり、このセルは何度にもわたって首尾よくサイクルされ得ることを明らかにしている。表3は対照セルと2つのSWNTテストセルとの比較をまとめたものである。
【0050】
【表3】
表1に示したように、いずれのSWNTテストセルも標準mcmb対照よりも優れた比エネルギを示している。第二の対照実験が、Yardney Technical Products(Pawcatuck,CT)によって供給された商業陽極材料から裁断された2つのmcmb電極を使用して実施されたが、この場合、一方の電極は前以てリチウム挿入され、他方の電極はリチウム挿入されていなかった。この制御は、酸化SWNT材料は、従来の不規則炭素に比較して、ロッキングチェアバッテリにおいてリチウムを可逆的にインターカレーションし得るその性質の点で無比であることを立証している。mcmb陽極および陰極の重量はそれぞれ15mgであり、SWNT電極の通常の重量は0.1〜1mgであった。この優れた性能は、第1から第6サイクルまでに309から603Wh/kgへの増加が観察された第二の試料で検証された。第一の設定サイクルは完全な放電が許されず、つまり、電圧ではなく時間(1時間)をベースとして切換えが実施された点からして、実際の性能は報告された値よりも良好であると思われる旨指摘しておくことは重要である。
【0051】
実施例4
本発明のさらに別の実施例として、リチウム挿入されたMWNT陽極 vs 純SWNT陰極のバッテリ構成がテストされて、成果を収めた。このMWNT試料はCVD法で合成されたバッチから得られた。この多層カーボンナノチューブはシクロペンタジエニル鉄ジカルボニル2量体を鉄触媒源として使用する注入化学蒸着(CVD)法 ― J.D.Harris,A.F.Hepp,R.Vander Wal,B.J.Landi,R.P.Raffaelle,T.Gennett,“Organometallic Catalysts for Injection Chemical Vapor Deposition of Carbon Nanotubes”,公表用に提出、この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― によって作製された。トルエンが溶媒として使用された。製造したままのこれらのMWNTは3%w/w鉄でしかなかったことから、金属を除去するその他のいっさいの試みなしに使用された。
【0052】
MWNTバッキーペーパ電極は、この製造されたままの材料から、界面活性剤水溶液への分散によって作製された。二酸化炭素雰囲気中での酸化の後、この電極の一部が裁断されて、通常の方法でリチウム挿入された。SWNT材料に比較してMWNTはリチウムイオン容量が低いことが知られているため、MWNT電極の質量は、純SWNT陰極の200mgに比較して、800mgに増加された。最終的に、MWNT−SWNTセルが集成組付けされて、先に概略した手順に従ってテストされた。このセルは100μA/cm2で充電されて、50μA/cm2で放電され、図5に示した9セットサイクルから看取されるように、その性能は時間と共に130から250Wh/kgに改善した。このセルの性能はSWNTセルに比較して僅かに低下していたとはいえ、結果は ― このセルの陽極は商業的に入手可能なMWNT材料で構成することができる ― ことを示している。これは、適正な処理が行われて、我々の事前リチウム挿入技法が使用されれば、商業的に入手される多層ナノチューブ材料も我々のロッキングチェアバッテリ構成に使用して、成果を得ることができることを示している。
【0053】
実施例5
本発明のさらなる実施例として、フッ素化されたナノチューブ陽極(f−SWNT)を含むセルがテストされた。この場合、商業的に入手可能なf−SWNTと特別に作製されたf−SWNTとの双方が使用された。第一のケースにおいて、f−SWNT陽極はCNI,Inc(Boston,MA)から購入された材料を使用して作製された。加えて、第二のセルが、我々の典型的なCO2手法を使用して作製されて、その後にRice UniversityのProf.John Margraveによってフッ素化されたナノチューブ試料を用いてつくられた。このプロセスは文献中に述べられている(Khabasheku,V.N.;Billups,W.E.and Margrave,JL.,Accts.Of Chem Res.,35,(2),1087−1095,2002。この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)。フッ素化されたCNI−SWNTはCF2とされたが、他方、第二の試料は分析の結果CF0.6であった。これらの試料はすべてリチウム挿入され、我々の標準技法を使用してサイクルテストに付された。CNI試料つまりCF2試料については、フッ素化されたSWNT材料のリチウム容量は高かったが、陽極は優れたサイクル特性も高い比エネルギも示さなかった。ただし、フッ素化はまさに、フッ素化されたSWNT材料のより高い酸化電位のために、予測通りセル電圧を高めた(H.Peng,Z.Gu,J.Yang,J.L.Zimmerman,P.A.Willis,M.J.Bronikowski,R.E.Smalley,R.H.Hauge,J.L.Margrave,Nanoletters,1,625−629(2001);V.N.Khabasheku,W.E.Billups,J.L.Margrave,Acct.Chem.Res.,35,1087,(2002)― これらの文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする)。CF0.6試料については、フッ素化されたナノチューブを陰極とし、リチウム挿入された二酸化炭素処理されたSWNTを陽極とした構成において、我々のSWNT−純SWNTに比較可能な性能が示されたが、文献の結果と同様に、リチウムイオンとフッ素との相互作用は、二酸化炭素処理された試料には存在しない有意な量のヒステリシスをもたらす。したがって、フッ素の導入は確かに全体的なセルの性能を僅かに改善するが、フッ素化と結びついた複雑さとコストとの上昇により、このシステムの利用は制限される。
【0054】
実施例6
この新規発明のさらに別の実施例として、リチウム挿入されたSWNT陽極と、純SWNT陰極と、ガラス繊維不織紙セパレータ(Hollingworth and Vose BG03010)と、リン酸ポリエーテル(PEP)に1MのLiImを溶解した、20%の炭酸エチレンを含有した電解質とを使用して、単一セルのバッテリが作製された。PEP電解質ポリマは特許出願09/837,740,Morris et al.― この文献の開示内容全体は本引証により本願明細書に引用したものとする ― の対象であり、炭酸塩たとえば炭酸エチレンで改質された場合でも難燃性材料であることが明らかとされた。このセルが集成組付けされ、サイクルテストに付され、放電時に以下の結果をもたらした。
【0055】
【表4】
このセルの性能は液体電解質テストセルとほぼ同程度に良好であった。
【0056】
実施例7
本発明のフレキシビリティーのさらなる1実施例として、リチウム挿入されたSWNTバッキーペーパと、リチウム金属酸化物のレースまたはドープされた純SWNT陰極とを使用してセルが製造された。その目的は、SWNT材料よりも高い酸化状態を有するリチウム金属酸化物を組み入れることによってテストセルの電圧を高めることであった。一例としてLiNiCoO2が選択されて使用されたが、これに制限されるものではなく、目下普及している数多くのものによって代表されるその他の任意のリチウム金属酸化物を同様に使用してテストセルの陰極の電圧を高めることができよう。セルを集成組付けした後、セルはテストサイクルに付され、図7に示した結果がもたらされた。図7に示したように、リチウム挿入されたSWNT陽極と純SWNT陰極とを有するセルはLiNiCoO2のドープされたSWNT陰極を有するセルよりも低いセル電圧を結果した。
【0057】
実施例8
RIT(Rochester Institute of Technology)において、LiNiCoO2陰極と非最適化SWNTバッキーペーパ(酸に再溶融、水洗、250℃にて乾燥)とを使用していくつかのコインセルが製造、テストされて、小型セルの結果のさらなる確証が得られた。これらのセルはサイクルテストに付され、また、パルス電力テストにも付された。
【0058】
テストされたナノチューブ陽極コインセルの典型的な充放電挙動は図8に示されている。バッテリは定電流100μA/cm2を使用して電圧が4.2Vに達するまで充電され、その時点で100μA/cm2放電電流に切り換えられた。次いでバッテリは電圧が2.0Vになるまで放電され、その時点で再び充電に切り換えられた。最初の放電サイクルはこうした条件下で166mAh/gというナノチューブ材料の容量を有していた。
【0059】
バッテリテストセルの結果と同様に、コインセルのセル容量はサイクルと共に増加した。CO2処理された、レーザを用いて生成された単層カーボンナノチューブを使用したセルは最初のサイクル後に100mAh/g以下の容量をしめしていたが、6サイクル後には500mAh/gを越えていた。
【0060】
実施例9
試料1の調査中に、セルは、また、そのパルス電力特性を決定するために評価された。図6は、この1パルスにつき、SWNTセルは1ミリアンペア放電で1.25秒にわたって1V以上を保持したことを示している。図9参照。
【0061】
活性材料の重量は0.3mgで、放電中の平均電圧は1.38Vであったため、これから4.6kW/kgのピークパルス出力が結果した。この結果は活性材料の質量を基礎にしているにすぎないとはいえ、SWNTベースのシステムから高い比出力と比エネルギとの双方を得ることが可能であることを明示している。
【0062】
以上に本発明をさまざまな実施形態に関連させて説明したが、本発明はまた、最後に記載された請求項の趣旨と範囲を逸脱することなく、さらに多様な実施形態で実現可能である旨理解される必要があろう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の1実施形態を示す図である。
【図2】本発明の一般的なコンセプトを示す図である。
【図3】本発明のさまざまな実施形態を示す図である。
【図4】SWNT/SWNTバッテリのサイクル挙動をプロットした図である。
【図5】SWNT/フッ化SWNTバッテリのサイクル挙動をプロットした図である。
【図6】MWNT/SWNTバッテリのサイクル挙動をプロットした図である。
【図7】バッテリのSWNT陰極へのLiNiCoO2添加効果をプロットした図である。
【図8】SWNT/LiNiCoO2コインセル・バッテリの挙動をプロットした図である。
【図9】SWNTバッテリの挙動をプロットした図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と電気導通する陽極と、前記陽極と前記陰極とを分離するセパレータと、前記陽極と前記陰極との間の電気導通手段とからなり、前記陽極と前記陰極とはカーボンナノチューブであるバッテリ。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボールおよびそれらのコンビネーションからなるグループからセレクトされている、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは単層ナノチューブからなる、請求項2に記載のバッテリ。
【請求項4】
前記単層ナノチューブはLi1C3まで挿入されている、請求項3に記載のバッテリ。
【請求項5】
前記セパレータはリチウム塩電解質からなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項6】
前記電解質はPEP電解質である、請求項5に記載のバッテリ。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは600mAh/gを越える可逆的容量を有する、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブのアルカリ飽和はMC8式中Mが、K、RbおよびCsからなるグループからセレクトされている、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブはリチウム挿入されている、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項10】
前記陽極はLiC3陽極である、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項11】
前記陰極は単層ナノチューブからなり、前記陽極は多層ナノチューブからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項12】
前記多層ナノチューブはリチウム挿入されている、請求項11に記載のバッテリ。
【請求項13】
前記単層ナノチューブは基本的に純ナノチューブ材料である、請求項11に記載のバッテリ。
【請求項14】
前記陽極はリチウム挿入された単層ナノチューブからなり、前記陰極はリチウム金属酸化物中にドープされた単層ナノチューブからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項15】
前記リチウム金属酸化物はLiNiCoO2である、請求項14に記載のバッテリ。
【請求項16】
前記陽極は単層ナノチューブからなり、前記単層ナノチューブはCO2,CO,NO2,NO,N2O,O2,過酸化物、O3,SO2およびCH2COからなるグループからセレクトされたガスで処理されている、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項17】
前記陽極はリチウム挿入された単層ナノチューブからなり、前記陰極はフッ素化された単層ナノチューブからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項18】
前記陽極はリチウム挿入された多層ナノチューブ・バッキーペーパからなり、前記陰極は単層ナノチューブ・バッキーペーパからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項19】
前記陽極は導電性ポリマのドープされた単層ナノチューブからなり、前記陰極は基本的に純単層ナノチューブからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項20】
前記陽極は単層ナノチューブからなり、前記陰極はLiNiCoO2からなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項21】
前記電解質はリチウム塩を含んだ、難燃性のリン酸ポリエーテル液である、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項22】
前記陽極はリチウム複合材料からなり、前記陰極は基本的に純単層ナノチューブ材料からなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項23】
前記リチウム複合材料はLiSiCである、請求項22に記載のバッテリ。
【請求項1】
陰極と電気導通する陽極と、前記陽極と前記陰極とを分離するセパレータと、前記陽極と前記陰極との間の電気導通手段とからなり、前記陽極と前記陰極とはカーボンナノチューブであるバッテリ。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン、ナノベル、ピーポッド、バッキーボールおよびそれらのコンビネーションからなるグループからセレクトされている、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは単層ナノチューブからなる、請求項2に記載のバッテリ。
【請求項4】
前記単層ナノチューブはLi1C3まで挿入されている、請求項3に記載のバッテリ。
【請求項5】
前記セパレータはリチウム塩電解質からなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項6】
前記電解質はPEP電解質である、請求項5に記載のバッテリ。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは600mAh/gを越える可逆的容量を有する、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブのアルカリ飽和はMC8式中Mが、K、RbおよびCsからなるグループからセレクトされている、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブはリチウム挿入されている、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項10】
前記陽極はLiC3陽極である、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項11】
前記陰極は単層ナノチューブからなり、前記陽極は多層ナノチューブからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項12】
前記多層ナノチューブはリチウム挿入されている、請求項11に記載のバッテリ。
【請求項13】
前記単層ナノチューブは基本的に純ナノチューブ材料である、請求項11に記載のバッテリ。
【請求項14】
前記陽極はリチウム挿入された単層ナノチューブからなり、前記陰極はリチウム金属酸化物中にドープされた単層ナノチューブからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項15】
前記リチウム金属酸化物はLiNiCoO2である、請求項14に記載のバッテリ。
【請求項16】
前記陽極は単層ナノチューブからなり、前記単層ナノチューブはCO2,CO,NO2,NO,N2O,O2,過酸化物、O3,SO2およびCH2COからなるグループからセレクトされたガスで処理されている、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項17】
前記陽極はリチウム挿入された単層ナノチューブからなり、前記陰極はフッ素化された単層ナノチューブからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項18】
前記陽極はリチウム挿入された多層ナノチューブ・バッキーペーパからなり、前記陰極は単層ナノチューブ・バッキーペーパからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項19】
前記陽極は導電性ポリマのドープされた単層ナノチューブからなり、前記陰極は基本的に純単層ナノチューブからなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項20】
前記陽極は単層ナノチューブからなり、前記陰極はLiNiCoO2からなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項21】
前記電解質はリチウム塩を含んだ、難燃性のリン酸ポリエーテル液である、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項22】
前記陽極はリチウム複合材料からなり、前記陰極は基本的に純単層ナノチューブ材料からなる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項23】
前記リチウム複合材料はLiSiCである、請求項22に記載のバッテリ。
【図1】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図2(d)】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図3(c)】
【図3(d)】
【図3(e)】
【図3(f)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図2(d)】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図3(c)】
【図3(d)】
【図3(e)】
【図3(f)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2007−525787(P2007−525787A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514902(P2006−514902)
【出願日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/015767
【国際公開番号】WO2005/022666
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(505429935)フェニックス イノベーション,インク. (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/015767
【国際公開番号】WO2005/022666
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(505429935)フェニックス イノベーション,インク. (1)
【Fターム(参考)】
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