説明

新規なモルヒネ誘導体

本発明は、新規なモルヒネ−6−グルクロニド誘導体、それらを含有する医薬組成物、およびそれらの使用に関する。該誘導体は以下の構造:
【化1】


[式中、置換基Xを除くペンチット(Pentite)基(A)はMR36G−NR−S−と呼ばれ、
R1は、飽和または不飽和の線状または分岐C〜C10アルキル基であり、アルキル鎖がO、S、およびNから選択される1個以上のヘテロ原子によって中断されていてもよく、
R2は、H、飽和または不飽和の線状または分岐C〜Cアルキル基、あるいはアリール、ヘテロアリール、または(C〜C)アルキルアリール基であり、
R3はY(C=Z)RまたはYRであり、YおよびZが独立してOまたはSであり、R3がO−CHでない場合、Rは飽和または不飽和の線状または分岐C〜Cアルキル基であり、
Xは、H、−S−R4−W基、またはMR36G−NR−S基であり、R4がアミド、エステル、エーテル結合を含んでもよい飽和または不飽和の線状または分岐C〜Cアルキル基であり、
Wは、δ受容体アンタゴニストまたはκ受容体アンタゴニストのどちらかである。]
を有するか、あるいはその薬学的に許容できる塩である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なモルヒネ誘導体、上記新規なモルヒネ誘導体を含有する医薬品、ならびにペインマネジメントおよび性機能障害用にそれらを使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
現在モルヒネは、その疼痛の激しさを問わず急性の疼痛を治療するために選択される薬物である。このオピオイド薬物は、術後の急性疼痛の事例の約80%に使用されている。高い有効性にもかかわらずモルヒネの使用は、呼吸障害、悪心、嘔吐、腸管運動の抑制、中毒、および耐性などのオピオイドに特異的な数々の副作用を伴う(非特許文献1)。
【0003】
主なオピオイド受容体には、ミュー(μ)、カッパ(κ)、およびデルタ(δ)の3種類があり、これらはすべてGタンパク質結合受容体の科に属する。ウェスタンブロット分析、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer))、およびBRET(生物発光共鳴エネルギー移動(Bioluminesce Resonance Energy Transfer))により、これら3種類の受容体の単量体および二量体が明らかになった(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。二量体は、ホモ二量体またはヘテロ二量体のいずれかであることができる。このオリゴマー化はオピオイド受容体の生理学的役割を妨げ、高い可能性を有する新しい治療の取組み方を構成する。
【0004】
実際に、オピオイド誘導体はいったん二量体形状下で合成されると、μ、δ、およびκ受容体に対して単量体よりもすぐれた親和性を示し、より有効である(非特許文献5)。静脈投与後のそれらの鎮痛作用はより大きく、かつそれらの持続時間はより長い(特許文献1)。この最後の特性は、より短い作用持続時間を示すモルヒネなどの単量体および他のオピオイドと比べた場合、最も効果的な鎮痛作用を維持しながら投与回数を減らすことを可能にする。
【0005】
さらに数々の研究(非特許文献4)は、一方でμおよびδ受容体の共局在、また他方でδおよびκ受容体の共局在を示しており、これはヘテロ二量体受容体の存在を生理学的に可能にする。このような仮説は、FRET分析、イムノプレシピテーション、および結合特性によって確かめられている(非特許文献6)。
【0006】
薬理学的観点からは分子とオピオイド受容体の相互作用は、副作用だけでなく多かれ少なかれ重要な鎮痛作用をもたらす。
【0007】
例えば、μ受容体との結合が、その分子の鎮痛作用に大きく関与している。μ受容体の2種類のサブタイプ、すなわち強い親和性と弱い能力を有するサブタイプμ1および弱い親和性と強い能力を有するサブタイプμ2が存在する(非特許文献7)。μ1受容体との相互作用がアセチルコリンの代謝回転の低下と相まって鎮痛棘上反応を引き起こすのに対して、μ2受容体の相互作用は一般に呼吸障害および腸管運動抑制作用を生ずることが知られている鎮痛棘上作用を引き起こす。
【0008】
κおよびδ受容体は、特に腸管易動性および鎮痛作用において役割を果たす。さらにそれらの抑制は、依存症および呼吸障害の現象を低減するのに寄与する(非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12)。
【0009】
これらの受容体は中枢神経系中、特に脊髄の後角段階、かつまた末梢段階に存在する(非特許文献13、非特許文献14)。
【0010】
呼吸障害、悪心、依存症、および中毒などの大部分の特定された副作用は、中枢効果である。鎮痛作用を維持しつつ望ましくない効果を制限する方法は、末梢系と相互に作用し、かつ脳内にゆっくり拡散するオピオイドを設計することである(非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20、非特許文献21)。実際に、中枢神経系のオピオイド受容体を活性化することが、モルヒネで得られるものと同等の無痛覚を得る最も効果的な方法を存続させるように見える。
【0011】
幾種類かの二価配位子が、μ/δヘテロ二量体と相互作用するように設計され、合成された。これに関してダニエルズ(Daniels)らは、δ受容体アンタゴニストのナルトリンドールと結合したμ受容体アゴニストのオキシモルホンからなる配位子を研究した(非特許文献22、特許文献2)。ナルトリンドールは、特異的なδ受容体アンタゴニストとして文献中でよく知られている。ダニエルズらは、脳室内投与によってオキシモルホンと同等の二量体に対する鎮痛作用と、耐性および身体依存の現象の顕著な低下とを得た。さらにこれらの二量体は中枢段階で作用するらしい。実際にそれらのED50とモルヒネのED50は、静脈内および脳室内(i.c.v)投与後に同等であるように見える。
【0012】
モルヒネはモルヒネ−6−グルクロニド(M6G)の形成につながる重要な代謝を受けることが一般に知られている。この代謝産物は、その親水性のために脳の中にあまり入らない。その鎮痛作用は、中枢に投与された場合、モルヒネによって引き起こされるものよりも強いように見えるのに対して、悪心および嘔吐は低減する(非特許文献23、非特許文献24)。しかしそれはモルヒネと同様に中毒の症候群を誘発する恐れがある。さらにそれはすべての代謝産物と同様にその生物体によって迅速に排泄される。M6Gは、モルヒネが示す親和性よりも高いμ親和性(または研究によっては同等の親和性)を示すのに対して、κ親和性はより低い(非特許文献25)。
【0013】
したがって、M6Gはモルヒネの望ましくない副作用のない、モルヒネと同様に有効なオピオイドを設計するための興味深い基本原理であるように見える。
【0014】
M6Gは、1968年(非特許文献26)以降、合成手段によって生産されており、その鎮痛特性は数々の刊行物(例えば、非特許文献27、非特許文献28)中で明らかにされた。特許文献3および特許文献4は、M6GおよびM6Gの特に3位での誘導体の合成について記載しており、また特許文献5は、M6Gのβアノマーの合成の選択的過程に関するものである。特許文献6の出願内容は、疼痛を治療するためにM6Gを経口投与により使用することに関するものである。
【0015】
M6G誘導体についても記載されてきた。例えば特許文献7の特許は、特に炭素7−8の原子間の結合が飽和しているM6G誘導体の保護について特許請求している。特許文献8の出願内容は、チオール官能基またはイオウ原子を運ぶ基による置換による硫化(sulfured)M6G誘導体について記載している。これらのイオウ誘導体は、高い鎮痛作用と少ない副作用を示す。
【0016】
M6Gおよびその誘導体に代わる、炭水化物と接合したオピオイド誘導体が、特許文献9の特許出願に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2005/063263号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/073396号パンフレット
【特許文献3】欧州特許第597 915B1号明細書
【特許文献4】米国特許第6046 313号明細書
【特許文献5】欧州特許第1086114B1号明細書
【特許文献6】国際公開第95/05831号パンフレット
【特許文献7】欧州特許第975 648B1号明細書
【特許文献8】国際公開第2005/063263号パンフレット
【特許文献9】欧州特許第816 375号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】ミノル・ナリアタ(Minoru Nariata)らの論文、2001,Pharmacol et Ther,89,1〜15)
【非特許文献2】ジョージ・SR(Geoge SR)らの論文、J Biol Chem 2000,275:26128〜26135
【非特許文献3】ジョーダン・BA(Jordan BA)らの論文、Nature 1999,399:697〜700
【非特許文献4】ゴメス・I(Gomes I)らの論文、J Neurosci 2000,20:RC110
【非特許文献5】ハズム(Hazum)らの論文、Biochem Biophys Res Comm 1982,104:347〜353
【非特許文献6】リオス(Rios)らの論文、Pharm & Ther 2001,92:71〜87
【非特許文献7】パステルナク(Pasternak)およびウッド(Wood)の論文、1986、Life Sci 38:1889〜1898
【非特許文献8】ロスマン(Rothman)らの論文、2000,J Subst Abuse Treat 19:277〜281
【非特許文献9】シュック(Shook)らの論文、1990,Am Rev Repir Dis 142:895〜909
【非特許文献10】J Neurosci 2005 Mar 23;25(12):3229〜33
【非特許文献11】J Pharmacol Exp Ther.2001 May;297(2):597〜605
【非特許文献12】J Pharmacol Exp Ther.1998 Dec;287(3):815〜23
【非特許文献13】スタイン(Stein)らの論文、1995、Ann Med,27(2):219〜21
【非特許文献14】ヤンソ(Janso)、スタイン(Stein)の論文、Curr Opin Pharmacol,2001,1(1):62〜65
【非特許文献15】C・スタイン(C.Stein)の論文、1990,J of Pain and Symptom Management 6(3):119〜124
【非特許文献16】ザジャクゾウスカ・R(Zajaczowska R)の論文、Reg Anesth Pain Med,2004,29(5):424〜429
【非特許文献17】リカー(Likar)らの論文、1998,Pain 76(1〜2):145〜50
【非特許文献18】トクヤマ(Tokuyama)らの論文、Life Sci.1998,62(17〜18):1677〜81
【非特許文献19】ジュニアン(Junien)の論文、Aliment Pharmacol Ther,1995,9(2):117〜26
【非特許文献20】ディヘイブ−ハドキンス(Dehave−Hudkins)らの論文、J Pharmacol Exp Ther,1999,289(1):494〜502
【非特許文献21】スタイン(Stein)らの論文、N Eng/l J Med,1991,325:1123〜1126
【非特許文献22】ダニエルズ(Daniels)らの論文、PNAS 2005,102(52):19208
【非特許文献23】ポール(Paul)らの論文、1989、J Pharmacol.Exp.Ther.251:477〜483
【非特許文献24】フランシス(Frances)らの論文、J Pharmacol.Exp.Ther.262:25〜31
【非特許文献25】Current Topics in Medicinal Chemistry,2005,5,585〜594
【非特許文献26】ヒデトシ(Hidetoshi)らの論文、1968
【非特許文献27】フランシス(Furances)らの論文(1982)
【非特許文献28】キルパトリック(Kilpatrick)らの論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、より高い鎮痛作用およびより低い副作用を示すモルヒネ誘導体を開発する必要性は依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の主な目的は、強い鎮痛作用と、現在使用されているオピオイドよりも長時間の活性および少ない副作用とを示す新規なM6G誘導体、好ましくは二量体のまたは二価の配位子である。これらの誘導体は、
構築される化学修飾部の疎水性を調節することによって中枢段階でゆっくり拡散するように、
ホモ二量体オピオイドまたはヘテロ二量体オピオイドのいずれかを受容体と相互作用させるように、
一部の副作用を少なくするようにκおよび/またはδ受容体を抑制しつつ、μ受容体に対して強い親和性を示すように、
設計された。
【0021】
本発明者らは、M6Gグルクロニド基のカルボン酸上へチオール官能基を運ぶ基を加えること、および3位におけるヒドロキシル(hydroxile)の修飾、特にエーテル官能基による修飾が、強いμおよびκ親和性と強い鎮痛作用との両方を示す化合物を得ることを可能にすることになることを確証した。これらの特性は、チオール官能基の酸化、次いでジスルフィド架橋の形成によって得られる二量体化化合物または二価配位子に関しては特に間違いない。
【0022】
文献は、ジスルフィド結合が活性分子のin vivo特性を改善することができ、血漿中で比較的安定なこれら結合は細胞中で切断されることを示している(G・サイトー(G.Saito)らの論文、Advanced Drug Delivery Reviews,2003,55,199〜215)。
【0023】
これら置換の意図する効果は、すでに知られているM6G誘導体と比べて薬理学的特性を改変することである。
【0024】
3位における基は、M6Gの脂肪親和性を増す目的で、およびそれが血液脳関門(BBB)を通過するのを助けることによってその中枢鎮痛作用を改善する目的で選択される。しかし文献は、モルヒネ部分の3位におけるヒドロキシルの一部の修飾が鎮痛作用の減損、またさらには毒性を誘発することを示した(アブダルガニ・A・フーディ(Abdulghani A Houdi)らの論文、1996,Pharm Biochem and Beh,53(3)665〜671、サルバテラ(Salvatella)らの論文、2004,Biiorg & Med Chemlett.,14,905〜908)。本発明者らは、3位でのメトキシ基による置換(6−コデイン−グルクロニドの誘導体)が不活性かつ毒性の化合物を生じさせることを示した(実施例1参照)。したがって本発明によるこれら化合物について得られた結果は予想外である。
【0025】
これらM6G誘導体の第二の用途は性機能障害、特に男性の早漏に関係がある。実際に文献(エレジャム(Eledjam)およびサファリネジャド(Safarinejad)らの論文)中には、早漏を治療するための鎮痛剤投与の有効性、例えばリドカイン、トラマドール注射(サファリネジャドらの米国特許第23 186 872A号明細書)、またさらにはバイアグラ/δオピオイド受容体アゴニストの混合物を含有する医薬製剤の使用(米国特許第06 974 839号明細書)などの鎮痛剤の局所施用が示されている。
【0026】
したがって本発明は、式(A)
【化1】

[式中、置換基Xを除く全体(A)はMR36G−NR−Sと称され、
R1は、C〜C10アルキル基(アルキル鎖はO、S、およびNから選択される1個または数個のヘテロ原子によって中断されていてもよい)を表し、
R2は、水素、飽和または不飽和の線状または分岐C〜Cアルキル基、あるいはアリール、ヘテロアリール、または(C〜C)アルキルアリール基を表し、
R3は、Y(C=Z)RまたはYR基(YおよびZは独立して酸素またはイオウを表し、R3がO−CHと異なる場合、Rは線状または分岐、飽和または不飽和C〜Cアルキル基である)を表し、
Xは、水素、基−S−R4−W、または基MR36G−NR−S(R4はアミド、エステル、エーテル結合を含有することができるC〜Cアルキル基である)を表し、
Wは、δ受容体アンタゴニストまたはκ受容体アンタゴニストのどちらかである。]
で表される化合物およびその薬学的に許容できるいずれかの塩に関する。
【0027】
R1が置換アルキルである場合、その置換基は飽和または不飽和C〜Cアルキル基、アミノ基、COOR5基、CONR5R6基(R5およびR6は独立して水素、飽和または不飽和の、置換されていてもよいC〜C20アルキル基、アリール、ヘテロアリール、好ましくはC〜C10にアルデヒド官能基および/またはケトンを有するC〜C20アルキル基を表す)からなる群から選択することができる。
【0028】
R2が置換される場合、その置換基は飽和または不飽和C〜Cアルキル基であることができる。
【0029】
Wがδ受容体アンタゴニストである場合、好ましくはそれはナルトリンドール、ナルトリベン、7−ベンジリデンナルトレキソン(BNTX)、および7−(5’,6’−ベンゾ−2’−スピロ−インダニル)ナルトレキソン(BSINTX)からなる群から選択される。
【0030】
Wがκ受容体アンタゴニストである場合、それは5’−グアニジノナルトリンドールおよびノル−ビナルトルフィミン(nor−BNI)からなる群から選択される。基Wは、その鎮痛作用を保持するように基WをR4と結合させる。
【0031】
Xが、基MR36G−NR−Sを表わす場合、両方の基MR36G−NR−S上の基R1、R2、およびR3は類似していても異なっていてもよい。
【0032】
アルキルとは、線状または分岐、置換または非置換の、飽和または不飽和炭酸水素基(hydrocarbonated radical)を指す。C〜C10アルキル基は、1個から10個の炭素原子を与える上記で定義したものなどの基を指し、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、およびデシルから選択される基である。C〜Cアルキル基は、1個から5個の炭素原子を与える上記で定義したものなどの基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、およびペンチルから選択される基を指す。C〜Cアルキル基は、1個から4個の炭素原子を与える上記で定義したものなどの基、特にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、およびtert−ブチルから選択される基を指す。C〜Cアルキル基は、1個から6個の炭素原子を与える上記で定義したものなどの基、特にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、およびヘキシル(hexyle)から選択される基を指す。C〜Cアルキル基は、2個から6個の炭素原子を与える上記で定義したものなどの基、特にエチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、およびヘキシルから選択される基を指す。C〜Cアルキル基は、1個から8個の炭素原子を与える上記で定義したものなどの基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、およびオクチルから選択される基を指す。C〜Cアルキル基は、1個から3個の炭素原子を与える上記で定義したものなどの基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、およびイソプロピルから選択される基を指す。C〜Cアルキル基は、2個から3個の炭素原子を与える上記で定義したものなどの基、好ましくはエチル、プロピル、およびイソプロピルから選択される基を指す。C〜Cアルキル基は、1個から4個の炭素原子を与える上記で定義したものなどの基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、およびtert−ブチルから選択される基を指す。
【0033】
単語「アリール」は、好ましくは6個から14個の炭素原子を有する置換または置換されていない芳香族炭化水素基を指す。好ましくは本発明によるアリール基は、ペンチル、ナフチル(例えば、1−ナフチルまたは2−ナフチル)、ビフェニル(例えば、2−、3−、または4−ビフェニル)、アントリル、またはフルオレニルから選択される。置換または置換されていないフェニル基が特に好ましい。
【0034】
単語「ヘテロアリール」は、窒素、イオウ、酸素などの1個または数個のヘテロ原子を含み、好ましくは6個から14個の炭素原子を有する置換または置換されていない芳香族炭化水素基を指す。例えば、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジル、トリアジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、(1,2,3)−および(1,2,4)−トリアゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、またはキサゾリルなどを挙げることができる。
【0035】
単語「アルキルアリール」は、アルキル基で置換されたアリール型基を指す。単語「アルキル」および「アリール」は、さきに詳述した定義と一致する。アルキルアリール基の例は、トリル、メシチル(mesythyl)、キシリル(xylyle)である。
【0036】
より正確には、本発明は式(B)、(C)、および(D)
【化2】

[式中、R1、R2、R3、R4、およびWは、式(A)により定義され、両方の基MR36G−NR−S上の基R1、R2、およびR3は同じか、または異なる。]
で表わされるモルヒネ誘導体およびそれらの薬学的に許容できるいずれかの塩に関する。
【0037】
好ましい実施形態において、基R3中のYおよびZは酸素である。別の好ましい実施形態において基R3中のRは、分岐または非分岐、飽和または不飽和C〜Cアルキル、好ましくは分岐または非分岐、飽和または不飽和、好ましくは飽和C〜Cアルキルである。ある特定の実施形態においてR3はY(C=Z)R(Rは飽和または不飽和の線状または分岐C〜Cアルキル基、好ましくはC〜Cのもの)である。別の特定の実施形態においてR3はYR(Rは飽和または不飽和の線状または分岐C〜Cアルキル基、好ましくはC〜Cのもの)である。
【0038】
好ましい実施形態において、R4は−(CH−C(O)−NH−基または−(CH−NH−C(O)−を表し、式中でnは1と8の間、好ましくは1と4の間に含まれる整数である。
【0039】
本発明による好ましい化合物は、
そのR3基が−OR(特にRはエチルまたはイソプロピルである)を表し、および/または
R2が水素であり、および/または
R1が線状アルキル−(CH−基であり、および/または
R4が−(CH−C(O)−NH−基であり、および/または
Wがナルトリンドールである、
のうちの1つまたは幾つかの特徴を提示する式(A)から(D)の化合物である。
【0040】
特に本発明は、式(A)から(D)の化合物において
R2が水素であり、またR1が線状アルキル−(CH−基であり、および/または
R2が水素であり、またR3が−OR(Rは、特にエチルまたはイソプロピルである)を表し、および/または
R4が−(CH−C(O)−NH−基であり、またWがナルトリンドールであり、および/または
R1が線状アルキル−(CH−基であり、またR3が−OR(Rは、特にエチルまたはイソプロピルである)を表し、および/または
R1が線状アルキル−(CH−基であり、R2が水素であり、またR3が−OR(Rは、特にエチルまたはイソプロピルである)を表す、
化合物に関する。
【0041】
ある特定の実施形態において、化合物は式(B)を有し、両方のR2が水素であり、また両方のR1が線状アルキル−(CH−である。別の特定の実施形態において化合物は式(C)を有し、R2が水素であり、R1が線状アルキル−(CH−基であり、またR4が−(CH−C(O)−NH−基である。
【0042】
式(A)から(D)中に含まれる不斉炭素は、RまたはS配置のものであることができる。
【0043】
二量体の好ましい化合物は、構造式(I)、(II)、または(III)で表わされる。
【化3】

(I):M3iPro−6G−cya−cya−M3iPro−6G
【化4】

(II):M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6G
【化5】

(III):M3Et−6G−cya−3MP−NTI
で表わされる。
【0044】
このエチル基をメチルで置換して化合物C6G−cya−3MP−NTIを得ることができる。
【0045】
本発明の化合物は、当業者が知っている方法を用いて調製することができる。
【0046】
本発明は、薬物としての本発明による化合物に関する。
【0047】
本発明はまた、上記化合物の1つ、あるいはその薬学的に許容できる塩の1つ、例えば限定的でない酢酸塩、硫酸塩、または塩酸塩などを活性成分として含有する医薬組成物に関する。
【0048】
本発明による医薬組成物は、投与の経路、すなわち、
例えば皮下注射または静脈内注射または筋内注射による注射可能な製剤を介する非経口投与、
即時放出または持続放出、またさらには遅延放出のいずれかを伴う、例えば丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、経口液剤、または懸濁剤を介する経口投与、
例えばパッチ剤、軟膏剤、またはゲル剤を介する局所投与、特に経皮的投与、
エアゾール剤およびスプレー剤を介する鼻腔内投与、
例えば坐剤を介する直腸投与、
経舌投与、
眼内投与
に応じて適切な形態で登場することになる。
【0049】
薬学的に便利な担体を、それぞれの投与様式に対して現在使用されている担体のなかから選択することができる。
【0050】
ある実施形態では、組成物は別の活性成分を含むことができる。
【0051】
本発明は、疼痛、具体的には急性疼痛、慢性疼痛、神経因性疼痛、筋肉痛、骨痛、術後疼痛、片頭痛、癌性疼痛、腰痛、関節痛、糖尿病に関連した疼痛、またはAIDSに関連した疼痛の治療に使われる薬物の製造のために式(A)から(D)および(I)から(III)のなかから選択される式の化合物、またはその薬学的に許容できる塩の1つを使用することに関する。本発明はまた、性機能障害、特に早漏の治療に使われる薬物の製造のために式(A)から(D)および(I)から(III)のなかから選択される式の化合物、またはその薬学的に許容できるいずれかの塩を使用することに関する。
【0052】
本発明は、式(A)から(D)および(I)から(III)のなかから選択される式の化合物、またはその薬学的に許容できる塩の1つの治療に有効な用量を投与することを含む、患者の疼痛の治療方法に関する。具体的には疼痛は、急性疼痛、慢性疼痛、神経因性疼痛、筋肉痛、骨痛、術後疼痛、片頭痛、癌性疼痛、腰痛、関節痛、糖尿病に関連した疼痛、またはAIDSに関連した疼痛である。これに加えて本発明は、式(A)から(D)および(I)から(III)のなかから選択される式の化合物またはその薬学的に許容できるいずれかの塩の治療に有効な用量を投与することを含む、患者の性機能障害、特に早漏の治療方法に関する。
【0053】
本発明はさらに、疼痛の治療または性機能障害の治療用の式(A)から(D)および(I)から(III)のなかから選択される式の化合物またはその薬学的に許容できる塩の1つに関する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1A〜1Cは、C6G−Cya、M3Et−6G−Cya、M3Et−6G−Cya−Cya−M3Et−6G、N3iPro−6G−cya−cya−M3iPro−6G、およびM3Et−6G−cya−3MP−NTIの合成を示す図である。
【図2】テイルフリック試験における化合物の鎮痛作用を示す図である。
【図3】ホットプレート試験における化合物の鎮痛作用を示す図である。
【図4】腸管運動に及ぼす化合物の影響を示す図である。
【0055】
本発明を下記の実施例により例示するが、限定するものではない。
【実施例】
【0056】
A.合成
検討用生成物を得るために実行される合成の様々な方法を下記に詳述する。反応経路を図1に示す。
【0057】
反応に続いて逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびMALDI−TOF質量分析法が行われた。生成物を同定し、それらの純度を逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および質量分析法により求めた。
【0058】
実施例1:C6G−cyaの合成
反応器中で、2モル当量のシステアミンを、1モル当量の市販のコデイン−6−グルクロニドと共に138g/lの無水ジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解した。無水DMF中への溶解後に47g/lのTFAを加えた。
【0059】
4モル当量のジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を加え、反応器を氷浴(0℃)中に入れた。DMF中に225g/lで予め可溶化させた1.2モル当量のベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(PyBOP)をこの反応混合物中に滴下し、次いで室温で3時間撹拌した。
【0060】
次いで、水/0.1%TFA中に214g/lで予め可溶化させた2.5モル当量のトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を加えることによってジスルフィド架橋を還元した。反応の2時間後、生成物を分取HPLCにより精製した。
【0061】
凍結乾燥後、10.3mgのC6G−cyaが得られた。[M+H]=535、MTFA=648、純度98%、収率=93%。
【0062】
実施例2:M3Et−6G−cyaの合成
M3Et−6Gの合成:
反応器中で、1モル当量のモルヒネ−6−グルクロニド・2HO(M6G)を水中に100g/lで注ぎ可溶化させた。5当量の炭酸セシウムを加え、その混合物を室温で5分間撹拌した。
【0063】
水の体積に等しいジクロロメタンの体積をこの混合物に加えた。5当量のブロモメタンおよび2当量の硫酸水素テトラブチルアンモニウム(TBAHS)を連続して加えた。室温で72時間撹拌を維持した。生成物を分取HPLCにより精製した。
【0064】
プロトン核磁気共鳴(NMR)による核オーバーハウザー効果(NOE)実験は、モルヒネ誘導体の3位でエチル基が酸素原子によって運ばれたことを示した。実際にエチル基の制御照射は、フェノールの芳香族プロトンのシグナルを乱した。
【0065】
45.8mgのM3Et−6Gが得られた。[M+H]=490、MTFA=603、純度93%、収率=55%。
【0066】
M3Et−6G−cyaの合成:
反応器中で、2モル当量のシステアミンジヒドロクロリドをDMF中に71g/lで可溶化させた。DMF中に96g/lで予め可溶化させた1当量のM3Et−6Gを加えた。この混合物をDMFで希釈し、4モル当量のDIEAを加えた。反応器を0℃に冷却し、DMF中に23g/lで予め可溶化させた1.2モル当量のPyBOPを滴下した。
【0067】
室温で3時間撹拌を維持し、次いで水/0.1%TFA中に21g/lで可溶化させた2.5モル当量のTCEPを加えた。4時間の撹拌後、還元が終了した。その生成物を分取HPLCにより精製した。
【0068】
46.9mgのM3Et−6G−cyaが得られた。[M+H]=549、MTFA=662、純度95%、収率=89%。
【0069】
実施例3:M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gの合成
反応器中で、1モル当量のシステアミンジヒドロクロリドをDMF中に86g/lで可溶化させた。DMF中に97g/lで予め可溶化させた2モル当量のM3Et−6G−cyaを加えた。次いで5モル当量の純粋なDIEAを導入し、その混合物を氷浴中で0℃に冷却した。DMF中に22.9g/lで可溶化させた2.4モル当量のPyBOPを滴下した。室温で3時間撹拌を維持した。次いでその生成物を分取HPLCにより精製した。
【0070】
40.5mgのM3Et−6G−cya−cya−M3Et−6G二量体が得られた。[M+H]=1096、MTFA=1322、純度95%、収率=81%。
【0071】
実施例4:M3iPro−6G−cya−cya−M3iPro−6Gの合成
M3iPro−6Gの合成:
10mlのフラスコ中で、1モル当量のM6Gを水中に100g/lで可溶性にする。5モル当量の炭酸セシウム、2モル当量のTBAHS、1mlのジクロロメタン、および5モル当量のブロモイソプロパンを加える。この混合物を45℃で撹拌し、ジクロロメタンを一晩還流させる。
【0072】
ジクロロメタンを蒸発させ、生成物を分取HPLCにより精製する。
【0073】
61.7mgのM3iPro6Gが得られる。[M+H]=504、MTFA=617、純度95%、収率=63%。
【0074】
M3iPro−6G−cya−cya−M3iPro−6Gの合成:
ファルコンチューブ(Falcon tube)中で、1モル当量のシステアミンジヒドロクロリドをDMF中に11.2g/lで可溶化させる。DMF中に100g/lで予め可溶化させた2モル当量のM3iPro−6Gを加える。次いで5モル当量の純粋なDIEAを導入し、その混合物を0℃に冷却し、5分間撹拌する。次いでDMF中に240g/lで予め可溶化させた2.4モル当量のPyBOPを加え、その混合物を室温で1時間撹拌する。
【0075】
二量体を分取HPLCにより精製する。
【0076】
46.4mgのM3iPro−6G−cya−cya−M3iPro−6Gが得られる。[M+H]=1123、MTFA=1350、純度95%、収率=85%。
【0077】
実施例5:M3Et−6G−cya−3MP−NTIの合成
7’−ニトロナルトリンドールの合成:
フラスコ中で、1モル当量のナルトレキソン・HCl・2HOおよび1モル当量の(2−ニトロフェニル)−ヒドラジンを、37%塩酸と氷酢酸の50/50混合物中に57g/lで導入する。この混合物を85℃で6時間30分撹拌し、次いで0℃に冷却し、飽和NaHCO溶液で中和し、酢酸エチルで3回抽出する。有機相をプールし、硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、減圧下で蒸発させる。次いで得られる固体を分取HPLCにより精製する。
【0078】
90mgの7’−ニトロナルトリンドールが得られる。[M+H]=460、MTFA=573、純度92%、収率=43%。
【0079】
7’−アミノナルトリンドールの合成:
エタノール中に34.6g/lで可溶化させた1モル当量の7’−ニトロナルトリンドールを、50mlのファルコンチューブ中へ導入する。過剰量のラニーニッケル(水懸濁液中50%)および10モル当量の水性ヒドラジンを滴下する。1時間の反応後、その混合物を遠心分離し、アルコール相を回収し、エタノールを減圧下で蒸発させる。得られた残渣を水(TFAの0.1%)/アセトニトリル(TFAの0.1%)50/50の最少量中に再度可溶化させ、分取HPLC中に注入する。
【0080】
44.1mgの生成物が得られる。[M+H]=430、MTFA=657、純度95%、収率=43%。
【0081】
Fmoc−システアミン−3MPの合成:
フラスコ中で、2モル当量のFmoc−OSuを、アセトン中に320g/lで可溶化させる。そのアセトンと等体積の水と共に1モル当量のシスタミン・2HClおよび1.6モル当量の炭酸ナトリウムを加える。この混合物は硬化する。混合物/水(50/50)を加えて溶媒体積を2倍にする。
【0082】
室温で2時間30分の撹拌後、アセトンをロータベーパ(rotavapor)を用いて蒸発させ、得られた懸濁物をジクロロメタン中に可溶化する。水性相をジクロロメタンにより抽出し、それら有機相をKHSOおよび飽和NaClで連続的に洗浄する。
【0083】
次いで最終有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、減圧下で蒸発させて2.53gのFmoc−シスタミンが得られる。[M+H]=598、純度95%、収率=96%。
【0084】
ジスルフィド架橋の還元は、1モル当量のFmoc−シスタミンをDMF中に25g/lで可溶化させ、水(0.1%TFA)中に400g/lで予め可溶化させた2.5モル当量のトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を加えることによって行う。室温での1時間の撹拌後、大過剰量の水を加え、その混合物をジクロロメタンで抽出する。それら有機相をプールし、飽和NaClで洗浄し、NaSO上で乾燥し、ガラス濾過板上で濾過する。ジクロロメタンを蒸発させる。次いで水(0.1%TFA)を加えることによって生成物を沈殿させ、ガラス濾過板上で濾過し、HO(0.1%TFA)/ACN(0.1%TFA)(25/75)の混合物中に可溶化させ、次いで凍結乾燥する。
【0085】
252mgの生成物が得られる。[M+H]=300、純度95%、収率=50%。
【0086】
ジクロロメタン中に122g/lで可溶化させた3モル当量の2,2’−ジチオジピリジンを0℃で冷却する。
【0087】
ジクロロメタン中に18g/lで予め可溶化させた1モル当量のFmoc−システアミンを10分間滴下する。
【0088】
室温での3時間の反応の後、その混合物を0℃で冷却し、ジクロロメタン中に18μl/mlで希釈した5.5モル当量のd3−メルカプトプロピオン酸を20分間滴下する。室温で一晩反応させた後、ジクロロメタンを減圧下で蒸発させる。得られた残渣を分取HPLCにより精製する。
【0089】
231mgのFmoc−システアミン−3MPが得られる。[M+H]=400、純度95%、収率=68%。
【0090】
システアミン−3MP−7’−アミノナルトリンドールの合成:
1モル当量の7’−アミノナルトリンドールをDMF中に70g/lで可溶化させる。DMF中に66g/lで可溶化させた2.1モル当量のFmoc−システアミン−3MPと、6モル当量の純粋なDIEAとを加える。この混合物を撹拌することなく0℃で冷却する。DMF中に200g/lで予め可溶化させた1.1モル当量のPyBOPを滴下する。反応の60分後、その混合物を分取HPLCにより精製する。22.5mgのFmoc−システアミン−3MP−7’−アミノナルトリンドールが得られる。[M+H]=815、MTFA=928、純度94%、収率=36%。
【0091】
1モル当量のFmoc−システアミン−3MP−7’−アミノナルトリンドールをDMF中に15g/lで可溶化させる。20モル当量の純粋なDEAを加え、その混合物を室温で30分間撹拌する。
【0092】
この混合物を分取HPLCにより精製する。
【0093】
9.3mgのシステアミン−3MP−7’−アミノナルトリンドールが得られる。[M+H]=593、MTFA=820、純度81%、収率=43%。
【0094】
M3Et−6G−cya−3MP−NTIの合成:
1モル当量のCya−3MP−7’−アミノナルトリンドールをDMP中に70g/lで可溶化させる。DMP中に70g/lで可溶化させ1モル当量のM3Et−6Gを5モル当量のDIEAと共に加える。この混合物を0℃で冷却し、DMP中に200g/lで可溶化させた1.2モル当量のPyBOPをその混合物中に滴下する。室温で45分間撹拌した後、その混合物を分取HPLCにより精製する。
【0095】
11mgのキメラが得られる。[M+H]=1064、MTFA=1291、純度95%、収率=67%。
【0096】
B.オピオイド受容体の親和性の検討
B.1 実験手順
M6GのC6G−cya、M3Et−6G−cya、およびM3Et−6G−cya−cya−M3Et−6G誘導体との親和性を、μ、δ、およびκオピオイド受容体の3種類のサブタイプのそれぞれについて比較した。
【0097】
μ受容体に対する親和性を判定するために細胞膜のホモジネート(HEK−293細胞上にトランスフェクトされたヒトμ受容体)を、本発明による化合物の1つが存在する場合または存在しない場合のいずれかで、0.5nMの[3H][D−Ala,N−MePhe,G/ly(ol)]エンケファリン(DAMGO)と共に、50mMトリス−HCl(pH7.4)および5mM MgClを含有する緩衝液中で22℃において120分間インキュベートした。
【0098】
κ受容体に対する親和性を判定するためにテンジクネズミ小脳のホモジネート(タンパク質250μg)を、本発明による化合物の1つが存在する場合または存在しない場合のいずれかで、0.7nMの[3H]U−69593と共に、50mMトリス−HCl(pH7.4)、10mM MgCl、および1mM EDTAを含有する緩衝液中で22℃において80分間インキュベートした。
【0099】
δ受容体に対する親和性を判定するために細胞膜のホモジネート(CHO細胞上にトランスフェクトされたヒトミュー受容体)を、本発明による化合物の1つが存在する場合または存在しない場合のいずれかで、0.5nMの[3H]DADLEと共に、50mMトリス−HCl(pH7.4)および5mM MgClを含有する緩衝液中で22℃において120分間インキュベートした。
【0100】
その非特異的結合を10μMのナルトレキソンの存在下で求めた。インキュベーションの後、試料は、ガラス繊維(GF/B、パッカード(Packard))(予め0.3%のポリエチレンイミンと共にインキュベートし、「96試料細胞ハーベスター」(ユニフィルター(Unifilter)、パッカード)を用いて50mMの冷トリス−HClで3回洗い流したもの)を通して迅速に濾過された。その後、フィルターを乾燥し、放射能を計数した。
【0101】
本発明による化合物のκ受容体に対するアゴニスト/アンタゴニスト活性は、引き伸ばし、1ミリ秒間の0.1Hzの電流により刺激したウサギ輸精管の前立腺部分を使用することによって評価した。
【0102】
アゴニスト活性を試験するために、特異的κ受容体アゴニストであるU−69593の高濃度(0.1μM)に組織を曝すことによって応答制御(組織の収縮のピーク)を得た。
【0103】
次いで組織を、本発明による化合物の増大させた複数濃度、または特異的アゴニストに曝した。様々な濃度が積み上げられ、安定な応答が得られるまでか、または最大15分間、各濃度を組織と接触させた状態に保った。
【0104】
アゴニストが特徴的応答(すなわち収縮の阻害)を示した場合、比較対照のアンタゴニストのノル−ビナルトルフィミン(nor−BNI、0.001μM)が、本発明による化合物のその最高濃度において試験し、応答におけるκ受容体の役割を確認した。
【0105】
アンタゴニスト活性を試験するために、高濃度(0.1μM)の特異的アゴニストU−69593に組織を曝すことによって応答制御(組織の収縮のピーク)を得た。
【0106】
次いで組織を、本発明による化合物の増大させた複数濃度、または特異的アゴニストに曝した。様々な濃度が積み上げられ、安定な応答が得られるまで、または15分まで、各濃度を組織と接触させた状態に保った。
【0107】
アンタゴニスト応答は、電気的刺激によって引き起こされる収縮のピークの大きさがnor−BNIで観察されるものと同じ場合に観察された。
【0108】
測定されたパラメータは、その化合物の様々な濃度に関して電気的刺激によって引き起こされた収縮のピークの大きさの最大変化である。
【0109】
B.2 結果
μ、δ、およびκ受容体に対する親和性の結果を下記の表1に詳述する。
【0110】
【表1】

【0111】
結果は、
本発明による化合物のμ受容体に対するモルヒネに似た親和性、
モルヒネと比べた場合の、本発明による化合物のδ受容体に対する親和性の減損、
κ受容体に対するC6G−cyaおよびM3Et−6G−cya単量体化合物のモルヒネの親和性と似た親和性、ならびにM3Et−6G−cya−cya−M3Et−6G二量体の親和性の改良(因子6)、
を示す。
【0112】
化合物M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gのアゴニスト/アンタゴニスト活性を上記(B1)と同様に測定した。本発明による化合物はκ受容体アンタゴニストのような挙動を示す。
【0113】
アゴニスト/アンタゴニスト活性の結果を下記の表2に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
応答は、U−69593における応答制御の%(収縮の大きさの低下)で示す。
【0116】
C.鎮痛作用の検討
C.1 実施方法
鎮痛作用は、「テイルフリック」試験および「ホットプレート」試験の両方により求めた。
【0117】
「テイルフリック」試験(ドムール(D’Amour)およびスミス(Smith)の試験、Pharmacol Exp.The;72:74〜79)は、生成物の投与後にマウスの尾を、侵害刺激(表面温度55℃)を引き起こすように赤外線源の前に置くことにある。マウスの反応時間(RT)(光線の発射とマウスがその尾を引っ込める瞬間との間の待ち時間)を、生成物の投与後15分から480分に広がる時間の8点において2回繰り返して測定した。動物の組織の損傷を避けるために最大反応時間として最長10秒の期間を選択した。
【0118】
生成物は0.5から8mg/kgの間に含まれる用量で静脈内に投与された(群ごとに8匹のマウス)。
【0119】
ベースラインを確立するために生成物を投与する前に反応時間の2回の測定を各マウスについて実現した。
【0120】
「ホットプレート」試験は、マウスを54℃のホットプレート上に載せ、下記の挙動の出現を測定することにある。すなわち
4本の足の少なくとも1本が関係するジャンプ、
前足または後足をなめること、
ホットプレート上で30秒間を超えること、
移動の速度が活発になること。
【0121】
引込める時間を、生成物の注射後15分から360分に広がる時間の様々な点において2回繰り返して測定した。
【0122】
試験される生成物の投与前にベースラインを各マウスについて求めた。
【0123】
生成物は0.5から8mg/kgの間に含まれる用量で静脈内に投与された(群ごとに8匹のマウス)。
【0124】
C.2 結果
テイルフリック試験に関しては、モルヒネ、M3Et−6G−cya、M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6G、C6G−cya−cya−C6G、M3iPro−6G−cya−cya−M3iPro−6G、およびM3Et−6G−cya−3MP−NTI−cya−M3Et−6Gについての得られた結果を、MPE±S.E.M(%)の群ごとの平均として表示し、図2に示す。
【0125】
MPE(%)は、考え得る最大効果の百分率を表し、式
【数1】


に対応する。
【0126】
各生成物についてED50(動物の50%に対して活性な用量)およびAUC(曲線の下側の面積)を計算し、下記の表3(ED50)および表4(AUC)に表わした。
【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
ホットプレート試験に関しては、モルヒネ、M3Et−6G−cya、およびM3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gについて得られた結果を、MPE±S.E.M(%)の群ごとの平均として表示し、図3に示す。
【0130】
各生成物についてED50(動物の50%に対して活性な用量)およびAUC(曲線の下側の面積)を計算し、下記の表5(ED50)および表6(AUC)に表わした。
【0131】
【表5】

【0132】
【表6】

【0133】
結果は、本発明による化合物が、モルヒネが示す鎮痛作用よりも少なくともすぐれた鎮痛作用を有することを示す。実際にこれらのED50は、モルヒネの3.3mg/kgと比べて1.3から2mg/kgの間に含まれる。
【0134】
さらに鎮痛作用の持続時間が、化合物M3Et−6G−cyaおよびM3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gについてはモルヒネよりもずっと長い。実際に本発明による化合物は、モルヒネよりも少なくとも2倍長く留まる。
【0135】
D.マウスにおける腸管運動の検討
D.1 実施方法
目覚めているマウスに強制食餌を1mlシリンジにより栄養管の食道に導入することによって行う。600μlの強制飼養ペースト(特に活性炭から構成される)をゆっくり導入する。強制食餌の30分後、動物を屠殺する。腹壁を切開した後、腸をその長さ全体にわたって露出させる。噴門と直腸の間の間隔および噴門とマーカー最前部の間の間隔を測定(全長)する。
【0136】
ED50でiv注射した後の最高の作用において便秘に及ぼす化合物M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gの影響を測定し、同じ条件下のモルヒネの影響と比較した。
【0137】
患者が数時間のあいだ鎮痛作用を必要とする術後疼痛の臨床的事例により近づくために下記のプロトコルを用いる。すなわち
ED50の2倍の化合物M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gおよびモルヒネを注射する。
【0138】
6時間30分のあいだ最大の無痛覚を維持するために、場合によっては病院のモルヒネポンプによるモルヒネの用量に数時間ごとに影響を与える。その活性は少なくとも6時間のあいだ最大であるので追加用量のM3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gの注射は必要でない。
【0139】
次いで腸管運動をマウスの強制食餌の30分後から投与後6時間まで測定する。
【0140】
二回目の測定を最後のモルヒネ注射の2時間30分後またはM3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gの注射の8時間30分後に行う。最後に、正常な腸管運動への復帰速度を評価するために測定をM3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gの注射の10時間および12時間後に行う。
【0141】
D.2 結果
腸管運動の百分率を、
マーカーの間隔×100/全長
として計算する。
【0142】
データを図4に示す。
【0143】
ED50で注射した後の最大鎮痛効果における化合物M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gとモルヒネの間には腸管運動に関して顕著な違いは見られない(約90%の腸管運動抑制作用)。
【0144】
6時間30分のあいだ最大の無痛覚を維持する場合、腸管運動抑制作用はモルヒネ(82%)と比べて化合物M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gでは低い(52〜56%)。
【0145】
モルヒネで鎮痛作用を最大に維持する場合、腸管運動は完全に停止する。モルヒネ注射を停止すると、鎮痛作用の低下を伴って腸管運動は再開する。
【0146】
化合物M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6Gの場合、腸管運動が減速するだけであり、鎮痛作用は最大のままである。腸管運動速度は、50%の無痛覚の状態で10から12時間の間に正常になる。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A)
【化1】

[式中、置換基Xを除く全体(A)はMR36G−NR−Sと称され、
R1は、線状または分岐した、1個または数個の不飽和部分によって置換された、飽和または不飽和C〜C10アルキル基であり、前記アルキル鎖がO、S、およびNから選択される1個または数個のヘテロ原子によって中断されていてもよく、
R2は、水素、飽和または不飽和の線状または分岐C〜Cアルキル基、あるいはアリール、ヘテロアリール、または(C〜C)アルキルアリール基であり、
R3はY(C=Z)RまたはYR基であり、YおよびZが独立して酸素またはイオウを表し、R3がO−CHでない場合、Rは線状または分岐した飽和または不飽和C〜Cアルキル基であり、
Xは、水素、基−S−R4−W、または基MR36G−NR−Sであり、R4がアミド、エステル、エーテル結合を含んでもよい飽和または不飽和C〜Cアルキル基であり、
Wは、δ受容体アンタゴニストまたはκ受容体アンタゴニストのどちらかである。]
で表される化合物あるいはその薬学的に許容できるいずれかの塩。
【請求項2】
Wがδ受容体アンタゴニストである場合、Wはナルトリンドール、ナルトリベン、7−ベンジリデンナルトレキソン(BNTX)、および7−(5’,6’−ベンゾ−2’−スピロ−インダニル)ナルトレキソン(BSINTX)からなる群から選択され、Wがκ受容体アンタゴニストである場合、Wは5’−グアニジノナルトリンドールおよびノル−ビナルトルフィミン(nor−BNI)からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1が置換アルキルであり、前記置換基が、飽和または不飽和C〜Cアルキル基、アミノ基、COOR5基、CONR5R6基からなる群から選択され、R5およびR6が独立して水素、飽和または不飽和C〜C20アルキル基、アリール、ヘテロアリール、好ましくはC〜C10にアルデヒドおよび/またはケトン官能基を有するC〜C20アルキル基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
R2が置換され、前記置換基が飽和または不飽和C〜Cアルキルであることができる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
基R3中のYおよびZが酸素である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
R3がY(C=Z)Rであり、Rは、好ましくはC〜Cが飽和または不飽和の線状または分岐C〜Cアルキル基である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
R3がYRであり、Rは、好ましくはC〜Cが飽和または不飽和の線状または分岐C〜Cアルキル基である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
R4が、−(CH−C(O)−NH−基または−(CH−NH−C(O)−であり、式中nが1と8の間、好ましくは1と4の間に含まれる整数である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
前記化合物が、
前記R3基が−ORであり、式中Rが特にエチルまたはイソプロピルであり、および/または
R2が水素であり、および/または
R1が線状アルキル−(CH−基であり、および/または
R4が−(CH−C(O)−NH−基であり、および/または
Wがナルトリンドールである、
の1つまたは幾つかの特徴を示す、請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
Xが基−S−R4−Wまたは基MR36G−NR−Sであり、両方の基MR36G−NR−S上の基R1、R2、およびR3が同一であるか、または異なる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
前記化合物が、式(I)、(II)、および(III)
【化2】

(I):M3iPro−6G−cya−cya−M3iPro−6G
【化3】

(II):M3Et−6G−cya−cya−M3Et−6G
【化4】

(III):M3Et−6G−cya−3MP−NTI
からなる群から選択される式を示す、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
薬物としての請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項14】
疼痛の治療用の薬物の調製のために請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物の使用、または請求項13に記載の医薬組成物の使用。
【請求項15】
性機能障害の治療用の薬物の調製のために請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物の使用、または請求項13に記載の医薬組成物の使用。
【請求項16】
疼痛の治療用の請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項17】
性機能障害の治療用の請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2010−505923(P2010−505923A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531887(P2009−531887)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際出願番号】PCT/FR2007/052122
【国際公開番号】WO2008/043962
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(509103668)
【氏名又は名称原語表記】NEORPHYS
【Fターム(参考)】