説明

新規なレポータープラスミド

【課題】TGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドの提供。
【解決手段】レポーター遺伝子の上流に位置するプロモーターのさらに上流に、特定の塩基配列を少なくとも包含する転写調節領域を有してなるTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミド。該TGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドを導入してなる形質転換体。該形質転換体にTGF−βと被験物質を作用させた後、レポーター遺伝子の発現程度を調べ、その結果を指標にして行う、被験物質のTGF−βシグナル応答に対する制御機能の判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドに関する。
【背景技術】
【0002】
TGF−β(Transforming growth factor beta:トランスフォーミング増殖因子β)は、胎仔発生や組織の恒常性を維持するために重要な多機能サイトカインであることは当業者によく知られた事実であるが、そのシグナル伝達に関しては今だ不明な部分も多い。従って、TGF−βシグナルについての研究ツールとしてやTGF−βシグナル応答を制御する物質の探索ツールなどとして、TGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドは有用である。しかしながら、これまでその報告は例えば非特許文献1などわずかしか存在しない。
【非特許文献1】Dennler S., Itoh S., Vivien D., ten Dijke P., Huet S., Gauthier J.-M. Direct binding of Smad3 and Smad4 to critical TGFβ-inducible elements in the promoter of human plasminogenactivator inhibitor-type 1 gene. EMBO J., 17, 3091-3100 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、新規なTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、TGF−βによって発現が誘導される遺伝子として知られているTMEPAI遺伝子(Transmembrane, prostate androgen induced RNA:必要であればItoh S., Thorikay M., Kowanetz M., Moustakas A., Itoh F., Heldin C.-H., ten Dijke P. Elucidation of Smad requirement in transforming growth factor-β type I receptor-induced responses. J. Biol. Chem., 278, 3751-3761 (2003)を参照のこと)の第1イントロン内にTGF−βシグナルで誘導される領域を見出した。
【0005】
上記の知見に基づいてなされた本発明のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドは、請求項1記載の通り、レポーター遺伝子の上流に位置するプロモーターのさらに上流に、配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも包含する転写調節領域を有してなることを特徴とする。
また、本発明の形質転換体は、請求項2記載の通り、請求項1記載のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドを導入してなることを特徴とする。
また、本発明の被験物質のTGF−βシグナル応答に対する制御機能の判定方法は、請求項3記載の通り、請求項2記載の形質転換体にTGF−βと被験物質を作用させた後、レポーター遺伝子の発現程度を調べ、その結果を指標にして行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新規なTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドは、レポーター遺伝子の上流に位置するプロモーターのさらに上流に、配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも包含する転写調節領域を有してなることを特徴とするものである。
【0008】
本発明のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドにおいて、レポーター遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子などの、発光量を検出できるタンパク質を発現するものが挙げられる。
【0009】
本発明のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドにおいて、プロモーターとしては、例えば、SV40、TK、AdMLPなどが挙げられる。
【0010】
本発明のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドにおいて、プロモーターの上流に設けられる転写調節領域を構成する塩基配列としては、例えば、マウスやヒトのTMEPAI遺伝子の第1イントロンの開始から850bpの領域に相当する、配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも包含する塩基配列、具体的にはマウスの(1−847)に相当する配列番号2に記載の塩基配列や(591−847)に相当する配列番号3に記載の塩基配列が挙げられる。
【0011】
本発明のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドは、例えば、市販のレポータープラスミド(例えばプロメガ社のホタルルシフェラーゼレポーターベクターであるpGL3−promoterなど)のプロモーターの上流に設けられたマルチクローニングサイトに所望の転写調節領域を構成する塩基配列を組み込むことによって作製することができる。なお、レポーター遺伝子の発現程度の調節といった必要に応じ、市販のレポータープラスミドのレポーター遺伝子やプロモーターを、他のレポーター遺伝子やプロモーターに置換してもよい。
【0012】
本発明のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドは、例えば、TGF−βシグナルに対して感受性が高いHepG2細胞などの動物細胞に自体公知の方法で導入することができる。本発明のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドが組み込まれた形質転換体は、TGF−βシグナルについての研究ツールとしてやTGF−βシグナル応答を制御する物質の探索ツールなどとして利用することができる。例えば、形質転換体にTGF−βと被験物質を培地中に添加するなどして作用させた後、レポーター遺伝子の発現程度を調べることで、コントロールに比較して発現が促進された場合には被験物質についてTGF−βシグナルを亢進する機能があると判定することができ、コントロールに比較して発現が抑制された場合には被験物質についてTGF−βシグナルを遮断する機能があると判定することができる。この方法を利用すれば、例えば、TGF−βによって発現が誘導される遺伝子として知られているTMEPAI遺伝子の発現を制御する物質を探索することができる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0014】
(TGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドの作製その1)
マウスTMEPAI遺伝子を含むBACベクター(Roswell Park Cancer Institute社が作製したマウスゲノムBACライブラリーを同社がスクリーニングして得られたクローンを同社より購入)を用い、第1イントロンの(1−847)に相当する配列番号2に記載の塩基配列の領域をPCRにより増幅し、塩基配列確認後、pGL3ti(プロメガ社のホタルルシフェラーゼレポーターベクターであるpGL3−basicにAdMLPを組み込んだもの:必要であればJonk L. J. C., Itoh S., Heldin C.-H., ten Dijke P., Kruijer W. Identification and functional characterization of a Smad binding element (SBE) in the Jun B promoter that acts as a transforming growth factorβ, activin and bone morphogeneticprotein-inducible enhancer. J. Biol. Chem., 273, 21145-21152 (1998)を参照のこと)のプロモーターの上流に設けられたマルチクローニングサイトに制限酵素としてNheIとXhoIを用いて組み込み、レポータープラスミド(pGL3ti−int850bp)を作製した。
【0015】
(レポーターアッセイ)
DMEM/10%FCSで培養したHepG2細胞にFugene6(Roche社)を用いてpGL3ti−int850bpを導入した。24時間後に培地をDMEM/0.1%FCSに交換してからTGF−β3を5ng/mLの割合で添加し、16〜20時間、pGL3ti−int850bpを導入したHepG2細胞(形質転換体)を刺激した。その後、細胞溶解剤(プロメガ社のCell Culture Lysis Reagent 5X)を添加し、10分間静置した後、発光基質(プロメガ社のルシフェラーゼ測定用キット)を加え、マニュアルに従って化学発光測定装置(BMG LabTecnologies社のLUMI star)を用いて化学発光量を測定し、pGL3tiを導入したHepG2細胞についての測定結果との相対値でもってpGL3ti−int850bpの転写活性(TGF−βシグナル応答性)を評価した。結果を図1に示す(n=3)。また、図1には、細胞をTGF−β3で刺激しなかった場合の結果と、TGF−β3のかわりにBMP6を25ng/mLの割合で培地に添加して刺激した場合の結果をあわせて示す。図1から明らかなように、マウスTMEPAI遺伝子の第1イントロンの(1−847)にはTGF−βシグナルで誘導される領域(転写調節領域)が内在することがわかった。また、別途の実験により、pGL3ti−int850bpを導入した293細胞では、wntシグナルを活性化するLiClとTGF−βの刺激がなくてもそのシグナル伝達ができるALK5caの存在下で転写活性の相乗効果が見られることがわかった。
【0016】
(TGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドの作製その2)
上記の結果をもとにTGF−βシグナルで誘導される領域を特定すべく、マウスTMEPAI遺伝子の第1イントロンの(1−847)に相当する塩基配列について、(1−447)に相当する配列番号4に記載の塩基配列、(365−604)に相当する配列番号5に記載の塩基配列、(591−847)に相当する配列番号3に記載の塩基配列に分割し、上記と同様にしてそれぞれの塩基配列をpGL3tiに組み込んでレポータープラスミドを作製した後、HepG2細胞に導入し、レポータープラスミドの転写活性を評価した。結果を図2に示す(n=3)。図2において、pGL3ti−intFは(1−447)に相当する塩基配列を組み込んだレポータープラスミド、pGL3ti−intMは(365−604)に相当する塩基配列を組み込んだレポータープラスミド、pGL3ti−intBは(591−847)に相当する塩基配列を組み込んだレポータープラスミドを表す。図2から明らかなように、pGL3ti−intBのみがpGL3ti−int850bpと同様の転写活性を有していたことから、TGF−βシグナルで誘導される領域は(591−847)に内在することがわかった。
【0017】
(TGF−βシグナルで誘導される領域の特定)
上記の結果をもとにマウスとヒトで保存されている(814−822)の塩基配列(配列番号1)にQuickChange点変異導入キット(STRATAGENE社)を用いて点変異を加え(GTCgggtTT:小文字は変異導入塩基)、上記と同様にして(591−847)に相当する塩基配列を組み込んだpGL3ti−intBに対応するpGL3ti−intB(TCF4mut)を作製した後、HepG2細胞に導入し、レポータープラスミドの転写活性を評価した。結果を図3に示す(n=3)。図3から明らかなように、(814−822)に相当する塩基配列に点変異を加えて作製したpGL3ti−intB(TCF4mut)は転写活性を有していなかったことから、(814−822)がTGF−βシグナルで誘導される領域であることがわかった。
【0018】
(TGF−βシグナルで誘導される領域に対するTCF4の作用)
pGL3ti−intBを導入したHepG2細胞とpGL3ti−intB(TCF4mut)を導入したHepG2細胞のそれぞれに0.3μgのTCF4発現ベクターをさらに導入して40時間培養した後、細胞を溶解し、上記と同様にして化学発光量を測定することで転写活性を評価した。結果を図4に示す。図4から明らかなように、pGL3ti−intBが有していた転写活性をpGL3ti−intB(TCF4mut)は有していなかったことから、(814−822)はTCF4の結合サイトであることがわかった。また、上記の結果の通り、(814−822)はTGF−βシグナルで誘導される領域であり、別途の実験により、pGL3ti−int850bpを導入したHepG2細胞をTGF−βで刺激するとともに細胞内でTCF4を発現させると転写活性に相乗効果が見られ、TCF4を発現させるかわりにそのドミナントネガティブ変異体(TCF4(Δ1−30))を発現させると転写活性が喪失することから、TGF−βシグナルは(814−822)に結合したTCF4を介して伝達されることがわかった。よって、本発明のレポータープラスミドが有するTGF−βシグナル応答性はTCF4を介したものであり、本発明のレポータープラスミドはTCF4を介したTGF−βシグナル応答を制御する物質の探索に有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、新規なTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドを提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例におけるpGL3ti−int850bpの転写活性を示すグラフである。
【図2】同、TGF−βシグナルで誘導される領域がTMEPAI遺伝子の第1イントロンの(591−847)に内在することを示すグラフである(pGL3ti−intB)。
【図3】同、(814−822)がTGF−βシグナルで誘導される領域であることを示すグラフである。
【図4】同、(814−822)がTCF4の結合サイトであることを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レポーター遺伝子の上流に位置するプロモーターのさらに上流に、配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも包含する転写調節領域を有してなることを特徴とするTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミド。
【請求項2】
請求項1記載のTGF−βシグナル応答性を有するレポータープラスミドを導入してなることを特徴とする形質転換体。
【請求項3】
請求項2記載の形質転換体にTGF−βと被験物質を作用させた後、レポーター遺伝子の発現程度を調べ、その結果を指標にして行うことを特徴とする被験物質のTGF−βシグナル応答に対する制御機能の判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−89611(P2009−89611A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260613(P2007−260613)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】