説明

新規な多価免疫グロブリン

【課題】細胞標的多価免疫グロブリンの設計を可能にするモジュール式システムを提供すること。
【解決手段】細胞表面分子に対する更なる結合を提供するために修飾された構造ループを介して細胞表面タンパク質と結合する、免疫グロブリンドメインの提供に関する。それにより、細胞表面受容体の架橋が可能となる。また、多価免疫グロブリン又はその結合部分の提供に関する。それらは詳細には、前記免疫グロブリンの少なくとも1つの構造ループ領域中に少なくとも1つの修飾を有し、単一の細胞中の少なくとも2つの細胞表面分子と特異的に結合し、単一の細胞上に位置するか又は同種の細胞集団内に存在する、前記細胞表面分子のエピトープ(抗原性特性に関与する構造を含む)に対する結合性を決定し、未修飾の免疫グロブリンは前記エピトープと顕著に結合しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の細胞の少なくとも2つの細胞表面分子と特異的に結合する、多価免疫グロブリン又はその一部の提供に関する。詳細には、前記免疫グロブリンの少なくとも1つの構造ループ領域中に少なくとも1つの修飾を有し、前記細胞表面分子のエピトープに対する結合を決定し、未修飾の免疫グロブリンは、前記エピトープと顕著に結合しない。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、治療用途、診断用途及び分析用途など、様々な用途に利用されている。
【0003】
抗体の基本的な構造について、例として完全IgG1免疫グロブリンを用いて、以下に説明する。同一の2つの重鎖(H)及び同一の2つの軽鎖(L)が結合し、Y字形の抗体分子を形成する。重鎖は各々4つのドメインを有する。アミノ末端可変ドメイン(VH)はY字の先端部に存在する。これに続く形で、Y字のステム側に、3つの定常ドメインが存在する(CH1、CH2、及びカルボキシ末端側のCH3)。短いストレッチ(スイッチ)が、重鎖可変領域と定常領域を連結する。ヒンジ部が、CH2及びCH3(Fc断片)を、抗体の残りの部分(Fab断片)と連結する。完全抗体分子のヒンジ部のタンパク質を分解させることにより、1つのFc及び2つの同一のFab断片を生じさせることができる。軽鎖は2つのドメインから構成され(可変部(VL)及び定常部(CL))、スイッチにより分離されている。
【0004】
ヒンジ領域のジスルフィド結合により、2つの重鎖が連結される。更なるジスルフィド結合によって、軽鎖が重鎖に連結される。Asnに結合された炭水化物部分は、免疫グロブリンの種類に応じて定常ドメイン中の異なる位置に結合する。IgG1の場合、ヒンジ領域中の2つのジスルフィド結合が、Cys235及びCys238のペアにおいて、2つの重鎖を結合させる。軽鎖は、CH1ドメインのCys229及びCLドメインのCys214との間の、2つの更なるジスルフィド結合によって重鎖に連結する。炭水化物部分は各CH2のAsn306に結合し、Yのステム部分を顕著に膨張させる。
【0005】
これらの特徴により、重要な機能が生じる。Yの「先端」部に、重鎖及び軽鎖の可変領域(VH及びVL)が存在し、それらが抗原と反応するために配置されている。この分子の先端は、アミノ酸配列のN末端が位置する側である。Yのステム部分はいくらか突出しており、能率的にエフェクター機能を媒介する(例えば補体の活性化、及びFc受容体、又はADCC及びADCPとの相互作用)。そのCH2及びCH3ドメインは、エフェクタータンパク質との相互作用を促進するために膨張する。アミノ酸配列におけるC末端は先端とは反対側に位置し、Yの「ボトム部」と称される。
【0006】
2種類の軽鎖(ラムダ(λ)及びカッパ(κ)と称される)が抗体中に存在する。一定の免疫グロブリンでは、κ鎖又はλ鎖の両方(いずれか1つでない)を有する。λ又はκ軽鎖を有する抗体との間の機能的な相違は、明らかとされていない。
【0007】
抗体分子中の各ドメインは、コーンプレス型の逆平行βバレル構造中に、各々強固にパックされた、2つのβシートからなる同様の構造を有する。この保存された構造は、免疫グロブリンフォールディング構造と称される。定常ドメインにおける免疫グロブリンフォールディング構造は、4鎖シートに対してパックされた3鎖シートを有する。上記のフォールディング構造は、各シートのβ鎖間の水素結合によって、内部の逆向きシートの残基間の疎水性結合によって、及びシート間のジスルフィド結合によって安定化されている。3鎖のシートは、鎖C、F及びGを有し、4鎖のシートは鎖A、B、E及びDを有する。AからGの文字は、免疫グロブリンフォールディング構造のアミノ酸配列に沿った、β鎖中の連続的な位置のことを意味する。
【0008】
可変ドメイン中のフォールディング構造は、4鎖及び5鎖の2つのシート中に整列された、9つのβ鎖を有する。5鎖シートは、構造的に定常ドメインの3鎖シートに対応するが、余分のC鎖及びC’鎖を有する。残りの鎖(A、B、C、D、E、F、G)は、定常ドメインの免疫グロブリンフォールディング構造中のそれらの対応する鎖と同じトポロジー及び類似の構造を有する。定常ドメインの場合と同様、ジスルフィド結合は逆向きシート中のB鎖とF鎖を連結する。
【0009】
免疫グロブリン中の軽鎖及び重鎖の可変ドメインは、3つの超可変ループ又は相補性決定領域(CDRs)を有する。Vドメイン中の3つのCDRs(CDR1、CDR2、CDR3)は、βバレルの一端でクラスターを形成する。CDRsは、免疫グロブリンフォールディング構造中のβ鎖B−C、C−C’1及びF−Gを連結するループである。CDRs中の残基は各免疫グロブリン分子間で様々に異なり、抗原特異性を各抗体に与える。
【0010】
抗体分子の先端のVL及びVHドメインは密接にパックされ、6つのCDRs(各ドメイン3つずつ)が集まり、その結果、抗原との特異的な結合を可能にする表面(又は空腔)を形成する。天然における抗体の抗原結合部位はすなわち、軽鎖可変ドメインのB−C、C−C’’及びF−G鎖を連結するループ、並びに重鎖可変ドメインのB−C、C−C’’及びF−G鎖を連結するループから構成される。
【0011】
天然の免疫グロブリンのCDRループでないループ、又はCDRループによって定まる抗原結合ポケットの一部でないループは、抗原結合又はエピトープ結合特異性を有しない。しかしながら、免疫グロブリン分子全体の正しいフォールディング、及び/又はそのエフェクター機能若しくはその他の機能に貢献し、それゆえ、本発明においては構造ループと称される。従来技術では、免疫グロブリン様の足場が既存の抗原結合部位を操作するためにこれまで使用され、それにより新規な結合特性を生じさせることを報告する。しかしながら、従来ではCDR領域のみが抗原結合のために設計され、換言すれば、免疫グロブリンフォールディング構造の場合、天然の抗原結合部位のみが、その結合親和性又は特異性を変化させるために修飾されていた。報告されているほとんどの文献では、この種の操作された免疫グロブリン(単鎖Fv断片(scFv)又はFab断片の形で発現される)の異なるフォーマットに関して記載しており、いずれもファージ粒子の表面にディスプレイされるか又は様々な原核若しくは真核生物の発現システムにおいて可溶性で発現される。
【0012】
特許文献1(国際出願第PCT/EP2006/050059号)では、構造ループ領域中を修飾免疫グロブリンの設計方法が記載され、それにより新規な抗原結合部位を形成させている。この方法は免疫グロブリンに広く適用でき、様々な抗原を標的とする、免疫グロブリンのシリーズを作製する用途に使用できる。しかしながら細胞表面の標的に対する多価結合体は明確に記載されていない。
【0013】
特許文献2(米国特許出願公開第2005/266000A1号)では、変異型の重鎖可変フレームワークドメイン(VFR)を有するポリペプチドを記載する。VFRは抗原結合ポケット又は溝の一部であり、抗原と接触できる。VFRはCDRループ領域の一部であって、CDRループの側部の可変ドメインに位置し、CDRループ領域を介して抗原結合を支持する機能を有する。VFR以外のフレームワークループは、抗原結合部位の設計上の理由から変異を有していない。
【0014】
ヒトの癌に関連する細胞表面タンパク質は、単クローン治療のための有効な標的であると考えられる。抗体は、細胞活性化の調整、又は免疫系の補充により、抗腫瘍反応を誘発しうる。若干のmAbsは標的の架橋結合によってそれらの効果の一部を発揮するが、それにより標的のクラスターを形成し、その結果、細胞シグナルの活性化、阻害又は増幅を生じさせ、最後に細胞周期の停止及び/又は細胞標的のアポトーシスに至らしめる。
【0015】
リンパ腫細胞系上でほとんど固有の抗増殖活性を有しない若干のMAbs(抗CD19、CD20、CD21及びCD22抗体)は、それらを四価のホモ二量体として用いることにより、強力な制癌剤に変換されうることが明らかになっている。これらの活性は、エフェクター細胞及び/又は補体の補充によってin vivoで強化されると考えられる。治療用mAbsの場合に使用する他のストラテジーとしては、細胞障害剤をmAbとカップリングすることが挙げられる。かかるイムノトキシンは細胞表面の標的と結合し、内部移行し、更に細胞を殺傷する薬剤を放出させることができる。内部移行の条件としての標的クラスター形成が必要であると考えられる。
【0016】
標的分子のクラスタリングを通じて効果を及ぼすmAbsの効力を強化するため、様々な多価Abフォーマットがデザインされている。全長IgGの分泌テール部において共有結合させ、重合型のIgM及びIgAに類似する、四価の抗体分子及び天然のIgM及びIgG抗体が考案されている。また、全長のIgGの各H鎖のC末端に、Fabを追加することにより、他の四価のフォーマットを設計した例も存在する。
【0017】
腫瘍細胞への浸透性を改善するため、単鎖Fv(ScFv)2断片(各Fvは、ペプチドリンカーにより連結された軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインからなる)を使用した小型の構造を結合させ、多価複合体を形成させた例も存在する。かかる構造体は比較的短い半減期(全長のmAbsと比較し)であるため、これらのscFv多量体をIgG Fc断片と結合させる対処法が施されている。scFv及びそれと同様のフォーマットでは、正確な多量体化度での形成を制御することは困難である。すなわち、二量体、三量体、四量体及び多価複合体の形成比率は、その基本的な構造及び発現方法に応じて多様に変化しうる。
【0018】
多価免疫グロブリンを産生するための周知のフォーマットのいずれも、固有の欠点を有し、それにより免疫原性、in vivo半減期又は調製に関する問題点を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際出願第PCT/EP2006/050059号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/266000A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記のニーズに鑑み、従来技術に存在する課題を解決するため、本発明では、細胞標的多価免疫グロブリンの設計を可能にするモジュール式システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、細胞表面分子に対する更なる結合を提供するために修飾された構造ループを介して細胞表面タンパク質と結合する、免疫グロブリンドメインの提供に関し、それにより、細胞表面受容体の架橋を可能にしている。
【0022】
本発明は、多価免疫グロブリン又はその結合部分の提供に関する。それらは詳細には、前記免疫グロブリンの少なくとも1つの構造ループ領域中に少なくとも1つの修飾を有し、単一の細胞中の少なくとも2つの細胞表面分子と特異的に結合し、単一の細胞上に位置するか又は同種の細胞集団内に存在する、前記細胞表面分子のエピトープ(抗原性特性に関与する構造を含む)に対する結合性を決定し、未修飾の免疫グロブリンは前記エピトープと顕著に結合しない。
【0023】
本発明に係る多価免疫グロブリンは、1つ以上の修飾免疫グロブリンと、又は未修飾の免疫グロブリン又はその部分と更に結合してもよく、それにより組み合わせ免疫グロブリンが得られる。
【0024】
好ましくは、構造ループ領域に関するヌクレオチド又はアミノ酸配列中の修飾は、欠失、置換、挿入、又はそれらの組み合わせである。
【0025】
本発明はまた、本発明の免疫グロブリン又はその一部をコードする核酸、並びに、以下のステップを有してなる、本発明に係る多価免疫グロブリンを設計する方法の提供に関する:
− 少なくとも1つの構造ループ領域を含んでなる免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、
− 前記構造ループ領域内の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
− 発現システム中に上記の修飾された核酸を移すステップと、
− 前記多価免疫グロブリンを発現させるステップと、
− 上記で発現された、多価免疫グロブリンをエピトープと接触させ、前記多価免疫グロブリンが前記エピトープと結合するかどうかを測定するステップ。
【0026】
更に、例えば腫瘍細胞及び病原感染した細胞の治療などに用いられる、治療用薬剤の調製への、本発明に係る多価免疫グロブリンの使用の提供に関する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る修飾免疫グロブリンドメインを、そのまま使用するか、又は、全長抗体、Fab、単鎖Fvs、Fab2、低分子抗体などの様々な周知の抗体フォーマット中に組み込んで、細胞表面エピトープ又は受容体に対する更なる結合部位を提供することができる。
【0028】
具体的には本発明は、抗原のエピトープに特異的に結合する免疫グロブリンの設計方法に関する。構造ループ領域中を修飾することにより、免疫グロブリンの、エピトープとの結合性を適宜設計することができる。好ましい実施形態では、当該免疫グロブリンは、各々異なり、かつ、同じ抗原若しくは異なる抗原に由来するか若しくは擬態する、2つのエピトープと特異的に結合する。
【0029】
例えば、本発明は免疫グロブリンを設計する方法に関する。当該免疫グロブリンは、少なくとも1つの第1のエピトープに対して特異的に結合し、前記免疫グロブリン中の少なくとも1つの構造ループ領域中に少なくとも1つの修飾を有してなり、前記少なくとも1つのループ領域と、少なくとも1つの第2のエピトープとの特異的な結合を決定し、詳細には未修飾の構造ループ領域(非CDRドメイン)は前記少なくとも1つの第2のエピトープと特異的に結合しないことを特徴とする。上記方法は、以下のステップからなる:
− 少なくとも1つの第1のエピトープに特異的に結合し、少なくとも1つの構造ループ領域を有する免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、
− 前記核酸によってコードされる少なくとも1つの前記ループ領域の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
− 前記修飾された核酸を発現システム中に移すステップと、
− 前記修飾免疫グロブリンを発現させるステップと、
− 前記少なくとも1つの第2のエピトープと、発現された前記修飾免疫グロブリンとを接触させるステップと、
− 前記修飾免疫グロブリンが第2のエピトープと特異的に結合するか否かを測定するステップ。
【0030】
本発明に係る方法の特徴としては、好ましくは、前記免疫グロブリンの少なくとも1つの構造ループ領域に少なくとも1つの修飾を行い、それにより細胞表面抗原からなる群から選択される少なくとも1つの分子に対する、前記少なくとも1つのループ領域の特異的な結合が決定され、未修飾の構造ループ領域を有する免疫グロブリンが、前記少なくとも1つの分子と特異的に結合しないことである。
【0031】
本明細書で用いられる用語「免疫グロブリン」とは、免疫グロブリン、又は免疫グロブリンの部分若しくは断片若しくは誘導体のことを指す。すなわち、本発明により修飾される「免疫グロブリンドメインペプチド」(本明細書では、用語「免疫グロブリン」と「抗体」が同義的に用いられる)、並びに、構造ループを有する免疫グロブリン又はそのドメイン若しくは部分、又はかかるドメインの構造ループ(例えばミニドメイン)が包含される。上記免疫グロブリンは、単離されたペプチドとして、又は他のペプチドとの組み合わせ分子として使用できる。場合によっては、単離された分子として、結合又は組み合わせを目的として、特定の修飾された構造ループ若しくは構造ループ領域、又はその部分を使用することが好ましい。「免疫グロブリンドメイン」とは、本明細書では、修飾及び設計により、特異的な結合特性を有しうる免疫グロブリンドメインペプチド又はポリペプチドを包含するものとして、定義される。上記ペプチドは、免疫グロブリンドメイン配列に相応し、好ましくは少なくとも5アミノ酸長、好ましくは少なくとも10、又は少なくとも50若しくは100アミノ酸長であり、少なくとも構造ループ又は構造ループ領域を部分的に構成するか、あるいは当該ドメイン中の非CDRループ領域を構成する。上記ペプチドは好ましくは、機能を有さないアミノ酸、ハイブリッド若しくはキメラCDR−領域、又はCDR様領域、及び/又はCDR領域の標準的な構造と考えられる挿入物が除外される。上記結合特性は、特異的なエピトープ結合、親和性及び結合活性(アビディティ)に関連する特性である。
【0032】
本発明に係る免疫グロブリンの誘導体は、本発明の1つ以上の免疫グロブリン及び/又は融合タンパク質のあらゆる組み合わせであり、詳細には、本発明に係る免疫グロブリンのドメイン又はミニドメインは、他の1つ以上のタンパク質(例えば他の免疫グロブリン、リガンド、足場タンパク質、酵素、毒素など)の任意の部位において融合させてもよい。本発明の免疫グロブリンの誘導体はまた、組換え技術又は様々な化学的方法(例えば共有結合、静電的な相互作用、ジスルフィド結合など)によって、他の物質と結合させることにより調製できる。
【0033】
免疫グロブリンに結合する他の物質は、脂質、炭水化物、核酸、有機及び無機分子(例えばPEG、プロドラッグ又は薬剤)、又はそれらの任意の組み合わせでもよい。誘導体とは、同じアミノ酸配列を有するが、全部又は部分的に、非天然の又は化学的に合成したアミノ酸で修飾免疫グロブリンである。
【0034】
本発明に係る設計された分子は、同様にそれ単独のタンパク質としても有用であるが、融合タンパク質又は誘導体としても有用であり、典型的には、大きな抗体構造体又は全長抗体分子の一部として融合してもよく、又は、その一部(例えばFab断片、Fc断片、Fv断片など)であってもよい。二重特異的、三重特異的な分子、あるいは同時により多くの特異性を有する分子の作製を目的として、設計されたタンパク質を使用することができ、それにより、かかる分子の所望の使用条件に従って、同時に結合の多重性を制御し、あらかじめ選択することが可能となる。
【0035】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのループ領域を有する免疫グロブリンに関し、詳細には、前記少なくとも1つのループ領域が、少なくとも1つのアミノ酸修飾からなる少なくとも1つの修飾されたループ領域を形成し、前記少なくとも1つの修飾されたループ領域が、抗原中の少なくとも1つのエピトープと特異的に結合する。
【0036】
少なくとも1つの修飾された抗体ドメイン(非可変的な配列又は構造ループを介して特定のパートナーと結合する)と、少なくとも1つの他の結合分子(抗体、抗体断片、可溶性の受容体、リガンド若しくは他の修飾された抗体ドメインであってもよい)を結合させた分子であるのが好ましい。
【0037】
本発明に係る免疫グロブリンによって特異的に認識される結合ペアの一部として機能する分子は、好ましくはタンパク性分子、核酸分子及び炭水化物からなる群から選択される。
【0038】
修飾免疫グロブリンのループ領域は、特に抗原、タンパク性分子、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、グリカン、炭水化物、脂質、小さい有機分子、無機分子、又はその組み合わせ又は融合物など、あらゆる種類の結合分子又は構造とも特異的に結合できる。もちろん、上記修飾免疫グロブリンは、少なくとも2つのループ又はループ領域を有してもよく、それにより、当該ループ又はループ領域の各々が異なる分子又はエピトープと特異的に結合することができる。
【0039】
本発明では、各種の細胞表面抗原に対する抗原結合ドメイン又は抗原結合部位は、ある特定の抗体構造中の構造ループに導入されてもよい。
【0040】
本発明に係る用語「抗原」とは、免疫グロブリンのCDRループ領域と相互作用するか又は相互作用できることが公知である、分子又は構造のことを意味する。天然抗体に係る従来公知の構造ループ領域は、抗原と相互作用せず、むしろ全体的な構造維持、及び/又はエフェクター分子に対する結合に関与するものである。本発明に係る設計を行うことにより、初めて、当該構造ループは、CDRループ又はCDR領域とは無関係に抗原結合ポケットを形成できる。
【0041】
本発明に係る用語「細胞表面抗原」には、細胞表面上に存在する、抗体構造によって認識されうる全ての抗原、並びにかかる分子の断片が包含される。好適な「細胞表面抗原」とは、免疫学的又は治療的に有用である、又は有用でありうると証明されている抗原であり、特にかかる有用性が前臨床的若しくは臨床的に試験されている抗原のことを指す。それらの細胞表面分子は本発明において特異的な有用性を発揮し、細胞を殺傷する活性を示す。本発明に係る免疫グロブリンの、それらの細胞の少なくとも2つの表面分子に対する結合により、免疫系が細胞崩壊又は細胞死を生じさせ、それにより、ヒト細胞を攻撃するための有力な手段の提供が可能となる。
【0042】
好ましくは、上記抗原は細胞表面抗原(受容体を含む)から選択され、特に、erbB受容体チロシンキナーゼ、(限定されないがEGFR、HER2、HER3及びHER4など)、TNF−受容体スーパーファミリー分子(例えばApo−1受容体、TNFR1、TNFR2)、神経成長因子受容体NGFR、CD40、T細胞表面分子、T細胞受容体、T細胞抗原OX40、TACI−受容体、BCMA、Apo−3、DR4、DR5、DR6おとり受容体(限定されないがDcR1、DcR2、CAR1、HVEM、GITR、ZTNFR−5、NTR−I、TNFL1など)、B細胞表面抗原(例えばCD10、CD19、CD20、CD21、CD22)、抗原又は固形腫瘍又は血液癌細胞マーカー、リンパ腫又は白血病細胞、血小板などの他の血球などが挙げられる。
【0043】
更なる好ましい実施形態では、上記抗原又は修飾された構造ループ領域に結合する分子は、以下からなる群から選択される:腫瘍関連の抗原、特にEpCAM、腫瘍関連グリコプロテイン−72(TAG−72)腫瘍関連の抗原CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、高分子量黒色腫関連抗原(HMW−MAA)、ルイスY関連炭水化物を発現する腫瘍関連抗原、癌胚抗原(CEA)、CEACAM5、HMFG PEM、ムチンMUC1、MUC18及びサイトケラチン腫瘍関連抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、アレルゲン、アレルギー関連分子IgE、cKIT及びFc−ε−受容体1、IRp60、IL−5受容体、CCR3、赤血球受容体(CR1)、ヒト血清アルブミン、マウス血清アルブミン、ネズミ血清アルブミン、新生児Fc−γ−受容体FcRn、Fc−γ−受容体Fc−γRI、Fc−γ−RII、Fc−γRIII、Fc−α受容体、Fc−ε−受容体、フルオレセイン、リゾチーム、Toll様受容体9、エリトロポイエチン、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD11、CD11a、CD14、CD16、CD18、CD19、CD20、CD22、CD23、CD25、CD28、CD29、CD30、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD38、CD40、CD40L、CD52、CD54、CD56、CD64、CD80、CD147、GD3、IL−1、IL−1R、IL−2、IL−2R、IL−4、IL−5、IL−6、IL−6R、IL−8、IL−12、IL−15、IL−17、IL−18、IL−23、LIF、OSM、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、TNF−α、TNFβ2、TNFα、TNFαβ、TNF−R1、TNF−RII、FasL、CD27L、CD30L、4−1BBL、TRAIL、RANKL、TWEAK、APRIL、BAFF、LIGHT、VEG1、OX40L、TRAIL受容体−1、A1アデノシン受容体、リンホトキシンΒ受容体、TACI、BAFF−R、EPO、LFA−3、ICAM−1、ICAM−3、インテグリンβ1、インテグリンβ2、インテグリンα4/β7、インテグリンα2、インテグリンα3、インテグリンα4、インテグリンα5、インテグリンα6、インテグリンαv、αVβ3インテグリン、FGFR−3、ケラチン生成細胞成長因子、GM−CSF、M−CSF、RANKL、VLA−1、VLA−4、L−セレクチン、抗−Id、E−セレクチン、HLA、HLA−DR、CTLA−4、T細胞受容体、B7−1、B7−2、VNRインテグリン、TGFβ1、TGFβ2、エオタキシン1、BLyS(B−リンパ球刺激因子)、補体C5、IgE、IgA、IgD、IgM、IgG、因子VII、CBL、NCA90、EGFR(ErbB−1)、Her2/neu(ErbB−2)、Her3(ErbB−3)、Her4(ErbB4)、組織因子、VEGF、VEGFR、エンドセリン受容体、VLA−4、炭水化物(例えば血液型抗原及び関連する炭水化物)、Galiliグリコシル化、ガストリン、ガストリン受容体、腫瘍関連炭水化物、ハプテンNP−キャップ又はNIP−キャップ、T細胞受容体α/β、Eセレクチン、P糖タンパク質、MRP3、MRP5、グルタチオン−S−転移酵素π(多剤耐性タンパク質)、α−顆粒膜タンパク質(GMP)140、ジゴキシン、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)及び精巣PLAP様アルカリホスファターゼ、トランスフェリン受容体、ヘパラナーゼI、ヒト心臓ミオシン、グリコプロテインIIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)gHエンベロープグリコプロテイン、HIV gp120、HCMV、呼吸系発疹ウイルスRSV F、RSVF Fgp、VNRインテグリン、HepB gp120、CMV、gpIIbIIIa、HIV IHB gp120 V3ループ、RSウイルス(RSV)Fgp、ヘルペスシンプレックスウイルス(HSV)gDグリコプロテイン、HSV gBグリコプロテイン、HCMV gBエンベロープグリコプロテイン、ウェルシュ菌毒素、並びにそれらの断片。
【0044】
抗原のサブ構造は「エピトープ」(例えばB細胞エピトープ、T細胞エピトープ)と一般に称さるが、ただしそれらが免疫学的に同等である(すなわち、天然抗体若しくはモノクローナル抗体により認識される)ことを条件とする。本発明に係る用語「エピトープ」とは、本発明の免疫グロブリンの結合ドメインとの、特異的な結合パートナー又は特異的な結合パートナーの一部を完全に形成できる分子構造のことを意味する。
【0045】
エピトープは、炭水化物、ペプチド、脂肪酸、無機物質若しくはその誘導体、並びにそれらの任意の組み合わせから化学的に調製してもよく、それらに由来してもよい。エピトープがペプチド又はポリペプチドである場合、通常少なくとも3アミノ酸、好ましくは8〜50アミノ酸、より好ましくは約10〜20アミノ酸からなるペプチドである。特にペプチド長に関して上限はなく、ほとんどポリペプチド配列の全長であってもよい。エピトープは、直鎖状であってもよく、高次構造を有するエピトープであってもよい。直鎖状のエピトープは、ポリペプチド鎖の一次配列の単一セグメントからなる。直鎖状エピトープは隣接若しくは重複していてもよい。高次構造を有するエピトープは、ポリペプチドのフォールディングによる三次構造を形成するアミノ酸からなり、当該アミノ酸は、直鎖状配列中で必ずしも互いに隣接する必要はない。
【0046】
具体的には、エピトープは診断にとり有用な分子の少なくとも一部である(すなわち、サンプル中のエピトープの不在又は存在が、質的又は量的に、疾患若しくは健康状態、製造プロセス中の状況、又は環境及び食品の状況と対応する)。エピトープは、治療にとり有用な分子の少なくとも一部でもよい(すなわち、特異的結合ドメインの標的となり、疾患の過程を変化させる)。
【0047】
好ましくは、構造ループ中の新規な抗原結合部位は、免疫グロブリン配列(ヌクレオチド配列)中の1つ以上の要素の置換、欠失及び/又は挿入によって導入することができる。
【0048】
他の本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つのヌクレオチドの修飾により、前記核酸によってコードされる免疫グロブリンのアミノ酸配列の置換、欠失及び/又は挿入が生じる。少なくとも1つのループ領域の修飾により、1つ以上のヌクレオチド又はアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入(好ましくは点突発変異)が生じてもよく、又は全ループ、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15(30以下)のアミノ酸が交換されてもよい。それにより、かかる修飾された配列は、構造ループ中の保存されたドメイン中に元々含まれないアミノ酸を有してなり、新規に導入されたアミノ酸は天然に生じるが修飾部位においては外来アミノ酸であるか、又は天然に存在するアミノ酸を置換するものとなる。上記外来アミノ酸が特定のアミノ酸のグループ(例えば特定の極性又は疎水性を有するアミノ酸)から選択される場合、本発明の方法によって、ランダムな位置で上記の特定のアミノ酸グループでリッチにされたライブラリを得ることができる。かかるライブラリは、「フォーカスド」ライブラリとも称される。
【0049】
ランダムに修飾された核酸分子は、本願明細書で定義する繰り返し単位(全ての周知の天然アミノ酸又はそのサブセットをコードする)を有してもよい。修飾された配列を含むライブラリ(アミノ酸の特定のサブセットが修飾のために用いられている)は、「フォーカスド」ライブラリと称される。かかるライブラリのメンバーは、当該修飾部位において当該サブセットのアミノ酸を有する確率が高い(少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、又は少なくとも4倍高い)。かかるライブラリはまた、ライブラリのメンバーを少ない数で有してもよく、その結果、実際のライブラリメンバーの数は、理論的なライブラリメンバーの数に達する。場合によっては、フォーカスドライブラリのライブラリメンバーの数は、理論的な番号の103倍以上、好ましくは102倍以上、最も好ましくは少なくとも10倍以上である。
【0050】
本発明に係るライブラリは、特異的なフォーマットを、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%で有するか、又は特異的な抗体フォーマットを主な要素として有する専用のライブラリとして設計してもよい。特異的な抗体フォーマットの使用が好適であり、本発明に係る好適なライブラリとしては、VHライブラリ、VHHライブラリ、Vκライブラリ、Vλライブラリ、Fabライブラリ、CH1/CLライブラリ及びCH3ライブラリからなる群から選択される。複数の抗体ドメイン、例えばIgGライブラリ又はFcライブラリを含む複合分子を含んでなることを特徴とするライブラリが特に好ましい。他の好適なライブラリは、T細胞受容体を含有し、T−細胞受容体ライブラリを形成するそれらである。更に好適なライブラリはエピトープライブラリであり、上記融合タンパク質は変異エピトープを有する分子を含んでなり、また、類似する結合性を有するが機能が異なる競争分子の選抜を可能にする。典型的にはTNFαライブラリであり、TNFα融合タンパク質の三量体が単一の遺伝子パッケージにより発現する。
【0051】
しかしながら、免疫グロブリンのループ領域に挿入されるアミノ酸の最大数は好ましくは30以下であり、好ましくは25、より好ましくは20アミノ酸以下である。アミノ酸の置換及び挿入は好ましくは、公知技術及び本特許出願にて開示する方法により、全ての可能なアミノ酸、又はランダム化にとり好適なアミノ酸を選択して用い、ランダム若しくはセミランダムに行う。
【0052】
上記修飾部位は、特異的な単一の構造ループ又は構造ループ領域であってもよい。ループ領域は通常、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ又は少なくとも4つのループから構成され、それらは各々隣接し、抗原結合部位又は抗原結合ポケットを形成することにより抗原の結合に関与できる。1つ以上の修飾部位は、10アミノ酸、好ましくは20、30、40、50、60、70、80、90〜100アミノ酸の範囲内で、特に構造領域内に存在し、表面又はポケットを形成し、その位置において抗原が当該ループ領域に立体的にアクセスできる。
【0053】
上記少なくとも1つのループ領域は、好ましくはランダム、セミランダム、又は特に部位特異的なランダム突然変異導入によって変異又は修飾がなされているのが好ましく、それにより得られるライブラリに欠失、置換若しくはランダムな挿入が構造ループ内に付与される。あるいは好適な方法を適宜組み合わせてもよい。あらゆる周知の突然変異導入方法を使用できるが、中でもカセット突然変異導入が好ましい。これらの方法は、本発明の免疫グロブリンの所望の位置でアミノ酸修飾を行うために使用できる。若干の場合において、例えば、いずれかの変異可能なアミノ酸、好適なアミノ酸をランダムに適宜選択してループ配列をランダム化してもよく、あるいは、簡便な規則を使用してアミノ酸変異を導入する。例えば、全ての残基を特定のアミノ酸(例えばアラニン、アミノ酸若しくはアラニンスキャンと呼ばれる)に変異させるのが好ましい。かかる方法を、より高いレベルでの配列多様性をスクリーニングするための選抜方法を採用する、より高度なエンジニアリング方法と組み合わせてもよい。
【0054】
本発明に係る好適な方法は、免疫グロブリン、免疫グロブリンドメイン又はその一部をコードする、ランダムに修飾された核酸分子を用いる方法であり、当該分子は、配列5’−NNS−3’、5’−NNN−3’、5’−NNB−3’又は5’−NNK−3’を有し、構造ループをコードする領域内の、少なくとも1つのヌクレオチド反復ユニットを有してなる。若干の実施形態では、上記修飾された核酸は、TMT、WMT、BMT、RMC、RMG、MRT、SRC、KMT、RST、YMT、MKC、RSA、RRC、NNK、NNN、NNS又はいかなるそれらの組み合わせ(そのコードはIUPACによる)からなる群から選択されるヌクレオチドコドンを有してなる。
【0055】
核酸分子の修飾は、核酸のより大きな部分に合成オリゴヌクレオチドを導入すること、又は、完全な核酸分子のde novo合成によって実施できる。核酸の合成はトリヌクレオチドのビルディングブロックを用いて実施でき、それにより、アミノ酸のサブセットがコードされる場合、ナンセンス配列が組合わされる数を減少させることができる(例えばYanezら、Nucleic Acids Res.(2004)32:el58、
Virnekasら、ucleic Acids Res.(1994)22:5600−5607)。
【0056】
ランダムに修飾された上記核酸分子は、全ての周知の天然アミノ酸をコードする上記の繰り返し単位を有してもよい。
【0057】
従来技術において周知のように、特異的な結合特性及び親和性を有するタンパク質の同定及び単離に使用できる様々な選抜技術が存在し、例えば様々なディスプレイ技術(例えばファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、細胞表面ディスプレイなど、後述する)が挙げられる。変異型抗体の生産及びスクリーニングのための方法は、従来技術において周知である。抗体に関する分子生物学、発現、精製及びスクリーニングのための一般方法は、Antibody Engineering,edited by Duebel&Kontermann,Springer−Verlag,Heidelberg,2001、及びHayhurst&Georgiou,2001,Curr Opin Chem Biol 5:683−689、及びMaynard&Georgiou,2000,Annu Rev Biomed Eng 2:339−76に記載されている。
【0058】
本発明に係る「構造ループ」又は「非CDRループ」とは、以下のとおり理解される:すなわち免疫グロブリンは「いわゆる免疫グロブリンフォールド」と呼ばれるドメインから構成される。本質的には、逆平行βシートがループに結合し、圧縮型の逆平行βバレルを形成する。可変ドメインにおいて、ドメインのループのいくつかは、基本的に抗体の特異性(抗体の天然の結合部位を介した抗原に対する結合)に関与する。これらのループはCDRループと呼ばれる。CDRループは、CDRループ領域の中で位置し、若干の場合において、CDRループに可変フレームワークドメイン(「VFR」と呼ばれる)が隣接する。VFRが抗体の抗原結合ポケットに関与することが知られ、それは通常、主にCDRループにより決定される。すなわち、それらのVFRはCDRループ領域の一部として考慮されるため、本発明への使用は適切でない。CDRループ領域内の、又はCDRループの最も近位側のVFRとは反対に、可変ドメイン内の他のVFRの使用は、本発明において特に適切である。それらは、CDRループ領域の反対側に、又は可変的な免疫グロブリンドメインのC末端側に位置するVFRの構造ループである。
【0059】
抗体ドメインの他の全てのループはむしろ、分子の構造及び/又はエフェクター機能に関与する。これらのループは「構造ループ」又は非CDRループとして本願明細書において定義され、それはCDRループ領域の中のいかなるVFRも除外する。
【0060】
修飾免疫グロブリンをコードする核酸分子(また明細書の全体にわたって免疫グロブリン断片又は誘導体も含まれる)を宿主細胞にクローニングし、発現させ、それらの結合特性をアッセイできる。これらは周知の手順を使用して実施でき、本発明で使用できる様々な方法は、Molecular Cloning−A Laboratory Manual(3rd Ed)、(Maniatis,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,2001)、及びCurrent Protocols in Molecular Biology(John Wiley&Sons)に記載されている。本発明の修飾免疫グロブリンをコードする核酸を発現ベクターに組み込み、前記免疫グロブリンを発現させることができる。発現ベクターには典型的には、免疫グロブリンの遺伝子が使用可能な状態で結合され、更に、それと機能的な関係を有する態様で制御配列、選抜可能な標識、いかなる融合パートナー、及び/又は更なるエレメントが配置されている。本発明の修飾免疫グロブリンは、修飾免疫グロブリンの発現を誘導しうる適当な条件下で、修飾免疫グロブリンをコードする核酸を含む核酸(好ましくは発現ベクター)で形質転換された宿主細胞を培養することによって調製できる。外生の核酸分子を宿主に導入する方法は公知技術で、使用する宿主に応じて変化する。また、当然ながら修飾免疫グロブリンの発現に、無細胞発現システムを使用してもよい。
【0061】
「発現システム」という用語は、コード配列と、操作可能に結合した所望の制御配列とを含む核酸分子のことを指し、これらの配列によって形質転換又はトランスフェクションされた宿主は、コードされたタンパク質を産生できる。形質転換を遂行するため、発現システムをベクター中に導入してもよいが、同様のDNAを宿主の染色体に導入してもよい。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、上記発現システムはベクターを有してなる。必要に応じて、公知技術のいかなる発現ベクターを使用してもよい。
【0063】
修飾免疫グロブリンは、好ましくは宿主中、好ましくは細菌、酵母、植物細胞、動物細胞、又は植物若しくは動物体内で発現させる。
【0064】
多種多様な適当な宿主細胞を、修飾免疫グロブリンの発現に使用でき、限定されないが例えば哺乳動物細胞(動物細胞)又は植物細胞、バクテリア(例えば枯草菌、大腸菌)昆虫細胞及び酵母(例えばPichia pastoris、Saccharomyces cerevisiae)などが使用できる。例えば、本発明で使用できる様々な細胞系は、ATCC cell lineカタログ(American Type Culture Collectionから入手可能な)に記載されている。更に、動植物を、本発明に係る免疫グロブリンの発現のための宿主として使用できる。発現用又はトランスフェクション用のベクター若しくはカセットは、使用する宿主に従って選択できる。
【0065】
当然ながら、無細胞タンパク質発現システムを使用してもよい。in vitro転写/翻訳タンパク質発現プラットフォーム(充分な量のタンパク質を産生する)は無細胞タンパク質発現において多くの効果を発揮し、細胞ベースの発現システムにおいて典型的に存在する面倒な上流及び下流の工程(例えば宿主細胞の形質転換、培養又は溶解)の必要がない。
【0066】
本発明の好ましい実施形態では、修飾免疫グロブリンは、発現後に精製又は分離される。修飾免疫グロブリンは、当業者に公知の様々な方法で分離又は精製できる。標準的な精製方法としては、クロマトグラフィ技術が挙げられ、例えば親和性クロマトグラフィ、イオン交換又は疎水性クロマトグラフィ、電気泳動、免疫学的、沈殿、透析、濾過、濃縮及びクロマトフォーカス技術が挙げられる。精製は通常、特異的な融合パートナーを用いて行われる。例えば、GST融合タンパクの場合、抗体はグルタチオン樹脂を使用して精製でき、His−タグの場合、Ni2+親和性クロマトグラフィを使用し、flag−タグの場合、固定した抗flag抗体を使用する。適切な精製技術の一般的なガイダンスは、Antibody Purification:Principles and Practice,3.sup.rd Ed.,Scopes,Springer− Verlag,NY,1994を参照。当然ながら、宿主の表面に本発明に係る修飾免疫グロブリンを発現させることも可能であり、特に細菌、昆虫又は酵母細胞の表面、又は、ファージ又はウイルスの表面に発現させてもよい。
【0067】
修飾免疫グロブリンは、限定されないがin vitro分析、in vivo及び細胞ベースの分析及び選抜技術などの、様々な方法を使用して選抜できる。オートメーション及びハイスループットスクリーニング技術を、スクリーニング手順に利用してもよい。スクリーニングでは融合パートナー又はラベルを使用してもよく、例えば酵素、イムノラベル、アイソトープラベル又は小分子ラベル(例えば蛍光若しくは比色色素若しくは発光分子)を使用してもよい。
【0068】
好ましい実施形態では、免疫グロブリンの機能的及び/又は生物物理学的特性を、in vitroアッセイにおいてスクリーニングされる。好ましい実施形態では、抗体は、機能(例えばその標的に対する結合親和性、又は触媒作用を及ぼす能力)を基に選抜される。
【0069】
アッセイでは、発色、蛍光、発光又はアイソトープラベルを含むがこれに限らない様々な検出方法を使用できる。
【0070】
周知のように、スクリーニング方法のサブセットは、ライブラリの好ましいメンバーを選抜するものである。上記方法は本願明細書では「選抜方法」と称し、これらの方法では本発明の修飾免疫グロブリンのスクリーニングのために使用できる。免疫グロブリンライブラリが選抜方法を使用してスクリーニングされるとき、ライブラリ中の好適な(すなわち幾つかの選抜基準を満たす)メンバーのみが選抜され、分離され、及び/又は観察される。明らかなように、最も適当な変異型だけが観察されるため、かかる方法は、ライブラリメンバーの合理性を個々に検定する方法によってスクリーニングできるものより大きなライブラリのスクリーニングが可能となる。選抜は、いかなる方法、技術又は融合パートナー(共有結合又は非共有結合的)によっても行うことができる。免疫グロブリンの発現型はその遺伝子型と連結し、すなわち、抗体の機能は、それをコードする核酸と連結している。例えば、選抜方法としてのファージディスプレイの使用は、遺伝子IIIタンパク質へのライブラリメンバーの融合によって可能となる。このようにして、また、若干の基準(例えば免疫グロブリンの標的に対する結合親和性)を満たす修飾免疫グロブリンの選抜又は単離においては、それをコードする核酸の選抜又は分離が行われる。一旦分離されると、修飾免疫グロブリンをコードする遺伝子を更に増幅できる。この単離及び増幅のプロセスはパニングと呼ばれ、繰り返すことができ、それによりライブラリ中の良好な抗体変異体を増加させることができる。結合する核酸の塩基配列決定により、最終的な遺伝子同定が可能となる。
【0071】
様々な選抜方法が公知であり、本発明において免疫グロブリンライブラリのスクリーニング技術において使用できる。かかる技術としては、限定されないが、ファージディスプレイ(Phage display of peptides and antibodies:a laboratory manual,Kayら、,1996,Academic Press,San Diego,Calif.,1996;Low−manら、,1991,Biochemistry 30:10832−10838;Smith,1985,Science 228:1315−1317)、及びその変形方法(例えば選択的ファージ感染)、(Malmborgら、,1997,J MoI Biol 273:544−551),選択的感染ファージ(Krebberら、,1997,J MoI Biol 268:619−630)、及び遅延感染性パニング(Benharら、,2000,J MoI Biol 301:893−904)、細胞表面ディスプレイ(Witrrup,2001,CurrOpin Biotechnol,12:395−399)、例えば細菌ディスプレイ(Georgiouら、,1997,Nat Biotechnol 15:29−34;Georgiouら、,1993,Trends Biotechnol 11:6−10;Leeら、,2000,Nat Biotechnol 18:645−648;Junら、,1998,Nat Biotechnol 16:576−80)、酵母(Boder&Wittrup,2000,Methods Enzymol 328:430−44;Boder&Wittrup,1997,Nat Biotechnol 15:553−557)、及び哺乳動物細胞(Whitehornら、,1995,Bio/technology 13:1215−1219)、並びにin vitroディスプレイ技術(Amstutzら、,2001,Curr Opin Biotechnol’ 12:400−405)、例えばポリソームディスプレイ(Mattheakisら、,1994,Proc Natl Acad Sci USA 91:9022−9026)、リボソームディスプレイ(Hanesら、,1997,Proc Natl Acad Sci USA 94:4937−4942)、mRNAディスプレイ(Roberts&Szostak,1997,Proc Natl Acad Sci USA 94:12297−12302;Nemotoら、,1997,FEBS Lett 414:405−408)、及びリボソーム不活化ディスプレイシステム(Zhouら、,2002,J Am Chem Soc 124,538−543)などが挙げられる。
【0072】
本発明で使用できる他の選抜方法には、ディスプレイに依存しない方法も含まれ、例えばペリプラズム発現及びサイトメトリによるスクリーニングなどのin vivo方法(Chenら、,2001,Nat Biotechnol 19:537−542)、抗体フラグメント相補性アッセイ(Johnsson&Varshavskiy,1994,Proc Natl Acad Sci USA 91:10340−10344; Pelletierら、,1998,Proc Natl Acad Sci USA 95:12141−12146)、酵母ツーハイブリッド法(Fields&Song,1989,Nature 340:245−246)選抜モード(Visintinその他、1999、Proc Natl Acad Sci USA 96:11723−11728)などが挙げられる。代替的な実施形態では、発現ベクター上の特異的な配列と結合する融合パートナーによって選抜が可能となり、すなわち、融合パートナー及び付随するFc変異型のライブラリメンバーを、共有結合又は非共有結合的に、それらをコードする核酸と結合させることを特徴とする。
【0073】
代替的な実施形態では、抗体の発現が細胞の成長、再生又は生存にとり有利である場合、in vivo選抜を実施できる。
【0074】
「誘導型進化」方法と言われる選抜のサブセット方法は、選抜の間、好ましい配列の交雑又は繁殖が行われ、しばしば新しい突然変異の取り込みも行われる。当業者に周知のように、誘導型進化方法は、ライブラリ中の最も好ましい配列の同定を容易に可能とし、スクリーニングされる配列の多様性を増加させることができる。様々な誘導型進化方法が公知であり、本発明において変異抗体のスクリーニング技術として使用でき、限定されないが例えばDNAシャッフリング(国際公開第00/42561A3号、国際公開第01/70947A3号)、エキソンシャッフリング(米国特許第6365377号;Kolkman&Steinmer,2001,Nat Biotechnol 19:423−428)、ファミリーシャッフリング(Crameriら、,1998,Nature391:288−291;米国特許第6376246号)、RACHITT.TM.(Cocoら、2001,Nat Bio−technol 19:354−359;国際公開第02/06469号)、STEP及びin vitro組み換えのランダムプライミング(Zhao.ら、1998,Nat Biotechnol 16:258−261;Shaoら、,1998,Nucleic Acids Res 26:681−683)、エキソヌクレアーゼによる遺伝子アセンブリ(米国特許第6352842号;米国特許第6361974号)、遺伝子部位飽和変異導入(商標)(米国特許第6358709号)、遺伝子リアセンブリ(商標)(米国特許第6358709号)、SCRATCHY(Lutzら、,2001,Proc Natl Acad Sci USA 98:11248−11253)、DNA断片化方法(Kikuchiら、,Gene 236:159−167)、一本鎖DNAシャッフリング(Kikuchiら、,2000,Gene 243:133−137)、及びAMEシステム(商標)進化抗体エンジニアリング技術(応用分子進化)(米国特許第5824514号、米国特許第5817483号、米国特許第5814476号、米国特許第5763192号、米国特許第5723323号)などが挙げられる。
【0075】
本発明の好ましい実施形態では、分子に対する修飾免疫グロブリンの特異的な結合は、以下からなる群から選択される結合アッセイにより測定される:免疫学的アッセイ、好ましくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、表面プラスモン共鳴アッセイ、飽和転送差核磁気共鳴分光アッセイ、転送NOE(trNOE)核磁気共鳴分光アッセイ、競争的アッセイ、組織結合アッセイ、生細胞結合アッセイ及び細胞抽出アッセイ。
【0076】
当該結合アッセイは、限定されないが、以下のような公知の様々な方法を用いて実施することができる:FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)及びBRET(生物発光共鳴エネルギー移動)−ベースのアッセイ、ΑlphaScreen(TM)(増幅蛍光近接ホモジニアスアッセイ)、シンチレーション近接アッセイ、ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)、SPR(表層プラスモン共鳴、別名「BIACORE」(TM))、等温滴定熱量測定、示差走査熱量測定、ゲル電気泳動、及びクロマトグラフィなどのゲル濾過。これらの、また他の方法では、一部の融合パートナー又はラベルを利用できる。
【0077】
修飾免疫グロブリンは、好ましくは以下からなる群から選択されるラベル又はリポーター分子とコンジュゲートしている:有機分子、酵素ラベル、放射性ラベル、着色ラベル、蛍光ラベル、発色ラベル、発光ラベル、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属複合体、金属、コロイド状金及びそれらの混合物。ラベル又はリポーター分子にコンジュゲートした修飾免疫グロブリンは、例えば診断で使用できる。
【0078】
修飾免疫グロブリンを他の分子にコンジュゲートさせることにより、例えば結合アッセイ(例えばELISA)や結合試験において前記コンジュゲートを単純に検出することができる。
【0079】
好ましい実施形態では、変異抗体を、1つ以上の細胞ベース若しくはin vivoアッセイを使用してスクリーニングする。かかるアッセイでは典型的には、精製若しくは未精製の修飾免疫グロブリンを外因的に添加し、細胞を、個々の免疫グロブリン又はライブラリに属する免疫グロブリンのプールに暴露する。しかしこれらのアッセイは典型的には、常にではないが免疫グロブリンの機能に基づく。すなわち、その標的と結合し、若干の生化学応答を媒介する抗体の能力(例えばエフェクター機能、リガンド/受容体結合阻害、アポトーシスなど)である。かかるアッセイでは、抗体に対する細胞の応答(例えば細胞生存、細胞死、細胞形態の変化)又は転写活性化(例えば天然遺伝子又はリポーター遺伝子の細胞発現)をモニターすることが必要な場合もある。例えば、かかるアッセイでは、ADCC、ADCP又はCDCを引き出す変異抗体の能力を測定できる。幾つかのアッセイでは、標的細胞以外にも、例えば血清補体、又はエフェクター細胞(例えば末梢血単球(PBMCs)、NK細胞、大食細胞など)などの細胞若しくは構成要素を添加する必要がある場合もある。かかる更なる細胞は、いかなる生物体(好ましくはヒト、マウス、ネズミ、ウサギ及びサル)から調製してもよい。免疫グロブリンは標的を発現する特異的な細胞系のアポトーシスを引き起こすことができ、又は、アッセイに加えられた免疫細胞による標的細胞への攻撃を媒介できる。細胞死又は生存度のモニタリング方法は公知技術で、色素、免疫化学的手段、細胞化学的手段及び放射性物質の使用に基づくものが挙げられる。例えば、カスパーゼ染色アッセイはアポトーシスの測定を可能とし、放射性基質若しくはalamar blueのような蛍光色素の取り込み若しくは放出により、細胞増殖若しくは活性化をモニターすることが可能となる。好ましい実施形態では、DELFIART EuTDAベースの細胞毒性アッセイ(Perkin Elmer、MA)を使用できる。あるいは、死細胞若しくは傷害性標的細胞を、1つ以上の天然の細胞内構成要素(例えば乳酸脱水素酵素)の放出を測定することによってモニターしてもよい。転写活性化は、細胞ベースのアッセイにおいて、機能をアッセイする方法として有用でありうる。この場合、上方制御されうる天然遺伝子又は免疫グロブリンをアッセイすることにより、反応をモニターできる。例えば、特異的なインターロイキンの放出を測定するか、あるいはリポーター構築物を測定してもよい。細胞ベースのアッセイでは、修飾免疫グロブリンの存在への応答としての、細胞の形態的な変化の測定を行ってもよい。かかるアッセイのための細胞タイプは原核生物でも真核生物でもよく、従来技術において周知である様々な細胞系を使用できる。あるいは、細胞ベースのスクリーニングは、変異型をコードする核酸によって形質転換又はトランスフェクションされた細胞を使用して実施してもよい。すなわち、変異抗体を外因的に細胞に添加するのではない。例えば、一実施形態では、細胞ベースのスクリーニングは、細胞表面ディスプレイを利用する。細胞表面における修飾免疫グロブリンのディスプレイを可能にする融合パートナーを使用してもよい(Witrrup,2001,Curr Opin Biotechnol,12:395−399)。
【0080】
好ましい実施形態では、修飾免疫グロブリンの免疫原性は、1つ以上の細胞ベースのアッセイを使用して実験的に測定できる。好ましい実施形態では、ex vivoでのT−細胞活性化アッセイを用いて、実験的に免疫原性を定量する。この方法では、マッチするドナーからの抗原提示細胞及び天然のT細胞は、1回以上、ペプチド又は目的の全長抗体の曝露を受ける。更に、例えばサイトカインの産生をモニターするか又はトリチル化されたチミジンの取り込みを測定するなど、多くの方法を使用してT細胞活性化を検出できる。最も好ましい実施形態では、インターフェロンγ産生を、Elispotアッセイ(Schmittel et.al.,2000,J.Immunol.Meth.,24:17−24)によりモニターする。
【0081】
本発明の修飾免疫グロブリンの生物学的特性は、ex vivoによる細胞、組織及び全生物体を用いた実験により特徴づけることが可能である。周知のように、限定されないがマウス、ネズミ、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ及びサルなどの動物において、in vivoにおいて薬剤を試験し、それにより当該薬の、治療への有効性を疾患又は疾患モデルと比較し、あるいは薬物動態学、薬力学、毒性及び他の特性を測定することが可能となる。当該動物は疾患モデルと称することもある。当該治療は、ヌードマウス、SCIDマウス、異種移植片マウス及びトランスジェニックマウス(ノックイン及びノックアウトを含む)などのマウスを用いて通常試験される。かかる実験により、当該抗体を治療薬として使用する際における、適当な半減期、エフェクター機能、アポトーシス活性、細胞障害若しくは細胞溶解活性などの、使用可能性を決定するために有用なデータが提供されうる。いかなる生物体(好ましくは哺乳類)も、試験に使用できる。例えばサルは、ヒト(霊長類)に対するそれらの遺伝子の類似性のため、適切な治療のモデルであり、ゆえに、本発明の修飾免疫グロブリンの有効性、毒性、薬物動態学、薬力学、半減期又は他の特性を試験するために使用できる。ヒトにおける臨床試験は、薬剤として承認を受けるために最終的に必要とされ、また当然ながら、これらの試験も本発明に包含される。すなわち、本発明の修飾免疫グロブリンは、それらの治療有効性、毒性、免疫原性、薬物動態学及び/又は他の臨床特性を決定するため、ヒトにおける試験にも使用できる。特に少なくとも2つの表層抗原を通じて1つの細胞と結合(好ましくは少なくとも3つの構造架橋結合標的細胞の結合)する本発明に係る多価免疫グロブリンは、アポトーシス誘導的であると考えられ、細胞ターゲティング及び架橋結合の際にアポトーシス活性を発揮する。多価結合は結合パートナーの比較的大きい会合を提供し、またそれは架橋結合と呼ばれ、アポトーシスの必要条件である。
【0082】
本発明の修飾免疫グロブリンの使用により、広範囲にわたる抗体製品の応用が可能となる。一実施形態では、本発明の変異抗体は、治療又は予防に使用でき、例えば能動的又は受動的免疫療法、調製、産業的若しくはアッセイ用途、診断用途、工業用化合物又は試験用試薬など(好ましくは治療用途)への応用が可能である。修飾免疫グロブリン又は変異抗体の使用により、モノクローナル若しくはポリクローナル抗体の合成が可能となる。好ましい実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンを用いて、標的抗原を運ぶ標的細胞(例えば癌細胞)を捕捉するか又は殺傷する。代替的な実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンを用いて、標的抗原をブロック、アンタゴナイズ又はアゴナイズし、例えばサイトカイン又はサイトカイン受容体をアンタゴナイズする。
【0083】
交替に好適な実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンを用いて、成長因子又は成長因子受容体をブロック、アンタゴナイズ又はアゴナイズし、それにより標的抗原を運ぶか又は必要とする標的細胞の殺傷が可能となる。
【0084】
好適な代替的実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンを用いて、酵素及び酵素基質をブロック、アンタゴナイズ又はアゴナイズする。
【0085】
本発明の修飾免疫グロブリンは好ましくは、能動的又は受動的免疫治療の際、様々な治療に使用できる。
【0086】
特に本発明に係る、又は本発明に係る方法によって入手できる免疫グロブリンを用いて、能動免疫のためのワクチンの調製が可能となる。これによって、上記免疫グロブリンをワクチン調製用の抗原性物質として使用でき、又はワクチン調製の際に、ex vivo若しくはin vivoでの抗原性構造の捕捉等に用いられる。
【0087】
好ましい実施形態では、修飾免疫グロブリンを有する抗体を患者に投与して、特異性障害を治療する。本発明のための「患者」は、ヒト及び他の動物(好ましくは哺乳類及び最も好ましくはヒト)を指す。本願明細書における「特異性障害」とは、本発明の修飾免疫グロブリンからなる医薬組成物の投与により改善されうる障害のことを意味する。
【0088】
一実施形態では、本発明に係る修飾免疫グロブリンは、患者に投与される唯一の治療的有効成分である。あるいは、本発明に係る修飾免疫グロブリンは、1つ以上の他の治療薬と組み合わせて投与してもよく、かかるものとしては限定されないが、細胞障害剤、化学療法剤、サイトカイン、成長抑制剤、抗ホルモン剤、キナーゼ阻害剤、抗血管新生剤、心臓保護剤又は他の治療薬が挙げられる。上記修飾免疫グロブリンは、1つ以上の他の治療に付随して投与してもよい。例えば、本発明の変異抗体を、化学療法、放射線療法、又は化学療法及び放射線療法の両方において、患者に投与できる。一実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンは、1つ以上の抗体(本発明の変異抗体を含有してもよく又は含有しなくてもよい)との組み合わせで投与してもよい。本発明の他の実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリン及び1つ以上の他の制癌治療を用いて、癌細胞をex vivoで治療してもよい。かかるex vivoな治療は、骨髄移植、及び特に自家骨髄移植において有用であると考えられる。本発明の抗体が更に他の治療技術(例えば手術)と組み合わせて使用できることは当然である。
【0089】
様々な他の治療薬を、本発明の修飾免疫グロブリンと組み合わせて投与することができる。一実施形態では、上記修飾免疫グロブリンを、抗血管新生剤(血管の形成をブロックするか、ある程度阻害する化合物)と共に投与する。抗血管形成因子とは、例えば、成長因子又は成長因子受容体に結合することにより、脈管形成を促進しうる、小分子又はタンパク質(例えば抗体、Fc融合分子又はサイトカイン)である。本願明細書において、好適な抗血管新生因子とは、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と結合する抗体である。代替の実施形態では、上記修飾免疫グロブリンは、適応免疫反応を誘発するか又は強化する治療薬(例えばCTLA−4を標的とする抗体)と共に投与される。代替的な実施形態では、修飾免疫グロブリンはチロシンキナーゼ阻害剤(ある程度チロシンキナーゼのチロシンキナーゼ活性を阻害する分子)と共に投与される。代替の実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンは、サイトカインと共に投与される。本明細書で用いられる「サイトカイン」とは、1つの細胞集団から放出され、細胞間メディエータ(ケモカインなど)として他の細胞において機能する、タンパク質の総称を意味する。
【0090】
医薬組成物とは、本発明に係る修飾免疫グロブリン及び1つ以上の治療的活性薬剤を処方したものである。本発明の変異抗体を含有する安定な製剤は、所望の純度の前記免疫グロブリンと、任意の薬理学的に許容できる担体、賦形剤又は安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.,1980)を混合することによって調製され、保存の際には凍結乾燥又は水溶液の形で調製される。in vivo投与のために使用される製剤は、好ましくは無菌状態である。これは滅菌フィルター又は他の方法による濾過によって容易に実施できる。本願明細書に開示される修飾免疫グロブリンと他の治療的有効成分は、免疫リポソームとして製剤化でき、及び/又はマイクロカプセル中に封入できる
【0091】
本発明の修飾免疫グロブリンを含有する医薬組成物の投与は、好ましくは滅菌水中の溶液などの形で、限定されないが以下のような様々な形態で実施できる:経口的、皮下、静脈注射、鼻腔内、耳内、経真皮、経粘膜、腹膜内、筋肉注射、局所投与(例えばゲル、塗剤、ローション剤、クリームなど)、肺内(例えばAradigmから市販されているAERxTMインハレーション技術又はInhale Therapeuticsから市販されているInhanceTM肺内輸送システム)、経膣、非経口、直腸内又は眼内投与。
【0092】
本発明で使用する「特異的に結合する」という用語は、異質な分子集団の中から、関心の同族リガンドのみと結合する反応のことを指す。すなわち、所定の抗体は、所定の条件(例えば免疫グロブリンの場合、イムノアッセイ条件)下で、その特異的な「標的」と結合し、一方サンプル中に存在する他の分子とは顕著な量において結合しない。抗体のCDRsと同様、修飾された構造ループ領域は、抗原、構造又は分子と結合するタンパク質部分であり、それ自体抗原ではない。
【0093】
本発明の別の態様は、少なくとも1つの修飾を前記免疫グロブリンの構造ループ領域に有し、抗原のエピトープに対する前記免疫グロブリンの結合を決定する、免疫グロブリン又はそれを含有する医薬品の製造方法に関する。未修飾の免疫グロブリンは前記エピトープと顕著に結合しない。上記方法は、以下のステップからなる、
− 少なくとも1つのループ領域を有する免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、
− 少なくとも1つの前記ループ領域の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
− 発現システム中に前記修飾された核酸を存在させるステップと、
− 前記修飾免疫グロブリンを発現させるステップと、
− 発現された修飾免疫グロブリンとエピトープとを接触させるステップと、
− 前記修飾免疫グロブリンが前記エピトープと結合するか否かを測定するステップと、
− 前記エピトープに結合する修飾免疫グロブリンを準備し、任意にそれを医薬品として調製するステップ。
【0094】
好ましい実施形態では、本発明に係る免疫グロブリンは、二重特異的な抗体又は二重特異的な単鎖抗体である。更に好適には、当該免疫グロブリンは二重特異的なドメイン、又はミニドメインを含むその一部を有してなる。
【0095】
特に本発明は、少なくとも1つの第1の分子に特異的に結合する多重特異的免疫グロブリン、又はそれを含有する医薬品の製造方法に関する。当該免疫グロブリンは、前記免疫グロブリンの少なくとも1つの構造ループ領域中に少なくとも1つの修飾を有し、前記少なくとも1つのループ領域が、少なくとも1つの第2の分子に特異的に結合するか否かを決定する。それらは例えば、アレルゲン、腫瘍関連の抗原、自己抗原、酵素、細菌抗原、菌類の抗原、原生動物の抗原及びウィルス抗原からなる群から選抜される抗原であり、未修飾の構造ループ領域を含有する免疫グロブリンでは、前記少なくとも1つの第2の分子と特異的に結合しない。上記方法は、以下のステップからなる、
− 少なくとも1つの構造ループ領域を有し、少なくとも1つの第1の分子に特異的に結合する免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、
− 前記核酸によってコードされる少なくとも1つの前記ループ領域中の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
− 発現システム中に前記修飾された核酸を存在させるステップと、
− 前記修飾免疫グロブリンを発現させるステップと、
− 発現された修飾免疫グロブリンと前記少なくとも1つの第2の分子とを接触させるステップと、
− 前記修飾免疫グロブリンが第2の分子と特異的に結合するか否かを測定するステップと、
− 前記少なくとも1つの第2の分子に特異的に結合する修飾免疫グロブリンを準備し、任意に医薬品として調製するステップ。
【0096】
特異的な結合ペアのメンバーを複数特異性にするためのエンジニアリングを行うことが好適である(Kuferら、(2004)Trends in Biotechnology vol.22 p238−244)。
【0097】
多重特異的な抗体を調製するための多数の試み(例えば二重特異的、モノクローナル抗体又は抗体断片)が行われてきた。2つの異なるポリペプチド鎖(重鎖及び軽鎖)で構成されている二重特異的な抗体の産生の1つの課題は、1つの細胞中で4つの異なる鎖(2つの重鎖及び2つの軽鎖)を発現させる必要であることであり、それは分子の多くの様々な組み合わせを生じさせるため、混合物から、所望の二重特異的な分子を分離させる必要がある。それらの類似性のため、これらの分子の分離は困難かつ高コストである。かかる不必要な組み合わせの発生を最小化するために、多くの方法が使用されてきた(Carter(2001)Journal of Immunological Methods,vol 248,p7−15)。
【0098】
1つの解決法は、2つの特性を有する1つのポリペプチド鎖の産生(例えば2つのscFvsを各々結合させるか、又はいわゆる二重特異性抗体の産生)である。かかる分子は、天然分子のフォールディング構造からは大きく異なることが示されており(Le−GaIlら、(2004)Protein Engineering,Design&Selection vol 17 pages 357−366)、文字どおり調製が困難である。
【0099】
二重特異的な抗体の設計における他の課題としては、親抗体がそれらのそれぞれの結合パートナー(例えばIgG)に対する二価的な結合を示す場合であっても、得られる二重特異的な抗体が、それぞれの結合パートナーの各々に対しては一価であるという事実が挙げられる。
【0100】
本発明の好適な多重特異的分子は、これらの課題を解決する。1つのポリペプチド鎖としての二重特異的な分子の発現が可能であり(2つの特異的結合を示す修飾されたIgドメイン、実施例を参照)、それは2つの抗体ポリペプチド鎖の発現よりも実施が容易である(Cabillyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3273−3277(1984))。
【0101】
それはまた、抗体様分子(2つのポリペプチド鎖からなるホモ二量体若しくはヘテロ二量体)として調製することもできる。すなわち、第2の特性が分子の非可変的な部分に位置するため、2つの異なる重鎖又は異なる軽鎖を準備する必要がない。すなわち、2つの鎖の間違った組み合わせの可能性がない。
【0102】
本発明の抗体は重鎖及び軽鎖からなり、それらは共に、第1の特異性により特異的な結合パートナーと結合する可変領域を形成する。第2の特異性は、重鎖若しくは軽鎖の構造ループのいずれかの修飾されたループにより形成できる。結合部位は、複数の非CDRループにより形成されてもよく、それらは構造的に隣接していてもよく、重鎖上若しくは軽鎖上、又は両方の鎖上に存在してもよい。
【0103】
修飾された抗体又は誘導体は、全長抗体又は抗体断片(例えばFab、CH1−CH2、CH2−CH3、Fc(ヒンジ部位の有無を問わない)であってもよい。
【0104】
デザイン次第で、それは同じ若しくは異なる結合パートナーに、一価的、又は多価的に結合してもよく、又は異なる結合パートナーごとに異なる価数で結合してもよい。
【0105】
重鎖及び軽鎖の非CDRドメイン中に、特異的な結合部位の選抜及び設計が可能な、多くのループが存在するため、上記の課題のない2つ以上の特性を有する抗体誘導体を設計することが可能となる。
【0106】
1つのポリペプチド鎖内の特異的な結合ドメインを、ペプチドリンカーの有無にかかわらず、連結してもよい。
【0107】
本発明の免疫グロブリン中の修飾された構造ループ領域は、前記免疫グロブリンの定常及び/又は可変ドメイン中に存在してもよい。修飾された構造ループが定常ドメイン中に存在する場合、それは好ましくはCH1、CH2、CH3、CH4、Igk−C、Igl−C又はそれらの部分中に存在する。
【0108】
本発明の好ましい実施形態では、免疫グロブリンは、ヒト若しくはマウス由来である。
【0109】
修飾免疫グロブリンは様々な用途(特に医薬組成物)に使用できるため、上記免疫グロブリンは好ましくはヒト若しくはマウス由来である。当然ながら、修飾免疫グロブリンはヒト化若しくはキメラ免疫グロブリンでもよい。
【0110】
他の本発明の好ましい実施形態では、ヒト免疫グロブリンは、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4及びIgMからなる群から選択される。
【0111】
マウス免疫グロブリンは好ましくは、IgA、IgD、IgE、IgG1、IgG2A、IgG2B、IgG2C、IgG3及びIgMからなる群から選択される。
【0112】
修飾免疫グロブリンは、上記の同定された免疫グロブリンクラスのうちの1つに由来してもよく、その後で構造的に変化させてもよい。
【0113】
免疫グロブリンは、好ましくは免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖、又はその一部を有してなる。本発明では好ましくはヘテロ二量体若しくはホモ二量体分子であるが、モノマー免疫グロブリンであってもよい。
【0114】
修飾免疫グロブリンは、重鎖及び/又は軽鎖を有してもよく、また少なくとも1つの可変及び/又は定常ドメインを有してもよい。
【0115】
本発明に係る免疫グロブリンには、免疫グロブリンの好ましくは少なくとも1つの定常及び/又は少なくとも1つの可変ドメイン、又はミニドメインを含むその一部を有してなる。
【0116】
定常ドメインとは、免疫グロブリン分子の定常部分を構成する免疫グロブリンフォールディング構造単位であり、定常ドメイン(例えばCH1、CH2、CH3、CH4、Ck、Cl)と称されることもある。
【0117】
可変ドメインとは、免疫グロブリンの可変部分を構成する免疫グロブリンフォールディング構造単位であり、可変ドメイン(例えばVh、Vk、Vl、Vd)と称されることもある。
【0118】
本発明に係る好適な免疫グロブリンは、CH1、CH2、CH3、CH4、Igk−C、Igl−C又はそれらの部分、又はそれらの組み合わせ(ミニドメインを含む)からなる群から選択される定常ドメイン、及び少なくとも1つのループ領域からなり、前記少なくとも1つのループ領域が、少なくとも1つの修飾されたループ領域を形成する少なくとも1つのアミノ酸修飾を有することを特徴とし、前記少なくとも1つの修飾されたループ領域が、抗原の少なくとも1つのエピトープと特異的に結合する。
【0119】
本発明に係る修飾免疫グロブリンは、1つ以上の定常ドメイン(例えば少なくとも2、3、4、5、6、10のドメイン)を有してなってもよい。複数のドメインが修飾免疫グロブリンに存在する場合、これらのドメインは同じタイプであってもよく、又は異なるタイプ(CH1−CH1−CH2、CH3−CH3、Fcドメインを例えば(CH2)2−(CH3)2)であってもよい。当然ながら、各々のドメイン並び順はいかなる順(例えばCH1−CH3−CH2、CH4−CH1−CH3−CH2)であってもよい。
【0120】
他の本発明の好ましい実施形態では、上記のCH1、CH2、CH3及びCH4の修飾されたループ領域は、アミノ酸7〜21、アミノ酸25〜39、アミノ酸41〜81、アミノ酸83〜85、アミノ酸89〜103及びアミノ酸106〜117を有してなる。
【0121】
他の本発明の好ましい実施形態では、CH3の位置15〜17、29〜34、85.4〜85.3、92〜94、97〜98及び/又は108〜110のアミノ酸残基が修飾される。
【0122】
ヒト起源のIgk−C及びIgl−Cのループ領域は、好ましくはアミノ酸8〜18、アミノ酸27〜35、アミノ酸42〜78、アミノ酸83〜85、アミノ酸92〜100、アミノ酸108〜117及びアミノ酸123〜126を有してなる。
【0123】
マウス由来のIgk−C及びIgl−Cのループ領域は、好ましくはアミノ酸8〜20、アミノ酸26〜36、アミノ酸43〜79、アミノ酸83〜85、アミノ酸90〜101、アミノ酸108〜116及びアミノ酸122〜125を有してなる。
【0124】
特定の実施形態では、本発明に係る免疫グロブリンは、VH、Vκ、Vλ、VHH及びそれらの組み合わせからなる群から選択される可変ドメイン中に修飾を有してもよい。より詳細には、それらはアミノ酸7〜21、アミノ酸25〜39、アミノ酸41〜81、アミノ酸83〜85、アミノ酸89〜103又はアミノ酸106〜117の範囲内に少なくとも1つの修飾を有する(ドメイン中のアミノ酸位の付番はIMGTに従う)。
【0125】
本発明に係る他の好適な免疫グロブリンは、重鎖若しくは軽鎖の可変ドメイン、又はミニドメインを含むその一部と、少なくとも1つのループ領域(好ましくは構造ループ領域)を有してなり、前記少なくとも1つのループ領域が、少なくとも1つの修飾されたループ領域を形成する少なくとも1つのアミノ酸修飾を有することを特徴とし、前記少なくとも1つの修飾されたループ領域が、抗原の少なくとも1つのエピトープと特異的に結合する。
【0126】
代替的な実施形態では、本発明に係る免疫グロブリンは、ヒト起源のVH又はVκ又はVλのループ領域が、アミノ酸8〜20、アミノ酸44〜50、アミノ酸67〜76及びアミノ酸89〜101の範囲内に、最も好ましくはアミノ酸位12〜17、アミノ酸位45〜50、アミノ酸位69〜75及びアミノ酸位93〜98に少なくとも1つの修飾を有することを特徴とする(ドメイン中のアミノ酸位の付番はIMGTに従う)。
【0127】
ヒト起源の免疫グロブリンの可変ドメインの構造ループ領域は、本発明に係る修飾のために選抜されうる部分として、好ましくはアミノ酸8〜20、アミノ酸44〜50、アミノ酸67〜76及びアミノ酸89〜101を有してなる。
【0128】
本発明の好ましい実施形態では、マウス由来の免疫グロブリンの可変ドメイン中の構造ループ領域は、本発明に係る修飾のために選抜されうる部分として、アミノ酸6〜20、アミノ酸44〜52、アミノ酸67〜76及びアミノ酸92〜101を有してなる。
【0129】
本発明に係る免疫グロブリンは、好ましくはラクダ由来である。ラクダ由来の抗体は1つの重鎖だけからなり、軽鎖及び重鎖からなる通常の抗体と同等の抗原親和性を有する。したがって、ラクダ抗体は例えばヒト抗体と比較して非常に小さく、ゆえに高密度の組織を透過して抗原に達することができる(大分子のタンパク質では不可能である)。更にラクダの重鎖抗体は、比較的取扱が単純であり、高い親和性及び特異性を有し、活性部位に到達して相互作用することができるため、臨床的に有益な化合物の設計、製造及び使用において、一般の抗体に勝る優位性を示す。
【0130】
ラクダ又はラクダ科動物由来の免疫グロブリンは好ましくは、CH1、CH2及びCH3からなる群から選択される少なくとも1つの定常ドメインを有してなる。本発明の好ましい実施形態では、ラクダの免疫グロブリンのCH1、CH2及びCH3のループ領域は、アミノ酸8〜20、アミノ酸24〜39、アミノ酸42〜78、アミノ酸82〜85、アミノ酸91〜103及びアミノ酸108〜117を有してなる。
【0131】
より具体的には、マウス由来のVHの免疫グロブリンループ領域は、アミノ酸6〜20、アミノ酸44〜52、アミノ酸67〜76及びアミノ酸92〜101の範囲内で少なくとも1つの修飾を有してなる(ドメイン中のアミノ酸位の付番はIMGTに従う)。ラクダ科の動物由来のVHHの修飾されたループ領域は好ましくは、アミノ酸7〜18、アミノ酸43〜55、アミノ酸68〜75及びアミノ酸91〜101の範囲内で少なくとも1つの修飾を有してなる(ドメイン中のアミノ酸位の付番はIMGTに従う)。
【0132】
それぞれの免疫グロブリンの上記の同定されたアミノ酸ドメインは、本発明に係る修飾目的に適していることが示されたループ領域である。
【0133】
本発明の更に別の態様は、以下のステップを有してなる、分子を特異的に結合させる、及び/又は検出する方法に関する:
(a)前記分子を含むと考えられる試験サンプルと、本発明に係る修飾免疫グロブリン又は本発明に係る方法により得られる修飾免疫グロブリンとを接触させるステップと、
(b)特異的な免疫グロブリン/分子複合体の形成を検出するステップ。
【0134】
本発明の別の態様は、以下のステップからなる、分子を特異的に分離する方法に関する:
(a)前記分子を含有するサンプルと、本発明に係る修飾免疫グロブリン又は本発明に係る方法により得られる修飾免疫グロブリンとを接触させるステップと、
(b)形成された特異的な免疫グロブリン/分子複合体を分離するステップと、
(c)任意に前記分子を前記複合体から分離するステップ。
【0135】
本発明に係る免疫グロブリンは、分子をサンプルから特異的に分離するために使用できる。多重特異的免疫グロブリンが用いられる場合、複数の分子をサンプルから分離できる。かかる方法に上記修飾免疫グロブリンを使用することは、例えば、固定された結合パートナー(すなわち修飾免疫グロブリン)を一定量で有する均一な表面を有するマトリックスの調製が可能となるため、特に有利であり、それは分離された分子と結合することもできる。それに対して、単一の特異的結合パートナーを用いる場合、1つの結合パートナーはマトリックスに同じ効率で結合しないため、均一なマトリックスの調製が困難である。
【0136】
本発明の別の態様は、以下のステップを有してなる、標的への化合物のターゲッティング方法に関する:
(a)前記化合物と特異的に結合できる、本発明に係る修飾免疫グロブリンを又は本発明に係る方法により得られる修飾免疫グロブリン接触させるステップと、
(b)標的に免疫グロブリン/化合物複合体を輸送するステップ。
【0137】
本発明に係る修飾免疫グロブリンは、CDRs及び/又は修飾ループ領域と結合した、少なくとも1つの化合物を標的に輸送するために使用できる。かかる免疫グロブリンを用いることにより、疾患の治療の経過で、好適な標的部位に、治療用の物質をターゲッティングできる。
【0138】
本発明の別の態様は、タンパク質ライブラリの調製のための、本発明に係る免疫グロブリンの、又は本発明に係る方法で得られる免疫グロブリンの使用に関する。本発明に係る更なるライブラリは、様々なタンパク質又は融合タンパク質、遺伝子パッケージを含むのみならず、タンパク質、核酸、リボソーム、細胞、ウイルス、ファージの前駆物質、並びに、タンパク質をコードする情報及び/又はタンパク質自体を発現させる他のディスプレイシステムも包含する。
【0139】
本発明の別の態様は、本発明に係る免疫グロブリンを含有するか、又は本発明に係る方法により得られるタンパク質ライブラリに関する。
【0140】
前記ライブラリを構築する好適な方法は、上記、及び実施例に記載されている。本発明に係るライブラリは、様々な分子に対する免疫グロブリンの結合を同定するために使用できる。
【0141】
特に本発明は、本発明に係る免疫グロブリンを含有するか、又は本発明に係る方法により得られるタンパク質ライブラリの、免疫グロブリン誘導体の設計のための使用に関する。
【0142】
既存の免疫グロブリンを、少なくとも1つの修飾ループ、特に1つ以上の構造ループを有する、少なくとも10、好ましくは100、好ましくは1000、より好ましくは10000、より好ましくは100000、最も好ましくは1000000以上の変異型ドメイン又はミニドメインからなる、各ドメインのタンパク質ライブラリを用いて、いかなるドメイン又はミニドメインに対して抗原結合部位を導入して変異させることができる。ライブラリのメンバーの数はより多数であってもよく、大部分の場合では10e12の数であり、若干のディスプレイシステム(リボソームディスプレイ)では更に多い場合もある。
【0143】
ライブラリは更に、抗原との特異的な結合に関してスクリーニングされる。所望の特性に関する分子評価の後、選抜されたドメイン又はミニドメインを、遺伝子工学的方法によって元の免疫グロブリンにクローニングし、それにより野生型ドメインの置換を行う。あるいは、ループ領域のみをコードするか、又は変異アミノ酸のみをコードするDNAを交換することにより、特異的な抗原との更なる結合部位を有する免疫グロブリンを得ることもできる。
【0144】
変異を有し、抗原特異的な構造ループを配置する部位の選択は、元の免疫グロブリンの構造、及び更なる結合部位を配置する目的に依存する。例えば、元の分子が、エフェクター機能を妨害することのない、更なる抗原結合部位を挿入することを必要とする、全長免疫グロブリンである場合、修飾されるループは、Fc−エフェクター分子との天然の結合パートナーであるCH2及びCH3から離れているドメインから選抜される。元の免疫グロブリンがFab断片である場合、軽鎖若しくは重鎖の定常ドメイン、又はそれぞれの可変ドメイン中のループの修飾が可能である。ライブラリを構築するために、1つ以上のドメインにおける1つ以上の構造ループ中に突然変異を有する元の変異体分子のライブラリを調製でき。完全な変異オリジナル分子による選抜により、幾つかの効果が得られる。変異免疫グロブリンが示す他の特性をも試験した場合に、修飾された構造ループとの抗原の結合を元に選抜することにより、立体配置的に有利な修飾を有することが解るからである。特にFcライブラリが好適であり、例えばC末端のループ領域に結合部位を有するものが好適である。
【0145】
変異ドメイン又はミニドメインのタンパク質ライブラリのサイズ条件(すなわち変異型タンパク質数)又はドメインに融合させる分子は、その目的に依存する。一般に、新たに抗原結合部位を形成させるためのライブラリは、修飾された構造ループから構成されている、既存の設計された抗原結合部位を更に修飾する(例えば抗原の親和性を強化、又は感度を向上させるため)ために用いられるライブラリより大きいことが必要である。
【0146】
本発明はまた、免疫グロブリンライブラリ又は核酸ライブラリに関する。それらは、複数の免疫グロブリン(例えば定常又は可変ドメイン、ミニドメイン及び/又はミニドメインに含まれる少なくとも1つの構造ループ領域からなる)、又はそれらをコードする核酸分子を有してなる。上記ライブラリは異なる修飾を有するメンバーを有し、それらの複数は、少なくとも1つの構造ループ領域中に修飾を有するとして定義される。上記核酸ライブラリは好ましくは、少なくとも1つの異なるアミノ酸を得る(1つのアミノ酸置換を生じさせる)ために、ヌクレオチド配列中に少なくとも10の異なるメンバー、より好ましくは少なくとも100、より好ましくは1000又は10000の異なるメンバー(例えばランダム化ストラテジー又はコンビナトリアル技術でデザイン)を有してなる。更に多くのメンバー、例えば少なくとも1000000又は少なくとも10000000を有するのも好ましい。
【0147】
本発明の更なる態様は、本発明に係る、少なくとも2つのライブラリから選抜される2つの異なる免疫グロブリン、ドメイン又はミニドメインの組み合わせにより、多重特異性免疫グロブリンを調製することに関する。これらの選択された特異的な免疫グロブリンを、各々他の分子と(建築用ブロックと同様に)組み合わせて、ドメイン又はミニドメインの最適配列を設計し、所望の特性を得ることができる。例えば、Fcをベースとする分子を単独で用いてもよく、あるいは抗原結合特性を利用して、他の結合のモティーフのための担体として、又は定常若しくは可変ドメインを有する免疫グロブリンを造るための建築用ブロックとして使用でき、あるいは、好ましくは2、3又は4つの抗原結合部位を有する定常ドメインのみと組み合わせてもよい(例えば多重結合Fc分子)。
【0148】
更に、本発明に係る1つ以上の修飾免疫グロブリンを、タンパク質構造の崩壊を生じさせることなく、タンパク質中の様々な又は全部の部位に導入することもできる。かかる「ドメインシャッフリング」テクニックによって、所望の特性に基づき再度選抜されうる新規なライブラリが構築できる。
【0149】
好ましくは、本発明に係る免疫グロブリンはミニドメインを含む少なくとも2つの免疫グロブリンドメイン又はその一部を有してなり、各ドメインは少なくとも1つの抗原結合部位を有する。
【0150】
更に好適には、本発明による免疫グロブリン又はその一部は、免疫グロブリンの定常部の少なくとも1つのドメイン、及び/又は可変領域の少なくとも1つのドメインからなるミニドメインを有してなる。すなわち、可変ドメイン(例えばC末端領域において修飾される)又は修飾されたCH1ドメイン(たとえば修飾されたCH1ミニドメイン)に連結する可変ドメインが、好ましい実施形態として挙げられる。
【0151】
好適なライブラリは、免疫グロブリンのドメイン、ミニドメイン又はその誘導体からなる群から選択される、本発明に係る免疫グロブリンを有してなる。
【0152】
本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1つの免疫グロブリンドメイン及び本発明にの方法により修飾した構造ループ領域を有してなる、抗原との結合分子(抗原結合分子)であり、それは抗原との結合に用いられ、前記結合分子は抗体の可変ドメインを有さない。それは、抗体活性の調節に使用できる他の部分を有してもよい(例えば天然若しくは修飾されたエフェクター領域(配列))が、しかしながら、それは抗体の「天然の」結合ドメイン(すなわち可変ドメイン又はCDRループ(CDRドメイン中のVFRループを含む))を、それらの天然の位置において欠いている。本発明に係るこれらの抗原結合分子は、当該分子に関する上記の効果を有するが、CDRループによって媒介される抗体の特異的な結合活性は有さず、一方、構造ループ領域中に新しく導入された特異的な結合活性を有する。
【0153】
好ましくは、本発明に係るこれらの抗原結合分子は、CH1、CH2、CH3、CH4、Igk−C、Igl−C及びこれらの組み合わせ(前記組み合わせは少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、特に好ましくは少なくとも6つの定常ドメイン)、並びに、本発明により修飾された少なくとも1つの構造ループ又はループ領域を有してなる。好ましくは、これらの構造ループ領域は、本発明の方法で修飾された構造ループ領域、又は、かかる2つの定常ドメインの間に天然に存在する構造ループを介して連結されてもよい。本発明に係るこれらの抗原結合分子の実施態様は、本発明の方法により、構造ループ中に、少なくとも1つの修飾を有する抗体のFcドメインからなる。また、本発明にかかる抗原結合分子においては、ランダム化技術によって(すなわちランダム化技術によってループ中の1つ以上のアミノ酸残基を置換すること)、又はランダムに生成されたインサートをかかる構造ループ中に導入することによって、構造ループ中に新しい抗原結合部位を導入してもよい。その他の好適な方法としては、コンビナトリアル技術の使用が挙げられる。好ましくは、修飾された構造ループ中の抗原結合部位は、適切なライブラリから選抜される。
【0154】
他の態様では、本発明は、未修飾の免疫グロブリンとは異質の、1つ以上の構造ループに導入された特性を示す抗原結合部位を有する、修飾免疫グロブリンに関する。「異質の」という用語は、当該抗原が、免疫グロブリンの特異的なCDR結合ドメイン又は他の天然若しくは固有の結合ドメインにより認識されないことを意味する。免疫グロブリンの天然の結合パートナーでなく、異質の結合パートナーとはすなわち、構造ループ中に新しく形成された抗原結合部位に結合するものであってもよい。これは、天然の結合パートナー(例えばFc受容体又は免疫系のエフェクター)が、未修飾の免疫グロブリンとは異質の抗原結合部位と結合するとは考えられないことを意味する。
【0155】
本発明に係る好適な免疫グロブリンは、少なくとも2つの抗原結合部位、第1のエピトープに対する第1の結合部位、及び第2のエピトープに対する第2の結合部位を有してなる。
【0156】
好適な実施形態では、本発明の免疫グロブリンは、少なくとも2つのループ領域、第1のエピトープに結合する第1のループ領域、及び第2のエピトープに結合する第2のループ領域を有してなる。少なくとも第1のループ領域又は少なくとの第2のループ領域のいずれか、又はそれらの両方の構造ループを有してなるのが好ましい。本発明に係る免疫グロブリンは、従来技術において機能的であることが公知の断片を有し、それは本発明において必須の要素、すなわち本発明により修飾された構造ループ又はループ領域を有してなる。
【0157】
本発明に係る好適な免疫グロブリンは、未修飾のドメインと少なくとも50%の相同性を有するドメインを有してなる。
【0158】
「相同性」という用語は、ポリペプチドがそれらの一次若しくは二次若しくは三次構造において、対応する位置で同じ若しくは保存された残基を有することを意味する。当該用語はまた、相応するポリペプチドをコードする2つ以上のヌクレオチド配列にも適用される。
【0159】
「相同な免疫グロブリンドメイン」とは、本願明細書に開示される免疫グロブリンドメインであって、本発明に係る、全長の天然配列を有する免疫グロブリンドメイン配列、又は全長の免疫グロブリンドメイン配列の他のいかなる断片と、少なくとも約50%のアミノ酸配列同一性を有する免疫グロブリンドメインのことを意味する。好ましくは、相同な免疫グロブリンドメインとは、少なくとも約50%のアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも55%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも60%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約65%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約75%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を、天然の免疫グロブリンドメイン配列、あるいは本願明細書において開示される他の全長免疫グロブリンドメイン配列の断片の配列と共有する免疫グロブリンドメインのことを指す。
【0160】
本願明細書において同定される免疫グロブリンドメイン配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、特異的な免疫グロブリンドメイン配列中のアミノ酸残基と同一な、候補配列のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。それは、配列をアラインして、必要に応じてギャップを導入することにより、最大のパーセント配列同一性となるようにしたものであり、但し保存的な置換は配列同一性の一部としてはカウントしないことに留意すべきである。アミノ酸配列同一性パーセントの決定のためのアラインメントは、従来技術に公知の様々な方法により実施可能であり、一般公開されているコンピュータソフトウェア(例えばBLAST、BLAST−2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェア)を使用して行われる。当業者はアラインメントを測定するために適当なパラメータを決定できる。例えば、比較される配列の全長にわたり最大限のアラインメントを可能とする、必要なあらゆるアルゴリズムなどである。
【0161】
後述するように、WU−BLAST−2コンピュータプログラム(Altschulら、Methods in Enzymology 266:460−480(1996))を用いてアミノ酸配列同一性パーセント(%)の数値を得ることができる。大部分のWU−BLAST−2サーチパラメータは、デフォルト値に設定される。デフォルト値にセットされないそれら(すなわち可調パラメータ)は、以下の値に設定される:
overlap span=1、
overlap fraction=0.125、
word threshold(T)=11、
及びscoring matrix=BLOSUM62。
WU−BLAST−2を使用するとき、アミノ酸配列同一性%は、以下の(a)/(b)により算出される:
(a)天然の免疫グロブリンドメインに由来する、目的の配列を有する免疫グロブリンドメインのアミノ酸配列と、目的の比較用アミノ酸配列(すなわち、目的の免疫グロブリンドメインと比較するための配列。未修飾の免疫グロブリンドメインであってもよい)との間で一致する同一アミノ酸残基の数(WU−BLAST−2として定義される);
(b)目的の免疫グロブリンドメイン中の非ランダム化部分のアミノ酸残基の総数。例えば「アミノ酸配列Aを含んでなり、アミノ酸配列Bと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチド」というときは、アミノ酸配列Aが、目的の比較用アミノ酸配列であり、アミノ酸配列Bが、目的の免疫グロブリンドメインのアミノ酸配列である。
【0162】
本発明の別の態様は、(a)免疫グロブリンとは異質の抗原結合部位を有して、それが1つ以上の構造ループに導入されている修飾免疫グロブリンと、(b)前記抗原のエピトープを有する結合分子と、を含んでなる、結合パートナーのキットに関する。
【0163】
本発明に係るこのキットのかかる結合分子は、本発明に係る修飾免疫グロブリンの結合特性を同定するための捕捉用試薬として使用できる。本発明に係るこのキットの結合分子を用いて、本発明に係る修飾免疫グロブリンの力価を測定できる。
【0164】
本発明で定められる力価とは、修飾された分子のその抗原に対する結合特性のことを指す。当該結合は、品質管理目的で用いる場合は、特異性及び/又は親和性及び/又は選択性に関して、量的に及び/又は質的に測定できる。
【0165】
修飾により得られる本発明に係る分子の結合特性は、標準的な技術(例えば親和性成熟)によって更に調整できる。それにより、抗原結合部位の内部又はその周囲のヌクレオチド配列は更に、結合特性を調整するために置換される。
【0166】
更に、本発明に係るキットには、構造ループ中に異なる修飾を有する、少なくとも10、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも1000、より好ましくは少なくとも10000、特に好ましくは少なくとも100000の免疫グロブリンからなるライブラリから、本発明に係る適当な力価を有する修飾免疫グロブリンを選抜することにより得られる結合分子を用いるのが好ましい。
【0167】
実施例では、鍵となる特徴の1つとして、抗体(例えば抗原結合)の望ましい機能に通常関与しない免疫グロブリンドメイン又は領域を設計することが挙げられることを示している。すなわち、CDRループに隣接するループを含む、抗体のCDRドメイン以外のドメインを修飾することにより、その抗原結合機能が維持される。免疫グロブリンドメインの特異的なフォールディング構造が、構造的にCDRsに類似するが、位置及び配列において異なるドメインにおけるランダムな突然変異導入が可能になることが明らかとなった。本発明により同定されるドメインは、CDRsと同様、免疫グロブリンフォールディング構造のβ鎖と連結しているループ領域である。
【0168】
詳細には、本願明細書においては、突然変異(例えばヒトのIgG1 CH3ドメインのβ鎖AB及びEFを連結するループのランダム突然変異)の導入により、特にToll様受容体9−ペプチド(TLR−9)又は鶏卵リゾチームのいずれかに結合する変異するCH3ドメインが選抜された。それらは、ヒトのIgG1のCH3ドメインによって、通常認識されず、結合しないペプチド及びタンパク質である。導入された突然変異には、野生型配列中の選択されたアミノ酸残基鎖がランダムに選ばれた残基と交換されている突然変異が含まれる。またそれらは、上記のループへの更なるアミノ酸残基の挿入を含む。
【0169】
類推するに、いかなる種類の免疫グロブリンからの、及びいかなる種からの免疫グロブリンからの免疫グロブリンドメインも、この種の設計を行うことができる。更に本発明では、目標とされる特異的なループを操作できるのみならず、免疫グロブリンドメイン中のβ鎖を連結するいかなるループも同様に操作できる。
【0170】
いかなる生物体からの、いかなる種類の免疫グロブリンから設計された免疫グロブリンドメインも、本発明により、シングルドメインとして、又はより大きな分子の一部として調製できる。例えば、それらは全長の免疫グロブリンの一部であってもよく、したがって、6つのCDRsにより形成されるその「通常の」抗原結合ドメイン、及び新規に設計された抗原結合ドメインを有する。このように、多重特異性、例えば二重特異性の免疫グロブリンを調製できる。設計された免疫グロブリンドメインは、いかなる融合タンパク質の一部であってもよい。これらの設計された免疫グロブリンドメインの使用は、広義には免疫グロブリンの使用の分野である。
【0171】
別途示される場合を除き、免疫グロブリンのアミノ酸配列の全ての番号付けはIMGT付番に従う(IMGT,the international ImMunoGeneTics information system@imgt.cines.fr、http://imgt.cines.fr;Lefrancら、,1999,Nucleic Acids Res.27:209−212、Ruizら、,2000 Nucleic Acids Res.28:219−221、Lefrancら、,2001,Nucleic Acids Res.29:207− 209、Lefrancら、,2003,Nucleic Acids Res.31:307−310、Lefrancら、,2005,Dev Comp Immunol 29:185−203)。
【0172】
配列1
【表1】

配列2
【表2】

配列3
【表3】

配列4
【表4】

配列5
【表5】

配列6
【表6】

配列7
【表7】

配列8
【表8】

配列9
【表9】

配列10
【表10】

配列11
【表11】

配列12
【表12】

配列13
【表13】

配列14
【表14】

配列15
【表15】

【0173】
実施例1:CH3ライブラリ及びファージ表面ディスプレイの構築
結晶構造のIgG1 Fc断片(Brookhaven Databaseにおいてエントリー1OQO.pdbとして公知)を、変異CH3ドメインのデザインの補助に用いた。CH3ライブラリの構築の根拠として用いた配列を、配列番号1に示す。この配列において、第1のアミノ酸は、Brookhavenデータベースエントリーloqo.pdb.の鎖Aのプロリン343に対応する。loqo.pdbに含まれる最後の残基は、配列番号1のセリン102である。loqo.pdbの構造の詳細なアッセイ、及び、β鎖を連結するループを形成している残基の視覚による確認の後残基17、18及び19をランダム化するを決定し、それはβ鎖ABを連結しているループの一部であり、71、72、73、76及び77も同様であり、それは配列番号1のβ鎖EFを連結しているループの一部である。デザインされた遺伝子は、一連のPCR反応に、更に得られるPCR産物のライゲーションによって得た。ライゲーションを容易にするために、配列番号1のためのヌクレオチド配列コードのコドンの幾つかを、アミノ酸配列(サイレント突然変異)を変えることのない制限部位を生じさせるために修飾した。pHEN1(Nucleic Acids Res.1991 Aug 11;19(15):4133−7.Multi−subunit proteins on the surface of filamentous phage:methodologies for displaying antibody(Fab) heavy and light chains.Hoogenboom HR,Griffiths AD,Johnson KS,Chiswell DJ,Hudson P,Winter G.)への、pelB分泌シグナルとのインフレームでのクローニングベクターへの挿入のために、Met−Alaをコードする余分のヌクレオチド残基を、配列の5’末端に連結し、Ncol制限部位を設けた。ランダム化された残基の場合、全ての20の天然アミノ酸をコードするが、3つの停止コドン中2つを回避するコドンNNS(IUPACコード、SがC又はGを意味する)を選択した。デザインされた配列を、配列番号2のヌクレオチド配列として及び配列番号3のアミノ酸配列として示す。配列番号3の文字Xは、ランダム化されたアミノ酸残基を意味する。変異CH3ドメインの組立のために使用するPCRプライマの配列を、配列番号4から9に示す。
【0174】
ヒトモノクローナル抗体3D6の重鎖のcDNA(Felgenhauer M,Kohl J,Rueker F.Nucleotide sequences of the cDNAs encoding the V−regions of H− and L−chains of a human mono−lonal antibody specific to HIV−1−gp41.Nucleic Acids Res.1990 Aug 25; 18 (16):4927.)を、PCR反応のテンプレートとして用いた。3つのPCR産物を、それぞれSad及び/又はHindIIIにより切断し、一緒にライゲーションした。ライゲーション生成物をNcol及びNotIによって、更に切断し、表層ディスプレイファージミドベクターpHen1(事前にNcol及びNotlにより切断)にライゲーションした。多くの選抜されたクローンが、制限アッセイ及びDNA塩基配列決定により計画どおりに制御され、正しく挿入されたランダム化された配列を含む、インサートを含むことが明らかとなった。ファージ調製の次の工程においては、標準プロトコルに従い行った。簡潔には、ライゲーション混合物を、エレクトロポーレーションによってE.coli TG1細胞に導入して形質転換した。その後、ファージ粒子を、ヘルパー・ファージM13−KO7を用いてE.coli TG1細胞からレスキューした。ファージ粒子は更に2つのステップで、PEG/NaClを用いて培養上清から沈殿させ、水に分解させ、パニングによる選抜のために用いたか、又は−80℃で保存した。
【0175】
実施例2:CH3+3ライブラリの構築
CH3ライブラリと同様に、このライブラリを構築し、クローニングした。構築物のアミノ酸配列を配列番号10に示し、対応するヌクレオチド配列を配列番号11に示し、構築のために使用するプライマを配列番号4から7、配列番号9及び配列番号12に示す。
【0176】
実施例3:CH3+5ライブラリの構築
CH3ライブラリと同様に、このライブラリを構築し、クローニングした。構築物のアミノ酸配列を配列番号13に示し、対応するヌクレオチド配列を配列番号14に示し、構築のために使用するプライマを配列番号4から7、配列番号9及び配列番号15に示す。
【0177】
実施例4:CH1ライブラリの構築
ヒトのIgG1 CH1ライブラリにおいて、Ser93、Ser94、Ser95、Gly98、Thr99及びGln100をランダム化し、更に3つのランダムな残基を、部位特異的ランダムな突然変異導入した。Leu96は変異しなかった。他のヒトのIgG1 CH1ライブラリにおいて、Pro92、Ser93、Ser94、Ser95、Leu96、Thr101、Gly98、Thr99及びGln100をランダム化し、更に3つのランダムな残基を、部位特異的ランダムな突然変異導入した。ファージミドベクターpHENlのNcol及びNotl制限酵素部位を用いて、ライブラリをコードする遺伝子を、N末端でpelBリーダーとインフレームで、C末端でfdファージ由来のタンパク質IIIとインフレームでクローニングした。特異的結合クローンのファージ粒子の調製、パニング及び選抜は、標準的方法を使用して実施した。
【0178】
ライブラリ配列:
【表16】

【表17】

【0179】
実施例4:CLライブラリの構築
ヒトのIgG1 CLライブラリにおいて、Ser92、Lys93、Ala94、Asp95、Glu97、Lys98及びHis99をランダム化し、Ser16とGly17の間に、更に3つのランダムな残基を、部位特異的ランダムな突然変異導入した。ファージミドベクターpHENlのNcol及びNotl制限酵素部位を用いて、ライブラリをコードする遺伝子を、N末端でpelBリーダーとインフレームで、C末端でfdファージ由来のタンパク質IIIとインフレームでクローニングした。特異的結合クローンのファージ粒子の調製、パニング及び選抜は、標準的方法を使用して実施した。
【表18】

【0180】
実施例5:RpI10−Lペプチド上における、CH3−ファージライブラリのパニング
3つのパニングラウンドを実施した。マレイミド活性化プレート(Pierce社製)は合成ペプチドRp10−Lでコーティングされ、B細胞分子標識CD20(Perosaら、Ann N Y Acad Sci.(2005)51:672−83)のミモトープ(mimotope)を発現する。その推定アミノ酸配列は以下の通りである:ITPWPHWLERSS。以下の溶液の200μlをウェルに添加した:PBS(pH=7.2)以下の濃度のペプチドを溶解させる:−1回目のパニングラウンド:100μg/ml−2回目のパニングラウンド:100μg/ml−3回目のパニングラウンド:50μg/ml。
【0181】
4℃で一晩培養し、更に室温で2時間、ウェルあたり200μlのPBS(10μg/mlのシステイン−HC1)でブロッキングした。
【0182】
表層ディスプレイファージライブラリ(ライブラリCH3、CH3+3,CH3+5及びCH3+7からの等濃度のファージを含む)を更に、200μlのファージ懸濁液及び2%のBSA−PBSを添加し、振とうさせながら45分間インキュベートし、更に室温で振とうさせずに90分インキュベートし、結合ペプチドと反応させた。
【0183】
未結合ファージ粒子を、以下の通りに洗浄除去した:−1パニングラウンドの後:15×200μl T−PBS、5×200μl T−PBS;−1パニングラウンドの後:15×200μl T−PBS、10×200μl T−PBS;−1パニングラウンドの後:20×200μl T−PBS、20×200μl T−PBS。
【0184】
結合した粒子の溶出は、培養ウェルあたり0.1Mのグリシン(pH=2.2)を200μl添加し、室温で30分間振とうすることにより実施した。その後、ファージ懸濁液を60μl 2Mトリス−ベースの添加によって中和し、更に、0.5mlの抽出したファージと、10mlの指数的に成長する培養液とを混合し、37℃で30分間培養することにより、E.coli TG1細胞をトランスフェクションした。最後に、感染したバクテリアを、1%のブドウ糖及び100μg/mlアンピシリンを有するTYE培地で平板培養し、30℃で一晩インキュベートした。
【0185】
Rp10−Lペプチド上の、CH3−ファージライブラリのパニングの結果
【0186】
ファージのタイター
【表19】

【0187】
実施例6:可溶性発現のための、選抜されたクローンのクローニング
形質転換したCH3ドメイン−コード配列(抽出したファージ粒子内に含まれる)をPCRによりバッチ増幅した。Ncol及びNotlによる制限酵素処理の後、それらをpNOTBAD(Invitrogen社製ベクターpBAD、後にNot1部位を挿入)に挿入した。E.coll E104への形質変換の後、細胞を、1%のブドウ糖及び100μg/mlアンピシリンを有するTYE培地で30℃で選抜した。
【0188】
選抜されたクローンの可溶性発現及びスクリーニング
【0189】
4×96のアンピシリン耐性コロニーを、30℃で一晩、シェーカ上のマイクロタイタプレート上で、200μlのアンピシリンを有する2×YT媒体で培養した。それらを更に、0.1%の最終濃度でL−アラビノースを添加して誘導した。更に一晩培養の後、細胞を、室温で2000回転/分で15分間遠心分離して回収し、それらのペリプラズムタンパク質を、100μl Na−ホウ酸塩バッファ(160mMのNa−ホウ酸塩、200mMのNaCl、pH=8.0)に再懸濁液し、少なくとも6時間インキュベートすることにより放出させた。
【0190】
スクリーニングの際、4枚のマレイミドプレートを、50μg/mlのペプチドRp10−L(4℃で一晩、PBS(pH=7.2)中で溶解)の100μg/ml溶液を用いてコーティングした。プレートを更に、室温で2時間、ウェルあたり200μlのPBS(10μg/mlシステイン−HCl)でブロッキングした。
【0191】
放出されたペリプラズムタンパク質を更に、50μlの溶解物及び50μlの2% BSA−PBSを添加し、更に室温で一晩培養することによって、結合したペプチドと反応させた。
【0192】
Hisタグタンパク質の結合は、テトラ−his(QIAgen)に対する抗体をウェルあたり100μl添加し、90分間インキュベートし、1%BSA−PBSで1:1000に希釈し、ヤギ抗マウス抗体(HRPラベル(Sigma社製))をウェルあたり100μl添加し、90分間インキュベートし、1%のBSA−PBSで1:1000に希釈することにより解析した。基質OPD(3mg/ml)のNa−クエン酸塩/リン酸塩バッファ(pH=4.5)中溶液、及び0.4μl/mlのH22の添加の後、シグナルを観察した。100μlの1.25M H2SO4を添加して反応を停止させた。
【0193】
クローンあたりの、単一ウェルにおけるRp10−Lの結合のスクリーニング結果
【表20】

【0194】
バックグラウンド反応
【表21】

【0195】
一晩30℃で、陽性シグナルを現しているクローンを、アンピシリンを有する20mlの2×YT培地で培養した。更に、それらを新しい培地に1:20で植継ぎ、30℃で3時間後、それらを0.1%のL−アラビノースの最終濃度により誘導し、16℃で一晩組換えCH3−ドメインを発現させた。発現細胞のペリプラズムを、更に少なくとも6時間1mlのNa−ホウ酸塩バッファ(PH=S−O)中に溶解させた。ペリプラズム抽出物をRp10−Lペプチドと反応させ、その結合を上記の通りに正確に現させた。
【0196】
Rp10−Lの結合のスクリーニング結果

【表22】

【0197】
pET27bの可溶性発現のための、選抜されたクローンのクローニング
【0198】
形質転換したCH3ドメイン−コード配列(Rp10−Lへの結合に関する顕著なシグナルを生じさせるクローン内に含まれる)をPCRにより増幅した。Ncol及びNot1による制限酵素処理の後、それらをpET27b(Novagen)に挿入した。E.coli BL21(DE3)への形質転換の後、転換細胞を、1%のブドウ糖及び50μg/mlカナマイシンを有するTYE培地で30℃で選抜した。
【0199】
陽性シグナルを現すクローンを、2%のブドウ糖及びカナマイシンを有する20mlのM9ZB培地で30℃で一晩培養した。更に、それらを新しい培地に1:20で植継ぎ、30℃で3時間後、それらをブドウ糖の代わりに1%のグリセリン、カナマイシン及び1mM IPTGを含有する培地で誘導し、16℃で一晩、組換えCH3−ドメインを発現させた。発現細胞のペリプラズムを、更に少なくとも6時間、1mlのNa−ホウ酸塩バッファ(pH=8.0)中に溶解させた。ペリプラズム抽出液を、ウエスタンブロッティング及び抗テトラ−his抗体(QIAgen)による検出により、組換えタンパク質の存在をアッセイした。
【0200】
ヌクレオチド配列及びCD−20結合クローンの推定されたタンパク質配列
【表23】

※変異残基の第2グループへの2ヌクレオチドの挿入により、依然として存在するR及びW(第2及び第3の変異残基のグループを分離する)の間にG残基が挿入された。
【0201】
CD20に特異的なCH3+3ライブラリクローンD83(IMGT付番)のタンパク質配列

【表24】

【0202】
FACSを用いた、CD−20(細胞上に発現)の結合のアッセイ
【0203】
約105のダウディ細胞をPBSで洗浄し(800回転/分、5分、室温)、1%BSA−PBS中の組換えCH3ドメインを氷上で2時間結合させた。細胞をPBSで再度洗浄し、氷上で30分間、1%のBSA−PBSで希釈した抗ペンタHis−Alexa fluor 488抗体(QIAgen社製)2μg/mlと反応させた。洗浄後、細胞をFACSでアッセイした。非標識の細胞、野生型CH3ドメイン及びK562細胞株をコントロールとして用いた。
【0204】
実施例7:CH1−変異体タンパク質と結合するCD20抗原の単離
3つのパニングラウンドを実施した。マレイミド活性化プレート(Pierce社製)は合成ペプチドでコーティングされ、B細胞分子標識CD20のミモトープ(mimotope)を発現する。以下の溶液の200μlをウェルに添加した:
PBS(pH=7.2)以下の濃度のペプチドを溶解させる:
−1回目のパニングラウンド:100μg/ml
−2回目のパニングラウンド:100μg/ml
−3回目のパニングラウンド:50μg/ml。
【0205】
4℃で一晩培養し、更に室温で2時間、ウェルあたり200μlのPBS(10μg/mlのシステイン−HC1)でブロッキングした。
【0206】
表層ディスプレイファージライブラリ(ライブラリCH1を表す)を更に、200μlのファージ懸濁液及び2%のBSA−PBSを添加し、振とうさせながら45分間インキュベートし、更に室温で振とうさせずに90分インキュベートし、結合ペプチドと反応させた。
【0207】
未結合ファージ粒子を、以下の通りに洗浄除去した:
−1パニングラウンドの後:10×200μl T−PBS、5×200μl T−PBS;
−1パニングラウンドの後:15×200μl T−PBS、10×200μl T−PBS;
−1パニングラウンドの後:20×200μl T−PBS、20×200μl T−PBS。
【0208】
結合した粒子の溶出は、培養ウェルあたり0.1Mのグリシン(pH=2.2)を200μl添加し、室温で30分間振とうすることにより実施した。その後、ファージ懸濁液を60μl 2Mトリス−ベースの添加によって中和し、更に、0.5mlの抽出したファージと、10mlの指数的に成長する培養液とを混合し、37℃で30分間培養することにより、E.coli TG1細胞をトランスフェクションした。最後に、感染したバクテリアを、1%のブドウ糖及び100μg/mlアンピシリンを有するTYE培地で平板培養し、30℃で一晩インキュベートした。
【0209】
Rp10−Lペプチド上の、CH1−ファージライブラリのパニングの結果
【0210】
ファージのタイター
【表25】

【0211】
可溶性発現のための、選抜されたクローンのクローニング
【0212】
形質転換したCH1ドメイン−コード配列(抽出したファージ粒子内に含まれる)をPCRによりバッチ増幅した。Ncol及びNotlによる制限酵素処理の後、それらをpNOTBAD(Invitrogen社製ベクターpBAD、後にNot1部位を挿入)に挿入した。E.coli E104への形質変換の後、細胞を、1%のブドウ糖及び100μg/mlアンピシリンを有するTYE培地で30℃で選抜した。
【0213】
選抜されたクローンの可溶性発現及びスクリーニング
【0214】
4×96のアンピシリン耐性コロニーを、30℃で一晩、シェーカ上のマイクロタイタプレート上で、200μlのアンピシリンを有する2×YT媒体で培養した。それらを更に、0.1%の最終濃度でL−アラビノースを添加して誘導した。更に一晩培養の後、細胞を、室温で2000回転/分で15分間遠心分離して回収し、それらのペリプラズムタンパク質を、100μl Na−ホウ酸塩バッファ(160mMのNa−ホウ酸塩、200mMのNaCl、pH=8.0)に再懸濁液し、少なくとも6時間インキュベートすることにより放出させた。
【0215】
スクリーニングの際、4枚のマレイミドプレートを、50μg/mlのペプチドRp10−L(4℃で一晩、PBS(pH=7.2)中で溶解)の100μg/ml溶液を用いてコーティングした。プレートを更に、室温で2時間、ウェルあたり200μlのPBS(10μg/mlシステイン−HCl)でブロッキングした。
【0216】
放出されたペリプラズムタンパク質を更に、50μlの溶解物及び50μlの2% BSA−PBSを添加し、更に室温で一晩培養することによって、結合したペプチドと反応させた。Hisタグタンパク質の結合は、テトラ−his(QIAgen)に対する抗体をウェルあたり100μl添加し、90分間インキュベートし、1%BSA−PBSで1:1000に希釈し、ヤギ抗マウス抗体(HRPラベル(Sigma社製))をウェルあたり100μl添加し、90分間インキュベートし、1%のBSA−PBSで1:1000に希釈することにより解析した。基質OPD(3mg/ml)のNa−クエン酸塩/リン酸塩バッファ(pH=4.5)中溶液、及び0.4μl/mlのH22の添加の後、シグナルを観察した。100μlの1.25M H2SO4を添加して反応を停止させた。
【0217】
クローンあたりの、単一ウェルにおけるRp10−Lの結合のスクリーニング結果
【表26】

【0218】
バックグラウンド反応
【表27】

【0219】
一晩30℃で、陽性シグナルを現しているクローンを、アンピシリンを有する20mlの2×YT培地で培養した。更に、それらを新しい培地に1:20で植継ぎ、30℃で3時間後、それらを0.1%のL−アラビノースの最終濃度により誘導し、16℃で一晩組換えCH3−ドメインを発現させた。発現細胞のペリプラズムを、更に少なくとも6時間1mlのNa−ホウ酸塩バッファ(PH=S−O)中に溶解させた。ペリプラズム抽出物をRp10−Lペプチドと反応させ、その結合を上記の通りに正確に現させた。
【0220】
Rp10−Lの結合のアッセイ結果
【表28】

【0221】
pET27bの可溶性発現のための、選抜されたクローンのクローニング
【0222】
形質転換したCH1ドメイン−コード配列(Rp10−Lへの結合に関する顕著なシグナルを生じさせるクローン内に含まれる)をPCRにより増幅した。Ncol及びNot1による制限酵素処理の後、それらをpET27b(Novagen)に挿入した。E.coli BL21(DE3)への形質転換の後、転換細胞を、1%のブドウ糖及び50μg/mlカナマイシンを有するTYE培地で30℃で選抜した。
【0223】
陽性シグナルを現すクローンを、2%のブドウ糖及びカナマイシンを有する20mlのM9ZB培地で30℃で一晩培養した。更に、それらを新しい培地に1:20で植継ぎ、30℃で3時間後、それらをブドウ糖の代わりに1%のグリセリン、カナマイシン及び1mM IPTGを含有する培地で誘導し、16℃で一晩、組換えCH1−ドメインを発現させた。発現細胞のペリプラズムを、更に少なくとも6時間、1mlのNa−ホウ酸塩バッファ(pH=8.0)中に溶解させた。ペリプラズム抽出液を、ウエスタンブロッティング及び抗テトラ−his抗体(QIAgen)による検出により、組換えタンパク質の存在をアッセイした。
【0224】
CD20に特異的なCH1 SMID(クローンC45)の配列
【表29】

【0225】
FACSを用いた、CD−20(細胞上に発現)の結合のアッセイ
【0226】
約105のダウディ細胞をPBSで洗浄し(800回転/分、5分、室温)、1%BSA−PBS中の組換えCH3ドメインを氷上で2時間結合させた。細胞をPBSで再度洗浄し、氷上で30分間、1%のBSA−PBSで希釈した抗ペンタHis−Alexa fluor 488抗体(QIAgen社製)2μg/mlと反応させた。洗浄後、細胞をFACSでアッセイした。非標識の細胞、野生型CH1ドメイン及びK562細胞株をコントロールとして用いた。
【0227】
実施例8:CL−変異体タンパク質と結合するCD20抗原の単離
3つのパニングラウンドを実施した。マレイミド活性化プレート(Pierce社製)は合成ペプチドでコーティングされ、B細胞分子標識CD20のミモトープ(mimotope)を発現する。以下の溶液の200μlをウェルに添加した:PBS(pH=7.2)以下の濃度のペプチドを溶解させる:−1回目のパニングラウンド:100μg/ml−2回目のパニングラウンド:100μg/ml−3回目のパニングラウンド:50μg/ml。
【0228】
4℃で一晩培養し、更に室温で2時間、ウェルあたり200μlのPBS(10μg/mlのシステイン−HC1)でブロッキングした。
【0229】
表層ディスプレイファージライブラリ(ライブラリCLを表す)を更に、200μlのファージ懸濁液及び2%のBSA−PBSを添加し、振とうさせながら45分間インキュベートし、更に室温で振とうさせずに90分インキュベートし、結合ペプチドと反応させた。
【0230】
未結合ファージ粒子を、以下の通りに洗浄除去した:
−1パニングラウンドの後:10×200μl T−PBS、5×200μl T−PBS;
−1パニングラウンドの後:15×200μl T−PBS、10×200μl T−PBS;
−1パニングラウンドの後:20×200μl T−PBS、20×200μl T−PBS。
【0231】
結合した粒子の溶出は、培養ウェルあたり0.1Mのグリシン(pH=2.2)を200μl添加し、室温で30分間振とうすることにより実施した。その後、ファージ懸濁液を60μl 2Mトリス−ベースの添加によって中和し、更に、0.5mlの抽出したファージと、10mlの指数的に成長する培養液とを混合し、37℃で30分間培養することにより、E.coli TG1細胞をトランスフェクションした。最後に、感染したバクテリアを、1%のブドウ糖及び100μg/mlアンピシリンを有するTYE培地で平板培養し、30℃で一晩インキュベートした。
【0232】
Rp10−Lペプチド上の、CL−ファージライブラリのパニングの結果
【0233】
ファージのタイター
【表30】

【0234】
可溶性発現のための、選抜されたクローンのクローニング
【0235】
形質転換したCH1ドメイン−コード配列(抽出したファージ粒子内に含まれる)をPCRによりバッチ増幅した。Ncol及びNotlによる制限酵素処理の後、それらをpNOTBAD(Invitrogen社製ベクターpBAD、後にNot1部位を挿入)に挿入した。E.coli E104への形質変換の後、細胞を、1%のブドウ糖及び100μg/mlアンピシリンを有するTYE培地で30℃で選抜した。
【0236】
選抜されたクローンの可溶性発現及びスクリーニング
【0237】
4×96のアンピシリン耐性コロニーを、30℃で一晩、シェーカ上のマイクロタイタプレート上で、200μlのアンピシリンを有する2×YT媒体で培養した。それらを更に、0.1%の最終濃度でL−アラビノースを添加して誘導した。更に一晩培養の後、細胞を、室温で2000回転/分で15分間遠心分離して回収し、それらのペリプラズムタンパク質を、100μl Na−ホウ酸塩バッファ(160mMのNa−ホウ酸塩、200mMのNaCl、pH=8.0)に再懸濁液し、少なくとも6時間インキュベートすることにより放出させた。
【0238】
スクリーニングの際、4枚のマレイミドプレートを、50μg/mlのペプチドRp10−L(4℃で一晩、PBS(pH=7.2)中で溶解)の100μg/ml溶液を用いてコーティングした。プレートを更に、室温で2時間、ウェルあたり200μlのPBS(10μg/mlシステイン−HCl)でブロッキングした。
【0239】
放出されたペリプラズムタンパク質を更に、50μlの溶解物及び50μlの2% BSA−PBSを添加し、更に室温で一晩培養することによって、結合したペプチドと反応させた。
【0240】
Hisタグタンパク質の結合は、テトラ−his(QIAgen)に対する抗体をウェルあたり100μl添加し、90分間インキュベートし、1%BSA−PBSで1:1000に希釈し、ヤギ抗マウス抗体(HRPラベル(Sigma社製))をウェルあたり100μl添加し、90分間インキュベートし、1%のBSA−PBSで1:1000に希釈することにより解析した。基質OPD(3mg/ml)のNa−クエン酸塩/リン酸塩バッファ(pH=4.5)中溶液、及び0.4μl/mlのH22の添加の後、シグナルを観察した。100μlの1.25M H2SO4を添加して反応を停止させた。
【0241】
クローンあたりの、単一ウェルにおけるRp10−Lの結合のスクリーニング結果
【表31】

【0242】
バックグラウンド反応
【表32】

【0243】
一晩30℃で、陽性シグナルを現しているクローンを、アンピシリンを有する20mlの2×YT培地で培養した。更に、それらを新しい培地に1:20で植継ぎ、30℃で3時間後、それらを0.1%のL−アラビノースの最終濃度により誘導し、16℃で一晩組換えCL−ドメインを発現させた。発現細胞のペリプラズムを、更に少なくとも6時間1mlのNa−ホウ酸塩バッファ(PH=S−O)中に溶解させた。ペリプラズム抽出物をRp10−Lペプチドと反応させ、その結合を上記の通りに正確に現させた。
【0244】
Rp10−Lの結合のアッセイ結果
【表33】

【0245】
pET27bの可溶性発現のための、選抜されたクローンのクローニング
【0246】
形質転換したCH1ドメイン−コード配列(Rp10−Lへの結合に関する顕著なシグナルを生じさせるクローン内に含まれる)をPCRにより増幅した。Ncol及びNot1による制限酵素処理の後、それらをpET27b(Novagen)に挿入した。E.coli BL21(DE3)への形質転換の後、転換細胞を、1%のブドウ糖及び50μg/mlカナマイシンを有するTYE培地で30℃で選抜した。
【0247】
陽性シグナルを現すクローンを、2%のブドウ糖及びカナマイシンを有する20mlのM9ZB培地で30℃で一晩培養した。更に、それらを新しい培地に1:20で植継ぎ、30℃で3時間後、それらをブドウ糖の代わりに1%のグリセリン、カナマイシン及び1mM IPTGを含有する培地で誘導し、16℃で一晩、組換えCL−ドメインを発現させた。発現細胞のペリプラズムを、更に少なくとも6時間、1mlのNa−ホウ酸塩バッファ(pH=8.0)中に溶解させた。ペリプラズム抽出液を、ウエスタンブロッティング及び抗テトラ−his抗体(QIAgen)による検出により、組換えタンパク質の存在をアッセイした。
【0248】
実施例9:インテグリン−結合Fcabのクローニング、発現及び評価
元来環状ペプチドであるCRGDCLは、最初、Koivunenその他によって1993年、繊維状ファージにおいて発現する6−アミノ酸ペプチドライブラリから単離され(J.Biol.Chem.1993 Sep 25、268(27):20205−10)、RGDを発現するファージのαvβ1インテグリンへの結合、又はフィブロネクチンへのαvβ1発現細胞の結合を阻害することが示されている。上記ペプチドはまた、αvβ1、αvβ3及びαvβ5インテグリンにより媒介される細胞接着を阻害することが知られている。
【0249】
本発明において、配列GCRGDCLをヒトIgG1のCH3ドメインの構造ループ(「EF」ループ)に挿入した。この際、残基Asp92及びLys93(IMGT付番)を、それぞれGIy及びLeuに変異させ、5つの残基CRGDCを標準的なクローニング技術を用いてこれらの変異残基92及び93の間に挿入し、インテグリン−結合RGDのモティーフを有するループを作成した。インサートのC末端に、上記配列を、ベクターのマルチクローニング部位とインフレームで融合させ、HSV−タグ及びHis−タグを組換えタンパク質のC末端に結合するように構築した。この組換えタンパク質Fcab−RGD4を、短RGD4と称する。Fcab−RGD4をコードするDNA配列及びアミノ酸配列への翻訳配列を以下に示す。
【表34】

【0250】
Fcab−RGD4及びFcab−wtをコードする配列をそれぞれ、従来公知のクローニング技術によって、哺乳類の発現ベクターpCEP4に導入した。HEK293細胞を、これらの発現プラスミドでトランジェントにトランスフェクションし、Fcabを含有する培地を3日後及び1週後に回収した。Fcabsを、プロテインA柱、カラムからの酸溶出、及びその直後の中和により精製した。FcabsをPBSで透析し、ヒトαvβ3インテグリン(Chemicon社製)に対する結合を、ELISAで試験した。
【0251】
インテグリンELISAの際、PBSの1μg/mlのヒトαvβ3インテグリンを、Maxisorpプレート上で一晩コーティングし、1mMのCa2+を含有する、PBS中のBSA溶液で1時間ブロッキングした。Fcab−RGD4及びFcab−wtをそれぞれ、10μg/mlの精製タンパク質を基に調製した様々な希釈系列と1時間結合させた。結合したFcabsを、HRP標識プロテインA及び基質としてのTMBにより検出した。インテグリンに対するRGD4の結合(赤いライン)は、10μg/mlから0.16μg/mlのタンパク質濃度において、顕著なシグナルであることを示す。負のコントロールとして、RGD4は、インテグリンがない場合にはプレートと結合せず(灰色のライン)、またFcab−wtは、インテグリンコートしたプレートと結合しなかった(緑のライン)。市販のマウス抗ヒトαvβ3インテグリンmAb LM609の結合を、正のコントロールとした(Chemicon社製、ブルーライン)。
【表35】

【0252】
表:ヒトαvβ3インテグリンに対する、RGD4及びLM609の結合を示すELISAデータ。最初のカラムに示す様々なタンパク質濃度において試験し、それぞれの列の、450nmのシグナルが得られた。得られるHEKで産生されプロテインAで精製されたFcab−RGD4の、インテグリンに対する結合値を第2のカラムに示し、第3のカラムに負のコントロールであるFcab−wtを示し、Fcab−RGD4コーティングしたブランクのコントロールを第4のカラムに示す。マウス抗αvβ3インテグリンmAb LM609の結合値を最後のカラムに示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価の免疫グロブリン又はその部分であって、単一の細胞上の少なくとも2つの細胞表面分子と特異的に結合し、前記免疫グロブリンの少なくとも1つの構造ループ領域の中に少なくとも1つの修飾を有し、前記細胞表面分子のエピトープに対する結合を決定し、未修飾の免疫グロブリンが前記エピトープと顕著に結合しない、前記多価の免疫グロブリン又はその部分。
【請求項2】
修飾された前記構造ループ領域が、前記免疫グロブリンの定常ドメイン中に、好ましくはCH1、CH2、CH3、CH4、Igk−C、Igl−C又はその部分中に存在する、請求項1記載の免疫グロブリン。
【請求項3】
修飾された前記構造ループ領域が、少なくとも6つのアミノ酸修飾を有する、請求項2記載の免疫グロブリン。
【請求項4】
ヒト若しくはマウス由来のCH1、CH2、CH3又はCH4の修飾されたループ領域が、アミノ酸7〜21、アミノ酸25〜39、アミノ酸41〜81、アミノ酸83〜85、アミノ酸89〜103又はアミノ酸106〜117の範囲内に少なくとも1つの修飾を有する、請求項1から3のいずれか1項記載の免疫グロブリン。
【請求項5】
ヒト由来のIgk−C又はIgI−Cのループ領域が、アミノ酸8〜18、アミノ酸27〜35、アミノ酸42〜78、アミノ酸83〜85、アミノ酸92〜100、アミノ酸108〜117又はアミノ酸123〜126の範囲内に少なくとも1つの修飾を有する、請求項1から3のいずれか1項記載の免疫グロブリン。
【請求項6】
マウス由来のIgk−C又はIgl−Cのループ領域が、アミノ酸8〜20、アミノ酸26〜36、アミノ酸43〜79、アミノ酸83〜85、アミノ酸90〜101、アミノ酸108〜116又はアミノ酸122〜125の範囲内に少なくとも1つの修飾を有する、請求項1から3のいずれか1項記載の免疫グロブリン。
【請求項7】
免疫グロブリン定常ドメインがラクダ科の動物由来である、請求項1から3のいずれか1項記載の免疫グロブリン。
【請求項8】
免疫グロブリンが、CH1、CH2及びCH3からなる群から選択される、少なくとも1つの修飾された定常ドメインを有する、請求項7記載の免疫グロブリン。
【請求項9】
CH1、CH2及び/又はCH3の修飾されたループ領域が、アミノ酸8〜20、アミノ酸24〜39、アミノ酸42〜78、アミノ酸82〜85、アミノ酸91〜103又はアミノ酸108〜117の範囲内に少なくとも1つの修飾を有する、請求項8記載の免疫グロブリン。
【請求項10】
可変ドメインがVH、Vκ、Vλ、VHH及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の免疫グロブリン。
【請求項11】
VH、Vκ、Vλ又はVHHの修飾されたループ領域が、アミノ酸7〜21、アミノ酸25〜39、アミノ酸41〜81、アミノ酸83〜85、アミノ酸89〜103又はアミノ酸106〜117の範囲内に少なくとも1つの修飾を有し、ドメインのアミノ酸位の付番がIMGTに従う、請求項1から10のいずれか1項記載の免疫グロブリン
【請求項12】
ヒト由来のVH又はVκ又はVλのループ領域が、アミノ酸8〜20、アミノ酸44〜50、アミノ酸67〜76及びアミノ酸89〜101、最も好ましくはアミノ酸位12〜17、アミノ酸位45〜50、アミノ酸位69〜75及びアミノ酸位93〜98の範囲内に少なくとも1つの修飾を有し、ドメインのアミノ酸位の付番がIMGTに従う、請求項1から10のいずれか1項記載の免疫グロブリン
【請求項13】
マウス由来のVHのループ領域が、アミノ酸6〜20、アミノ酸44〜52、アミノ酸67〜76及びアミノ酸92〜101の範囲内に少なくとも1つの修飾を有し、ドメインのアミノ酸位の付番がIMGTに従う、請求項1から10のいずれか1項記載の免疫グロブリン
【請求項14】
ラクダ科の動物由来のVHHの修飾されたループ領域が、アミノ酸7〜18、アミノ酸43〜55、アミノ酸68〜75及びアミノ酸91〜101の範囲内に少なくとも1つの修飾を有し、ドメインのアミノ酸位の付番がIMGTに従う、請求項1から10のいずれか1項記載の免疫グロブリン
【請求項15】
修飾された前記免疫グロブリンが更に、1つ以上の修飾された免疫グロブリン若しくは未修飾の免疫グロブリン、又はその部分と組み合わされることにより、組み合わせ免疫グロブリンが得られる、請求項1から10のいずれか1項記載の免疫グロブリン。
【請求項16】
前記修飾が、削除、置換、挿入又はそれらの組み合わせである、請求項1から15のいずれか1項記載の免疫グロブリン。
【請求項17】
請求項1から14のいずれか1つに記載の免疫グロブリン又はその部分をコードする核酸。
【請求項18】
請求項1から16のいずれか1項記載の多価免疫グロブリンを設計するための方法であって、
− 少なくとも1つの構造ループ領域からなる免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、
− 前記構造ループ領域の中の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
− 発現システム中に前記修飾された核酸を存在させるステップと、
− 前記多価免疫グロブリンを発現させるステップと、
− 発現された多価免疫グロブリンとエピトープとを接触させ、前記多価免疫グロブリンが前記エピトープと結合するか否かを測定するステップを有してなる方法。
【請求項19】
薬剤の調製への、請求項1から16のいずれか1項記載の多価免疫グロブリンの使用。

【公表番号】特表2009−540837(P2009−540837A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516813(P2009−516813)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【国際出願番号】PCT/AT2007/000313
【国際公開番号】WO2008/003103
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(509000552)
【Fターム(参考)】