説明

新規な有機シラン化合物

本発明は新規な有機シラン化合物に関する。より詳細には、有機樹脂と無機フィラーとの親和性を高める目的、あるいはマトリックス樹脂を含むコーティング層と基材との間の接着性を向上させる目的で多様な用途に有用な新規な有機シラン化合物に関する。本発明の有機シラン化合物は、特に、液晶表示装置の偏光板用接着剤のガラス基板に対する接着性を向上させ、高温高湿下における経時変化を少なくするために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機シラン化合物に関する。より詳しくは有機樹脂と無機フィラーとの親和性を高める目的、あるいはマトリックス樹脂を含むコーティング層と基材との間の接着性を向上させる目的で多様な用途に有用であり、特に、液晶表示装置の偏光板用接着剤のガラス基板との接着性を向上させ、高温高湿下においても経時変化を少なくするために有用である、新規な有機シラン化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のシラン化合物を含有する接着剤組成物としては、エポキシ基を有するシラン化合物を含む接着剤組成物が開示されている(特許文献1参照)。また、炭化水素基を有するシラン化合物を含む接着剤組成物が開示されている(特許文献2参照)。
【0003】
しかし、前記のようなシラン化合物を含む接着剤組成物の場合、基板または偏光板が実際に使用される環境において要求される程度の適切な接着力を保持することができず、高温高湿の条件で接着力が過度に上昇する、あるいは剥離後に接着剤が基材に残存するという問題点があった。
【特許文献1】特開平02−418357号公報(特許第3022993号公報)
【非特許文献1】特開平07−331204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような従来の技術の問題点を解決するために、本発明は、有機樹脂と無機フィラーとの親和性を高める目的、あるいはマトリックス樹脂を含むコーティング層と基材との間の接着性を向上させる目的で多様な用途に有用である新規な有機シラン化合物を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の他の目的は、液晶表示装置の偏光板用接着剤に含有させると、ガラス基板との接着性を向上させ、高温高湿下においても経時変化を少なくする、新規な有機シラン化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、下記化学式1で表される有機シラン化合物を提供する。
【化1】

〔式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、Xは−NR−(式中、Rは水素または炭素数1〜3のアルキル基である)、酸素原子、または硫黄原子であり、nは3乃至10の整数であり、jは1乃至3の整数である。〕
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0008】
本発明の新規な有機シラン化合物は化学式1で表されることを特徴とする。
【0009】
化学式1で表示される有機シラン化合物は、1段階(one‐step)のプロセスまたは2段階(two‐step)のプロセスで製造することができる。
【0010】
1段階のプロセスでは、本有機シラン化合物は、1‐アルケニルシアノアセテートとトリアルコキシシランとを、塩化白金酸触媒、 カールシュテット(Karstedt)触媒(即ち、塩化白金酸とsym‐ジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体)、ジクロロビストリフェニルフォスフィン白金(II)、シス‐ジクロロビスアセトニトリル白金(II)、またはジカルボニルジクロロ白金(II)の存在下で反応させることによって製造することができる。好ましくは、触媒は、塩化白金酸または白金‐ビニルシロキサン錯体から選ばれる。あるいは、本有機シラン化合物は、3級アミンの存在下で、シアノアセチルクロライドとN‐アルキルアミノアルキルトリアルコキシドとを反応させることによって製造することもできる。
【0011】
有機シラン化合物を製造するための2段階のプロセスでは、先ず、1‐アルケニルシアノアセテートとトリクロロシランとを塩化白金酸触媒または白金‐ビニルシロキサン触媒の存在下で反応させた後、メタノールを用いて反応生成物のメタノリシス(methanolysis)を行うことによって新規有機シラン化合物を製造することができる。
【0012】
化学式1で表される有機シラン化合物は、1‐アルケニルシアノアセテートとトリアルコキシシランとを塩化白金酸触媒の存在下で反応させることによって製造することもでき、3級アミンの存在下でシアノアセチルクロライドとN‐アルキルアミノアルキルトリアルコキシドとを反応させることによって製造することもできる。
【0013】
上記反応は、クロロホルム、メチレンクロライド、ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル溶媒;テトラハイドロフラン、ジオキサン等のような環状エーテル溶媒;またはベンゼン、トルエン、キシレン等のような芳香族有機溶媒中で行うことができる。
【0014】
反応は、10乃至200℃の温度範囲で実施されることが望ましく、より望ましくは50乃至150℃の温度範囲で実施される。また、精製のために真空蒸留を実施することもできる。
【0015】
前記のような反応を通じて製造される化学式1で表される本発明の有機シラン化合物の置換基Rは、特に、水素であることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
化学式1で表される本発明の有機シラン化合物の具体例には、下記化学式2で表されるシアノアセトキシプロピルトリメトキシシラン、下記化学式3で表される N‐メチル‐N‐(3‐トリメトキシシリルプロピル)シアノアセトアミドが含まれる。
【化2】

【化3】

【0017】
化学式1で表れる本発明の有機シラン化合物は、アクリル系樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、または熱可塑性樹脂組成物等に使用するのに適している。
【0018】
前記のような方法で製造される化学式1で表される本発明の新規な有機シラン化合物は、マトリックス樹脂に有用に用いることができる。基材に対する接着力を向上させる添加剤(接着促進剤)としての効果があるかを確認するために、本発明の有機シラン化合物を用いて、アクリル系マトリックス樹脂を合成し、ガラスに対する接着力を試験した。
【0019】
アクリル系マトリックス樹脂は、炭素数1乃至12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーと水酸基を含むビニル系モノマーとを共重合させることによって得ることができる。
【0020】
炭素数1乃至12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして、ブチル(メタ)アクリレート、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、n‐プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、t‐ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、n‐オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、またはイソノニル(メタ)アクリレート等を、単独または2種以上混合して使用することができる。また、前記水酸基を含むビニル系モノマーとして、2‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、または2‐ヒドロキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を使用することができる。
【0021】
前記試験において、化学式1で表される本発明の有機シラン化合物およびアクリル系マトリックス樹脂に加えて、架橋剤を使用することができる。この架橋剤として、トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、またはトリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパン付加体等を使用することができる。
【0022】
また、前記アクリル系マトリックス樹脂に、必要に応じて、可塑剤、アクリル系オリゴマー、乳化剤、複屈折性低分子量化合物、エポキシ樹脂、硬化剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色剤、改質剤、または フィラー等の添加剤を添加することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の理解を助けるために望ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
[実施例1]:シアノアセトキシプロピルトリメトキシシラン (cyanoacetoxypropyl trimethoxy silane、化学式2)の合成
温度計と凝縮機が備えられた1Lの反応器に、THF200mL、アルキルシアノアセテート40g(0.319mol)、及びトリメトキシシラン40g(0.327mol)を入れた。温度を60℃に高めた後、塩化白金酸0.05gを添加し4時間反応させた。反応終了後、溶媒及び未反応物を除去し、真空蒸留して、シアノアセトキシプロピルトリメトキシシラン(化学式2)73gを得た。収率は91%であった。
【0025】
製造したシアノアセトキシプロピルトリメトキシシランは、無色の液体であった。NMR分析の結果は次の通りである。
1H NMR(CDCl、300MHz):0.70(t、2H)、1.83(p、2H)、3.50(s、2H)、3.61(s、9H)、4.22(t、 2H)
13C NMR(CDCl、300MHz):4.6、21.4、24.0、 49.9、67.9、113.3、163.1
【0026】
[実施例2]:N‐メチル‐N‐(3‐トリメトキシシリルプロピル)シアノアセトアミド(N-methyl-N-(3-trimethoxysilylpropyl)cyanoacetamide、化学式3)の合成
温度計、凝縮機、及び滴下用ガラスボトルが備えられた1Lの反応器に、ジエチルエテール200mL及びシアノアセチルクロライド11g(0.11mol)を入れ、常温、窒素雰囲気で攪拌した。N‐メチルアミノプロピルメトキシシラン(N-methylaminopropyl trimethoxysilane)20g(0.104mol)及びピリジン11g(0.14mol)をジエチルエテール100mLに溶解した溶液を、滴下用ガラス漏斗を用いて反応器に徐々に添加した。この反応物を2時間間常温で攪拌した後、沈殿したピリジニウム塩、溶媒、及び未反応物を除去した後、真空蒸留して、N‐メチル‐N‐(3‐トリメトキシシリルプロピル)シアノアセトアミド(化学式3)21gを得た。収率は75%であった。
【0027】
製造した N‐メチル‐N‐(3‐トリメトキシシリルプロピル)シアノアセトアミドは、無色の液体であった。NMR分析の結果は次の通りである。
1H NMR(CDCl、300MHz):0.65(t、2H)、1.28(p、2H)、2.97(s、3H)、3.37(s、9H)、3.47(s、9H)、3.55(t、 2H)
13C NMR(CDCl、300MHz):3.54、21.0、24.95、36.01、48.57、50.73、115.19、162.32
【0028】
[実施例3]
(アクリル系共重合体の製造)
窒素ガスの還流ユニットと、温度調節が容易な冷却装置とが設けられた、1、000ccの反応器に、n‐エチルアクリレート(EA)98重量部、及び2‐ヒドロキシエチルメタアクリレート(2‐HEMA)2重量部とを含む単量体混合物を投入した。その後、溶剤としてエチルアセテート(EAc)230重量部を投入した。酸素を除去するために窒素ガスを20分間パージングした後、この反応器を70℃で保持した。均一化した後、反応開始剤として、エチルアセテート中50%の濃度に希釈したアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.03重量部を投入した。この混合物を7時間反応させた後、分子量が(ポリスチレンの標準サンプルを用いて測定して)90万であるアクリル系共重合体が得られた。
【0029】
(アクリル系樹脂組成物の製造)
製造したアクリル系共重合体100重量部に、多官能性イソシアネート系架橋剤としてトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアナート付加物1.5重量部と、実施例1で合成したシアノアセトキシプロピルトリメトキシシラン(化学式2)0.1重量部とを添加した。この組成物を適切な濃度に希釈し、均一に混合した後、PETフィルム上にコーティングした。
【0030】
[実施例4]
実施例1で合成したシアノアセトキシプロピルトリメトキシシラン(化学式2)の代わりに、実施例2で合成したN‐メチル‐N‐(3‐トリメトキシシリルプロピル)シアノアセトアミド(化学式3)を使用したことを除いて、実施例3と同一の方法でアクリル系樹脂組成物の製造を実施した。
【0031】
[比較例1]
実施例1で合成したシアノアセトキシプロピルトリメトキシシラン(化学式2)を添加しなかったことを除いて、実施例3と同一の方法でアクリル系樹脂組成物の製造を実施した。
【0032】
[比較例2]
実施例1で合成したシアノアセトキシプロピルトリメトキシシラン(化学式2)の代わりに3‐ グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(glycidoxypropyl)trimethoxysilane)を使用したことを除いては実施例3と同一の方法でアクリル系樹脂組成物の製造を実施した。
【0033】
〔接着力の測定〕
実施例3乃至4及び比較例1乃至2で製造したアクリル系樹脂組成物のガラスに対する接着力を次のような方法で評価した。
【0034】
実施例3乃至4及び比較例1乃至2で製造したアクリル系樹脂組成物がそれぞれコーティングされたPETフィルムを、清潔なガラス板と共に加圧ローラーを用いてラミネートし、常温で1時間間保持した。その後、i)常温条件(常温で10時間間放置)、ii)dry条件(60℃の温度で10時間放置)、およびiii)wet条件(60℃、90%相対湿度の条件で10時間放置)に保持した後、再び常温で2時間保持した。次いで、 引張試験機を用いて300mm/分の速度および180°の剥離角度でガラスに対する接着力(180℃ 剥離強度)を測定した。結果を下記表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示したように、本発明の化学式1で表される新規な有機シラン化合物を用いた実施例3及び4のアクリル系樹脂組成物は、比較例1及び2のアクリル系樹脂組成物と比べて、常温条件、dry条件、wet条件の全てにおいて、ガラス接着力に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明による新規な有機シラン化合物は、有機樹脂と無機フィラーとの親和性を高める目的、あるいはマトリックス樹脂を含むコーティング層と基材との間の接着性を向上させる目的で多様な用途に有用であり、特に、液晶表示装置の偏光板用接着剤のガラス基板との接着性を向上させ、高温高湿下における経時変化を低下させるために有用である。
【0038】
これまで、本発明の概念および具体例を詳しく説明してきたが、これらの記載に基づいて、本発明の技術思想の範囲内で他の多様な変形及び修正が可能であることが当業者に理解されるであろう。当業者であれば、このような変形及び修正が添付された特許請求の精神および範囲に包含されること理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される有機シラン化合物:
【化1】

〔式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、Xは、−NR−(式中、Rは水素または炭素数1〜3のアルキル基である)、酸素原子、または硫黄原子であり、nは3乃至10の整数であり、jは1乃至3の整数である〕。
【請求項2】
前記有機シラン化合物が、1‐アルケニルシアノアセテートとトリアルコキシシランとを塩化白金酸触媒または白金‐ビニルシロキサン触媒の存在下で反応させることによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の化学式1で表される有機シラン化合物。
【請求項3】
前記有機シラン化合物が、1‐アルケニルシアノアセテートとトリクロロシランとを塩化白金酸触媒または白金‐ビニルシロキサン触媒の存在下で反応させた後、メタノリシスを行うことによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の化学式1で表される有機シラン化合物。
【請求項4】
前記有機シラン化合物が、1‐アルケニルシアノアセテートとトリアルコキシシランとを塩化白金酸触媒の存在下で反応させることによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の化学式1で表される有機シラン化合物。
【請求項5】
前記有機シラン化合物が、シアノアセチルクロライドとN‐アルキルアミノアルキルトリアルコキシドとを3級アミンの存在下で反応させることによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の化学式1で表される有機シラン化合物。
【請求項6】
化学式1中の置換基Rが水素であることを特徴とする、請求項1に記載の化学式1で表される有機シラン化合物。
【請求項7】
前記有機シラン化合物が、下記化学式2:
【化2】

で表されるシアノアセトキシプロピルトリメトキシシラン、または
下記化学式3:
【化3】

で表されるN‐メチル‐N‐(3‐トリメトキシシリルプロピル)シアノアセトアミドであることを特徴とする、請求項1に記載の化学式1で表される有機シラン化合物。
【請求項8】
前記有機シラン化合物が、アクリル系樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、または熱可塑性樹脂組成物に使用されることを特徴とする、請求項1に記載の化学式1で表される有機シラン化合物。

【公表番号】特表2009−512683(P2009−512683A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536497(P2008−536497)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/KR2006/004264
【国際公開番号】WO2007/046646
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】