説明

新規な組換え七面鳥ヘルペスウイルス、及びそれを利用した家禽用ワクチン

【課題】 鶏伝染性気管支炎に対するワクチン効果を有する組換え七面鳥ヘルペスウイルスを得る。
【解決手段】 鶏伝染性気管支炎ウイルスのスパイク蛋白質をコードする遺伝子、メンブレン蛋白質をコードする遺伝子、及びエンベロープ蛋白質をコードする遺伝子がプロモーターとともに、ゲノムに挿入された組換え七面鳥ヘルペスウイルス。プロモーターとしては、サイトメガロウイルスの初期プロモーター、鶏βアクチン遺伝子のプロモーター、及びマレック病ウイルスのUL50遺伝子のプロモーターからなる群より選択されたものであるのが好ましく、前記各蛋白質をコードする遺伝子が、七面鳥ヘルペスウイルスゲノムのUL45とUL46のオープン・リーディング・フレームの間に挿入されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、七面鳥ヘルペスウイルス(以下、HVTということがある)ゲノムの非必須領域に鶏伝染性気管支炎ウイルス(Infectious Bronchitis Virus:以下、IBVということがある)のスパイク蛋白質、メンブレン蛋白質、及びエンベロープ蛋白質をコードする遺伝子がプロモーターとともに挿入された新規な組換え七面鳥ヘルペスウイルス、及びそれを利用した家禽用ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
伝染性気管支炎(Infectious Bronchitis:以下IBということがある)は、1931年に米国ではじめて報告された、伝染性の激しい呼吸器病である。病原体である鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)に感染した場合に起こる鶏の疾病で、潜伏期間36時間で呼吸器症状や産卵低下などの産卵障害、さらに腎炎を引き起こす株もある。不顕性感染に終わることも珍しくないが、6週齢以下では致死率は高くなる。組織学的には、気管、腎臓、卵管 等の上皮細胞が変性破壊される。この病気は養鶏産業を営むほとんどの国々で発生、蔓延している。
【0003】
IBVはコロナウイルス科に属する1本鎖のRNAウイルスで、外膜を保有している。ウイルス粒子は4つの構造蛋白質、その内3つが外膜を構成するスパイク(S)蛋白質(糖蛋白質)、メンブレン(M)蛋白質(糖蛋白質)、エンベロープ(E)蛋白質であり、もう一つがヌクレオカプシド(N)蛋白質である。
【0004】
IBVは鶏が自然宿主であり、監視伝染病の対象である。多くの血清型が存在すると考えられている。代表的な血清型として、Massachusetts(通称Mass)タイプ、Arkansas(通称Ark)タイプ、Connecticut(通称Conn)タイプがあるが、血清型と病型の間には明らかな関係は認められていない。
【0005】
本症には数多くの生ワクチンと不活化ワクチンがあるが、野外で流行しているウイルスとワクチンウイルスとの血清型の違いなどから予防効果は完全ではない。それらは、いずれも、鶏伝染性気管支炎ウイルスを発育鶏卵で増殖させて得たウイルスを原料としており、製造コスト
の面で発育鶏卵を用いない製造方法が望まれていた。
【0006】
遺伝子組換え技術の進展により、IBワクチンを遺伝子組換えで製造しようとする試みがなされてきた。古くは、スパイク蛋白質をワクシニアウイルスで発現させた報告(J.Gen.Virology(1987)68:2291−2298)がある。しかし、この報告では、接種したマウスにS蛋白質に対する抗体価を上昇させたとあるが、その後、鶏でワクチン効果があったという報告はなされていない。
他にも鶏痘ウイルス(FPV)やヘルペスウイルスをベクターとしてスパイク蛋白質を発現させた文献や特許がある(Avian Disease 46:831−838(2002)、米国特許第5310671号公報、特開平05−103667号公報)が、十分なワクチン効果があったという報告はない。また、IBVのSとM蛋白質をコードする遺伝子を挿入した組換え七面鳥ヘルペスウイルス(以下、「HVT」ということがある)の報告がある(米国特許5961982号公報)が、ワクチン効果のデータはない。
【0007】
遺伝子組換えワクチンの成功例の多くの報告は、ウイルス様粒子を作らせることで成し遂げられてきた。例えば、エイズウイルス(HIV)のウイルス様粒子(J.Virology(1990)64:2653−2659、J.Virology(1996)70:2643−2649)ロタウイルスのウイルス様粒子(Vaccine (1998)16:507−516)、ヒトパピローマウイルス(Infect.Immunity(1999)67:3674−3679)などの例が挙げられる。しかしながら、組換えIBVワクチンに関しては、このようなウイルス様粒子の形成に成功したという報告はない。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5310671号公報
【特許文献2】特開平05−103667号公報
【特許文献3】米国特許第5961982号公報
【0009】
【非特許文献1】J.Gen.Virology 68:2291−2298(1987)
【非特許文献2】Avian Disease 46:831−838(2002)
【非特許文献3】J.Virology 64:2653−2659(1990)
【非特許文献4】J.Virology 70:2643−2649 (1996)
【非特許文献5】Vaccine 16:507−516 (1998)
【非特許文献6】Infect.Immunity67:3674−3679(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の従来技術の問題点に鑑みて、鶏伝染性気管支炎に対するワクチン効果を有する組換え七面鳥ヘルペスウイルス、及びそれを利用した家禽用ワクチンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、IBVのスパイク蛋白質をコードする遺伝子、メンブレン蛋白質をコードする遺伝子、及びエンベロープ蛋白質をコードする遺伝子がプロモーターとともに、そのゲノムに挿入された組換え七面鳥ヘルペスウイルスを作製し、この組換え七面鳥ヘルペスウイルスがワクチンとして使用できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0012】
かくして本発明によれば、鶏伝染性気管支炎ウイルスのスパイク蛋白質(以下、「S蛋白質」という)をコードする遺伝子、メンブレン蛋白質(以下、「M蛋白質」という)をコードする遺伝子、及びエンベロープ蛋白質(以下、「E蛋白質」という)をコードする遺伝子がプロモーターとともに、ゲノムに挿入された組換え七面鳥ヘルペスウイルスが提供され、プロモーターが、サイトメガロウイルスの初期プロモーター、鶏βアクチン遺伝子のプロモーター、及びマレック病ウイルスのUL50遺伝子のプロモーターからなる群より選択されたものである前記組換え七面鳥ヘルペスウイルスが提供され、また、前記S蛋白質をコードする遺伝子、M蛋白質をコードする遺伝子、及びE蛋白質をコードする遺伝子が七面鳥ヘルペスウイルスのUL45とUL46のオープン・リーディング・フレームの間に挿入されたものである前記組換え七面鳥ヘルペスウイルスが提供され、更に、当該組換え七面鳥ヘルペスウイルスを有効成分とする家禽用ワクチンが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
鶏伝染性気管支炎ウイルス
本発明において、S蛋白質をコードする遺伝子、M蛋白質をコードする遺伝子、及びE蛋白質をコードする遺伝子の由来となる鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)は、細胞・微生物・遺伝子バンクであるAmerican Type Culture Collection(ATCCなどから有償または無償で入手できるものの他、IBV感染鶏から直接得られたものであってもよい。その血清型も特に限定されないが、広く分布していることから、MassタイプかArkタイプのウイルスが望ましく、特に望ましくはMassタイプである。ウイルス株も特に限定されないが、具体的にはMass41株、MassH120株、Ark DPI株などが挙げられる。
【0014】
鶏伝染性気管支炎ウイルス由来の蛋白質をコードする遺伝子
鶏伝染性気管支炎ウイルス由来のS蛋白質をコードする遺伝子、M蛋白質をコードする遺伝子、及びE蛋白質をコードする遺伝子は、上記の鶏伝染性気管支炎ウイルスのゲノムであるRNAから調製されたcDNAのS蛋白質、M蛋白質、及びE蛋白質にそれぞれ該当する遺伝子であれば、特に限定されない。
これらの遺伝子は、ウイルスゲノム由来のcDNAの配列をそのまま用いることもできるが、相同ベクターへサブクローニングしやすい様に、終止コドンや制限酵素サイトを付加するなど改変して用いても良い。具体的には、S蛋白質をコードする遺伝子、M蛋白質をコードする遺伝子、及びE蛋白質をコードする遺伝子として、それぞれ配列番号1、3及び5の配列が挙げられる。これらは、Mass41株由来の特に好ましい例であるが、これに限定されるものではなく、1又は複数個のアミノ酸が、置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列を有するものであってもよい。例えば、Mass41株のS蛋白質とArkDPI株のS蛋白質との相同性は86.6%である。即ち、Mass 41株の蛋白質との相同性が85%以上であれば、本願発明に用いることができる。ここで、相同性は、日本DNAデータバンク(DNA Data Bank of Japan;http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)の相同性検索「The Basic Local Alignment Search Tool (BLAST)」によって求められる値である。
【0015】
七面鳥ヘルペスウイルス(HVT)
本発明の組換え七面鳥ヘルペスウイルスの親株として使用する七面鳥ヘルペスウイルスは、細胞・微生物・遺伝子バンクであるAmerican Type Culture Collection(ATCC)などから有償または無償で入手できるものの他、HVT感染鶏から直接得られたものであってもよい。HVTの好ましい例としては、ガンマヘルペスウイルス亜科に属し、生来非病原性であり、かつ非腫瘍性のウイルスで家禽用のワクチンとして用いられているものが挙げられる。具体的には、FC126(ATCC VR−584B)、PB−THV1、H−2、YT−7、WTHV−1、HPRS−26などが挙げられ、例えば、FC126株を好適に使用することができる。
【0016】
プロモーター
本発明で用いるプロモーターについては、組換えHVTが感染細胞内で、プロモーターとして機能する(即ち、mRNA合成のためのRNAポリメラーゼを結合させ、転写を促す能力を有する)遺伝子であれば特に限定されない。具体的にはCytomegalovirus(CMV)プロモーターや、Rouse Sarcoma virus(RSV)プロモーター、SV40 earlyプロモーターの如く異種ウイルスプロモーターやMDVのゲノム配列(ジーンバンクのアクセッション番号:AF243438)の91827番目から92196番目までの塩基領域、あるいは鶏細胞由来のβ−アクチンプロモーター(鶏β−アクチンプロモーター)などが例示される。挿入する鶏伝染性気管支炎ウイルス由来のS、M及びE蛋白質をコードする遺伝子の3つにそれぞれ別なプロモーターを付けてHVTゲノムに挿入するのが、組換えHVTの安定性の点から好ましい。
【0017】
非必須領域
鶏伝染性気管支炎ウイルス由来のS蛋白質をコードする遺伝子、M蛋白質をコードする遺伝子、及びE蛋白質をコードする遺伝子を挿入する鳥類ヘルペスウイルスの増殖に非必須なゲノム領域は、公知の組み換え鳥類ヘルペスウイルスで使用された領域(公知の非必須領域)のほか、新たに見出した非必須領域も使用できる。
公知の非必須領域の具体例としては、WO89/01040号公報で用いられたUL43遺伝子、WO93/25665号公報で用いられたUS2遺伝子、国際公開WO99/18215号公報に示されたUL44からUL46のオープン・リーディング・フレーム(ORF)間領域などが例示され、特に好ましい領域は、UL45とUL46のORF間領域である。
新たな非必須領域を見つける方法は特に制限されず、たとえば次のような一般的方法が挙げられる。すなわち、鳥類ヘルペスウイルスのゲノムDNA断片をクローニングし、その制限酵素地図を作成し、その適当な制限酵素サイトにプロモーターとともにマーカー遺伝子を組み込んだ組み換えプラスミドを構築して、後述する一般的な組み換え鳥類ヘルペスウイルスの作製方法でもって、in vitroでもin vivoでも安定な組み換え鳥類ヘルペスウイルスが得られるかどうかを調べれば良い。
【0018】
組換え七面鳥ヘルペスウイルスの作製方法
組換え七面鳥ヘルペスウイルスの作製方法は、既に知られている一般的な方法でよい。その一例は次の如くである。(1)まず、上述した非必須領域を含む七面鳥ヘルペスウイルスのゲノムDNA断片がクローニングされたプラスミドを得、このプラスミド中のHVTゲノム領域の非必須領域に、上述したIBVのS蛋白質をコードする遺伝子、M蛋白質をコードする遺伝子、及びE蛋白質をコードする遺伝子(いずれも、通常はcDNA)を、それぞれプロモーターとともに挿入した組換えプラスミドを構築する。(2)構築した組換えプラスミドを七面鳥ヘルペスウイルス感染CEF細胞に導入する、あるいは、七面鳥ヘルペスウイルスから調製した感染性ゲノムDNAとともに組換えプラスミドをCEF細胞に導入する。これらの導入方法はエレクトロポレーションなど一般的に用いられている方法でよい。(3)組換えプラスミドを導入したCEF細胞を培養ディッシュにまき、プラークが十分大きくなるまで培養する。(4)このプラークには組換えウイルスと野生型ウイルスが混合して存在しているので、ここから目的とする組換えウイルスを純化する。この純化の方法も特に限定されるものではないが、たとえばプラークの出現したCEF細胞を適当に希釈し、96ウェル培養プレートにまき、IBVのMass41株を過免疫した鶏から調製した抗M41鶏血清を1次抗体とした抗原抗体反応により、S蛋白質を発現する組換えウイルスのプラークを検出するという方法、あるいは、GFP蛋白質のようなマーカー蛋白質の遺伝子も一緒に挿入されえている場合には、蛍光顕微鏡でGFP蛋白質を発現する組換えウイルスのプラークを検出するという方法が例示される。
【0019】
IBVワクチン
本発明の組換え七面鳥ヘルペスウイルスは、鶏伝染性気管支炎の原因ウイルスであるIBVのS蛋白質をコードする遺伝子、M蛋白質をコードする遺伝子、及びE蛋白質をコードする遺伝子を有することから、鶏用の鶏伝染性気管支炎ワクチンとして利用される上、七面鳥ヘルペスウイルスとしてMDVワクチンとして広く利用されているFC126株を使用した場合は、鶏伝染性気管支炎と同時にマレック病にも有効な鶏多価ワクチンとなる。
本発明の組換え七面鳥ヘルペスウイルスを主成分とするワクチンは、本発明の組換え七面鳥ヘルペスウイルス以外に、保存安定剤、pH調整剤、免疫応答工場のためのアジュバント、細胞、培地成分など、薬理学的に問題のない成分を含んでいても構わない。更に、組換えウイルス以外の成分として、他の組み換えあるいは非組み換えウイルスを混合しても良い。具体的には、MDV−1又はMDV−2のワクチン株を本発明の組換えHVTに混合して使用することがその一例として挙げられる。
本発明のワクチンの調製方法は特に限定されないが、たとえば次の方法によって調製される。本発明の組み換えHVTを当該ウイルスが増殖可能なCEF細胞などに感染させ増殖させた後、感染細胞をスクレーパーまたはトリプシンではがし、遠心分離によって細胞と上清に分離する。得られた細胞を10%のジメチルスルフォキシド(DMSO)を含む培養用培地に懸濁させ液体窒素中に保存する。
【0020】
本発明のワクチンの鶏への投与方法も特に限定されず、マレック病ワクチンとして用いられている一般的な方法が使用できる。即ち、10〜10PFU/dose、好ましくは10〜10PFU/doseになるように適量のリン酸緩衝液などに溶かして、初日齢の鶏の頸部皮下に、あるいは孵化前の卵に注射や接種用機器を使って投与することができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明のプラスミド構築は特に記載がない限り、Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd Edition.(Cold Spring Harbor Laboratory.Cold Spring Harbor.N.Y.1989)記載の標準的な分子生物学手法を用いて行った。尚、制限酵素断片はアガロースゲルからQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製、カタログ番号#28704)を使って精製した。
【0022】
1.IBV由来のcDNAの調製
IBVのMassタイプの野外分離株Mass#14(バイオミューン社製)からRNAを以下の様にして回収した。まず、保存してあったウイルス(1チューブ)を超遠心分離チューブに移し、28mlのPBSを添加して432000×g、1時間の超遠心分離にかけた。遠心分離後、上清を捨て沈殿物に0.6mlのRLTバッファー(QIAGEN社製RNeasyミニキット、カタログ#:74104)を加えて20ゲージ針の注射器でその沈殿物をホモジナイズした。その後、0.6mlの70%エタノールを加えて混合した。それらを2本のRNeasy スピンカラム(上記ミニキットに同梱)にのせて、エッペンドルフ遠心機で10,000回転、15秒間遠心分離した。カラムを通過した液を捨て、カラムに0.7mlのRW1バッファー(上記ミニキットに同梱)をのせて再び15秒間遠心分離した。更に、0.5mlのRPEバッファー(上記ミニキットに同梱)で2回カラムを洗浄した。その後、エッペンドルフ遠心機で14,000回転、1分間遠心分離してカラムに残っている液を除き、カラムを新しいチューブの上に設置して、30μlの滅菌水を加えて10,000回転1分間遠心して、RNAを回収した。
【0023】
回収したウイルスRNAからのcDNA合成は、Super Script First−strand Synthesis System for RT−PCR(インビトロジェン社製RT−PCRキット、カタログ#:11904−018)を用いて以下のようにして行った。回収したRNA液の8μlに、ランダムヘキサマーを1μl、10mMdNTPを1μl加えて65℃で5分間置いた後、氷冷した。これに、10×RTバッファーを2μl、25mM塩化マグネシウムを4μl、0.1mM DTTを2μl、RNaseOut液(200mM トリス塩酸(pH8.4)、500mM塩化カリウム)を1μl加えて、25℃に2分間置いた後、酵素Super ScriptII RTを1μl加えた。25℃に10分間置いた後、42℃で50分間静置し、70℃で15分間、その後4℃に移した。ここにE.ColiRNaseH(2単位/μl)を1μl加えて、37℃で20分間静置した。以上の操作によってIBVウイルスのcDNAを調製した。
【0024】
2.IBVの各蛋白質をコードする遺伝子のクローニング
実施例1で調製したcDNAをテンプレートとして用い、S蛋白質をコードする遺伝子のPCRクローニングを実施した。使用したPCRプライマーはXBA−MASS−S(配列番号7)と、MASS―SAL−S(配列番号8)で、酵素は、Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社製、製品名「TAKARA Ex Taq」)を用いた。PCRの結果、3.5kbpのDNAが増幅され、TAクローニングベクター(インビトロジェン社、製品名「TOPO TA PCR2.1 ミニプレップ」)にメーカー推奨の方法に従ってプローニングした。
得られた形質転換株からミニプレップ法でプラスミドDNAを調整し、制限酵素SalIで切断して、アガロースゲル電気泳動で切断パターンを確認した。
その結果からS蛋白をコードする遺伝子がクローニングされているプラスミドpCR2.1−S(mass)として2クローン(#7と#8)が得られた。
【0025】
この2クローンを塩基配列解析した。使用したシーケンスプライマーは、市販のT7プロモータープライマー(東洋紡績、カタログ番号:PRM−102)とP8プライマー(東洋紡績、カタログ番号:PRM−008)以外に、Mass−S−F2(配列番号9)、Mass−S−R2(配列番号10)、Mass−S−F3(配列番号11)、Mass−S−R3(配列番号12)、Mass−S−F4(配列番号13)、Mass−S−F5(配列番号14)、Mass−S−F6(配列番号15)、Mass−S−R4(配列番号16)、Mass−S−R5(配列番号17)、Mass−S−R6(配列番号18)のシーケンスプライマーを使用した。
【0026】
塩基配列解析の結果、クローン#8は3,489塩基であり、GeneBankに登録されているMass41株(アクセッション#:AY851295)のS蛋白質をコードする遺伝子と比較すると、4塩基(C1896T、A2241G、A2679G、T3444C)の変異しかなく、これらは全てアミノ酸が変わらないサイレント変異であることがわかった。クローニングされたS蛋白をコードする遺伝子配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0027】
M蛋白質をコードする遺伝子とE蛋白質をコードする遺伝子のPCRクローニングに使用したプライマーは次の通り。
M蛋白質をコードする遺伝子のクローニング用PCRプライマーは、XbaMASS_M(配列番号19)とMASS_MSal(配列番号20)、PCRで増幅させたDNAをTOPOクローニングベクターにライゲーションして、3つの候補クローン(#7,11,12)をシーケンスしたところ、#11のクローンのみ、2箇所にサイレントな塩基の違いがあるだけで、#11のクローンはアミノ酸配列がMass41株と同じであった。
#11クローンのM蛋白質をコードする遺伝子のORFは678bp(配列番号3)でアミノ酸配列を配列番号4に示す。このプラスミドをpCR2.1−M(mass)と命名した。
【0028】
一方、E蛋白質をコードする遺伝子のクローニングにPCRプライマーXbaMASS_E(配列番号21)とMASS_ESal(配列番号22)を用いた。こちらもPCRで増幅させたDNAをTOPOクローニングベクターにライゲーションして、2つの候補クローン得た。pCR2.1−E(mass)クローン#4と#5である。この2クローンは向きが逆であったが同一配列であり、GeneBankのMass41株(AY851295)とは、1塩基(1アミノ酸)のみ異なっていた(T157G、L53V)。E蛋白質をコードする遺伝子のORFは330bpであり、塩基配列番号5に、アミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0029】
3.IBVの各蛋白質をコードする遺伝子が真核細胞中で働くプロモーターとともに挿入されたプラスミドDNAの構築
3−1.p46CoaM(mass)の作製
米国特許第6632664号の実施例1に記載されているように七面鳥ヘルペスウイルスFC126株(以下、単に「HVT」と略す)のDNAを調製した。外来遺伝子を挿入するためのSfiI制限酵素サイトを導入するため、2組のPCRプライマーセットとHVTのDNAを鋳型としてPCRを行った。
一つのセットは、HVT45Sph(配列番号23)と45SfiIR(配列番号24)、もう一つのセットは、46SfiF(配列番号25)とHVT46Xho(配列番号26)のセットである。それぞれのPCR産物(0.4kbpと0.6kbp)が増幅されたのを確認後、その産物を1:1の割合になるように混合し、HVT45SphとHVT46XhoのプライマーセットでPCRを再度実施した。
その結果、0.98kbpの断片が増幅された。この増幅断片をSphIとXhoIで二重切断して、同じくSphIとXhoIで二重切断したpNZ45/46SfiI(米国特許6632664の実施例2)とライゲーションさせ、p46Sfi(5491bp)を構築した。
【0030】
合成オリゴヌクレオチドSfi−polA−Sal−Pst−Sfi−U(配列番号27)とSfi−polA−Sal−Pst−Sfi−L(配列番号28)をアニーリングさせて、制限酵素SfiIで切断したp46Sfiにライゲーションしてp46Sfi−pA(5543bp)を作製した。
米国特許第7153511号に記載されているプラスミドpNZ45/46BacpAをPstIとSalIで切断して得た鶏βアクチン(Bac)プロモーター断片(1.57kbp)を1.2%アガロースゲルから回収した。プラスミドp46Sfi−pAをPstIとSalIで二重切断し、回収したBacプロモーター断片とライゲーションして、p46Bac(7101bp)を作製した。
【0031】
米国特許第6866852号の実施例1に記載されたプラスミドpGICOAをPstIとXbaIで二重切断してアガロースゲルから回収したBacプロモーターのコア領域(約300塩基)を、p46BacをPstIとXbaIで切断した断片とライゲーションしてp46Coa(5822bp)を作製した。
プラスミドpCR2.1−M(mass)をXbaIとSalIで切断して、アガロースゲルから回収したM蛋白質をコードする遺伝子(678bp)を、同じくXbaIとSalIで二重切断したプラスミドp46Coaとライゲーションしてp46CoaM(mass)(6511bp)(図1)を作製した。
【0032】
3−2.p46cmvS(mass)の作製
サイトメガロウイルスのIEプロモーターは市販プラスミドpBK−CMV(ストラタジーン社;カタログ#:212209)から得た。このプロモーター内には、制限酵素BglIの認識サイトが3箇所ある。プラスミド構築にはこのサイトが邪魔になるので、このサイトをつぶす為に4つのプライマーセットを用いたPCRを使ってインビトロ変異を行った。プライマーセットは、(ア)PrCMV1(配列番号29)とPrCMV3(配列番号30)のセット、(イ)PrCMV4(配列番号31)とPrCMV5(配列番号32)のセット、(ウ)PrCMV6(配列番号33)とPrCMV2(配列番号34)のセット、(エ)PrCMVo1(配列番号35)とPrCMVR1(配列番号36)のセットである。プラスミドpBK−CMVを鋳型にして、この4つのプライマーセットでそれぞれPCRを行い、これらのPCR産物を混合して、PrCMV1とPrCMVR1で2回目のPCRを行って3箇所の塩基配列を変更したCMVプロモーターのDNA断片(604bp)を産生した。このCMVプロモーターの配列は配列番号37である。
【0033】
このCMVプロモーター断片をPstIとXbaIで切断し、同じくPstIとXbaIで切断したプラスミドpUC18polASfi(米国特許第6866852号)に挿入してpGICMV(−)(3321bp)を作製した。SV40ポリAシグナル配列は、pBK−CMVを鋳型としてPolyA−SalKpn(配列番号38)とPolyA−SfiF2(配列番号39)のプライマーセットでPCR増幅して得、SalIとSfiIで二重切断して回収した断片を、同じくSalIとSfiIで二重切断したpGICMV(−)とライゲーションしてプラスミドpGICMVpA(3354bp)を作製した。
【0034】
CMVプロモーターからpolyAまでの断片の末端を修飾するため、pGICMVpAを鋳型としてPrCMV1Bgl(配列番号40)とPolA−SfiR(配列番号41)のプライマーセットでPCRを行った。955bpの増幅産物をBglIで切断し、SfiIで切断したp46Sfiに挿入してp46CMVを作製した。
プラスミドpCR2.1−S(mass)をXbaIとSalIで二重切断して得た、約3.5kbpのS蛋白質をコードする遺伝子を、同じくXbaIとSalIで二重切断したp46CMVとライゲーションして、p46cmvS(mass)(図2)を構築した。
【0035】
3−3. p46CoaMcmvS(mass)の作製
p46cmvS(mass)を制限酵素BglIで切断後、アガロースゲルから回収した約4.4kbpのDNA断片を制限酵素SfiIで切断したp46CoaM(mass)とライゲーションして、プラスミドp46CoaMcmvS(mass)(図3)を作製した。
【0036】
3−4. pPmd50E(mass)md51GFPの作製
マレック病ワクチンとして市販されているCVI988株を直径15cmの培養皿のCEF細胞に感染させウイルスを増やした後、PBSで洗浄後、リシスバッファー(0.5%SDS、10mMトリス塩酸(pH8)、100mM NaCl、1mM EDTA、200μg/mlプロテナーゼ)を4ml加えて、COインキュベーター(37℃)で4時間インキュベートし、細胞溶解物を50mlファルコンチューブに移し、等量のフェノール(TE飽和)を加え、15分間ゆっくり回転し、混合した。次に、1500×g、5分間、遠心後、水層をピペットでゆっくり吸い取り、新しいチューブに移した。クロロフォルム:イソアミルアルコール=24:1を等量加え、15分間ゆっくり混合した。その後、1500×g、5分間遠心し、水層をピペットでゆっくり吸い取り、新しいチューブに移し、100%エタノールを水層の倍量加え、良く混ぜてから1500×g、5分間遠心した。その沈殿を70%エタノールでリンスしたのち軽く風乾してMDVのゲノムDNAを含む核酸画分を調製した。
上記で調製したMDVのゲノムDNA画分をテンプレートにして、MD50F(配列番号42)とMD51R(配列番号43)のプライマーセットでPCRを行い、MDVのゲノム配列の91709番目から92261番目までのDNA領域を増幅させ、それをpPCR−Script Ampベクター(ストラタジーン社)にライゲーションし、JM109を形質転換した。そうして、得られた形質転換株3株からプラスミドを調製して、挿入DNAの塩基配列分析を行った。3株のうち、2株の挿入DNAの塩基配列が完全に一致した。それらのプラスミドをpPCR−Pmd50(3493bp)と命名した。
【0037】
pPCR−Pmd50Fを制限酵素KpnIで切断後、更にSalIで切断して回収したプラスミドに、Ad_Kp−Bg−SaU(配列番号44)と、Ad_Kp−Bg−SaL(配列番号45)の2つの合成ヌクレオチドをアニールさせた合成DNAアダプターを挿入した。このようにして得られたプラスミドをpPmd50M1(3516bp)と命名した。
pPmd50M1をそれぞれ制限酵素SacIで切断後、更にNotIで切断して回収したプラスミドに、Ad_No−Sf−SaU(配列番号46)と、Ad_No−Sf−SaL(配列番号47)の2つの合成ヌクレオチドをアニールさせた合成DNAアダプターを挿入した。このようにして得られたプラスミドをpPmd50M2(3542bp)と命名した。
【0038】
次いで、pPmd50M2を制限酵素NcoIとNotIで二重切断して回収したプラスミドに、Ad_Nc−Bg−Xh−NoU(配列番号48)と、Ad_Nc−Bg−Xh−NoL(配列番号49)の2つの合成ヌクレオチドをアニールさせた合成DNAアダプターを挿入した。このようにして得られたプラスミドをpPmd50M3(3060bp)と命名した。
pPCR−Pmd50をテンプレートにして、Pmd50F(配列番号50)とPmd51R(配列番号51)のPCRプライマーでPCRを実施した。増幅されたPCR産物をBamHIとNcoIで二重切断して得られた約380bpのDNA断片を、BamHIとNcoIで二重切断したpPmd50M3とライゲーションして、pPmd50F(3409bp)を構築した。このpPmd50FのKpnIサイトからSacIサイトまでの塩基配列が、配列番号52である。
オワンクラゲ由来の緑色蛍光蛋白質GFP遺伝子を持った市販プラスミドベクターpGFP(クロンテック社、カタログ番号:6097−1)をテンプレートにして、GFPBspF(配列番号53)とGFPSalR(配列番号54)のプライマーセットでPCRを実施した。増幅されたPCR産物を制限酵素BspHIとSalIで二重切断し、NcoIとXhoIで二重切断したpPmd50FとライゲーションしてpPmd51GFPを作製した。
次に、pCR2.1−E(mass)(クローン#5)を制限酵素BamHIとSalIで二重切断し、同じくBamHIとSalIで二重切断したpPmd51GFPにライゲーションして、プラスミドpPmd50E(mass)md51GFP(4685bp)(図4)を構築した。
【0039】
3−5. p46CoaMcmvSmd50Emd51GFPの作製
プラスミドpPmd50E(mass)md51GFPを制限酵素BglIで切断後、アガロースゲルから回収した約1.8kbpのDNA断片を、制限酵素SfiIで切断したp46CoaMcmvS(mass)とライゲーションしてプラスミドp46CoaMcmvSmd50Emd51GFP(12727bp)(図5)を得た。
【0040】
4.組換えHVTの作製と純化
4−1.rHVT/IB_Sの作製と純化
Morganらの方法(Avian Diseases,34:345−351(1990)によって、親株HVT(FC126株)のDNAを調製し、前記3.2で構築したプラスミドp46cmvS(mass)とともに電気穿孔法を用いてCEF細胞に導入し、S蛋白質に対する抗体を用いて組み換えHVTの純化を行った。その具体的方法は以下の通りである。
【0041】
1×10個の鶏胚繊維芽細胞(CEF)を0.1mlのMEF−1バッファー(アマクサバイオシステムズ社、カタログNo.VPD−1004)に懸濁し、組換えプラスミドp46cmvS(mass)のDNA1μgと5μgのHVTゲノムDNAを加え、室温で遺伝子導入装置(アマクサバイオシステムズ社、製品名「Nucleofector」)のプログラムA−23を用いて遺伝子導入した。直ちに4%牛血清を含むLeibovitz’s L−15とMcCoy’s 5A Mediumと(ともにGIBCO BRL社製、カタログ番号#41300−039、#21500−061)を同容量比で混合した培地(以下、LM(+)培地と略す)を加え、直径60mmの細胞培養ディシュで、37℃、5%COインキュベーター中で6日、培養した。この細胞を適当に希釈し、LM(+)培地に懸濁したCEFと混ぜ、96ウェル培養プレートに分注し、プラークが出るまで培養した。プレートの各ウェルの細胞をトリプシン処理して、新鮮なCEF細胞を追加して96ウェル培養プレート2枚の各ウェルに移した。こうして作製したレプリカプレートをプラークが出現するまで培養した。その後、その1枚のプレートの細胞をメタノールで固定し、抗M41鶏抗血清(SPAFAS社製)を1次抗体とした抗原抗体反応により、S蛋白質を発現する組換えHVTが存在しているかどうかの確認を行った。組換えHVTの確認されたウェルに相当するレプリカより細胞を回収、希釈し、LM(+)培地に懸濁した新鮮なCEF細胞とまぜて96穴プレートに分注し、培養した。この、希釈・レプリカの作製・組換えHVTの確認の繰り返しを、1ウェルから由来する全てのプラークがほぼ100%組換えHVTであることを確認できるまで行った。この組み換えHVTを10pfu程度までCEFで増殖後、超音波破砕処理を行い、遠心上清を、96穴プレートのCEF細胞に感染させた。1週間培養後、再び、この操作を繰り返して組み換えHVTが100%になるまで繰り返した。こうして純化した組換えHVTウイルスをrHVT/IB_Sと命名した。
【0042】
4−2.rHVT/IB_S+Mの作製と純化
組換えプラスミドをp46cmvS(mass)の代わりに、p46CoaMcmvS(mass)を用いる以外は、上記4−1.と同様にして、組換えHVTを純化し、これをrHVT/IB_S+Mと命名した。
【0043】
4−3.rHVT/IB_S+M+Eの作製と純化
1×10個のCEF細胞を0.1mlのMEF−1バッファーに懸濁し、組換えプラスミドp46CoaMcmvSmd50Emd51GFPのDNA1μgと5μgのHVTゲノムDNAを加え、前述と同じ遺伝子導入装置を用いて遺伝子導入した。直ちにLM(+)培地を加え、直径60mmの細胞培養ディシュで、37℃、5%COインキュベーター中で6日、培養した。この細胞を適当に希釈し、LM(+)培地に懸濁したCEFと混ぜ、96ウェル培養プレートに分注し、プラークがでるまで培養した。この96ウェル培養プレートを蛍光顕微鏡下で観察し、GFP蛋白質が発現しているHVTのプラークを探した。GFP蛋白質の発現を示す緑色の蛍光を発する組換えHVTが確認されたウェルより細胞を回収、希釈し、LM(+)培地に懸濁した新鮮なCEF細胞とまぜて96ウェル培養プレートに分注し培養した。この一連の操作の繰り返しによって、ほぼ100%組換えHVTであることを確認した。この組み換えHVTを10pfu程度までCEF細胞内で増殖後、超音波破砕処理を行い、遠心上清を、96ウェル培養プレートのCEF細胞に感染させた。1週間培養後、再び、この操作を繰り返して組み換えHVTが100%になるまで繰り返した。こうして純化した組換えHVTウイルスをrHVT/IB_S+M+Eと命名した。
【0044】
5.組換えHVTの発現蛋白質の確認(ブラック・プラーク・アッセイ)
上記4で作製した各組換えHVTをCEF細胞と混合させて、それぞれ6ウェル培養プレートで培養し、3日後、PBSにて2回細胞を洗浄後、−20℃のメタノール:アセトン(2:1)を500μl/ウェル加えて、室温で5分間放置した。この後PBSにて2回洗浄し、一次抗体と反応させた。一次抗体として用いたのは(1)IBVの血清型Mass株に対するモノクローナル抗体(MAb)1588(コーネル大学より分与された。参考論文はAvian Disease(1992)36:903−915)、(2)抗M41鶏血清、(3)プラスミドpGEX−6P−3(アマシャムバイオサイエンス社製、カタログNo.27−4599−01)を使って大腸菌で発現させたM蛋白質の97番目から225番目までの領域の組換え蛋白を鶏に免疫して得た鶏血清(抗M鶏血清)、(4)同じ大腸菌発現ベクターを使って、E蛋白質の3番目から108番目までの領域の組換え蛋白質を鶏に免疫して得た鶏血清(抗E鶏血清)を用いた。37℃で1時間放置後、PBSで2回洗浄し、2次抗体として5000倍稀釈したビオチン化抗マウスIgG(ベクターラボラトリー社製、カタログNo.BA−9200)又はビオチン化抗鶏IgG抗体(ベクターラボラトリー社、BA−9010)と反応させた。再び1時間放置後、PBSで2回洗浄し、ベクターステインABC−ALP(ベクターラボラトリー社製、AK−5000)液で30分間放置した。PBS洗浄後、NBT/BCIP(ロッシュダイアゴノスティックス、カタログNo.11681451001)にて発色させた。検鏡しながら反応の進行を確認し、呈色反応は試薬を捨てて水に置換して停止させた。プラークが黒く染まったものを陽性(+)、染まらなかったものを(−)として、結果を表1に示した。
【0045】
表1に示すようにrHVT/IB_S+M+E感染CEF細胞のみ、S蛋白質に対するモノクローナル抗体(1588)や抗E鶏血清と反応した。1588は血清特異的なモノクローナル抗体であるとともに、ウエスタンブロットでは反応しないことから、S蛋白質の立体構造を認識していると考えられている(Avian Diseases(1992)36:903−915)。このモノクローナル抗体に反応したということは、rHVT/IB_S+M+E感染細胞で発現するスパイク蛋白質は立体構造上、IBVのMass株のS蛋白質と類似した構造をとっていることを示唆しており、他の組換えHVTでは、そのようなS蛋白質の立体構造はとれないということがわかった。
【0046】
【表1】

【0047】
6.組換え体のワクチン効果動物試験
日生研から購入したSPF卵から生まれた雛に、表2で示す各組換えHVTを3×10/羽ずつ皮下接種した(各群10羽)。4週間後に採血してMass41株を抗原として挽いたELISAプレート(SPAFAS社製)を使って抗体価を測定した。500倍希釈した鶏から採取した血清と1時間反応させ、PBS−T(0.1%Tween−20含有PBS)でよく洗浄後、4000倍希釈したHRPO標識抗鶏IgG羊血清(BETHYL社)と1時間反応させ、PBS−Tで再びよく洗浄後、基質(バイオラッド社、カタログ番号172−1064)を添加して15分間反応させた。吸光度が0.2以上になったものを陽性とし、陽性となった鶏数をカウントした。結果を表2に示した。
【0048】
IBVに対する中和抗体(VN)の有無も測定した。10EID50のMass41株を10倍ずつ段階希釈した鶏血清(上記採取した血清プール)と混合し、1時間静置した。それを10日胚のSPF受精卵に接種して、7日後、卵から胎児を取り出し生死を判定した。50%中和抗体価(NI)をReedらの方法(Am.J.Hyg.(1938)27:493−497)で算出した。結果を表2に示した。
表2に示すように、rHVT/IB_S+M+EのみIBVに対する抗体が検出され、中和抗体も認められた。
【0049】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、プラスミドp46CoaM(mass)の模式図である。
【図2】図2は、プラスミドp46cmvS(mass)の模式図である。
【図3】図3は、プラスミドp46CoaMcmvS(mass)の模式図である。
【図4】図4は、プラスミドpPmd50E(mass)md51GFPの模式図である。
【図5】図5は、プラスミドp46CoaMcmvSmd50Emd51GFPの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏伝染性気管支炎ウイルスのスパイク蛋白質をコードする遺伝子、メンブレン蛋白質をコードする遺伝子、及びエンベロープ蛋白質をコードする遺伝子がプロモーターとともに、ゲノムに挿入された組換え七面鳥ヘルペスウイルス。
【請求項2】
プロモーターが、サイトメガロウイルスの初期プロモーター、鶏βアクチン遺伝子のプロモーター、及びマレック病ウイルスのUL50遺伝子のプロモーターからなる群より選択されたものである請求項1記載の組換え七面鳥ヘルペスウイルス。
【請求項3】
スパイク蛋白質をコードする遺伝子、メンブレン蛋白質をコードする遺伝子、及びエンベロープ蛋白質をコードする遺伝子が七面鳥ヘルペスウイルスのUL45とUL46のオープン・リーディング・フレームの間に挿入されたものである請求項1又は2記載の組換え七面鳥ヘルペスウイルス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された組換え七面鳥ヘルペスウイルスを有効成分とする家禽用ワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−195136(P2009−195136A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38614(P2008−38614)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】