説明

新規な結晶構造を有するポリアセタール樹脂および結晶構造の制御方法

【課題】25℃において20〜40nmのラメラ周期構造を有する、新規な結晶構造を有するポリアセタール樹脂を提供する。
【解決手段】主としてオキシメチレン単位の繰り返しで形成されるポリオキシメチレン単位とポリアルキレングリコール単位とを有してなり、25℃において20〜40nmのラメラ周期構造を有するポリアセタール樹脂。好ましくは、ポリアルキレングリコールはポリエチレングリコールであり、数平均分子量が2000以上である。更に、ポリオキシメチレン単位が、オキシメチレン単位100モルに対し0〜10モルの割合で炭素数2〜6のオキシアルキレン単位を有する。ポリオキシメチレン単位とポリアルキレングリコール単位とを、前者/後者=99〜50/1〜50(重量%)の割合で有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な結晶構造を有するポリアセタール樹脂および結晶構造の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶性高分子であるポリアセタール樹脂は、結晶化温度以下の温度領域では結晶相と非晶相からなるものになり、結晶相はさらに折りたたみ鎖結晶(ラメラ結晶)と伸びきり鎖結晶に分けられる。
【0003】
そして、室温においてはラメラ結晶相の間隔は14〜20nmにあることが知られており(非特許文献1)、また、高温で結晶化した場合はラメラ周期が拡大することが知られている(非特許文献2)。
【非特許文献1】Polymer 44(2003)2159-2168
【非特許文献2】Polymer 44(2003)6973-6988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常ポリアセタール樹脂が使用される温度範囲、例えば20〜100℃の温度範囲において、20nm以上のラメラ周期を有するポリアセタール樹脂はこれまでのところ知られていない。
【0005】
このような結晶高次構造を有するポリアセタール樹脂は、従来のポリアセタール樹脂に比べて機械物性や気体透過性などの改善が期待されるものであり、その制御手法の開発とこれによって得られる新規な結晶構造を有するポリアセタール樹脂が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる要求に応えるため鋭意検討を重ねた結果、ポリアセタール樹脂のラメラ周期を制御する有効な手法と、これにより達成される新規な結晶構造を有するポリアセタール樹脂を見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち本発明は、主としてオキシメチレン単位の繰り返しで形成されるポリオキシメチレン単位とポリアルキレングリコール単位とを有してなり、25℃において20〜40nmのラメラ周期構造を有することを特徴とするポリアセタール樹脂、及びポリアセタール樹脂のラメラ周期の制御方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来にない20〜40nmのラメラ周期構造を有するポリアセタール樹脂が得られることが確認された。またラメラ周期は重合に用いるポリエチレングリコールの分子量によって制御が可能であることが明らかとなった。このように結晶高次構造を制御されたポリアセタール樹脂により柔軟性や気体透過性が改善され、新規用途への展開が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリアセタール樹脂は、前述の如く、主としてオキシメチレン単位の繰り返しで形成されるポリオキシメチレン単位とポリアルキレングリコール単位とを有してなり、25℃において20〜40nmのラメラ周期構造を有することを特徴とするものである。このラメラ周期構造は温度の上昇に伴い幾分かは増大するが、その程度は僅かであり、通常ポリアセタール樹脂が使用される20〜100℃程度の温度範囲においては、20〜45nmのラメラ周期構造を保持したものとなる。このような特異的なラメラ周期構造は、ポリオキシメチレン単位からなるポリマー骨格のいずれか一方の末端、もしくは両末端に、ポリアルキレングリコール単位をブロック共重合的に付加又は導入することにより達成される。
【0011】
ここで、本発明のポリアセタール樹脂を形成するポリオキシメチレン単位としては、ホルムアルデヒド、その環状オリゴマーであるトリオキサンやテトラオキサン等の単独重合によって形成されるオキシメチレン単位の繰り返しのみからなるもの、及び、オキシメチレン単位以外に他の構成単位を少量有してなるものが含まれる。
【0012】
オキシメチレン単位以外の他の構成単位としては、炭素数2〜6のオキシアルキレン単位が好ましく、その割合は、オキシメチレン単位100モルに対し0〜10モルが好ましく、特に0.1〜5モルが好ましい。かかるオキシアルキレン単位は、例えばエチレンオキシド、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール等を共重合成分として使用することにより導入することができる。
【0013】
また、本発明において、ポリアルキレングリコール単位を形成するための化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。好ましくは、ポリエチレングルコールである。ポリアルキレングリコールは、数平均分子量が2000以上のものが好ましく、これにより、所望するラメラ周期構造をより適切に制御することができる。
【0014】
本発明において、ポリアセタール樹脂を構成する上記の如きポリオキシメチレン単位とポリアルキレングリコール単位の割合は、前者/後者=99〜50/1〜50(重量%)が好ましく、特に好ましくは前者/後者=90〜60/10〜40(重量%)である。
【0015】
ポリオキシメチレン単位の割合が過多の場合は所望する特異的なラメラ周期構造を得ることができず、逆にポリオキシメチレン単位の割合が少なくなると、ポリアセタール樹脂が本来有する特性が損なわれることになる。
【0016】
次に、本発明におけるポリアセタール樹脂のラメラ周期の制御方法について説明する。
【0017】
本発明におけるポリアセタール樹脂のラメラ周期の制御は、基本的には、ポリオキシメチレン単位からなるポリマー骨格のいずれか一方の末端、もしくは両末端に、ポリアルキレングリコール単位がブロック共重合的に付加又は導入された構造とすることにより行われる。
【0018】
従って、一旦ポリオキシメチレン単位からなるポリマーを調製し、ブロック共重合又はグラフト共重合等によって、その一方の末端もしくは両末端にポリアルキレングリコール単位を付加する方法によってもラメラ周期の制御は可能であるが、より好ましくは、以下に記載する方法によるラメラ周期の制御である。
【0019】
即ち、ポリアルキレングリコールの存在下で、トリオキサン100モルと環状エーテル及び環状ホルマールから選ばれた化合物0〜30モルの重合を行い、主としてオキシメチレン単位の繰り返しで形成されるポリオキシメチレン単位とポリアルキレングリコール単位とを有するブロック共重合体とすることによってポリアセタール樹脂のラメラ周期を制御する方法である。これにより、ポリアセタール樹脂を25℃において20〜40nmのラメラ周期構造を有するものに制御することが可能となる。
【0020】
環状エーテル又は環状ホルマールとしてはエチレンオキシド、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール等が使用可能であり、ポリアルキレングリコールとしてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が使用できる。また、ラメラ周期構造をより適切に制御するためには、使用するポリアルキレングリコールは数平均分子量が2000以上のものが好ましい。また、上記反応において、トリオキサンと環状エーテル及び環状ホルマールから選ばれた化合物の合計量と、存在させるポリアルキレングリコールとの割合は、前者/後者=99〜50/1〜50(重量%)とするのが好ましい。
【0021】
上記の如きポリアセタール樹脂のラメラ周期の制御方法において、重合方法としては特に制限されるものではなく、例えば塊状重合を挙げることができる。塊状重合はバッチ式、連続式のいずれであっても良い。
【0022】
より具体的には、トリオキサン及び所望により用いられる環状エーテル及び環状ホルマールから選ばれた化合物にポリアルキレングリコールを溶解させ、これに触媒を添加して重合を行えばよい。重合温度は60〜120℃に保つのが好ましい。重合触媒としては、従来からポリアセタール樹脂の製造用触媒として知られた化合物がいずれも使用でき、例えば、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン、ヘテロポリ酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、これらの錯化合物及び塩が挙げられる。
【0023】
これらの重合触媒の使用量は、触媒活性の程度によっても異なるが、トリオキサンと環状エーテル及び/又は環状ホルマールの合計量1モルに対し1×10-6 〜1×10-2 モルが好ましく、5×10-6 〜1×10-4 モルが更に好ましい。得られた重合体は、必要に応じて常法に従って重合触媒の失活、末端安定化及び安定剤の添加を行う。
【0024】
上記のようにして調製された本発明におけるポリアセタール樹脂のラメラ周期構造は、小角X線散乱測定により観測される。例えば株式会社リガク製 RINT 2500が使用され、得られた散乱ピークの散乱ベクトルqからラメラ間隔dが算出される。なお、散乱ベクトルqは以下の(1)式にて定義され、ラメラ間隔dは(2)式にて与えられる。
【0025】
q =(4πsinθ)/λ …(1)
なお、θは散乱角、λは小角X線散乱測定に用いたX線の波長である。
【0026】
d =2π/q …(2)
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
数平均分子量3000のポリエチレングリコール40重量部を80℃のトリオキサン60重量部に溶解させ、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体をトリオキサンに対しモル比で5.1×10-3添加し、80℃で35分間、重合反応を行った。得られた重合物の内、5gをジメチルホルムアミド(DMF)10mlに150℃で溶解し、ジアザビシクロウンデセン(DBU)を10μl添加しアルカリ不安定成分を分解除去した。
得られた重合体をヘキサフルオロイソプロパノール-d2に溶解し、1H NMR測定を行ったところ、全ポリマー組成中に37.6重量%のポリエチレングリコール単位を有するブロック共重合体であり、その数平均分子量は28400であることが確認された。
次に、25℃の温度条件下で、この重合体の小角X線散乱測定を行った。散乱は図1に示すように、q =0.3, 0.42の位置に強い散乱が見られ、それぞれ20.9nm、15.0nmのラメラ周期構造を有することが示された。
【0029】
実施例2
実施例1におけるポリエチレングリコールを数平均分子量が6000のものに変え、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体をトリオキサンに対しモル比で2.8×10-3、重合時間を7分間とした以外は、実施例1と同様にして重合を行い、得られた重合物のアルカリ不安定成分の分解除去を行った。得られた重合体は、全ポリマー組成中に36.5重量%のポリエチレングリコール単位を有するブロック共重合体であり、その数平均分子量は24500であることが確認された。また、小角X線散乱によりq =0.27、0.43の位置に強い散乱が見られ、それぞれ23.3nm、14.6nmのラメラ周期構造を有することが示された。
【0030】
実施例3
実施例1におけるポリエチレングリコールを数平均分子量が10000のものに変え、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体をトリオキサンに対しモル比で1.9×10-3、重合時間を45分間とした以外は、実施例1と同様にして重合を行い、得られた重合物のアルカリ不安定成分の分解除去を行った。得られた重合体は、全ポリマー組成中に36.9重量%のポリエチレングリコール単位を有するブロック共重合体であり、その数平均分子量は48100であることが確認された。また、小角X線散乱によりq =0.2、0.27の位置に強い散乱が見られ、それぞれ31.4nm、23.3nmのラメラ周期構造を有することが示された。
【0031】
比較例1
市販されているポリアセタール樹脂(ポリプラスチックス(株)製 ジュラコン(登録商標)M450-44)を用いて、小角X線散乱測定を行った。散乱はq =0.38の位置に強い散乱を示すのみで、ラメラ周期16.5nmであった。
【0032】
比較例2
市販されているポリアセタール樹脂(ポリプラスチックス(株)製 ジュラコン(登録商標)M450-44)60重量部と数平均分子量を6000のポリエチレングリコール 40重量部をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解した後、溶媒を除去してポリオキシメチレンとポリエチレングリコールの混合物を調整し、小角X線散乱測定を行った。散乱はq =0.39の位置に強い散乱を示すのみで、ラメラ周期16.1nmであった。
【0033】
(解析)
実施例1〜3において重合に使用したポリエチレングリコールの数平均分子量と、得られるポリアセタール樹脂のラメラ間隔には図2に示すように相関があることが判明し、このことからポリエチレングリコールの分子量によってラメラ周期が制御可能であるという知見を初めて見出した。これはポリエチレングリコールによってポリアセタール樹脂のラメラ周期が拡大されているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1で得られた重合体の小角X線散乱強度を示す。縦軸は散乱強度、横軸は散乱ベクトルqである。
【図2】実施例1〜3において得られた重合体のラメラ周期と重合に用いたポリエチレングリコールの数平均分子量の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてオキシメチレン単位の繰り返しで形成されるポリオキシメチレン単位とポリアルキレングリコール単位とを有してなり、25℃において20〜40nmのラメラ周期構造を有することを特徴とするポリアセタール樹脂。
【請求項2】
ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである請求項1に記載のポリアセタール樹脂。
【請求項3】
ポリアルキレングリコールの数平均分子量が2000以上である請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂。
【請求項4】
ポリオキシメチレン単位が、オキシメチレン単位100モルに対し0〜10モルの割合で炭素数2〜6のオキシアルキレン単位を有するものである請求項1〜3の何れか1項に記載のポリアセタール樹脂。
【請求項5】
ポリオキシメチレン単位とポリアルキレングリコール単位とを、前者/後者=99〜50/1〜50(重量%)の割合で有してなる請求項1〜4の何れか1項に記載のポリアセタール樹脂。
【請求項6】
ポリアルキレングリコールの存在下でトリオキサン100モルと環状エーテル及び環状ホルマールから選ばれた化合物0〜30モルの重合を行い、主としてオキシメチレン単位の繰り返しで形成されるポリオキシメチレン単位とポリアルキレングリコール単位とを有するブロック共重合体とすることによって、25℃において20〜40nmのラメラ周期構造を有するものに制御する、ポリアセタール樹脂のラメラ周期の制御方法。
【請求項7】
ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである請求項6に記載のポリアセタール樹脂のラメラ周期の制御方法。
【請求項8】
ポリアルキレングリコールの数平均分子量が2000以上である請求項6又は7に記載のポリアセタール樹脂のラメラ周期の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−51927(P2009−51927A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219495(P2007−219495)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】