説明

新規な蛍光材料、発光材料及び蛍光材料を含んでなる蛍光顔料

【課題】優れた色純度でかつ強い蛍光を呈し耐久性にも優れる蛍光材料、発光材料及び蛍光材料を含んでなる蛍光顔料を提供する。
【解決手段】3価の金属のヒドロキシピリドン錯体を含んでなる蛍光材料。該錯体は、例えば下式により製造されるヒドロキシピリドンAl錯体であり、これを含む蛍光材料はEL素子の発光材料、蛍光顔料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた色純度でかつ強い蛍光を呈する新規な蛍光材料、発光材料及び蛍光材料を含んでなる蛍光顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス素子(以下、EL素子ともいう)の分野においては、視野角依存性に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース化が可能である自己発光型の有機EL素子が注目されている。有機EL素子の発光材料としては種々の有機蛍光材料の利用が検討されており、有機蛍光材料としては、たとえば緑色用のトリス(8−ヒドロキシキノリノラート)アルミニウム(Alq3)等が公知である。しかし、より短波長側の青色領域において色純度に優れかつ強い蛍光を呈する有機蛍光材料が求められている。
【0003】
特許文献1には、高温での耐久性が向上した有機EL素子として、発光層に、ドーパントとしての緑色発光するクマリン誘導体として、芳香環、複素環又はそれらの組合せにクマリン基が複数結合してなり、ガラス転移点が150℃以上又は融点が297℃以上であるクマリン誘導体を用いた有機EL素子が提案されている。
【0004】
特許文献2には、有機電界発光素子の長駆動寿命化が可能な発光材料として、ホスト材料及び電気吸引性基を有する燐光ドーパント材料からなる発光材料であって、該ホスト材料の最低空軌道(LUMO)準位が該ドーパント材料のLUMO準位より低く、かつ該ホスト材料の最高占有軌道(HOMO)準位が該ドーパント材料のHOMO準位より低い発光材料が提案されている。
【0005】
特許文献3には、固体状態で比較的強い青色発光を得ることが可能な蛍光材料として、ピロン骨格の3,4,6位に特定の置換基を有するα−ピロン誘導体を含む蛍光材料が提案されている。
【0006】
しかし、たとえば有機EL素子に用いられる蛍光材料は、色純度及び耐久性に優れていることが要求され、特に青色蛍光材料においては、実用面で十分に良好な色純度及び耐久性を有する蛍光材料は未だ得られていないのが現状である。また、蛍光顔料の用途においては、たとえば蛍光染料と比べて数倍の耐光性が必要とされるが、このような耐光性を与える青色蛍光材料は未だ得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開2004−265623号公報
【特許文献2】特開2005−203293号公報
【特許文献3】特開2003−183640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決し、青色〜緑色を含む短波長領域、特に青色領域において優れた色純度でかつ強い蛍光を呈するとともに、安定性、耐熱性等の耐久性にも優れる新規な蛍光材料、発光材料及び蛍光材料を含んでなる蛍光顔料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の式(1)、
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Xは3価の金属を表し、R1,R1’,R1”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、から選択されるいずれかの基を表し、R2,R2’,R2”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数5以下のアルコキシカルボニル基、から選択されるいずれかの基を表し、R3,R3’,R3”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数4以下のアルキル基、から選択されるいずれかの基を表す)
で示されるヒドロキシピリドン錯体を含んでなる蛍光材料に関する。
【0011】
本発明はまた、下記の式(2)、
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Xは3価の金属を表し、R1は、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、から選択されるいずれかの基を表し、R2は、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数5以下のアルコキシカルボニル基、から選択されるいずれかの基を表し、R3は、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数4以下のアルキル基、から選択されるいずれかの基を表す)
で示されるヒドロキシピリドン錯体を含んでなる蛍光材料に関する。
【0014】
本発明においては、上記の式(1),式(2)におけるXがAlであることが好ましい。
【0015】
本発明においては、上記の式(2)において、R2がフェニル基であり、R1及びR3の少なくともいずれかが、フェニルの4位が炭素数1〜5のアルコキシ基で置換されたアルコキシフェニル基であることが好ましい。特に、フェニルの4位が炭素数1〜5のアルコキシ基で置換された該アルコキシフェニル基が4−メトキシフェニル基であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、上記の式(2)において、R2がフェニル基であり、R1及びR3の少なくともいずれかが4−ハロゲン化フェニル基であることが好ましい。特に、該4−ハロゲン化フェニル基が4−ブロモフェニル基であることが好ましい。
【0017】
本発明においては、式(2)において、R2がフェニル基であり、R1及びR3の少なくともいずれかが4−パーフルオロアルキル化フェニル基であることが好ましい。特に、該4−パーフルオロアルキル化フェニル基が4−トリフルオロメチルフェニル基であることが好ましい。
【0018】
本発明においては、上記の式(2)において、R1,R2,R3がいずれもフェニル基であることが好ましい。
【0019】
本発明はまた、上述の蛍光材料を含んでなるエレクトロルミネッセンス素子用の発光材料に関する。
【0020】
本発明はまた、上述の蛍光材料を含んでなる蛍光顔料に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、青色〜緑色を含む短波長領域、特に青色領域において優れた色純度でかつ強い蛍光を呈するとともに、安定性、耐熱性等の耐久性にも優れる新規な蛍光材料が得られる。また、該蛍光材料を含むことにより、色純度、発光強度及び耐久性に優れるエレクトロルミネッセンス素子用の発光材料、及び蛍光顔料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の典型的な実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
【0023】
本発明は、下記式(1)、
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、Xは3価の金属を表し、R1,R1’,R1”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、から選択されるいずれかの基を表し、R2,R2’,R2”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数5以下のアルコキシカルボニル基、から選択されるいずれかの基を表し、R3,R3’,R3”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数4以下のアルキル基、から選択されるいずれかの基を表す)
で示されるヒドロキシピリドン錯体を含んでなる蛍光材料に関する。
【0026】
式(1)に示すヒドロキシピリドン錯体は、置換基を有しても良い芳香環基、及び/又は、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、がピリドン骨格に少なくとも1つ結合した構造を有するヒドロキシピリドンを配位子とする金属錯体である。該ヒドロキシピリドン錯体においては、特に固体状態で分子間のパッキング作用が働くためにピリドン骨格近傍の置換基の自由回転が阻害され、非常に強い蛍光が発せられる。またピリドン骨格は、たとえば350nm付近の短波長の光吸収を有し、該ピリドン骨格においては金属へのエネルギー移動が生じ易いものと考えられる。これらの理由により、式(1)に示すヒドロキシピリドン錯体は、青色〜緑色を含む短波長領域、特に青色領域において色純度に優れかつ強い蛍光を呈するものと考えられる。
【0027】
式(1)中、Xは3価の金属を表すが、色純度に優れる強い蛍光を呈する点で、XとしてはAl、Zn、Zrが好ましく、特にAlが好ましい。
【0028】
式(1)中、R1,R1’,R1”はそれぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、から選択されるいずれかの基を表し、R2,R2’,R2”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数5以下のアルコキシカルボニル基、から選択されるいずれかの基を表し、R3,R3’,R3”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数4以下のアルキル基、から選択されるいずれかの基を表す。R1,R1’,R1”,R2,R2’,R2”,R3,R3’,R3”がそれぞれ上記から選択される基である場合、青色〜緑色を含む短波長領域、特に青色領域において、色純度に優れかつ強い蛍光を呈する蛍光材料が得られる。R1,R1’,R1”,R2,R2’,R2”,R3,R3’,R3”がそれぞれ上記から選択される基である場合に青色領域の色純度に優れかつ強い蛍光を呈する理由については定かではないが、ピリドン骨格と該ピリドン骨格に結合した基とのねじれ角が大きいことが一因と推測できる。
【0029】
上記のアリール基としては、たとえば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、等が挙げられる。
【0030】
上記のN原子を有さない複素環基としては、チエニル基、ベンゾチエニル基、フリル基、イソベンゾフラニル基、等が挙げられる。
【0031】
上記のアリール基及び複素環基に含有され得る置換基としては、芳香族炭化水素基、複素環基、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、等のうち1種からなる置換基、又はこれらのうち2種以上が連結した置換基が例示できる。
【0032】
置換基を有するアリール基の具体例としては、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−シアノフェニル基等が挙げられる。
【0033】
上記の炭素数5以下のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0034】
本発明において、式(1)中のR1,R1’,R1”は同一又は異なる構造を有することができ、R2,R2’,R2”は同一又は異なる構造を有することができ、R3,R3’,R3”は同一又は異なる構造を有することができるが、ヒドロキシピリドン錯体の作製を簡便かつ容易に行なうことが可能である点で、R1,R1’,R1”、及び、R2,R2’,R2”、及びR3,R3’,R3”は、それぞれ同一の構造であることが好ましい。すなわち、本発明の蛍光材料に含まれるヒドロキシピリドン錯体は、下記の式(2)、
【0035】
【化4】

【0036】
(式中、Xは3価の金属を表し、R1は、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、から選択されるいずれかの基を表し、R2は、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数5以下のアルコキシカルボニル基、から選択されるいずれかの基を表し、R3は、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数4以下のアルキル基、から選択されるいずれかの基を表す)
に示す構造からなることが好ましい。
【0037】
式(1)又は式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体は、置換基を有しても良い芳香環基及び/又は置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基がピリドン骨格に少なくとも1つ結合した構造のヒドロキシピリドンを含むが、より色純度に優れかつ強い蛍光が得られる点で、置換基を有しても良い芳香環基及び/又は置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基がピリドン骨格の2箇所以上に結合したものを好ましく含み、置換基を有しても良い芳香族基及び/又は置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基がピリドン骨格の3箇所に結合したものをさらに好ましく含む。より典型的には、置換基を有しても良い芳香環基がピリドン骨格の3箇所に結合したものを含む。
【0038】
以下に、本発明の蛍光材料に含有されるヒドロキシピリドン錯体のより具体的な好ましい例について説明する。
【0039】
本発明においては、上記の式(1)において、R2,R2’,R2”がいずれもフェニル基であり、R1,R1’,R1”,R3,R3’,R3”の少なくともいずれかが、フェニルの4位が炭素数1〜5のアルコキシ基で置換されたアルコキシフェニル基であることが好ましい。この場合、より色純度に優れかつ強い蛍光を呈する蛍光材料を得ることができる。また、本発明の蛍光材料が上記の式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体を含み、式(2)において、R2がフェニル基であり、R1,R3の少なくともいずれかが、フェニルの4位が炭素数1〜5のアルコキシ基で置換されたアルコキシフェニル基であることはより好ましい。
【0040】
フェニルの4位が炭素数1〜5のアルコキシ基で置換されたアルコキシフェニル基としては、4−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−n−プロポキシフェニル基、4−イソプロポキシフェニル基、4−n−ブトキシフェニル基等が例示できるが、4−メトキシフェニル基が色純度及び蛍光強度の点で特に好ましい。
【0041】
本発明においては、上記の式(1)において、R2,R2’,R2”がいずれもフェニル基であり、R1,R1’,R1”,R3,R3’,R3”の少なくともいずれかが4−ハロゲン化フェニル基であることが好ましい。この場合、より色純度に優れかつ強い蛍光を呈する蛍光材料を得ることができる。また、本発明の蛍光材料が上記の式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体を含み、式(2)において、R2がフェニル基であり、R1,R3の少なくともいずれかが4−ハロゲン化フェニル基であることはより好ましい。
【0042】
4−ハロゲン化フェニル基としては、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基等が例示できるが、4−ブロモフェニル基が色純度及び蛍光強度の点で特に好ましい。
【0043】
本発明においては、上記の式(1)において、R2,R2’,R2”がいずれもフェニル基であり、R1,R1’,R1”,R3,R3’,R3”の少なくともいずれかが4−パーフルオロアルキル化フェニル基であることが好ましい。この場合、より色純度に優れかつ強い蛍光を呈する蛍光材料を得ることができる。また、本発明の蛍光材料が上記の式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体を含み、式(2)において、R2がフェニル基であり、R1,R3の少なくともいずれかが4−パーフルオロアルキル化フェニル基であることはより好ましい。
【0044】
4−パーフルオロアルキル化フェニル基としては、たとえば炭素数が1〜5の範囲内のものが例示できる。また該4−パーフルオロアルキル化フェニル基中のアルキル鎖は直鎖でも分岐鎖でも良い。具体的には、4−パーフルオロメチルフェニル基、4−パーフルオロエチルフェニル基、4−パーフルオロ−n−プロピルフェニル基、4−パーフルオロ−イソプロピルフェニル基、4−パーフルオロ−n−ブチルフェニル基等が挙げられるが、4−トリフルオロメチルフェニル基が、色純度及び蛍光強度の点で特に好ましい。
【0045】
本発明においては、上記の式(1)又は式(2)において、R1,R1’,R1”,R2,R2’,R2”,R3,R3’,R3”がいずれもフェニル基であることが好ましい。この場合、より色純度に優れかつ強い蛍光を呈する蛍光材料を得ることができる。
【0046】
本発明の蛍光材料に含有されるヒドロキシピリドン錯体の中で、蛍光材料としての合成のしやすさの点からより好ましいものとしては、例えば以下の式(3)、式(4)、式(5)、式(6)、
【0047】
【化5】

【0048】
【化6】

【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
(式中、Phはフェニル基を表す)
に示すものが挙げられる。
【0052】
上記の式(3)で示されるヒドロキシピリドン錯体は、蛍光材料としての耐熱性の点でも好ましい。
【0053】
本発明において、式(1)又は式(2)で示されるヒドロキシピリドン錯体は、対応する1種又は2種以上のピリドン誘導体から公知の方法により容易に合成することができる。2種以上のピリドン誘導体を用いた場合には、式(1)中のXで表される金属に配位する3つの配位子の分子構造が異なるヒドロキシピリドン錯体を得ることができる。しかし本発明においては、ヒドロキシピリドン錯体の合成を容易かつ簡便に行なうことが可能である点で、1種のピリドン誘導体から式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体を合成することが好ましい。
【0054】
式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体を合成する典型的な方法としては、たとえば、下記の式(7)、
【0055】
【化9】

【0056】
に従って合成する方法が好ましく例示できる。なお式(7)は、式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体としてAl−ヒドロキシピリドン錯体を合成する場合について示している。式(7)に示す方法では、窒素にヒドロキシル基が結合したピリドン誘導体に、中心原子となるAlを含む塩化アルミニウムを加え、たとえばエタノール中で加熱攪拌することにより、対応するAl−ヒドロキシピリドン錯体を合成することができる。
【0057】
このようにして得られるヒドロキシピリドン錯体は、たとえば、溶解、抽出、分液、傾斜、ろ過、濃縮、薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、蒸留、昇華、結晶化などの、類縁化合物を精製するための汎用の方法により精製されることができる。必要に応じて、上記の精製方法は組合せて適用され得る。
【0058】
式(1)又は式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体の融点は100〜400℃の範囲内であることが好ましい。融点が100℃以上である場合、耐熱性に優れ、使用時に固体状態で良好な蛍光を呈する蛍光材料が得られ、400℃以下である場合、取り扱いが容易であるとともに製造時の昇華精製の容易さの点でも好都合である。該融点は、最も典型的には250〜400℃の範囲内であることが好ましい。ヒドロキシピリドン錯体の融点は、たとえばDSC(示差走査熱量計)により測定され得る。
【0059】
式(1)又は式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体は、青色〜緑色を含む短波長領域において蛍光を呈するものであるが、たとえば、発光強度が最大となる波長である最大蛍光波長が400〜500nmの範囲内であるものが特に好ましい。最大蛍光波長がこの範囲内である場合、該ヒドロキシピリドン錯体を含む蛍光材料は青色領域に強い蛍光を呈する。最大蛍光波長は、さらに400〜470nmの範囲内であることが好ましい。
【0060】
式(1)又は式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体としては、上記の最大蛍光波長における発光強度の50%以上の発光強度を示す領域の波長幅として定義される半値幅が100nm以下である蛍光特性を有するものが特に好ましい。該半値幅が100nm以下である場合、色純度に優れる蛍光材料が得られる点で好ましい。該半値幅は、さらに90nm以下が好ましく、また蛍光材料が固体状態で使用される場合には、該半値幅はさらに80nm以下、さらに75nm以下が好ましい。なお該半値幅は小さい程好ましいが、50nm程度であれば本発明の効果を十分に発揮できるため、該半値幅は、50nm以上、さらに60nm以上とされることができる。
【0061】
なお、上記の最大蛍光波長及び半値幅は、たとえば分光蛍光光度計を用いて求められる蛍光スペクトルから算出され得る。
【0062】
本発明の蛍光材料は、式(1)又は(2)に示すヒドロキシピリドン錯体を含むものである。該蛍光材料は、式(1)又は(2)に示すヒドロキシピリドン錯体のみからなるものでも良く、また他の蛍光材料を含むものでも良い。他の蛍光材料としては、たとえば、典型的な緑色蛍光材料として知られるAlq3(トリス(8−ヒドロキシキノリノラート)アルミニウム)や、ベンゾキノリノール金属錯体、ビピリジン金属錯体、ローダミン金属錯体、アゾメチン金属錯体等の金属錯体、アントラセン、ピレン、ペリレン等の縮合多環芳香族炭化水素の誘導体、ピラジン、ナフチリジン、キノキサリン、ピロロピリジン、ピリミジン、チオフェン、チオキサンテンなどの複素環の誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、フタルイミド誘導体、ナフタルイミド誘導体、クマリン誘導体、アリールアミン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、カルコン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、フタロシアニン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、N−ビニルカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、ポリシラン誘導体、ペリノン誘導体、ピロロピロール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、等が例示できる。
【0063】
上述した本発明の蛍光材料は、単独で又は他の発光材料と組合されて、発光材料、特にEL素子用の発光材料とされることができる。本発明の蛍光材料が他の発光材料と組合される場合の具体的な態様としては、式(1)又は式(2)に示すヒドロキシピリドン錯体を含む本発明の蛍光材料をホスト材料とし、ドーパント材料として、たとえば、アントラセン、ピレン、ペリレンなどの縮合多環芳香族炭化水素の誘導体、クマリン誘導体、ナフタルイミド誘導体、ペリノン誘導体、希土類錯体、ジシアノメチレンピラン誘導体、ジシアノメチレンチオピラン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ローダミン誘導体、デアザフラピン誘導体、オキサジン化合物、チオキサンテン誘導体、フルオレセイン誘導体、アクリジン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピロール誘導体、キナゾリン誘導体、ピロロピリジン誘導体、フェナジン誘導体、アクリドン誘導体、ジアザフラビン誘導体、ピロメテン誘導体及びその金属錯体、フェノキサジン誘導体、フェノキサゾン誘導体、チアジアゾロピレン誘導体、等の燐光材料を用いる組合せが例示できる。
【0064】
なお、上記ドーパント材料の量が上記ホスト材料のたとえば0.05〜50質量%の範囲内となるように該ホスト材料と該ドーパント材料とを組合せることが好ましい。
【0065】
本発明の蛍光材料を含む発光材料は高い発光効率を有するために輝度が大きく、発光体や、情報を視覚的に表示する情報機器において多種多様の用途を有する。また、本発明の発光材料を用いた有機EL素子を光源とする発光体は、消費電力が小さいうえに、軽量なパネル状に構成することができるので、一般照明の光源に加えて、たとえば、液晶素子、複写装置、印字装置、電子写真装置、コンピュータ及びその応用機器、工業制御機器、電子計測器、分析機器、計器一般、通信機器、医療用電子計測機器、自動車を含む車輛、船舶、航空機、宇宙船などに搭載する機器、航空機の管制機器、インテリア、看板、標識などの種々の用途における省エネルギーかつ省スペースな光源として有用である。
【0066】
また、上述した本発明の蛍光材料は、バインダー樹脂等の他の成分と混合されることにより蛍光顔料とされることができる。バインダー樹脂としては、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、芳香族スルホンアミド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等から選択される1種又は2種以上の組合せが例示できるが、バインダー樹脂としては熱硬化性及び/又は光硬化性の樹脂が好ましく使用される。
【0067】
中でも特に好ましいバインダー樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0068】
蛍光顔料には、本発明の蛍光材料、上記のバインダー樹脂の他に、たとえば酸化防止剤、光拡散剤、熱安定化剤、光安定化剤等が本発明の効果を損なわない範囲で混合されても良い。
【0069】
上記の式(1)又は(2)に示すヒドロキシピリドン錯体を含む本発明の蛍光材料は、青色〜緑色を含む短波長領域、特に青色領域において、蛍光の色純度、発光強度に優れ、かつ安定性、耐熱性等の耐久性も良好であるため、種々の用途、特に、屋外ディスプレイ、車載用途、一般照明、携帯用部材等の耐光性が必要な用途に使用される蛍光顔料として有用である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
(製造例1〜4)
1−ヒドロキシ−3,6−ジアリール−4−フェニル−2−ピリドン誘導体の合成
下記の式(8)、
【0072】
【化10】

【0073】
に示す反応により、製造例1〜4に係る1−ヒドロキシ−3,6−ジアリール−4−フェニル−2−ピリドン誘導体を合成した。製造例1〜4における式(8)中のR4,R5の構造を表1に示す。
【0074】
二又反応管に、上記の式(8)に示す3,6−ジアリール−4−フェニル−2−ピロンを入れ、フレームドライにより乾燥し、窒素置換後、エタノール、塩化ヒドロキシアンモニウム(50当量)、トリエチルアミン(50当量)を加えて加熱還流した。3時間後、TLC(薄層クロマトグラフィー)により原料ピロンのスポットの消失を確認した後、エバポレーターで溶媒を減圧留去し、得られた固体に塩化メチレン、水を加えて有機層を抽出し、さらに水層を塩化メチレンで2回抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過後、エバポレータで減圧留去した。得られた固体を再結晶により単離精製した。得られた製造例1〜4に係る1−ヒドロキシ−3,6−ジアリール−4−フェニル−2−ピリドン誘導体の収率を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
(実施例1)
Al−ヒドロキシピリドン錯体の合成
製造例1で得た1−ヒドロキシ−3,4,6−トリフェニル−2−ピリドンを用い、下記の式(9)、
【0077】
【化11】

【0078】
(式中、Phはフェニル基を表す)
に示す反応によりAl−ヒドロキシピリドン錯体を合成し、実施例1に係る蛍光材料とした。
【0079】
50mL三口フラスコに、製造例1に係る1−ヒドロキシ−3,4,6−トリフェニル−2−ピリドン(102mg,0.3mmol)を入れ、フレームドライ後、窒素置換し、エタノール10mLを加えて加熱還流して、上記ピリドンを完全に溶解した。その後、系内に塩化アルミニウム(14mg,0.1mmol)を加えて10分間加熱還流し、吸引ろ過により、橙白色固体を得た。これを、ベンゼン−ヘキサンで再結晶し、白色固体を得た。該白色固体は収量:56mg(0.054mmol)、収率:54%であった。また該白色固体の融点は、350℃であった。該白色固体につき、日本分光製の赤外分光計「FT/IR−410」を用いたIRスペクトルの測定、日本電子製のNMR装置「JNMEX270」を用いたNMRスペクトルの測定、ヤナコ分析工業株式会社製のCHNコーダー「MT5」を用いた元素分析をそれぞれ行なって、該白色固体が、Alに3分子の1−ヒドロキシ−3,4,6−トリフェニル−2−ピリドンが配位したAl−ヒドロキシピリドン錯体であることを確認した。以下に結果を示す。
IR(KBr,cm-1) 1599(C=O)
1H−NMR(270MHz,CDCl3) δ:6.73(s,1H,vinyl−H),7.10−7.26(m,10H,Ph−H),7.34−7.38(m,3H,Ph−H),7.77−7.80(m,2H,Ph−H);13C−NMR(68MHz,CDCl3)δ:113.3,122.2,122.4,126.8,127.4,127.9,129.1,129.3,131.2,132.2,132.4,134.1,134.2,139.0,143.0,145.6,145.7,158.7,158.8
元素分析値 C 79.52、H 4.64、N 4.03、Found:C 79.08、H 4.68、N 4.03.
ここで、実施例1に係るAl−ヒドロキシピリドン錯体の理論的な組成は、C694836Al、である。
【0080】
(比較例1)
製造例1で得た1−ヒドロキシ−3,4,6−トリフェニル−2−ピリドン(PDOH)を比較例1に係る蛍光材料とした。
【0081】
(比較例2)
公知の緑色蛍光材料であるAlq3(トリス(8−ヒドロキシキノリノラート)アルミニウム)を比較例2に係る蛍光材料とした。
【0082】
<光学活性>
実施例1,比較例1,比較例2に係る蛍光材料の光学特性を、溶液状態及び固体状態において評価した。液体状態及び固体状態の各蛍光材料につき、日立製作所製の蛍光測定装置「F−3010」を用いて蛍光スペクトルを測定した。得られたスペクトルにおいて発光強度が最大値を示す波長を最大蛍光波長として検出し、また、該最大蛍光波長における発光強度の50%以上の発光強度を示す領域の波長幅として半値幅を算出した。なお、液体状態の各蛍光材料は、各蛍光材料を1.0×10-4MでCH2Cl2に溶解させることにより調製した。
【0083】
図1は、実施例及び比較例に係る蛍光材料の液体状態における蛍光スペクトルの測定結果について示す図であり、図2は、実施例及び比較例に係る蛍光材料の固体状態における蛍光スペクトルの測定結果について示す図である。
【0084】
図1に示すように、溶液状態において、実施例1に係る蛍光材料の最大蛍光波長は412nm、半値幅は86nmであり、比較例1に係る蛍光材料(最大蛍光波長:439nm、半値幅:103nm)及び比較例2に係る蛍光材料(最大蛍光波長:514nm、半値幅:83nm)と比較して短波長側にシフトしていた。
【0085】
一方、図2に示すように、固体状態においては、実施例1に係る蛍光材料の最大蛍光波長は416nm、半値幅は72nmであり、比較例1に係る蛍光材料(最大蛍光波長:420nm、半値幅:86nm)及び比較例2に係る蛍光材料(最大蛍光波長:494nm、半値幅:93nm)と比較して短波長側に大きくシフトするとともに、実施例1に係る蛍光材料の発光強度は、比較例1,2に係る蛍光材料の発光強度と比べて著しく大きい値を示した。また、実施例1に係る蛍光材料は、比較例1,2に係る蛍光材料と比べて、固体状態において半値幅が顕著に小さい蛍光スペクトルを示した。
【0086】
これらの結果より、本発明に係る蛍光材料は、固体状態で短波長領域において色純度に優れかつ強い蛍光を呈することが分かる。
【0087】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の蛍光材料は色純度が高くかつ強い蛍光を呈するため、該蛍光材料を含むEL素子用の発光材料は、発光体や、情報を視覚的に表示する情報機器において多種多様の用途を有する。また、本発明の蛍光材料を含む蛍光顔料は、種々の用途、特に耐光性が必要な用途に使用される蛍光顔料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施例及び比較例に係る蛍光材料の液体状態における蛍光スペクトルの測定結果について示す図である。
【図2】実施例及び比較例に係る蛍光材料の固体状態における蛍光スペクトルの測定結果について示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)、
【化1】

(式中、Xは3価の金属を表し、R1,R1’,R1”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、から選択されるいずれかの基を表し、R2,R2’,R2”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数5以下のアルコキシカルボニル基、から選択されるいずれかの基を表し、R3,R3’,R3”は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数4以下のアルキル基、から選択されるいずれかの基を表す)
で示されるヒドロキシピリドン錯体を含んでなる、蛍光材料。
【請求項2】
下記の式(2)、
【化2】

(式中、Xは3価の金属を表し、R1は、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、から選択されるいずれかの基を表し、R2は、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数5以下のアルコキシカルボニル基、から選択されるいずれかの基を表し、R3は、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良くかつN原子を有さない複素環基、炭素数4以下のアルキル基、から選択されるいずれかの基を表す)
で示されるヒドロキシピリドン錯体を含んでなる、蛍光材料。
【請求項3】
前記XがAlである、請求項1又は2に記載の蛍光材料。
【請求項4】
前記式(2)において、前記R2がフェニル基であり、前記R1及び前記R3の少なくともいずれかが、フェニルの4位が炭素数1〜5のアルコキシ基で置換されたアルコキシフェニル基である、請求項2又は3に記載の蛍光材料。
【請求項5】
前記フェニルの4位が炭素数1〜5のアルコキシ基で置換された前記アルコキシフェニル基が4−メトキシフェニル基である、請求項4に記載の蛍光材料。
【請求項6】
前記式(2)において、前記R2がフェニル基であり、前記R1及び前記R3の少なくともいずれかが4−ハロゲン化フェニル基である、請求項2又は3に記載の蛍光材料。
【請求項7】
前記4−ハロゲン化フェニル基が4−ブロモフェニル基である、請求項6に記載の蛍光材料。
【請求項8】
前記式(2)において、前記R2がフェニル基であり、前記R1及び前記R3の少なくともいずれかが4−パーフルオロアルキル化フェニル基である、請求項2又は3に記載の蛍光材料。
【請求項9】
前記4−パーフルオロアルキル化フェニル基が4−トリフルオロメチルフェニル基である、請求項8に記載の蛍光材料。
【請求項10】
前記式(2)において、前記R1,前記R2,前記R3がいずれもフェニル基である、請求項2又は3に記載の蛍光材料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の蛍光材料を含んでなるエレクトロルミネッセンス素子用の発光材料。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の蛍光材料を含んでなる蛍光顔料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−302707(P2007−302707A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129160(P2006−129160)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本化学会発行、日本化学会第86春季年会講演予稿集II 第1249頁、平成18年3月11日発行 日本化学会第86春季年会、社団法人日本化学会主催、平成18年3月29日開催
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】