説明

新規な配位子、遷移金属錯体、及び該錯体を触媒として用いる光学活性アルコールの製造法

【課題】新規なトリホスファン化合物の遷移金属錯体を触媒として用い、種々のケトン類を不斉還元して高効率的、高選択的に光学活性アルコール類を製造する。
【解決手段】一般式(1)


(一般式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6はアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基などを表す。)で表されるトリホスファン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリホスファン化合物、該化合物を配位子とする遷移金属錯体、およびこれを用いる触媒反応に関する。触媒反応における効果として、カルボニル化合物の不斉還元反応があげられる。すなわち当該ホスファン化合物、キラルジアミンを配位子とする周期表第8−10族錯体を触媒として用いる光学活性アルコールの新規製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸不斉、あるいは面不斉を特徴とするキラルジホスファン化合物を配位子とする遷移金属錯体は、不斉反応の触媒として極めて有用であり、これまで数多くの触媒が開発されてきた。中でもケトン類の不斉水素化反応におけるルテニウム−キラルジホスファン−キラルジアミン錯体は、塩基化合物との組み合わせにより、優れた成果が報告されている(例えば特許文献1)。しかしながら工業的な実施においては、ジホスファン化合物およびジアミン化合物の両方にキラル化合物を用いる点で、原料の入手性や経済性に関する課題が大きい。一方、キラルジホスファン化合物の代わりにアキラルなホスファン配位子を何らかの方法で活用できれば、より安価に光学活性化合物が得られる有利な方法となり得る。このようなアキラルなジホスフィン配位子を用いた不斉水素化反応の例としては、2,2’−ビス(ジアリールホスフィノ)−1,1’−ビフェニル(BIPHEP)を用いた報告がある(非特許文献1。)。ここには,ルテニウム−ジホスファン−光学活性ジアミン錯体を用いた不斉水素化反応の例が示されている。しかしながらアセトナフトンを基質とした場合では、代表的なキラルホスファンであるBINAPに比べて光学純度が低いという課題を有している。また、特許文献2にはアキラルなベンゾフェノン系ジホスファン(DPBP)リガンドについて述べられている。すなわち、ルテニウム−DPBP−キラルジアミン錯体、およびロジウム−DPBP−キラルジアミン錯体を触媒とするケトン類の不斉還元反応であるが、DPBPの製造には工業的に入手困難な原材料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−189600号公報
【特許文献2】WO2005/016943 A1
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K.Mikamiら,Angew.Chem.Int.Ed.,1999年,38巻,495頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、工業的な入手性に課題があり、かつ高価なキラルホスファン化合物に代わる配位子の発明、および該化合物、キラルジアミンを構成成分とするキラルな遷移金属錯体を用い、種々のケトン類を不斉還元して高効率的、高選択的に光学活性アルコール類を製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究の途上、特定の構造上の特徴を有するアキラルなトリホスファン配位子と周期表の第8〜10族遷移金属が2種のキラリティー(P,M−キラリティー)を有するらせん状の錯体(L2M3錯体)を形成することを見出した。さらに当該錯体をキラルジアミンと処理することにより、上記のL2M3錯体の不斉環境を制御することに成功した。すなわちC3−対象性を有するアキラルなトリホスファン配位子と周期表第8−10族遷移金属からなるL2M3錯体を合成し、該錯体をキラルジアミン存在下、溶液中で動的にらせん構造を変化させて一方のキラリティーを有する錯体を選択的に得ることに成功した。
【0007】
【化1】

【0008】
更に研究を重ねた結果、ロジウム−トリホスファン−キラルジアミン錯体は、種々のケトン化合物を高い光学純度で、且つ高収率が不斉還元し、光学活性アルコールを与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下の[1]から[8]に関するものである。
[1]下記一般式(1)で表されるトリホスファン化合物。
【0010】
【化2】

【0011】
(一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい置換アミノ基、置換基を有していてもよい環状アミノ基を表し、RとR、RとR又はRとRとが、それぞれが置換しているリン原子と共に環を形成していてもよい。)
[2]R、R、R、R、R及びRが置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基である前記[1]に記載のトリホスファン化合物。
[3]前記[1]又は[2]のいずれかに記載のトリホスファン化合物と周期表の第8〜10族遷移金属とからなる遷移金属−ホスファン化合物。
[4]周期表の第8−10属遷移金属がロジウム、パラジウム、ルテニウム又はイリジウムである前記[3]に記載の遷移金属−ホスファン化合物。
[5]遷移金属−ホスファン化合物が、下記一般式(2)
[Rh(L){N−N}](X) (2)
(式中、Lは請求項1又は請求項2に記載のトリホスファン化合物を表し、N−Nは光学活性ジアミンを表し、Xはアニオン性配位子を表す。)
で表される化合物である前記[4]に記載の光学活性遷移金属−ホスファン化合物。
[6]前記[3]〜[5]のいずれかに記載の遷移金属−ホスファン化合物を触媒とする触媒的有機合成反応。
[7]下記一般式(3)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R及びRは、それぞれ異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。また、RとRが互いに結合して、カルボニル基の炭素原子と一緒になって環を形成していてもよい。)
で表されるカルボニル化合物を、前記[3]又は[4]に記載の遷移金属−ホスファン化合物を触媒として用いて不斉還元することを特徴とする、下記一般式(4)
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、*は不斉炭素であることを示し、R及びRは前記と同じ意味を表す。)
で表される光学活性アルコールの製造方法。
[8]前記[5]に記載の光学活性遷移金属−ホスファン化合物を触媒として用いることを特徴とする前記[7]に記載の光学活性アルコールの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、種々のケトン類を不斉還元して高効率的、高選択的に光学活性アルコール類を製造する技術を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
一般式(1)で表されるトリホスファン化合物において置換基を有していてもよいアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、セチル基、ステアリル基などアルキル基が挙げられる。
【0018】
また、これらアルキル基は置換基を有していてもよく、該置換基としては、炭化水素基、脂肪族複素環基、芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、水酸基、三置換シリル基及びハロゲン原子等が挙げられる。
アルキル基に置換する炭化水素基としては、例えばアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0019】
アルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数1〜20の直鎖又は分岐もしくは環状のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、セチル基、ステアリル基などのアルキル基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などのシクロアルキル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基が挙げられ、具体的にはエテニル基、プロペニル基、1−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6のアルキニル基が挙げられ、具体的にはエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、3−ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
【0020】
アリール基としては、例えば炭素数6〜20のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基、ターフェニル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記アリール基で置換された基が挙げられ、例えば炭素数7〜12のアラルキル基が好ましく、具体的にはベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、3−ナフチルプロピル基等が挙げられる。
【0021】
脂肪族複素環基としては、例えば炭素数2〜14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環の脂肪族複素環基、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、ピロリジル−2−オン基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチエニル基等が挙げられる。
【0022】
芳香族複素環基としては、例えば炭素数2〜15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の異種原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式ヘテロアリール基、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられ、具体的にはフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジル基、キナゾリル基、ナフチリジル基、シンノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0023】
アルコキシ基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、5−メチルペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、メトキシメトキシ基、2−エトキシエトキシ基等が挙げられる。
【0024】
アリールオキシ基としては、例えば炭素数6〜14のアリールオキシ基が挙げられ、具体的にはフェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフトキシ基、アントリルオキシ基等が挙げられる。
アラルキルオキシ基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキルオキシ基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシ基、4−メトキシフェニルメチル基、1−フェニルエトキシ基、2−フェニルエトキシ基、1−フェニルプロポキシ基、2−フェニルプロポキシ基、3−フェニルプロポキシ基、1−フェニルブトキシ基、3−フェニルブトキシ基、4−フェニルブトキシ基、1−フェニルペンチルオキシ基、2−フェニルペンチルオキシ基、3−フェニルペンチルオキシ基、4−フェニルペンチルオキシ基、5−フェニルペンチルオキシ基、1−フェニルヘキシルオキシ基、2−フェニルヘキシルオキシ基、3−フェニルヘキシルオキシ基、4−フェニルヘキシルオキシ基、5−フェニルヘキシルオキシ基、6−フェニルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0025】
置換アミノ基としては、アミノ基の1個又は2個の水素原子がアルキル基またはアリール基等の置換基で置換されたアミノ基が挙げられる。
アルキル基で置換されたアミノ基、即ちアルキル基置換アミノ基の具体例としては、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基が挙げられる。
アリール基で置換されたアミノ基、即ちアリール基置換アミノ基の具体例としては、N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジトリルアミノ基、N−ナフチルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のモノ又はジアリールアミノ基が挙げられる。
アラルキル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキル基置換アミノ基の具体例としては、N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基等のモノ又はジアラルキルアミノ基が挙げられる。
【0026】
三置換シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、ハロゲン化されたアルキル基としては、例えばモノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。
一般式(1)の化合物におけるアリール基としては、具体的には前記したようなアリール基が挙げられる。また、これらアリール基は置換基を有してもよく該置換基としては、アルキル基、アリール基、複素環基、三置換シリル基、ハロゲン原子等が挙げられ、具体例としては前記したようなものが挙げられる。
【0027】
一般式(1)の化合物におけるアラルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記アリール基で置換された基が挙げられ、例えば炭素数7〜15のアラルキル基が好ましく、具体的にはベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、3−ナフチルプロピル基等が挙げられる。また、これらアラルキル基は置換基を有してもよく該置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子等が挙げられ、具体例としては前記したようなものが挙げられる。
【0028】
一般式(1)の化合物におけるシクロアルキル基としては炭素数3〜30、好ましくは炭素数3〜20、より好ましくは炭素数3〜10の単環式、多環式、又は縮合環式のシクロアルキル基が挙げられ、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、これらシクロアルキル基は置換基を有してもよく該置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子等が挙げられ、具体例としては前記したようなものが挙げられる。
【0029】
一般式(1)の化合物における置換基を有していてもよいアルコキシ基は、アルコキシ基及び置換アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数1〜20のアルコキシ基が挙げられ、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、5−メチルペンチルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、メトキシメトキシ基等が挙げられる。前記アルコキシ基は、中でも炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましい。
【0030】
一般式(1)の化合物における置換基を有していてもよいアリールオキシ基は、アリールオキシ基及び置換アリールオキシ基が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば炭素数6〜20のアリールオキシ基が挙げられ、その具体例としては、フェノキシ基、ナフトキシ基、アントリルオキシ基等が挙げられる。置換基としては、前記したようなアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基等が挙げられる。前記アリールオキシ基は、中でも炭素数6〜14のアリールオキシ基が好ましい。
一般式(1)の化合物におけるアラルキル基としては、例えば炭素数7〜15のアラルキル基が好ましく、具体的にはベンジルオキシ基、1−フェニルエチルオキシ基、2−フェニルエチルオキシ基、1−フェニルプロピルオキシ基、3−ナフチルプロピルオキシ基等が挙げられる。また、これらアラルキル基は置換基を有してもよく該置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子等が挙げられ、具体例としては前記したようなものが挙げられる。
【0031】
一般式(1)の化合物におけるシクロアルキルオキシ基としては炭素数3〜30、好ましくは炭素数3〜20、より好ましくは炭素数3〜10の単環式、多環式、又は縮合環式のシクロアルキル基が挙げられ、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、これらシクロアルキルオキシ基は置換基を有してもよく該置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子等が挙げられ、具体例としては前記したようなものが挙げられる。
一般式(1)の化合物における脂肪族又は芳香族複素環基としては、具体的には前記したような複素環基が挙げられる。また、これら複素環基は置換基を有してもよく該置換基としては、アルキル基、アリール基が挙げられ、具体例としては前記したようなものが挙げられる。
【0032】
置換アミノ基としては、アミノ基の1個又は2個の水素原子が保護基等の置換基で置換されたアミノ基が挙げられる。アミノ保護基の具体例としては、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアラルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0033】
アルキル基で置換されたアミノ基、即ちアルキル基置換アミノ基の具体例としては、N
−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジ
イソプロピルアミノ基、N−メチル−N−イソプロピルアミノ基、N−シクロヘキシルア
ミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基が挙げられる。
アリール基で置換されたアミノ基、即ちアリール基置換アミノ基の具体例としては、N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のモノ又はジアリールアミノ基が挙げられる。
アラルキル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキル基置換アミノ基の具体例としては、
N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基等のモノ又はジアラルキルアミノ基
が挙げられる。
また、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N−ベンジル−N−メチルアミノ基等のジ置換アミノ基が挙げられる。
アシル基で置換されたアミノ基、即ちアシルアミノ基の具体例としては、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基、ヘキサノイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、−NHSOCH、−NHSO、−NHSOCH、−NHSOCF、−NHSON(CH等が挙げられる。
アルコキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアルコキシカルボニルアミノ基の具体例としては、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n−プロポキシカルボニルアミノ基、n−ブトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、ペンチルオキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アリールオキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアリールオキシカルボニルアミノ基の具体例としては、アミノ基の1個の水素原子が前記したアリールオキシカルボニル基で置換されたアミノ基が挙げられ、その具体例としてフェノキシカルボニルアミノ基、ナフチルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アラルキルオキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキルオキシカルボニルアミノ基の具体例としては、ベンジルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
また、RとR、RとR及びRとRと、それぞれが置換しているリン原子と共に形成する環としては、ホスホール環、ホスホラン環、ホスフィン環、ホスファン環等が挙げられ、これらの環は炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい。
一般式(1)で表される本発明のトリホスファン化合物は、例えば以下の方法によって合成できる。
【0034】
【化5】

【0035】
すなわち、1,3,5−トリス(3’−ヒドロキシフェニル)ベンゼンをトリフラート化して得た1,3,5−トリス(3’−トリフルオロメタンスルホニルオキシフェニル)ベンゼンとジフェニルホスフィンオキサイドをパラジウム触媒存在下カップリング反応に付し、対応するホスフィンオキサイドを合成し、次いでトリクロロシランによりホスフィンオキサイドの還元反応を行い目的とするC3-DPPB、C3-DM-DPPBが得られる。
【0036】
このようにして合成される本発明のホスファン化合物は、周期表第8〜10属の遷移金属化合物と反応させることにより、遷移金属−ホスファン錯体を得ることができる。周期表第8〜10属の遷移金属としては、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、イリジウム、ニッケル、白金等が挙げられ、この中でもロジウム、ルテニウム、パラジウムが好ましい。
本発明のホスファン化合物と反応させることができる遷移金属化合物としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
【0037】
ルテニウム化合物としては、例えば、RuCl水和物、RuBr水和物、RuI水和物等の無機ルテニウム化合物、RuCl(DMSO)、[Ru(cod)Cl、[Ru(nbd)Cl、(cod)Ru(2−methallyl)、[Ru(benzene)Cl、[Ru(benzene)Br、[Ru(benzene)I、[Ru(p−cymene)Cl、[Ru(p−cymene)Br、[Ru(p−cymene)I、[Ru(mesitylene)Cl、[Ru(mesitylene)Br、[Ru(mesitylene)I、[Ru(hexamethylbenzene)Cl、[Ru(hexamethylbenzene)Br、[Ru(hexamethylbenzene)I、RuCl(PPh、RuBr(PPh、RuI(PPh、RuH(PPh、RuClH(PPh、RuH(OAc)(PPh、RuH(PPh等が挙げられる。例示中、DMSOはジメチルスルホキシド、codは1,5−シクロオクタジエン、nbdはノルボルナジエン、Phはフェニル基をそれぞれ表す(以下、同様)。
【0038】
ロジウム化合物としては、例えば、[Rh(nbd)]SbF、[Rh(cod)]SbF、[Rh(nbd)Cl]、[Rh(cod)Cl]、[Rh(cod)]BF、[Rh(cod)]ClO、[Rh(cod)]PF、[Rh(cod)]BPh、[Rh(cod)]BARF、[Rh(nbd)]BF、[Rh(nbd)]ClO、[Rh(nbd)]PF、[Rh(nbd)]BPh等が挙げられる。好ましくは、[Rh(nbd)]SbF、[Rh(cod)]SbFなどである。
【0039】
イリジウム化合物としては、例えば、[Ir(cod)(CHCN)]BF、[Ir(cod)Cl]、[Ir(cod)]BF、[Ir(cod)]ClO、[Ir(cod)]PF、[Ir(cod)]BPh、[Ir(nbd)]BF、[Ir(nbd)]ClO、[Ir(nbd)]PF、[Ir(nbd)]BPhで等が挙げられる。
パラジウム化合物としては、例えば、PdCl、PdBr、Pd(OAc)、Pd(acac)、PdCl(NCMe)、PdCl(NCPh)、PdCl(PPh、PdCl(NH、PdCl(cod)、Pd(OTf)、[PdCl(π−アリル)]等が挙げられる。好ましくは、PdCl(NCMe)などである。
ニッケル化合物としては、例えば、NiCl、NiBrおよびNiIである。
【0040】
一般式(1)で表される本発明のホスファン化合物に遷移金属化合物を作用させることにより得られる錯体は既報の方法に従って調製できる。例えば本発明において用いられる一般式(2)で表されるロジウム−ホスファン錯体は、文献(K.Mikamiら,Chem.Commun.,2006,2365)に記載の方法により製造できる。
【0041】
次に、本発明の光学活性アルコールの製造方法について説明する。
一般式(3)において、R及びRで示される置換基を有してもよい炭化水素基は、炭化水素基及び置換炭化水素基を表し、置換基を有していてもよい脂肪族及び芳香族複素環基は、複素環基及び置換複素環基を表す。炭化水素基及び脂肪族及び芳香族複素環基は、上記一般式(1)のところで説明した各基と同じである。
置換炭化水素基(置換基を有する炭化水素基)としては、上記炭化水素基の少なくとも1個の水素原子が置換基で置換された炭化水素基が挙げられる。置換炭化水素基としては、置換アルキル基、置換アリール基、置換アルケニル基、置換アルキニル基、置換アラルキル基等が挙げられる。
置換複素環基(置換基を有する複素環基)としては、上記複素環基の少なくとも1個の水素原子が置換基で置換された複素環基が挙げられる。置換複素環基としては、置換脂肪族複素環基及び置換芳香族複素環基等が挙げられる。
【0042】
置換炭化水素基、置換複素環基の置換基としては、炭化水素基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化炭化水素基、アルキレンジオキシ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、置換シリル基等が挙げられる。
置換基としての炭化水素基及び複素環基は、上記一般式(1)のところで説明した各基と同じである。また、ハロゲン原子、ハロゲン化炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び置換アミノ基も、上記一般式(1)のところで、置換基として説明した各基と同じである。アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基及びスルホニル基は、上記一般式(1)のところで置換基としての置換アミノ基におけるアミノ基の置換基として説明した各基と同じである。
置換基としてのアシルオキシ基としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等のカルボン酸由来の例えば炭素数2〜18のアシルオキシ基が挙げられ、具体例としては、例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
置換シリル基としては、例えば、シリル基の3個の水素原子が上記で説明したアルキル基、アリール基、アラルキル基等の炭化水素基等の置換基で置換されたトリ置換シリル基が挙げられ、具体例としては、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0043】
また、一般式(3)において、RとRとが互いに結合して、カルボニル基の炭素原子と一緒になって環を形成している場合の環としては、単環、多環、縮合環の何れでもよく、例えば4〜8員環等が挙げられる。また、環を構成する炭素鎖中に、−O−、−NH−等を有していてもよい。RとRとが互いに結合して、カルボニル基と一緒になって環を形成する場合の環の具体例としては、シクロペンタノン環、シクロヘキサノン環、例えば5〜7員のラクトン環、例えば5〜7員のラクタム環等が挙げられる。これら形成する環は、一般式(3)におけるカルボニル基の炭素原子が、不斉水素化反応により不斉炭素となり得るような環であればよい。
本発明の光学活性2級アルコールの製造方法は、本発明に係る不斉合成触媒の存在下で行われる。
本発明の不斉合成触媒としては、例えば、ロジウム−ホスファン錯体は、文献(K.Mikamiら,Chem.Commun.,2006,2365)に記載の方法により製造できる。
【0044】
本発明で用いられるN−Nで表される光学活性ジアミン化合物の具体例としては、例えば、1,2−ジアミノプロパン、2−メチル−1,3−ジアミノブタン、2,3−ジアミノブタン、1,2−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノペンタン、1,2−シクロペンタンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−シクロヘプタンジアミン、2,3−ジメチル−2,3−ジアミノブタン、2−ジメチルアミノ−1−フェニルエチルアミン、2−ジエチルアミノ−1−フェニルエチルアミン、2−ジイソプロピルアミノ−1−フェニルエチルアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン、1,2−ビス(4−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1,2−ジシクロヘキシルエチレンジアミン、1,2−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、1,2−ビス(4−N,N−ジエチルアミノフェニル)エチレンジアミン、1,2−ビス(4−N,N−ジプロピルアミノフェニル)エチレンジアミン、(N−ベンゼンスルホニル)−1,2−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、(N−p−トルエンスルホニル)−1,2−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、(N−メタンスルホニル)−1,2−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、(N−トリフルオロメタンスルホニル)−1,2−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、(N−ベンゼンスルホニル)−1,2−ビス(4−N,N−ジエチルアミノフェニル)エチレンジアミン、(N−ベンゼンスルホニル)−1,2−ビス(4−N,N−ジプロピルアミノフェニル)エチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−ベンジル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、N,N'−ビス(フェニルメチル)−1,2−ジフェニル−1,2−エチレンジアミン、N,N'−ビス(メシチルメチル)−1,2−ジフェニル−1,2−エチレンジアミン、N,N'−ビス(ナフチルメチル)−1,2−ジフェニル−1,2−エチレンジアミン等の光学活性体が挙げられる。
【0045】
不斉合成触媒の使用量は、ケトン類に対して、通常10−1〜10−4当量、好ましくは10−2〜10−3当量の範囲から適宜選択される。
本発明の光学活性2級アルコールの製造方法、即ち、上記一般式(3)で表されるケトン類の不斉水素化反応は、水素移動反応によって行われる。
水素移動反応による不斉水素化反応は、水素供与性物質を反応系内に存在させるのが好ましい。水素供与性物質は、有機化合物又は/及び無機化合物あって、反応系内で、例えば熱的作用や触媒作用によって、水素を供与できる化合物であれば何れも使用可能である。
【0046】
水素供与性物質としては、例えば、ギ酸又はその塩類、ギ酸と塩基との組み合わせ、ヒドロキノン、亜リン酸、アルコール類等が挙げられる。これらの中では、ギ酸又はその塩類、ギ酸と塩基との組み合わせからなるもの、アルコール類等が特に好ましい。
ギ酸又はその塩類におけるギ酸の塩類としては、ギ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のギ酸の金属塩、アンモニウム塩、置換アミン塩等が挙げられる。
また、ギ酸と塩基との組み合わせ反応系内でギ酸の塩の形態となるもの或いは実質的にギ酸の塩の形態となるものであればよい。
ギ酸と塩を形成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
これらギ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のギ酸の金属塩や、アンモニウム塩、置換アミン塩等を形成する塩基、並びに、ギ酸と塩基との組み合わせにおける塩基としては、アンモニア、無機塩基、有機塩基等が挙げられる。
【0047】
無機塩基としては、例えば、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ又はアルカリ土類金属塩、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム等の金属水素化物類等が挙げられる。
有機塩基としては、例えば、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムtert−ブトキシド、カリウムナフタレニド等のアルカリ金属アルコキシド、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ・アルカリ土類金属の塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、トリ−n−ブチルアミン、N−メチルモルホリン等の有機アミン類、臭化メチルマグネシウム、臭化エチルマグネシウム、臭化プロピルマグネシウム、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等の有機金属化合物類、4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0048】
水素供与性物質としてのアルコール類としては、水素原子をα位に有する低級アルコール類が好ましく、具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール等が挙げられ、中でもイソプロパノールが好ましい。
水素供与性物質の使用量は、ケトン類に対して通常2〜20当量、好ましくは4〜10当量の範囲から適宜選択される。
【0049】
また、本発明の光学活性2級アルコールの製造方法は、用いるケトン類の種類等により、必要に応じて有機溶媒と組み合わせて用いてもよい。
用いられる有機溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル類、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、グリセリン等の多価アルコール類、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これら溶媒は、夫々単独で用いても2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
有機溶媒の使用量は、用いるケトンの重量に対して、通常1〜10倍容量、好ましくは2〜5倍容量の範囲から適宜選択される。
反応温度は、経済性等を考慮して、通常15〜100℃、好ましくは20〜80℃の範囲から適宜選択され、通常は比較的低温で行うことが望ましい。
反応時間は、用いる不斉水素化触媒の種類や使用量、用いるケトン化合物の種類や濃度、反応温度等の反応条件等により異なるが、数分〜数十時間程度でよく、通常4〜48時間、好ましくは6〜24時間の範囲から適宜選択される。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において物性等の測定に用いた装置は次の通りである。
H−NMR:Bruker AV300 (300 MHz)
31P−NMR:Bruker AV300 (121 MHz)
ガスクロマトグラフィー(以下GCと略す):GC-14B(島津製作所)PEG-20 M
CP-Cyclodextrin-β-2,3,6-M-19 (i.d. 0.25 mm x 25 m, CHROMPACK; GL Science)
【0051】
また、実施例で用いた記号及び略号は以下の通りである。
【0052】
【化6】

DPEN(小文字も同じ):1,2−ジフェニルエチレンジアミン
【0053】
(実施例1)1,3,5−トリス(3’−ジフェニルホスフィノフェニル)ベンゼン(C−DPPB)の合成
(1)1,3,5−トリス(3’−トリフルオロメタンスルホニルオキシフェニル)ベンゼンの合成
1,3,5−トリス(3’−ヒドロキシフェニル)ベンゼン1.8g(5.0mmol)及びジメチルアミノピリジン122mg(1.0mmol)を窒素雰囲気下で塩化メチレン30mlに溶解し、0℃に冷却した。そこへ、2,6−ルチジン2.3ml(20mmol)を加えた後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物3.0ml(18mmol)を滴下し、その後室温で18時間攪拌した。反応混合物を水、食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製することにより表題化合物が3.1g(82%収率)得られた。
【0054】
(2)1,3,5−トリス(3’−ジフェニルホスフィニルフェニル)ベンゼンの合成
1,3,5−トリス(3’−トリフルオロメタンスルホニルオキシフェニル)ベンゼン3.0g(4.0mmol)、酢酸パラジウム89.8mg(0.4mmol)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン170.6mg(0.4mmol)及びジフェニルホスフィンオキシド3.6g(18mmol)を窒素雰囲気下でジメチルスルホキシド30mlに溶解し、更にN,N−ジイソプロピルエチルアミン0.7ml(4mmol)を加えて100℃で18時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、塩化メチレン20mlを加えた。この溶液を1N塩酸水溶液、水、食塩水で順次洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル→塩化メチレン:メタノール=10:1)で精製することにより表題化合物が3.2g(89%収率)得られた。
【0055】
(3)1,3,5−トリス(3’−ジフェニルホスフィノフェニル)ベンゼンの合成
1,3,5−トリス(3’−ジフェニルホスフィニルフェニル)ベンゼン3.2g(3.5mmol)を窒素雰囲気下でトルエン25mlに溶解し、更にトリエチルアミン19.4ml(140mmol)を加えた溶液を0℃に冷却した。そこにトリクロロシラン3.5ml(35mmol)を加えて、0℃のまま30分間攪拌した。その後、ゆっくりと還流する温度まで上げていき4時間還流した。反応混合物を0℃まで冷却し、25%水酸化ナトリウム水溶液50mlをゆっくり滴下した。水層を塩化メチレン25mlで抽出し、1N塩酸水溶液で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濃縮して溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:6)で精製する事により、表題化合物が1.1g(35%収率)得られた。
31P−NMR(CDCl):δ −4.63(s)
【0056】
(実施例2)1,3,5−トリス(3’−ジ−(3,5−キシリル)ホスフィノフェニル)ベンゼン(C−DM−DPPB)の合成
(1)1,3,5−トリス(3’−ジ−(3,5−キシリル)フェニルホスフィニルフェニル)ベンゼンの合成
1,3,5−トリス(3’−トリフルオロメタンスルホニルオキシフェニル)ベンゼン750mg(1mmol)、酢酸パラジウム22.4mg(0.1mmol)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン42.6mg(0.1mmol)及びジ−(3,5−キシリル)ホスフィンオキシド1.2g(4.5mmol)を窒素雰囲気下でジメチルスルホキシド20mlに溶解し、更にN,N−ジイソプロピルエチルアミン0.2ml(1.0mmol)を加えて100℃で18時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、塩化メチレン20mlを加えた。この溶液を1N塩酸水溶液、水、食塩水で順次洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル→塩化メチレン:メタノール=10:1)で精製することにより表題化合物が838mg(78%収率)得られた。
【0057】
(2)1,3,5−トリス(3’−ジ−(3,5−キシリル)ホスフィノフェニル)ベンゼンの合成
1,3,5−トリス(3’−ジ−(3,5−キシリル)フェニルホスフィニルフェニル)ベンゼン752mg(0.7mmol)を窒素雰囲気下でトルエン15mlに溶解し、更にトリエチルアミン3.9ml(28mmol)を加えた溶液を0℃に冷却した。そこにトリクロロシラン0.7ml(7.0mmol)を加えて、0℃のまま30分間攪拌した。その後、ゆっくりと還流する温度まで上げていき4時間還流した。反応混合物を0℃まで冷却し、25%水酸化ナトリウム水溶液25mlをゆっくり滴下した。水層を塩化メチレン10mlで抽出し、1N塩酸水溶液で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濃縮して溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:6)で精製する事により、表題化合物が309mg(43%収率)得られた。
【0058】
(実施例3)PdCl(C−dppb) の合成
アルゴン気流下、室温にてシュレンクチューブにPdCl(NCMe) (38.9mg,0.15mmol)、C−DPBP(85.9mg,0.1mmol)を秤量し、塩化メチレン(10mL)を加えた。3時間攪拌後、減圧下で反応溶液を濃縮しPdCl(C−DPPB)(106.9mg,95%収率)を得た。
H−NMR(CDCl):δ 6.93(t,6H,J=7.8Hz), 7.37−7.86(m,72H),8.08(s,6H),9.64(t,6H,J=7.5 Hz)
31P−NMR(CDCl):δ 24.79(s)
【0059】
得られたPdCl(C−dppb)錯体について単結晶X線構造解析装置AFC10/Saturn(株式会社リガク製)を使用し、結晶データと回折データを収集した(Mo Kα(λ=0.71073Å)。収集した回折データを用いて、各単結晶の構造を明らかにした(SIR92)。パラジウム-トリホスファン有機金属錯体(PdC1−(C−dppb))の結晶を構造解析した結果、(図2)に示すように結晶上面からC3対称リガンドを示す。直行する側面からはC2対称を示しており、D3点群である。即ち、C−dppb2分子(L)とパラジウム(M)によるL2M3有機金属錯体を形成しており、C3−helicalコンフォメーションを有していることがあきらかとなった。
【0060】
(実施例4)[Rh(C−dm−dppb)(nbd)](SbFの合成
アルゴン気流下、室温にてシュレンクチューブに[Rh(nbd)]SbF(78.4mg,0.15mmol)、C−DM−DPPB(2)(102.7mg,0.1mmol)を秤量し、塩化メチレン(10mL)を加えた。3時間攪拌後、減圧下で反応溶液を濃縮して得たオレンジ色の残渣をジエチルエーテルで3度洗浄し、[Rh(C−dm−dppb)(nbd)](SbF(153.9mg,92%収率)を得た。
H−NMR(CDCl)δ 2.26(br,72H),2.36(br,6H),4.13(d,6H,J=19.5Hz),4.48−4.72(m,12H),6.78−7.81(m,66H).
31P−NMR(CDCl)δ 29.39(d,JP−Rh=155.5Hz).
【0061】
(実施例5)[Rh(C−dm−dppb)(cod)](SbFの合成
1,3,5−トリス(3’−ジ−(3,5−キシリル)ホスフィノフェニル)ベンゼン(C−DM−DPPB)10.3mg(0.010mmol)、[Rh(cod)]SbF 8.3mg(0.015mmol)を窒素雰囲気下で塩化メチレン5mlに溶解し、室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、反応混合物をジエチルエーテル3mlで3回洗浄した。洗浄後、減圧乾燥することにより表題化合物が16.1mg(95%収率)得られた。
【0062】
(実施例6)[Rh(C−dm−dppb)(acetone)](SbFの合成
アルゴン気流下、室温にてシュレンクチューブに[Rh(C−dm−dppb)(nbd)](SbF(33.5mg,0.01mmol)を秤量し、アセトン(5mL)を加えた。混合液を凍結後、水素ガス(ab.1atm)を水素ガス封入の風船を用いてチャージした。室温へ昇温した後に30分攪拌後、減圧下で反応溶液を濃縮して得たオレンジ色の残渣をジエチルエーテルで3度洗浄し、[Rh(C−dm−dppb)(acetone)](SbF(23.9mg,定量的収率)を得た。
【0063】
(実施例7)[Rh(C−dm−dppb){(S,S)−dpen}](SbFの合成
アルゴン気流下、室温にてシュレンクチューブに[Rh(C−dm−dppb)(acetone)](SbF(23.9mg,0.01mmol)と(S,S)−DPEN(6.3mg,0.03mmol)を秤量し、クロロホルム(5mL)を加えた。混合液を室温で5分攪拌後、減圧下で反応溶液を濃縮して[Rh(C−dm−dppb){(S,S)−dpen}](SbF(41.2mg,定量的収率)を得た。
H−NMR(CDCl)δ 2.32(br,72H),4.18(d,6H,J=7.8Hz),4.86(d,6H,J=7.8Hz),4.99(s,6H),6.92−7.67(m,96H).
31P−NMR(CDCl)δ 49.80(d,JP−Rh=132.4Hz).
【0064】
(実施例8)(R)−1−(1−Naphthyl)ethanolの合成
アルゴン気流下、シュレンクチューブに[Rh(C−dm−dppb){(S,S)−dpen}](SbF(12.4mg,0.003mmol)を秤量し2−プロパノール(3.6mL)を加え室温にて攪拌した。同溶液にt−BuOK/2−プロパノール(0.1M,0.6mL,0.06mmol)を加えて室温で20分間攪拌した後、1−acetonaphthone(38μL,0.33mmol)を加えさらに室温で24時間攪拌した。減圧下で反応溶液を濃縮して得た残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/EtOAc=3/1)に付し、(R)−1−(1−Naphthyl)ethanol(43.7mg,77%収率、82%ee)を得た。
【0065】
(比較例)(R)−1−(1−Naphthyl)ethanolの合成
上記実施例8のロジウム錯体を[Rh(C−dm−dppb){(S,S)−dpen}](SbFから[Rh{(R)−binap}{(S,S)−dpen}](SbF)に代えて、さらに反応を60℃で行った以外は実施例8と同様の操作を行なったところ、目的物である(R)−1−(1−Naphthyl)ethanolを収率98%、光学純度72%eeで得た。本発明の化合物を用いた場合に比べて目的物の光学純度が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の光学活性遷移金属−ホスファン錯体は、各種有機合成反応、特に水素移動型不斉還元反応等の触媒として有用であり、医薬中間体や液晶材料等として有用な光学活性2級アルコールの製造に有効に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1で得られた1,3,5−トリス(3’−ジフェニルホスフィノフェニル)ベンゼン(C−DPPB)のH−NMRチャートを示す。
【図2】PdCl(C−dpppb)の単結晶X線構造解析結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい置換アミノ基、置換基を有していてもよい環状アミノ基を表し、RとR、RとR又はRとRとが、それぞれが置換しているリン原子と共に環を形成していてもよい。)
で表されるトリホスファン化合物。
【請求項2】
、R、R、R、R及びRが置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基である請求項1に記載のトリホスファン化合物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載のトリホスファン化合物と周期表の第8〜10族遷移金属とからなる遷移金属−ホスファン化合物。
【請求項4】
周期表の第8−10属遷移金属がロジウム、パラジウム、ルテニウム又はイリジウムである請求項3に記載の遷移金属−ホスファン化合物。
【請求項5】
遷移金属−ホスファン化合物が、下記一般式(2)
[Rh(L){N−N}](X) (2)
(式中、Lは請求項1又は請求項2に記載のトリホスファン化合物を表し、N−Nは光学活性ジアミンを表し、Xはアニオン性配位子を表す。)
で表される化合物である請求項4に記載の光学活性遷移金属−ホスファン化合物。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の遷移金属−ホスファン化合物を触媒とする触媒的有機合成反応。
【請求項7】
下記一般式(3)
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。また、RとRとが互いに結合して、カルボニル基の炭素原子と一緒になって環を形成していてもよい。)
で表されるカルボニル化合物を、請求項3又は請求項4に記載の遷移金属−ホスファン化合物を触媒として用いて不斉還元することを特徴とする、下記一般式(4)
【化3】

(式中、*は不斉炭素であることを示し、R及びRは前記と同じ意味を表す。)
で表される光学活性アルコールの製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の光学活性遷移金属−ホスファン化合物を触媒として用いることを特徴とする請求項7記載の光学活性アルコールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−140469(P2011−140469A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2718(P2010−2718)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】