説明

新規な酵素及びそれを含有する組成物

【課題】従来知られている尿酸オキシダーゼの阻害剤によって作用が阻害されない尿酸オキシダーゼ、さらに、該尿酸オキシダーゼを含む組成物、該尿酸オキシダーゼを用いた試料中の尿酸測定方法を提供すること。
【解決手段】ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されない尿酸オキシダーゼ、その尿酸オキシダーゼの効率よい製造方法、該尿酸オキシダーゼを含む組成物、及び、該尿酸オキシダーゼを用いた試料中の尿酸の測定方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されない尿酸オキシダーゼ、その製造方法、それを含有する組成物、それを用いた尿酸測定キット、及びそれを用いた試料中の尿酸を測定する方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
痛風は壮年期以降の男性に多い炎症性関節疾患である。この痛風性関節炎は、尿酸の血中レベルが上昇し(高尿酸血症)、尿酸一ナトリウム一水和物の結晶形成が関節で起こった場合に生じる。また、尿酸は水溶性が低いために過剰に分泌されると(高尿酸尿)腎結石(尿酸結石)を起こす。重度の高尿酸血症及び痛風は腎機能不全にも関連している(非特許文献1〜3)。したがって、尿酸の血中及び尿中レベルの測定はこれらの疾患の鑑別診断に重要であり、現在一般に行われている生化学診断項目のひとつである。尿酸レベル測定試薬には尿酸オキシダーゼ(Urate oxidase、ウリカーゼ、Uricase、EC 1.7.3.3)を用いる酵素法が一般的である(特許文献1〜3)。
【0003】
また、尿酸オキシダーゼは原核生物や真核生物に広く分布している酵素であるが、ヒトは進化における突然変異の結果、尿酸オキシダーゼを失い高尿酸血症を起こすようになったと考えられている(非特許文献4及び5)。そのため尿酸オキシダーゼは、ヨーロッパにおいて、重度の高尿酸血症を治療するために使用されている(非特許文献6)。
【0004】
さらに、尿酸オキシダーゼは酸化染毛料やパーマネントウェーブの施術において、毛髪や皮膚の損傷をひき起こさない酸化剤として、過酸化水素、過ホウ酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、臭素酸ナトリウムなどの代わりにも使用される(特許文献4)。
【0005】
尿酸オキシダーゼを得る方法としては、例えば、キャンディダ属(特許文献5)、ミクロコッカス属、ブレビバクテリウム属(特許文献6)、ストレプトミセス属(非特許文献7)、エンテロバクター属(特許文献7)、バチルス属(特許文献8及び9)に属する微生物を用いる方法等が知られている。
【0006】
尿酸オキシダーゼの酵素反応は、現在では式1であることが知られている(非特許文献8)。生成物の5−ヒドロキシイソウレアはいくつかの非酵素的反応でアラントインにまで直ちに加水分解されるため、見かけの尿酸オキシダーゼの作用は、式2である。
尿酸+O2+H2O→ 5−ヒドロキシイソウレア+H22(式1)
尿酸+O2+2H2O→ アラントイン+H22+CO2(式2)
【0007】
尿酸オキシダーゼはプリンヌクレオチドの代謝に関与する酵素なので、この代謝経路中の物質であるキサンチンにより従来の尿酸オキシダーゼは強く酵素反応が阻害される(非特許文献9)。また、従来の尿酸オキシダーゼはKClやNaClなどによって酵素作用が阻害され、非特許文献10では、汎用される緩衝液システムであるTrisHClによって酵素反応が阻害される事が報告されている。これらのような従来の尿酸オキシダーゼ阻害剤のために、上記の尿酸レベル測定試薬、高尿酸血症治療薬及び酸化染毛料やパーマネントウェーブ用酸化固定剤組成物において、それらの原材料が制限されたり、効果が負の影響を受けたりする場合がある。例えば、従来の尿酸オキシダーゼを用いた尿酸レベル測定試薬においては、試料中にキサンチンが存在すれば測定値に負誤差が発生する。また、酵素を液状で保存する場合、一般的に酵素の安定性は塩濃度に比例して向上するので、KClやNaClなどの塩を安定化剤として使用することは常法でり、保存液のpHを一定にするために緩衝液を用いる事は当然であるが、従来の尿酸オキシダーゼを使用する場合、それらの塩や緩衝剤の使用が制限される場合がある。したがって、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されない尿酸オキシダーゼが求められていた。
【0008】
尿酸オキシダーゼはかつて銅含有酵素として報告されたこともあるが(非特許文献11及び12)、いくつかのバクテリアや真核生物由来尿酸オキシダーゼの、結晶構造解析などの解析の結果、該酵素は銅含有酵素では無いと考えられるようになった(非特許文献10,13、http://br.expasy.org/enzyme/1.7.3.3)。
【0009】
一方、マルチ銅オキシダーゼはラッカーゼ(EC 1.10.3.2)、ビリルビンオキシダーゼ(EC 1.3.3.5)、アスコルビン酸オキシダーゼ(EC 1.10.3.3)、セルロプラスミン(EC 1.16.3.1)、またはフェノキサジノンシンターゼ(Phenoxazinone synthase)などの銅を含有する一群の酸化酵素を指し、基質から電子を取り出し、分子状酸素を4電子還元して水を生成する反応を触媒する酵素である。マルチ銅オキシダーゼの特徴として、1)分子内に酵素活性に必要な4原子の銅を四面体配位構造に固定し、うち3原子の銅が三核銅クラスターを形成する、2)4原子銅の配位に関連するアミノ酸が非常に高く保存されている、3)610nm付近に吸収がある、などが挙げられる(非特許文献13〜15)。
【0010】
そして、マルチ銅オキシダーゼの中で3つのドメインから構成されるマルチ銅オキシダーゼは、ラッカーゼタイプのマルチ銅オキシダーゼと呼ばれ、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、及びフェノキサジノンシンターゼなどが挙げられる(非特許文献13〜15)。
【0011】
ラッカーゼは基質特異性の広い酵素として有名であるが、通常ベンゼンジオール(benzenediol)やポリフェノールを酸化する酵素として知られている(http://br.expasy.org/cgi-bin/nicezyme.pl?1.10.3.2)。その広い基質特異性の中で、特にビリルビンに高い基質特異性をもつラッカーゼタイプのマルチ銅オキシダーゼはビリルビンオキシダーゼ、アスコルビン酸に高い基質特異性をもつラッカーゼタイプのマルチ銅オキシダーゼはアスコルビン酸オキシダーゼとよばれる。ところが、現在までに尿酸に高い基質特異性をもつラッカーゼタイプのマルチ銅オキシダーゼは報告されていない。
【0012】
【非特許文献1】Nephron, 1990, 56(3):317-321, Acute hyperuricemic nephropathy and renal failure after transplantation, Venkataseshan VS, Feingold R, Dikman S, Churg J.
【非特許文献2】Transplantation proceedings, 1992 Aug;24(4), 1391-1392, Cyclosporine-induced hyperuricemia after renal transplant: clinical characteristics and mechanisms, Ahn KJ, Kim YS, Lee HC, Park K, Huh KB.
【非特許文献3】Transplantation proceedings, 1992, Oct;24(5), 1773-1774, Hyperuricemia and gout in renal allograft recipients, Delaney V, Sumrani N, Daskalakis P, Hong JH, Sommer BG.
【非特許文献4】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,1989, Dec;86(23):9412-9416, Urate oxidase: primary structure and evolutionary implications, Wu XW, Lee CC, Muzny DM, Caskey CT.
【非特許文献5】Journal of molecular evolution, Two independent mutational events in the loss of urate oxidase during hominoid evolution, 1992, Jan;34(1):78-84, Wu XW, Muzny DM, Lee CC, Caskey CT.
【非特許文献6】The Journal of pediatrics, 1982, Jan;100(1):152-155, Urate-oxidase prophylaxis of uric acid-induced renal damage in childhood leukemia, Masera G, Jankovic M, Zurlo MG, Locasciulli A, Rossi MR, Uderzo C, Recchia M.
【非特許文献7】Agric. Biol. Chem. 33、1282、(1969)
【非特許文献8】Biochemistry. 1997, Apr 22;36(16):4731-4738, Kinetic mechanism and cofactor content of soybean root nodule urate oxidase. Kahn K, Tipton PA.
【非特許文献9】The Journal of biological chemistry, 1953, Oct;204(2):613-621, The inhibition of uricase by xanthine. VAN PILSUM JF.
【非特許文献10】Biochemistry, 1997, Apr 22;36(16):4731-4738, Kinetic mechanism and cofactor content of soybean root nodule urate oxidase, Kahn K, Tipton PA.
【非特許文献11】The EMBO journal.1983, 2(12):2333-2339, Nodulin-35: a subunit of specific uricase (uricase II) induced and localized in the uninfected cells of soybean nodules.Bergmann H, Preddie E, Verma DP.
【非特許文献12】Biochimica et biophysica acta, 1991, Jan 29;1076(2):203-208, Purification and molecular properties of urate oxidase from Chlamydomonas reinhardtii, Alamillo JM, Cardenas J, Pineda M.
【非特許文献13】Nature structural biology, 1997, Nov;4(11):947-952, Crystal structure of the protein drug urate oxidase-inhibitor complex at 2.05 A resolution, Colloc'h N, el Hajji M, Bachet B, L'Hermite G, Schiltz M, Prange T, Castro B, Mornon JP.
【非特許文献14】生化学、第77巻、第2号、148−153、片岡邦重
【非特許文献15】Cellular and molecular life sciences, 2005, Sep;62(18):2050-2066, Function and molecular evolution of multicopper blue proteins, Nakamura K, GO N.
【特許文献1】特開平6−70798号公報
【特許文献2】特開2002−159299号公報
【特許文献3】特開平9−70299号公報
【特許文献4】特開平8−217652号公報
【特許文献5】特公昭42−5192号公報
【特許文献6】特公昭44−14783号公報
【特許文献7】特公昭60−19990号公報
【特許文献8】特開昭61−280272号公報
【特許文献9】特開平2−53488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来知られている尿酸オキシダーゼの阻害剤によって作用が阻害されない尿酸オキシダーゼ、即ち、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、及びトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されない新規な尿酸オキシダーゼを提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、該尿酸オキシダーゼを生産する微生物、該尿酸オキシダーゼをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む組換えベクター、該組換えベクターを有する形質転換体、該尿酸オキシダーゼの製造方法、該尿酸オキシダーゼを含む組成物、該尿酸オキシダーゼを用いた尿酸測定キット、並びに該尿酸オキシダーゼを用いた試料中の尿酸の測定方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、Lysobacter sp. T-15株が、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されない尿酸オキシダーゼ活性をもつタンパク質を生産することを見出し、さらに、該タンパク質が既知の尿酸オキシダーゼとは全く異なる新規な酵素であることを見出した。さらに、本発明者らは、該尿酸オキシダーゼを利用した試料中の尿酸の測定方法、該尿酸オキシダーゼの製造方法を確立して、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下に関する。
【0015】
<1> 下記特性を有する尿酸オキシダーゼ。
(1)酵素作用:酸素と水の存在下、尿酸に作用して、5−ヒドロキシイソウレア、過酸化水素、及び二酸化炭素を生成する作用を有する。
(2)阻害作用:ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、及び/又はトリス緩衝液で(1)の作用が阻害されない。かつ、キサンチンで(1)の作用が阻害されない。
(3)至適pH:6.3〜7.8。
(4)至適温度:55℃以上。
(5)作用適温の範囲:すくなくとも30〜60℃の範囲。
(6)安定性:安定化剤の非存在下、30℃、15分間で98%以上の活性を保持する。
【0016】
<2> 610±20nmに吸収スペクトルが存在することを特徴とする、<1>に記載の尿酸オキシダーゼ。
<3> Lysobacter sp. T-15株(受託番号FERM P−21056)由来であることを特徴とする、<1>又は<2>に記載の尿酸オキシダーゼ。
【0017】
<4> 下記(a)又は(b)の何れかのアミノ酸配列からなる尿酸オキシダーゼ。
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、尿酸オキシダーゼ活性を有するアミノ酸配:
<5> ラッカーゼ活性を併せ持つ、<1>から<4>のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼ。
<6> ビリルビンオキシダーゼ活性を併せ持つ、<1>から<5>のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼ。
【0018】
<7> <1>から<6>のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼを生産することを特徴とする微生物。
<8> 受託番号FERM P−21056を有する、Lysobacter sp. T-15株。
【0019】
<9> 以下の(a)または(b)の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(a)配列番号1で表される塩基配列;
(b)配列番号1で表される塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列であって、かつ、尿酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列:
【0020】
<10> <9>に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
<11> <10>に記載の組換えベクターを有する形質転換体。
<12> <11>に記載の形質転換体を培地に培養し、培養物中に<1>から<6>のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼを生成蓄積させ、該培養物から該尿酸オキシダーゼを採取することを特徴とする尿酸オキシダーゼの製造方法。
【0021】
<13> <1>から<6>のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼを含有する組成物。
<14> <1>から<6>のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼ又は<13>に記載の組成物を少なくとも含む、尿酸測定キット。
<15> キサンチン、硝酸イオン、及びハロゲン化物イオンからなる群から選ばれる1以上の成分を含む試料において、<1>から<6>のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼ、<13>に記載の組成物、又は<14>に記載の尿酸測定キットを用いて尿酸を測定する方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、従来知られている尿酸オキシダーゼの阻害剤によって阻害されない尿酸オキシダーゼ、即ち、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されない新規な尿酸オキシダーゼが提供される。本発明の尿酸オキシダーゼを利用することによって、試料中の尿酸を測定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明について、以下に具体的に説明する。
本発明で使用しうる試料とは、尿酸を含有するものであれば特に限定されないが、尿酸を含有する海水、天然水、飲料、廃液、研究用試料の他、生体試料、例えば、血漿、血清、尿などを挙げることができる。
【0024】
本発明の尿酸オキシダーゼ活性とは、酵素ハンドブック(朝倉書店、1984年)やEnzyme nomenclature detabase(http://ca.expasy.org/enzyme/)などに記載される既知の尿酸オキシダーゼ(EC 1.7.3.3)の触媒作用を指し、尿酸をその酸化物に変化させる反応の触媒作用を例示するができる。
【0025】
本発明のラッカーゼ活性とは、酵素ハンドブックやEnzyme nomenclature detabaseなどに記載される既知のラッカーゼ(EC 1.10.3.2)の触媒作用を指し、syringaldazineや2'2−azinobis−(3−ethylbenzothiazoline−6−sulfonic acid)(以下、ABTSということがある)をその酸化物に変化させる反応の触媒作用を例示するができる。
【0026】
本発明のビリルビンオキシダーゼ活性とは、酵素ハンドブックやEnzyme nomenclature databaseなどに記載される既知のビリルビンオキシダーゼ(EC 1.3.3.5)の触媒作用を指し、ビリルビンをその酸化物に変化する反応の触媒作用を例示することができる。
【0027】
本明細書において、単に「ビリルビン」と記載した場合は、直接型ビリルビン、間接型ビリルビン、及び総ビリルビンの全てを含む意味である。
【0028】
本明細書中に記載するタンパク質濃度は、バイオラッド社のプロテインアッセイキットを用いて使用説明書記載の方法に従って測定し、BSA(牛血清アルブミン)をスタンダードとして算出した。
【0029】
本発明の実験に使用した試薬類は、特に断らない限り、和光純薬工業社製、国産化学社製、シグマアルドリッチ社製など市販で容易に入手できるものである。また、実験に使用した組換えDNA実験酵素試薬(制限酵素など)、ベクターDNA、キット類は特に指摘しない限りタカラバイオ株式会社より購入したものである。
【0030】
本発明における尿酸オキシダーゼ(以下、本発明の酵素という場合もある)は、少なくともハロゲン化物イオン、硝酸イオン、及び/又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されないなど、従来知られている尿酸オキシダーゼの阻害剤によって阻害されない尿酸オキシダーゼであればその起源は特に限定されるものではないが、好適には少なくともCl-、Br-、硝酸イオン、及び/又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されないなど既知の尿酸オキシダーゼ阻害剤によって阻害されない尿酸オキシダーゼの生産能を有する微生物の変種や変異株が挙げられ、Lysobacter属やその変異種が好ましく、最適にはLysobacter sp. T-15株、及びLysobacter sp. T-15株の変種や変異株が挙げられる。
【0031】
Lysobacter sp. T-15株の菌学的性質を示すと次の通りである。
なお、本菌株の同定にあたっては、同定実験は微生物の分類・同定実験法およびMicrobiological Methods(Vol. 3)に準じて行い、実験結果をBergey's Manual of Systematic Bacteriology (Vol. 3)、Bergey's Manual of Determinative Bacteriology、International Journal of Systematic BacteriologyおよびInternational Journal of Systematic Evolutionary Microbiologyに対比して同定を行った。
【0032】
<生育の特徴>
(1)天平板培地における生育
細菌培養用の培地として汎用されているLB(Luria-Bertani)寒天培地、TSB(Trypticase soy broth)寒天培地にて生育するが、LB培地およびTSB培地を10倍希釈した1/10 LB寒天培地及び1/10 TSB寒天培地、あるいはR2A寒天培地(Difco社製)、NM-1培地(International Journal of Systematic Bacteriology, Microlunatus phosphovorus gen. nov., sp. nov., a new gram-positive polyphosphate-accumulating bacterium isolated from activated sludge, 1995, Vol.45, pp.17-22, Nakamura K, Hiraishi A, Yoshimi Y, Kawarasaki M, Matsuda K, Kamagata Y.参照)等の低栄養寒天培地でより良好に生育する。培養温度30℃、培養pH 7.0、好気条件下で良好に生育する。
【0033】
(2)液体培地における生育
一様に生育するが、菌体濃度はOD (Optical Density) 600nm で 0.2 〜 0.4以下と低い値を示す。培養温度30℃、培養pH7.0、好気条件下で良好に生育する。
【0034】
<形態学的特徴>
コロニーの形状は円形(直径2〜4 mm)であり、表面が滑らかで縁が丸く粘性がある。コロニーの色は黄色を呈する。また、不透明であり、光沢がある。滑走性は認められない。細胞形態は0.3〜0.5μm x 4〜7μmの長桿菌であり運動性はない。グラム染色試験は陰性を示す。Neisser染色試験は陽性を示す。
【0035】
<カタラーゼ/オキシダーゼ試験>
カタラーゼ試験およびオキシダーゼ試験ともに陽性を示す。
【0036】
<化学分類指標の特徴>
DNAのGC含量(GC mol% [HPLC])は67%であり、主たるイソプレノイドキノンはユビキノン-8 (UQ-8)である。また、主たる脂肪酸組成は以下の通りである;iso-C15:0 50%, iso-C16:0 16%, C16:1 10%, iso-C17:1 5%, C16:0 5%, anteiso-C15:0 5%, iso-C11:0-3OH 5%, iso- or anteiso-C11:0 4%。
【0037】
<16S rRNA遺伝子に基づいた分子系統学的同定>
Lysobacter sp.T-15株の16S rRNA遺伝子のほぼ全長(1471 bp)の塩基配列を決定し、国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)を対象として相同性検索を実施した。具体的には、米国NCBIが提供するBLAST(http://www.ncbi.nih.gov/BLAST/)検索を実施した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
BLASTによる相同性検索の結果、Lysobacter sp. T-15株はGammaproteobacteria綱に属し、Lysobacter属もしくはThermomonas属に近縁な細菌種であることが明らかとなった。特に、Lysobacter sp. T-15株の16S rRNA遺伝子配列に最も高い相同性(98%)を示した最近縁種はLysobacter brunescensであった。
【0040】
次に、Lysobacter sp. T-15株、Lysobacter属細菌種およびThermomonas属細菌種の系統関係を明らかにするため、16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づいた分子系統樹を作成した(図1)。塩基配列のアライメントならびに近隣接合法による分子系統樹の作成は、ARB program package(http://www.arb-home.de/)を用いて行った。その結果、BLASTによる相同性検索の結果と同様に、Lysobacter sp. T-15株の最近縁種はLysobacter brunescensであり、16S rRNA遺伝子配列の相同性値は97.5%を示した。一方で、Lysobacter sp. T-15株と他の近縁種との相同性値は93.3〜95.9%と比較的低い値を示した。また、Lysobacter sp. T-15株はLysobacter brunescensと分子系統樹上で同一のクラスターを形成した(図1参照)。前述のDNAのGC含量、主たるイソプレノイドキノンおよび脂肪酸組成といった化学分類指標、ならびに種々の生理生化学的諸性質についても、Lysobacter sp. T-15株は多くの点でLysobacter brunescensに類似していたことから、Lysobacter sp. T-15株はLysobacter属に属する細菌種であると考えられる。しかしながら、以下に述べるように、Lysobacter sp. T-15株はいくつかの点で最近縁種Lysobacter brunescensとは異なる性質を示す:
【0041】
(1)生育温度:Lysobacter brunescensは50℃で生育できるが、Lysobacter sp. T-15株は生育できない
(2)細胞形態:Lysobacter brunescensの細胞は7〜70μmと非常に長いが、Lysobacter sp. T-15株は4〜 7μm程度の長桿菌である。
(3)コロニーの形態:Lysobacter brunescensのコロニーは薄く広がるが、Lysobacter sp. T-15株は2〜4 mm程度の円形のコロニーを形成する。
(4)滑走性:Lysobacter brunescensは滑走性があるが、Lysobacter sp. T-15株では滑走性は認められない。
(5)寒天分解能:Lysobacter brunescensは寒天分解能を示すが、Lysobacter sp. T-15株では認められない。
(6)16S rRNA遺伝子配列:Lysobacter brunescensとLysobacter sp. T-15株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は2.5%異なる。
【0042】
以上の形態学的特徴、生理生化学的諸性質ならびに16S rRNA遺伝子に基づいた分子系統解析の結果から、Lysobacter sp. T-15株はLysobacter属に属するが、種レベルの帰属を推定することはできない新規微生物と考えられる。そこで、本検体Lysobacter sp. T-15株をLysobacter sp. T-15株と命名し、平成18年10月6日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6)に寄託した。受託番号はFERM P−21056である。
【0043】
<酵素作用>
本発明の酵素の尿酸を基質として用いたときの触媒反応式は式1である。生成物の5−ヒドロキシイソウレアは、非酵素的にアラントインにまで酸化されるので、見かけ上の反応式は式2である。
【0044】
本発明の酵素のベンゼンジオールを基質として用いたときの触媒反応式は式3である。
4 benzenediol + O2 → 4 benzosemiquinone + 2H2O(式3)
【0045】
本発明の酵素のビリルビンを基質として用いたときの触媒反応式は式4である。生成物のビリベルジンは、条件によって、ビリルビンオキシダーゼ及び/又は空気酸化によってさらに無色の物質に変換される場合もある。
Bilirubin + O2 → biliverdin + H2O(式4)
【0046】
<尿酸オキシダーゼ活性測定法1>
1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0(25℃))0.04ml、5mMの尿酸を0.023ml、及び蒸留水0.937mlからなる酵素活性測定溶液1mlを層長1cmの石英セル中で37℃2分間予備加温した後、40mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0(25℃))で適当な濃度に希釈した本発明の尿酸オキシダーゼ液20μlを加え酵素反応を開始する。反応開始後1分後から2分後までの293nmにおける基質の吸光度差を測定する(As)。盲検として蒸留水を用いて同一の操作を行って吸光度差を測定する(Ab)。酵素活性1単位(1ユニット)は37℃で1分間に1マイクロモルの尿酸を変化する酵素量、上記反応液中での尿酸のミリモル吸光係数は12.6として、As−Abより酵素活性を求める。
【0047】
<尿酸オキシダーゼ活性測定法2>
40mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0(25℃))、10U/mlのペルオキシダーゼ、1.5mMの4−アミノアンチピリン(4−AA)、0.04%のN,N’−ジメチルアニリン、1mMの尿酸からなる酵素活性測定溶液1mlを層長1cmの石英セル中で37℃2分間予備加温した後、40mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0(25℃))で適当な濃度に希釈した本発明の尿酸オキシダーゼ液20μlを加え酵素反応を開始する。反応開始後1分後から2分後までの565nmにおける基質の吸光度差を測定する(As)。盲検として蒸留水を用いて同一の操作を行って吸光度差を測定する(Ab)。酵素活性1単位(1ユニット)は37℃で1分間に1マイクロモルの尿酸を変化する酵素量、上記反応液中でのキノンジイミン色素のミリモル吸光係数は23.56として、As−Abより酵素活性を求める。本明細書中では特に断らない限り、尿酸オキシダーゼ活性測定法2で尿酸オキシダーゼの活性を測定した。
【0048】
<ラッカーゼ活性測定法>
100mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5(25℃))、5mMのABTSからなる酵素活性測定溶液1mlを層長1cmの石英セル中で37℃2分間予備加温した後、10mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0(25℃))で適当な濃度に希釈した本発明の酵素液20μlを加え酵素反応を開始する。反応開始後1分後から2分後までの420nmにおける基質の吸光度差を測定する(As)。盲検として蒸留水を用いて同一の操作を行って吸光度差を測定する(Ab)。酵素活性1単位(1ユニット)は37℃で1分間に1マイクロモルのABTSを変化する酵素量、上記反応液中で増加する420nmのミリモル吸光係数は36として、As−Abより酵素活性を求める。
【0049】
<ビリルビンオキシダーゼ活性測定法>
1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH6.0(25℃))0.1ml、0.1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH6.0(25℃))で適当な濃度に希釈した本発明の酵素液0.02ml、及び蒸留水0.88mlからなる酵素活性測定溶液1mlを層長1cmの石英セル中で37℃1.5分間予備加温した後、基質として国際試薬(株)の干渉チェックAビリルビンF(成分はビリルビン)を0.9%NaClで20mg/dlに調製したものを20μl添加して酵素反応を開始し、反応開始後1分後から2分後までの450nmにおける基質の吸光度差を測定する(As)。盲検として蒸留水を用いて同一の操作を行って吸光度差を測定する(Ab)。酵素活性1単位(1ユニット)は37℃で1分間に1マイクロモルのビリルビンを変化する酵素量、上記反応液中でのビリルビンFのミリモル吸光係数は36として、As−Abより酵素活性を求める。
【0050】
<アスコルビン酸オキシダーゼ活性測定法>
アスコルビン酸オキシダーゼ活性測定溶液(0.5mMのL−アスコルビン酸、0.45mMのエチレンジアミン四酢酸を含む90mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5(25℃)))1mlを層長1cmの石英セル中で30℃5分間予備加温した後、0.05%BSAを含む10mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5(25℃))で適当な濃度に希釈した本発明の酵素液0.1mlを混和して酵素反応を開始し、反応開始後1分後から5分後までの245nmにおけるL−アスコルビン酸の吸光度差を測定する(As)。盲検として蒸留水を用いて同一の操作を行って吸光度差を測定する(Ab)。この酵素液使用の吸光度(As)と盲検の吸光度(Ab)の吸光度差(As−Ab)より酵素活性を求める。酵素活性1単位(1ユニット)は30℃で1分間に1マイクロモルのL−アスコルビン酸を変化する酵素量、上記反応液中でのL−アスコルビン酸のミリモル吸光係数は10として、As−Abより酵素活性を求める。
【0051】
<阻害作用1>
前記尿酸オキシダーゼ活性測定法2の酵素活性測定溶液中に、表2中に示した濃度でNaCl、KCl、NaBr、Na2SO4、NaNO3またはCH3COONaを添加し、本発明の尿酸オキシダーゼとArthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼ(旭化成ファーマ株式会社製)の活性を測定した。無添加の場合を100%としたときの相対値を表2に示した。表2で明らかなように、Arthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼはNaCl、KCl、NaBr、NaNO3で濃度依存的に反応が阻害されるにもかかわらず、本発明の尿酸オキシダーゼは同条件では、反応が阻害されない特徴をもつことが分かった。
【0052】
【表2】

【0053】
<阻害作用2>
前記尿酸オキシダーゼ活性測定法2の酵素活性測定溶液中に、10mMのNaCl、KCl、Na2SO4、およびCH3COONaを添加し、本発明の尿酸オキシダーゼとArthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼ、Candida sp.由来尿酸オキシダーゼ(東洋紡社製)、およびBacillus sp.由来尿酸オキシダーゼ(東洋紡社製)の活性を測定した。無添加の場合を100%としたときの相対値を表3に示した。表3で明らかなように、Arthrobacter globiformis由来、Candida sp.由来、およびBacillus sp.由来尿酸オキシダーゼはNaCl、KClで反応が阻害されるにもかかわらず、本発明の尿酸オキシダーゼは同条件では、反応が阻害されない特徴をもつことが分かった。
【0054】
【表3】

【0055】
<阻害作用3>
従来の尿酸オキシダーゼはキサンチンにより強く酵素反応が阻害されることが報告されている(非特許文献9)。前記尿酸オキシダーゼ活性測定法2の酵素活性測定溶液中に、1mMのキサンチンを添加し、本発明の尿酸オキシダーゼとArthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼの活性を測定した。無添加の場合を100%としたときの相対値を表4に示した。表4から明らかなように、Arthrobacter globiformis由来、Candida sp.由来、およびBacillus sp.由来尿酸オキシダーゼはキサンチンで濃度依存的に反応が阻害されるにもかかわらず、本発明の尿酸オキシダーゼは同条件では、反応が阻害されない特徴をもつことが分かった。
【0056】
【表4】

【0057】
<阻害作用4>
非特許文献10では、汎用される緩衝液であるTrisHCl緩衝液によって従来の尿酸オキシダーゼの酵素反応が阻害される事が報告されている。前記尿酸オキシダーゼ活性測定法2の酵素活性測定溶液中のリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)濃度を、表5中に示した濃度のTrisHCl緩衝液(pH7.0)に変更して本発明の尿酸オキシダーゼとArthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼの活性を測定した。無添加の場合を100%としたときの相対値を表5に示した。表5で明らかなように、Arthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼはTrisHCl緩衝液の濃度依存的に反応が阻害されるにもかかわらず、本発明の尿酸オキシダーゼは同条件では、反応が阻害されない特徴をもつことが分かった。
【0058】
【表5】

【0059】
<阻害作用5>
本発明の尿酸オキシダーゼとArthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼの、NaClによる阻害反応のラインウェーバー・バーク逆数プロットによりKi値を算出した。図3が本発明の尿酸オキシダーゼで図3がArthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼのNaClによる阻害反応のラインウェーバー・バーク逆数プロットである。図2及び3中、白丸(○)は0mM、黒丸(●)は50mM、白三角(△)は100mM、黒四角(▲)は150mM、白四角(□)は200mMのNaClを示す。また、図2及び図3の各勾配をNaCl濃度に対してプロットした阻害反応のラインウェーバー・バーク逆数プロットの2次プロットを図4に示した。図4中、白丸(○)は本発明の尿酸オキシダーゼ、黒丸(●)はArthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼを示す。図4より、本発明の尿酸オキシダーゼは実用上問題にならない程度の非常に弱い阻害をNaClによって受け、Kiは約200mMであることが分かる。一方、Arthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼは実用上問題になる程度の強い阻害をNaClによって受け、Kiは約5.7mMであることが分かった。また、図2より本発明の尿酸オキシダーゼがNaClによって受ける阻害形式は拮抗形で、図3よりArthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼがNaClによって受ける阻害形式は非拮抗形であり、お互いに異なることが明らかになった。図2及び図3中Vは反応速度を表し、[I]は阻害剤の濃度を表す。
【0060】
<至適pH(尿酸を基質とした場合)>
本発明の酵素の尿酸に対する至適pHを求めた。至適pHを測定するための測定溶液は緩衝液を変化し、前記尿酸オキシダーゼ活性測定法2と同じ方法で求めた。図5に、緩衝液として、pH4.2からpH5.2の範囲は酢酸−水酸化ナトリウム緩衝液、pH5.9からpH7.4の範囲はリン酸カリウム緩衝液、pH7.8からpH10.0の範囲はトリス−塩酸緩衝液を使用した場合の、尿酸に対する最大活性を100%とした相対値を示した。本発明の酵素の尿酸に対して相対活性が85%以上となるのはpH6.3から7.8の間であり、至適pHは中性付近であった。
【0061】
<至適pH(ビリルビンを基質とした場合)>
本発明の酵素の国際試薬(株)の干渉チェックAビリルビンC及びビリルビンFに対する至適pHを求めた。至適pHを測定するための測定溶液は1Mの各緩衝液0.1ml、0.1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH6.0(25℃))で適当に希釈した酵素液0.02ml、及び蒸留水0.78mlからなる酵素活性測定溶液1mlを使用して上記ビリルビンオキシダーゼ活性測定法と同じ方法で酵素反応速度を求めた。pH変化に伴うビリルビンC及びビリルビンFのミリモル吸光係数の変化は考慮しなかった。図6に、緩衝液として、pH3.3からpH5.5の範囲は酢酸−水酸化ナトリウム緩衝液、pH4.8からpH6.1の範囲はクエン酸−水酸化ナトリウム緩衝液、pH6.0からpH7.4の範囲はリン酸カリウム緩衝液、pH7.5からpH9.6の範囲はトリス−塩酸緩衝液を使用した場合のビリルビンC(図中、黒丸(●)印)またはビリルビンF(図中、白丸(○)印)に対する最大活性を100%とした相対値を示した。本発明の酵素のビリルビンCに対する至適pHは5付近、ビリルビンFに対する至適pHは中性付近であった。
【0062】
<至適pH(ABTSを基質とした場合)>
本発明の酵素のABTSに対する至適pHを求めた。至適pHを測定するための測定溶液は緩衝液を変化し、前記ラッカーゼ活性測定法と同じ方法で求めた。図7に、緩衝液として、pH3.2からpH4.2の範囲は酢酸−水酸化ナトリウム緩衝液、pH4.8からpH6.2の範囲はクエン酸−水酸化ナトリウム緩衝液、pH6.3からpH6.9の範囲はリン酸カリウム緩衝液を使用した場合の、ABTSに対する最大活性を100%とした相対値を示した。本発明の酵素のABTSに対する至適pHは4付近であった。
【0063】
<至適温度と作用温度の範囲>
前記尿酸オキシダーゼ活性測定法1の活性測定法で、反応温度を25から58度まで変化して本発明の尿酸オキシダーゼの反応速度を測定した。その結果をアレニウスプロットして図8に示した。図8で明らかなように、本発明の尿酸オキシダーゼの至適温度は少なくとも55℃以上であり、作用温度の範囲は少なくとも30℃から60℃であった。また、図8で明らかなように、アレニウスプロットは二相性を示し、活性化エネルギーは25から36.5℃の間は62kJ/mol、39.5から58℃の間は37kJ/molであった。図中Tは絶対温度を示す。
【0064】
<安定性>
本発明の尿酸オキシダーゼを0.03mg/mlになるように40mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0(25℃))中に溶解し、各温度で15分間熱処理した後の尿酸オキシダーゼの残存活性を前記尿酸オキシダーゼ活性測定法2に従って測定した。その結果を図9に示した。図9で明らかなように本発明の尿酸オキシダーゼは、安定化剤の非存在下、30℃、15分間で98%以上の活性を保持する。
【0065】
<比活性>
本発明の酵素の尿酸、ビリルビン、アスコルビン酸またはABTSを基質とした場合の反応速度を測定し、比活性(μmol/mim/mg)を算出して表6にまとめた。また、比較のためにラッカーゼタイプのマルチ銅オキシダーゼの尿酸、ビリルビン、アスコルビン酸、およびABTSを基質とした場合の比活性(μmol/mim/mg)も同時に示した。なお、表6中(a)はApplied and Environmental Microbiology, 2006, 72, 972-975、(b)はThe Journal of biological chemistry, 2002, 277, 18849-18859、(c)はBiochemistry, 1999, 38, 3034-3042、(d)はJ. Microbiology, 2005, 43, 555-560から引用した値であり、*はVmaxであることを示す。表6で明らかなように本発明の酵素は尿酸オキシダーゼ活性、ラッカーゼ活性及びビリルビンオキシダーゼ活性を同時にもち、従来報告のあるラッカーゼタイプのマルチ銅オキシダーゼとは全く異なる特徴をもつ新規な酵素であることがわかった。
【0066】
【表6】

【0067】
<分子量>
Lysobacter sp. T-15を培養し本発明の尿酸オキシダーゼを精製した場合、図10のSDS−PAGEの写真で示されるように約31000と32000の分子量と測定され(レーン1の矢印)、Superdex 200 ppで分子量測定した場合、図11で示されるように約120800±10000の分子量と推察された。配列番号2で表わされるアミノ酸配列をコードする本発明の尿酸オキシダーゼの遺伝子を含む組換え体プラスミドを含む形質転換体を培養し本発明の尿酸オキシダーゼを精製した場合、図10のSDS−PAGEの写真で示されるように約67000の分子量と測定された(レーン2の矢印)。アミノ酸一次配列からの計算値は64516であった。図中白丸(○)は酵素活性(U/ml)を、黒丸(●)は分子量(kDa)を示す。
【0068】
<等電点>
本発明の尿酸オキシダーゼの等電点はキャリアーアンホラインを用いた電気泳動法にて約pH5.2±0.5であった。
【0069】
<見かけのKmとVmax>
本発明の酵素の尿酸、国際試薬(株)の干渉チェックAビリルビンF、アスコルビン酸及びABTSに対する見かけのKmとVmaxを測定した。上記の各酵素活性測定法に従い、各基質の酵素活性測定溶液中の濃度を、表7に示した各Km値の1/10倍から10倍の間で5つ以上の異なる濃度になるように調製して、ラインウェーバー・バーク逆数プロットにより各見かけのKm値とVmax値を算出した。表7に、比較のためにBacillus subtilis由来CotA(旭化成ファーマ株式会社製)、Arthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼ(旭化成ファーマ株式会社製)、Trachderma tsunodae由来ビリルビンオキシダーゼ(宝酒造株式会社製)、Acremonium sp.由来アスコルビン酸オキシダーゼ(旭化成ファーマ株式会社製)、及びTrametes versicolor由来ラッカーゼ(シグマ社製)の各見かけのKm値とVmax値もまとめて示した。なお、表中(a)はApplied and Environmental Microbiology, 2006, 72, 972-975、(b)はThe Journal of biological chemistry, 2002, 277, 18849-18859、(c)はBiochemistry, 1999, 38, 3034-3042、(d)はJ. Microbiology, 2005, 43, 555-560、(d)はJ. Microbiology, 2005, 43, 555-560から引用した値であり、±は僅かに反応することを示し、―は全く反応しないことを示す。表7で明らかなように、本発明の酵素は尿酸オキシダーゼ活性、ラッカーゼ活性及びビリルビンオキシダーゼ活性を併せもち、従来報告のある尿酸オキシダーゼはもとより、ラッカーゼタイプのマルチ銅オキシダーゼ、すなわち、ビリルビンオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、及びラッカーゼとは全く異なる特徴をもつ新規な酵素であることがわかった。
【0070】
【表7】

【0071】
<一次配列>
本発明の配列番号2のアミノ酸番号1から661で表される尿酸オキシダーゼのアミノ酸配列のN末端側及びC末端側は、アミノ酸残基またはポリペプチド残基を含む場合であってもよく、そのアミノ酸残基としてはシグナルペプチドまたはT7タグ、Hisタグ、Sタグ、Trxタグ、CBDタグ、DsbAタグ、GSTタグ、Nusタグなどが挙げられる。
【0072】
さらに、本発明の尿酸オキシダーゼを構成するアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸番号1から661で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドによる酵素活性発現と同様の効果を発現する、配列番号2のアミノ酸番号1から661のアミノ酸配列の一部から実質的になるアミノ酸配列や酵素活性発現に関与しない一部のアミノ酸の配列を変異、欠損または付加したものの均等物も含まれる。
【0073】
本発明の配列番号2のアミノ酸番号1から661で表されるアミノ酸配列をコードするDNAは、そのN末端側及びC末端側のアミノ酸残基またはポリペプチド残基を含めたアミノ酸配列の各アミノ酸に対応する一連のコドンのうちいずれか1個のコドンからなるDNAであればよい。
【0074】
さらに、本発明の尿酸オキシダーゼをコードするDNAは、配列番号2のアミノ酸番号1から661で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドによる酵素活性発現と同様の効果を発現する、アミノ酸番号1から661中の一部分からなる実質的になるアミノ酸配列をコードするDNAであってもよく、また酵素活性発現に関与しない一部のアミノ酸の配列を変異、欠損または付加したものの均等物のアミノ酸配列をコードするDNAであってもよい。
【0075】
DNAの供与体である微生物としては、少なくともハロゲン化物イオン、硝酸イオン、又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されないなど、従来知られている尿酸オキシダーゼの阻害剤によって阻害されない尿酸オキシダーゼを生産する生物であればなんら限定されるものではないが、好ましくはLysobacter sp. T-15及びLysobacter sp. T-15の変種や変異株が挙げられる。
【0076】
本発明の尿酸オキシダーゼをコードするDNAを組み込むベクターとしては、宿主微生物体内で自律的に増殖しうるファージまたはプラスミドから遺伝子組み換え用として構築されたものが適しており、ファージベクターとしては、例えば、エシェリヒア・コリに属する微生物を宿主微生物とする場合にはλgt・λC、λgt・λBなどが使用できる。また、プラスミドベクターとしては、例えば、エシェリヒア・コリを宿主微生物とする場合には、プラスミドpET−3a、pET−11a、pET−32aなどのpETベクター(Novagen)またはpBR322、pBR325、pACYC184、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118、pIN I、BluescriptKS+、枯草菌を宿主とする場合にはpWH1520、pUB110、pKH300PLK、放線菌を宿主とする場合にはpIJ680、pIJ702、酵母特にサッカロマイセス・セルビシエを宿主とする場合にはYRp7、pYC1、YEp13などが使用できる。このようなベクターを、本発明の尿酸オキシダーゼをコードするDNAの切断に使用した制限酵素で生成するDNA末端と、同じ末端を生成する制限酵素で切断してベクター断片を作成し、本発明の尿酸オキシダーゼをコードするDNA断片とベクター断片とを、DNAリガーゼ酵素により常法に従って結合させて本発明の尿酸オキシダーゼをコードするDNAを目的のベクターに組み込むことができる。
【0077】
プラスミドを移入する宿主微生物としては、組み換えDNAが安定かつ自律的に増殖可能であればよく、例えば宿主微生物がエシェリヒア・コリに属する微生物の場合、エシェリヒア・コリ BL21、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)、エシェリヒア・コリ BL21trxB、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)、エシェリヒア・コリ Rosetta、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)pLysS、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)pLacl、エシェリヒア・コリ RosettaBlue、エシェリヒア・コリ Rosetta−gami、エシェリヒア・コリ Origami、エシェリヒア・コリ Origami、エシェリヒア・コリ Tuner、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ W3110、エシェリヒア・コリC600などが利用できる。また、微生物宿主がバチラス属に属する微生物の場合、バチラス・サチリス、バチラス・メガテリウムなど、放線菌に属する微生物の場合、ストレプトマイセス・リビダンス TK24など、サッカロマイセス・セルビシエに属する微生物の場合、サッカロマイセス・セルビシエ INVSC1などが使用できる。
【0078】
また、本発明の尿酸オキシダーゼは公知の遺伝子操作手段により、本来の反応を触媒する性質を損なわないペプチドの変異をなしてもよく、このような変異体遺伝子は、本発明の尿酸オキシダーゼの遺伝子から遺伝子工学的手法により作製される人工変異遺伝子を意味し、この人工変異遺伝子は前出の部位特異的変異法や、目的遺伝子の特定DNA断片を人工変異DNAで置換するなどの種々なる遺伝子工学的方法を使用して得られる。かくして取得された人工変異された本発明の尿酸オキシダーゼ遺伝子をベクターに挿入して宿主微生物に移入させることによって変異体の本発明の尿酸オキシダーゼを発現させることが可能であり、優れた性質を有する変異体の本発明の尿酸オキシダーゼを製造することも可能である。
【0079】
また、形質転換微生物により本発明の尿酸オキシダーゼを製造するに当たっては、該形質転換微生物を栄養培地で培養して菌体内または培養液中に本発明の尿酸オキシダーゼを産生せしめ、培養終了後、得られた培養物を濾過または遠心分離などの手段により菌体を採集し、次いでこの菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、又、必要に応じてEDTA及び/または適当な界面活性剤などを添加して本発明の尿酸オキシダーゼの水溶液を濃縮するか、または濃縮することなく硫安分画、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーにより処理して、純度の良い本発明の尿酸オキシダーゼを得ることができる。
【0080】
形質転換微生物の培養条件はその栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、通常多くの場合は、液体培養で行うが、工業的には深部通気撹拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては、微生物の培養に通常用いられるものが広く使用されうる。培養温度は微生物が発育し、本発明の尿酸オキシダーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、エシェリヒア・コリの場合、好ましくは、10から45℃程度、さらに好ましくは20から30℃程度である。培養条件は、条件によって多少異なるが、本発明の尿酸オキシダーゼが最高収量に達する時期を見計らって適当な時期に培養を終了すればよく、エシェリヒア・コリの場合、通常は12から48時間程度である。培地pHは菌が発育し、本発明の尿酸オキシダーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、エシェリヒア・コリの場合、好ましくはpH6から8程度である。
【0081】
本発明の尿酸オキシダーゼは主としてその菌体内に含有、蓄積されており、その菌体内から抽出すれば良い。抽出法を例示すればまず培養物を固液分離し、得られた湿潤菌体をリン酸緩衝液やトリス−塩酸緩衝液などの溶液に分散し、リゾチーム処理、超音波処理、フレンチプレス処理、ダイノミル処理などの菌体破砕手段を適宜選択組み合わせて、粗製の本発明の尿酸オキシダーゼ液または本発明の尿酸オキシダーゼの封入体を得る。
【0082】
封入体の本発明の尿酸オキシダーゼを可溶化する方法として、in vivoでは大腸菌シャペロン遺伝子を共役発現して可溶性度を増大する方法、コールドショックプロテインベクター(宝バイオ社製)を用いる方法、形質転換体のペリプラズム領域に発現する方法などがある。in vitroではメルカプトエタノール、尿素やグアニジンのような変性剤で封入体を完全にアンフォールディングした後、透析あるいは希釈により変性剤を除去してリフォールディングできる。この際、リフォールディング効率を上げるためにシクロアミロース、シクロデキストリン、界面活性剤、グルタチオン、アルギニンなどを使用しても良い。
【0083】
粗製の本発明の酵素液から公知のタンパク質や酵素などの単離、精製手段を用いて精製酵素を得る。例えば、粗製の本発明の酵素液にアセトン、メタノール、エタノールなどの有機溶媒による分別沈殿法、硫酸アンモニウム、食塩などによる塩析法などを適用して目的酵素を沈殿させ、回収する。さらに、この沈殿物を必要に応じて透析、等電点沈殿を行った後、電気泳動法などで単一の帯を示すまで、イオン交換体、ゲル濾過剤、吸着体などを用いるカラムクロマトグラフィーなどにより精製する。また、これらの方法を適当に組み合わせることにより目的酵素の精製度が上がる場合は適宜組み合わせて行うことができる。
【0084】
これらの方法によって得られる酵素は安定化剤として、各種の塩類、糖類、タンパク質、脂質、界面活性化剤などを加え、あるいは加えることなく、限外濾過濃縮、凍結乾燥などの方法により、液状または固形の本発明の尿酸オキシダーゼを得ることができ、また、適宜凍結乾燥を行ってもよく、この場合安定化剤としてサッカロース、マンニトール、食塩、アルブミンなどを0.5から10%程度添加してもよい。
【0085】
本発明により、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されないなど、従来知られている尿酸オキシダーゼの阻害剤によって阻害されない尿酸オキシダーゼ活性をもつタンパク質を提供することができる。その結果、該酵素を含む組成物において該酵素以外の原料の制限が無くなり、簡便に該酵素を含む組成物や該酵素を用いた試料中の尿酸の酸化方法を提供することができることが見込まれる。
【0086】
本発明の尿酸オキシダーゼを用いた尿酸測定試薬及び方法とは、本発明の尿酸オキシダーゼの作用により試料中尿酸を酸化する試薬及び方法である。
【0087】
本発明の酵素を含有するキットとしては、本発明の酵素を含有するキットであれば特に限定されないが、例えば、尿酸測定試薬が挙げられる。これらの試薬やキットは液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品、又は液状品の乾燥品(加熱乾燥及び/又は風乾及び/又は減圧乾燥等による)として提供できる。液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品が好ましく、液状品、液状品の凍結乾燥品がより好ましく、液状品が最も好ましい。別の態様として、液状品の凍結物が好ましい場合もある。さらに別の態様としては、液状品の凍結乾燥が好ましい場合もある。
【0088】
また、本発明の尿酸オキシダーゼを有効成分として含有する高尿酸血症治療薬、該医薬の高尿酸血症を治療するための使用、該医薬を用いた高尿酸血症の治療方法なども本発明の範囲である。
【0089】
さらに、本発明の尿酸オキシダーゼを有効成分として含有する酸化剤、該酸化剤の酸化染毛料、パーマネントウェーブのための使用もまた本発明の範囲である。
【実施例】
【0090】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されることはない。なお、実施例中、常法に従い、と記述した遺伝子操作技術は、例えばマニアティスらの方法(Maniatis,T.,et al.Molecular Cloning.Cold Spring Harbor Laboratory 1982,1989)や、市販の各種酵素、キット類に添付された手順に従えば実施できるものである。
【0091】
[実施例1]
<培養>
Lysobacter sp. T-15は次のような培地で培養した;1Lあたり、硫酸アンモニウム 0.5g、グルタミン酸ナトリウム 0.5g、コハク酸ナトリウム 0.5g、酢酸ナトリウム0.5g、酵母エキス0.5g、カザミノ酸 0.5g、チオ硫酸ナトリウム 0.5g、EDTA3Na 24.66mg、硫酸鉄7水和物 5.55mg、硫酸マグネシウム7水和物 123.25 mg、塩化カルシウム2水和物 14.7mg、塩化ナトリウム 117mg、硫酸マンガン4水和物 0.558mg、硫酸亜鉛7水和物 0.144mg、硝酸コバルト7水和物 0.146mg、硫酸銅5水和物 0.126mg、モリブデン酸ナトリウム2水和物 0.121mg、硼酸 0.155mg、ニコチン酸 1mg、チアミン 1mg、ビオチン 1mg、パラアミノ安息香酸 0.5mg、ビタミンB12 0.01mg、パントテン酸カルシウム 0.5mg、ピリドキシン塩酸塩 0.5mg、葉酸 0.5mg。該培地をオートクレーブ滅菌(113℃20分)してLysobacter sp. T-15を接種し、30℃で好気的に24時間培養した。培養終了後、培養物を7,000rpmで20分間遠心し集菌した。
【0092】
[実施例2]
<DNAの抽出>
実施例1で培養したLysobacter sp. T-15の菌体の一部を50mMのトリス−塩酸(pH8.0)、50mMのEDTA、15%シュークロースを含む1mg/mlリゾチーム溶液で37℃、10分処理した後、SDSを最終濃度0.25%になるよう添加して菌体を溶解した。さらに等量のフェノール/クロロホルム=1:1混合液を加え、30分攪拌した後、12,000rpmで15分遠心分離処理をして水層を回収した。回収した水層に10分の1量の3Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)を混合後、2倍量のエタノールを静かに重層し、ゲノムDNAをガラス棒に巻き付かせて分離した。分離したゲノムDNAを、10mMトリス−塩酸(pH8.0)、1mMのEDTA水溶液(TEバッファー)20mlに溶解し、20mg/mlのRNaseAを200μl加え、37℃で1時間保温し、混在しているRNAを分解した。次いで、等量のフェノール/クロロホルム混合液を加え、前記と同様に処理して、水層を分取した。分取した水層に10分の1量の3Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)と2倍量のエタノールを加えて前記の方法でもう一度ゲノムDNAを分離した。この染色体を50mlのTE(10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)、1mMのEDTA(pH8.0))に溶解し、TE飽和のフェノールとクロロホルムの1対1混和液20mlを加え、全体を懸濁した後、同様の遠心分離を繰り返し、上層を再び別の容器に移した。この分離した上層20mlに3Mの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)2mlとエタノール50mlを加え、撹拌後−70℃で5分間冷却した後、遠心分離(2,000G、4℃、15分)し、沈澱した染色体を75% エタノールで洗い、減圧乾燥した。以上の操作によりLysobacter sp. T-15のDNA標品約1mgを得た。
【0093】
[実施例3]
<細胞抽出液の取得方法>
実施例1で集菌した菌体を、10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で懸濁して超音波破砕機を用いて菌体を破砕した後、遠心分離(15,000G、5分、4℃)し、上清を取得して細胞抽出液とした。
【0094】
[実施例4]
<本発明の尿酸オキシダーゼの精製法>
実施例3で調製した粗酵素液は、そのまま10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で平衡化したDEAE sep.FF(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)に吸着させた。10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で充分に洗浄した後、0及び0.5Mの塩化カリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分に最終濃度20%になるように硫酸アンモニウム添加し、20%の硫酸アンモニウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したPhenyl sep.FF(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)に吸着して20及び0%の硫酸アンモニウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で平衡化したG−25(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)で脱塩した後、10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で平衡化したQ sep.HP(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)に吸着し、0及び0.5Mの塩化カリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分を10mMのリン酸緩衝液pH7.0で平衡化したG−25で脱塩して10mMのリン酸緩衝液pH7.0及び100mMの硫酸銅で平衡化したChelating sep. FF(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)に吸着し、0及び1Mのイミダゾールを含む10mMのリン酸緩衝液pH7.0を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したG−25で脱塩した後、10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したハイドロキシアパタイト(バイオラッド社製)に吸着し、0及び1Mのリン酸緩衝液pH7.5を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は0.15Mを含む10mMのリン酸緩衝液pH7.0で平衡化したSuperdex 200 pp(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)でゲルろ過した。図11はこのSuperdex 200 ppカラムクロマトグラフィーの結果である。得られた活性画分は図10のSDS−PAGEの写真で示されるように約31000と32000の分子量と測定された(レーン1の矢印)。実施例5の精製結果をまとめて表8に示した。得られた酵素液は青色を呈し、その吸収スペクトルは図12の様であった。
【0095】
【表8】

【0096】
[実施例5]
<本発明の酵素の部分アミノ酸配列決定>
1Mウレア pH8に溶解した実施例4で得た本発明の酵素1mgを、アミノペプチダーゼLys−CもしくはAsp−Nで断片化した(37℃17時間)。断片は定法に従い0.1%のトリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル−水系の逆相カラムクロマトグラフィーで分離精製しエドマン分解法にて部分アミノ酸配列を決定した。
【0097】
[実施例6]
<放射性DNAプローブの作製>
実施例5で決定された本発明酵素の部分アミノ酸配列のうち、配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸番号298から307に相当する配列を元に遺伝子クローニングに使用するオリゴヌクレオチドプローブを設計し、配列番号3で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを外部機関(ベックス社)に合成依託して作製した。完成したオリゴヌクレオチド200ngをT4ポリヌクレオチドキナーゼバッファー(50mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、10mMの塩化マグネシウム、10mMの2−メルカプトエタノール)、及び740kBq(キロベクレル)の[γ−32P]ATP(NEN社販売)存在下、8.5uのT4ポリヌクレオチドキナーゼで37℃、30分間反応させ、ラジオアイソトープ32Pを取り込ませ放射性オリゴヌクレオチドプローブとした。
【0098】
[実施例7]
<本発明の酵素遺伝子含有DNAフラグメントの検定>
実施例2で取得したLysobacter sp. T-15の染色体DNA(10μg)を各種制限酵素で切断し、1.5%アガロースゲル(タカラバイオ社製アガロースゲルH14、40mMのTris−酢酸緩衝液(pH7.4)、2mMのEDTA)で150V、1.5時間電気泳動し、常法に従ってサザンブロッティングを行い、アガロースゲルからナイロンメンブレン(PALL社製:バイオダインA)にDNAを移行させた。
【0099】
このメンブレンを風乾後、ナイロンメンブレン添付のマニュアルに従ってプレハイブリダイゼーションを行い、さらに実施例6で作製した放射性プローブを使用したハイブリダイゼーションを45℃で1晩行った。ハイブリダイゼーション後、メンブレンを55℃の洗浄液(6×SSC、0.05%ピロリン酸ナトリウム〔1×SSC:0.15M塩化ナトリウム,15mMクエン酸ナトリウム〕:メンブレン100平方cm当り約50ml)で10分洗った後、メンブレンを自然乾燥した。この乾燥したメンブレンをX線フィルム(富士写真フィルム社製 New RXO−H)に重ね、遮光下、−70℃で24時間オートラジオグラフィーを行った。
【0100】
オートラジオグラフィー終了後、フィルムを現像し、各制限酵素による切断染色体が示すポジティブバンドのサイズを観察した。その結果、XhoIによる切断により約8kbのDNAフラグメント上に本発明の酵素の遺伝子が含有されることが明らかとなり、XhoIで切断した染色体DNAの8kbフラグメントから遺伝子ライブラリーを作成することとした。
【0101】
[実施例8]
<遺伝子ライブラリーの作成>
実施例2で取得したLysobacter sp. T-15の染色体DNA10μgを制限酵素XhoIで切断し、常法に従い約8kbのDNAフラグメントを分離した。このDNAフラグメントを、制限酵素SalIで切断しアルカリフォスファターゼ(以下BAPと略称)1uで切断末端を脱リン酸化した1μgのpUC119と、DNAライゲーションキット(DNA Ligation Kit)で連結させた。これを用いて、常法に従ってコンピテント細胞としたエシェリヒア・コリ・JM109(東洋紡績社製)をトランスフォーメーションし、50μg/mlアンピシリン含有LB(バクトトリプトン(DIFCO社製)10g/l、酵母エキス(DIFCO社製)5g/l、NaCl 10g/l)1.5%寒天平板培地にて一夜培養し、約2,000個のアンピシリン耐性コロニーを得、遺伝子ライブラリーとした。
【0102】
[実施例9]
<本発明の酵素遺伝子含有クローンのスクリーニング>
実施例8で得られた遺伝子ライブラリーを、ナイロンメンブレン(PALL社製:バイオダインA)にレプリカし、このメンブレンに添付のマニュアルに従って菌体のDNAを固定した。
【0103】
このDNAを固定したメンブレンを このメンブレンを風乾後、ナイロンメンブレン添付のマニュアルに従ってプレハイブリダイゼーションを行い、さらに実施例6で作製した放射性プローブを使用したハイブリダイゼーションを45℃で1晩行った。ハイブリダイゼーション後、メンブレンを55℃の洗浄液(6×SSC、0.05%ピロリン酸ナトリウム〔1×SSC:0.15M塩化ナトリウム,15mMクエン酸ナトリウム〕:メンブレン100平方cm当り約50ml)で10分洗った後、メンブレンを自然乾燥した。この乾燥したメンブレンをX線フィルム(富士写真フィルム社製 New RXO−H)に重ね、遮光下、−70℃で24時間オートラジオグラフィーを行った。オートラジオグラフィー終了後、フィルムを現像し、ポジティブシグナルを示すコロニーを1個確認した。
【0104】
[実施例10]
<組み換えプラスミドの抽出と酵素遺伝子塩基配列の決定>
実施例9で選ばれたポジティブシグナルを示すコロニーを50μg/mlのアンピシリン含有LB液体培地1.5mlに植菌し37℃で16時間振盪培養した後、常法に従ってプラスミドを抽出した。このプラスミドに挿入された染色体断片の塩基配列を外部機関(BMR社)に依頼して解析したところ、実施例5で決定した本発明の酵素の部分アミノ酸配列をコードする構造遺伝子領域が確認された。この構造遺伝子領域と周辺の塩基配列を決定して本発明の酵素遺伝子の塩基配列とした。本発明の酵素遺伝子の塩基配列と、コードされるアミノ酸配列を配列番号1及び配列番号2にそれぞれ示した。
【0105】
[実施例11]
<遺伝子組換え酵素発現用プラスミド作製>
配列番号4のPCR用プライマー(センス)と配列番号5のPCR用プライマー(アンチセンス)を合成依託して作製し、PCRで配列番号1のDNAを増幅した。PCR溶液組成は、KOD DNAポリメラーゼ1μl、10倍濃縮のKOD DNAポリメラーゼに添付の緩衝液5μl、1mM塩化マグネシウム2μl、0.2mM dNTP7.5μl、10μg/ml 実施例2で取得したLysobacter sp. T-15の染色体DNA 10μl、10pmol/μl センスプライマー5μl、アンチセンスプライマー5μl、蒸留水14.5μlからなる。PCR条件は、(1)98℃15秒、(2)65℃20秒、及び(3)72℃60秒からなるサイクルを1サイクルとして、これを30サイクル行った。増幅したPCR産物はNdeIとBamHIで切断して精製し、これをpET−21aのNdeIとBamHIの切断部位に挿入し、本発明の尿酸オキシダーゼ遺伝子が連結されたプラスミドを構築した。また、PCR産物を定法により末端平滑化し、pUC118とpUC119のSmaI切断部位に挿入し、本発明の尿酸オキシダーゼ遺伝子が連結されたプラスミドを構築した。pET−21aによって構築されたプラスミドは定法によってエシェリヒア・コリ BL21(DE3)に形質転換した。pUC119によって構築されたプラスミドは定法によってエシェリヒア・コリ JM109に形質転換した。
【0106】
[実施例12]
<形質転換大腸菌の培養とその細胞抽出液の調製>
実施例11で作成したプラスミドを導入したエシェリヒア・コリBL21(DE3)またはエシェリヒア・コリ JM109を50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地に接種し、37℃で培養し、培養液の600nmの吸光度が0.6になったときに培養温度を24℃に低下してlacプロモーター誘導剤である1mMのIPTGを添加した。その後、24℃でさらに4時間培養し、遠心分離(15,000G、1分、4℃)により集菌し、10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で懸濁して超音波破砕機を用いて菌体を破砕した後、遠心分離(15,000G、5分、4℃)し、上清を取得して細胞抽出液とした。
【0107】
[実施例13]
<形質転換大腸菌からの本発明の尿酸オキシダーゼ精製法>
実施例12で調製した粗酵素液は、そのまま10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で平衡化したQ sep.BB(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)に吸着させた。10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で充分に洗浄した後、0及び0.5Mの塩化カリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分に最終濃度20%になるように硫酸アンモニウム添加し、20%の硫酸アンモニウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したPhenyl sep.FFに吸着して20及び0%の硫酸アンモニウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で平衡化したG−25で脱塩した後、10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で平衡化したQ sep. HPに吸着し、0及び0.5Mの塩化カリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したG−25で脱塩した後、10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したハイドロキシアパタイトに吸着し、0及び1Mのリン酸緩衝液pH7.5を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は0.15Mを含む10mMのリン酸緩衝液pH7.0で平衡化したSuperdex 200 ppでゲルろ過した。得られた活性画分は図10のSDS-PAGEの写真で示されるように約67000の分子量と測定された(レーン2の矢印)。実施例13の精製結果をまとめて表9に示した。
【0108】
【表9】

【0109】
[実施例14]
<本発明の尿酸オキシダーゼを用いた尿酸の定量>
1)本発明の尿酸オキシダーゼを用いた尿酸測定試薬の調製
本発明の尿酸オキシダーゼを用いた尿酸測定試薬として以下に示した試薬キットを調製した。
【0110】
1−1)試薬1
50mM リン酸緩衝液 pH 7.0
【0111】
1−2)試薬2
50mM リン酸緩衝液 pH 7.0
5U/ml ペルオキシダーゼ(シグマ社製)
0.03% 4−AA
0.03% DAOS(N-Ethyl-N-(2-hydroxy-3-sulfopropyl) -3,5-dimethoxyaniline, sodium salt)
1mU/ml 実施例13にて調製した本発明の尿酸オキシダーゼ
【0112】
2)検量線の作成
日水製薬(株)のスイトロールNを用いて0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10mg/dlの検量線用尿酸標準液を調製し、日立7080形自動分析機を用いて測定した。日立7080形自動分析機の上記試薬の分析パラメーターは、2ポイントエンド測定、サンプル量4μl、試薬1は210μl、試薬2は70μl、測定主波長600nm、副波長700nmとした。その結果、図13に示すように尿酸濃度と吸光度の変化量はR2=0.9950で直線状にプロットされ、吸光度変化測定で尿酸の定量が可能であった。
【0113】
[実施例15]
<本発明の尿酸オキシダーゼを用いた血清中尿酸測定試薬の調製、及び該測定試薬を用いた検体の測定値と、市販の血清中尿酸測定試薬(デタミナーL UA(協和メデックス株式会社製))を用いた同検体の測定値との比較>
【0114】
1)本発明の尿酸オキシダーゼを用いた血清中尿酸測定試薬の調製
本発明の尿酸オキシダーゼを用いた血清中尿酸測定試薬として以下に示した試薬キットを調製した。
1−1)試薬1
40mM リン酸緩衝液 pH 7.0
10U/ml ペルオキシダーゼ
0.03% DAOS
【0115】
1−2)試薬2
40mM リン酸緩衝液 pH 7.0
0.03% 4−AA
0.5mM EDTA−2Na
10U/ml 実施例13にて調製した本発明の尿酸オキシダーゼ
【0116】
2)血清中尿酸の測定
日立7080形自動分析機を用いてヒト血清70検体を上記試薬とデタミナーL UAキットを用いて測定した。日立7080形自動分析機の上記試薬の分析パラメーターは、Rate−A測定(20−24ポイント)、サンプル量4μl、試薬1は210μl、試薬2は70μl、測定主波長600nm、副波長700nmとした。デタミナーL UAキットは添付文書に従って使用した。測定値はデタミナーL UAキット用のキャリブレータを用いた。測定結果の相関図を図14に示したように、相関式がY=1.01X−0.55、相関係数がR2=0.9922であり、良好な相関が示された。これは本発明の尿酸オキシダーゼを用いた血清中尿酸測定試薬で、ヒト血清中の尿酸を精度良く測定できることを示している。
【0117】
[実施例16]
<本発明の酵素を用いたビリルビンF及びビリルビンCの定量>
1)本発明の酵素を用いたビリルビンF及びビリルビンC測定試薬の調製
本発明の酵素を用いたビリルビンF及びビリルビンC測定試薬として以下に示した試薬キットを調製した。
【0118】
1−1)試薬1
100mM リン酸緩衝液 pH 7.2
0.2% コール酸ナトリウム
0.5mM EDTA−2Na
【0119】
1−2)試薬2
100mM リン酸緩衝液 pH 7.2
0.02% TX−100
0.5mM EDTA−2Na
4U/ml 実施例13にて調製した本発明の酵素
【0120】
2)検量線の作成
国際試薬(株)の干渉チェックAビリルビンF及びビリルビンCを0.9%NaCl水で希釈した0、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10mg/dlの検量線用標準液を、日立7080形自動分析機を用いて測定した。日立7080形自動分析機の上記試薬の分析パラメーターは、2ポイントエンド測定、サンプル量10μl、試薬1は200μl、試薬2は50μl、測定主波長450nm、副波長546nmとした。図中黒丸(●)はビリルビンC,白丸(○)はビリルビンFを示す。その結果、図15に示すようにビリルビンF及びビリルビンC濃度と吸光度の変化量はそれぞれR2=0.9991、R2=0.9996で直線状にプロットされ、波長450nmの吸光度変化測定でビリルビンF及びビリルビンCの定量が可能であった。
【0121】
[実施例17]
<本発明の酵素を用いた血清中総ビリルビン測定試薬の調製、及び該測定試薬を用いた検体の測定値と、市販の血清中総ビリルビン測定試薬(イアトロT−Bilキット)を用いた同検体の測定値との比較>
1)本発明の酵素を用いた血清中総ビリルビン測定試薬の調製
本発明の酵素を用いた血清中総ビリルビン測定試薬として以下に示した試薬キットを調製した。
【0122】
1−1)試薬1
100mM リン酸緩衝液 pH 7.2
0.2% コール酸ナトリウム
0.5mM EDTA−2Na
【0123】
1−2)試薬2
100mM リン酸緩衝液pH 7.2
0.02% TX−100
0.5mM EDTA−2Na
4U/ml 実施例13にて調製した本発明の酵素
【0124】
2)血清中総ビリルビンの測定
日立7080形自動分析機を用いてヒト血清70検体を上記試薬とイアトロT−Bilキット(三菱化学イアトロン社製)を用いて測定した。日立7080形自動分析機の上記試薬の分析パラメーターは、2ポイントエンド測定(15−31ポイント)、サンプル量10μl、試薬1は200μl、試薬2は50μl、測定主波長450nm、副波長546nmとした。イアトロT−Bilキットは添付文書に従って使用した。測定値はイアトロT−Bilキット用のキャリブレータを用いて総ビリルビン濃度に換算した。測定結果の相関図を図16に示したように、相関式がY=0.98X+1.38、相関係数がR2=0.930であり、良好な相関が示された。これは本発明の酵素を用いた血清中総ビリルビン測定試薬で、ヒト血清中の総ビリルビンを精度良く測定できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明により、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、又はトリス緩衝液で作用が阻害されず、かつ、キサンチンで作用が阻害されないなど従来知られている尿酸オキシダーゼの阻害剤によって阻害されない尿酸オキシダーゼ、及びその尿酸オキシダーゼの効率よい製造方法が提供される。さらに、該尿酸オキシダーゼを含む組成物、該尿酸オキシダーゼを用いた試料中の尿酸の測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1は、本検体Lysobacter sp. T-15株および近縁種の16S rRNA遺伝子配列に基づいた分子系統樹を示す。比較した遺伝子配列の長さは1466 bpであり、近隣接合法により分子系統樹を作成した。
【図2】図2は、本発明の尿酸オキシダーゼのNaClによる阻害反応のラインウェーバー・バーク逆数プロットを示す。
【図3】図3は、Arthrobacter globiformis由来尿酸オキシダーゼのNaClによる阻害反応のラインウェーバー・バーク逆数プロットを示す。
【図4】図4は、図9及び図10の各勾配をNaCl濃度に対してプロットした阻害反応のラインウェーバー・バーク逆数プロットの2次プロットを示す。
【図5】図5は、本発明の酵素の尿酸を基質にした場合の至適pHを示す。
【図6】図6は、本発明の酵素のビリルビンCとビリルビンFを基質にした場合の至適pHを示す。
【図7】図7は、本発明の酵素のABTSを基質にした場合の至適pHを示す。
【図8】図8は、本発明の尿酸オキシダーゼの反応速度と温度の関係を示す。
【図9】図9は、本発明の尿酸オキシダーゼの熱安定性を示す。
【図10】図10は、SDS-PAGEの結果を示す。レーン1、分子量マーカー。レーン2、Lysobacter sp. T-15を培養し精製した本発明の尿酸オキシダーゼ。レーン3、本発明の尿酸オキシダーゼの遺伝子を含む組換え体プラスミド形質転換体を培養し精製した本発明の尿酸オキシダーゼ。
【図11】図11は、Lysobacter sp. T-15を培養し精製した本発明の尿酸オキシダーゼのSuperdex 200 ppでのクロマトパーターン(X第1軸)と分子量マーカーを用いた検量線(X第2軸)を示す。
【図12】図12は、本発明の尿酸オキシダーゼの吸収スペクトルを示す。
【図13】図13は、本発明の尿酸オキシダーゼを用いた尿酸測定の検量線を示す。
【図14】図14は、本発明の尿酸オキシダーゼを用いた血清中尿酸測定試薬を用いてヒト血清70検体を測定した測定値と、市販の血清中総ビリルビン測定試薬(デタミナーL UAキット)を用いて同検体を測定したの測定値との相関を示す。
【図15】図15は、本発明の酵素を用いたビリルビンCとビリルビンFの検量線を示す。
【図16】図16は、本発明の酵素を用いた血清中総ビリルビン測定試薬を用いてヒト血清70検体を測定した測定値と、市販の血清中総ビリルビン測定試薬(イアトロT−Bilキット)を用いて同検体を測定したの測定値との相関を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記特性を有する尿酸オキシダーゼ。
(1)酵素作用:酸素と水の存在下、尿酸に作用して、5−ヒドロキシイソウレア、過酸化水素、及び二酸化炭素を生成する作用を有する。
(2)阻害作用:ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、及び/又はトリス緩衝液で(1)の作用が阻害されない。かつ、キサンチンで(1)の作用が阻害されない。
(3)至適pH:6.3〜7.8。
(4)至適温度:55℃以上。
(5)作用適温の範囲:すくなくとも30〜60℃の範囲。
(6)安定性:安定化剤の非存在下、30℃、15分間で98%以上の活性を保持する。
【請求項2】
610±20nmに吸収スペクトルが存在することを特徴とする、請求項1に記載の尿酸オキシダーゼ。
【請求項3】
Lysobacter sp. T-15株(受託番号FERM P−21056)由来であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の尿酸オキシダーゼ。
【請求項4】
下記(a)又は(b)の何れかのアミノ酸配列からなる尿酸オキシダーゼ。
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、尿酸オキシダーゼ活性を有するアミノ酸配:
【請求項5】
ラッカーゼ活性を併せ持つ、請求項1から4のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼ。
【請求項6】
ビリルビンオキシダーゼ活性を併せ持つ、請求項1から5のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼを生産することを特徴とする微生物。
【請求項8】
受託番号FERM P−21056を有する、Lysobacter sp. T-15株。
【請求項9】
以下の(a)または(b)の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(a)配列番号1で表される塩基配列;
(b)配列番号1で表される塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列であって、かつ、尿酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列:
【請求項10】
請求項9に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の組換えベクターを有する形質転換体。
【請求項12】
請求項11に記載の形質転換体を培地に培養し、培養物中に請求項1から6のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼを生成蓄積させ、該培養物から該尿酸オキシダーゼを採取することを特徴とする尿酸オキシダーゼの製造方法。
【請求項13】
請求項1から6のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼを含有する組成物。
【請求項14】
請求項1から6のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼ又は請求項13に記載の組成物を少なくとも含む、尿酸測定キット。
【請求項15】
キサンチン、硝酸イオン、及びハロゲン化物イオンからなる群から選ばれる1以上の成分を含む試料において、請求項1から6のいずれか1項に記載の尿酸オキシダーゼ、請求項13に記載の組成物、又は請求項14に記載の尿酸測定キットを用いて尿酸を測定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−109867(P2008−109867A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293750(P2006−293750)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】