説明

新規アルミナ・オン・アルミナ複合担体

【課題】試薬が反応部位に接近する方法の満足な開発への制限を構成し得る粒子内分布の制限を低減することのできる触媒担体を提供する。
【解決手段】本発明の触媒担体は、比表面積が90m/g未満であり、細孔容積が0.3cm/gより大きく、この細孔容積は、相互に関連する第一の細孔率および第二の細孔率を規定する双峰分布(bimodal distribution)を少なくとも有し、第一の細孔率は、第二の細孔率より大きい平均サイズであるので、吸着されることになる試薬または反応種をそれらが第二の細孔率部に、第一の細孔率部において第二の細孔率部がランダムに分配されていた場合より容易に達することを可能にするルートに沿って案内することによって、粒子内拡散制限の危険を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体の分野に関し、より詳細には、比表面積が90m/g未満であり、細孔容積が0.3cm/gより大きく、この細孔容積は、相互に関連する第一の細孔率および第二の細孔率を規定する双峰分布(bimodal distribution)を少なくとも有し、第一の細孔率は、第二の細孔率より大きい平均サイズである、触媒担体の分野に関する。
【0002】
本発明による担体によって、炭化水素フラクションに関する広範な反応を行うための触媒を調製することが可能である。
【背景技術】
【0003】
触媒において、触媒部位上または近辺の生成物の滞留時間を増大させることによって活性および/または選択性が影響されることが知られている。そこに、試薬が反応部位に接近する方法の満足な開発への制限を構成し得る粒子内分布の制限についての公知の課題が存在する。
【0004】
所与の化学反応の固有の運動学が触媒粒子の非常に近接した位置から該粒子の内側に位置する反応部位への試薬の供給速度によって多少とも影響されることが知られている。この拡散制限の現象(これは、固有の動力学と粒子の内側への拡散よる材料の供給との間の競争を表す)は、主として、粒子のサイズおよび粒子の細孔率(porosity)、より正確には、この細孔率の構成に依存する。
【0005】
この問題を克服するため、すなわち、粒子内拡散制限をなくすために、いくつかの解決策が提案され、下記に引用されコメントされた特許に記載されている。
【0006】
まず、担体によって構成されたコア上への触媒相のシェル状担持による解決策が引用され得る。シェル状担持とは、触媒相が、シェルと呼ばれる担体の外部層に配置されていることを意味し、このシェルは、数十〜数百ミクロンの厚さを有し得る。
【0007】
特許文献1〜5は、「多層(multilayer)」固体と呼ばれるこの種の固体の調製を記載する。これらの固体の独自の特徴は、本質的には、要求される細孔率を有する担体をシェルの形態で固体担体と呼ばれる別の耐火性担体上に担持することにある。このシェルの担持は、固体担体を覆う無機酸化物の懸濁液を用いることによって行われる。このシェルの厚さは、40〜400ミクロンの間で変動する。次いで、パラフィンの脱水素化に使用するためにシェル中またはシェル上に金属が含浸される。
【0008】
特許文献6は、パラフィン脱水素化用途のための触媒の使用を記載する。担体は、細孔性アルミナからなる。最終的な触媒に関して、60〜350Åの細孔の百分率は、触媒の全体の細孔容積の75%より大きくあるべきである。60〜350Åの細孔の容積は、0.5cm/gより大きく、好ましくは0.6〜0.8cm/gである。最後に、最も小さい細孔(60Å未満)の容積は、0.05cm/gを超えるべきではない。
【0009】
0.5g/cmより大きい粒子密度が特許請求され、これは、従来技術のものに相当する。細孔率を測定するために用いられる技術は、水銀圧入(mercury intrusion)である。さらに、触媒の比表面積は、100m/gより大きくあるべきである。
【0010】
特許文献7は、炭化水素の脱水素化のための触媒の使用を記載する。用いられる担体は、60〜70℃および7.5〜8.5のpHでの水酸化アンモニウムによる塩化アルミニウムの中和による単一の合成工程で製造される。結果として生じる沈殿が再懸濁され、油滴凝固技術によって成形される。空気−水混合物の下での600〜800℃の焼成の後、担体はシータアルミナ結晶形態を有している。この担体は双峰分布を有し、細孔容積の40%が1000〜10,000Åの細孔によって占められる。この一工程方法は、階層的な(すなわち、少なくとも2つのモードで区別される)細孔率をもたらし得ないことは当業者にとって明らかである。
【0011】
特許文献8は、パラフィンのモノオレフィンへの脱水素化ための複合触媒の調製および使用を記載する。用いられる担体の形態は、直径1.4〜2mmのビーズ状である。この担体はメソ細孔性であり、好ましくは、ガンマアルミナ(60〜80%の結晶度)を用い、その表面積は120〜250m/gであり、細孔容積は1.4〜2.5cm/gである。問題のビーズの直径および比表面積に関しては、この種の担体では粒子内拡散現象が非常に顕著である可能性が高い。
【0012】
特許文献9は、脱水素化触媒の組成物を記載する。担体は、比表面積が50〜120m/gであり、見かけの粒子密度が0.5g/cmより大きいアルミナである。細孔容積および細孔サイズのいずれについても詳細はない。担体の製造についての記載は、この担体が単一の合成工程と、これに続く所望のアルミナ相(ガンマ、シータまたはアルファ)の性質による焼成工程(800〜1020℃)とで製造されることを明らかに示している。引用された特許によると、シータアルミナを有し、75%のレベルで結晶性であること(他はガンマアルミナまたはアルファアルミナであってよい)が好ましい。この特許では、いくつかのアルミナの結晶相が存在し得る場合、これら相間の秩序(order)または階層性の概念は存在しない。
【0013】
特許文献10は脱水素化触媒の組成物を記載する。担体は、表面積が5〜150m/gであるアルミナであり、その全細孔容積の18%が直径300Å未満の細孔に統合され、全細孔容積の55%が直径600Åより大きい細孔に統合される。この担体のための調製方法は、通常、異なるアルミナ結晶相の混合物につながる単一の合成相を含むことが留意されるべきである。
【0014】
特許文献11は、蒸留液水素化変換のための結晶の調製を記載する。担体は、混合されたミクロ細孔アルミナ(50〜75重量%)およびマクロ細孔(50〜25重量%)アルミナである。著者によると、ミクロ細孔によって、このアルミナの容積の95%が80Å未満の直径の細孔に相当していることが示されている。著者によると、マクロ細孔によって、このアルミナの容積の少なくとも70%が60〜600Åの細孔の直径に相当することが示されている。引用される調製方法(特許文献11のものを含む)は、ゲルの1工程または数工程での沈殿および成形および熱処理を用いる。この場合には、ミクロおよびマクロ細孔率は、いかなる階層的な秩序もなく織り合わされる。
【0015】
特許文献12および13は、高活性触媒の調製を記載する。求められた用途は、水素化処理(水素化脱窒、水素化脱硫、水素化脱金属、水素化変換、水素化分解)、水素化/脱水素化、改質、異性化およびクラウス方法(Claus process)の操作である。これらの特許は、触媒を調製する、すなわち、活性相を漬浸する前、間または後にキレート剤を導入する方法の周囲に重点を置いている。このキレート剤の影響は、非晶質アルミナと活性相との間に相互作用を形成することにあるだろう。この相互作用は、8〜25Åのサイズのミクロ結晶性アルミナの表面の存在によって識別され、並びに、ガンマアルミナは、担体として機能し、これは、30Åより大きい結晶サイズを有する。このナノ結晶相の出現によって比表面積が増加し、並びに、40Å未満のサイズの細孔の第一のセットおよび50Åより大きいサイズの細孔の第二のセットの細孔を含む双峰メソ細孔構造が出現した。細孔率測定は、窒素脱着分岐線(nitrogen desorption branch)により行われる。得られた触媒の表面積は少なくとも100m/gである。
【0016】
非特許文献1は、化学蒸着(chemical vapour deposition:CVD)によるナノ細孔性アルミナの膜の調製を記載する。このような技術の使用によって、担体の表面の均一な被覆ができるようになった(ここでは0.2ミクロンの細孔サイズのアルファアルミナ)。しかしながら、用いられた技術のせいで、蒸着は細孔率を形成せず、比表面積が減少する結果となった。
【0017】
特許文献14は、摩砕抵抗性転移アルミナをベースとする触媒担体を扱っている。アルミナ担体は、ガンマおよびカッパアルミナから(最大で10%のデルタアルミナを伴う)またはシータおよびカッパアルミナ(最大で10%のアルファアルミナを伴う)から構成され、100〜1500Åのサイズの細孔の範囲に単峰(monomodal)または双峰分布を有し、33〜63m/gの表面積(水銀細孔測定により決定される)を有する。この特許文献に記載された調製方法は、2つの異なるアルミナ前駆体、すなわち非晶質アルミナ前駆体を混合する工程と、焼成の後にカッパアルミナに導く工程とからなり、ベーマイトまたはプソイドベーマイト等の前駆体は、焼成の後、ガンマ、デルタまたはシータアルミナに導かれる。
【0018】
非特許文献2は、触媒担体として機能するセラミック膜の調製を扱う。彼らは、多峰細孔サイズ分布を有するマクロ細孔性アルファアルミナ担体を用いる。これらの担体は、85nmの細孔直径を有する第一層、650nmの直径を有する第二層および3000nmの直径第三層を含むセラミックチューブを有しているからである。このアルミナ上に担持されるのは、ベーマートゾル、130m/gに著者らにより見積もられる比表面積を発生させるガンマアルミナの前駆体である。彼らは、9%までアルミナを担持するように管理し、これにより、比表面積を1〜13m/gに増加させることが可能になった。担持されたアルミナの細孔サイズは、2.5〜4.5nmである。担持された薄膜の厚さは3〜57μmであり、これは、アルミナが最も大きなマクロ細孔層の細孔率で、またはチューブの表面上に担持されていることを明らかに示している。
【0019】
特許文献15は、純粋なメソ細孔率(3〜5nmの細孔直径)およびミクロ細孔率(2nm未満の細孔直径)の担体によって達成されたセラミック膜の形成を記載する。この細孔率は、粒子内拡散制限の問題を解決することが可能ではない。
【特許文献1】国際公開第01/41990号パンフレット
【特許文献2】国際公開第98/14274号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6280608号明細書
【特許文献4】米国特許第6486370号明細書
【特許文献5】米国特許第6177381号明細書
【特許文献6】国際公開第01/15803号パンフレット
【特許文献7】米国特許第5358920号明細書
【特許文献8】米国特許第5677260号明細書
【特許文献9】米国特許第4914075号明細書
【特許文献10】米国特許第4672146号明細書
【特許文献11】欧州特許第1142637号明細書
【特許文献12】欧州特許第0758919号明細書
【特許文献13】欧州特許第0882503号明細書
【特許文献14】米国特許第5518979号明細書
【特許文献15】欧州特許第0586745号明細書
【非特許文献1】エム・パン(M.Pan)ら著,「ジャーナル・オフ・メンブレイン・サイエンス(Journal of Membrane Science)」,1999年,158号,p235-241
【非特許文献2】セニ(Cini)ら著,「ジャーナル・オフ・メンブレイン・サイエンス(Journal of Membrane Science)」,1991年,199号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、試薬が反応部位に接近する方法の満足な開発への制限を構成し得る粒子内分布の制限を低減することのできる触媒担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以下明確にするために、記載「予備成形された固体」は、第一の細孔率を有する担体の部分に与えられ、予備成形された固体に加えられた表面層は、第二の細孔率を提供する。
【0022】
本発明によると、予備成形された固体および表面層によって構成された最終的な担体は、単純に「担体」と呼ばれる。
【0023】
したがって、本発明は、触媒担体およびこの担体を調製する方法を記載する。
【0024】
本発明の課題である担体は、複合体で、多峰であり、大部分は、シータおよび/またはアルファアルミナの混合物から構成され、その内側において、層状の非晶質アルミナまたは層状の結晶化アルミナが担持され、結晶化アルミナは、ガンマ、デルタ、シータ、カイおよびカッパの形態から選択される結晶形態を有する。
【0025】
この層は、シータおよび/またはアルファアルミナを混合し、続いて、アルミナ塩による含浸工程を行うか、または、溶解剤によって担体のアルミナを部分的または全体的に溶解させ、続いてアルミニウム塩を析出させるかのいずれかから構成される、予備成形された固体から形成される。
【0026】
このように形成された担体は、90m/g未満の比表面積および少なくとも双峰分布(より大きい細孔に相当する第一の細孔率およびより小さい細孔に相当する第二の細孔率を規定する)を有する細孔容積を有し、これら2つの細孔率部分は連通(connect)されている。
【0027】
この双峰分布はさらに構造上の特徴を有する。この特徴は、第一の細孔率における任意の要素(element)が担体の外側または第二の細孔率における少なくとも1つの要素のいずれかに連通されることを述べることによって要約され得る。「または・・・いずれか」との表現は、排他的な意味として解釈されるべきでなく、これは、第一の細孔率における要素が外側および第二の細孔率における別の要素と関連され得ることを意味する。
【0028】
第一の細孔率における他の要素は相互に関連され得る。
【0029】
本書の残りにおいて、この構造上の特徴を適正にするために、「秩序化された細孔率」に関して言及されることになるが、担体が場合によっては第三レベルの細孔率を有する場合には、この第三のレベルは、第二レベルに対するのと同一の構造上の特徴を有することが理解される。
【0030】
秩序化された細孔率を有する構造の利点は、吸着されることになる試薬または反応種をそれらが第二の細孔率部に、第一の細孔率部において第二の細孔率部がランダムに分配されていた場合より容易に達することを可能にするルートに沿って案内することによって、粒子内拡散制限の危険を低減することにある。
【0031】
実際に、この秩序化された構造の結果として、試薬は担体の内側に入り込む、すなわち、外部から来ると、優先的に第一の細孔率部を通り、次いで、第一の細孔率部等から第二の細孔率部に達する。
【0032】
本発明の主題である担体の調製方法は、表面層が担持された予備成形された固体を使用する工程と、続く焼成工程とを特徴とする。
【0033】
表面層の担持は、外部のアルミニウム塩から得られ得る。アルミニウム塩は、プロトン性溶媒に溶解され、酸または塩基の供給源を有する。
【0034】
アルミニウム塩の酸性の供給源は、一定の場合には、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムおよび硝酸アルミニウムからなる群から選択される無機対イオンを有し得る。
【0035】
他の場合には、アルミニウム塩の酸供給源は、カルボン酸基等の有機対イオンを有し得る。
【0036】
最後に、さらに他の場合には、アルミニウム塩の塩基供給源は、アルミン酸ナトリウムおよび/またはアルミン酸カリウムであり得る。
【0037】
本発明による担体の別の調製方法は、予備成形された固体の部分溶解によってアルミニウム源を供給する工程からなり、この溶解は、酸、塩基および/または錯体源の供給によって引き起こされる。
【0038】
この場合、アルミニウム塩を錯体化する試剤は、クエン酸塩、シュウ酸塩、ギ酸塩、アセチルアセトン、フッ素および硫酸塩からなる群、より特定的には、クエン酸塩、シュウ酸塩およびギ酸塩からなる群から選択され得る。
【0039】
触媒目的のための本発明の主題である担体の使用は、本明細書中に記載されない触媒相の担持を必要とするが、これらの使用に関するその後の用途における使用の機能として記載されている。
【0040】
本発明のアルミナをベースとする触媒担体は、
・窒素吸着等温線によって測定される比表面積が90m/g未満であり、
・水銀圧入によって測定される全細孔容積が少なくとも0.3cm/gであり、
・細孔の少なくとも双峰分布が、全細孔容積の少なくとも80%が15nm未満の細孔に相当することを特徴とする第一細孔率と、全細孔容積の少なくとも3%が12nmより小さい細孔に相当することを特徴とする第二細孔率とを区別することが可能であり、
・第一細孔率と第二細孔率との間の秩序化された関係が、第一細孔率における任意の要素が、担体粒子の外側または第二細孔率における少なくとも1つの要素のいずれかに連通されるという事実によって規定され(ただし、この表現は排他的な意味では解釈されない)、
・X線回折によって決定される結晶相がアルファ、シータ、カッパ、デルタまたはガンマアルミナに相当する、
ことを特徴とする。
【0041】
上記本発明の担体において、全細孔容積の少なくとも85%が15nmより大きい細孔に相当し、全細孔容積の少なくとも4%が12nmより小さい細孔に相当することが好ましい。
【0042】
また、本発明は、上記本発明の担体の調製方法であって、表面層が担持された予備成形された固体を使用し、続いてこれを焼成し、該担持は、該予備成形された固体の溶解および外部のアルミニウム塩の導入を同時または順次に行うことによって実施され、調製法が順次に行われる場合には予備成形された固体の溶解はアルミニウム塩の導入の前に行われ、該アルミニウム塩の導入は、湿式含浸または乾式含浸技術によって行われることを特徴とする。
【0043】
上記本発明の方法において、表面層の担持は、外部のアルミニウム塩により行われ、アルミニウム塩はプロトン性溶媒中に溶解され、酸性、塩基性源を有することが好ましい。
【0044】
上記本発明の方法において、アルミニウム塩の酸性源が、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムおよび硝酸アルミニウムからなる群から選択される無機対イオンであることが好ましい。
【0045】
上記本発明の方法において、アルミニウム塩の酸性源が、カルボキシ基等の有機対イオンであることが好ましい。
【0046】
上記本発明の方法において、アルミニウム塩の塩基性源がアルミン酸ナトリウムおよび/またはアルミン酸カリウムであることが好ましい。
【0047】
上記本発明の方法において、アルミニウム源が予備成形された固体の部分溶解によって供給され、この溶解は、酸性、塩基性および/または錯体源の供給によって引き起こされることが好ましい。
【0048】
上記本発明の方法において、アルミニウム塩の錯体化剤が、クエン酸塩、シュウ酸塩およびギ酸塩からなる群から選択されることが好ましい。
【0049】
上記本発明の方法において、最終焼成条件が、好ましくは、200℃で1時間超、1000℃で1時間未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0050】
本発明の触媒担体は、比表面積が90m/g未満であり、細孔容積が0.3cm/gより大きく、この細孔容積は、相互に関連する第一の細孔率および第二の細孔率を規定する双峰分布(bimodal distribution)を少なくとも有し、第一の細孔率は、第二の細孔率より大きい平均サイズであるので、吸着されることになる試薬または反応種をそれらが第二の細孔率部に、第一の細孔率部において第二の細孔率部がランダムに分配されていた場合より容易に達することを可能にするルートに沿って案内することによって、粒子内拡散制限の危険を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明は、多峰(multi-modal)組成物触媒担体を製造するための方法を記載する。すなわち、多峰(multi-modal)組成物触媒担体は、第一の細孔率および第一の細孔率の細孔サイズより小さい細孔サイズを有する第二の細孔率に分配された細孔率を少なくとも有し、これら2つの細孔率は、秩序化された構造にありつつ相互に連通されている。
【0052】
第一の細孔率は、シータおよびアルファアルミナの混合物によってほとんどが構成される固体によって担持され、その内側には、層状の非晶質アルミナまたはガンマ、デルタ、シータ、カイおよびカッパから選択された結晶形態を有する結晶化されたアルミナが担持され、該層は、第二の細孔率を担持する。
【0053】
第二の細孔率を担持するこの層は、一般的に、シータまたはアルファアルミナの混合物から構成された予備成形された固体から形成され、第一の変形では、続いてアルミニウム塩を含浸する工程が行われ、または、第二の変形では、続いて溶解剤を用いて予備成形された固体中にアルミナを全体的または部分的に溶解させる工程およびこれに続く該アルミニウム塩を析出させる工程が行われる。
【0054】
このようにして形成された担体の比表面積は90m/g未満、好ましくは80m/g、非常に好ましくは75m/g未満であり、細孔容積は少なくとも双峰構造(相互に連通する第一の細孔率および第二の細孔率を有する)を有し、さらに、この細孔構造は、規則「第一の細孔率部における任意の要素は、外部または第二の細孔率部における少なくとも1つの要素のいずれかに連通される」によって規定される意味において秩序化されている。
【0055】
予備成形された固体は、それ自体として製造者によって得られるか、または、それ自体が当業者に知られた技術に従って製造され得る。本発明は、この予備成形された固体自体には関しないが、実質的には、第一の細孔率を有するこの予備成形された固体へ、第二の細孔率を有するさらなる要素、場合によっては、第三または第四の細孔率を付加することに関する。
【0056】
本発明の主題である担体の製造は、下記工程を含む。
【0057】
(a.予備成形された固体からなるアルミナの選択)
予備成形された固体を構築するために、一般式Al・nHOの任意のアルミナ化合物が用いられ得る。当初の比表面積は、一般的には150〜600m/gである。特には、ハイドラルジライト(hydrargillite)、ギブサイト(gibbsiite)、バイヤライト(bayerite)、ベーマイト(boehmite)、プソイドベーマイト(pseud-boehmite)等の水和されたアルミナ化合物および非晶質または実質的に非晶質のアルミナゲルを使用することが可能である。
【0058】
転移アルミナ(transition aluminas)によって構成され、かつ、ロー、カイ、エータ、ガンマ、カッパ、シータ、デルタおよびアルファによって形成された群から選択された少なくとも一つの結晶相を含むこれらの化合物の脱水された形態を使用することも可能である。この群の元素は、それらの結晶構造の構成によって実質的に区別される。
【0059】
熱処理の間、これらの異なる形態は、処理の操作条件に応じた複雑な関係にしたがって、それらの間で変化することが可能である。
【0060】
(b.担体の成形)
担体の成形は、当業者に知られた任意の技術にしたがって行われ得る。成形は、例えば、押出し、ペレット化、「油滴」凝固法、ターンテーブル上での顆粒化、または当業者に周知の任意の他の方法によって行われ得る。
【0061】
本発明に従って調製された担体は、一般的に、球状または押出物の形状を有する。
【0062】
さらに、本発明に従って用いられる担体は、当業者に周知のように、成形を促進し、かつ/または、それらの最終的な機械強度性能を向上させる添加剤で処理されてもよい。
【0063】
添加剤の例としては、セルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、タル油(tall oil)、キサンタンガム、界面活性剤、凝集剤(例えばポリアクリルアミド)、カーボンブラック、でんぷん、ステアリン酸、ポリアクリルアルコール、ポリビニルアルコール、バイオポリマー、グルコース、ポリエチレングリコール等が特に挙げられ得る。
【0064】
本発明の担体の特徴である細孔率の調節が、担体粒子を成形するこの工程の間に部分的に行われる。
【0065】
「細孔率の調節」とは、少なくとも双峰分布、第一および第二細孔率の相互連通、および秩序化された特性の特徴を得ることを意味する。
【0066】
(c.予備成形された固体の乾燥または焼成)
予備成形された固体の乾燥は、当業者に知られた任意の技術によって行われる。
【0067】
本発明の担体を得るために、好ましくは酸素分子の存在下に、例えば1200℃以下の温度で空気を吹き込むことによって焼成することが好ましい。
【0068】
少なくとも1回の焼成は、調製工程のいずれかの後に行われ得る。
【0069】
この乾燥または焼成処理は、交差床(crossed bed)、受風床(sewpt bed)または静的雰囲気において行われ得る。例えば、用いられるオーブンは、回転式オーブンまたは放射状に交差する層を有する垂直オーブンであり得る。
【0070】
焼成条件(温度および継続時間)は、担体の使用の最大温度だけではなく、所望の比表面積にも依存する。このため、窒素吸着によって測定される比表面積が80m/g未満であることが望ましく、好ましくは、50m/g未満である。
【0071】
さらに、このようにして焼成された予備成形された固体は、X線回折によって、シータ、カッパまたはアルファの結晶形態の特徴線のみを示す。
【0072】
好ましい焼成条件は、500℃で1時間超、1200℃で1時間未満である。焼成は、水蒸気の存在下に行われ得る。焼成は場合によっては、酸性または塩基性の蒸気の存在下に行われ得る。例えば、焼成は、水酸化アンモニウムの分圧下に行われ得る。
【0073】
(d.担体の表面層の担持)
これは、予備成形された固体の細孔率上にさらなる細孔率を発生させる工程を含む。このさらなる細孔率は、予備成形された固体の第一の細孔率に対して「第二の」と呼ばれる。
【0074】
担体の第一細孔率においてアルミニウム塩の存在を発生させ、次いで、この塩を水酸化物に変換する任意の技術が用いられ得る。
【0075】
塩とは、プロトン性溶媒、好ましくは水に溶解するアルミニウムの任意のイオン形態を意味する。このため、アルミニウムの酸化物または水酸化物のコロイドは本発明の範囲から完全に除外される。
【0076】
第一の調製方法によると、このアルミニウム塩は、外部のアルミニウム塩を担体に含浸することによって供給され得る。
【0077】
外部とは、アルミニウム源が担体自体によって供給されないことを意味する。アルミニウム源は、酸形態または塩基性形態のいずれかであり得る。
【0078】
酸性の供給源の中では、無機対イオンを有するもの、例えば塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウムまたは有機対イオン、例えば、カルボキシル基を有するものが挙げられ得る。
【0079】
塩基性の形態の中では、塩基性アルミニウム塩、例えば、アルミン酸ナトリウムおよびアルミン酸カリウムが挙げられ得る。
【0080】
これらのアルミニウム塩は、プロトン性溶媒(好ましくは水)中に所望のアルミニウム濃度で溶解される。当然、この濃度は、アルミナ担体上に担持されるべきアルミニウムの所望の量が基準となるが、溶媒中のアルミニウム塩の溶解性も基準となる。
【0081】
1種または複数種のアルミニウム−塩−錯化剤(aluminium-salt-complexing agent)がこの溶液に加えられ得る。これらの錯化剤は、当業者に知られている。
【0082】
アルミニウムに関して一定値を有する錯体(complexing constant value)(アセチルアセトン、クエン酸塩、フッ素、硫酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩等)を得るために、例えば、J.Kragtenの「Atlas of Metal-ligand equilibria in Aqueous Solution」,Ellis Horwood Limited Pub.,1978が挙げられ得る。
【0083】
塩基性剤、例えば、アンモニア、ソーダ(soda)、カリ(potash)が加えられるか、または、熱分解による塩基性源、例えば、アルミニウム塩の沈殿を引き起こす尿素が考慮され得る。
【0084】
別の好ましい調製方法によると、アルミニウム源は、予備成形された固体の部分溶解によって供給され得る。この溶解は、アルミニウムの溶解性を増大させるための、当業者に知られた酸、塩基および/または錯体源の供給によって引き起こされ得る。これらの種々の供給源のより詳細については、BasesおよびMesmerの「The Hydrolysis of Cations」,Krieger Publishing Company,1986およびJ.Kragtenの「Atlas of Metal-ligand equilibria in Aqueous Solution」,(op.cit.)Ellis Horwood Limited Pub.,1978が挙げられ得る。
【0085】
また、上述の2つの調製の態様は、溶解されるアルミニウムの量を増大させ、かつ/または細孔率を増大または低減させるために、同時にまたは順次に(この場合、最初に予備成形された固体を溶解させ、次に、アルミニウム塩を導入する)用いられ得る。
【0086】
これらの塩または供給源の含浸は、当業者に知られる技術に従って行われる。好ましくは、湿式含浸(incipient humidity impregnation)または乾式含浸(dry impregnation)技術が用いられる。
【0087】
(e.担体の最終焼成)
工程a)、b)、c)、d)の終了時に形成された担体の最終焼成は、場合により、当業者に知られた任意の技術によって行われ得る。
【0088】
本発明の担体を得るために、担体を焼成することが好ましく、好ましくは酸素分子の存在下に、例えば、1100℃以下の温度で空気を吹き出すことによって行われる。
【0089】
少なくとも1回の焼成は、前述のa)、b)、c)の調製工程のいずれかの後に行われ得る。
【0090】
この処理は、交差床、受風床または静的な雰囲気において行われ得る。例えば、オーブンは、回転式オーブンまたは放射状交差層を有する垂直式オーブンであり得る。
【0091】
焼成条件(温度および継続時間)は、主として、触媒の使用の最大温度に依存する。最終焼成条件は、好ましくは、200℃で1時間超、1000℃で1時間未満である。
【0092】
担体の最終焼成は水蒸気の存在下に行われ得る。最終焼成は、場合により、酸性または塩基性蒸気の存在下に行われ得る。例えば、最終焼成は、水酸化アンモニウムの分圧下に行われ得る。
【0093】
上記方法、すなわち、工程a)、b)、c)、d)、e)に従って調製された担体は、下記特徴を有する。
【0094】
・窒素吸着等温線によって測定される比表面積が、90m/g未満、好ましくは80m/g未満、非常に好ましくは75m/g未満である。
【0095】
・水銀圧入(mercury instrusion)によって得られる細孔容積が、少なくとも0.3cm/g、好ましくは0.28cm/g未満、非常に好ましくは0.25cm/g未満である。
【0096】
・細孔率の少なくとも双峰分布が、全細孔容積の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、非常に好ましくは90%が15nmより大きい細孔に相当することを特徴とする第一細孔率と、全細孔容積の少なくとも3%、好ましくは少なくとも4%、非常に好ましくは5%が12nmより小さい細孔に相当する第二細孔率とを区別すること可能にする。
【0097】
・第一細孔率と第二細孔率との間の秩序化された関係が、第一細孔率部における任意の要素が外側または第二細孔率部における少なくとも一つの要素に連通されるという事実によって規定されるが、この表現は、排他的な意味において解釈されるべきではない。この秩序化された構造は、走査電子顕微鏡(scanning electron microscopy:SEM)を用いて破断部の構造を研究することによって観察され得る。
【0098】
・X線回折によって決定される結晶相がアルファ、シータ、カッパ、デルタまたはガンマアルミナに対応する。
【実施例】
【0099】
BET法によって決定される比表面積が28m/gであるマクロ細孔アルミナが用いられる。
【0100】
X線回折によって決定されるこのマクロ細孔アルミナの結晶相は、シータアルミナおよびアルファアルミナに対応する(それぞれ30%および70%)。
【0101】
30gのこのマクロ細孔アルミナが、68.3gの非水和の硝酸アルミニウム97質量%および33.5mlの蒸留水を含む溶液に漬浸される。
【0102】
上記溶液が滴下される。このようにして得られた固体は、熟成のため周囲温度で1時間放置され、次いで、12℃で12時間オーブン内に配置される。
【0103】
次いで、固体は、空気下に530℃で2時間焼成される。
【0104】
得られた固体の比表面積は50m/gであり、すなわち、表面積の利得は出発原料のアルミナに比較して85%である。
【0105】
水銀圧入によって決定されるこの固体の全細孔容積は0.52cm/gであり、下記細孔分布を有している。
【0106】
・細孔容積の62%が100nmより大きい細孔によって発生される。
【0107】
・全細孔容積の32%が100〜15nmの細孔によって発生される。
【0108】
・全細孔容積の6%が12nmより小さい細孔によって発生される。
【0109】
したがって、15nmより大きい第一細孔率は、全細孔率の94%を示している。破断部についての走査電子顕微鏡によるサンプルの研究は、マクロ細孔アルミナの表面に、細孔サイズが10nm未満であるガンマアルミナ粒子が存在することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・窒素吸着等温線によって測定される比表面積が90m/g未満であり、
・水銀圧入によって測定される全細孔容積が少なくとも0.3cm/gであり、
・細孔の少なくとも双峰分布が、全細孔容積の少なくとも80%が15nm未満の細孔に相当することを特徴とする第一細孔率と、全細孔容積の少なくとも3%が12nmより小さい細孔に相当することを特徴とする第二細孔率とを区別することが可能であり、
・第一細孔率と第二細孔率との間の秩序化された関係が、第一細孔率における任意の要素が、担体粒子の外側または第二細孔率における少なくとも1つの要素のいずれかに連通されるという事実によって規定され(ただし、この表現は排他的な意味では解釈されない)、
・X線回折によって決定される結晶相がアルファ、シータ、カッパ、デルタまたはガンマアルミナに相当する、
ことを特徴とするアルミナをベースとする触媒担体。
【請求項2】
全細孔容積の少なくとも85%が15nmより大きい細孔に相当し、全細孔容積の少なくとも4%が12nmより小さい細孔に相当する、請求項1に記載の担体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の担体の調製方法であって、
表面層が担持された予備成形された固体を使用し、続いてこれを焼成し、該担持は、該予備成形された固体の溶解および外部のアルミニウム塩の導入を同時または順次に行うことによって実施され、調製法が順次に行われる場合には予備成形された固体の溶解はアルミニウム塩の導入の前に行われ、該アルミニウム塩の導入は、湿式含浸または乾式含浸技術によって行われることを特徴とする方法。
【請求項4】
表面層の担持は、外部のアルミニウム塩により行われ、アルミニウム塩はプロトン性溶媒中に溶解され、酸性、塩基性源を有する、請求項3に記載の調製方法。
【請求項5】
アルミニウム塩の酸性源が、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムおよび硝酸アルミニウムからなる群から選択される無機対イオンである、請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
アルミニウム塩の酸性源が、カルボキシ基等の有機対イオンである、請求項4に記載の調製方法。
【請求項7】
アルミニウム塩の塩基性源がアルミン酸ナトリウムおよび/またはアルミン酸カリウムである、請求項4に記載の調製方法。
【請求項8】
アルミニウム源が予備成形された固体の部分溶解によって供給され、この溶解は、酸性、塩基性および/または錯体源の供給によって引き起こされる、請求項3に記載の調製方法。
【請求項9】
アルミニウム塩の錯体化剤が、クエン酸塩、シュウ酸塩およびギ酸塩からなる群から選択される、請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
最終焼成条件が、好ましくは、200℃で1時間超、1000℃で1時間未満である請求項3に記載の調製方法。

【公開番号】特開2006−95524(P2006−95524A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281995(P2005−281995)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(591007826)アンスティテュ フランセ デュ ペトロール (261)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DU PETROL
【Fターム(参考)】