説明

新規ウレタナーゼ遺伝子

【課題】新規ウレタナーゼを精製取得する方法、さらに新規ウレタナーゼを発現している宿主細胞を利用したウレタン化合物の分解方法の提供。本発明によりウレタナーゼの遺伝子が得られ、大腸菌での発現系が確立されたことから、タンパク質工学的改変によって分解性を付与することにより、ポリウレタンの酵素的モノマーリサイクルに応用できる。
【解決手段】新規ウレタナーゼをコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを組み込んだ宿主細胞にウレタン化合物分解能を有する酵素を発現させ、該酵素を精製取得する方法。新規ウレタナーゼを発現している宿主細胞を利用したウレタン化合物の分解方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、新規ウレタン化合物分解活性(ウレタン結合分解活性)を有するポリペプチド、すなわち新規なウレタナーゼをコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを組み込んだ宿主細胞にウレタン化合物分解能を有する酵素を発現させ、該酵素を精製取得する方法である。さらに本発明は、新規ウレタナーゼを発現している宿主細胞を利用したウレタン化合物の分解方法に関する。
【0002】
従来の技術
ポリウレタンはその優れた性質からさまざまな分野で利用されている。しかしその一方で廃棄量も年々増加し、高い燃焼熱による焼却炉の損傷や埋立地の飽和等、深刻な環境問題を起こしている。これらの廃棄物の対策として、低コスト、かつ省エネルギー型プロセスである微生物分解・酵素分解が注目されている。ポリウレタンを酵素によってモノマーに分解できれば、これを回収、再合成することにより一次生産品と全く同等のポリウレタンを作ることができ、リサイクルへの道が開ける。
【0003】
ポリウレタンの生分解性については、これまで微生物や生体内酵素による劣化という面での研究が主体であり、いかに生分解を防止するかが主要なテーマであった。そのため、ポリウレタン分解微生物自身やその分解酵素についての研究は進んでいない。
【0004】
ポリウレタンの分解は、ウレタン結合の分解と、ポリオール部分の分解とに大別される。このうちウレタン結合はすべてのポリウレタンに共通に存在する結合である。しかし、ポリウレタン中のウレタン結合の分解に関する知見はほとんどない。微生物分解に伴って、ウレタン結合が加水分解を受けているという報告はいくつかあるが(非特許文献1および2)、ウレタン結合の切断と微生物またはその酵素との因果関係は明らかでない。
【非特許文献1】B. Jansen et al., Zentralbl Bakteriol., 276, 36(1991)
【非特許文献2】R. T. Darby and A. M. Kaplan, Appl. Microbiol., 16, 900(1968)
【0005】
尚、ポリエステル型のポリウレタン分解菌としては、ペニバチルスアミロリチカスTB−13株(特願平2002-334162)およびコマモナスアシドボランス(Comamonas acidovorans)TB−35株(FEMS Microbiology Letters, Vol. 129,39-42,1995、非特許文献3)が知られているが、これらの分解菌はウレタン中のエステル結合は分解するものの、ウレタン結合はほとんど分解しない。
【非特許文献3】T.Nakajima-Kambe,F.Onuma,N.Kimpara and T.Nakahara,Isolation and characterization of a bacterium which utilizes polyester polyurethane as a sole carbon and nitrogen source.FEMS Microbiology Letters, Vol. 129,39-42,1995
【0006】
一方、低分子のウレタン化合物が微生物によって分解されることはすでに報告されているが、その分解はウレタナーゼによるものではなくエステラーゼによるものであることが知られている。そして、そのほとんどは酒類の品種改良やカルバメート系農薬の分解浄化に関するものであり(特開平01-300892、特開平01-240179、特開平02-128689、特開平03-175985、特開平04-104784、特開平04-325079)、ポリウレタンの分解に利用できる技術ではない。ポリウレタン原料となりうる物質の分解菌としてはカビによるものが報告されているが(特開平09-192633)、大量培養が容易な細菌によるものはなく、その分解酵素は特定されていない。
【0007】
またポリウレタンのような非天然物の高分子を高効率で分解する場合に、天然型の酵素をそのまま使用するよりは、遺伝子工学的な改変や、大腸菌等による大量発現形を利用した方が好ましい。このため、ウレタナーゼ遺伝子の取得も必要とされていた。
【特許文献1】特開平01−300892号公報
【特許文献2】特開平01−240179号公報
【特許文献3】特開平02−128689号公報
【特許文献4】特開平03−175985号公報
【特許文献5】特開平04−104784号公報
【特許文献6】特開平04−325079号公報
【特許文献7】特開平09−192633号公報
【0008】
発明が解決しようとする課題
本発明は、ウレタン化合物中のウレタン結合を分解することのできる新規ウレタナーゼをコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを組み込んだ宿主細胞にウレタナーゼを発現させ、該酵素を精製取得する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、新規ウレタナーゼを発現している宿主細胞を利用したウレタン化合物の分解方法を提供することを目的とする。
【0009】
課題を解決するための手段
この問題を解決するため、本発明者らは、ポリウレタン合成原料として用いられる芳香族・脂肪族イソシアネートと一価アルコールから合成した低分子量ウレタン結合含有化合物を用いて、各種土壌を分離源として微生物のスクリーングを行い、当該化合物を高効率で分解することができるグラム陽性菌ロドコッカス エクイ(Rhodococcus equi )TB-60株を見出し、既に特許出願している(特願平2003-055421)。さらに本発明者らは、ロドコッカス エクイ TB−60株が生産するウレタナーゼを精製しその諸性質について詳細に検討を行い、そのウレタナーゼがポリウレタン合成原料として用いられる芳香族系のみならず脂肪族系化合物に対しても、ウレタン結合切断活性を有することを見出し、既に特許出願している(特願平2004-58475)。
【0010】
本発明は、前記ウレタナーゼをコードするポリヌクレオチド、またはその相補配列からなる、ポリヌクレオチドである。
本発明は、配列番号2のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、または配列番号2のヌクレオチド配列の相補配列を含むポリヌクレオチドである。
【0011】
さらに、本発明は、前記ポリヌクレオチドを組み込んだ宿主細胞にウレタン化合物分解能を有する酵素を発現させ、該酵素を精製取得する方法である。
さらに本発明は、新規ウレタナーゼを発現している宿主細胞を利用したウレタン化合物の分解方法である。
【0012】
尚、本明細書では、「ウレタン化合物分解活性を有するポリペプチド」、および「ウレタナーゼ」を同義で用いており、ウレタン化合物中のウレタン結合を分解することができる酵素のことである。また、本明細書でいう「ウレタン化合物」とは、ウレタン結合を有する化合物をいい、いずれの分子量の化合物も含まれる。
【0013】
発明の実施の形態
ウレタナーゼをコードするポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、またはその相補配列からなるポリヌクレオチドである。ここで、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ロドコッカス エクイ TB−60株(2004年1月24日付けでドイツの特許生物寄託機関であるDSMZに寄託されたロドコッカス エクイ TB−60株(DSMZ 16175))が生産するウレタナーゼである。
【0014】
本発明のポリヌクレオチドの一態様である配列番号2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドは、ロドコッカス エクイ TB-60株のゲノムDNA、およびロドコッカス エクイ TB-60株の有するウレタナーゼのN末端アミノ酸配列等のアミノ酸配列に基づいて調製したブローブを用いて、ハイブリダイゼーションおよびクローニング工程等を経て得られた。当業者は、当業者に周知な方法、すなわち、配列番号2のヌクレオチド配列の開示に基づいて適切なプローブを調製し、ロドコッカス エクイ TB-60株のゲノムDNAから本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。
【0015】
本発明のポリヌクレオチドは、その縮重を含むことができる。縮重とは、異なるヌクレオチドコドンによって1つのアミノ酸がコードされ得る現象をいう。かくして、配列番号1に示すアミノ酸配列を含むウレタナーゼをコードする核酸分子のヌクレオチド配列は縮重により変化することができる。
【0016】
配列番号2に示したヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、配列番号2に示したポリヌクレオチドの相補配列に高度にストリンジェントな条件下で[たとえば0.5M NaHPO4、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mM EDTA中、65℃でフィルター結合DNAにハイブリダイゼーション、そして0.1×SSC/0.1% SDS中、68℃で洗浄(Ausubel,F.M. et al.編,1989,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.I,Green Publishing Associates社,およびJohn Wily & Sons社,ニューヨーク,p.2.10.3)]ハイブリダイズするヌクレオチド配列により、コードされるタンパク質も同じ酵素活性を示すことがありうる。従って、同様のウレタナーゼ活性を有する限り、それらのポリヌクレオチドも、本発明の範囲に含まれる。さらに、配列番号2に示したポリヌクレオチドの相補配列に中程度にストリンジェントな条件下で[たとえば0.2×SSC/0.1% SDS中、42℃で洗浄(Ausubel,et al.,1989,前掲)]ハイブリダイズするポリヌクレオチドにより、コードされるタンパク質も同じ酵素活性を示すことがありうる。従って、同様のウレタナーゼ活性を有する限り、それらのポリヌクレオチドも、本発明の範囲に含まれる。
【0017】
遺伝子組み換え技術によれば、基本となるポリヌクレオチドの特定の部位に、当該ポリヌクレオチドの基本的な特性を変化させることなく、あるいはその特性を改善する様に、人為的に変異を起こすことができる。本発明により提供される天然の塩基配列を有するポリヌクレオチド、あるいは天然のものとは異なる塩基配列を有するポリヌクレオチドに関しても、同様に人為的に挿入、欠失、置換、付加を行うことにより、天然のポリヌクレオチドと同等のあるいは改善された特性を有するものとすることが可能であり、本発明はそのような変異ポリヌクレオチドを含むものである。即ち、配列表の配列番号2に示すポリヌクレオチドの一部が挿入、欠失、置換若しくは付加されたポリヌクレオチドとは、配列番号2に示す配列において、20個以下、好ましくは10個以下、更に好ましくは5個以下の塩基が置換されたポリヌクレオチドである。また、その様なポリヌクレオチドと配列番号2に示す塩基配列とは、70%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の相同性を有する(相同性の計算は、例えばBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)検索を用いることにより行うことができる。)。その様なポリヌクレオチドも、ウレタナーゼ活性を有するという特徴を有するポリペプチドをコードしている限り、本発明の範囲に含まれる。
遺伝子組換え細胞によりウレタナーゼの生産
遺伝子組換え細胞によりウレタナーゼを生産する方法は以下の通りである。まず、ポリヌクレオチド分子を宿主細胞に導入して組換え微生物を形成することができる何れかのベクターに挿入する。ベクターはRNAまたはDNA何れか、原核生物または真核生物何れかであり得るが、典型的にはウイルスまたはプラスミドである。ベクターは染色体外エレメント(例えば、プラスミド)として発現させることができるか、あるいはそれを染色体に組込むことができる。組込まれたポリヌクレオチド分子は、染色体プロモーター制御した、天然もしくはプラスミドプロモーター制御下、または幾つかのプロモーター制御の組合せ下とすることができる。ポリヌクレオチド分子の単一または複数コピーを染色体に組み込むことができる。次に、該ベクターを宿主細胞にトランスフェクトして組換え細胞を形成させる。トランスフェクトするための適当な宿主細胞はトランスフェクトできる何れかの細菌、菌類(例えば酵母)を含む。本発明で使用される好ましい宿主細胞は、限定されるものではないが、例えば大腸菌、枯草菌、酵母等を含めた、ウレタナーゼの発現に適した何れの微生物細胞も含む。更に、該宿主を、該宿主に適した培養条件にて培養することにより、ウレタナーゼを含有した遺伝子組換え細胞を得ることができる。該宿主に適した培養条件は、当業者に周知である。
【0018】
本発明のポリヌクレオチド配列を組み込んだ宿主細胞からのウレタナーゼの分離・精製は、通常細胞からの蛋白質の分離・精製に用いられる方法を用いることにより行うことができる。具体的には、細胞を破壊後、通常用いられる分離精製手段を用いることにより行うことができる。細胞の破壊には、制限的でない例として、超音波処理、高圧ホモジナイザー処理、浸透圧ショック法が挙げられる。分離精製手段は、例えば塩析、ゲルろ過法、イオン交換クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて用いればよい。更に、遺伝子組換えによるウレタナーゼの生産では、組み換え型酵素のC末端にHis−tagを有するように生産させ、培養菌体を遠心集菌し、ペリプラズム画分を浸透圧ショック法にて抽出し、組み換え型酵素はC末端にHis−tagを有しているため、ニッケルをキレートしたカラムによって容易に精製できる。
ウレタナーゼの性質および特徴
本発明のポリヌクレオチド配列を組み込んだ宿主細胞から得られるウレタナーゼの一態様は、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0019】
前記ウレタナーゼは、ウレタン化合物の他に、アミド、エステルに対しても加水分解活性が認められる。本発明のウレタナーゼは、ポリウレタンの合成に用いられている芳香族系および脂肪族系化合物に対しても、ウレタン結合切断活性を有する。
【0020】
本明細書においてポリウレタンとは、分子中にウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物の総称で、多官能イソシアネートとヒドロキル基含有化合物との反応により得られ、エステル、エーテル、アミド、ウレア、カルバメートなどの基を有するポリマーのことであり、ヒドロキシル基もしくはイソシアネート基の官能性数を変化させることで多種多様の分岐あるいは架橋ポリマーを調製することができ、それら全てが含まれる。
【0021】
本発明のウレタナーゼは、pH8〜10の範囲で安定である。
前記ウレタナーゼは、472残基のアミノ酸からなり、推定分子量は50,699Daである。
ウレタン化合物の分解方法
更に本発明は、遺伝子組換え細胞により生産されるウレタナーゼの作用によりウレタン化合物を分解処理する方法を提供する。該方法に用いるウレタナーゼは、精製された酵素、粗精製酵素、または細胞を破砕した液であってもよい。細胞の破砕は、当業者に知られた方法により行うことができる。
【0022】
本発明のウレタナーゼが分解できるウレタン化合物は、分子構造中にウレタン結合を有するものであればよい。制限的でない例としては、トルエン−2,4−カルバミン酸ジブチルエステル、トルエン−2,6−ジカルバミン酸ジブチルエステル、メチレンビスフェニルジカルバミン酸ジブチルエステル、ヘキサメチレン−ジカルバミン酸ジブチルエステル、ノルボルネンジカルバミン酸ジブチルエステルおよびそれらを合成原料とするポリウレタンが挙げられる。
【0023】
本発明の分解方法において適用し得るポリウレタン樹脂の数平均分子量は、特に制限はない。
分解に供されるウレタン化合物は、例えば溶液中にエマルジョンとして、あるいは粉体の形で加えても良いし、フィルム、ペレット等の塊として加えても良い。なお、溶液に対するウレタン化合物の投入量は、0.01〜10重量%が望ましい。添加するウレタナーゼ量は極少量であってもよいが、分解効率を考慮してウレタン化合物に対して0.01重量%以上(湿重量)が好ましい。また、分解に供するウレタン化合物は、1種類であっても複数種類であっても良い。溶液は、緩衝液にウレタン化合物を添加したものであっても良いが、その他に窒素源、無機塩、ビタミンなどを添加しても良い。緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液が挙げられる。
【0024】
ウレタン化合物の分解に要する時間は、分解に供するウレタン化合物の種類、組成、形状及び量、ウレタナーゼのウレタン化合物に対する相対量、pH、温度その他種々の分解条件等に応じて変化しうる。
【0025】
分解反応中のウレタン化合物の分解の確認は、例えば、分解に供したウレタン化合物の重量減少の測定、残存ウレタン化合物量の高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による測定、あるいはウレタン結合加水分解産物であるジアミン化合物の生成の測定により確認することができる。ジアミン化合物の生成の確認は、例えば薄層クロマトグラフィにて生成が予想されるジアミン化合物を標準物質として用いることにより、またはガスクロマトグラフィにより行うことができる。
【0026】
ポリウレタンの完全分解方法
固体ポリウレタンの分解方法の一態様として、ポリエステル型のポリウレタンのエステル結合分解菌として知られるペニバチルスアミロリチカスTB−13株(受託番号FERM P−19104、特願平2002−334162参照)および/またはコマモナスアシドボランスTB−35株、あるいはそれらの菌株由来の酵素と、ウレタン結合分解能を有する本発明のウレタナーゼを用いることにより、ポリウレタンの完全分解を行うことができる。
【0027】
実施例
本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【0028】
実施例1 ロドコッカス エクイTB60株由来のウレタナーゼ遺伝子のクローニング
ロドコッカス エクイTB60株由来のウレタナーゼ遺伝子のクローニング手順を図1に示す。
【0029】
工程A.ロドコッカス エクイTB60株の全DNAの調製
肉汁液体培地で30℃、1晩培養したロドコッカス エクイ TB60株の菌体より、全DNAの抽出を行った。抽出方法は、図2に示したとおりである。
【0030】
工程B.PCRによるウレタナーゼ遺伝子の増幅
B−1.ウレタナーゼのN末端及び内部アミノ酸配列の決定
精製されたウレタナーゼを用いて、N末端及び内部アミノ酸配列の決定を行った。内部配列の決定には、V8プロテアーゼ消化で得られた約2kDaのポリペプチド断片を用いた。決定されたN末端及び内部アミノ酸配列を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
B−2.TB60株全DNAを鋳型としたPCR
B−1で決定されたN末端アミノ酸配列をもとに、ウレタナーゼ遺伝子を増幅させるためのプライマーを設計した(表2)。
【0033】
【表2】

【0034】
N1-2、N3Rをプライマーとして用い、TB60株全DNAを鋳型として図3に示す条件でPCRを行った。
【0035】
PCRの結果得られた約1kbpのDNA断片を、pGEM-TEasy(Promega社製)に挿入し、E. coli DH10Bの形質転換を行った。その結果、1kbpのインサートを有するプラスミドpN-TAが得られた。

工程C.サザンハイブリダイゼーション・クローニング(1)
C−1.DNAプローブの作製・ハイブリダイゼーション
B−2で得られたプラスミドpN-TAを制限酵素で処理し、インサートDNAを得た。このDNA断片を用いて、プローブを作製した(Probe 1)。プローブの作製には、Gene Image Random-Prime Labelling Module(Amersham Bioscience)を用いた。
【0036】
PstIで消化したTB60株の全DNAに対して、作製したプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。検出にはCDP-Star Detection Module(Amersham Bioscience)を用いた。その結果、約4kbpのDNA断片にシグナルが検出された。
C−2.クローニング
TB60株の全DNAをPstIで消化し、約4kbp付近のDNA断片をアガロースゲルより抽出した。抽出したDNAを、PstIで消化したpUC19に挿入し、E. coli DH10Bの形質転換を行った。得られた形質転換体を鋳型として、colony direct PCRを行い目的の領域を有するプラスミドの検出を行った。その際のプライマーとして、N1-2/N3Rを用いた。
【0037】
その結果、4.2 kbpの断片を有するプラスミド、pURE9を得た。塩基配列解析の結果、この断片はウレタナーゼ遺伝子の前半部分をコードしていることが明らかとなった(図4)。そこで、本遺伝子の後半部分をクローニングするため、再度サザンハイブリダイゼーションを行った。
【0038】

工程D.サザンハイブリダイゼーション・クローニング(2)
D−1.DNAプローブの作製・ハイブリダイゼーション
pURE9のPstI-SalI領域(約0.2 kbp)をPCRで増幅し、プローブを作製した(Probe 2)。PCRには表2に示したプライマーSalF/PstRを用いた。PCR条件はB−2に準じた。
【0039】
BamHIで消化したTB60株の全DNAに対して、作製したプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。検出方法はC−1に準じた。その結果、約2.5 kbpのDNA断片にシグナルが検出された。
D−2.クローニング
TB60株の全DNAをBamHIで消化し、約2.5 kbp付近のDNA断片をアガロースゲルより抽出した。抽出したDNAを、BamHIで消化したpUC19に挿入し、E. coli DH10Bの形質転換を行った。得られた形質転換体を鋳型として、colony direct PCRを行い目的の領域を有するプラスミドの検出を行った。その際のプライマーとして、表2に示したSalF/PstRを用いた。
【0040】
その結果、2.5 kbpの断片を有するプラスミド、pURE41を得た。塩基配列解析の結果、pURE41はpURE9のBamHI(3)-PstI(2)領域を有していることが確認された(図4)。

工程E.塩基配列解析
pURE9及びpURE41の塩基配列を解析した結果、SacI(2)-SalI(2)領域にひとつのORFが見いだされた。本ORFの全塩基配列及び推定されるアミノ酸配列を図5に示した。本ORFは1419bpのヌクレオチドからなり、472残基のアミノ酸をコードしていた(推定分子量50,699Da)。N末端から20残基のアミノ酸配列(Met1-Ser20)は精製したウレタナーゼのN末端アミノ酸配列と完全に一致した。また、Ara300-Met311のアミノ酸配列は精製酵素の内部アミノ酸配列と同一であった。以上の結果より、本ORFはA1株のウレタナーゼをコードしていることが示された。以後、本ORFをureAとする。
【0041】
本酵素と相同性を有するタンパク質を、データベース(DDBJ, GenBank)より検索した。その結果、いくつかのバクテリア由来のアミダーゼと相同性を示したが、最高でもロドコッカス属菌(Rhodococcus sp.)由来のエナンチオ選択的アミダーゼ(アクセッション番号No. A19131)に対する34%であり、それ以上の類縁タンパク質は見いだされなかった。

工程F.発現
F−1.発現ベクターの構築
pUR9及びpURE41を鋳型として、ureAをPCRで増幅した。その際、5’末端にNdeIサイトを3’末端にNheIサイトを付加できるようなプライマー(Ure-PET-Nde/Ure-PET-Nhe、表2)を用いた。PCRの条件は以下の図6の通りとした。
【0042】
増幅した1.4 kbの断片をアガロースゲルより抽出し、NdeI/NheIで切断したpET25b(+)ベクター(Novagen)に挿入した。これにより、UreAのC末端にHis-Tagを付与した発現ベクターが構築された。ベクターに挿入されたDNAの塩基配列解析を行い、ureAと同一であることを確認した。これをpURE-petとした。
F−2.E. coliを宿主とした発現
図7に示した方法で、発現を行った。pURE-petを有するE. coli BL21 (DE3)を50 mlのLB培地(100μg/mlのApを含む)に植菌し、30℃で1晩回転振蘯培養を行った。それを500 mlのLB培地(100μg/mlのApを含む)に全量植菌し、20℃で回転振蘯培養を行った。5時間後に0.5 mlの1mM IPTGを添加し、20℃で24時間誘導を行った。誘導後の菌体を超音波破砕し、遠心して得られた上清を粗酵素液(Cell free extract)とした。
【0043】
F−3.発現酵素の精製
F−2で得られた粗酵素液を、40〜60%飽和硫酸アンモニウム沈殿にて分画を行った後、HiTrap Chelating HPカラム(容量1 ml、Amersham Bioscience)を用いたアフィニティークロマトグラフィーに供した。予めNi2+をキレートさせた後、0.5M NaClを含む20mM K-リン酸緩衝液 (pH 7.0)で平衡化を行った。60-200mM/60minのイミダゾールリニアグラジエントで酵素の溶出を行った。ウレタナーゼ活性を有するフラクションを回収後、限外濾過にて脱塩、濃縮を行った。20%となるようにグリセロールを添加し、4℃で保存した。精製酵素のSDS-PAGEを図8に示した。本酵素は、TB60株由来のウレタナーゼと同等の分子量を示した。
【0044】
F−4.ウレタン分解活性の確認
精製した組換型ウレタナーゼを用いて、ウレタン化合物中のウレタン結合分解活性を確認した。基質にはトルエンジカルバミン酸ジブチルエステル(TDCB)及びメチレンビスフェニルジカルバミン酸ジブチルエステル(MDCB)を用いた。小試験管に表3に示した反応液を入れ、30℃で24時間反応を行った。反応後、遠心して残存した基質を除去した後、反応液と等量の酢酸エチルで分解産物を抽出し、GC-MSに供した。GC-MSの条件は図9に示した通りである。
【表3】

【0045】
分解反応の結果、TDCBを基質として用いたときに、3.8分に分解産物のピークが検出された。マススペクトル解析の結果、この化合物はトルエンジアミンであると同定された。MDCBを基質として用いたときには、8.0分に分解産物のピークが検出された。マススペクトル解析の結果、この化合物はジアミノジフェニルメタンであると同定された。以上の結果より、組換型酵素がTDCB及びMDCBのウレタン結合を切断していることが確認された。また、その分解産物は、TB60株由来ウレタナーゼと同一であった。

発明の効果
固体ポリウレタンを分解可能な酵素としては、ポリエステル型のポリウレタン分解酵素が数例報告されている。しかしこれらの酵素はエステラーゼであり、ポリウレタン中のエステル結合は分解するが、ウレタン結合はほとんど分解しないため、低分子のウレタン化合物が最終産物として残る。本発明のウレタナーゼをこれらのポリウレタン分解酵素と共存させることにより、ポリウレタンの完全分解が可能になる。
【0046】
しかも、本発明によりウレタナーゼの遺伝子が得られ、大腸菌での発現系が確立されたことから、タンパク質工学的改変によって分解性を付与することにより、ポリウレタンの酵素的モノマーリサイクルに応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、ロドコッカス エクイTB60株由来のウレタナーゼ遺伝子のクローニング手順を示す。
【図2】図2は、ロドコッカス エクイ TB60株の菌体からの全DNAの抽出方法を示す。
【図3】図3は、PCR条件を示す。
【図4】図4は、塩基配列解析の結果であり、得られたプラスミドpURE9中の4.2 kbpの断片は、目的ウレタナーゼ遺伝子の前半部分をコードしていることを示す。
【図5】図5は、ウレタナーゼ遺伝子ORFの全塩基配列及び推定されるアミノ酸配列を示す。
【図6】図6は、PCRの条件を示す。
【図7】図7は、E. coliを宿主とした発現の手順を示す。
【図8】図8は、精製酵素のSDS-PAGEを示す。得られた酵素は、TB60株由来のウレタナーゼと同等の分子量を示した。
【図9】図9は、ウレタン分解活性の確認試験での分解産物のGC-MS分析条件およびその分析結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、またはその相補配列からなる、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号2のヌクレオチド配列を含む、請求項1のポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号2のヌクレオチド配列の相補配列を含む、請求項1のポリヌクレオチド。
【請求項4】
ストリンジェントな条件下で配列番号2のヌクレオチド配列の相補鎖にハイブリダイズし、ウレタン化合物分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはその相補配列からなる、ポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号2のヌクレオチド配列の一部が欠失、置換、挿入若しくは付加された配列であって、ウレタン化合物分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはその相補配列からなる、ポリヌクレオチド。
【請求項6】
ウレタン化合物が低分子量化合物である、請求項4または5記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
ウレタン化合物がポリウレタンである、請求項4または5記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項1ないし7のポリヌクレオチドのいずれかを含む、組換えベクター。
【請求項9】
請求項8の組換えベクターを含む、形質転換宿主細胞。
【請求項10】
配列番号1のアミノ酸配列を含む実質的に精製または単離されているポリペプチドを調製する方法であって、請求項9の宿主細胞を、ポリペプチドまたはペプチド断片の発現を導くことが可能な条件下で培養すること、および該細胞培養からポリペプチドまたはペプチド断片を、実質的に精製または単離されている形態で回収することを含む、前記方法。
【請求項11】
ウレタン化合物分解活性を有するポリペプチドを発現している請求項9の宿主細胞をウレタン化合物と接触させる工程を含む、ウレタン化合物の分解方法。
【請求項12】
前記細胞が大腸菌である、請求項11記載の分解方法。
【請求項13】
ウレタン化合物が低分子量化合物である、請求項11または12記載の分解方法。
【請求項14】
ウレタン化合物がポリウレタンである、請求項11または12記載の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−55005(P2006−55005A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237067(P2004−237067)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】