説明

新規ガン関連抗体及び抗原並びにガンの診断におけるそれらの使用

本発明は、配列番号2又はそのイソ型あるいは配列番号2を含んで成るポリペプチドのアミノ酸配列を含んで成るポリペプチドに対し特異性を有する抗体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ガン関連抗体及び抗原並びにガンの診断におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、既知の通り、致死の疾患であり、そして種々の国々における複数の研究者による検査及び研究の対象となっている。多くの場合、癌は進行した段階で初めて診断され、そして治療されることが観察されており、この時点で癌細胞は既に身体の至る所に浸潤して転移している。乳癌、肺癌、結腸癌及び卵巣癌を有する60%超の患者は既に隠れているか、あるいは明白な転移性のコロニーを有している。この段階で、治療方法は成功が限定的なものとなっている。前癌状態であっても初期段階で癌を検出することは、現在又は将来の治療方法が真の治癒についてより高い可能性を有しうることを意味する。
【0003】
卵巣癌は、この臨床的なジレンマの最たる例である。卵巣癌の2/3以上の症例が進行期で検出され、この時点でがん細胞は卵巣から周囲に拡散しており、そして腹腔膜を通じて広がっている[Gure, A. O. Altorki, N. K. Stockert E, Scanlan M. J., Old LJ, & Chen Y.T. (1998) Cancer Res 58, 1034-1341]。この段階での疾患は進行しているが、特定の又は特徴的な症候が生じることは稀である。その結果、卵巣癌は通常進行期で処置される。その結果、5年生存率は最良の外科的介入又は化学療法的介入を受ける最終段階の患者で35〜40%である。
【0004】
対照的に、卵巣癌が卵巣に尚も限局している時に(ステージI)検出された場合、常用の治療は高い5年生存率(95%)をもたらす。従って、卵巣癌の初期の検出には特定の症候、特定のバイオマーカー及び正確で且つ信頼性のある診断による非侵襲的方法、が欠けている。
【0005】
癌を処置する伝統的な方法には、非侵襲的又は低侵襲的(mild invasive)な診断試験、生検、組織学的検査、の使用が含まれる。しかしながら、これらの試験はそれぞれ独自の限界を持っており、それ故癌の新規な診断方法及び処置方法が求められている。
【0006】
上述のことを踏まると、容易に入手可能な体液及び組織で測定可能な、有効な臨床上有用なバイオマーカーを提供することが望ましい。臨床プロテオミクスは、血清がタンパク質についての豊富な情報の宝庫であって、血液が定期的に体内を灌流及び浸出する血液に何が遭遇しているかという痕跡を含んでいるため、かかるバイオマーカーの発見に好適である。
【0007】
しかしながら、今日まで、早期な疾患の検出のための癌関連のバイオマーカーについてのサーチは疾患の経過の結果として血液循環中に隠れている血液中の過剰発現タンパク質を探す「ワン・アット・ア・タイム」アプローチであった[Adam, B.L., Vlahou, A., Semmes, OJ. & Wright, G.L. Jr. (2001) Proteomic approaches to biomarker discovery in prostate and bladder cancers. Proteomics 1, 1264-1270; Carter, D. et al. (2002) Purification and characterization of the mammaglobin/lipophilin B complex, a promising diagnostic marker for breast cancer, Biochemistry 41, 6714-6722; Rosty, C. et al (2002) Identification of hepatocarcinoma- intestinepancreas/ pancreatitis-associated protein 1 as a biomarker for pancreatic ductal adenocarcinoma by protein biochip technology. Cancer Res. 62, 2868-1875; Xiao, Z. et al. (2001) Quantitation of serum prostate-specific membrane antigen by a novel protein biochip immunoassay discriminates benign from malignant prostate disease. Cancer Res. 61, 6029-6033; Kim, J. H. et al (2002) Osteopontin as a potential diagnostic biomarker for ovarian cancer. JAMA 287, 1671-1679]。このように、これまでの技術は、組織特異的であって、特定の型の癌の同定を助けるマーカーを提供していた。それらのいずれも汎用的なマーカーとして働くこともなければ、汎用的に応用することもできない。
【0008】
従って、当業界には、汎用的な用途を有するマーカーとして使用することができ、その結果あらゆるタイプの癌を検出するのに有用たり得る診断試薬を提供する必要性が存在している。かかる要求を満たすために、本発明は、配列番号2、そのイソ型又は配列番号2を含んでなるポリペプチドに対する新規抗体、及び癌診断におけるその使用、を提供する。
【0009】
本発明の目的
本発明の主な目的は、癌の検出に有用な新規の診断薬を提供することである。更なる目的として、癌の検出のためのキット及び方法の提供がある。
【0010】
本発明の説明
本発明者は、自身のある研究の間、精子関連抗原9(sperm associated antigen 9 (SPAG9))をコードする新規遺伝子[本明細書では配列番号1と称する]を、ヒト精巣cDNAライブラリーからクローニングすることで発見した。2523bpのcDNA[Shankar, Mohapatra and Suri (1998) Biochem. Biophys. Res. Commun. 243, 561-565; Ace. No: X91879]は、5つのダイレクトリピート、3つのミラーリピート、3つの考えられるステムループ構造及び3つのパリンドロームモチーフを含んでいる。オープンリーディングフレームは、766アミノ酸のタンパク質をコードしている。推定のタンパク質の解析により、1)特徴的なロイシンジッパーモチーフ(LZ);2)広範なコイルドコイルドメイン(コイル)及び3)膜貫通ドメイン(T)、という複数の特徴が明らかとなった。SPAG9のアミノ酸配列(本明細書では配列番号2と称する)によって更にJNK結合ドメインに対するその一次配列の同一性が明らかとなった。その二次構造解析により、配列番号2がα−へリックス構造を有することが明らかとなった。CDスペクトル解析は更に配列番号2の支配的なα−へリックス構造を裏付けた。タンデム質量分析による組換え配列番号2のオリゴマー凝集体のマイクロシークエンシングにより、そのアミノ酸配列、及び83.9kDaという単一の原子量が確認された。この研究はまた、配列番号1及び2が精子と卵子の相互作用における役割を果たしていることを明らかにした。前記配列番号1は、特定の機能を有する精巣特異的遺伝子の新規ファミリーの一員として報告され、考えられる避妊の標的として考えられた。
【0011】
その後、本発明者がMAPK(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ経路)及びこの経路へのタンパク質の関与についての幾つかの無関係の研究に取り組んでいた間、本発明者は驚くべきことに、配列番号2がJNKシグナル伝達経路と相互作用していることを発見した。事実、これはJNK1と比較してJNK3及びJNK2に対しより高い結合親和性を有していた。p38α又はERK経路との相互作用は観察されなかった。前記のMAPKの研究は、配列番号2の分子が細胞成長及び細胞増殖を支える細胞シグナル伝達経路に関与しうることを示唆している。このことにより、本発明者は、精巣もほぼ癌細胞の増殖に似た細胞の連続的な増殖に関与しているため、癌組織における配列番号2の役割を更に研究することに至った。
【0012】
驚くべきことに、本発明者は、配列番号1のヌクレオチドと種々の癌組織のESTとの相同性を見出した。事実、配列番号1の組織分布を、異なる組織を用いて研究した時、本発明者は更に、配列番号1のmRNAが正常な精巣組織で排他的に発現していることを見出した。しかしながら、種々の癌患者由来の生体試料により、癌組織、例えば、肺癌、乳癌、胃癌、子宮癌、食道癌、結腸癌、卵巣癌、精巣癌、頸癌、皮膚癌、前立腺癌、口腔癌、膀胱癌、子宮内膜癌、腎癌、肝癌、脳癌、外陰癌、膣癌、胆嚢癌、眼癌及び骨癌における配列番号2の存在が明らかとなった。
【0013】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者は、前述の癌組織で発現した配列番号2のポリペプチドが免疫系で非自己タンパク質として認識されうること、そして患者の自己抗体反応を開始して、癌患者の血流中を循環する抗配列番号2抗体を生じさせうると考えている。かかる抗体は癌の早期検出のための基礎を提供しうる。
【0014】
抗配列番号2抗体
従って、1つの観点において、本発明は、配列番号2、又はそのイソ型あるいは前記配列番号2を含んで成るポリペプチドについて特異性を有する新規抗体又はその抗原結合フラグメント、を提供する。前記抗体は、配列番号2の前記ポリペプチドに対して特異性を有するIgG抗体又はIgM抗体あるいは前記抗体の一本鎖抗体又はフラグメントでありうる。
【0015】
かかる抗体は、癌に罹患している対象において見られるようであるため、マーカーとして働く。本発明の前記抗体は、「抗配列番号2抗体」と命名され、そして以後そのようなものとして称される。前述の抗配列番号2抗体には、その抗原結合フラグメントが含まれる。用語「抗体」には、本明細書で使用する場合、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体及び一本鎖抗体が含まれる。
【0016】
本発明はまた、ポリクローナル抗配列番号2抗体の産生方法であって:
−配列番号2の精製したポリペプチドを準備し、又は配列番号1の核酸配列のクローニング及び適当な宿主における発現により、組換えによって前記ポリペプチドを合成する工程;
−配列番号2とアジュバントを混合して組成物を得る段階、
−当該組成物を動物に注入して免疫反応を起こす工程、及び
−血清を当該動物から回収して、生成したポリクローナル抗体を単離する工程、
を含んで成る方法、も提供する。
【0017】
上述の方法において、動物由来の血清は、直接使用するか、あるいは種々の方法、例えばプロテインAセファロース、抗原セファロース又は抗マウスIgセファロースを利用するアフィニティークロマトグラフィーによって、使用する前に精製してもよい。
【0018】
抗体検出キット:
別の観点において、本発明は、癌の疑いがあるか、又は癌に罹患している対象の生体試料中の癌の検出に有用なキットを提供する。前記キットは、固体マトリックスとカップリングした本明細書に記載の配列番号2のポリペプチド配列又はそのイソ型あるいは前記配列番号2を含んで成るポリペプチド、及び取扱説明書、を含んで成る。本明細書で言及する固体マトリックスには、ニトロセルロースペーパー、スライドガラス、マイクロタイタープレート及びウェルが含まれうる。
【0019】
更に別の観点において、本発明は、癌に罹患しているか、又は癌に罹患している疑いのある対象の癌を検出するための方法であって:
−癌の疑いのある対象の生体試料を準備する工程;及び
−配列番号2又はそのイソ型あるいは配列番号2を含んで成るポリペプチドに対して生成した抗体の、前記試料中での存在であって、癌の指標となる存在を検出する工程、
を含んで成る方法、を提供する。
【0020】
別の観点において、本発明は、癌に罹患しているか、又は癌に罹患している疑いのある対象の癌を検出するための方法であって:
−癌の疑いのある対象の生体試料を準備する工程;
−前記試料と上述のキットとを接触させ、そして配列番号2又はそのイソ型あるいは前記配列番号2を含んで成るポリペプチドと、抗配列番号2抗体との結合が、前記生体試料中に存在している場合、検出可能なシグナルを通じて、癌の指標となる結合を決定する工程、
を含んで成る方法、を提供する。
【0021】
本明細書で言及する検出可能なシグナルとは、任意な検出シグナル、例えば発色及び蛍光発生でありうる。例えば、二次標識抗体(酵素と複合した抗体)であって、患者の試料中に存在している場合、抗配列番号2抗体と結合し、そして癌の検出のパラメーターとして使用されうる検出可能なシグナルを提供しうる抗体、を導入してもよい。
【0022】
抗原検出キット:
抗原検出キットは、配列番号2を有するポリペプチド又はそのイソ型あるいは配列番号2を含んで成るポリペプチドと特異性を有する抗体を含んで成る。当該キットは癌の検出に有用である。
【0023】
更に別の観点において、本発明は、癌に罹患しているか、又は癌に罹患している疑いのある対象の癌を検出するための方法であって:
−癌の疑いのある対象の生体組織を準備する工程;
−配列番号2のポリペプチド又はそのイソ型あるいは前記配列番号2を含んで成るポリペプチドの、前記組織における存在であって、癌の指標となる存在を検出する段階、
を含んで成る方法を提供する。
【0024】
別の観点において。本発明は、癌に罹患しているか、又は癌に罹患している疑いのある対象の癌を検出するための方法であって:
−癌の疑いのある対象の生体組織を準備する工程;
−前記組織と前述の抗原検出キットとを接触させ、そして配列番号2[又はそのイソ型あるいは配列番号2を含んで成るポリペプチド]を有するポリペプチド配列と抗配列番号2抗体との結合であって、癌の指標となるものを、検出可能なシグナルを通じて、決定する工程、
を含んで成る方法を提供する。
【0025】
本明細書で言及する検出可能なシグナルとは、任意な検出シグナル、例えば発色及び蛍光発生でありうる。例えば、二次標識抗体(酵素と複合した抗体)であって、患者の試料中に存在している場合、抗配列番号2抗体と結合し、そして癌の検出のパラメーターとして使用されうる検出可能なシグナルを提供しうる抗体、を導入してもよい。更に別の例は、前記試料中で利用される抗配列番号2抗体が、それ自体標識抗体(色又は蛍光のために標識されている)でありうること、そして生成した検出可能なシグナルが癌の検出のパラメーターとして使用されうるということである。
【0026】
用語「生体試料」は、本明細書で使用する場合、癌の疑いがあるか、あるいは癌に罹患している対象から得られる体液又は組織を指す。例として、血液、血清、血漿、組織試料、尿及び唾液が含まれる。更に、「癌」とは、本明細書で使用する場合、外胚葉、内胚葉又は中胚葉起源の癌を指す。前記癌は任意の癌でよく、例えば肺癌、乳癌、胃癌、子宮癌、食道癌、結腸癌、卵巣癌、精巣癌、頸癌、皮膚癌、前立腺癌、口腔癌、膀胱癌、子宮内膜癌、腎癌、肝癌、脳癌、血液癌、外陰癌、膣癌、胆嚢癌、眼癌及び骨癌である。上文で言及した「対象」には、あらゆる哺乳類が含まれる。
【0027】
本発明の幾つかの態様を以下の実施例及び図面により説明する。
【0028】
以下の実施例は、単なる例示を目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本発明の発明の概念との調和において可能性のある種々の改変及び変更が本発明の範囲内にあるものとみなされる。
【0029】
実施例1:抗体検出キット−組換え配列番号2タンパク質の調製
出願人は、本発明の発見に基づいて複数の研究を行い、そしてこれまでに配列番号2ポリペプチドを同定した。これは以下のようなラージスケールの発現及び精製にとって適当なベクターにおいてクローニングした。
【0030】
抗原の調製:プラスミドの構築
組換え配列番号2タンパク質(766アミノ酸をコードする完全なオープンリーディングフレーム)をpET28b(+)発現ベクターにおいてクローニングするのに成功した。要約すると、配列番号1の完全なオープンリーディングフレームをコードするcDNAを、適当なプライマーを用いて増幅した。生成物を制限酵素で消化し、そしてマルチクローニングサイトを含む消化したpET28b(+)(Novagen, Madison, USA)内に挿入することでpET28b−配列番号2が得られた。
【0031】
エスケリッチャ・コリ(Escherichia coli)における配列番号2のタンパク質の発現
コンピテント細胞を調製し、そしてpET28b−配列番号2で形質転換した。形質転換細胞を使用してE.コリ細胞培養のためのLB培地に接種した。組換え配列番号2の発現は、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)で誘導し、そしてその後精製した。
【0032】
エスケリッチャ・コリで発現した配列番号2の精製
配列番号2を発現しているE.コリ培養物を採集し、ウレアを含むソニケーションバッファーを用いて洗浄して超音波処理した。超音波処理した上精を、硫酸ニッケルを充填したアガロースビーズカラム上に載せた。当該カラムを洗浄バッファーで洗浄し、そして溶出液を、溶出緩衝液を用いて回収した。精製した配列番号2の組換えタンパク質は、質量分析計でアミノ酸配列について解析した。アミノ酸配列解析により、組換え配列番号2タンパク質が公開されている推定のアミノ酸配列(EMBL Acc. No. 91879, Shankar et al., 1998).として発現したことが明らかとなった。
【0033】
抗体検出キット:
固体マトリックスと結合した配列番号2を含んで成る抗体検出キットを以下の通り調製する:
【0034】
精製した配列番号2のタンパク質を少量、ニトロセルロース膜上に載せ、メタノールで固定し、そして風乾した。ディップスティックをトランスファーバッファー中に浸し、そして再び風乾した。ドットブロット解析は、ポリエステル基材とニトロセルロース膜から作られたディップスティックを用いて実施した。
【0035】
異なる癌患者由来の種々の生体試料中の抗配列番号2抗体を決定するために、配列番号2でコーティングしたストリップを患者の体液、例えば血清中、続いて二次抗体としての抗ヒトHRPO(商業的な供給源から購入した)中に浸した。ディップスティックを取り出し、そしてPBSバッファーで洗浄した。最後に、前記ストリップを0.05%の3,3’−ジアミノベンジデン(DAB)(Sigma)で処理した。
【0036】
ドットブロット解析において、ニトロセルロース膜上の暗褐色反応の出現は、抗配列番号2抗体が試料中に存在していることを示唆している。癌患者から得た試料と比較した場合、正常なヒトの対象から得た試料は全く反応を示さなかった。結果を図1に示す。
【0037】
図1に示した通り、癌患者由来の生体試料は健康な対象と比較した場合強力な反応を示す。レーン1は正常なヒト由来の血清との反応を表しており、ここでは何ら発色が認められない。レーン2は、頚癌の血清との反応を表しており、レーン3は膀胱癌患者の血清の反応を示しており、レーン4は結腸癌患者から得た血清の反応を表しており、レーン5は乳癌の血清の反応を示しており、そしてレーン6は卵巣癌由来の血清の反応性である。レーン2〜6にあるような暗褐色の発色は癌の指標となる。
【0038】
ゲル電気泳動及びウェスタンブロット
抗配列番号2抗体の生体試料中での存在はまた、組換えタンパク質をSDS−PAGE上で流し、そしてニトロセルロースマトリックス上にトランスファーするというウェスタンブロット手順で検出することができる。
【0039】
組換え配列番号2タンパク質をSDSポリアクリルアミドゲル上で流した。要約すると、タンパク質溶液をサンプルバッファーで希釈した。この試料を続いてポリアクリルアミドゲルに載せた。電気泳動後、タンパク質をニトロセルロース膜にトランスファーした。ブロッキングした膜を癌患者の血清でプローブし、そして次に抗ヒトHRPO(商業的な供給源から購入)を二次抗体としてプローブした。最後に、ストリップを0.05%DABで処理した。
【0040】
癌に罹患している患者の試料のウェスタンブロット解析は、癌試料と組換え配列番号2タンパク質との強力な反応を示した。組換え配列番号2の強力なバンドが、癌患者の試料で処理したニトロセルロース膜のストリップ上で観察され、一方、正常なヒトの対象の試料は、反応を全く示さなかった。この結果をコントロールと患者の試料とを比較したウェスタンブロット解析の図2に示す。図2に示す通り、レーン1は分子量マーカーを表し、レーン2は正常人から入手した試料を表し、レーン3は口腔癌の対象から入手した試料であり、レーン4は膀胱癌、レーン5は肺癌、レーン6は前立腺癌、レーン7は子宮癌、レーン8は卵巣癌、レーン9は結腸癌、そしてレーン10は乳癌のものである。ウェスタンブロット解析において見られうるように、レーン3〜10は正常人のレーン2に存在しない170kDaのバンドの存在を示している。
【0041】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
更に、生体試料中の抗SPAGEE9抗体の存在も以下の通りELISA技術によって検出することができる:
【0042】
マイクロタイタープレート(Nunc, Rosaklide, Denmark)を、ELISAアッセイのために組換え配列番号2タンパク質でコーティングした。ブロッキングの後、プレートを癌患者及び/又は健常者のコントロール由来の試料とインキュベートした。結合した抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼと複合させた抗ヒト免疫グロブリン(商業的な供給源より入手した)により明らかになった。酵素の活性化は、基質として0.05%のオルトフェニレンジアミンを用いて実施した。癌患者と健康なコントロールの個体の抗体の反応は、個体の試料の吸光度の平均として表した。
【0043】
図3は、癌患者の生体試料及び健常人の生体試料における抗体のタイターを示すELISAアッセイである。吸光度の値はY軸上に表し、一方、異なる癌のタイプをX軸上に数字で表す。(1)は、正常な対象由来の血清から得られたタイターを表し(2)は、頸癌,から得られたタイターを表し、(3)は膀胱癌に罹患している患者由来のタイター値を表し、(4)は胃腸管癌、(5)は卵巣癌のものである。試験試料のタイター値は、推定のELISAタイターが健常人の生体試料の平均+2SD超である場合に癌を示しているとみなされる。癌患者の生体試料は、図に示した通り、癌の指標となる(+2SDが標準的なカットオフ値)、健常な試料の平均+2SD超のより高いELISAタイター値を示した。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例2:抗原検出キット:
抗配列番号2抗体の調製:組換え配列番号2タンパク質によるラットの免疫化
抗配列番号2抗体を生成するために、成体の雌性ラットを利用した。ラットを最初で且つ2回のブースター注射により異なる間隔で、配列番号2タンパク質で免疫化した。最初の免疫化は、アジュバントと混合した配列番号2で行った。次のブースター注射を隔週で実施し、ラットを出血させ、そして血清を取り出した。
【0046】
ラット血清からの抗配列番号2抗体の精製
前記血清は直接使用することもでき、又はプロテインビーズを利用したアフィニティークロマトグラフィー等の種々の方法によって使用前に精製することもできる。プロテインAビーズを含むカラムにラットの血清を載せ、そしてシェーカー上で一晩維持した。カラムを延伸し、そしてフロースルーを回収した。続いて、カラムを結合バッファーで洗浄し、そして最終的に溶出液を遠心後に回収した。抗体の濃度は、280nmのODを採ることで算出した。
【0047】
このように、組織中の配列番号2タンパク質の検出のための抗配列番号2抗体を含んで成る抗原検出キットを調製した:実施した免疫組織化学解析の詳細は以下の通りである:
【0048】
癌患者由来の組織を、標準的な免疫組織化学の手順を用いて、標準的な固定液によって固定した。生体組織の切片をラット抗配列番号2抗体と一緒にインキュベートし、そして次に西洋ワサビペルオキシダーゼと複合したヤギ抗イムノグロブリン(商業的な供給源より入手)で処理した。洗浄後、切片を0.01%DABで処理し、そしてMayerのヘマトキシリンで対比染色した。
【0049】
図4は、正常で健康なコントロール及び異なる癌患者から得られた組織を比較した免疫組織化学解析を表す。正常な組織は左のレーン内にあり、一方、癌組織は右側に表されている。
【0050】
(A)は正常な対象から得られた頸部組織の免疫組織化学解析であり、(A1)は頸癌に罹患した対象から得られた組織であり;(B)は正常な間葉組織の免疫組織化学であり、そして(B1)は間葉癌に罹患した対象から得られた組織であり;(C)は正常な舌組織であり、そして(C1)は舌の癌組織であり;(D)は正常な皮膚組織であり、そして(D1)は皮膚癌組織である。
【0051】
配列番号2と抗配列番号2抗体との強い反応性が癌組織において観察されたが、正常で健康なコントロール由来の組織は反応性を全く示さなかった。癌組織における茶色の発色は所定の対象における癌を示すものである。
【0052】
試験試料:
複数の癌組織を配列番号2のタンパク質の発現について試験した結果を以下に記載する:
【0053】
【表2】

【0054】
抗配列番号2抗体と癌組織との強い反応性は、種々の癌細胞における配列番号2の発現を証明した。配列番号2は正常な精巣において排他的に発現しているため、精巣以外の組織における配列番号2の存在は、組織における悪性腫瘍の開始/発生を説明するものである。
【0055】
配列番号1 ヌクレオチド配列
【表3】

【0056】
配列番号2 アミノ酸配列
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、コントロールと患者の試料とを比較したドットブロット解析である。
【図2】図2は、コントロールと患者の試料とを比較したウェスタンブロット解析である。
【図3】図3は、癌患者の生態資料及び健常者の生体試料における抗体のタイターを示すELISAアッセイである。
【図4】図4は、正常で健康なコントロール及び異なる癌患者から得られる組織を比較した免疫組織化学解析を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2又はそのイソ型あるいは配列番号2を含んで成るポリペプチドのアミノ酸配列を含んで成るポリペプチドに対し特異性を有する抗体。
【請求項2】
モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体又は組換え抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
配列番号2又はそのイソ型あるいは配列番号2を含んで成るポリペプチドのアミノ酸配列から成るポリペプチドに対し特異性を有する抗体のフラグメント。
【請求項4】
請求項3に記載の抗体フラグメントの一本鎖。
【請求項5】
IgG抗体又はIgM抗体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
癌の疑いがあるか、又は癌に罹患している対象の生体試料中の癌の検出のためのキットであって、固体マトリックスと任意にカップリングした配列番号2又はそのイソ型あるいは前記配列番号2を含んで成るポリペプチドを有するポリペプチド配列、及び取扱説明書、を含んで成るキット。
【請求項7】
固体マトリックスがニトロセルロースペーパー、スライドガラス、マイクロタイタープレート及びウェルを含んで成る、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
癌の疑いがあるか、又は癌に罹患している対象の生体試料中の癌の検出のためのキットであって、請求項1及び3に記載の抗体又はフラグメントを含んで成るキット。
【請求項9】
前記抗体が標識抗体である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
癌に罹患しているか、又は癌に罹患している疑いのある対象の癌を検出するための方法であって:
−癌の疑いのある対象の生体試料を準備する工程;及び
−配列番号2又はそのイソ型あるいは配列番号2を含んで成るポリペプチドに対して生成した抗体の、前記試料中での存在を検出する工程、
を含んで成り、
前記抗体の存在が癌の指標となる、方法。
【請求項11】
癌に罹患しているか、又は癌に罹患している疑いのある対象の癌を検出するための方法であって:
−癌の疑いのある対象の生体試料を準備する工程;及び
当該試料中の配列番号2のポリペプチド又はイソ型あるいは配列番号2を含んで成るポリペプチド配列の存在を検出する工程、
を含んで成る方法。
【請求項12】
癌に罹患しているか、又は癌に罹患している疑いのある対象の癌を検出するための方法であって:
−癌の疑いのある対象の生体試料を準備する工程;
−前記試料と請求項6に記載のキットとを接触する工程、
−配列番号2又はそのイソ型あるいは前記配列番号2を含んで成るポリペプチドと抗体との結合を、癌の指標となる検出可能なシグナルを通じて決定する工程、
を含んで成る方法。
【請求項13】
癌に罹患しているか、又は癌に罹患している疑いのある対象の癌を検出するための方法であって:
−癌の疑いのある対象の生体試料を準備する工程;
−前記組織と請求項8に記載のキットとを接触させる工程及び
−配列番号2又はそのイソ型あるいは配列番号2を含んで成るポリペプチド配列と、前記ポリペプチドに対して生成した抗体との結合を、癌の指標となる検出可能なシグナルを通じて決定する工程、
を含んで成る方法。
【請求項14】
前記癌が外胚葉、内胚葉又は中胚葉起源の癌である、請求項1〜13のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
前記癌が、肺癌、乳癌、胃癌、食道癌、結腸癌、卵巣癌、精巣癌、頸癌、皮膚癌、前立腺癌、口腔癌、膀胱癌、肝癌、子宮内膜癌、腎癌、脳癌、外陰癌、膣癌、胆嚢癌、眼癌及び骨癌のいずれかである、請求項1〜14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
対象が哺乳類である、請求項10、11、12又は13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
実質的に本明細書に記載し、そして例示した癌の検出のための抗配列番号2抗体、抗体及び抗原検出キット並びに癌の検出のための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−515871(P2008−515871A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535264(P2007−535264)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【国際出願番号】PCT/IB2005/002972
【国際公開番号】WO2006/038101
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(596184340)ナショナル インスティテュート オブ イミュノロジー (3)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL INSTITUTE OF IMMUNOLOGY
【Fターム(参考)】