説明

新規タンパク質、それをコードする遺伝子及びそれらの利用法

【課題】 本発明は、比較的低濃度でイネの2大病害であるいもち病菌や紋枯病菌などの植物病原菌の生長を抑止できる新規な抗菌タンパク質を検索、同定し、さらに当該タンパク質の遺伝子をクローニングすることを目的とする。
【解決手段】 本発明によれば、タモギタケの水性抽出液から硫安沈殿法で沈殿する画分から得ることができ、少なくともイネいもち病菌に対する抗菌活性を有し、SDS−PAGE法で分子量が約15kDaの成分の存在を示す、抗菌タンパク質、および当該タンパク質をコードする遺伝子並びにそれらの利用法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、抗菌活性を有する新規なタンパク質とその製造法、それをコードする遺伝子、及び上記タンパク質及び遺伝子の利用法に関するものである。詳細には、本発明は、少なくともイネいもち病菌に対する抗菌活性を有するタモギタケ由来タンパク質、上記タンパク質をコードする遺伝子、並びに上記タンパク質及び上記遺伝子の利用法に関する。
【0002】
本出願は、2001年3月12日に提出された日本特許出願 特願2001−68894号を基礎とする優先権主張出願である。当該日本特許出願の内容は全て本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
背景技術
従来、植物病原菌に対して抗菌活性のある植物のタンパク質として、キチナーゼ、β−1,3−グルカナーゼなどの溶菌酵素が知られている。In vitro実験では、これらの酵素は単独でも効果があるが(Schlumbaum et al.(1986)Nature 324:p.365−367)、一般に2種類以上の酵素を組み合わせることにより、より高い効果が出ることが知られている(Mauch et al.(1988)Plant Physiol. 88:p.936−942)。これら溶菌酵素が糸状菌の生育を抑制する濃度は一般的には、単独の場合数十〜数百μg/ml程度、組み合わせの場合でも各々数μg/ml程度を必要とすることが知られている。しかしながら、これらの溶菌酵素の中で、イネの重要病害であるいもち病菌(Magnaporthe grisea)に対して抗菌的に働くことが証明されたものは未だ報告されていない。
【0004】
一方、ディフェンシンをはじめとする小分子量AFP(Anti−fungal peptide)も抗微生物活性をもつ。このうちイネのいもち病菌に抗菌的に働くものとして、Ca−AMP1(特表平8−505048)、CB−1(Oita et al.(1996)Biosci. Biotech. Biochem. 60:p.481−483)、Rs−AFP1とRs−AFP2(Terras et al.(1992)J. Biol. Chem. 267:p.15301−15309)、及びAce−AMP1(特表平9−501424)が報告されている。これらの低分子のペプチドは数μg/ml程度で上記病原菌を含む各種の植物病原菌の生育を50%阻害する。
【0005】
溶菌酵素あるいは低分子量抗菌ペプチドの遺伝子を単離、植物に導入し、病害抵抗性植物を作出しようという試みもなされている(Broglie et al.(1991)Science 254:p.1194−1197;Terras et al.(1995)The Plant Cell 7:p.573−588)。イネにおける研究では、最近イネ由来キチナーゼを過剰発現した形質転換イネのいもち病抵抗性が増強されたことが報告された(Nishizawa et al.(1999)Theor Appl Genet 99:383−390)。
【0006】
これらの他に遺伝子導入による病原菌抵抗性植物の作出例として、PRタンパク質(Alexander et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:p.7327−7331)、グルコースオキシダーゼ(Wu et al.(1995)Plant Cell 7:p.1357−1368)、スチルベンシンターゼ(Hain et al.(1993) Nature 361:p.153−156)などが報告されている。
【0007】
しかし、現状では、必ずしも実用化レベルの抵抗性を付与された植物体が得られていないことが多い。この理由としては、導入した遺伝子の発現レベルが低いことがあげられるが、より本質的には、これまでに報告されている抗菌タンパク質自体の抗菌力が低いことによるものと考えられる。従って、従来の抗菌タンパク質よりさらに強力な抗菌タンパク質を同定して利用を図ることが望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の開示
本発明の目的の1つは、比較的低濃度でイネの重要病害であるいもち病菌をはじめとする様々な植物病原菌の生長を抑止できる新規な抗菌タンパク質を検索、同定することである。
【0009】
本発明の別の目的は、上記の新規タンパク質をコードする遺伝子をクローニングし、その塩基配列を特定することである。
本発明のさらに別の目的は、本発明の遺伝子を宿主生物(微生物、動物または植物など)に導入して形質転換体を作出し、本発明の遺伝子の利用を図ることである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、本発明の抗菌タンパク質を含む抗菌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の詳細な説明
上記課題を解決することを目的として、本発明者らは、先ず、いもち病菌に対するin vitroでの抗菌活性を検定するためのアッセイ系を確立した。
【0012】
さらに、食用キノコの一つであるタモギタケからタンパク質を抽出し、イオン交換カラム、ゲル濾過カラムを組み合わせ、各画分を上記抗菌アッセイに供試することにより、抗菌タンパク画分を同定、抗菌タンパクを分離・精製した。さらに精製タンパクの部分アミノ酸配列を決定し、これをもとにオリゴDNAを合成し、RT−PCRにより当該タンパクをコードする部分長cDNAを得た。次いで、この部分長cDNAををプローブとしてタモギタケ子実体cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより当該タンパクをコードする完全長のcDNAを同定し、全塩基配列を決定した。こうしてタモギタケ抗菌タンパクの全アミノ酸配列と、それをコードする遺伝子のDNA配列を同定し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の第1の側面によれば、タモギタケの水性抽出液から硫安沈殿法で沈殿する画分から得ることができ、少なくともイネいもち病菌に対する抗菌活性を有し、SDS−PAGE法で分子量が約15kDaである、抗菌タンパク質が提供される。
【0014】
本発明の抗菌タンパク質は典型的には、本明細書中の配列表の配列番号2で表される143個のアミノ酸配列で特徴づけられる。本タンパク質は、SDS−PAGEで分子量がおよそ15kDa(本明細書において後述する配列表の配列番号2の配列のうち第8番目から第143番目のアミノ酸配列からなるポリペプチドに相当)と見積もられるポリペプチドが一つのユニットとなっている。また本タンパク質は、ゲル濾過カラムで分子量が約30kDaであることを特徴とするタンパク質として同定された。
【0015】
本発明の抗菌タンパク質はまた、配列表の配列番号4で表される141個のアミノ酸を有するタンパク質を含む。配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質も、前記配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質と同様にSDS−PAGEで分子量がおよそ15kDaと見積もられるポリペプチドが一つのユニットとなっており、ゲル濾過カラムで分子量が約30kDaである。
【0016】
本発明の抗菌タンパク質は、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列のみでなく、当該配列において1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列若しくはこの配列と52%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、イネいもち病菌に対する抗菌活性を示す抗菌タンパク質も含む。
【0017】
本発明の抗菌タンパク質は、好ましくは、配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と52%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
【0018】
本発明の抗菌タンパク質に関して、各々の具体的アミノ酸配列と「52%以上の相同性を有するタンパク質」という定義は、少なくとも52%の相同性を有していればよいことを意味するが、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質が意図される。
【0019】
本発明の第2の側面によれば、配列表の配列番号2又は4の部分アミノ酸配列からなるポリペプチド、例えば、配列番号2の部分アミノ酸配列8−143又は配列番号4の部分アミノ酸配列8−141からなるポリペプチド;並びに上記アミノ酸配列の何れかの中に1〜複数個のアミノ酸変異を有するポリペプチドおよび上記アミノ酸配列の何れかと52%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドであって、イネいもち病菌に対する抗菌活性を示す当該ポリペプチド;の単独又は何れかのポリペプチドの組み合せから成る抗菌タンパク質が提供される。
【0020】
本発明の第3の側面によれば、タモギタケの水性抽出液から硫安75%飽和を使用する硫安沈殿法で沈殿する画分を回収する工程;および
上記画分をイオン交換クロマトグラフィーにかけNaCl濃度50mMから600mMの濃度で溶出する画分を回収する工程;
を含む、本発明の抗菌タンパク質の製造方法が提供される。
【0021】
本発明の第4の側面によれば、本発明の抗菌タンパク質をコードする遺伝子が提供される。
本発明の遺伝子は、典型的には、配列番号1の塩基71−502の塩基配列又は配列番号3の塩基226−651の塩基配列(以下、本明細書中、単に「配列番号1又は3の塩基配列」という場合もある)、上記塩基配列中に1〜複数個の塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加を有する塩基配列、または上記塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する。
【0022】
本発明の遺伝子は、一般的には、配列番号1の塩基71−502の塩基配列又は配列番号3の塩基226−651の塩基配列と好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を有する。
【0023】
本発明の第5の側面によれば、タモギタケ由来の抗菌タンパク質を得るためのオリゴヌクレオチドであって、
配列表の配列番号1又は3に示す抗菌タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列から以下の条件を満たすように2つの領域を選択し:
1)各領域の長さが15−30塩基であること;
2)各領域中のG+Cの割合が40−60%であること;
上記領域と同じ塩基配列若しくは上記領域に相補的な塩基配列を有する一本鎖DNAを製造し、または、上記一本鎖DNAによってコードされるアミノ酸残基を変化させないように遺伝子暗号の縮重を考慮した一本鎖DNAの混合物を製造し、さらに必要であれば上記抗菌タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に対する結合特異性を失わないように修飾した上記一本鎖DNAを製造する
ことを含む方法により製造された当該オリゴヌクレオチドが提供される。
【0024】
本発明のオリゴヌクレオチドは、好ましくは配列表の配列番号10ないし17の何れか1項に記載のヌクレオチド配列を有する。
本発明の第6の側面によれば、上記オリゴヌクレオチドの2種の組をプライマーとして用いて、タモギタケ子実体cDNAライブラリーを鋳型にして増幅反応を行い本発明の抗菌タンパク質をコードする遺伝子の一部を増幅し、得られた増幅産物をプローブとして使用して上記cDNAライブラリーをスクリーニングして完全長cDNAクローンを単離することを含む、本発明の遺伝子の単離方法が提供される。
【0025】
本発明の第7の側面によれば、本発明の遺伝子を含む組換えベクターが提供される。
本発明の組換えベクターにおいて、好ましくは、ベクターは発現ベクターである。
本発明の第8の側面によれば、宿主生物に本発明の組換えベクターを導入して得られる形質転換体が提供される。
【0026】
本発明の第9の側面によれば、本発明の抗菌タンパク質を有効成分として含む抗菌剤が提供される。
発明の実施の形態
以下、本発明の説明のために、好ましい実施形態に関して詳述する。
【0027】
タモギタケ由来抗菌タンパク質
本発明の第一の側面によれば、植物病原菌に対して抗菌効果のあるタモギタケ由来のタンパク質が提供される。本発明のタンパク質は本明細書に記載した特徴を有する限り、その起源、製法などは限定されない。即ち、本発明の抗菌タンパク質は、天然産のタンパク質、遺伝子工学的手法により組換えDNAから発現させたタンパク質、あるいは化学合成タンパク質の何れでもよい。
【0028】
本発明のタンパク質は典型的には、配列表の配列番号2に記載の143個のアミノ酸配列又は配列番号4に記載の141個のアミノ酸配列を有する。しかし、天然のタンパク質の中にはそれを生産する生物種の品種の違いや、生態型(ecotype)の違いによる遺伝子の変異、あるいはよく似たアイソザイムの存在などに起因して1から複数個のアミノ酸変異を有する変異タンパク質が存在することは周知である。なお、本明細書で使用する用語「アミノ酸変異」とは、1または複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加などを意味する。本発明のタンパク質は、クローニングされた遺伝子の塩基配列からの推測に基づいて、配列番号2または4に記載のアミノ酸配列を有するが、その配列を有するタンパク質のみに限定されるわけではなく、本明細書中に記載した特性を有する限り全ての相同タンパク質を含むことが意図される。相同性は少なくとも52%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。
【0029】
また、一般的に、同様の性質を有するアミノ酸同士の置換(例えば、ある疎水性アミノ酸から別の疎水性アミノ酸への置換、ある親水性アミノ酸から別の親水性アミノ酸への置換、ある酸性アミノ酸から別の酸性アミノ酸への置換、あるいはある塩基性アミノ酸から別の塩基性アミノ酸への置換)を導入した場合、得られる変異タンパク質は元のタンパク質と同様の性質を有することが多い。遺伝子組換え技術を使用して、このような所望の変異を有する組換えタンパク質を作製する手法は当業者に周知であり、このような変異タンパク質も本発明の範囲に含まれる。例えば、Molecular Cloning 2nd edition(Sambrook et al. (1989))に記載の部位特異的突然変異誘発法等が使用可能である。
【0030】
本明細書において、相同性のパーセントは、例えばAltschulら(Nucl.Acids.Res.25.,p.3389−3402,1997)に記載されているBLASTプログラムを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。BLASTプログラムによる相同性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。あるいは、GENETYX(Software Development Co.,Ltd.)やDNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング社)のような遺伝子配列解析ソフトを用いて、配列情報を比較し、決定することが可能である。
【0031】
本発明のタモギタケ由来抗菌タンパク質およびその遺伝子、さらにそのホモローグとそれにコードされるアミノ酸配列をもつタンパク質について、GeneBankデータベースのBLASTによる相同性検索を行った。本発明の第一のタモギタケ由来抗菌タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2の全アミノ酸配列)のデータベース検索の結果、streptmyces violaceusのストレプトアビジン v2(寄託番号:Q53533, Bayer et al. (1995) Biochim Biophys Acta 1263:p.60−66)、ストレプトアビジン v1(寄託番号:Q53532)、streptmyces avidin iiのストレプトアビジン(寄託番号:P22629, Argarana et al. (1986) Nucleic Acids Res 14:p.1871−1882)等が相同性を有するものとしてヒットした。相同性は3つともに128アミノ酸に渡り、それぞれ50%、49%、49%であった。また、コアストレプトアビジンミュータントw79f(ChainB)(Freitag et al.(1997) Protein Sci.6:p.1157−1166)と120アミノ酸に渡り、51.7%の相同性を示した。
【0032】
これらより低い相同性で卵白アビジン(Gope et al. (1987) Nucleic Acids Res 15:p.3595−3606)やいくつかのアビジン関連タンパク質(Keinanen et al. (1994) Eur J Biochem 220:p.615−621)もヒットした。以外のことから、本タンパク質は新規なタンパク質であると考えられる。
【0033】
本発明の第2のタモギタケ由来抗菌タンパク質のアミノ酸配列(配列番号4の全アミノ酸配列)のデータベース検索の結果では、ストレプトアビジン v2、v1、ストレプトアビジンとそれぞれ50%、48%、48%の相同性を示した。
【0034】
本抗菌タンパク質は食用キノコタモギタケから精製された新規なストレプトアビジン様タンパク質であるので「tamavidin」と命名した。本明細書において、精製したタンパク質由来の遺伝子をtam1、それがコードするアミノ酸配列を有するタンパク質をtamavidin1、tam1のホモローグをtam2、それがコードするアミノ酸配列を有するタンパク質をtamavidin2と呼ぶこととする。
【0035】
また、配列番号2及び4のアミノ酸残基1−7は抗菌タンパク質の前駆体のリーダーペプチドの相当すると考えられる。よって、配列番号2のアミノ酸残基8−143及び配列番号4の8−141は、抗菌タンパク質の成熟型である。従って、本発明によれば、配列番号2の部分アミノ酸配列8−143又は配列番号4の部分アミノ酸配列8−141からなるポリペプチド、並びに上記アミノ酸配列の何れかの中に1〜複数個のアミノ酸変異を有するポリペプチドおよび上記アミノ酸配列の何れかと51%より高い相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドであってイネいもち病菌に対する抗菌活性を示す当該ポリペプチド、の単独又は何れかのポリペプチドの組み合せから成る抗菌タンパク質も提供される。
【0036】
本発明のタンパク質の精製および単離は、硫安沈殿法、イオン交換クロマトグラフィー(MonoQ、Q SepharoseまたはDEAEなど)、ゲルろ過(Superose 6、Superose 12等)などのタンパク質の精製および単離のために慣用される方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0037】
例えば、下記の実施例において記載するように、細粉化したタモギタケを緩衝液で抽出した後、ろ過し、その上清に硫安(硫酸アンモニウム)を好適な濃度、例えば75%飽和になるまで添加して静置することにより本発明のタンパク質を含む沈殿が得られる。この沈殿をさらに透析した後、イオン交換クロマトグラフィーにかけ、塩濃度のグラジェント(例えば、塩化ナトリウムで50mMから600mM)で溶出し、所望のタンパク質を含む画分を抗菌活性を指標に回収する。さらにゲルろ過を行い、分子量30kDa付近の画分を回収すればよい。限定されるわけではないが、本発明の抗菌タンパク質はSDS−PAGEで分子量が約15kDaである。
【0038】
あるいは、本発明による配列番号1のDNA配列の71(若しくは92)から502の配列から成るDNA配列、または配列番号3の226(若しくは247)から651の配列から成るDNA配列を、大腸菌や酵母あるいは昆虫やある種の動物細胞に、それぞれの宿主で増幅可能な発現ベクターを用いて公知の導入法を用いて導入、発現させることにより、当該タンパク質を大量に得ることができる。
【0039】
本発明によってこのタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードするDNA配列が開示されれば、この配列またはその一部を利用して、ハイブリダイゼーションや、PCRという遺伝子工学の基本的手法を用いて、他の生物種、好ましくは菌類、より好ましくはキノコ、カビ、酵母などの含まれる真菌類(Eumycota)、多くのキノコが属する担子菌類(Basidiomycotina)、さらに好ましくはタモギタケの属するハラタケ類(Agaricales)のキノコ例えばヒラタケ、シイタケ、ナラタケ、マツタケ、シメジ類、エノキタケ、マイタケ、アンズタケ、エリンギタケなどから同様の生理活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が単離され得ると考えられる。このような場合、それらの新規タンパク質も本発明の範囲に含まれるものである。
【0040】
抗菌タンパク質遺伝子
本発明はまた、本発明の抗菌タンパク質をコードする遺伝子をも提供する。遺伝子の種類は特に限定されず、天然由来のDNA、組換えDNA、化学合成DNAの何れでもよく、またゲノムDNAクローン、cDNAクローンの何れでもよい。
【0041】
本発明の遺伝子は典型的には、配列番号1又は3に記載の塩基配列を有するが、これは本発明の一例を示すにすぎない下記の実施例で得られたクローンの塩基配列である。天然の遺伝子の中にはそれを生産する生物種の品種の違いや、生態型(ecotype)の違いに起因する少数の変異やよく似たアイソザイムの存在に起因する少数の変異が存在することは当業者に周知である。従って、本発明の遺伝子は、配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列を有する遺伝子のみに限定されるわけではなく、本発明の抗菌タンパク質をコードする全ての遺伝子を包含する。
【0042】
特に、本発明によってこのタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードするDNA配列が開示されれば、この配列またはその一部を利用して、ハイブリダイゼーションや核酸増幅反応等の遺伝子工学の基本的手法を用いて、他の生物種から同様の生理活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を容易に単離することができる。このような場合、そのような遺伝子も本発明の範囲に含まれる。
【0043】
タモギタケ由来抗菌タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列(配列番号1の71−502のDNA配列)および第2のタモギタケ由来抗菌タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列(配列番号3の226−651のDNA配列)を用いたGeneBankデータベースのBLAST検索では、非常に短い範囲(23bp)で相同性の見られる配列がいくつか検出されたに過ぎず、ストレプトアビジンのDNA配列等は検出されてこなかった。これは、本発明の新規タンパク質をコードするDNA配列はDNAレベルではストレプトアビジンのDNA配列等と相同性があまり高くないことを意味する。
【0044】
より詳細には、遺伝子配列解析ソフトGENETYX−WIN ver3.2(Software Development Co., Ltd.)を用いて、本発明のタモギタケ抗菌タンパク質(tamavidin1及び2)とストレプトアビジン(ストレプトアビジンはストレプトアビジンv2、v1とそれぞれ9アミノ酸、1アミノ酸異なるだけである)のアミノ酸配列全体の相同性を解析した。その結果、本発明のtam1のコードするtamavidin1のアミノ酸配列で46.7%、tam2のコードするtamavidin2のアミノ酸配列で48.1%の相同性(アミノ酸同一性)を示した。一方、DNA配列(配列表の配列番号1および3)全体ではストレプトアビジンとの相同性はtam1で53.8%、tam2では51.0%であった。またtam1にコードされるタモギタケ抗菌タンパク質と卵白アビジンとの相同性はアミノ酸配列で31.2%、DNA配列で42.4%であり、tam2にコードされるタモギタケ抗菌タンパク質と卵白アビジンとの相同性はアミノ酸配列で36.2%、DNA配列で41.8%であった。なお、tamavidin1とtamavidin2のアミノ酸配列間、並びにそれらをコードする遺伝子tam1とtam2のDNA配列間の相同性はそれぞれ65.5%、64.5%であった。
【0045】
ストレプトアビジンと比較した場合、本発明のtamavidin1、tamavidin2はN末端側が33アミノ酸短くなっているが、ビオチンとの結合に関与していると考えられているトリプトファン(W)残基(Gitlin et al.(1988)Biochem.J 256:p.279−282)、チロシン(Y)残基(Gitlin et al(1990)Biochem J 269:p.527−530)は全て保存されている(配列番号2のアミノ酸配列のうち第34、第45番目のY、第82、第98、第110番目のW、配列番号4のアミノ酸配列のうち、第34、第45番目のY、第80、第96、第108番目のW)。
【0046】
また成熟タンパク質領域と考えられる部分(配列番号2のアミノ酸配列のうち第8番目から第143番目のアミノ酸配列、配列番号4のアミノ酸配列のうち第8番目から第141番目のアミノ酸配列)の平均分子量はそれぞれ、15158.4、14732.2と算出され、成熟ストレプトアビジンや成熟アビジンの平均分子量(それぞれ16490.6、14342.9)と似ている。
【0047】
ストレプトアビジンは放線菌Streptmyces avidin ii由来、アビジンは鳥類(Gallus gallus)の卵白由来である。これまでにストレプトアビジンによく似たタンパク質として、Streptmyces violaceusから前述のストレプトアビジン v1およびv2(Bayer et al. (1995) Biochim Biophys Acta 1263:p.60−66)が、またアビジン遺伝子のホモローグとして鳥類からアビジン関連遺伝子(avr1−avr5, Keinanen et al. (1994) Eur J Biochem 220:p.615−621)が単離されている。ストレプトアビジンとストレプトアビジン v1およびv2とのアミノ酸配列の違いはそれぞれ1アミノ酸、9アミノ酸であり、アビジンとアビジン関連タンパク質とのアミノ酸配列の相同性は68−78%、DNA配列の相同性は88−92%である。ストレプトアビジンとアビジンの相同性はアミノ酸配列で29.2%、DNA配列で46.8%である。
【0048】
一方、本発明の抗菌タンパク質の好ましい一態様であるtamavidin1および2は担子菌タモギタケ(Pleurotus cornucopiae)由来であり、先述のようにストレプトアビジンとのアミノ酸配列相同性はそれぞれ46.7%、48.1%、またアビジンとのアミノ酸配列相同性はそれぞれ31.2%、36.2%である。この様にtamavidin1、2は、放線菌のストレプトアビジンのグループ、鳥類のアビジンのグループとは異なる第3のグループを形成している。放線菌、鳥類以外からこのようなアビジン様タンパク質が単離されたのはこれが初めてである。tamavidin1、2はキノコ類のアビジン様タンパク質であるが、他のキノコ類にも同様なタンパク質が含まれている可能性は高いと予測される。tamavidin1、2のアミノ酸配列、tam1、tam2のDNA配列は、そのようなタンパク質およびその遺伝子をさらに検索、単離することに利用し得る。
【0049】
相同遺伝子のスクリーニングのために使用するハイブリダイゼーション条件は特に限定されないが、一般的にはストリンジェントな条件が好ましく、例えば、Current Protocols in Molecular Biology Vol.1(John Wiley and Sons, Inc.)やMolecular Cloning 2nd edition(Sambrook et al. (1989))に記載されているように、5×SSC、5×Denhardt’s solution、1%SDS、25℃ないし68℃で、数時間から一晩などのハイブリダイゼーション条件を使用することが考えられる。この場合、ハイブリダイゼーションの温度としては、より好ましくは45℃ないし68℃(ホルムアミド無し)または30℃ないし42℃(50%ホルムアミド)を挙げることができる。洗浄の条件としては、例えば0.2×SSCで45℃ないし68℃が挙げられる。ホルムアミド濃度、塩濃度及び温度などのハイブリダイゼーション条件を適宜設定することによりある一定の相同性以上の相同性を有する塩基配列を含むDNAをクローニングできることは当業者に周知であり、このようにしてクローニングされた相同遺伝子は全て本発明の範囲の中に含まれる。
【0050】
核酸増幅反応は、例えば、複製連鎖反応(PCR)(サイキら、1985,Science 230,p.1350−1354)、ライゲース連鎖反応(LCR)(ウーら、1989,Genomics 4,p.560−569;バリンガーら、1990,Gene 89,p.117−122;バラニーら、1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88,p.189−193)および転写に基づく増幅(コーら、1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,p.1173−1177)等の温度循環を必要とする反応、並びに鎖置換反応(SDA)(ウォーカーら、1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,p.392−396;ウォーカーら、1992,Nuc.Acids.Res.20,p.1691−1696)、自己保持配列複製(3SR)(グアテリら、1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,p.1874−1878)およびQβレプリカーゼシステム(リザイルディら、1988,BioTechnology 6,p.1197−1202)等の恒温反応を含む。また、欧州特許第0525882号に記載されている標的核酸と変異配列の競合増幅による核酸配列に基づく増幅(Nucleic Acid Sequence Based Amplification:NASABA)反応等も利用可能である。好ましくはPCR法である。
【0051】
上記のようなハイブリダイゼーション、核酸増幅反応等を使用してクローニングされる相同遺伝子は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列に対して好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有する。
【0052】
オリゴヌクレオチド
本発明によればまた、タモギタケ由来の抗菌タンパク質を得るためのオリゴヌクレオチドであって、
配列表の配列番号1または3に示す抗菌タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列から以下の条件を満たすように2つの領域を選択し:
1)各領域の長さが15−30塩基であること;
2)各領域中のG+Cの割合が40−60%であること;
上記領域と同じ塩基配列若しくは上記領域に相補的な塩基配列を有する一本鎖DNAを製造し、または、上記一本鎖DNAによってコードされるアミノ酸残基を変化させないように遺伝子暗号の縮重を考慮した一本鎖DNAの混合物を製造し、さらに必要であれば上記抗菌タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に対する結合特異性を失わないように修飾した上記一本鎖DNAを製造する
ことを含む方法により製造された当該オリゴヌクレオチドが提供される。本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば本発明の遺伝子を検出もしくは単離するためのハイブリダイゼーション、あるいは適当な2種をプライマー対として用いたPCR等の増幅反応に用いることが可能である。
【0053】
本発明のオリゴヌクレオチドは、好ましくは配列表の配列番号10−19の何れかに記載のヌクレオチド配列を有する。配列番号10−13のヌクレオチド配列は、配列番号9のアミノ酸配列に基づいて、そのタンパク質の一部をコードする遺伝子断片のクローニングのためのPCR用プライマーとして設計されたものであり、当該アミノ酸をコードすることが可能な全ての塩基をミックスしたプライマーである。配列番号14−17のヌクレオチドはtam1とtam2遺伝子の全塩基配列を解読するためにプライマーウォーク用として合成されたプライマーである。配列番号18−19のヌクレオチドは、配列番号4のアミノ酸配列を有する組換えtamavidin2タンパク質を発現するための発現ベクターを構築するために、全ORFを増幅するために配列番号3に基づいて作成されたPCR用プライマーである。
【0054】
本発明の遺伝子の部分断片は、上記オリゴヌクレオチドの適切な組み合せを使用してタモギタケ子実体cDNAライブラリーを鋳型にしてPCR等の核酸増幅反応を行うことにより増幅させて単離することができる。かくして得られた増幅産物をプローブとして使用してさらにcDNAライブラリーをプラークハイブリダイゼーションなどでスクリーニングすることにより完全長のcDNAクローンを単離することができる。核酸増幅反応の手順及び条件、プラークハイブリダイゼーションの条件などは当業者に周知である。
【0055】
例えば、限定されるわけではないが、ハイブリダイゼーションの条件としては、Current Protocols in Molecular Biology Vol.1 (John Wiley and Sons, Inc.)やMolecular Cloning (Sambrook et al. 上記)に記載されているように、温度条件が場合によっては室温程度、洗浄も例えば2´SSCなど通常よりも高い塩濃度で、温度も37℃程度というようにかなりストリンジェンシーを低くとることが想定される。
【0056】
組換え抗菌タンパク質の製造
本発明のタンパク質は極めて強力な抗菌活性をもつ。例えばイネのいもち病菌に対しては50ng/mlという非常に低い濃度で胞子の発芽を完全に抑制する(後述の実施例4を参照)。この濃度においては長時間のインキュベーションの後にも胞子の発芽はみられないことから、本発明のタンパク質のいもち病菌に対する効果は、生長の部分的阻害というよりはむしろ、殺菌効果であると考えられる。このような低い濃度(ナノグラムオーダー)で、病原菌の生育を完全に抑止できる抗菌タンパク質は本発明者の知る範囲では現在までに報告されていない。後述の実施例においては、抗菌タンパク質の精製のための抗菌アッセイのための植物病原菌としてイネの最重要病害であるいもち病菌を使用したが、同定したタモギタケ抗菌タンパク質が、これ以外の紋枯病菌等の植物病害にも大差ないレベルで抗菌効果を有している可能性は極めて高い。
【0057】
このように本発明のタモギタケ由来の抗菌タンパク質は強い抗菌活性を有していることから、本発明のタンパク質は、抗菌剤や農薬などの薬剤としてそれが活性のある形で含まれるような製剤として利用することができる。この場合、本タンパク質は、例えば後述の実施例に従ってタモギタケよりイオン交換カラム、ゲル濾過カラムを用いて精製され得る。しかし、本発明のタモギタケ抗菌タンパク質をコードする配列番号1の71−502又は配列番号3の226−651の塩基配列を有するDNAを、大腸菌や酵母あるいは昆虫やある種の動物細胞に、それぞれの宿主で増幅可能な発現ベクターを用いて導入、発現させることにより、当該タンパクをより簡便かつ大量に製造することができる(実施例5)。
【0058】
本発明によればまた、本発明の遺伝子を含む組換えベクターが提供される。プラスミドなどのベクターに本発明の遺伝子のDNA断片を組み込む方法としては、例えば、Sambrook,J.ら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual(2nd edition),Cold Spring Harbor Laboratory,1.53(1989)に記載の方法などが挙げられる。簡便には、市販のライゲーションキット(例えば、宝酒造製等)を用いることもできる。このようにして得られる組換えベクター(例えば、組換えプラスミド)は、宿主細胞(例えば、E−coil TB1,LE392またはXL−1Blue等)に導入される。
【0059】
プラスミドを宿主細胞に導入する方法としては、Sambrook,J.ら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual(2nd edition),Cold Spring Harbor Laboratory,1.74(1989)に記載のリン酸カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法、エレクトロインジェクション法、PEGなどの化学的な処理による方法、遺伝子銃などを用いる方法などが挙げられる。
【0060】
べクターは、簡便には当業界において入手可能な組換え用べクター(例えば、プラスミドDNAなど)に所望の遺伝子を常法により連結することによって調製することができる。用いられるべクターの具体例としては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えば、pBluescript、pUC18、pUC19、pBR322、pTrc99Aなどが例示されるがこれらに限定されない。
【0061】
所望のタンパク質を生産する目的においては、特に、発現べククーが有用である。発現べクターの種類は、原核細胞および/または真核細胞の各種の宿主細胞中で所望の遺伝子を発現し、所望のタンパク質を生産する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌用発現ベクターとして、pQE−30、pQE−60、pMAL−C2、pMAL−p2、pSE420などが好ましく、酵母用発現べクターとしてpYES2(サッカロマイセス属)、pPIC3.5K、pPIC9K、pAO815(以上ピキア属)、昆虫用発現ベクターとしてpBacPAK8/9、pBK283、pVL1392、pBlueBac4.5などが好ましい。
【0062】
形質転換体は、所望の発現べクターを宿主細胞に導入することにより調製することができる。用いられる宿主細胞としては、本発明の発現べクターに適合し、形質転換され得るものであれば特に制限はなく、本発明の技術分野において通常使用される天然の細胞、または人工的に樹立された組換え細胞など種々の細胞を用いることが可能である。例えば、細菌(エシェリキア属菌、バチルス属菌)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞などが挙げられる。
【0063】
宿主細胞は、大腸菌、酵母、植物細胞または昆虫細胞が好ましく、具体的には、大腸菌(M15、JM109、BL21等)、酵母(INVSc1(サッカロマイセス属)、GS115、KM71(以上ピキア属)など)、昆虫細胞(BmN4、カイコ幼虫など)などが例示される。また、動物細胞としてはマウス由来、アフリカツメガエル由来、ラット由来、ハムスタ−由来、サル由来またはヒト由来の細胞若しくはそれらの細胞から樹立した培養細胞株などが例示される。さらに、植物細胞に関しては、細胞培養が可能であれば特に限定されないが、例えば、タバコ、アラビドプシス、イネ、トウモロコシ、コムギ由来の細胞などが例示される。
【0064】
宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、一般に発現べクターは少なくとも、プロモーター/オペレーター領域、開始コドン、所望の抗菌タンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、ターミネーターおよび複製可能単位から構成される。
【0065】
宿主細胞として酵母、植物細胞、動物細胞または昆虫細胞を用いる場合には、一般に発現べクターは少なくとも、プロモーター、関始コドン、所望の抗菌タンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、ターミネーターを合んでいることが好ましい。またシグナルペブチドをコードするDNA、エンハンサー配列、所望の遺伝子の5'側および3'側の非翻訳領域、選択マーカー領域または複製可能単位などを適宜含んでいてもよい。
【0066】
本発明のべクタ−において、好適な開始コドンとしては、メチオニンコドン(ATG)が例示される。また、終止コドンとしては、常用の終止コドン(例えば、TAG、TGA、TAAなど)が例示される。
【0067】
複製可能単位とは、宿主細胞中でその全DNA配列を複製することができる能力をもつDNAを意味し、天然のプラスミド、人工的に修飾されたプラスミド(天然のプラスミドから調製されたプラスミド)および合成プラスミド等が含まれる。好適なプラスミドとしては、E.coilではブラスミドpQE30、pETまたはpCALもしくはそれらの人工的修飾物(pQE30、pETまたはpCALを適当な制限酵素で処理して得られるDNAフラグメント)が、酵母ではプラスミドpYES2もしくはpPIC9Kが、また昆虫細胞ではプラスミドpBacPAK8/9等があげられる。
【0068】
エンハンサー配列、ターミネーター配列については、例えば、それぞれSV40に由来するもの等、当業者において通常使用されるものを用いることができる。
選択マーカーとしては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えばテトラサイクリン、アンピシリン、またはカナマイシンもしくはネオマイシン、ハイグロマイシンまたはスペクチノマイシン等の抗生物質耐性遺伝子などが例示される。
【0069】
発現べクターは、少なくとも、上述のプロモータ−、開始コドン、所望の抗菌タンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、およびターミネーター領域を連続的かつ環状に適当な複製可能単位に連結することによって調製することができる。またこの際、所望により制限酵素での消化やT4DNAリガーゼを用いるライゲーション等の常法により適当なDNAフラグメント(例えば、リンカー、他の制限酵素部位など)を用いることができる。
【0070】
本発明の発現べクターの宿主細胞への導入[形質転換(形質移入)]は従来公知の方法を用いて行うことができる。
例えば、細菌(E.coil, Bacillus subtilis等)の場合は、例えばCohenらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69,2110(1972)]、プロトプラスト法[Mol.Gen.Genet.,168,111(1979)]やコンピテント法[J.Mol.Biol.,56,209(1971)]によって、Saccharomyces cerevisiaeの場合は、例えばHinnenらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1927(1978)]やリチウム法[J.Bacteriol.,153,163(1983)]によって、植物細胞の場合は、例えばリーフディスク法[Science,227,129(1985)]、エレクトロポレ−ション法[Nature,319,791(1986)]によって、動物細胞の場合は、例えばGrahamの方法[Virology,52,456(1973)]、昆虫細胞の場合は、例えばSummersらの方法[Mol.Cell.Biol.,3,2156−2165(1983)]によってそれぞれ形質転換することができる。
【0071】
本願発明のDNA断片を用いて病害抵抗性植物を作出する目的においては、植物形質転換用ベクターが有用である。植物用ベクターとしては、植物細胞中で当該遺伝子を発現し、当該タンパク質を生産する能力を有するものであれば特に限定されないが、例えば、pBI221、pBI121(以上、Clontech社製)、及びこれらから派生したベクターが挙げられる。また、特に単子葉植物の形質転換には、pIG121Hm、pTOK233(以上、Hieiら,Plant J.,6,271−282(1994))、pSB424(Komariら, Plant J.,10,165−174(1996))などが例示される。
【0072】
形質転換植物は、上述のベクターのβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子の部位に本願発明のDNA断片を入れ替えて植物形質転換用ベクターを構築し、これを植物に導入することで調整することができる。植物形質転換用ベクターは、少なくともプロモーター、翻訳開始コドン、所望の遺伝子(本願発明のDNA配列またはその一部)、翻訳終始コドンおよびターミネーターを含んでいることが好ましい。また、シグナルペプチドをコードするDNA、エンハンサー配列、所望の遺伝子の5’側および3’側の非翻訳領域、選抜マーカー領域などを適宜含んでいてもよい。
【0073】
プロモーター、ターミネーターは植物細胞で機能するものであれば特に限定されないが、構成的発現をするプロモーターとしては、上記ベクターに予め組み込まれている35Sプロモーターの他に、アクチン、ユビキチン遺伝子のプロモーターなどが例示される。しかしながら、より好適には誘導性のプロモーターを組み入れて用いてもよい。こうすることで病害虫が形質転換植物に接触した時にのみ、当該タンパクが生産され、抵抗性となる。用いられるべき誘導性プロモーターとしてはフェニルアラニンアンモニアリアーゼ、キチナーゼ、グルカナーゼ、チオニン、オズモチンあるいは病害虫やストレスに反応するその他の遺伝子のプロモーターが考えられる。
【0074】
植物への遺伝子導入法としては、アグロバクテリウムを用いる方法(Horsch et al.,Science,227,129(1985)、Hiei et al.,Plant J.,6,p.271−282(1994))、エレクトロポレーション法(Fromm et al., Nature,319,791(1986))、PEG法(Paszkowski et al.,EMBO J.,3,2717(1984))、マイクロインジェクション法(Crossway et al.,Mol.Gen.Genet.,202,179(1986))、微小物衝突法(McCabe et al.,Bio/Technology,6,923(1988))などが挙げられるが、所望の植物に遺伝子を導入する方法であれば特に限定されない。また、宿主となる植物種も本発明の植物形質転換用ベクターに適合し、形質転換されうるものであれば特に限定されず、本発明の技術分野において通常使用される植物、例えば双子葉植物ではタバコ、アラビドプシス、トマト、キュウリ、ニンジン、ダイズ、バレイショ、テンサイ、カブ、ハクサイ、ナタネ、ワタ、ペチュニアなどが挙げられ、単子葉植物では、イネ、トウモロコシ、コムギなどが挙げられる。
【0075】
本発明のタンパクは、上記の如く調製された発現ベクターを含む形質転換細胞を栄養培地で培養することによって発現(生産)することができる。栄養培地は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、たとえばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖、メタノールなどが、例示される。無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また、所望により他の栄養素(例えば無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。
【0076】
培養は、当業界において知られている方法により行われる。培養条件、例えば温度、培地のpH及び培養時間は、本発明のタンパクが大量に生産されるように適宜選択される。限定されるわけではないが、例えば大腸菌での発現の場合、組換えタンパク質発現のための培養条件として、好ましくは4℃ないし40℃の温度で培養し、0.01mMないし5.0mMのIPTGによる誘導を行う。
【0077】
本発明のタンパクは、上記培養により得られる培養物より以下のようにして取得することができる。すなわち、本発明のタンパクが宿主細胞内に蓄積する場合には、遠心分離やろ過などの操作により宿主細胞を集め、これを適当な緩衝液(例えば濃度が10M〜100mM程度のトリス緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液などの緩衝液。pHは用いる緩衝液によって異なるが、pH5.0〜9.0の範囲が望ましい)に懸濁した後、用いる宿主細胞に適した方法で細胞を破壊し、遠心分離により宿主細胞の内容物を得る。一方、本発明のタンパクが宿主細胞外に分泌される場合には、遠心分離やろ過などの操作により宿主細胞と培地を分離し、培養ろ液を得る。宿主細胞破壊液、あるいは培養ろ液はそのまま、または硫安沈殿と透析を行なった後に、本発明のタンパク質の精製、単離に供することができる。
【0078】
精製・単離の方法としては、以下の方法が挙げることができる。即ち、当該タンパクに6×ヒスチジンやGST、マルトース結合タンパクといったタグを付けている場合には、一般に用いられるそれぞれのタグに適したアフィニティークロマトグラフィーによる方法を挙げることができる。例えば、限定するわけではないが、本明細書で後述する実施例4では、N−末端に6×ヒスチジンのタグを有する組換え抗菌タンパク質を発現させた。当該組換えタンパク質は、6×ヒスチジンに親和性を有するNi−NTAアガロース(Qiagen社)を使用して精製した。一方、そのようなタグを付けずに本発明のタンパクを生産した場合には、例えば後述する実施例に詳しく述べられている方法、即ちイオン交換クロマトグラフィーによる方法を挙げることができる。また、これに加えてゲルろ過や疎水性クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィーなどを組み合わせる方法も挙げることができる。また、Hofmannらの文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:p.4666−4668(1980))に記載されているように、イミノビオチンアフィニティーカラムを用いて精製する方法も適用することができるだろう。後述の実施例5では、50mLの大腸菌培養液から組換えtamavidin2タンパク質を1mgの収量で得た。
【0079】
上記のように遺伝子工学手法により得られた、あるいは天然源より精製された本発明の抗菌タンパク質は、抗菌活性を有する。抗菌活性は、限定されるわけではないが、例えば、マイクロタイタープレートに培地(例えば、1/2 PD培地、シュークロース−ペプトン培地等)に懸濁したいもち病菌の胞子を入れ、そこへ本発明の抗菌タンパク質を所期の濃度、例えば、10ng/ml−1000ng/ml、好ましくは50ng/mlの濃度で添加し、28℃で48時間培養する。そして、いもち病菌の成長・増殖(例えば、菌糸の伸長)が、抗菌タンパク質を加えない場合と比較して抑制されるか否かを判断することによって、抗菌活性を測定することが可能である(実施例4)。
【0080】
あるいは、下記の方法も使用可能である。シャーレに作成した寒天培地の中心にいもちの菌叢を置き、その周りに上述の濃度の本発明の抗菌タンパク質の水溶液の一定量を滴下し、28℃で48時間−1週間程度培養する。そして、抗菌タンパク質を滴下した部分におけるいもち病菌の菌糸の伸長が、滴下しない部分に比較して抑制されるか否かを判断することによって、抗菌活性を測定することが可能である。
【0081】
抗菌剤
本発明のタンパクは強い抗菌活性をもつ。例えば我々の用いた抗菌アッセイではイネのいもち病菌に対して50ng/mlという低い濃度で菌糸の成長を抑制する。後述の実施例においては、抗菌アッセイ用の植物病原菌としてイネの最重要病害であるいもち病菌と紋枯病菌を使用し、本発明で同定したタモギタケ抗菌タンパクはこれらに対して抗菌作用を示した。本発明のタンパク質がいもち病菌以外の他の植物病原菌に対しても抗菌効果を有している可能性が高い。
【0082】
このように本発明のタモギタケ由来の抗菌タンパク質は強い抗菌活性を有していることから、抗菌剤や農薬などの薬剤としてそれが活性のある形で含まれるような製剤として利用することができる。この場合、本発明のタンパクをコードするDNA配列を用いれば、先述のように例えば大腸菌や酵母などで機能する発現ベクターにそのDNAを組み込んで大量に製造することができる。
【0083】
本発明の抗菌タンパク質は新規なストレプトアビジン様タンパク質であることから、ビタミンの一種であるビオチン(ビタミンH)と結合することが示唆される。一方いもち病菌はその生育にビオチンが必要であることが知られている。これらのことから、本抗菌タンパク質はアッセイ培地に存在する遊離ビオチンと結合し、これが培地中のビオチン欠乏を引き起こし、結果としていもち病菌の生育が抑えられたことが示唆された。実際、後述する実施例4に記載されるように、アッセイ培地中にビオチンを過剰に添加すると本発明のtamavidin1の抗菌活性は消去された。さらに本発明者は市販のストレプトアビジンおよびアビジンにもtamavidin1と同様にイネいもち病菌に対する抗菌作用があることを見出し、この作用はやはりビオチンにより打ち消されることを明らかにした。
【0084】
本発明によってビタミンの一種であるビオチンの量を制御することにより、病害抵抗性特にいもち病菌抵抗性を植物に付与できる可能性が示唆された。この様にビタミンを制御することによって病害抵抗性を付与できる可能性があることはこれまでに知られていなかった。これは全く新しい概念である。この概念も本発明に含まれる。例えば、本発明の抗菌タンパク質を有効成分として含む製剤の農薬としての利用が挙げられる。この場合、本発明の抗菌タンパク質以外のビオチン結合性タンパク質(例えばstreptmyces avidin iiのストレプトアビジンや卵白アビジン、およびそれらのホモローグなど)も同じ概念に含まれる。
【0085】
よって、本発明によれば、本発明の抗菌タンパク質を有効成分として含む抗菌剤が提供される。本発明の抗菌剤は通常、植物の全身または局所的に、散布することができる。
散布量は、植物の種類、生育段階、症状、散布方法、処理時間、散布するタンパク質の種類(全長のタンパク質、該タンパク質の一部を置換、欠失、挿入及び/又は付加したクンパク質など)、生育している場所の気候、生育している場所の土壌などにより異なるが、一日一回から複数回毎日ないし数日おきに散布することができる。散布量は種々の条件により変動する。本発明の抗菌剤の散布に際しては、必要に応じて、溶液剤、懸濁剤、乳濁剤などを混合して散布することも可能である。水性または非水性の溶液剤、懸濁剤としては、一つまたはそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な希釈剤として混合される。水性の希釈剤としては、例えば蒸留水、食塩水などが挙げられる。非水性の希釈剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類などが挙げられる。
【0086】
このような抗菌組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散別または安定化剤(例えばアルギニン、アスパラギン酸など)などの補助剤を含んでいてもよい。
これらは、必要に応じてバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合または照射によって無菌化される。これらはまた、例えば凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物の形態で製造し、使用前に無菌の蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することもできる。
【0087】
このようにして得られる抗菌剤の剤形としては、使用する用途に応じて決めればよく、上記のような添加物と混合し、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、液剤、乳剤等の形態により散布することができる。
【0088】
また本発明の抗菌タンパク質をコードする遺伝子を植物に導入することで病害抵抗性植物を作成することも可能であろう。即ち、例えば植物で機能するプロモーターと本発明の抗菌タンパク質をコードする遺伝子を連結し、さらにその下流に植物で機能するターミネーターを付加したコンストラクトを植物に導入することで病害抵抗性植物の作成が可能である。この場合、tamavidinの植物細胞外への分泌を促すために、本発明の抗菌タンパク質をコードする遺伝子の5’側に植物で機能する細胞外分泌シグナルペプチドをコードするDNA配列を付加することも可能である。あるいはまた植物細胞あるいは細胞外での抗菌タンパク質の蓄積を促すために遺伝子の使用コドン(codon usage)をそのアミノ酸は変化させないように単子葉あるいは双子葉植物用に変化させることも可能である。このような組み合わせを用いた病害抵抗性植物の作出方法も本発明に含まれるものである。
【0089】
tamavidin、アビジン、ストレプトアビジン、あるいはそれらとよく似たタンパク質の病害抵抗性植物の作出への適用、およびイネ以外の植物への適用も本発明に含まれるものである。本発明において解析した病原菌はイネいもち病菌であるが、この病原菌以外にもビオチンをその生育に必要とするその他の、植物病原菌、病原細菌に効果を発揮する可能性は十分にあると考えられる。
【0090】
さらに植物病原菌のみならず、ビオチンがその生育に必須である動物特にヒトや家畜の病原菌にも同様の効果を発揮することは当然考えられるので、本発明の抗菌タンパク質、アビジンまたはストレプトアビジン、およびそれらとよく似たタンパク質をそのような場面に治療薬として使用する場合、これは本発明の範疇に属するものである。
【0091】
ストレプトアビジンに関しては既にそのDNA配列が開示されているが(Garwin et al.WO/8602077)、先述のごとく本発明のtam1およびtam2のDNA配列は、通常のデータベース検索を行ってもストレプトアビジンのDNAを抽出することはなく、核酸・アミノ酸配列解析ソフトを使用してストレプトアビジンとのDNAの相同性を強制的に比較しても実際に51.0〜53.8%と高い値は示さなかった。
【0092】
ストレプトアビジンやアビジンは、ビオチン、およびその誘導体と非常に強い結合能を有することから、分子生物学、生化学などの様々な場面において実験試薬として既に広く利用されている。例えば核酸やタンパク検出系への利用(Liang.WO/9707244)や、ストレプトアビジンやアビジンを融合タンパク質として発現しビオチンとの結合能を用いて精製する方法(Skerra et al. EP835934、Kopetzki. WO/9711186)などが挙げられる。本発明のtamavidin1、tamavidin2もこれらの現在広く知られている、または報告されている使用方法に用いることが出来る。
【0093】
植物に関連するストレプトアビジンあるいはアビジンについてはこれまでにアビジンを利用した雄性不稔植物の作出(Howard and Albertsen.WO/9640949)、ストレプトアビジンあるいはアビジンの殺虫タンパクとしての応用(Czapla et al.WO/9400992)、植物におけるアビジンの生産(Baszczynski et al. US Pat. No.5767379)などが報告されている。なおこれらの文献に記載されているストレプトアビジンあるいはアビジンの利用法が本発明のタモギタケ由来の抗菌タンパク質にも適用されうる。
【0094】
先行技術文献
1. Schlumbaum et al.(1986)Nature 324:p.365−367
2. Mauch et al.(1988)Plant Physiol. 88:p.936−942
3. 特表平8−505048
4. Oita et al.(1996)Biosci. Biotech. Biochem. 60:p.481−483
5. Terras et al.(1992)J. Biol. Chem. 267:p.15301−15309
6. 特表平9−501424
7. Broglie et al.(1991)Science 254:p.1194−1197
8. Terras et al.(1995)The Plant Cell 7:p.573−588
9. Nishizawa et al.(1999)Theor Appl Genet 99:383−390
10. Alexander et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:p.7327−7331
11. Wu et al.(1995)Plant Cell 7:p.1357−1368
12. Hain et al.(1993) Nature 361:p.153−156
13. Bayer et al. (1995) Biochim Biophys Acta 1263:p.60−66
14. Argarana et al. (1986) Nucleic Acids Res 14:p.1871−1882
15. Freitag et al.(1997) Protein Sci.6:p.1157−1166
16. Gope et al. (1987) Nucleic Acids Res 15:p.3595−3606
17. Keinanen et al. (1994) Eur J Biochem 220:p.615−621
18. Gitlin et al.(1988)Biochem.J 256:p.279−282
19. Gitlin et al(1990)Biochem J 269:p.527−530
20. Hofmann et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:p.4666−4668(1980)
21. Garwin et al.WO/8602077
22. Liang.WO/9707244
23. Skerra et al. EP835934
24. Kopetzki. WO/9711186
25. Howard and Albertsen.WO/9640949
26. Czapla et al.WO/9400992
27. Baszczynski et al. US Pat. No.5767379
【発明の効果】
【0095】
効果
本発明の配列番号2または4のアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはその一部の配列からなりかつビオチンまたはその誘導体と結合する能力を有するポリペプチドを含むことを特徴とするタンパク質成分を有効成分として含む製剤を作出すれば、抗菌剤としての利用が期待できる。
【0096】
また、本発明の配列番号1の71−502または92−502の配列を有するDNA、あるいは配列番号3の226−651または247−651の配列を有するDNAを、植物細胞の中で機能しうる適当な構成的プロモーター、器官・時期特異的プロモーター、あるいはストレスや病害虫に反応する誘導性のプロモーター配列と、植物細胞で機能しうるターミネター配列の発現カセットに組み込み、植物細胞に導入、再生個体を得ることにより、病害抵抗性植物を作出できる。この場合本発明抗菌タンパク質をコードするDNA配列に細胞内小器官への輸送シグナルあるいは細胞外分泌へのシグナル配列をコードするDNA配列を接続することも可能である。
【0097】
本発明のタンパク質をコードするDNAを、大腸菌、酵母、植物あるいは昆虫や例えばアフリカツメガエルなどの動物細胞で外来タンパク質を発現させることの出来るベクターに組み込み、当該細胞内で、本発明タンパク質を生産、大量精製することが可能となる。この場合本発明抗菌タンパク質をコードするDNA配列に細胞内小器官への輸送シグナルあるいは細胞外分泌へのシグナル配列をコードするDNA配列を接続することも可能である。
【0098】
本発明タンパク質とビオチンとの強い相互作用は、現在ストレプトアビジンやアビジンにおいて広く利用されているような様々な分析技術に応用することが可能となる。
【実施例】
【0099】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
実施例
実施例1 アッセイ系の構築
1)検定系の確立
病原菌の培養:イネいもち病菌(菌株TUS−1、レース337;農林水産省東北農業試験場より分譲)はオートミル培地(Difco社製,1%ショ糖添加)上で培養して分生胞子を得て、接種源とした。胞子液は必要に応じて10%グリセロールを加えて、−80℃で保存した。
【0100】
イネ紋枯病菌(菌株JT872)は1/2ジャガイモ煎汁培地(PD培地:Difco社製)で2日間培養し、5mm程度の菌糸塊3個をテフロンホモジナイザーで1/2PD培地とともに軽く磨砕して得られた断片化菌糸を接種源とした。
【0101】
上記の接種源を96穴マイクロタイタープレート(コーニング社製)に1ウエル当たりいもち病菌分生胞子は約1,000個、紋枯病菌は断片化菌糸が約300個になる様に100μlの1/2PD培地とともに加え、28℃の恒温器で48時間培養した。菌の増殖はマイクロプレートリーダー(Bio−Rad社製Benchmark)で595nmの吸光度を測定した。
【0102】
2)タモギタケからのタンパク質抽出
市販のタモギタケ(Pleurotus cornucopiae)子実体100gをあらかじめハサミで細かく切断後、液体窒素を用いて凍結して乳鉢で細粉となるまで磨砕し、300mlの100mM HEPES−KOH緩衝液pH7.5を加えて緩やかに撹拌しながら4℃で30分間抽出を行った。抽出液はミラクロスでろ過後、10,000´g、20分間の遠心を行った。上清に硫安を75%飽和になるように加えて、一晩4℃で静置した。次に15,000´g、20分間の遠心で沈殿させて、沈殿物を3mlの10mM HEPES−KOH緩衝液、pH7.5に溶解し、透析チューブ(Spectra/Por1 MWCO 6−8000,Spectrum Medical Industries社製)を用いて20mM HEPES−KOH緩衝液、pH7.5に対して透析を行った。不溶物を遠心によって除去しタモギタケタンパク質試料とした。タモギタケタンパク質試料のタンパク質濃度は牛血清アルブミン(BSA)を標準タンパク質としてBradford法で測定した。
【0103】
実施例2 抗菌タンパクの精製
1)タモギタケ粗タンパク試料の抗菌活性
上記のいもち病菌、紋枯病菌の培養系に培養開始直後にタモギタケタンパク質試料を一定量加えて、培養2日後(46−48時間後)の吸光度を測定して抗菌性の有無について判定した。その結果、タモギタケの抽出物の中にはいもち病菌、紋枯病菌両菌に対して高い抗菌活性をもつ物質が含まれていることが明らかとなった。阻害の様式は、いもち病菌の場合、発芽の完全抑制や菌糸の生長阻害が観察され、紋枯病菌の場合は菌糸の生長阻害が観察された。いもち病菌の細胞の場合、その細胞質が細胞壁から離れ原形質分離様の様相を呈していた。
【0104】
検出された抗菌活性の性質をさらに詳しく解析するために、熱処理を行い残存活性を調査した。熱処理は60、80℃を10分間行い抗菌アッセイを行った。活性の強さはタンパク質試料を希釈することにより推定した。その結果60℃処理ではいもち、紋枯病菌両方に対する抗菌活性は無処理と同等の活性が保持されていた。一方80℃処理では紋枯病菌に対する抗菌活性は消失した。ところがいもち病菌に対する抗菌活性は、80℃処理によって原形質分離を起こさせる活性は消失したものの、菌糸の先端を膨張させて生長を停止させる新規な活性が存在することが明らかとなった(図1)。
【0105】
さらにタモギタケ粗タンパク試料熱処理画分に含まれるこれらの活性をつかさどる本体のおよその分子量を把握するため、限外濾過膜によりサンプルを分画し、抗菌活性を調査した。限外濾過膜はウルトラフリーMC10,000 NMWL フィルターユニット(カットオフ分子量10000、ミリポア社製)を用い、膜を通過した画分と膜を通過しなかった画分に分けてアッセイを行った。その結果全ての活性は膜不通過画分のみに存在していた。従って活性本体の分子量は少なくとも10000以上であることが予想された。
【0106】
2)イオン交換カラムによる精製
次に抗菌タンパクの精製を行った。粗タンパク試料150mg/20mlをまず、イオン交換単体Q Sepharose FF(Pharmacia社製)を充填した自製カラム(内径1.5cmX長さ10cm、単体容量10ml)にかけ、抗菌タンパクを部分精製した。流速は2ml/分とし、基本緩衝液は50mM Tris pH8.0, 50mM NaCl、溶出緩衝液は50mM Tris pH8.0,600mM NaClを、グラジェント(NaClで50mMから600mM)は、100分間かけた。各画分(12.5ml)の一部をいもち病菌に対する抗菌アッセイと、SDS−PAGE電気泳動に供試した。各画分のタンパク質溶液に等量の2´SDS泳動用緩衝液(Sambrook et al.(1989) Molecular Cloning 2nd edition、Cold Spring Harbor)を加え、95℃で5分間処理した後、Laemmli(Laemmli(1970)Nature 227:p.680−685.)の方法に従い、SDS−PAGE電気泳動を行った。ゲルは15%のPAGEL(ATTO社製)を用い、銀染色IIキットワコー(和光純薬社製)によりタンパク質を検出した。タンパクのおよその分子量と量を見積もるため、分子量マーカー(LMW マーカーキット:Pharmacia LKB社製、分子量の大きい順に94kDa、67kDa、43kDa、30kDa、20.1kDa、14.4kDa)を泳動した。タンパク質の銀染色による電気泳動像と抗菌性の強さとの関係を図2に示した。
【0107】
抗菌活性としてNaCl濃度が160mMのピークと、240mM〜280mMのピークの二つが現れた。160mMのピークに含まれるタンパク質は、菌糸の先端を膨張させて生長を停止させ、70℃、10分の処理でもその活性は失活しなかった。一方240mM〜280mMのピークに含まれるタンパク質はいもち菌細胞に原形質分離を生じさせ、同熱処理により失活した。そこで前者の160mMのピークに含まれる抗菌タンパク質の精製を試みた。
【0108】
NaCl濃度が120mM〜240mMに相当する画分を透析チューブ(Spectra/Por1 MWCO 6−8000,Spectrum Medical Industries社製)に移し、50mM Tris−HCl pH8.0、50mM NaClに対して4℃で一晩透析を行った。Centriprep−10(分画分子量10,000、Amicon社製)を用いて濃縮した後、70°Cで30分間熱処理を行った。遠心後上清を0.22mmでフィルター濾過した。このタンパクサンプル(約10ml)をMonoQ HR 5/5(Pharmacia社製)による抗菌タンパクの分離精製に供試した。流速は1ml/minとし、基本緩衝液は50mM Tris−HCl,pH8.0,50mM NaCl、溶出緩衝液は50mM Tris−HCl,pH8.0,500mM NaClを用い、グラジェント(NaClで50mMから500mM)は、試料を打った20分後から40分間かけた。各画分(1ml)の一部をいもち病菌に対する抗菌アッセイと、SDS−PAGE電気泳動に供試した。
【0109】
まず、HPLCのチャートと抗菌性の強さとの関係を図3に示した。その結果、イオン強度(NaCl濃度)が200mM〜260mM付近に抗菌タンパクの溶出ピークが現れた。
【0110】
電気泳動像と抗菌性の強さの関係を図4に示した。各レーンの上に表示した数字は図3の画分の番号に準じて表示した。抗菌性と関連すると考えられるタンパクのバンドを精査すると、約15kDの2つのバンドが有力候補として挙げられた(図4矢印)。このバンドの濃度と抗菌活性の度合いは正の相関関係にあるので、このバンドが抗菌タンパク質本体である可能性が示唆された。
【0111】
3)ゲルろ過カラムによる精製と分子量の推定
タモギタケ抗菌タンパクの精製、そしてnativeな状態での分子量を推定するため、上記のMonoQ画分の#41−46をウルトラフリーMC 10,000 NMWL フィルターユニット(ミリポア社製)で濃縮し、ゲル濾過カラムSuperose6 HR 10/30(Pharmacia社製)に供試した。流速は0.5ml/分とし、緩衝液は50mM MES−NaOH pH6.0、50mM NaClを用いた。まずGel filtration standard(BIO−RAD社製)によりタンパクの分子量とおよその溶出時間を把握した後、抗菌活性のあるMonoQ画分を打ち込んだ。
【0112】
その結果、A280でタンパクをモニターすると30kDaを頂点とする鋭いピークが現れた(図5)。抗菌活性は30kDaのピークと近接したその前後に集中した。このことから、タモギタケの有する抗菌性は、ゲル濾過でおよそ30kDの分子量を有する単一のタンパク質に由来することが分かった。また、各フラクション(0.25ml)をSDS−PAGE後銀染色すると、30kDa付近にのみ、図4で見られた15kDaのバンドが検出された(図6)。15kDa以外のバンドは見られなかったことから、抗菌性に寄与しているのは15kDaのタンパク質であることが再度強く示唆された。分子量マーカー(20.1kDaのトリプシンインヒビター)から、デンシトメーターにより抗菌タンパクの量を推定し、イネいもち病菌に対する50%生長阻害濃度を算出すると、およそ50ng/mlとなった。生重量100gのタモギタケ子実体から上記の方法で精製され得る当該抗菌タンパク質の量はおよそ0.2mgであった。
【0113】
実施例3 cDNAの単離
1)タモギタケ抗菌タンパクのアミノ酸配列の解読
上記のSuperose6画分をウルトラフリーMC 10,000 NMWL(ミリポア社製)で濃縮し、SDS−PAGE電気泳動した。トリスを除去し、グリシンを含まない緩衝液系でPVDF膜(ミリポア社製)へ転写し、クマシーブリリアントブルーR−250で軽く染色した後、脱色した。その後、抗菌性に関与すると考えられた15kDaのタンパクバンドを切り出した。また15kDaのタンパク質をリシルエンドペプチダーゼ(和光純薬工業社製)若しくはV8プロテアーゼ(和光純薬工業社製)で部分消化した。
【0114】
その結果、リシルエンドペプチダーゼ消化からは14kDaが、若しくはV8プロテアーゼ消化からは14kDaと12kDaが得られた。これらのバンドを同様に泳動後膜に転写した。次いで、気相プロテインシークエンサー(HPG1005A Protein Sequencing System)を用いて、N末端アミノ酸配列をエドマン分解法により決定した。
【0115】
その結果、15kDaタンパクからは次のような44アミノ酸:
N末端−Leu Xaa Gly Xaa Trp Tyr Asn Glu Leu Gly Xaa Xaa Met Asn Leu Thr Ala Asn Lys Asp Gly Ser Leu Xaa Gly Thr Tyr His Ser Asn Val Gly Glu Val Pro Xaa Xaa Tyr His Leu Ala Gly Arg Tyr−C末端 (配列番号5)
が決定された(上記アミノ酸配列において、Xaaは未定、以下同様)。また、14kDaタンパクのリシルエンドペプチダーゼ消化物からは次のような50アミノ酸:
N末端−Asp Gly Ser Leu Thr Gly Thr Tyr His Ser Asn Val Gly Glu Val Pro Pro Thr Tyr His Leu Ser Gly Arg Tyr Asn Leu Gln Pro Pro Ser Gly Gln Gly Val Thr Leu Gly Xaa Ala Val Ser Phe Glu Asn Thr Xaa Ala Asn Val−C末端 (配列番号6)
また、14kDaタンパクのV8プロテアーゼ消化物からは次のような21アミノ酸:
N末端−Leu Thr Gly Thr Trp Tyr Asn Glu Leu Gly Ser Thr Met Asn Leu Thr Ala Asn Lys Asp Gly−C末端 (配列番号7)
また、12kDaタンパクからは次のような23アミノ酸
N末端−Leu Thr Gly Thr Xaa Tyr Asn Glu Leu Gly Ser Thr Xaa Asn Leu Thr Ala Asn Xaa Asp Gly Xaa Leu−C末端 (配列番号8)
が決定された。
【0116】
最終的に次のような69アミノ酸が決定された。
N末端−Leu Thr Gly Thr Trp Tyr Asn Glu Leu Gly Ser Thr Met Asn Leu Thr Ala Asn Lys Asp Gly Ser Leu Thr Gly Thr Tyr His Ser Asn Val Gly Glu Val Pro Pro Thr Tyr His Leu Ser Gly Arg Tyr Asn Leu Gln Pro Pro Ser Gly Gln Gly Val Thr Leu Gly Xaa Ala Val Ser Phe Glu Asn Thr Xaa Ala Asn Val−C末端 (配列番号9)
2)縮重プライマーの設計
1)で決定されたアミノ酸配列を基に、考えられる全ての塩基がミックスされた4つのプライマーを合成した。括弧内の数字は縮重度を示す。
TMR1: 5'-acnggnacntggtayaayg-3’(256)
(配列番号9の2番目のアミノ酸残基Thrないし8番目のGluに対応) (配列番号10)
TMR2: 5'-garytiggiwsnacnatgaa-3’(256)
(配列番号9の8番目のアミノ酸残基Gluないし14番目のAsnに対応) (配列番号11)
TMF1: 5'-gtrttytcraaiswiacn-3’(128)
(配列番号9の59番目のアミノ酸残基Alaないし65番目のThrに対応) (配列番号12)
TMF2: 5'-cciarigtnacnccytgncc-3’(256)
(配列番号9の51番目のアミノ酸残基Glyないし57番目のGlyに対応) (配列番号13)
但し、上記において「i」は「イノシン」を、「r」は「g又はa」を、「y」は「c又はt」を、「w」は「a又はt」を、「s」は「g又はc」を、そして「n」は「a又はg又はc又はt」をそれぞれ表す。
【0117】
3)タモギタケ子実体cDNAライブラリーの構築
タモギタケ子実体からSDSフェノール法で全核酸を抽出し、塩化リチウム沈殿により全RNAを回収した。ここからmRNA purification kit(Pharmacia社製)によりタモギタケmRNAを調製した。子実体約5gから10μgのmRNAが得られた。このうち5μgをZAP cDNA synthesis kit (Stratagene社製)に供試し、cDNAを合成した。。ゲル濾過カラムによりおよそ0.5〜5kbのcDNAを分画し、Uni−ZAP XR ベクター(Stratagene社製)にライゲーションし、GigapackIII(Stratagene社製)によりパッケージングを行った。全ての手順はキット添付の説明書に従った。構築したタモギタケ子実体cDNAライブラリーのタイターは、およそ300万pfuと算出された。
【0118】
4)RT−PCRによるプローブの取得
2)で合成したプライマーを用いて3)で合成したcDNAを鋳型にPCRを行い、ライブラリーをスクリーニングするためのプローブとなるタモギタケ抗菌タンパクの部分長cDNAの増幅を試みた。反応条件は以下のように行った。50μlの反応液中に、cDNA 10ng,10´Ex taq buffer 5μl,2.5mM 各dNTPs 4μl,プライマー 5ピコモル/各配列,Ex taq(Takara社製)+Taq START 抗体(Clontech社製) 1μlをそれぞれ含み、プログラムテンプコントロールシステムPC−700(ASTEK社)を用いて、94℃ 3分を1回、94℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 1分を35 回、72℃ 6分を1回行った。その結果、TMR1−TMRF1、TMR1−TMRF2、TMR2−TMRF1、TMR2−TMRF2の全てのプライマー組み合わせにおいて、各々およそ150〜190bpの産物が増幅された。
【0119】
これらのPCR産物をゲル精製し、ベクターpCRII(Invitrogen社製)にクローニングした。これらのクローンの塩基配列を決定した結果、1)で決定されたアミノ酸配列と全く同じアミノ酸配列をコードするcDNA(TMR2−TMRF1、TMR2−TMRF2の組み合わせ由来。特にTMR2−TMRF2の組み合わせ由来のcDNAをTM100と命名)と、1)で決定されたアミノ酸配列と約75%の相同性を有するアミノ酸配列をコードするcDNA(TMR1−TMRF1、TMR1−TMRF2の組み合わせ由来。特にTMR1−TMRF1の組み合わせ由来のcDNAをTM75と命名)の二種類が含まれていた。
【0120】
5)完全長cDNAのスクリーニング
4)で得られたcDNAクローンTM100、TM75をベクターから切り出し、これをプローブに用いてタモギタケ子実体cDNAライブラリーをスクリーニングした。14×10cmの角形シャーレにZAP cDNA synthesis kit(Stratagene社製)の説明書きに従って、約20,000pfuのファージを宿主菌XL1−blue MRF’とともにプレーティングした。プラークをHybond−N+ナイロンメンブレンフィルター(Amersham社製)に接触させ、メンブレン添付の説明書きに従ってアルカリ処理を行いDNAを変性させ、メンブレン上に固定させた。プローブはrediprime IITM DNA labelling system(Amersham社製)を用いて32Pラベルした。ハイブリダイゼーションは0.5M NaHPO(pH7.2)、7%SDS、1mM EDTA中で65℃で一晩、洗浄の条件は40mM NaHPO(pH7.2)、1%SDS、1mM EDTA中で65°C、20分を2回行った。1次スクリーニングで約160,000pfuのファージからTM100プローブで600個、TM75プローブで30個のポジティブクローンが得られた。うちTM100プローブで24個、TM75プローブで12個のクローンに関して、2次スクリーニング、プラークの精製を兼ねた3次スクリーニングを行い、選抜されたクローン全てについてZAP cDNA synthesis kit(Stratagene社製)の説明書きに従って、in vivo excisionを行った。その結果、TM100プローブで18個、TM75プローブで12個のクローンが、ファージミドベクターpBluescript SKに組み込まれたcDNAとして回収された。これらのクローンに関して制限酵素分析によりインサート長を同定した。
【0121】
6)塩基配列の決定
上記の各cDNAクローンについて、最長のクローンの全塩基配列を両鎖とも決定した。まず、M13プライマー(takara)を用いて、ABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer,Perkin Elmer社製)でクローンの5’、3’両部分の塩基配列を決定した。
【0122】
次に、TM100由来の最長クローンの5’部分の塩基配列情報を基に、プライマー
TM100inRV: gTC AAg gCg TTA CTC Tgg
(配列番号14)
を、同3’部分の塩基配列情報を基にプライマー
TM100inFW: CTg ggT gAg gAT CAC CTC
(配列番号15)
を、さらにTM75由来の最長クローンの5’部分の塩基配列情報を基に、プライマー
TM75inRV: gAT gTC TAC gTg CCC TAC
(配列番号16)
を、同3’部分の塩基配列情報を基にプライマー
TM75inFW: ACg ACT CAg AgA AgA ACT g
(配列番号17)
をそれぞれ合成し、配列決定に利用した。以上のようにしてTM100及びTM75由来の最長クローンについてDNAの両鎖の配列を解読し、全塩基配列を決定した。
【0123】
その結果、タモギタケ抗菌タンパクをコードするcDNA(TM100プローブ由来)は全長671塩基からなり(配列番号1)、143個のアミノ酸をコードしていた(配列番号2)。精製タンパク質から決定されたN末端のアミノ酸は、配列番号2のアミノ酸配列の8−76のアミノ酸残基に相当した。配列番号2のアミノ酸配列と精製タンパク質から直接決定された67個のアミノ酸の相同性は、決定されなかった2個のアミノ酸(配列番号2のアミノ酸配列では第65番目のW、および第73番目のSに相当)以外の全てのアミノ酸が同一であった。このことから、クローニングしたcDNAはタモギタケ抗菌タンパクをコードする遺伝子に由来すると結論された。
【0124】
cDNA配列から決定されるタンパク質のN末端と、実際の精製タンパク質のN末端は一致せず、翻訳開始メチオニンの7アミノ酸後ろのL(ロイシン)が、精製タンパク質のN末端であった。このことから、タモギタケ抗菌タンパク質は、まず前駆体型として翻訳された後、N末のリーダー配列(7アミノ酸)が切り離されると推定された。推定成熟タンパクのアミノ酸配列(配列番号2のうち8−143の136個のアミノ酸配列)から遺伝子配列解析ソフトGENETYX−WIN ver3.2(Software Development Co.,Ltd.)を用いて平均分子量を求めると15158.4となり、等電点は6.22と算出された。この分子量は精製タンパク質のSDS−PAGEによる見積もり(15kDa)と良く一致した。また推定糖鎖付加部位が二カ所(配列番号2のアミノ酸残基21、同71のN)存在していた。
【0125】
一方、タモギタケ抗菌タンパクのホモローグをコードするcDNA(TM75由来)は全長840塩基からなり(配列番号3)、141個のアミノ酸をコードしていた(配列番号4)。このcDNAの5’側には3個のATGが存在するが、一つ目と二つ目のATGから翻訳を開始するとそれらのすぐ後ろに終止コドンが現われ、それぞれ12個、31個のアミノ酸しかコードできない。141個のアミノ酸をコードできるのは三番目のATGから翻訳が開始されたときのみである。またこのATGの102bp上流には同じ読み枠で終止コドンTGAが位置していた。従って三番目のATGが翻訳開始コドンであることはほぼ確実である。
【0126】
推定成熟アミノ酸配列(配列番号4のアミノ酸配列のうち8−141の残基からなる134個のアミノ酸配列)から推定される分子量は14732.2、等電点は8.62と算出された。また推定糖鎖付加部位が一カ所(配列番号4のアミノ酸番号115のN)存在していた。GENETYX−WINを用いて本発明のタモギタケ抗菌タンパク質とそのホモローグの相同性を解析したところ、アミノ酸で65.5%、DNAで64.5%(ORF部分は72.2%)であった。
【0127】
本発明のタモギタケ由来抗菌タンパク質およびその遺伝子、さらにそのホモローグとそれにコードされるアミノ酸配列をもつタンパク質について、GeneBankデータベースのBLASTによる相同性検索を行った。本発明のタモギタケ由来抗菌タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2の全アミノ酸配列)のデータベース検索の結果、streptmyces violaceusのストレプトアビジン v2(寄託番号:Q53533, Bayer et al.(1995) Biochim Biophys Acta 1263:p.60−66.)、v1(寄託番号:Q53532)、streptmyces avidin iiのストレプトアビジン(寄託番号: P22629, Argarana et al. (1986) Nucleic Acids Res 14:p.1871−1882)等が相同性を有するものとしてヒットした。相同性は3つともに128アミノ酸に渡り、それぞれ50%、49%、49%であった。これらより低い相同性で卵白アビジン(Gope et al. (1987) Nucleic Acids Res 15:p.3595−3606.)やいくつかのアビジン関連タンパク質(Keinanen et al. (1994) Eur J Biochem 220:p.615−621.)もヒットした。なお、ストレプトアビジンと1アミノ酸のみ異なり、N末端側、C末端側がそれぞれ36アミノ酸分、20アミノ酸分ストレプトアビジンよりも短くなっているコアストレプトアビジンミュータントw79f ChainB(Freitag et al.(1997) Protein Sci.6:p.1157−1166)もヒットした。相同性は51.7%であった。
【0128】
以上のことから、本タンパク質は新規なタンパク質であると考えられた。本発明の第2のタモギタケ由来抗菌タンパク質のアミノ酸配列(配列番号4の全アミノ酸配列)のデータベース検索の結果では、ストレプトアビジン v2、v1、ストレプトアビジンとそれぞれ50%、48%、48%の相同性を示した。
【0129】
一方、第1のタモギタケ由来抗菌タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列(配列番号1の71−502)および第2のタモギタケ由来抗菌タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列(配列番号3の226−651)を用いた同データベース検索では、非常に短い範囲(23bp)で相同性の見られる配列がいくつか検出されたに過ぎず、ストレプトアビジンのDNA配列等は検出されてこなかった。これは、本発明の新規タンパク質をコードするDNA配列はDNAレベルではストレプトアビジンのDNA配列等と相同性があまり高くないことを意味する。
【0130】
本抗菌タンパク質は食用キノコタモギタケから精製された新規なストレプトアビジン様タンパク質であるので’tamavidin’と命名した。精製したタンパク質由来の遺伝子をtam1、それがコードするアミノ酸配列を有するタンパク質をtamavidin1、tam1のホモローグをtam2、それがコードするアミノ酸配列を有するタンパク質をtamavidin2と呼ぶこととする。遺伝子配列解析ソフトGENETYX−WIN ver3.2を用いて本発明のタモギタケ抗菌タンパク質とストレプトアビジン(ストレプトアビジンはストレプトアビジン v2、v1とそれぞれ9アミノ酸、1アミノ酸異なるだけである)のアミノ酸配列全体の相同性を解析したところ、tam1のコードするtamavidin1のアミノ酸配列で46.7%、tam2のコードするtamavidin2のアミノ酸配列で48.1%の相同性(アミノ酸同一性)を示した。一方、DNA配列(配列番号1および3)全体ではストレプトアビジンとの相同性はtam1で53.8%(ORF部分では56.8%)、tam2では51.0%(ORF部分では57.3%)であった。またtam1にコードされるタモギタケ抗菌タンパク質と卵白アビジンとの相同性はアミノ酸配列で31.2%、DNA配列で42.4%であり、tam2にコードされるタモギタケ抗菌タンパク質と卵白アビジンとの相同性はアミノ酸配列で36.2%、DNA配列で41.8%であった。
【0131】
Tamavidin1、tamavidin2、ストレプトアビジン、ストレプトアビジン V1、ストレプトアビジン V2、およびアビジンの成熟タンパク領域のアミノ酸配列の分子系統樹を、GENETYX−WINを用いてUPGMA法により作成した。その結果、図7に示した通りtamavidin1およびtamavidin2は、ストレプトアビジンのグループおよびアビジンとは異なる第3のグループを形成していることが明らかとなった。
【0132】
ストレプトアビジンと比較した場合、本発明のtamavidin1、tamavidin2はN末端側が33アミノ酸短くなっているが、ビオチンとの結合に関与していると考えられているトリプトファン(W)残基(Gitlin et al. (1988) Biochem J 256:p.279−282)、チロシン(Y)残基(Gitlin et al. (1990) Biochem J 269:p.527−530)は全て保存されている(配列番号2のアミノ酸配列のうち第34、第45番目のY、第82、第98、第110番目のW、配列表の配列番号4のアミノ酸配列のうち、第34、第45番目のY、第80、第96、第108番目のW)。
【0133】
また成熟タンパク質領域と考えられる部分(配列番号2のアミノ酸配列のうち8−143の配列、配列番号4のアミノ酸配列のうち8−141の配列)の平均分子量はそれぞれ15158.4、14732.2と算出され、成熟ストレプトアビジンや成熟アビジンの平均分子量(それぞれ16490.6、14342.9)と似ていた。これらのことは、tam1にコードされているtamavidin1は勿論、tam2にコードされているtamavidin2についてもビオチン結合能を有するタンパク質であることを強く示唆するものである。
【0134】
実施例4 ビオチン添加による抗菌活性消失実験
本発明の抗菌タンパク質は新規なストレプトアビジン様タンパク質であることから、ビタミンの一種であるD−ビオチン(ビタミンH、片山化学工業社製)と結合することが示唆される。一方いもち病菌はその生育にビオチンが必要であることが知られている。これらのことから、本抗菌タンパク質はアッセイ培地に存在する遊離ビオチンと結合し、これが培地中のビオチン欠乏を引き起こし、結果としていもち病菌の生育が抑えれると予測される。
【0135】
ビオチン添加による抗菌活性の消失実験の結果を図8に示す。具体的には、マイクロタイタープレートに1/2 PD培地に懸濁したいもち病菌の胞子を入れ、そこへ精製tamavidin1を50ng/mlまたは1000ng/mlの濃度で添加したウェル、さらに1000ng/mlのtamavidin1に加え100ng/mlの濃度のビオチンを加えたウェル、またタンパク質無添加の対照ウェルを設け、28℃で48時間培養した。
【0136】
その結果、図8に示されるようにtamavidin1添加ウェルでは、50ng/mlの濃度でもいもち病菌の菌糸の伸長はかなり抑えられた。これに対し、tamavidin1(1000ng/ml)とビオチンの両方を添加したウェル、および対照ウェルでは菌糸は正常に伸長した。このように実際にアッセイ培地中にビオチンを過剰に添加すると本抗菌タンパク質の抗菌活性は消去された。これは過剰に加えたビオチンのある一定量が、アッセイに使用したtamavidin1の殆どと結合しその抗菌性を不活化したためであると推論された。
【0137】
さらに市販の卵白アビジン(Sigma社製)、およびstreptmyces アビジンiiのストレプトアビジン(Sigma社製)を用い、1000ng/mlの濃度で同様の試験を行った。その結果、両タンパクともに、いもち病菌に対して抗菌活性があり、その活性はビオチンで打ち消されることが明らかとなった(図8)。
【0138】
実施例5 組換えTamavidin2タンパク質のビオチン結合活性
1)発現ベクターの構築
tam2遺伝子は本発明のtam1遺伝子のホモログとして単離された遺伝子であるが、このtam2遺伝子によってコードされるtamavidin2が、実際にビオチン結合活性を示すか否かを調べた。具体的にはtam2遺伝子を大腸菌に組み込み、組換えtamavidin2を発現させ、このタンパク質がイミノビオチンカラムで精製されるか否かを調べた。
【0139】
先ず、実施例3で得られたtam2遺伝子の全ORF(配列表の配列番号3のうち、第226番目から第651番目の塩基)をPCRにより増幅させるため、一組のプライマー
TM75Bsp5: 5’−ACCAACATgTCAgACgTTCAA−3’
(配列番号18)
TM75Hin3: 5’−ATgAAAgCTTTTACTTCAACCTCgg−3’
(配列番号19)
を合成した。TM75Bsp5には制限酵素BspLU 11Iの認識部位(下線で示した)が、TM75Hin3には制限酵素HindIIIの認識部位(下線で示した)がそれぞれ組み込まれている。これらのプライマーを使ってtam2遺伝子が組み込まれたプラスミド(pBluescript、実施例3(6))を鋳型にPCRを行なった。50μlの反応液中に、鋳型プラスミドDNA 500ng,10´Pyrobest buffer 5μl,2.5mM 各dNTPs 4μl,各プライマー 10pmoles,Pyrobest DNA polymerase(Takara社製) 0.5μl、をそれぞれ含み、プログラムテンプコントロールシステムPC−700(ASTEK社製)を用いて、94℃、3分を1回、94℃、1分、50℃、1分、72℃、1分を15回、72℃、6分を1回行った。
【0140】
得られたPCR産物を制限酵素BspLU 11I(Roche社製)、HindIII(Takara社製)で二重消化し、ゲル精製した。大腸菌発現用ベクターはpTrc99A(Pharmacia LKB社製)を用いた。このベクターを制限酵素NcoI(Takara社製)、HindIIIで二重消化しゲル精製したものを、上述の制限酵素処理を施したPCR産物とライゲーションし、大腸菌TB1に組み込んだ。組み込んだtam2遺伝子の塩基配列を確認した。
【0141】
2)組換えタンパク質の発現とビオチンカラムによる精製
tam2が組み込まれた発現ベクターpTrc99Aをもつ大腸菌TB1の単一コロニーを、抗生物質アンピシリンを含むLB培地に接種し、OD600=0.5程度になるまで菌を前培養した。次いで、IPTGを最終濃度で1mM加え、タンパク質発現を誘導し、37℃でさらに4.5時間振盪培養した。培養スケールは50mLとし、IPTG(Isopropyl−b−D(−)−thiogalactopyranoside、和光純薬社製)を加えないものを対照とした。菌体を遠心分離によって集め、タンパク質精製まで−80℃で保存した。
【0142】
Tamavidin2の精製は、Hofmannらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci. USA 77: 4666−4668(1980))を参考に、イミノビオチンによる精製を行なった。菌体を1.5mLの緩衝液A(50mM CAPS(3−[Cyclohexylamino]−1−propanesulfonic acid、SIGMA社製)、pH11,50mM NaCl)中に懸濁し、ソニケーションにより菌体を破壊した。遠心後上清を総可溶性タンパク質とした。2−Iminobiotin−Agarose(SIGMA社製) 0.5mLを直径0.5cm、長さ5cmのカラムに充填し、緩衝液Aで平衡化した。このイミノビオチンアガロースカラムに、総可溶性タンパク質を通過させた。カラムを5mLの50mM CAPS pH11,500mM NaClで洗浄後、1.5mLの50mM NHOAC pH4.0によりtamavidin2を溶出した。総可溶性タンパク質、カラム通過画分、洗浄画分、溶出画分を15% PAGEL(ATTO社製)を用いてSDS−PAGE電気泳動した。
【0143】
泳動後、タンパク質をCoomassie Brilliant Blue R−250(和光純薬社製)で染色した。結果を図9に示す。図9に示すように、1mMのIPTGによってタンパク質発現誘導をかけた大腸菌の総可溶性タンパク質画分(T)に、発現誘導をかけなかった場合(C)には存在しない15kDa付近のバンドが見られた。この分子量はtam2遺伝子のコードする141個のアミノ酸から推定される分子量15467と良く一致した。
【0144】
さらにこの15kDaタンパク質は、イミノビオチンカラム通過画分(F)、同洗浄画分(W)には現れず、50mM NHOAC pH4.0による溶出画分(E)に現れた。溶出画分ではこの15kDaタンパク質が主要要素となっていた。この結果から、tam2にコードされるtamavidin2は、ビオチンに結合することが明らかとなった。しかも上記に示す方法で簡便に精製され得ることが明らかとなった。50mLの培養で得られる大腸菌発現組換えtamavidin2の収量はおよそ1mgであった。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】図1は、本発明抗菌タンパク質によるいもち病菌の生育阻害の様相を示す(80℃、10分処理したタンパク質画分を添加した。培養開始48時間後の結果)。
【図2】図2は、Q−Sepharose FFカラムによって分離されたタモギタケタンパク質の各画分の電気泳動像と抗菌性との関係を示す。Mは分子量マーカーを、FTはカラム通過画分を示す。またレーン下の記号(−、+、++)は抗菌活性の強さを示す。括弧内の抗菌活性は本発明で精製したものとは別の抗菌活性を示す。
【図3】図3は、MonoQカラムによるタモギタケ抗菌タンパクの分離のチャートと抗菌活性との関係を示す。抗菌活性を示した溶出位置を+で示した。
【図4】図4は、MonoQカラムによるタモギタケ抗菌タンパクの分離の電気泳動像と抗菌活性との関係を示す。レーン上の番号は図3の画分番号に一致し、Mは分子量マーカーを、OriはMonoQにかけたQ−sepharose画分をそれぞれ示す。またレーン下の記号(−、+、++、+++)は抗菌活性の強さを示す。抗菌タンパク(15kDa)を矢印で示した。
【図5】図5は、Superose6によるタモギタケ抗菌タンパク質の精製チャートと抗菌活性との関係を示す。矢印はGel filtration standard(BIO−RAD社製)の溶出位置を示す。抗菌活性を示した画分の位置を+で示した。
【図6】図6は、Superose6によるタモギタケ抗菌タンパク質の精製の電気泳動像と抗菌活性との関係を示す。レーン上の番号は図5の画分番号に一致し、OriはSuperose 6にかけたMonoQ画分を、Mは分子量マーカーを示す。またレーン下の記号(−、+、++)は抗菌活性の強さを示す。抗菌タンパク質(15kDa)を矢印で示した。
【図7】図7は、tamavidin1とtamavidin2、ストレプトアビジンとそのホモローグ、アビジンのアミノ酸配列(成熟タンパク質領域)の分子系統樹を示す。
【図8】図8は、ビオチン添加による抗菌活性の消失実験の結果を示す。マイクロタイタープレートに1/2 PD培地に懸濁したいもち病菌の胞子を入れ、そこへ1000ng/mlの濃度の精製tamavidin1、ストレプトアビジン、アビジンを添加したウェル、さらに同濃度のそれらタンパク質に加え100ng/mlの濃度のビオチンを加えたウェル、さらにタンパク質無添加のウェルを作成し、28°Cで48時間培養した。50ng/mlの濃度の精製tamavidinを添加したウェルも同時に示した。
【図9】図9は、大腸菌発現組換えtamavidin2のイミノビオチンカラムによる精製を示す。CはIPTG誘導をかけない大腸菌の総可溶性タンパク質画分を、Tは1mMのIPTGによってタンパク質発現誘導をかけた大腸菌の総可溶性タンパク質画分を示す。Fは、1mMのIPTGによって、タンパク質発現誘導をかけた大腸菌の総可溶性タンパク質のうちイミノビオチンカラムに結合せず、通過したタンパク質の画分を、Wは同カラムの洗浄処理によって溶出された画分を、Eは酸性緩衝液により溶出された画分をそれぞれ示す。Tamavidin2タンパク質(およそ15kDa)を矢印で示し、分子量マーカー(LMW マーカーキット:Pharmacia LKB社製)をMで示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タモギタケの水性抽出液から硫安沈殿法で沈殿する画分から得ることができ、少なくともイネいもち病菌に対する抗菌活性を有し、SDS−PAGE法で分子量が約15kDaの成分の存在を示す、抗菌タンパク質。
【請求項2】
N末端が、配列表の配列番号9記載のN末端アミノ酸配列:
Leu Thr Gly Thr Trp Tyr Asn Glu Leu Gly Ser Thr Met Asn Leu Thr Ala Asn Lys Asp Gly Ser Leu Thr Gly Thr Tyr His Ser Asn Val Gly Glu Val Pro Pro Thr Tyr His Leu Ser Gly Arg Tyr Asn Leu Gln Pro Pro Ser Gly Gln Gly Val Thr Leu Gly Xaa Ala Val Ser Phe Glu Asn Thr Xaa Ala Asn Val
(ここにおいてXaaは不明である)
を有する、請求項1に記載の抗菌タンパク質。
【請求項3】
配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列若しくはこの配列と52%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、イネいもち病菌に対する抗菌活性を示す抗菌タンパク質。
【請求項4】
配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する請求項3に記載の抗菌タンパク質。
【請求項5】
配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する請求項3に記載の抗菌タンパク質。
【請求項6】
配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する請求項3に記載の抗菌タンパク質。
【請求項7】
配列番号2または4に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する請求項3に記載の抗菌タンパク質。
【請求項8】
配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する請求項3に記載の抗菌タンパク質。
【請求項9】
配列番号2の部分アミノ酸配列8−143又は配列番号4の部分アミノ酸配列8−141からなるポリペプチド、並びに上記アミノ酸配列の何れかの中に1〜複数個のアミノ酸変異を有するポリペプチドおよび上記アミノ酸配列の何れかと52%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドであってイネいもち病菌に対する抗菌活性を示す当該ポリペプチド、の単独又は何れかのポリペプチドの組み合せから成る抗菌タンパク質。
【請求項10】
タモギタケの水性抽出液から硫安75%飽和を使用する硫安沈殿法で沈殿する画分を回収する工程;および
上記画分をイオン交換クロマトグラフィーにかけNaCl濃度50mMから600Mの濃度で溶出する画分を回収する工程;
を含む、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の抗菌タンパク質の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の抗菌タンパク質をコードする遺伝子。
【請求項12】
配列番号1の塩基71−502の塩基配列又は配列番号3の塩基226−651の塩基配列、上記塩基配列中に1〜複数個の塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加を有する塩基配列、または上記塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する請求項11に記載の遺伝子。
【請求項13】
配列番号1の塩基71−502の塩基配列又は配列番号3の塩基226−651の塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列を有する請求項11又は12に記載の遺伝子。
【請求項14】
配列番号1の塩基71−502の塩基配列又は配列番号3の塩基226−651の塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列を有する請求項11又は12に記載の遺伝子。
【請求項15】
配列番号1の塩基71−502の塩基配列又は配列番号3の塩基226−651の塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列を有する請求項11又は12に記載の遺伝子。
【請求項16】
配列番号1の塩基71−502の塩基配列又は配列番号3の塩基226−651の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有する請求項11又は12に記載の遺伝子。
【請求項17】
配列番号1の塩基71−502の塩基配列又は配列番号3の塩基226−651の塩基配列と95%以上の相同性を有する塩基配列を有する請求項11又は12に記載の遺伝子。
【請求項18】
タモギタケ由来の抗菌タンパク質をコードする遺伝子を得るためのオリゴヌクレオチドであって、
配列番号1又は3に示す抗菌タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列から以下の条件を満たすように2つの領域を選択し:
1)各領域の長さが15−30塩基であること;
2)各領域中のG+Cの割合が40−60%であること;
上記領域と同じ塩基配列若しくは上記領域に相補的な塩基配列を有する一本鎖DNAを製造し、または、上記一本鎖DNAによってコードされるアミノ酸残基を変化させないように遺伝子暗号の縮重を考慮した一本鎖DNAの混合物を製造し、さらに必要であれば上記抗菌タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に対する結合特異性を失わないように修飾した上記一本鎖DNAを製造する
ことを含む方法により製造された当該オリゴヌクレオチド。
【請求項19】
配列番号10ないし19の何れかに記載のヌクレオチド配列を有する請求項18に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項20】
請求項18又は19に記載のオリゴヌクレオチドの2種をプライマー対として用いて、タモギタケ子実体cDNAライブラリーを鋳型にして核酸増幅反応を行い請求項1ないし9のいずれか1項に記載の抗菌タンパク質をコードする遺伝子の一部を増幅し、得られた増幅産物をプローブとして使用して上記cDNAライブラリーをスクリーニングして完全長cDNAクローンを単離することを含む、請求項11ないし17のいずれか1項に記載の遺伝子の単離方法。
【請求項21】
請求項11ないし17のいずれか1項に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項22】
ベクターが発現ベクターである請求項21に記載の組換えベクター。
【請求項23】
宿主生物に請求項21または22に記載の組換えベクターを導入して得られる形質転換体。
【請求項24】
病害抵抗性植物である、請求項23の形質転換体。
【請求項25】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の抗菌タンパク質を有効成分として含む抗菌剤。
【請求項26】
請求項23の形質転換体によって発現される、組換えタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−200038(P2008−200038A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21629(P2008−21629)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【分割の表示】特願2002−571872(P2002−571872)の分割
【原出願日】平成14年3月12日(2002.3.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000004569)日本たばこ産業株式会社 (406)
【出願人】(500371307)シンジェンタ リミテッド (141)
【Fターム(参考)】