説明

新規ビフィドバクテリウム属微生物およびその利用

【課題】Th17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制することができ、飲食品、医薬品等に利用可能な新規のビフィドバクテリウム属微生物を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列を持つ16SrRNA遺伝子を含むビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物であって、マウス脾臓細胞、加熱殺菌した該微生物、トランスフォーミング増殖因子ベータおよびインターロイキン−6を混合したものを、72時間培養した後、上清中のインターロイキン−17の産生量が、前記微生物を添加しない場合の30%以下であるような微生物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ビフィドバクテリウム属微生物およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物は、全ての動物の腸管内に生息している微生物である。このビフィドバクテリウム属微生物には、整腸作用、免疫調節作用等の生理作用が知られている。
【0003】
ビフィドバクテリウム属微生物の免疫調節作用は、Th1とTh2のバランスを調整することにより行われることが知られている。しかし、免疫調節には、Th1やTh2だけでなくTh17等の関与も明らかにされてきたが、経口摂取可能な微生物の中には、Th17を調節できず、かえってTh17の分化を促進してしまうものがあり、ビフィドバクテリウム属微生物のTh17調節作用に関する知見は、ほとんどみられない。
【0004】
Th17の分化が促進されると、インターロイキン−17(IL−17)が産生され、多発性硬化症、リウマチ性関節炎、炎症性腸疾患、乾癬、1型糖尿病、気管支喘息等のIL−17との関連が示唆されている疾患が引き起こされる可能性がある。そのため、IL−17の産生を抑制することができれば、それらの疾患の予防・治療に利用できると期待されている。
【0005】
しかしながら、これまでTh17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制することができるビフィドバクテリウム属微生物は、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)だけであるが(非特許文献1)、これの飲食品、医薬品等への利用も進んでいないのが実情であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tanabe, S., et al.: Int. J. Mol. Med., 22: 181-185,2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、Th17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制することができ、飲食品、医薬品等に利用可能な新規のビフィドバクテリウム属微生物の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、乳児の糞便から、上記性質を有する新規のビフィドバクテリウム属微生物を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は配列番号1に示す16S rRNA遺伝子の塩基配列を相同性97%以上で含むビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物である。
【0010】
また、本発明は上記ビフィドバクテリウム属微生物を含有することを特徴とする飲食品である。
【0011】
更に、本発明はビフィドバクテリウム属微生物を含有することを特徴とする医薬品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のビフィドバクテリウム属微生物は、Th17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制することができるものである。
【0013】
従って、本発明のビフィドバクテリウム属微生物は、IL−17との関連が示唆されている疾患の予防・治療に用いることのできる飲食品、医薬品等となる。
【0014】
また、本発明のビフィドバクテリウム属微生物は、上記従来のビフィドバクテリウム属微生物と同様に、ンターフェロン−γの産生を促進し、かつ、インターロイキン−4の産生を抑制するので、Th1とTh2のバランスをTh1側に調整することができる。
【0015】
従って、本発明のビフィドバクテリウム属微生物は、Th1とTh2のバランスがTh2側になることと関連する疾患の予防・治療に用いることのできる飲食品、医薬品等となる。また、この場合には、本発明のビフィドバクテリウム属微生物がTh17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制することができるため、従来の上記疾患の予防・治療に用いられる飲食品、医薬品等と比べて副作用が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】既知のビフィドバクテリウム属微生物と本発明のビフィドバクテリウム属微生物との関係を示した系統樹である。
【図2】ビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株のTh17抑制活性を示す図面である(図2中、−は無刺激対照、+は陰性対象)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の新規ビフィドバクテリウム属微生物は、乳児の糞便、腸管等から、例えば、以下の方法により得ることができる。
【0018】
まず、健常な乳児の糞便の排泄後すぐの新鮮な糞便を、嫌気パック(アネロガスパック:三菱ガス化学製)に入れ、これを糞便が凍結しない温度、例えば、7℃以下の冷蔵で運搬する。運搬された糞便を嫌気的な段階希釈法(光岡知足、「腸内菌の世界」、第2版、53−65、叢文社、1984)で段階希釈し、これの一部をBS寒天培地もしくはBL寒天培地(共に栄研化学製)に塗抹し、スチール・ウール法で、37℃で48時間嫌気培養する。培養後に得られたコロニーを釣菌し、分離培地と同じ条件で純化確認をする。純化確認した微生物を−85℃で凍結保存する。
【0019】
次に、上記で保存した微生物の16SrDNAの全塩基配列を例えば、以下の27Fと75Rのプライマーを用いコロニーPCRによって、16SrRNA遺伝子領域を増幅し、更に、27F、75R、520F、520R、930F、800R、1100F、1100Rのプライマーを用いて、ABI PRISM 3100DNA Sequencer(Applied Biosystem社製)により全16SrRNA遺伝子塩基配列を決定する。ここで決定された塩基配列のうち、約1300bpの塩基長で、配列番号1に示す16SrRNA遺伝子と97%以上の相同性を示すものを選択し、その後、定法の性状試験(内村泰、岡田早苗、「乳酸菌実験マニュアル」、小崎道雄監修、初版、29−72、朝倉書店、1992)等を行い、以下の分類学的性質を有するものとして本発明の新規ビフィドバクテリウム属微生物が得られる。
【0020】
<16S rDNA遺伝子増幅用および塩基配列決定用PCRプライマー>
27F:5’−AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’
75R:5’−CCCGGGATCCAAGCTTACGGTTACCTTGTTAC
GACTT−3’
520F:5’−CAGGAGTGCCAGCAGCCGCGG−3’
520R:5’−ACCGCGGCTGCTGGC−3’
930F:5’−GCACAAGCGGTGGAGCATGTGG−3’
800R:5’−CAGGACTACCAGGGTATCTAAT−3’
1100F:5’−CAGGAGCAACGAGCGCAACCC−3’
1100R:5’−AGGGTTGCGCTCGTTG−3’
【0021】
<分類学的性質>
(1)微生物の形態
種類:桿菌
細胞のサイズ:長さ0.2〜0.3μm×幅1.0〜1.3μm
細胞の端:円形
細胞連鎖の様子:短い連鎖・単細胞のものもあり
芽胞:芽胞は形成しない
(2)コロニー形態
直径:1mm
色調:褐色
形:円形
隆起状態:半レンズ状
周縁:全縁
表面の形状等:スムーズ
透明度:不透明
粘稠度:バター様
*微生物を嫌気条件下、BL培地で37℃、48時間培養した場合の形態。
(3)炭素源の資化性
糖類発酵性試験**
D−キシロース +
D−リボース +
D−マンノース weak
D−セロビオース +
D−トレハロース −
メレジトース −
デキストリン weak
スターチ −
イヌリン weak
マンニトール −
ソルビトール +
アラビノース +
グルコース +
フラクトース +
ガラクトース +
シュクロース +
マルトース +
ラクトース +
メリビオース +
ラフィノース +
サリシン +
グリセロール −
ラムノース −
糖類なし −
**+は資化性あり、−は資化性なし。
(4)酵素活性試験***
アルカリフォスファターゼ −
エステラーゼ(C4) −
エステラーゼリパーゼ(C8) +
リパーゼ(C14) −
ロイシンアリルアミダーゼ +
バリンアリルアミダーゼ −
シスチンアリルアミダーゼ −
トリプシン −
α−キモトリプシン −
酸性フォスファターゼ +
ナフトール−AS−BI −
−フォスフォヒドロラーゼ
α−ガラクトシダーゼ +
β−ガラクトシダーゼ +
β−グルクロニダーゼ −
α−グルコシダーゼ +
β−グルコシダーゼ +
N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ −
α−マンノシダーゼ −
α−フコシダーゼ −
***API ZYM(bioMerieux Japan)を用いた。+は資化性あり、−は資化性なし。
(5)培養条件
ABCM液体培地とBL寒天培地が適する。嫌気培養を必要とし、アネロパック(三菱ガス化学)による嫌気システムでも、スチールウール法による炭酸ガス置換のどちらでも生育する。これらに準ずる嫌気培養しないと、まったく生育しない。ABCM液体培地の場合は37℃、24時間培養でOD値は1.2以上となり、BL寒天培地の場合は37℃、48時間培養でコロニーが形成される。
(6)生育条件等
生育温度試験 15℃ −
37℃ +
45℃ −
好気性試験 −
嫌気性試験 +
初発pH試験 pH4.5 −
pH7.2 +
pH8.0 +
ガス産生試験 −
(7)G+C含量
56±2mol%
(8)16SrRNA遺伝子塩基配列の相同性
ビフィドバクテリウム属に該当する既知との近縁種の基準株は、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(Bifidobacterium catenulatum)JCM1194株 (94%:1,316/1,388bp)、ビフィドバクテリウム・アングラータム(Bifidobacterium angulatum)JCM7096株(94%:1,310/1,389bp)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)JCM1195株(94%:1,321/1,403bp)である。一般的に相同性が97%未満であれば別種であるとされるが、最も近縁の上記3株であっても相同性は94%であった。従って、配列表の配列番号1に示す配列に対し相同性が97%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上であれば、本発明のビフィドバクテリウム属微生物に含まれる。
(9)DNA−DNA相同性
DNA−DNAハイブリダイゼーションは、蛍光検出によるマイクロプレート法(Ezaki, T., et al.: Int. J. Syst. Bacteriol., 39: 224-229, 1989)により、上記近縁種の基準株とDNA−DNAハイブリダイゼーションを行った結果、ビフィドバクテリウム・カテヌラータムJCM1194株と16%、ビフィドバクテリウム・アングラータムJCM7096株と23%、ビフィドバクテリウム・デンティウムJCM1195株と27%の相同性である。従って、DNA−DNA相同性が60%あれば本発明のビフィドバクテリウム属微生物に含まれる。
(10)系統解析
解析ソフトCLUSTAL Wにより系統樹を作成した。図1は、既知のビフィドバクテリウム属微生物と本発明のビフィドバクテリウム属微生物との関係を示した系統樹である。図中の分岐点に示された数値は、ブートストラップ信頼値であり、また括弧内の記号はアクセッションナンバーを表す。
(11)IL−17産生抑制作用
マウス脾臓細胞、加熱殺菌したビフィドバクテリウム属微生物、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)およびIL−6を混合したものを、72時間培養した後、上清中のIL−17の産生量が、前記微生物を添加しない場合の30%以下、好ましくは20%以下である。
(12)Th1/Th2調整作用
マウス脾臓細胞と、加熱殺菌したビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物を混合したものを、72時間培養した後、上清中のインターフェロン−γ(IFN−γ)の産生量とインターロイキン−4(IL−4)の産生量の比が、前記微生物を添加しない場合の2倍以上、好ましくは10倍以上である。
【0022】
なお、本発明の新規ビフィドバクテリウム属微生物は、上記分類学的性質のうち、少なくとも以下の(イ)〜(ヘ)からなる群から選ばれる1種または2種以上、好ましくは全てにより従来のビフィドバクテリウム属微生物と区別することができる。
(イ)マウス脾臓細胞、加熱殺菌したビフィドバクテリウム属微生物、TGF−βおよびIL−6を混合したものを、72時間培養した後、上清中のIL−17の産生量が、前記微生物を添加しない場合の30%以下
(ロ)G+C含量が56±2mol%
(ハ)嫌気培養しないと生育しない
(ニ)消化管内で有害な酵素活性であるβ−グルクロニダーゼ活性はない
(ホ)芽胞は形成せず、桿状の細胞形態をとる
(ヘ)マウス脾臓細胞と、加熱殺菌したビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物を混合したものを、72時間培養した後、上清中のインターフェロン−γ(IFN−γ)の産生量とインターロイキン−4(IL−4)の産生量の比が、前記微生物を添加しない場合の2倍以上
【0023】
上記の16SrDNAの塩基配列および分類学的性質を有する新規ビフィドバクテリウム属微生物の一例としては、本発明者らが乳児の糞便から分離したビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株が挙げられる。このビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株は、平成21年3月17日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)へ寄託した(寄託番号FERM P−21789)。
【0024】
上記した本発明のビフィドバクテリウム属微生物は、公知の他のビフィドバクテリウム属微生物と同様に、これを含有させた各種飲食品、医薬品等に利用することができる。
【0025】
上記飲食品としては、アメ、ガム、クッキー、せんべい等の菓子、清涼飲料、炭酸飲料、アルコール飲料等の飲料、麺、パン等の食品、ヨーグルト、豆乳ヨーグルト等の発酵乳製品等が挙げられ、特に発酵乳製品が好ましい。また、これらの飲食品は常法に従って製造することができる。
【0026】
上記医薬品としては、生菌体、乾燥菌体またはそれらの粉砕物等を単独あるいは通常の医薬担体と混合して通常の錠剤、散剤、カプセル剤等が挙げられる。また、これらの医薬品は常法に従って製造することができる。
【0027】
これらの飲食品および医薬品は、本発明のビフィドバクテリウム属微生物がTh17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制することもできるので、多発性硬化症、リウマチ性関節炎、炎症性腸疾患、乾癬、1型糖尿病、気管支喘息等のIL−17との関連が示唆されている疾患の予防・治療に利用できる。
【0028】
また、本発明のビフィドバクテリウム属微生物が上記Th17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制するだけではなく、インターフェロン−γの産生を促進し、かつ、インターロイキン−4の産生を抑制するので、Th1とTh2のバランスをTh1側に調整することができる。そのため、上記飲食品および医薬品は花粉症、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患等のTh1とTh2のバランスがTh2側になることと関連する疾患の予防・治療にも利用できる。しかも、この場合には、本発明のビフィドバクテリウム属微生物がTh17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制することもできるため、従来の上記疾患の予防・治療に用いられる飲食品、医薬品等と比べて副作用が少ない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
実 施 例 1
ビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株の分離:
健常な乳児(男:1才6ヶ月)の排泄後すぐの新鮮な糞便を、嫌気パック(アネロガスパック:三菱ガス化学製)に入れ、これを7℃以下の冷蔵で運搬した。運搬された糞便を嫌気的な段階希釈法(光岡知足、「腸内菌の世界」、第2版、53−65、叢文社、1984)で段階希釈し、これの一部をBL寒天培地(共に栄研化学製)に塗抹し、スチール・ウール法で、37℃で48時間嫌気培養した。
【0031】
培養後に得られたコロニーを釣菌し、分離培地と同じ条件で純化確認をした。純化確認した微生物を−85℃で凍結保存した。保存した微生物の16SrDNAの全塩基配列を以下のプライマーを用いてシークエンスし、BLASTサーチ(DDBJホームページ:http://www.ddbj.nig.ac.jp)することにより決定した。
【0032】
<16S rDNA遺伝子増幅用および塩基配列決定用PCRプライマー>
27F:5’−AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’
75R:5’−CCCGGGATCCAAGCTTACGGTTACCTTGTTAC
GACTT−3’
520F:5’−CAGGAGTGCCAGCAGCCGCGG−3’
520R:5’−ACCGCGGCTGCTGGC−3’
930F:5’−GCACAAGCGGTGGAGCATGTGG−3’
800R:5’−CAGGACTACCAGGGTATCTAAT−3’
1100F:5’−CAGGAGCAACGAGCGCAACCC−3’
1100R:5’−AGGGTTGCGCTCGTTG−3’
【0033】
上記で決定されたビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株の16S rDNAの配列(1,394bp)を配列表の配列番号1に示した。
【0034】
実 施 例 2
マウス脾臓細胞刺激試験(1):
実施例1で得られたビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株を、ABCM液体培地(栄研化学株式会社)を用いて37℃で24時間嫌気培養した。これらの培養物は、3,000×g、10分、4℃の遠心分離によって回収し、蒸留水で3回洗浄した。菌体は、100℃、50分間の熱処理によって殺菌し、凍結乾燥して保存した。
【0035】
6週齢雌性BALB/cマウスの脾臓細胞を10%(V/V)熱不活性化ウシ胎児血清、10μMの2−メルカプトエタノール、10mMのHEPES、ペニシリン及びストレプトマイシンを加えた1mlのRPMI−1640培地に懸濁し、該培地を適宜希釈し10個/mlとした脾臓細胞懸濁液に、2ngのTGF−β、20ngのIL−6及び加熱殺菌したビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株(加熱殺菌前の菌数10CFU)を培地に加え、37℃、5%の二酸化炭素存在下で72時間培養した。
【0036】
培養後、上清中のIL−17濃度をバイオ−プレックスサスペンション アレイ システム(Bio-Plex Suspension Array System:BioRad Laboratories社製)を用いたマイクロビーズ法によって測定し、蛍光強度値を決定した。TGF−β、IL−6及びビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株を加えなかったものを無刺激対照(−)、TGF−β及びIL−6は加えるがビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株を加えなかったものを陰性対照(+)とした。試験の結果を図2に示した。
【0037】
上記の試験の結果、ビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株のIL−17の産生量は、陰性対照の17.4%であった。
【0038】
これより、ビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株は、Th17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制するものであることが示された。
【0039】
実 施 例 3
ヨーグルトの製造:
10質量%スキムミルクを、110℃で20分間の滅菌を行い、試験管に10mlずつ分注した。この試験管を氷中で急冷により嫌気度を保ち、予めMRS液体培地(Oxoid)で培養しておいたラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)B5b株(財団法人日本乳業技術協会(〒102−0073東京都千代田区九段北1−14−19)の分譲株)の10レベルの菌液を0.5質量%量およびABCM液体培地(栄研化学)で培養しておいたビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株の10レベルの菌液を2質量%量、接種した。次いで、これを37℃で16時間培養し、ヨーグルトを製造した。このヨーグルトの生菌数は、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスB5b株が8.2×10CFU/ml、ビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株が、5.6×10CFU/mlであった。また、このヨーグルトのpHは適度に低下し、風味も良好であった。
【0040】
実 施 例 4
マウス脾臓細胞刺激試験(2):
6週齢雌性BALB/cマウスの脾臓細胞を10%(V/V)熱不活性化ウシ胎児血清、10μMの2−メルカプトエタノール、10mMのHEPES、ペニシリン及びストレプトマイシンを加えた1mlのRPMI−1640培地に懸濁し、該培地を適宜希釈し10個/mlとした脾臓細胞懸濁液に、実施例2と同様にして加熱殺菌したビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株(加熱殺菌前の菌数10CFU)を培地に加え、37℃、5%の二酸化炭素存在下で72時間培養した。
【0041】
培養後、上清中のIFN−γ及びIL−4濃度をバイオ−プレックス サスペンション アレイ システム(Bio-Plex Suspension Array System:BioRad Laboratories社製)を用いたマイクロビーズ法によって測定し、蛍光強度値を決定した。ビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株を加えなかったものを無刺激対照(−)とした。試験の結果を表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
上記試験の結果、ビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株の添加により、上清中のIFN−γ濃度が上昇したが、IL−4濃度は減少した。IFN−γはTh1細胞の、またIL−4はTh2細胞の出す代表的なサイトカインであることから、IFN−γ/IL−4比を算出して、Th1/Th2バランスの指標とした。ビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株の添加により、Th1/Th2バランスは165から2,832に上昇した。
【0044】
これより、ビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株は、Th1/Th2バランスをTh1側に調整する能力があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のビフィドバクテリウム属微生物は、Th17の分化を抑制し、IL−17の産生を抑制するものであるので、IL−17との関連が示唆されている疾患の予防・治療に用いることのできる飲食品や医薬品に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1に示す16SrRNA遺伝子の塩基配列を相同性97%以上で含むビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物。
【請求項2】
以下の(イ)〜(ヘ)からなる群から選ばれる分類学的性質の1種または2種以上を有する請求項1記載のビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物。
(イ)マウス脾臓細胞、加熱殺菌したビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物、トランスフォーミング増殖因子ベータおよびインターロイキン−6を混合したものを、72時間培養した後、上清中のインターロイキン−17の産生量が、前記微生物を添加しない場合の30%以下
(ロ)G+C含量が56±2mol%
(ハ)嫌気培養しないと生育しない
(ニ)消化管内で有害な酵素活性であるβ−グルクロニダーゼ活性はない
(ホ)芽胞は形成せず、桿状の細胞形態をとる
(ヘ)マウス脾臓細胞と、加熱殺菌したビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物を混合したものを、72時間培養した後、上清中のインターフェロン−γの産生量とインターロイキン−4の産生量の比が、前記微生物を添加しない場合の2倍以上
【請求項3】
上記ビフィドバクテリウム属微生物が、ビフィドバクテリウム・エスピー(Bifidobacterium sp.)CFB1株(寄託番号FERM P−21789)である請求項1または2に記載のビフィドバクテリウム属微生物。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れかに記載のビフィドバクテリウム属微生物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項5】
インターロイキン−17の産生を抑制するものである請求項4記載の飲食品。
【請求項6】
インターフェロン−γの産生を促進し、かつ、インターロイキン−4の産生を抑制するものである請求項4または5記載の飲食品。
【請求項7】
発酵乳製品である請求項4ないし6の何れかに記載の飲食品。
【請求項8】
請求項1ないし3の何れかに記載のビフィドバクテリウム属微生物を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項9】
インターロイキン−17の産生を抑制するものである請求項8記載の医薬品。
【請求項10】
インターフェロン−γの産生を促進し、かつ、インターロイキン−4の産生を抑制するものである請求項8または9記載の医薬品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−246523(P2010−246523A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286169(P2009−286169)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(507045889)クロスフィールドバイオ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】