説明

新規ピラノピリダジン誘導体とその用途

【課題】悪性腫瘍に対して優れた抗腫瘍効果を示す新しい抗腫瘍剤が望まれている。
【解決手段】下記一般式(1)


[式中、基A及び基Dはそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、低級ハロゲノアルキル基、低級アルコキシ基、水酸基、ニトロ基、ニトリル基若しくはハロゲン原子を、あるいは、基A及び基Dが結合して形成するメチレンジオキシ基を示し、基X及び基Yはそれぞれ独立に水素原子、水酸基若しくは低級アルコキシ基、あるいは、基X及び基Yが一緒になって=Oを示し、基Zは低級アルキル基を示す]
で表されるピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラノピリダジン誘導体及びその薬理学的に許容される塩、並びにその用途、特に抗腫瘍剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍とは正常の生体機構からはずれて生体内で増殖を続け、治療をしなければ宿主の死を招くような細胞群である。悪性腫瘍の治療は、外科的な切除、放射線照射、ホルモン療法又は化学療法が一般的であり、特に悪性固形腫瘍の治療においては外科的手術が第一選択となっている。放射線療法、ホルモン療法及び化学療法は、手術前又は手術後の補助療法あるいは手術による治療が不可能と判断された悪性固形腫瘍の治療に用いられるのが一般的である。ホルモン療法や化学療法等は、手術で切除する範囲を狭め、又、手術によって切除しきれない腫瘍を縮小・消失させ再発を予防するために使用されている。しかしながら、手術は癌患者に対して肉体的・精神的な苦痛を与え、更に、腫瘍が転移していれば切除は広範囲にわたることとなり手技的にも困難を極めているのが現状である。
【0003】
ところで、本発明に関する3−フェニル−7,8−ジヒドロ−ピラノ[4,3−c]ピリダジン骨格を有する化合物は知られておらず、該化合物のジヒドロピラン環を構成する酸素原子が炭素原子に置換した構造であるシンノリン誘導体とその抗腫瘍活性については特許文献1に記載されている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/052866号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように化学療法が悪性固形腫瘍に対して主たる治療方法ではないことの理由は、悪性固形腫瘍に対する広い抗腫瘍スペクトルを持ち、且つ、重篤な副作用がない有効な薬剤が存在しなかったからである。従って、新規な抗腫瘍剤が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者等は新規ピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩が抗腫瘍活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は
1)下記一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、基A及び基Dはそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、低級ハロゲノアルキル基、低級アルコキシ基、水酸基、ニトロ基、ニトリル基若しくはハロゲン原子を、あるいは、基A及び基Dが結合して形成するメチレンジオキシ基を示し、基X及び基Yはそれぞれ独立に水素原子、水酸基若しくは低級アルコキシ基、あるいは、基X及び基Yが一緒になって=Oを示し、基Zは低級アルキル基を示す]
で表されるピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩;
【0010】
2)一般式(1)の基Aが水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲノアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、ニトリル基若しくはハロゲン原子であり、基Dが水素原子であるか、あるいは、基A及び基Dが結合して形成するメチレンジオキシ基であり、基X及び基Yがそれぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、あるいは、基X及び基Yが一緒になって=Oであり、基Zが炭素数1〜6の鎖状若しくは環状アルキル基である上記1)記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩;
【0011】
3)基Aがトリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトリル基若しくはフッ素原子であり、基Dが水素原子であるか、あるいは、基A及び基Dが結合して形成するメチレンジオキシ基であり、基Zが炭素数1〜3の鎖状若しくは環状アルキル基である上記2)記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩;
4)基Aがm−トリフルオロメチル基、基Dが水素原子、基Xが水酸基又はメトキシ基で基Yが水素原子、あるいは、基X及び基Yが一緒になって=O、基Zがメチル基である上記1)〜3)のいずれか一項に記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩;
【0012】
5)上記1)〜4)のいずれか一項に記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分とする細胞増殖抑制剤;
6)上記1)〜4)のいずれか一項に記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤;
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、腫瘍の予防又は治療に有効な新規ピラノピリダジン誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩とそれを有効成分とする細胞増殖抑制剤又は抗腫瘍剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩は、上記一般式(1)[式中、基A及び基Dはそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、低級ハロゲノアルキル基、低級アルコキシ基、水酸基、ニトロ基、ニトリル基若しくはハロゲン原子を、あるいは、基A及び基Dが結合して形成するメチレンジオキシ基を示し、基X及び基Yはそれぞれ独立に水素原子、水酸基若しくは低級アルコキシ基、あるいは、基X及び基Yが一緒になって=Oを示し、基Zは低級アルキル基を示す]で表される。
【0015】
本発明において=Oとはカルボニル基の酸素原子のついた二重結合の意味である。
【0016】
本発明において低級アルキル基とは、炭素数1〜6の鎖状又は環状アルキル基が挙げられ、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜3の鎖状又は環状アルキル基が好ましく、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基等が挙げられる。
【0017】
基A又は基Dにおける低級アルキル基として好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
基Zにおける低級アルキル基として好ましくは、炭素数1〜3の鎖状又は環状アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基等が挙げられ、、特にメチル基が好ましい。
【0018】
本発明において低級ハロゲノアルキル基とは、上記の低級アルキル基の水素原子がハロゲン原子で置換された基が挙げられ、好ましくはフッ素原子又は塩素原子で置換された炭素数1〜3の鎖状又は環状アルキル基である。ハロゲン原子の置換数は、1〜置換可能な最大数である。具体的には、例えば、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、モノフルオロプロピル基等が挙げられ、トリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0019】
本発明において低級アルコキシ基とは、炭素数1〜6の鎖状又は環状アルキル基が酸素原子と結合した基であり、具体的には例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロピルオキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、シクロブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が酸素原子と結合した基でメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基である。
【0020】
本発明においてハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子である。
【0021】
本発明の一般式(1)で表される化合物の基Aとしては、例えば、ニトリル基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基等が挙げられ、好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0022】
本発明の一般式(1)で表される化合物の基Dとしては、例えば、水素原子、ニトリル基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基等が挙げられ、好ましくは水素原子である。
【0023】
本発明の一般式(1)で表される化合物の基Xとしては水素原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、水酸基又はメトキシ基が好ましい。基Yとしては水素原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、水素原子が好ましい。又、基X及び基Yが一緒になった=Oも好ましい。
【0024】
本発明の一般式(1)で表されるピラノピリダジン誘導体とは、例えば、以下の表に挙げる化合物群である。表中、mは置換位置がメタ位を、pは置換位置がパラ位を、c−Prはシクロプロピル基を示す。
【0025】

注1 基X及び基Yが一緒になって=Oを示す。
注2 基A及び基Dが結合してメチレンジオキシ基を示す。
【0026】
一般式(1)で表されるピラノピリダジン誘導体に立体異性体、エナンチオマー、ジアステレオマーが存在する場合にはその全ての異性体及びそれらの混合物も本発明に含まれる。又、該誘導体の水和物や溶媒和物も本発明に含まれる。
【0027】
本発明における薬理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸等の鉱酸との塩、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、安息香酸、酒石酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸との塩等が挙げられる。又、これらの塩は通常の造塩反応に付すことにより容易に調製される。
【0028】
本発明のピラノピリダジン誘導体は、例えば以下の方法にて製造が可能である。
【化2】

【0029】
[式中、A、D、Zは前記と同じ意味を示し、halはハロゲン原子を示す]
まず、一般式(1)で表される化合物中、基X及び基Yが一緒になって=Oを形成する化合物、即ち上記一般式(7)で表される化合物の合成法を示す。
【0030】
一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物を水素化ナトリウム等の塩基を用いて縮合して一般式(5)で表される縮合体を得る。一般式(5)で表される縮合体は単離してヒドラジンで処理してもよいが、単離精製せずにヒドラジンで処理する事により一般式(6)で表される環化体を得る。
【0031】
一般式(6)で表される環化体を酢酸若しくはトルエン等の溶媒中で加熱し空気酸化することにより一般式(7)で表されるピラノピリダジン誘導体を合成することができる。
【0032】
次いで、一般式(7)で表される化合物のカルボニル基を水素化ジイソブチルアルミニウム等の反応剤を用いて還元することにより、一般式(8)で表されるピラノピリダジン誘導体を得る。
【0033】
一般式(8)で表される化合物をオルトギ酸アルキル等の溶媒中、p−トルエンスルホン酸等の酸で処理することにより、アセタール構造を有する一般式(9)で表される化合物(一般式(1)で基Xがアルコキシ基、基Yが水素原子である化合物)へと変換される。
【0034】
一方、一般式(8)で表される化合物を三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体等のルイス酸、又は酸性イオン交換樹脂等の存在下、トリエチルシラン等の還元剤を用いて還元することにより、一般式(1)で基X及び基Yが水素原子である化合物へと導くことができる。
【0035】
又、一般式(7)で表される化合物とアルコールとを反応させ、一般式(1)で基X及び基Yがアルコキシ基である化合物へと導くことができる。
【0036】
上記反応式中一般式(4)で表される化合物は市販品として入手可能なものもあるが、文献公知の方法に準じて、例えば、アセトフェノン誘導体をハロゲン化することにより調製することができる。
上記反応式中一般式(3)で表される化合物は、例えば、文献公知の方法に準じて以下に示す方法により調製することができる。
【0037】
【化3】

[式中、Zは上記と同じ意味を示す。]
【0038】
即ち、一般式(11)で表される化合物と一般式(10)で表される酢酸t−ブチル(市販品)とをリチウムヘキサメチルジシラジド等の塩基を用いて縮合し、一般式(12)で表されるβ−ケトエステル体とし、次いで、トリフルオロ酢酸等の酸で処理して一般式(3)で表される化合物へと導く。
【0039】
一般式(11)で表される化合物は市販品として入手可能なものもあるが、文献公知の方法に準じて、Z−CHO[Zは上記と同じ意味を示す]と酢酸エチルとのアルドール縮合物又はZ−CHOとブロモ酢酸エチルとのReformatsky反応生成物として調製することもできる。
【0040】
本発明のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩は、後記するように細胞増殖抑制作用を有し、細胞増殖抑制剤又は抗腫瘍剤として使用される。
【0041】
その際、本発明のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩は、単独又は賦形剤あるいは担体と混合して懸濁液、乳剤、注射剤、吸入剤、錠剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、経口用液剤、座剤、経皮用液剤、経皮用貼付剤、軟膏剤、経粘膜液剤、経粘膜添付剤等の製剤として、経口的に又は非経口的に投与される。賦形剤又は担体等の添加剤としては薬剤学的に許容されるものが選ばれ、その種類及び組成は投与経路や投与方法によって決まる。例えば、注射剤の場合、一般に食塩、あるいは、グルコ−スやマンニト−ル等の糖類が望ましい。経口剤の場合、でんぷん、乳糖、結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム等が望ましい。所望に応じて上記製剤中に助剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝液及び/又はその他の通常使用される添加剤が含まれていてもよい。
【0042】
製剤中における本発明のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の含量は製剤により種々異なるが、通常、0.1〜100重量%、好ましくは1〜98重量%である。例えば、注射剤の場合には、通常、0.1〜30重量%程度、好ましくは1〜10重量%程度の有効成分を含むようにすればよい。経口剤の場合には、添加剤とともに錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤、ドライシロップ剤等の形態で用いられる。カプセル剤、錠剤、顆粒、散剤は一般に5〜100重量%、好ましくは25〜98重量%の有効成分を含む。
【0043】
投与量は患者の年令、性別、体重、症状、治療目的等により決定されるが、治療量は通常、非経口投与で0.001〜100mg/kg/日であり、経口投与で0.01〜500mg/kg/日、好ましくは0.1〜100mg/kg/日である。これを1回あるいは2〜4回に分けて投与する。
【実施例】
【0044】
以下に実施例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0045】
本実施例において、ESIとはElectron Spray Ionizationの略であり、分子量測定におけるイオン化法の1つである。
【0046】
実施例1 7−メチル−3−(3−トリフルオロメチル)フェニル−7,8−ジヒドロ−ピラノ[4,3−c]ピリダジン−5−オン(化合物番号1)の合成
(1) 6−メチル−5,6−ジヒドロピラン−2,4−ジオン(Zがメチル基である一般式(3)で表される化合物;862.0mg)及び2−ブロモ−3'−トリフルオロメチルアセトフェノン(Aがm−CF基、Dが水素原子、halが臭素原子である一般式(4)で表される化合物;2.34g)のジメチルホルムアミド(3.4ml)溶液に、氷水冷却下、水素化ナトリウム(油性60%、323mg)を加えた。徐々に粘性が高くなり攪拌が困難となったが、室温へ戻すと攪拌が可能となったため44時間、攪拌を継続した。反応液に2規定塩酸を加え、酢酸エチルで分液ロートへ移液した。水層を除去した後、水道水で洗浄した。有機層をエバポレート(溶媒溜去)することにより、3−[2−オキソ−2−(3−トリフルオロメチルフェニル)]エチル−6−メチル−5,6−ジヒドロピラン−2,4−ジオン(Aがm−CF基、Dが水素原子、Zがメチル基である一般式(5)で表される化合物)を得た。この化合物は単離精製することなく、次の(2)の反応に供した。
MS(ESI)
m/z 315 [M+H]
【0047】
(2)上記(1)で得られた残渣にメタノール(9ml)及びヒドラジン水和物(0.15ml)を加え、室温で3.5日攪拌した。反応液をエバポレートした後、固体性残渣に2−プロパノール(12ml)を加え、55℃で加熱溶解した。溶液を室温に戻して一晩攪拌した後、析出固体を濾取することにより粗結晶(687.6mg)を得た。この粗結晶には、一般式(6)及び一般式(7)で表される化合物がほぼ1/1で混合していた。
MS(ESI)
m/z 311 [M+H](一般式6の化合物に相当)
MS(ESI)
m/z 309 [M+H](一般式7の化合物に相当)
【0048】
粗結晶に酢酸(4ml)を加え、60℃で20時間加熱した。反応溶液をエバポレートして得られた残渣を酢酸エチルで分液ロートへ移し、水道水、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、有機層をエバポレートして得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製した。目的物を含む画分を集めてエバポレートすることにより、固体性残渣を得た。得られた固体性残渣を熱酢酸エチル/n−ヘキサン(1/15)で再結晶することにより、目的化合物(210.2mg)を得た。
MS(ESI)
m/z 309 [M+H]
【0049】
実施例2 5−ヒドロキシ−7−メチル−3−(3−トリフルオロメチル)フェニル−7,8−ジヒドロ−ピラノ[4,3−c]ピリダジン(化合物番号2)の合成
実施例1で得られた7−メチル−3−(3−トリフルオロメチル)フェニル−7,8−ジヒドロ−ピラノ[4,3−c]ピリダジン−5−オン(210.2mg)のトルエン(5ml)溶液を−70℃に冷却し、水素化ジイソブチルアルミニウム(0.82ml)を滴下した。30分後、室温へ戻して更に1.5時間攪拌した。反応液に10%ロッセル塩水溶液を加えた後、酢酸エチルで分液ロートへ移した。水層を除去した後、飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、有機層をエバポレートして残渣を得た。得られた残渣中には目的物と共にピラジン環部分がジヒドロピラジンへと還元された化合物も含まれていたので、次の操作を行った。
【0050】
得られた残渣にトルエン(5ml)を加え、100℃で一晩攪拌した。反応溶液をエバポレートして得られた残渣を分取TLC(0.5mm厚、20cmX20cm、2枚、酢酸エチル/n−ヘキサン=4/1)で精製することにより、目的化合物(63.2mg)を得た。
MS(ESI)
m/z 311 [M+H]
【0051】
実施例3 7−メチル−5−メチルオキシ−3−(3−トリフルオロメチル)フェニル−7,8−ジヒドロ−ピラノ[4,3−c]ピリダジン(化合物番号3)の合成
実施例2で得られた5−ヒドロキシ−7−メチル−3−(3−トリフルオロメチル)フェニル−7,8−ジヒドロ−ピラノ[4,3−c]ピリダジン(44.1mg)のオルトギ酸メチル(2ml)溶液にp−トルエンスルホン酸1水和物(40.6mg)を加え、室温で2時間攪拌した。反応溶液をエバポレートして得られた残渣を、分取TLC(0.5mm厚、20cmX20cm、2枚、n−ヘキサン/酢酸エチル=1.5/1)で精製することにより、目的化合物(8.2mg)を得た。
MS(ESI)
m/z 325 [M+H]
【0052】
試験例 乳癌細胞MCF−7を用いた in vitroにおける抗腫瘍効果
2000個の乳癌細胞MCF−7を10%牛胎児血清添加のRPMI 1640培地(旭テクノクラス社)を用い96穴プレートに播種した。細胞を37℃、5%CO/95%Airの条件下で24時間培養後、化合物番号3の化合物を添加し、更に3日間培養した。細胞を0.05%のMethylene Blue溶液で染色し、660nMの吸光度をマイクロプレートリーダー(Benchmark Plus・BIO RAD製)で測定し、増殖抑制率を下記式で求めた。添加濃度を変えて求めた増殖抑制率から、化合物番号3の化合物のMCF−7に対する50%細胞増殖抑制濃度は0.157μg/mlであり、乳癌細胞の増殖を抑制し強い抗腫瘍効果を有していることが示された。
増殖抑制率=(1−薬剤添加群の吸光度÷対照群の吸光度)×100

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

[式中、基A及び基Dはそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、低級ハロゲノアルキル基、低級アルコキシ基、水酸基、ニトロ基、ニトリル基若しくはハロゲン原子を、あるいは、基A及び基Dが結合して形成するメチレンジオキシ基を示し、基X及び基Yはそれぞれ独立に水素原子、水酸基若しくは低級アルコキシ基、あるいは、基X及び基Yが一緒になって=Oを示し、基Zは低級アルキル基を示す]
で表されるピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
【請求項2】
一般式(1)の基Aが水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲノアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、ニトリル基若しくはハロゲン原子であり、基Dが水素原子であるか、あるいは、基A及び基Dが結合して形成するメチレンジオキシ基であり、基X及び基Yがそれぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、あるいは、基X及び基Yが一緒になって=Oであり、基Zが炭素数1〜6の鎖状若しくは環状アルキル基である請求項1記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
【請求項3】
基Aがトリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトリル基若しくはフッ素原子であり、基Dが水素原子であるか、あるいは、基A及び基Dが結合して形成するメチレンジオキシ基であり、基Zが炭素数1〜3の鎖状若しくは環状アルキル基である請求項2記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
【請求項4】
基Aがm−トリフルオロメチル基、基Dが水素原子、基Xが水酸基又はメトキシ基で基Yが水素原子、あるいは、基X及び基Yが一緒になって=O、基Zがメチル基である請求項1〜3のいずれか一項に記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分とする細胞増殖抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のピラノピリダジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤。

【公開番号】特開2006−225333(P2006−225333A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41884(P2005−41884)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】