説明

新規フェニルイミダゾオキサゾール有機金属錯体およびこれを有する有機発光素子

【課題】青色領域で燐光発光し、新規なフェニルイミダゾオキサゾール誘導体を配位子にもつ有機金属錯体および、高色純度の青色で発光する有機発光素子を提供する。
【解決手段】


R〜R3は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシ基あるいは置換アリール基、Lは、配位子、nは0または1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規フェニルイミダゾオキサゾール有機金属錯体およびこれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、一対の電極とそれらの間に配置される有機化合物層とを有する素子である。これら一対の電極から電子および正孔を注入することにより、有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子を生成し、該励起子が基底状態にもどる際に光を放出する。
有機発光素子は有機エレクトロルミネッセンス素子、あるいは有機EL素子とも呼ばれる。
【0003】
燐光発光を用いた有機EL素子は、高効率の発光が期待される。
フルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合、良好な色純度、高効率の青色発光が必要となるが、この問題に関してまだ十分に解決されていない。
【0004】
特許文献1には、フェニルイミダゾピリジン配位子を有するイリジウム錯体a−1が記載されている。
【0005】
非特許文献1には、フェニルイミダゾピリジン配位子とアセチルアセトン配位子を有するイリジウム錯体a−2が記載されている。
【0006】
非特許文献2には、フェニルイミダゾピリジンb−1の合成法が記載されている。
【0007】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0223997号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chemistry Letters,2005,34(9),1222−1223
【非特許文献2】Journal of Heterocyclic Chemistry,1997,34(2),589−599
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
イリジウム錯体a‐1及びa−2は緑色に発光する。
【0011】
非特許文献2には、フェニルイミダゾオキサゾール化合物b−1の合成法が記載されているものの、有機金属錯体の開示はない。
【0012】
本発明では青色領域で燐光発光し、新規なフェニルイミダゾオキサゾールを配位子にもつ有機金属錯体を提供する。そして、それを有する高色純度の青色で発光する有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
よって本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機金属錯体を提供する。
【0014】
【化2】


[1]
【0015】
一般式[1]において、
Irはイリジウムである。
【0016】
R1乃至R3は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基あるいはアリール基の群からそれぞれ独立に選ばれる。
前記アリール基は、フェニル基またはビフェニル基のいずれかである。
前記アリール基は、さらに炭素数1以上4以下のアルキル基を置換基として有してもよい。
【0017】
Lは、下記構造式のいずれかで示される配位子であり、R4及びR5は炭素数1以上4以下のアルキル基であり互いに同じでも異なっていてもよい。
nは0または1の整数である。
*は前記イリジウムとの結合もしくは配位する位置を表す。
【0018】
【化3】

【0019】
さらに炭素数1以上4以下のアルキル基を置換してもよい。
【0020】
R3は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基からそれぞれ独立に選ばれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、青色領域で燐光発光し、新規なフェニルイミダゾオキサゾールを配位子にもつ新規有機金属錯体を提供できる。また、それを有する青色で発光する有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】有機発光素子と有機発光素子と接続するスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機金属錯体である。
【0024】
【化4】


[1]
【0025】
一般式[1]において、
Irはイリジウムである。
【0026】
R1乃至R3は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基あるいはアリール基の群からそれぞれ独立に選ばれる。
前記アリール基は、フェニル基またはビフェニル基のいずれかである。
前記アリール基は、さらに炭素数1以上4以下のアルキル基を置換基として有してもよい。
【0027】
Lは、下記構造式のいずれかで示される配位子であり、R4及びR5は炭素数1以上4以下のアルキル基であり互いに同じでも異なっていてもよい。
nは0または1の整数である。
*は前記イリジウムとの結合もしくは配位する位置を表す。
【0028】
【化5】

【0029】
式[1]の上記R1乃至R3にかかわる炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基あるいはアリール基を具体的に挙げる。
炭素数1以上4以下のアルキル基とは具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基である。
炭素数1以上4以下のアルコキシ基とは具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロピロキシ基、イソプロピロキシ基、t−ブトキシ基である。
アリール基とは具体的にはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基である。
アリール基が置換基としてさらに有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基とは具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基である。
R4及びR5にかかわる炭素数1以上4以下のアルキル基とは具体的にはメチル基、t−ブチル基である。
【0030】
さらに、一般式[1]で示される有機金属錯体は、より好ましくはnが0である。具体的には下記一般式[2]で示される。
【0031】
【化6】


[2]
【0032】
R2は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基あるいはフェニル基からそれぞれ独立に選ばれる。
上記フェニル基は、さらに炭素数1以上4以下のアルキル基を置換してもよい。
【0033】
R3は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基からそれぞれ独立に選ばれる。
【0034】
式[2]の上記R2乃至R3にかかわる炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基を具体的に挙げる。
炭素数1以上4以下のアルキル基とは具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基である。
炭素数1以上4以下のアルコキシ基とは具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロピロキシ基、イソプロピロキシ基、t−ブトキシ基である。
【0035】
フェニル基が置換基としてさらに有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基とは具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基である。
R3にかかわる炭素数1以上4以下のアルキル基とは具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基である。
R3にかかわる炭素数1以上4以下のアルコキシ基とは具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロピロキシ基、イソプロピロキシ基、t−ブトキシ基である。
【0036】
本発明に係る前記一般式[1]に記載の有機金属錯体は、青色領域で発光する。発光は燐光である。
【0037】
本発明により安定な分子構造であり且つ青色領域で発光する有機金属錯体は、を提供することができる。
【0038】
(有機金属錯体A1と有機金属錯体a−1との比較)
上述の有機金属錯体a−1と本発明に係る有機金属錯体A1とを比較して説明する。
【0039】
比較対象のフェニルイミダゾピリジン配位子を有する有機金属錯体a−1と本発明に係る有機金属錯体A1の構造式に、環を構成する位置番号を付与して説明する。すなわち2つの有機金属錯体は以下の構造式で示される。
【0040】
【化7】


a−1
【0041】
【化8】


A1
【0042】
有機金属錯体a−1はイミダゾピリジン骨格を有し、一方で本発明に係る有機金属錯体はA1イミダゾオキサゾール骨格を有する。この違いにより発光波長が大きく異なる。これは、それぞれ配位子のイミダゾール部位に対して、π共役の拡張の程度が異なるためである。
【0043】
有機金属錯体a−1は、位置番号1から数えたときに、2乃至5まで4つの炭素上にπ共役が拡張している。一方、有機金属錯体A1は、位置番号2に酸素原子がある。そのためそこでπ共役が切断されている。つまり、有機金属錯体a−1は、π共役がイミダゾール部位からピリジン部位まで拡張しているのに対して、有機金属錯体A1は、イミダゾール部位からフラン部位へのπ共役が拡張していない。
【0044】
したがって、有機金属錯体a−1よりも、有機金属錯体A1の方がより短波長の発光をする(発光スペクトルの最大ピーク波長を比較した場合、短波長であるという意味である)。これにより、有機金属錯体A1は青色発光する。ここで、青色発光の領域とは、発光スペクトルのピーク波長が430以上480nm以下の領域のことである。
【0045】
表1に、それぞれの有機金属錯体のT1の計算値を示した。<β>T1とは最低三重項励起エネルギーのことである。本発明においては、このエネルギーを波長に換算した値をT1として記載する。尚、計算は以下に示す量子化学計算法を用いて行った。
【0046】
その結果を表1に示す。イミダゾピリジン骨格を有する有機金属錯体a−1は、T1が524nmであり緑色に発光する。有機金属錯体a‐2の実測の発光波長は516nmである。
【0047】
これらイミダゾピリジン骨格を有する有機金属錯体は、緑色に発光する。一方、イミダゾオキサゾール骨格を有する本発明に係る有機金属錯体A1は、T1が448nmであり青色に発光する。
【0048】
なお、表1にはフェニルイミダゾール配位子を有する有機金属錯体a‐2のT1の計算値も示している。この結果によると、T1が411nmでありこの有機金属錯体は紫色に発光するといえる。
【0049】
本発明に係る有機金属錯体のフェニルイミダゾオキサゾール配位子のフラン部位は、イミダゾール部位からのπ共役の拡張を切断するだけではなく、イミダゾール部位に対して電子的な効果が加えている。これにより、有機金属錯体a‐2よりも長波長の発光が得られ、青色領域で発光する。また、本発明に係る有機金属錯体A1は、イミダゾール部位の芳香環が一般式に示すように縮環していることで、有機金属錯体a‐2よりも熱に安定性である。
【0050】
【表1】

【0051】
T1を算出する量子化学計算は、密度汎関数法(Density Functional Theory)を採用し、汎関数にはB3PW91を用いた。基底関数はGaussian 03,Revision D.01ではLanl2DZを用いた。
* Gaussian 03, Revision D.01,
M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria,
M. A. Robb, J. R. Cheeseman, J. A. Montgomery, Jr., T. Vreven,
K. N. Kudin, J. C. Burant, J. M. Millam, S. S. Iyengar, J. Tomasi,
V. Barone, B. Mennucci, M. Cossi, G. Scalmani, N. Rega,
G. A. Petersson, H. Nakatsuji, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota,
R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao,
H. Nakai, M. Klene, X. Li, J. E. Knox, H. P. Hratchian, J. B. Cross,
V. Bakken, C. Adamo, J. Jaramillo, R. Gomperts, R. E. Stratmann,
O. Yazyev, A. J. Austin, R. Cammi, C. Pomelli, J. W. Ochterski,
P. Y. Ayala, K. Morokuma, G. A. Voth, P. Salvador, J. J. Dannenberg,
V. G. Zakrzewski, S. Dapprich, A. D. Daniels, M. C. Strain,
O. Farkas, D. K. Malick, A. D. Rabuck, K. Raghavachari,
J. B. Foresman, J. V. Ortiz, Q. Cui, A. G. Baboul, S. Clifford,
J. Cioslowski, B. B. Stefanov, G. Liu, A. Liashenko, P. Piskorz,
I. Komaromi, R. L. Martin, D. J. Fox, T. Keith, M. A. Al-Laham,
C. Y. Peng, A. Nanayakkara, M. Challacombe, P. M. W. Gill,
B. Johnson, W. Chen, M. W. Wong, C. Gonzalez, and J. A. Pople,
Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2004.
【0052】
なおフェニルイミダゾオキサゾール化合物b‐1自体は、すなわち有機金属錯体の配位子として用いないと青色領域の発光はしない。一方、本発明に係る有機金属錯体は、重原子金属であるイリジウムとフェニルイミダゾオキサゾールが錯化することで燐光発光し、青色領域での高効率な発光が可能となる。
【0053】
本発明に係る有機金属錯体は、有機発光素子の発光層に好ましく用いることができる。
【0054】
発光層のゲスト材料として好ましく用いることができる。ゲスト材料はドーパント材料とも呼ぶことができる。ここで、ホスト材料とは発光層中で最も重量比が大きい材料であり、ゲスト材料とは発光層中で重量比がホスト材料よりも小さく主たる発光をする材料である。
【0055】
また、本発明に係る有機金属錯体は、発光層以外の各層、即ちホール注入層、ホール輸送層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、あるいは電子注入層のいずれの層に用いても良い。
【0056】
(本発明に係る有機化合物の例示)
前記一般式[1]における化合物の具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0057】
【化9】

【0058】
【化10】

【0059】
(例示化合物の性質)
一般式[1]に関する有機金属錯体の具体例をA群とB群に示した。A群は全て同種の配位子、B群は異配位子を有する。このうちA群の方が有機金属錯体において炭素と金属元素との結合の数が3つあるためB群のそれよりも多く、熱安定性が高くより好ましい。A群のA1からA11まではアリール基を有さない。A12からA15はアリール基を有する。A1からA11はアリール基を有さないため、分子量がA12からA15よりも小さく低い温度で昇華することが可能である。したがって、アリール基を有していないA1からA11はアリール基を有するA12からA15よりも好ましい。
【0060】
いずれもT1が青色領域に有する有機金属錯体を提供できる。表2に例示化合物のT1の計算値と実測値を示した。このように、基本骨格であるフェニルイミダゾオキサゾールに置換基を設けることで、発光波長を微調整することが可能である。尚、計算は表1の計算と同様にして行った。実測値はトルエン溶液中77Kで測定した0−0遷移における燐光発光波長である。
【0061】
【表2】

【0062】
(有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0063】
本実施形態に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置される有機化合物層とを有し、この有機化合物層が一般式[1]で示される有機金属錯体を有する。
【0064】
本発明に係る有機発光素子が有する有機化合物層は、単層であっても複数層であっても構わない。複数層とは、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層、エキシトンブロック層等から適宜選択される層である。もちろん、前記群の中から複数を選択し、かつそれらを組み合わせて用いることができる。
【0065】
本実施形態に係る有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0066】
その場合の素子形態は、基板側の電極から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも、基板と逆側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。
【0067】
本実施形態に係る有機発光素子の発光層のホスト材料に対するゲスト材料の濃度は、0.1wt%以上30wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上20wt%以下であることがより好ましい。
【0068】
なお、本実施形態に係る有機発光素子の発光層のホスト材料の濃度は、発光層の全体量に対して、50wt%以上99.9wt%以下であり、好ましくは80wt%以上99.5wt%以下である。
【0069】
また、本発明に係る有機金属錯体は、有機発光素子の発光層のホスト材料としても用いてもよい。さらに、有機金属錯体をアシスト材料または第2ホスト材料としても用いてもよい。アシスト材料または第2ホスト材料とは発光層の中で重量比がホスト材料よりも小さくゲスト材料よりも大きい材料である。その効果として、ゲスト材料へのエネルギー移動を効率良くさせることや、発光層への電荷の注入を促進させることができる。
【0070】
その際、本発明に係る有機金属錯体は青色領域の大きいバンドギャップを有するため、それよりバンドギャップの小さい緑色発光素子や赤色発光素子にも用いることができる。この場合本発明に係る有機金属錯体はゲスト材料としては用いられない。そしてこのような使い方をする場合は、青色、緑色、赤色に限らず、水色、青緑色、黄色、橙色および白色等の有機発光素子にも用いることができる。
【0071】
本発明の一般式[1]で表される有機金属錯体を、有機発光素子の正孔注入層または正孔輸送層として用いることができる。それは、本発明に係る有機化合物はHOMO準位が高く(真空準位に近い方向)、陽極から有機層への正孔注入を助けることができるためである。
【0072】
その際、正孔注入層または正孔輸送層を、本発明に係る有機金属錯体のみで構成してもよいし、その他の材料と組み合わせて用いても良い。
【0073】
本発明に係る有機金属錯体を正孔注入層または正孔輸送層として用いた場合、注入性が改善されるため、低電圧で駆動できる有機発光素子を提供することが可能である。
【0074】
本発明に係る有機発光素子は本発明に係る有機金属錯体以外にも、必要に応じて従来公知の正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料あるいはホスト材料あるいはゲスト材料あるいは電子注入性材料あるいは電子輸送性材料等を一緒に使用することができる。これら材料は低分子系でも高分子系でもどちらでもよい。
【0075】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0076】
正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料としては、正孔移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0077】
ホスト材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレン誘導体、縮合環芳香族化合物(例えばナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオレン誘導体、クリセン誘導体、など)、有機金属錯体(例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、有機イリジウム錯体、有機プラチナ錯体等)およびポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体、ポリ(チエニレンビニレン)誘導体、ポリ(アセチレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0078】
本発明に係る有機金属錯体をゲスト以外に用いた場合に、ゲスト材料として、以下に示す燐光発光性のIr錯体や、プラチナ錯体等を用いることができるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0079】
【化11】

【0080】
また、蛍光発光性のドーパントを用いることもでき、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0081】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料の正孔移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0082】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0083】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0084】
本実施形態に係る有機発光素子が有する層は、以下に示す方法により形成される。
【0085】
一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマ法あるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0086】
前記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0087】
有機発光素子を有する基板としてはガラス等の絶縁部材でもよいし、シリコン等の半導体でもよい。
【0088】
(有機発光素子の用途)
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどがある。
【0089】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例としてTFT素子とを有し、この有機発光素子の陽極または陰極とTFT素子のドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。TFT素子は基板の絶縁性表面に設けられている。
【0090】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像入力装置でもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0091】
次に、本実施形態に係る有機発光素子を使用した表示装置について図1を用いて説明する。
【0092】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子とを示した表示装置の断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0093】
この表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極3である。符号4はゲート絶縁膜4であり、5は半導体層である。
【0094】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0095】
有機化合物層12は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしている。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0096】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、MIM素子、a−Si型のトランジスタ素子等でもよい。スイッチング素子は半導体性である面に設けられてもよい。半導体性の面とは例えばシリコン基板の面である。
【実施例】
【0097】
(実施例1)
[例示化合物A1の合成]
【0098】
【化12】

【0099】
2−エトキシエタノール(4ml)溶媒を脱気した後、塩化イリジウム(III)0.16g(0.45mmol)水和物を加え、室温で30分撹拌した。その後、F1 0.20mg(0.94mmol)を加え、120度に加熱して6時間攪拌を行った。冷却後、水を加え、ろ過し水で洗浄した。これを乾燥することで、茶色の個体F3 0.27g(収率92%)を得た。
【0100】
【化13】

【0101】
2−エトキシエタノール(5ml)溶媒を脱気した後、F3 0.19g(0.15mmol)、アセチルアセトン35mg(0.45mmol)を加え、室温で30分撹拌した。その後、炭酸ナトリウム0.16g(1.9mmol)を加え、100度に加熱して6時間攪拌を行った。冷却後、メタノールを加え、ろ過しメタノールで洗浄した。これを乾燥することで、薄い黄緑色の個体F4 0.19g(収率90%)を得た。
【0102】
【化14】

【0103】
F4 180mg(0.252mmol)、F1 500mg(2.36mmol)を230度に加熱して3時間攪拌を行った。100℃まで冷却後、トルエン2mLを加え、室温になるまで撹拌した。その後ヘプタンを加えろ過を行った。ろ過物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;酢酸エチル)で精製し、薄い茶色固体F5 10.0mg(収率0.05%)を得た。
【0104】
質量分析法により、F5(例示化合物A1)のM+である826を確認した。
また、HNMR測定により、例示化合物A1の構造を確認した。
H NMR(DMSO,500MHz) σ(ppm):7.46(s,3H),7.18(d,J=7.5Hz,3H),6.89(d,J=7.5,3H),6.61(t,J=7.0,7.5Hz,3H), 6.50(t,J=7.0,7.5Hz,3H),3.50−3.25(m,18H)
【0105】
例示化合物A1についてトルエン希薄溶液中、77Kでの発光スペクトルを測定したところ、最大発光波長は456nmであった。装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。
【0106】
(実施例2)
[例示化合物A3の合成]
実施例1と同様にして、化合物F1を以下の化合物F6に変えて、例示化合物A3を合成した。
【0107】
質量分析法により、例示化合物A1のM+である868を確認した。
また、実施例1と同様にして例示化合物A3についてトルエン希薄溶液中、77Kでの発光スペクトルを測定したところ、最大発光波長は466nmであった。
【0108】
【化15】

【0109】
(実施例3)
[例示化合物A9の合成]
実施例1と同様にして、化合物F1を以下の化合物F7に変えて、例示化合物A9を合成した。
【0110】
質量分析法により、例示化合物A9のM+である916を確認した。
また、実施例1と同様にして例示化合物A9についてトルエン希薄溶液中、77Kでの発光スペクトルを測定したところ、最大発光波長は458nmであった。
【0111】
【化16】

【0112】
(実施例4)
[例示化合物A12の合成]
実施例1と同様にして、化合物F1を以下の化合物F8に変えて、例示化合物A12を合成した。
【0113】
質量分析法により、例示化合物A12のM+である1054を確認した。
また、実施例1と同様にして例示化合物A12についてトルエン希薄溶液中、77Kでの発光スペクトルを測定したところ、最大発光波長は465nmであった。
【0114】
【化17】

【0115】
(実施例5)
本実施例では、基板上に順次陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/エキシトンブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極が設けられた構成の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0116】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
正孔注入層(30nm) G1
正孔輸送層(10nm) G2
発光層(30nm) ホスト1 G3(重量比 90%)、ゲスト:A1 (重量比 10%)
エキシトンブロッキング層(10nm) G4
電子輸送層(30nm) G5
電子注入層(1nm) LiF
金属電極層(100nm) Al
【0117】
【化18】

【0118】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして印加電圧をかけたところ、電圧が6.0V時の発光輝度は1192cd/mで、発光スペクトルの最大ピーク波長が470nmの青色発光が観測された。
【0119】
(結果と考察)
以上のように、本発明に係わる有機金属錯体は、高色純度の青色で発光し、青色燐光発光する素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0120】
8 TFT素子
11 陽極
12 有機化合物層
13 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機金属錯体。
【化1】


[1]
一般式[1]において、
Irはイリジウムである。
R1乃至R3は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基あるいはアリール基の群からそれぞれ独立に選ばれる。
前記アリール基は、フェニル基またはビフェニル基のいずれかである。
前記アリール基は、さらに炭素数1以上4以下のアルキル基を置換基として有してもよい。
Lは、下記構造式のいずれかで示される配位子であり、R4及びR5は炭素数1以上4以下のアルキル基であり互いに同じでも異なっていてもよい。
nは0または1の整数である。
*は前記イリジウムとの結合もしくは配位する位置を表す。
【化2】

【請求項2】
nは0であることを特徴とする請求項1に記載の有機金属錯体。
【請求項3】
一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された有機化合物層とを有する有機発光素子であって、
前記有機化合物層は請求項1乃至2のいずれか1項に記載の有機金属錯体を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層は発光層であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
青色発光することを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
複数の画素を有し、前記複数の画素は、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続するスイッチング素子とをそれぞれ有することを特徴とする表示装置。
【請求項7】
画像情報を入力するための入力部と画像を出力するための表示部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記複数の画素は請求項3乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続するスイッチング素子をそれぞれ有することを特徴とする画像出力装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−240952(P2012−240952A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111506(P2011−111506)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】