説明

新規ヘモポエチン受容体蛋白質、NR12

【課題】既知のヘモポエチン受容体のアミノ酸配列から保存されているモチーフを抽出し、予測した配列をもとに新規なヘモポエチン受容体遺伝子(NR12)を提供する。
【解決手段】NR12遺伝子は造血系細胞を含む組織で発現が検出され、NR12には細胞膜貫通型と可溶型の2つ型が存在する。NR12は生体免疫調節、造血細胞調節に関与する新規なヘモポエチン受容体分子であり、同受容体と機能結合し得る新規造血性因子の検索や、免疫・造血系関連疾患の治療薬の開発に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規ヘモポエチン受容体蛋白質、それをコードする遺伝子、それらの製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の細胞の増殖や分化の制御、或いは分化成熟した細胞の機能維持、及び賦活化、さらには細胞死に至るまでを司る体液性因子として、これまでに数多くのサイトカインの存在が知られている。これらのサイトカインにはそれぞれ特異的な受容体が存在し、これらの受容体は構造上の類似性から幾つかのファミリーに分類されている(Hilton D.J., in "Guidebook to Cytokines and Their Receptors" edited by Nicola N.A. (A Sambrook & Tooze Publication at Oxford University Press), 1994, p8-16(非特許文献1))。
【0003】
一方受容体間の類似性と比較するとサイトカイン同士の一次構造上の相同性は低く、同一の受容体ファミリーに属するサイトカインメンバーの間でさえ、アミノ酸レベルでの顕著な相同性は認められない。このことは個々のサイトカインの機能特異性を説明すると同時に、個々のサイトカインによって誘導される細胞応答の類似性を説明する。
【0004】
上記サイトカイン受容体ファミリーの代表的なものとして、チロシンキナーゼ受容体、ヘモポエチン受容体、腫瘍壊死因子(TNF)受容体、トランスフォーミング増殖因子(TGF)受容体の各ファミリーが挙げられ、それぞれのファミリーで異なるシグナル伝達系の関与が報告されている。これらの受容体ファミリーのうち、特にヘモポエチン受容体ファミリーの多くは血液細胞あるいは免疫担当細胞に発現しており、そのリガンドであるサイトカインはしばしば造血因子あるいはインターロイキンと称される。これら造血因子、あるいはインターロイキン類のあるものは生体血中に存在し全身的な造血あるいは免疫機能の体液性調節に関与していると考えられる。
【0005】
このことは他の受容体ファミリーに対応するサイトカインが、しばしば局所での調節にのみ関与していると考えられる点とは対照的で、これらヘモポエチン類の一部のものはホルモン様因子として捉える事が可能である。また、逆に代表的なペプチド性ホルモンである成長ホルモン、プロラクチン、或いはレプチンの受容体もヘモポエチン受容体ファミリーに属する。上記ホルモン様の全身性調節様態から、これらのヘモポエチン類を投与することによる種々の疾患の治療への応用が期待される。事実、数多いサイトカイン類の中で臨床応用が行われているのは、エリスロポエチン、G-CSF、GM-CSF、IL-2であり、また現在臨床応用に向けた検討が行われている、IL-11、LIF、IL-12に加えて上記ペプチドホルモン類の成長ホルモン、プロラクチンを併せて考えると、前述の各種サイトカイン受容体スーパーファミリーのうち、ヘモポエチン受容体ファミリーに結合する新規サイトカインを探索する事により、より高い確率で臨床応用可能なサイトカインを見出すことが可能と考えられる。
【0006】
上に述べた様にサイトカイン受容体はファミリーメンバー間で構造上の類似性を有している。この類似性を利用して新規受容体を発見する試みは数多く行われており、特にチロシンキナーゼ受容体に関しては、その触媒部位に高度に保存された配列を利用して、既に数多くの受容体がクローニングされている(Matthews W. et al., Cell (UNITED STATES), 1991, 65 (7) p1143-52(非特許文献2))。これに対してヘモポエチン受容体はその細胞質領域にチロシンキナーゼの様な酵素活性ドメインを有しておらず、そのシグナル伝達は細胞質中に遊離状態で存在する、別のチロシンキナーゼ蛋白との会合を介して行われる事が知られている。JAKキナーゼ群と称される、これら細胞質性チロシンキナーゼとの受容体上の結合部位はファミリーメンバー間で一応保存されてはいるものの、その相同性はあまり高くない(Murakami M. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1991, 88, p11349-11353(非特許文献3))。一方これらヘモポエチン受容体を最もよく特徴付ける配列は、むしろ細胞外領域に存在し、特にTrp-Ser-Xaa-Trp-Ser(Xaaは任意のアミノ酸)の5アミノ酸から成るモチーフは、殆ど全てのヘモポエチン受容体に保存されている。従って、このモチーフ配列を利用した、新規ファミリーメンバーの探索により、新規ヘモポエチン受容体遺伝子を単離することが期待される。事実これまでにIL-11受容体(Robb, L. et al., J. Biol. Chem. 271 (23), 1996, 13754-13761(非特許文献4))、レプチン受容体(Gainsford T. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996, 93 (25) p14564-8(非特許文献5))及びIL-13受容体(Hilton D.J. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1996, 93 (1) p497-501(非特許文献6))などが、本アプローチにより同定されている。
【非特許文献1】Hilton D.J., in "Guidebook to Cytokines and Their Receptors" edited by Nicola N.A. (A Sambrook & Tooze Publication at Oxford University Press), 1994, p8-16
【非特許文献2】Matthews W. et al., Cell (UNITED STATES), 1991, 65 (7) p1143-52
【非特許文献3】Murakami M. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1991, 88, p11349-11353
【非特許文献4】Robb, L. et al., J. Biol. Chem. 271 (23), 1996, 13754-13761
【非特許文献5】Gainsford T. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996, 93 (25) p14564-8
【非特許文献6】Hilton D.J. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1996, 93 (1) p497-501
【発明の開示】
【0007】
本発明は、新規ヘモポエチン受容体蛋白質、およびそれらをコードするDNAを提供する。本発明はまた、該DNAが挿入されたベクター、該DNAを保持する形質転換体、および該形質転換体を利用した組換え蛋白質の製造方法を提供する。本発明はさらに、該蛋白質に結合する化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0008】
本発明者らは、これまでに、Trp-Ser-Xaa-Trp-Serモチーフ(WSモチーフ)をコードするオリゴヌクレオチドをプローブに用いたプラークハイブリダイゼーション法や、あるいはRT-PCR等の方法により新規受容体の探索を試行してきた。ところが、このモチーフをコードするオリゴヌクレオチドtggag(t/c)nnntggag(t/c)(nは任意の塩基)が15塩基対と短いため、通常より低いアニーリング温度が要求される。逆に上記配列はg/c含量率が高いため、通常より高いアニーリング温度でなければ、厳密に15塩基が完全にハイブリダイズしたものだけを選別することは難しい。このような理由により通常のハイブリダイゼーションの実験条件下で、スクリーニングを展開することは極めて困難であった。
【0009】
これらの問題を解決するために、上記WSモチーフ以外の部位において、ヘモポエチン受容体ファミリーに保存されているモチーフを検討した。その結果、同ファミリーの細胞外領域においてWSモチーフより13〜27アミノ酸上流に位置するチロシン残基、あるいはヒスチジン残基が高い確率で保存されており、さらに、そのTyr/His残基からC末端方向の6アミノ酸において、高頻度に出現するコンセンサス配列を検討した結果、(Tyr/His)-Xaa-(Hydrophobic/Ala)-(Gln/Arg)-Hydrophobic-Argといったアミノ酸配列(以下YRモチーフと称する)を見出すことが可能であった。しかしながら、このYRモチーフは必ずしも完全なコンセンサス配列と断定できるものではなく、また、このモチーフをコードする塩基配列の組み合わせは複雑性に富んでいる。従って、現実的なスクリーニングの手段となるハイブリダイゼーションのためのプローブや、あるいはRT-PCRを目的とするプライマーとして、このアミノ酸配列の全てをコード可能なオリゴヌクレオチドを合成、且つ供することは事実上不可能に近い。
【0010】
そこで、上記2種類のモチーフをプローブとして利用する具体的な新規ヘモポエチン受容体ファミリーメンバーの検索手段を検討した結果、双方のモチーフ配列を共に含むように、既知ヘモポエチン受容体を断片化した部分アミノ酸配列を質問式(query)として用いる、コンピュータ上でのデータベース検索が、妥当であると判断した。実際にGenBankのhtgsデータベースに対するTBlastN検索を、複数の既知ヘモポエチン受容体の部分アミノ酸配列を質問式(query)として用いて繰り返し実施した結果、何れの場合においても、既知ヘモポエチン受容体を含む、多数の陽性クローンが得られた。次に上記検索で得られたクローンについて、高確率で陽性を示した配列周辺の塩基配列をアミノ酸配列に変換して既知のヘモポエチン受容体のアミノ酸配列と比較する、BlastX検索により、同受容体ファミリーメンバーをコードすると考えられる遺伝子を選別した。以上の二段階Blast検索のアプローチにより、最終的に2クローンの既知ヘモポエチン受容体と、1クローンの新規ヘモポエチン受容体遺伝子をコードするヒトゲノム配列を同定した。
【0011】
次に、得られた塩基配列から予測可能であったエキソン部位配列をもとに、特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。これらプライマーを利用した5'-RACE法、及び3'-RACE法をヒト胎児肝臓、及び成人胸腺と成人精巣cDNAライブラリーを鋳型としておこなうことにより、NR12のN末端領域とC末端領域に対応するクローンを各々取得した。そしてこれらクローンの塩基配列を各々決定し、重複する中央部位にて両者を連結することにより完全長cDNAの全塩基配列を明らかにした。
【0012】
構造解析の結果、スプライシング変異体に由来する、少なくとも3種の転写産物の相違が認められた。それら、スプライシング変異体のうち337アミノ酸からなる、細胞分泌型の可溶性受容体蛋白をコード可能であったcDNAクローンをNR12.1とし、他方NR12.2及びNR12.3は、それぞれ428アミノ酸と629アミノ酸からなる、細胞膜貫通型の受容体蛋白をコード可能であった。これら、単離されたNR12全てのcDNAクローンの一次構造に共通して、細胞外領域に他のファミリーメンバー間で保存されているシステイン残基の繰り返し構造や、YRモチーフ、及びWSモチーフ等が、よく保存されており典型的なヘモポエチン受容体をコードしていると考えられた。
【0013】
その後、さらに、NR12.1、NR12.2及びNR12.3に特異的なプライマーセットを用いたRT-PCR解析法を、各ヒト臓器由来のmRNAに対しておこない、当該遺伝子の発現組織を検索すると共に、同遺伝子の各ヒト臓器における発現分布、及び、発現様態の解析をおこなった。RT-PCR法によって増幅された標的遺伝子は、これらクローンに特異的なcDNA断片をプローブとして用いたサザンブロッティング法を実施することで、それが非特異的な増幅である可能性を否定すると同時に、RT-PCR産物の定量的評価をおこなった。その結果、これらクローンの主たる産生組織は、造血担当細胞系組織、及び免疫担当細胞系組織であることを認めた。
【0014】
さらに本発明者らは、ヒト胸腺cDNAライブラリーに対してPCRクローニングを実施することにより、NR12.2、NR12.3に対して、それぞれ3アミノ酸異なる完全な蛋白質をコードする2つのクローン(NR12.4、NR12.5)を取得することに成功した(単離した5つのクローンを「NR12」と総称する)。
【0015】
以上のようなNR12の特性から、NR12は生体免疫調節、或いは造血細胞調節に関与する新規なヘモポエチン受容体分子と推定され、同受容体と機能結合し得る新規造血性因子の検索に、同遺伝子を利用することは極めて有用であると考えられる。
【0016】
さらに、本発明者らは、ヒトNR12のcDNAをプローブとした異種間交叉ハイブリダイゼーションクローニングをマウスゲノムDNAライブラリーに対して実施することにより、当該受容体のマウス相同ゲノム遺伝子断片を単離することに成功した。該マウス遺伝子断片を用いたNR12遺伝子欠損マウスの作製によって、当該受容体蛋白質の生体機能のさらなる解明が期待される。
【0017】
すなわち、本発明は、新規なヘモポエチン受容体およびそれらの遺伝子、ならびにそれらの利用に関し、より具体的には、
(1) 下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、
(a)配列番号:2、4、6、8、または10のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、
(b)配列番号:1、3、5、7、または9のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:2、4、6、8、または10のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2、4、6、8、または10のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするDNA、
(d)配列番号:1、3、5、7、または9のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2、4、6、8、または10のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするDNA、
(2) 配列番号:2、4、6、8、または10のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の部分ペプチドをコードするDNA、
(3) (1)または(2)に記載のDNAによりコードされる蛋白質またはペプチド、
(4) (1)または(2)に記載のDNAが挿入されたベクター、
(5) (1)または(2)に記載のDNAまたは(4)に記載のベクターを保持する形質転換体、
(6) (5)に記載の形質転換体を培養し、該形質転換体またはその培養上清から発現させた蛋白質を回収する工程を含む、(3)に記載の蛋白質またはペプチドの製造方法、
(7) (3)に記載の蛋白質に結合する抗体、
(8) 配列番号:1、3、5、7、または9のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、
(9) (3)に記載の蛋白質に結合する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)該蛋白質またはその部分ペプチドに被検試料を接触させる工程、
(b)該蛋白質またはその部分ペプチドと被検試料との結合活性を検出する工程、
(c)該蛋白質またはその部分ペプチドに結合する活性を有する化合物を選択する工程、を含む方法、を提供するものである。
【0018】
本発明は、新規ヘモポエチン受容体「NR12」を提供する。GenBankデータベース解析、および5'-RACE及び3'-RACEによる解析の結果から、本発明者らは新規ヘモポエチン受容体遺伝子NR12を同定し単離することに成功した。NR12の転写産物には、少なくとも3種のスプライス変異体の存在が確認された。このうち、可溶性受容体様蛋白をコードするcDNAクローンをNR12.1とした。他方、細胞膜貫通型受容体蛋白をコードすると考えられるcDNAクローンのうち、51アミノ酸の短い細胞内領域を持つと予想される蛋白質をコードするクローンをNR12.2、そして、252アミノ酸の長い細胞内領域を持つと予想される蛋白質をコードするクローンをNR12.3と命名した。
【0019】
さらに、本発明者らは、ヒト胸腺cDNAライブラリーに対してPCRクローニングを実施し、連続する完全長コーディング配列(CDS)の再単離を行った。このうち、NR12.2とほぼ同一の完全長ORFを有するクローンをNR12.4と命名し、NR12.3とほぼ同一の完全長ORFを有するクローンをNR12.5と命名した。
【0020】
NR12.1 cDNAの塩基配列を配列番号:1に、該cDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、NR12.2 cDNAの塩基配列を配列番号:3に、該cDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。また、NR12.3 cDNAの塩基配列を配列番号:5に、該cDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:6に示す。さらに、NR12.4 cDNAの塩基配列を配列番号:7に、該cDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:8に示し、NR12.5 cDNAの塩基配列を配列番号:9に、該cDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:10に示した。
【0021】
細胞外領域においては、NR12.1、NR12.2、NR12.3、NR12.4、NR12.5共にほぼ同一であるため、これらは同様の立体構造を保有し、さらに同一の特異的リガンドを認識すると考えられる。
【0022】
RT-PCR法を用いて各ヒト臓器における遺伝子発現解析を実施した結果、成人脾臓、胸腺、リンパ節、骨髄、末梢白血球などの造血担当細胞系組織、及び免疫担当細胞系組織においてNR12の強い遺伝子発現を認め、さらに精巣、肝臓、肺、腎臓、膵臓や、小腸、結腸の消化管においても、その発現を検出した。また、解析をおこなった全てのヒト胎児臓器由来のmRNAにおいても、その遺伝子発現を認めた。これらNR12の遺伝子発現分布を総合すると、主に免疫担当細胞系組織、及び造血細胞を含むと考えられる組織に強い発現の局在が検出されたことより、NR12は新規造血因子受容体をコードするものと推定される。また、上記以外の組織においても発現分布が認められたことは、NR12が免疫系及び造血系のみならず、多岐にわたる生体内の生理機能を調節し得る可能性をも示唆している。
【0023】
上記NR12蛋白質には、医療への応用が考えられる。NR12.1が胸腺、末梢白血球及び脾臓に発現していることから未知の造血因子の受容体である可能性が示唆される。従って、NR12蛋白質はこの未知の造血因子を得るための有用な材料を提供するものと考えられる。また、NR12分子と機能結合し得るアゴニスト、或いはアンタゴニストの検索を、ペプチドライブラリー、または合成化学材料に対しておこない、単離同定することも考えられる。さらに、NR12分子に機能結合する新規分子、及びNR12分子機能を制限し得る特異的抗体の検索による、生体免疫応答制御や造血細胞制御といった臨床応用が期待される。
【0024】
また、NR12の発現はこれら造血組織中の限られた細胞集団に特異的に発現している可能性が想定され、この細胞集団を分離する手段として抗NR12抗体は有用である。この様にして分離された細胞集団は細胞移植療法への応用が可能である。さらに抗NR12抗体は白血病を初めとした疾患の病型診断あるいは治療への応用も期待される。
【0025】
一方、NR12蛋白質の細胞外ドメインを含む可溶性蛋白質、あるいはNR12のスプライス変異体であるNR12.1はデコイ型受容体としてNR12リガンドの阻害剤としての利用が想定され、NR12が関与する白血病を初めとする疾患の治療への応用が期待できる。
【0026】
本発明は、NR12蛋白質と機能的に同等な蛋白質を包含する。このような蛋白質には、例えば、ヒトNR12蛋白質に対応する他の生物のホモログ蛋白質やヒトNR12蛋白質の変異体が含まれる。本発明において「機能的に同等」とは、対象となる蛋白質が、上記NR12蛋白質と同等の生物学的活性を有することを指す。生物学的活性としては、例えば、膜結合型または可溶型の造血因子受容体蛋白質活性である。
【0027】
ある蛋白質と機能的に同等な蛋白質を調製するための、当業者によく知られた方法としては、蛋白質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、ヒトNR12蛋白質のアミノ酸に適宜変異を導入することによりヒトNR12蛋白質と機能的に同等な蛋白質を調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、ヒトNR12蛋白質のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列を有し、ヒトNR12蛋白質と機能的に同等な蛋白質もまた本発明の蛋白質に含まれる。
【0028】
本発明のNR12蛋白質と機能的に同等な蛋白質としては、具体的には、配列番号:2、4、6、8、または10に示されるアミノ酸配列中の1又は2個以上、好ましくは、2個以上30個以下、より好ましくは2個以上10個以下のアミノ酸が欠失したもの、配列番号:2、4、6、8、または10に示されるアミノ酸配列に1又は2個以上、好ましくは、2個以上30個以下、より好ましくは2個以上10個以下のアミノ酸が付加したもの、配列番号:2、4、6、8、または10に示されるアミノ酸配列中の1又は2個以上、好ましくは、2個以上30個以下、より好ましくは2個以上10個以下のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたものが挙げられる。
【0029】
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。
【0030】
なお、あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有する蛋白質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433 、 Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
【0031】
ヒトNR12蛋白質のアミノ酸配列(配列番号:2、4、6、8、または10)に1又は複数個のアミノ酸残基が付加された蛋白質としては、例えば、ヒトNR12蛋白質を含む融合蛋白質が挙げられる。融合蛋白質は、ヒトNR12蛋白質と他のペプチド又は蛋白質とが融合したものであり、本発明に含まれる。融合蛋白質を作製する方法は、本発明のヒトNR12蛋白質をコードするDNAと他のペプチド又は蛋白質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。本発明の蛋白質との融合に付される他のペプチド又は蛋白質としては、特に限定されない。
【0032】
本発明の蛋白質との融合に付される他のペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210)、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7-tag、HSV-tag 、E-tag 、SV40T抗原の断片、lck tag 、α-tubulinの断片、B-tag、Protein Cの断片等の公知のペプチドを使用することができる。また、本発明の蛋白質との融合に付される他の蛋白質としては、例えば、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合蛋白質)等が挙げられる。
【0033】
市販されているこれらペプチドまたは蛋白質をコードするDNAを本発明の蛋白質をコードするDNAと融合させ、これにより調製された融合DNAを発現させることにより、融合蛋白質を調製することができる。
【0034】
また、ある蛋白質と機能的に同等な蛋白質を調製する当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press, 1989)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者であれば、ヒトNR12蛋白質をコードするDNA配列(配列番号:1、3、5、7、または9)もしくはその一部を基に、これと相同性の高いDNAを単離して、該DNAからヒトNR12蛋白質と機能的に同等な蛋白質を単離することも通常行いうることである。このように、ヒトNR12蛋白質をコードするDNAもしくはその一部からなるDNAとハイブリダイズするDNAがコードする蛋白質であって、ヒトNR12蛋白質と機能的に同等な蛋白質もまた本発明の蛋白質に含まれる。このような蛋白質としては、例えば、ヒト以外の哺乳動物のホモログ(例えば、サル、マウス、ラット、ウサギ、ウシの遺伝子がコードする蛋白質)が挙げられる。ヒトNR12蛋白質をコードするDNAと相同性の高いcDNAを、動物から単離する場合、特に脾臓、胸腺、リンパ節、骨髄、末梢白血球などの造血担当細胞系組織、及び免疫担当細胞系組織を用いることが好ましいと考えられるが、それらの臓器に限定されない。
【0035】
ヒトNR12蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件としては、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントの条件とは、例えば42℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられ、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSである。またより好ましくは、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、2×SSC及び0.1%SDSが挙げられる。これらの条件において、温度を下げる程に高い相同性を有するDNAのみならず、低い相同性しか有していないDNAまでも包括的に得ることができる。逆に、温度を上げる程、高い相同性を有するDNAのみを得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度以外にも塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0036】
また、ハイブリダイゼーションにかえて、ヒトNR12蛋白質をコードするDNA(配列番号:1、3、5、7、または9)の配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して目的のDNAを単離することも可能である。
【0037】
これらハイブリダイゼーション技術または遺伝子増幅技術により単離されるDNAがコードするヒトNR12蛋白質と機能的に同等な蛋白質は、通常、ヒトNR12蛋白質とアミノ酸配列において高い相同性を有する。本発明の蛋白質には、ヒトNR12蛋白質と機能的に同等であり、かつ配列番号:2、4、6、8、または10に示されるアミノ酸配列と高い相同性を有する蛋白質も含まれる。高い相同性とは、通常、70%以上の相同性、好ましくは80%以上の相同性、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。蛋白質の相同性を決定するには、文献(Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 726-730)に記載のアルゴリズムにしたがえばよい。
【0038】
本発明の蛋白質は、後述するそれを産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られた蛋白質が、本発明のヒトNR12蛋白質(配列番号:2、4、6、8、または10)と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明の蛋白質を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来の蛋白質のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。また、真核細胞、例えば哺乳動物細胞で発現させた場合、N末端のシグナル配列は除去される。本発明の蛋白質はこのような蛋白質も包含する。
【0039】
例えば、文献(Von Heijne, G. Nucleic Acids Research (1986) 14, 4683-4690)に記載の方法に基づいて、本発明の蛋白質を解析した結果、シグナル配列は配列番号:2、4、6、8、および10のアミノ酸配列において、1位のMetから23位のGlyまでと推定された。したがって、本発明は配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、24位のGlyから337位のCysまでからなる蛋白質を包含する。同様に、配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、24位のGlyから428位のSerまでからなる蛋白質を包含する。同様に、配列番号:6に記載のアミノ酸配列において、24位のGlyから629位のLysまでからなる蛋白質を包含する。同様に、配列番号:8に記載のアミノ酸配列において、24位のGlyから428位のSerまでからなる蛋白質を包含する。同様に、配列番号:10に記載のアミノ酸配列において、24位のGlyから629位のLysまでからなる蛋白質を包含する。
【0040】
本発明の蛋白質は、当業者に公知の方法により、組み換え蛋白質として、また天然の蛋白質として調製することが可能である。組み換え蛋白質であれば、本発明の蛋白質をコードするDNA(例えば配列番号:1、3、5、7、または9に記載の塩基配列を有するDNA)を、適当な発現ベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に導入して得た形質転換体を回収し、抽出物を得た後、イオン交換、逆相、ゲル濾過などのクロマトグラフィー、あるいは本発明の蛋白質に対する抗体をカラムに固定したアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより、または、さらにこれらのカラムを複数組み合わせることにより精製し、調製することが可能である。
【0041】
また、本発明の蛋白質をグルタチオンSトランスフェラーゼ蛋白質との融合蛋白質として、あるいはヒスチジンを複数付加させた組み換え蛋白質として宿主細胞(例えば、動物細胞や大腸菌など)内で発現させた場合には、発現させた組み換え蛋白質はグルタチオンカラムあるいはニッケルカラムを用いて精製することができる。
【0042】
融合蛋白質の精製後、必要に応じて融合蛋白質のうち目的の蛋白質以外の領域を、トロンビンまたはファクターXaなどにより切断し、除去することも可能である。
【0043】
天然の蛋白質であれば、当業者に周知の方法、例えば、本発明の蛋白質を発現している組織や細胞の抽出物に対し、後述するNR12蛋白質に結合する抗体が結合したアフィニティーカラムを作用させて精製することにより単離することができる。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
【0044】
本発明は、また、本発明の蛋白質の部分ペプチドを包含する。本発明の蛋白質に特異的なアミノ酸配列からなる部分ペプチドは、少なくとも7アミノ酸、好ましくは8アミノ酸以上、さらに好ましくは9アミノ酸以上のアミノ酸配列からなる。該部分ペプチドは、例えば、本発明の蛋白質に対する抗体の作製、本発明の蛋白質に結合する化合物のスクリーニングや、本発明の蛋白質の促進剤や阻害剤のスクリーニングに利用し得る。また、本発明の蛋白質のリガンドに対するアンタゴニストになり得る。本発明の蛋白質の部分ペプチドとしては、例えば、配列番号:2、4、6、8、または10に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質の活性中心からなる部分ペプチドが挙げられる。また、疎水性プロット解析から推定される疎水性領域や親水性領域の1つあるいは複数の領域を含む部分ペプチドが挙げられる。これらの部分ペプチドは1つの疎水性領域の一部あるいは全部を含んでいてもよいし、1つの親水性領域の一部あるいは全部を含んでいてもよい。また、例えば、本発明の蛋白質の可溶型蛋白質や細胞外領域からなる蛋白質も本発明に包含される。
【0045】
本発明の部分ペプチドは、遺伝子工学的手法、公知のペプチド合成法、あるいは本発明の蛋白質を適切なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチド合成法としては、たとえば固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。
【0046】
また、本発明は、本発明の蛋白質をコードするDNAを提供する。本発明のDNAは、上述したような本発明の蛋白質のin vivoや in vitroにおける生産に利用される他、例えば、本発明の蛋白質をコードする遺伝子の異常に起因する疾患の遺伝子治療などへの応用も考えられる。本発明のDNAは、本発明の蛋白質をコードしうるものであれば、いかなる形態でもよい。即ち、mRNAから合成されたcDNAであるか、ゲノムDNAであるか、化学合成DNAであるかなどを問わない。また、本発明の蛋白質をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
【0047】
本発明のDNAは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、本発明の蛋白質を発現している細胞よりcDNAライブラリーを作製し、本発明のDNAの配列(例えば、配列番号:1、3、5、7、または9)の一部をプローブにしてハイブリダイゼーションを行うことにより調製できる。cDNAライブラリーは、例えばSambrook, J. et al., Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載の方法により調製してもよいし、市販のDNAライブラリーを用いてもよい。また、本発明の蛋白質を発現している細胞よりRNAを調製し、本発明のDNAの配列(例えば、配列番号:1、3、5、7、または9)に基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、本発明の蛋白質をコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
【0048】
また、得られたcDNAの塩基配列を決定することにより、それがコードする翻訳領域を決定でき、本発明の蛋白質のアミノ酸配列を得ることができる。また、得られたcDNAをプローブとしてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0049】
具体的には、次のようにすればよい。まず、本発明の蛋白質を発現する細胞、組織、臓器(例えば脾臓、胸腺、リンパ節、骨髄、末梢白血球などの造血担当細胞系組織、及び免疫担当細胞系組織など)から、mRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法 (Chomczynski, P. and Sacchi, N., Anal. Biochem. (1987) 162, 156-159) 等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia) 等を使用して全RNAからmRNAを精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit (Pharmacia) を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0050】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)等を用いて行うこともできる。また、本明細書に記載されたプライマー等を用いて、5'-Ampli FINDER RACE Kit (Clontech製)およびポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction ; PCR)を用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 8998-9002 ; Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. (1989) 17, 2919-2932) にしたがい、cDNAの合成および増幅を行うことができる。
【0051】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を調製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列は、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により確認することができる。
【0052】
また、本発明のDNAにおいては、発現に使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、より発現効率の高い塩基配列を設計することができる(Grantham, R. et al., Nucelic Acids Research (1981) 9, r43-74 )。また、本発明のDNAは、市販のキットや公知の方法によって改変することができる。改変としては、例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドや適当なDNAフラグメントの挿入、リンカーの付加、開始コドン(ATG)及び/又は終止コドン(TAA、TGA、又はTAG)の挿入等が挙げられる。
【0053】
本発明のDNAは、具体的には、配列番号:1の塩基配列において98位の塩基Aから1108位の塩基CからなるDNA、配列番号:3の塩基配列において98位の塩基Aから1381位の塩基CからなるDNA、配列番号:5の塩基配列において98位の塩基Aから1984位の塩基GからなるDNA、配列番号:7の塩基配列において1位の塩基Aから1284位の塩基CからなるDNA、および配列番号:9の塩基配列において1位の塩基Aから1887位の塩基GからなるDNAを包含する。
【0054】
本発明のDNAはまた、配列番号:1、3、5、7、または9に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、且つ上記本発明の蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするDNAを含む。
【0055】
ストリンジェントな条件としては、当業者であれば適宜選択することができるが、例えば低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントの条件とは、例えば42℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられ、好ましくは50℃、2×SSC 、0.1%SDSである。またより好ましくは、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、2×SSC及び0.1%SDSが挙げられる。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAを得ることができる。上記のハイブリダイズするDNAは好ましくは天然由来のDNA、例えばcDNA又は染色体DNAであってよい。
【0056】
また、本発明は、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、宿主細胞内において本発明のDNAを保持したり、本発明の蛋白質を発現させるために有用である。
【0057】
ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。本発明の蛋白質を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043 )、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(Qiagen社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0058】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。蛋白質分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0059】
大腸菌以外にも、例えば、本発明の蛋白質を製造するために用いられるベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター〔例えば、pcDNA3 (Invitrogen社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF 、pCDM8〕、昆虫細胞由来の発現ベクター〔例えば「Bac-to-BAC baculovirus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8〕、植物由来の発現ベクター〔例えばpMH1、pMH2〕、動物ウイルス由来の発現ベクター〔例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw〕、レトロウイルス由来の発現ベクター〔例えば、pZIpneo〕、酵母由来の発現ベクター〔例えば、「Pichia Expression Kit」(In vitrogen社製)、pNV11 、SP-Q01〕、枯草菌由来の発現ベクター〔例えば、pPL608、pKTH50〕などが挙げられる。
【0060】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0061】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0062】
一方、動物の生体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。これにより、本発明のNR12遺伝子の変異に起因する疾患に対する遺伝子治療を行うことが可能である。用いられるベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)などが挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへの本発明のDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(Molecular Cloning, 5.61-5.63)。生体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
【0063】
また、本発明は、本発明のDNAまたはベクターが導入された形質転換体を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。本発明の宿主細胞は、例えば、本発明の蛋白質の製造や発現のための産生系として使用することができる。蛋白質製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0064】
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108, 945)、COS 、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle, et al., Nature (1981) 291, 358-340)、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr-CHO(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4216-4220)やCHO K-1 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1968) 60, 1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0065】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が蛋白質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。
【0066】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
【0067】
これらの細胞を目的とするDNAにより形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより蛋白質が得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0068】
一方、in vivoで蛋白質を産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするDNAを導入し、動物又は植物の体内で蛋白質を産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0069】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0070】
例えば、目的とするDNAを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の蛋白質を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生される蛋白質を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0071】
また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的の蛋白質をコードするDNAを挿入したバキュロウイルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的の蛋白質を得ることができる(Susumu, M. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。
【0072】
さらに、植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とする蛋白質をコードするDNAを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のポリペプチドを得ることができる(Julian K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24, 131-138)。
【0073】
これにより得られた本発明の蛋白質は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一な蛋白質として精製することができる。蛋白質の分離、精製は、通常の蛋白質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば蛋白質を分離、精製することができる。
【0074】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製された蛋白質も包含する。
【0075】
なお、蛋白質を精製前又は精製後に適当な蛋白質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり部分的にペプチドを除去することもできる。蛋白質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0076】
また、本発明は、本発明の蛋白質と結合する抗体を提供する。本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、ポリクローナル抗体の他、モノクローナル抗体も含まれる。また、ウサギなどの免疫動物に本発明の蛋白質を免疫して得た抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、さらにヒト抗体や遺伝子組み換えによるヒト型化抗体も含まれる。
【0077】
抗体取得の感作抗原として使用される本発明の蛋白質は、その由来となる動物種に制限されないが哺乳動物、例えばヒト、マウス又はラット由来の蛋白質が好ましく、特にヒト由来の蛋白質が好ましい。ヒト由来の蛋白質は、本明細書に開示される遺伝子配列又はアミノ酸配列を用いて得ることができる。
【0078】
本発明において、感作抗原として使用される蛋白質は、完全な蛋白質であってもよいし、また、蛋白質の部分ペプチドであってもよい。蛋白質の部分ペプチドとしては、例えば、蛋白質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片が挙げられる。本明細書で述べる「抗体」とは蛋白質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0079】
本発明の蛋白質又はその断片をコードする遺伝子を公知の発現ベクター系に挿入し、該ベクターで本明細書で述べた宿主細胞を形質転換させ、該宿主細胞内外から目的の蛋白質又はその断片を公知の方法で得て、これらを感作抗原として用いればよい。また、蛋白質を発現する細胞又はその溶解物あるいは化学的に合成した本発明の蛋白質を感作抗原として使用してもよい。
【0080】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的には、げっ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が使用される。
【0081】
げっ歯目の動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。ウサギ目の動物としては、例えば、ウサギが使用される。霊長目の動物としては、例えば、サルが使用される。サルとしては、狭鼻下目のサル(旧世界ザル)、例えば、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等が使用される。
【0082】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。一般的方法としては、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は皮下に注射する。具体的には、感作抗原をPBS (Phosphate-Buffered Saline) や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに対し、所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に投与する。さらに、その後、フロイント不完全アジュバントに適量混合した感作抗原を、4〜21日毎に数回投与することが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを常法により確認する。
【0083】
ここで、本発明の蛋白質に対するポリクローナル抗体を得るには、血清中の所望の抗体レベルが上昇したことを確認した後、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出す。この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用してもよいし、必要に応じこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離して、これを使用してもよい。例えば、本発明の蛋白質をカップリングさせたアフィニティーカラムを用いて、本発明の蛋白質のみを認識する画分を得て、さらにこの画分をプロテインAあるいはプロテインGカラムを利用して精製することにより、免疫グロブリンGあるいはMを調製することができる。
【0084】
モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物の血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を取り出し、細胞融合に付せばよい。この際、細胞融合に使用される好ましい免疫細胞として、特に脾細胞が挙げられる。前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としては、好ましくは哺乳動物のミエローマ細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞選別のための特性を獲得したミエローマ細胞が挙げられる。
【0085】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、例えば、ミルステインらの方法(Galfre, G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46) 等に準じて行うことができる。
【0086】
細胞融合により得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常、数日・数週間継続して行う。次いで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングを行う。
【0087】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウイルスに感染したヒトリンパ球をin vitroで蛋白質、蛋白質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、蛋白質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる(特開昭63-17688号公報)。
【0088】
次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明の蛋白質をカップリングしたアフィニティーカラムなどにより精製することで調製することが可能である。本発明の抗体は、本発明の蛋白質の精製、検出に用いられる他、本発明の蛋白質のアゴニストやアンタゴニストの候補になる。また、この抗体を本発明の蛋白質が関与する疾患の抗体治療へ応用することも考えられる。得られた抗体を人体に投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト型抗体が好ましい。
【0089】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となる蛋白質、蛋白質発現細胞又はその溶解物を免疫して抗体産生細胞を取得し、これをミエローマ細胞と融合させたハイブリドーマを用いて蛋白質に対するヒト抗体を取得することができる(国際公開番号WO92-03918、WO93-2227、WO94-02602、WO94-25585、WO96-33735およびWO96-34096参照)。
【0090】
ハイブリドーマを用いて抗体を産生する以外に、抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞を癌遺伝子 (oncogene) により不死化させた細胞を用いてもよい。
【0091】
このように得られたモノクローナル抗体はまた、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体として得ることができる(例えば、Borrebaeck, C. A. K. and Larrick, J. W., THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ又は抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させる。本発明は、この組換え型抗体を包含する。
【0092】
さらに、本発明の抗体は、本発明の蛋白質に結合する限り、その抗体断片や抗体修飾物であってよい。例えば、抗体断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv) (Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0093】
抗体修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明の「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0094】
また、本発明の抗体は、公知の技術を使用して非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域からなるキメラ抗体又は非ヒト抗体由来のCDR(相補性決定領域)とヒト抗体由来のFR(フレームワーク領域)及び定常領域からなるヒト型化抗体として得ることができる。
【0095】
前記のように得られた抗体は、均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又は酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)等により行うことができる。
【0096】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia)等が挙げられる。
【0097】
アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization : A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーはHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0098】
また、本発明の抗体の抗原結合活性を測定する方法として、例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。ELISAを用いる場合、本発明の抗体を固相化したプレートに本発明の蛋白質を添加し、次いで目的の抗体を含む試料、例えば、抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。酵素、例えば、アルカリフォスファターゼ等で標識した抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションし、次いで洗浄した後、p-ニトロフェニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。蛋白質として蛋白質の断片、例えばそのC末端からなる断片あるいはN末端からなる断片を使用してもよい。本発明の抗体の活性評価には、BIAcore(Pharmacia製)を使用することができる。
【0099】
これらの手法を用いることにより、本発明の抗体と試料中に含まれる本発明の蛋白質が含まれると予想される試料とを接触せしめ、該抗体と該蛋白質との免疫複合体を検出又は測定することからなる、本発明の蛋白質の検出又は測定方法を実施することができる。
【0100】
本発明の蛋白質の検出又は測定方法は、蛋白質を特異的に検出又は測定することができるため、蛋白質を用いた種々の実験等に有用である。
【0101】
本発明はまた、ヒトNR12蛋白質をコードするDNA(配列番号:1、3、5、7、または9)またはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを提供する。
【0102】
ここで「相補鎖」とは、A:T、G:Cの塩基対からなる2本鎖ポリヌクレオチドの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。相同性を決定するためのアルゴリズムは本明細書に記載したものを使用すればよい。
【0103】
このようなポリヌクレオチドには、本発明の蛋白質をコードするDNAの検出や増幅に用いるプローブやプライマー、本発明の蛋白質の発現を抑制するためのヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイム等)が含まれる。また、このようなポリヌクレオチドは、DNAチップの作製に利用することもできる。
【0104】
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、配列番号:1、3、5、7、または9の塩基配列中のいずれかの箇所にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは配列番号:1、3、5、7、または9の塩基配列中の連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。さらに好ましくは、連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドが翻訳開始コドンを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0105】
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、それらの誘導体や修飾体を使用することができる。修飾体として、例えばメチルホスホネート型又はエチルホスホネート型のような低級アルキルホスホネート修飾体、ホスホロチオエート修飾体又はホスホロアミデート修飾体等が挙げられる。
【0106】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA又はmRNAの所定の領域を構成するヌクレオチドに対応するヌクレオチドが全て相補配列であるもののみならず、DNA またはmRNAとオリゴヌクレオチドとが配列番号:1、3、5、7、または9に示される塩基配列に特異的にハイブリダイズできる限り、1又は複数個のヌクレオチドのミスマッチが存在していてもよい。
【0107】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、本発明の蛋白質の産生細胞に作用して、該蛋白質をコードするDNA又はmRNAに結合することにより、その転写又は翻訳を阻害したり、mRNAの分解を促進したりして、本発明の蛋白質の発現を抑制することにより、結果的に本発明の蛋白質の作用を抑制する効果を有する。
【0108】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、それらに対して不活性な適当な基剤と混和して塗布剤、パップ剤等の外用剤とすることができる。
【0109】
また、必要に応じて、賦形剤、等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、無痛化剤等を加えて錠剤、散財、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻剤など、さらに凍結乾燥剤とすることができる。これらは常法にしたがって調製することができる。
【0110】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は患者の患部に直接適用するか、又は血管内に投与するなどして結果的に患部に到達し得るように患者に適用する。さらには、持続性、膜透過性を高めるアンチセンス封入素材を用いることもできる。例えば、リポソーム、ポリ-L-リジン、リピッド、コレステロール、リポフェクチン又はこれらの誘導体が挙げられる。
【0111】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体の投与量は、患者の状態に応じて適宜調整し、好ましい量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1 〜50mg/kgの範囲で投与することができる。
【0112】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは本発明の蛋白質の発現を阻害し、従って本発明の蛋白質の生物学的活性を抑制することにおいて有用である。また、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有する発現阻害剤は、本発明の蛋白質の生物学的活性を抑制することが可能である点で有用である。
【0113】
本発明の蛋白質は、これに結合する化合物のスクリーニングに有用である。すなわち、本発明の蛋白質と、該蛋白質に結合する化合物を含むと予想される被験試料とを接触せしめ、本発明の蛋白質と被検試料との結合活性を検出し、そして本発明の蛋白質に結合する活性を有する化合物を選択する、ことからなる本発明の蛋白質に結合する化合物をスクリーニングする方法において使用される。
【0114】
スクリーニングに用いられる本発明の蛋白質は組換え蛋白質であっても、天然由来の蛋白質であってもよい。また部分ペプチドであってもよい。また細胞表面に発現させた形態、または膜画分としての形態であってもよい。被検試料としては特に制限はなく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製若しくは粗精製蛋白質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物が挙げられる。被検試料を接触させる本発明の蛋白質は、例えば、精製した蛋白質として、可溶型蛋白質として、担体に結合させた形態として、他の蛋白質との融合蛋白質として、細胞膜上に発現させた形態として、また、膜画分として被検試料に接触させることができる。
【0115】
本発明の蛋白質を用いて、例えば該蛋白質に結合する蛋白質(リガンド等)をスクリーニングする方法としては、当業者に公知の多くの方法を用いることが可能である。このようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降法により行うことができる。具体的には、以下のように行うことができる。本発明の蛋白質をコードする遺伝子を、pSV2neo, pcDNA I, pCD8などの外来遺伝子発現用のベクターに挿入することで動物細胞などで当該遺伝子を発現させる。発現に用いるプロモーターとしては SV40 early promoter (Rigby In Williamson (ed.), Genetic Engineering, Vol.3. Academic Press, London, p.83-141(1982)), EF-1 α promoter (Kimら Gene 91, p.217-223 (1990)), CAG promoter (Niwa et al. Gene 108, p.193-200 (1991)), RSV LTR promoter (Cullen Methods in Enzymology 152, p.684-704 (1987), SR α promoter (Takebe et al. Mol. Cell. Biol. 8, p.466 (1988)), CMV immediate early promoter (Seed and Aruffo Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, p.3365-3369 (1987)), SV40 late promoter (Gheysen and Fiers J. Mol. Appl. Genet. 1, p.385-394 (1982)), Adenovirus late promoter (Kaufman et al. Mol. Cell. Biol. 9, p. 946 (1989)), HSV TK promoter等の一般的に使用できるプロモーターであれば何を用いてもよい。
【0116】
動物細胞に遺伝子を導入することで外来遺伝子を発現させるためには、エレクトロポレーション法 (Chu, G. et al. Nucl. Acid Res. 15, 1311-1326 (1987))、リン酸カルシウム法 (Chen, C and Okayama, H. Mol. Cell. Biol. 7, 2745-2752 (1987))、DEAEデキストラン法 (Lopata, M. A. et al. Nucl. Acids Res. 12, 5707-5717 (1984); Sussman, D. J. and Milman, G. Mol. Cell. Biol. 4, 1642-1643 (1985))、リポフェクチン法 (Derijard, B. Cell 7, 1025-1037 (1994); Lamb, B. T. et al. Nature Genetics 5, 22-30 (1993); Rabindran, S. K. et al. Science 259, 230-234 (1993))等の方法があるが、いずれの方法によってもよい。特異性の明らかとなっているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を本発明の蛋白質のN末またはC末に導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位を有する融合蛋白質として本発明の蛋白質を発現させることができる。用いるエピトープ−抗体系としては市販されているものを利用することができる(実験医学 13, 85-90 (1995))。マルチクローニングサイトを介して、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合蛋白質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)などとの融合蛋白質を発現することができるベクターが市販されている。
【0117】
融合蛋白質にすることにより本発明の蛋白質の性質をできるだけ変化させないようにするために数個から十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープ部分のみを導入して、融合蛋白質を調製する方法も報告されている。例えば、ポリヒスチジン(His-tag)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、Vesicular stomatitisウイルス糖蛋白質(VSV-GP)、T7 gene10 蛋白質(T7-tag)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖蛋白質(HSV-tag)、E-tag(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープとそれを認識するモノクローナル抗体を、本発明の蛋白質に結合する蛋白質のスクリーニングのためのエピトープ-抗体系として利用できる(実験医学 13, 85-90 (1995))。
【0118】
免疫沈降においては、これらの抗体を、適当な界面活性剤を利用して調製した細胞溶解液に添加することにより免疫複合体を形成させる。この免疫複合体は本発明の蛋白質、それと結合能を有する蛋白質、および抗体からなる。上記エピトープに対する抗体を用いる以外に、本発明の蛋白質に対する抗体を利用して免疫沈降を行うことも可能である。本発明の蛋白質に対する抗体は、例えば、本発明の蛋白質をコードする遺伝子を適当な大腸菌発現ベクターに導入して大腸菌内で発現させ、発現させた蛋白質を精製し、これをウサギやマウス、ラット、ヤギ、ニワトリなどに免疫することで調製することができる。また、合成した本発明の蛋白質の部分ペプチドを上記の動物に免疫することによって調製することもできる。
【0119】
免疫複合体は、例えば、抗体がマウスIgG抗体であれば、Protein A SepharoseやProtein G Sepharoseを用いて沈降させることができる。また、本発明の蛋白質を、例えば、GSTなどのエピトープとの融合蛋白質として調製した場合には、グルタチオン-Sepharose 4Bなどのこれらエピトープに特異的に結合する物質を利用して、本発明の蛋白質の抗体を利用した場合と同様に、免疫複合体を形成させることができる。
【0120】
免疫沈降の一般的な方法については、例えば、文献(Harlow,E. and Lane, D.: Antibodies, pp.511-552, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988))記載の方法に従って、または準じて行えばよい。
【0121】
免疫沈降された蛋白質の解析にはSDS-PAGEが一般的であり、適当な濃度のゲルを用いることで蛋白質の分子量により結合していた蛋白質を解析することができる。また、この際、一般的には本発明の蛋白質に結合した蛋白質は、クマシー染色や銀染色といった蛋白質の通常の染色法では検出することは困難であるので、放射性同位元素である35S-メチオニンや35S -システインを含んだ培養液で細胞を培養し、該細胞内の蛋白質を標識して、これを検出することで検出感度を向上させることができる。蛋白質の分子量が判明すれば直接SDS-ポリアクリルアミドゲルから目的の蛋白質を精製し、その配列を決定することもできる。
【0122】
また、本発明の蛋白質を用いた、これに結合する蛋白質の単離は、例えば、ウエストウエスタンブロッティング法(Skolnik, E. Y. et al.,Cell (1991) 65, 83-90)を用いて行うことができる。すなわち、本発明の蛋白質と結合する結合蛋白質を発現していることが予想される細胞、組織、臓器よりファージベクター(λgt11, ZAPなど)を用いたcDNAライブラリーを作製し、これをLB-アガロース上で発現させフィルターに発現させた蛋白質を固定し、精製して標識した本発明の蛋白質と上記フィルターとを反応させ、本発明の蛋白質と結合した蛋白質を発現するプラークを標識により検出すればよい。本発明の蛋白質を標識する方法としては、ビオチンとアビジンの結合性を利用する方法、本発明の蛋白質又は本発明の蛋白質に融合したペプチド又はポリペプチド(例えばGSTなど)に特異的に結合する抗体を利用する方法、ラジオアイソトープを利用する方法又は蛍光を利用する方法等が挙げられる。
【0123】
また、本発明のスクリーニング方法の他の態様としては、細胞を用いた2-ハイブリッドシステム(Fields, S., and Sternglanz, R.,Trends. Genet. (1994) 10, 286-292、Dalton S, and Treisman R (1992)Characterization of SAP-1, a protein recruited by serum response factor to the c-fos serum response element. Cell 68, 597-612、「MATCHMAKER Two-Hybrid System」,「Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit」,「MATCHMAKER One-Hybrid System」(いずれもClontech社製)、「HybriZAP Two-Hybrid Vector System」(Stratagene社製))を用いて行う方法が挙げられる。2-ハイブリッドシステムにおいては、本発明の蛋白質をSRF DNA結合領域またはGAL4 DNA結合領域と融合させて酵母細胞の中で発現させ、本発明の蛋白質と結合する蛋白質を発現していることが予想される細胞より、VP16またはGAL4転写活性化領域と融合する形で発現するようなcDNAライブラリーを作製し、これを上記酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリー由来cDNAを単離する(酵母細胞内で本発明の蛋白質と結合する蛋白質が発現すると、両者の結合によりレポーター遺伝子が活性化され、陽性のクローンが確認できる)。単離したcDNAを大腸菌に導入して発現させることにより、該cDNAがコードする蛋白質を得ることができる。これにより本発明の蛋白質に結合する蛋白質またはその遺伝子を調製することが可能である。2-ハイブリッドシステムにおいて用いられるレポーター遺伝子としては、例えば、HIS3遺伝子の他、Ade2遺伝子、LacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、PAI-1(Plasminogen activator inhibitor type1)遺伝子等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0124】
本発明の蛋白質と結合する化合物のスクリーニングは、アフィニティークロマトグラフィーを用いて行うこともできる。例えば、本発明の蛋白質をアフィニティーカラムの担体に固定し、ここに本発明の蛋白質と結合する蛋白質を発現していることが予想される被検試料を適用する。この場合の被検試料としては、例えば細胞抽出物、細胞溶解物等が挙げられる。被検試料を適用した後、カラムを洗浄し、本発明の蛋白質に結合した蛋白質を調製することができる。
【0125】
得られた蛋白質は、そのアミノ酸配列を分析し、それを基にオリゴDNAを合成し、該DNAをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、該蛋白質をコードするDNAを得ることができる。
【0126】
本発明において、結合した化合物を検出又は測定する手段として表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用することもできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーは本発明の蛋白質と被検化合物との間の相互作用を微量の蛋白質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である(例えばBIAcore、Pharmacia製)。したがって、BIAcore等のバイオセンサーを用いることにより本発明の蛋白質と被検化合物との結合を評価することが可能である。
【0127】
また、蛋白質に限らず、本発明の蛋白質に結合する化合物(アゴニスト、およびアンタゴニストを含む)を単離する方法としては、例えば、固定した本発明の蛋白質に、合成化合物、天然物バンク、もしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーを作用させ、本発明の蛋白質に結合する分子をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニング方法(Wrighton NC; Farrell FX; Chang R; Kashyap AK; Barbone FP; Mulcahy LS;Johnson DL; Barrett RW; Jolliffe LK; Dower WJ., Small peptides as potent mimetics of the protein hormone erythropoietin, Science (UNITED STATES) Jul 26 1996, 273 p458-64、Verdine GL., The combinatorial chemistry of nature. Nature (ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p11-13、Hogan JC Jr.,Directed combinatorial chemistry. Nature (ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p17-9)が当業者に公知である。
【0128】
また、本発明蛋白質に結合するリガンドのスクリーニングは、本発明蛋白質の細胞外ドメインと既知のシグナル伝達能を有するヘモポエチン受容体蛋白質の細胞膜貫通ドメインを含む細胞内ドメインとを連結せしめて作製したキメラ受容体を、適当な細胞株、好ましくは適当な増殖因子の存在下でのみ生存および増殖可能な細胞株(増殖因子依存性細胞株)の細胞表面に発現せしめた後、該細胞株を種々の増殖因子、サイトカイン、または造血因子等を含むことが期待される材料を添加して培養することにより実施可能である。この方法は、被検材料中に本発明蛋白質の細胞外ドメインと特異的に結合するリガンドが存在する場合にのみ、上記増殖因子依存性細胞株が生存および増殖が可能であることを利用している。既知のヘモポエチン受容体としては、例えば、トロンボポエチン受容体、エリスロポエチン受容体、G-CSF受容体、gp130等が挙げられるが、本発明のスクリーニング系に用いるキメラ受容体のパートナーは、これら既知のヘモポエチン受容体に限定されるものではなく、細胞質ドメインにシグナル伝達活性に必要な構造を備えているものであれば何を用いても構わない。増殖因子依存性細胞株としては、例えば、BaF3やFDC-P1を初めとしたIL3依存性細胞株を利用することが可能である。
【0129】
本発明の蛋白質と特異的に結合するリガンドとしては、希ではあるが可溶性蛋白質ではなく細胞膜結合型蛋白質である可能性も想定される。この様な場合にはむしろ本発明の蛋白質の細胞外ドメインのみを含む蛋白質あるいは当該細胞外ドメインに他の可溶性蛋白質の部分配列を付加した融合蛋白質を標識後、リガンドを発現していることが期待される細胞との結合を測定することによりスクリーニングすることが可能である。本発明の蛋白質の細胞外ドメインのみを含む蛋白質としては、例えば、細胞膜貫通ドメインのN端側に終止コドンを挿入することにより人為的に作成した可溶性受容体蛋白質、あるいはNR12-1等の可溶型蛋白質が利用可能である。一方、本発明の蛋白質の細胞外ドメインに他の可溶性蛋白質の部分配列を付加した融合蛋白質としては、例えば、免疫グロブリンのFc部位やFLAGペプチド等を細胞外ドメインのC端に付加して調製した蛋白質が利用可能である。これらの可溶性標識蛋白質は上述したウエストウエスタン法における検出にも利用可能である。
【0130】
例えば、本発明の蛋白質の細胞外領域と抗体(例えばヒトIgG抗体)のFc領域とのキメラ蛋白質は、プロテインAカラム等を用いて精製することができる。このような抗体様キメラ蛋白質は、リガンドの結合活性を有することから、適宜、放射性同位元素等で標識した後、リガンドのスクリーニングに用いることができる(Suda, T. et al., Cell, 175, 1169-1178 (1993))。また、TNFファミリー分子などのある種のサイトカインでは、その多くが膜結合型でも存在することから、各種の細胞と抗体様キメラ蛋白質を反応させて、結合活性を示した細胞から、リガンドを単離する事ができる可能性もある。また、cDNAライブラリーを導入した細胞を用いて同様にリガンドを単離することができる。さらに、抗体様キメラ蛋白質をアンタゴニストとして用いることも可能である。
【0131】
スクリーニングにより単離され得る化合物は、本発明の蛋白質の活性を促進または阻害するための薬剤の候補となり、本発明の蛋白質の発現異常や機能異常などに起因する疾患の治療への応用が考えられる。本発明のスクリーニング方法を用いて得られる、本発明の蛋白質に結合する活性を有する化合物の構造の一部を、付加、欠失及び/又は置換により変換される物質も、本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物に含まれる。
【0132】
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物や本発明の蛋白質(デコイ型(可溶性型))をヒトや動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、マントヒヒ、チンパンジーの医薬として使用する場合には、単離された化合物自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化して投与を行うことも可能である。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0133】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0134】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0135】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0136】
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。また、該化合物がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0137】
例えば、本発明の蛋白質(デコイ型(可溶性型))の投与量は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約100μgから10〜20mgであると考えられる。
【0138】
例えば、本発明の蛋白質と結合する化合物や本発明の蛋白質の活性を阻害する化合物の投与量は、症状により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から100mg、好ましくは約1.0から50mg、より好ましくは約1.0から20mgである。
【0139】
非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.01から30mg、好ましくは約0.1から20mg、より好ましくは約0.1から10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量、あるいは体表面積あたりに換算した量を投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0140】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[実施例1] NR12遺伝子の単離
(1) TblastN検索による一次スクリーニング
各機関のヒトゲノム解析プロジェクトによって、精力的にヒトゲノム遺伝子配列の解読が推進されている昨今に至っても、既に解析が完了している配列は全ヒトゲノム配列のうち、未だ10%にさえも及んでいないのが現状である。しかしながら、標的遺伝子の検索、及び塩基配列の決定や遺伝子マッピングをおこなう場合、上記プロジェクト等によって現在までに提供された情報を利用することは、有効な手段選択肢のひとつに挙げられる。上記配列の情報基盤はバクテリア人工染色体(Bacterial artifical chromosome; BAC)クローンや、酵母人工染色体(Yeast artifical chromosome; YAC)クローンの整列化によって、膨大な情報規模を形成しながらも、将来的な完全データベース化が目指されている。本発明者らは公的データベースの1つである、GenBankの「High Throughput Genomic Sequence (htgs)」データベース中のBACクローン配列内に、新規ヘモポエチン受容体蛋白の一部をコードする、ヒトゲノム遺伝子を同定した。
【0141】
前述のように本発明者らは、ヘモポエチン受容体ファミリーに保存されたモチーフ配列として、その細胞外領域に(Tyr/His)-Xaa-(Hydrophobic/Ala)-(Gln/Arg)-Hydrophobic-Argモチーフ(YRモチーフ)と、これよりC末端側近傍に位置するTrp-Ser-Xaa-Trp-Serモチーフ(WSモチーフ)の両者を見出した。しかしながら、これら双方のモチーフ配列を包括的に含有するオリゴヌクレオチドプローブ配列を設計することは極めて困難であった。そこで、双方の配列を共に含むように、既知ヘモポエチン受容体を断片化した部分アミノ酸配列を質問式(query)として用い、コンピュータ上でのデータベース検索をおこなった。既知ヘモポエチン受容体配列として、表1に示す各ヒト受容体を用い、それぞれについて、質問式(query)として利用可能な部分アミノ酸配列の断片化を検討した。ここで、既知ヘモポエチン受容体のゲノム構造上、これらYRモチーフ、及びWSモチーフをコードするエキソン(WSエキソン)が、およそ50〜70アミノ酸程度であることと、このエキソンよりさらにN末端側に隣接するエキソン(PPエキソン)も同様に50〜70アミノ酸程度であることに着目し、便宜的にこれら双方のエキソンを含むように約120アミノ酸を切り取り質問式(query)配列とした。従って、質問式配列として用いた部分アミノ酸配列の長さは、それぞれの既知ヘモポエチン受容体によって異なるが、全ての質問式配列においてPPエキソンの開始点近傍に位置する1個乃至、複数のPro残基から、WSエキソン上のWSモチーフ終結後、10アミノ酸程度C末端側の配列までを含むように切り取ることで、構造的特徴は保存されている。
表にはデータベース検索の質問式として用いた既知ヘモポエチン受容体を列挙した。モチーフ配列において保存されたアミノ酸残基を、下線を付けた太字で示した。
【0142】
【表1】

【0143】
以上の配列を質問式とし、TblastN (Advanced TblastN 2.0.9)プログラムを用いた検索を、GenBankのhtgsデータベースに対しておこなった。検索のパラメータはExpect値=100、Descriptions値=250、Alignments値=250を用い、フィルターはDefault値とした。検索の結果、多数の疑陽性クローンがヒットしたが、ここで上記YRモチーフとWSモチーフが同一の読み枠にコードされていないもの、あるいは双方のモチーフ配列間に終止コドンのあるものは排除した。また、YRモチーフを保有していても、WSモチーフを保存していないクローンも検索対象から除外した。それは、前述のように完全に確立されたコンセンサス配列ではないYRモチーフに対する、WSモチーフの保存度の優位性を支持したことに起因する。以上の選別の結果、上記のTblastN検索によって陽性を示した約1000個の疑陽性クローンより、表2に示す一次検索陽性クローンに絞り込まれた。
表にはhtgsデータベースに対する一次検索の結果より得られた陽性クローンのうち、高い確率で標的モチーフ配列を保有していた陽性クローンを、選別して列挙した。モチーフ配列中、保存されたアミノ酸残基を下線を付けた太線で示した。
【0144】
【表2】

【0145】
(2) BlastX検索による二次スクリーニング
続く二次検索の手段として、まず最初に、表2に列挙した28個のTblastN一次検索陽性クローンそれぞれについて、一次検索の質問式配列に対して陽性を示した位置周辺の塩基配列を切り取った。この切り抜いた配列を、さらなる二次検索の質問式として用い、GenBankのnrデータベースに対するBlastX (Advanced BlastX 2.0.9)検索をおこなった。ここでの質問式配列の調製は、便宜的にWSモチーフをコードし得る配列より上流の約200 bpを含む、合計240 bpの塩基配列とした。その根拠は前述の通り、既知ヘモポエチン受容体のゲノム構造において、このWSモチーフをコードするエキソンが、およそ50〜70アミノ酸程度と比較的小さいため、ここで調製する240 bpの質問式配列は充分にエキソン部分をカバーし得ると予測したことに起因する。BlastX検索のパラメータはExpect値=100、Descriptions値=100、Alignments値=100を用い、フィルターはDefault値とした。この検索によって、一次検索陽性クローンのうち少なくとも、複数の異なる既知ヘモポエチン受容体と、相同性を示し得る陽性クローンが、同受容体ファミリーメンバーをコード可能な、二次検索陽性クローンとして選別されることを期待した。
【0146】
以上の2段階Blast検索によって、表2に示したヒトゲノムクローンのうち、AC008048、AC007174、及びAL109843の3クローンを二次検索陽性クローンとして同定することに成功した。しかしながら、AC008048とAC007174は、それぞれヒトIL-2受容体ベータ鎖とヒトIL-5受容体、そのものをコードするゲノム配列であることが判明した。一方、残るAL109843は唯一、標的とした新規ヘモポエチン受容体をコード可能であると推測されたため、このクローンをNR12と命名し、全長cDNAの単離を目指すことを決定した。
【0147】
AL109843は、1999年8月16日にhtgsデータベースに登録されたばかりのヒト染色体第1番に由来するゲノムドラフト配列で、全長149104 bpを有している。しかし現時点では、途中10箇所に及んで合計約8000 bpの塩基配列が未決定のままとなっている。AL109843配列内においてTblastN一次検索によって陽性を示した周辺配列は、図1に示すように、WSエキソンの存在を予測可能であった。この配列中、YRモチーフとして[YVFQVR]配列を認め、WSモチーフとして[WQPWS]配列を認めた。さらにBlastX二次検索において相同性を検出した、既知ヘモポエチン受容体とのアミノ酸配列比較を、図2に示す。以上の結果より、AL109843配列内に予測可能であったエキソン配列の上に、特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、これらプライマーを後述の5'-RASE法、及び3'-RACE法に提供した。
【0148】
(3) オリゴヌクレオチドプライマーの設計
前述の通り、AL109843配列内にエキソン部位を予測し、その予測した配列をもとに、下記配列に示すNR12特異的なオリゴヌクレオチドプライマーをデザインした。プライマーは、センス側(下流方向)にNR12-S1、NR12-S2、及びNR12-S3の3本を、またアンチセンス側(上流方向)にNR12-A1、NR12-A2、及びNR12-A3の3本をそれぞれ合成した。プライマーの合成には、ABI社の394 DNA/RNA Synthesizer を使用し、5'-末端トリチル基付加条件にて実施した。その後、OPC column (ABI#400771) にて、完全長の合成産物を精製した。
【0149】
NR12-S1 ; 5'- GCA ACA GTC AGA ATT CTA CTT GGA GCC -3'(配列番号:11)
NR12-S2 ; 5'- CAT TAA GTA CGT ATT TCA AGT GAG ATG TC -3'(配列番号:12)
NR12-S3 ; 5'- GGT ACT GGC AGC CTT GGA GTT CAC TG -3'(配列番号:13)
NR12-A1 ; 5'- CAG TGA ACT CCA AGG CTG CCA GTA CC -3'(配列番号:14)
NR12-A2 ; 5'- GAC ATC TCA CTT GAA ATA CGT ACT TAA TG -3'(配列番号:15)
NR12-A3 ; 5'- GGC TCC AAG TAG AAT TCT GAC TGT TGC -3'(配列番号:16)
【0150】
上記に示したオリゴヌクレオチドプライマーの配列設計にあたって、NR12-S1とNR12-A3、NR12-S2とNR12-A2、及びNR12-S3とNR12-A1は、それぞれの組み合わせにおいて、完全な相補的配列を有している。
【0151】
(4) 5'-RACE法によるN末端 cDNAのクローニング
完全長NR12に相当するcDNAクローンのN末端配列を単離するために、前記(3)のNR12-A1プライマーを一次PCRに用い、また、NR12-A2プライマーを二次PCRに用いて5'-RACE PCRを試みた。鋳型としてHuman Fetal Liver Marathon-Ready cDNA Library (Clontech#7403-1)を用い、PCR実験にはAdvantage cDNA Polymerase Mix (Clontech#8417-1)を使用した。 Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラーを使用し、下記のPCR 条件で実施した結果、図3に示す2種類のサイズを示すPCR産物が得られた。
一次PCRの条件は、94℃で4分、「94℃で20秒、72℃で90秒」を5サイクル、「94℃で20秒、70℃で90秒」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で90秒」を28サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結である。
二次PCRの条件は、94℃で4分、「94℃で20秒、70℃で90秒」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で90秒」を25サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結である。
【0152】
得られた2種類のPCR産物は双方とも、pGEM-T Easy vector (Promega #A1360) にサブクローニングし、塩基配列を決定した。PCR産物のpGEM-T Easy vectorへの組換えは、T4 DNA Ligase (Promega#A1360)によって、4℃/12時間の反応をおこなった。PCR 産物とpGEM-T Easy vectorの遺伝子組換え体は、大腸菌株DH5α(Toyobo#DNA-903)を形質転換することによって得られた。また、遺伝子組換え体の選別には、Insert Check Ready Blue (Toyobo#PIK-201)を用いた。さらに、塩基配列の決定には、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit (ABI/Perkin Elmer#4303154)を使用し、ABI PRISM 377 DNA Sequencer によって解析をおこなった。独立する10クローンの遺伝子組換え体に対し、全インサート断片の塩基配列を決定した結果、塩基対の長さ、及び配列の相違により、1.3 kbのインサートサイズを示す4クローンの同一配列グループと、1.0 kbのインサートサイズを示す6クローンの同一配列グループに区別することができた。しかし、前者1.3 kbの5'-RACE PCR産物は、非特異的PCR増幅産物であることが判明した。この配列は図3の5'-RACE PCR産物のうち、マイナーバンドに由来するものである。一方、後者1.0 kbの5'-RACE PCR産物が、正しいPCR増幅反応に由来するNR12の部分塩基配列であることを認めた。
【0153】
(5) 3'-RACE法によるC末端 cDNAのクローニング
完全長NR12に相当するcDNAクローンのC末端配列を単離するために、前記(3)のNR12-S1プライマーを一次PCRに用い、また、NR12-S2プライマーを二次PCRに用いて3'-RACE PCRを試みた。鋳型としてHuman Thymus Marathon-Ready cDNA Library (Clontech#7415-1)を使用した以外は、前項の5'-RACE法と全く同様のPCR条件に従いおこなった。即ちPCR実験にはAdvantage cDNA Polymerase Mix を用いて、Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラーを使用した。前記(4)と同様のPCR条件で実施した結果、図3に示すように単一のサイズを示す750 bp の3'-RACE増幅産物が得られた。得られたPCR産物は、前述同様pGEM-T Easy vectorにサブクローニングした後、塩基配列を決定した。PCR産物のpGEM-T Easy vectorへの組換えは、T4 DNA Ligaseによって、4℃/12時間の反応をおこなった。PCR産物とvectorの遺伝子組換え体は、大腸菌株DH5αを形質転換することによって得られた。また、遺伝子組換え体の選別も前述と同様に、Insert Check Ready Blueを用いた。塩基配列の決定においても、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kitを使用し、ABI PRISM 377 DNA Sequencerによって解析を実施した。独立する2クローンの、遺伝子組換え体に対し、全インサート断片の塩基配列の決定をおこなった結果、PolyA配列を有する完全長NR12 cDNAクローンのC末端配列を含んでいることを認めた。
【0154】
この3'RACE-PCRの結果、決定できた塩基配列と、前述(4)において決定した5'RACE-PCR産物の塩基配列とを総合することによって、最終的に細胞分泌型の可溶性受容体蛋白をコード可能なcDNAクローンの全塩基配列を決定し、このcDNAクローンをNR12.1と命名した。決定したNR12.1 cDNAの塩基配列(配列番号:1)、及びそれがコードするアミノ酸配列(配列番号:2)を図4に示す。
【0155】
(6) 3'-RACE法によるC末端スプライシング変異体のクローニング
前述までに単離、及び構造解析を完了したNR12.1クローンは、既知ヘモポエチン受容体の特徴を満足させるものの、細胞膜貫通領域を保有していない。そのため、前記の通り可溶性受容体蛋白をコードするものと推定された。そこで本発明者らは、当該遺伝子の転写産物の特にC末端領域おいて、細胞膜貫通領域を保有するスプライシング変異体の存在を予測し、継続的な3'-RACE法によるさらなるNR12 cDNAクローンの単離を試みた。
【0156】
そのために、前記(3)のNR12-S2プライマーを一次PCRに用い、また、NR12-S3プライマーを二次PCRに用いて3'-RACE PCRを試みた。鋳型としてHuman Testis Marathon-Ready cDNA Library (Clontech#7414-1)を使用した以外は、前記(4)の5'-RACE法と全く同様のPCR条件に従い実施した。その結果、複数の異なるサイズを示す3'-RACE増幅産物が得られた。得られたPCR産物は全て、前述同様pGEM-T Easy vectorにサブクローニングした後、塩基配列を決定した。独立する6クローンの、遺伝子組換え体に対し、全インサート断片の塩基配列の決定をおこなった結果、そのうちの1クローンは、前項までに塩基配列を決定したNR12.1と同一のクローンであることが判明した。残る5クローンについては、何れも標的とした細胞膜貫通領域を保有する細胞膜蛋白をコード可能であった。従い、予測通り本発明者らは、NR12のスプライシング変異体の存在を確認した。上記5つのcDNAクローンは、さらにC末端側の細胞内領域において、選択的スプライシングによる相違を示す。すなわち2クローンは短い細胞内領域しか保有しておらず、これをNR12.2と命名し、一方3クローンにおいては長い細胞内領域をコードしていた。こちらの長いORFをコードするcDNAクローンをNR12.3とすることで、それらの配列を区別した。
【0157】
この3'RACE-PCRの結果、決定できた塩基配列と、前述(4)において決定した5'RACE-PCR産物の塩基配列とを総合することによって、最終的に細胞膜貫通型受容体蛋白をコード可能なcDNAクローンの全塩基配列を決定した。決定したNR12.2 cDNAの塩基配列(配列番号:3)、及びそれがコードするアミノ酸配列(配列番号:4)を図5に示し、さらにNR12.3 cDNAの塩基配列(配列番号:5)、及びそれがコードするアミノ酸配列(配列番号:6)を図6および図7に示した。
【0158】
なお、上記(2)におけるエキソン部位配列の予測は、ゲノム遺伝子解析ソフト等のプログラムは使用せずに、RNA転写におけるスプライシングコンセンサス配列(Hames, B.D. and Glover, D.M., Transcription and Splicing (Oxford, IRL Press), 1988, p131-206)より推定した。単離したcDNAクローンの全塩基配列を決定した結果、図1で示したAL109843の部分配列内に予測したエキソン部位は実際のNR12遺伝子転写に用いられるエキソン部位と完全に一致した。ただし、NR12.1 cDNAクローンにおいてのみ、このWSエキソン終結後にスプライシングをおこなわずに、そのままゲノム構造と同一の配列を読み通して3' 非翻訳領域に突入する転写産物であることが判明した。
【0159】
(7) NR12の構造的特徴と機能予測
NR12.1、NR12.2、及び NR12.3の全塩基配列を決定した結果、これらは選択的スプライシングによって、C末端側において構造の多様性を示す転写産物であることが明らかとなった。一次構造上NR12.1は337アミノ酸からなる可溶性分泌型ヘモポエチン受容体蛋白をコードすることが可能であり、一方、NR12.2とNR12.3においては、それぞれ428アミノ酸と629アミノ酸からなる細胞膜貫通型ヘモポエチン受容体蛋白をコード可能であった。それらNR12の特徴として以下の構造が認められる。
【0160】
先ずこれらのクローンに共通した細胞外領域において、アミノ酸番号1位のMetから23位のGlyまでが典型的な分泌シグナル配列であると予測される。ここで、1位のMetよりマイナス32位の位置に、インフレームの終止コドンが存在するため、このMet残基が翻訳開始部位であると推定される。次に24位のGlyから124位のProまでによってIg-like領域を構成する。その後の133位のCysと144位のCys残基によってリガンド結合部位である、ループ構造の1つを形成すると推定される。さらに、290位のTyrから295位のArg残基までが、高度に保存されているYRモチーフであり、また、304位のTrpから308位のSer残基までに典型的なWSモチーフが認められる。
【0161】
ここで、NR12.1においてはWSモチーフ配列の後、29アミノ酸をコードし、次の終止コドンによって翻訳フレームが終結する。これによって、細胞膜貫通ドメインを保持しない、可溶性ヘモポエチン受容体蛋白をコードしている。一方のNR12.2と NR12.3においては、上記の各保存モチーフに続き、352位のGlyから377位のAsn残基までの26アミノ酸に典型的な細胞膜貫通ドメインが認められる。また、細胞内領域において413位のGln残基までは、NR12.2 とNR12.3は全く同一のアミノ酸配列をコードしているが、以降のC末端領域において選択的スプライシングによって、両者は異なるエキソンに接続するため構造の相違が発生する。即ちNR12.2は428アミノ酸をコードして、次の終止コドンによって翻訳フレームが終結するため、51アミノ酸の短い細胞内領域しか保有していない。他方、NR12.3は629アミノ酸をコードしており、252アミノ酸の細胞内領域を保有していた。以上のような構造的特徴より、NR12遺伝子は新規ヘモポエチン受容体蛋白の特徴を充分に満足させることを認めた。
【0162】
[実施例2] RT-PCR法によるNR12遺伝子発現組織の検索と発現様態の解析
各ヒト臓器におけるNR12.1遺伝子の発現分布、及び、遺伝子発現様態を解析するために、RT-PCR法によるmRNAの検出を行った。RT-PCR解析に用いるための、センス側(下流方向)プライマーとして下記配列のNR12-PPDプライマーを新たに合成した。アンチセンス側(上流方向)プライマーとしては前記実施例1(3)にて合成したNR12-A1プライマーを用いた。NR12-PPDプライマーの合成、及び精製は前記実施例1(3)に従った。これら[ NR12-PPD対NR12-A1 ]のプライマーセットにより、NR12.1、NR12.2、及びNR12.3の全てのスプライシング変異体において共通のN末端領域の増幅、及び検出が期待される。
hNR12-PPD ; 5'- CCG CCA GAT ATT CCT GAT GAA GTA ACC -3'(配列番号:17)
【0163】
鋳型として、Human Multiple Tissue cDNA (MTC) Panel I (Clontech #K1420-1)、Human MTC Panel II (Clontech#K1421-1)、Human Immune System MTC Panel (Clontech#K1426-1)、及びHuman Fetal MTC Panel (Clontech#K1425-1)を用いた。PCRにはAdvantage cDNA Polymerase Mix (Clontech#8417-1)を用い、Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラーを使用した。PCR反応は、94℃で4分、「94℃で20秒、72℃で1分」を5サイクル、「94℃で20秒、70℃で1分」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で1分」を25サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結、のサイクル条件にて実施することで、標的遺伝子の増幅を試みた。
【0164】
この結果、図8に示す通り、成人脾臓、胸腺、リンパ節、骨髄、末梢白血球などの造血担当細胞系組織、及び免疫担当細胞系組織においてNR12の強い遺伝子発現を認め、さらに精巣、肝臓、肺、腎臓、膵臓や、小腸、結腸の消化管においても、その発現を検出した。また、解析をおこなった全てのヒト胎児臓器由来のmRNAにおいても、その遺伝子発現を認めた。ここで、解析に使用した全ての鋳型に対して、ヒトG3PDHプライマーを用い上記PCR条件にてハウスキーピング遺伝子G3PDHの発現を検出することで、予め鋳型mRNAのコピー数がサンプル間で標準化(normalize)されていることを確認している。
【0165】
ここで検出されたRT-PCR増幅産物のサイズは561 bpであり、これは決定したNR12 cDNAの塩基配列から計算されるサイズと一致する。従ってこれらは、特異的なPCR増幅反応による産物であると考えられた。このことを更に次項のサザンブロッティング法によって確認することで、それらが非特異的なPCR増幅による産物である可能性を否定した。
【0166】
RT-PCR法によってNR12遺伝子発現分布、及び、遺伝子発現様態の解析結果においては、その発現が検出された臓器、及び組織には制限性があり、各臓器間の発現量においても大きな偏差が認められた。これらNR12の遺伝子発現分布を総合すると、主に免疫担当細胞系組織、及び造血細胞を含むと考えられる組織に強い発現の局在が検出されたことより、NR12が新規ヘモポエチン受容体として機能し得る可能性が、さらに強く示唆された。また、上記以外の組織においても発現分布が認められたことは、NR12が免疫系及び造血系のみならず、多岐にわたる生体内の生理機能を調節し得る可能性をも示唆している。
【0167】
また、スプライシング変異体の存在は確認された。これらは、ある特定細胞群における、機能特異性を決定するための転写調節や、或いは外来からの刺激要因による転写誘導、及び選択的なスプライシング調節がおこなわれることによって、NR12の遺伝子発現が厳密な転写制御を受けている可能性を強く示唆する。
【0168】
[実施例3] サザンブロッティング法によるRT-PCR産物の特異性の確認
実施例2におけるRT-PCRによって増幅された標的遺伝子産物は、NR12特異的なcDNA断片をプローブとして用いるサザンブロッティング法を実施することで、それが特異的な増幅であることを確認した。また、同時にRT-PCR産物を標識シグナル強度によって定量的に検出することで、ヒト各臓器間における遺伝子発現の比較測定的評価を試みた。前項のRT-PCR産物を、アガロースゲル電気泳動後、Hybond N(+) (Amersham,cat#RPN303B)付電荷ナイロン膜にブロッティングし、ハイブリダイゼーションに供した。NR12に特異的なプローブとして、実施例1(4)にて得られたNR12のN末端に相当する5'RACE PCR産物の cDNA断片を用いた。プローブの調製は、Mega Prime Kit (Amersham, cat#RPN1607)を使用し[α-32P]dCTP (Amersham,cat#AA0005)によってラジオアイソトープ標識した。ハイブリダイゼーションにはExpress Hyb-ridization Solution (Clontech#8015-2)を用い、68℃/30分のプレハイブリダイゼーションの後、熱変性させた標識プローブを加え、68℃/120分のハイブリダイゼーションを実施した。(1) 1x SSC / 0.1% SDS, 室温で5分、(2) 1x SSC / 0.1% SDS,50℃で30分、(3) 0.1x SSC / 0.1% SDS,50℃で30分の条件にて洗浄をおこなった後、Imaging Plate (FUJI#BAS-III)に露光させ、Image Analyzer (FUJIX, BAS-2000 II)によって、NR12特異的なシグナルを検出した。
【0169】
検出した結果を図9に示す通り、前項のRT-PCRによって増幅のされたPCR産物は、全てNR12に特異的な増幅産物であることが確認された。また各臓器における発現量の比較定量についても、前項の評価を支持するものであった。一方、RT-PCR法とサザンブロッティング法を組み合わせた、ここでの標的遺伝子発現の検出方法は、他の発現解析方法と比較しても極めて感度の高い検出手段であるにも関わらず、成人心臓や骨格筋、及び成人脳、前立腺、卵巣、胎盤においてはNR12の遺伝子発現が全く検出されなかった。
【0170】
[実施例4] ノーザンブロッティング法によるNR12遺伝子発現解析
各ヒト臓器、及びヒト癌細胞株におけるNR12の遺伝子発現様態の解析と、NR12転写サイズの同定を目的として、ノーザンブロッティング法によるNR12遺伝子の発現解析を試みた。ブロットにはHuman Multiple Tissue Northern (MTN) Blot (Clontech #7760-1)、Human MTN Blot II (Clontech #7759-1)、Human MTN Blot III (Clontech#7767-1)、及びHuman Cancer Cell Line MTN Blot (Clontech#7757-1)を使用した。
【0171】
プローブには実施例1(4)にて得られた、5'-RACE産物のcDNA断片を用いた。プローブの調製は実施例3同様、Mega Prime Kitを用い[α-32P]dCTPによってラジオアイソトープ標識した。ハイブリダイゼーションにはExpress Hyb-ridization Solutionを用い、65℃/30分のプレハイブリダイゼーションの後、熱変性させた標識プローブを加え、65℃/16時間のハイブリダイゼーションを実施した。(1) 1x SSC / 0.1% SDS,室温で5分、(2) 1x SSC / 0.1% SDS,48℃で30分、(3) 0.5x SSC / 0.1% SDS,48℃で30分の条件にて洗浄をおこなった後、前項同様にImaging Plate に対して露光させ、Image Analyzerを使用することで、NR12特異的なシグナルの検出を試みた。
【0172】
しかしながらその結果、何れのヒト臓器においてもシグナルは検出されなかった。原因として、ノーザン解析法の場合、RT-PCRレベルと比較して検出感度がかなり低いため、発現量の低いmRNAを検出することができなかったものと考えられる。
【0173】
[実施例5] 増殖因子依存性細胞株を利用したNR12リガンド検索系の構築
本発明蛋白と特異的に結合するリガンド蛋白のスクリーニングは本発明蛋白の細胞外ドメインを既知のシグナル伝達能を有するヘモポエチン受容体蛋白の細胞膜貫通ドメインを含む細胞内ドメインと連結させたたキメラ受容体を適当な細胞株、好ましくは適当な増殖因子の存在下でのみ生存、及び増殖可能な細胞株(増殖因子依存性細胞株)の細胞表面に発現させた後、当該細胞株を種々の増殖因子、サイトカイン、造血因子等を含むことが期待される材料を添加して培養することにより実施可能である。上記増殖因子依存性細胞株は増殖因子の非存在下では急速に死滅することから、被検材料中に本発明蛋白の細胞外ドメインと特異的に結合するリガンドが存在する場合にのみ、生存と増殖が可能であることを利用することによって、スクリーニング系が成立する。既知ヘモポエチン受容体としては例えば、トロンボポエチン受容体、エリスロポエチン受容体、G-CSF受容体、gp130等が挙げられるが、本スクリーニング系に用いるキメラ受容体のパートナーは上記既知ヘモポエチン受容体に限定されるものではなく、細胞質ドメインにシグナル伝達活性に必要な構造を備えているものであれば何を用いても構わない。また、増殖因子依存性細胞株としてはBa/F3やFDC-P1を初めとした、IL-3依存性細胞株を利用することが可能である。
【0174】
そこで先ず最初にNR12の細胞外領域(アミノ酸配列;1位のMetから、319位のGlyまで)をコードするcDNA配列をPCRによって増幅し、このDNA断片を既知のヘモポエチン受容体の細胞膜貫通領域、及び細胞内領域をコードするDNA断片と同一翻訳枠で結合させることによって、キメラ受容体をコードする融合配列を作製した。ここで、パートナーとなる既知ヘモポエチン受容体として、前述のようにいくつかの候補が挙げられたが、その中からヒトTPO受容体(Human MPL-P)を選択した。また、上記によって作製したキメラ受容体配列を哺乳動物細胞で発現可能なプラスミドベクターpME18S/neoに挿入した。構築したキメラ受容体(pME18S/ NR12-TPOR)の構造模式図を図10に示す。これらキメラ受容体発現ベクターを増殖因子依存性細胞株Ba/F3に導入し強発現させ、安定した遺伝子導入細胞を選択する。ここで遺伝子導入細胞の選択は、上記発現ベクターが薬剤(ネオマイシン)耐性遺伝子を保有していることを利用し、同薬剤添加培地にて薬剤耐性能を獲得した遺伝子導入細胞のみを選択的に増殖させることが可能である。前述のように、以上によって得られるキメラ受容体発現細胞株を増殖因子(ここではIL-3)非存在下での培養系に切り替え、代替的に標的リガンドを含むことが期待される材料を添加して培養することにより、NR12と特異的に機能結合するリガンドが存在する場合にのみ生存/増殖可能であることを利用した、スクリーニング系を展開することで新規ヘモポエチンのスクリーニングが実施可能である。
【0175】
[実施例6] 細胞分泌型、可溶性リコンビナントNR12蛋白質の発現系構築
本発明蛋白と特異的に結合するリガンド蛋白としては、希ではあるが可溶性蛋白ではなく細胞膜結合型蛋白である可能性も想定される。この様な場合には寧ろ本発明蛋白の細胞外ドメインのみを含む蛋白あるいは当該細胞外ドメインに他の可溶性蛋白の部分配列を付加した融合蛋白を標識後、リガンドを発現していることが期待される細胞との、結合を測定することによりスクリーニングが可能である。
【0176】
前者の場合には例えば細胞膜貫通ドメインのN端側に終止コドンを挿入することにより人為的に作成した可溶性受容体蛋白、あるいはNR12の可溶型蛋白をコードするNR12.1の配列が利用可能である。また、後者の場合には例えば免疫グロブリンのFc部位やFLAGペプチド等の標識ペプチド配列を細胞外ドメインのC末端に付加することにより調製可能である。またこれらの可溶性標識蛋白質はウエストウエスタン法に於ける検出にも利用可能である。
【0177】
そこで本発明者らは、NR12の細胞外領域(アミノ酸配列;1位のMetから、319位のGlyまで)をコードするcDNA配列をPCRによって増幅し、このDNA断片のC末端に同一翻訳枠でFLAGペプチド配列を付加することで、当該可溶性標識蛋白をコードする配列の作製を選択した。ここで作製した配列を哺乳動物細胞で発現可能なプラスミドベクターpCHOに挿入した。構築したNR12可溶性受容体標識蛋白(pCHO/ NR12-FLAG)の構造模式図を図10に示す。この発現ベクターを哺乳動物細胞株CHO細胞に導入し強発現させ、安定した遺伝子導入細胞を選択する。当該可溶性蛋白の発現を確認した後、上記発現細胞を大量培養し、その培養上清に分泌される当該リコンビナント蛋白質を抗FLAGペプチド抗体にて免疫沈降可能である。さらに、アフィニティーカラム等による精製が可能である。
【0178】
以上により得られる当該リコンビナント蛋白質は、上記アッセイ等に用いることができる以外に、例えば、標的リガンドを含むと予測される材料との共存下における特異的結合活性をBIA-COREシステム(Pharmacia社)にて検出することも可能であり、NR12と機能結合し得る新規ヘモポエチンを検索するために、極めて有用であると考えられる。
【0179】
[実施例7] 完全長ヒトNR12CDSの再単離
(1)オリゴヌクレオチドプライマーの設計
本発明者らはこれまでに、NR12遺伝子の完全長cDNAの単離に成功したが、それらcDNA単離段階において、5’-RACE 法、及び3’-RACE法を用いたため、標的当該遺伝子はN-末端配列、及び C-末端配列のそれぞれ個別に単離された産物であった。そこで、連続する完全長コーディング配列を含むNR12.2、及びNR12.3遺伝子の再単離を試みた。
【0180】
先ず、NR12 の各cDNAクローンに共通の塩基配列である翻訳開始コドンであるMet配列を含む、下記配列のセンスプライマー(NR12.1-MET)を設計した。一方、アンチセンスプライマーとして、NR12.2 及びNR12.3のそれぞれに特異的な塩基配列である翻訳終止コドンを含むプライマー(NR12.2-STP、及びNR12.3-STP)を設計した。プライマーの合成は、実施例1(3)に従った。即ち、ABI社の394 DNA/RNA Synthesizerを使用し、5’-末端トリチル基付加条件にて実施し、その後、OPC column (ABI#400771) にて、完全長の合成産物を精製した。
NR12.1-MET; 5'- ATG AAT CAG GTC ACT ATT CAA TGG -3'(配列番号:18)
NR12.2-STP; 5'- GCA GTC CTC CTA CTT CAG CTT CCC -3'(配列番号:19)
NR12.3-STP; 5'- TTG ATT TTG ACC ACA CAG CTC TAC -3'(配列番号:20)
【0181】
(2)PCRクローニング
NR12の完全長 CDSを単離するために、前記(1)のNR12.1-METプライマーをセンスプライマーに用い、また、NR12.2-STP及び NR12.3-STPプライマーをアンチセンスプライマーとして用いたPCRクローニングをそれぞれについて試みた。鋳型としてHuman Thymus Marathon-Ready cDNA Library (Clontech#7415-1)を使用し、PCR実験にはAdvantage cDNA Polymerase Mix (Clontech#8417-1)を用いた。Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラーを使用し、下記のPCR条件で実施した結果、「NR12.1-MET 対NR12.2-STP」のプライマーセットにて1301 bpの増幅産物が得られ、この配列をNR12.4とした。他方「NR12.1-MET 対NR12.3-STP」のプライマーセットにて1910 bpの増幅産物が得られ、この配列をNR12.5として区別した。
【0182】
PCRの条件は、94℃で4分、「94℃で20秒、72℃で90秒」を5サイクル、「94℃で20秒、70℃で90秒」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で90秒」を28サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結である。
【0183】
得られたPCR産物は実施例1(4)に従い、pGEM-T Easy vector (Promega #A1360)にサブクローニングし、塩基配列を決定した。PCR産物のpGEM-T Easy vectorへの組換えは、T4 DNA Ligase (Promega#A1360)によって、4℃/12時間の反応を行った。PCR産物とpGEM-T Easy vectorの遺伝子組換え体は、大腸菌株DH5α(Toyobo#DNA-903)を形質転換することによって得られた。また、遺伝子組換え体の選別には、Insert Check Ready Blue (Toyobo#PIK-201)を用いた。さらに、塩基配列の決定には、BigDye Terminator Cycle Sequencing SF Ready Reaction Kit (ABI/Perkin Elmer#4303150)を使用し、ABI PRISM 377 DNA Sequencerによって解析をおこなった。独立するNR12.4とNR12.5それぞれの遺伝子組換え体に対し、インサート断片の塩基配列の解析を行い、完全長CDSをコードし得るcDNAクローンの配列を決定した。
【0184】
その結果、PCR実験に用いたプライマーの設計上、NR12.4はNR12.2の完全長ORFを有するが、5'非翻訳領域は保有しておらず、また3'非翻訳領域もプライマー由来配列以外はコードしていなかった。また、同様にNR12.5はNR12.3の完全長 ORFを有するが、5'非翻訳領域保有しておらず、また3'非翻訳領域もプライマー由来配列以外はコードしていなかった。決定したNR12.4の塩基配列、及びそれがコードするアミノ酸配列を図11、12に示し、他方NR12.5の塩基配列、及びそれがコードするアミノ酸配列を図13、14に示した。
【0185】
なお、本発明のNR12.5 cDNAを含むpGEM-T Easy vector(pGEM/NR12.5CDS)によって形質転換した大腸菌株DH5αを、平成12年7月31日付けで次のように国際寄託した。
寄託機関の名称・あて名
名称:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305-8566)
寄託日 平成12年7月31日
受託番号 生命研条寄7259号(FERM BP−7259)
【0186】
[実施例8] マウスNR12相同ゲノム遺伝子の単離
(1)ヒトNR12プローブ断片の調製
マウスNR12遺伝子のゲノム構造の解析を目指し、マウスGenomic DNAライブラリーに対するプラークハイブリダイゼーションを試みた。異種間交叉Hybridization CloningをマウスゲノムDNAライブラリーに対して実施するために、ヒトNR12のcDNAのプローブ断片を調製した。実施例1(4)にて得られた、ヒトNR12の5’-RACE産物を用い、そのインサート断片をNot Iにて切り出し、精製した産物をプローブ断片とした。インサート断片のアガロースゲルからの切り出し、及び精製はQIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN#28704)を使用した。プローブの調製は実施例3同様、Mega Prime Kitを用い[α-32P]dCTPによってラジオアイソトープ標識し、プラークハイブリダイゼーションに供した。
【0187】
(2)プラークハイブリダイゼーション
ライブラリーとしてLambda FIX IIに構築された マウス129SVJ株 Genomic DNA (Stratagene#946313)を用いた。約32万プラークのGenomicライブラリーをNZY寒天培地に展開し、Hybond N(+) (Amersham #RPN303B)付電荷ナイロン膜にブロットした後、一次スクリーニングに供した。ハイブリダイゼーションにはPerfect-Hyb Solution (Toyobo#HYB-101)を用い、60℃/ 30分のプレハイブリダイゼーションの後、熱変性させた標識プローブを加え、60℃/ 16時間のハイブリダイゼーションを実施した。1x SSC/ 0.1% SDSを室温で5分、1x SSC/ 0.1% SDSを50℃で30分、0.5x SSC/ 0.1% SDSを50℃で30分の条件にて洗浄を行った後、X線フィルム(Hyperfilm MP:Amersham, #RPN8H)に露光し、NR12陽性プラークを検出した。
【0188】
その結果、陽性或いは疑陽性を示す独立した6クローンが得られた。一次スクリーニングによって得られたこの6クローンに対し、同様に二次スクリーニングを行った結果、NR12陽性を示す独立した2クローンのプラークの単離に成功した。単離したプラークのLambda DNAはプレート溶菌法により大量調製した。制限酵素Sal Iにてインサート断片を切り出し、それらのサイズを確認したところ、それぞれ約18.5kbと約16.0kbであると推定された。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明により新規なヘモポエチン受容体蛋白質及びそれをコードするDNAが提供された。また、該DNAが挿入されたベクター、該DNAを保持する形質転換体、該形質転換体を利用した組換え蛋白質の製造方法が提供された。さらに、該蛋白質に結合する天然のリガンドあるいは化合物のスクリーニング方法が提供された。本発明の蛋白質は、生体免疫調節、或いは造血細胞調節に直接的に関与すると考えられることから、生体における免疫応答、或いは造血機構の抜本的な特性の理解と、それに基づく免疫関連疾患や造血関連疾患の診断や治療への応用が期待される。
【0190】
特に、本発明のNR12分子と機能結合し得る、その未知の造血因子の単離することは重要であり、それを目的とするスクリーニングをおこなう上で、本発明の遺伝子を利用することは極めて有用であると考えられる。さらに、NR12分子と機能結合し得るアゴニスト、或いはアンタゴニストの検索を、ペプチドライブラリー、または合成化学材料に対しておこない、単離同定することも有効である。
【0191】
上に述べた通り、NR12遺伝子は、それがコードする受容体蛋白と機能結合し得る、未知の造血因子やアゴニストを得るための有用な材料を提供するものと考えられる。このような機能結合物質、或いはNR12分子機能を活性化し得る特異的抗体の生体投与により、生体の細胞性免疫の増強や造血機能の増強が可能であると予測される。つまり、免疫担当細胞、或いは造血細胞の増殖促進剤、または分化誘導剤、或いは免疫細胞機能活性化剤としての臨床応用が可能であると考えられる。また、それらを介してある特定種の癌組織に対する細胞傷害性免疫を高めることも可能であると考える。さらに、NR12の発現はこれら造血組織中の限られた細胞集団に特異的に発現している可能性が想定され、この細胞集団を分離する手段として抗 NR12抗体は有用である。この様にして分離された細胞集団は細胞移植療法への応用が可能である。
【0192】
一方、NR12のスプライス変異体であるNR12.1はデコイ(decoy)型受容体としてNR12リガンドに対する阻害剤としての利用が想定される。また、NR12分子に機能結合し得るアンタゴニストや、その他阻害剤、或いはNR12分子機能を阻害し得る特異的抗体の生体投与により、生体の細胞性免疫の抑制や造血細胞の増殖抑制が可能であると予測される。このような阻害物質は免疫担当細胞や造血細胞の増殖抑制剤、または分化抑制剤、或いは免疫抑制剤や抗炎症剤としての臨床応用が可能であると考えられる。具体的には、自己組織傷害性に起因する自己免疫疾患発症の抑制や、移植免疫の領域において最大の問題となる、生体免疫による組織拒絶応答の抑制にも応用できる可能性もある。さらには、免疫反応の異常亢進により惹起される疾患領域に対して、極めて有効であると考えられ、金属や花粉などに対する種々の抗原特異的アレルギーに対しても、上記阻害剤を用いた免疫抑制による解決が有効であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】図1は、htgsデータベース内に同定したAL109843の部分塩基配列を示す図である。予測可能であったエキソン配列の塩基配列を大文字で記し、そのアミノ酸配列も併記した。標的としたYRモチーフ配列、及びWSモチーフ配列のアミノ酸配列をそれぞれ枠で囲って示した。
【図2】図2は、AL109843配列内に見出したNR12の部分アミノ酸配列と相同性を示す、既知ヘモポエチン受容体の部分アミノ酸配列をそれぞれ併記した図である。一致するアミノ酸配列は枠付きで示し、また、類似性質を示すアミノ酸配列に影を施した。さらにギャップスペースはバーで補足した。上段から順に、ヒトgp130、ヒトNR9、ヒトProlactin受容体、ヒトIL-7受容体、及びヒトLIF受容体を記載した。
【図3】図3は、AL109843配列内に予測したWSエキソン上に設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用いた5'-RACE法、及び 3'-RACE法によって増幅された、PCR産物を示す写真である。特異的なPCR反応による増幅産物を矢印で示した。
【図4】図4は、5'-RACE、及び3'-RACEによって得られた産物を複合した、NR12.1の完全長cDNA の塩基配列を示した図である。NR12.1がコードするアミノ酸配列も併記した。また、分泌シグナル配列と予測されるアミノ酸配列に下線を施した。さらに、保存されたシステイン残基、及びYRモチーフとWSモチーフのアミノ酸配列を枠付きで示した。
【図5】図5は、5'-RACE、及び3'-RACEによって得られた産物を複合した、NR12.2の完全長cDNA の塩基配列を示した図である。NR12.2がコードするアミノ酸配列も併記した。また、分泌シグナル配列と予測されるアミノ酸配列に下線を施した。さらに、膜貫通領域と予測されるアミノ酸配列は影付きで示した。細胞外領域の保存されたシステイン残基、及びYRモチーフとWSモチーフのアミノ酸配列を枠付きで示した。
【図6】図6は、5'-RACE、及び3'-RACEによって得られた産物を複合した、NR12.3の完全長cDNA の塩基配列を示した図である。NR12.3がコードするアミノ酸配列も併記した。また、分泌シグナル配列と予測されるアミノ酸配列に下線を施した。さらに、膜貫通領域と予測されるアミノ酸配列は影付きで示した。細胞外領域の保存されたシステイン残基、及びYRモチーフとWSモチーフのアミノ酸配列を枠付きで示した。
【図7】図7は、図6の続きである。
【図8】図8は、RT-PCR法により各ヒト臓器における、NR12の遺伝子発現分布を解析した結果を示す写真である。NR12の特異的なPCR増幅産物のサイズを矢印で示した。
【図9】図9は、サザンブロッティングにより各ヒト臓器におけるNR12の遺伝子発現分布を定量解析した結果を示す写真である。検出したNR12の、特異的なシグナルのサイズを矢印で示した。
【図10】図10は、発現ベクターに構築した哺乳動物細胞にて発現可能なNR12融合蛋白質の構造模式図である。
【図11】図11は、NR12.4の完全長cDNAの塩基配列を示す図である。NR12.4がコードするアミノ酸配列も併記した。また、分泌シグナル配列と予測されるアミノ酸配列に下線を施した。さらに、膜貫通領域と予測されるアミノ酸配列に影塗りを施した。細胞外領域の保存されたシステイン残基、及びYRモチーフとWSモチーフのアミノ酸配列を太字で示した。
【図12】図12は、図11の続きである。
【図13】図13は、NR12.5の完全長cDNAの塩基配列を示した。NR12.5がコードするアミノ酸配列も併記した。また、分泌シグナル配列と予測されるアミノ酸配列に下線を施した。さらに、膜貫通領域と予測されるアミノ酸配列に影塗りを施した。細胞外領域の保存されたシステイン残基、及びYRモチーフとWSモチーフのアミノ酸配列を太字で示した。
【図14】図14は、図13の続きである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)から(c)いずれかに記載のDNA
(a)配列番号:2のアミノ酸配列において24番目のGlyから337番目のCysまでのアミノ酸配列、配列番号:4のアミノ酸配列において24番目のGlyから428番目のSerまでのアミノ酸配列、配列番号:6のアミノ酸配列において24番目のGlyから629番目のLysまでのアミノ酸配列、配列番号:8のアミノ酸配列において24番目のGlyから428番目のSerまでのアミノ酸配列、または配列番号:10のアミノ酸配列において24番目のGlyから629番目のLysまでのアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において24番目のGlyから337番目のCysまでのアミノ酸配列、配列番号:4のアミノ酸配列において24番目のGlyから428番目のSerまでのアミノ酸配列、配列番号:6のアミノ酸配列において24番目のGlyから629番目のLysまでのアミノ酸配列、配列番号:8のアミノ酸配列において24番目のGlyから428番目のSerまでのアミノ酸配列、または配列番号:10のアミノ酸配列において24番目のGlyから629番目のLysまでのアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失および/または付加したアミノ酸配列を有し、造血因子受容体蛋白質活性を有する蛋白質をコードする遺伝子
(c)(a)のDNAと65℃、2×SSC、0.1%SDSの条件下でハイブリダイズし、造血因子受容体蛋白質活性を有する蛋白質をコードする遣伝子。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAによりコードされる蛋白質。
【請求項3】
請求項1に記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項4】
請求項3に記載のベクターを保持する形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体を培養し、該形質転換体またはその培養上清から発現させた蛋白質を回収する工程を含む、蛋白質の製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の蛋白質に結合する抗体。
【請求項7】
請求項2に記載の蛋白質に結合する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)該蛋白質またはその部分ペプチドに被検試料を接触させる工程、
(b)該蛋白質またはその部分ペプチドと被検試料との結合活性を検出する工程、
(c)該蛋白質またはその部分ペプチドに結合する活性を有する化合物を選択する工程、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−99690(P2008−99690A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267565(P2007−267565)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【分割の表示】特願2001−526938(P2001−526938)の分割
【原出願日】平成12年9月27日(2000.9.27)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】