説明

新規ペプチド誘導体及びこれを有効成分とする抗癌剤

【課題】新規なペプチド誘導体を提供すると共にこれを有効成分とする医薬、特に、抗癌剤を提供すること。
【解決手段】
次の式
【化1】


で表される新規ペプチド誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なペプチド誘導体及びこれを有効成分とする医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の新規ペプチド誘導体の分離源である藍藻(Cyanobacteria)は核膜に包まれた核および葉緑体をもたない藻類の一門で、23科160属1500種ほどが知られている。これまでに藍藻の含有成分の検討が行われた例(非特許文献1)はあるが、式(2)で表される化合物を得たとの報告はない。式(2)で表される化合物はこれまでに報告のない新規化合物である。
【0003】
ところで、従来より、抗癌剤を用いる化学療法は外科的療法や放射線療法とともに癌の治療法として重要な位置を占め、種々の抗癌剤が提供されている。抗癌剤の中には、アドリアマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、ビンクリスチン等の天然物に由来する抗癌剤が数多く知られている。しかしながら、これまでの抗癌剤は必ずしも満足の行かない治療成績の点や重篤な副作用の点で問題が残っているばかりか多剤耐性の問題などもあるため、更により優れた抗癌剤の出現が求められている。
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.2001,123,5418−5423.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、新規なペプチド誘導体を提供するとともに、これを有効成分とする癌治療に有効な医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を重ね本発明に想到したものであり、沖縄県恩納村で採集した藍藻(Cyanobacteria)を抽出、分離精製して得た上記式(2)で表される新規ペプチド誘導体が、マウスリンパ性白血病細胞P388に対して増殖阻害活性を有することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、次の一般式(1)
【0006】
【化3】

〔式中、R、R、R、Rは独立に水素原子または低級アルキル基を表す。R、Rは独立に水素原子、低級アルキル基または水酸基の保護基を表す。〕で表される新規ペプチド誘導体に関する(請求項1)。
【0007】
また、次の式(2)
【0008】
【化4】

で表される新規ペプチド誘導体に関する(請求項2)。
【0009】
藍藻(Cyanobacteria)から抽出・分離精製された請求項1または請求項2に記載の新規ペプチド誘導体に関する(請求項3)。
【0010】
また、請求項1から請求項3のいずれかの新規ペプチド誘導体を有効成分とする医薬に関する(請求項4)。さらに、請求項4の医薬が、特に抗がん剤である医薬に関する(請求項5)。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
本発明は以下の効果を奏する。本発明の新規ペプチド誘導体は、P388細胞増殖阻害活性を有し抗癌剤として有用である。医薬としても有用である。また、化学修飾が容易で誘導体を合成しやすいので更に優れた活性を有する抗癌剤を含む医薬の開発が期待できる。
【本発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記一般式(1)中の低級アルキル基とは、炭素数1から6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基を意味し、その具体例としてメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基を挙げることができる。水酸基の保護基としては、アセチル基、プロピオニル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等のアシル基;メトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;ベンジルオキシカルボニル基等のアラルキルオキシカルボニル基;ベンジル基、ナフチルメチル基等のアリールメチル基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ベンジルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等のシリル基;アセトニド基;ヒドロキシメチル基、メトキシメチル基等の低級アルコキシメチル基などを例示することができる。
【0012】
本発明の上記一般式(1)または式(2)で表される新規ペプチド誘導体は沖縄県近海で採集した海洋生物、例えば藍藻(Cyanobacteria)を有機溶媒で抽出後、分離精製することにより、或いは得られた化合物について公知の方法を用いて修飾することにより得られる。また、市販されている試薬を用いて公知の方法により合成して得ることもできる。
【0013】
抽出に用いられる溶媒としてはメタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム等が挙げられ、クロマトグラフィはカラム、薄層及び高速液体クロマトグラフィが用いられ、カラムクロマトグラフィの充填剤としてはポリスチレン系樹脂(例えばTSK−G3000S)、イオン交換樹脂、シリカゲル、セファデックスLH−20や逆相系のRP−18等が用いられ、薄層及び高速液体クロマトグラフィとしてはシリカゲルの他、RP−18等が用いられる。
【0014】
本発明における上記一般式(1)に含まれる化合物としては具体的には、
【0015】
【化5】

で表される新規ペプチド誘導体(2)が挙げられる。
【0016】
本発明の化合物は治療のために経口的あるいは非経口的に投与することができる。経口投与剤としては、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤などの固形製剤あるいはシロップ剤、エリキシル剤などの液状製剤とすることができる。また、非経口投与剤として注射剤、直腸投与剤、皮膚外用剤、吸入剤とすることができる。これらの製剤は有効成分に薬学的に認容である製造助剤を加えることにより常法に従って製造される。更に公知の技術により持続性製剤とすることも可能である。
【0017】
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤例えば乳糖、デンプン、結晶セルロース、乳糖カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸などとを混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するにはこれらの散剤及び顆粒剤をそのままあるいはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒又は錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタアクリル酸、メタアクリル酸メチルコポリマーなどの腸溶性基剤で被覆して腸溶性製剤、あるいはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解したのちゼラチン膜で被覆し軟カプセル剤とすることができる。
【0018】
経口投与用の液状製剤を製造するには、有効成分と白糖、ソルビトール、グリセリンなどの甘味剤とを水に溶解して透明なシロップ剤、更に精油、エタノールなどを加えてエリキシル剤とするか、アラビアゴム、トラガント、ポリソルベート80、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを加えて乳剤又は懸濁剤としてもよい。これらの液状製剤には所望により矯味剤、着色剤、保存剤などを加えてもよい。
【0019】
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じ塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖などの等張化剤とともに注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空下凍結乾燥し、用時溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレシチン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ注射用乳剤とすることもできる。
【0020】
直腸投与剤を製造するには、有効成分及びカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジ及びモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの坐剤用基剤とを加湿して溶融し型に流しこんで冷却するか、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解したのちゼラチン膜で被覆すればよい。
【0021】
皮膚外用剤を製造するには、有効成分を白色ワセリン、ミツロウ、流動パラフィン、ポリエチレングリコールなどに加えて必要ならば加湿して練合し軟膏剤とするか、ロジン、アクリル酸アルキルエステル重合体などの粘着剤と練合したのちポリエチレンなどの不織布に展延してテープ剤とする。
吸入剤を製造するには、有効成分をフロンガスなどの噴射剤に溶解又は分散して耐圧容器に充填しエアゾール剤とする。
【0022】
上記構成を有する本発明の薬剤は、公知の製造法、例えば日本薬局方第10版製剤総則記載の方法ないし適当な改良を加えた方法によって製造することができる。
【0023】
本発明の有効成分の投与量は患者の年齢、体重及び病態によって異なるが、通常1日約1mg〜1000mgであり、1乃至数回に分けて投与することが望ましい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例および試験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は既述の発明の実施の形態及び以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1.新規ペプチド誘導体(2)の分離精製
沖縄県恩納村沿岸で採集した藍藻(Cyanobacteria)500gを80%エタノール水溶液1.3Lに浸漬し室温で5日間静置後、濾過し、濾液を加熱減圧下有機溶媒を留去した。水性残渣(1.5L)を酢酸エチル(1.5L)で3回抽出し、合わせて溶媒を留去濃縮して粗抽出物1.67gを得た。
【0026】
上記粗抽出物をヘキサン750mLと90%メタノール750mLに分配し、90%メタノール層をヘキサン750mLで更に2回分配した後、ヘキサン層を合わせて加熱減圧下有機溶媒を留去してヘキサン可溶画分810mgを得た。
【0027】
内径32mmのガラスカラムにヘキサンで懸濁させたシリカゲル50gを充填(高さ200mm)し、上記ヘキサン可溶画分を少量のヘキサンに溶かしてこれに吸着させた。このカラムに順次ヘキサン、ヘキサン/酢酸エチル=3/1、ヘキサン/酢酸エチル=1/1、ヘキサン/酢酸エチル=1/3、酢酸エチル、及びメタノールを各500mL流した。ヘキサン/酢酸エチル=1/3による溶出画分を濃縮し褐色油状物18.7mgを得た。
【0028】
分取用シリカゲルTLC(0.5mm×200mm×200mm)に、上記褐色油状物を少量のジクロロメタンに溶かして吸着させた。クロロホルム/メタノール=20/1で展開し、Rf値0.77〜0.71の部分を取り分け、メタノールを用いて溶出した。溶出画分を濃縮し黄色油状物1.6mgを得た。
【0029】
上記黄色油状物をメタノール溶液(150μL)とし、高速液体クロマトグラフィー(カラム:Develosil ODS−HG−5、4.6mm×250mm;溶媒:70%メタノール−水を60分、その後メタノール;流速:1.0mL/min.;検出:UV254nm)に2回に分けて注入して保持時間35分に溶出したピーク相当画分を分取、濃縮して、新規ペプチド誘導体(2)を無色結晶として1.1mg得た。
【0030】
分子式:C3347
H−NMR(800MHz、CDCl):δ0.53(3H、d,J=7.28、15−H),0.60(3H、d,J=6.4、14−H),0.84(3H、d,J=6.4、19−H),0.94(3H、d,J=6.48、20−H),1.95(1H、8,J=6.4、18−H),1.99(1H、m、13−H),2.45(6H、s、1−H、2−H),2.91(1H、dd、24−H),2.93(1H、dd、4−H),2.94(3H、s、22−H),3.06(1H、dd,J=10.08、4−H),3.35(1H、dd,J=5.52,14.64、24−H),3.59(1H、dd,J=5.52,10.08、3−H),3.70(3H、s、33−H),3.74(3H、s、31−H),4.71(1H、dd,J=6.40,9.20、17−H),4.99(1H、d,J=3.68、12−H),5.22(1H、dd,J=4.56,10.08、23−H),6.69(1H、d,J=8.24、NH),6.76(2H、d,J=8.24、27−H、29−H),7.07(2H、d,J=9.2、26−H、30−H),7.19(1H、m、8−H),7.21(2H、m、6−H、10−H),7.27(2H、m、7−H、9−H).
【0031】
13C−NMR(150MHz、CDCl):δ16.4(14−C),17.3(19−C),18.3(15−C),19.4(20−C),30.5(13−C),31.4(18−C),33.0(22−C),33.5(24−C),34.6(4−C),41.8(1−C、2−C),52.2(33−C),53.2(17−C),55.1(31−C),58.6(23−C),69.4(3−C),77.8(12−C),126.6(8−C),169.2(11−C),170.0(16−C),171.2(32−C),172.5(21−C),113.9(27−C,29−C),128.5(7−C,9−C),129.2(6−C,10−C),129.6(26−C,30−C),130.3(25−C),137.6(5−C),158.4(28−C).
FABMS(m/z):598.3499(Δ−0.7mmu)[M+H]
([M+H]の計算値:593.3492)
【0032】
試験例1.P388増殖阻害活性試験
マウスリンパ性白血病細胞(P388)を2−ヒドロキシエチルジスルフィド5μM、硫酸カナマイシン100μg/mLを添加した10%牛胎児血清含有のRPMI−1640培地に加え、培養細胞を1x10個/mLに調製し、前記新規ペプチド誘導体(2)を所定の濃度になるように添加し、CO培養器(CO5%、湿度100%、37℃)で4日間培養した。MTT比色法により生存細胞数を計測して、対照群に対する増殖阻害率から求めた50%細胞増殖阻害濃度(IC50)は50μg/mLであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)、
【化1】

〔式中、R、R、R、Rは独立に水素原子または低級アルキル基を表す。R、Rは独立に水素原子、低級アルキル基または水酸基の保護基を表す。〕で表される新規ペプチド誘導体。
【請求項2】
次の式(2)、
【化2】

で表される新規ペプチド誘導体。
【請求項3】
藍藻(Cyanobacteria)から抽出・分離精製された請求項1または請求項2に記載の新規ペプチド誘導体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の新規ペプチド誘導体を有効成分として含有することを特徴とする医薬。
【請求項5】
抗癌性を有する請求項4に記載の医薬。

【公開番号】特開2006−249060(P2006−249060A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111394(P2005−111394)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(501081845)
【Fターム(参考)】