説明

新規ポリイミド及びその製造方法

【課題】反応性に優れ、基材との密着性、耐薬品性に優れると共に、可撓性の硬化物を与え、電気、電子部品、半導体素子等の保護膜等として好適に用いられるポリイミド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるポリイミド。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性や耐薬品性、絶縁性及び可撓性を有し、例えば半導体素子用保護絶縁膜、多層プリント基板用絶縁膜、半田保護膜、カバーレイフィルム等に好適な新規なポリイミド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでにエポキシ基を有するポリイミドとしていくつかのものが提案されている(例えば特許文献1及び2)。しかし、これらのポリイミドはシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したものであって、シリコーン変性が必須であり、その構造が制約されてしまうため、エポキシ基の反応性を十分に活かせないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−371132号公報
【特許文献2】特開2006−2035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、反応性に優れ、基材との密着性、耐薬品性に優れると共に、可撓性の硬化物を与え、電気、電子部品、半導体素子等の保護膜等として好適に用いられるポリイミド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるポリイミドを提供する。
【化1】

[式中、kは0又は正の整数であり、mは正の整数であって、m/(k+m)が0.01以上である。
Wは四価の有機基である。
Xは下記一般式(2)で表される四価の有機基である。
【化2】

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、Rは、互いに独立に、三価の基であり、nはその平均が1〜120の数である。)
Yは二価の基であり、その少なくとも一部は下記一般式(3)で表される。
【化3】

(式中Aは、互いに独立に、
【化4】

のいずれかより選ばれる二価の有機基である。B,Cは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基又は水素原子であり、相互に異なっていても同一でも良い。a及びbは、0又は1であり、cは1〜10の整数である。また、Rは、水酸基又はエポキシ基含有有機基であり、Rの少なくとも1個は下記一般式(4)で表されるいずれかのエポキシ基含有有機基である。)
【化5】

【0006】
このようなポリイミドであれば、耐熱性や耐薬品性、絶縁性及び可撓性を有するため、例えば、半導体素子用保護絶縁膜、多層プリント基板用絶縁膜、半田保護膜、カバーレイフィルム等に好適に用いることができる。
【0007】
また、前記一般式(1)中のWが、
【化6】

より選ばれる四価の有機基であることが好ましい。
【0008】
このように、上記一般式(1)中のWが上記いずれかの基であれば、より所望の効果を発揮できると共に、製造もし易く好ましい。
【0009】
また、前記一般式(1)中のY(二価の基)の50モル%以上が、フェノール性水酸基及び/又はエポキシ基含有有機基を有するものであることが好ましい。
このように、前記一般式(1)中のYの50モル%以上が、フェノール性水酸基及び/又はエポキシ基含有有機基を有するものであれば、より反応性に優れたものとなる。
【0010】
また、前記一般式(1)中の、前記一般式(3)で表される二価の基、又はフェノール性水酸基及び/若しくはエポキシ基含有有機基を有するもの以外のYを、下記一般式(5)及び下記一般式(6)で表される二価の有機基からなる群より選ばれる少なくとも1種とすることができる。
【化7】

(式中、Dは、互いに独立に、
【化8】

のいずれかより選ばれる二価の有機基である。e、fは0又は1であり、gは0又は1である。)
【化9】

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、hは1〜80までの整数である。)
【0011】
このように、前記一般式(1)中の、前記一般式(3)で表される二価の基、又はフェノール性水酸基及び/若しくはエポキシ基含有有機基を有するもの以外のYを、上記一般式(5)及び(6)で表される二価の有機基からなる群より選ばれる少なくとも1種とすることで、本発明のポリイミドを用いて樹脂組成物を調製する際にも、扱いが容易となる。
【0012】
また本発明は、フェノール性水酸基を有するジアミンと酸二無水物とを反応させ、ポリアミック酸を得た後、脱水閉環反応により下記一般式(1’)で表されるフェノール性水酸基を有するポリイミドを得、その後下記一般式(4)で表されるエポキシ基含有化合物を少なくとも1種反応させることにより前記ポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法を提供する。
【化10】

[式中、X、W、k、mは前述の通りである。Y’は二価の基であり、その少なくとも一部は下記一般式(3’)で表される。
【化11】

(式中A、B、C、a、b、cは前述の通りであり、R’は−OH基である。)]
【化12】

【0013】
このような製造方法により、本発明のポリイミドを、収率良く製造することが可能となる。
【0014】
この場合、前記フェノール性水酸基を有するジアミンと酸二無水物とに、更に、フェノール性水酸基及びカルボキシル基を有しないジアミンを反応させても良い。
このように、本発明のポリイミドの用途に応じて、フェノール性水酸基及びカルボキシル基を有しないジアミンを反応させることも可能である。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の新規なポリイミドは、その構造に幅を持たせることが可能であるため、反応性に優れ、基材との密着性、耐薬品性に優れると共に、可撓性の硬化物を与え、例えば、電気、電子部品、半導体素子等の保護膜等として好適に用いられる。また、本発明の製造方法により、本発明の新規なポリイミドを収率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。また、本発明の実施形態について、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述のように、従来のエポキシ基を有するポリイミドは、シリコーン変性が必須であることにより、その構造が制約されるという問題があった。
【0017】
本発明者らは、前記問題点を解決すべく、鋭意研究検討した。
その結果、ポリイミドの側鎖にエポキシ基を導入すれば、構造に幅を持たせることができ、それによりエポキシ基の反応性を活用できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるエポキシ基を有するポリイミドを提供する。
【化13】

【0019】
上記一般式(1)中、Xは下記一般式(2)で表される四価の有機基である。
【化14】

【0020】
上記一般式(2)中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基等を挙げることができる。
これらのうち、原料の入手の容易さの観点からメチル基、エチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0021】
上記一般式(2)中、Rは、互いに独立に三価の基であり、アルキルコハク酸無水物、例えばプロピルコハク酸無水物、ノルボニル酸無水物、プロピルナジック酸無水物、フタル酸無水物等から、カルボキシル基又はカルボキシル基無水物を取り除いた残基、が挙げられる。好ましくは、ノルボニル酸無水物、プロピルコハク酸無水物である。
またnは、1〜120、好ましくは3〜80、更に好ましくは5〜50の整数である。
【0022】
上記一般式(1)中のXは、上記一般式(2)で示される構造(単位)を含むことによって、可撓性の樹脂となる。
このようなXとしては、具体的には下記の構造を挙げる事ができる。
【化15】

【0023】
上記一般式(1)中のXは、不飽和基を有する上記の酸無水物、例えばコハク酸無水物、ノルボニル酸無水物、プロピルナジック酸無水物、又はフタル酸無水物などと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを反応させることによって得られる変性シリコーンから誘導することができる。該オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のシロキサン単位数の分布に応じて、得られる酸無水物変性ポリシロキサンのシロキサン単位数も分布し、従って、上記一般式(2)のnはその平均値を表す。
【0024】
上記一般式(1)中のYは、二価の有機基であって、その少なくとも一部は下記一般式(3)で表される。
【化16】

【0025】
式中Aは、互いに独立に、下記の二価の有機基のいずれかである。
【化17】

【0026】
a及びbは0又は1であり、cは1〜10の整数である。
B、Cは、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は水素原子であり、炭素数1〜4のアルキル基として、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられ、中でもメチル基、水素原子が原料の入手の容易な点から好ましい。
【0027】
は、水酸基又はエポキシ基含有有機基から選択される一価の基であり、Rの少なくとも1個はエポキシ基含有有機基である。このエポキシ基は下記一般式(4)で表される。
【化18】

【0028】
上記一般式(3)で表される基として、具体的には下記の基の例を挙げることができる。
【化19】

【0029】
【化20】

【0030】
また、Yの50モル%以上が、フェノール性水酸基及び/又はエポキシ基含有有機基を有するものであることが好ましい。この場合、前記フェノール性水酸基及び/又はエポキシ基含有有機基を有するものとしては、上記一般式(3)で表される基はもちろん、その他、フェノール性水酸基及び/又はエポキシ基含有有機基を有するものが含まれる。
【0031】
Yの残りの部分、即ち、上記一般式(3)で表される二価の基、又はフェノール性水酸基及び/若しくはエポキシ基含有有機基を有するもの以外のYとしては、好ましくは、下記一般式(5)及び下記一般式(6)で表される基が挙げられる。
【化21】

【0032】
上記一般式(5)中、Dは上記一般式(3)中のAと同様の二価の有機基である。
e及びfは0又は1であり、gは0又は1である。
上記一般式(5)で表される基としては、例えば下記の基を挙げることができる。
【化22】

【0033】
また、上記一般式(6)中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、hは1〜80までの整数である。
上記一般式(6)で表される基としては、例えば下記の基を挙げることができる。
【化23】

【0034】
上記一般式(1)中、Wは、四価の有機基であり、公知の種々の基であって良く、例えば、下記の基を挙げることができる。
【化24】

【0035】
上記各構造を有する本発明のポリイミド樹脂は、その分子量が、好ましくは5,000〜200,000、更に好ましくは8,000〜100,000である。分子量が5,000以上のポリイミド樹脂は、得られる被膜の強度が高くなる。また、分子量が200,000以下のポリイミド樹脂は、溶剤に対する相溶性が十分となり、取り扱いも容易である。
【0036】
上記一般式(1)中、kは0又は正の整数、mは正の整数であり、m/(k+m)が0.01以上であるが、更に、Xを含む繰り返し単位数kの割合、k/(k+m)、が0.01以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、であることが好ましい。このように、kの割合が0.01以上であれば、十分な可撓性を達成することができる。
【0037】
このような本発明のポリイミドを製造する方法として、更に本発明は、フェノール性水酸基を有するジアミンと酸二無水物とを反応させ、ポリアミック酸を得た後、脱水閉環反応により下記一般式(1’)で表されるフェノール性水酸基を有するポリイミドを得、その後下記一般式(4)で表されるエポキシ基含有化合物を少なくとも1種反応させることにより前記ポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法を提供する。
【化25】

[式中、X、W、k、mは前述の通りである。Y’は二価の基であり、その少なくとも一部は下記一般式(3’)で表される。
【化26】

(式中A、B、C、a、b、cは前述の通りであり、R’は−OH基である。)]
【化27】

【0038】
ポリアミック酸の重合に用いられる酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物、2,2−ビス(p−トリメリトキシフェニル)プロパン、1,3−テトラメチルジシロキサンビスフタル酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物等が挙げられる。
【0039】
また、フェノール性水酸基を有するジアミンとしては、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2’−メチレンビス[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルベンジル)−4−メチル]フェノール、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのフェノール基を有するジアミン等が挙げられる。
【0040】
ポリアミック酸の合成において、テトラカルボン酸二無水物成分に対するジアミン成分の割合は、ポリイミドの分子量の調整等に応じて適宜決められ、通常モル比で0.95〜1.05、好ましくは0.98〜1.02の範囲である。
【0041】
ジアミンと酸二無水物の反応は通常、溶剤中で行われる。かかる溶剤としては、ポリイミドを溶解するものであればよい。溶剤の具体的な例としては、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル類;シクロヘキサノン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、アセトフェノン等のケトン類;酢酸ブチル、安息香酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類及びトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられ、好ましくはケトン類、エステル類及びセロソルブ類であり、特に好ましくはγ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N,N−ジメチルアセトアミド、n−メチル−2−ピロリド
ンである。これらの溶剤は、1種単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。通常、1バッチあたりの収量、溶解粘度等を考慮して、ポリイミドの濃度が10〜40重量%となる範囲で調整される。
【0042】
尚、本発明の製造方法では、前記フェノール性水酸基を有するジアミンと酸二無水物とに、更に、フェノール性水酸基及びカルボキシル基を有しないジアミンを反応させても良く、フェノール性水酸基及びカルボキシル基を有しないジアミンとしては、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0043】
また、本発明の製造方法において、ポリイミドシリコーン末端に反応性官能基を導入するためにアミノフェノール、アミノアルコール、アミノチオール、無水トリメリット酸等の官能の酸無水物及びアミン化合物を添加できる。この場合の添加量はテトラカルボン酸二無水物成分又はジアミン成分に対して20モル%以下が好ましい。
【0044】
ポリイミドの合成は、上記で得られたポリアミック酸溶液を、通常80〜200℃、好ましくは140〜180℃の温度範囲に昇温するか、又はポリアミック酸溶液に無水酢酸/ピリジン混合溶液を添加し、次いで、得られた溶液を50℃前後に昇温することにより、ポリアミック酸の酸アミド部分に脱水閉環反応を進行させてポリイミドを得ることが出来る。
【0045】
このようにして得られた上記一般式(1’)で表される、分子中にフェノール性水酸基を有するポリイミドの有機溶剤溶液に、上記一般式(4)で表されるエポキシ基含有化合物を必要当量添加し、加熱することにより、目的とする上記一般式(1)で示されるエポキシ基を有するポリイミドを得ることができる。エポキシ基含有化合物の仕込量はエポキシ基導入量に応じて適宜変える必要があるが、通常、フェノール性水酸基に対して0.3倍モル〜3倍モルが好ましい。反応温度は40℃〜200℃、好ましくは80℃〜160℃である。反応時間は数分〜12時間である。また、反応を加速させる目的でトリエチルアミンなどの触媒を添加しても良い。
【0046】
また、本発明の製造方法において、上記一般式(4)で表されるエポキシ基とは異なるエポキシを含有する化合物を、必要に応じて上記一般式(3’)中のフェノール性水酸基と反応させても良い。このようなエポキシ基含有化合物としては、具体的にはビスフェノールAジグリシジル、ビスフェノールFジグシリシジル、及びビフェニルジグリシジル等の芳香環を有するエポキシ化合物や、シクロヘキシルジグリシジルエテール、ヘキサンジオールジグリシジル、ノルボルネンジグリシジルエテール等の脂肪族系エポキシ化合物等が挙げられる。
【0047】
このようにして得られるポリイミドは、反応性等の関係により主としてエポキシ基を有する新規なポリイミドである。かかるエポキシ基を有する新規なポリイミドは、そのエポキシ基の反応性を利用することにより、耐熱性や耐薬品性、絶縁性及び可撓性の優れた、半導体素子用保護絶縁膜、多層プリント基板用絶縁膜、半田保護膜、カバーレイフィルム等に有用である。
【実施例】
【0048】
以下、合成例、参考例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
[合成例1]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、4,4’−オキシジフタル酸二無水物77.5g(0.25モル)及びN−メチル−2−ピロリドン600gを仕込んだ。次いで、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン82.4g(0.225モル)及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン3.1g(0.0125モル)を反応系の温度が50℃を越えないように調節しながら、上記フラスコ内に加え、1時間攪拌した。その後、p−アミノフェノール1.4g(0.013モル)を加え更に10時間撹拌した。次に、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン100gを加え、170℃に昇温してその温度を6時間保持したところ、褐色の溶液が得られた。
【0049】
こうして得られた褐色の溶液を室温(25℃)まで冷却した後、フェノール性水酸基を有するポリイミド溶液を得た。次いで、このポリイミド溶液に下記一般式(4−1)で表される化合物を75gをフラスコに仕込み、150℃で2時間加熱した。
【化28】

【0050】
反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液を水−メタノール中に投入後、析出した沈殿を濾過し、乾燥後、下記式で示されるエポキシ基を有するポリイミド(Polymer−1)を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析の結果、このポリマーの数平均分子量は、35,000であった。
【化29】

【0051】
[合成例2]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、4,4’−オキシジフタル酸二無水物38.8g(0.125モル)、平均構造が下記一般式(7)で示される酸無水物変性シロキサン132.5g(0.125モル)及びγ−ブチロラクトン1000gを仕込んだ。次いで、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン88.8g(0.243モル)を反応系の温度が50℃を越えないように調節しながら、上記フラスコ内に加えた。その後、p−アミノフェノール0.87g(0.008モル)を加え、更に室温で10時間撹拌した。次に、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン200gを加え、170℃に昇温してその温度を6時間保持したところ、褐色の溶液が得られた。
【化30】

【0052】
こうして得られた褐色の溶液を室温(25℃)まで冷却した後、フェノール性水酸基を有するポリイミド溶液を得た。次いで、このポリイミド溶液に上記一般式(4−1)で表されるエポキシ化合物45gをフラスコに仕込み、150℃で3時間加熱した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液を水−メタノール中に投入後、析出した沈殿を濾過し、乾燥後、下記式で示されるエポキシ基を有するポリイミド(Polymer−2)を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析の結果、このポリマーの数平均分子量は、31,000であった。
【化31】

【0053】
[合成例3]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、4,4’−オキシジフタル酸二無水物31.0g(0.1モル)、平均構造が下記一般式(8)で示される酸無水物変性シロキサン243.1g(0.15モル)及びγ−ブチロラクトン1200gを仕込んだ。次いで、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン48.4g(0.188モル)及び1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン14.6g(0.05モル)を反応系の温度が50℃を越えないように調節しながら、上記フラスコ内に加えた。その後、p−アミノフェノール1.4g(0.013モル)を加え、更に室温で10時間撹拌した。次に、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン200gを加え、170℃に昇温してその温度を6時間保持したところ、褐色の溶液が得られた。
【化32】

【0054】
こうして得られた褐色の溶液を室温(25℃)まで冷却した後、フェノール性水酸基を有するポリイミド溶液を得た。次いで、このポリイミド溶液に上記一般式(4−1)で表されるエポキシ化合物100gをフラスコに仕込み、150℃で3時間加熱した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液を水−メタノール中に投入後、析出した沈殿を濾過し、乾燥後、下記式で示されるエポキシ基を有するポリイミド(Polymer−3)を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析の結果、このポリマーの数平均分子量は、28,000であった。
【化33】

【0055】
[参考例1〜3]
熱硬化性樹脂組成物の調製
上記合成したポリイミド樹脂、硬化剤及び溶剤を表1に示す配合比率で混合し、樹脂組成物を調製した。
尚、表1中、H−1は2−メチルイミダゾールを、S−1はシクロペンタノンを表す。
【表1】

【0056】
樹脂組成物の硬化皮膜の形成及びその性能評価
(1)耐溶剤性
得られた各熱硬化性樹脂組成物を、フッ素樹脂がコートされた板上に乾燥後の厚さが約0.1mmになるように塗布し、80℃で30分、更に180℃で1時間加熱し、ポリイミド樹脂硬化皮膜を形成した。得られた硬化皮膜を常温のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に10分浸漬した後、皮膜の膨潤の有無を目視観察した。結果を表2に示す。
【0057】
(2)接着性
各樹脂組成物を銅基板上に塗布し、80℃で30分、更に、表1に示す各最終硬化温度で1時間加熱し、硬化皮膜を形成した。得られた硬化皮膜付きの銅基板を、150℃の乾燥機に200時間放置した後の接着性(「耐熱接着性」とする)、又は、120℃、2気圧の飽和水蒸気中に168時間放置した後の接着性(「高温高湿接着性」とする)を、碁盤目剥離テスト(JISK5400)により評価した。結果を表2に示す。
【0058】
尚、表2中の数値(分子/分母)は、分画数 100(分母)当たり、剥離しない分画数(分子)を表す。即ち、100/100の場合は全く剥離せず、0/100の場合はすべて剥離したことを示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2から分かるように、本発明のポリイミドからなる樹脂組成物は、耐溶剤性、耐熱性、耐湿性に優れる硬化物を与えることが実証された。
即ち、このような本発明のポリイミドであれば、例えば、電気部品、半導体材料の保護膜、層間絶縁膜、接着テープ等として有用であり、特に、比較的耐熱性の低い基材や熱で変質する材料に施与するのに好適であるといえる。
また、本発明の方法により、本発明のポリイミドを、収率良く製造することができた。
【0061】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0062】
例えば、本発明のポリイミドの用途として、電気部品の保護膜等を例に挙げたが、本発明のポリイミドの用途は、もちろんこれらに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるポリイミド。
【化1】

[式中、kは0又は正の整数であり、mは正の整数であって、m/(k+m)が0.01以上である。
Wは四価の有機基である。
Xは下記一般式(2)で表される四価の有機基である。
【化2】

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、Rは、互いに独立に、三価の基であり、nはその平均が1〜120の数である。)
Yは二価の基であり、その少なくとも一部は下記一般式(3)で表される。
【化3】

(式中Aは、互いに独立に、
【化4】

のいずれかより選ばれる二価の有機基である。B,Cは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基又は水素原子であり、相互に異なっていても同一でも良い。a及びbは、0又は1であり、cは1〜10の整数である。また、Rは、水酸基又はエポキシ基含有有機基であり、Rの少なくとも1個は下記一般式(4)で表されるいずれかのエポキシ基含有有機基である。)
【化5】

【請求項2】
前記一般式(1)中のWが、
【化6】

より選ばれる四価の有機基であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド。
【請求項3】
前記一般式(1)中のY(二価の基)の50モル%以上が、フェノール性水酸基及び/又はエポキシ基含有有機基を有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミド。
【請求項4】
前記一般式(1)中の、前記一般式(3)で表される二価の基、又はフェノール性水酸基及び/若しくはエポキシ基含有有機基を有するもの以外のYが、下記一般式(5)及び下記一般式(6)で表される二価の有機基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のポリイミド。
【化7】

(式中、Dは、互いに独立に、
【化8】

のいずれかより選ばれる二価の有機基である。e、fは0又は1であり、gは0又は1である。)
【化9】

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、hは1〜80までの整数である。)
【請求項5】
フェノール性水酸基を有するジアミンと酸二無水物とを反応させ、ポリアミック酸を得た後、脱水閉環反応により下記一般式(1’)で表されるフェノール性水酸基を有するポリイミドを得、その後下記一般式(4)で表されるエポキシ基含有化合物を少なくとも1種反応させることにより請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【化10】

[式中、X、W、k、mは前述の通りである。Y’は二価の基であり、その少なくとも一部は下記一般式(3’)で表される。
【化11】

(式中A、B、C、a、b、cは前述の通りであり、R’は−OH基である。)]
【化12】

【請求項6】
前記フェノール性水酸基を有するジアミンと酸二無水物とに、更に、フェノール性水酸基及びカルボキシル基を有しないジアミンを反応させることを特徴とする請求項5に記載のポリイミドの製造方法。

【公開番号】特開2011−236283(P2011−236283A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107149(P2010−107149)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】