説明

新規モデル細胞

【課題】 内毛根鞘特異的ケラチンタンパク質を発現する継代可能な上皮細胞株であって、内毛根鞘におけるフィラメント形成を研究する上でのモデル細胞を開発する。
【解決手段】 本発明は、内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質をコードするDNA配列を有する核酸および/または内毛根鞘特異的タイプIIケラチンタンパク質をコードするDNA配列を有する核酸が導入された細胞を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内毛根鞘特異的タイプIおよび/またはIIケラチンタンパク質を発現する細胞、ならびにこれらの細胞を用いて発毛に有効な候補因子をスクリーニングする方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
種々の器官は、それぞれ特異的な形態を取ることにより、特徴的な機能を営み、個体全体の生命現象に参加している。器官において、形態形成と機能運営を担っているのは、多くの場合上皮細胞である。上皮細胞の動的な挙動は、細胞質にネットワーク状に配置された細胞骨格が直接支配しており、特に、ケラチン分子から成る中間径フィラメントのダイナミックな再編は、重要な役割を果たすことがわかっている。したがって、上皮細胞のケラチンフィラメントの再構成を追跡することにより、上皮細胞の機能や分化、ひいては器官全体の機能や分化を知る手がかりが得られる。
【0003】
毛髪が中心から順に、毛髄質(メジュラ)、毛皮質(コルテックス)、毛小皮(キューティクル)から成ることは、化粧品等の宣伝を通じて広く一般の認知するところとなっている。毛髪を生じる器官である毛包は、毛髄質・毛皮質・毛小皮の外側に内毛根鞘、更にその外側に外毛根鞘が位置する同心円状構造を取る。内毛根鞘は内側から順に、内毛根鞘小皮(内毛根鞘キューティクル)、ハックスレイ(Huxley)層、ヘンレ(Henle)層の3層から成る。内毛根鞘小皮は、扁平な角質細胞から成る組織であり、同じく扁平な角質細胞から成る毛小皮と「噛み合う」ことにより、毛髪が皮膚から抜け落ちないように固定する役割を果たすと考えられている。内毛根鞘(特に内毛根鞘小皮とヘンレ層)は、毛髪よりも早く(毛包の深部で)角化することから、内毛根鞘の役割の一つは、角化する前の柔らかい毛髪の断面形を規定することにあると考えられている。
【0004】
個々の毛髪には寿命があり、際限なく伸び続けることはない。毛包の示す経時的な構造変化は毛周期と呼ばれ、成長期、退行期、休止期の3つのフェーズに分けられる。人間の場合、成長期は男性で3〜5年、女性で4〜6年とされており、この間、毛髪は約0.45mm/日の速度で伸び続ける(日本人頭髪。男女差はないと言われている)。退行期(2〜3週間)を迎えた毛包では、細胞分裂が停止して広範なアポトーシスが起こり、休止期(3〜4ヶ月)に入る。退行期・休止期を経て成長期を迎えた毛包では、新しい毛髪が成長を始め、それに伴って古い毛髪が抜け落ちる。成長期の毛包における内毛根鞘細胞は、毛球(毛包の最深部)で幹細胞の細胞分裂により生じ、毛髪の伸長に伴って皮膚表面へ移動した後、最終的に毛小皮からも外毛根鞘からも剥がれて脱落する。分化した内毛根鞘細胞の形態学的特徴は、トリコヒアリンと呼ばれる顆粒を持つことであるが、トリコヒアリン顆粒の消失に伴って、内毛根鞘細胞は急速に角化することがわかっている。分子レベルでは、内毛根鞘特異的タイプIケラチン(KRT25〜KRT28)とタイプIIケラチン(KRT71〜KRT74)が会合してケラチンフィラメントを形成し、更に、内毛根鞘特異的ケラチン付随タンパク質であるトリコヒアリンがケラチンフィラメントに結合して、フィラメントを束ねて補強すると同時にフィラメント同士を連結することによって、内毛根鞘特異的ネットワークが急速に発達し、角化すると考えられている。この際、元来不溶性であるトリコヒアリンは、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(peptidyl−arginine deiminase)の作用で可溶化し、トランスグルタミナーゼ(transglutaminase)の作用でケラチンフィラメントに結合することがわかっている(非特許文献1)。近年、成長期毛包に特異的に反応するモノクローナル抗体の認識する分子量220kDのタンパク質が発見された(特許文献1)。この220kDタンパク質はAHFと名付けられ、内毛根鞘特異的に発現していることが明らかになった(非特許文献2)。トリコヒアリン遺伝子とAHF遺伝子は弱い相同性を示すことから、AHFは内毛根鞘特異的ケラチン付随タンパク質であろうと推定された。
【0005】
内毛根鞘は毛髪を固定し、また、毛髪の断面形を規定する等の機能を果たす毛包内上皮組織であるが、内毛根鞘を構成する上皮細胞は、毛包から分離・純化して培養するのが難しく、また、継代操作により内毛根鞘特異的ケラチンの発現が劇的に低下してしまう。つまり、継代可能な上皮細胞株の中に、内毛根鞘特異的ケラチンを発現しているものは皆無である。理論上どのような上皮細胞株であっても、内毛根鞘ケラチンの遺伝子を外来的に導入すれば、細胞内で内毛根鞘ケラチンのネットワーク形成を解析することは可能と考えられるが、現在に至るまで、内毛根鞘特異的なケラチンタンパク質を発現する継代可能な細胞株は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−210169
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tarcsa E, Marekov LN, Andreoli J, Idler WW, Candi E, Chung SI, Steinert PM. J Biol Chem. 1997 Oct 31;272(44):27893-901
【非特許文献2】Takebe K, Oka Y, Radisky D, Tsuda H, Tochigui K, Koshida S, Kogo K, Hirai Y. FASEB J. 2003 17:2037-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の解決課題は、内毛根鞘特異的ケラチンタンパク質を発現する継代可能な細胞株であって、内毛根鞘におけるフィラメント形成を研究する上でのモデル細胞を提供することである。さらには、これらのモデル細胞を用いて発毛に有効な因子のスクリーニングを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。そして、驚くべきことに、これまで、ケラチンフィラメント構造を有する継代可能な細胞を得ることは不可能であったが、細胞、特にSW13株の細胞に、内毛根鞘特異的タイプIケラチンおよび/またはタイプIIケラチンをコードするDNA配列を含む核酸を導入することにより、内毛根鞘特異的ケラチンのフィラメント構造を有する継代可能な細胞を作製することに成功した。さらに本発明者らは、前記細胞におけるケラチンフィラメントとの関連を調べることによるスクリーニングの方法を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は:
(1)内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸および/または内毛根鞘特異的タイプIIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が導入された細胞;
(2)前記内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が、
(a)配列番号1に示すタイプIケラチンタンパク質KRT25のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸、あるいは
(b)前記アミノ酸配列と75%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、タイプIケラチンタンパク質KRT25と同等の性質を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸
である、(1)記載の細胞;
(3)前記内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が、
(a)配列番号2に示すタイプIケラチンタンパク質KRT27のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸、あるいは
(b)前記アミノ酸配列と87%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、タイプIケラチンタンパク質KRT27と同等の性質を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸
である、(1)記載の細胞;
(4)前記内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が、
(a)配列番号3に示すタイプIケラチンタンパク質KRT28のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸、あるいは
(b)前記アミノ酸配列と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、タイプIケラチンタンパク質KRT28と同等の性質を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸
である、(1)記載の細胞;
(5)前記内毛根鞘特異的タイプIIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が、
(a)配列番号4に示すタイプIIケラチンタンパク質KRT71のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸、あるいは
(b)前記アミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、タイプIIケラチンタンパク質KRT71と同等の性質を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸
である、(1)記載の細胞;
(6)(2)〜(4)のいずれか1つ記載の核酸、および(5)記載の核酸が導入された、(1)記載の細胞;
(7)さらにケラチン付随タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が導入された、(1)〜(6)のいずれか1つ記載の細胞;
(8)ケラチン付随タンパク質がAHFである、(7)記載の細胞;
(9)前記核酸のいずれかが標識された、(1)〜(8)のいずれか1つ記載の細胞;
(10)前記細胞が内在性ケラチンを持たない細胞である、(1)〜(9)のいずれか1つ記載の細胞;
(11)前記細胞がSW13株である、(10)記載の細胞;
(12)(2)〜(4)のいずれか1つ記載の核酸を含むベクター;
(13)(5)記載の核酸を含むベクター;
(14)発毛に有効な候補因子をスクリーニングする方法であって、下記工程:
(a)前記候補因子を(1)〜(11)のいずれか1つ記載の細胞で発現させ、次いで
(b)ケラチンフィラメントの形成について調べること
を特徴とする方法;ならびに
(15)発毛に有効な候補因子をスクリーニングする方法であって、下記工程:
(a)前記候補因子を(1)〜(11)のいずれか1つ記載の細胞に作用させ、次いで
(b)ケラチンフィラメントの形成について調べること
を特徴とする方法
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上皮細胞、特に内毛根鞘細胞におけるケラチンフィラメント形成のメカニズムについて解析することができる。さらに内毛根鞘細胞のケラチンフィラメント形成に関わる因子であって、発毛に有効な因子をスクリーニングすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、タイプIケラチン(KRT25)を発現するSW13細胞のT7タグでのケラチンの免疫染色写真である。
【図2】図2は、タイプIケラチン(KRT27)を発現するSW13細胞のT7タグでのケラチンの免疫染色とPI(ヨウ化プロピジウム)での核染色写真である。
【図3】図3は、ウエスタンブロッティングでのタイプIケラチンを発現するSW13細胞のT7タグでのタイプIケラチンの検出である。
【図4】図4は、タイプIIケラチン(KRT71)を発現するSW13細胞のT7タグでのケラチンの免疫染色とPIでの核染色写真である。
【図5】図5は、タイプIIケラチン(KRT71)を発現するSW13細胞のstrep−tagIIでのケラチンの免疫染色とPIでの核染色写真である。
【図6】図6は、タイプI(KRT25)とタイプII(KRT71)ケラチンを発現するSW13細胞でのT7タグでのケラチンフィラメントの免疫染色とPIでの核染色写真である。
【図7】図7は、タイプI(KRT25)とタイプII(KRT71)ケラチンを発現するSW13細胞でのT7タグでのケラチンフィラメントの免疫染色写真である。
【図8】図8は、タイプI(KRT27)とタイプII(KRT71)ケラチンを発現するSW13細胞でのT7タグでのケラチンフィラメントの免疫染色写真である。
【図9】図9は、タイプI(KRT27)とタイプII(KRT71)ケラチンを発現するSW13細胞でのstrep−tagIIでのケラチンフィラメントの免疫染色とPIでの核染色写真である
【図10】図10は、図9の拡大図である。
【図11】図11は、タイプI(KRT25)とタイプII(KRT71)ケラチン及びAHFを発現するSW13細胞でのT7タグでのケラチンの免疫染色とAHFの検出写真である。
【図12】図12は、タイプI(KRT27)とタイプII(KRT71)ケラチン及びAHFを発現するSW13細胞でのT7タグでのケラチンの免疫染色とAHFの検出写真である。
【図13】図13は、図12に示す一部の拡大図である。
【図14】図14は、AHFを発現するSW13細胞でのビメンチンとAHFの免疫染色である。
【図15】図15は、ヒトKrt25とマウスkrt71をSW13細胞に導入後、HaloTag(商標)リガンドにてヒトKRT25タンパク質を検出し(左図)、T7タグ抗体でマウスKRT71タンパク質を検出し(中央図)、図を重ねたものである(右図)。
【図16】図16は、ヒトKrt28とマウスkrt71をSW13細胞に導入後、HaloTag(商標)リガンドにてヒトKRT28タンパク質を検出し(左図)、T7タグ抗体でマウスKRT71タンパク質を検出し(中央図)、図を重ねたものである(右図)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、1の態様において、内毛根鞘特異的タイプIおよび/またはIIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が導入された細胞を提供する。本発明に用いることができる細胞は、あらゆる種類の細胞であってもよいが、好ましくは上皮細胞である。本明細書において、上皮細胞とは、管腔臓器の粘膜を構成する狭義の上皮細胞のみならず、体表面を覆う表皮細胞、分泌腺を構成する腺細胞、更には、肝細胞や尿細管上皮細胞などの分泌や吸収を担う実質臓器の細胞も含めて言う。発生学的には三胚葉のいずれにも由来し、例えば、皮膚は外胚葉、消化管上皮は内胚葉、尿細管上皮は中胚葉に由来する。構造上の特徴として、極性(向き)を持つことが挙げられるが、上皮組織や細胞それぞれの形態および機能は多種多様である。
【0014】
上皮細胞全体に共通する特徴として、ケラチンから成る細胞骨格を有する点が挙げられる。細胞骨格には径の太い順に、微小管、中間径フィラメント、アクチンフィラメントの3種類があり、上皮細胞の中間径フィラメントは例外なくケラチンフィラメントである(大部分の上皮細胞は、微小管および/またはアクチンフィラメントから成る細胞骨格も持っている)。上皮細胞がケラチンを含むことから、ケラチンに対する抗体を用いて、腫瘍が上皮由来であるか否か鑑別することができる。腫瘍の鑑別には、間葉系細胞に特徴的な中間径フィラメントを構成するビメンチンに対する抗体を併用することもある。
【0015】
上皮細胞を特徴付けるケラチンタンパク質は、完全な分化状態を示さない腫瘍細胞においてさえ発現し続けるのが普通である。しかし、ほぼ全ての上皮細胞株は、それぞれ固有のタイプIケラチンとタイプIIケラチンを発現しているため、これらの内在性ケラチンが、外来的に導入した内毛根鞘ケラチンのネットワーク形成に影響を及ぼす可能性を無視できない。上皮細胞株の内在性ケラチンと外来的に導入したケラチンとの干渉は、内毛根鞘ケラチンに限らず、あらゆるケラチンのフィラメントネットワーク形成を研究する上で障害となり得る。したがって、本発明に用いることができる細胞は、好ましくは内在性ケラチンを持たない細胞である。
【0016】
細胞の継代操作を繰り返すうちに、ケラチンを全く発現しなくなった細胞株が、ごく稀に出現することがある。このような細胞株の最初の報告例は、ラットの肝癌に由来する株である(Venetianer A, Schiller DL, Magin T, Franke WW. Nature. 1983 Oct 20-26;305(5936):730-3)。この肝癌細胞株は、継代を繰り返すうちに肝細胞特異的機能を失うと共に、ケラチンを含む中間径フィラメント構成タンパク質を発現しなくなる。次の報告例は、ヒト副腎皮質腫瘍に由来するSW13株である(Hedberg KK, Chen LB. Exp Cell Res. 1986 Apr;163(2):509-17)。SW13株では、免疫蛍光法、二次元電気泳動法、ウエスタンブロッティング法のいずれによっても、ケラチンを含む中間径フィラメント構成タンパク質を検出することができなかった。本明細書において、内在性ケラチンを持たない上皮由来細胞とは、免疫蛍光法、二次元電気泳動法、ウエスタンブロッティング法等の細胞学的・生化学的手法を以てしても、ケラチンフィラメントおよびケラチンタンパク質のいずれも検出することのできない上皮由来細胞を意味する。当業者は、分子生物学的手法、すなわち、ノザン・ブロッティング法や逆転写PCR(RT−PCR)法により、ケラチンをコードするメッセンジャーRNAが検出限界以下であることを指標として、内在性ケラチンを持たない上皮由来細胞を選択することもできる。RT−PCRは、逆転写とPCRを別々に行なう二段階法と同一反応系で行なう一段階法に大別される。二段階法では、逆転写反応にMolony murine leukemia virus (M−MLV)やavian leukemia virus(AMV)等のレトロウイルス由来の逆転写酵素またはこれらを改良した酵素を用いることができる。逆転写酵素用のプライマーは、ランダムプライマー、オリゴdTプライマー、遺伝子特異的プライマー(PCR用プライマーの片方)の三者のうちいずれかを使用すればよい。一段階RT−PCR法に用いるキットは各社から販売されており、例えば、インビトロジェン社のSuperScript III One−Step RT−PCR System with Platimun Taq DNA Polymeraseを挙げることができる。中には、東洋紡社のRNA−direct Realtime PCR Master Mixシリーズのように、TthポリメラーゼがMn2+存在下で逆転写活性を示すことを利用したキットもある。上述のごとく、本発明に用いられる細胞は、好ましくは上記のごとく内在性ケラチンを持たない細胞であり、より好ましくはラット肝癌細胞株またはSW13株であり、最も好ましくはSW13株である。
【0017】
また、本発明に用いられる細胞は、あらゆる動物に由来する細胞を含み、例えば、ほ乳類に由来する細胞であってもよく、マウス、ラット、ハムスター、モルモットのごとき齧歯類、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の有蹄類、イヌ、ネコ、ウサギなどの他のほ乳類、ならびに霊長類に由来する細胞が挙げられる。好ましくはヒト由来の細胞を本発明に用いる。
【0018】
本発明における細胞は、タイプIおよび/またはタイプIIケラチンタンパク質を発現するものである。例えば、本発明の細胞は、タイプIおよび/またはタイプIIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸を含むものであってもよい。ここで、一般的に、タイプIケラチンとは、タンパク質分子の等電点(pI)が酸性を示すケラチンであり、タイプIIケラチンとは、等電点が中性または塩基性を示すケラチンである。正常な上皮細胞で発現するケラチンは、比較的低分子のタイプIケラチンと比較的高分子のタイプIIケラチンが対になっている。例えば、皮膚の角化細胞では、タイプIのKRT10(56.5kD)とタイプIIのKRT1(67kD)が発現している(Schweizer J, Bowden P, Coulombe P, Langbein L, Lane E, Magin T, Maltais L, Omary B, Parry D, Rogers M, Wright M. J Cell Biol. 2006 Jul;174(2):169-74)。なお、本明細書では、ケラチンタンパク質をKRT、ヒトのケラチン遺伝子をKrt、マウスのケラチン遺伝子をkrtと表す。本明細書におけるケラチンは、毛髪や爪を構成する硬ケラチンを含む。なお、硬ケラチンに対して、粘膜細胞や表皮細胞のケラチンを軟ケラチンまたはサイトケラチンと呼ぶ。硬ケラチンは、ヒトやマウスの毛髪・体毛や爪の他に、サイの角、ヤマアラシの棘、馬の蹄などにも含まれる。内毛根鞘特異的ケラチンは、ゲノムDNAシークエンシングから発見された遺伝子をコードするケラチンであり、塩基配列の相同性から、4種類のタイプIケラチン(ヒト塩基配列Krt25〜Krt28、マウス塩基配列krt25〜krt28)と4種類のタイプIIケラチン(ヒト塩基配列Krt71〜Krt74、マウス塩基配列krt71〜krt74)がヒトとマウスで同定されている。ただし、KRT25、KRT27およびKRT28は、内毛根鞘の他に毛髄質でも発現している(Langbein L, Rogers MA, Praetzei-Wunder S, Helmke B, Schirmacher P, Schweizer J. J Invest Dermatol. 2006 Nov;126(11):2377-86)。本明細書におけるケラチンタンパク質は、ヒトとマウス由来のものに限定されず、これら以外の動物種由来、例えば、サイ、ヤマアラシ、馬、チンパンジー、ニホンザル、ラット、モルモット、牛、羊、ヤギ、ウサギ、鶏、ガチョウなどのケラチンタンパク質を含む。
【0019】
ケラチンタンパク質は、2分子のタイプIケラチンと2分子のタイプIIケラチンが会合した4量体を基本単位として、フィラメントを形成する。ケラチンフィラメントの形成は、インビトロでも自然に進行する反応であり、培養細胞に導入して細胞内で形成させることもできる。本発明において、タイプIケラチンとタイプIIケラチンは特に限定されず、サイトケラチン(軟ケラチン)であっても硬ケラチンであってもよい。ただし、正常な上皮細胞の機能や分化を研究する目的ならば、当該細胞で見られる組み合わせが適当であることは言うまでもない。例えば正常な皮膚の角化を研究する場合、角化表皮で見られるKRT1とKRT10を組み合わせるのが適当である。正常な内毛根鞘の角化過程を解析する場合は、内毛根鞘特異的タイプIケラチンであるKRT25〜KRT28のうちの少なくとも1つおよび内毛根鞘特異的タイプIIケラチンであるKRT71〜KRT74のうちの少なくとも1つを用いるのが適当である。内毛根鞘特異的タイプIおよびタイプIIケラチンを発現する細胞は、内毛根鞘の機能・分化のみならず、毛包全体の機能・分化または毛周期を研究する上でも有用である。しかし、正常な上皮細胞では起こり得ない状況を人為的に作り出すこともまた、いわゆる対照(コントロール)として重要である。
【0020】
したがって、本発明の細胞で発現させることができる好ましいケラチンタンパク質は、内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質KRT25〜KRT28および/またはタイプIIケラチンタンパク質KRT71〜KRT74であり、好ましくはKRT25、KRT27、KRT28およびKRT71である。本発明において、導入されるケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸の組合せは、タイプIおよびタイプIIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸のうちの少なくとも1つが導入されていればよいが、好ましくは、タイプIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸のうちの1つおよびタイプIIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸のうちの1つが導入されることである。より好ましくは、タイプIケラチンタンパク質KRT25、KRT27またはKRT28のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸、およびタイプIIケラチンタンパク質KRT71のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が導入されることである。
【0021】
本発明におけるタイプIケラチンタンパク質KRT25のアミノ酸配列は、配列番号1に示すものが例示され、あるいは、配列番号1に示すアミノ酸配列に対する相同性が、60%以上、例えば、65%、70%、73%、または75%以上のものであってもよく、好ましくは75%以上のものである。アミノ酸配列の相同性は、FASTA、BLAST、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング製)、GENETYX(ジェネティクス製)などの一般的な配列分析用ツールを用いて測定することができる。加えて、本発明において、タイプIケラチンタンパク質KRT25は、マウス由来のものであるが、例えば、ヒト、ラット、ウシ、ネコなどの他の動物に由来するものであっても、これらの動物種におけるタイプIケラチンタンパク質KRT25は、本明細書におけるタイプIケラチンタンパク質KRT25に包含されうる。特に、本発明におけるマウスのKRT25は、ヒトのKRT25に対して75%の相同性を有することから、ヒトのKRT25も本発明に包含される。さらに、本発明において、タイプIケラチンタンパク質KRT25は、タイプIケラチンタンパク質KRT25と同等の性質を有しているものであって、配列番号1に示すアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸のDNA配列によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。本明細書における同等の性質とは、ケラチンとして同等の生物学的、化学的、および物理学的特性を有することをいう。また、本明細書におけるアミノ酸配列をコードするDNA配列は、同一のアミノ酸を示す異なるポリヌクレオチド配列、いわゆる縮重コドンをも含むものである。
【0022】
本発明において、前記ハイブリダイズさせる条件は、J. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition", 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Pressの記載に従って、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイズの条件は、低ストリンジェントな条件であってもよいが、好ましくは高ストリンジェントな条件である。低ストリンジェントな条件とは、上記文献に従ってハイブリダイズさせた後の洗浄において、例えば42℃、0.1×SSC、0.1% SDSの条件であり、好ましくは50℃、0.1×SSC、0.1% SDSの条件である。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、5×SSCおよび0.1% SDSの条件などを含む。ただし、当業者であればこれらの要素を適宜選択することで同様の条件を実現することができる。
【0023】
また、本発明に用いることができるDNA配列は、配列番号1に示すアミノ酸配列をコードするDNA配列である配列番号5を含むものであってもよいが、前記アミノ酸配列をコードするものであればこれだけに限らない。
【0024】
本発明におけるタイプIケラチンタンパク質KRT27のアミノ酸配列は、配列番号2に示すものが例示され、あるいは、配列番号2に示すアミノ酸配列に対する相同性が、70%以上、例えば、75%、80%、83%、85%、または87%以上のものであってもよく、好ましくは87%以上のものである。アミノ酸配列の相同性は、FASTA、BLAST、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング製)、GENETYX(ジェネティクス製)などの一般的な配列分析用ツールを用いて測定することができる。加えて、本発明において、タイプIケラチンタンパク質KRT27は、マウス由来のものであるが、例えば、ヒト、ラット、ウシ、ネコなどの他の動物に由来するものであっても、これらの動物種におけるタイプIケラチンタンパク質KRT27は、本明細書におけるタイプIケラチンタンパク質KRT27に包含されうる。特に、本発明におけるマウスのKRT27は、ヒトのKRT27に対して87%の相同性を有することから、ヒトのKRT27も本発明に包含される。さらに、本発明において、タイプIケラチンタンパク質KRT27は、タイプIケラチンタンパク質KRT27と同等の性質を有しているものであって、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸と前記ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸のDNA配列によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。
【0025】
他に、本発明に用いることができるDNA配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードするDNA配列である配列番号6を含むものであってもよいが、前記アミノ酸配列をコードするものであればこれだけに限らない。
【0026】
本発明におけるタイプIケラチンタンパク質KRT28のアミノ酸配列は、配列番号3に示すものが例示され、あるいは、配列番号3に示すアミノ酸配列に対する相同性が、70%以上、例えば、75%、80%、83%、または85%以上のものであってもよく、好ましくは85%以上のものである。アミノ酸配列の相同性は、FASTA、BLAST、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング製)、GENETYX(ジェネティクス製)などの一般的な配列分析用ツールを用いて測定することができる。加えて、本発明において、タイプIケラチンタンパク質KRT28は、ヒト由来のものであるが、例えば、マウス、ラット、ウシ、ネコなどの他の動物に由来するものであっても、これらの動物種におけるタイプIケラチンタンパク質KRT28は、本明細書におけるタイプIケラチンタンパク質KRT28に包含されうる。特に、本発明におけるヒトのKRT28は、マウスのKRT28に対して85%の相同性を有することから、マウスのKRT28も本発明に包含される。さらに、本発明において、タイプIケラチンタンパク質KRT28は、タイプIケラチンタンパク質KRT28と同等の性質を有しているものであって、配列番号3に示すアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸と前記ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸のDNA配列によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。
【0027】
他に、本発明に用いることができるDNA配列は、配列番号3に示すアミノ酸配列をコードするDNA配列である配列番号7を含むものであってもよいが、前記アミノ酸配列をコードするものであればこれだけに限らない。
【0028】
本発明におけるタイプIIケラチンタンパク質KRT71のアミノ酸配列は、配列番号4に示すものが例示され、あるいは、配列番号4に示すアミノ酸配列に対する相同性が、80%以上、例えば、83%、85%、88%、または90%以上のものであってもよく、好ましくは90%以上のものである。アミノ酸配列の相同性は、FASTA、BLAST、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング製)、GENETYX(ジェネティクス製)などの一般的な配列分析用ツールを用いて測定することができる。加えて、本発明において、タイプIIケラチンタンパク質KRT71は、マウス由来のものであるが、例えば、ヒト、ラット、ウシ、ネコなどの他の動物に由来するものであっても、これらの動物種におけるタイプIIケラチンタンパク質KRT71は、本明細書におけるタイプIIケラチンタンパク質KRT71に包含されうる。特に、本発明におけるマウスのKRT71は、ヒトのKRT71に対して90%の相同性を有することから、ヒトのKRT71も本発明に包含される。さらに、本発明において、タイプIIケラチンタンパク質KRT71は、タイプIIケラチンタンパク質KRT71と同等の性質を有しているものであって、配列番号4に示すアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸と前記ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸のDNA配列によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。
【0029】
本発明に用いることができるDNA配列はまた、配列番号4に示すアミノ酸配列をコードするDNA配列である配列番号8を含むものであってもよいが、前記アミノ酸配列をコードするものであればこれだけに限らない。
【0030】
さらに、本発明で用いられる上記DNA配列を有する核酸は、下記の実施例で詳細に説明するように取得されてもよいが、一般的なクローニング技術を用いて当業者が適宜行うことができる。
【0031】
本発明では、上記ケラチンタンパク質とともにケラチン付随タンパク質を細胞に発現させてもよい。具体的には、上記ケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸とともに、ケラチン付随タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が導入されてもよい。一般的に、上皮細胞、特に角化する上皮細胞では、ケラチン付随タンパク質がケラチンフィラメントに結合して、発達したネットワークを形成する現象が見られる。例えば表皮細胞では、KRT1(タイプII)とKRT10(タイプI)のフィラメントに、ケラチン付随タンパク質であるフィラグリンが結合して、フィラメントを束ねて補強すると同時にフィラメント同士を連結することによって、表皮細胞特異的なネットワークを形成する。またヒトの毛皮質では、KRT31〜KRT40(タイプI)とKRT81〜KRT86(タイプII)のフィラメントに、ケラチン付随タンパク質である(超)高含硫タンパク質((ultra−)high sulfur proteins)や高グリシン・チロシンタンパク質(high glycine/tyrosine proteins)が結合して、毛皮質細胞特異的なネットワークを形成する(矢作彰一 フレグランス・ジャーナル 2007年 35巻(12号)34−40頁。ただし矢作は、(超)高含硫タンパク質と高グリシン・チロシンタンパク質に加えて、高グリシン・システイン・セリンタンパク質(high glycine/cystein/serine proteins)を提唱している)。更にまた内毛根鞘細胞では、KRT25〜KRT28(タイプI)とKRT71〜KRT74(タイプII)のフィラメントに、ケラチン付随タンパク質であるトリコヒアリンが結合して、内毛根鞘細胞特異的なネットワークを形成する。本発明において、タイプIおよびタイプIIケラチンに加えてケラチン付随タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸を導入してもよい。ただし、正常な上皮細胞の機能や分化を研究する目的ならば、当該細胞で見られる正常な組み合わせが適当であることは言うまでもない。例えば正常な毛皮質細胞の角化を研究する場合、KRT31〜KRT40の少なくとも1つとKRT81〜KRT86の少なくとも1つに加えて、高含硫タンパク質および/または高グリシン・チロシンタンパク質(および/または高グリシン・システイン・セリンタンパク質)のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸を導入するのが適当である。
【0032】
同様に、表皮細胞の角化を研究する場合は、KRT1とKRT10に加えてフィラグリンを、また、内毛根鞘細胞の角化を研究する場合は、KRT25〜KRT28の少なくとも1つとKRT71〜KRT74の少なくとも1つに加えてトリコヒアリンのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸を導入することもできる。ただし、フィラグリンは、前駆体であるプロフィラグリンがペプチジルアルギニンデイミナーゼの作用を受け、更にプロテアーゼの作用を受けて断片化したものなので、プロフィラグリンと共にペプチジルアルギニンデイミナーゼとプロテアーゼのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸を導入する必要がある。また、トリコヒアリンは元来不溶性であり、可溶化にペプチジルアルギニンデイミナーゼが必須なので、トリコヒアリンと共にペプチジルアルギニンデイミナーゼのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸を導入する必要がある。(プロ)フィラグリンやトリコヒアリンに対して内毛根鞘特異的AHFは、翻訳後修飾を受けずに、ケラチン付随タンパク質として働くことが本発明において示された。本発明におけるAHFは、配列番号22に示すAHFタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸を用いて導入されてもよいが、AHFタンパク質のアミノ酸をコードするDNA配列を含む核酸であれば、これに限定されない。
【0033】
したがって、本発明では、タイプIおよび/またはタイプIIケラチンとともに発現されうるケラチン付随タンパク質は、例えば、高含硫タンパク質、高グリシン・チロシンタンパク質、高グリシン・システイン・セリンタンパク質、フィラグリン、トリコヒアリン、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ、プロテアーゼ、AHFなどを含むが、好ましくはトリコヒアリンおよびAHFであり、最も好ましくはAHFである。これらのケラチン付随タンパク質は、これらケラチン付随タンパク質と同等の性質を有するものであって、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシなどのいかなる動物に由来するものであってもよいが、好ましくはヒトに由来するものである。
【0034】
本発明では、上記タンパク質が標識されていてもよい。本発明における標識は、上記タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列にタグ配列を付加することであってもよいが、標識できればタグ以外の一般的に知られる配列を付加してもよい。本発明において、検出用のタグ配列は必須ではないが、タグ配列を用いない場合は、発現するタンパク質それぞれに対して抗体を準備する必要があるので、タグを付加するのが簡便である。本発明に用いることができるタグは、T7タグ、HAタグ、strep−tagIIタグ、Hisタグ、mycタグ等が挙げられるが、標識を目的とする配列であればこれら以外の配列であってもよい。また、本発明において、上記タグ配列の付加される位置は、DNA配列によってコードされるアミノ酸配列のフレームが一致するように連結されていればいかなる位置であってもよいが、好ましくは上記核酸の5’末端または3’末端である。本発明において、上記タグ配列は、一般的な手法により上記DNA配列に付加されてもよい。例えば、配列番号15と16(KRT25のアミノ酸配列のN末端側にT7タグ配列およびC末端にHAタグ)、配列番号17と18(KRT27のアミノ酸配列のN末端側にT7タグ配列およびC末端側にHAタグ配列)、配列番号19と20(KRT71のアミノ酸配列のN末端側にT7タグ配列およびC末端側にHAタグ配列)、あるいは配列番号19と21(KRT71のアミノ酸配列のN末端側にstrep−tagIIおよびC末端側にHAタグ配列)の組合せのプライマーを用いるPCR法により付加されることを含むが、これだけに限らない。
【0035】
本発明では、上記核酸が一般的に知られているベクターに組み込まれて導入されてもよい。本発明に用いられうるベクターとして、例えば、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターであってもよく、あるいは一般的なプラスミドベクターであってもよい。本発明に用いることができるベクターは、好ましくは、レトロウイルスベクターであり、例えば、pQCXIN Retroviral Vector(クロンテック)である。一般的に、組換えウイルスは、安全性を高めたウイルスベクターを用いて作製することができ、このようなウイルスベクターには、特殊な宿主細胞(例えば、ウイルスの感染・増殖に必須なタンパク質を核染色体からトランスに供給する細胞など)を用いない限り、感染・増殖しないように改良したものも含まれる。ウイルスベクターは、感染後ウイルスゲノムが核染色体に組み込まれるタイプと、感染後ウイルスゲノムがエピゾームとして独立に存在するタイプとの2種類に大別できる。前者のレトロウイルスやアデノ随伴ウイルス等に由来するベクターは、外来遺伝子を永続的に発現させる場合に適しており、一方、後者のアデノウイルスやワクシニアウイルス等に由来するベクターは、外来遺伝子を一過性に発現させる場合に適している。外来遺伝子の発現効率は、一般に後者(特にアデノウイルスベクター)が高いとされている。当業者であれば、実験目的に合わせて適当なウイルスベクターを選択し、適切な封じ込め設備を備えた施設内で組換えウイルスを作製することができる(谷憲三朗、浅野茂隆編 遺伝子治療の新展開―ベクター開発と臨床応用の最前線(新臨床医のための分子医学シリーズ)羊土社 2001年)。
【0036】
本発明において使用するベクターは、市販品に限定されず、基本的な構成要素として、大腸菌等の宿主内で働く複製領域(レプリコン)および抗生物質耐性等の選択マーカー、真核細胞内で働く転写開始領域(プロモーター)および転写終結領域(polyA付加シグナル)を備えるものであればよいが、これら以外の要素が付加されていてもよい。レプリコンは、ColE1(pBR322)レプリコンやこれを改良したpUCレプリコンが一般的であるが、これらに限定されない。抗生物質耐性マーカーは、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール等に対する耐性遺伝子が一般的である。真核細胞プロモーターは、サイトメガロウイルスやSV40等のウイルス由来プロモーターが一般的であるが、これらに限定されない。polyA付加シグナルは、レトロウイルス3’−LTRや免疫グロブリン遺伝子に由来する配列が一般的である。これらの基本的な構成要素に加えて、クローニングを容易にするためのMCS、発現効率を上げるためのイントロン、トランスフェクション後の選択を可能にするトランスフェクタント選択マーカー(例えば、真核細胞プロモーター下流に位置するG418耐性またはネオマイシン耐性遺伝子等)などを持つベクターであってもよい。当業者であれば、ベクターへの(サブ)クローニング、形質転換した宿主の培養、宿主からの組換えDNA精製などの諸操作を適宜行なうことができる。
【0037】
本発明において、上記核酸の細胞への導入は、当業者間において一般的な手法を用いて行われてもよい。例えば、上記核酸を上記ベクターに組み込んで、リポフェクトアミン(インビトロジェン社)等によるリポソーム法、電気穿孔法、リン酸カルシウム法などにより実施することができるが、これらだけに限らない。また、本発明では、上記ケラチンタンパク質またはケラチン付随タンパク質を、タンパク質として細胞に導入してもよい。タンパク質を培養細胞に導入する手法としては、例えば、マイクロインジェクション法が挙げられるが、Profect(ナカライ社)等の試薬を用いてもよい。タンパク質のmRNAを試験管内転写(in vitro transcription)で合成した後、mRNAをマイクロインジェクション法やリポソーム法で培養細胞に導入することもできる。ただし実際には、精製タンパク質やメッセンジャーRNAでなく、組換えプラスミドDNAや組換えウイルスを用いる手法が広く行なわれている。
【0038】
また、本発明では、上記核酸が直接導入されてもよい。この場合、核酸の導入方法は、例えば、エレクトロポレーション等の物理的方法、ならびにDEAE−デキストランやリポソーム、リン酸カルシウム等を用いる化学的方法を含むが、これらだけに限らない。
【0039】
本発明において、目的の核酸が導入された細胞の選別は、抗生物質耐性マーカーのDNA配列をベクターに組み込んだ場合には、抗生物質を含む培地で細胞を培養することにより行われてもよいが、細胞の選別や細胞の培養条件などは、当業者が適宜選択することができる。
【0040】
本発明のさらなる態様では、本発明は、発毛に有効な候補因子をスクリーニングする方法を提供する。すなわち、本発明は、工程(a):発毛に有効な候補因子を前記細胞で発現させるか、または前記細胞に作用させることを含む。次いで、本発明は、工程(b):前記細胞でフィラメント形成について調べることを含む。ここで、候補因子とは、発毛に関連すると考えられる因子であれば、化合物、ポリペプチド、サイトカイン、タンパク質または核酸などのあらゆる物質であってもよい。候補因子として、好ましくはケラチンタンパク質と相互作用することが示唆される因子、例えば、トリコヒアリンおよびAHFなどのケラチン付随タンパク質が挙げられる(Tarcsa E, Marekov LN, Andreoli J, Idler WW, Candi E, Chung SI, Steinert PM. J Biol Chem. 1997 Oct 31;272(44):27893-901
およびTakebe K, Oka Y, Radisky D, Tsuda H, Tochigui K, Koshida S, Kogo K, Hirai Y. FASEB J. 2003 17:2037-47)。本発明において、細胞で発現させるとは、上記候補因子を当業者間で一般的な手法を用いて候補因子を前記細胞において発現させることをいう。例えば、AHFタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するベクターを前記細胞に導入することを含むが、これだけに限らない。一方、本発明において、細胞に作用させるとは、候補因子の上記細胞への効果を調べるために、細胞の培地に候補因子を添加して細胞に接触させるか、あるいは細胞への注入を行うことなどをいう。候補因子を添加する量または注入する量は、当業者が適宜決めることができる。本発明では、ケラチン分子を指標として、ケラチンフィラメントの形成について調べることができる。例えば、金コロイド標識の抗ケラチン抗体による免疫電子顕微鏡観察によるフィラメントと候補因子の相互作用などであってもよいが、一般的なタンパク質間の相互作用を調べる手法であれば、特に限定されない。
【0041】
本発明の別の態様では、本発明は、上記方法により発毛に有効な因子とされた候補因子を含む発毛剤を提供する。本発明において上記発毛剤は、前記因子の濃度、剤形および配合成分などは適宜選択し得る。従来の発毛剤を併用することができる。
【0042】
本発明のさらに別の態様では、本発明は、発毛剤の製造における、上記細胞の使用を提供する。
【0043】
本発明のさらに1つの別の態様では、本発明は、上記細胞を移植する発毛の方法を提供する。前記方法は、上記細胞を動物の皮膚に移植することを含む。前記移植の方法は、一般的な手法を用いて行われてもよい。さらに、本発明における方法は、従来の発毛の方法を併用して行うこともできる。
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例によって限定されることはない。
【実施例1】
【0045】
実施例1 内毛根鞘タイプIまたはタイプIIケラチンの細胞内での発現
SW13細胞にて、内毛根鞘ケラチンタイプIまたはタイプII単独での挙動を調べる為に、抗体のエピトープタグ付き内毛根鞘ケラチンタイプI(マウスkrt25(NCBI Entrez GeneID 70810、配列番号5)または、マウスkrt27(NCBI Entrez GeneID 16675、配列番号6))、内毛根鞘ケラチンタイプII(マウスkrt71(NCBI Entrez GeneID 56735、配列番号8))それぞれ発現させた細胞を作製し、観察を行った。具体的な方法及び観察結果は、以下の通りである。毛周期が成長期(生後5週齢)のC3H/He Slc(日本エスエルシー)マウス背中からTORIzol Reagent(インビトロジェン)を添付のマニュアルに従って用いてtotal RNAを調整した。調整したtotal RNAから、タカラバイオのTaKaRa RNA PCR Kit(AMV)Ver.3.0を用いオリゴdTからcDNAを合成した後、プライマー[krt25プライマー(配列番号9と配列番号10の組み合わせ)、krt27プライマー(配列番号11と配列番号12の組み合わせ)、krt71プライマー(配列番号13と配列番号14の組み合わせ)]にてPCRを行うことにより、ケラチン遺伝子3種(krt25、krt27、krt71)のcDNAをクローニングした。PCR条件は、94℃1分した後、krt25とkrt27においては94℃30秒、55℃30秒、72℃2分 30サイクル、krt71においては94℃ 2分した後、94℃30秒、57℃30秒、72℃2分 30サイクルで目的のcDNAを増幅した。krt71 PCR産物はpCR−topo ベクター(インビトロジェン)にて挿入した。
【0046】
内毛根鞘ケラチンをマウスからクローニングに使用したプライマーは以下の通りである。
krt25プライマー(2種)
・(配列番号9、krt25-5'UTR1-F)5'-cacagttcagcgacacgcttgccc
・(配列番号10、krt25-3'UTR1-R)5'-cacattgcatgccttgtcttcttt
krt27プライマー(2種)
・(配列番号11、krt27-5'UTR1-F)5'-agcactgcagagtgatcaccatgt
・(配列番号12、krt27-3'UTR1-R)5'-tgaaactagagccgtctgctttag
krt71プライマー(2種)
・(配列番号13、krt71-5'-UTR-1)5'-cttcctcctgcacctttactccatcc
・(配列番号14、krt71-3'-UTR-1)5'-tgagggatcgaggtcacaagaagc
【0047】
krt71 PCR−topoクローニング産物とkrt25 PCR増幅産物及びkrt27 PCR増幅産物は、TaKaRa pyrobest DNA polymerase(タカラバイオ)にてタグ(N末端側にはT7タグ、C末端側にはHAタグ配列またはN末端側にはstrep−tagIIタグ配列、C末端側にはHAタグ配列)付きケラチンDNA産物三種(krt25、krt27、krt71)を94℃ 30秒、57℃ 30秒、72℃ 1分 30サイクルにて、以下の組み合わせのプライマーによって増幅させた。
【0048】
・プライマーの組み合わせ
KRT25 N末端側にT7タグ配列、C末端側にHAタグ配列(配列番号15と配列番号16)
KRT27 N末端側にT7タグ配列、C末端側にHAタグ配列(配列番号17と配列番号18)
KRT71 N末端側にT7タグ、C末端側にHAタグ配列(配列番号19と配列番号20)
KRT71 N末端側にstrep−tagII、C末端側にHAタグ配列(配列番号19と配列番号21)
【0049】
マウスからクローニングした内毛根鞘ケラチン遺伝子にタグ配列を付加させる際に使用したプライマーは以下の通りである。
・krt25全長forward側
(配列番号15、T7-K25 pQCXIN-F)
5'-gggggcggccgcaccatggctagcatgactggtggacagcaaatgggtatgtctcttcgcctttccag

・krt25全長reverse側
(配列番号16、HA-K25-QCXIN-R)
5'-aaaagaattctcaagcgtaatctggaacatcgtatgggtaattgctttgagatttctctt

・krt27全長forward側
(配列番号17、T7-K27 pQCXIN-F)
5'-gggggcggccgcaccatggctagcatgactggtggacagcaaatgggtatgtccgttcgcttttcttc

・krt27全長reverse側
(配列番号18、HA-K27 pQCXIN-R)
5'-aaaagaattctcaagcgtaatctggaacatcgtatgggtaagaagggatcctctgctcgg

・krt71全長reverse側
(配列番号19、HA-K6irs1-QCKrt1)
5'-aaaagaattctcaagcgtaatctggaacatcgtatgggtatcggccacctttcttggaggg

・krt71全長forward側
(配列番号20、T7-K6irs1 pQCXIN)
5'-gggggcggccgcaccatggctagcatgactggtggacagcaaatgggtatgagccgccaattcacctgc

・krt71全長forward側
(配列番号21、strep-tagII-K6irs1 pQC)
5'-ggggggcggccgcctcgagaccatggctagctggagccacccgcagttcgaaaaaatgagccgccaattcacctgc

【0050】
上記で得られたPCR産物を制限酵素(NotI及びEcoRI)で処理し、PCR産物と同様な酵素処理をしたpQCXIN Retroviral Vector(クロンテック)のマルチクローニングサイトに挿入することにより、組み換え発現ベクターを構築および遺伝子塩基配列を確認した後、宿主細胞であるSW13(増殖培地:FCS 10%を添加したLeibovizts L15 培地で培養したもの)にタグ付きkrt25ベクターまたはkrt27ベクターをトランスフェクションした。トランスフェクションにはリポフェクトアミン2000(インビトロジェン)を用いて添付の説明書に従って行った。トランスフェクション後は、G418 600ng/mlを添加した培地で培養し、タグ付きKRT25及びタグ付きKRT27発現培養細胞(ケラチンタイプI発現細胞とする)を選択した。また、SW13細胞にkrt71をリポフェクトアミン2000にて上記の手法で導入し、2日後までSW13増殖培地で培養した。培養細胞の観察は、検出する細胞を−20℃に冷却したメタノールに浸した後、TritonXを1%添加したTBSにて洗浄した。この操作を2回繰り返した後、Blocking One(ナカライテスク)でブロッキングした。その後、1/20 TBS希釈のBlocking Oneにて希釈した抗タグ抗体[1/500希釈 抗T7タグ抗体(ノバジェン)]溶液にて反応させた後、Tween 20を1%添加したTBSで2回洗浄し、1/20 TBS希釈のBlocking Oneで希釈した蛍光付加2次抗体[1/1000希釈 Alexa Fluor 546 Goat Anti−mouse IgG(インビトロジェン)]で発色させた。なお、スライドガラスについて、ベクタシールド(ベクタ)にて、封入処理をし、カバーガラスを被せた。画像は、BioRad社の共焦点レーザ顕微鏡Radiance2000およびLaserSharpにより得た。SW13にタグ付きタイプI内毛根鞘ケラチン(KRT25及びKRT27)が安定的に発現する細胞株を抗T7タグまたはヨウ化プロピジウム(PI)(図1及び図2)、抗HAタグ抗体(データは省略)を用いて免疫染色または核染色を試みた。しかし、検出出来なかったため抗HAタグを用いて、ウエスタンブロッティングでタイプIケラチンの確認を行った(図3)。タイプIIケラチンであるKRT71をSW13細胞で発現させた後、T7タグ及びstrep−tagIIで検出した図は、それぞれ図4及び図5に示した。なお、タイプIIケラチン単独で発現させたSW13細胞ではフィラメント状のケラチン繊維は正常に形成されなかったが、顆粒状のケラチン粒は検出された。
【実施例2】
【0051】
実施例2 内毛根鞘ケラチンタイプI及びタイプIIケラチンの細胞内での発現
SW13細胞内でタイプI及びタイプII内毛根鞘ケラチンを発現させた細胞の挙動を確認するため、以下のとおり実験を行い、観察した。KRT25またはKRT27が安定的に発現したSW13細胞にリポフェクトアミン2000を用いて、pQCXINベクターに挿入したタグ付き(T7タグとHAタグまたはstrep−tagIIとHAタグ)krt71をトランスフェクションした。観察は、一次抗体として、1/500希釈抗T7タグ抗体(または1/200希釈抗strep−tagII抗体)を用い、上記と同様の手法で、免疫染色または核染色を行った。その結果、実施例1のようにケラチン単独でトランスフェクションした場合とは異なり、タイプI及びタイプIIケラチン両方ともトランスフェクションした細胞ではフィラメント状のケラチンを確認した(図6〜10)。
【実施例3】
【0052】
実施例3 内毛根鞘ケラチンタイプIまたはタイプIIケラチン発現細胞内でのAHFの発現
内毛根鞘ケラチンと相互作用すると予測されるタンパク質の解析のため、タイプIケラチンが安定的に発現する細胞にタイプIIケラチンベクターをトランスフェクションしたSW13細胞にpAdenoウイルスベクター(クロンテック)を用いてAHF遺伝子(DNA配列については特開2004−264024を参照のこと)を2日間感染させた。その後、一次抗体として、抗T7抗体及び抗AHF抗体、二次抗体として、Alexa Fluor 546 Goat Anti−mouse IgG(インビトロジェン)とAlexa Fluor 488 Goat Anti−rabbit IgG(インビトロジェン)を用い、実施例1と同様な手法にて免疫染色を行った。その結果、AHFと内毛根鞘ケラチンフィラメントの局在が一致する箇所があり、AHFはPAD(ペプチジルアルギニンデイミナーゼ)で修飾される前でもケラチンと相互作用することが明らかとなった(図11〜図13)。
【実施例4】
【0053】
実施例4 SW13細胞内でのAHFとビメンチンの局在
実施例3の比較例として、ケラチンとは別種の中間系フィラメントであるビメンチンとAHFとの局在を調査した。手法は、pAdenoベクターにてSW13細胞に導入したAHF遺伝子を実施例1と同様の手法で固定およびブロッキングし、一次抗体として抗ビメンチン抗体(1/200 希釈、シグマ)及び抗AHF抗体(1/500 希釈)を使用し、蛍光標識付きの二次抗体で反応後、洗浄、封入し、観察を行った。その結果、実施例3とは異なり、AHFとビメンチンは局在が一致しなかった。このことから、AHFは、ケラチン特異的に相互作用するタンパク質であることが明らかとなった(図14)。実施例3、4の結果より、本発明のケラチン発現細胞は、ケラチン及びケラチンと相互作用するタンパク質の局在を確認するツールとして極めて有効なものであること証明された。
【実施例5】
【0054】
実施例5 ヒト内毛根鞘ケラチン発現細胞
ヒト内毛根鞘タイプIケラチン[ヒトKRT25(NCBI Entrez Gene ID 147183;配列番号23)とヒトKRT28(NCBI Entrez Gene ID 162605;配列番号7)]およびマウス内毛根鞘タイプIIケラチン[マウスkrt71(NCBI Entrez GeneID 70810;配列番号8)]を含むプラスミドベクターをそれぞれ、リポフェクトアミン2000でSW13細胞に導入し、3日間培養した。なお、ヒトKRT25タンパク質とヒトKRT28タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸を含むベクターとして、HaloTag配列を含むpFN21Aベクターをプロメガ社より購入した[KRT25(Product ID; FHC05779L)、KRT28(Product ID; FHC05780L))。また、マウスkrt71を含むベクターは、ネオマイシン耐性遺伝子をピューロマイシン耐性遺伝子に組み換えたT7タグおよびHAタグ付きpQCXINベクターに挿入したものである。培養後、マウス内毛根鞘タイプIIケラチンに対する一次抗体として1/500希釈のT7タグ抗体、2次抗体として1/1000希釈のAlexa Fluor 488 Goat Anti−mouse IgG(インビトロジェン)を用いて、実施例1と同様な方法で免疫染色を行った。また、二次抗体で反応させる際に、タイプIケラチンのHaloTagに対する標識付きリガンド(1/200希釈HaloTag(商標)リガンド)を同時に添加した。
その結果、SW13細胞内でヒトタイプIケラチンおよびマウスタイプIIケラチン両方とも検出でき、局在が一致することを確認した(図15および図16)。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、上皮細胞のフィラメント構造に関するモデル細胞を提供することから、発毛に関する基礎分野に利用可能である。さらに、本発明は、発毛に有効な分子を探索する医薬品等の分野にも利用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0056】
SEQ ID NO:9: 5' primer for krt25
SEQ ID NO:10: 3' primer for krt25
SEQ ID NO:11: 5' primer for krt27
SEQ ID NO:12: 3' primer for krt27
SEQ ID NO:13: 5' primer for krt71
SEQ ID NO:14: 3' primer for krt71
SEQ ID NO:15: forward primer for T7-krt25
SEQ ID NO:16: reverse primer for HA-krt25
SEQ ID NO:17: forward primer for T7-krt27
SEQ ID NO:18: reverse primer for HA-krt27
SEQ ID NO:19: reverse primer for HA-krt71
SEQ ID NO:20: forward primer for T7-krt71
SEQ ID NO:21: forward primer for strep-tagII-krt71

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸および/または内毛根鞘特異的タイプIIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が導入された細胞。
【請求項2】
前記内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が、
(a)配列番号1に示すタイプIケラチンタンパク質KRT25のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸、あるいは
(b)前記アミノ酸配列と75%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、タイプIケラチンタンパク質KRT25と同等の性質を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸
である、請求項1記載の細胞。
【請求項3】
前記内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が、
(a)配列番号2に示すタイプIケラチンタンパク質KRT27のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸、あるいは
(b)前記アミノ酸配列と87%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、タイプIケラチンタンパク質KRT27と同等の性質を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸
である、請求項1記載の細胞。
【請求項4】
前記内毛根鞘特異的タイプIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が、
(a)配列番号3に示すタイプIケラチンタンパク質KRT28のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸、あるいは
(b)前記アミノ酸配列と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、タイプIケラチンタンパク質KRT28と同等の性質を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸
である、請求項1記載の細胞。
【請求項5】
前記内毛根鞘特異的タイプIIケラチンタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が、
(a)配列番号4に示すタイプIIケラチンタンパク質KRT71のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸、あるいは
(b)前記アミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、タイプIIケラチンタンパク質KRT71と同等の性質を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸
である、請求項1記載の細胞。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれか1項記載の核酸、および請求項5記載の核酸が導入された、請求項1記載の細胞。
【請求項7】
さらにケラチン付随タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する核酸が導入された、請求項1〜6のいずれか1項記載の細胞。
【請求項8】
ケラチン付随タンパク質がAHFである、請求項7記載の細胞。
【請求項9】
前記核酸のいずれかが標識された、請求項1〜8のいずれか1項記載の細胞。
【請求項10】
前記細胞が内在性ケラチンを持たない細胞である、請求項1〜9のいずれか1項記載の細胞。
【請求項11】
前記細胞がSW13株である、請求項10記載の細胞。
【請求項12】
請求項2〜4のいずれか1項記載の核酸を含むベクター。
【請求項13】
請求項5記載の核酸を含むベクター。
【請求項14】
発毛に有効な候補因子をスクリーニングする方法であって、下記工程:
(a)前記候補因子を請求項1〜11のいずれか1項記載の細胞で発現させ、次いで
(b)ケラチンフィラメントの形成について調べること
を特徴とする方法。
【請求項15】
発毛に有効な候補因子をスクリーニングする方法であって、下記工程:
(a)前記候補因子を請求項1〜11のいずれか1項記載の細胞に作用させ、次いで
(b)ケラチンフィラメントの形成について調べること
を特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−81936(P2010−81936A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202715(P2009−202715)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月17日 インターネットアドレス「http://www3.interscience.wiley.com/journal/120779764/abstract」に発表
【出願人】(305007551)株式会社毛髪クリニックリーブ21 (6)
【Fターム(参考)】