説明

新規抗HIV‐1剤

【課題】既知の非核酸系逆転写酵素阻害剤と同等以上の優れた活性を有する抗HIV‐1剤の提供。
【解決手段】一般式(I)


[式中、R、R及びRは、それぞれ水素原子又は置換基を有してもよい直鎖状の若しくは分岐したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボン酸基、エステル基、アシル基、カルボニル基、チオール基、チオカルボニル基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、アミド基、ニトロ基、アゾ基若しくは複素環基を表す。]で示されるトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体の光学異性体の何れか一方若しくはそのラセミ体又はその生理学的に許容される塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規抗HIV‐1剤に関する。詳しくは、エファビレンツやDPC083等の抗HIV剤と同様の構造上の特徴を有する化合物を有効成分とするものに関する。
【背景技術】
【0002】
後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome;AIDS)とは、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus type 1;HIV−1)がヒトのT細胞に感染することにより、免疫機能が低下して様々な疾患が生じる病気である。現在臨床において使用されている抗HIV薬としては、アジドチミジン(AZT)、ジダノシン(ddI)、ザハルシタビン(ddC)、スタブジン(d4T)、ラミブジン(3TC)等の逆転写酵素阻害剤(Nucleoside analogue Reverse Transcriptase Inhibitor;NRTI)、リトナビル、インディナビル、サキナビル、ネルフィナビル等のプロテアーゼ阻害剤(Protease Inhibitor;PI)及びネビラピン(NVP)、エファビレンツ(EFV)、デラビルジン(DLV)、DPC083(未認可)等の非核酸系逆転写酵素阻害剤(Non−Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitor;NNRTI)等が挙げられる(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Rudi Pauwels. New non-nucleoside reverse transcriptase inhibitors(NNRTIs) in deveropment for the treatment of HIV infections. Current Opinion in Pharmacology. 2004, 4, p437‐446.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、HIV−1は突然変異を起こしやすいため、単一の薬剤ではすぐに薬剤耐性ウイルスを誘導してしまうという重大な問題が生じていた。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、薬剤選択の幅を広げて薬剤耐性ウイルスの誘導を阻止し、既知の非核酸系逆転写酵素阻害剤と同等以上の優れた抗HIV‐1活性を有する抗HIV‐1剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、斯かる従来技術の問題点に鑑み、特にエファビレンツやDPC083等の構造上の特徴に注目し、既知の非核酸系逆転写酵素阻害剤と同等以上の抗HIV‐1活性を有する化合物を見出し、本発明を完成した。
(1)すなわち、本発明は、一般式(I)
【化2】

[式中、R、R及びRは、それぞれ水素原子又は置換基を有してもよい直鎖状の若しくは分岐したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボン酸基、エステル基、アシル基、カルボニル基、チオール基、チオカルボニル基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、アミド基、ニトロ基、アゾ基若しくは複素環基を表す。]で示されるトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体の光学異性体の何れか一方若しくはそのラセミ体又はその生理学的に許容される塩を有効成分とする、抗HIV‐1剤である。
(2)本発明は、また、前記トリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体は、6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オン又はその生理学的に許容される塩を有効成分とする、抗HIV‐1剤である。
(3)本発明は、また、D−6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オン若しくはL−6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オン又はその生理学的に許容される塩を有効成分とする、(2)に記載の抗HIV‐1剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の抗HIV‐1剤によれば、エファビレンツやDPC083等の抗HIV剤と同様の構造上の特徴を有し、既知の非核酸系逆転写酵素阻害剤と同等以上の抗HIV‐1活性を示しているので、HIV−1の増殖を抑制することによりAIDSを予防することができ、更にエイズ感染による日和見感染症による諸症状等の予防及び治療を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の抗HIV‐1剤は、一般式(I)
【化3】

[式中、R、R及びRは、それぞれ水素原子又は置換基を有してもよい直鎖状の若しくは分岐したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボン酸基、エステル基、アシル基、カルボニル基、チオール基、チオカルボニル基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、アミド基、ニトロ基、アゾ基若しくは複素環基を表す。]で示されるトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体の光学異性体の何れか一方若しくはそのラセミ体又はその生理学的に許容される塩を有効成分とするものである。
【0008】
式(I)で示されるトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体において、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、アンデシル基、ドデシル基等が、アルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基等が、アルキニル基としては、エチニル基、プロパルギル基等が、ハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、トリイオドメチル基等が、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−シクロヘキセニル基等が、アリール基としては、シクロアルキル基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、o−シリル基、m−シリル基、p−シリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンチリル基、2−アンチリル基、5−アンチリル基、1−フェナンチリル基、9−フェナンチリル基等が、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、スチリル基、シンナミル基、o−ビフェニリル基、m−ビフェニリル基、p−ビフェニリル基等が、ハロゲン基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、イオド基、イオドシル基、イオジル基等が、ヒドロキシ基としては、ヒドロキシ基、ヒドロペルオキシ基等が、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基、フェノキシ基、ベンジロキシ基等が、カルボン酸基としては、カルボキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が、エステル基としては、ホルミロキシ基、アセトキシ基、ベンゾイロキシ基等が、アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ドデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、オレオイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロロホルミル基、ピルボイル基、オキサロ基、メトキサリル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、o−トルオイル基、m−トルオイル基、p−トルオイル基、シンナモイル基、1−ナフソイル基、2−ナフソイル基等が、カルボニル基としては、アセトニル基、フェナシル基、o−サリシル基、o−サリシロイル基、o−アニシル基、m−アニシル基、p−アニシル基、o−アニソイル基、m−アニソイル基、p−アニソイル基等が、チオール基としては、メルカプト基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基等が、チオカルボニル基としては、チオホルミル基、チオアセチル基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、チオカルバモイル基等が、スルホニル基としては、スルフィノ基、スルホ基、メシル基、フェニルスルホニル基、o−トリルスルホニル基、m−トリルスルホニル基、トシル基、スルファモイル基、スルホアミノ基等が、アミノ基としては、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、o−トルイジノ基、m−トルイジノ基、p−トルイジノ基、o−キシリジノ基、m−キシリジノ基、p−キシリジノ基、ヒドロキシアミノ基等が、シアノ基としては、シアノ基、イソシアノ基、シアネート基、イソシアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基等が、アミド基としては、アセトアミド基、ベンズアミド基、スクシニミド基、カルバモイル基等が、ニトロ基としては、ニトロソ基、ニトロ基、ピクリル基等が、アゾ基としては、ヒドラジノ基、フェニラゾ基、1−ナフチラゾ基、2−ナフチラゾ基、アジド基、ウレイド基、アミジノ基、グアミジノ基等が、複素環基としては、2−フリル基、2−フルフリル基、2−チエニル基、2−テニル基、2−テノイル基、2−ピロリル基、2−ピリジル基、1−ピペリジノ基、4−ピペリジル基、4−モルホリノ基、2−モルホリニル基、2−クイノリル基等がそれぞれ挙げられ、また、Rの各置換基としては、Rと同様のものが挙げられる。
【0009】
また、式(I)で示される誘導体は、その構造中に1つの不斉炭素原子を含むので、一般式(II)
【化4】

[式中、Rは、前記と同義である。]で示される光学異性体及び一般式(III)
【化5】

[式中、Rは、前記と同義である。]で示される光学異性体を含むラセミ体を有している。本発明においては、これらのうちの何れか一方の単体が用いられてもよいし、混合物であるラセミ体が用いられてもよい。式(I)で示される誘導体の具体例としては、式(IV)
【化6】

で示される6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オン等が挙げられる。なお、式(IV)で示される化合物には、式(V)
【化7】

で示されるD−6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オン及び一般式(IV)
【化8】

で示されるL−6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オンの、2種類の光学異性体が存在している。
【0010】
式(I)〜(VI)で示される化合物の生理学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、塩酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過酸化水素塩等の無機酸塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩、N,N−ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩、アンモニウム塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩等の有機酸塩、又は、アスパラギン酸、グルタミン、アルギニン塩、リジン塩酸等のアミノ酸との塩等が挙げられる。なお、本発明においては、水和物等の溶媒和物の形であってもよい。
【0011】
式(I)で示されるトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体又はその生理学的に許容される塩は、例えば一般反応経路(VII)
【化9】

[式中、R、R及びRは、前記と同義である。]により製造することができる。
【0012】
まず、ケトン(A)及びLHMDS等の有機金属反応剤にBHDMS等の還元剤を添加して、還元的アミノ化反応により第1級アミン(B)を得る。次いで、この第1級アミン(B)にトリホスゲン等を反応させて得られたイソシアネート(C)に、NBS等のイミド及びトリクロロメタン等のハロゲン化物を添加してハロゲン化イソシアネート(D)を得る。次いで、得られたハロゲン化イソシアネート(D)にTEA等のアミン及びイミン(F)を反応させて、式(I)で示されたトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体を得る。
【0013】
なお、イミン(F)は、一般反応式(VIII)
【化10】

[式中、Rは、前記と同義である。]で示されるように、ニトリル(E)にNBS等のイミド及びトリクロロメタン等のハロゲン化物を添加して得られる。
【0014】
また、トリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体は、一般反応経路(IX)
【化11】

[式中、R、R及びRは、前記と同義である。]により製造されてもよい。
【0015】
まず、ケトン(A)と尿素等のアミンとの還元的アミノ化反応において、中間生成物であるイミン(G)を得たところで反応を中断させ、これに三臭化リン等のハロゲン化物を添加してハロゲン化イソシアネート(D)を得る。次いで、式(VII)で示される第1の合成方法と同様にして、式(I)で示されたトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体を得る。
【0016】
このようにして得られたトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体は、2種類の光学異性体を含むラセミ体である。本発明においては、当該光学異性体のうちの抗HIV‐1活性を有する異性体(エナンチオマー)を分離(光学分割)して利用する。一般的にラセミ体は、結晶化による方法、酵素反応による方法、クロマトグラフィーによる方法等によって各エナンチオマーに分離することができ、これらのうち適切なものを選択する。
【0017】
本発明の抗HIV‐1剤は、経口又は非経口により患者に投与することができる。経口投与の場合には、分離された抗HIV−1作用を有するトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体の光学異性体に、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、抗酸化剤等を加えた後、常法により、錠剤、被服錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、トローチ剤、カプセル剤等の固形製剤として投与することができる。賦形剤としては、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素等が挙げられ、結合剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、セラック、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン等が挙げられ、崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられ、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が挙げられ、着色剤としては、医薬品に添加することが許可されているものであればよく、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香酸、ハッカ油、龍脳、桂皮末等が挙げられ、抗酸化剤としては、アスコルビン酸、α−トコフェロール等の医薬品に添加することが許可されているものであればよい。なお、上記固形製剤に、糖衣、ゼラチン衣、その他必要に応じ適宜コーティングすることは差し支えない。
【0018】
一方、非経口投与の場合には、注射剤(点滴用注射剤も含む。)等の非固形製剤として投与することができ、注射剤等の液状製剤を製造する場合は、分離された抗HIV−1作用を有する光学異性体に、必要に応じてpH調整剤、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、抗酸化剤、保存剤等を添加し、常法により製造することができる。なお、上記非固形製剤は、必要に応じて凍結乾燥物にすることも可能であり、注射剤は静脈、皮下、筋肉内に投与することができる。pH調整剤としては、塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられ、懸濁化剤としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられ、溶解補助剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられ、安定化剤としては、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム、エーテル等が挙げられ、等張剤としては、塩化ナトリウム、ぶどう糖等が挙げられ、保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等が挙げられる。
【0019】
また、本発明の抗HIV‐1剤の投与量は、患者、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性差、薬剤に対する感受性差等により著しく異なり、正確な投与量は医師の診断により決定されるものであるが、通常、成人に対し1日あたり、上記有効化合物の投与量換算で、経口投与或いは非経口投与、例えば静脈内投与で0.1〜1000mgを、1日1回又は数回に分けて投与する。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0021】
[参考例1]
6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オンの光学純度試験
【0022】
本発明において利用されるトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体として、上記の製法により得られた6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オン(以下、『試料』という)を用い、下記の条件で液体クロマトグラフィーによる光学純度試験を行った。
1)評価システム
【0023】
ポンプ:LC‐10ATVP(島津製作所(株)製)
【0024】
検出器:SPD‐10AVP(島津製作所(株)製)
【0025】
オートサンプラー:SIL‐10ADVP(島津製作所(株)製)
2)分析条件
【0026】
カラム:CHIRALPAK(登録商標) AD‐H
【0027】
サイズ:0.46cmI.D.×25cmL
【0028】
移動相:ノルマルヘキサン/エタノール=60/40(v/v)
【0029】
流速:1.0mL/min.
【0030】
温度:40℃
【0031】
波長:212nm
【0032】
まず、標準試料溶液の分析を行うために、試料2mgを精秤し、上記の移動相を加えて2mLとして標準試料溶液とした。この溶液を上記の条件でカラムに5μL注入し、第1及び第2ピークの保持時間を確認した結果を図1に示した。
【0033】
次に、各試料の分析を行うために、試料1mgを精秤し、上記の移動相を加えて1mLとして試料溶液とした。この溶液を標準試料溶液と同様にして注入し、標準試料溶液の分析で確認した保持時間に溶出しているピークを各々の光学活性ピークとし、光学純度を算出した結果を図2、3及び表1に示した。
【表1】

【0034】
[比較例1]
1)NVP(ネビラピン)及びAZT(アジドチミジン)の抗HIV‐1作用確認試験
【0035】
ヒトT細胞株C8166R5を、10%FCSを含むDMEM培地に1×10cells/100μl/ウェルとなるように懸濁したものを96ウェルのマイクロプレートに播種し、次いでNVP又はAZT(共にシグマ社製)を0〜500μMの様々な濃度のものを添加した。次いで常法により作製した感染性HIV−1(NL432株)を感染させ、37℃で4日間培養した。培養後、上清中のHIV−1逆転写酵素量をポリARNAを鋳型とし、32P−TTPを用いた逆転写酵素アッセイにより定量し、NVP又はAZTのHIV−1増殖阻害効果を評価し、該HIV−1増殖阻害効果から、各薬剤のEC50値(EC:effective concentration)を求めた結果を表2に示した。
【表2】

2)NVP及びAZTの細胞毒試験
【0036】
テトラゾリウム塩WST−8の生成したホルマザンの吸光度を直接測定するWST法により、ヒトT細胞株C8166R5細胞に対する細胞毒性試験を行い、該細胞毒性試験結果から、各薬剤のCC50値(CC:cytotoxic concentration)を求めた結果を上記表2に示した。
3)NVP及びAZTのSI値
【0037】
各薬剤のNVPのCC50値を、EC50値で割ってSI値(SI:selective index)を算出し、その結果を上記表2に示した。
【0038】
[実施例1]
1)本発明の抗HIV‐1剤の抗HIV‐1作用確認試験
【0039】
検体として、参考例1の試料(以下、『ラセミ体』という)及び上記の製法により試料を分離して得られた各異性体(最初に溶出されたものを『異性体1』、次に溶出されたものを『異性体2』という)を用いた以外は比較例1と同様にして、ラセミ体、異性体1及び異性体2のHIV−1増殖阻害効果をそれぞれ評価し、該HIV−1増殖阻害効果からラセミ体、異性体1及び異性体2のEC50値をそれぞれ求めた結果を上記表2に示した。
2)本発明の抗HIV‐1剤の細胞毒試験
【0040】
ラセミ体、異性体1及び異性体2を用いた以外は比較例1と同様にして、ラセミ体、異性体1及び異性体2について、ヒトT細胞株C8166R5細胞に対する細胞毒性試験をそれぞれ行い、該細胞毒性試験結果からラセミ体、異性体1及び異性体2のCC50値をそれぞれ求めた結果を上記表2に示した。
3)本発明の抗HIV‐1剤のSI値
【0041】
ラセミ体、異性体1及び異性体2のEC50値及びCC50値を用いた以外は比較例1と同様にして、ラセミ体、異性体1及び異性体2のSI値をそれぞれ算出し、その結果を上記表2に示した。
【0042】
実施例1比較例1及び比較例2の結果より、本発明の抗HIV‐1剤(異性体2)は、HIV‐1増殖に対する高い阻害活性(EC50=0.004μM、CC50=90μM;SI=22500)を示し、抗HIV‐1剤として優れていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
上述したように、本発明の抗HIV‐1剤は、極めて優れたHIV‐1阻害活性を有するので、HIV‐1の増殖を抑制することによりAIDSを予防することができ、更にAIDS感染によるカンジダ症、クリプトコッカス症、ニューモシスチス肺炎(PC肺炎=旧カリニ肺炎)、コクシジオイデス症、ヒストプラズマ症、クリプトスポリジウム症、トキソプラズマ脳症、イソスポラ症、サルモネラ菌血症、サイトメガロウイルス感染症、化膿性細菌感染症、単純ヘルペスウイルス感染症、活動性結核(active tuberculosis)、非定型抗酸菌症、反復性肺炎、リンパ性間質性肺炎・肺リンパ過形成、カポジ肉腫、原発性脳リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、浸潤性子宮頸癌、進行性多巣性白質脳症、HIV脳症、HIV消耗性症候群等の日和見感染症による諸症状等の予防及び治療を行うことができる。従って、本発明の抗HIV‐1剤は、AIDSの予防薬及び治療薬として利用した場合極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オンの液体クロマトグラフィーによる分析結果である。
【図2】図1の標準試料溶液の分析で確認した保持時間に溶出している第1ピークを光学活性ピークとした場合の液体クロマトグラフィーによる分析結果である。
【図3】図1の標準試料溶液の分析で確認した保持時間に溶出している第2ピークを光学活性ピークとした場合の液体クロマトグラフィーによる分析結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、R、R及びRは、それぞれ水素原子又は置換基を有してもよい直鎖状の若しくは分岐したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボン酸基、エステル基、アシル基、カルボニル基、チオール基、チオカルボニル基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、アミド基、ニトロ基、アゾ基若しくは複素環基を表す。]で示されるトリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体の光学異性体の何れか一方若しくはそのラセミ体又はその生理学的に許容される塩を有効成分とする、抗HIV‐1剤。
【請求項2】
前記トリフルオロメチルジヒドロトリアジン誘導体は、6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オン又はその生理学的に許容される塩を有効成分とする、抗HIV‐1剤。
【請求項3】
D−6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オン若しくはL−6‐ターシャリーブチル‐4‐(トリフルオロメチル)‐3,4‐ジヒドロ‐4‐フェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2(1H)‐オン又はその生理学的に許容される塩を有効成分とする、請求項2に記載の抗HIV‐1剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−155794(P2010−155794A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333922(P2008−333922)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】