説明

新規血液透析用医薬組成物

【課題】血液透析時の薬剤投与時のエラーや事故の削減、さらには作業時間の削減に繋がる医薬組成物を提供する。
【解決手段】エリスロポエチン(EPO)とヘパリンまたはヘパリン様物質とを含む、血液透析に用いるための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパリンなどの抗凝固薬とエリスロポエチン(EPO)等の造血剤(ESA製剤)を含む、血液透析に用いるための医薬組成物並びにその投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓の機能は糸球体濾過、尿細管の再吸収といった尿の生成、それに伴う老廃物の排出の他に、免疫、内分泌、代謝といった機能がある。免疫としては細胞性免疫への関与が示唆されており、腎不全の患者は細胞性免疫の低下が認められる。また内分泌としては傍糸球体装置によるレニンの分泌やエリスロポエチン(以下においてEPOと記載することもある)の分泌、ビタミンDの活性化、キニン、カリクレイン、プロスタグランジンの分泌などが知られている。
【0003】
さまざまな原因により、腎臓の働きが不十分になった状態を腎不全といい、急に腎臓の働きが低下する急性腎不全と、長い期間をかけて徐々に腎臓の働きが低下する慢性腎不全がある。急性腎不全では治療により腎臓の働きの回復が望めるが、慢性腎不全では回復は望めない。慢性腎不全になると、体の中に老廃物がたまってきて、尿量に異常がみられ、むくみ、高血圧などがあらわれる。腎不全が軽度な時期には、食事療法や薬物療法を行うが、さらに進行して末期になると、透析あるいは腎臓移植が必要となる。
【0004】
透析は腎臓に代わって血液をきれいにする治療法で、血液透析と腹膜透析に分けられる。血液透析は、患者に2本のカニューレを挿入し、体外に取り出した血液を透析器(ダイアライザー)に通し、血液中の老廃物を除去して、血液をきれいにする治療法である。一般的な治療の回数としては週3回で、1回4〜5時間かけて透析を行う。血液透析の概略を図1に示す。
【0005】
血液透析では、血液を体外に取り出すため、そのままでは血液が固まってしまう。これを防ぐためには抗凝固薬が必要であり、最もよく用いられる抗凝固薬はヘパリンであり、体外に取り出した血液に抗凝固薬注入器から抗凝固薬を血液中に注入した後、透析器に送り込む。
【0006】
一方、透析療法だけでは、腎臓の働きを完全に補うことはできず、透析療法で管理できない部分を薬剤で補うことが必要となる。透析療法の補完のために投与される主な薬剤には、エリスロポエチン、リン吸着薬、カリウム吸着剤、活性型ビタミンD、降圧薬、抗生物質などが挙げられる。
【0007】
エリスロポエチン(EPO)は、赤血球系前駆細胞の分化、増殖を促進する酸性糖タンパク質ホルモンであり、主として腎臓から産生される。血液中に最も豊富に存在する赤血球は、一定期間機能した後に脾臓などで破壊される(ヒトでは平均寿命が約120日)が、骨髄から絶えず供給されることによって、正常な状態では末梢の全赤血球数は常に一定に保たれている。EPOはこのような生体の赤血球の恒常性維持において中心的な役割を担っている。臨床的にはEPOは貧血の治療や術前術後の管理に利用されている。
【0008】
血液透析に使用する血液回路において、心臓から透析器に血液を送る管を動脈側回路と呼び、透析器から心臓に送り返す管を静脈側回路と呼ぶ。血液透析療法では、通常血液透析終了間際にEPOを静脈側回路から投与する(図1)。しかし、この方法では、ヘパリンなどの抗凝固薬とEPOを別々の装置から投与することになり、煩雑であり、薬剤投与の間違いも生じうる危険性がある。
【0009】
現在までに、ヘパリンなどの抗凝固薬とEPOを単一の薬剤として血液透析に用いた例はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ヘパリンなどの抗凝固薬とEPOを含む、血液透析に用いるための医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、EPOとヘパリンまたはヘパリン様物質とを配合した医薬組成物が安全かつ簡易に血液透析に使用できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
[1]赤血球生成促進剤とヘパリンまたはヘパリン様物質とを含む、血液透析に用いるための医薬組成物。
[2]赤血球生成促進剤がエリスロポエチンである[1]記載の医薬組成物。
[3]ヘパリンまたはヘパリン様物質が、ヘパリンNa、ヘパリンCa、パルナパリンNa、ダルテパリンNa、レビパリンNa、アルガトロバンまたはメシル酸ナファモスタットである[1]または[2]記載の医薬組成物。
[4]エリスロポエチン(EPO)とヘパリンまたはヘパリン様物質とを、同時に血液透析前に投与することを含む、エリスロポエチンとヘパリンまたはヘパリン様物質との併用投与方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医薬組成物を用いることにより、透析開始前或いは透析開始時にヘパリンまたはヘパリン様物質とEPO等のESA製剤を単一の製剤として投与することができる。これにより、EPO製剤を透析終了間際に別途投与する手間が省け、また薬剤投与の間違いが生じる可能性も低くなる。従って、本発明の医薬組成物を用いることにより、透析時の薬剤投与時のエラーや事故の削減、さらには作業時間の削減に繋がる。また、薬剤保管スペースの削減或いは医療廃棄物の削減も期待できる。透析患者数は約28万人であると言われており、これらの人々が週3回血液透析を受けているのであるから、本発明を用いることによる効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】血液透析の概略を示す図である。
【図2】本願発明の医薬組成物をプレフィルドシリンジ製剤にして、血液透析回路に接続した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の医薬組成物は、エリスロポエチン(EPO)等の赤血球生成促進剤(ESA製剤)とヘパリンまたはヘパリン様物質とを含む。
赤血球生成促進剤(ESA製剤)
本発明に用いるESA製剤としては、エポエチンα、エポエチンβ、ダーベポエチン等のエリスロポエチン(EPO)、ヘマタイド等があげられ、好ましくはエリスロポエチンである。
エリスロポエチン(EPO)
本発明に用いるエリスロポエチンは、どのようなEPOでも用いることができるが、好ましくは高度に精製されたEPOであり、より具体的には、哺乳動物EPO、特にヒトEPOと実質的に同じ生物学的活性を有するものである。
【0015】
本発明で用いるエリスロポエチンは、いかなる方法で製造されたものでもよく、例えば、ヒト由来の抽出物から精製して得られた天然のヒトEPO(特公平1-38800号公報、など)や、あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌、イースト菌、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、C127細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、BHK細胞、昆虫細胞、などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したヒトEPOなどを用いることができる。本発明において用いられるエリスロポエチンは、遺伝子工学的手法により製造されたEPOが好ましく、哺乳動物細胞(特にCHO細胞)を用いて製造されたEPOが好ましい(例えば、特公平1-44317号公報、Kenneth Jacobs et al., Nature, 313 806-810 (1985)など)。
【0016】
遺伝子組換え法により得られるEPOには、天然由来のEPOとアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列中の1または複数のアミノ酸を欠失、置換、付加等したもので、天然由来のEPOと同様の生物学的活性を有するもの等であってもよい。アミノ酸の欠失、置換、付加などは当業者に公知の方法により行うことが可能である。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275;Zoller, M.J. and Smith, M. (1983) Methods Enzymol. 100, 468-500;Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456;Kramer, W. and Fritz, H.J. (1987) Methods Enzymol. 154, 350-367;Kunkel, T.A. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-492;Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、EPOのアミノ酸に適宜変異を導入することにより、EPOと機能的に同等なポリペプチドを調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。一般的に、置換されるアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換されることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D.F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666;Zoller, M.J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500;Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433;Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
【0017】
又、本発明のエリスロポエチンとして、EPOと他のタンパク質との融合タンパク質を用いることも可能である。融合ポリペプチドを作製するには、例えば、EPOをコードするDNAと他のタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。本発明のEPOとの融合に付される他のタンパク質は、特に限定されない。
【0018】
又、本発明のエリスロポエチンとして、化学修飾したEPOを用いることも可能である。化学修飾したEPOの例として、例えば、ポリエチレングリコール等により化学修飾されたEPO(WO90/12874など)、糖鎖のついていないEPOをポリエチレングリコール等により化学修飾したもの、その他、ビタミンB12等、無機あるいは有機化合物等の化合物を結合させたEPOなどを挙げることができる。
【0019】
さらに、本発明のエリスロポエチンとしてEPO誘導体を用いることも可能である。EPO誘導体とは、EPO分子中のアミノ酸を修飾したEPO又はEPO分子中の糖鎖を修飾したEPOのことをいう。
【0020】
EPO分子中の糖鎖の修飾としては、糖鎖の付加、置換、欠失などが含まれる。
通常、組換え動物細胞により生産したEPO、尿由来のEPOのいずれも、糖鎖構造の異なる多様なEPOを含むEPO組成物として得られる。EPO組成物中のEPO分子に付加しているシアル酸の数は、個々のEPO分子によって異なるが、通常、1つのEPO分子に11個〜15個のシアル酸が付加している。これらのシアル酸を除去することによりアシアロ化されたEPO(アシアロEPO)を作製することが可能である。シアル酸が除去されたEPO(アシアロEPO)は当業者に公知の方法で作製することができ、例えば、シアリダーゼなどの酵素でEPOを処理すること等により作製することが可能である。シアリダーゼは市販されているものを用いることが可能である。(特表2005-507426号、Nobuo Imai et al., Eur.J.Biochem, 194, 457-462 (1990)、など)
さらに、本発明のエリスロポエチンは、糖鎖改変体EPOであってもよく、これにはEPOのN末端にシアル酸が付着した糖鎖改変体EPOであるNESP(Novel Erythropoietin Stimulating Protein : WO85/02610,WO91/05867, WO95/05465等に記載)などの糖鎖が改変されたEPO類似体が挙げられる。
【0021】
EPO分子中のアミノ酸の修飾としては、カルバミル化、ビオチン化、アミジン化、アセチル化、グアニジン化、などを挙げることができるが、本発明において好ましいアミノ酸の修飾はカルバミル化である。
【0022】
修飾されるアミノ酸残基は特に限定されず、例えば、リジン、アルギニン、グルタミン酸、トリプトファンなどを挙げることができるが、本発明において修飾される好ましいアミノ酸はリジンである。
【0023】
従って、本発明においてアミノ酸が修飾されたEPOの特に好ましい態様として、リジンがカルバミル化されたEPOを挙げることができる(Marcel L et al. Derivatives of erythropoietin that are tissue protective but not erythropoietic. Science, 2004; 305: 239、 Fiordaliso E et al. A nonerythropoietic derivative of erythropoietin protects the myocardium from ischemia-reperfusion injury. PNAS, 2005; 102: 2046、など)。EPOのカルバミル化には、シアナートイオン等との反応によるカルバミル化、アルキル−イソシアナート等との反応によるアルキル−カルバミル化、アリール−イソシアナート等との反応によるアリール−カルバミル化などが含まれる。
ヘパリンまたはヘパリン様物質
本発明の医薬組成物で使用するヘパリンまたはヘパリン様物質とは、血液の抗凝固薬として血液透析で使用される薬剤である。具体的には、ヘパリンNa、ヘパリンCa、パルナパリンNa、ダルテパリンNa、レビパリンNa、アルガトロバン、メシル酸ナファモスタットなどが挙げられるが、これに限定されない。さらに、その他の抗凝固作用を有する薬剤も適用可能であり、本発明のヘパリン様物質に含まれる。
医薬組成物
本発明の医薬組成物は、EPOとヘパリンまたはヘパリン様物質とを含む。一例としては、ヒト組換えEPO(rHuEPO)溶液製剤(エポジン(登録商標)、中外製薬)にヘパリンまたはヘパリン様物質を添加した処方を用いることができる。
【0024】
本発明の医薬組成物には、有効成分のEPO及びヘパリンまたはヘパリン様物質に加えて、必要に応じて、懸濁剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を適宜添加することができる。
【0025】
懸濁剤の例としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等を挙げることができる。
【0026】
溶液補助剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができる。
【0027】
安定化剤としては、デキストラン40、メチルセルロース、ゼラチン、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
また、安定化剤としてある種のアミノ酸を添加することも可能である(例えば、特開平10-182481号公報など)。安定化剤として添加されるアミノ酸には、遊離のアミノ酸、そのナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩などの塩などが含まれる。アミノ酸は1種又は2種以上を組み合わせて添加することができる。安定化剤として添加されるアミノ酸は特に限定されないが、好ましいアミノ酸としては、ロイシン、トリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リジンを挙げることができる。
【0028】
等張化剤としては例えば、D−マンニトール、ソルビート等を挙げることができる。
保存剤としては例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等を挙げることができる。
【0029】
吸着防止剤としては例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0030】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の医薬組成物には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
【0031】
含硫還元剤としては例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。
【0032】
酸化防止剤としては例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。
【0033】
さらには、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩などの通常添加される成分を含んでいてもよい。
【0034】
本発明の製剤に中に含まれるEPOの量は、治療すべき疾患の種類、患者の重症度、患者の年齢等に応じて決定できる。一般には100〜500000IU/ml,好ましくは200〜100000IU/ml、さらに好ましくは750〜72000IU/mlである。
【0035】
本発明の製剤に中に含まれるヘパリンまたはヘパリン様物質の量は、治療すべき疾患の種類、患者の重症度、患者の年齢等に応じて決定でき、通常、血液透析時に使用されている投与量であれば、特に限定されない。通常、へパリンまたはヘパリン様物質は、1,000〜3,000単位、或いは5〜100mgであればよい。
【0036】
本発明の製剤は、例えば通常密封、滅菌されたプラスチックまたはガラス容器中に収納されている。容器はアンプル、バイアルまたはディスポーザブル注射器のような規定用量の形状で供給することができ、あるいは注射用バックまたは瓶のような大用量の形状で供給することもできる。プレフィルドシリンジの形で提供することが便利である。さらには、二室式プレフィルドシリンジを用いてEPOとヘパリンまたはヘパリン様物質を別々に収納しておいて同時に投与することも可能である。
【0037】
また、本発明の医薬品組成物をキットとして、あらかじめ透析回路に接続して投与することも可能である(図2)。
EPO製剤とヘパリンNaを配合して、一定時間経過後に外観、pH、EPO濃度、薬剤容器への吸着試験などを行い、24時間経過後もEPO含量、pH、外観が変化せず安定であることが確認されている(医学と薬学、第45巻第4号、613-624,2001;病院薬学、Vol.18, No.5,500-509,1992)。
【0038】
また、血液透析中の患者には、抗生物質などの各種薬剤が混合または併用されることが多いことから、EPO製剤と透析患者で高頻度で使用される薬剤との配合についても検討されている(医学と薬学、第45巻第4号、613-624,2001;病院薬学、Vol.18, No.5,500-509,1992)。したがって、本発明の医薬組成物には必要に応じてこれらの薬剤を一緒に配合することも可能である。
【0039】
本発明の医薬組成物は、従来ヘパリン注入に用いていた抗凝固薬注入器に充填して抗凝固薬注入器から血液中に注入することができる。この際に、本発明の医薬組成物をプレフィルドシリンジなどに封入した製品を用いることによりさらに利便性、安全性やコスト面で有利である。
【0040】
本発明の医薬組成物を添加した血液を透析器に送り込み、また透析液を透析器中に送り込む。透析器中には多数の細い管が入っており、血液は管の中を通り、透析液は管の周りを流れる。この管は透析膜からできており、極めて小さい孔があいている。この孔は水や小さい物質を通すが、タンパク質、血球、細菌、ウイルスなどは通さない。したがって、老廃物のように血液側の濃度が高く、小さい物質は透析液側に移動して除去される。
【0041】
本発明の医薬組成物を上記のように透析器中を通すときには、EPOが透析膜に吸着されて濃度減少を生じることが懸念される。この点については、さまざまな素材の透析膜を用いたヒト組換えEPO(rHuEPO)溶液製剤の吸着試験を閉鎖循環回路を用いて実施されている(医学と薬学、第46巻第3号、371-375,2001)。その結果、素材がPMMA(ポリメチルメタクリレート)であるときには、灌流血清中のEPO濃度が経時的に減少し、灌流120分後には初期濃度の34%に低下したが、その他の素材であるCUP(キュプラ)、PS(ポリスルフォン)、PAN(ポリアクリロニトリル)、EVAL(エチレンビニルアルコール)、CTA(セルローストリアセテート)およびRC(再生セルロース)では、灌流120分後でも灌流血清中のEPO濃度の低下は認められなかった。したがって、透析器中の透析膜の素材はPMMA以外の素材を用いることが好ましい。
【0042】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例】
【0043】
エリスロポエチン製剤として、エポジン(登録商標)注 750またはエポジン(登録商標)注 3000(中外製薬)を用い、抗凝固薬としてヘパリンナトリウム(武田薬品工業)を用いてこれらを無菌的に混合する。混合した溶液を無菌的にプレフィルドシリンジに封入する。
【0044】
血液透析時に、上記プレフィルドシリンジ製剤を、図2のように血液透析回路に接続し、体外に取り出した血液に当該プレフィルドシリンジ製剤からエリスロポエチン並びにヘパリンナトリウムを血液中に注入した後、透析器に送り込む(図2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球生成促進剤とヘパリンまたはヘパリン様物質とを含む、血液透析に用いるための医薬組成物。
【請求項2】
赤血球生成促進剤がエリスロポエチンである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
ヘパリンまたはヘパリン様物質が、ヘパリンNa、ヘパリンCa、パルナパリンNa、ダルテパリンNa、レビパリンNa、アルガトロバンまたはメシル酸ナファモスタットである請求項1または2記載の医薬組成物。
【請求項4】
エリスロポエチン(EPO)とヘパリンまたはヘパリン様物質とを、同時に血液透析前に投与することを含む、エリスロポエチンとヘパリンまたはヘパリン様物質との併用投与方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−51960(P2011−51960A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204893(P2009−204893)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【出願人】(510007104)
【Fターム(参考)】