説明

新規赤色発光化合物及びそれを用いた有機電界発光素子

【課題】新規赤色発光化合物及びそれを用いた有機電界発光素子
【解決手段】本発明は式(I)の新規赤色発光化合物、該化合物を用いた有機電界発光素子、及び該素子を製造する方法に関する。本発明はまた、優れた発光効率を有する以下の式(I)の化合物を用いることによる、優れた色度及び高輝度を有する赤色有機電界発光素子に関する。


(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子及び置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキ
ル基からなる群より選択され、XはN、S又はOを表し、並びに、Yは水素原子、置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキル基、または置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルコキシ基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規赤色発光化合物、より詳細には、優れた色純度及び高い発光効率を有する以下の式(I)で表される赤色発光化合物に関する。
【化1】

(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子及び置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキ
ル基からなる群より選択され、
XはN、S又はOを表し;並びに、
Yは水素原子、置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキル基、または置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルコキシ基を表す。)
【0002】
本発明はまた、前記赤色発光化合物を含有する有機電界発光素子、より詳細には、第一電極(陽極)と第二電極(陰極)の間に形成された少なくとも一つの発光領域からなる一層以上の有機薄層を有し、該有機薄層の少なくとも一層が上記式(I)で表された一つ以上の化合物を含む、有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、情報通信技術の発展に伴い、ディスプレイ装置分野において、より高度な性能が求められてきた。ディスプレイは発光型と非発光型に分類することができる。発光型ディスプレイには陰極線管(CRT)、電界発光ディスプレイ(ELD)、発光ダイオード(LED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)などがある。非発光型ディスプレイには液晶ディスプレイ(LCD)などがある。
【0004】
発光型及び非発光型ディスプレイは、作動電圧、消費電力、輝度、コントラスト、応答速度、耐用年数などの基本性能を有する。しかしながら、これまで広く用いられてきたLCDは、応答速度、コントラスト及び視野角依存性に関する基本性能においていくらか問題を有している。したがって、LED技術を用いたディスプレイは、上記LCDの問題点を解消し、早い応答速度、自己発光によるバックライトの必要性のなさ、及び卓越した輝度などの、その他多くの有利点を提供することによって、次世代のディスプレイ装置となることが見込まれている。
【0005】
一方、LEDは主に結晶形態の無機物質が使用され、したがって、大面積の電界発光素子に適用することは難しい。加えて、無機物質を用いた電界発光素子は非常に高価であり、200V以上の作動電圧を必要とする。しかしながら、イーストマンコダック社は、アルミナキニンなどのπ−共役構造を有する物質で作った素子を製造したことを1987年に発表し、それ以降、有機物質を用いた電界発光素子の研究がより活発になっている。
【0006】
電界発光素子(以下、EL素子と称する)は、発光層(エミッタ層)の形成に用いられる材料に応じて、無機EL素子及び有機EL素子に分類できる。
【0007】
蛍光性有機化合物を電気的に励起させる自己発光型素子である有機EL素子は、輝度、作動電圧及び応答速度の点で無機EL素子より優れており、また、多彩な色を発光できる。
加えて、有機EL素子は低圧電流で発光する発光素子であり、高輝度、高速応答、広視野角、平面発光、薄型、及び多色発光といった優れた特性を有している。
したがって、有機EL素子は、他のディプレイには見られない前記優れた特性のために、フルカラーフラットパネルディスプレイに応用できることが期待されている。
【0008】
C.W.タンらはアプライドフィジクスレターズ(Applied Physics Letters)、第51巻(12)913−915頁(1987年)にて有機EL素子の最初の実用的な素子性能を報告した。彼らは有機層としてジアミン類似体にて形成された積層構造の薄膜(正孔輸送層)及び、トリス(8−キノリノレート)アルミニウム(以下、Alq3と称する)にて形成された薄膜(電子輸送層)を開発した。該積層構造は両電極から有機層への電子および正孔の注入障壁を下げることができ、また、内部有機層の電子及び正孔の再結合確率を増加できる。
【0009】
その後、C.アダチらが、正孔輸送層、発光層、及び電子輸送層の三層積層構造[日本応用物理学会誌、第27巻(2)、 L269−L271頁(1988年)]、及び、正孔輸送可能発光層及び電子輸送層の二層積層構造[日本応用物理学会誌、第55巻(15)、1489−1491頁(1989年)]を有する有機発光層を有する有機EL素子を開発し、素子特性の最適化は、材料及びそれらの組み合わせに好適な多層構造を構築することによって達成できることを示した。
【0010】
有機ELは第一電極(陽極)、第二電極(陰極)及び有機発光媒体からなる。有機発光媒体は少なくとも二つの個別の有機発光層、即ち、一つは素子内部に電子を注入・輸送する層であり、もう一方は正孔を注入・輸送する層である。さらに、薄い有機フィルムの別の多重層を含むことができる。上記電子及び正孔の注入・輸送層は、電子注入層、電子輸送層、正孔注入層、正孔輸送層にそれぞれ分割できる。また、有機発光媒体は上記の層のほかにさらに発光層を含むことができる。
【0011】
有機EL素子の単純な構造は第一電極/電子輸送層、発光層/第二電極からなる。また、有機EL素子の構造を第一電極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/第二電極に分けることができる。所望により正孔阻止層を発光層と電子輸送層の間に用いることができる。
【0012】
上記構造を有する有機EL素子の動作原理は以下の通りである。
電圧が陽極及び陰極に印加されると、陽極から注入された正孔が正孔輸送層を通って発光層に輸送される。一方、電子は電子輸送層を通って陰極から発光層に注入される。正孔と電子は発光層にて再結合し、励起子(エキシトン)を形成する。励起子は励起状態から基底状態に変化し、これによって発光層の蛍光分子が発光して像を形成する。
【0013】
従来の有機EL素子の製造プロセスを以下に図1を参照して説明する。
まず最初に、第一電極(陽極)物質2をガラス1などの透明基板の上に形成する。インジウムスズ酸化物(ITO:In23+SnO2)が一般に陽極物質として使用され得る
。正孔注入層(HIL)3を陽極物質2の上に形成する。厚さ0乃至30nmの銅(II)フタロシアニン(CuPC)が一般にHIL3として使用され得る。
次に、正孔輸送層(HTL)4を形成する。厚さ30乃至60nmのN,N−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPD)がHTL4として一般に使用され得る。
その後、有機発光層5をHTL4の上に形成する。特に、状況に応じて、発光物質は発
光層5として単独で使用され得、又は、ホスト物質に少量の不純物をドープすることによって使用され得る。例えば、緑色発光の場合、厚さ約30乃至60nmのトリス(8−ヒドロキシキノレート)アルミニウム(Alq3)がホストとして使用され、MQD(N−メチルキナクリドン)が有機発光層5のドーパントとして使用され得る。
次に、発光層5の上に電子輸送層6又は電子注入層7を単独に、または連続して形成する。Alq3が電子輸送層として約20乃至50nmの厚さにて使用され得、アルカリ金属類似体が電子注入層として約30乃至50nmの厚さにて使用される。緑色発光の場合、有機発光層として用いられたAlq3は優れた電子輸送能を有するので、電子輸送層6又は電子注入層7は必ずしも必要とはされない
さらに、第二電極(陰極)8を電子注入層7の上に形成し、最終層として保護層を形成する。
【0014】
緑色、赤色、青色を発光する三種の発光素子がフルカラーの有機EL素子を実現するために通常必要とされる。
青色は、青色発光ドーパントを青色発光ホストにドープし、電子輸送層としてAlq3を用いることによって実現され、Alq3は青色ホストの特性に応じて省略し得る。赤色発光素子の場合、前記の素子の製造において、緑色発光ドーパントの変わりに赤色発光ドーパントをドープすることにより、赤色波長を得ることができる。
緑色発光素子の場合、クマリン6又はキナクリドン類似体がドーナントとして用いられ、赤色発光素子の場合には、DCM1又はDCM2などのDCM(4−ジシアノメチレン−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−2−メチル−4H−ピラン)類似体がドーパントとして使用され得る(ジャーナル オブ アプライドフィジクス、3610(1989年)参照)。
【0015】
一方、中心金属がユウロピウムである有機金属錯体が優れた色度を有する赤色発光素子として知られている(アプライドフィジクスレター、65(17)、2124〜2126(1994年)参照)。
【0016】
さらに、特開平11−329731号公報には、特定のジ−スチリル化合物を用いることによる高輝度を有する赤色発光有機EL素子の製造法が開示されている。
【特許文献1】特開平11−329731号公報
【非特許文献1】C.W.タンら、アプライドフィジクスレターズ(Applied Physics Letters)、第51巻(12)913−915頁(1987年)
【非特許文献2】C.アダチら、日本応用物理学会誌、第27巻(2)、L269−L271頁(1988年)
【非特許文献3】C.アダチら、日本応用物理学会誌、第55巻(15)、1489−1491頁(1989年)
【非特許文献4】ジャーナル オブ アプライドフィジクス、3610(1989年)
【非特許文献5】アプライドフィジクスレター、65(17)、2124〜2126(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前述の通り、これまで様々な発光素子の検討がなされているが、前述の緑色発光素子の場合、素子の安全性は実用化のレベルに達していると評価されるが、赤色発光素子は、発光色及び素子の安全性が前記レベルに達していないという問題を有している。
すなわち、赤/緑/青の三種の発光素子の中で、赤色発光素子の開発が遅れており、それゆえ十分な輝度及び色度が未だに得られていない。
【0018】
たとえば、非特許文献4に記載されるような、前記DCMをドーパントとして用いた場合の発光スペクトルのピーク波長は約600nmであり、半値幅は約100nmと広く、それゆえ、フルカラーに対応する赤色としての色度は非常に低い。加えて、DCMなどの赤色発光ドーパントの濃度が少ない場合には、オレンジ色領域のスペクトルが得られることとなり、濃度を濃くした場合には、赤色領域が発光するものの、発光効率は自己消光によって低くなる。さらに、電子輸送物質としてDCJTB[4−(ジシアノメチレン)−2−第三ブチル−6−(テトラメチルジュロリジ−4−イル)−4H−ピラン]をドープしたAlq3[トリス(8−ヒドロキシキノレート)アルミニウム]を用いた赤色発光素子は、輝度及び色度の観点からディスプレイ材料としては満足できるものではない。
また非特許文献5に記載される中心金属がユウロピウムである有機金属錯体を用いた赤色発光素子において、それらを用いた有機EL素子の最高輝度は非常に低い。
さらに、特許文献1に記載される特定のジ−スチリル化合物を用いた赤色発光有機EL素子においても発光スペクトルの半値幅は100nm以上であり、その色度は完全であるとは言えない。
【0019】
上記問題を解決するため、本発明者らは、安全で高輝度であって、優れた色度を有する赤色発光物質を開発するための研究を行った。
【0020】
本発明の一つの実施態様は、優れた発光効率、優れた赤色色度、及び高輝度を有する新規赤色発光物質を提供することである。
【0021】
本発明の別の実施態様は、高輝度及び優れた発光効率を有する前記赤色発光物質からなる有機電界発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
したがって、本発明の実施態様は以下の式(I)で表される赤色発光化合物を提供する:
【化2】

(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子及び置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキ
ル基からなる群より選択され、
XはN、S又はOを表し;並びに、
Yは水素原子、置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキル基、または置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルコキシ基を表す。)
【0023】
ある実施態様において、R1は水素原子又は炭素数1乃至6のアルキル基を表し、Xは
N、S又はOを表し、そして、Yは水素原子、炭素数1乃至6のアルキル基、または炭素数1乃至6のアルコキシ基を表す。本発明の一つの実施態様において、式(I)による化合物において、R1はメチル基である。別の実施態様において、XはSである。さらに別
の実施態様においてYはメチル基である。そして、さらに別の実施態様において、R1
メチル基、XはS、Yは水素又はメチル基である。ある実施態様において、該化合物は赤色発光物質である。
【0024】
本発明のある実施態様はまた、第一電極、第一電極に対する第二電極、そして第一電極と第二電極の間に設けられる少なくとも一つの有機層(少なくとも一つの有機層は上記式(I)による少なくとも一つの化合物である)からなる、有機電界発光素子を提供する。ある実施態様において、少なくとも一つの有機層は光発光層からなる。別の実施態様において、少なくとも一つの有機層は、正孔を注入する陽極と電子を注入する陰極の間に設けられる。さらに別の実施態様において、式(I)で表される一種以上の化合物が、ドーパント及び/又はホスト物質として用いられる。
【0025】
本有機電界発光素子によると、該素子は以下の基板、基板の上の陽極、陽極の上の正孔注入層、正孔注入層の上の正孔輸送層、輸送層の上の発光層、発光層の上の電子輸送層、そして電子輸送層の上の陰極からなり、式(I)の化合物は少なくとも発光層に含まれる。
【0026】
さらに別に実施態様において、本発明は、(a)基板を準備すること、(b)第一電極を形成すること、(c)第一電極上に、式(I)の化合物からなる少なくとも一層を形成すること、並びに、(d)式(I)の化合物からなる少なくとも一層の上に第二電極を形成すること、からなる、有機電界発光素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の赤色発光物質を用いて有機EL素子を製造することにより、該有機EL素子は従来の赤色発光物質を用いて製造した有機EL素子と比較して、非常に優れた発光効率及び高輝度を有し、加えて、本発明は素子の安全性及び寿命の増加に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の実施態様を添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明は以下の式(I)で表される赤色発光化合物を提供する。
【化3】

(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子及び置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキ
ル基からなる群より選択され、
XはN、S又はOを表し;並びに、
Yは水素原子、置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキル基、または置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルコキシ基を表す。)
【0029】
上記式中の各定義を以下詳細に示す。
本発明において、「炭素数1乃至6のアルキル基」とは、1乃至6個の炭素原子を有する直鎖又は枝分れ鎖の飽和炭化水素基を意味し、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第三ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基などであり、好ましくはメチル基またはエチル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0030】
また、「炭素数1乃至6のアルコキシ基」とは、1乃至6個の炭素原子を有する直鎖ま
たは枝分れ鎖アルキルを含む基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、第三ブトキシ基、ペントキシ基、イソペントキシ基、ヘキソキシ基などであり、好ましくはメトキシ基またはエトキシ基である。
【0031】
「置換」されているとき、置換された炭素数1乃至6のアルキル基、または置換された炭素数1乃至6のアルコキシ基を問わず、置換基はヒドロキシ基またはハロゲンからなる群から選択され得る。
【0032】
式(I)の化合物の代表例を以下に示す。しかしながら、本発明はこれら代表例に限定されるべきものではない。
【化4】

【0033】
本発明の式(I)の化合物は当業者に既知の方法で調製され得る。例えば、本発明による化合物1は、以下の方法にて調製される(スキーム1を参照)。2−アミノフェノール及びカルシウムカーネートをジメチルホルムアミドに溶解し、続いて、1−クロロ−3−メチル−2−ブテンを添加して式(2)の化合物を調製する。メタンスルホン酸を式(2)の化合物に添加し、該溶液を攪拌し、続いて、NaOH(水酸化ナトリウム)を用いて溶液を中和し、式(3)の化合物を得る。そして、リンオキシクロリド及びジメチルホルムアミドを得られた式(3)の化合物に加え、式(4)の化合物を得る。その後、式(4)の化合物および式(5)(2−アセトニトリル−ベンゾトリアゾール)の化合物をピペリジンと共にエタノールに加え、溶液を攪拌する。その後、TLC(薄層クロマトグラフィー)にて反応が完了したことを確認し、溶液を適当量のHClを用いて中和し、式(6)の化合物を得る。それから、式(6)の化合物を水に溶解し、NaOHを溶液に加え、攪拌し、式(7)の化合物を得る。それから、NaCN(シアン化ナトリウム)、Br2
、及びDMF(ジメチルホルムアミド)を式(7)の化合物に加え、反応させて上記化合物1を得る。この方法は、当業者に既知の方法によって変更し得、使用される化合物及び反応条件は当業者によって、当業者に既知の化学物質調製手法を用いて容易に変更し得る。
【0034】
【化5】

【0035】
上記本発明による式(I)の化合物は赤色発光物質として用いられ得、特に、赤色有機電界発光(EL)素子を提供するために用いられ得る。
【0036】
本発明は式(I)の化合物からなる有機EL素子を提供し、より具体的には、第一電極(陽極)及び第二電極(陰極)の間に形成された1つ以上の有機薄層(有機薄層の少なくとも一層は、本発明による一つ以上の赤色発光物質からなる)を有する有機EL素子を提供する。
【0037】
式(I)の化合物は単独で、組み合わせ型にて、又は他の物質によってドープされたホストとして、有機薄層のいずれかで使用され得、又は、他の正孔輸送物質、発光物質、電子輸送物質等へドーパントとして使用され得る。好ましくは、本発明の化合物は発光層のドーパント又はホストとして使用される。
【0038】
本発明の赤色発光物質を用いた有機EL素子の様々な実施態様が実現し得る。基本的に、必要であれば、発光層は一対の電極(陽極及び陰極)の間に導入される。そして、必要であれば、正孔注入層及び/又は正孔輸送層及び/又は電子注入層及び/又は電子輸送層を導入できる。該素子の限定されない例は:(i)陽極/発光層/陰極;(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極;(iii)陽極/正孔輸送層/電子輸送層/陰極;(iv)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極;(v)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極;(vi)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極;(vii)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極;などがある。正孔阻止層もまた所望により発光層と電子輸送層の間に設けられ得る。ある実施態様において、上記構造を有する素子は基板によって支持される。基板には特に限定は無く、例えばガラス、透明プラスチック、石英などの従来の基板の何れをも有機EL素子に使用し得る。
【0039】
本発明の有機EL素子を構成する各層は、該層を適用するための、蒸着法、スピンコート法、又はキャスト法などの従来法を用いて、物質を塗布することにより形成され得る。
【0040】
前記方法によって形成される発光層などの各層における厚さに特別の限定はなく、素子の要求される状態に応じて適切な選択がなされ得る。
【0041】
さらに、有機EL素子の陽極において、4.0eV以上の仕事関数を有する金属、合金、導電性化合物、又はそれらの組み合わせが電極として用いられ得る。前記電極物質の限定されない例としては、ITO、SnO2、ZnO、Auなどの導電性の透明又は不透明
物質である。陽極は蒸着法、スパッタリング法などによって薄膜を形成することにより製造され得る。
【0042】
さらに、有機EL素子の陰極において、4.2eV以上の仕事関数を有する金属、合金、導電性化合物又はそれらの組み合わせが電極として用いられ得る。前記電極物質の限定されない例としては、カルシウム、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム合金、リチウム合金、アルミニウム合金、アルミニウム/リチウム混合物、マグネシウム/銀混合物、インジウムなどがある。
陰極もまた、蒸着法、スパッタリング法などによって薄膜を形成することにより製造され得る。好ましくは、電極のシート抵抗は数百Ω/mmより少なく、フィルムの厚さは10nm乃至1μmから選択され、好ましくは50乃至200nmである。
【0043】
光伝導性物質のうち正孔輸送物質として従来使用される何れの物質、並びに、正孔注入層又は正孔輸送層として用いられる既知物質のうち何れの物質も、本発明の有機EL素子における正孔注入層及び正孔輸送層の物質として使用され得る。
【0044】
本発明の有機EL素子において、電子輸送層は電子輸送性化合物からなり、陰極から注入された電子を発光層に輸送する役割を有する。前記電子輸送性化合物には特に限定は無く、従来の既知の化合物の何れをもそれらに選択され得る。
【0045】
上記(vi)構造を有する本発明の有機EL素子を製造する好適な方法の一実施態様を図1に基づいて以下に説明する。
【0046】
まず、第一電極(2)を、例えばスパッタリング法などを用いて、透明基板(1)の上に形成する。次に、正孔注入層(3)及び正孔輸送層(4)をそれらの上に真空蒸着によって順番に形成する。その後、有機発光層(5)及び電子輸送層(6)を正孔輸送層(4)の上に形成し、電子注入層(7)及び陰極(8)を電子輸送層(6)の上に形成する。
【0047】
発光層(5)は、本発明の式(I)の一種以上のドーパントがドープされた慣用のホストを用いて形成され、又は、本発明の式(I)の化合物のみによって形成され得る。また、本発明の式(I)の化合物は、ホスト及びドーパントとして互いに用いることによって発光層として形成され得る。
【0048】
ITO(In23+SnO2)又はIZO(In23+ZnO)が陽極(2)の物質と
して用いられ得、銅(II)フタロシアニンが正孔注入層の物質として用いられ得る。NPD(N,N−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン)などのトリフェニルアミン又はジフェニルアミン類似体が正孔輸送層(4)の物質として使用され得、Alq3(トリス(8−ヒドロキシキノレート)アルミニウム)が発光層(5)のホスト物質として使用され得る。さらに、Alq3はまた優れた電子輸送特性のために電子輸送層(6)としても使用され得、2−(4−ビフェニル)−5−(4−第三ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)などのオキサジアゾール又はトリアゾール類似体も電子輸送層(6)として使用され得る。アルカリ金属(Cs、Rb、K、Na、Li)類似体(Li2Oなど)が電子注入層(7)として使用され得、Mg/Ag、Al、
Al/Li、又はAl/Ndが陰極(8)として使用され得る。
【0049】
本発明の式(I)の化合物の合成例、及び、該化合物を適用した有機EL素子を以下の合成例及び実施例にて説明する。しかしながら、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されず、本発明の範囲内において様々な変更が当業者によって可能であることが留意されるべきである。
【実施例】
【0050】
化合物1の合成
2−アミノフェノール(8.66g)及びカルシウムカーボネート(3.87g)をジメチルホルムアミド(27.63ml)に溶解した後、1−クロロ−3−メチル−2−ブテン(18.32ml)を加えた。混合物を80℃で反応させ、8.25gの式(2)の化合物を得た。メタンスルホン酸(9.5ml、使用した式(2)の化合物に基づき5倍モル量)を式(2)の化合物(8.25g)に加え、100℃にて反応させた。その後、溶液を水及び水酸化ナトリウムを用いて中和し、式(3)の化合物(6.78g)を得た。リンオキシクロリド(4.12ml)及びジメチルホルムアミド(11.8g)を得られた式(3)の化合物(6.78g)に加え、反応させて式(4)の化合物(5.64g)を得た。エタノール(36g)及びピペリジン(0.3ml)を式(4)の化合物(5.64g)及び式(5)(2−アセトニトリル−ベンゾトリアゾール)の化合物(3.82g)に加え、溶液を攪拌した。TLC(薄層クロマトグラフィー)にて反応が完了したことを確認後、溶液を適当量のHClを用いて中和し、式(6)の化合物を得た。そして、水及び水酸化ナトリウムを式(6)の化合物に加え、反応させて、式(7)の化合物(3g)を得た。それから、NaCN(シアン化ナトリウム、0.55g)、Br2及びD
MFを式(7)の化合物(3g)に加え、反応させて化合物1(1.5g)を得た。
【0051】
【化6】

化合物1:NMR分析(1H NMR(CDCl3):CH2(4H、1.77、d)、C
2(4H、3.35、d)、CH2(12H、1.39、s)、PH(1H、7.28、s)、PH(1H、8.12、d)、PH(1H、8.23、d)、PH(2H、7.55、m)
【0052】
実施例
この実施例は、ホストとしてAlq3、赤色発光層のドーパントとして上記方法にて調製した化合物1を用いて有機EL素子を製造したものである。
【0053】
まず、超音波で洗浄したITO蒸着ガラスの上に真空中でCuPCを蒸着することによって、正孔注入層を厚さ30nmにて形成した。正孔注入層の上に、NPD(N,N’−ジナフチル−N,N’−フェニル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン)を蒸着することによって、正孔輸送層を厚さ50nmにて形成した後、正孔輸送層の上に、化合物1(ドーパント)を2.0%ドープしたAlq3(ホスト)を蒸着することにより、発光層を厚さ30nmにて形成した。電子輸送層(Alq3:40nm)、電子注入層(Li2O:25nm)及び陰極(Mg/Ag;100nm)をこの順にそれらの上に真
空中で蒸着することによって形成し、有機EL素子を完成した。
【0054】
順方向バイアスの直流電圧を本実施例にて製造した有機EL素子に印加し、その発光特性を評価した。発光色は赤色であった。電圧−輝度試験の結果は、8.0Vの時に2.4cd/Aの輝度を示し、その時の発光効率は1.10lm/Wであった(表1参照)。この値はミノルタ社のCS−1000(計測基準:50mA/cm2)にて測定された。
【0055】
比較例
比較例1は、ホストとしてAlq3、赤色発光層のドーパントとしてDCJTBを用いて有機EL素子を製造した。
【0056】
はじめに、超音波で洗浄したITO蒸着ガラスの上に真空中でCuPCを蒸着することによって、正孔注入層を厚さ30nmにて形成した。その後、正孔注入層の上に、NPD(N,N’−ジ(ナフチレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン)を蒸着することによって、正孔輸送層を厚さ50nmにて形成し、正孔輸送層の上に、DCJTB(ドーパント)を2.0%ドープしたAlq3(ホスト)を蒸着することにより、発光層を厚さ30nmにて形成した。電子輸送層(Alq3:40nm)、電子注入層(Li2
O:25nm)及び陰極(Mg/Ag;100nm)をこの順にそれらの上に真空中で蒸着することによって形成し、有機EL素子を完成した。
【0057】
順方向バイアスの直流電圧を本比較例にて製造した有機EL素子に印加し、その発光特性を評価した。発光色は赤色であった。電圧−輝度試験の結果は、8.46Vの時に1.95cd/Aの輝度を示し、その時の発光効率は0.73lm/Wであった。
【0058】
実施例及び比較例の結果を以下の表1にまとめた。
【表1】

【0059】
上記表に示す通り、本発明の赤色発光物質を用いて製造した有機EL素子は、従来の赤色発光物質を用いて製造した有機EL素子と比較して、非常に優れた発光効率及び高輝度を示した。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は有機電界発光素子の断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 ガラス基板
2 第一電極(陽極)
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 有機発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 第二電極(陰極)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)で表される化合物。
【化1】

(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子及び置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキ
ル基からなる群より選択され、
XはN、S又はOを表し;並びに、
Yは水素原子、置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルキル基、または置換又は非置換の炭素数1乃至6のアルコキシ基を表す。)
【請求項2】
前記R1がメチル基であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記XがSであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物が赤色発光物質であることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一項に記載の化合物。
【請求項5】
第一電極、発光層を含む一つ以上の有機層、及び第二電極からなる有機電界発光素子であって、
該有機層は、第一電極及び第二電極の間に存在し、該有機層の少なくとも一層は請求項1乃至3の何れか一項に記載の式(I)で表される一つ以上の化合物を含むことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の式(I)で表される一つ以上の化合物は、ドーパント及び/又はホスト物質として使用されることを特徴とする、請求項5に記載の素子。


【図1】
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【公開番号】特開2006−188515(P2006−188515A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375750(P2005−375750)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(596066770)エルジー エレクトロニクス インコーポレーテッド (384)
【Fターム(参考)】