説明

方位検出装置

【課題】磁場の影響を受けることなく、静止状態でも、アンテナの向きの方位を正確かつ迅速に検出することができる方位検出装置を提供する。
【解決手段】方位検出装置が備える衛星データ入力部51には、GPSアンテナ11がGPS衛星から受信した信号に基づいて取得される当該GPSアンテナ11から見たGPS衛星の方位を示す方位情報と、受信した信号の信号レベルと、が入力される。複数のGPS衛星からの信号をGPSアンテナ11が受信すると、フィッティング処理部52は、それぞれのGPS衛星の方位と信号レベルとの関係に、GPSアンテナ11の所定方向に対する角度に応じて変化する信号レベルの傾向から導き出された関数を適合する。そして、方位算出部55は、フィッティング処理部52により適合された関数によって算出される算出信号レベルの傾向に基づいて、GPSアンテナ11の向きを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全地球測位システム(GNSS)衛星からの信号に基づいて、当該信号を受信したアンテナが向いている方位を検出する構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、方位検出装置において、GPS衛星等のGNSS衛星からの信号に基づいて移動体の向いている方位を検出する構成が知られている。この種の方位検出装置を開示するものとして例えば特許文献1がある。
【0003】
特許文献1は、以下のように構成される方位検出装置を開示している。即ち、特許文献1に開示される方位検出装置は、位置情報算出手段と、絶対方位角算出手段と、指向性アンテナと、相対方位角検出手段と、方位算出手段と、を備えている。前記位置情報算出手段は、GPS信号を受信してGPS衛星の位置情報及び移動体の位置情報を算出する。前記絶対方位角算出手段は、前記位置情報算出手段による上記GPS衛星の位置情報及び上記移動体の位置情報に基づいて上記移動体における上記GPS衛星の絶対方位角を算出する。前記指向性アンテナは、上記移動体において特定された特定方向に対して方位角方向に回動する。前記相対方位角検出手段は、この指向性アンテナにより上記GPS衛星からの電波を受信し、その電波の強弱により上記移動体における上記GPS衛星の上記特定方向に対する相対方位角を検出する。前記方位算出手段は、上記相対方位角及び上記GPS衛星の絶対方位角に基づいて上記移動体における上記特定方向の絶対方位角を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−231038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したGPS衛星からの信号に基づいて方位を検出する構成以外にも、地磁気を検知する電子コンパスを利用して移動体の向きを検出する構成が従来から知られている。しかし、電子コンパスは、その特性上、磁場の歪みが激しい場所では、正確に方位を検出できないおそれがあった。
【0006】
この点、特許文献1に開示される方位検出装置は、GPS衛星から受信した電波の強弱に基づいて特定の方向の方位を検出するので、磁場の影響を受けることなく方位を検出することができる。しかし、特許文献1の構成は、受信レベルのピークを調べるために、特定の衛星からの受信レベルの変化を一定時間モニタしなければならない。そのため、移動体の向きが急に変わった場合等において、当該移動体の状態を検出結果に即座に反映させることが困難であった。また、特許文献1の構成は、受信レベルの変化をモニタするために、GPSアンテナ自体を回動させる又はGPSアンテナに取り付けられている遮蔽部材を回動させるための駆動装置を備える必要があった。従って、装置構成の簡素化という観点からも改善の余地があった。
【0007】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁場の影響を受けることなく、静止状態でも、アンテナの向きの方位を正確かつ迅速に検出することができる方位検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下のように構成される方位検出装置が提供される。即ち、方位検出装置は、記憶部と、入力部と、処理部と、方位算出部と、を備える。前記記憶部には、指向性を有するアンテナの信号の受信角度と信号レベルとの関係から導き出した関数が予め記憶される。前記入力部には、前記アンテナがGNSS衛星から受信した信号に基づいて取得される当該GNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが入力される。前記処理部は、複数のGNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが前記入力部に入力されたときに、それぞれのGNSS衛星について求められた方位情報と受信信号レベルの関係に前記関数を適合する処理を行う。前記方位算出部は、前記処理部により適合された関数によって算出される算出信号レベルの傾向に基づいて前記アンテナの向きを算出する。
【0010】
これにより、GNSS衛星からの信号を継続して取得する必要なく、複数のGNSS衛星からの信号を受信できた時点で、アンテナの向きを検出するための処理を開始できる。従って、移動状態又は静止状態の何れの状態であっても、アンテナの向きをほぼリアルタイムに検出することができる。また、GNSS衛星からの信号は磁場の影響を受けないので、GNSS衛星からの信号を受信できる環境であれば、磁場の歪みが激しい場所であっても、アンテナの向きを正確に検出することができる。
【0011】
前記の方位検出装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記方位算出部は、前記処理部によって適合された関数によって算出される算出信号レベルが最も大きいときの方位情報又は最も小さいときの方位情報に基づいて前記アンテナの向きを算出する。
【0012】
これにより、算出信号レベルの最大値又は最小値を検出するという簡単な処理によってアンテナの向きを算出することができる。
【0013】
前記の方位検出装置においては、前記関数は、三角関数を含むことが好ましい。
【0014】
これにより、360度周期で大きさが周期的に変わる三角関数によって、方位に応じた信号レベルの変化を適切かつ容易に表現することができる。また、比較的容易な計算処理によって信号レベルを算出できるので、方位を算出するために必要な演算コストを低減することができる。
【0015】
前記の方位検出装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この方位検出装置は、確度算出部を備える。前記確度算出部は、前記算出信号レベルと前記受信信号レベルとの差に基づいて前記方位算出部が算出する方位の確度を求める。
【0016】
これにより、現実に受信した受信信号レベルと算出信号レベルが比較されることになるので、確度に基づいて方位算出部による算出結果の信頼性を判断することができる。
【0017】
前記方位検出装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記確度算出部は、同じ方位における前記算出信号レベルと前記受信信号レベルとの差を閾値と比較することにより、前記方位算出部による算出結果の確度を求める。
【0018】
これにより、アンテナがGNSS衛星からの信号を良好に受信できず、受信した信号レベルが極端な値をとった場合でも、閾値を適切に設定しておくことで、算出結果が正確でない可能性を考慮した処理を行うことができる。
【0019】
前記の方位検出装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記算出信号レベルと前記受信信号レベルとの差が閾値を超えた場合は、当該閾値を超えた受信信号レベルを除外して前記処理部に関数を再適合させる。
【0020】
これにより、閾値から外れた受信信号レベルが除外されるので、受信環境が悪い場所でも、方位を正確に算出できる構成を実現することができる。
【0021】
本発明の第2の観点によれば、以下のように構成される方位検出装置が提供される。即ち、方位検出装置は、記憶部と、入力部と、取得部と、処理部と、方位算出部と、を備える。前記記憶部には、指向性を有する複数のアンテナが所定の配置関係に従って配置されたアンテナ組の信号の受信角度と信号レベルとの関係から導き出した関数が予め記憶される。前記入力部には、前記アンテナがGNSS衛星から受信した信号に基づいて取得される基準位置から見た前記GNSS衛星の方位情報と、それぞれの前記アンテナが受信した信号の受信信号レベルと、が入力される。前記取得部は、同一のGNSS衛星から前記アンテナごとに受信した信号の受信信号レベルに基づいて当該GNSS衛星の方位に応じた適合用信号レベルを取得する。前記処理部は、複数のGNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが前記アンテナごとに前記入力部に入力されたときに、それぞれのGNSS衛星について求められた方位情報と前記適合用信号レベルとの関係に前記関数を適合する処理を行う。前記方位算出部は、前記処理部により適合された関数によって算出される算出信号レベルの傾向に基づいて前記アンテナ組の向きを算出する。
【0022】
これにより、GNSS衛星からの信号を継続して取得する必要なく、複数のGNSS衛星からの信号を受信できた時点で、アンテナ組の向きを検出するための処理を開始できる。従って、移動状態又は静止状態の何れの状態であっても、アンテナ組の向きをほぼリアルタイムに検出することができる。また、GNSS衛星からの信号は磁場の影響を受けないので、GNSS衛星からの信号を受信できる環境であれば、磁場の歪みが激しい場所であっても、アンテナ組の向きを正確に検出することができる。また、複数のアンテナがそれぞれ受信した信号に基づいて適合用信号レベルを取得するので、方位を正確に算出することができる。
【0023】
前記の方位検出装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記方位算出部は、前記処理部によって適合された関数によって算出される算出信号レベルが最も大きいときの方位情報又は最も小さいときの方位情報に基づいて前記アンテナ組の向きを算出する。
【0024】
これにより、算出信号レベルの最大値又は最小値を検出するという簡単な処理によってアンテナ組の向きを算出することができる。
【0025】
前記の方位検出装置においては、前記関数は、三角関数を含むことが好ましい。
【0026】
これにより、360度周期で大きさが周期的に変わる三角関数によって、方位に応じた信号レベルの変化を適切かつ容易に表現することができる。また、比較的容易な計算処理によって信号レベルを算出できるので、方位を算出するために必要な演算コストを低減することができる。
【0027】
前記の方位検出装置においては、確度算出部を備えることが好ましい。前記確度算出部は、前記算出信号レベルと前記適合用信号レベルとの差に基づいて前記方位算出部が算出する方位の確度を求める。
【0028】
これにより、現実に受信した受信信号レベルに基づく適合用信号レベルと算出信号レベルが比較されることになるので、確度に基づいて方位算出部による算出結果の信頼性を判断することができる。
【0029】
前記の方位検出装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記確度算出部は、同じ方位における前記算出信号レベルと前記適合用信号レベルとの差を閾値と比較することにより、前記方位算出部による算出結果の確度を求める。
【0030】
これにより、アンテナがGNSS衛星からの信号を良好に受信できず、適合用信号レベルが極端な値をとった場合でも、閾値を適切に設定しておくことで、算出結果が正確でない可能性を考慮した処理を行うことができる。
【0031】
前記の方位検出装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記算出信号レベルと前記適合用信号レベルとの差が閾値を超えた場合は、当該閾値を超えた適合用信号レベルを除外して前記処理部に関数を再適合させる。
【0032】
これにより、閾値から外れた適合用信号レベルが除外されるので、受信環境が悪い場所でも、方位を正確に算出できる構成を実現することができる。
【0033】
前記の方位検出装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、複数の前記アンテナは、互いに逆方向の指向性を有する第1アンテナと第2アンテナとにより構成されている。前記取得部は、前記第1アンテナが受信した受信信号レベルと前記第2アンテナが受信した受信信号レベルとの差分をとって適合用信号レベルを取得する。
【0034】
これにより、差分をとるというシンプルな処理で、誤差を打ち消した適合用信号レベルを取得することができる。また、互いに逆方向の指向性を有する信号レベルの差分をとるので、適合用信号レベルの変化幅を大きくすることができ、方位算出部によって算出された方位の信頼度を効果的に向上させることができる。
【0035】
本発明の第3の観点によれば、指向性を有するアンテナの向きを算出するための方位検出方法において、以下の4つのステップを含む方法が提供される。即ち、第1ステップでは、前記アンテナの信号の受信角度と信号レベルとの関係から導き出した関数を導き出す。第2ステップでは、前記アンテナがGNSS衛星から受信した信号に基づいて取得される当該GNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが入力される。第3ステップでは、複数のGNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが入力されたときに、それぞれのGNSS衛星について求められた方位情報と受信信号レベルとの関係に前記関数を適合する。第4ステップでは、関数に基づいて算出される算出信号レベルの傾向に基づいて前記アンテナの向きを算出する。
【0036】
これにより、GNSS衛星からの信号レベルを継続して取得する必要なく、複数のGNSS衛星からの信号を受信できた時点で、アンテナの向きを検出するための処理を開始できる。従って、移動状態又は静止状態の何れの状態であっても、アンテナの向きをほぼリアルタイムに検出することができる。また、GNSS衛星からの信号は磁場の影響を受けないので、GNSS衛星からの信号を受信できる環境であれば、磁場の歪みが激しい場所であっても、アンテナの向きを正確に検出することができる。
【0037】
本発明の第4の観点によれば、指向性を有する複数のアンテナが所定の配置関係に従って配置されたアンテナ組の向きを算出するための方位検出方法において、以下の5つのステップを含む方法が提供される。即ち、前記第1ステップでは、前記アンテナ組の信号の受信角度と信号レベルとの関係から導き出した関数を導き出す。前記第2ステップでは、前記アンテナがGNSS衛星から受信した信号に基づいて取得される基準位置から見た前記GNSS衛星の方位情報と、それぞれの前記アンテナが受信した信号の受信信号レベルと、が入力される。前記第3ステップでは、同一のGNSS衛星から前記アンテナごとに受信した信号の受信信号レベルに基づいて当該GNSS衛星の方位に応じた適合用信号レベルを取得する。前記第4ステップでは、複数のGNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが前記アンテナごとに入力されたときに、それぞれのGNSS衛星について求められた方位情報と前記適合用信号レベルとの関係に前記関数を適合する。前記第5ステップでは、適合された関数によって算出される算出信号レベルの傾向に基づいて前記アンテナ組の向きを算出する。
【0038】
これにより、GNSS衛星からの信号を継続して取得する必要なく、複数のGNSS衛星からの信号を受信できた時点で、アンテナ組の向きを検出するための処理を開始できる。従って、移動状態又は静止状態の何れの状態であっても、アンテナ組の向きをほぼリアルタイムに検出することができる。また、GNSS衛星からの信号は磁場の影響を受けないので、GNSS衛星からの信号を受信できる環境であれば、磁場の歪みが激しい場所であっても、アンテナ組の向きを正確に検出することができる。また、複数のアンテナがそれぞれ受信した信号に基づいて適合用信号レベルを取得するので、方位を正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態の方位検出装置の全体的な構成を示した概念図。
【図2】第1実施形態の解析装置の機能ブロック図。
【図3】信号レベルと方位角との関係をGPS衛星ごとに示したグラフ。
【図4】第2実施形態の方位検出装置の全体的な構成を示した概念図。
【図5】第2実施形態の解析装置の機能ブロック図。
【図6】信号レベルと方位角との関係をGPS衛星ごとに示したグラフ。
【図7】第1GPSアンテナが受信したデータから第2GPSアンテナが受信したデータの差分を取った差分データを示すグラフ。
【図8】フィッティング結果と閾値との関係を説明するために、信号レベルと方位角との関係の一例をGPS衛星ごとに示したグラフ。
【図9】本発明の方位検出方法を適用した実験を説明する模式図。
【図10】本発明の方位検出方法を適用した実験の検出結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に発明の実施の形態について説明する。図1は、第1実施形態の方位検出装置10の全体的な構成を示した概念図である。本実施形態の方位検出装置10は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用して、GPSアンテナ11の向きの方位を検出する構成となっている。本実施形態では、GNSSとしてGPS(Global Positioning System)を利用している。
【0041】
図1に示すように、第1実施形態の方位検出装置10は、GPSアンテナ11と、遮蔽板12と、GPS受信機13と、解析装置14と、を備える。
【0042】
GPSアンテナ11は、GPS衛星1からの信号を受信するためのものであり、フラットな形状のパッチアンテナが採用されている。図1に示すように、地球の周りには複数のGPS衛星1が存在しており、GPSアンテナ11はこれら複数のGPS衛星1からの信号を受信している。
【0043】
図1に示すように、GPSアンテナ11は、適宜の金属で形成された遮蔽板12の平面部分に取り付けられている。以下の説明において、この遮蔽板12と対面接触している面をGPSアンテナ11の背面側とし、この背面側と反対側の面をGPSアンテナ11の正面側とする。そして、本実施形態の方位検出装置10においては、GPSアンテナ11の正面方向(図1に矢印で示す方向)が、方位を検出する基準の方向(所定方向)として定められている。
【0044】
遮蔽板12はGPS衛星1からの信号を減衰させるように機能するため、GPSアンテナ11は、背面側からの信号に対しては、その受信感度が悪くなっている。一方、GPSアンテナ11の正面側には遮蔽板12がないため、正面側からの信号は背面側に比べて感度良く受信できるようになっている。このように、本実施形態のGPSアンテナ11は、正面からの信号を感度良く受信する指向性アンテナとして構成されている。
【0045】
GPS受信機13は、GPSアンテナ11を介して受信した測位信号に基づいて、当該測位信号を発信した各GPS衛星1の位置及び受信時の信号レベルを取得する。測位信号は、全衛星の軌道情報であるアルマナックデータと、信号を発信したGPS衛星1の詳細な軌道情報であるエフェメリスデータと、を含んでいる。GPS受信機13は、アルマナックデータに基づいて測位信号を受信することができるGPS衛星1を確認し、エフェメリスデータに基づいて各GPS衛星1の正確な位置を取得する。
【0046】
GPS受信機13は、複数(少なくとも3つ)のGPS衛星1からの測位信号(各GPS衛星1の位置)に基づいて、GPSアンテナ11の現在位置を取得する。本実施形態のGPS受信機13は、GPSアンテナ11の現在位置と、GPS衛星1の位置と、に基づいて、GPSアンテナ11から見たGPS衛星1の方位角をGPS衛星1ごとに取得する。こうして得られたGPS衛星1の方位角は、解析装置14に出力される。また、GPS受信機13は、GPS衛星1から信号を受信したときの信号レベルについても、GPS衛星1ごとに解析装置14に出力する。
【0047】
解析装置14は、GPS受信機13から受信したデータを解析し、GPSアンテナ11の向いている方位(正面方向の方位)を検出する検出処理を行うためのものである。次に、図2及び図3を参照して、解析装置14の詳細な構成を説明する。図2は、第1実施形態の解析装置14の機能ブロック図である。図3は、信号レベルと方位角との関係をGPS衛星1ごとに示したグラフである。
【0048】
なお、図3のグラフ中のSV(Satellite Vehicle)の後に続く数字は衛星番号を意味している。また、横軸に示したAzimuth(deg)は、GPSアンテナ11の位置から見たGPS衛星1の方位である。また、縦軸に示したC/NO(dB−Hz)は、搬送波と雑音の比を示すものであり、受信時の信号レベルの強さを示している。このC/NOの値が大きいほど、GPSアンテナ11がGPS衛星1からの信号を良好な状態で受信していることになる。
【0049】
本実施形態の解析装置14は、汎用のパーソナルコンピュータを利用して構成されている。この解析装置14は、演算部及び制御部としてのCPUと、記憶部としてのROM、RAM及びハードディスクと、を備えている。前記ハードディスクには、方位角が異なるGPS衛星1の信号レベルの強さに基づいてGPSアンテナ11の向いている方位を検出するためのプログラム等が、適宜の記憶媒体を用いてインストールされている。
【0050】
そして、図2に示すように、上記ハードウェアとソフトウェアとの協働により、解析装置14には、衛星データ入力部51と、フィッティング処理部52と、フィッティング関数記憶部53と、方位算出部55と、結果出力部57と、が構築されている。
【0051】
衛星データ入力部51は、各GPS衛星1の方位角及び受信時の信号レベルをGPS受信機13から取得する。衛星データ入力部51は、信号を受信できる位置に存在しているGPS衛星1の信号レベルのデータを複数取得し、これら一群の信号レベルのデータ(信号レベルデータ)をフィッティング処理部52に出力する。この信号レベルデータは、GPSアンテナ11の向き(その時の方位)によって異なる信号レベルの傾向を示すデータである。この信号レベルデータの一例が、図3のグラフに示されている。
【0052】
フィッティング処理部52は、フィッティング関数記憶部53に予め記憶されているフィッティング関数を呼び出し、前記信号レベルデータにフィッティング関数をフィッティング(適合)させる(図3を参照)。フィッティング処理部52は、フィッティング関数をフィッティングさせた結果を方位算出部55に出力する。
【0053】
ここで、フィッティング関数記憶部53に記憶されるフィッティング関数について説明する。即ち、地球の周りには複数のGPS衛星1が公転しており、時間や地球上のGPSアンテナ11の位置が変化しても、複数のGPS衛星1のうち、いくつかのGPS衛星1がGPSアンテナ11から見た様々な方位に存在している状態になっている。また、本実施形態のGPSアンテナ11は、指向性を有するように構成されており、GPSアンテナ11が向いている方向(正面方向)の信号を最も強く受信するようになっている。従って、GPSアンテナ11は、様々な方位に存在する複数のGPS衛星1から信号を同時に受信した場合、正面側に存在するGPS衛星1からの信号は強く受信する傾向を示し、背面側に存在するGPS衛星1からの信号は弱く受信する傾向を示す。このようなアンテナの向きに対する角度に応じて変化する信号レベルの傾向を関数として表現したものがフィッティング関数である。
【0054】
本実施形態において、フィッティング関数は、式(1)のように表される。
【数1】

ただし、
A:GPSアンテナ11から見た各GPS衛星1の方位角
φ:GPSアンテナ11の正面方向の方位角
a,b:フィッティング定数
【0055】
なお、フィッティング定数a及びbは、以下のような予備測定を行って予め求められたものである。即ち、最初に、受信環境が良好な適宜の場所において、GPSアンテナ11を所定方向に向けた状態で固定する。例えば、GPSアンテナ11を真北に向けて設置した場合、φの値は0度で固定になる。そして、GPS衛星1の方位角と信号レベルとの関係を所定時間にわたって測定し、実験データを得る。予備測定で得た実験データに適合するように上述の式(1)を適用することで、フィッティング定数(パラメータ)が決定される。
【0056】
以上により、GPSアンテナ11の所定方向に対する角度に応じた信号レベルの変化の傾向を関数に表現することができる。この予備測定によってフィッティング定数が設定されたフィッティング関数は、フィッティング関数記憶部53に予め適宜の方法で記憶される。なお、上述したフィッティング定数の決定方法は、あくまで一例であり、この方法とは異なる方法でパラメータを決定することができるのは勿論である。
【0057】
方位算出部55は、フィッティング結果に基づいてGPSアンテナ11の正面方向の方位を算出するためのものである。本実施形態の方位算出部55は、方位を東西南北の4方位で検出できるように構成されている。より具体的には、真北を0度とし、上から見たときの時計回り方向が正となるように角度をとった場合、45度から135度(東の範囲)、135度から225度(南の範囲)、225度から315度(西の範囲)、315度から45度(北の範囲)の4つの範囲に90度間隔で方位を区分する。そして、フィッティング処理部52に適用されたフィッティング関数によって算出される信号レベル(算出信号レベル)のピーク(最大値又は最小値)が生じるときの方位が属する前記区分に基づいて方位を判定する。本実施形態の構成においては、正面側の信号を最も強く受信できるようにGPSアンテナ11が構成されているので、信号レベルの最大値をとるときの方位がGPSアンテナ11の正面方向と判定できる。また、信号レベルの最小値をとるときの方位に基づいてGPSアンテナ11の背面方向を判定することもできる。図3に示すようなフィッティング結果が入力された場合、方位算出部55は、信号レベルのマイナス側ピーク(最小値)の方位が135度から225度の範囲にあることから、GPSアンテナ11が南と逆の方向、即ち北を向いていると判定する。方位算出部55は、このようにして決定した判定結果(算出結果)を結果出力部57に出力する。
【0058】
結果出力部57は、方位算出部55から入力された判定結果をパーソナルコンピュータのディスプレイ(表示部)に表示させる。これにより、ユーザは、GPSアンテナ11が東西南北の何れの方向を向いているかを把握することができる。
【0059】
以上に示したように、第1実施形態の方位検出装置10は、以下のように構成される。即ち、方位検出装置10は、フィッティング関数記憶部53と、衛星データ入力部51と、フィッティング処理部52と、方位算出部55と、を備える。フィッティング関数記憶部53には、指向性を有するGPSアンテナ11の信号の受信角度と信号レベルとの相関関係から導き出したフィッティング関数が予め記憶される。衛星データ入力部51には、GPSアンテナ11がGPS衛星1から受信した信号に基づいて取得される当該GPSアンテナ11から見たGPS衛星1の方位を示す方位情報と、受信した信号の信号レベル(受信信号レベル)と、が入力される。フィッティング処理部52は、複数のGPS衛星1の方位情報及び信号レベルが衛星データ入力部51に入力されたときに、それぞれのGPS衛星1について求められた方位と受信信号レベルとの関係にフィッティング関数を適合する処理を行う。方位算出部55は、フィッティング処理部52により適合されたフィッティング関数によって算出される信号レベル(算出信号レベル)の傾向に基づいてGPSアンテナ11の向きを算出する。
【0060】
これにより、GPS衛星1からの信号を継続して取得する必要なく、複数のGPS衛星1からの信号を受信できた時点で、GPSアンテナ11の所定方向の向きを検出するための処理を開始できる。従って、移動状態又は静止状態の何れの状態であっても、GPSアンテナ11の向きをほぼリアルタイムに検出することができる。また、GPS衛星1からの信号は磁場の影響を受けないので、GPS衛星1からの信号を受信できる環境であれば、磁場の歪みが激しい場所であっても、GPSアンテナ11の向きを正確に検出することができる。
【0061】
また、本実施形態の方位検出装置10においては、フィッティング処理部52によって適合されたフィッティング関数によって算出した信号レベルが最も大きいときの方位情報又は最も小さいときの方位情報に基づいて前記アンテナの向きを算出する。
【0062】
これにより、フィッティング関数によって算出した信号レベルの最大値又は最小値を検出するという簡単な処理によってアンテナの向きを算出することができる。
【0063】
また、本実施形態の方位検出装置10においては、関数は、余弦関数を含むように設定されている。
【0064】
これにより、360度周期で大きさが周期的に変わる余弦関数によって、方位に応じた信号レベルの変化を適切かつ容易に表現することができる。また、比較的容易な計算処理によって信号レベルを算出できるので、方位を算出するために必要な演算コストを低減することができる。
【0065】
次に、第2実施形態の方位検出装置30について説明する。第2実施形態の方位検出装置30は、複数のGPSアンテナで構成されるアンテナ組の配置関係に基づいて設定される所定方向の方位を、複数のGPSアンテナが受信した信号に基づいて検出するように構成されている。図4は、第2実施形態の方位検出装置30の全体的な構成を示した概念図である。なお、以下の説明において、第1実施形態で説明した方位検出装置10の構成と同一及び類似する構成には、図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0066】
図4に示すように、第2実施形態の方位検出装置30は、第1GPSアンテナ21と、第2GPSアンテナ31と、遮蔽板12と、第1GPS受信機23と、第2GPS受信機33と、解析装置14と、を備える。
【0067】
第1GPSアンテナ21及び第2GPSアンテナ31は、何れも、GPS衛星1からの信号を受信するためのものであり、フラットな形状のパッチアンテナとして構成されている。図4に示すように、第1GPSアンテナ21は、第1実施形態と同様に、遮蔽板12の平面部分に取り付けられている。一方、第2GPSアンテナ31は、第1GPSアンテナ21が取り付けられている遮蔽板12の反対側に取り付けられており、遮蔽板12を挟んで第1GPSアンテナ21の背面側に配置されている。
【0068】
第1GPSアンテナ21及び第2GPSアンテナ31は、遮蔽板12を挟んで対向するように配置されていることにより、互いに逆方向の指向性を有するようになっている。即ち、第1GPSアンテナ21は、正面側からの信号を受信する感度が高く背面側からの信号を受信する感度が低くなっている。一方、第2GPSアンテナ31は、第1GPSアンテナ21の正面側(第2GPSアンテナ31の背面側)からの信号を受信する感度が低く、第1GPSアンテナ21の背面側(第2GPSアンテナ31の正面側)からの信号を受信する感度が高くなっている。
【0069】
なお、本実施形態の方位検出装置30においては、第1GPSアンテナ21と第2GPSアンテナ31とで構成されるアンテナ組の所定方向は、第1GPSアンテナ21の正面方向に設定されている。以下の説明において、方位検出装置30が向きを検出するといった場合は、第1GPSアンテナ21の正面方向の方位を検出することを意味するものとする。
【0070】
第1GPS受信機23には、第1GPSアンテナ21が受信した信号が入力されている。第1GPS受信機23は、この信号に基づいて取得した各GPS衛星1の方位を示すデータと、信号レベルを示すデータと、を解析装置14に出力する。第2GPS受信機33には、第2GPSアンテナ31が受信した信号が入力されており、第2GPSアンテナ31が受信した信号に基づいて取得した各GPS衛星1の方位を示すデータと、信号レベルを示すデータと、を解析装置14に出力する。
【0071】
第2実施形態の解析装置14は、第1GPS受信機23から入力されるデータと、第2GPS受信機33から入力されるデータと、を解析し、第1GPSアンテナ21の正面方向の方位(アンテナ組の向き)を検出する。次に、図5、図6及び図7を参照して、解析装置14の詳細な構成を説明する。図5は、第2実施形態の解析装置14の機能ブロック図である。図6は、信号レベルと方位角との関係をGPS衛星1ごとに示したグラフである。図7は、第1GPSアンテナ21が受信したデータから第2GPSアンテナ31が受信したデータの差分を取った差分データを示すグラフである。
【0072】
図5に示すように、解析装置14には、衛星データ入力部51と、差分データ取得部56と、フィッティング処理部52と、フィッティング関数記憶部53と、確度算出部54と、方位算出部55と、結果出力部57と、が構築されている。
【0073】
衛星データ入力部51は、第1GPSアンテナ21が信号を受信したときの信号レベルをGPS衛星1ごとに取得した信号レベルデータを差分データ取得部56に出力する。この信号レベルデータは、第1GPSアンテナ21の向き(その時の方位)によって異なる信号レベルの傾向を示すデータである。なお、第1GPSアンテナ21が受信した信号に基づいて取得された信号レベルデータの一例が、図6(a)のグラフに示されている。
【0074】
また、衛星データ入力部51は、第2GPSアンテナ31が信号を受信したときの信号レベルをGPS衛星1ごとに取得した信号レベルデータを差分データ取得部56に出力する。この信号レベルデータは、第2GPSアンテナ31の向き(その時の方位)によって異なる信号レベルの傾向を示すデータである。なお、第2GPSアンテナ31が受信した信号に基づいて取得された信号レベルデータの一例が、図6(b)のグラフに示されている。
【0075】
差分データ取得部56は、GPS衛星1から第1GPSアンテナ21が受信した信号に基づいて取得した信号レベルと、同一のGPS衛星1から第2GPSアンテナ31が受信した信号に基づいて取得した信号レベルと、の差分を適合用信号レベルとして取得する。差分データ取得部56は、この適合用信号レベルをGPS衛星1ごとに取得していく。差分データ取得部56は、GPS衛星1ごとに取得した適合用信号レベルを適合用信号レベルデータとしてフィッティング処理部52に出力する。差分データ取得部56が取得する適合用信号レベルデータの一例を示すものが図7のグラフである。
【0076】
フィッティング処理部52は、フィッティング関数記憶部53から呼び出したフィッティング関数を適合用信号レベルデータにフィッティングさせ(図7を参照)、その結果を確度算出部54に出力する。なお、フィッティング関数は、適合用信号レベルに適合するように導き出された関数であり、式(2)のように表される。式(2)は、第1実施形態で説明した式(1)に基づいて導き出すことができる。
【数2】

ただし、
A:第1GPSアンテナ21(アンテナ組)から見た各GPS衛星1の方位角
φ:アンテナ組の所定方向(第1GPSアンテナ21の正面方向)の方位角
a,b:フィッティング定数
【0077】
式(2)に示すように、差分をとることでフィッティング定数bを消去することができ、演算処理をより簡素なものにすることができる。なお、フィッティング定数aについては、第1実施形態と同様に予備測定によって求める。例えば、第1実施形態で説明した予備測定を、第1GPSアンテナ21及び第2GPSアンテナ31のそれぞれで行う。次に、差分データ取得部56の説明のときと同様に、第1GPSアンテナ21及び第2GPSアンテナ31ごとに得られた測定結果の差分データ(適合用信号レベルデータ)を取得する。そして、式(2)に示されるフィッティング関数を前記差分データにフィッティングさせ、その結果に基づいてフィッティング定数を決定する。
【0078】
確度算出部54は、フィッティング処理部52から出力された算出結果の信頼度を判定するためのものである。本実施形態の確度算出部54は、フィッティング関数が算出した信号レベルと、適合用信号レベルと、を予め設定されている閾値に基づいて比較し、適合用信号レベルが閾値を超えている場合は、算出結果の信頼度が低いと判定する。本実施形態の確度算出部54は、算出結果の信頼度が低いと判定した場合、閾値を超えた適合用信号レベルのデータを除外してフィッティング処理部52にフィッティング処理を再度行わせる。
【0079】
ところで、GPSアンテナが受信する信号レベルは、周囲の環境によって大きく変動することがある。例えば、GPSアンテナの周囲にビル等の背の高い構造物がある場合に、GPSアンテナから見たGPS衛星1の位置がちょうど構造物の陰に入って死角になることがある。この状態では、当該GPSアンテナからの信号を全く受信できないか、又は受信できたとしても信号レベルが著しく下がってしまい、適合用信号レベルの値が極端な値をとる原因になることがある。この点を考慮して、第2実施形態の方位検出装置30は、確度算出部54によって算出された方位の信頼度が高いか低いかを判定させるように構成されているのである。
【0080】
図8は、フィッティング結果と閾値との関係を説明するために、信号レベルと方位角との関係の一例をGPS衛星1ごとに示したグラフである。図8に示す例では、方位角が45度のGPS衛星1の適合用信号レベルと、フィッティング関数によって算出された信号レベルと、の差が、あらかじめ設定されている閾値を超えている。この場合、確度算出部54は、閾値を超えた適合用信号レベルの値を除外する処理を行い、閾値を超えた適合用信号レベルを除外した適合用信号レベルデータに基づいてフィッティング処理を再度行わせる。
【0081】
フィッティング処理部52は、閾値を超えた適合用信号レベルが除外された適合用信号レベルデータに、フィッティング関数をフィッティングさせて、その結果を確度算出部54に再出力する。確度算出部54は、適合用信号レベルが閾値を超えているかいないかをGPS衛星1ごとに判定していく。入力された適合用信号レベルデータに閾値を超えた適合用信号レベルがないと判定された場合には、そのフィッティング結果を方位算出部55に出力する。なお、閾値の設定は、ユーザが解析装置14の操作手段(マウス、キーボード等)を操作して変更できるようになっている。
【0082】
第2実施形態の方位算出部55は、北、北東、東、南東、南、南西、西、北西の8方位を検出できるように構成されている。より具体的には、方位算出部55は、方位を45度間隔で区分し、前記フィッティング結果によって得られたフィッティング関数のピークの方位が何れの区分に該当するか否かで向きを算出する。例えば、22.5度から67.5度(北東の範囲)、67.5度から112.5度(東の範囲)、112.5度から157.5度(南東の範囲)、157.5度から202.5度(南の範囲)・・・といったように8つの範囲に方位を区分する。このように設定された区分と、関数によって算出された信号レベルのピーク時の方位と、に基づいてアンテナ組の所定方向(第1GPSアンテナ21の正面方向)の方位を判定する。図7に示すようなフィッティング結果の場合、フィッティング関数に算出された信号レベルが最大値をとるときの方位が157.5度から202.5の範囲にあるので、第1GPSアンテナ21が向いている方位を南と判定する。このようにして、方位算出部55によって判定された判定結果(算出結果)は、結果出力部57に出力され、結果出力部57は判定結果をディスプレイに表示する。
【0083】
次に、図9及び図10を参照して、本発明の方位検出方法を用いて行った実験結果について説明する。図9は、本発明の方位検出方法を適用した実験を説明する模式図である。図10(a)は、第1実施形態で説明したように、1つのGPSアンテナが受信した信号に基づいて方位の検出を行った実験結果を示すグラフである。図10(b)は、第2実施形態で説明したように、2つのGPSアンテナがそれぞれ受信した信号に基づいて方位の検出を行った実験結果を示すグラフである。なお、図10において、横軸は実験を開始してからの経過時間を示す。縦軸は、解析装置14が算出した検出方向の方位である。また、図10(a)及び図10(b)に示すグラフは、1回の測定で求めたものではなく、複数回実験を行い、その実験結果をプロットしたものである。
【0084】
図9に示すように、本実験は、東西南北を向くことができるように平面視において90度単位で向きを切換可能に構成した回動体60に、第1GPSアンテナ21及び第2GPSアンテナ31を取り付けて行ったものである。回動体60は、遮蔽部材として機能しており、第2実施形態で説明したように、第1GPSアンテナ21と第2GPSアンテナ31とは、互いに逆方向の指向性を有するように回動体60に取り付けられている。そして、検出方向(所定方向)は、第1GPSアンテナ21と第2GPSアンテナ31とを結ぶ仮想直線に直交する方向に設定されている。
【0085】
図9に示すように、実験開始時点では検出方向は西を向いている。第1GPSアンテナ21は北を向いており、第2GPSアンテナ31は南を向いている。即ち、開始0秒から60秒までの間は検出方向は西(第1GPSアンテナ21が北)を向いている。開始から60秒が経過すると、回動体60は検出方向が南を向くように回動する。そして開始から120秒が経過すると、回動体60は、検出方向が東を向くように回動する。以降も同様に、60秒が経過するごとに検出方向を90度回動させて検出方向が再び西を向くまでこの動作を繰り返す。
【0086】
図10(a)には、第1GPSアンテナ21が受信した信号の信号レベルに基づいて式(1)により方位を算出した結果と、第2GPSアンテナ31が受信した信号の信号レベルに基づいて式(1)により方位を算出した結果と、をそれぞれ示した。一方、図10(b)には、第1GPSアンテナ21が受信した信号レベルと、第2GPSアンテナ31が受信した信号レベルと、の差分をとって取得された適合用信号レベルに式(2)を利用して方位を算出した結果を示した。
【0087】
図10(a)及び図10(b)を比較すると、1つのGPSアンテナが受信した信号レベルに基づいて方位を算出した場合より、2つのGPSアンテナが受信した信号レベルに基づいて方位を検出した場合の方が、検出精度が高いことがわかる。この理由としては、指向性が互いに逆方向に構成される第1GPSアンテナ21と第2GPSアンテナ31とのそれぞれの信号レベルの差分をとることで、誤差が打ち消し合う形になったことや、信号レベルの変化幅が大きくなり、方位算出部55によるピークの検出精度が向上したこと等が考えられる。
【0088】
以上に示したように、第2実施形態の方位検出装置30は、以下のように構成される。即ち、方位検出装置30は、フィッティング関数記憶部53と、衛星データ入力部51と、差分データ取得部56と、フィッティング処理部52と、方位算出部55と、を備える。フィッティング関数記憶部53は、指向性を有する複数のGPSアンテナが所定の配置関係に従って配置されたアンテナ組の信号の受信角度と信号レベルとの相関関係から導き出したフィッティング関数が予め記憶される。衛星データ入力部51には、第1GPSアンテナ21又は第2GPSアンテナ31がGPS衛星1から受信した信号に基づいて取得される基準位置から見たGPS衛星1の方位を示す方位情報が入力される。また、衛星データ入力部51には、第1GPSアンテナ21及び第2GPSアンテナ31のそれぞれが受信した信号の信号レベル(受信信号レベル)が入力される。差分データ取得部56は、同一のGPS衛星1から第1GPSアンテナ21と第2GPSアンテナ31とが受信した信号の信号レベルに基づいて当該GPS衛星1の方位に応じた適合用信号レベルを取得する。フィッティング処理部52は、複数のGPS衛星1の方位情報及び信号レベルがGPSアンテナごとに衛星データ入力部51に入力されたときに、それぞれのGPS衛星1について求められた方位情報と適合用信号レベルとの関係に関数を適合する処理を行う。そして、方位算出部55は、フィッティング処理部52により適合されたフィッティング関数によって算出される信号レベル(算出信号レベル)の傾向に基づいて第1GPSアンテナ21及び第2GPSアンテナ31(アンテナ組)の所定方向が向いている方位を算出する。
【0089】
これにより、GPS衛星1からの信号レベルを継続して取得する必要なく、複数のGPS衛星1からの信号を受信できた時点で、アンテナ組の向きを検出するための処理を開始できる。従って、移動状態又は静止状態の何れの状態であっても、アンテナ組の向きをほぼリアルタイムに検出することができる。また、GPS衛星1からの信号は磁場の影響を受けないので、GPS衛星1からの信号を受信できる環境であれば、磁場の歪みが激しい場所であっても、アンテナ組の所定方向(第1GPSアンテナ21の正面方向)を正確に検出することができる。また、第1GPSアンテナ21及び第2GPSアンテナ31がそれぞれ受信した信号に基づいて適合用信号レベルを取得するので、方位を正確に算出することができる。
【0090】
また、本実施形態の方位検出装置30は、以下のように構成される。即ち、方位算出部55は、フィッティング処理部52によって適合されたフィッティング関数によって算出される算出信号レベルが最も大きいときの方位情報又は最も小さいときの方位情報に基づいてアンテナ組の所定方向の向きを算出する。
【0091】
これにより、算出信号レベルの最大値又は最小値を検出するという簡単な処理によってアンテナ組の向きを算出することができる。
【0092】
また、本実施形態の方位検出装置30においては、関数は、余弦関数を含むように設定される。
【0093】
これにより、360度周期で大きさが周期的に変わる余弦関数によって、方位に応じた信号レベルの変化を適切かつ容易に表現することができる。また、比較的容易な計算処理によって信号レベルを算出できるので、方位を算出するために必要な演算コストを低減することができる。
【0094】
また、本実施形態の方位検出装置30においては、確度算出部54を備える。確度算出部54は、差分データ取得部56により取得した適合用信号レベルと、フィッティング処理部52が適用した関数によって算出された信号レベルと、の差に基づいて方位算出部55によって算出される方位の確度を予め求める。
【0095】
これにより、現実に受信した受信信号レベルに基づく適合用信号レベルと算出信号レベルが比較されることになるので、確度に基づいて方位算出部によって算出される算出結果の信頼性を予め判断することができる。
【0096】
また、本実施形態の方位検出装置30は、以下のように構成される。即ち、確度算出部54は、同じ方位における算出信号レベルと適合用信号レベルとの差を予め設定された閾値と比較することにより、方位算出部55による算出結果の確度を予め求める。
【0097】
これにより、GPSアンテナがGPS衛星1からの信号を良好に受信できず、適合用信号レベルが極端な値をとった場合でも、閾値を適切に設定しておくことで、算出結果が正確でない可能性を考慮した処理を行うことができる。
【0098】
また、本実施形態の方位検出装置30においては、以下のように構成される。即ち、算出信号レベルと適合用信号レベルとの差が閾値を超えた場合には、当該閾値を超えた適合用信号レベルを除外してフィッティング処理部52に関数を再適合させる。
【0099】
これにより、閾値から外れた適合用信号レベルが除外されるので、受信環境が悪い場所でも、方位を正確に算出できる構成を実現することができる。
【0100】
また、本実施形態の方位検出装置30においては、以下のように構成される。即ち、複数のGPSアンテナとして、互いに逆方向の指向性を有する第1アンテナと第2アンテナとを備える。差分データ取得部56は、第1GPSアンテナ21が受信した信号レベルと第2GPSアンテナ31が受信した信号レベルとの差分をとって適合用信号レベルを取得する。
【0101】
これにより、差分をとるというシンプルな処理で、誤差を打ち消した適合用信号レベルを取得することができる。また、互いに逆方向の指向性を有する信号レベルの差分をとるので、適合用信号レベルの変化幅を大きくすることができ、方位算出部55によって算出された方位の信頼度を効果的に向上させることができる。
【0102】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の構成は更に以下のように変更することができる。
【0103】
第2実施形態の解析装置14に構築される確度算出部54は、閾値判定を行った後、フィッティング処理部52にフィッティング処理を再度行わせるように構成されているが、この構成は事情に応じて適宜変更することができる。例えば、確度算出部54が、適合用信号レベルと、フィッティング関数によって算出した信号レベルと、の差の平均値(又は合計値)が一定の閾値を超えた場合に、算出された方位の信頼度が低いと判定するように構成することもできる。また、算出結果の信頼度が低いと判定した場合は、フィッティング処理部52に再処理させることなく、方位を検出する処理を中止し、その旨を結果出力部57に出力させる構成に変更することができる。或いは、方位の算出結果とともに、当該判定結果の確度が低い旨を結果出力部57に表示させる構成に変更することもできる。また、第2実施形態の構成に代えて、確度算出部54が、方位算出部55の検出結果を事後的に判定するように構成することも可能である。このように、確度算出部54の構成は、事情に応じて適宜変更することができる。
【0104】
第1実施形態の方位検出装置10においても、第2実施形態の構成と同様に、解析装置14に確度算出部54を構築することができる。
【0105】
上記実施形態では、指向性を顕著にするために金属製の遮蔽板12を用いているが、信号を減衰させるための遮蔽部材の形状及び材質は事情に応じて適宜変更することができる。また、頭部又は胴部等の人体の一部にアンテナを装着し、人体の一部が遮蔽部材として機能することで、方位を検出するように構成することもできる。このように、遮蔽部材は、電波を減衰させるために利用できるものであればよい。また、遮蔽板部材を省略し、パッチアンテナ自体が有する指向性を利用して方位を検出する構成に変更することもできる。更に、GPS衛星1からの信号を受信するためのGPSアンテナは、所定方向に対する角度に応じて感度が異なる構成であればよく、1方向に指向性を有する構成に限定される訳ではない。なお、何れの場合も、信号を受信するGPSアンテナの特性を反映させるように決定されたフィッティング関数を予め求め、フィッティング関数記憶部53に記憶させておく必要がある。
【0106】
また、GPSアンテナを3つ以上備えるように方位検出装置を構成することもできる。この場合、GPSアンテナの特性が判っていれば、GPSアンテナの数及び配置は、適宜変更することができる。例えば、平面視において、ひし形の頂点に位置するように4つのGPSアンテナを配置する構成とすることもできる。
【0107】
また、フィッティング関数は、式(1)及び式(2)に示した以外の関数を用いることができる。例えば、フィッティング関数にsinθ(正弦関数)を用いることもできる。このように、フィッティング関数は、向きによって信号の感度が異なる特性を有するGPSアンテナの向きと信号レベルとの関係を表現できる関数であれば、適宜の関数を用いることができる。
【0108】
また、上記実施形態では、方位検出を行うためのフィッティング関数は、予備測定によって求められているが、方位検出装置10が、フィッティング関数を導き出すための予備測定を自動的に行う機能を有するように構成することもできる。
【0109】
また、上記実施形態の解析装置14は、汎用のパーソナルコンピュータであるが、方位を検出するための専用のコンピュータに変更することもできる。また、解析装置、GPS受信機及びGPSアンテナを一体的に構成し、可搬性を有するハンディタイプの方位検出装置として構成することもできる。このように、本発明は、様々な形態の構成に適用することが可能である。
【0110】
また、上記実施形態では、GPS衛星1からの信号に基づいてGPSアンテナの方位を検出する構成であるが、GPS以外の全地球測位システム(GNSS)を利用して方位を検出する構成に変更することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 GPS衛星(GNSS衛星)
11 GPSアンテナ(アンテナ)
10 方位検出装置
21 第1GPSアンテナ(第1アンテナ)
30 方位検出装置
31 第2GPSアンテナ(第2アンテナ)
51 衛星データ入力部(入力部)
52 フィッティング処理部(処理部)
53 フィッティング関数記憶部(記憶部)
54 確度算出部
55 方位算出部
56 差分データ取得部(取得部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性を有するアンテナの信号の受信角度と信号レベルとの関係から導き出した関数が予め記憶される記憶部と、
前記アンテナがGNSS衛星から受信した信号に基づいて取得される当該GNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが入力される入力部と、
複数のGNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが前記入力部に入力されたときに、それぞれのGNSS衛星について求められた方位情報と受信信号レベルの関係に前記関数を適合する処理を行う処理部と、
前記処理部により適合された関数によって算出される算出信号レベルの傾向に基づいて前記アンテナの向きを算出する方位算出部と、
を備えることを特徴とする方位検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の方位検出装置であって、
前記方位算出部は、
前記処理部によって適合された関数によって算出される算出信号レベルが最も大きいときの方位情報又は最も小さいときの方位情報に基づいて前記アンテナの向きを算出することを特徴とする方位検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方位検出装置であって、
前記関数は、三角関数を含むことを特徴とする方位検出装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の方位検出装置であって、
前記算出信号レベルと前記受信信号レベルとの差に基づいて前記方位算出部が算出する方位の確度を求める確度算出部を備えることを特徴とする方位検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の方位検出装置であって、
前記確度算出部は、
同じ方位における前記算出信号レベルと前記受信信号レベルとの差を閾値と比較することにより、前記方位算出部による算出結果の確度を求めることを特徴とする方位検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の方位検出装置であって、
前記算出信号レベルと前記受信信号レベルとの差が閾値を超えた場合は、当該閾値を超えた受信信号レベルを除外して前記処理部に関数を再適合させることを特徴とする方位検出装置。
【請求項7】
指向性を有する複数のアンテナが所定の配置関係に従って配置されたアンテナ組の信号の受信角度と信号レベルとの関係から導き出した関数が予め記憶される記憶部と、
前記アンテナがGNSS衛星から受信した信号に基づいて取得される基準位置から見た前記GNSS衛星の方位情報と、それぞれの前記アンテナが受信した信号の受信信号レベルと、が入力される入力部と、
同一のGNSS衛星から前記アンテナごとに受信した信号の受信信号レベルに基づいて当該GNSS衛星の方位に応じた適合用信号レベルを取得する取得部と、
複数のGNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが前記アンテナごとに前記入力部に入力されたときに、それぞれのGNSS衛星について求められた方位情報と前記適合用信号レベルとの関係に前記関数を適合する処理を行う処理部と、
前記処理部により適合された関数によって算出される算出信号レベルの傾向に基づいて前記アンテナ組の向きを算出する方位算出部と、
を備えることを特徴とする方位検出装置。
【請求項8】
請求項7に記載の方位検出装置であって、
前記方位算出部は、
前記処理部によって適合された関数によって算出される算出信号レベルが最も大きいときの方位情報又は最も小さいときの方位情報に基づいて前記アンテナ組の向きを算出することを特徴とする方位検出装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の方位検出装置であって、
前記関数は、三角関数を含むことを特徴とする方位検出装置。
【請求項10】
請求項7から9までの何れか一項に記載の方位検出装置であって、
前記算出信号レベルと前記適合用信号レベルとの差に基づいて前記方位算出部が算出する方位の確度を求める確度算出部を備えることを特徴とする方位検出装置。
【請求項11】
請求項10に記載の方位検出装置であって、
前記確度算出部は、
同じ方位における前記算出信号レベルと前記適合用信号レベルとの差を閾値と比較することにより、前記方位算出部による算出結果の確度を求めることを特徴とする方位検出装置。
【請求項12】
請求項11に記載の方位検出装置であって、
前記算出信号レベルと前記適合用信号レベルとの差が閾値を超えた場合は、当該閾値を超えた適合用信号レベルを除外して前記処理部に関数を再適合させることを特徴とする方位検出装置。
【請求項13】
請求項7から12までの何れか一項に記載の方位検出装置であって、
複数の前記アンテナは、互いに逆方向の指向性を有する第1アンテナと第2アンテナとにより構成されており、
前記取得部は、前記第1アンテナが受信した受信信号レベルと前記第2アンテナが受信した受信信号レベルとの差分をとって適合用信号レベルを取得することを特徴とする方位検出装置。
【請求項14】
指向性を有するアンテナの向きを算出するための方位検出方法において、
前記アンテナの信号の受信角度と信号レベルとの関係から導き出した関数を導き出す第1ステップと、
前記アンテナがGNSS衛星から受信した信号に基づいて取得される当該GNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが入力される第2ステップと、
複数のGNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが入力されたときに、それぞれのGNSS衛星について求められた方位情報と受信信号レベルの関係に前記関数を適合する第3ステップと、
関数に基づいて算出される算出信号レベルの傾向に基づいて前記アンテナの向きを算出する第4ステップと、
を含むことを特徴とする方位検出方法。
【請求項15】
指向性を有する複数のアンテナが所定の配置関係に従って配置されたアンテナ組の向きを算出するための方位検出方法において、
前記アンテナ組の信号の受信角度と信号レベルとの関係から導き出した関数を導き出す第1ステップと、
前記アンテナがGNSS衛星から受信した信号に基づいて取得される基準位置から見た前記GNSS衛星の方位情報と、それぞれの前記アンテナが受信した信号の受信信号レベルと、が入力される第2ステップと、
同一のGNSS衛星から前記アンテナごとに受信した信号の受信信号レベルに基づいて当該GNSS衛星の方位に応じた適合用信号レベルを取得する第3ステップと、
複数のGNSS衛星の方位情報及び受信信号レベルが前記アンテナごとに入力されたときに、それぞれのGNSS衛星について求められた方位情報と前記適合用信号レベルとの関係に前記関数を適合する第4ステップと、
適合された関数によって算出される算出信号レベルの傾向に基づいて前記アンテナ組の向きを算出する第5ステップと、
を含むことを特徴とする方位検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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