説明

方向性結合器及び送受信機

【課題】被覆導体の巻回ばらつきを低減した方向器性結合器及び送受信機とを提供する。
【解決手段】方向性結合器100は、単一の環状コア25と、この単一の環状コアに同一の2本の被覆導体を同一方向に巻回した被覆導体対3と、この被覆導体対の中心点15、16を相互に接続した一つのキャパシタ24とを備え、このキャパシタは、被覆導体対と共に単一の環状コアの表面に装着されている。そして、被覆導体対の中心点から一端までの長さと環状コアへの巻数と、中心点から他端までの長さと環状コアへの巻数とが同一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性結合器及び送受信機に関し、特に13.56MHz帯のRFID(Radio Frequency IDentification)リーダライタで使用される方向性結合器及び送受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にRFIDシステムは、乗車カード、電子マネー、社員証、セキュリティロック等に広く用いられており、アンテナ付の非接触ICチップから成るRFIDタグとRFIDリーダライタとの組み合わせで構成される。そして、RFIDリーダライタは、無線通信を用いて、非接触で外部からRFIDタグに電力を供給し、RFIDタグの情報を読み書きするように構成されている。
【0003】
ここで、RFIDリーダライタには、RFIDタグに対する送信信号と受信信号とを分離するために、共振回路部と無線送信部と無線受信部を一つの方向性結合器で結合した構成が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、前記方向性結合器は高い周波数の場合、小型化の観点からマイクロストリップライン型のものが用いられるが、低い周波数になると波長が長くなり、マイクロストリップライン型のものでは方向性結合器の占有面積が広くなってしまい、事実上適さない。そこで低い周波数帯では、構成材料を選択する自由度の高いインダクタやキャパシタで構成される方向性結合器が使用されている(特許文献2参照)。
【0005】
この特許文献2の図2及び図7に開示されている方向性結合器では、インダクタやキャパシタ等の受動部品を基板上に実装して構成されている。しかしながら、方向性結合器の特性は、これら受動部品の特性ばらつきの影響により、変化しやすく、特に、インダクタを基板に実装した場合、複数のインダクタのばらつきによりインダクタンスが変化し、方向性結合器の特性に影響を与えてしまう。
【0006】
しかしながら、方向性結合器として要求される諸特性、すなわち、結合量、挿入損失及び漏洩量等の特性を満足させるためには、各構成部品の特性の均一化、構成部品間の配線長の低減化及び方向性結合器の小型化が要求される。
【特許文献1】特開2004−206245号公報
【特許文献2】特開平08−78916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、インダクタ及びキャパシタにより構成される方向性結合器は、インダクタとしてコアを用いたインダクタが採用される。また、キャパシタは、基板に実装される。そして、インダクタとキャパシタとが配線され方向性結合器が構成される。
【0008】
前記のように、従来の方向性結合器を構成した場合には、基板上に実装された受動部品は受動部品相互間の配線長のばらつきにより特性が変化しやすい。また、インダクタは被覆導体の長さや、基板に実装したときの周囲の部品間との接続配線の影響等によってインダクタンスの値が変化するため、方向性結合器の特性に悪影響を与えてしまうという課題を有していた。
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、被覆導体の巻回ばらつきを低減した方向器性結合器及び送受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明の一の方向性結合器は、単一の環状コアと、前記単一の環状コアに同一の2本の被覆導体を同一方向に巻回した被覆導体対と、前記被覆導体対の中心点を相互に接続した一つのキャパシタとを備え、前記キャパシタは、前記被覆導体対と共に前記単一の環状コアの表面に装着されていることを特徴とする。
【0011】
このようにすることで、直列接続された2つのインダクタの接続点と、他の直列接続された2つのインダクタの接続点との間にキャパシタが接続される。そして、これらが単一の環状コアに巻回されることにより、被覆導体の巻回ばらつきを低減した方向性結合器を具現することができる。
【0012】
そして、この方向性結合器において、前記被覆導体対の前記中心点から一端までの長さと前記環状コアへの巻数と、前記中心点から他端までの長さと前記環状コアへの巻数とが同一であることを好適とする。
【0013】
また、この方向性結合器において、前記2本の被覆導体は、撚り線対を構成していることを好適とする。
【0014】
さらに、この方向性結合器においては、前記撚り線対の前記中心点から一端までの長さと前記環状コアへの巻数と、前記中心点から他端までの長さと前記環状コアへの巻数とが同一であることを好適とする。
【0015】
また、前記目的を達成するために本発明の他の方向性結合器は、第1インダクタ及び第2インダクタが直列接続された第1インダクタ対と、第3インダクタ及び第4インダクタが直列接続された第2インダクタ対と、前記第1インダクタ対の接続点と、前記第2インダクタ対の接続点との間に接続された一つのキャパシタとを備えて構成された方向性結合器であって、前記第1インダクタ、前記第2インダクタ、前記第3インダクタ、及び前記第4インダクタは、それぞれ同一の被覆導体が単一の環状コアに同一巻数で同一方向に巻回されて前記キャパシタと共に構成されていることを特徴とする。
【0016】
このようにすることで、被覆導体の巻回ばらつきを低減した方向性結合器を具現することができる。
【0017】
そして、この方向性結合器において、前記第1インダクタの被覆導体と前記第3インダクタの被覆導体とは撚り線対を構成し、前記第2インダクタの被覆導体と前記第4インダクタの被覆導体とは他の撚り線対を構成していることを好適とする。
【0018】
また、本発明の方向性結合器における前記環状コアは、環状フェライトコアであることを好適とする。
【0019】
また、前記目的を達成するために本発明の送受信機は、本発明の前記方向性結合器を備えたことを特徴とする。
【0020】
このようにすることで、被覆導体の巻回ばらつきを低減した方向性結合器を備えた送受信機を具現することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被覆導体の巻回ばらつきを低減した方向器性結合器及び送受信機を提供することが可能となる。すなわち、被覆導体を環状コアに巻回することで個別のインダクタ部品を用いることなく同一特性の複数インダクタを同時に形成でき、一つのキャパシタと接続して一体化した方向性結合器を具現できる。そして、特性ばらつきの少ない、部品点数の少ない、調整の容易な小型化された方向器性結合器及び送受信機を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
図1乃至図3を参照して、本発明の第1の実施形態の方向性結合器100の構成を説明する。図1は、第1の実施形態の方向性結合器100の外観斜視図であり、図2は、その側面図である。そして、図3は、この方向性結合器100の構成要素である被覆導体対3とキャパシタ24との結線図である。
【0023】
この方向性結合器100は、一つのトロイダルコア(環状コア)25に巻回した被覆導体対3と、その被覆導体対3の対となる被覆導体1の中心点E15と被覆導体2の中心点F16とを相互に接続した一つのキャパシタ24とを備えて構成されている(図1及び図3)。ここで、キャパシタ24のサイズは、好適には、少なくともトロイダルコア(環状コア)の幅以内のサイズのキャパシタを用いる。
【0024】
すなわち、被覆導体対3は、図3に示すように、一方の端点A11から他方の端点B12までの長さからなる被覆導体1と、一方の端点C13から他方の端点D14までの長さからなる被覆導体2とを対(ペア:pair)に配置し、かつ2つの被覆導体1及び被覆導体2の長さが等しくなるようにして構成されている。そして、被覆導体1の一方の端点A11から他方の端点B12までの長さの中心点E15と、被覆導体2の一方の端点C13から他方の端点D14までの長さの中心点F16とは、それぞれ接続点として、一つのキャパシタ24に接続されている。このように構成された被覆導体対3を一つのトロイダルコア(環状コア)25に巻回することにより方向性結合器100が構成される(図1及び図2)。
【0025】
このとき、被覆導体1の中心点E15から一方の端点A11までのトロイダルコア(環状コア)25への巻数と、被覆導体1の中心点E15から他方の端点B12までのトロイダルコア(環状コア)25への巻数とは同一とする(図1及び図2では巻数はそれぞれ1回である場合を示している。)。同様に、被覆導体1と対となる被覆導体2の中心点F16から一方の端点C13までの巻数と、中心点F16から他方の端点D14までのトロイダルコア(環状コア)25への巻数とは同一とする。
【0026】
このようにすることで、被覆導体1の中心点E15から一方の端点A11までの被覆導体部分、中心点E15から他方の端点B12までの被覆導体部分、被覆導体2の中心点F16から一方の端点C13までの被覆導体部分、及び、中心点F16から他方の端点D14までの被覆導体部分の4つの被覆導体部分がそれぞれ同じ巻数で一つのトロイダルコア(環状コア)25に巻回され、一つのキャパシタ24と共に一体化された構成の方向性結合器が得られる。
【0027】
これにより、トロイダルコア(環状コア)25を媒介として、以下の4つの被覆導体部分でインダクタが形成される。すなわち、被覆導体1の中心点E15から一方の端点A11までの被覆導体部分、被覆導体1の中心点E15から他方の端点B12までの被覆導体部分、被覆導体2の中心点F16から一方の端点C13までの被覆導体部分、及び、被覆導体2の中心点F16から他方の端点D14までの被覆導体部分である。
【0028】
ここで、それぞれの被覆導体部分によって形成されるインダクタを以下のように対応付ける。すなわち、図4に示す送受信機30の等価回路に示すように、被覆導体1の中心点E15から一方の端点A11までの被覆導体部分によって形成されるインダクタを第1インダクタ20に対応付け、被覆導体2の中心点F16から一方の端点C13までの被覆導体部分によって形成されるインダクタを第3インダクタ21に対応付け、被覆導体1の中心点E15から他方の端点B12までの被覆導体部分によって形成されるインダクタを第2インダクタ22に対応付け、そして、被覆導体2の中心点F16から他方の端点D14までの被覆導体部分によって形成されるインダクタを第4インダクタ23に対応付ける。
【0029】
このとき、生成される第1インダクタ20、第3インダクタ21、第2インダクタ22、及び、第4インダクタ23のインダクタンスは、被覆導体対3の線材径、トロイダルコア(環状コア)への巻数、及び、トロイダルコア(環状コア)25の特性によって決定される。また、第1インダクタ20、第3インダクタ21、第2インダクタ22、及び、第4インダクタ23は、前記のように共に形成条件を共有するため、ほほ均等なインダクタンスを有することになる。
【0030】
前記のように、方向性結合器100の構成部品としては、図1乃至図3に示すように被覆導体対3、キャパシタ24、及び、1つのトロイダルコア(環状コア)25だけであるが、図4の送受信機30の等価回路で示すように、この構成で4個の均等なインダクタンスを有する第1インダクタ20乃至第4インダクタ23とを自己生成して4端子LC回路が構成される。このことが本実施形態による方向性結合器100の特徴の1つである。そして、この4端子LC回路の端点A11、端点B12、端点C13及び端点D14は、それぞれ送受信機30の送信部31、アンテナ33、終端抵抗32及び受信部34に接続される。
【0031】
これら4つの第1インダクタ20乃至第4インダクタ23と1つのキャパシタ24とから構成される本実施形態の方向性結合器100を有する送受信機30の動作を図5を参照して説明する。
【0032】
この方向性結合器100は、第1インダクタ20乃至第4インダクタ23のそれぞれのインダクタンスがほぼ均等である対称形をしており、端点A11から信号を入力したときの特性と、端点B12から信号を入力したときの特性が同じとなる可逆性をもつ。すなわち、本回路では、第1インダクタ20乃至第4インダクタ23は、図5に示すように、コイルに電流を流すと黒丸の方向に逆起電力が発生するように巻回されている。
【0033】
このため、端点A11から高周波信号を入力した場合、端点A11から第1インダクタ20及び第2インダクタ22を介して端点B12に向かう電流IFと、端点A11から第1インダクタ20、キャパシタ24、及び第3インダクタ21を介して端点C13に向かう電流ITとが流れる。このとき、第1インダクタ20と第2インダクタ22との逆起電力は同相となり、第1インダクタ20と第3インダクタ21との電流は逆相となる。
【0034】
第1インダクタ20と第3インダクタ21との結合が密であるとき、第1インダクタ20は、逆相電流による逆起電力が相互誘導(相互インダクタンス:M)により打ち消され、端点A11から端点B12に向かう電流による逆起電力のみが発生する。また、第3インダクタ21は、逆相電流により、打ち消され、逆起電力が発生しない。このため、第1インダクタ20とキャパシタ24とで直列共振回路が形成され、端点A11にある角周波数の信号は、端点C13の終端抵抗13で終端されると同時に、端点B12に信号が出力される。
一方、受信部34に対しては、第4インダクタ23には電流IFと同相の誘導電流が流れるので、高インピーダンスとなり、端点A11にある角周波数の信号は、ほとんど出力されない。
【0035】
また、端点B12から高周波信号を入力した場合は前記とは対称的に、第2インダクタ22と第1インダクタ20との逆起電力は同相となる一方、第2インダクタ22と第4インダクタ23との電流IRは逆相となる。このとき、端点A11のインピーダンスが高ければ、端点B12にある角周波数の信号を入力すると、端点A11には信号が出力されずに、キャパシタ24を通過した信号が端点D14へ出力される。また、端点C13へは第3インダクタ21のインピーダンスが高くなるため、ほとんど出力されない。
【0036】
ここで、端点A11からの入力信号に対する端点C13での信号レベルを結合量と呼び、端点A11からの入力信号に対する端点B12での信号レベルを挿入損失と呼び、端点A11からの入力信号に対する端点D14での信号レベルを漏洩量と呼ぶことにする。被覆導体対3の線材の径、キャパシタ24のキャパシタンス、及び、トロイダルコア(環状コア)25の特性を適切に選択することで、所望の周波数(ここでは13.5MHz)において、結合量、挿入損失に比べて漏洩量を充分に小さな値とする良好な方向性結合特性を得ることができる。
【0037】
いま、使用した部品の諸特性を次のように選ぶ。
キャパシタ24・・・キャパシタンス:82pF
被覆導体対3(被覆導体1、2)・・・線径:0.26mmφ
トロイダルコア(環状コア)25とコイル巻数・・・
初透磁率μi:150(@13.5MHz)
相対損失係数tanδ/μi:1.4×10-4(@13.5MHz)
外径:5.8mm、内径:3.0mm、厚さ:1.5mm
コイル巻数:キャパシタ24を中心として各端点まで1ターン
【0038】
これらの条件からインダクタ20、21、22、23のインダクタンスLは、
L=μiSN2/l (1)
で与えられる。ここで、Sはコアの断面積、Nはコイル巻数(ここでは1ターンとする)、そして、lはコアの実効中心軸の円周である。前記条件から、インダクタンスの値は、
L=2.172×10-5[H]
となる。
【0039】
この場合の本実施形態での端点A11から入力される0〜45MHzまでの周波数成分の周波数を横軸(単位:MHz)に、その周波数における信号レベル(dB)を縦軸として、前記結合量、挿入損失及び漏洩量を測定した特性図を図6乃至図8に示す。なお、各図には、入力される入力信号レベルの参照信号として端点A11から信号を入力した場合の端点A11における反射レベルも参考測定値として示した。
【0040】
図6乃至図8を参照して周波数13.5MHzにおける結合量、挿入損失及び漏洩量の特性の信号レベルを比較すると、
結合量:−9dB
挿入損失:−0.8dB
漏洩量:−53dB
となり、端点C13と、端点D14との間のアイソレーションは
アイソレーション:−9dB−(−53dB)=44dB
となる。
よって、端点A11から入力された信号は、−0.8dBの損失で端点B12に出力されると共に、−9dBの損失を持って端点C13に出力されるが、端点D14には−53dBのレベルでしか出力されないことが分かる。
この回路は、可逆的であるので、端点B12から信号を入力した場合でも、−0.8dBの損失で端点A11に出力され、−9dBの損失を持って端点D14に出力されるが、端点C13には−53dBのレベルでしか出力されないことになる。
【0041】
ここで、図4において、送信部31に対応する端点A11からRFIDタグに対する送信信号を入力し、端点B12からアンテナ33を介してRFIDタグに送信すると共に、アンテナ33に対応する端点B12からRFIDタグからの受信信号を入力して端点D14に接続される受信部34で受信する場合を考える。なお、端点C13には終端抵抗32が接続されている。
【0042】
端点D14に接続される受信部34は、入力電力に対して最大許容限界を有する。このため、大電力である送信部31の送信出力を損失の大きな結合器を介して受信部34と接続することが必要になる。しかし、結合器の損失は受信部34からの受信信号の損失となるため、13.5MHz帯を用いるRFIDタグからの微少信号の受信が困難になる結果を生じる。そこで、結合器に方向性を持たせ、送信部31からの送信信号は充分減衰して受信部34に送られるようにすることで、アンテナ33から受信部34への受信信号の結合損失を増加させることなく、送信部31からの送信出力を増大させることができる。
【0043】
このように、本実施形態によれば、1つのキャパシタと、4つの均等な被覆導体部分と、1つのトロイダルコア(環状コア)とにより4端子LC回路からなる方向性結合器を構成しているため、使用部品の点数が少ない。これにより、結合器に方向性を持たせ、RFIDリーダライタからの送信信号とRFIDタグからの受信信号を分離し、受信部の入力信号を最大許容限界内に抑えることができ、小型の方向性結合器及び送受信機を容易に実現することができる。さらに、部品点数が少ないため、製造が容易で、実装面積が少なく、小型廉価に製造でき、大量生産した場合の品質のばらつきが少ない等の利点も有する。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、図9乃至図11を参照して、本発明の第2の実施形態の方向性結合器200の構成を説明する。図9は、第2の実施形態の方向性結合器200の外観斜視図であり、図10は、その側面図である。そして、図11は、この方向性結合器200の構成要素である被覆導体対(撚り線対)4とキャパシタ24との結線図である。
【0045】
この実施形態が前記第1の実施形態と異なっている点は、被覆導体対(撚り線対)4として、撚り線対(ツイストペア:twisted pair)を用いていることである。図11及び図3を参照してに示すと、被覆導体対(撚り線対)4を形成する被覆導体部分は、一方の撚り線対は、中心点E15から端点A11までの被覆導体1の部分と中心点F16から端点C13までの被覆導体2の部分であり、他方の撚り線対は、中心点E15から端点B12までの被覆導体1の部分と中心点F16から端点D14までの被覆導体2の部分とがそれぞれ撚り線対を形成した形態である。
【0046】
図9乃至図11に示すように、実際に撚り線対を作製する場合は、キャパシタ24との接続点である中心点15及び中心点16と、撚り線対が始まる部分とは、第1の実施形態と比べて、離間しているが、方向性結合器としての電気的特性に変化はない。むしろ、撚り線対を構成するインダクタ同士、第1インダクタ20と第3インダクタ21との結合と、第2インダクタ22と第4インダクタ23との結合が密になり、方向性結合器の結合分離特性を向上させる効果を有する。また、外部の磁界によって誘起される電圧が撚りによって反転されて打ち消し合うので、誘導や漏話が低減される等の利点がある。
【0047】
(変形例)
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、数1の式に示されるように、被覆導体対のトロイダルコア(環状コア)への巻数を増減することでインダクタのインダクタンスを自由に変えることができるので、容易に周波数特性を変更することができる。
【0048】
図12に、異なった巻き数についての被覆導体対3のトロイダルコア(環状コア)25への巻数と、キャパシタ24の取り付け位置とを示した。被覆導体対3の巻数に応じて、方向性結合器の4つのインダクタのインダクタンスを均等にして対称性を確保するために、キャパシタ24の取り付け位置をトロイダルコア(環状コア)25の内周表面に設けることも可能である(図12における(a)、(b)、(e)、(f)の場合)。
【0049】
(比較例)
この比較例は、具体的には、背景技術の説明において記載したように、被覆導体を複数(2つ以上)の環状コアに巻回したインダクタやキャパシタを基板上に実装して構成する場合が該当する。方向性結合器の特性は、これらの特性ばらつきの影響により、変化しやすく、特に、インダクタを基板に実装した場合、その被覆導体の長さや環状コアの特性のばらつきによってインダクタのインダクタンスが変化し、方向性結合器の特性に影響を与えてしまう。結果的に、送受信機の特性を得ることができない事態になってしまう。
【0050】
たとえば、図13を参照して説明すると、第1インダクタ20aと第2インダクタ22aとが均等でなく、第3インダクタ21aと第4インダクタ23aとが均等でなかった場合は、送信部31からの送信信号とアンテナ33からの受信信号とにおいて減衰特性に違いが生じることになる。この場合、送信部31とアンテナ33との間でのアンテナ33への送信信号Aの挿入損失Aとアンテナ33から送信部31への受信信号Bの挿入損失Bの対称性が失われる。また、送信部31と終端抵抗32との間での送信部31から終端抵抗32に対する送信信号Aの結合量Aとアンテナ33と受信部34との間でのアンテナ33に対する受信信号Bの結合量Bとの対称性が失われる。さらに、送信部Aから受信部34への漏洩量Aとアンテナ33から終端抵抗32への漏洩量Bとの対称性が失われる。
【0051】
すなわち、方向性結合器としての対称性が失われることになる。その結果、送信部31からの送信信号の送信出力を最大化できず、また、受信部34及びこれに続く方向性結合器以後の信号処理部において,必要とされる信号レベルの受信信号を得ることができない事態が発生することになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の方向性結合器の第1の実施形態の外観斜視図である。
【図2】第1の実施形態の方向性結合器の側面図である。
【図3】第1の実施形態の方向性結合器の構成要素である被覆導体対とキャパシタとの結線図である。
【図4】本発明の方向性結合器を備えた送受信機の第1の実施形態の等価回路図である。
【図5】本発明の方向性結合器を備えた送受信機の第1の実施形態の等価回路の動作を説明するための図である。
【図6】第1の実施形態の方向性結合器の結合量特性を示す図である。
【図7】第1の実施形態の方向性結合器の挿入損失特性を示す図である。
【図8】第1の実施形態の方向性結合器の漏洩量特性を示す図である。
【図9】本発明の方向性結合器の第2の実施形態の外観斜視図である。
【図10】第2の実施形態の方向性結合器の側面図である。
【図11】第2の実施形態の方向性結合器の構成要素である被覆導体対とキャパシタとの結線図である。
【図12】本発明の実施形態の方向性結合器の変形例を示す説明図である。
【図13】本発明の実施形態の比較例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1、2被覆導体
3 被覆導体対
4 被覆導体対(撚り線対)
11 端点A
12 端点B
13 端点C
14 端点D
15 中心点E
16 中心点F
20、20a 第1インダクタ
21、21a 第3インダクタ
22、22a 第2インダクタ
23、23a 第4インダクタ
24 キャパシタ
25 トロイダルコア(環状コア)
30 送受信機
31 送信部
32 終端抵抗
33 アンテナ
34 受信部
100、200 方向性結合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の環状コアと、
前記単一の環状コアに同一の2本の被覆導体を同一方向に巻回した被覆導体対と、
前記被覆導体対の中心点を相互に接続した一つのキャパシタとを備え、
前記キャパシタは、前記被覆導体対と共に前記単一の環状コアの表面に装着されている
ことを特徴とする方向性結合器。
【請求項2】
前記被覆導体対の前記中心点から一端までの長さと前記環状コアへの巻数と、前記中心点から他端までの長さと前記環状コアへの巻数とが同一であることを特徴とする請求項1に記載の方向性結合器。
【請求項3】
前記2本の被覆導体は、撚り線対を構成していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方向性結合器。
【請求項4】
前記撚り線対の前記中心点から一端までの長さと前記環状コアへの巻数と、前記中心点から他端までの長さと前記環状コアへの巻数とが同一であることを特徴とする請求項3に記載の方向性結合器。
【請求項5】
第1インダクタ及び第2インダクタが直列接続された第1インダクタ対と、
第3インダクタ及び第4インダクタが直列接続された第2インダクタ対と、
前記第1インダクタ対の接続点と、前記第2インダクタ対の接続点との間に接続された一つのキャパシタとを備えて構成された方向性結合器であって、
前記第1インダクタ、前記第2インダクタ、前記第3インダクタ、及び前記第4インダクタは、それぞれ同一の被覆導体が単一の環状コアに同一巻数で同一方向に巻回されて前記キャパシタと共に構成されていることを特徴とする方向性結合器。
【請求項6】
前記第1インダクタの被覆導体と前記第3インダクタの被覆導体とは撚り線対を構成し、前記第2インダクタの被覆導体と前記第4インダクタの被覆導体とは他の撚り線対を構成していることを特徴とする請求項5に記載の方向性結合器。
【請求項7】
前記環状コアは、環状フェライトコアであることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の方向性結合器。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の方向性結合器を備えたことを特徴とする送受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−81185(P2010−81185A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245696(P2008−245696)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】