説明

方法及び該方法で使用するためのイメージング媒体

本発明は、過分極13C−酢酸塩を含むイメージング媒体を用いる13C−MR検出方法及び過分極13C−酢酸塩を含むイメージング媒体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過分極13C−酢酸塩を含むイメージング媒体を用いる13C−MR検出方法及び過分極13C−酢酸塩を含むイメージング媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴(MR)イメージング(MRI)は、非侵襲的にかつ患者及び医療従事者を潜在的に有害な放射線(例えばX線)に暴露することなく患者の身体又はその一部の画像を得ることができるので、医師にとって特に魅力的な技法となっている。高画質の画像並びに良好な空間的及び時間的分解能が得られるので、MRIは軟組織及び器官のイメージングのために好ましいイメージング技法である。
【0003】
MRIは、MR造影剤を使用しても使用しなくても実施できる。しかし、コントラスト増強MRIでは、通常ははるかに微小な組織変化の検出が可能となり、したがってそれは例えば微小な腫瘍や転移のような初期組織変化を検出するための強力なツールとなる。
【0004】
MRIでは、数種類の造影剤が使用されてきた。水溶性の常磁性金属キレート剤(例えば、Omniscan(商標)(GE Healthcare社)のようなガドリニウムキレート剤)は、広く使用されているMR造影剤である。これらは、低分子量であるため、血管系に投与した場合に細胞外スペース(即ち、血液及び間質組織)中に急速に分布する。これらはまた、比較的速やかに体外に排出される。
【0005】
他方、血液プールMR造影剤(例えば、超常磁性酸化鉄粒子)は、長時間にわたって血管系内に保持される。これらは、肝臓内のコントラストを高めるばかりでなく、毛細血管の透過性異常(例えば、腫瘍血管形成の結果として生じる腫瘍中の「漏出性」毛細血管壁)を検出するためにも極めて有用であることが判明している。
【0006】
国際公開第99/35508号には、高T1剤の過分極溶液をMRI造影剤として使用する患者のMR検査方法が開示されている。「過分極」という用語は、高T1剤中に存在するNMR活性核(即ち、非ゼロ核スピンを有する核、好ましくは13C−又は15N−核)の核分極を増強させることを意味する。NMR活性核の核分極を増強させると、これらの核の励起核スピン状態と基底核スピン状態との母集団差が顕著に増加し、それによってMR信号強度が100倍以上に増幅される。過分極した13C及び/又は15N濃縮高T1剤を使用する場合、13C及び/又は15Nの天然存在比は無視できるほどに低いのでバックグラウンド信号からの干渉は本質的に存在せず、したがって画像コントラストは有利に高くなる。通常のMRI造影剤とこれらの過分極高T1剤との主な相違点は、前者ではコントラストの差が体内の水プロトンの緩和時間に影響を及ぼすことで誘起されるのに対し、後者の種類の薬剤は得られる信号がもっぱら薬剤に由来しているので非放射性トレーサーと見なし得ることである。
【0007】
国際公開第99/35508号には、非内因性化合物及び内因性化合物を含め、MRイメージング剤として使用可能な各種の高T1剤が開示されている。後者の例として、正常な代謝サイクル中の中間体が挙げられ、これらは代謝活性のイメージングのために好ましいと述べられている。代謝活性のインビボイメージングにより、組織の代謝状態に関する情報を得ることができ、前記情報は例えば健常組織と罹患組織とを識別するために使用できる。
【0008】
例えば、ピルビン酸塩はクエン酸回路中で役割を果たす化合物であり、過分極13C−ピルビン酸塩からその代謝産物である過分極13C−乳酸塩、過分極13C−重炭酸塩及び過分極13C−アラニンへの転化は人体内における代謝過程のインビボMR研究のために使用できる。過分極13C−ピルビン酸塩は、例えば、国際公開第2006/011810号に詳述されているようなインビボ腫瘍イメージングのためのMRイメージング剤、及び国際公開第2006/054903号に詳述されているようにMRイメージングで心筋組織の生存度を評価するためのMRイメージング剤として使用できる。
【0009】
過分極13C−ピルビン酸塩からその代謝産物である過分極13C−乳酸塩、過分極13C−重炭酸塩及び過分極13C−アラニンへの代謝転化は、出発化合物(即ち、過分極131−ピルビン酸塩)及びその代謝産物からの信号検出を可能にするのに十分速いことが判明しているので、人体内における代謝過程のインビボMR研究のために使用できる。アラニン、重炭酸塩及び乳酸塩の量は、検査対象である組織の代謝状態に依存する。過分極13C−乳酸塩、過分極13C−重炭酸塩及び過分極13C−アラニンのMR信号強度は、これらの化合物の量及び検出時における分極の残存率に関係しているので、過分極13C−ピルビン酸塩から過分極13C−乳酸塩、過分極13C−重炭酸塩及び過分極13C−アラニンへの転化をモニターすることにより、非侵襲的なMRイメージング又はMR分光法を用いることでヒト又はヒト以外の動物の体内における代謝過程をインビボで調べることが可能である。
【0010】
様々なピルビン酸塩代謝産物に由来するMR信号振幅は、組織の種類に応じて変化する。アラニン、乳酸塩、重炭酸塩及びピルビン酸塩によって形成される特有の代謝ピークパターンは、検査対象である組織の代謝状態に関するフィンガープリントとして使用できる。
【0011】
しかし、インビボイメージング剤として好適な過分極13C−ピルビン酸塩の製造には問題がないわけではない。過分極13C−ピルビン酸塩は、好ましくは、国際公開第2006/011809号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に詳述されているような13C−ピルビン酸又は13C−ピルビン酸塩の動的核分極(DNP)によって得られる。
【0012】
13C−ピルビン酸は凍結/冷却時に結晶化しないので、13C−ピルビン酸の使用は分極プロセスを簡略化する(結晶化は低い動的核分極しかもたらさないか或いは分極を全くもたらさない)。その結果、DNPプロセス用の組成物を調製するために溶媒及び/又はガラス形成剤は不要であり、したがって高度に濃縮された13C−ピルビン酸試料を使用することができる。しかし、そのpHは低いので、強酸中で安定なDNP剤を使用する必要がある。さらに、分極後の固体過分極13C−ピルビン酸を溶解して13C−ピルビン酸塩に転化させるために強塩基が必要である。強ピルビン酸及び強塩基はいずれも、化合物が接触する材料(例えば、溶解媒質溜め、チューブなど)の注意深い選択を要求する。
【0013】
別法として、13C−ピルビン酸塩をDNPプロセスで使用することもできる。残念ながら、13C−ピルビン酸ナトリウムは凍結/冷却時に結晶化し、そのためにガラス形成剤を添加することが必要である。過分極13C−ピルビン酸塩をインビボイメージング剤として使用する予定であれば、ピルビン酸塩及びガラス形成剤を含む組成物中のピルビン酸塩濃度は好ましくない程度に低い。その上、インビボでの使用のためにはガラス形成剤を除去することも必要である。
【0014】
したがって、DNPのために使用できる好ましい塩は、国際公開第2007/111515号に詳述されているように、NH4+、K+、Rb+、Cs+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群からの無機陽イオン、好ましくはNH4+、K+、Rb+又はCs+、さらに好ましくはK+、Rb+又はCs+、最も好ましくはCs+を含む13C−ピルビン酸塩である。これらの塩の多くは商業的に入手できず、別途に合成する必要がある。さらに、過分極13C−ピルビン酸塩をインビボMRイメージングで使用するならば、NH4+、K+、Rb+、Cs+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群からの無機陽イオンを、Na+又はメグルミンのような生理学的許容性が非常に高い陽イオンと交換することが好ましい。したがって、固体過分極13C−ピルビン酸塩の溶解後に追加の段階が必要となり、その間に分極が減衰する。
【0015】
他の好ましい塩は、国際公開第2007/069909号に詳述されているように、有機アミン又はアミノ化合物の13C−ピルビン酸塩(好ましくは、TRIS−131−ピルベート又はメグルミン−131−ピルベート)である。これらの塩もまた、別途に合成する必要がある。
【0016】
したがって、代謝活性に関する情報を得るために使用できる代わりの過分極イメージング剤に対するニーズが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第99/35508号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/011810号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/054903号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2006/011809号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2007/111515号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2007/069909号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2007/064226号パンフレット
【特許文献8】国際公開第92/01937号パンフレット
【特許文献9】国際公開第2008/086534号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2007/134160号パンフレット
【特許文献11】国際公開第2008/026937号パンフレット
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Szczepaniak Lidia et al: Magnetic Resonance in medicine, Vol.36, No.3, 1996, pp.451-457
【非特許文献2】R.R. Ramsey and V.A. Zammit: Molecular Aspects of Medicine, Vol.25, 2004, pp.475-493
【非特許文献3】P.R. Jensen et al: Proc. Intl. Mag. Reson. Med., Vol.16, 2008, p.892
【発明の概要】
【0019】
我々はこのたび、過分極13C−酢酸塩がかかるイメージング剤として使用できることを見出した。
【0020】
13C−酢酸ナトリウムは、冷却/凍結時に結晶化しないので、DNP用として直接使用できる商業的に入手可能な化合物である。これは試料中にガラス形成剤及び/又は多量の溶媒を使用する必要性を排除するので、高度に濃縮された試料を調製してDNPプロセスで使用することができる。また、13C−酢酸ナトリウム試料はわずかに塩基性であり、したがって各種のDNP剤が使用できる。酢酸塩は非常に許容性が高い内因性化合物であり、過分極13C−酢酸塩をイメージング剤として使用することは安全性の観点から有利である。
【0021】
ピルビン酸塩に比べ、酢酸塩は前者と異なる代謝経路を洞察するために使用できる。かくして、酢酸塩を使用すれば、脂肪酸のエネルギー代謝に関する情報及び解糖を研究するための情報を得ることができる。この情報を使用すれば、ピルビン酸塩を用いて同定できる病態以外の病態を同定することができる。別法として、この情報をピルビン酸塩を用いて得られる情報と組み合わせることで、疾患を早期に及び/又は一層正確に同定するために役立てることができる。
【0022】
かくして第1の態様では、本発明は、過分極13C−酢酸塩を含むイメージング媒体を用いる13C−MR検出方法であって、13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号を検出する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、131−酢酸塩及び131−アセチルカルニチン信号の経時的な増加及び減衰を示している。データはマウス心臓の上方に配置された表面コイルを用いて収集した。
【図2】図2は、過分極131−酢酸塩の静脈内注射から10秒後に測定した131−酢酸塩、131−アセチル−CoA及び131−アセチルカルニチンの信号強度を示している。データはマウス心臓の上方に配置された表面コイルを用いて収集した。
【図3】図3は、それぞれの器官の上方に配置された表面コイルを用いてマウスの心臓及び肝臓で測定した131−アセチルカルニチンと131−アセチル−CoAとの比を示している。
【図4】図4は、30秒の阻血期間前、阻血期間から5分後、及び阻血期間から1時間後にマウスの後肢で測定した131−アセチルカルニチンと131−酢酸塩との比を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号が検出される」という用語は、本発明の方法では、13C−アセチルカルニチンの信号のみが検出されるか、或いは13C−アセチルカルニチン及び13C−アセチル−CoAの信号が検出されるか、或いは13C−アセチルカルニチン及び13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号が検出されることを意味する。
【0025】
13C−MR検出」という用語は、13C−MRイメージング又は13C−MR分光法或いは13C−MRイメージングと13C−MR分光法の組合せ(即ち、13C−MR分光イメージング)を意味する。この用語はさらに、様々な時点における13C−MR分光イメージングも意味する。
【0026】
「イメージング媒体」という用語は、MR活性剤(即ち、イメージング剤)として過分極13C−酢酸塩を含む液体組成物を意味する。
【0027】
本発明の方法で使用するイメージング媒体は、インビボ13C−MR検出(即ち、ヒト又はヒト以外の動物の生体内での13C−MR検出)用のイメージング媒体として使用できる。さらに、本発明の方法で使用するイメージング媒体は、例えば、いずれもヒト又はヒト以外の動物の身体から導かれる細胞培養物、試料(例えば尿、唾液又は血液)、エクスビボ組織(例えば、生検で得られるエクスビボ組織)又は単離器官に関するインビトロ13C−MR検出用のイメージング媒体としても使用できる。
【0028】
13C−酢酸塩」という用語は、13Cで同位体濃縮された(即ち、13C同位体の量がそれの天然存在比より多い)13C−酢酸の塩を意味する。特記しない限り、「13C−酢酸塩」及び「13C−酢酸」という用語は、分子中に存在する2つの炭素原子のいずれかの位置(即ち、C1位置及び/又はC2位置)において13C−濃縮された化合物を意味する。
【0029】
本発明の方法で使用する過分極13C−酢酸塩の同位体濃縮度は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であり、90%を超える同位体濃縮度が最も好ましい。理想的には、濃縮度は100%である。本発明の方法で使用する13C−酢酸塩は、C1位置(以下131−酢酸塩と表示する)、C2位置(以下132−酢酸塩と表示する)、又はC1及びC2位置(以下131,2−酢酸塩と表示する)において同位体濃縮することができる。C1位置又はC1及びC2位置での同位体濃縮が好ましく、C1位置での同位体濃縮が最も好ましい。
【0030】
さらに、本発明の方法では重水素化13C−酢酸塩が使用できる。即ち、13C−酢酸塩中の1以上の水素原子を重水素原子で置き換えることができる。好ましい実施形態では、131−酢酸塩−d3(即ち、メチル基の3つの水素原子のすべてが重水素原子で置き換えられた131−酢酸塩)が本発明の方法で使用される。
【0031】
好ましい実施形態では、本発明に係るイメージング媒体は過分極131−酢酸塩又は131−酢酸塩−d3を含んでいる。
【0032】
13C−アセチルカルニチン」という用語は、13Cで同位体濃縮された(即ち、13C同位体の量がそれの天然存在比より多い)3−アセチルオキシ−4−トリメチルアンモニオブタノエートを意味する。特記しない限り、「13C−アセチルカルニチン」という用語は、アセチルオキシ基の2つの炭素原子のいずれかにおいて(即ち、前記アセチルオキシ基のメチル基又はジュウテロメチル基(本発明の方法で重水素化131−酢酸塩を使用した場合)及び/又はカルボニル基において)13C濃縮された化合物を意味する。
【0033】
13C−アセチル−CoA」という用語は、13Cで同位体濃縮された(即ち、13C同位体の量がそれの天然存在比より多い)補酵素Aと酢酸とのチオエステルを意味する。特記しない限り、「13C−アセチル−CoA」という用語は、アセチル基の2つの炭素原子のいずれかにおいて(即ち、前記アセチル基のメチル基又はジュウテロメチル基(本発明の方法で重水素化131−酢酸塩を使用した場合)及び/又はカルボニル基において)13C濃縮された化合物を意味する。
【0034】
「過分極」及び「分極」という用語は以後は互換的に使用され、0.1%を超え、さらに好ましくは1%を超え、最も好ましくは10%を超える核分極レベルを意味する。
【0035】
分極レベルは、例えば、固体過分極13C−酢酸塩(例えば、13C−酢酸塩の動的核分極(DNP)によって得られる固体過分極13C−酢酸塩)の固体状態13C−NMR測定によって決定できる。固体状態13C−NMR測定は、好ましくは小さいフリップ角を用いる単パルス取得NMRシーケンスからなる。NMRスペクトル中の過分極13C−酢酸塩の信号強度を、分極プロセス前に取得したNMRスペクトル中の13C−酢酸塩の信号強度と比較する。次いで、分極前後における信号強度の比から分極レベルを計算する。
【0036】
同様に、溶解した過分極13C−酢酸塩に関する分極レベルは、液体状態NMR測定によって決定できる。この場合にも、溶解した過分極13C−酢酸塩の信号強度を分極前の溶解13C−酢酸塩の信号強度と比較する。次いで、分極前後における13C−酢酸塩の信号強度の比から分極レベルを計算する。
【0037】
NMR活性13C核の過分極は、例えば国際公開第98/30918号、同第99/24080号及び同第99/35508号(これらの開示内容はいずれも援用によって本明細書の内容の一部をなす)に記載されている様々な方法によって達成でき、当技術分野で公知の過分極方法には、希ガスからの分極移動、「ブルートフォース(brute force)」、スピン冷凍、パラ水素法及び動的核分極(DNP)がある。
【0038】
過分極13C−酢酸塩を得るためには、13C−酢酸塩を直接に分極させることが好ましい。また、13C−酢酸を分極させることもできるが、続いて分極13C−酢酸を(例えば、塩基での中和により)分極13C−酢酸塩に転化させなければならない。これは追加の段階であり、したがってこの実施形態はあまり好ましくない。13C−酢酸塩(例えば、13C−酢酸ナトリウム)は商業的に入手できる。13C−酢酸もまた、商業的に入手できる。それは、商業的に入手できる13C−酢酸塩(例えば、13C−酢酸ナトリウム)へのプロトン付加によっても得ることができる。
【0039】
過分極13C−酢酸塩を得るための1つの方法は、国際公開第98/30918号に記載されている過分極希ガスからの分極移動である。非ゼロ核スピンを有する希ガスは、円偏光の使用によって過分極させることができる。過分極希ガス(好ましくはHe又はXe或いはかかるガスの混合物)を用いて13C核の過分極を達成することができる。過分極ガスは気相中にあってもよく、液体/溶媒中に溶解されてもよく、或いは過分極ガス自体を溶媒として使用してもよい。別法として、ガスを冷却固体表面上に凝縮させ、この形態で使用してもよいし、或いは昇華させてもよい。過分極ガスと13C−酢酸塩又は13C−酢酸とを緊密に混合することが好ましい。
【0040】
過分極13C−酢酸塩を得るための別の方法は、非常に低い温度及び高い磁場での熱力学的平衡化によって13C核に分極を付与するものである。過分極は、NMR分光計の動作磁場及び温度に比べ、非常に高い磁場及び非常に低い温度(ブルートフォース)の使用によって達成される。使用する磁場強度はできるだけ高くすべきであり、好適には1Tより高く、好ましくは5Tより高く、さらに好ましくは15T以上であり、特に好ましくは20T以上である。温度は非常に低くすべきであり、例えば4.2K以下、好ましくは1.5K以下、さらに好ましくは1.0K以下、特に好ましくは100mK以下である。
【0041】
過分極13C−酢酸塩を得るための別の方法は、スピン冷凍法である。この方法は、スピン冷凍分極による固体化合物又は系のスピン分極をカバーする。かかる系には、三次若しくはそれ以上の対称軸をもつ好適な結晶質常磁性物質(例えば、Ni2+、ランタニド又はアクチニドイオン)がドープされるか、或いは緊密に混合される。共鳴励起磁場を全く加えないので均一な磁場は必要とされず、その計装はDNPのために必要なものより簡単である。このプロセスは、磁場の方向に直角な軸の周りで試料を物理的に回転させることによって実施される。この方法に関する前提条件は、常磁性種が高度に異方性のg因子をもつことである。試料回転の結果として、電子常磁性共鳴が核スピンと接触し、核スピン温度の低下をもたらす。試料回転は、核スピン分極が新たな平衡に達するまで実施される。
【0042】
好ましい実施形態では、過分極13C−酢酸塩を得るためにDNP(動的核分極)が使用される。DNPでは、分極させるべき化合物中のMR活性核の分極は、不対電子を含む化合物である分極剤又はいわゆるDNP剤によって達成される。DNPプロセス中には、通常はマイクロ波放射の形態でエネルギーが供給され、これがまずDNP剤を励起する。基底状態への崩壊に際して、DNP剤の不対電子から分極させるべき化合物のNMR活性核(例えば、13C−酢酸塩中の13C核)への分極の移動が起こる。一般に、DNPプロセスでは中程度の又は高い磁場及び非常に低い温度が使用されるのであって、例えばDNPプロセスは液体ヘリウム及び約1T以上の磁場中で実施される。別法として、中程度の磁場及び十分な分極増強が達成される任意の温度を使用することもできる。DNP技法は、例えば国際公開第98/58272号及び同第01/96895号に一層詳しく記載されており、これらの開示内容はいずれも援用によって本明細書の内容の一部をなしている。
【0043】
DNP法によって化学的実在物(即ち、化合物)を分極させるためには、分極させるべき化合物及びDNP剤を含む組成物を調製し、次いでこれを任意に凍結して分極用のDNP分極装置内に挿入する(以前に凍結されなかった組成物は装置内で凍結する)。分極後、凍結した固体過分極組成物は、融解又は好適な溶解媒質中への溶解によって急速に液体状態に移行される。溶解が好ましく、凍結過分極組成物の溶解プロセス及びそのための好適な装置は国際公開第02/37132号に詳述されている。融解プロセス及び融解用の好適な装置は、例えば国際公開第02/36005号に記載されている。
【0044】
分極させるべき化合物中に高い分極レベルを得るためには、DNPプロセス中に前記化合物とDNP剤とが緊密に接触している必要がある。凍結又は冷却時に組成物が結晶化するならば、それに当てはまらない。結晶化を避けるためには、組成物中にガラス形成剤を存在させる必要があり、或いは凍結時に結晶化せずにガラスを形成する化合物を分極用として選択する必要がある。
【0045】
一実施形態では、DNP法によって過分極13C−酢酸塩を得るための出発原料として13C−酢酸、好ましくは131−酢酸又は131−酢酸−d3(酢酸−1−13C,2,2,2−d3)が使用される。
【0046】
好ましい実施形態では、DNP法によって過分極13C−酢酸塩を得るための出発原料として13C−酢酸塩、好ましくは131−酢酸塩又は131−酢酸塩−d3が使用される。好適な13C−酢酸塩は、13C−酢酸ナトリウム並びにNH4+、K+、Rb+、Cs+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群からの無機陽イオンを含む13C−酢酸塩である。後者の塩は、国際公開第2007/111515号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に詳述されている。別法として、有機アミン又はアミノ化合物の13C−酢酸塩(好ましくは、TRIS−13C−アセテート又はメグルミン−13C−アセテート)も使用できる。これらの塩は、国際公開第2007/069909号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に詳述されている。最も好ましい実施形態では、DNP法によって過分極13C−酢酸塩を得るための出発原料として、任意に重水素化されたTRIS−13C−アセテート又は任意に重水素化された13C−酢酸ナトリウム、さらに好ましくはTRIS−131−アセテート、TRIS−131−アセテート−d3131−酢酸ナトリウム又は131−酢酸ナトリウム−d3が使用される。
【0047】
「TRIS」という用語は2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールを意味し、「TRIS−13C−アセテート」という用語は陰イオンとしての13C−アセテート及びTRIS陽イオンを含む塩(即ち、TRISアンモニウム(2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオイルアンモニウム))を意味する。
【0048】
DNP法による13C−酢酸塩の過分極のためには、13C−酢酸塩又は13C−酢酸及びDNP剤を含む組成物が調製される。
【0049】
DNP剤は、その選択が13C−酢酸塩中に達成できる分極レベルに大きな影響を与えるので、DNPプロセスにおいて決定的な役割を果たす。各種のDNP剤(国際公開第99/35508号では「OMRI造影剤」と呼ばれている)が知られている。国際公開第99/35508号、同第88/10419号、同第90/00904号、同第91/12024号、同第93/02711号又は同第96/39367号に記載されているような酸素系、硫黄系又は炭素系の安定なトリチルラジカルを使用したところ、各種の様々な試料中に高い分極レベルが得られた。
【0050】
好ましい実施形態では、本発明の方法で使用する過分極13C−酢酸塩はDNPによって得られ、使用するDNP剤はトリチルラジカルである。上記に略述した通り、DNP剤(即ち、トリチルラジカル)の大きい電子スピン分極は電子のラーモア周波数に近いマイクロ波照射によって13C−酢酸塩又は13C−酢酸中の13C核の核スピン分極に変換される。マイクロ波は、e−e及びe−n遷移による電子スピン系と核スピン系との間の連絡を刺激する。効果的なDNPのためには、即ち13C−酢酸塩又は13C−酢酸中に高い分極レベルを達成するためには、トリチルラジカルはこれらの化合物中で安定かつ可溶であって、13C−酢酸塩又は13C−酢酸とトリチルラジカルとの緊密な接触を達成するものでなければならない。かかる緊密な接触は、上述した電子スピン系と核スピン系との間の連絡のために必要である。
【0051】
好ましい実施形態では、トリチルラジカルは下記式(1)のラジカルである。
【0052】
【化1】

式中、
Mは水素又は1当量の陽イオンを表し、
R1は同一又は異なるものであって、1以上のヒドロキシル基で任意に置換された直鎖又は枝分れC1〜C6−アルキル基或いは−(CH2)n−X−R2基(式中、nは1、2又は3であり、XはO又はSであり、R2は1以上のヒドロキシル基で任意に置換された直鎖又は枝分れC1〜C4−アルキル基である。)を表す。
【0053】
好ましい実施形態では、Mは水素又は1当量の生理学的に許容される陽イオンを表す。「生理学的に許容される陽イオン」という用語は、ヒト又はヒト以外の動物の生体によって許容される陽イオンを意味する。好ましくは、Mは水素又はアルカリ陽イオン、アンモニウムイオン又は有機アミンイオン(例えばメグルミン)を表す。最も好ましくは、Mは水素又はナトリウムを表す。
【0054】
DNP法によって過分極13C−酢酸塩を得るための出発原料として13C−酢酸塩を使用するならば、R1は好ましくは同一であり、さらに好ましくは直鎖又は枝分れC1〜C4−アルキル基、最も好ましくはメチル、エチル又はイソプロピルである。或いは、R1は好ましくは同一であり、さらに好ましくは1以上のヒドロキシル基で置換された直鎖又は枝分れC1〜C4−アルキル基、最も好ましくは−CH2−CH2−OHである。或いは、R1は好ましくは同一であり、−CH2−OC24OHを表す。
【0055】
DNP法によって過分極13C−酢酸塩を得るための出発原料として13C−酢酸を使用するならば、R1は同一又は異なるもの、好ましくは同一であり、好ましくは−CH2−OCH3、−CH2−OC25、−CH2−CH2−OCH3、−CH2−SCH3、−CH2−SC25又は−CH2−CH2−SCH3、最も好ましくは−CH2−CH2−OCH3を表す。
【0056】
上述した式(1)のトリチルラジカルは、国際公開第88/10419号、同第90/00904号、同第91/12024号、同第93/02711号、同第96/39367号、同第97/09633号、同第98/39277号及び同第2006/011811号に詳述されているようにして合成できる。
【0057】
DNPプロセスのためには、出発原料である13C−酢酸又は13C−酢酸塩(以下「試料」という)とDNP剤(好ましくはトリチルラジカル、さらに好ましくは式(1)のトリチルラジカル)との溶液が調製される。試料中へのDNP剤の溶解を促進するために溶媒又は溶媒混合物が使用できる。しかし、過分極13C−酢酸塩をインビボ13C−MR検出用のイメージング剤として使用する予定であれば、溶媒の量を最小限に抑えるか、或いは可能ならば溶媒の使用を避けることが好ましい。インビボイメージング剤として使用するためには、過分極13C−酢酸塩は通常比較的高い濃度で投与される。即ち、DNPプロセスで高度に濃縮された試料を使用するのが好ましく、したがって溶媒の量を最小限に抑えることが好ましい。これに関連して、試料を含む組成物(即ち、DNP剤、試料及び必要ならば溶媒)の質量をできるだけ小さく保つことも重要である。例えば13C−MR検出用のイメージング剤として使用するため、DNPプロセス後に過分極13C−酢酸又は13C−酢酸塩を含む固体組成物を溶解によって液体状態に変える場合、大きい質量は溶解プロセスの効率に悪影響を及ぼす。これは、溶解プロセスにおける溶解媒質の体積が一定である場合、組成物の質量が増加すると溶解媒質と組成物の質量との比が減少するという事実に原因する。さらに、ある種の溶媒を使用した場合には、これらの溶媒が生理学的に許容されない可能性があるので、MRイメージング剤として使用する過分極13C−酢酸塩をヒト又はヒト以外の動物に投与する前に溶媒の除去が必要とされることがある。
【0058】
DNPによって過分極13C−酢酸塩を得るための出発原料として13C−酢酸を使用するならば、13C−酢酸中にDNP剤(好ましくはトリチルラジカル、さらに好ましくは式(1)のトリチルラジカル)を溶解した溶液が調製される。13C−酢酸は室温で液体であり、DNP剤を前記液体に溶解することが好ましい。13C−酢酸は凍結時に結晶化するので、少量のガラス形成剤(好ましくはグリセロール)が添加される。化合物の緊密な混合は、当技術分野で公知のいくつかの手段(例えば、撹拌、渦動(渦動混合)又は音波処理及び/又は穏やかな加熱)によって促進できる。
【0059】
DNPによって過分極13C−酢酸塩を得るための出発原料として、室温で固体である13C−酢酸塩を使用するならば、DNP剤及び13C−酢酸塩の溶液を調製するために溶媒を添加しなければならない。好ましくは水性キャリヤー、最も好ましくは水を溶媒として使用する。一実施形態では、DNP剤を溶解し、次いで溶解したDNP剤中に13C−酢酸塩を溶解する。NH4+、K+、Rb+、Cs+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群からの無機陽イオンを含む13C−酢酸塩、並びに有機アミン又はアミノ化合物の13C−酢酸塩を使用するならば、この実施形態が好ましい。別の実施形態では、13C−酢酸塩を溶媒に溶解し、次いで溶解した13C−酢酸塩中に(乾燥化合物又は溶液としての)DNP剤を添加して溶解する。13C−酢酸ナトリウムを使用する場合には、この実施形態が好ましい。さらに好ましい実施形態では、13C−酢酸ナトリウムを水に溶解し、溶液を穏やかに加熱する。これは、冷却/凍結時に結晶化しない比較的高い粘度の過飽和溶液を与える。上述した13C−酢酸塩(即ち、13C−酢酸ナトリウム、NH4+、K+、Rb+、Cs+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群からの無機陽イオンを含む13C−酢酸塩、並びに有機アミン又はアミノ化合物の13C−酢酸塩)を使用するならば、これらの13C−酢酸塩を含む組成物は冷却/凍結時に結晶化しないので、ガラス形成剤を添加しなくて済む。この場合にも、化合物の緊密な混合は、当技術分野で公知のいくつかの手段(例えば、撹拌、渦動又は音波処理及び/又は穏やかな加熱)によって促進できる。
【0060】
本発明の方法で使用する過分極13C−酢酸塩がDNPによって得られる場合、13C−酢酸又は13C−酢酸塩及びDNP剤を含む分極させるべき組成物はさらに常磁性金属イオンを含み得る。常磁性金属イオンの存在は、国際公開第2007/064226号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に詳述されているように、DNPによって分極させるべき化合物中の分極レベルを増大させ得ることが判明している。
【0061】
「常磁性金属イオン」という用語は、塩又はキレート化物(即ち、常磁性キレート)の形態の常磁性金属イオンを意味する。後者はキレーター及び常磁性金属イオンを含む化学的実在物であって、前記常磁性金属イオン及び前記キレーターは錯体(即ち、常磁性キレート)を形成している。
【0062】
好ましい実施形態では、常磁性金属イオンはGd3+を含む塩又は常磁性キレート、好ましくはGd3+を含む常磁性キレートである。さらに好ましい実施形態では、前記常磁性金属イオンは分極させるべき組成物中に可溶かつ安定である。
【0063】
前述したDNP剤の場合と同じく、分極させるべき13C−酢酸又は13C−酢酸塩は常磁性金属イオンにも緊密に接触していなければならない。13C−酢酸又は13C−酢酸塩、DNP剤及び常磁性金属イオンを含むDNP用の組成物は、いくつかの方法で得ることができる。第1の実施形態では、13C−酢酸塩を好適な溶媒に溶解して溶液を得る。別法として、前記に記載したような液体の13C−酢酸を使用する。このような13C−酢酸塩の溶液又は液体の13C−酢酸にDNP剤を添加して溶解する。DNP剤(好ましくはトリチルラジカル)は固体又は溶液として添加できるが、好ましくは固体として添加する。次の段階では、常磁性金属イオンを添加する。常磁性金属イオンは固体又は溶液として添加できるが、好ましくは固体として添加する。別の実施形態では、DNP剤及び常磁性金属イオンを好適な溶媒に溶解し、この溶液を13C−酢酸又は13C−酢酸塩に添加する。さらに別の実施形態では、DNP剤(又は常磁性金属イオン)を好適な溶媒に溶解し、13C−酢酸又は13C−酢酸塩に添加する。次の段階では、この溶液に常磁性金属イオン(又はDNP剤)を固体又は溶液として添加し、好ましくは固体として添加する。好ましくは、常磁性金属イオン(又はDNP剤)を溶解するための溶媒の量は最小限に抑える。この場合にも、化合物の緊密な混合は、当技術分野で公知のいくつかの手段(例えば、撹拌、渦動又は音波処理及び/又は穏やかな加熱)によって促進できる。
【0064】
トリチルラジカルをDNP剤として使用するならば、かかるトリチルラジカルの好適な濃度は、DNPのために使用される組成物中において1〜25mM、好ましくは2〜20mM、さらに好ましくは10〜15mMである。常磁性金属イオンが組成物に添加されるならば、かかる常磁性金属イオンの好適な濃度は組成物中において0.1〜6mM(金属イオン)であり、0.5〜4mMの濃度が好ましい。
【0065】
13C−酢酸又は13C−酢酸塩、DNP剤及び任意には常磁性金属イオンを含む組成物を調製した後、当技術分野で公知の方法によって前記組成物が凍結される。例えば、フリーザー内で凍結するか、液体窒素中で凍結するか、或いは単にDNP分極装置内に配置するだけでも液体ヘリウムによって凍結される。別の実施形態では、組成物を分極装置内に挿入する前にそれを「ビーズ」として凍結することができる。かかるビーズは、組成物を液体窒素中に滴下することで得られる。かかるビーズは一層効率よく溶解することが認められている。これは、例えば過分極13C−酢酸塩をインビボ13C−MR検出方法で使用することが意図される場合、多量の13C−酢酸又は13C−酢酸塩を分極させる際に特に適している。
【0066】
組成物中に常磁性金属イオンが存在する場合、前記組成物を凍結前にガス抜きすることができる。ガス抜きは、例えば組成物中にヘリウムガスを(例えば2〜15分間)吹き込むことで行うことができるが、他の公知常法で実施することもできる。
【0067】
DNP技法は、例えば国際公開第98/58272号及び同第01/96895号(これらの開示内容はいずれも援用によって本明細書の内容の一部をなす)に記載されている。一般に、DNPプロセスでは中程度の又は高い磁場及び極低温が使用され、例えば液体ヘリウム及び約1T以上の磁場中でDNPプロセスが実施される。別法として、中程度の磁場及び十分な分極増強が達成される任意の温度を使用することもできる。好ましい実施形態では、DNPプロセスは液体ヘリウム及び約1T以上の磁場中で実施される。好適な分極ユニットは、例えば国際公開第02/37132号に記載されている。好ましい実施形態では、分極ユニットはクライオスタット及び分極手段(例えば、超伝導磁石のような磁場発生手段に取り囲まれた中心ボア内のマイクロ波源に導波管で連結されたマイクロ波チャンバー)を含んでいる。ボアは、垂直方向下方に、少なくとも磁場強度が試料核の分極を引き起こすのに十分な高さ(例えば1〜25T)を有する超伝導磁石近傍の「P」領域のレベルまで延在している。プローブ(即ち、分極させるべき凍結組成物)用のボアは、好ましくは密封可能であり、低圧(例えば1mbar以下の程度の圧力)まで排気できる。着脱自在の輸送管のようなプローブ導入手段をボアの内部に収容することができ、この管はボアの頂部から下方にP領域にあるマイクロ波チャンバー内の位置まで挿入することができる。P領域は、液体ヘリウムで分極を引き起こすのに十分な低温(好ましくは0.1〜100K、さらに好ましくは0.5〜10K、最も好ましくは1〜5K程度の温度)に冷却されている。プローブ導入手段は、好ましくは、ボア内に部分真空を保持できるようにその上端が任意適宜の方法で密封可能である。プローブ保持カップのようなプローブ保持容器を、プローブ導入手段の下端の内部に着脱自在に取り付けることができる。プローブ保持容器は、好ましくは比熱容量が小さくかつ極低温特性に優れた軽量材料(例えばKelF(ポリクロロトリフルオロエチレン)又はPEEK(ポリエーテルエーテルケトン))で作られており、2以上のプローブを収容できるように設計することができる。
【0068】
プローブをプローブ保持容器内に挿入し、液体ヘリウム中に浸漬し、マイクロ波で照射する。マイクロ波周波数はDNP剤のEPR線から決定できるが、これは28.0GHz/Tのように磁石の磁場強度に依存する。最適マイクロ波周波数は、最大NMR信号に関する周波数を調整することで決定できる。好ましくは、最適マイクロ波周波数は3.35Tに充電された磁石に対しては約94GHzであり、4Tに充電された磁石に対しては110GHzであり、5Tに充電された磁石に対しては140GHzであり、7Tに充電された磁石に対しては200GHzである。出力は、プローブサイズに応じて50〜200mWの範囲内で選択できる。分極レベルは、前述したようにして(例えば、マイクロ波照射中にプローブの固体状態13C−NMR信号を取得することにより)モニターできる。一般に、NMR信号を時間に対して示すグラフ中に飽和曲線が得られる。したがって、最適分極レベルに到達した時点を決定することが可能である。固体状態13C−NMR測定は、好適には小さいフリップ角を用いる単パルス取得NMRシーケンスからなる。動的核分極された核(13C−酢酸又は13C−酢酸塩中の13C核)の信号強度を、DNP前の13C−酢酸又は13C−酢酸塩中の13C核の信号強度と比較する。次いで、DNP前後における信号強度の比から分極レベルを計算する。
【0069】
DNPプロセス後、過分極13C−酢酸又は13C−酢酸塩を含む固体組成物は固体状態から液体状態に移行される(即ち、液化される)。これは、適当な溶媒又は溶媒混合物(溶解媒質)に溶解すること或いは固体組成物を融解することによって実施できる。溶解が好ましく、溶解プロセス及びそのための好適な装置は国際公開第02/37132号に詳述されている。融解プロセス及び融解用の好適な装置は、例えば国際公開第02/36005号に記載されている。簡単に述べれば、分極装置から物理的に分離しているか、或いは分極装置及び溶解ユニット/融解ユニットを含む装置の一部である溶解ユニット/融解ユニットが使用される。好ましい実施形態では、緩和を改善して過分極の最大値を保持するため、溶解/融解は高い磁場中(例えば、分離装置内)で実施される。磁場の節点は避けるべきであり、低い磁場は上記の対策を講じても緩和の増大をもたらすことがある。
【0070】
動的核分極用の出発原料として13C−酢酸塩を使用し、かつ過分極13C−酢酸塩を含む固体組成物を溶解によって液化する場合には、特に好ましくは過分極13C−酢酸塩をインビボ13C−MR検出用のイメージング媒体中に使用する予定であれば、水性キャリヤー、好ましくは生理学的に許容されかつ薬学的に容認される水性キャリヤー(例えば、水、緩衝液又は食塩水)が溶媒として好適に使用される。インビトロ用途のためには、例えば、DMSO又はメタノール或いは水性キャリヤー及び非水性溶媒を含む混合物(例えば、DMSOと水との混合物又はメタノールと水との混合物)のような非水性溶媒又は溶媒混合物も使用できる。
【0071】
動的核分極用の出発原料として13C−酢酸を使用した場合には、得られた過分極13C−酢酸を13C−酢酸塩に転化させなければならない。過分極13C−酢酸を含む固体組成物を溶解によって液化する場合には、溶解媒質は好ましくは水性キャリヤー(例えば、水又は緩衝液、好ましくは生理学的に許容される緩衝液)であり、或いは水性キャリヤー(例えば、水又は緩衝液、好ましくは生理学的に許容される緩衝液)を含んでいる。「緩衝溶液」及び「緩衝液」という用語は、以後は互換的に使用される。本願の文脈中では、「緩衝液」は1種以上の緩衝液を意味し、即ち緩衝液の混合物も包含する。
【0072】
好ましい緩衝液は生理学的に許容される緩衝液であり、さらに好ましくは約7〜8のpH範囲内で緩衝作用を有する緩衝液、例えばリン酸塩緩緩衝液(KH2PO4/Na2HPO4)、ACES、PIPES、イミダゾール/HCl、BES、MOPS、HEPES、TES、TRIS、HEPPS又はTRICINである。
【0073】
過分極13C−酢酸を過分極13C−酢酸塩に転化させるためには、一般に13C−酢酸を塩基と反応させる。一実施形態では、13C−酢酸を塩基と反応させて13C−酢酸塩に転化させ、続いて水性キャリヤーを添加する。別の好ましい実施形態では、水性キャリヤー及び塩基を合わせて1つの溶液とし、この溶液を13C−酢酸に添加することで、それを溶解すると同時に13C−酢酸塩に転化させる。好ましい実施形態では、塩基はNaOH、Na2CO3又はNaHCO3の水溶液であり、最も好ましくはNaOHである。
【0074】
別の好ましい実施形態では、水性キャリヤー緩衝液又は(該当する場合には)複合水性キャリヤー/塩基溶液は、さらに遊離常磁性イオンを結合又は錯体化し得る1種以上の化合物(例えば、DTPA又はEDTAのようなキレート化剤)を含んでいる。
【0075】
過分極がDNP法によって実施される場合、過分極13C−酢酸塩を含む液体からDNP剤(好ましくはトリチルラジカル)及び任意の常磁性金属イオンが除去されることがある。過分極13C−酢酸塩をインビボ用途のためのイメージング媒体中に使用する予定であれば、これらの化合物を除去することが好ましい。DNP用の出発原料として13C−酢酸を使用した場合には、まず過分極13C−酢酸を13C−酢酸塩に転化させ、転化が行われた後にDNP剤及び任意の常磁性金属イオンを除去することが好ましい。
【0076】
トリチルラジカル及び常磁性金属イオンを除去するために有用な方法は当技術分野で公知であり、国際公開第2007/064226号及び同第2006/011809号に詳述されている。
【0077】
好ましい実施形態では、本発明の方法で使用する過分極13C−酢酸塩は、TRIS−13C−アセテート又は13C−酢酸ナトリウム(さらに好ましくはTRIS−131−アセテート、TRIS−131−アセテート−d3131−酢酸ナトリウム又は131−酢酸−d3ナトリウム)、式(1)のトリチルラジカル及び任意にはGd3+を含む常磁性キレートを含む組成物の動的核分極によって得られる。この好ましい実施形態では、トリチルラジカル及び(使用するならば)Gd3+を含む常磁性キレートの溶液を調製する。溶解したトリチルラジカル及び任意の溶解した常磁性キレートを13C−酢酸ナトリウム又はTRIS−13C−アセテートに添加し、この組成物に好ましくは音波処理又は渦動混合及び穏やかな加熱を施すことですべての化合物の緊密な混合を促進する。
【0078】
本発明の方法に係るイメージング媒体は、インビトロ13C−MR検出(例えば、ヒト又はヒト以外の動物の身体から導かれる細胞培養物、試料、エクスビボ組織或いは単離器官中での13C−MR検出)用のイメージング媒体として使用できる。この目的のためには、イメージング媒体は、例えば、細胞培養物、尿や血液や唾液のような試料、生検組織のようなエクスビボ組織又は単離器官に添加するのに適した組成物として提供される。かかるイメージング媒体は、イメージング剤(即ち、過分極13C−酢酸塩)に加えて、インビトロ細胞又は組織アッセイに適合しかつそのために使用される溶媒(例えば、DMSO又はメタノール或いは水性キャリヤー及び非水性溶媒を含む溶媒混合物(例えば、DMSOと水又は緩衝液との混合物或いはメタノールと水又は緩衝液との混合物))を含むことが好ましい。当業者には自明の通り、かかるイメージング媒体中には薬学的に許容されるキャリヤー、賦形剤及び製剤化補助剤が存在し得るが、かかる目的のために必要なわけではない。
【0079】
さらに、本発明の方法に係るイメージング媒体は、インビボ13C−MR検出(即ち、ヒト又はヒト以外の動物の生体に関して実施される13C−MR検出)用のイメージング媒体として使用できる。この目的のためには、イメージング媒体はヒト又はヒト以外の動物の生体への投与に適している必要がある。したがって、かかるイメージング媒体は、イメージング剤(即ち、過分極13C−酢酸塩)に加えて、水性キャリヤー、好ましくは生理学的に許容されかつ薬学的に容認される水性キャリヤー(例えば、水、緩衝液又は食塩水)を含むことが好ましい。かかるイメージング媒体はさらに、通常の薬学的又は獣医学的キャリヤー又は賦形剤(例えば、ヒト医学又は獣医学における診断用組成物に関して常用されている安定剤、重量オスモル濃度調整剤、可溶化剤などの製剤化補助剤)を含むことができる。
【0080】
本発明の方法で使用するイメージング媒体をインビボ13C−MR検出(即ち、ヒト又はヒト以外の動物の生体内での13C−MR検出)のために使用するならば、前記イメージング媒体は好ましくは前記生体に非経口的に(好ましくは静脈内に)投与される。一般に、検査すべき生体はMR磁石内に配置される。専用の13C−MR RFコイルが、検査対象領域をカバーするように配置される。イメージング媒体の正確な用量及び濃度は、毒性及び投与経路のような一連の因子に依存する。一般に、イメージング媒体は体重1kg当たり酢酸塩1mmol以下、好ましくは0.01〜0.5mmol/kg、さらに好ましくは0.1〜0.3mmol/kgの濃度で投与される。投与後400秒未満、好ましくは120秒未満、さらに好ましくは投与後60秒未満、特に好ましくは20〜50秒に、検査対象体積をエンコードするMRイメージングシーケンスを複合した周波数及び空間選択的な方法で適用する。MRシーケンスの正確な適用時間は、検査対象体積及び化学種に大きく依存する。
【0081】
本発明に係る方法では、13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号が検出される。好ましい実施形態では、13C−アセチルカルニチン及び13C−アセチル−CoAの信号が検出される。
【0082】
酢酸塩からアセチル−CoA及びアセチルカルニチンへの代謝転化を、131−酢酸塩に関して下記スキーム1(式中、*は13C−標識を表す。)に示す。即ち、アセチルCoAリガーゼ(ACS、EC6.2.1.1)によって触媒される反応において、13C−酢酸塩は補酵素Aと反応して13C−アセチル−CoAを生成する。
【0083】
次いで、カルニチントランスフェラーゼ(CAT、EC2.3.1.7)によって触媒される反応において、13C−アセチル−CoAはカルニチンと反応して13C−アセチルカルニチン及び補酵素Aを生成する。
【0084】
【化2】

本発明の文脈中における「信号」という用語は、13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩を表す13C−MRスペクトル中のピークの、ノイズに対するMR信号振幅又は積分又はピーク面積をいう。好ましい実施形態では、信号はピーク面積である。
【0085】
本発明の方法の好ましい実施形態では、上述した13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号を用いて、ヒト又はヒト以外の動物の生体の代謝プロファイルが生成される。前記代謝プロファイルは、全身から導くことができ、例えば全身のインビボ13C−MR検出によって得ることができる。別法として、前記代謝プロファイルは、検査対象領域又は体積(即ち、前記ヒト又はヒト以外の動物の特定の組織、器官又は部分)から生成される。
【0086】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、上述した13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号を用いて、ヒト又はヒト以外の動物から導かれる細胞培養物中の細胞、尿や血液や唾液のような試料、生検組織のようなエクスビボ組織又は単離器官の代謝プロファイルが生成される。その場合、前記代謝プロファイルはインビトロ13C−MR検出によって生成される。
【0087】
かくして、好ましい実施形態では、過分極13C−酢酸塩を含むイメージング媒体を用いる13C−MR検出方法であって、13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号を検出し、前記信号を用いて代謝プロファイルを生成する方法が提供される。
【0088】
好ましい実施形態では、13C−アセチルカルニチン及び13C−アセチル−CoAの信号を用いて前記代謝プロファイルが生成される。
【0089】
一実施形態では、13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩のスペクトル信号強度を用いて代謝プロファイルが生成される。別の実施形態では、13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩のスペクトル信号積分を用いて代謝プロファイルが生成される。別の実施形態では、13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の個別画像からの信号強度を用いて代謝プロファイルが生成される。さらに別の実施形態では、13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号強度を2以上の時点で求めることで13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の変化速度が計算される。
【0090】
別の実施形態では、代謝プロファイルは13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の処理信号データ(例えば、多重MR検出の信号パターン(即ち、スペクトル又は画像)から導き出される信号の比、補正信号或いは動力学的又は代謝速度定数情報)を含むか、或いはかかる処理信号データを用いて生成される。かくして、好ましい実施形態では、補正13C−アセチルカルニチン信号(即ち、13C−アセチルカルニチン/13C−酢酸塩信号又は13C−アセチルカルニチン/13C−アセチル−CoA信号)が代謝プロファイル中に含まれるか、或いはそれを用いて代謝プロファイルが生成される。さらに別の好ましい実施形態では、補正13C−アセチルカルニチン/総13C−炭素信号が代謝プロファイル中に含まれるか、或いはそれを用いて代謝プロファイルが生成される。ここで、総13C−炭素信号は13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号の和である。さらに好ましい実施形態では、13C−アセチルカルニチンと13C−アセチル−CoAとの比が代謝プロファイル中に含まれるか、或いはそれを用いて代謝プロファイルが生成される。
【0091】
本発明に係る方法の好ましい実施形態で生成された代謝プロファイルは、検査すべき生体、生体部分、細胞、組織、身体試料などの代謝活性に関する情報を提供し、前記情報は例えば疾患を同定するために以後の段階で使用できる。
【0092】
かかる疾患は腫瘍であり得る。これは、腫瘍組織が通常は健常組織より高い代謝活性によって特徴づけられるからである。かかる高い代謝活性は、腫瘍又は腫瘍のエクスビボ試料の代謝プロファイルを健常組織(例えば、周囲組織又は健常エクスビボ組織)の代謝プロファイルと比較することから明らかとなり、代謝プロファイル中に13C−アセチルカルニチン及び任意には13C−アセチル−CoAの高い信号或いは高い補正13C−アセチルカルニチン信号或いは13C−アセチルカルニチンと13C−アセチル−CoA又は13C−酢酸塩又は総炭素との高い比或いは13C−アセチルカルニチン増加をもたらす高い代謝速度となって現れることがある。
【0093】
別の疾患は心臓の虚血であり得る。これは、虚血心筋組織が通常は健常心筋組織より低い代謝活性によって特徴づけられるからである。この場合にも、かかる低い代謝活性は、前の段落に記載したのと同様にして、虚血心筋組織の代謝プロファイルを健常心筋組織の代謝プロファイルと比較することから明らかとなろう。
【0094】
別の疾患は、アルツハイマー病或いは他の脳疾患又は障害及び/又は脳機能や認知や記憶に関連する疾患又は障害であり得る。これらの疾患又は障害では、13C−アセチルカルニチンが増強された中心代謝的役割を果たすからである。本発明の方法によって得られた、これらの疾患又は障害に罹患した脳又はその部分の代謝プロファイルは、健常な脳又はその部分からの代謝プロファイルと異なっており、これらの疾患又は障害は代謝プロファイル中に13C−アセチルカルニチン及び任意には13C−アセチル−CoAの高い信号或いは高い補正13C−アセチルカルニチン信号或いは13C−アセチルカルニチンと13C−アセチル−CoA又は13C−酢酸塩又は総炭素との高い比或いは13C−アセチルカルニチン増加をもたらす高い代謝速度となって現れることが予想できる。
【0095】
別の疾患は糖尿病であり得る。これは、酢酸塩の代謝における中心酵素の1つであるカルニチンアセチルトランスフェラーゼが脂肪酸酸化で決定的な役割を果たし、したがって抗糖尿病薬及び抗肥満薬の開発のための有望な標的となるからである。好適には、糖尿病を同定するために本発明の方法に従って代謝プロファイルを生成するための選択器官は肝臓であり、該疾患は前記対応プロファイル中に13C−アセチルカルニチン及び任意には13C−アセチル−CoAの高い信号或いは高い補正13C−アセチルカルニチン信号或いは13C−アセチルカルニチンと13C−アセチル−CoA又は13C−酢酸塩又は総炭素との高い比或いは13C−アセチルカルニチン増加をもたらす高い代謝速度となって現れる。
【0096】
さらに別の疾患は、肝線維症又は肝硬変のような肝臓関連疾患であり得る。これらの疾患では、エステル化カルニチンの増量が特徴的であり、したがって罹患した肝臓の代謝プロファイルは13C−アセチルカルニチン及び任意には13C−アセチル−CoAの高い信号或いは高い補正13C−アセチルカルニチン信号或いは13C−アセチルカルニチンと13C−アセチル−CoA又は13C−酢酸塩又は総炭素との高い比或いは13C−アセチルカルニチン増加をもたらす高い代謝速度を示すであろう。
【0097】
疾患を同定するための本発明の方法には、解剖学的情報及び/又は(好適であれば)灌流情報を含めることができる。解剖学的情報は、例えば、本発明の方法の前後に適当な造影剤を使用し又は使用せずにプロトン又は13C−MR画像を取得することで得ることができる。
【0098】
疾患が心臓の虚血であれば、例えばOmniscan(商標)のようなMR造影剤を使用することで心筋の相対的灌流を測定することができる。また、造影剤の投与なしに灌流を測定するためのMRイメージング技法も当技術分野で知られている。好ましい実施形態では、代謝されない過分極13C−造影剤を用いて定量的灌流が測定される。好適な技法及び造影剤は、例えば国際公開第02/23209号に記載されている。
【0099】
別の好ましい実施形態では、過分極13C−酢酸塩を含むイメージング媒体を繰り返し投与することで動的研究が可能になる。(高い用量では)毒性効果を示すことがある通常のMR造影剤を用いる他のMR検出方法に比べ、これは本発明に係る方法のさらなる利点である。酢酸塩の低毒性及びそれの好適な安全性プロフィルのため、この化合物の反復投与は患者によって十分に容認される。
【0100】
前述の通り、代謝プロファイルは検査すべき生体、生体部分、細胞、組織、身体試料などの代謝活性に関する情報を提供し、前記情報は例えば疾患を同定するために以後の段階で使用できる。しかし、医師は検査中の患者にとって適切な治療を選択するためにこの情報をさらに以後の段階で使用することもできる。
【0101】
さらに、前記情報を用いて上述の疾患の治療応答(例えば、治療の成否)をモニターすることができ、本方法はその感度のために初期治療応答(即ち、治療の開始直後における応答)をモニターするのに特に適している。
【0102】
別の実施形態では、本発明の方法は薬物の効果を評価するために使用できる。前記実施形態では、例えばある疾患に対する関連モデルである細胞培養物又は罹患したエクスビボ組織又は罹患した単離器官におけるインビトロでの薬物スクリーニングにより、前記疾患の治療に役立つ可能性がある薬物を非常に早い段階で試験することができる。別法として、例えばある疾患に関連する動物モデルにおけるインビボでの薬物スクリーニングにより、前記疾患の治療に役立つ可能性がある薬物を非常に早い段階で試験することができる。可能性がある薬物による処置の前後における前記細胞培養物、エクスビボ組織、単離器官又は試験動物の代謝プロファイルを比較することにより、前記薬物の効果、したがって治療応答及び治療の成否を判定することができ、これはもちろん可能性がある薬物のスクリーニングにおいて貴重な情報を提供する。
【0103】
本発明のさらに別の態様は、131−酢酸ナトリウム、131−酢酸−d3ナトリウム、TRIS−131−アセテート−d3131−酢酸又は131−酢酸−d3、トリチルラジカル及び任意には常磁性金属イオンを含んでなる組成物である。
【0104】
第1の実施形態では、前記組成物は131−酢酸ナトリウム又は131−酢酸−d3ナトリウム又はTRIS−131−アセテート−d3、トリチルラジカル及び任意には常磁性金属イオンを含んでいる。好ましい実施形態では、前記トリチルラジカルは式(1)のトリチルラジカルである。式中、Mは水素又はナトリウムを表し、R1は好ましくは同一であり、さらに好ましくは直鎖又は枝分れC1〜C4−アルキル基、最も好ましくはメチル、エチル又はイソプロピルである。或いは、R1は好ましくは同一であり、さらに好ましくは1つのヒドロキシル基で置換された直鎖又は枝分れC1〜C4−アルキル基、最も好ましくは−CH2−CH2−OHである。或いは、R1は好ましくは同一であり、−CH2−OC24OHを表す。別の好ましい実施形態では、前記組成物は常磁性金属イオン、好ましくはGd3+を含む塩又は常磁性キレート、さらに好ましくはGd3+を含む常磁性キレートを含んでいる。好適には、前記組成物はさらに1種以上の溶媒を含み、好ましくは水性キャリヤー、最も好ましくは水が溶媒として使用される。上述の組成物は、動的核分極(DNP)によって高い分極レベルで過分極131−酢酸ナトリウム又は131−酢酸−d3ナトリウム又はTRIS−131−アセテート−d3を得るために使用できる。
【0105】
第2の実施形態では、前記組成物は131−酢酸又は131−酢酸−d3、トリチルラジカル及び任意には常磁性金属イオンを含んでいる。好ましい実施形態では、前記トリチルラジカルは式(1)のトリチルラジカルである。式中、Mは水素又はナトリウムを表し、R1は同一又は異なるもの、好ましくは同一であり、好ましくは−CH2−OCH3、−CH2−OC25、−CH2−CH2−OCH3、−CH2−SCH3、−CH2−SC25又は−CH2−CH2−SCH3、最も好ましくは−CH2−CH2−OCH3を表す。別の好ましい実施形態では、前記組成物は常磁性金属イオン、好ましくはGd3+を含む塩又は常磁性キレート、さらに好ましくはGd3+を含む常磁性キレートを含んでいる。前記組成物は1種以上の溶媒を含んでも含まなくてもよく、好ましい実施形態では水性キャリヤー、最も好ましくは水が溶媒として使用される。上述の組成物は、動的核分極(DNP)によって高い分極レベルで過分極131−酢酸又は過分極131−酢酸−d3を得るために使用できる。前記過分極131−酢酸又は過分極131−酢酸−d3は、塩基(例えば、NaOH)と共に溶解することで過分極131−酢酸塩又は過分極131−酢酸塩−d3に転化させることができる。
【0106】
本発明のさらに別の態様は、過分極131−酢酸ナトリウム、過分極131−酢酸−d3ナトリウム、過分極TRIS−131−アセテート−d3、過分極131−酢酸又は過分極131−酢酸−d3、トリチルラジカル及び任意には常磁性金属イオンを含んでなる組成物であって、当該組成物が動的核分極によって得られるものである。
【0107】
本発明のさらに別の態様は、過分極131−酢酸−d3ナトリウム、過分極TRIS−131−アセテート−d3、過分極131−酢酸又は過分極131−酢酸−d3である。本発明のこの態様の好ましい実施形態は過分極131−酢酸−d3ナトリウム又は過分極TRIS−131−アセテート−d3であり、これは13C−MR検出方法で使用するための組成物(イメージング媒体)中においてイメージング剤として使用できる。
【0108】
本発明のさらに別の態様は、過分極131−酢酸−d3ナトリウム又は過分極TRIS−131−アセテート−d3を含んでなるイメージング媒体である。
【0109】
本発明に係るイメージング媒体は、13C−MR検出方法においてイメージング媒体として使用できる。
【0110】
本発明の方法に係るイメージング媒体は、インビトロ13C−MR検出(例えば、ヒト又はヒト以外の動物の身体から導かれる細胞培養物、試料、エクスビボ組織又は単離器官の13C−MR検出)用のイメージング媒体として使用できる。この目的のためには、イメージング媒体は、例えば、細胞培養物、尿や血液や唾液のような試料、生検組織のようなエクスビボ組織又は単離器官に添加するのに適した組成物として提供される。かかるイメージング媒体は、イメージング剤(即ち、過分極131−酢酸−d3ナトリウム又は過分極TRIS−131−アセテート−d3)に加えて、インビトロ細胞又は組織アッセイに適合しかつそのために使用される溶媒(例えば、DMSO又はメタノール或いは水性キャリヤー及び非水性溶媒を含む溶媒混合物(例えば、DMSOと水又は緩衝液との混合物或いはメタノールと水又は緩衝液との混合物))を含むことが好ましい。当業者には自明の通り、かかるイメージング媒体中には薬学的に許容されるキャリヤー、賦形剤及び製剤化補助剤が存在し得るが、かかる目的のために必要なわけではない。
【0111】
さらに、本発明の方法に係るイメージング媒体は、インビボ13C−MR検出(即ち、ヒト又はヒト以外の動物の生体に関して実施される13C−MR検出)用のイメージング媒体として使用できる。この目的のためには、イメージング媒体はヒト又はヒト以外の動物の生体への投与に適している必要がある。したがって、かかるイメージング媒体は、イメージング剤(即ち、131−酢酸−d3ナトリウム又は過分極TRIS−131−アセテート−d3)に加えて、水性キャリヤー、好ましくは生理学的に許容されかつ薬学的に容認される水性キャリヤー(例えば、水、緩衝液又は食塩水)を含むことが好ましい。かかるイメージング媒体はさらに、通常の薬学的又は獣医学的キャリヤー又は賦形剤(例えば、ヒト医学又は獣医学における診断用組成物に関して常用されている安定剤、重量オスモル濃度調整剤、可溶化剤などの製剤化補助剤)を含むことができる。
【実施例】
【0112】
以下の非限定的な実施例によって本発明を例示する。
実施例1a
【0113】
実施例1a 常磁性金属イオンとしてのGdキレート及びDNP剤としてトリチルラジカルの存在下でのDNP法による過分極131−酢酸ナトリウムの製造
マイクロ試験管に131−酢酸ナトリウム(Aldrich社、24.9mg、0.30mmol)及び16μlの水を加えた。試験管に穏やかな加熱及び音波処理を施して131−酢酸ナトリウムを溶解した。国際公開第98/39277号の実施例7に従って合成したトリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−テトラ(ヒドロキシエチル)ベンゾ[1,2−4,5’]ビス−(1,3)ジチオール−4−イル)メチルナトリウム塩(トリチルラジカル)の水溶液(139μmol/g溶液)を調製し、この溶液3.4mgを管中の溶解131−酢酸ナトリウムに添加した。さらに、国際公開第2007/064226号の実施例4に従って合成した1,3,5−トリス(N−(DO3A−アセトアミド)−N−メチル−4−アミノ−2−メチルフェニル)−[1,3,5]トリアジナン−2,4,6−トリオンのGdキレート(常磁性金属イオン)の水溶液(14.6μmol/g溶液)を調製し、131−酢酸ナトリウム及びトリチルラジカルを含む試験管にこの溶液1.2mgを添加した。得られた組成物に音波処理及び穏やかな加熱を施すことですべての化合物を溶解した。組成物(37μl、12.5mMトリチルラジカル及び1.41mM Gd3+)を管から試料カップに移し、試料カップをDNP分極装置内に挿入した。DNP条件下、3.35Tの磁場中において1.2Kでマイクロ波(93.89GHz)を照射して組成物を分極させた。分極は固体状態13C−NMRによって追跡され、固体状態分極は20%を超えると測定された。
実施例1b
【0114】
実施例1b 過分極131−酢酸ナトリウムを含むイメージング媒体の製造
75分の動的核分極後、得られた凍結分極組成物を6mlのリン酸塩緩衝液(20mM、pH7.4、100mg/l EDTA、0.9%NaCl)に溶解した。溶解組成物を含む最終溶液のpHは7.3±0.1であった。前記最終溶液中の131−酢酸ナトリウム濃度は50mMであった。
【0115】
液体状態分極は、400MHzでの液体状態13C−NMRによって19%と測定された。
実施例2a
【0116】
実施例2a TRIS−131−アセテートの調製
131−酢酸(Aldrich社、474mg、7.7mmol)を50mlの水に溶解した。溶液にTRIS(946mg、7.80mmol)を添加した。固体の溶解後、溶液を200mlの水で希釈し、凍結乾燥した。凍結乾燥生成物TRIS−131−アセテートをNMRによって特性決定した:純度93%、1.12eq.TRIS。
実施例2b
【0117】
実施例2b 常磁性金属イオンとしてのGdキレート及びDNP剤としてトリチルラジカルの存在下でのDNP法による過分極TRIS−131−アセテートの製造
マイクロ試験管に、実施例2aに従って調製したTRIS−131−アセテート(54.6mg、0.30mmol)及び10μlの水を加えた。試験管に穏やかな加熱及び音波処理を施してTRIS−131−アセテートを溶解した。国際公開第98/39277号の実施例7に従って合成したトリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−テトラ(ヒドロキシエチル)ベンゾ[1,2−4,5’]ビス−(1,3)ジチオール−4−イル)メチルナトリウム塩(トリチルラジカル)の水溶液(139μmol/g溶液)を調製し、この溶液6.0mgを管中の溶解TRIS−131−アセテートに添加した。さらに、国際公開第2007/064226号の実施例4に従って合成した1,3,5−トリス(N−(DO3A−アセトアミド)−N−メチル−4−アミノ−2−メチルフェニル)−[1,3,5]トリアジナン−2,4,6−トリオンのGdキレート(常磁性金属イオン)の水溶液(14.6μmol/g溶液)を調製し、TRIS−131−アセテート及びトリチルラジカルを含む試験管にこの溶液1.3mgを添加した。得られた組成物に音波処理及び穏やかな加熱を施すことですべての化合物を溶解した。組成物(65μl、12.8mMトリチルラジカル及び0.9mM Gd3+)を管から試料カップに移し、試料カップをDNP分極装置内に挿入した。DNP条件下、3.35Tの磁場中において1.2Kでマイクロ波(93.89GHz)を照射して組成物を分極させた。分極は固体状態13C−NMRによって追跡され、固体状態分極は25%を超えると測定された。
実施例2c
【0118】
実施例2c 過分極TRIS−131−アセテートを含むイメージング媒体の製造
75分の動的核分極後、得られた凍結分極組成物を6mlのリン酸塩緩衝液(20mM、pH7、100mg/l EDTA、0.9%NaCl)に溶解した。溶解組成物を含む最終溶液のpHは7.3±0.1であった。前記最終溶液中のTRIS−131−アセテート濃度は50mMであった。
実施例3a
【0119】
実施例3a 常磁性金属イオンとしてのGdキレート及びDNP剤としてトリチルラジカルの存在下でのDNP法による過分極TRIS−131−アセテート−d3の製造
マイクロ試験管に、実施例2aに記載したようにして調製したTRIS−131−アセテート−d3(55.5mg、0.30mmol)及び10μlの水を加えた。試験管に穏やかな加熱及び音波処理を施してTRIS−131−アセテート−d3を溶解した。国際公開第98/39277号の実施例7に従って合成したトリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−テトラ(ヒドロキシエチル)ベンゾ[1,2−4,5’]ビス−(1,3)ジチオール−4−イル)メチルナトリウム塩(トリチルラジカル)の水溶液(139μmol/g溶液)を調製し、この溶液6.0mgを管中の溶解TRIS−131−アセテート−d3に添加した。さらに、国際公開第2007/064226号の実施例4に従って合成した1,3,5−トリス(N−(DO3A−アセトアミド)−N−メチル−4−アミノ−2−メチルフェニル)−[1,3,5]トリアジナン−2,4,6−トリオンのGdキレート(常磁性金属イオン)の水溶液(14.6μmol/g溶液)を調製し、TRIS−131−アセテート−d3及びトリチルラジカルを含む試験管にこの溶液1.3mgを添加した。得られた組成物に音波処理及び穏やかな加熱を施すことですべての化合物を溶解した。組成物(65μl、12.8mMトリチルラジカル及び0.9mM Gd3+)を管から試料カップに移し、試料カップをDNP分極装置内に挿入した。DNP条件下、3.35Tの磁場中において1.2Kでマイクロ波(93.89GHz)を照射して組成物を分極させた。分極は固体状態13C−NMRによって追跡され、固体状態分極は25%を超えると測定された。
実施例3b
【0120】
実施例3b 過分極TRIS−131−アセテート−d3を含むイメージング媒体の製造
75分の動的核分極後、得られた凍結分極組成物を6mlのリン酸塩緩衝液(20mM、pH7、100mg/l EDTA、0.9%NaCl)に溶解した。溶解組成物を含む最終溶液のpHは7.3±0.1であった。前記最終溶液中のTRIS−131−アセテート−d3濃度は50mMであった。
【0121】
液体状態分極は、400MHzでの液体状態13C−NMRによって32%と測定された。
実施例4
【0122】
実施例4 過分極TRIS−131−アセテートを含むイメージング媒体を用いたマウス(心臓)でのインビボ13C−MR分光法
実施例3aに記載したようにして製造したイメージング媒体200μlを、C57B1/6マウスに6秒かけて注射した。前記イメージング媒体中のTRIS−131−アセテート濃度は75mMであり、分極は注射時点で20%であった。13C−表面コイル(直径12mm)をマウス心筋の上方に配置した。解剖学的参照画像及び局所シミングのためにはラット用1H−全身コイルを使用した。13C−MR分光法は2.4TのBruker分光計を用いて実施した。30度のRFパルスを用いて、13C−MRスペクトルの動的セット(全部で30)を3秒ごとに取得した。この実験から、実験時間にわたって131−アセチルカルニチン信号の増加が明確に見られた(図1)。
実施例5
【0123】
実施例5 過分極TRIS−131−アセテートを含むイメージング媒体を用いたマウス(心臓)でのインビボ13C−MR分光法
実施例3aに記載したようにして製造したイメージング媒体200μlを、C57B1/6マウスに6秒かけて注射した。前記イメージング媒体中のTRIS−131−アセテート濃度は約50mMであった。いずれの実験(n=2)でも、13C−表面コイル(直径12mm)をマウス心筋の上方に配置し、2.4TのBruker分光計内で13C−MR分光法を実施した。イメージング媒体を注射してから10秒後に、90度のRFパルスを用いてスペクトルを取得した。これら2回の実験から、131−アセチル−CoA及び131−アセチルカルニチンの両方を同定(図2)及び定量化(図3)することができた。131−アセチルカルニチンと131−アセチル−CoAとの比は、肝臓(実施例6参照)よりも心臓においてほぼ3倍高かった。
実施例6
【0124】
実施例6 過分極TRIS−131−アセテートを含むイメージング媒体を用いたマウス(肝臓)でのインビボ13C−MR分光法
実施例3aに記載したようにして製造したイメージング媒体200μlを、C57B1/6マウスに6秒かけて注射した。前記イメージング媒体中のTRIS−131−アセテート濃度は約50mMであった。いずれの実験(n=2)でも、13C−表面コイル(直径12mm)をマウス肝臓の上方に配置し、2.4TのBruker分光計内で13C−MR分光法を実施した。イメージング媒体を注射してから10秒後に、90度のRFパルスを用いてスペクトルを取得した。これら2回の実験から、131−アセチル−CoA及び131−アセチルカルニチンの両方を同定(図2)及び定量化(図3)することができた。131−アセチルカルニチンと131−アセチル−CoAとの比は、心臓(実施例5参照)よりも肝臓においてほぼ3倍低かった。
実施例7
【0125】
実施例7 過分極TRIS−131−アセテートを含むイメージング媒体を用いたマウス(骨格筋)でのインビボ13C−MR分光法
実施例3aに記載したようにして製造したイメージング媒体200μlを、C57B1/6マウスに6秒かけて注射した。前記イメージング媒体中のTRIS−131−アセテート濃度は約50mMであった。13C−表面コイル(直径9mm)をマウス後肢の上方に配置し、2.4TのBruker分光計内で13C−MR分光法を実施した。25°のフリップ角を用いて4秒ごとに20のパルスを取得した。1)30秒の阻血期間前、2)阻血期間から5分後、及び3)阻血期間から1時間後に3回の実験を行った。これらの実験から、131−アセチルカルニチンと131−酢酸塩との比を定量化することができた(図4参照)。阻血期間の直後に131−アセチルカルニチン信号が約10分の1に減少することが認められ、1時間の再灌流後にも該信号は対照筋に比べてなお非常に低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過分極13C−酢酸塩を含むイメージング媒体を用いる13C−MR検出方法であって、13C−アセチルカルニチン並びに任意には13C−アセチル−CoA又は13C−アセチル−CoA及び13C−酢酸塩の信号を検出する方法。
【請求項2】
13C−アセチルカルニチン及び13C−アセチル−CoAの信号が検出される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記信号を用いて代謝プロファイルが生成される、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
当該方法がインビボ13C−MR検出方法であり、前記代謝プロファイルがヒト又はヒト以外の動物の生体の代謝プロファイルである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
当該方法がインビトロ13C−MR検出方法であり、前記代謝プロファイルがヒト又はヒト以外の動物から導かれる細胞培養物中の細胞、試料、エクスビボ組織又は単離器官の代謝プロファイルである、請求項3記載の方法。
【請求項6】
131−酢酸ナトリウム、131−酢酸−d3ナトリウム、TRIS−131−アセテート−d3131−酢酸又は131−酢酸−d3、トリチルラジカル及び任意には常磁性金属イオンを含んでなる組成物。
【請求項7】
前記常磁性金属イオンが存在し、Gd3+を含む常磁性キレートである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
前記トリチルラジカルが下記式(1)のトリチルラジカルである、請求項6又は請求項7記載の組成物。
【化1】

(式中、
Mは水素又は1当量の陽イオンを表し、
R1は同一又は異なるものであって、1以上のヒドロキシル基で任意に置換された直鎖又は枝分れC1〜C6−アルキル基或いは−(CH2)n−X−R2基(式中、nは1、2又は3であり、XはO又はSであり、R2は1以上のヒドロキシル基で任意に置換された直鎖又は枝分れC1〜C4−アルキル基である。)を表す。)
【請求項9】
動的核分極で使用するための、請求項6乃至請求項8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
過分極131−酢酸ナトリウム、過分極131−酢酸−d3ナトリウム、過分極TRIS−131−アセテート−d3、過分極131−酢酸又は過分極131−酢酸−d3、トリチルラジカル及び任意には常磁性金属イオンを含んでなる組成物であって、当該組成物が請求項6乃至請求項9のいずれか1項記載の組成物の動的核分極によって得られる、組成物。
【請求項11】
過分極131−酢酸−d3ナトリウム又は過分極TRIS−131−アセテート−d3を含んでなるイメージング媒体。
【請求項12】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法で使用するための、請求項11記載のイメージング媒体。
【請求項13】
過分極131−酢酸−d3ナトリウム又は過分極TRIS−131−アセテート−d3

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−536521(P2010−536521A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522340(P2010−522340)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061129
【国際公開番号】WO2009/027388
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】