説明

方法

本発明は、試料中の金属ラベルされた化学種の存在または量を分析する方法を提供する。該方法においては、試料中の金属ラベルされた化学種の金属に可溶性の電気化学的活性な錯体を形成させ、その後金属ラベルされた化学種の存在または量を分析するために電気化学的測定が行なわれる。可溶性の電気化学的に活性な錯体は、試料中に存在または潜在的存在し該金属との間に不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を生じる成分に対して安定である。金属ラベルされた化学種は、検出すべき分析物と、抗体またはその抗原結合フラグメントのような金属ラベルされた結合パートナーとの結合により生成させてることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ラベルされた化学種の存在またはその量を分析する方法および装置に関する。特に、しかし限定するわけではないが、対象とする分析物を含む化学種、または該分析物に特異的に結合する化学種を検出するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体のように特異的な結合能を有する化学種をラベルと複合体化させたものは、分析物の検出における迅速アッセイ用試薬として、日常的に用いられている。そのようなアッセイの一つは、欧州特許公開公報第0291194号に記載されている。このアッセイでは、側方流動多孔質担体および、対象分析物と特異的に結合する可動性の抗体を微粒子でラベルしたものが用いられている。また、やはりこの分析物に特異的な、しかし検出ゾーンに固定化されている第二の抗体を使用している。分析物はラベルされた可動性の抗体と結合して第一の錯体を形成し、ひき続いてこの錯体が検出ゾーンに固定化された第二の抗体に捕捉される。検出ゾーンに存在するラベルの量が試料中に存在する分析物の量の指標となる。上記ラベルは金のような微粒子化学種であってもよく、検出ゾーンにおけるその存在の検出は視覚的に行っても光学的に行ってもよい。
【0003】
ラベルされた特異的結合性化学種を検出する他の方法が、米国特許出願第20030186274号に開示されている。この方法では、金属ラベルされた結合性化学種の量または存在を、強酸のような酸化剤の存在下でラベルを可溶化して金属イオンを生成させることにより検出している。生成したイオンは適切な負電位を印加すると電気化学的に還元されて電極表面に析出し、ついで電位を変化させると、析出した金属が再酸化されて溶液にもどり、その際に電流応答を生じる。この応答の強度が電極表面に析出した金属イオンの量、そして最初に存在したラベルの量の指標となる。この種の電気化学分析法はストリッピングボルタンメトリーとして知られており、微量[例えばppm(parts per million)またはそれ以下]の金属イオンの測定に使用できる。ラベルされた結合性化学種に対し結合特異性を有する分析物であれば、その存在を検出または量を分析するためにこの方法を使用することができる。
【0004】
米国特許第2003018627号に記載の方法はラベルとして金を使用することが例示されている。しかしながら、多くの点において、銀は電気化学的検出に使用するラベルとしてより優れていると考えられる。これは主に銀を酸化して銀イオンを生成するほうが金の場合よりも容易であるためである。例えば、銀から銀イオンを生成するのに必要とされる酸化剤は金から金イオンを生成するときに必要なものより酸化力が弱く、このため診断キットにおける使用により適している。
【0005】
米国特許第2003018627号には、検出され得る金属粒子として銀が開示されているが、ここに記載された方法は、生物試料中における銀や類似の金属の電気化学的分析に使用することはできない。なぜなら、酸化された状態のこれら金属は、血、血漿および尿等の生物試料中に存在する化学種と反応し、不溶性の電気化学的に不活性な錯体を生成するからである。例えば、尿中の塩化物イオン濃度は通常150mMであるため、酸化により生成した銀イオンはすべて直ちにAgClとして沈殿し、電極表面での酸化が阻害される。同様に、生物試料中にやはり存在する臭化物イオンやシステインのような硫黄含有化学種も、銀イオンとの間に不溶性の電気化学的に不活性な錯体を形成する。
【発明の開示】
【0006】
第一の態様において、本発明は、
試料中の、金属ラベルされた化学種の金属を、可溶性の電気化学的に活性な錯体[前記錯体は、試料中に存在するまたは存在する可能性がある成分(前記成分は、前記金属との、不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を形成する。)に比べて安定である。]を形成するようにすること、および
形成された錯体を電気化学的に測定して、金属ラベルされた化学種の存在または量の指標を提供すること
を含む、試料中の、金属ラベルされた化学種の存在または量を測定する方法を提供する。
【0007】
本発明において、金属の電気化学的測定は、該金属から、可溶性の電気化学的に活性な錯体を形成させることを介して行われる。この方法により、金属が、試料中に存在し、上記錯体形成が起こらなければ該金属との間に不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を生成するはずの物質または成分と反応することが抑制される。したがって、生成した錯体の電気化学的測定は、金属を電気化学測定が出来ない化学形態にしてしまう成分を取り除く必要もなく、簡便に行うことができる。米国特許第2003018627号には、そこに開示された方法で生成した金属イオンが錯形成し得ることが開示されているが、その目的は電気化学的に不活性な金属イオンを、分析可能な電気化学的に活性な化合物に変換すること、および電極に吸着され得る、より疎水的な部分構造を形成することである、と記載されている。これとは対照的に本発明においては、電気化学的に活性な金属イオンが、試料中に存在する成分と不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を生成することを防ぐために、錯体に変換される。
【0008】
一つの実施態様において、該電気化学的に活性な錯体は、金属を酸化し、生成した金属イオンを適切な錯化剤と反応させることにより生成される。また金属を適切な錯化剤の存在下で酸化してもよい。
【0009】
本願発明で使用される金属ラベルは銀であってよいが、鉛、カドミウム、銅、タリウム、水銀および亜鉛等の他の金属も使用できる。従来、好適に使用されている微粒子用金属である金と比較して、銀はより容易に白金電極または炭素電極上で測定可能な電気化学応答を発生する。このため、便利で安価に得られる炭素電極を使用できる。
【0010】
さらなる利点は、用いた酸化剤と炭素電極の組み合わせにより、電位の基準として使用できる安定な参照電位が得られることである。このため、例えば通常使用される銀/塩化銀電極のような電極を別途に設ける必要がない。
【0011】
一つの実施形態において、上記金属ラベルは銀ゾルのような微粒子ラベルである。微粒子ラベルを用いる利点は、単一のラベルが酸化されることにより非常に多数、例えばゾルのサイズによっては10またはさらにそれ以上の金属イオンが生成し、このため高感度が得られることである。金属ゾルは市販品が入手可能であり、欧州特許公開公報第0291194号に記載されるような公知の方法で結合性試薬との複合体を調製できる。
【0012】
銀はまた、銀イオンを生成する際に必要となる酸化条件が金などのより侵されにくい貴金属にくらべて苛烈でないので、金よりも使用に好都合である。例えば、金属状態の金をイオン性の金化学種(AuCl)へと酸化するには、濃硝酸と濃塩酸の混合物、または次亜塩素酸ナトリウムと塩酸が必要である。対照的に、銀粒子を銀イオンに酸化するには、過酸化物、第二鉄イオンおよびフェリシアン化物が酸化剤として使用できる。また、より好ましいpH、たとえば3から7で酸化することができる。
【0013】
本発明においては、上記金属ラベルに電気化学的検出が可能な電気化学的に活性な錯体を形成させる。ここでいう「電気化学的に活性」な化学種とは、一つまたはそれ以上の電子を受容するまたは放出することのできる、イオン、中性化合物または錯体である。
【0014】
上記電気化学的に活性な錯体の役割は、金属が試料中の化学種と反応して電気化学的に検出不能な不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を形成するのを防ぐことである。例えば銀イオンは、塩化物イオンのようなハロゲン化物イオンと反応して不溶性の塩を生成し、もしくはシステイン、グルタチオン、システイニルグリシンまたはその他のスルフヒドリル基(メルカプト基)含有化合物のような硫黄含有化学種と反応して電気化学的に不活性な銀イオン錯体を生成する。したがって、電気化学的に活性な錯体はこのような化学種の存在下でも安定でなければならない。当業者には周知のことであるが、電気化学的に活性な錯体は、金属(または金属イオン)および錯化剤との間の動的平衡にある。また、金属または金属イオンは、試料中に存在する、該金属との間に不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を生成し得る成分との間にも平衡が成立する。そのため、原則として、上記の化学種はすべて、いくらかの量では存在することになる。しかしながら、これら平衡の位置は、可溶性電気化学的に活性な錯体を形成し得る錯化剤の量、試料中に存在し、該金属または金属イオンとの間に不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を形成し得る化学種の量、および存在する該金属または金属イオンの量に、少なくとも部分的には依存する。このため、ここでいう「安定」という用語は電気化学的に活性な錯体が優先的に生成する状況であって、電気化学的に不活性なおよび/または不溶性の錯体の濃度が電気化学的に活性な錯体の濃度に対して無視できる状態をいう。電気化学的に不活性なおよび/または不溶性の錯体の濃度が、実質的に測定結果に影響を与えない程度であればよい。最初に存在する錯化剤の量が多くなればなるほど、平衡は可溶性の電気化学的に活性な錯体が生成する方向へ移動し、したがって、存在する金属または金属イオンの量が少なくなる。このため、電気化学的に活性な錯体が、試料中に存在し金属との間に不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を生成し得る成分の濃度にかかわらず、優先的に生成することを確実にするため、上記錯化剤は過剰に用いられる。
【0015】
本発明は、例えば血、血漿、尿、リンパ液、胃液、胆汁、血清、唾液、汗および脳脊髄液等の哺乳類の体から得ることのできるすべての液体を含む生物試料に好適に使用される。さらに、これらの体液は処理されたもの(例えば血清)でも未処理のものでもよい。対象から試料を得る方法は当業者に公知である。上記生物試料は固体試料、例えば細胞組織を処理して得られた液体試料であってもよい。本発明はまた、上記金属との間に不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を生成し得る化学種を多量に含む可能性のある、廃水や海水等の液体工業試料または液体環境試料を含む他の液体の測定にも適している。試料は植物起源であってもよい。被験試料がタンパク質成分を含む場合、ヨウ化アセトアミドを添加してタンパク質中のチオール基と反応させチオエステル化してもよい。これにより、金属イオンがチオール基を介してタンパク質と結合し、可溶性の電気化学的に活性な錯体を形成できなくなることを防ぐ。
【0016】
上記のように、電気化学的に活性な錯体は、金属を酸化して生成した金属イオンを適切な錯化剤と反応させることにより生成することができる。金属を酸化し得る好都合な酸化剤はいずれも使用でき、例えば過マンガン酸イオン、クロム酸イオン、過酸化物、過硫酸イオン、第二鉄イオンおよびフェリシアン化物イオンが使用できる。一つの具体的な実施形態において、該酸化剤は特に穏和な酸化剤である第二鉄イオンである。本発明によれば、酸化剤を還元された形で用い、必要な時にのみ酸化して活性型にしてもよい。このときの酸化は化学的に行っても電気化学的に行ってもよい。ある実施形態においては、還元された形の酸化剤と被験試料とを接触させることにより酸化を誘起することができる。
【0017】
一つの実施形態において、銀は酸化状態+IIIの鉄を用いて下記反応式のように酸化される:
Fe3+ + Ag → Ag + Fe2+
酸化状態+IIIの鉄は硝酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、硫酸第二鉄アンモニウム等の適切な可溶性の第二鉄塩の形で用いることができる。
【0018】
硝酸第二鉄に代わるものとしては、下記反応式に従いフェリシアン化カリウムを使用し、ついでチオシアン酸イオンまたはチオ硫酸イオンと反応させてもよい:
4KFe(CN)6(aq) + 4Ag(s) → 3KFe(CN)6(aq) + AgFe(CN)6(aq)
【0019】
フェリシアン化物イオン(FeIII)は、銀ゾル粒子のような金属を酸化するための電極上でフェロシアン化物イオン(FeII)を酸化することにより発生させてもよい。この方法にはいくつかの利点がある。第一に、フェリシアン化物イオンを、使用箇所において、必要とされる時点で、方法と量を制御して発生させることができる。このことにより、金属の測定ゾーンからの拡散による損失を最小限に抑制することができる。酸化剤の発生と金属イオンの濃度分析に同一の電極を使用してもよい。第二に、乾燥した状態においてフェロシアン化物はフェリシアン化物よりも安定であるから、試料添加時まで本発明の装置中またはキット中に保管することができる。第三に、フェロシアン化物イオンはフェリシアン化物イオンに比べ、銀とより弱い錯体を生成するので、フェリシアン化物イオンが必要になった時だけ発生させることは有益である。
【0020】
フェロシアン化物イオンが銀に対する反応性が比較的低く、酸化された場合のみ反応可能になるという事実は、分析物と結合して銀ラベルされた化学種を生成するために銀ラベルされた結合パートナーを使用する本発明の実施態様(下記参照)において重要である。これらの実施態様において、分析物と未結合の銀ラベルされた結合パートナーがフェロシアン化物イオンと接触しても、その未結合の銀ラベルされた結合パートナーが、可溶性の電気化学的に活性な錯体を生成する銀イオンとして働き結果をゆがめる危険性は生じない。分析物と未結合の銀ラベルされた結合パートナーをすべて除去した後に、フェロシアン化物イオンを酸化してフェリシアン化物イオンを発生させ、結合済みの銀ラベルされた化学種の銀だけに、可溶性の電気化学的に活性な錯体を形成させることができる。
【0021】
このことにより、必要な試薬を装置中で乾燥した状態で準備しておき、使用者は液体試料を加えるだけで試験を行うことができるワンステップの試験/キットが、非常に容易に提供できるようになる。このような試験/キットにおいては、試料自体が洗浄液として働き、未結合の銀ラベルされた結合パートナーを、可溶性の電気化学的に活性な錯体を検出するゾーン/部分から除去することができる。フェロシアン化物は上流において供給しても検出ゾーンで供給してもよい。水溶性が高く、銀と比較的反応しづらく、乾燥状態で安定であることから、フェロシアン化カリウムを使用することができる。
【0022】
銀イオンの生成後に、下記式のように電気化学的に検出可能な可溶性の銀イオン錯体を生成するために、過剰のチオシアン酸アンモニウムを用いてもよい。
Ag + m(NH) + n(SCN) → [Ag(NH)m(SCN)n]m−n+1
【0023】
チオシアン酸塩の代わりに、過剰のチオ硫酸アンモニウムを使用して可溶性の銀イオン錯体を生成させてもよい。この銀イオン錯体は不溶性銀塩よりも優先的に生成し、したがって銀イオンと間に不溶性の塩を生成し得る化学種が存在していても、可溶性の錯体の形のまま残っている。
【0024】
銀(またはその他の金属)を酸化し安定な錯体を生成するために使用する試薬は、乾燥状態であってよく、このことは、これら試薬をイムノアッセイ装置に組み込む際に好都合である。使用時、これら試薬は分析対象の生物試料により溶解される。
【0025】
金属ラベルとして銀を使用することのさらなる利点は、電極からストリップされた銀化学種の還元電位が銀イオンのものより小さい負電位であることである。このため、存在し得るアスコルビン酸イオンならびに銅、カドミウムおよび水銀などの他の金属イオンのような電気化学的に活性な化合物からの干渉とバックグラウンド効果を抑制することができる。
【0026】
電気化学的に活性な錯体の測定は、好都合な電気化学的方法を適宜使用できる。線形、サイクリック、矩形波、ノーマルパルスまたはディファレンシャルパルスのいずれであってもよい電位スキャン方式、もしくはスーパーインポーズドシヌソイダル電圧(superimposed sinusoidal voltage)方式のアノードストリッピングボルタンメトリー(またはポーラログラフィー)を用いることができる。あるいは、アノードストリッピングクロノポテンショメトリーを使用してもよい。他に使用可能な測定法としては、イオン交換ボルタンメトリー;線形、サイクリック、矩形波、ノーマルパルスまたはディファレンシャルパルスのいずれであってもよいスキャン方式、もしくはスーパーインポーズドシヌソイダル電圧方式の吸着カソードストリッピングボルタンメトリー(またはポーラログラフィー);クロノアンペロメトリー(chronoamperometry);クロノクーロメトリー(chronocoμlometry);線形、サイクリック、矩形波、ノーマルパルスまたはディファレンシャルパルスのボルタンメトリー(またはポーラログラフィー);もしくはスーパーインポーズドシヌソイダル電圧のボルタンメトリー(またはポーラログラフィー)などが挙げられる。
【0027】
上記金属ラベルされた化学種は、検出すべき分析物と金属ラベルされた結合パートナーとの結合により生成することができる。したがって、金属ラベルされた化学種と、それゆえ該金属ラベルされた化学種から生成した可溶性の電気化学的に活性な錯体は、生物試料中における該分析物の存在または量を示す指標となる。金属ラベルされた結合パートナーは検出対象の分析物と結合することができればいかなるものでもよい。よって、検出対象の分析物に応じて、抗体またはその抗原結合フラグメント、タンパク質受容体、T細胞受容体、抗原、ハプテン、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド、ボロン酸誘導体、ポリマー酸または塩基、炭水化物、レクチン、相補的なヌクレオチドまたはペプチド配列、特異的タンパク質結合物質、核酸(DNAまたはRNAなど)、および分析物抱合体などが挙げられる。
【0028】
さらなる態様において、本発明は、
分析物を含む可能性のある試料を金属ラベルされた結合パートナーと接触させて金属ラベルされた化学種を形成させること;
該金属ラベルされた化学種を酸化し、生じた金属イオンを、
可溶性の電気化学的に活性な錯体[該錯体は、試料中に存在するまたは存在する可能性がある成分(該成分は、該金属との、不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を形成する。)に比べて安定である。]を形成するようにすること、および
形成された錯体を電気化学的に測定して、金属ラベルされた化学種の存在または量の指標を提供すること
を含む、試料中の分析物の存在または量を分析する方法を提供する。
【0029】
ここで用いた「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子中の免疫学的に活性な領域またはフラグメントを指し、すなわち、抗原と特異的に結合する抗原結合部位を含む分子である。本発明で使用される免疫グロブリン分子は、いかなるクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgDおよびIgA)またはサブクラスの免疫グロブリン分子であってもよい。抗体としては、これらに限られないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ヒト化およびキメラ抗体、一本鎖抗体、FabフラグメントおよびF(ab’)フラグメント、Fab発現ライブラリーにより産生されたフラグメント、抗イディオタイプ(anti−Id)抗体およびこれらのエピトープ結合フラグメントが挙げられる。抗体、または一般的にいずれの分子は、該抗体が抗原に対して優先的に結合する、例えば、他の分子との交差反応性が約30%未満、好ましくは20%、10%または1%であれば、「特異的に結合」するという。抗体の領域とはFvおよびFv’領域を含む。
【0030】
上記検出対象分析物はイムノアッセイにより測定してもよい。このようなアッセイは競合免疫測定法であってもまたは非競合(サンドイッチ)免疫測定法であってもよい。このようなアッセイは、均一系も不均一系も、当該分野においてよく知られている。
【0031】
一つの実施形態において、イムノアッセイは、被験対象物から得た試料を適切な金属ラベルされた抗体と接触させて金属ラベルされた化学種を生成し、該化学種に対し電気化学的に活性な錯体を生成するための処理(該金属の酸化と生じた金属イオンの錯形成であってもよい)を行い、ひき続いて、その電気化学的に活性な錯体を電気化学的に測定して、錯体の量または存在(これは分析物の量または存在に対応する)を分析することにより行われる。
【0032】
生物試料中の分析物は2段階のサンドイッチアッセイにより検出することができる。最初の段階で、捕捉試薬(例えば、抗−分析物用の抗体)を使用して分析物を捕捉する。必要に応じて、該捕捉試薬を固相に固定化してもよい。第二の段階では、金属ラベルされた検出試薬を使用して分析物を検出する。あるいは、捕捉試薬を金属ラベルし、検出試薬を固定化してもよい。この場合には、検出試薬が固定化された特定の部分で分析物を検出することができる。
【0033】
一つの実施形態において、側方流動イムノアッセイ装置を、試料中に分析物マーカーが十分な量で存在することにより、側方流動アッセイの捕捉ゾーンにおいて「サンドイッチ」相互効果が引き起こされる「サンドイッチ」方式で使用してもよい。ここで使用される捕捉ゾーンは、検出対象分析物を捕捉するのに適した抗体分子、抗原、核酸、レクチン、および酵素のような捕捉試薬を含んでいる。本発明の方法で使用される他のアッセイとして、限定の意図はないが、フロースルー装置が挙げられる。
【0034】
本発明はまた、
試料中に存在すると考えられる分析物と結合して金属ラベルされた化学種を形成することのできる金属ラベルされた結合パートナー、
該金属ラベルされた化学種の金属から、可溶性の電気化学的に活性な錯体[該錯体は、試料中に存在するまたは存在する可能性がある成分(該成分は、該金属との、不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を形成する。)に比べて安定である。]を形成させるための一つまたはそれ以上の試薬、
金属ラベルされた結合試薬が分析物と結合することのできる容積空間、および
前記一つまたはそれ以上の試薬が可溶性の電気化学的活性な錯体を形成させ得るための、前記金属ラベルされた化学種を固定するための捕捉ゾーン
を含むキットを提供する。
【0035】
上記キットは可溶性の電気化学的活性な錯体を電気化学的に測定するための読取装置と組み合わせて提供されてよい。一つの実施形態において、キットは使い捨てで該読取装置は再使用でき、それぞれの部品を使用前に、一緒にかみ合わせるなどして組み立てる。あるいは、これらを一体型システムとして提供するものであってもよい。
【0036】
上記キットまたは読取装置には、電気化学的測定用の少なくとも2つの電極が設けられていてもよい。キット中に設けられる場合、電極は端子を介して、読取装置の内部または外側表面にある電極端子に接続できるようにし得る。読取装置中に設けられる場合には、キットと読取装置がかみ合わされたときに電極がキット中の適切な場所に位置するようにキットは配置される。
【0037】
読取装置は電極に信号を与え、また電極から得られる特定の信号の変換および処理を行うための信号変換および信号処理手段を備えていてもよい。読取装置は情報を表示する表示手段;キット設置手段、電源または外部電力取り込み手段、記憶手段、キャリブレーション手段、および必要であればデータ入出力手段を含んでいてもよい。
【0038】
一つの実施態様において、キットの容積空間はマルチウェルプレートなどにより形成される。試料はウェルに入れられ、そこに金属ラベルされた結合パートナーが加えられる。この時、存在する分析物は金属ラベルされた化学種を生成する。この化学種は、捕捉ゾーン(例えばフィルターまたは固定化抗体)に固定化され、金属ラベルされた化学種の金属に可溶性の電気化学的に活性な錯体を形成させるための一つまたはそれ以上の試薬がそこに添加される。あるいは、上記容積空間は、側方流動多孔質キャリアであってもよい多孔質キャリアまたは微小流体装置により形成または提供されてもよい。
【0039】
本発明は金属イオンの生成およびその後の錯形成を伴うものであるから、正確な結果を得るためには、電気化学測定は錯形成された金属イオンのみに限定されなければならない。いいかえれば、錯形成していない金属ラベルされた結合パートナーは酸化されるべきではなく、または酸化されたとしても測定結果に影響を与えてはならない。これは、固定化された金属ラベルされた結合パートナーと分析物との錯体を形成するため、試料をまず結合パートナーと接触させ、ついで未結合の金属ラベルされた結合パートナーを捕捉ゾーンの近傍から洗浄して除去することにより、達成できる。その後、電気化学的に安定な金属イオン錯体を形成させるために、金属ラベルされた化学種の金属に可溶性の電気化学的に活性な錯体を形成させるための一つまたはそれ以上の試薬を、固定化ゾーンに接触させればよい。
【0040】
上記電極はスクリーン印刷、インクジェット印刷、オフセットリソグラフィ印刷、ロータリー印刷などの多様な印刷方法など多くの方法により得ることができる。あるいは、真空蒸着またはスパッタリングにより電極を蒸着させてもよい。電極は基材の内面に設けられていてもよい。2つの電極から成る構成においては、一つの電極は作用極であり他方は対電極/参照電極である。参照電極として機能し得る第三の電極を設けてもよい。同じ電極あるいはさらに追加の電極を、チャンバー中の試料の存在を示すためおよび/またはチャンバーが正しく満たされていることを確認するための電極として使用してもよい。該電極はスクリーン印刷された平板状の炭素電極3本から成る構成体の一部であってもよい。この構成体は基材上に低温炭素パターンを印刷し、そしてその上に電極の領域を規定し、また他の炭素部分を水と接触しないように被覆するために、低温誘電体のパターンを重ね印刷することにより製造することができる。該基材は、アルミナも使用できるがポリマーであってもよい。電極材および誘電体の積層はスクリーン印刷など種々の方法で行うことができる。
【0041】
一つの実施形態において、金属ラベルされた化学種(結合パートナー−分析物錯体)の固定化または捕捉は、フィルター構造を用いることにより行われる。分析物が存在しない場合、金属ラベルされた結合パートナーはフィルターを通過し、分析物が存在する場合、錯体が形成されてフィルターに固定化または捕捉されることになる。
【0042】
本発明のそれぞれの態様の好ましい特徴はそれぞれ必要な変更がなされた他の態様についても同じである。ここに記載した先行文献は法律で許される限り最大の範囲まで取り入れられる。
【0043】
添付の図面を参照して、本発明を以下の実施例でさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0044】
血清中の銀ゾルの電気化学的測定
1mlの血清試料にチオシアン酸アンモニウム(0.4g)を添加した。酸化剤として硝酸第二鉄(0.01g)を含む1%EDTA(100μl)溶液をpH4の緩衝液(クエン酸/クエン酸ナトリウム)とともに使用した。このpHは、以前より生物試料および純粋な緩衝液において最適な銀イオンの分析シグナルを与えることが知られている(図1参照)。図1から、pH4は最大の電流読み取り値、すなわち最高感度を与えるから最適であることがわかる。銀イオン錯体の酸化反応はpH依存性であることもわかる。しかし、全血中で測定を行う場合は血液試料の凝固を防ぐためpH7のようにより高いpHを選択してもよい。濃度既知の銀粒子10μlを血清試料に添加すると、急速に溶解し光学的に透明な溶液が得られた。
【0045】
生成した銀イオンの測定は、スクリーン印刷された平板状の炭素電極3本構成体(図2参照)上で行った。この電極は低温炭素のパターン(D2、グウェントエレクトロニックマテリアルGwent Electronic Materials社)を25μアルミナ基材上に印刷することにより製造された。ついで、この上に電極領域を規定し、他の炭素領域を水と接触しないように被覆するために低温誘電体のパターン(グウェントエレクトロニックマテリアルGwent Electronic Materials社)を重ね印刷した(図2参照)。
【0046】
各測定において電極表面に添加する試料の体積は10μlとした。炭素/チオシアン酸アンモニウム/第二鉄イオンを参照電極として用いた。これはAg/AgCl/3.5M KCl半電池に対して約−450mVの電位差を有する。ここでは、電気分析手法として高速矩形波アノードストリッピングボルタンメトリー(FQWASV)を用いたが、他の標準的な電気分析法を用いてもよい。
【0047】
測定はイージースキャン(Ezescan(商品名)、ウィストンブルックテクノロジーズWhistonbrook Technologies社)を用いて、ストリッピング矩形波ボルタンメトリーモードで行った。事前濃縮は−900mVの蓄積電位(攪拌無し)で120秒間行った。この事前濃縮時間(必要に応じて5秒間の休止時間を設けてもよい)の後に、−900mVから−100mVのストリッピングを開始した。この時の操作条件は、電位ステップが1mV;ピーク幅が5ms;半サイクル振幅が25mV;周波数が100Hzとした。スキャン中に得られたピーク強度を試料中の銀イオン濃度の指標として採用した。あるいは、ピークが囲む面積を測定して電荷の指標としてもよい。
【0048】
得られた結果を図3および図4に示す。最初に存在した銀粒子の量が増加するにつれて応答電流の増加が認められる。
【実施例2】
【0049】
血清中のhCGレベルの分析
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を分析物として、実施例1の電気化学的方法を用い、標準的なELISAタイプの処理を行って血清中のレベルを分析した。簡潔に述べると、種々の濃度で分析物hCGを含む試料を銀微粒子ラベルされた抗体(抗−αhCG)と混合し、第一の抗体−分析物錯体を形成させた。ついでこの錯体を、固定化抗体試薬(抗−βhCG)を含むELISAプレートに加え、第二の固定化された抗体−分析物−抗体「サンドイッチ」錯体を形成させた。最後に、過剰の未結合の銀微粒子−ラベルされた第一の抗体を洗浄によりプレートから除去した。この様子を図5に模式的に示す。
【0050】
ひきつづいて実施例1に記載された試薬を含む試料水溶液を添加して、銀−抗体錯体を酸化し可溶性の銀イオン錯体を形成させ、その後銀イオンの電気化学測定を行って存在する分析物hCGの量を分析した。
【0051】
銀ラベルされた抗体試薬およびELISAプレート上に固定化された試薬の調製は、以下に示す標準的な手順で行った。
【0052】
S−アセチルメルカプトコハク酸(SAMSA)(シグマSigma社)を抗−αhCGモノクローナル抗体(Mabs)と反応させた。PD−10型サイズ排除クロマトカラム(ファルマシアPharmacia社)を25mlのpH6.0リン酸緩衝液で平衡化し、2.5mlのMAbストック溶液をカラムに加え、3.5mlのpH6.0リン酸緩衝液で溶出した。溶出されたMAb溶液のうちの100μlをとり、そこに900μlのリン酸緩衝液を加えて280nmの吸光度を測定し、濃度を算出した(Abs=εcl、ε=1.4)。溶液中(3.4ml残存分を含む)のタンパク質の全質量を算出し、MAbのモル数を算出した(MAbのMW=150,000)。35当量過剰とするのに必要なSAMSAのモル数を算出し(SAMSAのMW=174.2)、このSAMSA必要量を、濃度50mg/mlのSAMSAを含むジメチルホルムアミド(DMF)溶液として添加する際に必要な体積(μl単位)に換算した。
【0053】
SAMSAを乾燥したDMFに50mg/mlの濃度となるように溶解し、この溶液の適切な量を、MAb溶液に攪拌しながら添加した。得られた溶液を室温で一晩、ミキサーを用いてインキュベートした。
【0054】
銀コロイドと上記で得られたSAMSAを結合した抗−αhCGモノクローナル抗体(MAb)との複合化は、下記のように行った。
【0055】
既知量の銀コロイドを非特異的結合を抑制するために非イオン系界面活性剤(プルロニック(Pluronic) F108−PMPI)とインキュベートした。5mgのF108−PMPIを脱イオン水に溶かし、エッペンドルフチューブに入れ、そこに約2mgの銀ゾルを添加した。これを室温で1時間ロータリーミキサーを用いてインキュベートした。ついで、得られた溶液を5℃で15分間17000rpmで遠心分離した。上清を取り除き、ペレットを50mMのHEPES緩衝液(pH7.5)に再懸濁させた。
【0056】
銀コロイドに対する結合性を高めるため、上記SAMSA−MAbを脱保護基し、モノクローナル抗体チオール(MAb−SH)に変換した。SAMSA−MAb溶液の1mlに、40μlの0.1Mトリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン(Tris)溶液を添加し、5分間混合した。20μlの0.1Mエチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を添加し、5分間混合した。40μlの1Mヒドロキシルアミン溶液を添加し、5分間混合した。NAP−10充填カラム(ファルマシア(Pharmacia)社)を20mlの4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液(pH7.5)により平衡化し、1mlの脱保護基したMAb溶液をカラムにロードし、1.5mlのHEPES緩衝液で溶出した。
【0057】
この脱保護基したSAMSA−Mabを上記銀コロイドと反応させた。上記銀コロイド懸濁液は二分し、各試料に500μlの脱保護基したSAMSAAb(MAb−SH)溶液を混合しながら添加した。この試料を一晩インキュベートし、5℃、17000rpmで30分間遠心分離を行い、上清を除去し各試料ペレットを500μlのホウ酸緩衝液(pH8.6)に再懸濁させた。2つの試料は再び合わせて一つのエッペンドルフチューブに入れ、5℃、17000rpmで30分間遠心分離した。上清は除去し、固体を1mlのホウ酸緩衝液に再懸濁させた。得られた銀微粒子ラベルされた抗体は4℃で保存した。
【0058】
モノクローナル抗−βhCG抗体試薬をELISAプレート(グライナーハイバイディングプレーツGreiner highbinding plates)社に下記のように固定化した。
【0059】
抗−βhCGを溶解した50mMホウ酸緩衝液(pH8.6)200μlを各ウェルに加えた。プレートに蓋をして、37℃で1時間、震盪しながらインキュベートした後、洗浄した。DBS/BSA緩衝液(ダルベッコ(Dμlbecco)社、リン酸塩で緩衝化した生理食塩水−100mlR.O.水あたり1錠、1%BSA)をウェルに加え、一晩静置した後、緩衝液を除去した。所望の濃度(0,0.2,1,5,10,20および50mlU)のhCGを含むDBS/BSA緩衝液200μlをウェルにそれぞれ2サンプルずつ添加し、37℃で1時間インキュベートした後、洗浄した。SAMSA−MAbと結合させた銀コロイドを含むホウ酸緩衝液(pH8.6)100μl(過剰量)を各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした後、洗浄した。
【0060】
各ウェルに5Mチオシアン酸アンモニウム、0.05Mクエン酸緩衝剤(pH4)、1M硝酸第二鉄、1%EDTAを含む溶液100μlを加えた後、37℃で30秒間インキュベートして、固定化された銀−抗体錯体を酸化した。溶液をピペットで取り、実施例1に記載した電極3本構成体上にのせ、従来のAg/AgCl参照電極を使用したこと以外は実施例1に従って、銀イオンの量を電気化学的に測定した。したがって蓄積電位は−300mVとし、ストリッピング電位は−300mVから+400mVの間で変化させた。結果を図6に示す。この図から、分析物の濃度が増加するにつれて、電流応答が増加することが認められる。
【実施例3】
【0061】
磁気捕捉性粒子および銀ゾルシグナル粒子の利用に基づくNT−proBNPイムノアッセイ
この例において、銀ラベルされた抗NT−proBNP抗体およびラテックスコートされた磁性粒子でラベルされた抗NT−proBNP抗体を、NT−proBNPと混合してサンドイッチ錯体を形成させた。生じた試料を磁場下で濃縮したが、これは未結合の銀ラベルされた抗体を錯体(および未結合の磁性粒子でラベルされた抗体)から分離する効果がある。上清を除去し、試料をPBSに再懸濁し、電極表面にのせた。フェロシアン化物を電極表面に添加し、酸化して活性試薬であるフェリシアン化物イオンとした。生成した銀イオンの量を、電極表面で還元し続いてエレクトロストリッピングを行うことにより測定し、電荷も測定した。この実験を、種々の濃度のNT−proBNPを用いて繰り返し行い、得られた結果を電荷と濃度(pg/ml)の関係として図7に示す。ここで、濃度(pg/ml)は最終濃度であり、溶液添加時の濃度ではない。
【0062】
この実施例、および以下の例で、作用極面積は0.8mm×4mm=3.2mmであり、電荷は、バックグラウンド(荷電電流、干渉などによる)を差し引いた後、約−0.4〜0.0Vのピーク下の領域を積分することにより求めた。電位(単位V)は(炭素/KFe(CN)、KFe(CN)、NHSCN)に対するものとしてよい。
【0063】
さらに詳細には、銀ゾル複合体はブリティッシュバイオセルインターナショナル(British Biocell international)社により抗NT−ProBNP抗体および直径80nMの銀粒子(OD 10)を使用して調製された。磁性粒子複合体はラテックスコートした常磁性の粒子(直径1.5μm)の表面にHytest 15F11 抗NT−proBNP抗体を吸着させたものを使用し、BSAでブロックして固体含量10%の溶液とすることにより調製した。
【0064】
アッセイは銀ゾル複合体(10μl)、磁性粒子複合体(5μl)およびNT−proBNPを添加した試料(5μl)を5分間インキュベートすることにより行った。その後試料を磁場下で濃縮し、上清を除去した。試料をPBS(10μl)に再懸濁し、棒磁石を用いて濃縮して上清を除去した。この操作をもう1度繰り返した後、粒子を再懸濁して電極表面上に載置した。この時磁性粒子はすべて作用極上に移動した。4MのSCN溶液 1mlに0.106g KFe(CN)を溶解した溶液(5μl)を電極上に添加した。電気化学的測定は、実質的には実施例1に記載したように、3つのスクリーン印刷炭素電極をそれぞれ作用極、対極および参照電極として使用し、定電圧オートラブを用いて行った。使用した炭素インクは、グウェントエレクトロニックマテリアル(Gwent Electronic Materials)社製のD2炭素インクである。
【0065】
銀のアノードストリッピングボルタンメトリーによる電気化学的分析におけるパラメータは次のとおりである:
1.Fe2+からFe3+への変換のため0.35Vで10秒間
2.−1.6Vで5秒間
3.−1.2Vで55秒間
4.1Vs−1のスキャン速度で−1.2Vから0.1Vまでスキャン
【0066】
ステップ1において、作用極上でフェロシアン化物イオンが酸化されてフェリシアン化物イオンが生成し、このフェリシアン化物イオンは銀を酸化して可溶化する。ステップ2および3において銀は電極上に析出し、ステップ4でその銀が電極からストリップされる。ストリップ電荷Qは、バックグラウンド(荷電電流、干渉などによる)を差し引いた後、約−0.4〜0.0Vのストリップ時ピーク下の領域を積分することにより求めた。
【0067】
図7に分析物濃度の増加によるストリッピング電荷の応答を示す。
【実施例4】
【0068】
チャネル中のフィルターを使用した、直径20umラテックス捕捉性粒子の銀ゾルシグナル粒子によるトラップを原理とするNT−proBNPイムノアッセイ
この例では、ラテックスラベルされたNT−proBNP抗体および銀ラベルされたNT−proBNP抗体をNT−proBNPと混合した。得られた混合物をチャネル中に注入し、細孔サイズ20μm以下のフィルター領域へと毛細管効果で流入させた。フィルターはラテックスラベルされた抗体−分析物−銀ラベルされた抗体錯体(および未結合のラテックス抗体も同様)を捕捉する役割を果たす。未結合の銀ラベルされた抗体はフィルターを通過する。その後、捕捉された化学種を洗浄して、残存する未結合の銀ラベルされた抗体を除き、フェロシアン化物溶液を添加した。試薬の酸化および銀イオンの検出はともに、フィルター領域の近傍でかつ上流に設けられた電極により行われる。したがって、抗NT−proBNPと20μmラテックス捕捉性粒子との複合体は、NT−proBNPを捕捉している銀ゾルと抗NT−proBNPとの複合体を捕捉するのに利用される。
【0069】
ラテックス粒子をチャネル中の電極に隣接するフィルターに捕捉させ、捕捉された粒子が詰まったベッドに溶液を通すことにより、未結合の銀複合体を洗浄除去した。結合した銀粒子を可溶化し、続いて電極上のストリッピングボルタンメトリーにより分析した。この実験を数回繰り返し、電荷(電極で検出された銀イオンの量に対応する)を求めた。図8は添加したNT−proBNPの量に対する電荷の測定値をプロットしたものを示している。
【0070】
さらに詳細には、装置(図9参照)はグウェントエレクトロニックマテリアルGwent Electronic Materials)社製のD2炭素インクをマイラーシート上にスクリーン印刷した作用極、対電極および参照電極から成る。これを、深さ50umの直線状のチャネルとフィルターを備え、親水化処理を施したポリスチレン成型品上に、U字型の両面粘着テープを使用して貼り付けた。作用極(WE)はフィルターの隣の一番左の電極であり、試料をチャネルの右側に添加して試験を行った。使用したチャネルの幅は4mmであった。フィルターの寸法は次の通りであった:長さ5mm、幅4mm、チャネル幅30μm、壁の厚み50μm。フィルター中のチャネル(開口部)の数は49であった。
【0071】
溶液は以下のように調製した。NT−proBNPをPBSA(リン酸塩で緩衝化した生理食塩水、0.05%アジ化物を含む)に溶解した標準溶液(1.953×10pgml−1)を、40mgml−1BSAで希釈して、他の濃度の標準溶液を調製した。
【0072】
1.5mlエッペンドルフチューブに、40mgml−1のBSAを含むPBSA溶液176μlおよび30μlの標準溶液を入れた。これを混合した後、40μlの銀ゾル(このゾルはブリティッシュバイオセルインターナショナル(British Biocell international)社により抗NT−ProBNP抗体および直径80nMの銀粒子を使用して調製され、β−カゼインでブロックされ、0.5mgml−1のβ−カゼインを含む10mMホウ酸緩衝液(pH8.5)に懸濁されたものである)を添加し、さらに60秒間混合した。これに公称5%固形分のラテックス(直径20μmであり、15FI1抗体のPBSAを用いて感作化したもの)33μlを添加し、溶液を3分間混合した。
【0073】
0.5%ツィーン20(Tween20)溶液を添加して装置を満たし、続いてビーズベッドにラテックス、NTproBNP標準溶液、銀ゾル溶液を加えた。未結合の銀を取り除くため15μlのPBSAで洗浄し、さらに5μlを加えてキャピラリーを満たした。充填されたベッドを目視により観察して、覆われている電極領域を見積もった。キャピラリーをゲルブロットで吸引乾燥したが、この時充填されたビーズベッド中には液体が残った。電気化学的測定の直前に、0.8MのSCNおよび50mMのフェロシアン化物を含むPBSA溶液2.5μlをビーズベッドに添加した。
【0074】
電気化学測定においては:
1. 0Vで5秒間のプレコンディショニング
2. 0.5Vで40秒間のバイアス
3. −1.0Vで60秒間のホールド
4. 電位が−1.0Vからスキャン速度0.5Vs−1で最終電位0.5Vまでスキャン。
【0075】
ステップ2では、作用極上でフェロシアン化物イオンが酸化されてフェリシアン化物イオンが生成し、このフェリシアン化物イオンが銀を酸化して可溶化する。ステップ3において、銀は電極上に析出し、ついでステップ4でその銀が電極からストリップされる。ストリップ電荷Qはバックグラウンドを差し引いた後、ストリップ時におけるピーク下の領域を積分することにより求めた。
【0076】
結果を図8に示す。電荷の測定値をNT−proBNPの濃度に対して対数目盛りでプロットしてある。エラーバーは3回または4回の測定におけるシグナルの標準偏差を表す。図8は分析物濃度の増加によるストリッピング電荷の応答を示している。
【実施例5】
【0077】
血漿中の銀の測定におけるヨウ化アセトアミドの使用
この例はヨウ化アセトアミドの添加の効果を示す。血液や血漿のようなタンパク質を含む溶液の存在下で銀を使用する場合に起こり得る問題は、銀がチオール基を通してタンパク質と強固に結合し、電気化学的に不活性になったり電気化学的活性が減少したりすることである。それゆえ、やはりタンパク質と強固に結合するヨウ化アセトアミドを添加してタンパク質のマスク剤として機能させ、タンパク質の銀との結合能力を除いた。この試薬は装置中に乾燥状態で提供することができる。
【0078】
ヨウ化アセトアミドを使用することの原理はそれがタンパク質中にあるチオール基と反応してチオエステルをつくることである。ヨウ化アセトアミドの構造およびチオールとの反応を以下に示す:
【0079】
【化1】

【0080】
ヨウ化アセトアミドをメタノール中の500mMストック溶液から80%濃度で血漿試料に添加し、5mMの濃度とした。20μlの血漿(ヨウ化アセトアミド添加または無添加)と、4MのNHSCN、250mMのフェリシアン化カリウム、25mMフェロシアン化カリウム、それに各種の濃度のAgNOとを含む溶液5μlとを混合した。得られた4mMヨウ化アセトアミド、0.8MのNHSCN、50mMフェリシアン化カリウム、5mMフェロシアン化カリウムおよび各種の濃度のAgNOを含む溶液を、電極上に載置した。電位を1V/sで−1.6Vまでスキャンし、−1.6Vで5秒間保持した後、−1.2Vに切り替え、115秒間保持した。ひき続いて、電位を1V/sで0.1Vまでスキャンした。ストリップ電荷Qはバックグラウンドを差し引いた後、ストリップ時ピーク下の領域を積分することにより求めた。
【0081】
結果を図10に示す。ヨウ化アセトアミドを添加しない場合は、低濃度の銀のシグナルは非常に小さい。ヨウ化アセトアミドを添加すると銀のシグナルをいくらか回復し、より低濃度の銀の検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】チオシアン酸アンモニウムと硝酸第二鉄を含む水溶液と混合することにより銀が銀イオン錯体を形成する際の最適pHを示すための電流vs電位のグラフである。
【図2】実施例において電気化学的測定に用いる電極の模式図である。
【図3】例1の方法に従って測定した液体試料中に存在する種々の量の銀粒子に対する電流応答を示すグラフである。
【図4】特定の銀粒子量範囲について得られた図3の拡大図である。
【図5】本発明のイムノアッセイの模式図である。
【図6】図6は、実施例2の方法に従って測定した電流応答を、分析物として用いたヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の濃度の関数として示したものである。
【図7】図7は、電荷の測定値とNTproBNPの濃度との関係を示すグラフである。エラーバーは2回または3回の測定により求められたシグナルの標準偏差を表す。
【図8】図8は、電荷の測定値と添加したNTproBNPの濃度との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例5で使用した微小流動装置を図示したものである。
【図10】図10は、5mMのヨウ化アセトアミドの存在下または非存在下での血漿試料中の銀イオン測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の、金属ラベルされた化学種の金属を、可溶性の電気化学的に活性な錯体[前記錯体は、試料中に存在するまたは存在する可能性がある成分(前記成分は、前記金属との、不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を形成する。)に比べて安定である。]を形成するようにすること、および
形成された錯体を電気化学的に測定して、金属ラベルされた化学種の存在または量の指標を提供すること
を含む、試料中の、金属ラベルされた化学種の存在または量を測定する方法。
【請求項2】
前記電気化学的に活性な錯体が、金属を酸化して金属イオンを生成させ、前記金属イオンを錯化剤と反応させることにより形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属が、過マンガン酸イオン、クロム酸イオン、過酸化物、過硫酸塩、第二鉄イオンおよびフェリシアン化物イオンから選ばれる1つまたはそれ以上の酸化剤を用いて酸化される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記錯化剤がチオシアン化物イオンおよび/またはチオ硫酸イオンである、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属ラベルが銀である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記可溶性の電気化学的に活性な錯体が下記の反応により形成される、請求項4に付されるた場合の請求項5に記載の方法。
Ag + m(NH) + n(SCN) → [Ag(NH)m(SCN)n]m−n+1
【請求項7】
前記金属ラベルが微粒子である, 請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電気化学的に活性な錯体の測定がアノードストリッピングボルタンメトリーにより行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属ラベルされた化学種が、検出すべき分析物と金属ラベルされた結合パートナーとを結合させることにより形成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属ラベルされた結合パートナーが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料が生物試料である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
試料中に存在すると考えられる分析物と結合して金属ラベルされた化学種を形成することができる金属ラベルされた結合パートナー、
前記金属ラベルされた化学種の金属から、可溶性の電気化学的に活性な錯体[前記錯体は、試料中に存在するまたは存在する可能性がある成分(前記成分は、前記金属との、不溶性のおよび/または電気化学的に不活性な錯体を形成する。)に比べて安定である。]を形成させるための一つまたはそれ以上の試薬、
金属ラベルされた結合試薬が分析物と結合することのできる容積空間、および
前記一つまたはそれ以上の試薬が可溶性の電気化学的活性な錯体を形成させ得るための、前記金属ラベルされた化学種を固定するための捕捉ゾーン
を含むキット。
【請求項13】
前記金属ラベルされた結合パートナーが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記金属ラベルされた化学種の金属から、可溶性の電気化学的に活性な錯体を形成させるための前記一つまたはそれ以上の試薬が、前記金属を金属イオンへと酸化する試薬および前記金属イオンと反応して電気化学的活性な錯体を形成する錯化剤を含む、請求項12または13に記載のキット。
【請求項15】
金属を酸化する前記試薬が、過マンガン酸イオン、クロム酸イオン、過酸化物、過硫酸イオン、第二鉄イオンおよびフェリシアン化物イオンから選択される一つまたはそれ以上の酸化剤である、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記錯化剤がチオシアン化物イオンおよび/またはチオ硫酸イオンである、請求項14または15に記載のキット。
【請求項17】
前記金属が銀である、請求項12から16のいずれか一項に記載のキット。
【請求項18】
前記金属ラベルが微粒子である、請求項12から17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
前記可溶性の電気化学的活性な錯体の電気化学的測定のための読み取り装置と組み合わせて提供される、請求項12から18のいずれか一項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−501971(P2008−501971A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526541(P2007−526541)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002248
【国際公開番号】WO2005/121792
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(302044591)インバーネス・メデイカル・スウイツツアーランド・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (38)