説明

既存擁壁の補強構造及び補強工法

【課題】 既存擁壁の補強構造を提供する。
【解決手段】 補強する既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支持用支柱により支持された埋め込み擁壁を設置して既存擁壁の背面内部側に既存擁壁と重複する擁壁を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支持用支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記既存擁壁の上部廻り縁部を冠着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜地に設けられた擁壁の補強構造、及び擁壁の補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
狭隘な地域の宅地造成地等に於いては、傾斜地が崩れないようにモルタルやコンクリートを固定材に用いて、石またはコンクリートブロックを積み上げる練り積み擁壁や、地山もしくは裏込め土にもたれた状態で擁壁の自重により土圧に対抗するもたれ擁壁が一般的に用いられている。
【0003】
特に宅地造成ブーム時に設けられた住宅地の擁壁は、構築後20年から30年以上経っているものも珍しくなく、当時に構築された擁壁は、古くなって擁壁材の石やコンクリートブロックを固定するためのモルタルやコンクリート等固定材の劣化や、裏込め土の流失により地山と裏込め土の土圧がバランスを失い、放っておくと擁壁の崩壊につながりかねない災害危険地区を生み出している。
【0004】
例えば、図7は、従来の宅地造成地に良く見られる古いもたれ擁壁の実例を示す要部断面斜視図である。図7において、50は道路、51は擁壁、52a、52b、52c、・・・は大矢石やコンクリートブロック等からなる擁壁ブロックであり、該擁壁ブロック52a、52b、52c、・・・は基台53上に裏込め土54、裏込め石55、そして、裏込めコンクリート56を介して積層されており、宅地57を造成している。尚、58は決められた間隔を有して設けられた水抜き穴、59は擁壁51の天端を示している。
【0005】
斯くして、上述した擁壁51は、経年変化により裏込めコンクリート56が劣化したり、宅地57を構成する地山と裏込め土54との土圧がバランスを失うことで、集中豪雨や地震のときに擁壁の崩壊が起きるおそれがあるので、定期的なメンテナンスや補強工事が必要となる。
【0006】
また、図8は、比較的高さのある傾斜地の宅地造成地に見られる古い擁壁の実例を示す要部断面斜視図である。図8において、50は道路、51a、51bは2段に積層された擁壁、60は擁壁51aを構成する大矢石、61は擁壁51bを構成する間知石、62は下部基台、63は上部基台、59は天端、57は宅地であり、前記大矢石60は、下部基台62上に裏込め土54、裏込め石55、そして、裏込めコンクリート56を介して積層されており、また、間知石61は、上部基台63上に裏込め土54、裏込め石55、裏込めコンクリート56を介して積層されており、上部に宅地57を造成している。尚、58は、決められた間隔を有して設けられた水抜き穴をしめしている。
【0007】
図8は、もたれ擁壁工法を用いて、下部基台62上に大矢石60を積み上げて擁壁51aを設け、更に擁壁の高さを付加するために上部基台63上に間知石61を積層して擁壁51bを構築している。
【0008】
従って、図8に示す古い擁壁の実例においても、擁壁内部構造は見えないが、経年変化により確実に裏込めコンクリート56が劣化したり、宅地56を構成する地山と裏込め土54との土圧がバランスを失う現象が生じており、集中豪雨や地震のときに擁壁の崩壊が起きるおそれがある。特に高い傾斜地に設けられた擁壁の崩壊は、破壊時のダメージも大きいので、下部擁壁の補強工事や、補強された上部擁壁の新構築が必要である。
【0009】
斯くして、本発明は、図7、及び図8にて説明した施工形式の古い擁壁を補強するものであり、一部に古い擁壁を撤去して新しい擁壁を構築する場合において、新擁壁の補強バックアップ工事をも含むものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、狭隘な宅地造成地における擁壁の補強工事において、土の移動量を少なくなくして効率化を図り、また、既存擁壁の背面のみを工事区域として杭打ちや掘削するもので、例えば、擁壁前面の道路等は、資材の搬入、荷降ろしのみに使用する他は使用せず、当該補強工事は擁壁の背面側、即ち、宅地内での工事により施工が行える擁壁の補強工事を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、補強する既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持された埋め込み擁壁を設置して既存擁壁の背面内部側に既存擁壁と重複する擁壁を構築するものである。
【0012】
そして、前記埋め込み擁壁の天端部には各支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記既存擁壁の上部廻り縁部を冠着することで既存擁壁の補強を行うものである。
【0013】
また、本発明は、撤去する上部既存擁壁、及び補強する下部既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該上部既存擁壁と下部既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持された埋め込み擁壁を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設けるものである。
【0014】
そして、前記アンカーウェイト部材のL型縁部にて下部既存擁壁の上部廻る縁部を冠着することで既存擁壁の補強を行うもので、同時に、該アンカーウェイト部材の上面にはガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持される埋め込み擁壁を再度積層して前記撤去された上部擁壁の高さを補い、且つ撤去擁壁の代わりとなる立上がり壁を設けた構造の擁壁擁壁を提供するもので、下部既存擁壁、及び撤去擁壁の代わりとなる立上がり壁の背面内部側には、埋め込み擁壁が新たに重複した形状で設けられ、既存擁壁、並びに立上がり壁を土圧から擁護するものである。
【0015】
本発明の構成要素で重要な埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板は、中央裏面に親杭の杭頭上に立設されたガイド用H型鋼がゆとりをもって挿入できる貫通穴を有し、該貫通穴の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板を親杭の杭頭上やアンカーウェイト部材上部に積層した状態で前記貫通穴へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴内にはガイド用H型鋼が芯材となる埋め込み擁壁の支持用支柱が構成されることである。
【0016】
また、本発明の構成要素で重要な埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板は、中央裏面に親杭の杭頭上に立設されたガイド用鉄筋柱がゆとりをもって挿入できる貫通穴を有し、該貫通穴の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板を親杭の杭頭上やアンカーウェイト部材上部に積層した状態で前記貫通穴へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴内にはガイド用鉄筋材が芯材となる埋め込み擁壁の支持用支柱が構成されることである。
【0017】
更に、本発明の構成要素で重要な埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板は、中央裏面に親杭基部に連通する貫通穴を有し、該貫通穴の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板を親杭の杭頭上やアンカーウェイト部材上部に積層した状態で前記貫通穴へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴内には埋め込み擁壁の支持用支柱が構成される事である。
【0018】
従って、本発明は、上述した既存擁壁、並びに新しく設けられる立上がり壁と、埋め込み擁壁、そして埋め込み擁壁を支持固定する支持用支柱の組み合わせが、課題を解決かのうとした。
【0019】
本発明の工法は、補強する既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持された埋め込み擁壁を設置して既存擁壁の背面内部側に既存擁壁と重複する擁壁を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記既存擁壁の上部廻り縁部を冠着することで、既存擁壁の補強を行うものである。
【0020】
そして、本発明は、他の工法として、撤去する上部既存擁壁及び補強する下部既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該上部既存擁壁と下部既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持された埋め込み擁壁を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記下部既存擁壁の上部廻る縁部を冠着すると共に、該アンカーウェイト部材の上面にはガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持される埋め込み擁壁を再度積層して前記撤去された上部擁壁の高さを補い、且つ撤去擁壁の代わりとなる立上がり壁を設ける工法をも提供した。
【発明の効果】
【0021】
斯くして、本発明は、狭隘な宅地造成地における擁壁の補強工事において、土の移動量を少なくなくして効率化を図り、安価で迅速な工事が行える。また、本発明は、既存擁壁の背面のみを工事区域として杭打ちや掘削するもので、擁壁前面の道路等は、資材の搬入、荷降ろしのみに使用する他は、使用する必要がなく、当該補強工事は擁壁の背面側、即ち、宅地内での工事により施工が行えるもので、特に狭隘な宅地造成地等において抜群の効果を発揮できるものである。
【0022】
更に、本発明は、既存擁壁や新しく構築する立上がり壁が本来受ける土圧を、当該擁壁前面に設ける埋め込み擁壁にて全面的に受ける構成であることから、古い擁壁の保護や新しく構築する立上がり壁を土圧から擁護できる擁壁補強構造となった。
【0023】
更にまた、本発明の擁壁補強方法は既存擁壁の前面に手を加えるものではなく、文化財的価値のある石垣等の補強工事にも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(A)本発明に使用される埋め込み用擁壁PC板の形状を示す平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強する既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支持用支柱により支持された埋め込み擁壁を設置して既存擁壁の背面内部側に既存擁壁と重複する擁壁を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支持用支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記既存擁壁の上部廻り縁部を冠着したことを特徴とする既存擁壁の補強構造。
【請求項2】
撤去する上部既存擁壁及び補強する下部既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該上部既存擁壁と下部既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支持用支柱により支持された埋め込み擁壁を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支持用支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記下部既存擁壁の上部廻る縁部を冠着すると共に、該アンカーウェイト部材の上面にはガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持される埋め込み擁壁を再度積層して前記撤去された上部擁壁の高さを補い、且つ撤去擁壁の代わりとなる立上がり壁を設けたことを特徴とする既存擁壁の補強構造。
【請求項3】
前記埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板は中央裏面に親杭の杭頭上に立設されたガイド用H型鋼がゆとりをもって挿入できる貫通穴を有し、該貫通穴の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板を親杭の杭頭上やアンカーウェイト部材上部に積層した状態で前記貫通穴へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴内にはガイド用H型鋼が芯材となる埋め込み擁壁の支持用支柱が構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の既存擁壁の補強構造。
【請求項4】
前記埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板は中央裏面に親杭の杭頭上に立設されたガイド用鉄筋柱がゆとりをもって挿入できる貫通穴を有し、該貫通穴の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板を親杭の杭頭上やアンカーウェイト部材上部に積層した状態で前記貫通穴へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴内にはガイド用鉄筋材が芯材となる埋め込み擁壁の支持用支柱が構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の既存擁壁の補強構造。
【請求項5】
前記埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板は中央裏面に親杭基部に連通する貫通穴を有し、該貫通穴の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板を親杭の杭頭上やアンカーウェイト部材上部に積層した状態で前記貫通穴へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴内には埋め込み擁壁の支持用支柱が構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の既存擁壁の補強構造。
【請求項6】
補強する既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支持用支柱により支持された埋め込み擁壁を設置して既存擁壁の背面内部側に既存擁壁と重複する擁壁を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支持用支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記既存擁壁の上部廻り縁部を冠着したことを特徴とする既存擁壁の補強工法。
【請求項7】
撤去する上部既存擁壁及び補強する下部既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該上部既存擁壁と下部既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支持用支柱により支持された埋め込み擁壁を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記下部既存擁壁の上部廻る縁部を冠着すると共に、該アンカーウェイト部材の上面にはガイド用H型鋼が芯材となる支持用支柱により支持される埋め込み擁壁を再度積層して前記撤去された上部擁壁の高さを補い、且つ撤去擁壁の代わりとなる立上がり壁を設けたことを特徴とする既存擁壁の補強工法。

【図1】(B)本発明に使用される埋め込み用擁壁PC板の形状を示す正面図である。
【図2】 図1に示す埋め込み用擁壁PC板の支持方法を示す斜視説明図である。
【図3】(A)本発明の実施例1を示す施工手順説明図である。
【図3】(B)本発明の実施例1を示す施工手順説明図である。
【図4】 本発明の実施例1を説明する断面図である。
【図5】(A)本発明の実施例2を示す施工手順説明図である。
【図5】(B)本発明の実施例2を示す施工手順説明図である。
【図5】(C)本発明の実施例2を示す施工手順説明図である。
【図5】(D)本発明の実施例2を示す施工手順説明図である。
【図5】(E)本発明の実施例2を示す施工手順説明図である。
【図5】(F)本発明の実施例2を示す施工手順説明図である。
【図5】(G)本発明の実施例2を示す施工手順説明図である。
【図6】 本発明の実施例2を説明する要部断面斜視図である。
【図7】 本発明にて補強する既存擁壁の形状例を示す説明図である。
【図8】 本発明にて補強する既存擁壁の形状例を示す他の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に使用される埋め込み擁壁の形状と該擁壁の支持用支柱の固定方法は、本発明の構成要素で極めて重要で、該埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板は、中央裏面に親杭の杭頭上に立設されたガイド用H型鋼がゆとりをもって挿入できる貫通穴を有し、該貫通穴の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板を親杭の杭頭上やアンカーウェイト部材上部に積層した状態で前記貫通穴へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴内にはガイド用H型鋼が芯材となる埋め込み擁壁の支持用支柱が構成されることである。
【0026】
また、本発明の埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板は、中央裏面に親杭の杭頭上に立設されたガイド用鉄筋柱がゆとりをもって挿入できる貫通穴を有し、該貫通穴の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板を親杭の杭頭上やアンカーウェイト部材上部に積層した状態で前記貫通穴へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴内にはガイド用鉄筋材が芯材となる埋め込み擁壁の支持用支柱が構成されるようにしても良い。
【0027】
更に、本発明の埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板は、中央裏面に親杭基部に連通する貫通穴を有し、該貫通穴の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板を親杭の杭頭上やアンカーウェイト部材上部に積層した状態で前記貫通穴へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴内には埋め込み擁壁の支持用支柱が構成されるようにしても良い。
【0028】
斯くして、本発明は、上記埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板と該擁壁PC板を支持する親杭と支柱によりなり、補強する既存擁壁の背面側に前記ガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持された埋め込み擁壁(擁壁PC板)を設置して既存擁壁の背面内部側に既存擁壁と重複する擁壁を構築するものである。
【0029】
そして、前記埋め込み擁壁の天端部には各支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記既存擁壁の上部廻り縁部を冠着することで既存擁壁の補強を行うものである。
【0030】
また、本発明は、撤去する上部既存擁壁、及び補強する下部既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該上部既存擁壁と下部既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持された埋め込み擁壁(擁壁PC板)を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設けるものである。
【0031】
そして、前記アンカーウェイト部材のL型縁部にて下部既存擁壁の上部廻る縁部を冠着することで既存擁壁の補強を行うもので、同時に、該アンカーウェイト部材の上面にはガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持される埋め込み擁壁を再度積層して前記撤去された上部擁壁の高さを補い、且つ撤去擁壁の代わりとなる立上がり壁を設けた構造の擁壁擁壁を提供するもので、下部既存擁壁、及び撤去擁壁の代わりとなる立上がり壁の背面内部側には、埋め込み擁壁が新たに重複した形状で設けられ、既存擁壁、並びに立上がり壁を土圧から擁護するものである。
【実施例1】
【0032】
本発明の実施例1は、図7に於いて説明した既存擁壁51を補強するものであり、図1乃至図4に於いて、図1(A)は、本発明に使用される埋め込み用擁壁PC板の形状を示す平面図、図1(B)は、本発明に使用される埋め込み用擁壁PC板の形状を示す正面図、図2は、図1に示す埋め込み用擁壁PC板の支持方法を示す斜視説明図であり、図3(A)、図3(B)、図4は、実施例1の施工手順説明図である。
【0033】
図1乃至図4に於いて、1は埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板、2は擁壁PC板1の中央裏面に構成される支柱形成用の貫通穴、該貫通穴2の内部形状は、例えばその中心部に向かって四方から狭まるくの字形状3を有している。尚、4は擁壁PC板の製作時に使用される製作用デーハ、5は製作時に使用される施工用デーハ、6は擁壁PC板施工時に他の擁壁PC板との嵌合に使用されるガイドピン、7は水抜き穴を構成する水切用切り欠き部である。
【0034】
図2は、既存擁壁の背面側、即ち、宅地側の地中8に予め親杭9a、9b、9cを並列して打設しておき、該親杭9a、9b、9cにはガイド用H型鋼10a、10b、10c立設されている。親杭9a、9b、9cの杭頭11a、11b、11cは、その位置を場合によってはハツリ等で調整(主に高さ調整)し、上部に立設したガイド用H型鋼10a、10b、10cにガイドされて夫々貫通穴2a、2b、2cを有した擁壁PC板1a、1b、1cが設置される。
【0035】
而して、親杭9a、9b、9cの杭頭11a、11b、11c上に設置された夫々の擁壁1a、1b、1cはガイド用H型鋼10a、10b、10cがゆとりを持って貫通している貫通穴2a、2b、2cに夫々コンクリートを打設して、親杭9a、9b、9cと擁壁1a、1b、1cを固着支持する支持支柱12a、12b、12cを構成する。
【0036】
図3(A)(B)、及び図4は、実施例1の施工手順を説明するもので、あり、また、図3(A)(B)、図4は、従来例の説明図である図7の既存擁壁に本発明の実施例1を実施した状態を示している。
【0037】
図3(A)(B)、及び図4の於いて、1は埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板、2は貫通穴、5は施工用デーハ、13は既存擁壁(大矢石等のブロックから成る)、14は既存擁壁の下部基台、15は道路面、16は裏込めコンクリート、17は天端、18は宅地を夫々示している。
【0038】
図3(A)は既存擁壁13の背面にあたる宅地18を掘削し、図2にて説明したように親杭9を打設して、ガイド用H型鋼10を立設する。埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板1は重機で楊重され、擁壁PC板1の貫通穴2にガイド用H型鋼10が挿入して図3(B)に示す如く、親杭9の杭頭11上に設置される。
【0039】
図4は、ガイド用H型鋼10が貫通する擁壁PC板1の貫通穴2にコンクリートを打設して、擁壁PC板1を親杭9に固着一体化して、該擁壁PC板1上部にコ型のアンカーウェイト19を鉄筋コンクリート製にて製作する。
【0040】
而して、コ型のアンカーウェイト19は、前記埋め込み擁壁の擁壁PC板1a、1b、1c・・・の天端部を支持用支柱12a、12b、12c・・・間で頭繋ぎする役割の他、該アンカーウェイト19のL型縁部20にて前記既存擁壁13の上部廻り縁部21を冠着することで既存擁壁13の補強を行うものである。尚、22は宅地18の埋め戻し土である。
【0041】
斯くして、実施例1は、補強する既存擁壁13の背面側にガイド用H型鋼10を立設した親杭9を複数本並列して打ち込み、該既存擁壁13の背面側の土を除いて前記親杭9の杭頭11の位置を調整し、該親杭9の杭頭11上にガイド用H型鋼10が芯材となる支持用支柱12により支持された埋め込み擁壁PC板1を設置して既存擁壁13の背面内部側に既存擁壁13と重複する擁壁を構築するものである。
【0042】
そして、前記埋め込み擁壁PC板1の天端部には各支持用支柱12間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト19部材を設け、該アンカーウェイト19部材のL型縁部20にて前記既存擁壁13の上部廻り縁部21を冠着することで既存擁壁13の補強を行うもので、実施例1に於いては、アンカーウェイト19による既存擁壁13上部の冠着と、埋め込み擁壁PC板1での宅地18の土圧擁護することで、既存擁壁13の補強を行うものである。
【0043】
また、実施例1の埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板1は、中央裏面に親杭9の杭頭11上に立設されたガイド用鉄筋柱(ガイド用H型鋼10に代わって)がゆとりをもって挿入できる貫通穴2を有し、該貫通穴2の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板1を親杭9の杭頭11上やアンカーウェイト19部材上部に積層した状態で前記貫通穴2へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴2内にはガイド用鉄筋材が芯材となる埋め込み擁壁の支持用支柱12が構成されるようにしても良い。
【0044】
更に、実施例1の埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板1は、中央裏面に親杭9基部に連通する貫通穴2を有し、該貫通穴2の内部はその中心部に向かって四方から狭まる形状を有しており、前記埋め込み擁壁PC板1を親杭9の杭頭11上やアンカーウェイト19部材上部に積層した状態で前記貫通穴2へ上部からコンクリートを打設すると貫通穴2内には埋め込み擁壁の支持用支柱12が構成されるようにしても良い。
【0045】
更にまた、実施例1は、補強する既存擁壁13の背面側にガイド用H型鋼10を立設した親杭9を複数本並列して打ち込み、該既存擁壁13の背面側の土を除いて前記親杭9の杭頭位置11を調整し、該親杭9の杭頭11上にガイド用H型鋼10が芯材となる支持用支柱12により支持された埋め込み擁壁PC板1を設置して既存擁壁13の背面内部側に既存擁壁13と重複する擁壁を構築し、該埋め込み擁壁PC板1の天端部には前記各支持用支柱12間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト19部材を設け、該アンカーウェイト19部材のL型縁部20にて前記既存擁壁13の上部廻り縁部21を冠着したことを特徴とする既存擁壁13の補強工法を提供するものであるが、本実施例1に用いられる前記埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板1は、既存擁壁13を補強するための一つの手段として、該既存擁壁13の前面に設置する構成も可能であることは言うまでもない。
【実施例2】
【0046】
而して、実施例2に於いても、本発明の重要な構成要素は、前記図2に示す親杭9と埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板1a、1b、1cの関係であり、図2は、既存擁壁の背面側、即ち、宅地側の地中8に予め親杭9a、9b、9cを並列して打設しておき、該親杭9a、9b、9cにはガイド用H型鋼10a、10b、10c立設されている。親杭9a、9b、9cの杭頭11a、11b、11cは、その位置を場合によってはハツリ等で調整(主に高さ調整)し、上部に立設したガイド用H型鋼10a、10b、10cにガイドされて夫々貫通穴2a、2b、2cを有した擁壁PC板1a、1b、1cが設置される。
【0047】
前記親杭9a、9b、9cの杭頭11a、11b、11c上に設置された夫々の擁壁1a、1b、1cはガイド用H型鋼10a、10b、10cがゆとりを持って貫通している貫通穴2a、2b、2cに夫々コンクリートを打設して、親杭9a、9b、9cと擁壁1a、1b、1cを固着支持する支持支柱12a、12b、12cを構成する。
【0048】
斯くして、本発明の実施例2は、図8に於いて説明した既存擁壁51aを補強するものであり、図5及び図6は、実施例2の施工手順説明図である。
【0049】
図5(A)乃至(G)において、1は埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板、2は擁壁PC板1に設けられた貫通穴、5は施工用デーハ、9は親杭、10はガイド用H型鋼、11は杭頭、12は支持用支柱、14は下部基台、23は上部基台、24は撤去擁壁、13は補強する既存擁壁を夫々示している。
【0050】
図5(A)は、既存擁壁13と撤去擁壁24の背面側、即ち、宅地18側に図2にて示したように親杭9を打設して、該親杭9にガイド用H型鋼10を立設する。
【0051】
図5(B)は、既存擁壁13の上部を掘削して、前記撤去擁壁24を撤去した状態を示している。図5(C)は、既存擁壁13の背面にあたる宅地18をなおも掘削し、親杭9の杭頭11の位置調整を行うと共に擁壁PC板1を設置する準備をする。埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板1は重機で楊重され、擁壁PC板1の貫通穴2にガイド用H型鋼10が挿入して親杭9の杭頭11上に擁壁PC板1が、図5(D)如く設置される。
【0052】
図5(E)は、埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板1を埋め戻し土22で埋め戻し、図5(F)でガイド用H型鋼10が貫通する擁壁PC板1の貫通穴2にコンクリートを打設して、擁壁PC板1を親杭9に固着一体化すると同時に、該擁壁PC板1上部にコ型のアンカーウェイト19を鉄筋コンクリート製にて製作する。
【0053】
而して、コ型のアンカーウェイト19は、前記埋め込み擁壁の擁壁PC板1a、1b、1c・・・の天端部を支持用支柱12a、12b、12c・・・間で頭繋ぎする役割の他、該アンカーウェイト19のL型縁部20にて前記既存擁壁13の上部廻り縁部21を冠着することで既存擁壁13の補強を行うものである。
【0054】
図5(G)は、コ型アンカーウェイト19の上面で撤去された撤去擁壁24の位置に立上がり壁25を設置すると共に、該立上がり壁25の背面に重機で楊重した埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板1を設置する。そして、擁壁PC板1は、擁壁PC板1の貫通穴2にガイド用H型鋼10が挿入して図5(G)の想像線が示す如く構築される。
【0055】
図6は、前記擁壁PC板1の貫通穴2にコンクリートを打設して、支持用支柱12を作り、該支持用支柱12は親杭9と埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板1を一体化している。尚、22は埋め戻し土を示し、図6は、既存擁壁13を補強すると共に、撤去擁壁24の盛り土高さを立上がり壁25にて確保した。
【0056】
斯くして、実施例2は、上記埋め込み擁壁を構成する長方形の擁壁PC板1と該擁壁PC板を支持する親杭9と支持用支柱12によりなり、補強する既存擁壁13の背面側に前記ガイド用H型鋼10を立設した親杭9を複数本並列して打ち込み、該既存擁壁13の背面側の土を除いて前記親杭9の杭頭11位置を調整し、該親杭9の杭頭11上にガイド用H型鋼10が芯材となる支持用支柱12により支持された埋め込み擁壁1(擁壁PC板)を設置して既存擁壁13の背面内部側に既存擁壁13と重複する埋め込み擁壁1を構築するものである。
【0057】
そして、前記埋め込み擁壁1の天端部には各支持支柱12間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト部材を設け、該アンカーウェイト部材のL型縁部にて前記既存擁壁の上部廻り縁部を冠着することで既存擁壁の補強を行うものである。
【0058】
また、本発明は、撤去する上部既存擁壁、及び補強する下部既存擁壁の背面側にガイド用H型鋼を立設した親杭を複数本並列して打ち込み、該上部既存擁壁と下部既存擁壁の背面側の土を除いて前記親杭の杭頭位置を調整し、該親杭の杭頭上にガイド用H型鋼が芯材となる支柱により支持された埋め込み擁壁(擁壁PC板)を構築し、該埋め込み擁壁の天端部には前記各支柱間を頭繋ぎする構成のアンカーウェイト19部材を設けるものである。
【0059】
そして、前記アンカーウェイト19部材のL型縁部20にて下部既存擁壁13の上部廻る縁部21を冠着することで既存擁壁13の補強を行うもので、同時に、該アンカーウェイト19部材の上面にはガイド用H型鋼10が芯材となる支持用支柱12により支持される埋め込み擁壁1を再度積層して前記撤去された撤去擁壁24の高さを補い、且つ撤去擁壁24の代わりとなる立上がり壁25を設けた構造の擁壁補強構造を提供するもので、下部既存擁壁13、及び撤去擁壁24の代わりとなる立上がり壁25の背面内部側には、埋め込み擁壁1が新たに重複した形状で設けられ、既存擁壁24、並びに立上がり壁25を土圧から擁護するものである。
【符号の説明】
【0060】
1 1a、1b、1c 埋め込み擁壁を構成する擁壁PC板
2 2a、2b、2c 貫通穴
3 くの字形状
4 製作用デーハ
5 施工用デーハ
6 ガイドピン
7 水切穴用切り欠き部
8 地中
9 9a、9b、9c 親杭
10 10a、10b、10c ガイド用H型鋼
11 11a、11b、11c 杭頭
12 12a、12b、12c 支持用支柱
13 既存擁壁
14 下部基台
15 道路面
16 裏込めコンクリート
17 天端
18 宅地
19 アンカーウェイト
20 L型縁部
21 上部廻り縁部
22 埋め戻し土
23 上部基台
24 撤去擁壁
25 立上がり壁
50 道路
51 51a、51b 擁壁
52a、52b、52c・・・ 擁壁ブロック
53 基台
54 裏込め土
55 裏込め石
56 裏込めコンクリート
57 宅地
58 水抜き穴
59 天端
60 大矢石
61 間知石
62 下部基台
63 上部基台
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図5】
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【図5】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−26250(P2012−26250A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179033(P2010−179033)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(510294140)株式会社アイリテック (12)
【Fターム(参考)】