説明

既存防波堤の嵩上げ方法

【課題】防波堤などの堤体について、津波や高潮に対して防波機能に優れ、かつ構造安定性に優れた既存防波堤の嵩上げ方法を提供する。
【解決手段】直立した前面を有する既存防波堤の堤体前面上部を斜めに切断除去することにより上側が堤体天端後部側に傾斜した堤体前部傾斜面を形成し、該既存防波堤の堤体上に、複数の柱状連結部材を介して嵩上げ部を設置することにより、上記堤体上に空隙を介在させて嵩上げ部を一体化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防波堤・護岸・防潮提などの堤体について、津波や高潮に対して防波機能に優れると共に構造安定性に優れた既存防波堤の嵩上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
津波や高潮による災害を防止軽減する海岸構造物として、防波堤、護岸、防潮提などが構築されている。これらは津波や高潮に対する防壁を構築するものであり、一般的には防壁が高い程、その効果を発揮すると考えられる。そこで、堤体の高さを増して防波効果等を高める方法として、消波式構造物の嵩上げ工法(特許文献1:特開2001−207424号公報)が知られている。また、堤体前面を斜面に形成すると共に該斜面にスリットを形成し、該スリットを通じて波を堤体前部の中空室に導いて消波効果を高めた斜面スリットケーソン(特許文献2:特開平11−350450号公報)が知られている。
【特許文献1】特開2001−207424号公報
【特許文献2】特開平11−350450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既存の防波堤は規格に基づいて安定性が確保されているので、津波や高潮対策の目的でその高さや重量を増せば、設計波に対して波力および底版反力が増加し、既存構造物の構造安定性を保持できなくなる可能性が高い。したがって,既存防波堤を嵩上げするには,構造全体の補強(例えば堤体幅の拡幅や鉄筋の補強)が必要となり、相当の施工時間が必要となり、さらに施工費用が嵩む場合が多い。
【0004】
また、防波堤の前部を斜面に形成したものは、前部が直立形状の防波堤よりも作用波力および揚圧力が低下するものの、防波堤を越える越流量は直立形状の場合よりも増加するので、この越流量を抑制する対策が必要になる。
【0005】
従来の防波堤、護岸、防潮提などにおける上記問題を解決した堤体構造として、堤体の天端前面を斜面に形成すると共に、堤体の矩形断面において上記斜面を形成する角部の切断容量に相当する部分を天端後部に嵩上げしてなる形状を有する堤体構造が開発されている。この堤体は構造全体の大幅な重量増加を招くことなく、堤体安定性および防波効果に優れ、かつ施工が容易な特徴を有している。
【0006】
本発明は、既存堤体を利用して嵩上げ部分を有する上記堤体構造を容易に構築することができる既存防波堤の嵩上げ方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載する発明は、直立した前面を有する既存防波堤の堤体前面上部を斜めに切断除去することにより上側が堤体天端後部側に傾斜した堤体前部傾斜面を形成し、該既存防波堤の堤体上に、複数の柱状連結部材を介して嵩上げ部を設置することにより、上記堤体上に空隙を介在させて嵩上げ部を一体化させることを特徴とする既存防波堤の嵩上げ方法にある。
【0008】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加えて、上記既存防波堤の堤体前面上部の切断除去される部分の上面に、その切断前に上記柱状連結部材を立設し、しかる後上記切断除去作業を行い、その切断除去部を上記嵩上げ部とし、その上記柱状連結部材突出側面を下側に向けて上記既存防波堤の堤体上に載置し、上記柱状連結部材の下端側を堤体に固定することにある。
【0009】
請求項3に記載する発明は、請求項1又は2の何れかの構成に加えて、上記切断除去部を堤体天端に重ねたときに上端になる部分を切断して嵩上げ高さを調整することにある。
【0010】
請求項4に記載する発明は、請求項1の構成に加えて、嵩上げ部成型用型枠の内面に上記柱状連結部材の上端を突出させておき、該嵩上げ部成型用型枠内にコンクリートを打設することにより、上記柱状連結部材を突設させた状態の上記嵩上げ部を製造し、該嵩上げ部材を、上記柱状連結部材の突出面を下向きにして既存堤体上面に載置し、上記柱状連結部材の下端側を上記既存堤体に固定することにある。
【0011】
請求項5に記載する発明は、請求項1〜4の何れかに記載の構成に加えて、既存堤体天端の上記嵩上げ部設置部上面にコンクリートを打設し、該コンクリートに上記柱状連結部材の下端を埋め込ませて既存堤体に固定することにある。
【0012】
請求項6に記載する発明は、請求項1〜5の何れかに記載の構成に加えて、上記柱状連結部材の長さ、ないし堤体天端後部上面の打設コンクリート高さによって上記空隙の開口率を調整することにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る既存防波堤の嵩上げ方法は請求項1に記載の如く、直立した前面を有する既存防波堤の堤体前面上部を斜めに切断除去することにより上側が堤体天端後部側に傾斜した堤体前部傾斜面を形成し、該既存防波堤の堤体上に、複数の柱状連結部材を介して嵩上げ部を設置することにより、複数の柱状連結部材により嵩上げ部下に空隙を形成するようにしたことにより、嵩上げ部に対する水平波力の調整が容易となるとともに、既存堤体の嵩上げが容易かつ短期間になされる。
【0014】
また、上記方法によって嵩上げされた堤体は、堤体前面上部が上側を後部側に傾斜させた傾斜面とし、かつ、柱状連結部材によって嵩上げ部下に空隙を形成しているため、堤体及び嵩上げ部に対する水平波力による外力を大きく増加させることなく、津波や高波の越波阻止機能を向上させることができる。
【0015】
本発明は、請求項2の如く、上記既存防波堤の堤体前面上部の切断除去される部分の上面に、その切断前に上記柱状連結部材を立設し、しかる後上記切断除去作業を行い、その切断除去部を上記嵩上げ部とし、その上記柱状連結部材突出側面を下側に向けて上記既存防波堤の堤体上に載置し、上記柱状連結部材の下端側を堤体に固定することにより、既存堤体を切断した部分を利用して嵩上げを行うので、堤体の改築に伴う廃棄物量が極めて少なく、廃棄物処理が容易である。さらに、既存の堤体を利用するので新規コンクリートの打設量を大幅に低減することができる。
【0016】
本発明においては、請求項3の如く、上記切断部分を堤体天端に重ねたときに上端になる部分を切断して嵩上げ高さを調整することにより、津波時や高潮時の越流量を抑制しつつ、嵩上げ部分の水平波力を低減することができる。
【0017】
本発明においては、請求項4の如く、嵩上げ部成型用型枠の内面に上記柱状連結部材の上端を突出させておき、該嵩上げ部成型用型枠内にコンクリートを打設することにより、上記柱状連結部材を突設させた状態の上記嵩上げ部を製造し、該嵩上げ部材を、上記柱状連結部材の突出面を下向きにして既存堤体上面に載置し、上記柱状連結部材の下端側を上記既存堤体に固定することにより、既存堤体を切断した部分を嵩上げ部として使用し難い場合においても、前述と同様に既存堤体の安定性を保ちつつ、効果的に嵩上げ、及び水平波力の低減効果のある嵩上げができる。
【0018】
本発明においては、請求項5に記載の如く、嵩上げ部を設置した堤体天端後部の上面にコンクリートを打設し、該コンクリートに上記柱状連結部材を埋め込ませて上記切断部分を堤体天端に固定するので、基礎結合部分の強度を高めることができ、上記嵩上げ部を確実に固定することができる。
【0019】
本発明においては、請求項6の如く、上記柱状連結部材の長さ、ないし堤体天端後部上面の打設コンクリート高さによって基礎結合部を貫通する空隙の開口率を調整するので、嵩上げ部分の水平波力を抑制しつつ、津波時や高潮時の越流量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る既存防波堤の嵩上げ方法の実施形態を図面に基づいて具体的に説明する。図1に発明に係る堤体構造方法の一例を示す。図示するように本発明の既存防波堤の嵩上げ方法は、既存堤体を利用して嵩上げ部分を有する堤体を構築する方法である。図示する既存堤体は、地盤10の上に捨石マウンド11が形成されており、該捨石マウンド11の上に堤体12が構築されている。堤体12の基礎部分は、例えば、10〜200kg/個程度の重量の基礎用捨石を地盤表面に積み上げて捨石マウンド11が造成され、該捨石マウンド11の上面には、堤体12の下側を除き、その表面を1ton/個程度の重量を有する被覆用捨石13が敷き詰められ、堤体12の根元部分には根固石14が設けられている。なお、堤体12の基礎部分は図示する態様に限らない。一般に堤体12はコンクリートケーソンまたは場所打ちコンクリートによって形成される。
【0021】
既存堤体12について、天端前面の角部16を切断して斜面15を形成する。図示する堤体12では斜面部分が45度の傾斜に形成されているが、斜面の傾斜角度は施工条件に応じて定めれば良い。次いで、この切断した三角形断面を有する部分(切断部分と云う)16を海上または陸上から吊り上げ、反転させて、その傾斜面が前面に向かうように天端後部に積み重ねると共に、該切断部分16と堤体天端後部の間に基礎結合部20を形成し、上記切断部分16を該基礎結合部20によって堤体天端に固定し、この積み重ねた切断部分16によって嵩上げ部分17を形成する。
【0022】
設置された切断部分16と堤体天端後部の間の基礎結合部20は、例えば、切断部分16を支える柱状連結部材21および設置個所のコンクリート打設によって形成される。該柱状連結部材21は、堤体天端角部16の上面にあらかじめ装着しておくと良い。この態様を図2に示す。図示するように、複数の鋼管やRC部材からなる柱状連結部材21を堤体天端角部16の上面にあらかじめ埋め込んでおき、角部16を切断した後に、図3に示すように、切断した角部(切断部分)16を反転して上記柱状連結部材21が下側になるように堤体天端後部に設置し、該切断部分16の設置箇所に場所打コンクリート18を打設し、該コンクリート18に上記柱状連結部材21を埋め込ませて上記切断部分16を堤体天端に固定する。
【0023】
図3に示すように、複数の柱状連結部材21によって上記切断部分16を支えて堤体天端に固定することにより、基礎結合部20を貫通する空隙22を形成することができる。該空隙22の開口率は、上記柱状連結部材21の長さ、あるいは切断部分設置個所の打設コンクリート18の高さによって調整することができる。
【0024】
開口率を調整することによって、嵩上げ部分の水平波力を抑制しつつ、津波時や高潮時の越流量を低減することができる。具体的には、開口率15%以下に調整することによって、従来の直立堤体に比べて、水平波力を同等程度に抑制しながら津波時や高潮時の越流量を85%低減することができる。
【0025】
さらに、図3に示すように、上記切断部分を堤体天端に重ねたときに上端になる部分を切断して嵩上げ高さを調整することができる。この切断は切断部分16を設置する前にあらかじめ定めた長さを切断してもよく、あるいは切断部分16を設置した後に所定の嵩上げ高さになるように切断しても良い。
【0026】
構築された堤体は、基礎結合部分20の高さ、および嵩上げ部分の切断規模を調整することによって、その構造安定性をより高めることができる。
【0027】
次に図4〜図5について、本発明の嵩上げ方法を、新規に製造する嵩上げ部の設置により行う場合について説明する。尚、前述した図1〜図3に示す実施例と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略する。
【0028】
この方法において、既存の堤体12の前面上部の角を斜めに切断し、傾斜部15を形成することは前述と同様である。嵩上げ部17を新規にコンクリートによって製造する。その製造に際しては、図4に示すように、上方開放型の嵩上げ部コンクリート成型用の型枠25を使用する。
【0029】
この型枠25の底面型板25aを貫通させて柱状連結部材21を型枠25内に突出させておき、この状態で型枠25内にコンクリート26を打設する。尚、型枠25はその底面型板25a下に突出する柱状連結部材21の下端側を収容できる空間を形成するため、該底面型板25下に架台26を置き、該架台27上に型枠25を支持させる。
【0030】
このようにして型枠25内にコンクリートを打設し、コンクリートの固化を待って脱型しプレキャストコンクリート(PC)製の嵩上げ部17を製造する。この嵩上げ部を、クレーンを使用して船舶に積み込んで海上輸送し、前述した既存の堤体12の上面に載置する。然る後、図3に示す実施例と同様に、固定用の場所打コンクリート18を打設して堤体12の上面に柱状連結部材21の下端を固定し、嵩上げを完了する。
【0031】
尚、この例では、陸上のコンクリート製品製作ヤードでPCブロックである嵩上げ部17を製造しているが、嵩上げしようとする堤体12の上面に、必要なスペースがある場合には、堤体12の上面で製造してもよく、また、海上の作業台船上で製造してもよい。
【0032】
更に、この新規に製造される嵩上げ部17は、その形状及び高さその他の条件は、上記に限らず、直立型、円筒型、背面傾斜型等、各種の形態とすることができ、既存防波堤の天端面より高く、かつ、既存堤体12の堤体安定性を損なわない重さ、高さ、形状であればよい。
【0033】
ここに云う「堤体安定性を損なわない」とは、下記a及びbの条件を、ともに満たすことを指す。
a.堤体の水中部における重量から揚圧力を差し引いた値を堤体底部の摩擦係数を乗した後,水平波力で除した値(滑動に対する安全率)が規定値を下回らないことをさす。(例えば、港湾の施設の技術上の基準・同解説においては暴風時に1.2、その他の例としては1.0)。
b.堤体の水中部における重量に堤体直立部の重量の合力の作用線から堤体後しまでの距離を乗した値から揚圧力による堤体後し回りのモーメントを差し引いた後、水平波力による堤体後し回りのモーメントで除した値(転倒に対する安全率)が規定値を下回らないことをさす。(暴風時において1.1)。
【0034】
上記、安全率とは、設計時の要求性能において定められている規定値(1.0〜1.2)であり、標準値は、滑動に対する安全率は暴風時に1.2、転倒に対する安全率は暴風時に1.1である。
【0035】
尚、安全率の値は、地方や発注者等によって若干異なる場合があるが、基本的には既存防波堤を設計したときに定められた規定値を基準とする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る既存防波堤の嵩上げ方法の一例を示す概念図である。
【図2】同上の天端角部上に予め柱状連結部材を装着した態様を示す堤体上部の部分断面図である。
【図3】本発明の方法によって構築した堤体の断面図である。
【図4】本発明方法の他の例の嵩上げ部製造状態を示す断面図である。
【図5】同上のブレキャスト嵩上げ部を堤体上にした状態の側面図である。
【符号の説明】
【0037】
10−地盤
11−捨石マウンド
12−堤体
13−被覆用捨石
14−根固石
15−斜面
16−角部
17−嵩上げ部分
18−場所打コンクリート
20−基礎結合部分
21−柱状連結部材
22−空隙
25−型枠
25a−底面型板
26−コンクリート
27−架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直立した前面を有する既存防波堤の堤体前面上部を斜めに切断除去することにより上側が堤体天端後部側に傾斜した堤体前部傾斜面を形成し、該既存防波堤の堤体上に、複数の柱状連結部材を介して嵩上げ部を設置することにより、上記堤体上に空隙を介在させて嵩上げ部を一体化させることを特徴とする既存防波堤の嵩上げ方法。
【請求項2】
上記既存防波堤の堤体前面上部の切断除去される部分の上面に、その切断前に上記柱状連結部材を立設し、しかる後上記切断除去作業を行い、その切断除去部を上記嵩上げ部とし、その上記柱状連結部材突出側面を下側に向けて上記既存防波堤の堤体上に載置し、上記柱状連結部材の下端側を堤体に固定する請求項1に記載の既存防波堤の嵩上げ方法。
【請求項3】
上記切断除去部を堤体天端に重ねたときに上端になる部分を切断して嵩上げ高さを調整する請求項1又は2の何れかに記載の既存防波堤の嵩上げ方法構築方法。
【請求項4】
嵩上げ部成型用型枠の内面に上記柱状連結部材の上端を突出させておき、該嵩上げ部成型用型枠内にコンクリートを打設することにより、上記柱状連結部材を突設させた状態の上記嵩上げ部を製造し、該嵩上げ部材を、上記柱状連結部材の突出面を下向きにして既存堤体上面に載置し、上記柱状連結部材の下端側を上記既存堤体に固定する請求項1に記載の既存防波堤の嵩上げ方法。
【請求項5】
既存堤体天端の上記嵩上げ部設置部上面にコンクリートを打設し、該コンクリートに上記柱状連結部材の下端を埋め込ませて既存堤体に固定する請求項1〜4の何れかに記載の既存防波堤の嵩上げ方法。
【請求項6】
上記柱状連結部材の長さ、ないし堤体天端後部上面の打設コンクリート高さによって上記空隙の開口率を調整する請求項1〜5の何れかに記載の既存防波堤の嵩上げ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate