説明

既設杭の引抜装置

【課題】既設杭を把持するために把持爪をケーシング内部へと突出させる駆動機構の構成を簡素化およびコンパクト化することを目的とする。
【解決手段】掘削刃を下端に有し既設杭を囲むように地中に打ち込まれるケーシングと、ケーシングの下部に回動自由に取り付けられる把持爪4と、把持爪4を回動させてケーシング内部に出没させる駆動機構とを有する。ケーシングは既設杭が挿入される内筒6と、内筒6の外側を囲む外筒7とから成り、内筒6と外筒7の間に把持爪4が回動自由に配備されている。駆動機構は、ケーシングの長さ方向に沿って敷設されるラック51と、ラック51と噛み合うように設けられたピニオン52と、ラック51を上下方向に往復動させる油圧シリンダと、ピニオン52と把持爪4との間に介在しピニオン52の回転を把持爪4に伝達する動力伝達部材9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築構造物の立て替えなどのときに、地中に埋設されている既設杭を撤去するために使用される既設杭の引抜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ビルやマンション,工場などの建築構造物は、その荷重を支持するために地中の固い地盤まで杭が埋め込まれている。これらの建築構造物の建て替えを行う場合は、古い建物を解体撤去した後、地中に深く埋め込まれた古い既設杭を引き抜く作業を行う必要がある。従来においては、地中に埋設された不要な杭を撤去する方法として、車両のリーダに沿って昇降するオーガマシンにより回転駆動される回転ケーシングによって、地中の既設杭の周囲を掘削しながら既設杭の上端部近くまで掘進した後、この杭の上端部の周面にワイヤーを縛り付けてクレーンで引き上げることにより、既設杭が地中から引き抜かれていた。
【0003】
しかし、上記のような方法では、ケーシングによる掘削後に、ケーシングを引き上げ、さらに既設杭の上端部にワイヤーを外れないように縛り付ける必要があるため、作業に多大な手間と時間がかかる。その上、既設杭の上端部にワイヤーを縛って引き上げるため、引き上げの際に杭が途中で切断されてしまうこともあり、その切断されて地中に残った杭の引き抜き作業は容易ではなく、その作業は困難を極める。
【0004】
そこで、近年、上記の従来の方法と同様に、ケーシングで地中の既設杭の周囲を掘削して既設杭と地盤との縁を切った後に、ケーシングに設けられた複数の把持爪をケーシングの内部に突出させて既設杭の下端部を把持し、ウインチによるオーガマシンの上昇移動によってケーシングとともに既設杭を地中から引き抜くようにした既設杭の引抜装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−37657号公報
【0006】
特許文献1に記載の既設杭の引抜装置は、ケーシングの内側に把持爪が油圧シリンダを介して取り付けられている。油圧シリンダはケーシングの内面に設けられたブラケットに吊り下げられており、油圧シリンダのロッドの先端部に把持爪を連結してある。また、ブラケットには、一対のリンクを介してガイド部材が取り付けられている。ガイド部材は、把持爪をケーシング内部の杭の収容空間に向かってスライド動作させるために、下方に向かってケーシングの内方に傾斜している。把持爪は下方へ移動するに伴ってケーシングの内部に向かってスライドするようにガイド部材に摺動自在に取り付けられており、油圧シリンダのロッドを伸長させて把持爪を下方に移動させると、把持爪がガイド部材のガイドによってケーシング内部に突出し既設杭の外周面を把持する把持状態へと移行する。一方、油圧シリンダのロッドを収縮させて把持爪を上方に移動させると、把持爪がケーシングの内部から退避し上記把持状態から既設杭の外周面を把持しない非把持状態へと移行する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した構成の既設杭の引抜装置では、把持爪をケーシングの内部に突出動作させるために、ケーシング内に大掛かりなガイド部材を設置しかつ把持爪をケーシング内部にスライド動作させるための十分な空間を確保する必要がある。そのため、既設杭を把持するために把持爪をケーシング内部へと突出させる機構(以下、「駆動機構」という。)の構成が複雑となるうえ大型化するという問題がある。とりわけ、駆動機構の構成が大型化すると、ケーシングの直径を大きくする必要があるため、装置全体の大型化や重量増加を招き、ケーシングによる掘削速度が落ちるとともに、装置の移動性も悪くなるので、既設杭の引き抜き作業の効率が下がることになる。
【0008】
この発明は、上記した問題に着目してなされたもので、既設杭の引抜装置において、把持爪をケーシング内部に出没動作させる駆動機構の構成を簡素化およびコンパクト化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による既設杭の引抜装置は、地中に埋設された既設杭の周囲を掘るための掘削刃を下端に有し前記既設杭を囲むように地中に押し込まれる筒状のケーシングと、前記ケーシングの下部に起伏動作可能に設けられる把持爪と、前記把持爪を起伏動作させてその先端をケーシング内部に出没させる駆動機構とを有し、前記把持爪の先端をケーシング内部に突出させ既設杭の下端に係合させた状態でケーシングを上昇させることによりケーシングとともに既設杭を地中から引き抜くものであり、前記駆動機構は、ケーシングの下部にケーシングの長さ方向に沿って往復動可能に設けられたラックと、ケーシングの下部に前記ラックと噛み合うように設けられたピニオンと、前記ラックをケーシングの長さ方向に往復動させる駆動装置と、前記ラックの往復動によるピニオンの回転に応動して把持爪を起伏動作させる動力伝達部材とを備えている。
【0010】
上記した構成の既設杭の引抜装置により、地中に埋設されている既設杭を撤去するためには、まず、撤去する既設杭の上端部を地表にわずかに露出させ、ケーシング内に既設杭の上端が入るようにこの発明の既設杭の引抜装置を移動させる。なお、このとき、前記把持爪は起立状態となっている。次に、ケーシングの下端部に固定された掘削刃により既設杭の周辺土壌を掘削してケーシングを徐々に下降させる。そして、ケーシングの下端が既設杭の下端よりも少し下方まで達したところでケーシングによる掘削を停止させる。
【0011】
その後、駆動装置により前記ラックを往動させると、ピニオンが回転し、これに応動して動力伝達部材が把持爪を倒伏動作させて、把持爪の先端がケーシング内部に突出する。この状態で、ケーシングを引き上げると、把持爪の先端がケーシング内に挿入された既設杭の下端に食い込んで、既設杭が把持爪によって把持される。そして、この既設杭を把持した状態でケーシングを引き続き引き上げることで、既設杭をケーシング内に収容した状態で地中から引き抜くことができる。
【0012】
前記把持爪をピニオンの回転に応動して起伏動作させる動力伝達部材は、種々の態様のものが考えられるが、そのひとつは、前記ピニオンと把持爪との間に介在し、ピニオンの回転を把持爪に伝達して連動させるものが考えられる。
この態様では、ラックの往復動によりピニオンが回転すると、動力伝達部材がその回転力を把持爪に伝達することにより把持爪が起伏動作する。
【0013】
この発明の好ましい実施態様においては、前記ケーシングは、前記既設杭を囲むように地中に押し込まれる内筒と、前記内筒の下部の外側を囲む外筒とから成り、内筒と外筒の間に前記把持爪および駆動機構が配備されている。
この実施例では、前記把持爪や駆動機構を構成するラックやピニオンの配置の自由度を増すために、これらの構成を既設杭が挿入される内筒の外側に配備したとしても、外筒によって覆われて露出することがないので、前記把持爪や駆動機構はケーシングの地中への打ち込み時などに土砂の抵抗を受けることがなく、土砂による破損や損傷を防ぐことができる。
【0014】
この発明の好ましい実施態様においては、前記駆動装置はシリンダ機構であり、前記ラックはシリンダ機構のロッドに直接または連結部材を介して接続されている。
上記した構成において、「シリンダ機構」は電動シリンダ、エアシリンダ、油圧シリンダなど、種々のものを用いることができる。この実施例によると、シリンダ機構のロッドの伸長・縮小動作によって前記ラックが往復動し、これによるピニオンの回転に応動して把持爪が起伏動作する。
【発明の効果】
【0015】
この発明によると、ラックの往復動によるピニオンの回転に応動して把持爪が起伏動作し、把持爪の先端がケーシング内部に出没するので、従来例の既設杭の引抜装置のように、把持爪をケーシングの内部に出没させるために、ケーシング内に大掛かりなガイド部材を設置したり、把持爪を出没動作させるための空間を確保する必要がなく、把持爪をケーシング内部に出没動作させる駆動機構の構成の簡素化およびコンパクト化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1および図2は、この発明の一実施例である既設杭の引抜装置1(以下、「杭引抜装置」という。)の全体構成を示している。
この発明の杭引抜装置1は、建築構造物の立て替えなどのときに、地中Gに埋設されている既設杭Pを撤去するために使用されるものであり、地中Gに埋設された既設杭Pの周囲を掘削して既設杭Pと地盤との縁を切るためのケーシング2と、ケーシング駆動装置3と、ケーシング2の下部に設けられ既設杭Pの下端を把持するための複数個(この実施例では2個)の把持爪4と、把持爪4をケーシング2内部に出没させるための駆動機構5とを備えている。
【0017】
ケーシング駆動装置3は、ケーシング2を回転駆動するためのものであり、その内部にケーシング2を回転させるための回転力を発生させるモータ(図示せず。)を有している。ケーシング駆動装置3の下部には、前記モータによって回転する環状の回転駆動軸30が突出しており、この回転駆動軸30の下部に一体に設けられた連結部31に、ケーシング2の上端部が一体回転可能に連結されている。
なお、図1中、10は杭引抜装置1を鉛直方向に吊り下げるクレーン車であり、ケーシング駆動装置3の上部に取り付けられたフック32とクレーン車10に取り付けられたフック11とを掛合させて杭引抜装置1を垂直姿勢で吊り下げるとともに、鉛直方向に昇降させる。また、12はケーシング2が地面を掘削中に歳差運動するのを防止するための振れ止め板である。
【0018】
前記ケーシング2は、既設杭Pの外径よりも大きい内径をもつ鋼管などから成る内筒6と、内筒6の下部の外側に内筒6と一体に回転可能でかつ鉛直方向に移動可能に設けられた外筒7とから構成されている。内筒6および外筒7の下端の外周部には、既設杭P周囲の地面を削って掘り下げるための掘削刃13,14が所定の間隔で複数個ずつ取り付けられている。
【0019】
前記内筒6は、図2に示すように、下端が開口した中空の円筒形状から成り、例えば鋼材により形成される。内筒6の側面には、鉛直方向に所定の間隔で所定の大きさの開口60が複数個形成されている。この開口60を通して内筒6の内部に挿入された既設杭Pの地表における状態を目視することができるようになっている。また、この開口60は、空気や水などを内筒6の内外に流通させるためのものでもある。
【0020】
内筒6の上面には、ケーシング駆動装置3の連結部31と連結可能な結合部61が設けられ、この結合部61を介して回転駆動軸30の回転とクレーン10の起伏による上下動を内筒6へ伝達可能となっている。また、内筒6の上端外側には、後述する油圧シリンダ8の上端部が接続される支持片62,62が直径方向に2箇所突設されている。
【0021】
内筒6の下端部の外周面には、図2および図3に示すように、前記掘削刃13が内筒6の下端部から突出するように等角度で12個取り付けられている。この掘削刃13は、超硬合金チップやダイヤモンドなどの刃体を有し、内筒6の下端部に溶接またはボルトの締付けなどによって強固に固着されている。なお、掘削刃13は、使用条件に応じてその数や取付位置を適宜最適なものに変更してもよい。
また、内筒6の下端部の上方近傍には、図2および図4に示すように、内筒6の周壁を貫通する矩形状の窓孔63,63が直径方向に2箇所設けられており、この各窓孔63から後述する一対の把持爪4の先端部4Aが内筒6の内部に突出したり、内筒6の外部へ退避したりするようになっている。
【0022】
前記外筒7は、図2に示すように、下端が開口した中空の円筒形状から成り、例えば鋼材により形成される。外筒7の下端部の外周面には、図2および図3に示すように、前記掘削刃14が外筒7の下端部から突出するように等角度で18個取り付けられている。この掘削刃14も、超硬合金チップやダイヤモンドなどの刃体を有し、外筒7の下端部に溶接またはボルトの締付けなどによって強固に固着されている。なお、掘削刃14は、使用条件に応じてその数や取付位置を適宜最適なものに変更してもよい。
【0023】
外筒7の内周面には、図2および図4に示すように、互いに対向する上板70および下板71と、互いに対向する側板72,72とが直径方向に2箇所それぞれ突設され、両側板72と上板70および下板71とはそれぞれ溶接により接合されている。この上板70、下板71および両側板72の他端部はそれぞれ溶接により内筒6の外周面に接合され、内筒6と外筒7との間に円周方向に仕切られた爪収容空間73,73が形成されている。この爪収容空間73の前面側は開口した前記窓孔63となっており、爪収容空間73内に把持爪4が、把持爪4の先端部4Aが既設杭Pの外周面に係合する係合位置(図7参照。)と、この係合位置から爪収容空間73内に退避する退避位置(図5参照。)とに亘って倒伏動作できるように支持されている。
【0024】
前記把持爪4は、例えば鋼材から成る平面形状が矩形状のものであり、内筒6の下端部近傍に等角度で2個配設されている。各把持爪4は、図4および図5に示すように、その基端部が前記爪収容空間73内に水平に設けられた支え軸15に溶接などによって固着されている。支え軸15の両端部は、爪収容空間73内に固定された一対のブラケット16,16により支持されており、これにより把持爪4は基端部を支点として傾動し、先端部4Aが上下方向に往復動可能となっている。各把持爪4は、通常時は爪収容空間73内に起立状態で静止するように保持されているが(図5参照。)、既設杭Pを把持するときは前方に倒伏してその先端部4Aが前記窓穴63から内筒6内に突出し(図6参照。)、前記先端部4Aが既設杭Pの外周面に係合する係合位置まで倒伏する(図7参照。)。
なお、この実施例では、各把持爪4の先端部4Aは、平面形状が既設杭Pの外周面の凸面に対応するように凹面状に形成されているが、埋設されている既設杭Pの形状に応じて種々の形状に形成することが可能である。
【0025】
把持爪4の上面には、長さ方向に沿って延びる長孔から成る縦溝41を有する一対のガイド部材40,40が固定されている。この縦溝41,41に後述する駆動機構5を構成する動力伝達部材9のアーム93の両端部が摺動自在に嵌合されており、詳細は後述するが、動力伝達部材9を前後に傾動させることによって把持爪4を倒伏動作可能な構成としている。
【0026】
駆動機構5は、把持爪4の倒伏動作させて把持爪4の先端部4Aを窓孔63から内筒6の内部に突出させたり内筒6の外部へ退避させたりするためのものであり、内筒6の上端部に取り付けられた油圧シリンダ8と、この油圧シリンダ8のピストンロッド80の先端部に連結された駆動ロッド50と、駆動ロッド50に設けられたラック51と、爪収容空間73内にラック51と噛み合うように設けられたピニオン52と、ピニオン52の回転に応動して把持爪4を起伏動作させる動力伝達部材9とを備えている。
【0027】
前記油圧シリンダ8は、図2に示すように、その上端が内筒6の上端外側に設けられた支持片62に連結されており、油圧シリンダ8の下端から突出する伸縮自在なピストンロッド80の先端部と駆動ロッド50の上端部とが連結部材81によって連結されている。
【0028】
前記駆動ロッド50は、図4および図5に示すように、内筒6と外筒7との間を垂直方向に伸び、その下端部近傍には、ケーシング2の長さ方向にラック51が所定の長さだけ設けられている。この駆動ロッド50は、外筒7の上面に設けられた貫通孔74、さらに前記上板70および下板71にそれぞれ設けられた貫通孔75,76に挿通してあり、駆動ロッド50の下端部は爪収容空間73内を通って下板71から突出している。また、駆動ロッド50の中間部は、内筒6の外側面に固着されたガイドスリーブ64(図2参照。)に上下動自在に挿通支持されており、駆動ロッド50はほぼ真っ直ぐに上下動するように規制されている。
【0029】
なお、図4および図5中、54,55はストッパーであり、駆動ロッド50が上下動するときに、各ストッパー54,55が前記上板70または下板71にそれぞれ突き当たることによりその移動を強制的に停止させて位置決めされる。この実施例では、把持爪4の先端部4Aが上記の退避位置(図5参照。)にあるときにストッパー54が上板70に突き当たるとともに、把持爪4の先端部4Aが上記の係合位置(図7参照。)にあるときにストッパー55が下板71に突き当たるように、各ストッパー54,55の設置位置が調整されている。
【0030】
前記ピニオン52は、図4および図5に示すように、爪収容空間73内に水平に設けられた支持軸53に固定されており、支持軸53の両端部は、前記の一対のブラケット16,16によって回動自由に支持されている。このピニオン52はラック51に噛み合っており、ラック51が上方または下方に移動することにより正逆方向に回転する。
【0031】
前記動力伝達部材9は、ピニオン52と把持爪4との間に介在し、ピニオン52の回転を把持爪4に伝達するためのものであり、図4および図5に示すように、左右の脚部90,91の先端にアーム93が設けられた構成のものである。脚部90,91の基端部は前記支持軸53に溶接などによって固着されており、動力伝達部材9はその基端部を支点として傾動し、先端部が上下方向に往復動可能となっている。アーム93の両端は、前記把持爪4の上面に設けられたガイド部材40,40の縦溝41,41に摺動自在に嵌合されている。
なお、動力伝達部材9は、通常時は、前記爪収容空間73内に起立状態で静止するように保持されており、これに伴い、把持爪4も起立し、爪収容空間73内の退避位置に待機している(図5参照。)。
【0032】
上記した構成の駆動機構5によると、把持爪4が図5に示す退避位置にあるときに油圧シリンダ8のピストンロッド80を収縮作動させると、駆動ロッド50が上方(図6に示すp方向)へ牽引されてラック51が上方に移動する。ラック51が上方に移動すると、ピニオン52が図6に示すr方向に回動し、これに伴い動力伝達部材9もr方向に傾動する。これにより、動力伝達部材9は把持爪4を前方に押圧するので、把持爪4は前方に倒伏し、その先端部4Aが窓孔63から突出して既設杭Pの外周面に係合する係合位置に位置する(図7参照。)。
【0033】
また、油圧シリンダ8のピストンロッド80を上記収縮位置から伸長作動させると、駆動ロッド50が下方(図6に示すq方向)へ押し下げられてラック51が下方に移動する。ラック51が下方に移動すると、ピニオン52が図6に示すs方向に回動し、これに伴い動力伝達部材9もs方向に傾動する。これにより、動力伝達部材9は把持爪4を引き上げるので、把持爪4は起立して元の爪収容空間73内の退避位置まで復帰する(図5参照。)。
【0034】
なお、上記した実施例では、把持爪4と動力伝達部材9とを、把持爪4の上面に設けたガイド部材40,40を介して一体化し、動力伝達部材9の後方への傾動に伴い動力伝達部材9が把持爪4を引き上げることにより、把持爪4が上記の係合位置から爪収容空間73内の退避位置に復帰する構成となっているが、これに限らず、例えば、把持爪4を起立方向に付勢するスプリングを爪収容空間73内に設け、前記動力伝達部材9による把持爪4への押圧力が解除されると、スプリングの復元力によって把持爪4が上記の係合位置から爪収容空間73内の退避位置に復帰するように構成してもよい。
【0035】
また、図面には示していないが、この杭引抜装置1には上記した構成のほかに、内筒6の内部に水や空気を噴出させるための噴出管が上下方向に複数本配管されており、この噴出管の先端は内筒6の下端部に臨ませてある。
【0036】
さらに、外筒7の外周面または内筒6の下部の内周面には、前記爪収容空間73に通じる開口部(図示せず。)が設けられてあり、この開口部には開閉可能な蓋(図示せず。)が取り付けられている。前記開口部は、平時は、土砂の進入を防止するために、蓋により塞がれているが、蓋の開放によって開口部より外部から爪収容空間73内へ水などを注入することで、ラック51やピニオン52に付着した土砂などの洗浄を行うことができる。
【0037】
次に、上記した構成の杭引抜装置1を使用した地中Gに埋設されている既設杭Pの引き抜き作業について、図8を中心に他の図面を参照して説明する。まず、撤去する既設杭Pの上端部を地表にわずかに露出させ、振れ止め板12(図1参照。)を、その開口部12aが既設杭Pの周囲に位置するように設置して地表に強固に固定する。次に、クレーン車10で杭引抜装置1を吊り下げて、杭引抜装置1の内筒6が振れ止め板12の開口部12a内に入り、かつ、内筒6内に既設杭Pの上端が入るように杭引抜装置1を移動させる。なお、このとき、把持爪4は爪収容空間73内の退避位置に待機している。
【0038】
次に、ケーシング駆動装置3によって内筒6を回転させて、内筒6の下端部に固定された掘削刃13,14により既設杭Pの周辺土壌を掘削して内筒6を徐々に下降させる(図8(1))。この時、水などを前記噴出管内に通して内筒6の下端から噴出させて内筒6の下端周辺の土砂を泥土化することにより、掘削作業を効率良く行うことができる。なお、掘削された水を含んだ土砂は内筒6の開口60から排出される。そして、内筒6の下端が既設杭Pの下端よりも少し下方まで達したところで内筒6の回転を停止させる(図8(2))。
【0039】
その後、油圧シリンダ8のピストンロッド80を収縮させて、駆動ロッド50に設けられたラック51を上方に移動させことにより、把持爪4を前方に倒伏させて把持爪4の先端部4Aを窓孔63から一斉に内筒6内に突出させる(図8(3))。この状態で、クレーン車により杭引抜装置1を引き上げると、把持爪4の先端部4Aが既設杭Pの外周面に食い込んで係合し、既設杭Pの下端が把持爪4によって把持される(図8(4))。そして、既設杭Pを把持した状態(すなわち、ピストンロッド80を収縮させた状態)で杭引抜装置1を引き続き引き上げることで、既設杭Pを内筒6内に収容した状態で地中から引き抜くことができる。
【0040】
この杭引抜装置1によると、ラック51の上下動によるピニオン52の回転に応動して把持爪4が起伏動作し、把持爪4の先端部4Aが内筒6の内部に出没するので、把持爪4を内筒6の内部に出没させる駆動機構5の構成を簡素化およびコンパクト化できる。そのため、外筒7の外径を小さくすることができるなど、杭引抜装置1全体の重量の軽量化が可能となる。
【0041】
次に、図9および図10は、前記駆動機構5の他の実施例の既略的な構成を示している。なお、基本的な構成は上記した実施例の構成と同様であり、ここでは対応する構成には同一の符号を付することで説明を省略する。
【0042】
図9および図10に示す駆動機構5では、前記ピニオン52は、把持爪4を支持する支え軸15に溶接などによって一体固定されており、上記の実施例と同様に駆動ロッド50に設けられたラック51に噛み合わされている。駆動ロッド50の図示されていない上端部は、油圧シリンダ8のピストンロッド80に連結されており、ピストンロッド80の伸縮動作によりラック51が上方または下方に移動する。
【0043】
この実施例では、ラック51が上方に移動すると、ピニオン52が図10に示すx方向に回転し、これに伴い把持爪4が前方に倒伏して、その先端部4Aが窓孔63から突出して既設杭Pの外周面に係合する係合位置に位置する。その後、ラック51が下方に移動すると、ピニオン52が図10に示すy方向に回動し、これに伴い把持爪4が起立して元の退避位置まで復帰し、爪収容空間73内に退避する。
【0044】
この実施例によれば、支え軸15がピニオン52の回転に応動して把持爪4を起伏動作させる動力伝達部材として機能するので、上記した実施例の動力伝達部材9を省くことができ、駆動機構5の構成をさらに簡素化およびコンパクト化できる。これにより、外筒7の外径をさらに小さくすることができるなど、杭引抜装置1全体の重量をさらに軽量化でき、既設杭Pの引き抜き作業の効率が向上する。
【0045】
次に、上記した実施例では、前記内筒6は所定の長さを有する1本の鋼管により構成されているが、図11に示すように、複数のパイプを連結部64を介して直列に接続して1本の鋼管を構成してもよい。なお、その他の構成は上記した実施例の構成と同様であり、ここでは対応する構成には同一の符号を付することで説明を省略する。
図示例の内筒6は、内筒6の最上部に位置する上部パイプ65と内筒6の最下部に位置する下部パイプ66と継ぎ足し用の複数のパイプ67とから構成されている。
【0046】
上部パイプ65の上面には、ケーシング駆動装置3の連結部31と連結可能な結合部61が設けられ、この結合部61を介して回転駆動軸30の回転を内筒6へ伝達可能となっている。また、上部パイプ65の上端外側には、図示は省略しているが、前記油圧シリンダ8が前記支持片62を介して連結されている。
【0047】
下部パイプの外周面には、掘削刃13が下部パイプ66の下端部から突出するように等角度で12個取り付けられている。また、下部パイプ66の外側には、前記外筒7が取り付けられ、下部パイプ66と外筒7との間には、図示は省略するが、前記把持爪4や把持爪4を駆動する前記駆動機構5が配備されている。この把持爪4を起伏動作させてその先端部4Aを内筒6(下部パイプ66)の内部に突出させたり、内筒6(下部パイプ66)の外部へ退避させたりする構成は上記した実施例と同様である。
【0048】
各パイプを連結する方法としては、例えば、上部パイプ65の下端部、下部パイプ66の上端部および継ぎ足し用の各パイプ67の上端部および下端部に、パイプの外周に沿って複数のボルト孔(図示せず。)をそれぞれ形成し、また、連結部64の上端部および下端部にも同様に、連結部64の外周に沿って複数のボルト孔(図示せず。)をそれぞれ形成する。先行(下側)のパイプの上端部に連結部64をボルトおよびナット(図示せず。)によって締め付け固定し、この連結部64に後続(上側)のパイプを嵌合して、ボルトおよびナット(図示せず。)によって両者を締め付け固定することにより、上下の両パイプが接続される。
【0049】
この実施例によると、既設杭Pの長さに応じて継ぎ足し用のパイプ67を順次、上部パイプ65と下部パイプ66の間に接続させることで、既設杭Pの長さに応じて既設杭Pを挿入する内筒6の長さを調節することが可能となる。
【0050】
さらに、上記した実施例では、駆動ロッド50に設けられたラック51を上方または下方に移動させるために油圧シリンダ8を用いているが、これに限らず、図12および図13に示すような構成のものであってもよい。
【0051】
図12は、上記の実施例の油圧シリンダ8に代えてワイヤー88を使用しており、このワイヤー88は、その先端部を駆動ロッド50の上端部に連結し、他端部を内筒6の上端部に取り付けた滑車89に掛けわたして下方に延出している。ワイヤー88を引っ張ると、駆動ロッド50が上方へ牽引されて前記ラック51が上方に移動する。これにより、把持爪4が倒伏して把持爪4の先端部4Aが内筒6内に突出するのは上記した実施例と同様である。一方、ワイヤー88を戻すと、駆動ロッド50が下方へ押し下げられて前記ラック51が下方に移動する。これにより、把持爪4が起立して把持爪4の先端部4Aが内筒6の外へ退避するのは上記した実施例と同様である。
【0052】
図13は、上記の実施例の油圧シリンダ8に代えて傾動レバー82を使用しており、傾動レバー82の長さ中央部に前記駆動ロッド50の上端部が連結されている。傾動レバー82は、長さ中央部から一端部82A寄りに支軸83が水平に設けられており、前記支軸83は、前記内筒6の上端部に固定されている。可動レバー82は支軸83を支点として傾動し、一端部82Aおよび他端部82Bが上下方向に往復動可能となっている。
【0053】
傾動レバー82の一端部82Aおよび他端部82Bには、ワイヤー84,85がそれぞれ吊り下げられている。各ワイヤー84,85の先端部は下方に延出し、ハンドル86,87に連結されている。ハンドル86を介してワイヤー84を下方に引っ張ると、傾動レバー82の一端部82A側が下方に移動するとともに他端部82B側が上方に移動するので、駆動ロッド50が上方へ牽引されて前記ラック51が上方に移動する。これにより、把持爪4が倒伏し把持爪4の先端部4Aが内筒6内に突出するのは上記した実施例と同様である。一方、ハンドル87を介してワイヤー85を下方に引っ張ると、傾動レバー82の他端部82B側が下方に移動するとともに一端部82A側が上方に移動するので、駆動ロッド50が下方へ押し下げられて前記ラック51が下方に移動する。これにより、把持爪4が起立し把持爪4の先端部4Aが内筒6の外へ退避するのは上記した実施例と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の一実施例である杭引抜装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】ケーシングの構成を拡大して示す一部を破断した正面図である。
【図3】ケーシングの底面図である。
【図4】駆動機構の構成を拡大して示す平面断面図である。
【図5】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図7】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図8】この発明の杭引抜装置を用いた杭抜き作業の工程を順に示した説明図である。
【図9】駆動機構の他の実施例の構成を拡大して示す平面断面図である。
【図10】駆動機構の他の実施例の構成を拡大して示す縦断面図である。
【図11】この発明の他の実施例である杭引抜装置の概略構成を示す側面図である。
【図12】油圧シリンダに代えてワイヤーを使用した駆動機構の構成を示す正面図である。
【図13】油圧シリンダに代えて傾動レバーを使用した駆動機構の構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 既設杭の引抜装置
2 ケーシング
4 把持爪
5 駆動機構
6 内筒
7 外筒
8 油圧シリンダ
9 動力伝達部材
13,14 掘削刃
50 駆動ロッド
51 ラック
52 ピニオン
80 ピストンロッド
P 既設杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された既設杭の周囲を掘るための掘削刃を下端に有し前記既設杭を囲むように地中に押し込まれる筒状のケーシングと、前記ケーシングの下部に起伏動作可能に設けられる把持爪と、前記把持爪を起伏動作させてその先端をケーシング内部に出没させる駆動機構とを有し、前記把持爪の先端をケーシング内部に突出させ既設杭の下端に係合させた状態でケーシングを上昇させることによりケーシングとともに既設杭を地中から引き抜く既設杭の引抜装置において、
前記駆動機構は、ケーシングの下部にケーシングの長さ方向に沿って往復動可能に設けられたラックと、ケーシングの下部に前記ラックと噛み合うように設けられたピニオンと、前記ラックをケーシングの長さ方向に往復動させる駆動装置と、前記ラックの往復動によるピニオンの回転に応動して把持爪を起伏動作させる動力伝達部材とを備えて成る既設杭の引抜装置。
【請求項2】
前記動力伝達部材は、前記ピニオンと把持爪との間に介在し、ピニオンの回転を把持爪に伝達して連動させる請求項1に記載された既設杭の引抜装置。
【請求項3】
前記ケーシングは、前記既設杭を囲むように地中に押し込まれる内筒と、前記内筒の下部の外側を囲む外筒とから成り、内筒と外筒の間に前記把持爪および駆動機構が配備されている請求項1または2に記載された既設杭の引抜装置。
【請求項4】
前記駆動装置は、シリンダ機構であり、前記ラックはシリンダ機構のロッドに直接または連結部材を介して接続されている請求項1〜3のいずれかに記載された既設杭の引抜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−35869(P2009−35869A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198877(P2007−198877)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(500109674)株式会社大枝建機工業 (4)
【Fターム(参考)】