説明

既設橋梁の保護管補修方法およびその方法に使用される型枠材

【課題】鋼製ケーブルが保護管により覆われてなる斜吊材を有する既設橋梁に対して、その保護管を補修する作業を、安全性を確保した上で効率良く行えるようにする。
【解決手段】斜吊材20の下端部に、これを所定長にわたって所定間隔をおいて覆う第1のFRP管60を装着した後、これを斜吊材20に沿ってその上端部側へ上記所定長分だけ引き上げる。次に、斜吊材20の下端部に、第2のFRP管60を装着して、これを第1のFRP管60と連結した後、これらを上記所定長分だけ引き上げ、以下、同様の作業を繰り返すことにより、斜吊材20を略全長にわたって、複数のFRP管60が一体化したFRP管連続体50で覆うようにする。これにより、一定の作業の繰り返しにより保護管24の補修を画一的に行えるようにし、かつ、保護管24の亀裂が斜吊材20のどの位置で発生したとしても、危険な高所作業を必要することなく、その補修を行えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、鋼製ケーブルが保護管により覆われてなる斜吊材を有する既設橋梁に対して、その保護管を補修するための方法に関するものであり、また、その方法に使用される型枠材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
斜吊材を有する橋梁(例えば斜張橋)においては、その斜吊材の構成として、鋼製ケーブルが保護管により覆われた構成が多く採用されている。
【0003】
例えば「特許文献1」には、斜吊材の鋼製ケーブルが、FRP(すなわち繊維強化プラスチック)製の保護管により覆われた斜張橋が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−244908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような斜吊材を有する橋梁においては、その架設環境や斜吊材の構造によっては、橋梁架設後に、斜吊材の保護管に亀裂が発生しやすい、という問題がある。
【0006】
例えば、斜吊材の保護管として、高密度ポリエチレン製の保護管が用いられ、かつ、鋼製ケーブルと保護管との間にグラウトが注入されているような場合には、高密度ポリエチレンとグラウトとの線膨張率の差が大きいため、温度変化による熱応力が保護管に発生しやすくなる。また、グラウト圧による残留応力も保護管に発生しやすくなる。その際、グラウト注入孔の周辺においては応力集中が発生しやすくなる。そして、これらの要因が複合して、既設橋梁の保護管には亀裂が入りやすくなり、特に低温下では熱応力による亀裂が発生しやすくなる。そして、このような亀裂が保護管に発生すると、鋼製ケーブルが腐食しやすくなってしまう。
【0007】
これに対し、従来、保護管の亀裂発生箇所を熱収縮チューブで部分的に被覆することにより、その補修を行う対策が施されている。しかしながら、このような補修方法では、保護管の亀裂発生箇所が斜吊材の長手方向の中間部分に位置する場合には、仮設足場や高所作業車等を用いた高所作業が必要となる。このため、補修作業の安全性を確保することが容易でなく、また、亀裂発生箇所毎に個別に高所作業を行う必要があるため作業効率が悪い、という問題がある。
【0008】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、鋼製ケーブルが保護管により覆われてなる斜吊材を有する既設橋梁に対して、その保護管を補修する作業を、安全性を確保した上で効率良く行うことができる、既設橋梁の保護管補修方法を提供すること、および、その方法に使用される型枠材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、複数のFRP管を下または上から順次継ぎ足して、斜吊材を略全長にわたってFRP管連続体で覆うようにすることにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0010】
すなわち、本願第1の発明に係る既設橋梁の保護管補修方法は、
鋼製ケーブルが保護管により覆われてなる斜吊材を有する既設橋梁に対して、上記保護管を補修する方法であって、
上記斜吊材の下端部において、該斜吊材を所定長にわたって該斜吊材と所定間隔をおいて覆う第1のFRP管を、該斜吊材に装着した後、このFRP管を上記斜吊材に沿って該斜吊材の上端部側へ上記所定長分だけ引き上げ、
次に、上記斜吊材の下端部において、該斜吊材を所定長にわたって該斜吊材と所定間隔をおいて覆う第2のFRP管を、該斜吊材に装着して、このFRP管を上記第1のFRP管と連結した後、この連結により一体化した上記第1および第2のFRP管を上記斜吊材の上端部側へ上記所定長分だけ引き上げ、
以下、同様の作業を繰り返すことにより、上記斜吊材を略全長にわたって、複数のFRP管が連結されてなるFRP管連続体で覆うようにする、ことを特徴とするものである。
【0011】
また、本願第2の発明に係る既設橋梁の保護管補修方法は、
鋼製ケーブルが保護管により覆われてなる斜吊材を有する既設橋梁に対して、上記保護管を補修する方法であって、
上記斜吊材の上端部において、該斜吊材を所定長にわたって該斜吊材と所定間隔をおいて覆う第1のFRP管を、該斜吊材に装着した後、このFRP管を上記斜吊材に沿って該斜吊材の下端部側へ上記所定長分だけ引き下ろし、
次に、上記斜吊材の上端部において、該斜吊材を所定長にわたって該斜吊材と所定間隔をおいて覆う第2のFRP管を、該斜吊材に装着して、このFRP管を上記第1のFRP管と連結した後、この連結により一体化した上記第1および第2のFRP管を上記斜吊材の下端部側へ上記所定長分だけ引き下ろし、
以下、同様の作業を繰り返すことにより、上記斜吊材を略全長にわたって、複数のFRP管が連結されてなるFRP管連続体で覆うようにする、ことを特徴とするものである。
【0012】
本願発明に係る保護管補修方法の適用対象となる「既設橋梁」は、鋼製ケーブルが保護管により覆われてなる斜吊材を有するものであれば、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、斜張橋、エクストラドーズド橋、吊り橋等が適用対象となり得る。
【0013】
上記「FRP管連続体」を構成する「複数のFRP管」は、互いに同一の管長を有するものであってもよいし、そのうちの一部またはすべてが互いに異なる管長を有するものであってもよい。
【0014】
上記斜吊材の下端部または上端部への「FRP管」の装着は、予め工場等において作製された「FRP管」の構成要素(例えば半割FRP管等)を現場で組み付けることにより行うようにしてもよいし、「FRP管」を現場で作製することにより行うようにしてもよい。
【0015】
一方、本願発明に係る型枠材は、本願発明に係る既設橋梁の保護管補修方法に使用されるFRP管を作製するために、外周面に連続繊維シートが巻き付けられるように構成された筒状の型枠材であって、軸線方向一端部が大径部として形成されるとともに、周方向両端部に複数のリベット孔が軸線方向に所定間隔をおいて形成されたFRP製の1つ割管で構成されている、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
上記構成に示すように、本願第1の発明に係る既設橋梁の保護管補修方法は、斜吊材の下端部において、この斜吊材を所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆う第1のFRP管を、斜吊材に装着した後、このFRP管を斜吊材に沿ってその上端部側へ上記所定長分だけ引き上げ、次に、斜吊材の下端部において、この斜吊材を所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆う第2のFRP管を、斜吊材に装着して、このFRP管を第1のFRP管と連結した後、この連結により一体化したFRP管を斜吊材に沿ってその上端部側へ上記所定長分だけ引き上げ、以下、同様の作業を繰り返すことにより、斜吊材を略全長にわたって、複数のFRP管が一体化したFRP管連続体で覆うようになっており、
また、本願第2の発明に係る既設橋梁の保護管補修方法は、斜吊材の上端部において、この斜吊材を所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆う第1のFRP管を、斜吊材に装着した後、このFRP管を斜吊材に沿ってその下端部側へ上記所定長分だけ引き下ろし、次に、斜吊材の上端部において、この斜吊材を所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆う第2のFRP管を、斜吊材に装着して、このFRP管を第1のFRP管と連結した後、この連結により一体化したFRP管を斜吊材に沿ってその下端部側へ上記所定長分だけ引き下ろし、以下、同様の作業を繰り返すことにより、斜吊材を略全長にわたって、複数のFRP管が一体化したFRP管連続体で覆うようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0017】
すなわち、本願発明においては、保護管の補修作業を、斜吊材の下端部または上端部において複数のFRP管を順次継ぎ足すことにより行うことができるので、一定の作業の繰り返しにより保護管の補修を画一的に行うことができ、これにより補修作業を効率良く行うことができる。
【0018】
また、本願発明においては、この補修作業により、斜吊材を略全長にわたってFRP管連続体で覆うようになっているので、保護管の亀裂が斜吊材のどの位置で発生したとしても、FRP管引き上げまたはFRP管引き下ろしのための高所作業以外の危険な高所作業を必要することなく、保護管の補修を行うことができる。
【0019】
このように本願発明によれば、鋼製ケーブルが保護管により覆われてなる斜吊材を有する既設橋梁に対して、その保護管の補修作業を、安全性を確保した上で効率良く行うことができる。
【0020】
しかも本願発明のように、斜吊材を略全長にわたってFRP管連続体で覆うようにすることにより、将来、新たな亀裂が保護管に発生したような場合においても、鋼製ケーブルの保護を図ることができる。
【0021】
上記保護管補修方法において、斜吊材とFRP管連続体との隙間に、低弾性の充填材を注入するようにすれば、FRP管連続体の内部空間に雨水等が侵入してしまうのを抑制することができ、また、たとえ雨水等が侵入した場合においても、その凍結による膨張圧を緩和することができる。さらに、この充填材の断熱作用によって、温度変化による熱応力が保護管に発生しにくくなるようにすることができる。ここで「低弾性の充填材」とは、グラウトに比して弾性が低い充填材を意味するものであり、例えばポリウレタンや発泡スチロール等が採用可能である。
【0022】
上記保護管補修方法において、各FRP管の作製を、斜吊材に対して所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆うように配置された筒状の型枠材の外周面に、連続繊維シートを巻き付けることにより行うようにすれば、例えば、各FRP管の作製を、予め工場等で作製しておいた半割FRP管等を現場で組み付けることにより行うようにした場合に比して、低コストでFRP管の作製を行うことができる。
【0023】
ここで「連続繊維シートを巻き付ける」際の具体的な方法は、特に限定されるものではく、例えば、帯状に形成された連続繊維シートを螺旋状に巻き付ける方法、あるいは、FRP管の管長に対応する長さで矩形状に形成された連続繊維シートを普通に巻き付ける方法等が採用可能である。
【0024】
その際、連続繊維シートとして、交差する2方向に強化繊維が配向されたシートを用いるようにすれば、FRP管の強度を一層高めることができる。
【0025】
上記保護管補修方法において、斜吊材とFRP管連続体との隙間を、FRP管連続体の上端縁において閉塞する一方、その下端縁においては開放しておくようにすれば、FRP管連続体の内部空間に雨水等が侵入するのを確実に防止することができ、かつ、FRP管連続体に過大な応力が不用意に発生してしまうのを未然に防止することができる。
【0026】
一方、本願発明に係る型枠材は、上記保護管補修方法に使用されるFRP管を作製するために、外周面に連続繊維シートが巻き付けられるように構成された筒状の型枠材であるが、その軸線方向一端部が大径部として形成されるとともに、その周方向両端部に複数のリベット孔が軸線方向に所定間隔をおいて形成されたFRP製の1つ割管で構成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0027】
すなわち、この1つ割管で構成された型枠材を、その周方向両端部を拡げるようにして斜吊材に取り付けた後、その周方向両端部を重ね合わせてリベットで接合するとともに、その大径部として形成された軸線方向一端部を他の型枠材の軸線方向他端部に嵌め込んだ状態で両者を接着固定することにより、型枠材相互の連結強度を高めることができる。そしてこれにより、これら各型枠材の外周面に連続繊維シートが巻き付けられて作製されたFRP管相互の連結強度についても、これを高めることができる。
【0028】
上記構成において、1つ割管の内周面における周方向の複数箇所にスペーサが取り付けられた構成とすれば、斜吊材と型枠材との間隔を一定に維持することが容易に可能となる。
【0029】
その際、これら各スペーサが1つ割管における軸線方向他端部近傍に配置された構成とすれば、型枠材をその軸線方向一端部において他の型枠材の軸線方向他端部に嵌め込む作業を容易に行うことができる。
【0030】
また、これら各スペーサが1つ割管の周方向に扇形に延びるブロックで構成されたものとするとともに、その周方向の少なくとも1箇所においてリベットで1つ割管に固定された構成とすれば、斜吊材に対する型枠材の支持をある程度の大きさの面で安定的に行うことができる。
【0031】
この場合において、各スペーサの内周面における軸線方向両端部に面取り部が形成された構成とすれば、斜吊材に沿って型枠材が移動する際、斜吊材に対するスペーサの摺動が円滑に行われるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本願発明の第1実施形態に係る既設橋梁の保護管補修方法の概要を示す側面図
【図2】上記保護管補修方法を示す工程図(その1)
【図3】上記保護管補修方法を示す工程図(その2)
【図4】上記保護管補修方法を示す工程図(その3)
【図5】上記保護管補修方法を示す工程図(その4)
【図6】上記保護管補修方法を示す工程図(その5)
【図7】上記保護管補修方法を示す工程図(その6)
【図8】上記保護管補修方法を示す工程図(その7)であって、図1のVIII部詳細図
【図9】図8のIX−IX線断面詳細図
【図10】図8のX−X線断面詳細図
【図11】上記第1実施形態の第1変形例を示す、図5と同様の図
【図12】上記第1変形例を示す、図6と同様の図
【図13】上記第1実施形態の第2変形例を示す、図5と同様の図
【図14】上記第1実施形態の第3変形例を示す、図5と同様の図
【図15】上記第3変形例を示す、図6と同様の図
【図16】図15のXVI−XVI線断面詳細図
【図17】本願発明の第2実施形態に係る既設橋梁の保護管補修方法の概要を示す側面図
【図18】上記第2実施形態に係る保護管補修方法を示す工程図(その1)であって、図17のXVIII 部詳細図
【図19】上記第2実施形態に係る保護管補修方法を示す工程図(その2)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0034】
まず、本願発明の第1実施形態について説明する。
【0035】
図1は、本実施形態に係る既設橋梁の保護管補修方法の概要を示す側面図である。また、図8は、図1のVIII部詳細図である。さらに、図9は、図8のIX−IX線断面詳細図であり、図10は、図8のX−X線断面詳細図である。
【0036】
まず、本実施形態に係る保護管補修方法の適用対象となる既設橋梁としての斜張橋10の構成について説明する。
【0037】
図1に示すように、この斜張橋10は、主塔12の橋軸方向両側に8対の斜吊材20が上下8段にわたって張設された構成となっている。これら各斜吊材20は、主塔12の橋軸方向両側の側壁面に上下方向に所定間隔をおいて配置された主塔側定着部16と、主桁14の上面における主塔12の橋軸方向両側に所定間隔をおいて配置された主桁側定着部18との間に斜めに張設されている。
【0038】
図9および10に示すように、各斜吊材20は、鋼製ケーブル22が高密度ポリエチレン製の保護管24により覆われた構成となっている。その際、鋼製ケーブル22は、多数のストランド22sが互いに密着した状態で配置された構成となっている。そして、これら各斜吊材20においては、その鋼製ケーブル22の外周面と保護管24との間に、グラウト26が隙間なく充填されている。
【0039】
図1に示すように、これら各斜吊材20は、本実施形態に係る保護管補修方法が適用されることにより、その略全長にわたってFRP管連続体50で覆われるようになっている。その際、このFRP管連続体50は、図8に示すように、斜吊材20をこれと所定間隔をおいて覆う複数のFRP管60が互いに連結された構成となっている。
【0040】
なお、図1においては、主塔12の右側に位置する8本の斜吊材20は、いずれもすでにFRP管連続体50で覆われた状態となっているが、主塔12の左側に位置する8本の斜吊材20は、下から4本目までは、すでにFRP管連続体50で覆われた状態となっている一方、上から3本目までは、まだFRP管連続体50で覆われた状態となってはおらず、上から4本目は、FRP管連続体50で覆われる作業が行われている最中の状態となっている。
【0041】
各斜吊材20とこれを覆うFRP管連続体50との隙間は、FRP管連続体50の上端縁においては、FRP管連続体50が主塔側定着部16に当接することにより閉塞されており、一方、FRP管連続体50の下端縁においては、FRP管連続体50が主桁側定着部18から少し離れて配置されることにより開放されている。
【0042】
次に、FRP管連続体50を構成する各FRP管60の構成について説明する。
【0043】
図8〜10に示すように、これら各FRP管60は、斜吊材20を、所定長(具体的には2〜4m程度(例えば3m程度)の長さ)にわたって、該斜吊材20と所定間隔(具体的には10〜20mm程度(例えば15mm程度)の間隔)をおいて覆うように配置された円筒状の型枠材62と、この型枠材62の外周面に巻き付けられた連続繊維シート64とからなっている。
【0044】
型枠材62は、塩化ビニル製の1対の半円筒状の型枠構成材62A、62Bで構成されている。その際、この型枠材62は、1対の型枠構成材62A、62Bが、斜吊材20を両側から挟み込むようにして、その円周方向の端面を互いに突き合わせた状態で、これら1対の端面において互いに接着されることにより構成されるようになっている。
【0045】
この型枠材62の内周面には、複数の突起部62aがスペーサとして形成されている。これら複数の突起部62aは、型枠材62の長手方向の複数箇所において、その周方向の複数箇所(例えば3箇所)に略等間隔をおいて形成されている。そして、これら各突起部62aは、この型枠材62を構成する1対の型枠構成材62A、62Bが突き合わされたとき、その先端部が斜吊材20の保護管24に当接し、これにより、型枠材62と斜吊材20との間に、その全周にわたって等間隔の隙間が形成されるようになっている。
【0046】
連続繊維シート64は、炭素繊維やアラミド繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の合成樹脂を含浸させることにより形成されたシートであって、帯状に形成されている。その際、この連続繊維シート64は、その長手方向およびこれと直交する方向に強化繊維が配向された2方向シートとして構成されている。
【0047】
この連続繊維シート64は、型枠材62の外周面に螺旋状に巻き付けられるようになっている。この巻き付けは、型枠材62の外周面および連続繊維シート64の表面にエポキシ樹脂等の合成樹脂を塗布した状態で行われるようになっている。
【0048】
そして、本実施形態においては、複数の型枠材62の長手方向の端面が、接着等により互いに連結され、これら複数の型枠材62に跨るようにして連続繊維シート64が巻き付けられることにより、複数のFRP管60が形成され、これが斜吊材20の略全長にわたって行われることにより、FRP管連続体50が形成されるようになっている。なお、この連続繊維シート64の巻き付けの際、複数の連続繊維シート64が、その端部同士を重ね合わせた状態で、順次継ぎ足されることとなる。
【0049】
FRP管連続体50の外周面には、劣化防止用の塗装66が施されるようになっている。そして、このFRP管連続体50と斜吊材20との隙間には、ポリウレタンや発泡スチロール等のような低弾性の充填材68が充填されるようになっている。
【0050】
次に、本実施形態に係る保護管補修方法を、主塔12の左側における上から4本目の斜吊材20に適用した場合を例にとって、図2〜8の工程図に基づいて説明する。
【0051】
まず、図2に示すように、斜吊材20における主桁側定着部18の近傍部位において、型枠材62を斜吊材20に装着する。
【0052】
この型枠材62の装着は、1対の型枠構成材62A、62Bを、斜吊材20を両側から挟み込むようにして、その円周方向の端面を互いに突き合わせた状態で、これら1対の端面において互いに接着することにより行う。この型枠材62が装着された状態では、その内周面に形成された複数の突起部62a(図9参照)の先端部が斜吊材20の保護管24に当接することにより、型枠材62と斜吊材20との間に、その全周にわたって等間隔の隙間が形成されることとなる。
【0053】
なお、この型枠材62の装着作業および以下に述べる工程での作業を円滑に行うことができるようにするため、主桁14の上面における主桁側定着部18の近傍部位に、予め単管足場112を設置しておく。
【0054】
次に、図3に示すように、型枠材62の外周面に、帯状の連続繊維シート64を型枠材62の上端縁から下端縁近傍まで、螺旋状に巻き付ける。
【0055】
この巻き付けは、型枠材62の外周面および連続繊維シート64の表面にエポキシ樹脂等の合成樹脂を塗布した状態で行う。
【0056】
この巻き付けの際、連続繊維シート64の長さが、型枠材62の下端縁近傍まで巻き付けるのに足らなければ、その端部に次の連続繊維シート64の端部を重ね合わせて巻き付けを継続する。
【0057】
次に、図4に示すように、上端縁から下端縁近傍まで連続繊維シート64が巻き付けられた型枠材62(すなわち第1のFRP管60として略完成した部材)を、斜吊材20に沿ってその上端部側へ型枠材62の長さ分だけ(すなわちFRP管60の長さ分だけ)引き上げる。
【0058】
この引き上げは、型枠材62の上端縁にワイヤロープ114を取り付けて、このワイヤロープ114を引き上げることにより行う。
【0059】
これを実現するため、図1に示すように、主塔12の側壁面における、上から4本目の斜吊材20の主塔側定着部16の上方近傍位置に、滑車116を設置するとともに、主桁14の上面に、ウインチ118および滑車120を設置しておく。そして、ワイヤロープ114を、ウインチ118から滑車120、116を経由して型枠材62の上端縁に取り付けた状態で、ウインチ118を駆動することにより、ワイヤロープ114の引き上げを行う。なお、主塔12への滑車116の設置およびその付け替えを円滑に行うことができるようにするため、予め主塔12に沿って足場122を構築しておく。
【0060】
次に、図5に示すように、斜吊材20における主桁側定着部18の近傍部位において、第2のFRP管60を形成するための型枠材62を斜吊材20に装着する。
【0061】
この型枠材62の装着は、1対の型枠構成材62A、62Bにおける円周方向の端面を互いに突き合わせて接着するとともに、その上端縁を第1のFRP管60を構成する型枠材62の下端縁に突き合わせて接着することにより行う。
【0062】
また、この型枠材62の装着と並行して、第1のFRP管60に対して、その外周面に、劣化防止用の塗装66を施す。この塗装66は、連続繊維シート64が巻き付けられている範囲内において施すようにする。
【0063】
次に、図6に示すように、第1のFRP管60における型枠材62の下端縁近傍まで巻き付けられた帯状の連続繊維シート64を、第2のFRP管60における型枠材62に跨るようにしてその下端縁近傍まで、第1のFRP管60の場合と同様にして螺旋状に巻き付ける。
【0064】
また、この連続繊維シート64の巻き付けと並行して、第1および第2のFRP管60の外周面に、可能な範囲で劣化防止用の塗装66を施す。
【0065】
次に、図7に示すように、これら第1および第2のFRP管60を、FRP管60の長さ分だけ再度引き上げる。
【0066】
そして、図8に示すように、斜吊材20における主桁側定着部18の近傍部位において、第3のFRP管60を形成するための型枠材62を斜吊材20に装着する。この型枠材62の装着は、第2のFRP管60の場合と同様にして行う。
【0067】
以下、同様の作業を繰り返すことにより、斜吊材20を略全長にわたって、複数のFRP管60が連結されてなるFRP管連続体50で覆うようにする。
【0068】
その際、FRP管連続体50の上端縁においては、FRP管連続体50を主塔側定着部16に当接させて、斜吊材20とFRP管連続体50との隙間を閉塞し、一方、FRP管連続体50の下端縁においては、FRP管連続体50を主桁側定着部18から少し離すように配置して、斜吊材20とFRP管連続体50との隙間を開放する。
【0069】
このFRP管連続体50が取り付けられた状態では、図9に示すように、型枠材62と斜吊材20との間に、その全周にわたって等間隔の隙間が形成された状態となっている。
【0070】
その後、この斜吊材20とFRP管連続体50との隙間に、FRP管連続体50の下端縁側から低弾性の充填材68を注入し、図10に示すように、この隙間をFRP管連続体50の上端縁の位置まで充填材68で充填する。
【0071】
以上詳述したように、本実施形態に係る既設橋梁の保護管補修方法は、斜吊材20の下端部において、この斜吊材20を所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆う第1のFRP管60を、斜吊材20に装着した後、このFRP管60を斜吊材20に沿ってその上端部側へ上記所定長分だけ引き上げ、次に、斜吊材20の下端部において、この斜吊材20を所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆う第2のFRP管60を、斜吊材20に装着して、このFRP管60を第1のFRP管60と連結した後、この連結により一体化したFRP管60を斜吊材20に沿ってその上端部側へ上記所定長分だけ引き上げ、以下、同様の作業を繰り返すことにより、斜吊材20を略全長にわたって、複数のFRP管60が一体化したFRP管連続体50で覆うようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0072】
すなわち、本実施形態においては、保護管24の補修作業を、斜吊材20の下端部において複数のFRP管60を順次継ぎ足すことにより行うことができるので、一定の作業の繰り返しにより保護管24の補修を画一的に行うことができ、これにより補修作業を効率良く行うことができる。
【0073】
また本実施形態においては、この補修作業により、斜吊材20を略全長にわたってFRP管連続体50で覆うようになっているので、保護管24の亀裂が斜吊材20のどの位置で発生したとしても、FRP管引き上げのための高所作業(すなわち主塔12への滑車116の設置作業およびその付け替え作業)以外の危険な高所作業を必要することなく保護管24の補修を行うことができる。
【0074】
このように本実施形態によれば、鋼製ケーブルが保護管24により覆われてなる斜吊材20を有する既設の斜張橋10に対して、その保護管24の補修作業を、安全性を確保した上で効率良く行うことができる。
【0075】
また本実施形態のように、斜吊材20を略全長にわたってFRP管連続体50で覆うようにすることにより、将来、新たな亀裂が保護管24に発生したような場合においても、鋼製ケーブル22の保護を図ることができる。
【0076】
しかも本実施形態においては、斜吊材20とFRP管連続体50との隙間に、低弾性の充填材68を注入するようになっているので、FRP管連続体50の内部空間に雨水等が侵入してしまうのを抑制することができ、また、たとえ雨水等が侵入した場合においても、その凍結による膨張圧を緩和することができる。さらに、この充填材68の断熱作用によって、温度変化による熱応力が保護管24に発生しにくくなるようにすることができる。
【0077】
また本実施形態においては、各FRP管60の作製を、斜吊材20に対して所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆うように配置された筒状の型枠材62の外周面に、帯状の連続繊維シート64を巻き付けることにより行うようになっているので、これら各FRP管60の作製を、予め工場等で作製しておいた半割FRP管等を現場で組み付けることにより行うようにした場合に比して、かなり低コストでFRP管60の作製を行うことができる。
【0078】
その際、本実施形態においては、連続繊維シート64として、交差する2方向に強化繊維が配向されたシートを用いるようになっているので、FRP管60の強度を一層高めることができる。
【0079】
さらに本実施形態においては、斜吊材20とFRP管連続体50との隙間を、FRP管連続体50の上端縁において閉塞する一方、その下端縁においては開放しておくようになっているので、FRP管連続体50の内部空間に雨水等が侵入するのを確実に防止することができ、かつ、FRP管連続体50に過大な応力が不用意に発生してしまうのを未然に防止することができる。
【0080】
なお、上記第1実施形態においては、型枠材62を構成する1対の型枠構成材62A、62Bが塩化ビニル製の部材であるものとして説明したが、これ以外の材質の部材を採用することも可能である。その際、例えば紙製の部材やFRP製の部材等のように、接着が可能な部材を用いることが好ましい。
【0081】
次に、上記第1実施形態の変形例について説明する。
【0082】
まず、上記第1実施形態の第1変形例について説明する。
【0083】
図11および12は、本変形例に係る既設橋梁の保護管補修方法を示す、図5、6と同様の図である。
【0084】
これらの図に示すように、本変形例においても、複数のFRP管160を下から順次継ぎ足して、斜吊材20を略全長にわたってFRP管連続体150で覆うようになっている。
【0085】
また、本変形例においても、各FRP管160の作製を、斜吊材20に対して所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆うように配置された筒状の型枠材62の外周面に、連続繊維シート164を巻き付けることにより行うようになっている。
【0086】
ただし、本変形例においては、連続繊維シート164として、FRP管160の管長に対応する長さで矩形状に形成されたシートを用いるようになっている。
【0087】
この連続繊維シート164を型枠材62の外周面に巻き付ける際、その円周方向の両側に位置する端縁部を重ね合わせるようにし、また、その長手方向の前端縁部を、型枠材62への巻き付けが完了した連続繊維シート164の長手方向の後端縁部に重ね合わせるようにする。
【0088】
なお、本変形例においても、連続繊維シート164として、上記第1実施形態の連続繊維シート64の場合と同様、交差する2方向に強化繊維が配向されたシートを用いるようになっている。
【0089】
本変形例の構成を採用した場合においても、既設の斜張橋10に対して、その斜吊材20の保護管24の補修作業を、安全性を確保した上で効率良く行うことができる。
【0090】
しかも本変形例においては、連続繊維シート164として、FRP管の管長に対応する長さで矩形状に形成されたシートを用いるようになっているので、その巻き付けの際の施工性を高めることができる。
【0091】
また本実施形態においても、連続繊維シート164として、交差する2方向に強化繊維が配向されたシートを用いるようになっているので、FRP管160の強度を十分に高めることができる。
【0092】
次に、上記第1実施形態の第2変形例について説明する。
【0093】
図13は、本変形例に係る既設橋梁の保護管補修方法を示す、図5と同様の図である。
【0094】
同図に示すように、本変形例においても、複数のFRP管260を下から順次継ぎ足して、斜吊材20を略全長にわたってFRP管連続体250で覆うようになっている。
【0095】
ただし、本変形例においては、斜吊材20の下端部へのFRP管260の装着を、予め工場等において作製された1対の半割FRP管260A、260Bを現場で組み付けることにより行うようになっている。
【0096】
その際、これら各半割FRP管260A、260Bは、その外周縁部が全周にわたって、強化繊維が露出した未含浸部260Aa、260Baとなるように作製しておく。
【0097】
そして、斜吊材20の下端部において、1対の半割FRP管260A、260を、斜吊材20に対して両側から挟み込むように当接させ、その円周方向の端縁に位置する未含浸部260Aa、260Baを重ね合わせて、この部分に合成樹脂を含浸させることにより、FRP管260を作製するようにする。また、次のFRP管260を作製する際、その長手方向前端縁に位置する未含浸部260Aa、260Baと、作製が完了したFRP管260の長手方向後端縁に位置する未含浸部260aとを重ね合わせて、この部分に合成樹脂を含浸させるようにする。
【0098】
本変形例の構成を採用した場合においても、既設の斜張橋10に対して、その斜吊材20の保護管24の補修作業を、安全性を確保した上で効率良く行うことができる。
【0099】
しかも本変形例においては、1対の半割FRP管260A、260Bを斜吊材20に直接装着するようになっているので、その施工性を大幅に高めることができる。
【0100】
次に、上記第1実施形態の第3変形例について説明する。
【0101】
図14および15は、本変形例に係る既設橋梁の保護管補修方法を示す、図5、6と同様の図である。また、図16は、図15のXVI−XVI線断面詳細図である。
【0102】
これらの図に示すように、本変形例においても、複数のFRP管360を下から順次継ぎ足して、斜吊材20を略全長にわたってFRP管連続体350で覆うようになっている。
【0103】
また、本変形例においても、各FRP管360の作製を、斜吊材20に対して所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆うように配置された筒状の型枠材362の外周面に、上記第1変形例の場合と同様、FRP管360の管長に対応する長さで矩形状に形成された連続繊維シート164を巻き付けることにより行うようになっている。
【0104】
ただし、本変形例においては、型枠材362として、FRP製の1つ割管が用いられている。
【0105】
この型枠材362は、その前端部が大径部362aとして形成されており、また、その周方向両端部には、複数のリベット孔362bが軸線方向に所定間隔をおいて形成されている。さらに、この型枠材362の内周面には、その周方向の3箇所にスペーサ370が取り付けられている。その際、これら各スペーサ370は、型枠材362の後端部近傍に配置されているが、第1のFRP管360を構成する型枠材362においては、その前端部近傍にも配置されている。
【0106】
これら各スペーサ370は、周方向に扇形に延びる塩化ビニル製のブロックで構成されており、周方向の2箇所においてリベット372で固定されている。また、これら各スペーサ370には、その内周面の軸線方向両端部に面取り部370aが形成されている。
【0107】
そして、この型枠材362は、その周方向両端部を拡げるようにして斜吊材20に取り付けられ、その周方向両端部が重ね合わされた状態で、接着剤364およびリベット366で接合されるようになっている。
【0108】
その際、第1のFRP管360を構成する型枠材362の後端部362cに対して、第2のFRP管360を構成する型枠材362の大径部362aが、嵌め込まれた状態で接着固定されるようになっている。なお、この嵌め込みを可能にするため、型枠材362は、その後端部362cにおいては、その周方向両端部が重ね合わせではなく突き合わせとなるように形成されている。
【0109】
この型枠材362の外周面への連続繊維シート164を巻き付けは、上記第1変形例の場合と同様にして行われるようになっている。
【0110】
本変形例の構成を採用した場合においても、既設の斜張橋10に対して、その斜吊材20の保護管24の補修作業を、安全性を確保した上で効率良く行うことができる。
【0111】
その際、本変形例においては、型枠材362同士が、一方の後端部362cに他方の大径部362aを嵌め込んだ状態で接着固定されるように構成されているので、その連結強度を十分に高めることができる。
【0112】
また、本変形例においては、各スペーサ370が、周方向に扇形に延びており、その内周面の軸線方向両端部には面取り部370aが形成されているので、型枠材362を引き上げる際に、斜吊材20との摺動が円滑に行われるようにすることができる。
【0113】
本変形例においても、斜吊材20とFRP管連続体50との隙間が、FRP管連続体50の下端縁において開放されているが、その際、図14、15に2点鎖線で示すように、FRP管連続体50の下端縁部分と主桁側定着部18との間に、斜吊材20を覆うカバー部材380が設けられた構成とすることも可能である。
【0114】
次に、本願発明の第2実施形態について説明する。
【0115】
図17は、本実施形態に係る既設橋梁の保護管補修方法の概要を示す側面図である。また、図18は、図17のXVIII 部詳細図である。
【0116】
本実施形態に係る保護管補修方法の適用対象となる既設橋梁としての斜張橋10の構成は、上記第1実施形態の場合と同様である。
【0117】
次に、本実施形態に係る保護管補修方法を、主塔12の左側における上から4本目の斜吊材20に適用した場合を例にとって、図18〜19の工程図に基づいて説明する。
【0118】
本実施形態においては、上記第1実施形態の第3変形例において用いた複数のFRP管360を、その前後方向の向きを逆にした状態で上から順次継ぎ足して、斜吊材20を略全長にわたってFRP管連続体350で覆うようになっている。
【0119】
これを実現するため、本実施形態においては、予め斜吊材20にFRP管360を引き下ろすための案内治具540を装着しておき、この案内治具540に2本のワイヤロープ514、524を取り付けておく。その際、案内治具540は、斜吊材20に沿って移動可能なリング状部材として構成しておき、その上端部に形成されたローブ係止部540aに各ワイヤロープ514、524の一端部を取り付けるようにする。
【0120】
その際、一方のワイヤロープ514は、その他端部が、4本目の斜吊材20の主塔側定着部16の上方において主塔12の側壁面に設置された滑車516および主桁14の上面に設置された滑車520を経由して、主桁14の上面に設置されたウインチ518に巻回された状態にしておく。また、他方のワイヤロープ524は、その他端部が、4本目の斜吊材20の主桁側定着部18よりも主塔12から離れた位置において主桁14の上面に設置された滑車530を経由して、主桁14の上面に設置されたウインチ528に巻回された状態にしておく。
【0121】
そして、ウインチ518を駆動して、一方のワイヤロープ514を所定長ずつ繰り出すことにより、案内治具540と共にFRP管360をその自重により所定長ずつ引き下ろすようにする。その際、ウインチ528も駆動して、他方のワイヤロープ524を所定長ずつ巻き取ることにより、FRP管360の引き下ろしが円滑に行われるようにする。
【0122】
また、本実施形態においては、各斜吊材20における主塔側定着部16の近傍部位での作業を容易に行い得るようにするため、主塔12に沿って構築される足場522を上記第1実施形態の足場122よりも橋軸方向にやや拡げた状態で構築しておくようにする。
【0123】
次に、本実施形態に係る保護管補修方法の工程について具体的に説明する。
【0124】
まず、図18に示すように、斜吊材20における主塔側定着部16の近傍部位において、FRP製の1つ割管からなる型枠材362を斜吊材20に装着することにより、斜吊材20を所定長にわたって所定間隔をおいて覆うようにする。そして、このようにして筒状に形成された型枠材362の外周面に、矩形状の連続繊維シート164を巻き付けることにより、第1のFRP管360を作製する。
【0125】
次に、このようにして作製されたFRP管360をその前端部(すなわち下端部)において、案内治具540に当接させる。その際、この案内治具540をFRP管360の大径部362aに嵌め込むようにする。そして、この案内治具540を主桁側定着部18へ向けて多少移動させることにより、FRP管360を図18に示す位置まで引き下ろすようにする。
【0126】
次に、第1のFRP管360の後方側において、型枠材362を斜吊材20に装着して斜吊材20を所定長にわたって所定間隔をおいて覆い、これを筒状に形成する。そして、この型枠材362の大径部362aを、第1のFRP管360を構成する型枠材362の後端部362cに嵌め込んで接着固定する。
【0127】
次に、図19に示すように、この型枠材362の外周面に連続繊維シート164を巻き付けることにより、第2のFRP管360を作製する。また、この連続繊維シート164の巻き付けと並行して、第1のFRP管360の外周面に、可能な範囲で劣化防止用の塗装66を施す。
【0128】
そして、これら第1および第2のFRP管360を、FRP管360の長さ分だけ引き下ろし、同様の作業を繰り返す。これにより、斜吊材20を略全長にわたって、複数のFRP管360が連結されてなるFRP管連続体350で覆うようにする。
【0129】
その際、ウインチ518の駆動によりワイヤロープ514を多少巻き上げて、FRP管連続体350を主塔側定着部16へ向けて僅かに引き上げることにより、FRP管連続体350をその上端縁において主塔側定着部16に当接させる。そしてこれにより、FRP管連続体350の上端縁においては、斜吊材20とFRP管連続体350との隙間を閉塞し、一方、FRP管連続体50の下端縁においては、FRP管連続体350を主桁側定着部18から少し離すように配置して、斜吊材20とFRP管連続体350との隙間を開放する。
【0130】
その後、この斜吊材20とFRP管連続体350との隙間に、FRP管連続体350の下端縁側から低弾性の充填材を注入し、この隙間をFRP管連続体350の上端縁の位置まで充填材で充填する。
【0131】
以上詳述したように、本実施形態に係る既設橋梁の保護管補修方法は、斜吊材20の上端部において、この斜吊材20を所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆う第1のFRP管360を、斜吊材20に装着した後、このFRP管360を斜吊材20に沿ってその下端部側へ上記所定長分だけ引き下ろし、次に、斜吊材20の上端部において、この斜吊材20を所定長にわたってこれと所定間隔をおいて覆う第2のFRP管360を、斜吊材20に装着して、このFRP管360を第1のFRP管360と連結した後、この連結により一体化したFRP管360を斜吊材20に沿ってその下端部側へ上記所定長分だけ引き下ろし、以下、同様の作業を繰り返すことにより、斜吊材20を略全長にわたって、複数のFRP管360が一体化したFRP管連続体350で覆うようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0132】
すなわち、本実施形態においては、保護管24の補修作業を、斜吊材20の上端部において複数のFRP管360を順次継ぎ足すことにより行うことができるので、一定の作業の繰り返しにより保護管24の補修を画一的に行うことができ、これにより補修作業を効率良く行うことができる。
【0133】
また本実施形態においては、この補修作業により、斜吊材20を略全長にわたってFRP管連続体50で覆うようになっているので、保護管24の亀裂が斜吊材20のどの位置で発生したとしても、FRP管引き下ろしのための高所作業(すなわち、斜吊材20へのFRP管360の装着作業ならびに主塔12への滑車116の設置作業およびその付け替え作業)以外の危険な高所作業を必要することなく保護管24の補修を行うことができる。
【0134】
このように本実施形態によれば、鋼製ケーブルが保護管24により覆われてなる斜吊材20を有する既設の斜張橋10に対して、その保護管24の補修作業を、安全性を確保した上で効率良く行うことができる。
【0135】
それ以外の点についても、上記第1実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0136】
しかも本実施形態において、FRP管連続体350を構成する各FRP管360の型枠材362は、その大径部362aが前端側(すなわち下端側)に位置しているので、これら各FRP管360の型枠材362を相互に連結したとき、その大径部362aが他のFRP管360の型枠材362の後端部362cに対して斜め下向きに嵌め込まれた状態で接着固定されることとなる。このため、FRP管連続体350の外周面に沿って流下する雨水等が、各FRP管360の継ぎ目からFRP管連続体350の内部空間に侵入してしまうのを、上記接着固定による侵入防止効果および劣化防止用の塗装66による侵入防止効果に加えて、形状面からも効果的に防止することができる。
【0137】
なお、上記第1実施形態およびその各変形例ならびに上記第2実施形態において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0138】
10 斜張橋(既設橋梁)
12 主塔
14 主桁
16 主塔側定着部
18 主桁側定着部
20 斜吊材
22 鋼製ケーブル
22s ストランド
24 保護管
26 グラウト
50、150、250、350 FRP管連続体
60、160、260、360 FRP管
62、362 型枠材
62A、62B 型枠構成材
62a 突起部
64、164 連続繊維シート
66 塗装
68 充填材
112 単管足場
114、514、524 ワイヤロープ
116、120、516、520、530 滑車
118、518、528 ウインチ
122、522 足場
260A、260B 半割FRP管
260a、260Aa、260Ba 未含浸部
362a 大径部
362b リベット孔
362c 後端部
364 接着剤
366、372 リベット
370 スペーサ
370a 面取り部
380 カバー部材
540 案内治具
540a ローブ係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製ケーブルが保護管により覆われてなる斜吊材を有する既設橋梁に対して、上記保護管を補修する方法であって、
上記斜吊材の下端部において、該斜吊材を所定長にわたって該斜吊材と所定間隔をおいて覆う第1のFRP管を、該斜吊材に装着した後、このFRP管を上記斜吊材に沿って該斜吊材の上端部側へ上記所定長分だけ引き上げ、
次に、上記斜吊材の下端部において、該斜吊材を所定長にわたって該斜吊材と所定間隔をおいて覆う第2のFRP管を、該斜吊材に装着して、このFRP管を上記第1のFRP管と連結した後、この連結により一体化した上記第1および第2のFRP管を上記斜吊材の上端部側へ上記所定長分だけ引き上げ、
以下、同様の作業を繰り返すことにより、上記斜吊材を略全長にわたって、複数のFRP管が連結されてなるFRP管連続体で覆うようにする、ことを特徴とする既設橋梁の保護管補修方法。
【請求項2】
鋼製ケーブルが保護管により覆われてなる斜吊材を有する既設橋梁に対して、上記保護管を補修する方法であって、
上記斜吊材の上端部において、該斜吊材を所定長にわたって該斜吊材と所定間隔をおいて覆う第1のFRP管を、該斜吊材に装着した後、このFRP管を上記斜吊材に沿って該斜吊材の下端部側へ上記所定長分だけ引き下ろし、
次に、上記斜吊材の上端部において、該斜吊材を所定長にわたって該斜吊材と所定間隔をおいて覆う第2のFRP管を、該斜吊材に装着して、このFRP管を上記第1のFRP管と連結した後、この連結により一体化した上記第1および第2のFRP管を上記斜吊材の下端部側へ上記所定長分だけ引き下ろし、
以下、同様の作業を繰り返すことにより、上記斜吊材を略全長にわたって、複数のFRP管が連結されてなるFRP管連続体で覆うようにする、ことを特徴とする既設橋梁の保護管補修方法。
【請求項3】
上記斜吊材と上記FRP管連続体との隙間に、低弾性の充填材を注入する、ことを特徴とする請求項1または2記載の既設橋梁の保護管補修方法。
【請求項4】
上記各FRP管の作製を、上記斜吊材を所定長にわたって該斜吊材と所定間隔をおいて覆うように配置された筒状の型枠材の外周面に、連続繊維シートを巻き付けることにより行う、ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の既設橋梁の保護管補修方法。
【請求項5】
上記連続繊維シートとして、交差する2方向に強化繊維が配向されたシートを用いる、ことを特徴とする請求項4記載の既設橋梁の保護管補修方法。
【請求項6】
上記斜吊材と上記FRP管連続体との隙間を、該FRP管連続体の上端縁において閉塞する一方、該FRP管連続体の下端縁においては開放しておく、ことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の既設橋梁の保護管補修方法。
【請求項7】
請求項1または2記載の既設橋梁の保護管補修方法に使用されるFRP管を作製するために、外周面に連続繊維シートが巻き付けられるように構成された筒状の型枠材であって、
軸線方向一端部が大径部として形成されるとともに、周方向両端部に複数のリベット孔が軸線方向に所定間隔をおいて形成されたFRP製の1つ割管で構成されている、ことを特徴とする型枠材。
【請求項8】
上記1つ割管の内周面における周方向の複数箇所にスペーサが取り付けられている、ことを特徴とする請求項7記載の型枠材。
【請求項9】
上記各スペーサが、上記1つ割管における軸線方向他端部近傍に配置されている、ことを特徴とする請求項8記載の型枠材。
【請求項10】
上記各スペーサが、上記1つ割管の周方向に扇形に延びるブロックで構成されており、周方向の少なくとも1箇所においてリベットで上記1つ割管に固定されている、ことを特徴とする請求項8または9記載の型枠材。
【請求項11】
上記各スペーサの内周面における軸線方向両端部に、面取り部が形成されている、ことを特徴とする請求項10記載の型枠材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−251415(P2012−251415A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198504(P2011−198504)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】