説明

昆虫病原性微生物及びそれを用いた有害生物防除法

【課題】本発明の課題は、昆虫病原性糸状菌バーティシリウム・レカニを有効成分とする微生物農薬において、その病原性を示す宿主域を広く示す微生物菌株の創出とそれを用い、微生物農薬を提供する。
【解決手段】本発明者らは、上記課題を達成するために、葉面等の植物体表面での定着能力をもつ糸状菌バーティシリウム・レカニ B−2株(MAFF238429)(特許公開2003−335612)と、バーティシリウム・レカニIMI 179172株、又はバーティシリウム・レカニIMI 268317とを融合して、アブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有する菌株の創出を行い本発明の完成に至った。これにより、トマト、ピーマンなど野菜類でのアブラムシ類用、コナジラミ類用などの防除をひとつの有用昆虫病原性糸状菌を有効成分とする微生物農薬により、微生物薬剤の植物体表面定着能力を有し、広い殺虫活性を有する微生物農薬を提供することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有する昆虫病原性微生物、並びに新規バーティシリウム・レカニ株群に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の病害虫の防除には、化学物質を用いた防除の開発が進展し、現在、化学殺虫剤や殺菌剤による防除がその主流を占めている。しかしながら、化学物質を用いた農薬は、その効果が優れている反面、人畜に対して毒性を有しているものや、自然環境に残留して、他の生態系に影響を及ぼすものがある。また化学物質を用いた農薬では、長期間の使用によって当該化学物質に対する抵抗性を獲得した病害虫が出現したり、本来天然に存在した天敵まで殺して逆に病害虫の発生する環境を創出してしまうことがある。
【0003】
このような化学物質を用いた農薬に対して、他の生態系への影響を極力抑え、防除の目的とする病害虫のみを特異的に駆除する手段として、生物を用いる方法が研究されてきた。このような生物を用いた病害虫の防除方法の一つとして、微生物を用いた病害虫の防除方法がある。例えば、糸状菌のような微生物を用いて、害虫を防除する方法として、ボーベリア(Beauveria)属菌、メタリジウム(Metharhizium)属菌、ヒルステラ(Hirsutella)属菌、ノムラエ(Nomurae)属菌、及びバーティシリウム(Verticillium)属菌、等の微生物を用いて、昆虫等の害虫を防除する方法が知られている。ボーベリア属菌やメタリジウム属菌は、鱗翅目、鞘翅目の害虫の防除に用いられ、ヒルステラ属菌は、サビダニ類の防除に用いられ、ノムラエ属菌は、鱗翅目の害虫の防除に用いられ、バーティシリウム属菌は、半翅目、総翅目及びハダニ類の害虫の防除に用いられている。
【0004】
上記に用いられている菌株の中でバーティシリウム・レカニはネイトナー博士によって1861年にスリランカでコーヒー樹を加害するカイガラムシの一種Lecanium coffeaeの寄生菌として報告され、その後、多種類の昆虫やダニ類から分離されている。またこの菌株は、熱帯と温帯地域に広く分布することが知られている。我が国では、北沢らが1984年に、オンシツコナジラミTrialeurodes vaporariorum、モモアカアブラムシMyzus persicae、ワタアブラムシAphis gossypii、及びダイコンアブラムシBrevicoryne brassicaeから本菌を初めて分離し、菌そうの特徴や寄主昆虫などから3種類の菌株の存在が明らかになっている。
【0005】
バーティシリウム・レカニは分生子表面の粘質物により、昆虫の体表面に付着し、そこで菌糸を伸長させ繁殖する。体表面に付着した分生子は発芽し発芽管が宿主の表皮、クチクラを貫通して、宿主の体腔内に侵入する。侵入後、円筒状に分断された短い菌糸が出芽あるいは分裂を繰り返しながら体液中で増殖し、各組織、器官に侵入して栄養分を奪取する。死の直前に血液及びリンパ系中に、いわゆる、“菌糸体”を形成する。7〜10日経過した後、多数の菌糸体が形成されると、感染した幼虫は死亡し、組織の破壊が始まる。
【0006】
バーティシリウム・レカニは、湿度が高い場合、更に成長し、クチクラを突き破り、虫体の表面に菌糸を伸ばし、2次的に分生子を形成する。菌糸はあらゆる方向に伸び、これから分生子柄(長さ:16〜20μm)を出す。各分生子柄の上に分生子形成細胞であるフィアライドが輪生し、この上に粘質物に包まれた分生子が球状に塊まってできる。粘質物は水に触れると溶け、分生子は菌糸から離れ、飛散し、広がっていく。
【0007】
高濃度の分生子液を散布すると、2〜3日で虫体表面に分生子形成がみられるが、分生子は最初に感染虫の脚や触覚にみられる。虫が死亡した後でない限り、胸部、腹部には殆ど分生子の形成はみられない。生きている虫の表面に分生子が形成されるのがこの菌の特徴であり、他の昆虫病原性糸状菌類にはみられない。低濃度の分生子液では虫体内の組織の破壊は起こらない。非常に高濃度の分生子液を散布すると48時間以内に死亡する。このとき虫体表面は大量の菌糸と分生子で覆われているが、菌は体内組織に侵入していない。この死因は大量の分生子による物理的な損傷やショック、呼吸器官の閉塞による酸素不足と考えられている。湿度が非常に高く、菌にとって非常に好都合な条件であれば、自然に2次感染が起こることもあるが、通常はバーティシリウム・レカニの作用は伝搬によるのではなく、昆虫が分生子に直接触れることによる。
【0008】
感染は若い幼虫に起こりやすいが、齢の進んだ幼虫や蛹にも感染する。環境が適温、多湿であれば、成虫にも感染する。
感染した成虫は、正常な虫と殆ど変わらず活動し、ほぼ通常の速度で次世代を生産し、健全な幼虫を生む。このように虫体に侵入する前に虫体の表面で、腐生的に生育すること、及び感染虫の体内に菌糸体が大量に増えてもかなり活発に活動することは、本菌の作用が毒素によるものでないことを示すと考えられている。バーティシリウム・レカニには昆虫寄生性や分生子の形状等が異なる各種の系統があり、これらは多くの昆虫に寄生している。土壌中にも存在するが、これは菌が寄生した昆虫またはその死体が土壌に混入したものと考えられている。植物、哺乳動物中には存在しない。地理的には、熱帯および温帯に広く分布している。日本でも各種の系統があることが報告されている。アブラムシに寄生する系統は北沢や増田らによって報告されている(北沢1984、増田1990)。
【0009】
バーティシリウム・レカニの宿主域は、菌株によって非常に偏在しており、アブラムシ類に最もよく寄生する菌株、コナジラミ、アザミウマ類に最もよく寄生する菌株など株ごとに異なる。このため、現在、生物農薬として市販されているバーティシリウム・レカニを有効成分とする製品は、アブラムシ類用、コナジラミ類用で異なる菌株が用いられている。このため、トマト、ピーマンなど野菜類でのアブラムシ類用、コナジラミ類用などの防除には別々の製品を利用しなければならない。
【0010】
菌類における細胞融合技術は、酵母、麹菌、キノコ等でPEG(ポリエチレングリコール)法を用いた研究が盛んに行われている。また生物防除資材における細胞融合の利用は,植物病原菌の生物防除用トリコデルマ・ハージアナムで実施されており,他の植物病原菌に対しての拮抗力が親株のそれよりも強い株が得られている(Pe’er&Chet 1990).昆虫寄生菌ではボーベリア・バッシアーナ×ボーベリア・スルフレスセンス(Coutwaudier et al 1996)や、メタリジウム・アニソプリエ(Silveira&Azevedo 1987)等の報告があり、いずれも病原性の改良を目的としている。これらの細胞融合株を検出する際の遺伝的なマーカーとしては抗生物質耐性や栄養要求性を用いている。なお、後述する通り、本試験で実施したバーティシリウム・レカニの細胞融合には、不完全菌類の遺伝的なグルーピング(栄養体親和性群)を決定するのに用いる硝酸体窒素利用能変異株(nit mutant)を用いた。
【非特許文献1】Aiuchi,D.,Koike,M.,Tani,M.,Kuramochi,K.,Sugimoto,M.and Nagao,H.(2004)Protoplast fusion,using nitrate non−utilizing(nit)mutants in the entomopathogenic fungus Verticillium lecanii(Lecanicillium spp.).IOBC/wprs Bull.27(8):127−130
【非特許文献2】Pe’er,S.and Chet,I.(1990)Trichoderma protoplast fusion:a tool for improving biocontrol agents.Can.J.microbiol.,36:6−9,
【非特許文献3】Couteaudier,Y,Viaud,M and Riba,G(1996)Genetic nature,stability,and improved virulence of hybrids from protoplast fusion in Beauveria Microb Ecol 32:1−10
【非特許文献4】SILVEIRA W.D. and AZEVEDO J.L. (1987) Protoplast fusion and genetic recombination in Metarhizium anisopliae Enzyme microb.technol.)9:.149−152
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、昆虫病原性糸状菌バーティシリウム・レカニにおいて、広い宿主域で病原性を示す微生物菌株を創出することである。また、本発明の更なる課題は、この微生物菌株を有効成分として、広い宿主域で病原性を示す微生物農薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成するために、葉面等の植物体表面での定着能力をもつ糸状菌バーティシリウム・レカニ B−2株(MAFF238429)(特許公開2003−335612(参照により本明細書に組み込む))と、アブラムシ類用、コナジラミ類用、アザミウマ類用でそれぞれ高い活性を有するバーティシリウム・レカニIMI 179172株、又はバーティシリウム・レカニIMI 268317とを融合させて、特定のDNAバンドパターンを示す、アブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有する菌株を創出し、本発明の完成に至った。本発明の菌株は、植物体表面定着能力を有し、且つ広い宿主域で病原性を示すため、ひとつの昆虫病原性糸状菌によって、アブラムシ類用、コナジラミ類用及びアザミウマ類など広範囲の害虫を防除できる微生物農薬を提供することができる。
【0013】
具体的には、本発明は、アブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有し、図1に示すDNAバンドパターンを示すバーティシリウム・レカニ株群又はB−2とマイコタールの融合株群でDNAタイプはB−2型を示す菌株群或いはその変異株を含む有害生物防除剤からなる。
【0014】
本発明の新規なアブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有し、図1に示すDNAバンドパターンを示すバーティシリウム・レカニ株群は、(独)製品評価技術基盤機構・特許微生物寄託センターに受託番号(バーティシリウム・レカニ2aF1 FERM AP−20980; バーティシリウム・レカニ2aF4 FERM AP−20981;バーティシリウム・レカニ2aF26 FERM AP−20982;バーティシリウム・レカニ2aF43 FERM AP−20983)として寄託されている。バーティシリウム・レカニ株群は、一般糸状菌の生育可能な培地を用い、通常の発酵手法を用いて培養が可能である。培地としては、麦芽エキス寒天培地(麦芽エキス30.0g 大豆ペプトン3.0g 寒天15.0g、pH5.6)などが挙げられ、至適生育湿度80%以上、至適生育温度20〜25℃で培養できる。
【0015】
炭素源としては、グルコース、フルクトース、サッカロース、マルトース、糖蜜、可溶性デンプン、コーンスターチなどが利用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、ペプトン、大豆粉、カゼインなどが利用できる。さらに、その他の無機塩類、ビタミンなどとして、NaHPO、KHPO、MnSO、FeSO、MgSO,NaCl,糖蜜、酵母エキス、エビオス(ビタミン剤)などを添加することが好ましい。pHは6〜8が好ましく、培養温度は20〜25℃が好ましく、培養時間は24〜120時間が好ましい。培養方法は、通気撹拌培養等の好気的条件によるものが好ましい。
【0016】
培養後、培養液から昆虫病原性糸状菌を分離する場合、通常の遠心分離法、濾過法等が利用できる。また、上記の新規なアブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有し、図1に示すDNAバンドパターンを示すバーティシリウム・レカニ株群を元菌株として自然または誘発突然変異により、上記菌株と同様の特性を有する変異株を得て、本発明による有害生物防除剤の有効成分として用いることができる。これらの変異株を調整する方法としては、従来知られている慣用の方法、例えば元菌株を紫外線照射あるいはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)等の薬剤による人工突然変異処理を施して、スキムミルク等を含む寒天培地に広げ、生育してくる菌株の中からコロニーのまわりに形成されるクリアゾーンがより大きいコロニーを選抜し、昆虫病原性の高い優れた菌株を選別する方法を用いることができる。
【0017】
本発明での新規なアブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有し、図1に示すDNAバンドパターンを示すバーティシリウム・レカニ株群を有効成分とした有害生物防除剤を作成する場合、一般農薬と同様に水和剤、粒剤、粉剤、フロアブル剤などの任意な剤型として作成することができる。これらは、それぞれの剤型にふさわしい担体、例えば、ロウ石、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、ベントナイト、珪石粉、石灰石粉末、酸性白土、珪藻土類粉末、石膏、軽石粉末、貝殻類粉末、雲母粉末、及びコロイド性含水珪酸ソーダなどの鉱物質粉末、並びに/或いは水、緩衝液などの水溶液と混合して用いられ、好ましくは、アルキルベンゼンスルホネート、及びアルキルスルホネート等の固着剤、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテル、POEアルキルフェニルエーテル、POEジアルキルフェニルエーテル、POEアルキルアミン、及びジアルキルスルホサクシネート等の湿潤剤、アルキルサルフェート、POEアルキルエーテルサルフェート、POEアルキルフェニルエーテルサルフェート、POEベンジル化(あるいはサルチル化)フェニル(またはフェニルフェニル)エーテルサルフェート、パラフィン(アルカン)スルホネート、アルファオレフィンスルホネート(AOS)、アルキルベンゼンスルホネート、モノまたはジアルキルナフタレンスルホネート、ナフタレンスルホネート・ホルマリン縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホネート、リグニンスルホネート、POEアルキルエーテルスルホコハク酸ハーフエステル、及びPOEベンジル(あるいはスチリル化)フェニル(またはフェニルフェニル)エーテルフォスフェート等の分散剤、並びに/或いはパラオキシ安息香酸誘導体、サリチルアニライド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、テトラフタロニトリル(TPN)、2−ニトロブロモ等の防黴剤を添加して用いられる。
【0018】
また、本発明の、新規なアブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有し、図1に示すDNAバンドパターンを示すバーティシリウム・レカニ株群を有効成分とする有害生物防除剤を作成する場合、本発明の菌株を単一の有効成分とするのではなく、他の有害生物に有効な除草剤、各種殺虫剤、殺菌剤、植物生長調節剤または効果を助長させる共力剤、誘引剤さらには他の効用を目的とする植物栄養剤、肥料等を混合することも可能である。本発明のバーティシリウム・レカニ株群を有効成分とする有害生物防除剤では、バーティシリウム・レカニ2aF43株(寄託番号:FERM AP−20983)、バーティシリウム・レカニ2aF4株(受託番号:FERM AP−20981)、バーティシリウム・レカニ2aF26株(受託番号:FERM AP−20982)及び/又はバーティシリウム・レカニ2aF1株(受託番号:FERM AP−20980)の分生胞子粉末(1x10/g、好ましくは1x10/g〜1x10/g)を、全成分中、10〜99%、好ましくは40〜90%含有することが適当であるが、対象有害生物、栽培作物、使用方法、使用時期等に応じて、有効成分含有量は調整される。
ご確認下さい。
【0019】
本発明の方法で防除し得る害虫としてはアブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類では以下の害虫が挙げられる。すなわち、具体的にはモモアカアブラムシ(Myzus persicae)、ワタアブラムシ(Aphis gossypii)、ダイコンアブラムシ(Brevicoryne brassicae)、ジャガイモヒゲナガアブラムシ(Aulacorthum solani)、ニセダイコンアブラムシ(Lipaphis elisimi)、チューリップヒゲナガアブラムシ(Macrosiphum euphorbiae)、及びネギアブラムシ(Neotoxoptera formosana)等のアブラムシ類、オンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)、タバココナジラミ(Bemisia tabaci)、及びミカンコナジラミ(Dialeurodes citri)等のコナジラミ類、ヒラズハナアザミウマ(Frankliniella intonsa)、ミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)、ミナミキイロアアミウマ(Thrips palmi)、及びチャノキイロアザミウマ(Scirtothrips dorsalis)等のアザミウマ類を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、その他の半翅目昆虫、鞘翅目昆虫、鱗翅目昆虫、等翅目、例えばツマグロヨコバイ、ヒメトビウンカ、カクシュコガネムシ、イエバエ、ゴキブリなどにも適用可能である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0021】
実施例1.
現在市場に流通しているバータレック水和剤(バーティシリウム・レカニIMI 179172株)、マイコタール水和剤(バーティシリウム・レカニIMI 268317)に加え、本大学の温室より分離され、植物の葉面における定着能力の高さが知られている系統であるバーティシリウム・レカニB−2株(MAFF238429)(特許公開2003−335612)を用いてプロトプラスト融合を行った。その際、融合によって生じたヘテロカリオンを視覚化するための遺伝子マーカーとしてnit(硝酸体窒素利用能)変異株(Correll,et al.1987)を用いた。それぞれの系統をPDB(ジャガイモ煎汁液体培地)で発芽胞子を得た後、ノボザイム188でプロトプラスト化した。遺伝的マーカーの異なるnit変異体の組み合わせでPEG法によりプロトプラスト融合を実施した。その結果バータレックとマイコタール、バータレックとB−2、マイコタールとB−2の組み合わせからそれぞれ126(AaF1〜106、BbF1〜20)系統、4(2BF1〜4)系統、44(2aF1〜44)系統の融合株が作出された。2aF1,4,26,43(マイコタール×B−2)の4株ともRAPD,ERIC−PCRではB−2型に偏る。2aF1では親株には存在しない270bpと420bpのバンド(アンプリコン;ともに赤矢印)が存在し、B−2の750bpのアンプリコン(黄色矢印)が欠失している。2aF4では親株B−2の750bpのアンプリコン(黄色矢印)が欠失している。2aF26では750bpのアンプリコン(黄色矢印)が欠失しているが、B−2に存在する200bpのアンプリコン(白点線)が確認できる。2aF43では他の融合株にはないMycotalの1250bp、1350bpのアンプリコン(黄色点線)が確認でき、親株にはない新規の300bpのアンプリコン(赤矢印)が存在する(図)。
RAPD,ERIC−PCRの解析方法の概略は、以下のとおりである。
融合株よりDNAを抽出し、10ngの鋳型DNAを含んだ1.0μl のTE buffer、.5μl of 10×buffer(100mM Tris−HCl,pH8.3,500mM KCl,15mM MgCl and 0.01% gelatin),0.5μlのdNTP(10mM dATP,10mM dCTP,10mM GTP,10mM TTP),0.25unitsのTaqポリメラーゼ(SIGMA GENOSYS JAPAN,Inc.,Japan)とプライマー(AAG TAA GTG ACT GGG GTG AGC G)を0.5mMを含んだ25μlの反応液をバイオラッド社のiCyclerにより反応させた。反応サイクルは94℃(5分)、{94℃(30秒)55℃(30秒)72℃(1分)}を40サイクル、最後の伸長サイクルは72℃5分間実施した。反応産物を5μlをアガロースゲルにアプライし、電気泳動後にエチジウムブロマイドで染色し、UV照射下で撮影した。
【0022】
実施例2.培養方法
PDA(ジャガイモ煎汁寒天培地)上で25℃、暗黒下で3週間培養し、コロニーを筆もしくはコンラージ棒で分生胞子をかきとり、遠沈法(3000rpm、5分)により分生胞子を蒸留水で洗浄した。その後、トーマの血球計算板により1×10になるよう光学顕微鏡下で調整した。
【0023】
実施例3.ワタアブラムシに対する殺虫活性
2cmのキュウリのリーフディスクにそれぞれ約50頭ずつワタアブラムシの若虫を放飼し、1×10分生胞子/mlに調整した胞子懸濁液を約0.65mlスプレー散布した。3日後に菌糸に覆われている、若しくは体表から菌糸が生えている死亡個体を計数し死亡率を算出した(1菌株につき、5反復)。結果は表に示した。
【0024】
実施例4 オンシツコナジラミに対する殺虫活性
オンシツコナジラミ成虫に自由に産卵させたインゲンの葉面を採取し、50頭程度の幼虫のいるリーフディスクに1×10分生胞子/mlに調整した胞子懸濁液を約0.65mlスプレー散布した。3日後に菌糸に覆われている、又は体表から菌糸が生えている死亡個体を計数し死亡率を算出した(1菌株につき、5反復)。結果は表に示した。
【0025】
実施例5.ミナミキイロアザミウマに対する殺虫活性
インゲンリーフディスクにミナミキイロアザミウマ3令幼虫を10頭接種し、1×10分生胞子/mlに調整した胞子懸濁液を約0.65mlスプレー散布した。3日後に菌糸に覆われている、若しくは体表から菌糸が生えている死亡個体を計数し死亡率を算出した(1菌株につき、5反復)。結果は表に示した。
【表1】

【0026】
実施例6.
実施例2で示した分生胞子懸濁液を乾燥させ、分生胞子粉末を得た。これを用い、分生胞子粉末45部、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル10部、ジアルキルスルホサクシネート5部、リグニンスルホン酸ナトリウム10部、カオリン30部を秤量し、サンプルミルにて20秒間混合し1×10分生胞子/gの水和剤を得た。本剤を5℃の冷蔵条件下で保存し、有効成分である分生胞子の生存率を(生死の判断基準は希釈平板法で行った)調査した。
【表2】

【0027】
本発明により、アブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有し、図1に示すDNAバンドパターンを示すバーティシリウム・レカニ株群を見出し、これらの菌株を有効成分として含有することを特徴とする有害生物防除剤を製剤化することで、その病原性を示す宿主域が広い微生物農薬を供給できた。特に本発明の有害生物防除剤は、野菜類の大害虫であるアブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類ではなどの害虫に対し、従来の化学合成殺虫剤や微生物農薬等に比べ、効果、価格面でより有効なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】融合株のERIC−PCR(5’−ATGTAAGCTCCTGGGGATTCAC−3’)のバンドパターンを示す泳動写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーティシリウム・レカニ2aF43株(寄託番号:FERM AP−20983)。
【請求項2】
バーティシリウム・レカニ2aF4株(受託番号:FERM AP−20981)。
【請求項3】
バーティシリウム・レカニ2aF26株(受託番号:FERM AP−20982)。
【請求項4】
バーティシリウム・レカニ2aF1株(受託番号:FERM AP−20980)。
【請求項5】
バーティシリウム・レカニ2aF43株、バーティシリウム・レカニ2aF4株、バーティシリウム・レカニ2aF26株及びバーティシリウム・レカニ2aF1株からなる群から選択される、昆虫病原性微生物。
【請求項6】
アブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有する、請求項5に記載の昆虫病原性微生物。
【請求項7】
昆虫病原性微生物として、バーティシリウム・レカニ2aF43株、バーティシリウム・レカニ2aF4株、バーティシリウム・レカニ2aF26株及びバーティシリウム・レカニ2aF1株からなる群から選択される少なくとも1種を含む、有害生物防除剤。
【請求項8】
アブラムシ類、コナジラミ類及びアザミウマ類に対して同時に高い病原性を有する、請求項7に記載の有害生物防除剤。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載の昆虫病原性微生物又は有害生物防除剤を、有害生物に適用する、有害生物の防除方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−61530(P2008−61530A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240633(P2006−240633)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月1日 第50回日本応用動物昆虫学会大会事務局発行の「第50回 日本応用動物昆虫学会大会講演要旨 平成18年度 日本農学会大会分科会」に発表
【出願人】(501307826)アリスタ ライフサイエンス株式会社 (17)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【出願人】(506301276)
【Fターム(参考)】