説明

昇温脱離ガス分析方法および評価昇温脱離ガス分析装置

【目的】試料の特定領域のみの吸着物を評価することが出来る昇温脱離ガス分析方法および評価昇温脱離ガス分析装置を提供する。
【構成】試料S表面上に吸着した吸着物Dを加熱して脱離させ、脱離した脱離物質またはその成分物質を分析する昇温脱離分析方法において、昇温脱離前に、試料Sの分析対象領域を遮蔽板Cで被覆して、Arイオンエッチングを行い、試料の分析対象領域以外の領域の吸着物を予め除去しておいてから、昇温脱離分析を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料の表面の吸着物など、特に半導体製造プロセス途中のウェハ上の吸着物の評価に適した昇温脱離ガス分析方法および評価昇温脱離ガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップは、洗浄、パターニング、成膜などの多数の工程を経て製造される。
製品の製造歩留まりおよび信頼性を向上させるためには、各製造工程前後での試料状態の把握、評価をする必要がある。特に、試料表面の吸着物は成膜プロセス、製造歩留まりに大きく影響するため、試料表面の吸着物評価は重要である。表面吸着物評価において、半製品状態あるいは製品状態の半導体チップから脱離するガスを検出する昇温脱離ガス分析装置(略称TDS:Thermal Desorption Spectroscopy)(例えば、特許参考文献1、2参照。)が知られている。近年、この装置はこれまで測定不能であった低レベルのガスをも検出することができる装置として注目を集めいている。
図3は従来の昇温脱離ガス分析装置の模式断面図である。
昇温脱離ガス分析装置では、次のように昇温脱離ガス分析を行う。
【0003】
例えば、製造工程の途中あるいは終点で摘出された半製品あるいは製品状態の半導体チップなどを試料Sとして、試料準備室11(予備排気室でもあり、ターボ分子ポンプおよびロータリーポンプからなる排気装置21により排気される)内の試料ステージ上61に載せ、先ず十分な脱気を行う。脱気した試料Sを、ゲートバルブ5を通して、高真空に保つ測定室12(ターボ分子ポンプおよびロータリーポンプからなる排気装置22により排気される)内の透明石英からなる試料ステージ62上に搬送する。
そして、試料Sを赤外線加熱ユニット3により加熱する。試料Sの温度の上昇とともに、試料表面に存在する水分、有機系成分の吸着物質または微量物質が順次ガス状で脱離していく。この脱離ガスを質量分析計4に送り質量分析することにより、この脱離ガスを特定することができる。
【特許文献1】特開2003-4679号公報(第2頁−第3頁、図1)
【特許文献2】特開平9-243536号公報(第2頁−第3頁、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この様な従来の昇温脱離ガス分析装置では、試料全体の温度を上昇させるため、試料全体から脱離ガスが発生する。このため得られる情報は試料全面からのもので、試料の特定領域の吸着物を評価することは非常に困難である。
本発明の目的は、試料の特定領域のみの吸着物を評価することが出来る昇温脱離ガス分析方法および評価昇温脱離ガス分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的を達成するため、試料表面上に吸着した吸着物を加熱して脱離させ、脱離した脱離物質またはその成分物質を分析する昇温脱離分析方法において、昇温脱離前に、試料の分析対象領域以外の領域の吸着物を予め除去しておくこととする。
上記の昇温脱離分析方法において、試料表面上の分析対象領域を遮蔽板で覆いイオンエッチングを試料全面に行い、その後遮蔽板を取除いて昇温脱離分析を行うと良い
試料を配置、測定する測定室と、この測定室に配置された試料を加熱する加熱手段と、加熱により試料から脱離したガスを検出する検出手段と、前記測定室内への試料を導入するための試料導入準備室を備えた昇温脱離分析装置において、前記試料導入準備室はArイオン銃および遮蔽板を有することとする。
前記遮蔽板は高純度のシリコン結晶からなると良い。
【0006】
前記試料準備室は、その外部から前記遮蔽板を移動できる手段を有すると良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明の昇温脱離分析方法によれば、試料の加熱脱離分析前に、分析対象領域以外の試料表面の吸着物をArイオンエッチングにより脱離除去するようにしたため、試料の加熱時には残しておいた分析対象領域の吸着物のみが脱離するので、分析対象領域の吸着物のみを選択的に評価することができるようになる。分析の精度は高い。
昇温脱離分析装置の試料準備室にArイオン銃を備え、また試料の分析対象領域を覆う遮蔽板を備えるようにしたため、上記の方法を実行することができるようになる。すなわち、遮蔽板によって覆われていない分析対象領域以外の表面の吸着物をイオン銃からのArイオンによって試料表面の除去することができ、また、遮蔽板によって覆われている分析領域の吸着物を残しておくことができる。従って、試料を加熱した際に分析対象領域の吸着物のみを評価できる。
【0008】
また、遮蔽板として高純度のシリコン結晶を用いたため、イオンエッチングの際に、分析を妨げるような不純物の汚染の恐れはないく、分析の精度は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明に係る昇温脱離分析装置の模式断面図である。
昇温脱離ガス分析装置は、ロードロック方式を採用し、試料準備室11と測定室12から成っている。試料準備室11、測定室12ともにターボ分子ポンプ(TMP)およびロータリーポンプ(RP)を備えた排気装置21、22が接続されている。測定室12の到達真空度は1.3×10-7Pa以下、試料準備室12の到達真空度は6.6×10-5Pa以下に達する。
測定室12には脱離ガス測定用の四重極質量分析計(Q-MS)4および試料加熱用の赤外線加熱ユニット3が備えられている。
また試料準備室11には、イオンビーム照射によるエッチングを行うためのArイオン銃が備えられている。そして、分析対象領域を覆いイオンビームを遮る遮蔽板が備えられている。
【0010】
吸着物Dを持った試料Sを、試料準備室11のエッチングステージ61に載せる。ステージに載せられた試料Sの分析対象領域上に遮蔽板Cを配置する。
遮蔽板Cは外部から操作できるハンドルに連なる(あるいは、試料準備室11内の電磁マニピュレータに連なる)操作棒の先端に固定されている。
遮蔽板Cを配置された試料S全面にイオンビームを照射し、分析対象領域以外の表面の吸着物を除去する。この際、分析対象領域の吸着物は遮蔽板Cに覆われているので除去されない。
試料表面のエッチングを終えた試料を搬送用フォークで、測定室へ導入する。導入された試料は、透明石英製試料ステージ62にセットされる。試料Sの加熱は、外部の赤外線加熱ユニット4から赤外光を透明石英ステージ62を通して試料Sの裏面から照射することにより行う。
【0011】
測定は、試料の昇温に従い脱離する吸着物の成分を備えられている質量分析計により測定する。測定室12に導入された試料では、分析対象領域にしか吸着物はなく、分析は分析対象領域の吸着物に限定されるので、分析の精度高い。
【実施例】
【0012】
実際の測定例を以下に示す。
分析試料は約10mm角にへき開したシリコンウェハを用い、ウェハ表面にスピンコートさせたアセトンを吸着物とした。
この分析試料を大気圧に戻した試料準備室へ試料を導入し、エッチングステージにセットし、イオンエッチングを遮る遮蔽板を配置した。遮蔽板は、シリコンウェハからヘキ開した幅2.5 mm、長さ10mmのシリコン板とし、分析試料の1/4を覆うように配置した。遮蔽板配置の位置決め精度は±50μm程度である。
遮蔽板を配置後、真空排気を行い、約1.3×10-4 Paの真空中で、Arイオンを測定試料に照射させ、約30分間エッチングを行った。
【0013】
この試料を測定室へ搬送し、脱離ガス分析を行った。
分析条件は、昇温速度を1K/secとし、約550℃まで加熱を行った。
比較のため、同様のアセトンを吸着物とした試料についてイオンエッチングを行わない試料の脱離ガス分析も行った。
図2は本発明に係る昇温脱離分析方法による昇温脱離ガススペクトルである。ガス種は炭化水素(質量電荷比M/z=43)である。aは本実施例のスペクトルであり、bはイオンエッチングをされてない比較例のスペクトルである。遮蔽板を用いイオンエッチングを行った試料はイオンエッチングを行っていないものに比べて脱離した炭化水素量総量は、イオンエッチングしていない試料の約1/3.9すなわちほぼ1/4であることが分かる。
この結果から、遮蔽板を用いたイオンエッチングにより、分析対象領域以外の吸着物を除去することにより、分析対象領域のみの吸着物評価が可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明によれば、表面分析評価の精度を向上させ、さらに、半導体装置の開発や製造工程のチェックなどを迅速、確実に行うことが出来るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る昇温脱離分析装置の模式断面図である。
【図2】本発明に係る昇温脱離分析方法による昇温脱離ガススペクトルである。
【図3】従来の昇温脱離分析装置の模式断面図である。
【符号の説明】
【0016】
11 試料準備室
12 測定室
21 排気装置
22 排気装置
3 赤外線加熱ユニット
4 質量分析計
5 ゲートバルブ
61 試料ステージ
62 試料ステージ
S 試料
D 表面吸着物
C 遮蔽板
G イオン銃
H ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面上に吸着した吸着物を加熱して脱離させ、脱離した脱離物質またはその成分物質を分析する昇温脱離分析方法において、昇温脱離前に、試料の分析対象領域以外の領域の吸着物を予め除去しておくことを特徴とする昇温脱離分析方法。
【請求項2】
試料表面上の分析対象領域を遮蔽板で覆いイオンエッチングを試料全面に行い、その後遮蔽板を取除いて昇温脱離分析を行うことを特徴とする請求項1に記載の昇温脱離分析方法。
【請求項3】
試料を配置、測定する測定室と、この測定室に配置された試料を加熱する加熱手段と、加熱により試料から脱離したガスを検出する検出手段と、前記測定室内への試料を導入するための試料導入準備室を備えた昇温脱離分析装置において、前記試料導入準備室はArイオン銃および遮蔽板を有することを特徴とする昇温脱離分析装置。
【請求項4】
前記遮蔽板は高純度のシリコン結晶からなることを特徴とする請求項3に記載の昇温脱離分析装置。
【請求項5】
前記試料準備室は、その外部から前記遮蔽板を移動できる手段を有することを特徴とする請求項3または4に記載の昇温脱離分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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