説明

昇華型熱転写方法及び情報漏洩防止システム

【課題】使用済みの昇華型熱転写インクリボンの転写跡のみの読み取りが困難な昇華型熱転写方法及び情報漏洩防止システムを提供すること。
【解決手段】(i)記録される二次元パターンAを記録する被転写体を準備する工程、(ii)基材、非転写性の読み取り防止層及び昇華転写性の色材層を設けた昇華型熱転写リボンであって、被転写体に記録する二次元パターンAに類似の要素を含む撹乱パターンBを有する読み取り防止層及び色材層を設けたリボンを準備する工程、(iii)被転写体に記録する二次元パターンAの情報を準備する工程、(iv)当該被転写体に当該昇華型熱転写リボンを用いて、二次元パターンAの情報に基づいて当該パターンAを昇華型熱転写する工程、を含むことを特徴とする、昇華型熱転写方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華型熱転写方法及び情報漏洩防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から熱転写記録媒体は、コンピュータ、ファクシミリ又は証明写真等において、普通紙や受像紙等の被転写体に文字、図形及び顔写真等を出力するために用いられている。一般に熱転写記録媒体としては、ポリエステルフィルム等のベースフィルムに転写性ワックスインキ層を設けた溶融型熱転写シート及びベースフィルムにシアン、マゼンタ及びイエロー等の染料インキ層を設けた昇華型熱転写リボンがある。
溶融型熱転写方式においては、溶融型熱転写シートのベースフィルム側からサーマルヘッドにより当該シートに熱を加え、加熱された部分のワックスインキ層が被転写体に転写(溶融型熱転写)し、面積階調により文字や図形等を転写(出力)する。
一方、昇華型熱転写方式においては、ベースフィルム側からサーマルヘッドにより熱転写リボンに熱を加え、シアン、マゼンタ及びイエロー等の各染料インキ層をサーマルヘッドの熱に比例して被転写体に転写(昇華型熱転写)し、濃度階調により図形や顔写真等を転写(出力)する。
【0003】
溶融型熱転写方式は、面積階調により出力をするため、文字等の高コントラストが要求される用途の転写に適している。
一方、昇華型熱転写方式は、シアン、マゼンタ及びイエロー等の各染料インキの濃度階調により出力するため、顔写真や風景写真等の高い色再現性が要求される画像の転写に適している。
【0004】
上記熱転写記録媒体を用い、文字や画像等を被転写体に転写するとワックスインキ層や染料インキ層の当該文字や画像部分が被転写体に転写されるため、転写後の使用済みの熱転写記録媒体のワックスインキ層や染料インキ層では当該文字や画像部分が抜けた転写跡が残る。契約文書、特許出願用文書及びノウハウ文書等の機密文書を作成する場合には使用済みの熱転写記録媒体にそれら機密文書の内容が転写跡として記録されているためにその廃棄には十分な注意が要求されるという問題があった。
【0005】
特許文献1においては、使用済みインクリボン上の残存反転像を消去できる熱転写プリンターを意図して、使用済みリボンに反転データを熱転写する手段を備えた熱転写プリンターが提案されている。
しかし、この方式を採用するためにはインクリボンの搬送方法や印字方法での改造を要する場合があり、既存のシステムでの採用には負荷が大きい。このため、より簡便な手段で高い情報漏洩防止効果を奏する方法が求められていた。
【0006】
一方、特許文献2においては、使用後に機密漏洩のおそれの無い熱転写シートを意図して、基材フィルムの一方の面にマット層を介して熱溶融性インキ層を設けた熱転写シートにおいて、マット層をインキ層と同一色層で、かつ、パターン状に設けることが提案されている。
【0007】
しかし、特許文献2に記載の熱転写シートは熱溶融型であるため、文字等の面積階調での印字においては使用済みの熱転写シートの白抜き文字の読み取りは困難であるが、昇華型熱転写リボンにおいては、染料層(着色層)の濃度を十分に高くして蛍光灯や太陽光の反射光下やこれらの光の透過光下での観察において顔写真のような個人情報や、図形や風景等の十分な読み取り防止性を得ることが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−211077号公報
【特許文献2】特開2009−012445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、使用済みの昇華型熱転写インクリボンの転写跡の読み取りが困難な昇華型熱転写方法及び情報漏洩防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、昇華型熱転写により記録される所望の顔写真の顔輪郭、目、鼻、口、眉、耳及び髪型等の類似の形状、大きさ並びに濃度階調等の要素を含む撹乱パターンを有する非転写性の読み取り防止層と、転写性を有する色材層(染料インキ層)を設けた昇華型熱転写リボンを用いて当該所望の顔写真の転写を行うことにより、その使用済みのリボンには顔写真の転写跡を有する色材層及び顔写真に類似の要素を含む撹乱パターンを有する読み取り防止層が残り、顔写真に加えて撹乱パターンも合わさって一つのパターンとして読み取れてしまうため、反射光や透過光下においてもその読み取れた一つのパターンのどの部分が被転写体に記録された顔写真部分なのか判別するのが困難となり、すなわち顔写真のみを読み取ることが困難となり、優れた情報漏洩防止の効果が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る昇華型熱転写方法は、(i)昇華型熱転写により記録され視覚で認知される二次元濃度階調パターン(A)を記録する被転写体を準備する工程、
(ii)少なくとも基材、非転写性を有する読み取り防止層及び昇華転写性を有する色材層を有する昇華型熱転写リボンであって、
当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)に類似の要素を含む二次元濃度階調撹乱パターン(B)を有する読み取り防止層を当該基材の少なくとも一面側に設け、
当該基材の読み取り防止層を設ける面とは反対側の面、又は、当該読み取り防止層の基材とは反対側の面に、当該色材層を設けた、昇華型熱転写リボンを準備する工程、
(iii)当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)の情報を準備する工程、
(iv)当該被転写体に当該昇華型熱転写リボンを用いて、当該二次元濃度階調パターン(A)の情報に基づいて当該二次元濃度階調パターン(A)を昇華型方式により熱転写する工程、を含むことを特徴とする。
【0012】
非転写性の読み取り防止層は、被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)(以下、単に「二次元パターンA」ということがある。)に類似の要素を含む二次元濃度階調撹乱パターン(B)(以下、単に「撹乱パターンB」ということがある。)を有するため、当該読み取り防止層を設けた昇華型熱転写リボン(以下、単に「リボン」ということがある。)を用いて昇華型方式により熱転写を行うと、昇華型熱転写後も読み取り防止層がリボンに残り、使用済みのリボンにおいて二次元パターンAの転写跡と撹乱パターンBとが重なって存在し、両パターンが合わさって一つのパターンとして読み取られるため、当該使用済みリボンから二次元パターンAの転写跡のみを読み取ることが困難となる。
【0013】
本発明に係る昇華型熱転写方法は、前記二次元濃度階調パターン(A)が、楕円短径a及び楕円長径bを有する人物の顔画像を含み、前記二次元濃度階調撹乱パターン(B)に、楕円短径a’及び楕円長径b’を有し、当該a’が0.5a〜1.5aであり、かつ、当該b’が0.5b〜1.5bである疑似顔輪郭楕円が含まれることが、二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【0014】
本発明に係る昇華型熱転写方法は、前記人物の顔画像のアスペクト比b/a及び前記疑似顔輪郭楕円のアスペクト比b’/a’が1.2〜2.0であることが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【0015】
本発明に係る昇華型熱転写方法は、前記読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、前記色材層の透過濃度をDとしたとき、当該D1maxが0.8D〜1.2Dであることが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
なお、本発明において透過濃度は、サカタインクスエンジニアリング(株)製の商品名X−Rite 361T(測定アパーチャー径1mm)で求めた値を意味する。
【0016】
本発明に係る昇華型熱転写方法は、前記疑似顔輪郭楕円に、直径Cがa/15〜a/5である疑似目が含まれることが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【0017】
本発明に係る昇華型熱転写方法は、前記読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、前記疑似顔輪郭楕円部分の透過濃度をDfave、前記疑似目部分の透過濃度をDとしたとき、当該D1max、Dfave及びDは、下記式(1)及び(2)を満たすことが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
0.5D1max≦Dfave≦0.9D1max・・・式(1)
<Dfave・・・式(2)
なお、疑似顔輪郭楕円部分の透過濃度Dfaveは、疑似顔輪郭楕円内の擬似目以外の部分の透過濃度を意味する。疑似目部分の透過濃度Dは、当該疑似目部分の透過濃度を意味する。後述する情報漏洩防止システムにおいても同様である。
【0018】
本発明に係る昇華型熱転写方法は、前記Dが、0より大きく、かつ、0.2D1max以下であることが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【0019】
本発明に係る情報漏洩防止システムは、(I)昇華型熱転写により記録され視覚で認知される二次元濃度階調パターン(A)を記録する被転写体、
(II)当該二次元濃度階調パターン(A)の情報を合成する手段及び合成された二次元濃度階調パターン(A)の情報を昇華型方式により熱転写する手段、を有する記録情報合成手段、
(III)少なくとも基材、非転写性を有する読み取り防止層及び昇華転写性を有する色材層を有する昇華型熱転写リボンを備え、
当該読み取り防止層は、当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)と類似の要素を含む二次元濃度階調撹乱パターン(B)を有し、
当該基材の少なくとも一面側に、当該読み取り防止層を有し、
当該基材の一面側であり、当該基材の読み取り防止層を有する面とは反対側の面、又は、当該読み取り防止層の基材とは反対側の面に、当該色材層を有することを特徴とする。
【0020】
上述した昇華型熱転写方法と同様に、撹乱パターンBを有する読み取り防止層を設けた昇華型熱転写リボンを備えることにより、上記システムを用いて記録を行った後の使用済みのリボンは二次元パターンAの転写跡のみを読み取ることが困難となり、本発明に係る情報漏洩防止システムは、優れた情報漏洩防止機能を有する。
【0021】
本発明に係る情報漏洩防止システムは、前記二次元濃度階調パターン(A)が、楕円短径a及び楕円長径bを有する人物の顔画像を含み、前記二次元濃度階調撹乱パターン(B)に、楕円短径a’及び楕円長径b’を有し、当該a’が0.5a〜1.5aであり、かつ、当該b’が0.5b〜1.5bである疑似顔輪郭楕円が含まれることが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【0022】
本発明に係る情報漏洩防止システムは、前記人物の顔画像のアスペクト比b/a及び前記疑似顔輪郭楕円のアスペクト比b’/a’が1.2〜2.0であることが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【0023】
本発明に係る情報漏洩防止システムは、前記読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、前記色材層の透過濃度をDとしたとき、当該D1maxが0.8D〜1.2Dであることが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【0024】
本発明に係る情報漏洩防止システムは、前記疑似顔輪郭楕円に、直径Cがa/15〜a/5である疑似目が含まれることが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【0025】
本発明に係る情報漏洩防止システムは、前記読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、前記疑似顔輪郭楕円部分の透過濃度をDfave、前記疑似目部分の透過濃度をDとしたとき、当該D1max、Dfave及びDは、下記式(1)及び(2)を満たすことが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
0.5D1max≦Dfave≦0.9D1max・・・式(1)
<Dfave・・・式(2)
【0026】
本発明に係る情報漏洩防止システムは、前記Dが、0より大きく、かつ、0.2D1max以下であることが二次元パターンAの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る昇華型熱転写方法及び情報漏洩防止システムにおいては、被転写体に記録する二次元パターンAに類似の要素を含む撹乱パターンBを有するため、当該読み取り防止層を設けたリボンを用いて昇華型方式により熱転写を行うと、昇華型熱転写後も読み取り防止層がリボンに残り、使用済みのリボンにおいて二次元パターンAの転写跡と撹乱パターンBとが重なって存在し両パターンが合わさって一つのパターンとして読み取られるため、当該使用済みリボンから二次元パターンAの転写跡のみを読み取ることが困難となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明に係る昇華型熱転写方法において用いる昇華型熱転写リボンの層構成の一例を示した模式図である。
【図2】図2は、本発明に係る昇華型熱転写方法において用いる昇華型熱転写リボンの層構成の他の一例を示した模式図である。
【図3】図3は、従来の読み取り防止層の無い昇華型熱転写リボンの使用後の転写跡及びその透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
【図4】図4は、濃度階調の無い昇華型熱転写リボンの使用後の転写跡及びその透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
【図5】図5は、本発明に係る昇華型熱転写リボンの使用後の転写跡及びその透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
【図6】図6は、熱転写後にイエロー、マゼンタ又はシアンの三色を発色可能な色材層が、面順次に形成されている従来の昇華型熱転写リボンの使用後の転写跡の透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
【図7】図7は、図6の従来の昇華型熱転写リボンの使用後の転写跡とその透過観察により観察されるイメージの一例を模式的に示した断面図である。
【図8】図8は、熱転写後にイエロー、マゼンタ又はシアンの三色を発色可能な色材層が、面順次に形成されている本発明の昇華型熱転写リボンを用いて、本発明の昇華型熱転写方法を行った後の転写跡の透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
【図9】図9は、実施例1で用いた昇華型熱転写リボンの透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
【図10】図10は、実施例2で用いた昇華型熱転写リボンの透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
【図11】図11は、比較例1で用いた昇華型熱転写リボンの透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、まず本発明に係る昇華型熱転写方法について説明し、次いで本発明に係る情報漏洩防止システムについて説明する。
【0030】
(昇華型熱転写方法)
本発明に係る昇華型熱転写方法は、(i)昇華型熱転写により記録され視覚で認知される二次元濃度階調パターン(A)を記録する被転写体を準備する工程、
(ii)少なくとも基材、非転写性を有する読み取り防止層及び昇華転写性を有する色材層を有する昇華型熱転写リボンであって、
当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)に類似の要素を含む二次元濃度階調撹乱パターン(B)を有する読み取り防止層を当該基材の少なくとも一面側に設け、
当該基材の読み取り防止層を設ける面とは反対側の面、又は、当該読み取り防止層の基材とは反対側の面に、当該色材層を設けた、昇華型熱転写リボンを準備する工程、
(iii)当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)の情報を準備する工程、
(iv)当該被転写体に当該昇華型熱転写リボンを用いて、当該二次元濃度階調パターン(A)の情報に基づいて当該二次元濃度階調パターン(A)を昇華型方式により熱転写する工程、を含むことを特徴とする。
【0031】
非転写性の読み取り防止層は、被転写体に記録する二次元パターンAに類似の要素を含む撹乱パターンBを有するため、当該読み取り防止層を設けたリボンを用いて昇華型方式により熱転写を行うと、昇華型熱転写後も読み取り防止層がリボンに残り、使用済みのリボンにおいて二次元パターンAの転写跡と撹乱パターンBとが重なって存在し、両パターンが合わさって一つのパターンとして読み取られるため、当該使用済みリボンから二次元パターンAの転写跡のみの読み取りが困難となる。
【0032】
本発明に係る昇華型熱転写方法の(i)〜(iv)の各工程について説明する。
(i)及び(ii)工程においては、後述する被転写体及び昇華型熱転写リボンを準備する。
(iii)工程においては、被転写体に記録する二次元パターンAの情報を準備する。二次元パターンAの情報としては、後述するように、証明写真やIDカード、クレジットカード及び運転免許証が被転写体の場合は、それに記録される人物の顔、上半身又は全身の情報である。証明写真以外の写真台紙が被転写体の場合は風景乃至図形が二次元パターンAの情報であっても良い。
(iv)工程においては、被転写体に昇華型熱転写リボンを用いて、二次元パターンAの情報に基づいて二次元パターンAを昇華型方式により熱転写する。熱転写方法としては、特開2008−132771号公報等に記載の従来公知の昇華型熱転写方法を用いることができる。具体的には例えば、基材の情報記録面にリボンの色材層が対面するように重ね合わせ、二次元パターンAの情報に応じて、サーマルヘッドにより加熱し、色材層の色材を昇華(移行)させることにより基材に二次元パターンAの情報を記録する。
【0033】
以下、本発明に係る昇華型熱転写方法において用いる被転写体及び昇華型熱転写リボンについて説明する。
【0034】
(被転写体)
被転写体は、後述する昇華型熱転写リボンの色材層から昇華した色材を受容し、顔写真や図形等の二次元パターンAを表示する基材である。
被転写体としては、特に制限されるものではなく、例えば、身分証明書やIDカード、クレジットカード、運転免許証、その他カード類又は写真台紙を好適に使用できる。
被転写体の材料はとしては、例えば、合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系等)、上質紙等の紙類や、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル又はポリメタクリレート等の各種のプラスチックシート等が使用できる。また、これらのプラスチックシートに白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明シート又は基材内部に微細空隙(ミクロボイド)を有するシート等も使用でき、特に限定されるものではない。
【0035】
また、後述する昇華型熱転写リボンの色材層に含まれる色材として、キレートを形成可能な昇華性色材を用いる場合、被転写体には当該昇華性色材とキレートを形成可能な金属イオン含有化合物を含む受像層が設けられていることが好ましい。このような受像層としては、例えば、特開2006−007507号公報の[0047]及び[0048]記載の受像層を用いればよい。また、受像層に含まれる金属イオン含有化合物としては、例えば、特開2006−007507号公報の[0048]〜[0050]記載の金属錯体が挙げられれる。
【0036】
(二次元濃度階調パターン(A))
二次元パターンAは、昇華型熱転写方法により後述する色材層の昇華性色材が被転写体に転写され濃度階調で表現される二次元パターンである。被転写体が証明写真の写真台紙やIDカード、クレジットカード又は運転免許証等である場合は、二次元パターンAは通常、上記被転写体への記録対象となる人物の顔、上半身又は全身等の人物固有の像を含む。被転写体が証明写真以外の写真台紙の場合は、二次元パターンAを風景乃至図形とすることもできる。また、被転写体が上記証明写真の写真台紙又はIDカード等である場合であっても、二次元パターンAは人物の顔や上半身等の人物に関連するもの以外に風景や背景、そして図形等が含まれていても良い。
【0037】
二次元パターンAが人物の顔写真である場合、通常、顔輪郭、皮膚、目、口、鼻、耳、眉及び髪型等がその要素として含まれ、これらの要素はその種類や部分によって色彩や濃淡が異なり、溶融型熱転写方式ではその再現が難しいが、昇華型熱転写方式では鮮やかな色再現が可能であり、昇華型熱転写方式はこのような二次元パターンAを記録する方法として適している。
【0038】
(昇華型熱転写リボン)
本発明に係る昇華型熱転写方法において用いる昇華型熱転写リボンは、少なくとも基材、非転写性を有する読み取り防止層及び昇華転写性を有する色材層を有する昇華型熱転写リボンであって、
当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)に類似の要素を含む二次元濃度階調撹乱パターン(B)を有する読み取り防止層を当該基材の少なくとも一面側に設け、
当該基材の読み取り防止層を設ける面とは反対側の面、又は、当該読み取り防止層の基材とは反対側の面に、当該色材層を設けてなる。
【0039】
図1は、本発明に係る昇華型熱転写方法において用いる昇華型熱転写リボンの層構成の一例を示した模式図である。
図1において、昇華型熱転写リボン1は、基材10の一面側に読み取り防止層20が設けられ、基材10の読み取り防止層20を有する面とは反対側の面に色材層30が設けられている。
図2は、本発明に係る昇華型熱転写方法において用いる昇華型熱転写リボンの層構成の他の一例を示した模式図である。
図2において、昇華型熱転写リボン1は、基材10の一面側に読み取り防止層20が設けられ、読み取り防止層20の基材10とは反対側の面、すなわち読み取り防止層20上に色材層30が設けられている。
【0040】
以下、昇華型熱転写リボンの必須構成要素である基材、読み取り防止層及び色材層について説明する。
【0041】
(基材)
昇華型熱転写リボンの基材は、特に限定されるものではなく、従来公知の昇華型熱転写記録媒体の基材を用いることができる。例えば、上質紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド及びポリエーテルイミド等が挙げられる。なかでもPET基材が好ましい。
【0042】
基材の厚さは特に限定されず、従来公知の熱転写記録媒体の基材の厚さに設定することができる。プリンターにおける搬送性の点から5〜100μmが好ましい。
【0043】
(読み取り防止層)
読み取り防止層は、非転写性を有し、被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)に類似の要素を含む二次元濃度階調撹乱パターン(B)を有する。
この読み取り防止層を有することにより、リボンを用いて昇華型方式により熱転写を行った後の使用済みのリボンにおいて、後述する色材層の二次元パターンAの転写跡と撹乱パターンBとが重なって存在し、両パターンが合わさって一つのパターンとして読み取られるため、使用済みリボンから二次元パターンAの転写跡のみを読み取ることが困難となる。
【0044】
図3は従来の読み取り防止層の無い昇華型熱転写リボンの転写跡とその透過観察により観察されるイメージの一例を模式的に示した図である。なお、図3並びに後述する図4及び5では転写跡及び撹乱パターンBを説明の簡略化のため方形の形状で示してある。
図3の(a)は、使用済みの昇華型熱転写リボンの断面図を示しており、読み取り防止層が無く、基材10の一面側に直接色材層30があり、色材層には転写跡40が残っている。
図3の(b)は、図3の(a)のリボンの透過観察により観察されるイメージの平面図を示しており、パターン50が観察されることを示している。
図3の(a)及び(b)において、転写跡40と観察されるパターン50は同じである。従来の読み取り防止層の無いリボンでは使用済みのリボンを透過観察することにより、転写跡が読み取れてしまい、情報漏洩のおそれがあった。
【0045】
図4は、濃度階調の無い着色層を有する昇華型熱転写リボンの転写跡とその透過観察により観察されるイメージの一例を模式的に示した図である。
図4の(a)は、使用済みの昇華型熱転写リボンの断面図を示しており、色材層30と基材10との間に着色層60が設けられているが、着色層60は濃度階調が無い、すなわち均一濃度である。色材層30には図3の(a)と同じ転写跡40が残っている。
図4の(b)は、図4の(a)のリボンの透過観察により観察されるイメージの平面図を示しており、パターン50が観察されることを示している。
図4の(a)及び(b)において、転写跡40と観察されるパターン50は、着色層60があることにより透過濃度は異なるがパターンの形状は同じである。濃度階調の無いリボンでは使用済みのリボンを透過観察することにより図3のリボンと同様に転写跡が読み取れてしまい、情報漏洩のおそれがあった。
【0046】
図5は、本発明の読み取り防止層を有する昇華型熱転写リボンの転写跡とその透過観察により観察されるイメージの一例を模式的に示した図である。
図5の(a)は、使用済みの昇華型熱転写リボンの断面図を示しており、色材層30と基材10との間に読み取り防止層20が設けられている。読み取り防止層には撹乱パターンB70があり、色材層30には図3の(a)と同じ転写跡40が残っている。
図5の(b)は、図5の(a)のリボンの透過観察により観察されるイメージの平面図を示しており、パターン50が観察されることを示している。
図5の(b)において、転写跡40と観察されるパターン50は形状も異なり、転写跡40と撹乱パターンB70が同じ膜厚方向で重なっている部分は透過濃度も転写跡40だけの部分と異なっている。このように読み取り防止層を有するリボンの使用後の透過観察パターンからは、転写跡40、すなわち被転写体に記録された二次元パターンAのみを読み取ることは困難であり、本発明の昇華型熱転写リボンは優れた情報漏洩防止の効果を奏する。
【0047】
読み取り防止層の厚さは適宜設定すれば良く、例えば、色材の転写性の点から0.5〜1.5g/mが好ましい。
読み取り防止層の材料は、色材層と同様のものを使用することが出来るが、バインダー樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂及びセルロース樹脂、等が挙げられ、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂及びセルロース樹脂が好ましい。
【0048】
読み取り防止層が有する、二次元パターンAに類似の要素を含む撹乱パターンBは、二次元パターンAに合わせて適宜選択すればよい。
例えば、二次元パターンAが人物の顔である場合、その要素には顔輪郭、皮膚、目、鼻、口、眉、耳及び毛髪等の形状、大きさ並びに濃度階調等が含まれるため、撹乱パターンBはこの中の少なくとも一つの要素を含めば良い。例えば、二次元パターンAに含まれる目の形状に類似した撹乱パターンBを用いても良いし、二次元パターンAに含まれる顔輪郭の形状及び大きさに類似した撹乱パターンB1と二次元パターンAに含まれる髪型と類似の形状及び類似の濃度階調を有する撹乱パターンB2をあわせて用いても良い。
【0049】
二次元パターンAが人物の顔画像を含み、その顔画像が楕円短径a及び楕円長径bの場合は、撹乱パターンBの形状は特に限定されずに適宜設定しても良いが、楕円短径a’及び楕円長径b’を有し、当該a’が0.5a〜1.5aであり、かつ、当該b’が0.5b〜1.5bである疑似顔輪郭楕円であると、二次元パターンAと撹乱パターンB、すなわち顔画像の輪郭と疑似顔輪郭楕円がより類似し、顔画像の転写跡、すなわち二次元パターンAのみの読み取りがより困難となり好ましい。
【0050】
さらに、人物の顔画像のアスペクト比b/a、すなわちb÷aの値と、疑似顔輪郭楕円のアスペクト比b’/a’、すなわちb’÷a’の値が1.2〜2.0であると、二次元パターンAのみの読み取りがより困難となり好ましい。このとき、人物の顔画像のアスペクト比b/aと疑似顔輪郭楕円のアスペクト比b’/a’は、それぞれが1.2〜2.0の範囲内であれば良く、異なっていても良いし、同じであっても良い。
【0051】
また、一般に人間の目の直径は顔幅の約1/10であることから、疑似顔輪郭楕円に直径Cがa/15〜a/5である疑似目が少なくとも一つ含まれると、人間の目の大きさに類似した疑似目により撹乱され顔画像の転写跡が認識し難くなり、かつ、転写跡を視認した際に見た者に不快感を与えやすく、二次元パターンAのみの読み取りがより困難となり好ましい。読み取り防止層には疑似目が一つ以上含まれることが好ましく、二つ以上含まれることがより好ましい。
【0052】
読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、色材層の透過濃度をDとしたとき、当該D1maxが0.8D〜1.2Dである場合、読み取り防止層の透過濃度と色材層の透過濃度の差が小さくなり転写跡(二次元パターンA)のみの読み取りがより困難となり好ましい。
なお、透過濃度は、サカタインクスエンジニアリング(株)製の商品名X−Rite 361T(測定アパーチャー径1mm)で求めた値を意味する。
【0053】
読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、疑似顔輪郭楕円部分の透過濃度をDfave、疑似目部分の透過濃度をDとしたとき、当該D1max、Dfave及びDは、下記式(1)及び(2)を満たす場合、顔画像の二次元パターンAの濃度階調と撹乱パターンBの濃度階調が類似し、転写跡(二次元パターンA)のみの読み取りがより困難となり好ましい。
0.5D1max≦Dfave≦0.9D1max・・・式(1)
<Dfave・・・式(2)
なお、疑似顔輪郭楕円部分の透過濃度Dfaveは、疑似顔輪郭楕円内の擬似目以外の部分の透過濃度を意味する。疑似目部分の透過濃度Dは、当該疑似目部分の透過濃度を意味する。後述する情報漏洩防止システムにおいても同様である。
【0054】
また、Dが、0より大きく、かつ、0.2D1max以下である場合、疑似目部分の透過濃度が顔画像の目の透過濃度に近くなり、顔画像の目と疑似目の区別がよりつき難くなり、二次元パターンAのみの読み取りが困難となり好ましい。
【0055】
(色材層)
本発明の色材層は昇華転写性を有し、少なくとも色材とバインダー成分を含有する。
色材層に含まれる色材は一種単独でも良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
色材層の厚さは適宜調節すれば良く、特に制限されないが、0.5〜2.0g/mであることが好ましい。
以下、色材層の色材とバインダー成分について順に説明する。
【0056】
(色材)
熱昇華性の色材層に用いられる色材は、特に制限されず、従来公知の昇華型熱転写方式の熱転写リボンに使用される、イエロー系、マゼンタ系、シアン系等を用いることができる。イエロー系色材としては、ホロンブリリアントイエロー6GL、PTY−52及びマクロレックスイエロー6G等が、マゼンタ系色材としては、MS Red G、Macrolex Red Violet R、Ceres RedHBSL及びResolin Red F3BS等が、また、シアン系色材としては、カヤセットブルー714、ワクソリンブルーAP−FW、ホロンブリリアントブルーSR及びMSブルー100等が挙げられる。
【0057】
また、熱転写により色材層中の化合物と被転写体側のそれを受容する層(受像層)中の化合物とを反応させることにより、目標とする色を発色させる反応型の色材を用いても良い。このような反応型の方式としては、色材層に含有させる化合物として、昇華性色材を用い、受像層に含有させる化合物として、金属イオン含有化合物を用い、熱転写後それらを反応させて昇華性色材−金属イオン含有化合物複合体を形成することにより目標となる色を発色させるポストキレート方式が挙げられる。ポストキレート方式により形成される色は、高温及び高湿化に長時間放置しても、色材の褪色や滲みが起こり難く、耐光性も優れているという利点がある。
そのような昇華性色材としては、例えば、特開2006−007507号公報の[0090]記載のナフトキノン系、アントラキノン系及びアゾメチン系等のシアン系色素、アントラキノン系、アゾ及びアゾメチン系等のマゼンタ系色素並びにメチン系色素、アゾ系色素、キノフタロン系色素及びアントライソチアゾール系色素等のイエロー系色素を用いることができる。この他、特開2006−007507号公報の[0091]記載の一般式:X1−N=N−X2−Gで表わされる化合物も好ましく用いることができる。この一般式中、X1は、少なくとも一つの環が5〜7個の原子から構成される芳香族の炭素環、または複素環を完成するのに必要な原子の集まりを表わし、アゾ結合に結合する炭素原子の隣接位の少なくとも一つが、窒素原子またはキレート化基で置換された炭素原子である。X2は、少なくとも一つの環が5〜7個の原子から構成される芳香族複素環または、芳香族炭素環を表わす。Gはキレート化基を表わす。
形成しようとする色が単色の場合、上記イエロー系色素、マゼンタ系色素及びシアン系色素のいずれを用いても良い。また、形成しようとする色の色調に応じて、上記三種の色素のいずれか二種以上を組み合わせて用いても良い。さらに、他の昇華性色材を含んでいても良い。
【0058】
(バインダー成分)
上記色材を、溶解又は分散させるバインダー成分は、従来公知の昇華型熱転写リボンの色材層のバインダー成分を用いることができ、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酢酪酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂、ポリエステル等が挙げられる。これらのなかで好ましいものは、耐熱性、色材移行性の点からセルロース誘導体、ポリビニルアセタール、及びポリエステルである。
【0059】
また、色材層は上記の色材の他に印刷適性、転写適性をもたせるために従来から使用されているポリエチレンワックス微粒子等、ブロッキング防止剤、滑剤、静電気防止剤等の公知の添加剤を加えることができる。
【0060】
バインダー成分を溶解又は分散するために溶剤を用いても良く、当該溶剤としては公知のものを用いることができる。例えば、トルエン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶剤や、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、エチレングリコールモノエチルアセテート等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。
【0061】
本発明の昇華型熱転写方法の好適な実施形態においては、前記色材層として、熱転写後にイエロー、マゼンタ又はシアンの三色を発色可能な色材層が面順次に形成されている場合でも高い読み取り防止性を発揮できる。
このような形態としては、イエロー、マゼンタ又はシアンの三色を面順次に形成しても良い。一般に、昇華型熱転写リボンは熱転写後にイエロー、マゼンタ又はシアンの三色を発色可能な色材層が面順次に形成されており、例えば人物の顔写真を転写した場合、その三色の顔写真における目の位置を基準に各色の色材層を重ね合わせて合成し、再生処理されるおそれがある。これに対して、本発明の昇華型熱転写リボンは上述した読み取り防止層を有するため、たとえ各色の色材層を重ね合わせて合成したとしても二次元パターンAと撹乱パターンBとが合わさって一つのパターンとして読み取られるため、使用済みリボンから二次元パターンAの転写跡のみの読み取りが困難となる。
なお、面順次とは、熱転写後にイエロー、マゼンタ又はシアンの三色を発色可能な色材層が順に繰り返し形成されている状態をいい、一つの繰り返し単位におけるこれら三色の色材層の並び順は6通りの中から適宜選択してよい。
また、色材層には上記の色材層以外にブラック層が含まれていても良い。
【0062】
図6は、熱転写後にイエロー、マゼンタ又はシアンの三色を発色可能な色材層が面順次に形成されている従来の昇華型熱転写リボンの使用後の転写跡の透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
熱転写後にイエローを発色可能な色材層31、熱転写後にマゼンタを発色可能な色材層32及び熱転写後にシアンを発色可能な色材層33が面順次に形成されたリボンが熱転写され、人物の顔画像の転写跡41及び42が転写後のリボンに残っている。
これら各色のみでは顔画像が読み取り難いこともあるが、色材層との透過濃度の差が大きい目の部分である転写跡41を基準にこれらを重ね合わせることで転写跡43がより明瞭に読み取れてしまう。
【0063】
図7は、図6の従来の昇華型熱転写リボンの使用後の転写跡とその透過観察により観察されるイメージの一例を模式的に示した断面図である。
転写跡41を基準に各色材層31〜33が重ね合わせられている。
【0064】
図8は、熱転写後にイエロー、マゼンタ又はシアンの三色を発色可能な色材層が面順次に形成されている本発明の昇華型熱転写リボンを用いて、本発明の昇華型熱転写方法を行った後の転写跡の透過観察のイメージの一例を示した模式図である。
撹乱パターンB70と転写跡41が混合して、転写跡41のみを重ね合わせることが難しく、読み取れるパターン50も複雑で不愉快なものとなり、転写跡のみを読み取ることが困難となる。
【0065】
熱転写後にイエロー、マゼンタ又はシアンの三色を発色可能な色材層が面順次に形成されている場合には、各色材層の膜厚方向に位置する読み取り防止層は、図8のように各色で共通の撹乱パターンBを有するものでも良いし、図示しないが、各色材層に対応して異なる撹乱パターンBを有するものでも良い。
【0066】
(その他の層)
本発明の昇華型熱転写リボンには上記読み取り防止層と色材層の他に、必要に応じて適宜、従来公知の耐熱滑性層を設けても良い。
なお、耐熱滑性層はステッキングや印画しわ等の熱転写時のサーマルヘッドの熱による問題を防止するために設けるため、耐熱滑性層を設ける場合は昇華型熱転写リボンの色材層と反対側の表面に設ける。例えば、図1の場合では読み取り防止層20上に設け、図2の場合では基材10の読み取り防止層とは反対側の面に設ける。
【0067】
(昇華型熱転写リボンの形成方法)
本発明において用いる昇華型熱転写リボンの形成方法は、従来公知の熱転写シートや熱転写記録媒体の形成方法を用いることができる。例えば、基材を準備し、当該基材の一面側に上記読み取り防止層又は色材層を形成し、次いで、当該読み取り防止層又は色材層上に、色材層又は読み取り防止層を形成する方法が挙げられる。これら色材層や読み取り防止層は、従来公知の形成方法により形成することができる。
例えば、色材層の形成においては、色材層を構成する必須成分の色材及びバインダー成分並びに必要に応じて溶剤を用いて、組成物を調製する。この組成物の調製には、例えば、ボールミルやバスケットミル等を用いて色材及びバインダー成分を溶解又は分散させて行う。
このようにして得られた組成物を、例えば、グラビアコーターやロールコーター等の塗布装置を用いて基材や被塗布面に塗布し、乾燥によって溶剤を除去して色材層を形成する。
読み取り防止層やその他の層も同様に形成すればよい。
【0068】
(情報漏洩防止システム)
本発明に係る情報漏洩防止システムは、(I)昇華型熱転写により記録され視覚で認知される二次元濃度階調パターン(A)を記録する被転写体、
(II)当該二次元濃度階調パターン(A)の情報を合成する手段及び合成された二次元濃度階調パターン(A)の情報を昇華型方式により熱転写する手段、を有する記録情報合成手段、
(III)少なくとも基材、非転写性を有する読み取り防止層及び昇華転写性を有する色材層を有する昇華型熱転写リボンを備え、
当該読み取り防止層は、当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)と類似の要素を含む二次元濃度階調撹乱パターン(B)を有し、
当該基材の少なくとも一面側に、当該読み取り防止層を有し、
当該基材の一面側であり、当該基材の読み取り防止層を有する面とは反対側の面、又は、当該読み取り防止層の基材とは反対側の面に、当該色材層を有することを特徴とする。
【0069】
上述した昇華型熱転写方法と同様に、撹乱パターンBを有する読み取り防止層を設けた昇華型熱転写リボンを備えることにより、上記システムを用いて記録を行った後の使用済みのリボンは二次元パターンAの転写跡のみを読み取ることが困難となり、優れた情報漏洩防止機能を有する。
【0070】
(I)の二次元濃度階調パターン(A)及び被転写体は上記昇華型熱転写リボンにおいて説明したのでここでの説明は省略する。
(II)の二次元パターンAの情報を合成する手段は、例えば、デジタル印刷(オンデマンド印刷)で用いられる写真の合成や補正するためのプログラムやその実行を行うCPUやコンピューターである。
合成された二次元濃度階調パターン(A)の情報を昇華型方式により熱転写する手段は、例えば、ローラーとサーマルヘッドを備えた昇華型熱転写プリンターである。
そしてこれらを有する記録情報合成手段とは、例えば、証明写真装置や、上記合成手段であるコンピューターと昇華型熱転写プリンターを併せ持つ複合機(例えば、大日本印刷(株)製:昇華型プリンタ、商品名NL−2000)が挙げられる。
(III)の昇華型熱転写リボンは上記昇華型熱転写リボンにおいて説明したのでここでの説明は省略する。
昇華型熱転写リボンにおける、疑似顔輪郭楕円及び疑似目、及び読み取り防止層及び色材層の透過濃度並びにそれらが満たす式(1)及び(2)も上記昇華型熱転写リボンにおいて説明したものと同様である。
【0071】
(証明写真用昇華型熱転写リボン)
なお、上記本発明に係る昇華型熱転写方法や情報漏洩防止システムで用いる昇華型熱転写リボンの実施形態の他の一例として、証明写真用昇華型熱転写リボンが挙げられる。当該証明写真用昇華型熱転写リボンは、少なくとも基材、非転写性を有する読み取り防止層、及び昇華転写性を有する色材層を有する証明写真用昇華型熱転写リボンであって、
当該基材の少なくとも一面側に、二次元濃度階調パターン(B’)を有する読み取り防止層を有し、
当該基材の一面側であり、当該基材の読み取り防止層を有する面とは反対側の面、又は、当該読み取り防止層の基材とは反対側の面に、当該色材層を有する。
なお、ここで証明写真とは、一般的な顔写真を含む証明写真以外に、運転免許証用途、IDカード用途、パスポート用途、クレジットカード用途の顔写真、その他、本人確認用の顔写真を含む概念である。
【0072】
この証明写真用昇華型熱転写リボン(以下、単に「証明写真用リボン」ということがある。)は、二次元パターンB’を有する非転写性の読み取り防止層を有しているため、使用済みの証明写真用リボンでは読み取り防止層が使用後に証明写真用リボンに残り、使用済みの証明写真用リボンの転写跡と二次元パターンB’とが重なって存在し転写跡と二次元パターンB’が合わさって一つのパターンとして読み取られるため、使用済みの証明写真用リボンから転写跡のみを読み取ることが困難となり、優れた情報漏洩防止の効果を奏する。
【0073】
一般的な証明写真やIDカードに出力される人物の顔画像が楕円短径1.0〜3.0cm及び楕円長径1.5〜5.0cmを有し、アスペクト比(楕円長径/楕円短径)が1.2〜2.0であることから、二次元パターンB’は、これに類似した、楕円短径1.0〜3.0cm及び楕円長径1.5〜5.0cmを有し、アスペクト比(楕円長径/楕円短径)が1.2〜2.0の、証明写真用リボンの疑似輪郭顔楕円を含むことが、使用済みの証明写真用リボンから転写跡のみの読み取り防止性を高める点から好ましい。
同様に一般的な証明写真やIDカードに出力される人物の顔画像に含まれる目の直径は、1〜5mmであることから、二次元パターンB’は、これに類似した、直径が1〜5mmである疑似目を含むことが、使用済みの証明写真用リボンから転写跡のみの読み取り防止性を高める点から好ましい。
また、証明写真用リボンにおいても、同様に、読み取り防止層の透過濃度の最大値D1max、色材層の透過濃度D、証明写真用リボンの疑似輪郭顔楕円の透過濃度Dfave及び証明写真用リボンの疑似目部分の透過濃度Dが、昇華型熱転写リボンにおいて述べた関係を満たすことが、使用済みの証明写真用リボンから転写跡のみの読み取り防止性を高める点から好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0075】
(実施例1)
以下の組成を有する色材層用組成物、読み取り防止層用組成物及び耐熱滑性層用組成物をそれぞれ、調製した。
(シアン色材層用組成物)
・C.I.ソルベントブルー63:3.5質量部
・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業(株)製の商品名エスレックKS−5):3.5質量部
・トルエン:46.5質量部
・メチルエチルケトン:46.5質量部
(シアン読み取り防止層用組成物)
・カヤセットブルー714(分散染料):3.5質量部
・ポリエステル樹脂(東洋紡績(株)の商品名バイロナール MD−1500、固形分比):3.5質量部
・水:46.5質量部
・イソプロピルアルコール:46.5質量部
(耐熱滑性層用組成物)
・ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業(株)製の商品名エスレックBX−1):13.6質量部
・ポリイソシアネート硬化剤(武田薬品工業(株)製の商品名タケネートD218):0.6質量部
・リン酸エステル(第一工業製薬(株)製の商品名プライサーフA208S):0.8質量部
・メチルエチルケトン:42.5質量部
・トルエン:42.5質量部
【0076】
基材として、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレート基材を用意した。
基材の一面側に、調製した上記耐熱滑性層用組成物を、乾燥後の厚さが1.0g/mになるように、グラビアコーターで塗布し100℃で乾燥させ、耐熱滑性層を形成した。
次いで、基材の他方の面側に、調製した上記読み取り防止層用組成物を、撹乱パターンBの柄を有する印刷版を用いてグラビアコーターで塗布し、100℃で乾燥させ、撹乱パターンBを有する読み取り防止層を形成した。乾燥後のD1maxである部分の塗布量は、0.8g/mであった。
次いで、当該読み取り防止層上に調製した上記色材層用組成物を乾燥後の厚さが1.0g/mになるように、グラビアコーターで塗布し100℃で乾燥させ、色材層を形成し、昇華型熱転写リボンを作製した。
図9に実施例1で作製した昇華型熱転写リボンの透過光により観察されたイメージを示す。
また、表1に撹乱パターンBの寸法を示す。
【0077】
(印画方法)
キャノン(株)製の昇華転写型プリンター(商品名SELPHY CP710)を用いて印画を行った。昇華型熱転写リボンとしては、上記SELPHY CP710用の昇華型熱転写リボンのシアン部分に、上記の通りに作製したシアンの昇華型熱転写リボンを貼り込んだものを使用した。また受像紙は、上記SELPHY CP710用の昇華型熱転写受像紙を使用した。
【0078】
(使用済みリボンの読み取り防止性の評価)
上記シアンの昇華型熱転写リボンを貼り込んだ昇華型熱転写リボンを用いて顔画像を印画した後の昇華型熱転写リボンのシアン部分を、蛍光灯の透過光を使用して目視観察し、読み取り防止性を下記基準にて評価した。評価結果を表1に合わせて示す。
○:どのような画像を印画したのか、判別できない
△:顔画像を印画したことは判別できるが、どのような人物かは判別できない。
×:印画した顔画像を判別でき、どのような人物かを判別できる。
【0079】
【表1】

【0080】
(実施例2)
実施例1において、昇華型熱転写リボンの透過光により観察されるイメージを図10に示すように読み取り防止層の撹乱パターンBを変更した以外は実施例1と同様にして、昇華型熱転写リボンを作製した。
実施例1と同様に、顔画像を印画した後の昇華型熱転写リボンの読み取り防止性を評価した。
表1に、実施例2の撹乱パターンBの寸法及び読み取り防止性の評価結果を合わせて示す。
【0081】
(比較例1)
実施例1において、読み取り防止層を濃度階調のない(すなわち撹乱パターンBのない)層に代えて、昇華型熱転写リボンの透過光により観察されるイメージを図11に示すようにした以外は実施例1と同様にして、昇華型熱転写リボンを作製した。
実施例1と同様に、顔画像を印画した後の昇華型熱転写リボンの読み取り防止性を評価した。
表1に、比較例1の読み取り防止性の評価結果を合わせて示す。
【0082】
(結果のまとめ)
実施例1及び2では、読み取り防止性が良好で使用済みのリボンから、どのような人物か判別できなかった。
しかし、撹乱パターンBのないリボンを用いた比較例1では、使用済みのリボンから、どのような人物か判別できてしまった。
【符号の説明】
【0083】
1 昇華型熱転写リボン
2 使用済みの昇華型熱転写リボン
10 基材
20 読み取り防止層
30 色材層
31 熱転写後にイエローを発色可能な色材層
32 熱転写後にマゼンタを発色可能な色材層
33 熱転写後にシアンを発色可能な色材層
34 重ね合わせた色材層
40、41、42 転写跡
50 パターン
60 濃度階調の無い着色層
70 二次元濃度階調撹乱パターンB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)昇華型熱転写により記録され視覚で認知される二次元濃度階調パターン(A)を記録する被転写体を準備する工程、
(ii)少なくとも基材、非転写性を有する読み取り防止層及び昇華転写性を有する色材層を有する昇華型熱転写リボンであって、
当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)に類似の要素を含む二次元濃度階調撹乱パターン(B)を有する読み取り防止層を当該基材の少なくとも一面側に設け、
当該基材の読み取り防止層を設ける面とは反対側の面、又は、当該読み取り防止層の基材とは反対側の面に、当該色材層を設けた、昇華型熱転写リボンを準備する工程、
(iii)当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)の情報を準備する工程、
(iv)当該被転写体に当該昇華型熱転写リボンを用いて、当該二次元濃度階調パターン(A)の情報に基づいて当該二次元濃度階調パターン(A)を昇華型方式により熱転写する工程、を含むことを特徴とする、昇華型熱転写方法。
【請求項2】
前記二次元濃度階調パターン(A)が、楕円短径a及び楕円長径bを有する人物の顔画像を含み、前記二次元濃度階調撹乱パターン(B)に、楕円短径a’及び楕円長径b’を有し、当該a’が0.5a〜1.5aであり、かつ、当該b’が0.5b〜1.5bである疑似顔輪郭楕円が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の昇華型熱転写方法。
【請求項3】
前記人物の顔画像のアスペクト比b/a及び前記疑似顔輪郭楕円のアスペクト比b’/a’が1.2〜2.0であることを特徴とする、請求項2に記載の昇華型熱転写方法。
【請求項4】
前記読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、前記色材層の透過濃度をDとしたとき、当該D1maxが0.8D〜1.2Dであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の昇華型熱転写方法。
【請求項5】
前記疑似顔輪郭楕円に、直径Cがa/15〜a/5である疑似目が含まれることを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の昇華型熱転写方法。
【請求項6】
前記読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、前記疑似顔輪郭楕円部分の透過濃度をDfave、前記疑似目部分の透過濃度をDとしたとき、当該D1max、Dfave及びDは、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする、請求項5に記載の昇華型熱転写方法。
0.5D1max≦Dfave≦0.9D1max・・・式(1)
<Dfave・・・式(2)
【請求項7】
前記Dが、0より大きく、かつ、0.2D1max以下であることを特徴とする、請求項6に記載の昇華型熱転写方法。
【請求項8】
(I)昇華型熱転写により記録され視覚で認知される二次元濃度階調パターン(A)を記録する被転写体、
(II)当該二次元濃度階調パターン(A)の情報を合成する手段、及び合成された二次元濃度階調パターン(A)の情報を昇華型方式により熱転写する手段、を有する記録情報合成手段、
(III)少なくとも基材、非転写性を有する読み取り防止層、及び昇華転写性を有する色材層を有する昇華型熱転写リボンを備え、
当該読み取り防止層は、当該被転写体に記録する二次元濃度階調パターン(A)と類似の要素を含む二次元濃度階調撹乱パターン(B)を有し、
当該基材の少なくとも一面側に、当該読み取り防止層を有し、
当該基材の一面側であり、当該基材の読み取り防止層を有する面とは反対側の面、又は、当該読み取り防止層の基材とは反対側の面に、当該色材層を有することを特徴とする、情報漏洩防止システム。
【請求項9】
前記二次元濃度階調パターン(A)が、楕円短径a及び楕円長径bを有する人物の顔画像を含み、前記二次元濃度階調撹乱パターン(B)に、楕円短径a’及び楕円長径b’を有し、当該a’が0.5a〜1.5aであり、かつ、当該b’が0.5b〜1.5bである疑似顔輪郭楕円が含まれることを特徴とする、請求項8に記載の情報漏洩防止システム。
【請求項10】
前記人物の顔画像のアスペクト比b/a及び前記疑似顔輪郭楕円のアスペクト比b’/a’が1.2〜2.0であることを特徴とする、請求項9に記載の情報漏洩防止システム。
【請求項11】
前記読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、前記色材層の透過濃度をDとしたとき、当該D1maxが0.8D〜1.2Dであることを特徴とする、請求項8乃至10のいずれか一項に記載の情報漏洩防止システム。
【請求項12】
前記疑似顔輪郭楕円に、直径Cがa/15〜a/5である疑似目が含まれることを特徴とする、請求項9乃至11のいずれか一項に記載の情報漏洩防止システム。
【請求項13】
前記読み取り防止層の透過濃度の最大値をD1max、前記疑似顔輪郭楕円部分の透過濃度をDfave、前記疑似目部分の透過濃度をDとしたとき、当該D1max、Dfave及びDは、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする、請求項12に記載の情報漏洩防止システム。
0.5D1max≦Dfave≦0.9D1max・・・式(1)
<Dfave・・・式(2)
【請求項14】
前記Dが、0より大きく、かつ、0.2D1max以下であることを特徴とする、請求項13に記載の情報漏洩防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−212952(P2011−212952A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82673(P2010−82673)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】