説明

昇華性薬剤

【課題】芳香剤、消臭剤、忌避剤、誘引剤、尿石除去剤等の各種の薬剤の有効成分を好適に昇華させることのできる昇華性薬剤を提供することを課題とする。
【解決手段】アダマンタンと、該アダマンタンの昇華に伴って気中に放散される有効成分と、水溶性セルロースエーテル、粉末セルロース、木粉、竹粉、及びシリカの少なくともいずれか一種とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華性薬剤、さらに詳しくは、固体性状で有効成分を昇華によって揮散させることができ、芳香剤、消臭剤、忌避剤、誘引剤、尿石除去剤等として使用される昇華性薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香剤、消臭剤、忌避剤、誘引剤、尿石除去剤等の薬剤としては従来から種々のものが使用されている。これらの薬剤は、有効成分を揮散させる媒体として有機溶剤を用いたものが多い。しかしながら、近年においては、人体に対する影響、環境面の観点等から、各種の技術分野において、有機溶剤の使用を減少しようとする試みがなされており、芳香剤、消臭剤、忌避剤、誘引剤、尿石除去剤等の技術分野においても、そのような要請がある。
【0003】
そこで、昇華性の固体性状のものを芳香剤、消臭剤、忌避剤、誘引剤、尿石除去剤等において有効成分を揮散させる媒体として使用することが考えられる。たとえば防虫剤の技術分野では、従来から、パラジクロルベンゼンやナフタリン等の固形状の昇華性物質が用いられている。そのような技術として、たとえば特許文献1及び2のような特許出願がなされている。しかし、このようなパラジクロルベンゼンやナフタリンも、有害性、環境汚染性等の点で問題とされ、これに代わる昇華性の防虫剤の開発も要請されていた。
【0004】
このような防虫剤のみならず、芳香剤、消臭剤、忌避剤、誘引剤、尿石除去剤等の技術分野においても、昇華性の固体性状のものを媒体とすることの開発が試みられているが、有効成分を好適に昇華させるには、昇華性物質と有効成分との相互関係の調整が必ずしも容易ではなく、従って有効成分を好適に昇華させることが必ずしも容易ではない。このため、芳香剤、消臭剤、忌避剤、誘引剤、尿石除去剤等の分野において、昇華性の薬剤として好適なものが未だに開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2973331号公報
【特許文献2】特開2003−335602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、芳香剤、消臭剤、忌避剤、誘引剤、尿石除去剤等の各種の薬剤の有効成分を好適に昇華させることのできる昇華性薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、アダマンタンと、該アダマンタンの昇華に伴って気中に放散される有効成分と、水溶性セルロースエーテル、粉末セルロース、木粉、竹粉、及びシリカの少なくともいずれか一種とを含有することを特徴とする昇華性薬剤を提供するものである。水溶性セルロースエーテルを含有する場合、その水溶性セルロースエーテルとしては、たとえば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、又はメチルセルロースのようなものが用いられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の昇華性薬剤は、上述のように、アダマンタンと、該アダマンタンの昇華に伴って気中に放散される有効成分と、水溶性セルロースエーテル、粉末セルロース、木粉、竹粉、及びシリカの少なくともいずれか一種とを含有するものであるため、含有成分の1つであるアダマンタンによって固体性状が維持されることとなる。
【0009】
しかも、他の含有成分として水溶性セルロースエーテル、粉末セルロース、木粉、竹粉、及びシリカの少なくともいずれか一種が含有されることで、前記アダマンタンによって固体性状が維持されて得られた固形製剤中に、前記水溶性セルロースエーテル、粉末セルロース、木粉、竹粉、及びシリカの少なくともいずれか一種を介して有効成分が好適に保持されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】試験例1の芳香剤の質量の経時変化を示すグラフ。
【図2】試験例2の芳香剤の質量の経時変化を示すグラフ。
【図3】試験例3の昇華剤の質量の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の昇華性薬剤は、上述のように、アダマンタンと、該アダマンタンの昇華に伴って気中に放散される有効成分と、水溶性セルロースエーテル、粉末セルロース、木粉、竹粉、及びシリカの少なくともいずれか一種とを含有するものである。
【0012】
有効成分としてたとえば香料を含有させることができる。香料の種類は特に限定されるものではなく、たとえばボルネオール、カンファー、L−メントール、マルトール、バニリン、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α−ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテートのようなものを用いることができ、またこれら以外の香料を用いることもできる。
【0013】
さらに、香料に代えて、消臭成分、忌避成分、誘引成分、尿石除去成分を含有させることもできる。
【0014】
上記アダマンタンと有効成分以外の成分として、水溶性セルロースエーテル、粉末セルロース、木粉、竹粉、及びシリカの少なくともいずれか一種が含有される。「少なくともいずれか一種」であるので、水溶性セルロースエーテル、粉末セルロース、木粉、竹粉、シリカは、1種のみならず2種以上のものを用いることができる。これらの成分は、アダマンタンによって固体性状が維持されて得られた固形製剤中に、有効成分を好適に保持させるためのものである。
【0015】
水溶性セルロースエーテルとしては、たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、又はメチルセルロースのようなものが用いられる。より具体的には、メトローズ(商品名:信越化学工業株式会社製)を用いることができる。
【0016】
アダマンタンと、そのアダマンタンによって得られた固形製剤中に有効成分を好適に保持させる成分である水溶性セルロースエーテル等との配合量は特に限定されるものではないが、アダマンタンが50〜85質量%、水溶性セルロースエーテル等が2〜15質量%であることが好ましい。アダマンタンの配合量が50質量%未満であると、成形性が悪くなるおそれがあるからである。またアダマンタンの配合量が85質量%を超えると、昇華性が悪くなるおそれがあるからである。一方、水溶性セルロースエーテル等の配合量が2質量%未満であると、有効成分が固形製剤中に好適に保持されにくくなるおそれがあるからである。また、水溶性セルロースエーテル等の配合量が15質量%を超えると、成形性が悪くなるおそれがあるからである。
【0017】
さらに本発明の昇華性薬剤には、カルボキシメチルセルロース(増粘剤、乳化安定剤)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(乳化剤、増粘安定剤)等を含有させることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0019】
(実施例1)
本実施例は、昇華性薬剤の一例としての芳香剤の実施例であり、その芳香剤の組成は、次のとおりである。
【0020】
成分 配合量(質量%)
アダマンタン 83.3%
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 8.0%
香料(キンモクセイ) 8.7%
【0021】
(比較例1)
比較例として、次の組成からなる芳香剤を調製した。
【0022】
成分 配合量(質量%)
カルボキシメチルセルロース 50.0%
香料(キンモクセイ) 50.0%
【0023】
(比較例2)
また他の比較例として、次の組成からなる芳香剤を調製した。
【0024】
成分 配合量(質量%)
ヒドロキシプロピルセルロース 50.0%
香料(キンモクセイ) 50.0%
【0025】
比較例1の場合には、得られた薬剤にぬめりが生じ、固体性状の薬剤は得られなかった。一方、比較例2の場合には、固化したものが得られたが、昇華性能が得られず、香料を揮散させるような薬剤は得られなかった。
【0026】
これに対して、実施例1では、固体性状で、且つ昇華によって香料を好適に揮散させることができる昇華性薬剤を得ることができた。
【0027】
(試験例1)
ヒドロキシプロピルセルロース(商品名メトローズ:信越化学工業株式会社製)に香料を含浸させたものをアダマンタンに添加し、錠剤状の芳香剤を作成した。香料としては、シトラスとピーチの2種のものを用いた。作成した2種の芳香剤を用いて質量の経時変化を試験した。その結果を図1に示す。
【0028】
図1からも明らかなように、シトラスを含有させた芳香剤は、当初質量が1.4gであったところ、30日経過後には約0.4gに減少し、ピーチを含有させた芳香剤は、当初質量が1.6gであったところ、42日経過後には約0.2gに減少した。また、シトラスを含有させた芳香剤は21日経過後まで芳香を残存させることができ、ピーチを含有させた芳香剤は42日経過後まで芳香を残存させることができた。従って、両者ともに徐放性の芳香剤として使用できることが確認できた。
【0029】
(試験例2)
香料としてキンモクセイとレモンを用い、試験例1と同様にヒドロキシプロピルセルロースに含浸させ、アダマンタンに添加して芳香剤を作成し、質量の経時変化を試験した。その結果を図2に示す。図2からも明らかなように、レモンを含有させた芳香剤は、当初質量が2.0gであったところ、21日経過後には約0.2gに減少し、キンモクセイを含有させた芳香剤は、当初質量が2.0gであったところ、21日経過後には約0.6gに減少した。また、レモンを含有させた芳香剤と、キンモクセイを含有させた芳香剤は、ともに21日経過後まで芳香を残存させることができた。従って、両者ともに徐放性の芳香剤として使用できることが確認できた。
【0030】
(試験例3)
アダマンタンと他の昇華剤との蒸散性の比較を行った。アダマンタン、ナフタリン、ショウノウ、パラジクロルベンゼンの4種の昇華剤を準備し、7日、14日、21日、28日毎に質量を測定し、元の質量に対する比率を求めることによって蒸散量を測定した。その結果を図3に示す。図3において、(A)はショウノウ、(B)はナフタリン、(C)はパラジクロルベンゼン、(D)はアダマンタンのグラフをそれぞれ示す。
【0031】
図3からも明らかなように、パラジクロルベンゼンは25日経過後に100%蒸散した。またショウノウは28日経過後に95%蒸散し、ナフタリンは28日経過後に80%蒸散した。これに対して、28日経過後のアダマンタンの蒸散量は55%であり、他の3種の昇華剤に比べて蒸散量が少なかった。この結果から、試験例1、2のように昇華性の芳香剤を作成する場合、徐放性の芳香剤として使用する観点からは、アダマンタンが最も適していると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アダマンタンと、該アダマンタンの昇華に伴って気中に放散される有効成分と、水溶性セルロースエーテル、粉末セルロース、木粉、竹粉、及びシリカの少なくともいずれか一種とを含有することを特徴とする昇華性薬剤。
【請求項2】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、又はメチルセルロースのいずれかである水溶性セルロースエーテルを含有する請求項1記載の昇華性薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−19922(P2012−19922A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159557(P2010−159557)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(591206142)京都リフレ新薬株式会社 (18)
【Fターム(参考)】