説明

明るさに優れたポリアリーレンスルフィド樹脂及び樹脂製品

【課題】本発明は、熱的性質に優れて明るさが改善されたPAS樹脂を提供する。
【解決手段】本発明はポリアリーレンスルフィド樹脂に関し、より詳しくは固体硫黄100質量部に対して、ヨードアリール化合物500〜10,000質量部;及び硫黄を含有する重合禁止剤0.03〜30質量部含む組成物から製造され、融解温度(Tm)が255〜285℃であり、CIE Lab表色系による明るさが40以上のポリアリーレンスルフィド樹脂に関するものである。ポリアリーレンスルフィド樹脂は硫黄を含有する重合禁止剤を含む組成物から製造されることによって熱的性質に優れて明るさに優れる長所がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂の製造方法及びこれにより製造されるPAS樹脂及び樹脂製品に関し、より詳しくは従来のPASに比べて熱的性質及び明るさが改善されたPAS樹脂及び樹脂製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PAS樹脂は代表的なエンジニアリングプラスチックの一種で、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気絶縁性などの物性に優れた特徴があって、主にコンピュータ付属品、自動車部品、腐食性化学物質が接触する部分のコーティング、産業用耐薬品性繊維などに幅広く使用されている。
【0003】
現在PAS樹脂の中、商業的に販売されているのはポリフェニレンスルフィド樹脂が唯一の物質である。
【0004】
PPS樹脂を製造する代表的な方法としては、二塩化芳香族化合物と硫化物を極性有機溶媒中で重合反応させる下記のマッコラム工程(Macullum process)があり、米国特許第2,513,188号及び第2,583,941号にその基本工程が開示されている。
【0005】
【化1】

前記反応式のように、パラジクロロベンゼン(p−dichlorobenzene)と硫化ナトリウム(sodium sulfide)をN−メチルピロリドン(N−methyl pyrrolidone)等の極性有機溶媒中で重合反応させる方法で、PPS樹脂が生成すると共に、副生成物として塩化ナトリウム(NaCl)が生成する。
【0006】
マッコラム工程により製造されるPPS樹脂は、分子量が10,000〜40,000であり、溶融粘度が3000ポアズ(Poise)以下と低いため、応用範囲が狭く、追加的な後処理工程を経ることになる。つまり、PPS樹脂の溶融粘度を向上させるためにPPS樹脂を融解温度(Tm)以下で加熱することで更に硬化させる(cured)。PPS樹脂の溶融粘度は、硬化工程(curing step)における酸化、架橋(crosslinking)、高分子鎖延長(extension)等によって上昇する。
【0007】
しかし、マッコラム工程によるPPS樹脂の製造方法は次のような短所がある。第一に、硫化ナトリウムなどの硫化物を用いることによって多量の副生成物(金属塩)が生成する。この時に生成される副生成物の量は、硫化ナトリウムのような硫化物を用いる場合に原料質量に対して約52%であるため、副生成物の処理が難しくなると共にPPS樹脂の収率が低くなってしまう。また、副生成物がPPS樹脂内に数ppmから数千ppm残存してPPS樹脂の電気伝導度を上昇させて、機器の腐食や、繊維を紡ぐ際の問題を引き起こしてしまう。第二に、マッコラム工程は溶液重合法を利用するため、生成するPPS樹脂は見かけ密度が低い非常に微細な粉末状となり、それによって運送及び加工工程における不利益を引き起こしてしまう。第三に、PPS樹脂の溶融粘度を上昇させるための硬化工程でPPS樹脂の脆弱性(brittleness)が増加し、衝撃強度などの機械的物性が低下すると共にPPS樹脂の色が暗くなってしまう。
【0008】
このような問題を解決するための多くの提案がされており、そのうち、米国特許第4,746,758号及び第4,786,713号には新たなPPS樹脂を製造するための組成物及び製造方法が記載されている。前記組成物及び製造方法では、二塩化化合物と硫化物を使う代わりにジヨードアリール化合物と固体硫黄(solid sulfur)を、極性溶媒なしに直接加熱して重合させる。
【0009】
前記製造方法はヨウ化工程及び重合工程を含む。前記ヨウ化工程ではアリール化合物(aryl compounds)をヨードと反応させて、ジヨードアリール化合物を得て、続く重合工程で、ニトロ化合物触媒でジヨードアリール化合物を固体状の硫黄と重合反応させてPAS樹脂を製造する。ヨードはこの工程で気体状で発生し、これを回収して再びヨウ化工程に用いられる。実質的にヨードは触媒である。
【0010】
前記製造方法は従来のマッコラム工程の問題を解決することができる。つまり、前記製造方法では副生成物がヨードであると共にこのヨードを簡単に回収することができるためPAS樹脂の電気伝導度を増加させる問題がないと共に、最終製品中のヨードの残存量が非常に少なく、また回収したヨードは再使用ができるため廃棄物の量が減る。また、重合工程で溶媒を使わないため最終樹脂をペレット状に製造でき、このため、微細な粉末に関する問題を避けることができる。
【0011】
前記製造方法によるPAS樹脂はマッコラム工程によるPAS樹脂に比べて分子量が高いため、硬化が不要となる。
【0012】
しかし、前記PAS樹脂製造用組成物及び製造方法には次のような問題がある。第一に、残留するヨード分子は腐食性があるために少量でも最終PAS樹脂内に残留すると加工機器に問題を惹起し、ヨード自らの暗い色によってPAS樹脂の色が暗くなってしまう。第二に、重合工程で固体硫黄を使用するためにPAS樹脂内に含まれるジスルフィド結合が樹脂の熱的性質を低下させてしまう。第三に、ニトロ化合物触媒を使わなければ樹脂は明るくなるが、PAS樹脂内のジスルフィド結合が増加するため、触媒を用いた場合と比べて熱的物性が低下してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような従来の技術の問題を解決するため、本発明の第1の目的は、熱的性質と色(明るさ)が改善されたポリアリーレンスルフィド樹脂を提供することである。
【0014】
本発明の第2の目的は前記ポリアリーレンスルフィド樹脂から製造される樹脂成形品、フィルム、シート、または繊維などの樹脂製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の、これらの、及び他の目的は、下記に記載される本発明の詳細な説明、並びに添付の特許請求の範囲により詳しく理解できる。
【0016】
本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂は、固体硫黄100質量部に対してヨードアリール化合物500〜10,000質量部、硫黄を含有する重合禁止剤0.03〜30質量部を含む組成物から製造され、融解温度(Tm)が255〜285℃であり、CIE Lab表色系による明るさが40以上である。
【0017】
また、本発明は次のステップを含むポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を提供する:
a)固体硫黄100質量部に対してヨードアリール化合物500〜10000質量部、及び硫黄を含有する重合禁止剤0.03〜30質量部を含む組成物を溶融混合するステップ;及び
b)前記a)のステップの溶融混合物を、温度180〜250℃及び圧力50〜450Torr(6.7〜60.0kPa)の初期反応条件から、温度270〜350℃及び圧力0.001〜20Torr(0.00013〜2.7kPa)の最終反応条件まで、温度を上昇させると共に圧力を降下させながら、1〜30時間重合反応させるステップ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂は、固体硫黄100質量部に対して、ヨードアリール化合物500〜10,000質量部、及び硫黄を含有する重合禁止剤0.03〜30質量部を含む組成物から製造され、
融解温度が255〜285℃であり、CIE Lab表色系による明るさが40以上であることを特徴とする。
【0019】
第2の態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記硫黄を含有する重合禁止剤が窒素−炭素−硫黄の順に結合する原子団を有することを特徴とする。
【0020】
第3の態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂は、第2の態様において、前記硫黄を含有する重合禁止剤が、ベンゾチアゾール類(benzothiazole)類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド(benzothiazolesulfenamide)類、チウラム(thiuram)類、及びジチオカバーメイト(dithiocarbamate)類で構成される群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする。
【0021】
第4の態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂は、第3の態様において、前記硫黄を含有する重合禁止剤が、2−メルカプトベンゾチアゾール(2−mercaptobenzothiazole)、2,2'−ジチオビスベンゾチアゾール(2,2'−dithiobisbenzothiazole)、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール2−スルフェンアミド(N−cyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(2−morpholinothiobenzothiazole)、N−ジシクロヘキシルベンゾチアゾール2−スルフェンアミド(N−dicyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、テトラメチルチウラムモノスルフィイド(tetramethylthiuram monosulfide)、テトラメチルチウラムジスルフィド(tetramethylthiuram disulfide)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc dimethyldithiocarbamate)及びジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc diethyldithiocarbamate)で構成される群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする。
【0022】
第5の態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂は、第1の態様において、前記組成物が、更に1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン(1,3−diiodo−4−nitrobenzene、mDINB)、1−ヨード−4−ニトロベンゼン(1−iodo−4−nitrobenzene)、2,6−ジヨード−4−ニトロフェノール(2,6−diiodo−4−nitrophenol)、2,6−ジヨード−4−ニトロアミン(2,6−diiodo−4−nitroamine)で構成された群より選択される少なくとも一種の重合反応触媒を硫黄100質量部に対して0.01〜20質量部含むことを特徴とする。
【0023】
第6の態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、
a)固体硫黄100質量部に対して、ヨードアリール化合物500〜10000質量部、及び硫黄を含有する重合禁止剤0.03〜30質量部を含む組成物を溶融混合するステップ、及び
b)前記a)のステップの溶融混合物を温度180〜250℃及び圧力50〜450Torr(6.7〜60.0kPa)の初期反応条件から、温度270〜350℃及び圧力0.001〜20Torr(0.00013〜2.7kPa)の最終反応条件まで、温度を上昇させると共に圧力を降下させながら、1〜30時間重合反応させるステップを含むことを特徴とする。
【0024】
第7の態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、第6の態様において、前記硫黄を含有する重合禁止剤が、2−メルカプトベンゾチアゾール(2−mercaptobenzothiazole)、2,2'−ジチオビスベンゾチアゾール(2,2'−dithiobisbenzothiazole)、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール2−スルフェンアミド(N−cyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(2−morpholinothiobenzothiazole)、N−ジシクロヘキシルベンゾチアゾール2−スルフェンアミド(N−dicyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、テトラメチルチウラムモノスルフィイド(tetramethylthiuram monosulfide)、テトラメチルチウラムジスルフィド(tetramethylthiuram disulfide)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc dimethyldithiocarbamate)及びジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc diethyldithiocarbamate)で構成される群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする。
【0025】
第8の態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、第6の態様において、前記組成物が、更に1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン(1,3−diiodo−4−nitrobenzene、mDINB)、1−ヨード−4−ニトロベンゼン(1−iodo−4−nitrobenzene)、2,6−ジヨード−4−ニトロフェノール(2,6−diiodo−4−nitrophenol)、及びヨードニトロベンゼンで構成された群より選択される少なくとも一種の重合反応触媒を固体硫黄100質量部に対して0.01〜20質量部含むことを特徴とする。
【0026】
第9の態様に係る樹脂製品は、第1乃至第5のいずれか一の態様におけるポリアリーレンスルフィド樹脂から製造されたことを特徴とする。
【0027】
第10の態様に係る樹脂製品は、第9の態様において、樹脂成形品、フィルム、シート、または繊維であることを特徴とする。
【0028】
第11の態様に係る樹脂製品は、第9の態様において、i)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂30〜99.9質量%と、ii)金属硫化物と二塩化アリール化合物とからマッコラム工程により合成されたポリアリーレンスルフィド樹脂0.1〜70重量%との混合物から製造されたことを特徴とする。
【0029】
第12の態様に係る樹脂製品は、第9の態様において、i)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂30〜99.9重量%と、ii)硫黄とヨードアリール化合物とから合成され、融解温度(Tm)が200℃以上255℃未満、CIE Lab表色系による明るさが40未満のポリアリーレンスルフィド樹脂0.1〜70重量%との混合物から製造されたことを特徴とする。
【0030】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0031】
本発明者らはPAS樹脂の明るさと色の改善方案について研究した過程で、ヨードアリール化合物と固体硫黄を主原料としてPAS樹脂を製造する時、重合触媒であるニトロ化合物がPAS樹脂の色を暗くする主要因であることを確認し、そこで、適正な触媒及び添加剤を設定してPAS樹脂を製造するための組成物に加え、これによりPAS樹脂の他の物性の低下を最少化しながらも、CIE Lab表色系で規定される明るさの改善を達成した。
【0032】
本発明によるPAS樹脂はヨードアリール化合物、固体硫黄、並びに硫黄を含有する重合禁止剤を含有する組成物から製造される。
【0033】
a)のステップで用いられる硫黄化合物及びヨードアリール化合物はその種類が特に限定されず、当業者が適宜選択して用いることができる。
【0034】
望ましくは、硫黄(S)は常温でシクロオクタ硫黄(cycloocta sulfur;S8)として存在するが、前記硫黄化合物は常温で固体又は液体であれば、いかなる形態の硫黄であってよい。
【0035】
また、前記ヨードアリール化合物として、ジヨードベンゼン(diiodo benzene;DIB)、ジヨードナフタレン(diiodo naphthalene)、ジヨードビフェニル(diiodo biphenyl)、ジヨードビスフェノール(diiodo bisphenol)、及びジヨードベンゾフェノン(diiodo benzophenone)で構成された群より選択される少なくとも一種が挙げられる。また、アルキル基(alkyl group)やスルホン基(sulfone group)が結合していたり、酸素や窒素が導入されたりしているヨードアリール化合物の誘導体も使用される。ヨードアリール化合物はそのヨード原子の結合位置によって、異なる異性体(isomer)に分類され、これらの異性体のうちの好ましい例は、p−ジヨードベンゼン(p−diiodobenzene;pDIB)、2,6−ジヨードナフタレン、及びp,p'−ジヨードビフェニルのようにヨードがアリール化合物の分子の両端に対称的に位置する化合物である。
【0036】
前記ヨードアリール化合物の含有量は前記硫黄100質量部に対して500〜10,000質量部である。この量は、ジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0037】
前記硫黄を含有する重合禁止剤の含有量は、前記硫黄100質量部に対して0.03〜30質量部である。つまり、この含有量は、低コストでPAS樹脂の最小限の熱的物性及び明るさ向上効果を得るように決定されることが望ましい。
【0038】
前記重合禁止剤は窒素−炭素−硫黄の順に結合する原子団を有する化合物であるのが望ましい。より望ましくは、前記重合禁止剤として、ベンゾチアゾール(benzothiazole)類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド(benzothiazolesulfenamide)類、チウラム(thiuram)類及びジチオカバーメイト(dithiocarbamate)類で構成される群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0039】
より望ましい前記硫黄を含有する重合禁止剤として、2−メルカプトベンゾチアゾール(2−mercaptobenzothiazole)、2,2'−ジチオビスベンゾチアゾール(2,2'−dithiobisbenzothiazole)、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール2−スルフェンアミド(N−cyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(2−morpholinothiobenzothiazole)、N−ジシクロヘキシルベンゾチアゾール2−スルフェンアミド(N−dicyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(tetramethylthiuram monosulfide)、テトラメチルチウラムジスルフィド(tetramethylthiuram disulfide)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc dimethyldithiocarbamate)及びジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc diethyldithiocarbamate)で構成される群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0040】
前記組成物は重合反応触媒としてニトロ化合物をさらに含む。本発明者らは、前記ニトロ化合物はPAS樹脂の色を暗くさせる主要因であるが、ニトロ化合物の使用量が少量であれば、硫黄を含有する重合禁止剤を使用することにより、同等以上の熱的物性と、明るさの改善とが達成されることを見出した。
【0041】
前記重合反応触媒として、通常的は各種ニトロベンゼン誘導体を用いることができる。望ましくは1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン(1,3−diiodo−4−nitrobenzene、mDINB)、1−ヨード−4−ニトロベンゼン(1−iodo−4−nitrobenzene)、2,6−ジヨード−4−ニトロフェノール(2,6−diiodo−4−nitrophenol)、2,6−ジヨード−4−ニトロアミン(2,6−diiodo−4−nitroamine)で構成された群より選択される重合反応触媒を用いることができる。
【0042】
前記重合反応触媒の含有量は重合反応の向上の程度及び経済性を考慮すると、固体硫黄100質量部に対して0.01〜20質量部である。
【0043】
このa)のステップの組成物を加熱することですべての成分を溶解させ、また均一に混合する。
【0044】
次に、本方法では、b)のステップで、前記a)のステップの溶融混合物を重合反応させる。
【0045】
重合反応の条件は、反応器の構造設計及び生産速度に依存し、当業者に知られているため、特に制限されない。反応条件は、当業者がプロセス条件を考慮して適宜設定することができる。
【0046】
a)のステップの溶融混合物の重合は、温度180〜250℃及び圧力50〜450Torr(6.7〜60.0kPa)の初期反応条件から、温度270〜350℃及び圧力0.001〜20Torr(0.00013〜2.7kPa)の最終反応条件まで、温度を上昇させると共に圧力を降下させながら、1〜30時間進行させる。好ましくは、前記初期反応条件は反応速度を考慮して、温度180℃以上、圧力450Torr(60.0kPa)以下とし、最終反応条件は高分子の熱分解を考慮して、温度350℃以下、圧力20Torr(2.7kPa)以下とする。
【0047】
PAS樹脂はこのような組成物から製造されることによって、熱的物性及びCIE Lab表色系による明るさが優れたものとなる。つまり、前記PAS樹脂は溶融温度(Tm)が255〜285℃、CIE Lab表色系による明るさが40以上であり、より望ましくは溶融温度260〜283℃、明るさが40〜70である。前記明るさは国際標準の国際照明委員会(CIE)による色彩定義に基づいて、ハンターL,a,b(Hunter L,a,b)により計算され、詳しい定義及び規定方法は米国標準試験方法(ASTM)のE308、E1347項目で説明されている。
【0048】
更に他の実施形態において、本発明は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂から製造される樹脂成形品、フィルム、シート、または繊維などの樹脂製品を提供する。
【0049】
前記樹脂製品はi)本発明によるポリアリーレンスルフィド樹脂30〜99.9質量%と、ii)金属硫化物と二塩化アリール化合物とからマッコラム工程により製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂0.1〜70質量%との混合物から製造される。または、前記製品はi)本発明によるポリアリーレンスルフィド樹脂30〜99.9質量%と、ii)硫黄(sulfur)及びヨードアリール化合物から合成され融解温度(Tm)が200以上255℃未満、CIE Lab表色系による明るさが40未満のポリアリーレンスルフィド樹脂0.1〜70質量%との混合物から製造される。
【0050】
この製品は、射出成形法、圧出成形法、その他の成形方法によって製造された樹脂成形品であってよい。樹脂成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロ−成形品が挙げられる。射出成形する場合の成形温度は、結晶化の観点からは30℃以上、より好ましくは60℃以上、最も好ましくは80℃以上とし、試験片の変形の観点からは150℃以下、より好ましくは140℃以下、最も好ましくは130℃以下とする。この樹脂製品は、電気・電子部品、建築部材、自動車部品、機械部品、日用品などとして利用することができる。
【0051】
フィルム、またはシートとしては、未延伸、1軸延伸、2軸延伸のフィルム、又はシートが挙げられる。繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸等が挙げられ、織物や、編物や、スプーンボンド、メルトブルロウ、ステープル等の不織布や、ロープや、ネットとして利用することができる。
【0052】
本発明に係るPAS樹脂に、更にマッコラム工程で得られたPAS樹脂を混合すると、マッコラム工程で得られたPASの速い結晶化特性を利用することができる。或いは、本発明に係るPAS樹脂に、本発明とは異なる製造方法でヨウ化化合物から合成されたPAS樹脂を混合すると、本発明に係るPAS樹脂の速い結晶化特性及び優れた明るさを利用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の理解のために望ましい実施例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明をより明確に表現するための目的で記載したもので、本発明の内容が下記の実施例に限定されるのではない。
【0054】
A.重合触媒を用いないポリアリーレンスルフィド樹脂の製造
[比較例1]
p−ジヨードベンゼン(p−diiodobenzene、pDIB)300.0gと、固体硫黄29.15gとの混合物を180℃に加熱して溶融混合した。
【0055】
前記溶融混合物を、温度220℃及び圧力350Torr(46.7kPa)で1時間;温度230℃及び圧力200Torr(26.7kPa)で2時間;温度250℃及び圧力120Torr(16.0kPa)で1時間;圧力を60Torr(8.0kPa)に下げて1時間;温度を280℃に上げて1時間;圧力を10Torr(1.3kPa)に下げて1時間;温度300℃及び圧力1Torr(0.13kPa)以下で1時間の条件で、総計8時間重合反応させてPAS樹脂を製造した。
【0056】
[実施例1]
混合物中に、硫黄を含有する重合禁止剤としてジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc diethyldithiocarbamate、ZDEC)0.96gをさらに添加したことを除いては比較例1と同じ方法でPAS樹脂を製造した。
【0057】
[実施例2]
混合物中に、硫黄を含有する重合禁止剤として2,2'−ジチオビスベンゾチアゾール(2,2'−dithiobisbenzothiazole、MBTS)0.88gをさらに添加したことを除いては比較例1と同じ方法でPAS樹脂を製造した。
【0058】
[実施例3]
混合物中に、硫黄を含有する重合禁止剤としてMBTS1.10gをさらに添加したことを除いては比較例1と同じ方法でPAS樹脂を製造した。
【0059】
[実験例1]
前記比較例1、及び実施例1乃至3で得られたPAS樹脂に対して各々融解温度(Tm)及び明るさ(luminosity、Col−L)を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0060】
融解温度は示差走査熱量分析器(Differential Scanning Calorimeter、DSC)を利用して測定し、色彩分析(color analysis)では、得られた高分子及び試験片を約100ea/gの粒状にし、170℃で1時間加熱して結晶化し、比色計を用いてCIE Lab表色系による明るさを測定した。前記明るさは国際標準の国際照明委員会(CIE)による色彩定義に基づいて、ハンターL,a,b(Hunter L,a,b)により計算され、詳しい定義及び規定方法は米国標準試験方法(ASTM)のE308、E1347項目で説明されている。
【0061】
【表1】

注:ZDECはジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc diethyldithiocarbamate)であり、MBTSは2,2'−ジチオビスベンゾチアゾール(2,2'−dithiobisbenzothiazole)である。
【0062】
前記表1に示したように、硫黄を含有する重合禁止剤がさらに添加された実施例1乃至3では、比較例1に比べて融解温度が上昇した。
【0063】
B.重合触媒を用いたポリアリーレンスルフィド樹脂の製造
[比較例2乃至3]
混合物に、重合反応触媒として1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン(1,3−diiodo−4−nitrobenzene、mDINB)を各々0.30gまたは1.20gをさらに添加したことを除いては比較例1と同じ方法でPAS樹脂を製造した。
【0064】
[実施例4乃至7]
混合物に、重合反応触媒として1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン(mDINB)0.30g、及び硫黄を含有する重合禁止剤として表2に示す量の2,2'−ジチオビスベンゾチアゾール(MBTS)をさらに添加したことを除いては比較例1と同じ方法でPAS樹脂を製造した。
【0065】
[実験例2]
前記比較例2乃至3、及び実施例4乃至7のPAS樹脂に対して前記実験例1と同じ方法で融解温度(Tm)及び明るさ(Col−L)を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0066】
【表2】

注:ZDECはジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(Zinc diethyldithiocarbamate)であり、MBTSは2,2'−ジチオビスベンゾチアゾール(2,2'−dithiobisbenzothiazole)であり、mDINBは1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン(1,3−diiodo−4−nitrobenzene)である。
【0067】
前記表2に示したように、実施例4乃至7から得られた高分子では、融解温度及び明るさが向上した。
【0068】
一方、比較例1の高分子は、重合反応触媒を添加した比較例2に比べて明るさが高かった。比較例3の結果から、重合反応触媒の添加量が増加するほど融解温度が上昇するが明るさは落ちることが分かる。
【0069】
C.射出成形品の製造
[実施例8]
実施例7のPAS樹脂3kgから、射出機(ENGEL ES75P)を用いて試験片を製造し、ASTMD638に従って引張り特性試験をおこなった。この時、バレル温度は投入口から順次に270℃、300℃、300℃になるようにし、ノズル温度は310℃となるようにした。
【0070】
その結果、引張強度は12,000psi、引張弾性率は810,000psi、破断伸び率は1.4%であり、これはPAS樹脂に要求される物性を満足するものであった。
【0071】
[比較例4]
比較例2のPAS樹脂3kgから、実施例8と同じ方法で試験片を製造した。
【0072】
[比較例5]
市販の、マッコラム工程で得られた代表的なPPSであるライトン(Ryton)樹脂(シェブロン−フィリップス(Chevron−Philips)社製)3kgから、実施例8と同じ方法で試験片を製造した。
【0073】
[実施例9]
実施例7のPAS樹脂2.85kgと比較例2のPAS樹脂0.15kgとのドライブレンドから、実施例8と同じ方法で試験片を製造した。
【0074】
[実施例10]
実施例7のPAS樹脂2.7kgと比較例2のPAS樹脂0.3kgとのドライブレンドから、実施例8と同じ方法で試験片を製造した。
【0075】
[実施例11]
実施例7のPAS樹脂1.5kgと比較例3のPAS樹脂1.5kgとのドライブレンドから、実施例8と同じ方法で試験片を製造した。
【0076】
[実施例12]
実施例7のPAS樹脂2.85kgと比較例5におけるライトン樹脂0.15kgとのドライブレンドから、実施例8と同じ方法で試験片を製造した。
【0077】
[実施例13]
実施例7のPAS樹脂2.7kgとライトン樹脂0.3kgとのドライブレンドから、実施例8と同じ方法で試験片を製造した。
【0078】
[実験例3]
前記比較例4乃至5、及び実施例8乃至13で得られたPAS試験片に対して、前記実験例1と同じ方法で各々融解温度(Tm)及び明るさ(Col−L)を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0079】
【表3】

実施例8、比較例4,5の射出成形品と、ドライブレンドを使用した実施例9乃至11、及び実施例12乃至13とを比較すると、実施例9乃至11では実施例7の高い融解温度がそのまま反映されており、実施例12乃至13では速い結晶化速度と明るさの向上が認められた。
【0080】
以上のように、PAS樹脂が硫黄を含有する重合禁止剤を含む組成物から製造されることによって、このPAS樹脂が熱的性質に優れ、明るさが高いものになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体硫黄100質量部に対して、ヨードアリール化合物500〜10,000質量部、及び硫黄を含有する重合禁止剤0.03〜30質量部を含む組成物から製造され、
融解温度が255〜285℃であり、CIE Lab表色系による明るさが40以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂。
【請求項2】
前記硫黄を含有する重合禁止剤が窒素−炭素−硫黄の順に結合する原子団を有することを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂。
【請求項3】
前記硫黄を含有する重合禁止剤が、ベンゾチアゾール類(benzothiazole)類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド(benzothiazolesulfenamide)類、チウラム(thiuram)類、及びジチオカバーメイト(dithiocarbamate)類で構成される群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂。
【請求項4】
前記硫黄を含有する重合禁止剤が、2−メルカプトベンゾチアゾール(2−mercaptobenzothiazole)、2,2'−ジチオビスベンゾチアゾール(2,2'−dithiobisbenzothiazole)、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール2−スルフェンアミド(N−cyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(2−morpholinothiobenzothiazole)、N−ジシクロヘキシルベンゾチアゾール2−スルフェンアミド(N−dicyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、テトラメチルチウラムモノスルフィイド(tetramethylthiuram monosulfide)、テトラメチルチウラムジスルフィド(tetramethylthiuram disulfide)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc dimethyldithiocarbamate)及びジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc diethyldithiocarbamate)で構成される群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂。
【請求項5】
前記組成物が、更に1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン(1,3−diiodo−4−nitrobenzene、mDINB)、1−ヨード−4−ニトロベンゼン(1−iodo−4−nitrobenzene)、2,6−ジヨード−4−ニトロフェノール(2,6−diiodo−4−nitrophenol)、2,6−ジヨード−4−ニトロアミン(2,6−diiodo−4−nitroamine)で構成された群より選択される少なくとも一種の重合反応触媒を硫黄100質量部に対して0.01〜20質量部含むことを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂。
【請求項6】
請求項1項乃至5のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂から製造されたことを特徴とする樹脂製品。
【請求項7】
樹脂成形品、フィルム、シート、または繊維であることを特徴とする請求項6に記載の樹脂製品。
【請求項8】
i)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂30〜99.9質量%と、ii)金属硫化物と二塩化アリール化合物とからマッコラム工程により合成されたポリアリーレンスルフィド樹脂0.1〜70重量%との混合物から製造されたことを特徴とする請求項6に記載の樹脂製品。
【請求項9】
i)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂30〜99.9重量%と、ii)硫黄とヨードアリール化合物とから合成され、融解温度(Tm)が200℃以上255℃未満、CIE Lab表色系による明るさが40未満のポリアリーレンスルフィド樹脂0.1〜70重量%との混合物から製造されたことを特徴とする請求項6に記載の樹脂製品。

【公開番号】特開2012−233210(P2012−233210A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195771(P2012−195771)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2009−544797(P2009−544797)の分割
【原出願日】平成20年1月4日(2008.1.4)
【出願人】(500116041)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (49)
【Fターム(参考)】