説明

易割繊性アクリル系複合繊維の製造方法

【課題】割繊性に優れたアクリル系複合繊維を工業的に生産する方法を開発する。
【解決手段】アクリロニトリル系ポリマー33質量%以上と、アクリロニトリル系ポリマーと非相溶のポリマー60〜30質量%と、メチルメタクリレート系ポリマー3〜7質量%からなる組成物を湿式法によりアクリル系繊維を製造するに際し、紡糸口金から凝固浴へ吐出せしめる湿式紡糸法において全延伸倍率を1.5〜4.0倍とする易割繊性アクリル系複合繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易割繊性アクリル系複合繊維の経済的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
割繊維或いは紡糸法を工夫することなどによって得られる極細繊維は、衣料用、毛布、カーペットなどのほか、紙や不織布等の原料としても利用され、例えば低圧損でありながら高濾過性能を要するエアーフィルターや電池用セパレーター等の基材繊維としても広く利用されている。このような極細繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどにおいて提案されているが、これらのポリマーは性質上吸湿率が低いという欠点をもっている。またセルロース繊維においても割繊繊維が提案されているが、強度が低く、また耐薬品性が不十分でセパレーター等への利用は困難であるなど用途が制限される。
【0003】
一方、アクリル繊維については、吸湿性、強度、耐薬品性など優れた特性を有し、その極細繊維も提案されているが、極細化する技術的に課題がある。例えば、扁平状構成枝に一端が180°以下で接合された断面形状を有し、且つ、当該構成枝の幅に対して30〜95%となるよう開口又は空孔を有するアクリル系異形断面繊維が開発されている(特許文献1参照)。しかしながら単一成分のポリマーからなる繊維は界面が存在しないことから満遍なく割繊化することが困難であり、繊度がばらついて濾過性能が変わることからフィルターでの適用は適していない。
【0004】
また、アクリロニトリル系ポリマーとウレタンポリマーの2種類のポリマーからサイドバイサイド口金を用いて割繊繊維を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法は、割繊前後で繊度が半分程度にしかならず極細化が不十分であった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−251915号公報
【特許文献2】特開平05−321031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、以上のような実情を鑑み、簡便な製造方法により、割繊性に優れたアクリル系複合繊維を工業的に生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を進めたところ、アクリロニトリル系ポリマーとこれに非相溶性のポリマーとに相溶化剤としてメチルメタクリレート系ポリマーを含有する紡糸原液を湿式紡糸法により特定の延伸倍率に繊維化することにより、易割繊性アクリル系複合繊維を得ることに成功した。
【0008】
すなわち、本発明の第一の要旨は、アクリロニトリル系ポリマー33質量%以上とアクリロニトリル系ポリマーと非相溶のポリマー60〜30質量%とメチルメタクリレート系ポリマー3〜7質量%からなる組成物を湿式法によりアクリル系繊維を製造するに際し、紡糸口金から凝固浴へ吐出せしめる湿式紡糸法において、全延伸倍率を1.5〜4.0倍とする易割繊性アクリル系複合繊維の製造方法にある。
【0009】
また、本発明の第二の要旨は、上記非相溶のポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ乳酸からなる群から選ばれる1種または2種以上のポリマーを用いて易割繊性アクリル系複合繊維を製造方法する方法にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の割繊性アクリル系複合繊維を構成するアクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルを50質量%以上含有するポリマーであり、アクリロニトリルのホモポリマーであっても、またコポリマーであってもよい。アクリロニトリルの含有量が50質量%未満の場合は、割繊性アクリル複合繊維がアクリル繊維としての本来の特性を失ったものとなり好ましくない。また、アクリロニトリル系ポリマーがコポリマーである場合は、アクリロニトリルを50質量%以上含有する範囲で、アクリロニトリルと共重合可能な不飽和モノマーとして、次のモノマーがあげられる。
【0011】
例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のモノマー、さらに染色性改良等の目的の場合p−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩等である。
【0012】
特に本発明におけるアクリロニトリル系ポリマーは割繊繊維或いはそのシート状物が耐熱性、耐薬品性を必要とする用途に用いられる場合は、アクリロニトリルのホモポリマーが好ましい。
また、本発明におけるアクリロニトリル系ポリマーの分子量は、特に限定されないが、5万〜100万の分子量のポリマーが望ましい。分子量が5万未満では、紡糸性が低下すると同時に繊維の糸質も悪化する傾向にあり、他方、分子量が100万を超えると、紡糸原液の最適粘度を与えるポリマー濃度が低くなり、生産性が低下する傾向がある。
【0013】
本発明の易割繊性アクリル複合繊維を構成するアクリロニトリル系ポリマーと非相溶のポリマーは、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ乳酸から選ばれる1種または2種以上のポリマーであって、アクリロニトリル系ポリマーの溶剤であるジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等に溶解し紡糸性がある。
メチルメタクリレート系ポリマーは、アクリロニトリル系ポリマーとアクリロニトリル系ポリマーに非相溶のポリマーの相溶化を進めるポリマーであって、非相溶のポリマー粒子径を最小化することで、紡糸時の凝固浴での糸形成の際にミクロ相分離化を促進して繊維中に筋状相分離構造を形成する。
【0014】
本発明中の割繊性アクリル系複合繊維は、アクリロニトリル系ポリマー33質量%以上と、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ乳酸から選ばれるポリマー60〜30質量%と、メチルメタクリレート系ポリマー3〜7質量%から構成され、筋状相分離構造を有していることを特徴とする。
アクリロニトリル系ポリマーと共存する非相溶ポリマーが30質量%未満では、筋状相分離構造が微小で割繊性が不十分であり、繊維が不均一となるとともに、60質量%を超えると、紡糸時における糸切れが多発し繊維を得ること自体が困難となるだけでなく、アクリル繊維としての繊維物性が著しく損なわれる。またメチルメタクリレート系ポリマーが3質量%未満では、ミクロ相分離化が進まずに十分な極細化を成し得ず、7質量%を超えると、満足な割繊性が得られず、繊維が不均一になるとともに、紡糸時における糸切れが多発する。
【0015】
本発明の割繊性アクリル複合繊維は、例えば次のようにして製造することができる。まず、アクリロニトリル系ポリマーと、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ乳酸から選ばれるポリマー(以下、添加ポリマーという)と、メチルメタクリレート系ポリマー(以下、相溶化剤という)からなる紡糸原液を調整する。アクリロニトリル系ポリマーと添加ポリマーと相溶化剤からなる紡糸原液を調整する方法については溶剤に各ポリマーを投入しスラリーを調整した後に高い剪断をかけながら溶解する方法が望ましい。
【0016】
ニーダーで溶解したり、あるいは各ポリマーを別個に溶剤に溶解した原液をスタティックミキサー等を用いて混合すると、剪断が不十分でポリマーが均一分散されずに、繊維が十分に極細化されない。溶解方法は、例えばホバート型ミキサーやアイリッヒミキサーを使用して、均一に、且つ、ポリマー粒径の平均値が15ミクロン以下になるように、攪拌することが望ましい。
紡糸原液の溶剤としては、アクリロニトリル系ポリマーと添加ポリマーとの共通溶剤であればどの様なものでも用いることができる。かかる溶剤としては、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。紡糸原液は、アクリロニトリル系ポリマー33質量%以上と添加ポリマー60〜30質量%と相溶化剤3〜7質量%の合計ポリマー濃度で好ましくは12〜30質量%に調整する。
【0017】
次に、紡糸方法としては一般的にアクリル繊維の製造に用いられる湿式法、乾湿式法、乾式法のいずれも用いることができるが、紡糸口金より紡糸原液を凝固浴に吐出し凝固させる湿式法が好ましい。紡糸口金の孔形状は丸型であることが望ましい。凝固糸は、引き続き、洗浄、延伸、乾燥の各工程を経ることにより本発明の易割繊性アクリル系複合繊維を得ることができるが、全延伸倍率は1.5〜4.0倍の間に設定される。全延伸倍率を1.5倍以下にすると凝固浴での糸切れが多発し、工程通過性が悪化する。また、全延伸倍率を4.0倍以上にすると、繊維の配向が進み割繊性が悪化する。得られた割繊性アクリル繊維は、必要により任意長にカットすることができる。
【0018】
本発明の割繊性アクリル系複合繊維は、割繊性を有し、叩解処理により容易にフィブリル状に割繊することができ、本発明の割繊性アクリル系複合繊維は、繊維の一部または全部が、繊維径1ミクロン以下に割繊されてなるものである。割繊するための叩解処理には、例えば、各種ミキサー、ウォータージェット、ディスクリファイナー等を用いることができる。この叩解処理は、任意長の短繊維の状態で行ってもよいし、公知の方法により一旦シート状にした後に水洗或いは気流によって行ってもよい。また、シート化の工程の中でも行うことができる。
【0019】
本発明の割繊性アクリル系複合繊維を得る際の叩解の程度は任意にコントロールできるものであり、繊維径1ミクロン以下のフィブリル状の割繊繊維を含む限りにおいて繊維径1ミクロンを超える種々の太さの割繊繊維を含むものとすることができる。また、未割繊の割繊性アクリル繊維と分割された割繊性アクリル繊維が混在していてもよく、またその混在割合も任意であってよい。
【実施例】
【0020】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[参考例]メチルメタクリレート系ポリマーの製造
乳化剤ラムテルE−118Bを24g、ロンガリット7.2g、硫酸第一鉄0.0018gを含む脱イオン水2400gを反応容器に入れ、次いで温度を40℃に保持し十分に窒素置換を行った。これにメタクリル酸メチル(MMA)480g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)120gにシクロヘキサノンパーオキシド9gを溶解した溶液とラテムルE−118Bを含む水溶液600gを別々に90分かけて滴下し、重合を行った。さらに40℃で90分攪拌しながら重合を続行した。次いで第2段目として、得られた乳化液にアクリろニトリル(AN)550g、酢酸ビニル(AV)52gと脱イオン水4200gを加え、温度を70℃に上げて30分かけて滴下し、重合を行った。さらに70℃で180分攪拌しながら重合を続行した。得られた重合液を濾過し、水洗、乾燥することによりメチルメタクリレート系ポリマーを得た。
【0021】
[実施例1]
ホバート型ミキサー中のジメチルアセトアミド800gに、水系懸濁重合法によるアクリロニトリル/酢酸ビニル=91/9(重量比)の組成を有する分子量120000のアクリロニトリル系ポリマー100gと塩化ビニル(信越化学工業(株)製、TK−1000)90gおよび参考例記載のメチルメタクリレート系ポリマー10gを入れ、常温で60分間攪拌した後、液温が80℃になるように温水ジャケットで昇温させて、80℃になってから60分間攪拌した。
次いで得られた紡糸原液を80℃に保ったまま、ギヤポンプを用いてノズル部へ定量供給した。このときノズル直前のドープを採取して、走査型電子顕微鏡で観察したところポリマー粒径の平均値は13ミクロンであった。
【0022】
紡糸原液をノズル口金よりジメチルアセトアミドと水からなる凝固浴に吐出し凝固させる湿式紡糸方法より総延伸倍率が2.0倍になるように紡糸し、単繊維繊度1.7dtex(繊維径14ミクロン)の繊維を得た。
得られた繊維を5mm長にカットし、水を加えて繊維濃度1重量%とした後、ディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製、KRK高濃度ディスクリファイナー:ディスククリアランス0.3mm、回転数5000rpm、)で叩解処理した。得られたスラリーを用い目付90g/m2 で一辺が25cmの正方形に抄紙し、130℃のドラム式乾燥機(ハシマ(株)製、HP−124AP)により接触時間3分間乾燥し、シートを形成した。得られたシートを走査型電子顕微鏡にて観察したところ、割繊された部分の形態はフィブリル状であり、任意に100本選択して測定した繊維径の平均値は0.80ミクロン、繊維径の標準偏差は0.18であった。
【0023】
[実施例2]
ホバート型ミキサー中のジメチルアセトアミド800gに、実施例1で用いたと同じポリマー組成のアクリロニトリル系ポリマー100gとポリフッ化ビニリデン(呉羽化学(株)製、301F)90gと参考例記載のメチルメタクリレート系ポリマー10gを入れた。常温で60分間攪拌した後、液温が80℃になるように温水ジャケットで昇温させて、80℃になってから60分間攪拌した。
次いで得られた紡糸原液を80℃に保ったまま、ギヤポンプを用いてノズル部へ定量供給した。このときノズル直前のドープを採取して、走査型電子顕微鏡で観察したところポリマー粒径の平均値は11ミクロンであった。
【0024】
紡糸原液をノズル口金よりジメチルアセトアミドと水からなる凝固浴に吐出し凝固させる湿式紡糸方法より総延伸倍率が1.8倍になるように紡糸し、単繊維繊度1.9dtex(繊維径14ミクロン)の繊維を得た。
得られた繊維を5mm長にカットし、水を加えて繊維濃度1重量%とした後、ディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製、KRK高濃度ディスクリファイナー:ディスククリアランス0.3mm、回転数5000rpm、)で叩解処理した。得られたスラリーを用い目付90g/m2 で一辺が25cmの正方形に抄紙し、130℃のドラム式乾燥機(ハシマ(株)製、HP−124AP)で接触時間3分間乾燥し、シートを形成した。得られたシートを走査型電子顕微鏡にて観察したところ、割繊された部分の形態はフィブリル状であり、任意に100本選択して測定した繊維径の平均値は0.74ミクロン、繊維径の標準偏差は0.15であった。
【0025】
[実施例3]
ホバート型ミキサー中のジメチルアセトアミド800gに、実施例1で用いたと同じポリマー組成のアクリロニトリル系ポリマー100gとポリ乳酸(三井化学(株)製、H400)90g及びメチルメタクリレート系ポリマー10gを入れた。常温で60分間攪拌した後、液温が80℃になるように温水ジャケットで昇温させて、80℃になってからさらに60分間攪拌した。次いで得られた紡糸原液を80℃に保ったまま、ギヤポンプを用いてノズル部へ定量供給した。このときノズル直前のドープを採取して、走査型電子顕微鏡で観察したところポリマー粒径の平均値は14ミクロンであった。
紡糸原液をノズル口金よりジメチルアセトアミドと水からなる凝固浴に吐出し凝固させる湿式紡糸方法より総延伸倍率が2.0倍になるように紡糸し、単繊維繊度1.7dtex(繊維径14ミクロン)の繊維を得た。
【0026】
得られた繊維を5mm長にカットし、水を加えて繊維濃度1重量%とした後、ディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製、KRK高濃度ディスクリファイナー:ディスククリアランス0.3mm、回転数5000rpm、)で叩解処理した。得られたスラリーを用い目付90g/m2 で一辺が25cmの正方形に抄紙し、130℃のドラム式乾燥機(ハシマ(株)製、HP−124AP)で接触時間3分間乾燥し、シートを形成した。得られたシートを走査型電子顕微鏡にて観察したところ、割繊された部分の形態はフィブリル状であり、任意に100本選択して測定した繊維径の平均値は0.91ミクロン、繊維径の標準偏差は0.19であった。
【0027】
[比較例1]
ホバート型ミキサー中のジメチルアセトアミド800gに、実施例1で用いたと同じポリマー組成のアクリロニトリル系ポリマー100gと塩化ビニル100gを入れた。常温で60分間攪拌した後、液温が80℃になるように温水ジャケットで昇温させて、80℃になってから60分間攪拌した。次いで得られた紡糸原液を80℃に保ったまま、ギヤポンプを用いてノズル部へ定量供給した。このときノズル直前のドープを採取して、走査型電子顕微鏡で観察したところポリマー粒径の平均値は25ミクロンであった。
紡糸原液をノズル口金よりジメチルアセトアミドと水からなる凝固浴に吐出し凝固させる湿式紡糸方法より総延伸倍率が2.0倍になるように紡糸し、単繊維繊度1.7dtex(繊維径14ミクロン)の繊維を得た。
【0028】
得られた繊維を5mm長にカットし、水を加えて繊維濃度1重量%とした後、ディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製、KRK高濃度ディスクリファイナー:ディスククリアランス0.3mm、回転数5000rpm、)で叩解処理した。得られたスラリーを用い目付90g/m2 で一辺が25cmの正方形に抄紙し、130℃のドラム式乾燥機(ハシマ(株)製、HP−124AP)で接触時間3分間乾燥し、シートを形成した。得られたシートを走査型電子顕微鏡にて観察したところ、割繊された部分の形態はフィブリル状であり、任意に100本選択して測定した繊維径の平均値は1.25ミクロン、繊維径の標準偏差は0.22であった。
【0029】
[比較例2]
ホバート型ミキサー中のジメチルアセトアミド800gに、実施例1で用いたと同じポリマー組成のアクリロニトリル系ポリマー100gと塩化ビニル(信越化学工業(株)製、TK−1000)80gと参考例記載のメチルメタクリレート系ポリマー20gを入れた。常温で60分間攪拌した後、液温が80℃になるように温水ジャケットで昇温させて、80℃になってから30分間攪拌した。次いで得られた紡糸原液を80℃に保ったまま、ギヤポンプを用いてノズル部へ定量供給した。このときノズル直前のドープを採取して、走査型電子顕微鏡で観察したところポリマー粒径の平均値は12ミクロンであった。
【0030】
紡糸原液をノズル口金よりジメチルアセトアミドと水からなる凝固浴に吐出し凝固させる湿式紡糸方法より総延伸倍率が2.0倍になるように紡糸し、単繊維繊度1.7dtex(繊維径14ミクロン)の繊維を得た。
得られた繊維を5mm長にカットし、水を加えて繊維濃度1重量%とした後、ディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製、KRK高濃度ディスクリファイナー:ディスククリアランス0.3mm、回転数5000rpm、)で叩解処理した。得られたスラリーを用い目付90g/m2 で一辺が25cmの正方形に抄紙し、130℃のドラム式乾燥機(ハシマ(株)製、HP−124AP)で接触時間3分間乾燥し、シートを形成した。得られたシートを走査型電子顕微鏡にて観察したところ、割繊された部分の形態はフィブリル状であり、任意に100本選択して測定した繊維径の平均値は1.02ミクロン、繊維径の標準偏差は0.36であった。
【0031】
[比較例3]
ホバート型ミキサー中のジメチルアセトアミド800gに、実施例1で用いたと同じポリマー組成のアクリロニトリル系ポリマー100gとポリフッ化ビニリデン(呉羽化学(株)製、301F)90g及び参考例記載のメチルメタクリレート系ポリマー10gを入れた。常温で60分間攪拌した後、液温が80℃になるように温水ジャケットで昇温させて、80℃になってから60分間攪拌した。次いで得られた紡糸原液を80℃に保ったまま、ギヤポンプを用いてノズル部へ定量供給した。このときノズル直前のドープを採取して、走査型電子顕微鏡で観察したところポリマー粒径の平均値は11ミクロンであった。
【0032】
紡糸原液をノズル口金よりジメチルアセトアミドと水からなる凝固浴に吐出し凝固させる湿式紡糸方法より総延伸倍率が4.5倍になるように紡糸し、単繊維繊度0.9dtex(繊維径10ミクロン)の繊維を得た。
得られた繊維を5mm長にカットし、水を加えて繊維濃度1重量%とした後、ディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製、KRK高濃度ディスクリファイナー:ディスククリアランス0.3mm、回転数5000rpm、)で叩解処理した。得られたスラリーを用い目付90g/m2 で一辺が25cmの正方形に抄紙し、130℃のドラム式乾燥機(ハシマ(株)製、HP−124AP)で接触時間3分間乾燥し、シートを形成した。得られたシートを走査型電子顕微鏡にて観察したところ、割繊された部分の形態はフィブリル状であり、任意に100本選択して測定した繊維径の平均値は0.95ミクロン、繊維径の標準偏差は0.26であった。
【0033】
ホバート型ミキサー中のジメチルアセトアミド800gに、実施例1で用いたと同じポリマー組成のアクリロニトリル系ポリマー100gとポリフッ化ビニリデン呉羽化学(株)製、301F)90gとAV10gを入れた。常温で60分間攪拌した後、液温が80℃になるように温水ジャケットで昇温させて、80℃になってから60分間攪拌した。次いで得られた紡糸原液を80℃に保ったまま、ギヤポンプを用いてノズル部へ定量供給した。このときノズル直前のドープを採取して、走査型電子顕微鏡で観察したところポリマー粒径の平均値は23ミクロンであった。
紡糸原液をノズル口金よりジメチルアセトアミドと水からなる凝固浴に吐出し凝固させる湿式紡糸方法より総延伸倍率が2.0倍になるように紡糸し、単繊維繊度0.9dtex(繊維径10ミクロン)の繊維を得た。
【0034】
得られた繊維を5mm長にカットし、水を加えて繊維濃度1重量%とした後、ディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製、製品名:KRK高濃度ディスクリファイナー(ディスククリアランス0.3mm、回転数5000rpm))で叩解処理した。得られたスラリーを用い目付90g/m2 で一辺が25cmの正方形に抄紙し、130℃のドラム式乾燥機(ハシマ(株)製、HP−124AP)で接触時間3分間乾燥し、シートを形成した。得られたシートを走査型電子顕微鏡にて観察したところ、割繊された部分の形態はフィブリル状であり、任意に100本選択して測定した繊維径の平均値は1.28ミクロン、繊維径の標準偏差は0.23であった。
以上、実施例及び比較例において使用したポリマー、その使用割合、得られた繊維の延伸倍率、および割繊後の繊維径の平均値等について、下記表1に纏めて示す。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル系ポリマー33質量%以上と、アクリロニトリル系ポリマーと非相溶のポリマー60〜30質量%と、メチルメタクリレート系ポリマー3〜7質量%からなる混合物を湿式法によりアクリル系繊維を製造するに際し、紡糸口金から凝固浴へ吐出せしめる湿式紡糸法において全延伸倍率を1.5〜4.0倍とすることを特徴とする易割繊性アクリル系複合繊維の製造方法。
【請求項2】
上記非相溶のポリマーが、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ乳酸からなる群から選ばれる1種または2種以上のポリマーである請求項1記載の易割繊性アクリル系複合繊維の製造方法。

【公開番号】特開2009−249779(P2009−249779A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100620(P2008−100620)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】