説明

時間依存性の測定信号を処理する方法とデバイス

モニタリングデバイスは、流体含有システムにおける圧力センサから、時間依存性の測定信号(d(n))を受信するように構成されている。前記流体含有システムは、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している。前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されている。前記モニタリングデバイスは、前記時間依存性の測定信号(d(n))を処理して、前記第1のパルスを除去するように構成されている。このプロセスにおいて、前記モニタリングデバイスは、前記時間依存性の測定信号(d(n))を受信して(201)、前記第1のパルスの予測時間信号のプロファイルである第1のパルスのプロファイル(u(n))を得て(202)、前記第1のパルスのプロファイル(u(n))を使用して、時間領域において前記時間依存性の測定信号(d(n))をフィルタにかけて(203)、前記第1のパルスを本質的に取り除いて、一方で前記第2のパルスを保持する。前記流体含有システムは、体外血流回路と、人間の患者の血液回路とを含み得る。体外血流回路は、例えば、透析装置の一部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的に、流体含有システム(fluid containing system)から得た時間依存性の測定信号を処理することに関し、特に、特定のパルス発生器から生じる圧力パルスを除去するために、このような測定信号をフィルタにかけることに関する。本発明は、例えば体外血液処理のために、流体含有システムに適用することができる。
【背景技術】
【0002】
体外血液処理では、患者から血液を取り出して、体外血流回路によって処理した後で、患者に再び取り込む。通常、血液は、1つ以上のポンプデバイスによって回路を循環させられる。一般に、針又はカテーテルのような1つ以上のアクセスデバイスを、患者の血管アクセスに挿入して、アクセスデバイスを介して、血管アクセスに回路を接続する。このような体外血液処理は、血液透析(hemodialysis)、血液透析濾過(hemodiafiltration)、血液濾過(hemofiltration)、血漿交換(plasmapheresis)、等を含む。
【0003】
US2005/0010118は、体外血流回路中の圧力センサから得た圧力信号に対して、フーリエ変換のような周波数分析を行なうことによって、体外血流回路中の圧力波の中で、患者の心拍によって引き起こされた圧力波の周波数成分を識別することにより、患者の脈拍数と、血圧と、更に、血管アクセスの状態とをモニタリングする技術を提案している。US2005/0010118に記載されているように、体外血流回路中の機械装置によって引き起こされた周波数成分と、心拍によって引き起こされた周波数成分との混合から、関連する周波数成分を抽出するのは、困難な場合がある。特に、心拍の周波数成分は、機械装置の周波数成分と重なる場合がある。この制約を克服するために、US2005/0010118は、例えば、処理の進行中に、血液ポンプの周波数を、基本動作周波数の特定の範囲内で変えることを提案している。体外血流回路中の圧力センサからの圧力信号は、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform, FFT)によって分析される。FFTは、度々変わる周波数の周波数成分の検出に適していない。FFT分析は、血液ポンプによって引き起こされた周波数成分を低減すると言われている。しかしながら、それにも関わらず、体外血流回路中の他の機械装置、例えばバルブによって引き起こされた周期的なイベントが、モニタリングの妨げになる場合がある。更に、処理の進行中に度々変わるポンプ周波数を用いて血液ポンプを動作するのは、望ましくない場合がある。例えば、体外血流回路が透析機の一部である場合に、体外血流回路を通る平均流量が変わらなくても、ポンプ周波数が変わることによって、1回分の透析量が低減することになる。
【0004】
従って、流体における圧力波の中で、患者の心拍を識別する代わりの技術、特に、患者の心拍の周波数が、比較的に弱い状況、及び/又は、他の圧力波の周波数成分と少なくとも部分的に一致する状況、及び/又は、時間と共に変化する状況、に対処するための改善された能力を備えた技術が、要求されている。
【0005】
他の技術分野において、対応する要求が生じる可能性がある。従って、概して、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連する流体含有システムにおいて、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とから生じる信号成分のうち、第2のパルス発生器から生じる信号成分を分離することによって、流体含有システムの機能パラメータをモニタするために、流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理する、改善された技術が要求されている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、先行技術を考慮して、上述で特定された要求の1つ以上を少なくとも部分的に満たすことを目的とする。
【0007】
この目的と、以下の記載から明らかになる他の目的は、独立請求項に従って、方法と、制御デバイスと、コンピュータプログラム製品とによって、少なくとも部分的に達成されている。実施形態は、従属請求項によって定義されている。
【0008】
本発明の第1の態様は、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理する方法であって、前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されており、前記方法は、前記第1のパルスの予測時間信号のプロファイルである第1のパルスのプロファイルを得るステップと、前記第1のパルスのプロファイルを使用して、時間領域において前記時間依存性の測定信号をフィルタにかけて、前記第1のパルスを本質的に取り除いて、一方で前記第2のパルスを保持するステップと、を含む、方法である。
【0009】
1つの実施形態において、前記フィルタにかけるステップは、前記時間依存性の測定信号から前記第1のパルスのプロファイルを減算するサブステップを含み、前記減算するステップは、前記時間依存性の測定信号に対して、前記第1のパルスのプロファイルの位相を調節するサブステップを含み、前記第1のパルス発生器に接続された位相センサから、又は前記第1のパルス発生器に対する制御ユニットから得られる位相情報によって、前記位相は示され得る。
【0010】
1つの実施形態において、第1のパルスのプロファイルは、前記流体含有システムにおける参照測定で得られ、前記参照測定は、少なくとも1つの第1のパルスを発生させるために、前記第1のパルス発生器を動作させるステップと、前記流体含有システムにおける参照圧力センサによって発生された参照信号から、前記第1のパルスのプロファイルを得るステップと、を含む。前記参照測定中に第1のパルスのシーケンスを発生させるように、前記第1のパルス発生器を動作させて、前記参照信号における第1のパルスのセグメントの組を識別して平均することによって、前記第1のパルスのプロファイルを得ることができる。その代わりに又は更に、前記流体含有システムの動作中に、前記参照測定を断続的に行なって、更新された第1のパルスのプロファイルを提供してもよい。その代わりに又は更に、前記圧力センサは、前記参照圧力センサとして使用してもよい。その代わりに又は更に、参照測定中に、前記参照信号が第1のパルスを含み且つ第2のパルスを含まないように、前記流体含有システムを動作させてもよい。その代わりに、前記参照測定は、第1のパルスと第2のパルスとを含んでいる第1の参照信号に基づいて、組み合わされたパルスのプロファイルを得るステップと、第2のパルスを含み且つ第1のパルスを含まない第2の参照信号に基づいて、第2のパルスのプロファイルを得るステップと、前記組み合わされたパルスのプロファイルから前記第2のパルスのプロファイルを減算することによって、前記予測時間信号のプロファイルを得るステップと、を含む。
【0011】
1つの実施形態において、前記得るステップは、所定の信号のプロファイルを得るサブステップを含み、更に、前記得るステップは、前記流体含有システムの1つ以上のシステムパラメータの現在の値に基づいて、数学モデルに従って、前記所定の信号のプロファイルを修正するサブステップを、更に含む。
【0012】
1つの実施形態において、前記方法は、前記流体含有システムの1つ以上のシステムパラメータの現在の値を得るステップ、を更に含み、前記現在値の関数として、前記第1のパルスのプロファイルを得る。
【0013】
1つの実施形態において、前記第1のパルスのプロファイルを得るステップは、前記現在の値に基づいて、参照データベース中の1つ以上の参照プロファイルを識別するサブステップと、1つ以上の前記参照プロファイルに基づいて、前記第1のパルスのプロファイルを得るサブステップと、を含む。前記システムパラメータは、前記流体含有システムにおける第1のパルスのレートを示し得る。前記第1のパルス発生器は、ポンプデバイスを具備し、前記システムパラメータは、前記ポンプデバイスのポンプ周波数を示し得る。前記参照データベース中の各参照プロファイルは、1つ以上の前記システムパラメータのそれぞれの値に対する、前記流体含有システムにおける参照測定によって得ることができる。
【0014】
1つの実施形態において、前記第1のパルスのプロファイルを得るステップは、前記現在の値に基づいて、参照データベースにおけるエネルギ及び位相角のデータの1つ以上の組み合わせを識別するサブステップと、前記エネルギ及び位相角のデータの1つ以上の組み合わせに基づいて、前記第1のパルスのプロファイルを得るサブステップと、を含む。異なる周波数の1組の正弦曲線を組み合わせることによって、前記第1のパルスのプロファイルが得られ、前記エネルギ及び位相角のデータの1つ以上の組み合わせによって、各正弦曲線の位相角と振幅とが与えられ得る。
【0015】
1つの実施形態において、前記第1のパルスのプロファイルを得るステップは、前記流体含有システムの数学モデルに基づいて、前記圧力センサの応答を計算するアルゴリズムに、前記現在の値を入力するサブステップを含む。
【0016】
1つの実施形態において、前記フィルタにかけるステップは、前記時間依存性の測定信号から前記第1のパルスのプロファイルを減算するサブステップを含み、前記減算するサブステップの前に、調節するステップが行なわれ、前記調節するステップにおいて、前記第1のパルスのプロファイルの振幅と、時間のスケールと、位相とのうちの少なくとも1つを、前記時間依存性の測定信号に対して調節する。前記調節するステップは、前記第1のパルスのプロファイルと前記時間依存性の測定信号との差を最小化するサブステップを含み得る。
【0017】
1つの実施形態において、前記フィルタにかけるステップは、適応フィルタへの入力として、前記第1のパルスのプロファイルを供給するサブステップと、前記時間依存性の測定信号と、前記適応フィルタの出力信号との間の誤差信号を計算するサブステップと、前記適応フィルタへの入力として、前記誤差信号を提供するサブステップと、を含み、前記適応フィルタは、前記誤差信号中の前記第1のパルスを本質的に取り除くように構成されている。前記適応フィルタは、前記出力信号を発生するために前記第1のパルスのプロファイルに作用するフィルタ係数を備えた有限インパルス応答フィルタと、前記誤差信号と前記第1のパルスのプロファイルとの関数として、前記フィルタ係数を最適化する適応アルゴリズムと、を含み得る。その代わりに又は更に、前記方法は、前記第2のパルスのレート及び/又は振幅と、制限値との比較に基づいて、前記フィルタ係数をロックするように、前記適応フィルタを制御するステップ、を更に含み得る。
【0018】
1つの実施形態では、前記流体含有システムは、人体における血液系統に接続する体外血流回路を具備し、前記第1のパルス発生器は、前記体外血流回路におけるポンプデバイスを具備し、前記第2のパルス発生器は、人体における生理学的パルス発生器を具備する。前記第2のパルス発生器は、自律神経系によって影響される心臓と、呼吸器系統と、血管運動とのうちの少なくとも1つであり得る。1つの実施形態において、前記体外血流回路は、動脈アクセスデバイスと、血液処理デバイスと、静脈アクセスデバイスとを具備し、人間の血液系統は、血管アクセスを具備し、前記動脈アクセスデバイスは、人間の血液系統に接続されるように構成され、前記静脈アクセスデバイスは、前記血管アクセスに接続されて、流体接続部を形成するように構成され、前記第1のパルス発生器は、前記動脈アクセスデバイスから前記血液処理デバイスを通って前記静脈アクセスデバイスへ血液を送り出すために、前記体外血流回路において構成されているポンプデバイス、を具備し、前記方法は、前記ポンプデバイスの下流に配置された静脈圧センサ、又は前記ポンプデバイスの上流に配置された動脈圧センサの何れかから、前記時間依存性の測定信号を受信するステップを含む。
【0019】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に従う前記方法をコンピュータに行なわせる命令を具備する、コンピュータプログラム製品である。
【0020】
本発明の第3の態様は、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理するデバイスであって、前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されており、前記デバイスは、前記時間依存性の測定信号に対する入力と、前記入力に接続された信号プロセッサと、を具備し、前記信号プロセッサは、前記第1のパルスの予測時間信号のプロファイルである第1のパルスのプロファイルを得て、前記第1のパルスのプロファイルを使用して、時間領域において前記時間依存性の測定信号をフィルタにかけて、前記第1のパルスを本質的に取り除いて、一方で前記第2のパルスを保持するように構成されている、デバイスである。
【0021】
本発明の第4の態様は、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理するデバイスであって、前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されており、前記デバイスは、前記時間依存性の測定信号を受信する手段と、前記第1のパルスの予測時間信号のプロファイルである第1のパルスのプロファイルを得る手段と、前記第1のパルスのプロファイルを使用して、時間領域において前記時間依存性の測定信号をフィルタにかけて、前記第1のパルスを本質的に取り除いて、一方で前記第2のパルスを保持する手段と、を具備する、デバイスである。
【0022】
第5の態様は、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理する方法であって、前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されており、前記方法は、前記時間依存性の測定信号を受信するステップと、前記第1のパルスの標準信号のプロファイルを得るステップと、時間領域において、前記時間依存性の測定信号から前記標準信号のプロファイルを減算するステップと、を含み、前記標準信号のプロファイルは、前記第1のパルスが本質的に取り除かれて且つ前記第2のパルスが保持されている、振幅と位相とを有する、方法である。
【0023】
第6の態様は、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理するデバイスであって、前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されており、前記デバイスは、前記時間依存性の測定信号に対する入力と、前記入力に接続された信号プロセッサと、を具備し、前記信号プロセッサは、前記第1のパルスの標準信号のプロファイルを得て、時間領域において前記時間依存性の測定信号から前記標準信号のプロファイルを減算するように構成されている、処理モジュール、を具備し、前記標準信号のプロファイルは、前記第1のパルスが本質的に取り除かれて且つ前記第2のパルスが保持されている、振幅と位相とを有する、デバイスである。
【0024】
前記第3乃至第6の態様の実施形態は、第1の態様の上述で特定された実施形態に対応し得る。
【0025】
以下の詳細な説明と、請求項と、図面とから、本発明の更に他の目的と、特徴と、態様と、効果とが明らかになるであろう。
【0026】
ここで、添付の概略図を参照して、本発明の例示的な実施形態を更に詳しく記載する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】圧力信号をフィルタにかけるために本発明のデータ処理を使用できる、一般的な流体含有システムの概略図である。
【図2】本発明の実施形態に従った、モニタリングプロセスのフローチャートである。
【図3】(a)は、時間の関数としての圧力信号のプロットであり、(b)は、フィルタにかけた後の圧力信号のプロットである。
【図4】体外血流回路を具備している血液透析治療システムの概要図である。
【図5】(a)は、ポンプ周波数成分と心臓の信号との両者を含んでいる静脈圧信号の時間領域におけるプロットであり、(b)は、周波数領域における対応する信号のプロットである。
【図6】図4のシステムにおける蠕動ポンプから生じる予測信号のプロファイルのプロットである。
【図7】予測信号のプロファイルを得るプロセスのフローチャートである。
【図8】予測信号のプロファイルを生成する外挿プロセスを示すプロットである。
【図9(a)】予測信号のプロファイルを生成する内挿プロセスを示すプロットである。
【図9(b)】図9(a)の拡大図である。
【図10(a)】1つの流量でポンプデバイスから生じる圧力パルスの周波数スペクトルを表わす。
【図10(b)】各周波数スペクトルを対数目盛で与えて高調波の次数にマップした、3つの異なる流量に対する対応する周波数スペクトルを表わす。
【図10(c)】線形目盛における図10(b)のデータのプロットである。
【図10(d)】図10(a)における周波数スペクトルに対応する位相角スペクトルである。
【図11】予測信号のプロファイルに基づいて、測定信号をフィルタにかけるように動作可能な適応フィルタ構造の概要図である。
【図12(a)】静脈圧センサから得られる、フィルタにかけられた圧力信号(上側)と、対応する心臓の信号(下側)とを示している。
【図12(b)】動脈圧センサ得られる、フィルタにかけられた圧力信号(上側)と、対応する心臓の信号(下側)とを示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、流体含有システムに関する本発明の例示的な実施形態を、概略において記載する。その後で、体外血液処理システムに関連する本発明の実施形態と実施とを更に例示する。
【0029】
後述を通じて、同様の要素は同じ参照符号によって示されている。
【0030】
概略
図1は、流体含有システムを示している。流体含有システムにおいて、第1の流体含有サブシステムS1と、第2の流体含有サブシステムS2との間に、流体接続部Cが設置されている。流体接続部Cは、一方のサブシステムから他方のサブシステムに流体を送る場合、又は送らない場合がある。第1のパルス発生器3は、第1のサブシステムS1内の流体において一連の圧力波を発生させるように構成されている。第2のパルス発生器3’は、第2のサブシステムS2内の流体において一連の圧力波を発生させるように構成されている。圧力センサ4aは、第1のサブシステムS1における液圧を測定するように構成されている。第2のパルス発生器3’によって発生された圧力波は、第2のサブシステムS2から第1のサブシステムS1に接続部Cを介して伝わる。従って、第1のパルス発生器3から生じる第1のパルスに加えて、第2のパルス発生器3’から生じる第2のパルスが、圧力センサ4aによって検出される。第1のパルス発生器3と第2のパルス発生器3’とのうちの何れか一方が、2つ以上のパルス発生デバイスを含んでいてもよいことに留意すべきである。更に、任意のこのようなパルス発生デバイスは、それぞれのサブシステムS1、S2の一部である場合、又は一部でない場合がある。
【0031】
図1に示されているように、図1のシステムは、監視デバイス25を更に含み、監視デバイス25は、圧力センサ4aと、場合によっては1つ以上の追加の圧力センサ4b、4cとに接続されている。従って、監視デバイス25は、1つ以上の圧力信号を取得する。圧力信号は、時間に依存して、第1のサブシステムS1における液圧をリアルタイムで表わす。
【0032】
一般に、監視デバイス25は、圧力信号のうちの1つにおける、1つ以上の第2のパルスを分離して分析することによって、流体含有システムの機能状態又は機能パラメータをモニタするように構成されている。後述で更に例示されるように、機能状態又はパラメータをモニタして、例えば、第1又は第2のサブシステムS1、S2、第2のパルス発生器3’、或いは流体接続部Cにおける、故障状態を識別することができる。故障状態を識別すると、監視デバイス25は、適切な処置をとるように、アラーム又は警報信号を発して、並びに/或いは、第1又は第2のサブシステムS1、S2の制御システムに知らせることができる。その代わりに又は更に、監視デバイス25は、時系列の機能状態又はパラメータの値を記録又は出力するように構成され得る。
【0033】
監視デバイス25は、圧力信号を受信して処理するために、ディジタルコンポーネント、アナログコンポーネント、又はこれらの組み合わせを、実施に応じて使用し得る。従って、本発明の様々な実施形態によると、デバイス25は、圧力信号を取得して処理する適切なハードウェアを備えた、コンピュータ又は同様のデータ処理デバイスであり得る。本発明の実施形態は、例えば、ソフトウェアの命令によって実施され得る。ソフトウェアの命令は、コンピュータ読出し可能媒体に供給されていて、コンピュータ中のメモリユニット25bに接続されたプロセッサ25aによって実行される。
【0034】
一般に、監視デバイス25は、任意の第2のパルスを分離するために、時間依存性の圧力信号を処理し続けるように構成されている。この処理は、図2のフローチャートに概略的に示されている。示されている処理は、第1のパルスのプロファイルu(n)を得るステップ201を含む。第1のパルスのプロファイルu(n)は、第1のパルスの予測時間信号のプロファイルである。更に、示されている処理は、第1のパルスのプロファイルu(n)を使用して、時間領域において、圧力信号d(n)又は前処理された圧力信号をフィルタにかけて、d(n)に含まれている第1のパルスを本質的に取り除く又は取り消して、一方で第2のパルスを保持するステップ202を含む。本開示に関連して、nは、サンプル番号を示しており、従って、時間依存性の信号における(相対的)時間点に相当する。次に、ステップ203において、上述の機能状態又はパラメータをモニタリングするために、結果として得られたフィルタにかけられた信号e(n)を分析する。
【0035】
第1のパルスのプロファイルは、形状テンプレート又は標準信号のプロファイルであって、一般に、時系列のデータ値として与えられ、時間領域における第1のパルスの形状を反映している。更に、以下の記載において、第1のパルスのプロファイルは、「予測信号のプロファイル」として示されている。
【0036】
「本質的に取り除く」は、上述の機能状態又はパラメータをモニタリングするために、第2のパルスを検出して分析できる程度になるまで、圧力信号から第1のパルスを除去することを意味する。
【0037】
第1のパルスのプロファイルを使用して、時間領域において圧力信号をフィルタにかけることによって、第1のパルスと第2のパルスとが周波数領域において重なっているか又はほぼ重なっていても、第1のパルスを本質的に取り除いて、それにも関わらず、第2のパルスを保持することができる。例えば、第1のパルスと第2のパルスとのうちの一方又は両方が、周波数範囲又は周波数の組み合わせから構成されている場合に、周波数がこのように重なる可能性は低い。
【0038】
更に、第1のパルス又は第2のパルスの周波数と、振幅と、位相成分は、時間と共に変動し得る。このような変動は、第1及び/又は第2のパルス発生器3、3’をアクティブに制御した結果であり得るか、第1及び/又は第2のパルス発生器3、3’におけるドリフトによって引き起こされ得るか、或いは、サブシステムS1、S2又は流体接続部Cの流体力学特性が変わることによって引き起こされ得る。例えば、第2のパルス発生器3’が人間の心臓であって、従って、第2のサブシステムS2が人間の血液系統である場合に、周波数の変動が生じる場合がある。落ち着いた状態の健康な被験者において、心調律(heart rhythm)の変動(心拍変動(heart rate variability, HRV)は、15%の大きさであり得る。不健康な被験者は、深刻な心臓病を患っているかもしれない。例えば、心房細動(atrial fibrillation)と上室異所性拍動(supraventricular ectopic beating)は、20%を超えるHRVをもたらす場合があり、心室異所拍動(ventricular ectopic beating)の場合は、HRVは60%を超え得る。これらの心臓病は、例えば透析患者の間では珍しくない。
【0039】
周波数領域における従来のフィルタリングによって、例えば、一般に縦続接続されている、帯域消去フィルタ又はノッチフィルタの組み合わせ、並びに/或いは櫛形フィルタを、圧力信号に対して実行して、第1のパルス発生器3から生じる全ての周波数成分を遮ることによって、圧力信号中の第2のパルスを分離することは、任意の周波数が重なっている場合は、不可能又は少なくとも困難であり得る。更に、周波数の重なりは時間と共に変化し得るので、周波数が変動すると、圧力信号中の第2のパルスを適切に分離するのは更に難しくなる。周波数の重なりがなくても、周波数が変動すると、周波数領域においてフィルタを定義するのは困難になる。
【0040】
第1のパルスのプロファイルが圧力信号中の第1のパルスをどのくらいよく表わしているかに応じて、周波数において、第1のパルスと第2のパルスとが重なっていても、且つ振幅において、第2のパルスが第1のパルスよりも非常に小さくても、時間領域における本発明のフィルタリングによって、第2のパルスを分離することができる。
【0041】
更に、時間領域における本発明のフィルタリングは、周波数領域におけるフィルタリングプロセスよりも、圧力信号中の第2のパルスをより迅速に分離できる。前者は、圧力信号中の1つの第2のパルスを分離する能力を有し得る。一方で、後者は、圧力信号中の第1と第2のパルスのシーケンスに対して動作する必要があり得る。従って、本発明のフィルタリングは、流体含有システムの機能状態又は機能パラメータをより迅速に決定できる。
【0042】
本発明のフィルタリングの効果は、図3に例示されている。図3(a)は、時間依存性の圧力信号d(n)の一例を示している。時間依存性の圧力信号d(n)は、第1のパルスと第2パルスとを、10:1の相対的な大きさで含んでいる。第1のパルスと第2のパルスは、1Hzの周波数と1.33Hzの周波数とをそれぞれ有する。大きさに差があるので、圧力信号は、第1のパルスによって支配されている。図3(b)は、時間依存性のフィルタにかけられた信号e(n)を示している。これは、本発明のフィルタリング技術を圧力信号d(n)に適用した後で得られる。フィルタにかけられた信号e(n)は、第2のパルスと雑音とから構成されている。約4秒後に、第2のパルスがなくなっていることに留意すべきである。これは、監視デバイス(図1の25)によって観測され、流体含有システムの故障状態として識別され得る。
【0043】
図2に戻って、本発明のデータ処理は、2つの主要なステップを含んでいる。即ち、第1のパルスのプロファイルu(n)を決定すること(ステップ201)と、第1のパルスのプロファイルu(n)を使用して、測定信号d(n)から、1つ以上の第1のパルスを除去すること(ステップ202)である。
【0044】
これらの主要なステップを実施するには、多くのやり方がある。例えば、参照測定において、第1のサブシステムS1中の圧力センサ4a−4cのうちの1つ以上からの測定信号に基づいて、測定信号中の第1のパルスのセグメントの組を適切に識別して、場合によっては平均することによって、第1のパルスのプロファイル(標準信号のプロファイル)を得ることができる。上述の機能状態又はパラメータの実際のモニタリング中に、第1のパルスのプロファイルを断続的に更新してもよく、又は更新しなくてもよい。その代わりに、所定の(即ち、予め定められた)標準信号のプロファイルを使用してもよい。所定の標準信号のプロファイルは、オプションで、第1のパルス発生器の磨耗、流体の流量、チューブの寸法、流体中の音速、等を考慮して、数学モデルに従って、修正してもよい。更に、除去には、適切な振幅と位相において、測定信号から第1のパルスのプロファイルを減算することが必要であり得る。第1のパルス発生器3に接続された位相センサによって発生された信号から、又は第1のパルス発生器3に対する制御信号から得ることができる位相情報によって、位相を示すことができる。
【0045】
更に、本発明のフィルタリングと、他のフィルタリング技術とを組み合わせて、フィルタにかけられた信号e(n)の品質を一層改善することができる。1つの実施形態では、フィルタにかけられた信号e(n)は、第2のパルスに対する関連する周波数範囲における通過帯域で、帯域通過フィルタに通されることができる。第2のパルスが人間の心臓から生じる場合に、通過帯域を約0.5−4Hzの範囲内に特定してもよい。約0.5−4Hzの範囲は、1分間に30−240ビートの心拍数に対応する。別の実施形態では、第2のパルスの(1又は複数の)現在の周波数範囲が分かっている場合に、帯域通過フィルタの通過帯域を、現在の周波数範囲を囲む狭い範囲にアクティブに制御することができる。例えば、第1と第2パルスのレートが、例えば約10%といった特定の制限値よりも大きく異なっていることが分かったときに必ず、このようなアクティブな制御を適用してもよい。第1のパルス発生器3を断続的に止めるか、又は関連する圧力センサ4a−4cに第1のパルスが到達するのを断続的に妨げることによって、圧力信号から現在の周波数範囲を得てもよい。その代わりに、第1又は第2のサブシステムS1、S2の何れかにおける専用のセンサから、或いは第2のパルス発生器3’に対する制御ユニット(示されていない)に基づいて、現在の周波数範囲を得てもよい。更に別のやり方によると、患者別の情報、即ち、患者の既存のデータ記録、例えば、同じ患者の以前の治療で得られたデータ記録に、少なくとも部分的に基づいて、通過帯域の位置及び/又は幅を設定してもよい。監視デバイス(図1の25)の内部メモリ、監視デバイスがアクセスできる外部メモリ、又は患者カードに、患者別の情報を記憶してもよい。例えば、情報は、例えば無線周波数による識別(Radio Frequency IDentification, RFID)によって、監視デバイスに無線で送信される。
【0046】
体外血液処理システムの関連の中で、これらの実施形態と他の実施形態とを更に詳しく以下に記載する。以下の説明を容易にするために、最初に、典型的な体外血流回路の詳細を記載する。
【0047】
体外血流回路におけるモニタリング
図4は、透析に使用されるタイプの体外血流回路20の一例を示している。体外血流回路20(「体外回路」とも示される)は、コンポーネント1−14を具備する。コンポーネント1−14については、後述する。従って、図4に示されているように、体外回路20は、動脈針1の形態の、血液を抽出するためのアクセスデバイスと、動脈チューブセグメント2とを具備し、動脈チューブセグメント2は動脈針1を血液ポンプ3に接続し、血液ポンプ3は蠕動型であり得る。ポンプの入り口には、圧力センサ4b(以下、「動脈センサ」と称する)がある。圧力センサ4bは、動脈チューブセグメント2におけるポンプの前の圧力を測定する。血液ポンプ3は、血液を、チューブセグメント5を介して、透析装置6の血液側に送る。多くの透析機は、圧力センサ4c(以下、「システムセンサ」と称する)を更に備えている。圧力センサ4cは、血液ポンプ3と透析装置6との間の圧力を測定する。血液は、透析装置6の血液側から、チューブセグメント10を介して、静脈点滴チャンバ(venous drip chamber)又は脱気チャンバ(deaeration chamber)11へ、更にそこから、静脈チューブセグメント12と、静脈針14の形態の、血液を再び取り込むためのアクセスデバイスとを介して、患者に戻すように導かれる。透析装置6の静脈側で圧力を測定するために、圧力センサ4a(以下、「静脈センサ」と称する)が備えられている。示されている例において、圧力センサ4aは、静脈点滴チャンバにおける圧力を測定する。動脈針1と静脈針14との両者は、血管アクセスによって患者に接続される。血管アクセスは、例えば、フィステル、スクリブナーシャント、グラフト、等の任意の適切なタイプであり得る。血管アクセスのタイプによって、針の代わりに、他のタイプのアクセスデバイス、例えばカテーテルが使用され得る。その代わりに、アクセスデバイス1、14を、単一のユニットに組み合わせてもよい。
【0048】
図1の流体含有システムに関して、体外回路20は、第1のサブシステムS1に対応し、血液ポンプ3(更に、体外回路20内の又は体外回路20に関連付けられた任意の別のパルス源、例えば、透析液ポンプ、バルブ、等)は、第1のパルス発生器3に対応し、患者の血液系統は、第2のサブシステムS2に対応し、流体接続部Cは、患者と体外回路20との間の静脈側の流体接続部と動脈側の流体接続部との少なくとも一方に対応する。
【0049】
図4において、特に、血液ポンプ3の回転速度を制御することによって体外回路20における血流を制御するために、制御ユニット23が備えられている。体外回路20と制御ユニット23は、透析機のような体外血液処理装置の一部を形成し得る。更に説明することも、示すこともしないが、このような装置は、多くの他の機能を行なうことが分かるであろう。他の機能は、例えば、透析液の流量の制御、透析液の温度と構成物の制御、等である。
【0050】
更に、図4のシステムは、監視/モニタリングデバイス25を含んでいる。監視/モニタリングデバイス25は、圧力センサ4a−4cのうちの少なくとも1つから圧力信号を受信するように接続され、本発明のデータ処理を実行する。図4の例では、監視デバイス25は、制御ユニット23に更に接続されている。その代わりに又は更に、デバイス25は、血液ポンプ3の回転速度及び/又は位相を示すポンプセンサ26に接続され得る。監視デバイス25は、別のデータのための入力を含み得ることが分かるであろう。別のデータは、例えば、全体的なシステムの状態を表す任意の他のシステムパラメータである(例えば、後述の図7に関する説明を参照)。デバイス25は、聴覚/視覚/触覚によるアラーム又は警報信号を発生するローカル又は遠隔のデバイス27につながれる又は無線で接続される。その代わりに又は更に、何れかのデバイス25、27は、分析ステップ(図2の203)の結果として得られた機能状態又はパラメータ、並びに/或いは、フィルタにかけるステップ(図2の202)の結果として得られた、フィルタにかけられた信号e(n)を表示するために、例えば視覚検査のために、ディスプレイ又はモニタを含み得る。
【0051】
図4において、監視デバイス25は、入力信号を前処理するデータ収集部分28を具備している。データ収集部分28は、例えば、要求最低サンプリングレートと解像度とに関するA/Dコンバータと、1つ以上の信号増幅器と、入力信号の望ましくない成分を除去する1つ以上のフィルタとを含む。望ましくない成分は、オフセットと、高周波雑音と、電源電圧障害である。
【0052】
データ収集部分28における前処理の後で、前処理された圧力信号は、主データ処理部分29に入力として提供される。主データ処理部分29は、本発明のデータ処理を実行する。図5(a)は、時間領域におけるこのような前処理された圧力信号の一例を示し、図5(b)は、対応するパワースペクトル、即ち、周波数領域における前処理された圧力信号を示している。パワースペクトルは、検出された圧力信号が、血液ポンプ3から発生する幾つかの異なる周波数成分を含んでいることを明らかにしている。示されている例では、血液ポンプの基本周波数(f)(この例では、1.5Hz)と、その高調波2f、3f、4fとに、周波数成分がある。基本周波数は、後述でポンプ周波数として示されており、体外回路20において圧力波を発生するポンプストロークの周波数である。例えば、図4に示されているタイプの蠕動ポンプでは、回転子3aのフル回転ごとに、2回のポンプストロークが発生する。更に、図5(b)は、半分のポンプ周波数(0.5f)と、その高調波、この例では、少なくとも、f、1.5f、2f、2.5fとに、周波数成分が存在していることを示している。更に、図5(b)は、(1.1Hzにおける)心臓の信号を示している。この例では、心臓の信号は、基本周波数fにおける血液ポンプ信号の約40分の1の強さである。
【0053】
主データ処理部分29は、上述のステップ201−203を実行する。ステップ202において、主データ処理部分29は、時間領域において、前処理された圧力信号をフィルタにかけるように動作して、フィルタにかけられた信号又はモニタリング信号(図2のe(n))を出力する。フィルタにかけられた信号又はモニタリング信号において、血液ポンプ3の信号成分は除去されている。モニタリング信号は、患者から生じる任意の信号成分を含んだままである(図3(b)を参照)。任意の信号成分は、例えば、患者の心拍によって引き起こされた圧力パルスである。患者の血流において圧力パルスを発生し得る周期的な生理学的現象に対する源は幾つかあり、例えば、心臓、呼吸器系統、又は血管運動であって、自律神経系によって制御されている。従って、モニタリング信号は、患者における周期的な現象の組み合わせから生じる圧力パルスを含み得る。一般に、モニタリング信号中の信号成分は、患者における任意のタイプの生理学的現象又はその組み合わせから生じ得る。それは周期的又は非周期的、反復的又は非反復的、自律的又は非自律的である。
【0054】
実施に応じて、監視デバイス25は、モニタリング信号を更にフィルタにかけて、患者における1回の周期的現象から生じる信号成分を分離するように構成され得る。その代わりに、(データ収集部分28による)圧力信号の前処理中に、このような信号成分のフィルタリングが行なわれる。通常は、患者における異なる周期的現象の信号成分は、周波数領域において分かれているので、例えば、遮断フィルタ又は帯域通過フィルタを適用することによって、周波数領域において信号成分のフィルタリングが行なわれ得る。一般に、心臓の周波数は、約0.5−4Hzであり、呼吸の周波数は、約0.15−0.4Hzであり、血圧を調節する自律系の周波数は、約0.04−0.14Hzであり、体温を調節する自律系の周波数は、約0.04Hzである。
【0055】
監視デバイス25は、モニタリング信号において呼吸パルスを識別することによって患者の呼吸パターンをモニタするように構成され得る。結果として得られた情報は、無呼吸、過呼吸、低換気、喘息の発作、又は患者の他の不規則な呼吸動作をオンラインで監視するために使用され得る。更に、結果として得られた情報は、咳、くしゃみ、嘔吐、又は発作を識別するために使用され得る。咳/くしゃみ/嘔吐/発作から生じる震えは、患者又は体外回路20に接続された他の測定又は監視設備の邪魔になり得る。任意の咳/くしゃみ/嘔吐/発作のタイミングに関する情報を出力するように、監視デバイス25を構成することができ、従って、他の測定又は監視設備は、咳/くしゃみ/嘔吐/発作が誤った測定又は誤報をもたらす確率を低減するように、適切な処置をとることができる。更に、咳/くしゃみ/嘔吐/発作を識別する能力が、それ自身医学的関心を有し得るのは、当然である。
【0056】
監視デバイス25は、モニタリング信号において心拍を識別することによって、患者の心拍数をモニタするように構成され得る。
【0057】
監視デバイス25は、例えば、後の傾向又は統計分析のために、心拍数、呼吸パターン、等の時間の経過に関するデータを集めて記憶するように構成され得る。
【0058】
監視デバイス25は、患者と体外回路20との流体接続部、特に、(アクセスデバイス14を介しての)静脈側の流体接続部の完全性をモニタするように構成され得る。例えば、モニタリング信号中の、患者の心臓又は呼吸器系統から生じる信号成分の存在をモニタすることによって、これを行なうことができる。このような信号成分が無い場合は、流体接続部Cの完全性に障害があることを示していると見なすことができ、デバイス25にアラームを作動させる、及び/又は、例えば、血液ポンプ3を止めて、チューブセグメント12に対してクランプデバイス13を作動することによって、血流を止めることができる。静脈側の流体接続部の完全性をモニタすることは、静脈針のモニタリング(Venous Needle Monitoring, VNM)としても知られている。VNMのために、監視デバイス25は、静脈センサ4aからの圧力信号に基づいて、モニタリング信号を発生するように構成され得る。更に、圧力センサ4b、4cと、体外回路20に含まれている任意の追加の圧力センサとに、デバイス25を接続してもよい。
【0059】
体外回路20は、血液透析濾過(hemodiafiltration, HDF)モードで動作するオプションを有し得る。HDFモードでは、制御ユニット23は、第2のポンプデバイス(HDFポンプ、示されていない)を作動して、透析装置6の上流及び/又は下流の血液ライン、例えば1つ以上のチューブセグメント2、5、10、又は12の中に、輸液(infusion solution)を供給する。
【0060】
第1のパルスの予測信号のプロファイルの取得
このセクションは、図4に示されているシステムにおいて、第1のパルスの信号プロファイルを予測又は推定する様々な実施形態を記載している。通常、予測信号のプロファイルは、一般に血液ポンプ3の少なくとも1回の完全なポンプサイクルに対応する期間にわたる、一連の圧力値として提供される。
【0061】
図6は、図4のシステムの予測信号のプロファイルの一例を示している。血液ポンプ3は蠕動ポンプであり、回転子3aのフル回転中に、2つのローラ3bがチューブセグメントに係合するので、圧力のプロファイルは、2回のポンプストロークで構成される。例えば、ローラ3bとチューブセグメントとの係合の僅かな差のために、ポンプストロークが、異なる圧力値(圧力のプロファイル)を生じる場合があるので、予測信号のプロファイルは両者のポンプストロークを表わすのが望ましい。より低い精度の予測信号のプロファイルが許され得る、即ち、後の除去プロセスの出力が許容できる場合は、予測信号のプロファイルは、1回のポンプストロークのみを表わしてもよい。
【0062】
流体システムの数学的シミュレーション、又はその組み合わせを通して、参照測定における予測信号のプロファイルを通常レベルで得ることができる。
【0063】
参照測定
予測信号のプロファイルを得る方法のうちの第1の主なグループは、システム中の圧力センサから、即ち(常にではないが)通常は、第1のパルスを除去するために処理される測定信号(圧力信号)を提供する圧力センサと同じ圧力センサから、時間依存性の参照圧力信号(「参照信号」)を導き出すことに基づく。この参照測定中に、第2のパルス発生器3’を停止/デアクティブにすることによって、又は圧力センサを第2のパルスから離すことによって、第2のパルスが関連する圧力センサに到達するのが妨げられる。図4のシステムでは、プライミング段階中に、参照測定を行なうことができる。プライミング段階において、体外回路20は患者から取り外されて、血液ラインを通してプライミング流体がポンプで送り込まれる。その代わりに、シミュレーションの処理において、血液又は任意の他の流体を用いて、参照測定を行なってもよい。オプションで、参照測定は、複数の圧力のプロファイルを平均して、雑音を低減することを含んでもよい。例えば、複数の関連する信号セグメントが、参照信号中に識別される場合がある。この場合に、異なるセグメントにおける圧力のプロファイルが適切に重なるように、これらのセグメントを並べて、一緒に加える。関連する信号セグメントの識別は、参照信号中の各第1のパルスの予想位置を示すタイミング情報に少なくとも部分的に基づいてもよい。ポンプセンサ26の出力信号、制御ユニット23の制御信号、又は圧力センサ4a−4cのうちの別の圧力センサからの圧力信号におけるトリガポイントから、タイミング情報を得てもよい。例えば、トリガポイントと、参照信号を発生する圧力センサとの間における到達時間の既知の差に基づいて、参照信号中の第1のパルスの予測時間点を計算することができる。変形例において、参照信号が周期的である場合は、定められた信号レベルと参照信号との交点を識別することによって、関連する信号セグメントを識別することができる。関連する信号セグメントを識別して、交点の各対の間を延ばす。
【0064】
第1の実施形態では、体外回路20を患者に接続する前に、参照測定において予測信号のプロファイルを直接に得て、その後で、次の除去プロセスへの入力として使用する。次の除去プロセスは、体外回路20が患者に接続されたときに実行される。従って、この実施形態では、システムが患者に接続されるときに、予測信号のプロファイルは、第1のパルスを表わしていると考えられる。参照測定中と、除去プロセス中とにおいて、同じポンプ周波数/速度を使用するのが適切である。他の関連するシステムパラメータも本質的に一定に維持するのが望ましい。
【0065】
図7は、第2の実施形態のフローチャートである。第2の実施形態では、最初に、参照測定に基づいて、参照ライブラリ又はデータベースを生成する(ステップ701)。通常、結果として得られた参照ライブラリは、メモリユニットに記憶される。メモリユニットは、例えば、監視デバイス(図1の25を参照)のRAM、ROM、EPROM、HDD、フラッシュ、等(図1の25bを参照)である。参照測定中に、体外回路の幾つかの異なる動作状態に対して、参照圧力信号を求める。各動作状態は、システムパラメータ値の特有の組み合わせによって表わされる。各動作状態に対して、第1のパルスの信号プロファイルを表わすために、参照プロファイルを生成する。次に、参照プロファイルと、関連するシステムパラメータ値とを、参照ライブラリに一緒に記憶する。参照ライブラリは、リスト、ルックアップテーブル、探索木、等のような、探索可能なデータ構造として構成される。
【0066】
実際のモニタリングプロセス中に、即ち、第1のパルスが測定信号から取り除かれると、流体含有システムの現在の動作状態を示す現在の状態情報を、システム、例えば、センサ、制御ユニット、等から得る(ステップ702)。現在の状態情報は、1つ以上のシステムパラメータの現在の値を含み得る。次に、参照ライブラリ中のシステムパラメータ値に対して、現在の値をマッチングする。マッチングに基づいて、1つ以上の参照プロファイルを選択して(ステップ703)、予測信号のプロファイルを作成するために使用する(ステップ704)。
【0067】
一般に、上述のシステムパラメータは、全体的なシステムの状態を表わし、流体含有システム又はそのコンポーネントの構造と、設定と、状況と、変数とを含むが、これらに制限されない。図4のシステムにおいて、例示的なシステムパラメータは、以下のものを含み得る。
【0068】
ポンプに関するパラメータ: (例えば、透析装置のための流体生成システムにおける)体外回路に直接又は間接に接続されたアクティブなポンプ数、使用されるポンプのタイプ(ローラポンプ、膜ポンプ、等)、流量、ポンプの回転速度、ポンプアクチュエータのシャフトの位置(例えば、角度又は直線位置)、等。
【0069】
透析機の設定:温度、限外濾過レート、モード変更、バルブ位置/変更、等。
【0070】
使い捨ての透析機器/材料:ポンプチャンバ/ポンプセグメントについての情報(材料、幾何学的形状、磨耗状況)、血液ラインのタイプ(材料、幾何学的形状)、透析装置のタイプ、アクセスデバイスのタイプと幾何学的形状、等。
【0071】
透析システムの変数:血液ポンプの上流と下流のシステムの実際の絶対圧力、例えば、(センサ4aからの)静脈圧、(センサ4bからの)動脈圧、(センサ4cからの)システムの圧力、流路中に閉じ込められたガス量、血液ラインの一時的な停止、流体のタイプ(例えば、血液又は透析液)等。
【0072】
患者の状況:血液アクセス特性、血液特性、例えば、ヘマトクリット、血漿タンパク濃度、等。
【0073】
システムパラメータのうちの幾つか又は組み合わせが、参照ライブラリに記憶され得る、及び/又は、モニタリングプロセス中に参照ライブラリにおける探索変数として使用され得ることが分かるであろう。
【0074】
次に、幾つかの例に関連して、第2の実施形態を更に説明する。これらの例の全てにおいて、モニタリングプロセス中における、流体含有システムの現在の動作状態を示すために、ポンプ回転周波数(「ポンプ周波数」)、又は関係するパラメータ(例えば、血流レート)が使用される。言い換えると、参照ライブラリにおける探索変数として、ポンプ周波数が使用される。例えば、制御ユニットから出力された血流レートに対する設定値、又はポンプ(図4のポンプセンサ26を参照)の周波数を示すセンサの出力信号によって、ポンプ周波数を与えることができる。その代わりに、流体システムの動作中に、センサ4a−4cのうちの何れかからの圧力信号の周波数を分析することによって、ポンプ周波数を得ることができる。圧力信号に対して、任意の形式の高調波分析、例えば、フーリエ又はウェーブレット解析を適用することによって、このような周波数の分析を達成することができる。図5(b)に示されているように、結果として得られたパワースペクトルにおいて、ポンプの基本周波数fを識別することができる。
【0075】
第1の例では、現在のポンプ周波数に最も近いポンプ周波数に関連している参照プロファイルを検索するために、参照ライブラリを探索する。現在のポンプ周波数に正確にマッチしたものが見付からない場合は、予測信号のプロファイルを生成するために、外挿プロセスを実行する。外挿プロセスでは、検索された参照プロファイルに関連するポンプ周波数と、現在のポンプ周波数とにおける既知の差(「ポンプ周波数差」)に基づいて、検索された参照プロファイルを、現在のポンプサイクルに対して、時間のスケーリングをする。更に、ポンプ周波数に起因する振幅の変化を補償するために、振幅のスケールを調節してもよい。図8は、470ml/minの流量で得られる参照プロファイルr(n)と、予測信号のプロファイルu(n)とを示している。予測信号のプロファイルu(n)は、参照プロファイルを480ml/minの流量にスケーリングすることによって得られる。更に、480ml/minで得られた参照プロファイルractual(n)が、単に比較のために示されており、外挿プロセスが、適切に予測された信号プロファイルを実際に生成できることを示している。
【0076】
第2の例では、現在のポンプ周波数に基づいて、参照ライブラリを再び探索する。現在のポンプ周波数に正確にマッチしたものが見付からない場合は、組み合わせプロセスを実行して、予測信号のプロファイルを生成する。ここでは、最も密接にマッチした2つのポンプ周波数に関連する参照プロファイルを、検索して組み合わせる。検索された参照プロファイルのポンプサイクル時間を現在のポンプ周波数に再スケーリングして、再スケーリングされた参照プロファイルの補間により予測信号のプロファイルを計算することによって、組み合わせを行なうことができる。例えば、現在のポンプ周波数vにおける予測信号のプロファイルu(n)は、以下によって与えられ得る。
【0077】
u(n)=g(v−v)・r(n)+(1−g(v−v))・r(n)
(n)とr(n)は、それぞれ、現在のポンプ周波数vに再スケーリングした後に、ポンプ周波数vとvとにおいて得られた2つの検索された参照プロファイルを示しており、gは、周波数差(v−v)の関数として与えられる緩和パラメータである。なお、v≦v≦v、0≦g≦1である。当業者には、3つ以上の参照プロファイルを組み合わせることによって、予測信号のプロファイルu(n)を生成できることが分かる。
【0078】
図9(a)は、図4のシステム中の静脈センサ4aから得られる測定信号に対する、320ml/minの現在の流量における予測信号のプロファイルu(n)を示している。300ml/minの流量で静脈センサから得られる参照プロファイルr(n)と、340ml/minの流量で静脈センサから得られる参照プロファイルr(n)との平均として、予測信号のプロファイルu(n)が計算される。更に、320ml/minで得られる参照プロファイルractual(n)が、単に比較のために示されており、組み合わせプロセスが、適切に予測された信号プロファイルを実際に生成できることを示している。実際には、差は、図9(b)の拡大図でのみやっと見える程小さい。
【0079】
例えば、ポンプ周波数の差が特定の制限値未満である場合に、第1の例の外挿プロセスを実行し、その他の場合に、第2の例の組み合わせプロセスを実行することによって、第1の例と第2の例とを組み合わせることができる。
【0080】
第3の実施形態では、図7に示されている第2の実施形態のように、参照測定において幾つかの参照信号を求める。システムパラメータ値の特定の組み合わせに対して、各参照信号を得る。次に、参照スペクトルを発生するために、参照信号を処理する。参照スペクトルは、周波数の関数として、エネルギと位相角とを示す。例えば、参照信号のフーリエ解析、又はこれと同等のものによって、これらの参照スペクトルを得ることができる。次に、対応するエネルギと位相のデータを、関連するシステムパラメータ値と共に、参照ライブラリに記憶する(図7のステップ701を参照)。参照ライブラリの構成は、第2の実施形態と同じであってもよい。
【0081】
実際のモニタリングプロセス中に、即ち、第1のパルスが測定信号から取り除かれると、流体含有システムから、1つ以上のシステムパラメータの現在の値が得られる(図7のステップ702を参照)。次に、参照ライブラリ中のシステムパラメータ値に対して、現在の値をマッチングする。マッチングに基づいて、エネルギと位相のデータの特定の組を参照ライブラリから検索して、予測信号のプロファイルを生成するために使用することができる(図7のステップ703を参照)。一般に、検索されたエネルギと位相のデータに従って、適切な周波数と、振幅と、位相との正弦曲線を加えることによって、予測信号のプロファイルを生成する(図7のステップ704を参照)。
【0082】
この開示に制限するのではなく、一般に、予測信号のプロファイルは、(基本周波数と高調波とについての、エネルギと位相のデータを含んでいる)小さなデータセットによって表わすことができるので、(除去される)第1のパルスが、1つ又は少数の基本周波数(又は、その高調波)しか含んでいない場合に、エネルギと位相のデータから予測信号のプロファイルを生成するのが、好都合であり得る。他方で、第1のパルスのパワースペクトルがより複雑であり、例えば、多くの基本周波数の混合である場合は、代わりに、1つ以上の参照プロファイルから予測信号のプロファイルを生成するのが好ましいかもしれない。
【0083】
図10(a)は、図4のシステムにおいて300ml/minの流量で求められる参照信号のエネルギスペクトルを表わしている。この例では、参照信号は、本質的に、1.2Hzの基本ポンプ周波数(f、第1高調波)と、この周波数のオーバートーンの組(第2高調波と更なる高調波)とから構成されている。図5(b)のパワースペクトルと比較して、図10(a)−10(d)のグラフを生成するために使用される圧力信号は、0.5fとその高調波とにおける重要な周波数成分を含んでいない。図10(a)のグラフは、相対エネルギ分布を表示している。エネルギ値は、0−10Hzの範囲における周波数に対する合計エネルギに正規化されている。図10(b)は、図4のシステムにおいて3つの異なる流量で求められる参照信号のエネルギスペクトルを表わしている。エネルギスペクトルは、対数目盛対高調波の次数(第1、第2、等)で与えられている。示されているように、最初の4乃至5つの高調波の次数について、対数エネルギと高調波の次数との間に、ほぼ線形の関係を識別することができる。これは、各エネルギスペクトルをそれぞれの指数関数によって表現できることを示している。図10(c)は、図10(b)のデータを均等目盛で示している。それぞれの多項式関数はデータに適合している。図10(a)−10(c)に示されているように、例えば、ディスクリートな周波数値又は高調波の次数に関連するエネルギ値の組として、又はエネルギ対周波数/高調波の次数を表わすエネルギ関数として、参照ライブラリにおいて、異なるフォーマットで、エネルギスペクトルを表わすことができる。
【0084】
図10(d)は、図10(a)のエネルギスペクトルと共に、即ち、300ml/minの流量に対して求められる位相角スペクトルを示している。図10(d)のグラフは、周波数の関数として位相角を示しており、一次関数はデータに適合している。別の表現(示されていない)では、高調波の次数の関数として位相スペクトルを与えることができる。エネルギスペクトルと同様に、位相スペクトルは、参照ライブラリにおいて、異なるフォーマットで、例えば、ディスクリートな周波数値又は高調波の次数に関連した位相角値の組、或いは位相角対周波数/高調波の次数を表わす位相関数として表わされ得る。
【0085】
参照ライブラリに記憶されているエネルギと位相のデータを使用して、予測信号のプロファイルを生成できることが、上述から分かるであろう。エネルギデータにおける各エネルギ値は、定められた周波数(エネルギ値に関連する周波数)に関する正弦曲線の振幅に対応する。定められた周波数に対する位相値は、正弦曲線の適切な位相角を示している。適切な周波数と、振幅と、位相角との正弦曲線を組み合わせる(一般に、加える)ことによって、予測信号のプロファイルを作成するこの方法によって、予測信号のプロファイルは、希望の周波数範囲内のポンプ周波数の全ての高調波を含むことができる。
【0086】
予測信号のプロファイルを生成する場合に、最初に、現在のポンプ周波数のような1つ以上のシステムパラメータの現在の値に基づいて、参照ライブラリを探索する。参照ライブラリの中に、正確にマッチするものが見付からない場合に、組み合わせプロセスを実行して、予測信号のプロファイルを生成することができる。例えば、参照ライブラリにおいて、最も密接にマッチした2つのポンプ周波数が識別され得る。関連するエネルギと位相のデータを検索して組み合わせて、予測信号のプロファイルを形成することができる。エネルギデータと位相データとを補間することによって、組み合わせてもよい。図10(a)−10(d)の例では、各高調波の次数に対して、補間されたエネルギ値を計算することができ、同様に、各高調波の次数に対して、補間された位相値を計算することができる。任意のタイプの補間関数を使用でき、それは線形又は非線形である。
【0087】
第1、第2、第3の実施形態では、流体含有システム中の同じ圧力センサユニットから、参照信号と測定信号とが適切に得られる。その代わりに、圧力センサユニットが、第1のパルスに対して同一の信号応答を与えるか、又は既知の数学的な関係を使用して、信号応答のマッチングができる場合は、異なる圧力センサユニットを使用できる。
【0088】
第1、第2、第3の実施形態を更に改善するために、予測信号のプロファイルを生成するプロセスは、関連する可能性のある他の因子を補償することを更に含んでもよい。関連する可能性のある他の因子は、参照測定と現在の動作状態との間で異なる。これらのいわゆる交絡因子(confounding factor)は、既に記載したシステムパラメータの1つ以上、例えば、絶対平均の静脈圧及び動脈圧、体温、血液ヘマトクリット/粘度、ガス量、等を含み得る。予め定められた補償式又はルックアップテーブルを使用することによって、この補償を行なうことができる。
【0089】
更なるバリエーションでは、第2と第3の実施形態を組み合わせてもよく、例えば、参照ライブラリは、エネルギと位相のデータだけでなく、参照プロファイルも、システムパラメータ値に関連付けて記憶する。ライブラリの中に正確にマッチするものが見付かった場合は、参照プロファイルをライブラリから検索して、予測信号のプロファイルとして使用し、その他の場合は、第3の実施形態におけるように、エネルギと位相のデータを検索して組み合わせる(例えば、補間する)ことによって、予測信号のプロファイルを得る。変形例では、現在のポンプ周波数vの予測信号のプロファイルu(n)を、以下によって得る。
【数1】

【0090】
別の変形例では、正規の手術前(例えば、血液を用いたプライミング又はシミュレーションの処理中)に行なわれる任意の参照測定の代わりに又は任意の参照測定に加えて、正規の手術中に、流体含有システムの参照測定を行なう。このような変形例では、第2のパルス発生器を断続的に止めるか、又は関連する圧力センサに第2のパルスが到達するのを断続的に妨げることができると考えられる。参照信号と測定信号とが1つの及び同じ圧力センサから得られる場合に、図4の体外回路20において、このアプローチはより困難である。しかしながら、例えば、第2のパルスから実質的に離されている1つの圧力センサを、流体システムが含んでいる場合は、このアプローチを適用することができる。このような状況では、離されているセンサから参照プロファイル(又は、参照スペクトル)を得て、これを使用して、(オプションで、交絡因子における差を調節/修正した後で)予測信号のプロファイルを生成することができる。次に、予測信号のプロファイルを使用して、第1と第2の両者のパルスを含んでいる測定信号から、第1のパルスを除去する。例えば、図4の回路20中のシステムセンサ4cからの圧力信号を、患者から生じる第2のパルスから本質的に分離することができ、従って、参照測定において、この圧力信号を使用することができる。
【0091】
既に説明したように、図4における体外回路20は、HDFモードに切り替えることができる。HDFモードでは、追加のHDFポンプをアクティブにして、体外回路20の血液ラインの中に注入液体(infusion liquid)を供給する。動作モードをこのように変化させると、測定信号における第1のパルスの信号特性を変化させる場合がある。従って、この動作状態に関連する適切な参照データ(参照プロファイル、及び/又は、エネルギと位相角のデータ)を、参照ライブラリに確実に含ませることによって、この変化を明らかにすることが必要である。
【0092】
その代わりに、HDFポンプから生じる圧力パルスを分離することが、望ましい場合がある。動脈センサ4b(図4)の圧力信号から参照プロファイルを得ることによって、これを達成することができる。動脈圧信号が、患者から生じる圧力パルスと、血液ポンプ3から生じる圧力パルスとを含んでいる一方で、HDFポンプから生じる圧力パルスは、それぞれ患者と血液ポンプ3とによって相当に減衰され、動脈センサ4bに辛うじて到達する。他方で、静脈センサ4aの圧力信号とシステムセンサ4cの圧力信号は、患者と、血液ポンプ3と、HDFポンプとの両者から生じる圧力パルスを含んでいる。従って、それらが静脈センサ4a又はシステムセンサ4cからの圧力信号を調べるときに、血液ポンプ3と患者とから生じた、組み合わされた圧力パルスの予測信号のプロファイルを得るために、動脈圧信号が使用され得る。次に、静脈センサ4a又はシステムセンサ4cからの圧力信号の中で、HDFポンプから生じる圧力パルスを分離するために、予測信号のプロファイルが使用され得る。この例では、患者と体外回路20は、第1のサブシステム(図1におけるS1)として見なされ、HDFポンプと、関連する注入チューブは、第2のサブシステム(図1におけるS2)として見なされ、これらは流体接続部を介して接続されている。従って、この例では、流体システム中の別のポンプから生じるパルスを除いて、患者における周期的な生理学的現象から生じるパルスを分離するために、本発明のデータ処理は適用されない。他の構成では、静脈センサ4a(図4)の圧力信号から参照プロファイルを得て、動脈センサ4b又はシステムセンサ4cの圧力信号を処理するために使用できることが分かるであろう。
【0093】
シミュレーション
参照測定を使用する代わりに、シミュレーション、即ち、システムの現在の動作状態を示す現在の状態情報に基づいて、流体含有システムの数学モデルを使用して計算することによって、予測信号のプロファイルを直接に得ることができる。このような現在の状態情報は、上述のシステムパラメータの1つ以上の現在の値を含み得る。モデルは、システムコンポーネントの既知の物理的関係(又は、同等な表現、例えば、電流と電圧とによってそれぞれ与えられる流量と圧力とを用いて電気回路としてシステムを表わすことによる表現)に基づくことができる。モデルは、分析に関して、暗黙的に又は明示的に表現することができる。その代わりに、数値モデルを使用してもよい。モデルは、システムの完全な物理的性質から、単純な機能までの、任意のものであり得る。一例では、このような単純な機能は、経験的又は理論的データを使用して、ポンプ回転子3aの瞬間角速度についてのデータを、予測信号のプロファイルに変換することができる。図4のポンプセンサ26から、瞬間角速度のこのようなデータを得ることができる。
【0094】
別の実施形態では、システムの異なる動作状態に対する参照プロファイルを生成するために、シミュレーションを使用する。次に、これらの参照プロファイルを参照ライブラリに記憶してもよい。第2と第3実施形態について既に記載したのと同じやり方で、参照ライブラリにアクセスして使用することができる。更に、シミュレーションによって得られた参照プロファイル(及び/又は、対応するエネルギと位相角のデータ)と、参照測定によって得られた参照プロファイル(及び/又は、対応するエネルギと位相角のデータ)とを一緒に記憶してもよいことが分かるであろう。
【0095】
第1のパルスの除去
予測信号のプロファイルを使用して、測定信号から1つ以上の第1のパルスを除去するやり方には、幾つかの異なるものがある。ここで、2つの異なる除去プロセスを記載する。単一の減算と、適応フィルタリングである。除去プロセスとその実施との記載は、当然に包括的ではない(様々な代替例又は実施は記載されていない)。これは当業者に明らかである。
【0096】
実施に応じて、予測信号のプロファイルを除去プロセスにそのまま入力してもよく、又は予測信号のプロファイルを複製して、除去プロセスに対する適切な長さの入力信号を構築してもよい。
【0097】
単一の減算
この除去プロセスでは、測定信号から単一の予測信号のプロファイルを減算する。何らかのやり方で、予測信号のプロファイルを、時間においてシフトしてスケーリングして、振幅においてスケーリングして、例えば、除去の誤差を最小化することができる。このような自動スケーリングに対して、様々な最小化基準を使用できる。例えば、二乗誤差の和又は絶対誤差の和を最小化する。その代わりに又は更に、測定信号中の第1のパルスの予想タイミングを示すタイミング情報に基づいて、予測信号のプロファイルを時間においてシフトする。参照信号における圧力セグメントの平均に関して既に記載したやり方と同じやり方で、タイミング情報を得ることができる。
【0098】
この除去プロセスは、予測信号のプロファイルをシフトしてスケーリングするだけであるので、この除去プロセスの1つの潜在的な限界は、予測信号のプロファイルにおける異なる周波数間の関係が常に同じ場合である。従って、様々な高調波周波数間の関係を変えることはできず、予測信号のプロファイル中の周波数成分の一部のみを使用して、他の周波数成分を抑えることもできない。以下に記載するように、適応フィルタリングは、減算する前に線形フィルタを使用するので、この限界を克服するために、適応フィルタリングが使用され得る。
【0099】
適応フィルタリング
図11は、適応フィルタ30と適応フィルタ構造との概要図である。適応フィルタ構造は、予測信号のプロファイルu(n)と測定信号d(n)とを受信して、誤差信号e(n)を出力するように設計されている。誤差信号e(n)は、第1のパルスが除去された上述のモニタリング信号を形成している。
【0100】
適応フィルタは、周知の電子フィルタ(ディジタル又はアナログ)であり、最適化アルゴリズムに従って、伝達関数を自動調節する。具体的には、適応フィルタ30は、可変フィルタ32、通常は、フィルタ係数w(n)を有する長さMの有限インパルス応答(finite impulse response, FIR)フィルタを含む。
【0101】
適応フィルタが技術的に知られていても、測定信号d(n)中の第1のパルスを削除するために、適応フィルタを直ちに適用することはできない。示されている実施形態では、予測信号のプロファイルu(n)を、可変フィルタ32と、適応更新アルゴリズム34とに入力することによって、これを達成している。可変フィルタ32は、予測信号のプロファイルu(n)を処理して、推定測定信号
【数2】

【0102】
を発生する。適応更新アルゴリズム34は、予測信号のプロファイルu(n)と誤差信号e(n)とに基づいて、可変フィルタ32のフィルタ係数を計算する。誤差信号e(n)は、測定信号d(n)と推定測定信号
【数3】

【0103】
との差によって得られる。
【0104】
フィルタ係数の各々は、予測信号のプロファイルu(n)の振幅をシフトして、場合によっては再スケーリングするように作用するので、基本的に、適応フィルタリングも、測定信号d(n)から予測信号のプロファイルu(n)を減算することに関わる。測定信号d(n)から推定測定信号
【数4】

【0105】
を減算して、誤差信号e(n)を発生する。推定測定信号は、Mシフトした予測信号のプロファイルu(n)の線形結合として形成され、即ち、u(n)の線形のフィルタリングである。
【0106】
適応更新アルゴリズム34は、多くの様々なやり方で実施され得る。そのうちの幾つかを以下に記載する。この開示は、これらの例に全く制限されない。以下の記載に基づいて、別の代替例を見付けることは、当業者にとって難しくないであろう。
【0107】
適応フィルタリングに対する2つの主なアプローチがある。即ち、確率的アプローチと、決定論的アプローチである。その違いは、更新アルゴリズム34による誤差信号e(n)の最小化にある。e(n)が確率的であると仮定しても、又は決定論的であると仮定しても、異なる最小化基準が得られる。一般に、確率的アプローチは、最小化基準を予想して、費用関数jを使用する。一方で、一般に、決定論的アプローチは、平均値を使用する。e(n)を最小化する場合に、一般に、二乗誤差信号e(n)を費用関数に使用する。その理由は、これが1つの大域的最小値をもたらすからである。幾つかの状況では、最小化と、異なる形式の制約付きの最小化とにおいて、絶対誤差|e(n)|を使用してもよい。当然に、任意の形式の誤差信号を使用できるが、大域的最小化への収束は必ずしも保証されておらず、最小化は必ずしも解決可能であるとは限らない。
【0108】
信号の確率的な記述において、費用関数は、一般に、
【数5】

【0109】
に従い得る。
【0110】
信号の決定論的な記述において、費用関数は、一般に、
【数6】

【0111】
に従い得る。
【0112】
誤差信号e(n)(費用関数J(n))が最小化されると、第1のパルスは測定信号d(n)から除去される。従って、適応フィルタ30が収束して最小誤差に達すると、第1のパルスから誤差信号e(n)が取り去られて、一方で、第2のパルスが保持される。
【0113】
可変フィルタ32に対する最適フィルタ係数w(n)を得るために、フィルタ係数w(n)に対して費用関数Jを最小化する必要がある。これは、費用関数の勾配ベクトル▽Jを用いて達成することができる。▽Jは、異なるフィルタ係数w,w,・・・,wM−1に対するJの導関数である。最急降下は、費用関数Jを最小化する最適フィルタ係数を得るための再帰的方法である(適応フィルタではない)。再帰的方法は、フィルタ係数に初期値を与えることによって開始される。初期値は、ゼロに設定されることが多い。即ち、w(0)=0である。その後で、フィルタ係数は、以下に従って更新される。
【数7】

【0114】
更に、勾配ベクトル▽Jは、費用が最も速く増加する方向を指す。従って、フィルタ係数は、勾配と反対方向において修正される。修正の長さは、ステップサイズパラメータμによって影響される。最急降下アルゴリズムはフィードバックを含むので、最急降下アルゴリズムは常に逸れる危険がある。確実に収束させるために、これはステップサイズパラメータμに対する境界を設定する。最急降下アルゴリズムに対する安定性の基準は、以下によって与えられると示すことができる。
【数8】

【0115】
なお、λmaxは、Rの最大固有値である。Rは、予測信号のプロファイルu(n)の相関行列であり、以下によって与えられる。
【数9】

【0116】
平均二乗誤差(mean square error, MSE)の費用関数(J=E{|e(n)|}によって定義される)が使用される場合に、フィルタ係数は、以下に従って更新されると示すことができる。
【数10】

【0117】
信号の統計値が分かっている場合に、最急降下アルゴリズムは、最適フィルタ係数を計算するための再帰的アルゴリズムである。しかしながら、この情報は、分からない場合が多い。最小二乗平均(Least Mean Square, LMS)アルゴリズムは、最急降下アルゴリズムと同じ原理に基づく方法であるが、連続的に統計値を推定する。従って、LMSアルゴリズムは、(連続的に統計値を推定することにより)信号の統計値の変化に適応できるので、LMSアルゴリズムは適応フィルタであるが、勾配に雑音が含まれることになる場合がある。最急降下アルゴリズムは、最小誤差Jminに到達するが、LMSアルゴリズムは、勾配中の雑音のために、最小誤差Jminに到達する可能性が低い。LMSアルゴリズムでは、期待値の瞬間推定値を使用する。即ち、期待値は除去される。従って、LMSアルゴリズムの場合に、フィルタ係数の更新式は、以下のようになる。
【数11】

【0118】
LMSアルゴリズムの収束基準は、最急降下アルゴリズムに対する収束基準と同じである。LMSアルゴリズムにおいて、ステップサイズは、予測信号のプロファイルu(n)に比例する。即ち、予測信号のプロファイルが強い場合に、勾配雑音が増幅される。この問題に対する1つの解決策は、
【数12】

【0119】
を用いて、フィルタ係数の更新を正規化することである。
【0120】
フィルタ係数の新たな更新式は、正規化LMSと呼ばれ、以下によって与えられる。
【数13】

【0121】
LMSアルゴリズムに対するより多くの異なる代替例があり、ステップサイズが修正される。これらのうちの1つは、可変適応ステップを使用する。
【数14】

【0122】
なお、cは、正の定数である。更に、LMSアルゴリズムにおける各フィルタ係数に対する独立適応ステップを、例えば以下に従って選択することができる。
【数15】

【0123】
その代わりに、以下の費用関数
J(n)=E{|e(n)|}
を使用すると、更新式は、以下のようになる。
【数16】

【0124】
この適応フィルタは、サインLMS(Sign LMS)と呼ばれる。これは、計算複雑度が低いことが非常に強く要求される応用に使用される。
【0125】
別の適応フィルタは、リーキーLMS(Leaky LMS)である。これは、以下の費用関数と共に、制約付きの最小化を使用する。
【数17】

【0126】
この制約は、分散αを有する白色雑音を予測信号のプロファイルu(n)に加えたのと同じ効果を有する。その結果、入力信号u(n)における不確実性が高まり、これはフィルタ係数を抑制する傾向がある。R、即ち、u(n)の相関行列が、ゼロに等しい1つ以上の固有値を有する場合は、リーキーLMSを使用するのが好ましい。しかしながら、雑音のないシステムでは、リーキーLMSは性能を下げる。リーキーLMSに対するフィルタ係数の更新式は、以下によって与えられる。
【数18】

【0127】
既に記載したようにMSE費用関数を最小化する代わりに、再帰的最小二乗(Recursive Least Square, RLS)の適応フィルタアルゴリズムは、以下の費用関数を最小化する。
【数19】

【0128】
なお、λは、忘却係数と呼ばれ、0<λ≦1である。この方法は、指数関数的加重最小二乗と呼ばれる。以下の初期設定後に、RLSアルゴリズムに対するフィルタ係数の更新式があると示すことができる。
【0129】
w(0)=0M×1
P(0)=δ−1M×M
なお、以下に従う場合に、IM×Mは、恒等行列である。
【数20】

【0130】
なお、δは、高い信号対雑音比(signal-to-noise ratio, SNR)に対する小さな正の定数と、低いSNRに対する大きな正の定数、δ<<0.01σである。ξ(n)は、先のアルゴリズムにおけるe(n)に対応する。初期設定期間中に、初期設定P(0)=δIを使用するので、代わりに以下の費用関数が最小化される。
【数21】

【0131】
RLSアルゴリズムは、ほぼ2Mの反復で収束する。これは、LMSアルゴリズムよりも相当に速い。RLSアルゴリズムの収束はRの固有値に依存しないという別の利点があり、これは、LMSアルゴリズムの場合には当てはまらない。
【0132】
並列して実行される幾つかのRLSアルゴリズムは、異なるλとδとを用いて使用され得る。性能を改善するために、λとδとを組み合わせてもよい。即ち、多くの異なるδ:sで、アルゴリズム(定常解)において、λ=1を使用することもできる。
【0133】
固定小数点数演算において、LMSアルゴリズムとRLSアルゴリズムとの両者を実施できることに注目すべきである。従って、低コストの埋め込みマイクロプロセッサ又はマイクロコントローラのような、浮動小数点ユニットを有さないプロセッサにおいて、これらを実行することができる。
【0134】
適応フィルタを使用する除去プロセスの効果を示すために、図12(a)における上側のグラフは、適応更新アルゴリズム32としてRLSアルゴリズムを使用して、430ml/minの流量の図4の静脈センサ4aからの測定信号を処理した、図11における適応フィルタ構造によって出力された誤差信号e(n)の出力を示している。適応フィルタ構造は、同じ流量で参照測定において得られた予測信号のプロファイルを提供する。M=15で設計されたRLSアルゴリズムは、約2Mの後で収束する。これは、10Hzの現在のサンプリング周波数で3秒に等しい。従って、上側のグラフは、第1のパルスを取り除いた後の測定信号を示している。図12(a)における下側のグラフは、参考のために含まれており、血液ポンプ3が止められている間における静脈センサ4aからの測定信号を示している。収束期間の後に、第2のパルスを適切に表わしているモニタリング信号を提供するように、適応フィルタが動作できることは明らかである。
【0135】
図12(b)は、図12(a)に対応しているが、図4の動脈センサ4bから測定信号を得ている。
【0136】
実施に関係なく、適応フィルタ30(図11)を静止モードに切り替えることによって、適応フィルタ30の性能を更に改善することができる。静止モードでは、更新アルゴリズム34はディスエーブルにされ、従って、フィルタ32(図11)のフィルタ係数は、1組の現在の値にロックされる。適応フィルタ30の切り替えは、外部のプロセスによって制御され得る。外部のプロセスは、一般に、第1のパルスのデータとの関係において、誤差信号e(n)中の第2のパルスを分析する。測定信号、参照信号(上述を参照)、専用のパルスセンサ、第1のパルス発生器に対する制御ユニット、等から、第1のパルスのデータを得ることができる。第2のパルスのレートが第1のパルスのレートに近付き始めている、及び/又は、(絶対制限に対して、或いは第1のパルスの振幅によって与えられた制限に対して)第2のパルスの振幅が非常に弱いことを、外部のプロセスが明らかにする場合に、適応フィルタ30を静止モードに切り替えることができる。所定の期間の間、又はプロセスによって解除されるまで、適応フィルタは静止モードのままであり得る。
【0137】
本発明は、幾つかの実施形態を参照して上述で概ね記載されている。しかしながら、当業者に容易に分かるように、本発明の意図と範囲とを有する、上述で開示された実施形態以外の他の実施形態が、同様に可能である。本発明の意図と範囲は、特許請求項によってのみ定義され制限されている。
【0138】
例えば、測定信号と参照信号は、任意の考えられるタイプの圧力センサから生じ得る。任意の考えられるタイプの圧力センサは、例えば、抵抗、容量、誘導、磁気、又は光検出によって動作して、1つ以上の隔膜、ベロー(bellow)、ブルドン管、圧電コンポーネント、半導体コンポーネント、歪みゲージ、共振ワイヤ、加速度計、等を使用するものである。
【0139】
図1は、圧力センサ4a−4cが第1のサブシステムS1に接続されていることを示しているが、その代りに、圧力センサ4a−4cは、第2のサブシステムS2において液圧を測定するために接続されてもよい。更に、流体含有システムを、流体接続部Cを介して接続されている第1と第2サブシステムS1、S2に分割する必要はないが、その代りに、1つの流体含有システムを、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連付けてもよい。各圧力センサは、流体含有システムの中に配置されて、第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出する。
【0140】
更に、本発明の技術は、全てのタイプの体外血流回路のモニタリングに適用できる。体外血流回路では、患者の全身の血液回路から血液を取って、血液を患者に戻す前に、血液を処理する。このような血流回路は、血液透析と、血液濾過と、血液透析濾過と、血漿交換と、アフェレーシスと、体外膜型肺(extracorporeal membrane oxygenation)と、補助された血液循環と、体外肝臓サポート/透析(extracorporeal liver support/dialysis)とのための回路を含む。同様に、本発明の技術は、輸血回路、注入、人工心肺のような、他のタイプの体外血流回路のモニタリングに適用できる。
【0141】
更に、本発明の技術は、血液以外の他の液体を含んでいる流体システムにも適用できる。
【0142】
更に、本発明の技術は、任意のタイプのポンプデバイスから生じる圧力パルスを除去するために適用できる。任意のタイプのポンプデバイスは、上述で開示した回転蠕動ポンプだけでなく、他のタイプの容積式ポンプ、例えば、線形蠕動ポンプ、薄膜ポンプ、更に、遠心ポンプである。実際には、本発明の技術は、機械又は人間である、任意のタイプのパルス発生器から生じる圧力パルスを除去するために適用することができる。
【0143】
同様に、本発明の技術は、機械又は人間である、任意のタイプのパルス発生器から生じる圧力パルスを分離するために適用できる。
【0144】
本発明の技術は、リアルタイムのデータに対して作用する必要はないが、以前に記録された測定信号のようなオフラインデータを処理するために使用できる。
【符号の説明】
【0145】
1・・・動脈針、2・・・動脈チューブセグメント、3・・・血液ポンプ、4a、4b、4c・・・圧力センサ、5、10、・・・チューブセグメント、6・・・透析装置、11・・・静脈点滴チャンバ又は脱気チャンバ、12・・・静脈チューブセグメント、13・・・クランプデバイス、14・・・静脈針、20・・・体外回路、23・・・制御ユニット、25・・・監視デバイス、26・・・ポンプセンサ、27・・・ローカル又は遠隔のデバイス、28・・・データ収集部分、29・・・主データ処理部分、30・・・適応フィルタ、32・・・可変フィルタ、34・・・適応更新アルゴリズム、C・・・流体接続部、S1・・・第1のサブシステム、S2・・・第1のサブシステム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理する方法であって、
前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第1のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されており、
前記方法は、
前記時間依存性の測定信号を受信するステップと、
前記第1のパルスの予測時間信号のプロファイルである第1のパルスのプロファイルを得るステップと、
前記第1のパルスのプロファイルを使用して、時間領域において前記時間依存性の測定信号をフィルタにかけて、前記第1のパルスを本質的に取り除いて、一方で前記第2のパルスを保持するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記フィルタにかけるステップは、前記時間依存性の測定信号から前記第1のパルスのプロファイルを減算するサブステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記減算するステップは、前記時間依存性の測定信号に対して、前記第1のパルスのプロファイルの位相を調節するサブステップを含み、
前記第1のパルス発生器に接続された位相センサから、又は前記第1のパルス発生器に対する制御ユニットから得られる位相情報によって、前記位相は示される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のパルスのプロファイルは、前記流体含有システムにおける参照測定で得られ、
前記参照測定は、
少なくとも1つの第1のパルスを発生させるために、前記第1のパルス発生器を動作させるステップと、
前記流体含有システムにおける参照圧力センサによって発生された参照信号から、前記第1のパルスのプロファイルを得るステップと、を含む、請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記参照測定中に第1のパルスのシーケンスを発生させるように、前記第1のパルス発生器を動作させて、
前記参照信号における第1のパルスのセグメントの組を識別して平均することによって、前記第1のパルスのプロファイルが得られる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記流体含有システムの動作中に、前記参照測定を断続的に行なって、更新された第1のパルスのプロファイルを提供する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記圧力センサは、前記参照圧力センサとして使用される、請求項4乃至6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記得るステップは、所定の信号のプロファイルを得るサブステップを含む、請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記得るステップは、前記流体含有システムの1つ以上のシステムパラメータの現在の値に基づいて、数学モデルに従って、前記所定の信号のプロファイルを修正するサブステップを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記参照測定中に、前記参照信号が第1のパルスを含み且つ第2のパルスを含まないように、前記流体含有システムを動作させる、請求項4乃至7の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記参照測定は、
第1のパルスと第2のパルスとを含んでいる第1の参照信号に基づいて、組み合わされたパルスのプロファイルを得るステップと、
第2のパルスを含み且つ第1のパルスを含まない第2の参照信号に基づいて、第2のパルスのプロファイルを得るステップと、
前記組み合わされたパルスのプロファイルから前記第2のパルスのプロファイルを減算することによって、前記予測時間信号のプロファイルを得るステップと、
を含む、請求項4乃至7の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記流体含有システムの1つ以上のシステムパラメータの現在の値を得るステップを更に含み、
前記現在の値の関数として、前記第1のパルスのプロファイルを得る、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のパルスのプロファイルを得るステップは、
前記現在の値に基づいて、参照データベース中の1つ以上の参照プロファイルを識別するサブステップと、
前記1つ以上の参照プロファイルに基づいて、第1のパルスのプロファイルを得るサブステップと、
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ以上のシステムパラメータは、前記流体含有システムにおける第1のパルスのレートを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のパルス発生器は、ポンプデバイスを具備し、
前記システムパラメータは、前記ポンプデバイスのポンプ周波数を示す、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記参照データベース中の各参照プロファイルは、前記1つ以上のシステムパラメータのそれぞれの値に対する、前記流体含有システムにおける参照測定によって得られる、請求項13乃至15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のパルスのプロファイルを得るステップは、
前記現在の値に基づいて、参照データベースにおけるエネルギ及び位相角のデータの1つ以上の組み合わせを識別するサブステップと、
エネルギ及び位相角のデータの前記1つ以上の組み合わせに基づいて、前記第1のパルスのプロファイルを得るサブステップと、を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
異なる周波数の1組の正弦曲線を組み合わせることによって、前記第1のパルスのプロファイルが得られ、
エネルギ及び位相角のデータの前記1つ以上の組み合わせによって、各正弦曲線の位相角と振幅とが与えられる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1のパルスのプロファイルを得るステップは、
前記流体含有システムの数学モデルに基づいて、前記圧力センサの応答を計算するアルゴリズムに、前記現在の値を入力するサブステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記フィルタにかけるステップは、
前記時間依存性の測定信号から前記第1のパルスのプロファイルを減算するサブステップを含み、
前記減算するサブステップの前に、調節するステップが行なわれ、
前記調節するステップにおいて、前記第1のパルスのプロファイルの振幅と、時間のスケールと、位相とのうちの少なくとも1つを、前記時間依存性の測定信号に対して調節する、請求項1乃至19の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記調節するステップは、
前記第1のパルスのプロファイルと前記時間依存性の測定信号との差を最小化するサブステップを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記フィルタにかけるステップは、
適応フィルタへの入力として、前記第1のパルスのプロファイルを供給するサブステップと、
前記時間依存性の測定信号と前記適応フィルタの出力信号との間の誤差信号を計算するサブステップと、
前記適応フィルタへの入力として、前記誤差信号を提供するサブステップと、を含み、
前記適応フィルタは、前記誤差信号中の前記第1のパルスを本質的に取り除くように構成されている、請求項1乃至19の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記適応フィルタは、
前記出力信号を発生するために前記第1のパルスのプロファイルに作用するフィルタ係数を備えた有限インパルス応答フィルタと、
前記誤差信号と前記第1のパルスのプロファイルとの関数として、前記フィルタ係数を最適化する適応アルゴリズムと、を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第2のパルスのレート及び/又は振幅と、制限値との比較に基づいて、前記フィルタ係数をロックするように、前記適応フィルタを制御するステップ、を更に含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記流体含有システムは、人体における血液系統に接続するための体外血流回路を具備し、
前記第1のパルス発生器は、前記体外血流回路におけるポンプデバイスを具備し、
前記第2のパルス発生器は、前記人体における生理学的パルス発生器を具備する、請求項1乃至24の何れか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記第2のパルス発生器は、自律神経系によって影響される心臓と、呼吸器系統と、血管運動とのうちの少なくとも1つである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記体外血流回路は、動脈アクセスデバイスと、血液処理デバイスと、静脈アクセスデバイスとを具備し、
人間の血液系統は、血管アクセスを具備し、
前記動脈アクセスデバイスは、人間の血液系統に接続されるように構成され、
前記静脈アクセスデバイスは、前記血管アクセスに接続されて、流体接続部を形成するように構成され、
前記第1のパルス発生器は、
前記動脈アクセスデバイスから前記血液処理デバイスを通って前記静脈アクセスデバイスへ血液を送り出すために、前記体外血流回路において構成されているポンプデバイス、を具備し、
前記方法は、前記ポンプデバイスの下流に配置された静脈圧センサ、又は前記ポンプデバイスの上流に配置された動脈圧センサの何れかから、前記時間依存性の測定信号を受信するステップを含む、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1乃至27の何れか1項に記載の方法をコンピュータに行なわせる命令を具備する、コンピュータプログラム製品。
【請求項29】
第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理するデバイスであって、
前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されており、
前記デバイスは、
前記時間依存性の測定信号に対する入力と、
前記入力に接続された信号プロセッサと、を具備し、
前記信号プロセッサは、
前記第1のパルスの予測時間信号のプロファイルである第1のパルスのプロファイルを得て、
前記第1のパルスのプロファイルを使用して、時間領域において前記時間依存性の測定信号をフィルタにかけて、前記第1のパルスを本質的に取り除いて、一方で前記第2のパルスを保持するように構成されている、デバイス。
【請求項30】
第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理するデバイスであって、
前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するように、前記流体含有システムにおいて構成されており、
前記デバイスは、
前記時間依存性の測定信号を受信する手段と、
前記第1のパルスの予測時間信号のプロファイルである第1のパルスのプロファイルを得る手段と、
前記第1のパルスのプロファイルを使用して、時間領域において前記時間依存性の測定信号をフィルタにかけて、前記第1のパルスを本質的に取り除いて、一方で前記第2のパルスを保持する手段と、
を具備する、デバイス。
【請求項31】
第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理する方法であって、
前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されており、
前記方法は、
前記時間依存性の測定信号を受信するステップと、
前記第1のパルスの標準信号のプロファイルを得るステップと、
時間領域において、前記時間依存性の測定信号から前記標準信号のプロファイルを減算するステップと、を含み、
前記標準信号のプロファイルは、前記第1のパルスが本質的に取り除かれて且つ前記第2のパルスが保持されている、振幅と位相とを有する、方法。
【請求項32】
第1のパルス発生器と第2のパルス発生器とに関連している流体含有システムにおける圧力センサから得られる時間依存性の測定信号を処理するデバイスであって、
前記圧力センサは、前記第1のパルス発生器から生じる第1のパルスと、前記第2のパルス発生器から生じる第2のパルスとを検出するために、前記流体含有システムにおいて構成されており、
前記デバイスは、
前記時間依存性の測定信号に対する入力と、
前記入力に接続された信号プロセッサと、を具備し、
前記信号プロセッサは、
前記第1のパルスの標準信号のプロファイルを得て、
時間領域において前記時間依存性の測定信号から前記標準信号のプロファイルを減算するように構成されている、処理モジュール、を具備し、
前記標準信号のプロファイルは、前記第1のパルスが本質的に取り除かれて且つ前記第2のパルスが保持されている、振幅と位相とを有する、デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【図10(c)】
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【図10(d)】
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【図11】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【公表番号】特表2011−525398(P2011−525398A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515215(P2011−515215)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004641
【国際公開番号】WO2009/156175
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(501473877)ガンブロ・ルンディア・エービー (49)
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
【Fターム(参考)】