説明

時間分解蛍光測定装置、及び方法

【課題】時間分解蛍光測定装置において、広い設置場所や煩雑な光軸調整を必要とすることなく、容易に光の分離数を増加させる。
【解決手段】測定対象物30には、励起光が照射される。光学分離手段21は、測定対象物30から発せられた蛍光を、複数のレンズを用いて複数の部分光に分離する。光学遅延手段22は、分離された複数の部分光のそれぞれを、長さが相互に異なる複数の光ファイバを用いて相互に異なる遅延時間だけ遅延する。撮像手段25は、光学遅延手段22で遅延された複数の部分光のそれぞれの光強度を同時に所定時間幅の間だけ検出する。PC26は、光検出手段での各部分光の検出結果に基づいて、蛍光寿命を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間分解蛍光測定装置及び方法に関し、更に詳しくは、時間領域測定法、特に時間ゲート法を用いて蛍光を測定する時間分解蛍光測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光を発する物質に可視光や紫外光を照射すると、蛍光が発することが知られている。蛍光を発する物質にパルス幅が短い光を照射すると、その照射後、ピコ秒からナノ秒オーダーにわたって蛍光が観察される。一般的に、この蛍光の発光強度は光照射直後で最大となり、その後、指数関数的に減衰していく。この指数関数における減衰定数が、蛍光寿命と呼ばれる。蛍光寿命を顕微鏡下で観測し、2次元的にマッピングを行う手法をFLIM(Fluorescence Lifetime Imaging Microscopy)と呼ぶ。
【0003】
ここで、蛍光寿命の特徴は、時間という定量性に優れた指標を基準にできることである。蛍光の特性を、蛍光の発光強度で定量化することもできるが、蛍光の発光強度は、蛍光を発する物質の濃度、退色、励起光の波長、強度、集光効率、検出器の感度、観測試料中での光の減衰、光学系の透過率など様々な要因による影響を受ける。一方、蛍光寿命は、測定条件に依存して変化し得る蛍光の発光強度とは異なり、蛍光を発する物質に固有な値となることから、定量的な議論が可能となる。蛍光寿命は、その分子の構造や電子状態に関し重要な情報を与えるほか、周囲の環境(イオン濃度、pH、酸素濃度、屈折率、粘性、温度など)に関する情報も提供する。
【0004】
蛍光寿命を観測する方法は、大きく分けて2つある。1つは、パルス状の光を励起光に用いる時間領域測定法(time-domain measurement)であり、もう1つは、正弦波状に強度変調した光を励起光に用いる周波数領域測定法(frequency-domain measurement)である。時間領域測定法では、短パルスレーザを試料に入射し、その時間応答を高速な検出器で観測する。時間領域測定法における代表的な観測方法として、時間相関単一光子計数法(time-correlated single photon counting:TCSPC)や、イメージインテンシファイア付きCCDを用いた時間ゲート法、ストリークカメラを用い、時空間変換によってスペクトルと時間波形を一度に観測する手法が挙げられる。これらの方法に、アレイタイプの高感度検出器やスキャナミラーを組み合わせることで、蛍光寿命のマッピング、つまりイメージングが可能となる。
【0005】
時間ゲート法では、蛍光発光の減衰曲線を時間軸方向にいくつかのウィンドウに分割し、パルス光を試料に照射した後、測定すべきウィンドウ(時間領域)に応じた遅延時間で検出器を一瞬だけオンにする。複数のウィンドウで蛍光の検出を行い、各ウィンドウ内の積分発光強度の値を時間に対してプロットし、積分発光強度が単一指数関数的に減衰すると仮定して蛍光寿命を求める。時間ゲート法は、時間相関単一光子計数法に比べ、測定時間を短縮できる。しかし、例えば時間領域を4分割したと仮定した場合、4つのウィンドウのそれぞれにおいて積分発光強度を求めるためには、同一の測定箇所に対して最低でも4回測定を行うことが必要である。このため、例えば細胞などの時々刻々と変化するサンプルに対して、同一時刻での蛍光寿命測定は困難であった。また、何度もパルス光を照射することで蛍光物質の退色が生じ、また、測定箇所が細胞であれば細胞が損傷するなどの問題もあった。
【0006】
上記問題点に対し、特許文献1には、一度の励起光で単一蛍光減衰曲線の2つのウィンドウにおける積分発光強度を測定する方法が開示されている。引用文献1に記載の時間分解イメージング装置は、光学分離系と、光学遅延系と、合成光学系とを有する。光学分離系は、測定対象で発生した蛍光を、第1の光と第2の光とに分離して出力する。光学分離系には、偏光解消板と偏光ビームスプリッターとが用いられる。測定対象で発生した蛍光は、偏光解消板により45°の直線偏光又は円偏光となって偏光ビームスプリッターに入射する。偏光ビームスプリッターは、入射光のS成分を反射し、P成分を透過することで、第1の光と第2の光とを分離する。
【0007】
第1の光は光学遅延系を介して合成光学系に出力され、第2の光はそのまま合成光学系に出力される。光学遅延系は、第1の光に対して、第2の光の光路長に比して長い光路長を設定する。合成光学系は、光学分離系が出力する第2の光、及び光学遅延系を通った第1の光それぞれが形成する測定対象の像を、結像面上の互いに重ならない領域に合成し、合成した像を撮像部に出力する。第1の光は光学遅延系で遅延が与えられた分だけ遅れるため、撮像部において、第1の光と第2の光とを同時刻に撮像することで、2つの時間領域における積分発光強度を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−43146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、一度の励起光で2つの時間領域における蛍光発光強度を検出でき、2つの時間領域における蛍光発光強度を用いて蛍光寿命を求めることができる。従って、光退色による蛍光強度の減少の影響を低減することができる。しかしながら、特許文献1では、蛍光減衰曲線を2点で近似し、単一指数関数と仮定して数値解析するため、蛍光が多成分を含むとき、それらを分離して蛍光寿命を求めることはできない。また、多成分を含む蛍光の蛍光寿命を、平均的な蛍光寿命として測定しても、大きな誤差が生じることになる。
【0010】
特許文献1において、分離する光の数を2つから3以上に増やすことを考えると、光学分離系で蛍光を3以上の光に分離するためには、偏光解消板と偏光ビームスプリッターとの組を、複数段並べて使用する必要があり、広い設置面積が必要となる。また、分離する光の数が増える分だけ、光軸調整が煩雑になる。更に、蛍光は、多段階に配置された偏光解消板と偏光ビームスプリッターとの組を通る必要があり、各組の偏光解消板及び偏光ビームスプリッターにおいて蛍光の吸収や散乱が生じる。このため、段数が増えるほど、光の利用効率が下がるという問題もある。
【0011】
本発明は、上記に鑑み、広い設置場所や煩雑な光軸調整を必要とすることなく、容易に光の分離数を増加させることができる時間分解蛍光測定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、所定の波長の光を励起光として測定対象物に照射する光照射手段と、前記測定対象物から発せられた蛍光を、複数のレンズを用いて複数の部分光に分離する光学分離手段と、前記分離された複数の部分光のそれぞれを、長さが相互に異なる複数の光ファイバを用いて相互に異なる遅延時間だけ遅延する光学遅延手段と、前記光学遅延手段で遅延された前記複数の部分光のそれぞれの光強度を同時に所定時間幅の間だけ検出する光検出手段と、前記光検出手段での各部分光の検出結果に基づいて、蛍光寿命を算出する蛍光寿命算出手段とを備えたことを特徴とする時間分解蛍光測定装置を提供する。
【0013】
本発明の時間分解蛍光測定装置では、前記光検出手段が、前記蛍光の相互に異なる時間領域に対応する時間領域の前記部分光を検出する構成とすることができる。
【0014】
本発明の時間分解蛍光測定装置では、前記光ファイバが、コネクタを介して前記前記光学分離手段及び前記光検出手段に着脱可能に取り付けられる構成を採用できる。
【0015】
前記光学分離手段は、前記測定対象物から発せられた蛍光の光スポット内に配置される複数のマイクロレンズを含むことができる。
【0016】
前記光学分離手段が、前記測定対象物から発せられた蛍光を3以上の部分光に分離するものとすることができる。
【0017】
前記光検出器は、ゲート機能を有するイメージインテンシファイアと電荷撮像素子とを含むことができる。
【0018】
前記蛍光寿命算出手段は、前記光検出手段での前記複数の部分光の検出結果に基づいて複数の時間領域のそれぞれにおける蛍光発光強度を求め、該求められた蛍光発光強度に基づいて前記蛍光寿命を算出してもよい。
【0019】
前記蛍光寿命算出手段は、記複数の部分光間での光量の差、及び前記複数の光学遅延手段間での前記部分光の損失の差の少なくとも一方を補正した上で前記蛍光寿命を算出することができる。
【0020】
本発明の時間分解蛍光測定装置は、前記励起光を前記測定対象物の表面上で走査する走査手段と、前記走査された励起光の各位置に対応する前記蛍光の発光強度、及び前記算出された蛍光寿命の少なくとも一方の分布を表す蛍光画像を生成する蛍光画像生成手段とを更に備える構成とすることができる。
【0021】
前記走査手段は、前記測定対象物の表面上に加えて、前記測定対象物上の前記励起光の集光位置を深さ方向にも走査し、前記蛍光画像生成手段は、前記蛍光画像を3次元情報として生成してもよい。
【0022】
本発明は、本発明の時間分解蛍光測定装置を備えたことを特徴とする顕微鏡システムを提供する。
【0023】
また本発明は、本発明の時間分解蛍光測定装置を備えたことを特徴とする内視鏡ファイバプローブシステムを提供する。
【0024】
本発明は、更に、所定の波長を有する光を励起光として測定対象物に照射するステップと、前記測定対象物から発せられた蛍光を、複数のレンズを用いて複数の部分光に分離するステップと、前記分離された複数の部分光を、相互に異なる遅延時間だけ遅延するステップと、前記光学遅延手段で遅延された複数の部分光それぞれの強度を、所定時間幅の間だけ同時に検出するステップと、前記部分光の検出結果に基づいて、蛍光寿命を算出するステップとを有することを特徴とする時間分解蛍光測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の時間分解蛍光測定装置及び方法では、レンズを用いて蛍光を複数の部分光に分離し、分離された複数の部分光を、長さが相互に異なる光ファイバを用いて相互に異なる遅延時間だけ遅延する。異なる遅延時間で遅延された複数の部分光を同時に所定時間幅で検出することで、複数の時間領域における蛍光発光強度を検出することができる。本発明においては、蛍光を部分光に分離する際にレンズを用いており、光スポット内に配置されるレンズの数を変えることで部分光の数を任意に増加させることができる。このため、広い設置面積を必要とすることなく、部分光の数を増加させることができる。また、本発明では光ファイバを用いて各部分光を遅延しており、部分光の数を増やしたいときは、それに応じて光ファイバの数を増やせばよい。このため、占有スペースを増大させることなく、遅延光路を追加できる。更に、本発明においては、レンズにより分離された部分光を光ファイバに入射する部分の光軸調整を行えばよく、煩雑な光軸調整を必要とせずに、容易に光の分離数を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の位置実施形態の時間分解蛍光測定装置を示すブロック図。
【図2】蛍光寿命測定の動作手順を示すフローチャート。
【図3A】光ファイバの入射端における各部分光の減衰特性を示す図。
【図3B】光ファイバの出射端における各部分光の減衰特性を示す図。
【図4】顕微鏡システムを示すブロック図。
【図5】内視鏡プローブシステムを示すブロック図。
【図6】内視鏡プローブの断面を示す斜視図。
【図7】光学分離手段と光学遅延手段との接続部分を示す斜視図。
【図8】光学分離手段と光学遅延手段との接続部分の別例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態の時間分解蛍光測定装置を示す。時間分解蛍光測定装置10は、レーザ光源11、パルスピッカー12、ミラー13、ビームスプリッター14、励起光検出手段15、非線形光学結晶16、ダイクロイックミラー17、対物レンズ18、励起光除去フィルター19、分光器20、光学分離手段21、光学遅延手段22、ゲート手段23、ゲート制御手段24、撮像手段25、及びコンピュータ(PC:Personal Computer)26を備える。
【0028】
時間分解蛍光測定装置10は、時間ゲート法を用いて蛍光寿命を求める。すなわち、蛍光発光の減衰曲線を数分割のウィンドウ(時間領域)に分割し、励起光としてパルス光を試料に照射した後、複数のウィンドウにおいて蛍光発光強度を検出し、各ウィンドウ内の蛍光発光強度の値(積分値)を時間に対してプロットし、積分発光強度が指数関数的に減衰すると仮定して蛍光寿命を求める。なお、測定対象の光は、測定対象物から発せられた蛍光のみに限定されるわけではなく、それと類似した特徴を持つ光、例えばりん光でもよい。つまり、時間分解蛍光測定装置10を用いてりん光の寿命を求めてもよい。
【0029】
レーザ光源11は、試料である測定対象物30に照射される所定波長の励起光を生成する。レーザ光源11には、例えばTiSaレーザなどを用いることができる。レーザ光源11は、パルス的なレーザ光を生成する。レーザ光源11は、例えばピコ秒からフェムト秒のパルス時間であるパルス光をパルス励起光として生成する。パルスピッカー12は、例えばレーザ光源11が周期的に生成するパルス励起光を所定の割合で間引く。パルスピッカー12がパルス励起光を間引くことで、測定対象物30に所望の周期でパルス励起光を照射できる。レーザ光源11がパルス励起光を生成する周期が所望の周期となっている場合、パルスピッカー12は省いてもよい。
【0030】
ビームスプリッター14は、パルス励起光の一部を反射し、残りを透過する。励起光検出手段15は、ビームスプリッター14で反射した光を検出する。励起光検出手段15にはフォトダイオードなどを用いることができる。非線形光学結晶16は、ビームスプリッター14を透過した光を入射し、入射光の波長の第2高調波又は第3高調波を発生する。ダイクロイックミラー17は、励起光の波長帯域の光を透過し、測定対象物30から発せられた蛍光の波長帯域の光を反射する。
【0031】
対物レンズ18は、ダイクロイックミラー17を透過した励起光を、測定対象物30上の所望の箇所に集光する。また対物レンズ18は、測定対象物30の励起光が照射された箇所で発生した蛍光を励起光とは逆向きに入射し、平行光化して出射する。励起光除去フィルター19及び分光器20は、入射光から、励起光の波長帯域の光を除去する。光学分離手段21は、測定対象物から発せられた蛍光を、複数のレンズを用いて複数の部分光に分離する。光学遅延手段22は、分離された複数の部分光のそれぞれを、相互に異なる遅延時間だけ遅延する。
【0032】
撮像手段25は、光学分離手段21で分離され、光学遅延手段22で相互に異なる遅延時間だけ遅延された各部分光を検出する。ゲート手段23は、光学遅延手段22と撮像手段25との間に配置され、光学遅延手段22が出射する各部分光を、所定時間幅の間だけ撮像手段25側に出射する。撮像手段25は、遅延された複数の部分光のそれぞれの光強度を所定時間幅の間だけ同時に検出する。ゲート制御手段24は、ゲート手段23を駆動制御する。PC26は、ゲート制御手段24に対する制御指示、及び撮像手段25の駆動などを行う。またPC26は、撮像手段25での各部分光の検出結果に基づいて、蛍光寿命を算出する。
【0033】
励起光照射から蛍光寿命算出までの一連の動作について説明する。レーザ光源11から出射したパルス励起光は、ミラー13で反射して進行方向を変え、ビームスプリッター14に入射して一部が反射し、残りがビームスプリッター14を透過する。ビームスプリッター14を透過した光は、測定対象物30に照射される励起光となる。一方、ビームスプリッター14で反射した光は、励起光が照射された旨を検出するために使用される。励起光検出手段15は、ビームスプリッター14で反射した光を検出し、励起光が検出された旨を表す信号をPC26に伝達する。PC26は、励起光が検出された旨を表す信号を、測定の開始信号として用いる。
【0034】
ビームスプリッター14を透過した励起光は、非線形光学結晶16に入射する。非線形光学結晶16は、入射光の波長の第2高調波又は第3高調波を発生する。非線形光学結晶16を出射した励起光は、ダイクロイックミラー17に入射する。ダイクロイックミラー17は、励起光の波長(波長帯域)の光を対物レンズ18側に透過する。ダイクロイックミラー17を透過した励起光は、対物レンズ18により、測定対象物30の所望の箇所に集光される。なお、レーザ光源11から対物レンズ18に至る光路に配置された各部は、励起光を測定対象物30に照射する励起光照射手段に相当する。
【0035】
測定対象物30の励起光が照射された箇所では、蛍光が発生する。測定対象物30から発せされた蛍光は、対物レンズ18を励起光とは逆向きに通り、ダイクロイックミラー17に平行光として入射する。ダイクロイックミラー17は入射した蛍光を反射し、その反射光は、励起光除去フィルター19及び分光器20に入射して、必要な波長のみが取りだされる。分光器20に代えて、ローパスフィルターやバンドパスフィルターを用いてもよい。必要な波長成分が取り出された蛍光は、光学分離手段21で、複数の部分光に分離される。
【0036】
光学分離手段21は、例えば分光器20側から入射する蛍光の光スポット内に配置される複数のマイクロレンズを含む。光学分離手段21に入射した光は、複数のマイクロレンズにより、各マイクロレンズの領域に対応した複数の部分光に分離される。光学分離手段21が有するマイクロレンズの数、すなわち光学分離手段21が分離する部分光の数は、3つ以上が好ましい。光学分離手段21は、例えば9つのマイクロレンズが正方行列状に配置された3×3のマイクロレンズアレイとして構成される。その場合、光学分離手段21は、蛍光を9つの部分光に分離する。各マイクロレンズは、蛍光の対応する領域の光を集光し、その光を光学遅延手段22の入射端側に向けて出射する。
【0037】
光学遅延手段22は、例えば長さが相互に異なる複数の光ファイバを含む。光学遅延手段22の入射端側から光ファイバに入射した部分光は、光ファイバを通る際に遅延が生じ、その出射光は、光ファイバの長さに応じた時間だけ遅延される。各部分光は、長さが異なる光ファイバを通ることで、異なる遅延時間だけ遅れて出射端から出射する。
【0038】
ゲート手段23は、光学遅延手段22で遅延された複数の部分光を、時間ゲート法の1ウィンドウの時間幅に対応した所定時間幅の間だけ撮像手段25側に出射する。ゲート手段23は、光を増強する機能を持っていてもよい。例えばゲート手段23に、ゲート機能付きのイメージインテンシファイアを用いることもできる。ゲート手段23は、例えば光学分離手段21で分離された部分光の数に対応した数のゲート機能付きイメージインテンシファイアを有する。例えば光学分離手段21が3×3のマイクロレンズを有し、9つの部分光を出射するとき、ゲート手段23は、各部分光に対応した3×3のゲート機能付きイメージインテンシファイアを有する。
【0039】
撮像手段25は、ゲート手段23を介して各部分光を受光する。撮像手段25は、例えば光学分離手段21で分離された部分光の数に対応した数の電荷撮像素子(CCDイメージセンサ:Charge Coupled Device Image Sensor))を有する。例えば、光学分離手段21が3×3のマイクロレンズを有し、9つの部分光を出射するとき、撮像手段25は、各部分光に対応した3×3のCCDを有する。ゲート手段23が3×3のゲート機能付きイメージインテンシファイアを有するとき、各CCDは、対応するゲート機能付きイメージインテンシファイアを介して部分光を受光する。ゲート手段23及び撮像手段25は、測定対象物30から発せられた蛍光を検出するための光検出手段に相当する。蛍光は、1つ又は複数の波長の蛍光として検出されてもよい。
【0040】
PC26は、励起光検出手段15から励起光を検出した旨の信号を受け取ると、撮像手段25を駆動する。またPC26は、信号を受け取った時点から所定時間の経過後に、ゲート制御手段24を介し、所定時間幅だけ部分光をゲート手段23から撮像手段25側に出射させる。ゲート手段23は、例えば9つのゲート機能付きイメージインテンシファイアから、同時に各部分光を出射する。撮像手段25は、例えば9つのCCDで、各ゲート機能付きイメージインテンシファイアから出射した光を同時に検出する。各部分光には異なる遅延時間が与えられているため、9つのCCDは、相互に異なる時間領域における蛍光を検出することになる
【0041】
PC26は、蛍光寿命算出手段としても機能し、撮像手段25で検出された各部分光の光強度に基づいて、蛍光寿命を算出する。より詳細には、PC26は、各部分光の検出結果に基づいて、複数の時間領域のそれぞれにおける蛍光発光強度を求め、求めた蛍光発光強度に基づいて蛍光寿命を算出する。
【0042】
なお、光学分離手段21にて蛍光を複数の部分光に分離するとき、蛍光のどの部分を分離するかに応じて、複数の部分光の光量の間に差が生じることがある。例えば光学分離手段21にて3×3のマイクロレンズアレイを用いた場合、分離された9つの部分光のうち、蛍光の光スポットの中心に対応するマイクロレンズで分離された部分光の光量が最も多く、その他のマイクロレンズで分離された部分光の光量は、中心から分離された部分光の光量よりも少なくなる。部分光の光量の差が無視できない程度存在する場合、PC26は、光学分離手段21で分離された複数の部分光間での光量の差を補正した上で、蛍光寿命を算出すればよい。また、各部分光は長さが異なる光ファイバを通り、各部分光には、光ファイバの長さに応じた損失が生じる。PC26は、必要に応じて、部分光の損失の差を補正した上で、蛍光寿命を算出すればよい。石英ファイバの場合、損失は1kmで数%程度である。
【0043】
図2は、蛍光寿命測定の動作手順を示す。レーザ光源11は、パルス励起光を出射する(ステップS1)。このパルス励起光は、必要に応じてパルスピッカー12で間引かれた後、ミラー13で反射してビームスプリッター14に入射する。ビームスプリッター14はパルス励起光の一部を反射し、残りを測定対象物30方向に透過する。ビームスプリッター14を透過した励起光は、非線形光学結晶16及びダイクロイックミラー17を通り、対物レンズ18により測定対象物30の所望の箇所に集光される。このとき測定対象物30に照射される励起光は点光源であるとする。
【0044】
測定対象物30の励起光が照射された箇所では蛍光が発生する(ステップS2)。この蛍光は、対物レンズ18を逆向きに通り、ダイクロイックミラー17で反射し、励起光除去フィルター19及び分光器20を通って励起光の成分が除去される。測定対象物30から発せられた蛍光は、不所望な成分が除去された後、光学分離手段21で複数の部分光に分離される。光学遅延手段22は、分離された複数の部分光に対して、相互に異なる遅延時間を与える(ステップS3)。
【0045】
一方、ビームスプリッター14で反射した励起パルス光の一部は励起光検出手段15に入射し、励起光検出手段15は、励起光が照射された旨を検出する。励起光検出手段15は、PC26に励起光照射を検出した旨を通知し、PC26は、励起光照射から所定時間の経過後に、ゲート制御手段24に対して、部分光の出射を指示する。ゲート制御手段24は、ゲート手段23に対して信号を与え、光学遅延手段22を介して入射する各部分光を、撮像手段25側に、指定時間幅だけ同時に出射させる。撮像手段25は、遅延された複数の部分光を同時に検出する(ステップS4)。
【0046】
PC26は、撮像手段25における部分光の検出結果を演算処理し、蛍光減衰曲線と蛍光寿命の値とを計算する(ステップS5)。PC26は、ステップS5において各部分光の検出光強度を時間軸に対してプロットし、積分発光強度が指数関数的に減衰すると仮定して蛍光寿命を求める。部分光の分離数を増やすことで、時間ゲート法におけるウィンドウ分割数を増やすことができ、検出光強度の時間軸に対するプロット数を増やすことができる。ウィンドウ分割数を増やすことで、多成分解析も可能となる。
【0047】
続いて、光学遅延手段22について詳細に説明する。ここでは、一例として、光学遅延手段22に、3×3の光ファイバ(遅延光路)を用いるものとして説明を行う。光学分離手段21は、3×3のマイクロレンズアレイを有しているものとする。測定対象物30から発せられた蛍光は平行光として分光器20に入射し、分光器20で必要な波長のみが取り出されて光学分離手段21に入射する。光学分離手段21は、3×3のマイクロレンズアレイにより、測定対象物30から発せられた蛍光を、3×3の9つの部分光に分離する。分離された9つの部分光は、対応する光ファイバを透過し、出射端からゲート手段23に出射する。
【0048】
図3Aは、光ファイバの入射端における各部分光の減衰特性を示す。図3Aには、光ファイバ1から光ファイバ9までの9つの光ファイバに入射する部分光の、入射端における光強度と時間との関係が示されている。図3Aにおいて、紙面向って左上の減衰特性は光ファイバ1の入射端での部分光に対応し、右下は光ファイバ9の入射端での部分光に対応している。各部分光は、測定対象物の蛍光から分離された光であるため、各部分光の時間軸に対する減衰特性は、理論上、蛍光の減衰特性と同一である。このため、蛍光から分離された9つの部分光の減衰特性は、基本的に同一の特性を示す。図3A中に斜線で示す領域は、各部分光において、蛍光発光強度の検出を行うべき時間領域(ウィンドウ)を表している。
【0049】
図3Bは、光ファイバの出射端における各部分光の減衰特性を示す。遅延光路として働く光ファイバの長さは相互に異なるため、光ファイバの出射端における部分光の減衰特性の時間軸は、光ファイバの長さに応じて遅れる。図3Bでは、光ファイバ1のファイバ長がもっと長く、以降順次にファイバ長が短くなっていき、光ファイバ9のファイバ長が最も短い。ファイバ長がもっと短い光ファイバ9を透過した部分光に対し、光ファイバ1〜8を透過した部分光はそれぞれ遅れ、それら部分光の減衰特性は、透過した光ファイバの長さ(遅延時間)の差の分だけ、光ファイバ9を透過した部分光の減衰特性に対して紙面向って右方向(時間が遅れる方向)にずれる。
【0050】
各部分光は、ゲート手段23に対して、図3Bに示す減衰特性で入射する。各部分光の減衰特性の時間軸は互いにずれているため、ゲート手段23により、時間軸上のある時間領域だけ各部分光を通過させれば、一度のゲート通過のみで、蛍光減衰曲線の複数の時間領域の積分光強度を得ることができる。例えば、9つの部分光のうち、遅延光路(遅延時間)が最も長い光ファイバを透過した部分光がゲート手段23に到達した後に、ゲート手段23が所定時間幅だけ各部分光を撮像手段25に通過させる。このようにすることで、撮像手段25において、図3Bにおいて斜線で示す9つの時間領域における積分光強度を、一度のゲート通過で検出することができる。部分光の光強度が不十分な場合は、何度か励起して、蛍光強度を更に積算すればよい。
【0051】
ここで、蛍光発光強度(部分光の光強度)の測定期間は、測定対象物に依存して変化し得る蛍光寿命の長さに応じて適宜設定すればよい。また、光学遅延手段22にて各部分光をどの程度遅延させるかは、時間ゲート法における各ウィンドウを測定期間内のどの時間領域に割り当てるかに応じて適宜設定すればよい。例えば、蛍光発光強度を、測定期間にわたって等間隔で並ぶ9つのウィンドウで測定する場合、光学遅延手段22において、最も短い遅延時間を基準にそこから測定期間の1/9ずつ順次に長くなる遅延時間で各部分光を遅延させればよい。
【0052】
例えば屈折率が1の9つの光ファイバを用いて、蛍光発光強度(蛍光減衰曲線)を45nsecの時間範囲で測定することを考える。各部分光は、屈折率1の媒質中を1秒間におよそ30万km進むことができる。ここから計算すると、各部分光が5nsecの時間で屈折率が1の光ファイバを進む距離はおよそ1.5mとなる。従って、光ファイバの長さを1.5mずつ変えると、光ファイバにおける遅延時間を5nsecずつ変えることができる。蛍光が光ファイバの長さ差分を進む時間は、時間ゲート法におけるウィンドウ間の時間差に対応する。上記の例では、ファイバ長を1.5mずつ変えることで、45nsecの測定期間において、時間ゲート法におけるウィンドウを5nsecずつずらした9つのウィンドウで、蛍光寿命の測定が可能である。
【0053】
図3Bに示す減衰特性が得られる光ファイバのセットを考えると、光ファイバ1〜8のファイバ長さは、ファイバ長が最も短い光ファイバ9のファイバ長から1.5mずつ長くなっていればよい。光ファイバ9のファイバ長を基準とすると、光ファイバ8のファイバ長はそれよりも1.5m長く、光ファイバ7のファイバ長はそれより更に1.5m長くなる。まとめると、各光ファイバのファイバ長は、光ファイバ9のファイバ長をLとして、以下に示すようになる。
光ファイバ1:L+12.0m
光ファイバ2:L+10.5m
光ファイバ3:L+9.0m
光ファイバ4:L+7.5m
光ファイバ5:L+6.0m
光ファイバ6:L+4.5m
光ファイバ7:L+3.0m
光ファイバ8:L+1.5m
光ファイバ9:L
上記とは異なる長さの光ファイバのセットを用いることで、45nsecとは異なる測定時間に対応することが可能である。
【0054】
本実施形態では、光学分離手段21は、レンズを用いて蛍光を複数の部分光に分離し、光学遅延手段22は、部分光のそれぞれを、長さが相互に異なる複数の光ファイバを用いて相互に異なる遅延時間だけ遅延し、撮像手段25は、異なる遅延時間で遅延された複数の部分光を同時に所定時間幅で検出する。本実施形態では、レンズを用いて蛍光を複数の部分光へ分離しており、光スポット内に配置されるレンズの数を変えることで、部分光の数を任意に増加させることができる。
【0055】
特許文献1においては、蛍光の分離数を増加させるためには、複数の偏光解消板と偏光ビームスプリッターとの組を並べて配置する必要があり、広い設置面積が必要であった。本実施形態では、レンズの数を変えるだけで部分光の数を増やすことができ、広い設置面積を必要とすることなく、部分光の数を増加させることができる。また、本実施形態では、部分光の数を増やしたときでも、それに応じて光ファイバの数を増やせばよく、占有スペースを増大させることなく、遅延光路を追加できる。
【0056】
また、本実施形態では、レンズにより分離された部分光を光ファイバに入射する部分の光軸調整を行えばよく、煩雑な光軸調整を必要とせずに、容易に光の分離数を増加させることができる。更に、特許文献1では多段階に偏光解消板と偏光ビームスプリッターとの組を配置する必要があり、その場合、各段において光の吸収や散乱が生じることから、段数を増やすほど光利用効率が悪化する。本実施形態では、分離数を増やすために多段階に偏光解消板と偏光ビームスプリッターとの組を配置する必要がなく、特許文献1に比して光利用効率を向上することができる。
【0057】
ここで、通常の時間ゲート法において、例えば3つのウィンドウで積分蛍光発光強度を求めるためには、励起光パルスを最低でも3回照射する必要があった。本実施形態では、光学分離手段21で蛍光を3以上の分割し、光学遅延手段22で3以上の部分光をそれぞれ異なる遅延時間で遅延し、撮像手段25で遅延された3以上の部分光を所定時間幅だけ同時に検出することで、最低限1回の励起光パルス照射で、3以上のウィンドウにおいて積分蛍光発光強度を求めることができる。本実施形態では、最低1つの励起光パルスで測定を完了できるため、細胞などの時々刻々と変化する試料の同一時刻での蛍光寿命測定が可能である。また、1パルス又は少ないパルス数で測定が可能であるため、光退色の影響を抑えることができる。
【0058】
特許文献1では、時間領域の分割数が2つであるため、蛍光減衰曲線のフィッティング数が少なく、多成分の解析も困難であった。本実施形態では、例えば光学分離手段21に3×3のマイクロレンズアレイを用いることで、蛍光を9つの部分光に分離することができ、最低限一度の励起光照射で、9つの時間領域における蛍光発光強度を検出することができる。更に光学分離手段21に4×4のマイクロレンズアレイを用いることで、3×3のマイクロレンズアレイを用いる場合に比して、より多くの時間領域における蛍光発光強度を検出することができ、蛍光減衰曲線の近似の精度を上げることができる。マイクロレンズアレイにおけるマイクロレンズの配列数を5×5、6×6と増やしていくほど、更に近似の精度を向上できる。部分光の分離数を増やすほど、時間ゲート法におけるウィンドウの数を増やすことができ、蛍光減衰曲線をフィッティングする点の数を増やして、解析の精度を向上することができる。また、蛍光減衰曲線のフィッティング数を増やすことで、多成分の解析も可能となる。
【0059】
本実施形態では、遅延光路に光ファイバを用いている。特許文献1では、遅延光路中に多数のミラーやレンズを配置しており、遅延時間を調整する際には、ミラーやレンズの位置、レンズの焦点距離などを適切に調整する必要があった。このため、容易に遅延時間を変更することができなかった。これに対し、本実施形態では、各光ファイバの長さを調整することで、簡易に部分光の遅延時間を調整することができる。例えば、複数の測定期間に対応して、複数の光ファイバの組を用意しておき、ターゲットとする蛍光に応じて光ファイバの組を付け替えて使用することも可能である。
【0060】
なお、光学分離手段21において、マイクロレンズの配置の仕方は任意であり、必ずしもマイクロレンズが正方行列状に配置されている必要はない。例えば光スポットの縦方向と横方向とで、マイクロレンズを配列する数が異なっていてもよい。また、マイクロレンズのピッチを行ごとに例えば1/2ずつずらして配置することもできる。マイクロレンズは、測定対象物から発せられた蛍光が、できるだけ多く部分光として分離されるように配置されることが好ましい。つまり、測定対象物から発せられた蛍光の光量と、分離された複数の部分光の光量の合計との差ができるだけ小さいことが好ましい。
【0061】
時間分解蛍光測定装置10は、図1に示す構成に加えて、測定対象物30上で励起光の照射位置を走査する走査手段を有していてもよい。走査手段は、測定対象物30の表面上で、例えば点光源である励起光の照射位置を互いに直交するx方向とy方向との2方向に走査する。走査手段には、例えばガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントミラー、ピエゾステージなどを用いることができる。PC26(蛍光寿命算出手段)は、走査された各位置において、蛍光発光強度(減衰特性)と蛍光寿命とを求める。
【0062】
PC26は、蛍光寿命算出手段としての機能に加えて、走査された励起光の各位置に対応する蛍光の発光強度の分布を表す蛍光画像を生成する蛍光画像生成手段として機能してもよい。PC26は、蛍光発光強度に代えて、走査された各位置に対応して算出された蛍光寿命の分布を表す画像を蛍光画像として生成してもよい。または、PC26は、発光強度と蛍光寿命の双方の分布を表す画像を蛍光画像として生成してもよい。PC26は、生成した蛍光画像を、例えばディスプレイなどの表示装置に表示する。
【0063】
上記の走査手段は、測定対象物30の表面だけでなく、測定対象物30に対する励起光の集光位置を深さ方向に走査してもよい。深さ方向の走査には、ピエゾステージ又は集光レンズ(対物レンズ18)を用いることができる。蛍光寿命測定手段は、測定対象物の表面上の各位置だけではなく、深さ方向に走査された各位置についても、蛍光発光強度(減衰特性)と蛍光寿命とを求めればよい。また、蛍光画像生成手段は、測定対象物30の表面上の2方向に深さ方向を加えて、蛍光画像を3次元情報として生成すればよい。
【0064】
次いで、上記の時間分解蛍光計測装置を組み込んだ顕微鏡システムを説明する。図4は、顕微鏡システムを示す。顕微鏡システム100の構成は、図1に示す時間分解蛍光測定装置10を構成する手段のうちの一部が顕微鏡101に組み込まれている点を除けば、基本的に時間分解蛍光測定装置10の構成と同様である。
【0065】
レーザ光源11から出射したパルス励起光は、必要に応じてパルスピッカー12で所望の繰り返し周波数に間引かれ、ミラー13を介してビームスプリッター14に入射し、2つの光に分離される。分離された光のうちの一方は、ビームスプリッター14で反射して励起光検出手段15に向かう。分離された光の他方は非線形光学結晶16に入射し、非線形光学結晶16により入射波長の第2高調波又は第3高調波が発生する。
【0066】
非線形光学結晶16により第2高調波又は第3高調波が発生した励起光は、顕微鏡101に導入される。導入された励起光は、励起フィルター102を介してダイクロイックミラー17に入射し、ダイクロイックミラー17を透過して、対物レンズ18により、測定対象物30の所望の箇所に照射される。測定対象物30から発せられた蛍光は、対物レンズ18により平行光化され、ダイクロイックミラー17を透過する。ダイクロイックミラー17を透過した光は、励起光除去フィルター19を通り、ミラー103で反射して、顕微鏡101の外部に出射する。
【0067】
顕微鏡101から出射した光は、分光器20で分光され、光学分離手段21で複数の部分光に分離される。分離された複数の部分光は、光学遅延手段22においてそれぞれ異なる遅延時間だけ遅延される。異なる遅延時間で遅延された複数の部分光は、ゲート手段23を介して、撮像手段25で同時に検出される。PC26は、撮像手段25における複数の部分光の検出結果に基づいて、蛍光寿命を算出する。
【0068】
励起光に点光源を用いる場合、励起光を、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントミラー、ピエゾステージなどの走査手段を用いて測定対象物30の表面上を2次元走査すれば、2次元的に蛍光減衰曲線を得ることができ、蛍光寿命の2次元画像情報を得ることができる。励起光にライン光源を用いる場合、励起光を1方向に走査することで、蛍光寿命の2次元画像情報を得ることができる。励起光に面光源を用いる場合、走査手段を用いなくても、蛍光寿命の2次元画像を得ることができる。表面上の2方向に加えて、測定対象物30に励起光を集光する集光レンズ又はピエゾステージにより深さ方向(Z軸方向)にも走査を行うことで、3次元画像情報を得ることができる。
【0069】
引き続き、上記の時間分解蛍光計測装置を組み込んだ内視鏡プローブシステムを説明する。図5は、内視鏡プローブシステムを示す。内視鏡プローブシステム200の構成は、図1に示す時間分解蛍光測定装置10を構成する手段のうちの一部が内視鏡プローブ装置201に組み込まれている点を除けば、基本的に時間分解蛍光測定装置10の構成と同様である。
【0070】
レーザ光源11から出射したパルス励起光は、必要に応じてパルスピッカー12で所望の繰り返し周波数に間引かれ、ミラー13を介してビームスプリッター14に入射し、2つの光に分離される。分離された光のうちの一方は、ビームスプリッター14で反射して励起光検出手段15に向かう。分離された光の他方は非線形光学結晶16に入射し、非線形光学結晶16により入射波長の第2高調波又は第3高調波が発生する。
【0071】
非線形光学結晶16により第2高調波又は第3高調波が発生した励起光は、内視鏡プローブ装置201に導入される。導入された励起光は、励起フィルター202を介してダイクロイックミラー17に入射し、ダイクロイックミラー17を透過する。ダイクロイックミラー17を透過した励起光は、光ファイバ203を介して内視鏡プローブ204に導かれ、内視鏡プローブ204の先端から測定対象物30の所望の箇所に照射される。測定対象物30から発せられた蛍光は、内視鏡プローブ204を逆向きに通り、光ファイバ203を経てダイクロイックミラー17に入射する。
【0072】
図6は、内視鏡プローブ204の断面を示す。内視鏡プローブ204は、内視鏡の鉗子口を通して、測定対象物30である患部へと到達する。内視鏡プローブ204は、中央に形成された光ファイバ206と、周囲に形成された複数の光ファイバ207とを有する。中央に形成された光ファイバ206は、励起光を測定対象物30(図5)まで導光する入射用として機能する。周囲に形成された複数の光ファイバ207は、測定対象物30から発せられた蛍光を受光し、光ファイバ203側へ導光するための受光用として機能する。
【0073】
図5に戻り、光ファイバ203側からダイクロイックミラー17に入射した光は、励起光除去フィルター19を通り、ミラー205で反射して、内視鏡プローブ装置201の外部に出射する。内視鏡プローブ装置201から出射した光は、分光器20で分光され、光学分離手段21で複数の部分光に分離される。分離された複数の部分光は、光学遅延手段22においてそれぞれ異なる遅延時間だけ遅延される。異なる遅延時間で遅延された複数の部分光は、ゲート手段23を介して、撮像手段25で同時に検出される。PC26は、撮像手段25における複数の部分光の検出結果に基づいて、蛍光寿命を算出する。
【0074】
励起光に点光源を用いる場合、励起光を、内視鏡先端設けたMEMSスキャナミラーなどの走査手段を用いて測定対象物30の表面上を2次元走査すれば、2次元的に蛍光減衰曲線を得ることができ、蛍光寿命の2次元画像情報を得ることができる。また、ファイバハンドルなどで、測定対象物30からの信号を2次元的に受光することで、2次元的に蛍光減衰曲線を得てもよい。励起光にライン光源を用いる場合、励起光を1方向に走査することで、蛍光寿命の2次元画像情報を得ることができる。励起光に面光源を用いる場合、走査手段を用いなくても、蛍光寿命の2次元画像を得ることができる。表面上の2方向に加えて、測定対象物30に励起光を集光する集光レンズなどにより深さ方向(Z軸方向)にも走査を行うことで、3次元画像情報を得ることができる。
【0075】
ここで、光学遅延手段22は、光学分離手段21との接続点、及びゲート手段23との接続点にコネクタを有し、遅延光路を構成する光ファイバが着脱可能となっている構成を採用することができる。図7は、光学分離手段21と光学遅延手段22との接続部分を示す。図7においては、分光器20(図1)と光学分離手段21とが、1つのボックス50内に収められている。励起光除去フィルター19の出射光は、光ファイバ51を介してボックス50内の分光器20に入射する。光ファイバ51を用いて励起光除去フィルター19の出射光を分光器20に入射する構成は、特に、顕微鏡システム100(図5)や内視鏡プローブシステム200(図6)のように、顕微鏡101や内視鏡プローブ装置201から蛍光を取り出す構成において有効であると考えられる。
【0076】
ボックス50内に収められた光学分離手段21は、3×3のマイクロレンズアレイを含むものとする。コネクタ52は、光学遅延手段22を構成する光ファイバ53を取り付けるためのコネクタ部分である。コネクタ52は、3×3の部分光に対応して、3×3の接続部分(光出射端子)を有する。各端子には、光ファイバ53が着脱可能である。光学遅延手段22とゲート手段23との接続部分も、コネクタ52と同様な構成になっている。コネクタ52には、蛍光寿命測定時間に応じて、任意のファイバ長の光ファイバ53を接続することができる。蛍光測定時間が異なる蛍光の蛍光寿命測定を行う場合は、コネクタ52から光ファイバ53を抜き、別の光ファイバ53を挿入すればよい。長さが異なるファイバを付け替えれば、蛍光減衰曲線の測定時間領域を自由に変えることが可能である。
【0077】
図8は、光学分離手段21と光学遅延手段22との接続部分の別例を示す。図7においては、光ファイバ53が1本単位で着脱可能となっていた。これに代えて、例えば9本の光ファイバをコネクタ54にまとめ、ボックス50側のコネクタ52と、光ファイバ53側のコネクタ54とを接続するようにしてもよい。例えば、複数の蛍光寿命測定期間に応じて、9本の光ファイバの組を複数個用意しておく。各組では、光ファイバのファイバ長の差分が異なる。蛍光寿命測定に際しては、用意しておいた複数の光ファイバの組のうち、ターゲットとなる蛍光の蛍光寿命に応じた蛍光寿命測定期間に対応した組を使用すればよい。
【0078】
以下、実施例を説明する。メタノールを溶媒とし、アントラセンを溶かして5.0×10−6mol/Lの溶液を作った。この溶液を、10mm角の密閉可能な石英セルに適量入れ、窒素バブリングにより溶存酸素を除去した後に石英セルに後蓋をし、励起波長を325nm、蛍光波長を360〜500nmとして、時間分解蛍光測定装置10(図1)を用いて蛍光寿命測定を行った。
【0079】
蛍光減衰曲線は50nsec程度の時間範囲で測定し、光学遅延手段22には屈折率が1.5の石英ガラスからなるファイバを4本用いた。光は、屈折率が1.5の媒質中を1秒間におよそ20万km進むことができる。ここから計算すると、光ファイバ中を進行する光が12.5nsec(12.5nsec×4=50nsec)の時間で進む距離は、およそ2.5mとなる。50nsecの測定期間で蛍光寿命を測定するために、4本の光ファイバの長さは2.5mずつ異なるように設定した。より詳細には、最もファイバ長が短いファイバ4の長さを1mとして、ファイバ3のファイバ長を1m+2.5m、ファイバ2の長さを1m+5.0m、ファイバ1の長さを1m+7.5mに設定した。
【0080】
上記の装置を用い、時間ゲート法によるアントラセンの蛍光寿命測定を行った。時間軸に対して4点のプロットが得られ、この4点をフィッティングすることで、アントラセンの蛍光寿命はおよそ5.1nsecと求められた。
【0081】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の時間分解蛍光測定装置及び方法は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
10:時間分解蛍光測定装置
11:レーザ光源
12:パルスピッカー
13:ミラー
14:ビームスプリッター
15:励起光検出手段
16:非線形光学結晶
17:ダイクロイックミラー
18:対物レンズ
19:励起光除去フィルター
20:分光器
21:光学分離手段
22:光学遅延手段
23:ゲート手段
24:ゲート制御手段
25:撮像手段
26:コンピュータ(PC)
30:測定対象物
50:ボックス
51、53:光ファイバ
52、54:コネクタ
100:顕微鏡システム
101:顕微鏡
102:励起フィルター
103:ミラー
200:内視鏡プローブシステム
201:内視鏡プローブ装置
202:励起フィルター
203:光ファイバ
204:内視鏡プローブ
205:ミラー
206、207:光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波長の光を励起光として測定対象物に照射する光照射手段と、
前記測定対象物から発せられた蛍光を、複数のレンズを用いて複数の部分光に分離する光学分離手段と、
前記分離された複数の部分光のそれぞれを、長さが相互に異なる複数の光ファイバを用いて相互に異なる遅延時間だけ遅延する光学遅延手段と、
前記光学遅延手段で遅延された前記複数の部分光のそれぞれの光強度を同時に所定時間幅の間だけ検出する光検出手段と、
前記光検出手段での各部分光の検出結果に基づいて、蛍光寿命を算出する蛍光寿命算出手段とを備えたことを特徴とする時間分解蛍光測定装置。
【請求項2】
前記光検出手段が、前記蛍光の相互に異なる時間領域に対応する時間領域の前記部分光を検出するものである請求項1に記載の時間分解蛍光測定装置。
【請求項3】
前記光ファイバが、コネクタを介して前記前記光学分離手段及び前記光検出手段に着脱可能に取り付けられているものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の時間分解蛍光測定装置。
【請求項4】
前記光学分離手段が、前記測定対象物から発せられた蛍光の光スポット内に配置される複数のマイクロレンズを含むことを特徴とする請求項1から3何れかに記載の時間分解蛍光測定装置。
【請求項5】
前記光学分離手段が、前記測定対象物から発せられた蛍光を3以上の部分光に分離するものであることを特徴とする請求項1から4何れかに記載の時間分解蛍光測定装置。
【請求項6】
前記光検出器が、ゲート機能を有するイメージインテンシファイアと電荷撮像素子とを含むことを特徴とする請求項1から5何れかに記載の時間分解蛍光測定装置。
【請求項7】
前記蛍光寿命算出手段が、前記光検出手段での前記複数の部分光の検出結果に基づいて複数の時間領域のそれぞれにおける蛍光発光強度を求め、該求められた蛍光発光強度に基づいて前記蛍光寿命を算出するものであることを特徴とする請求項1から6何れかに記載の時間分解蛍光測定装置。
【請求項8】
前記蛍光寿命算出手段が、記複数の部分光間での光量の差、及び前記複数の光学遅延手段間での前記部分光の損失の差の少なくとも一方を補正した上で前記蛍光寿命を算出するものであることを特徴とする請求項7に記載の時間分解蛍光測定装置。
【請求項9】
前記励起光を前記測定対象物の表面上で走査する走査手段と、
前記走査された励起光の各位置に対応する前記蛍光の発光強度、及び前記算出された蛍光寿命の少なくとも一方の分布を表す蛍光画像を生成する蛍光画像生成手段とを更に備えたことを特徴とする請求項1から8何れかに記載の時間分解蛍光測定装置。
【請求項10】
前記走査手段が、前記測定対象物の表面上に加えて、前記測定対象物上の前記励起光の集光位置を深さ方向にも走査し、前記蛍光画像生成手段が、前記蛍光画像を3次元情報として生成するものであることを特徴とする請求項9に記載の時間分解蛍光測定装置。
【請求項11】
請求項1から10何れかに記載の時間分解蛍光測定装置を備えたことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項12】
請求項1から10何れかに記載の時間分解蛍光測定装置を備えたことを特徴とする内視鏡ファイバプローブシステム。
【請求項13】
所定の波長を有する光を励起光として測定対象物に照射するステップと、
前記測定対象物から発せられた蛍光を、複数のレンズを用いて複数の部分光に分離するステップと、
前記分離された複数の部分光を、相互に異なる遅延時間だけ遅延するステップと、
前記光学遅延手段で遅延された複数の部分光それぞれの強度を、所定時間幅の間だけ同時に検出するステップと、
前記部分光の検出結果に基づいて、蛍光寿命を算出するステップとを有することを特徴とする時間分解蛍光測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−132741(P2012−132741A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284104(P2010−284104)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】