説明

時限パルス放出システム

【課題】1種または複数種の塩基性の活性薬剤成分をその薬物を必要としている体内に送達し、目標PK(薬物動態)プロファイルを達成する単位多粒子剤形を提供すること。
【解決手段】本発明は、バリアコーティングと遅延コーティングを有する1種または複数種の多層被覆薬物粒子(ビーズ、ペレット、ミニ錠剤/ミクロ錠剤)を含む単位多粒子剤形に関する。それぞれの時限パルス放出(TPR)ビーズ集団は、所定の遅延時間を示した後、異なる放出特性を示す。バリアコーティングの組成および厚さ、遅延コーティングの組成および厚さ、IRビーズと1種または複数種のTPRビーズ集団との比率、および総投与量は、活性成分のアルカリ性度、pH依存性溶解度および排出半減期に応じて変えることができ、そのような薬物を必要とする患者における(一日1回または2回の投与計画に適した)目標PKプロファイルを達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、約5時間を超える所定の遅延(遅延時間)の後に薬物を放出する1種または複数種のアルカリ性医薬品の活性成分(actives)を含む時限パルス放出ビーズ集団(timed、pulsatile release bead populations)の開発に関し、さらに一日2回または1回の投与計画に適した目標PK(薬物動態、すなわち、血漿濃度−時間)プロファイルの経口薬物送達システムの提供に関するものであり、これによって、有害な副作用の潜在的な危険をできるだけなくし、患者のコンプライアンスおよび治療効果を向上させ、治療コストが削減される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの治療薬は、一定の割合で吸収部位またはその付近に投与されるとき、最も効果的である。そのように投与された治療薬の吸収は、一般的に、最大の効能、及び、最小の有毒副作用を生じさせる所望の血漿濃度をもたらす。経口適用のための浸透デバイス(osmotic devices)などの精巧な薬物送達システムを開発することに多大の努力が注がれてきた。しかし、薬物の血中濃度を一定に保つことが望ましくない場合がある。例えば、心血管疾患の時間療法の主な目的は、最も必要とされるとき(例えば、早朝の時間)により高濃度の薬物を送達し、必要が少ないとき(例えば、深夜および早期の就寝時間)には濃度を低くすることである。適切に設計された薬物送達システムに加えて、投与の時間も同様に重要である。必要とされる特有の薬物動態プロファイルは、薬物動態パラメーター、薬物溶解度の知識、消化管からの吸収および排出半減期を用いて開発された模擬モデリングから計算することができる。
【0003】
時限パルス送達システム(timed,pulsatile delivery system)は、活性成分の良好な吸収、及び、より効果的な血漿プロファイルをもたらす、所定の遅延時間または特定の部位における1種または複数種の即時放出パルスを提供することができる。しかし、剤形サイズの潜在的な制限、および/または、剤形の製造に用いる高分子材料およびその組成が原因で、そのような経口に適用できるパルス放出システムはほんのわずかしかない。イシノ(Ishino)らは、ドライコート錠剤形態(dry−coated tablet form)をChemical Pharm.Bull 第40巻(11)、3036−3041頁(1992年)に開示している。藤沢薬品工業株式会社(Fujisawa Pharmaceutical Company)に譲渡された米国特許第4,871,549号明細書は、時間制御破裂システムの製造を開示しており、そのシステムでは、所定の時間間隔の急速放出パルスが、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン(crospovidone)、架橋カルボキシメチルセルロース、スターチグリコレートナトリウム)などの膨張剤を含んだ薬物コアの周りの膜の破裂によって引き起こされる。これらのシステムは製造するのがかなり困難であり、一貫して機能しない。
【0004】
米国特許第6,531,152号明細書は、コアの膨潤時に破裂して活性成分を急速に放出する疎水性および親水性高分子を含む硬質の膜を有したコア物質(多糖または架橋プロテインおよび崩壊剤(体液または水にさらされると膨潤する)など)と共に薬物を含むコアを含む破裂制御薬物送達システムを開示している。米国特許第6,531,152号明細書は、約12時間までの遅延時間を有する特定の錠剤を開示している。バーンサイド(Burnside)らに付与された米国特許第6,287,599号明細書は、pH依存性溶解度を有する少なくとも1種の薬剤的活性剤、少なくとも1種のpH非依存性徐放性剤、およびpHが5.5を超えると活性成分の溶解速度を増大させる少なくとも1種のpH依存性剤を含む医薬組成物(錠剤)を開示している。そのようなシステムはほぼpH非依存性の薬物放出プロファイルを示す。
【0005】
しかし、一体型の薬物送達システムは胃腸通過時間が一定でないので、胃腸通過時間にばらつきのない被覆薬物粒子(ビーズ、ペレットまたはミクロ錠剤)を含んでいる多粒子(multiparticulate)剤形が好ましい。
【0006】
上記の送達システムのパルス破裂放出時間は、適切なコア物質を選択することにより、また膜の組成および/または厚さを変えることにより制御される。しかし、薬物放出が、膨張剤、疎水性賦形剤、浸透剤のみまたはそれらの混合物によって制御されるそのような薬物送達システムに基づく良質の製品を一貫して製造することは困難である。
【0007】
ユーランド・ファーマスティカル・リミッテッド(Eurand Pharmaceutical Limited)に譲渡された米国特許第6,627,223号明細書(参照として本明細書に組み込まれている)は、それぞれが明確な放出プロファイルを有する1種または複数種のビーズ集団の組合せからなるパルス放出システムを開示している。経口投与後の時限徐放プロファイル(すなわち、約4時間の遅延時間(すなわち、放出がほとんど行われないまたは全く行われない)後の12〜24時間にわたる徐放プロファイル)が米国特許第6,500,454号明細書に開示されており、二相性放出プロファイル(すなわち、約3時間の遅延時間の後の即時放出パルスと急速破裂)が米国特許第6,663,888号明細書に開示されている。エチルセルロース(ダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Company)から入手可能なエトセル・スタンダード・プレミアム(Ethocel Standard Premium)10cps)などの水不溶性高分子およびフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(日本国東京の信越化学工業株式会社(Shin−Etsu Chemical Corporation、Tokyo、Japan)から入手可能なHP−55)などの腸溶性(enteric)高分子を含む膜を、10〜15%だけ重量増加するように塩酸プロプラノロールを含んだ薬物層ビーズ(25−30メッシュの糖球上に被覆された56%の薬物負荷(drug load))に施すことにより、3時間を超える遅延時間を達成できた。しかしながら、その同様のコーティング組成物をニザチジンを含む薬物層ビーズ(25−30メッシュの糖球上に被覆された56%の薬物負荷)に実に35〜39重量%も施した場合でも、遅延時間は3時間未満であった。先行技術では、溶出溶媒への治療薬の溶解度および/または治療薬の分子量によって、被覆ビーズ内の薬物溶解および膜からの拡散が決まると考えられていた。鋭意調査を行った結果、意外なことに、治療薬のpH依存性溶解度とは別に、その酸性度/アルカリ性度が、達成し得る遅延時間に対して顕著な影響を与えることが見出された。そのうえ、達成し得る遅延時間に対するバリアコーティング(すなわち、内側の保護シールコートと外側の遅延コーティングとの間に施される中間コーティング。以下、バリアコートと呼ぶ)および/またはその組成の影響力は、活性成分の酸性度/アルカリ性度によって変化し得る。
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
本発明は、酸性度/アルカリ性度、胃腸液への溶解度、およびその排出半減期に応じて、特定治療薬の経口投与による一日2回または一日1回の投与計画に適したパルス送達システムを提供する。このパルス送達システムは、即時放出(immediate release)(IR)ビーズおよび時限パルス放出(TPR)ビーズ集団などの1種または複数種のビーズ集団を含む。経口投与されると、所定の遅延時間(例えば、10時間以上が実現可能)の後に、各TPRビーズ集団は薬物を急速破裂または徐放性で放出する。IRビーズは、保護膜で被覆された単なる薬物コアであってよい(例えば、オパドライ・クリア(Opadry Clear)によるコーティング)。バリアコーティングを有するこうしたIRビーズを水不溶性高分子と腸溶性高分子の混合物の機能性膜で被覆し、可塑化高分子系は水性組成物または溶剤をベースとする組成物から施す。完成品の剤形は、一日1回または2回の投与計画に適した目標血漿濃度になるように、修飾放出(modified−release)(MR)カプセル、普通の(従来の)錠剤、または活性物質を含む被覆球状ビーズ集団を単独で含むかまたは2種以上の被覆ビーズ集団を含む口腔内崩壊錠(ODT)であってもよい。例えば、排出半減期が約7時間である活性成分の一日1回の剤形は、IRビーズ集団(即時放出が可能)、遅延時間の短い(約3〜4時間)第2のTPRビーズ集団(遅延「破裂」放出が可能)、および遅延時間の長い(約6〜9時間)第3のTPRビーズ集団(排出半減期が約7時間である活性成分の、遅延した(通常は)徐放プロファイルが可能)の混合物を含むことができ、これによって安全性、治療効果および患者のコンプライアンスが向上すると同時に、治療コストが削減される。達成可能な遅延時間は、バリアコーティングの組成と厚さ、遅延コーティングの組成と厚さ、ならびに治療薬の性質に依存する。遅延時間に影響する具体的な因子としては、治療薬のアルカリ性度/酸性度、溶解度、排出半減期、および投与計画(一日2回または一日1回)などがあるが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付図面を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。
【図1】実施例1Cの20、25および30重量%のEC/HPMCPで被覆されたニザチジンIRビーズ(バリアコーティングなし)の薬物放出プロファイルを示している。
【図2】実施例2Cの20、30および40重量%のEC/HPMCPで被覆された塩酸プロプラノロールIRビーズ(バリアコーティングなし)の薬物放出プロファイルを示している。
【図3】20重量%のEC/HPMCPで被覆されたIRビーズ(バリアコーティングなし)の薬物放出プロファイル((a)塩酸プロプラノロールと(b)ニザチジン)、および30重量%のEC/HPMCPで被覆されたIRビーズ(バリアコーティングなし)の薬物放出プロファイル((c)塩酸プロプラノロールと(d)ニザチジン)を示している。
【図4】最初にHPMCPのバリアコーティングで被覆され、次いで実施例1Dの20、30および40重量%の遅延コーティングで被覆されているニザチジンIRビーズの薬物放出プロファイルを示している。
【図5】最初にEC/HPCのバリアコーティングで被覆され、次いで実施例1Eの20、30および40重量%の遅延コーティングで被覆されたニザチジンIRビーズの薬物放出プロファイルを示している。
【図6】30重量%の遅延コーティングで達成された遅延時間に対する、ニザチジンIRビーズに施されたバリアコーティングの効果((A)なし、(B)10%のHPMCP、(C)5%のEC/HPC(70/30))を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
活性薬剤成分(API)は、通常、精製水に懸濁させたときにわずかに酸性または塩基性のいずれかである(表1を参照)。酸性度またはアルカリ性度の程度は著しく異なる。例えば、pHは、塩酸プロプラノロールの場合のわずか5.7〜6.5からニザチジンの場合のpH6.5〜8.7、アテノロールの場合の7.9〜11.0ものpHまでの範囲に及びうる。固形分が2g/mLで水中に懸濁されたときに7.0以下のpHを示す活性薬剤成分は、本発明の開示においては酸性薬物と呼び、7.0以上のpHを示すAPIはアルカリ性薬物と呼ぶ。
【0011】
【表1】

【0012】
経口投与されたときに薬物放出の開始を数時間遅らせるのに通常使用するポリマーブレンド系は、水不溶性高分子と腸溶性高分子の混合物であるので、遅延の程度は、APIの酸性度/アルカリ性度によって異なる。本発明は、時限パルス放出プロファイル(すなわち、経口投与の数時間後に発生する良好に時間制御された単一パルスまたは一連のパルス)を有する薬剤的に優れた多粒子剤形の製造方法を提供する。本発明はまた、活性コア、中間バリアコーティングおよび水不溶性高分子と腸溶性高分子の混合物である外膜を有する多層被覆(multicoated)の多粒子剤形も提供する。IRビーズに施されるバリアコーティングは、腸溶性高分子、水不溶性高分子、または水不溶性高分子と水溶性高分子の混合物を含んでよい。バリアコーティングと外膜の形成に使用する高分子は可塑化されていてもよい。
【0013】
本発明の1つの態様によれば、剤形の活性コアは、薬物含有フィルム形成配合物で被覆された不活性粒子を含んでよく、ある特定の実施態様によれば、不活性粒子は水溶性のフィルム形成組成物で被覆されて水溶性/分散性粒子を形成している。コア中の薬物量は、薬物と所望の投与量によって異なるであろう。一般には、本発明のこの態様によるコアは、コアの全重量を基準にして約5〜60重量%の薬物を含むであろう。当業者であれば、コアにコーティングまたは含有させる薬物の適正な量を選択して、所望の剤形にすることができるであろう。
【0014】
本発明のある特定の実施態様の剤形の活性コアは、所望の平均粒径を有する糖球(sugar sphere)などの不活性粒子を含んでよい。1つの実施態様では、不活性コアは、糖球、セルロース球(cellulose sphere)、球状二酸化ケイ素ビーズ、バッファー結晶(buffer crystal)またはカプセル化バッファー結晶(炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、フマル酸、酒石酸など)であり得る。バッファー結晶は微小環境を変えるのに役立つ。あるいはまた他の実施態様によれば、薬物含有の微粒剤またはペレットは、薬物、高分子結合剤(polymeric binder)および任意で充填剤/賦形薬の、ロートグラニュレーション(rotogranulation)、高剪断造粒(high−shear granulation)および押出し−球状化または圧縮を行うことによって(ミニ錠剤(mini−tablets)/ミクロ錠剤(micro−tablets)(直径が約1mm/2mm)として)製造できる。
【0015】
薬物含有フィルム形成結合剤で被覆された不活性粒子を含む活性コアは、以下の方法に従って製造できる。被覆不活性粒子に基づくコア粒子の製造には、水性媒体または薬学的に許容される溶媒を使用できる。水溶性薬物を不活性粒子に結合するのに使用される不活性結合剤の種類は重要ではないが、通常は、ポリビニルピロリドン(PVPまたはポビドン)又はヒドロキシプロピルセルロースなどの水溶性またはアルコール可溶性結合剤を用いることができる。結合剤は、不活性粒子に施すことが可能な任意の濃度で使用できる。通常、結合剤は約0.5〜10重量%の濃度で用いる。薬剤成分(drug substance)は、溶液の形態でこのコーティング配合物中に存在してもよく、あるいは懸濁状態であってもよい。薬物濃度は用途に応じて変えてよいが、通常は、コーティング配合物の粘度に応じて約10〜30重量%の濃度で用いられる。
【0016】
他の実施態様によれば、活性コアはロートグラニュレーションによって製造できる。あるいは造粒した後に押出し−球状化を行うかまたはミクロ錠剤/ミニ錠剤に錠剤化して製造できる。薬剤成分、結合剤、任意の溶解速度制御高分子、および任意で他の薬学的に許容される賦形剤(例えば、希釈剤/充填剤)を、高剪断造粒機(フィールダー(Fielder)造粒機など)あるいは流動床造粒機(グラット(Glatt)GPCG造粒機など)で一緒にブレンドして、水またはアルコールなどの造粒液の添加/噴霧によって粒状化して凝集物を形成させて乾燥させる。その湿塊を押出機/マルメライザー(marumerizer)で押し出して球形化(spheronized)して球形粒子(ペレット)を製造できる。薬物粒子、結合剤および任意で充填剤/希釈剤または薬物含有顆粒を含むブレンドを圧縮して、ミニ錠剤(直径が約2mm)またはミクロ錠剤(直径が約1mm)にしてIRペレットを製造することもできる。これらの実施態様では、薬物負荷を、押出しまたは粒状化コアの全重量を基準にして95重量%もの量にすることができる。
【0017】
一般に、活性コア上の個別の高分子コーティングは、活性成分の性質、バリアコートの組成および所望の遅延時間に応じて、約1.5〜60重量%まで変化する。1つの実施態様では、約5〜20時間にわたって薬物放出を持続させるために約1.5〜15重量%の可塑化水不溶性高分子(エチルセルロース(EC)など)のバリアコートを有した高い薬物負荷を有するコアを提供することができる。他のある特定の実施態様では、約5〜20重量%の可塑化腸溶性高分子(フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)など)のバリアコートを有する高い薬物負荷を有するコアを提供することができる。本発明のさらに別の実施態様では、遅延時間を約10時間以上まで延ばすために約30〜60重量%だけ重量増加するように約45.5/40/14.5のEC/HPMCP/可塑剤の外側遅延コーティングを有する活性コアを提供することができる。
【0018】
水溶性/分散性薬物含有粒子(IRビーズ)上のバリアおよび外側(以下、「遅延時間」と呼ぶ)の両方の膜コーティングは可塑剤を含んでよい。中間膜またはバリア膜は、腸溶性高分子(フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)など)または水不溶性高分子(例えば、エチルセルロース)を単独で、または1種または複数種の水溶性/増孔高分子(HPMC、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)など)と一緒に含むことができる。バリアコーティングが水不溶性高分子を水溶性/増孔高分子と一緒に含む場合、高分子は典型的には約9:1〜5:5(水不溶性高分子対水溶性高分子)の比率で存在する。バリアコーティングは典型的には、約1.5〜15重量%だけ重量増加するように施される。
【0019】
外側遅延膜は水不溶性高分子と腸溶性高分子の可塑化混合物を含んでもよく、その場合、水不溶性高分子と腸溶性高分子は、約10:1〜1:2、典型的には約3:1〜1:1の重量比で存在してよい。遅延コーティングの全重量は、被覆ビーズの重量を基準にして約30〜60%、より詳しくは約40〜55重量%まで変化する。
【0020】
約45.5/40/14.5のEC/HPMCP/可塑剤の遅延コーティングのみ(バリアコーティングなし)を約40重量%だけ重量増加するように有した、わずかに塩基性の薬物(ニザチジンなど)を含むコアを提供することができ、これは約3時間の遅延時間をもたらす。それに対して、約45.5/40/14.5のEC/HPMCP/可塑剤の遅延コーティングのみを約40重量%だけ重量増加するように有した、わずかに酸性の薬物(塩酸プロプラノロールなど)を含むコアを提供することができ、これは約6時間以上の遅延時間をもたらし得る。当業者であれば、所望の投与量を達成するために、コアにコーティングまたは含有させる活性成分の適正な量を選択することができるだろう。
【0021】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、水溶性/分散性薬物含有粒子は水不溶性高分子と腸溶性高分子の混合物によって被覆されている。水不溶性高分子と腸溶性高分子は、約10:1〜1:2、より詳しくは約2:1〜1:1の重量比で存在してよく、コーティングの全重量は被覆ビーズの全重量を基準にして約30〜60重量%である。高分子コーティングは典型的には可塑剤を含み、水性系および/または溶媒ベース系から施すことができる。
【0022】
膜層の組成および高分子の個別の重量は、かなりの薬物放出の前の所望の遅延時間を達成するための考慮すべき重要な因子である。被覆ビーズは、基本的に遅延時間を決定する遅延コーティングの下に、任意で薬学的グレーズ(pharmaceutical glaze)(シェラック)のバリア層を有していてよい。
【0023】
本発明は、
1.1種または複数種の活性薬剤成分で不活性粒子(糖球またはセルロース球など)を高分子結合剤溶液/懸濁液からコーティングし、保護シールコートを施して、即時放出(IR)ビーズを形成することにより薬物含有コアを製造するステップと、
2.可塑化a)水不溶性高分子単独でまたは水溶性高分子と組み合わせて、あるいはb)腸溶性高分子を用いてIRビーズをコーティングして、膜厚が約1.5%〜20重量%のバリア被覆ビーズを形成するステップと、
3.水不溶性高分子と腸溶性高分子の可塑化混合物によってバリア被覆ビーズを約40〜60重量%の膜厚にコーティングして、最高約10時間以上の遅延時間を示すTPR(時限パルス放出)ビーズを形成するステップと、
4.2種以上のビーズ集団(IRビーズと1種または複数種のTPRビーズ集団(ここで、各TPRビーズ集団は異なった遅延時間を示し得る))を硬ゼラチンカプセルに充填するか、または圧縮して従来の錠剤または経口崩壊性錠剤にして、一日1回または一日2回のカプセル製剤を製造するステップと、
を含む時限パルス放出ビーズの製造方法も提供する。
【0024】
IRビーズ、バリア被覆ビーズおよびTPRビーズの放出プロファイルは、以下の手順に従って求めることができる。
【0025】
IRビーズおよび腸溶性被覆ビーズの(耐酸性試験での)溶出試験は、USP装置1(100rpmのバスケット)または装置2(50rpmのパドル)を用いて37℃において900mLの0.1NのHCl中で行うが、TPRビーズの溶出試験はUSP装置中で二段階溶出溶媒(最初は、37℃において700mLの0.1NのHCl中で2時間、その後200mLのpH調節剤(pH modifier)を添加して得られたpH=6.8での溶出試験)によって行う。経時的な薬物放出は、選択された間隔で抜き出したサンプルに関してHPLCによって求める。
【0026】
本発明に従って製造されるTPRビーズは、目標薬物放出プロファイル(所定の遅延時間の後の急速パルスまたは徐放プロファイルなど)を示すように設計され得る。たとえバリアコーティングがない場合でも、より厚い遅延コーティングは、通常、急速パルスよりもむしろ中程度の持続を与える(詳しくは図3を参照)。多粒子剤形は、単一のTPRビーズ集団だけとして、あるいはTPRビーズ集団とIRビーズ集団および/または異なる放出プロファイルを示す1種または複数種の追加のTPRビーズ集団とを組み合わせたものとして提供され得る。1つの実施態様によれば、多粒子剤形は、少なくとも1種のIRビーズ集団、第1TPR集団および第2TPR集団を有しており、IRビーズと第1TPRビーズ集団と第2TPRビーズ集団の比率はそれぞれ約10/20/70〜約30/60/10の範囲で変化し、これは活性成分のアルカリ性度、pH依存性溶解度、および/または排出半減期などの因子に依存する。
【0027】
活性成分の排出半減期に応じて、一日1回の投与計画に適した適切な血漿濃度となるように、経口投与の数時間後に薬物放出の開始が起こる必要がある場合がある。本発明の特定の態様によれば、薬物放出を経口投与後に最高で約10〜15時間まで遅らせることができる。
【0028】
本発明の特定の時限パルス放出薬物送達システムに従って、経口投与後に(即時放出パルスを伴うかどうかにかかわらず)数時間にわたる1つの目標の徐放プロファイルが提供される。
【0029】
本発明の1つの態様によれば、1種または複数種の活性成分、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース(クルーセル(Klucel)LF)など)、溶解速度制御高分子(使用される場合)、および任意で他の薬学的に許容される賦形剤を、高剪断造粒機(フィールダー(Fielder)など)または流動床造粒機(グラット(Glatt)GPCG 5など)で一緒にブレンドし、水またはアルコールなどの造粒液の添加/噴霧によって粒状化して凝集物を形成させて乾燥させる。その湿塊を押出機/マルメライザーで押し出して球形化して球形粒子(ビーズ)を製造できる。本発明の別の実施態様によれば、乾燥させた顆粒を圧縮して、直径が約1mm〜2mmのペレット(すなわち、ミニ錠剤またはミクロ錠剤)にすることができる。これらの実施態様では、薬物負荷を、押出し/粒状化コアまたはミニ錠剤/ミクロ錠剤コアの全重量を基準にして95重量%もの量にすることができる。
【0030】
特定の実施態様によれば、こうして得られる活性成分含有コア(ビーズ、ペレット、ミニ錠剤/ミクロ錠剤または顆粒状粒子)は、水不溶性高分子および腸溶性高分子(エチルセルロースおよびヒプロメロースフタル酸エステル(hypromellose phthalate)(すなわち、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはHPMCP)を含む遅延コーティングによって、被覆ビーズの全重量を基準にして約10〜60重量%、より詳しくは約30重量%〜60重量%の厚さに被覆される。水不溶性高分子と腸溶性高分子との比率は、約10:1〜1:2、より詳しくは約2:1〜1:1の範囲で変えられ得る。
【0031】
コア粒子の製造には、水性媒体または薬学的に許容される溶媒を使用できる。水溶性薬物を不活性粒子に結合するのに使用する不活性結合剤の種類は重要ではないが、通常は水溶性またはアルコール可溶性結合剤を用いる。結合剤の代表的な例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、ポリエチレンオキシド、多糖類(デキストラン、コーンスターチなど)(これらは、水、アルコール、アセトンまたはそれらの混合物に溶解または分散させることができる)などがあるが、これらに限定されない。結合剤は通常、約0.5〜10重量%の濃度で使用する。
【0032】
本発明に有用な腸溶性高分子の代表的な例としては、セルロースのエステルおよびその誘導体(酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ポリ酢酸ビニルフタレート、pH感受性(pH−sensitive)メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体およびシェラックなどがある。これらの高分子は乾燥粉末または水性分散液として使用してよい。使用できる市販の物質の中には、ローム・ファーマ(Rohm Pharma)が製造しているオイドラギット(Eudragit)(L100、S100、L30D)という商標で販売されているメタクリル酸共重合体、イーストマン・ケミカル社(Eastman Chemical Co.)のセラセファート(Cellacefate)(酢酸フタル酸セルロース)、FMC社(FMC Corp.)のアクアテリック(Aquateric)(酢酸フタル酸セルロース水性分散液)およびシン・エツ社(Shin Etsu K.K.)のアコート(Aqoat)(酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース水性分散液)がある。
【0033】
本発明に有用な水不溶性高分子の代表的な例としては、エチルセルロース、ポリ酢酸ビニル(例えば、BASFのコリコート(Kollicoat)SR♯30D)、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、アクリル酸エチルとメタクリル酸メチルをベースにした中性共重合体、第四級アンモニウム基を有するアクリル酸エステルとメタアクリル酸エステルとの共重合体(オイドラギット(Eudragit)NE、RSとRS30D、RLまたはRL30Dなど)などがある。
【0034】
高剪断または流動床造粒あるいは乾燥造粒によって顆粒を製造するために配合物に含有させるのに好適な溶解速度制御高分子としては、高分子量のヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸、ポリメタクリル酸メチルの共重合体およびポリ酢酸ビニル/クロトン酸共重合体またはそれらの組合せなどがある。
【0035】
膜形成に使用する腸溶性高分子と水不溶性高分子はどちらも通常は可塑化される。膜を可塑化するのに使用できる可塑剤の代表的な例としては、トリアセチン、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル(acetyl tri−n−buthyl citrate)、フタル酸ジエチル、ヒマシ油、セバシン酸ジブチル、アセチル化モノグリセリド、アセチル化ジグリセリドなどまたはそれらの混合物などがある。可塑剤は、使用される場合、高分子を基準にして約3〜30重量%、より一般には約10〜25重量%を構成することができる。可塑剤の種類およびその含量は、コーティング系の1種または複数種の高分子および性質(例えば、水性であるか溶剤をベースとしているか、溶液であるか分散液をベースとしているか、および全固形分)に依存する。
【0036】
一般に、膜コーティングを施す前の粒子表面の下塗を行うか、あるいは異なる膜層を分離することが望ましいが、これは薄いヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(オパドライ・クリア(Opadry Clear))フィルムを施すことで行う。通常はHPMCが使用されるが、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの他のプライマーも使用できる。
【0037】
これらの時間制御パルス放出システムに含有させるのに適した活性薬剤成分としては、塩基性の生理活性分子またはそれらの塩などがある。薬剤成分は、人体において薬理活性が証明されている薬学的に許容される化学物質の群から選択できる。代表的な例としては、鎮痛薬、抗痙攣薬、抗糖尿病剤、抗感染剤、抗悪性腫瘍薬、抗パーキンソン病薬、抗リウマチ賦活薬(antirheumatic stimulants)、心血管薬(cardio vascular agents)、CNS(中枢神経系)刺激薬、ドーパミン受容体作動薬、胃腸薬(gastrointestinal agents)、精神療法薬(psychetherapeutic agents)、オピオイド作動薬、オピオイド拮抗薬、尿路薬剤、鎮吐薬、抗てんかん剤、ヒスタミンH拮抗薬、骨格筋弛緩剤、および抗喘息薬などがある。
【0038】
膜コーティングは、医薬品産業で一般に使用されている任意の塗布技術を用いてコアに施すことができるが、流動層被覆が特に有用である。本発明は、多剤形(multi−doseforms)、すなわち、治療を必要とする患者における目標PKプロファイルを与えるように1種または複数種のビーズ集団を含む、多粒子剤形の形態の経口投与用製剤(硬ゼラチンカプセル、従来の錠剤またはODT(口腔内崩壊錠))に関する。従来の錠剤は胃に入ると急速に分散するが、ODTは口腔内で急速に崩壊して、飲み込みやすいように被覆ビーズの懸濁液を形成する。1種または複数種の被覆ビーズ集団は、適切な賦形剤と一緒に圧縮して錠剤にすることができる(例えば、従来の錠剤の場合は、結合剤、希釈剤/充填剤、および崩壊剤であるが、ODTでは、急速に分散する顆粒を結合剤−希釈剤/充填剤の組合せの代わりにしてもよい)。
【0039】
以下の非限定例は、それぞれが所定の遅延開始が行われる1種または複数種のパルスを含むカプセル剤形を示しており、インビトロの薬物放出プロファイルまたは剤形の経口投与時に続いて起こるインビボ血漿濃度プロファイルは全体として、所望のプロファイルによく似ていて最大の治療効果を達成し、患者のコンプライアンスおよび生活の質を向上させるものであるべきである。そのような剤形は、「適切な時」に投与するなら、C最大またはC最小に関連した副作用が起こるのをできるだけ抑える点で有利であろうレベルに薬物血漿濃度を維持することができるであろう。
【実施例】
【0040】
実施例1(本発明):
A.ニザチジンのIRビーズ
ニザチジン(168kg)をクルーセル(Klucel)LFなどのヒドロキシプロピルセルロース(18.6kg)の水溶液にゆっくり添加し、よく混合した。#25−30メッシュの糖球(107.4kg)を、32インチの下部噴霧ウルスター(Wurster)インサートを装備したグラット(Glatt)流動床コーター(fluid bed coater)中で薬物懸濁液により被覆した。薬物含有粒子を乾燥させてから、オパドライ・クリア(Opadry Clear)のシールコート(2%(w/w))を最初に施し、過剰の表面水分を飛ばす予防手段としてグラット(Glatt)流動床装置で乾燥させた。薬物負荷は56%(w/w)であった。
【0041】
B.HPMCPのバリアコーティングを有するニザチジンのビーズ:
上記のように製造されたIRビーズを、下部噴霧ウルスター(Wurster)インサートを装備したグラット(Glatt)GPCG 5を用いて、被覆ビーズの重量を基準にして10%だけ重量増加するように、アセトン/水(98/2)中に溶解したHPMCP(例えば、ヒプロメロース(hypromellose)フタル酸エステル、信越(Shin Etsu)から市販されているHP−55)および可塑剤としてクエン酸トリエチルを90/10の比率で被覆した。
【0042】
C.HPMCPのバリアコーティングを持たないニザチジンTPRビーズ:
上記のステップAからの薬物含有IRビーズに、アセトン/水(98/2)中の45.5/40/14.5のEC/HPMCP/TEC(エチルセルロース/HPMCP/クエン酸トリエチル)の溶液を流動床コーター中で、約20%、25%および30%だけ重量増加するように噴霧することにより外膜を設けた。被覆粒子は、10分間60℃で単位硬化(unit cured)してTPRビーズを製造した(バッチサイズ(batch size):4kg)。
【0043】
D.HPMCPのバリアコーティングを有するニザチジンTPRビーズ:
上記のステップBからの腸溶性−被覆ビーズに、約20%、30%、および40%だけ重量増加するように、アセトン/水(98/2)中の45.5/40/14.5のEC/HPMCP/TECの溶液を流動床コーター中で噴霧することにより、外膜を設けた。被覆粒子は、10分間60℃で単位硬化してTPRビーズを製造した(バッチサイズ:4kg)。
【0044】
E.EC/HPCのバリアコーティングを有するニザチジンTPRビーズ:
上記(ステップA)のように製造されたIRビーズを、被覆ビーズの重量を基準にして5%だけ重量増加するように、下部噴霧ウルスター(Wurster)インサートを装備したグラット(Glatt)GPCG 5を用いて、アセトン/水中に溶解しTECで可塑化されたエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース(例えば、アクアロン(Aqualon)から市販されているクルーセル(Klucel)LF)を、70/30の比率で被覆した。これらのバリア被覆ビーズに、約20%、30%および40%だけ重量増加するように、アセトン/水(98/2)中の45.5/40/14.5のEC/HPMCP/TECの溶液を流動床コーター中で噴霧することにより外膜を設けた。被覆粒子は、10分間60℃で単位硬化してTPRビーズを製造した(バッチサイズ:4kg)。
【0045】
実施例2(比較例):
A.プロプラノロールHClのIRビーズ:
プロプラノロールHCl(168kg)を、ポリビニルピロリドン(8.8kgのポビドン(povidone)K−30)の水溶液中にゆっくり添加してよく混合した。25−30メッシュの糖球(117.2kg)を、32インチの下部噴霧ウルスター(Wurster)インサートを装備したグラット(Glatt)流動床造粒機を用いて、薬物溶液で被覆した。薬物含有ペレットを乾燥させてから、オパドライ・クリア(Opadry Clear)(6.0kg)のシールコートを最初に施し、過剰の表面水分を飛ばす予防手段としてグラット(Glatt)流動床装置で乾燥させた。薬物負荷は56%(w/w)であった。
【0046】
B.HPMCPのバリアコーティングを有するプロプラノロールHClビーズ:
上記のように製造したIRビーズを、被覆ビーズの重量を基準にして10%だけ重量増加するように、下部噴霧ウルスター(Wurster)インサートを装備したグラット(Glatt)GPCG 5を用いて、アセトン/水(98/2)中に溶解させたHPMCPおよびTECを90/10の比率で被覆した。
【0047】
C.プロプラノロールHClのTPRビーズ(バリアコーティングなし):
上記のステップAで製造されたIRビーズを、被覆ビーズの重量を基準にして20%、30%および40%だけ重量増加するように、グラット(Glatt)GPCG 5を用いて、アセトン/水(98/2)中に45.5/40/14.5の比率で溶かしたエチルセルロース、HPMCPおよびクエン酸トリエチルで被覆した。
【0048】
D.プロプラノロールHClのTPRビーズ(ECのバリアコートを有する):
ステップAで製造したIRビーズを、1.8重量%だけ重量増加するように、流動床装置(32インチの下部噴霧ウルスター(Wurster)インサートを装備したフルイド・エア(Fluid Air)FA0300)を用いて、エチルセルロースおよび可塑剤としてフタル酸ジエチル(DEP)を90/10の比率で被覆した。このコーティングの後、被覆ビーズの重量を基準にして15%だけ重量増加するように、アセトン/水(98/2)中に45.5/40/14.5の比率で溶かしたEC/HPMCP/DEPの遅延コーティングを施した。
【0049】
薬物放出試験:
薬物放出プロファイルは、US薬局方の方法(100rpmのバスケット付きの装置1および50rpmのパドル付きの装置2)に従った溶出試験で、700mLのpH1.2の緩衝液を2時間使用し、その後、残りの時点についてはpH6.8の900mLで試験することにより生成された。IRおよび腸溶性被覆ビーズは、900mLの0.1NのHCl中で1時間および1.5時間それぞれ試験した。別々の時点に抜き出したサンプルをHPLCで定量した。
【0050】
実施例3
被覆ビーズの安定性:
実施例1DのEC/HPMCPで40%だけ被覆されたニザチジンのTPRビーズをインダクションシール(induction−sealed)HDPEボトルにひとまとめに入れて、40℃/75%RHで安定状態に保ち、サンプルを1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月および6ヶ月の時点で抜き出した。溶出試験は、上に詳述した手順に従って行った。加速安定条件(accelerated stability conditions)で保管されたTPRビーズは、少なくとも6ヶ月間は許容される安定性を示した。
【0051】
薬物放出プロファイル:
完成品のカプセルは、所望の遅延時間を示す1種または複数種のTPRビーズ集団を含むか、または所望の比率でIRビーズも一緒に含むことができ、かつ目標インビトロ薬物放出プロファイルをもたらすのに十分な量だけ、それゆえに一日2回または一日1回の投与計画に適した目標薬物動態(PK)プロファイルをもたらすのに十分な量だけ、含むことができる。上記の溶出試験手順の後にインビトロ条件で試験すると、負荷投与量を与えるように設計されているIRビーズは、通常、1時間以内に、好ましくは最初の30分以内に薬物を実質的に全部放出する。時限パルス放出(TPR)ビーズは、最高で数時間(経口投与後の最小薬物放出(投与量の約10%未満)の期間)の遅延後に薬物放出を開始するよう設計されている。このパルスは、遅延コーティングおよび/またはバリアコートの厚さに応じて、急速破裂であるかまたは約2時間〜約20時間の範囲の期間にわたる拡散であってよい。
【0052】
HPMCPで被覆されたニザチジンおよびプロプラノロールのビーズの耐酸性
実施例1BのニザチジンIRビーズに施された腸溶性高分子コーティングは、1時間以内に多かれ少なかれ崩壊して、酸性緩衝液中に投与量のほとんどを放出したが、腸溶性高分子は溶解しないことになっていた。それに対して、実施例2Bの塩酸プロプラノロールの腸溶性被覆ビーズでは、pH1.2での1.5時間の溶出試験において放出されたのは投与量のせいぜい1%であり、予期された耐酸性を示した。理論に縛られることは望まないが、被覆ニザチジンビーズのコアに吸収された水分が一部のニザチジンを溶解してアルカリ性pH環境が生じ、その環境により、たとえ溶出溶媒が酸性であっても、腸溶性被覆IRビーズ上の腸溶性高分子膜が破壊される傾向があると思われる。
【0053】
遅延時間に対するバリアコートの効果:
バリアコートなしのTPRビーズの薬物放出プロファイルを示している図1および2を比較すると、30重量%だけEC/HPMCPで被覆されたニザチジン(わずかにアルカリ性の薬物)被覆のTPRビーズは、遅延時間が3時間未満であることが明白である。それに対して、同じコーティング厚さの同じポリマーブレンドで被覆されたプロプラノロールHCl(わずかに酸性の薬物)のTPRビーズは、遅延時間が約5時間であることを示している。同じコーティング条件および組成物でのニザチジンとプロプラノロールHClのTPRビーズを観察して分かる遅延時間を比較すると、遅延時間を与える点で酸性度/アルカリ性度が重要な役割を果たしていることが明らかである(図3)。
【0054】
図4および5は、ニザチジンのビーズで達成できる遅延時間に対するバリアコーティングの効果を示している。例えば、40重量%のコーティングでは、腸溶性高分子バリアの場合には約5時間の遅延時間がもたらされるが、EC/HPCの疎水性バリアが多くなると、約8時間の遅延時間の実現が可能になる。これらの相違は図6からより明確になり、図6では、30%のコーティングのTPRビーズからの薬物放出プロファイルを示しており、i)バリアコーティングがない場合、ii)腸溶性高分子のバリアコーティングを有する場合、またはiii)疎水性のポリマーブレンドの場合について示している。疎水性の水不溶性高分子(エチルセルロースなど)を有するバリアコーティングは、アルカリ性薬物のTPRビーズの腸溶性高分子のバリアコーティングと比べて遅延時間が長くなることが明らかである。
【0055】
上記の説明から、活性薬剤成分のアルカリ性度/酸性度は、所定のコーティング条件で達成できる遅延時間にかなりの影響を及ぼすことが明白である。ニザチジンよりもアルカリ性であるアテノロールなどの別の活性成分は、ニザチジンよりも遅延時間が短くなると予期されるであろう。もちろん、適切な高分子を単独で、または膜の改質剤と一緒に(例えば、疎水性のエチルセルロース単独または水溶性のヒドロキシプロピルセルロースと一緒に)含むバリアコーティングを設けることにより、遅延時間を増大させることができる。膜の厚さを変えて、遅延時間をさらに微調整することもできる。
【0056】
本発明を詳細に、また本発明の特定の実施態様に関して説明してきたが、添付の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲から逸脱することなく、多くの変更形態および変形形態が可能であることは明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
即時放出(IR)ビーズと時限パルス放出(TPR)ビーズとの混合物を含む医薬品多粒子剤形であって、前記TPRビーズが、
a)1種または複数種の塩基性の活性薬剤成分またはその薬学的に許容される塩を含むコア粒子と、
b)前記コア粒子を取り囲む内側バリアコーティングであって、i)腸溶性高分子またはii)水不溶性高分子を単独で、もしくは水溶性の増孔高分子と組み合わせて含む内側バリアコーティングと、
c)水不溶性高分子を腸溶性高分子と一緒に含む外側遅延コーティングであって、薬物放出の開始までに少なくとも約5時間の遅延時間をもたらす外側膜と
を含む、医薬品多粒子剤形。
【請求項2】
前記活性薬剤成分が、鎮痛薬、抗痙攣薬、抗糖尿病剤、抗感染剤、抗悪性腫瘍薬、抗パーキンソン病薬、抗リウマチ剤、心血管薬、CNS(中枢神経系)刺激薬、ドーパミン受容体作動薬、制吐薬、胃腸薬、精神療法薬、オピオイド作動薬、オピオイド拮抗薬、抗てんかん剤、ヒスタミンH拮抗薬、抗喘息薬および骨格筋弛緩剤からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬品多粒子剤形。
【請求項3】
一日1回または2回の投与計画に適した目標薬物動態プロファイルを与える2つ以上のビーズ集団を含み、USP装置1または2、および二段階溶出溶媒(最初に700mLの0.1NのHCl中に2時間、その後に900mL(pH6.8)中)を用いて溶出試験を行ったときに各集団が所定の(目標)薬物放出プロファイルを示す、請求項1に記載の医薬品多粒子剤形。
【請求項4】
少なくとも1種のIRビーズ集団、第1TPRビーズ集団および第2TPRビーズ集団を含み、IRビーズと前記第1TPRビーズ集団と前記第2TPRビーズ集団との比率が、前記活性成分のアルカリ性度、pH依存性溶解度および/または排出半減期に応じてそれぞれ約10/20/70から約30/60/10まで変化する、請求項1に記載の医薬品多粒子剤形。
【請求項5】
前記コア粒子が、
i)活性成分と高分子結合剤とで被覆された不活性粒子、あるいは
ii)ロートグラニュレーション、造粒−押出し−球状化または造粒−錠剤化によって製造された、前記活性成分、高分子結合剤および希釈剤/充填剤を含有するペレットまたはミニもしくはミクロ錠剤を含む、請求項1に記載の医薬品多粒子剤形。
【請求項6】
前記高分子結合剤が、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コーンスターチ、アルファ化でんぷんおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の医薬品多粒子剤形。
【請求項7】
前記粒子バリアコーティングが、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ酢酸ビニルフタレート、pH感受性メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、シェラック、それらの誘導体、およびそれらの混合物からなる群から選択される腸溶性高分子を含む、請求項1に記載の医薬品多粒子剤形。
【請求項8】
前記バリアコーティングが前記バリア被覆ビーズの約5〜20重量%を構成する、請求項7に記載の医薬品多粒子剤形。
【請求項9】
粒子コアが、水不溶性高分子を単独で、または水溶性高分子と組み合わせて約9:1〜5:5の比率で含むバリアコーティングを備え、前記バリアコーティングは前記被覆ビーズの重量を基準にして約1.5〜15重量%だけ重量増加するように施される、請求項1に記載の医薬品多粒子剤形。
【請求項10】
前記水溶性高分子が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレングリコールならびにそれらの混合物などからなる群から選択される、請求項9に記載の医薬品剤形。
【請求項11】
前記外側遅延コーティングが、前記TPRビーズの重量を基準にして約30〜60重量%だけ重量増加するように水不溶性高分子および腸溶性高分子をそれぞれ約10:1〜1:2の比率で含む、請求項1に記載の医薬品剤形。
【請求項12】
前記水不溶性高分子が、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリ酢酸ビニル、メタクリル酸メチルエステルの重合体およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項11に記載の医薬品剤形。
【請求項13】
前記内側バリアコーティングおよび前記外側遅延コーティングの少なくとも一方が、トリアセチン、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、セバシン酸ジブチル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ヒマシ油、アセチル化モノグリセリドおよびジグリセリド、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される可塑剤を含む、請求項1に記載の医薬品剤形。
【請求項14】
前記遅延コーティングが、水不溶性高分子および腸溶性高分子をそれぞれ約3:1〜約1:1までさまざまな比率で含む、請求項1に記載の医薬品剤形。
【請求項15】
前記剤形が、前記剤形の経口投与後の初めの1時間以内に前記IRビーズに含まれている前記活性成分の約90%以上を放出することにより負荷投与量を与える即時放出(IR)ビーズをさらに含む、請求項1に記載の医薬品剤形。
【請求項16】
前記剤形が少なくとも2種類の時限パルス放出(TPR)ビーズ集団を含み、各TPRビーズ集団が前記剤形の経口投与時に所定の遅延時間に続いて異なる放出特性を示す、請求項1に記載の医薬品剤形。
【請求項17】
前記遅延コーティングが、エチルセルロースおよびフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、請求項1に記載の医薬品剤形。
【請求項18】
a)1種または複数種の塩基性の活性薬剤成分またはその薬学的に許容される塩を含むIR(即時放出)ビーズを製造するステップと、
b)バリアコーティングを前記IRビーズに施すステップであって、前記バリアコーティングが前記被覆ビーズの乾燥重量を基準にして約1.5%〜20%だけ重量増加するように腸溶性高分子または水不溶性高分子を含むステップと、
c)前記被覆ビーズの乾燥重量を基準にして約30%〜60%だけ重量増加するように水不溶性高分子を腸溶性高分子と組み合わせてそれぞれ約10:1〜1:2の比率で含む外側遅延コーティングを施すことによって時限パルス放出(TPR)ビーズを形成するステップと、
d)適正量の1種または複数種のTPRビーズ集団をゼラチンカプセルに充填するかまたは従来の錠剤またはODT(口腔内崩壊錠)に圧縮して、そのような活性薬剤成分を必要とする患者において(一日1回または2回の投与計画に適した)目標PK(薬物動態)プロファイルを達成するステップと
を含む、多粒子剤形の製造方法。
【請求項19】
前記外側遅延コーティングを薬学的に許容される溶媒系の溶液または水性分散液から施す、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記医薬品剤形が、硬ゼラチンカプセル、胃に入ると急速に崩壊して被覆ビーズになる従来の錠剤、または(頬側)口腔中で急速に崩壊して飲み込みやすい懸濁液を形成する経口崩壊性錠剤の形態である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記医薬品剤形が、そのような治療を必要とする患者における目標PK放出プロファイルを与えるIRビーズをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
治療的に有効な量の1種または複数種の活性薬剤成分を含有する請求項1に記載の剤形を患者に経口投与することを含む方法。
【請求項23】
請求項1に記載の剤形を患者に経口投与することを含む方法であって、前記剤形が治療的に有効な量の、1種または複数種の活性薬剤成分のIRビーズ集団および1種または複数種の多層被覆TPRビーズ集団を含み、各多層被覆TPRビーズ集団が少なくとも5時間の遅延時間に続いて異なる放出特性を示す方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−153724(P2012−153724A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−113219(P2012−113219)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【分割の表示】特願2008−510092(P2008−510092)の分割
【原出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(507362111)アプタリス ファーマテック,インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】