説明

晶析方法

【課題】長期の運転日数においても調節弁が設置された移送配管が詰まることのない、テレフタル酸の溶液またはテレフタル酸の一部が析出したスラリーの連続的多段階晶析方法を提供する。
【解決手段】前段の晶析槽においてテレフタル酸を析出させ、テレフタル酸と溶媒を含むスラリーを生成させて後段の晶析槽に送る連続的多段階晶析方法であって、前段の晶析槽と後段の晶析槽を接続する移送配管に設置された調節弁が、調節計からのフィードバック制御に基づく操作出力信号により駆動部が作動して調節弁の開度が定められ、通過するテレフタル酸と溶媒を含むスラリーの流量を制御する調節弁であり、その調節弁の開度を0.2〜20秒の周期で1〜40%の調節弁の開度振れ幅で強制的に変化させながらテレフタル酸と溶媒を含むスラリーを送ることを特徴とする晶析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレフタル酸の溶液またはテレフタル酸の一部が析出したスラリーの晶析方法に関する。更に詳細には液相酸化反応より得られた粗テレフタル酸スラリー、粗テレフタル酸を接触水素化処理、脱カルボニル化処理、酸化処理、再結晶処理、あるいはテレフタル酸結晶が一部溶解したスラリー状態での高温浸漬処理などの処理をすることによって得られた溶液又はスラリーを、調節弁を介して後段の晶析槽に送る連続的多段階晶析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸はp−キシレンを代表とするp−アルキルベンゼン等のp−フェニレン化合物の液相酸化反応により製造されるが、通常は酢酸を溶媒としてコバルト、マンガン等の触媒を利用し、またはこれに臭素化合物、アセトアルデヒドのような促進剤を加えた触媒が用いられる。液相酸化反応で得られた粗テレフタル酸を精製する方法としては、粗テレフタル酸を酢酸や水、あるいはこれらの混合溶媒などに高温、高圧下で溶解し、接触水素化処理、脱カルボニル化処理、酸化処理、再結晶処理、あるいはテレフタル酸結晶が一部溶解したスラリー状態での高温浸漬処理などの種々の方法が知られている。
【0003】
液相酸化反応で得られた粗テレフタル酸スラリーは晶析操作により、低圧、低温の
スラリーとされ、その後に析出した粗テレフタル酸を固液分離する。同様に接触水素化反応等の方法で精製されたテレフタル酸溶液又はスラリーは晶析操作により、低圧、低温のスラリーとされ、その後に析出した高純度テレフタル酸を固液分離する。
この晶析操作は溶媒をフラッシュ蒸発させることにより温度を低下させる連続的多段階晶析方法であり、通常は2〜6槽の晶析槽が直列に配置され、晶析槽は調節弁が設置された移送配管で接続されている。
【0004】
この連続的多段階晶析方法には析出したテレフタル酸結晶が原因で調節弁が詰まるという問題点がある。これは高圧、高温のテレフタル酸溶液又はスラリーが調節弁のところで降圧、降温するためであり、析出したテレフタル酸結晶が調節弁内部や調節弁出口直近の配管に付着してスラリーの流路が狭くなり、最後には流路が閉塞してしまう。
【0005】
調節弁の詰まりを防止する方法として、定常運転の間に調節弁を急激に操作して調節弁を通過する溶液又はスラリーの流量を急増させることが提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら定常運転の間に間欠的に析出したテレフタル酸結晶の付着を除去する操作を行うというこのような方法では、最初の内は状態が回復するものの、運転日数が一ヶ月を超える長期になると徐々に詰りが取れなくなり、最後には流路が完全に閉塞してしまうことが分かった。
【特許文献1】特開平8−89706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、数ヶ月間という長期の運転日数においても調節弁が設置された移送配管が詰まることのない、テレフタル酸の溶液またはテレフタル酸の一部が析出したスラリーの連続的多段階晶析方法を見出そうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこの課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、調節弁の開度を調節弁の開度振れ幅で常に変化させることにより、晶析操作にて析出したテレフタル酸結晶による閉塞を防止できることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、テレフタル酸の溶液またはテレフタル酸の一部が析出したスラリーを前段の晶析槽に送り、前段の晶析槽においてテレフタル酸を析出させ、テレフタル酸と溶媒を含むスラリーを生成させて後段の晶析槽に送る連続的多段階晶析方法であって、前段の晶析槽と後段の晶析槽を接続する移送配管に設置された調節弁が、調節計からのフィードバック制御に基づく操作出力信号により駆動部が作動して調節弁の開度が定められ、通過するイソフタル酸と溶媒を含むスラリーの流量を制御する調節弁であり、その調節弁の開度を0.2〜20秒の周期で1〜40%の調節弁の開度振れ幅で強制的に変化させながらテレフタル酸と溶媒を含むスラリーを送ることを特徴とする晶析方法に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
晶析工程の移送配管に設置された調節弁の開度を調節弁の開度振れ幅で常に変化させることにより、該調節弁が詰まることなく安定的に運転を継続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の内容を詳細に説明する。
本発明は、p−キシレンを代表とするp−アルキルベンゼン等のp−フェニレン化合物を原料として高純度テレフタル酸を製造するプロセスの酸化工程又は精製工程に適用される。
酸化工程は、酢酸を溶媒として用い、コバルト、マンガン等の触媒を利用し、またはこれに臭素化合物、アセトアルデヒドのような促進剤を加えた触媒が用いられる。酸化工程では液相酸化反応生成物である約180℃〜約200℃の粗テレフタル酸スラリーを連続的多段階に晶析させて粗テレフタル酸を得る。
精製工程としては、液相酸化反応より得られた粗テレフタル酸を接触水素化処理、脱カルボニル化処理、酸化処理、再結晶処理、あるいはテレフタル酸結晶が一部溶解したスラリー状態での高温浸漬処理などの処理をしテレフタル酸の溶液又はテレフタル酸の一部が析出したスラリーを得て、その後の晶析操作を行う。上記の処理の中でも接触水素化処理が好ましい。接触水素化処理では粗テレフタル酸を溶媒の水に溶解させて接触水素化反応を行い、該反応液である約270℃〜約300℃のテレフタル酸の溶液を連続多段階に晶析させて高純度テレフタル酸を得る。いずれの場合も高圧、高温のテレフタル酸スラリーまたはテレフタル酸の溶液を直列に配置された2〜6槽の晶析槽で連続的多段階に晶析する。晶析槽においてテレフタル酸を析出させる方法は、溶媒のフラッシュ蒸発による冷却であることが好ましい。
【0010】
晶析槽は移送配管で接続されており、テレフタル酸と溶媒を含むスラリーが上流から下流に向けて移送配管を連続的に流れている。移送配管には調節弁が設置されており、調節計からのフィードバック制御に基づく操作出力信号により駆動部が作動して調節弁の開度が定められ、通過するテレフタル酸と溶媒を含むスラリーの流量を制御している。フィードバック制御としては特に限定されないが、例えばPID制御が好ましく用いられる。ここでいうPID制御とは、制御変数であるP(比例動作)、I(積分動作)およびD(微分動作)を用いて制御対象である調節弁の開度を目標開度に近づけるようにする制御のことである。
調節弁を制御する調節計としては前段の晶析槽の液面計が好ましい。
【0011】
テレフタル酸と溶媒を含むスラリーが調節弁を通過すると、後段の晶析槽の圧力、温度まで状態が変化するためにテレフタル酸結晶が析出し、析出したテレフタル酸結晶の一部が調節弁内部や調節弁出口直近の配管に付着する。この付着現象が長じて流路の閉塞に到る。付着するテレフタル酸結晶を低減し、且つ付着したテレフタル酸結晶を剥離させるために、調節弁の開度を調節弁の開度振れ幅で常に変化させて移送配管を流れるテレフタル酸溶液又はスラリーの流量を増減させる。
【0012】
調節弁の開度は、周期的に調節弁の開度振れ幅で強制的に変化させる。調節計からのフィードバック制御に基づく操作出力信号により駆動部が作動して定められる調節弁の開度は、前段の晶析槽の液面をコントロールするように制御されるのが好ましい。調節弁の開度を変化させる周期は0.2〜20秒か好ましく、さらに0.4秒〜10秒が好ましい。該周期が0.2〜20秒であると、調節弁を通過するテレフタル酸と溶媒を含むスラリーの流量が安定するので、好ましい。
調節計からのフィードバック制御に基づく操作出力信号により定められる調節弁の開度は、25〜75%の範囲内であることが好ましく、調節弁の開度の変化は、1〜40%の調節弁の開度振れ幅で強制的に変化させることが好ましく、3〜30%がさらに好ましく、3〜20%が特に好ましい。1〜40%であると調節弁の動作が安定するので、好ましい。
調節弁の開度を常に変化させる方法に特に制限はないが、ブースターリレーが好適に用いられる。本来ブースターリレーは調節弁の駆動速度を速め、調節弁のコントロール性能を安定化させるものであるが、該ブースターリレーを調節することにより、調節弁の開度振れ幅や調節弁の開度を変化させる周期を変えることができ、結果として調節弁の開度を周期的に、調節弁の開度振れ幅で強制的に変化させることができる。
【0013】
このように調節計からのフィードバック制御に基づく操作出力信号により駆動部が作動して定められる調節弁の開度を中心に、素早く調節弁の開度を変化させるために移送配管を流れるテレフタル酸と溶媒を含むスラリーの流量が極端に増減することがなく、連続的多段階晶析条件が安定化する。
調節弁のバルブボデーに弁内洗浄溶媒を供給することも好適に行われる。該弁内洗浄溶媒の供給方法に特に制限は無いが、連続的に供給するのがより好ましい。また、バルブボデーへの供給位置について具体的に例示すると、株式会社本山製作所やニイガタ・メーソンネーラン株式会社製のグローブ型調節弁ではバルブプラグ近傍の内壁部分であり、一箇所からの供給でもよいが、複数箇所からの供給がより好ましい。弁内洗浄溶媒の温度は調節弁下流側の晶析槽の温度を基準として該温度から+20℃の範囲が好ましい。
該弁内洗浄溶媒としては移送配管を流れるテレフタル酸と溶媒を含むスラリーの溶媒組成に近いものが良い。酸化工程では酢酸又は含水酢酸が好ましく、精製工程では水が好ましい。
【実施例】
【0014】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0015】
(実施例1)
商業規模の高純度テレフタル酸製造装置を用いて液相酸化反応を行い、反応生成物である粗テレフタル酸スラリーを前段の晶析槽に送り、フラッシュ蒸発により溶媒の含水酢酸を蒸発させて約190℃の粗テレフタル酸スラリーを生成させた。この約190℃の粗テレフタル酸スラリーを、調節弁を設置した移送配管を介して約150℃の後段の晶析槽に供給した。前段の晶析槽と後段の晶析槽を接続する移送配管に設置された調節弁は、前段の晶析槽の液面計からのPID制御に基づく操作出力信号により駆動部が作動して開度が定められ、ブースターリレーにより調節弁の開度を常に変化させた。その周期は約1.5秒、調節弁の開度の変化は約10%の調節弁の開度振れ幅とした。運転日数6ヵ月の間、調節弁に詰りが発生することはなく安定に運転を継続することができた。
【0016】
(比較例1)
ブースターリレーを用いない通常のPID制御で調節弁の開度をコントロールした他は実施例1と同様に運転を行ったところ、徐々に調節弁のスラリーの通り道に結晶が付着して流れにくくなり、調節弁の開度が上昇したが6日目に詰まってしまった。
【0017】
(実施例2)
商業規模の高純度テレフタル酸製造装置を用いて液相酸化反応より粗テレフタル酸を得た。精製工程において、液相酸化反応より得られた粗テレフタル酸を用いて281℃で接触水素化反応を行い、該反応液であるテレフタル酸の溶液を前段の晶析槽に送り、フラッシュ蒸発により溶媒の水を蒸発させて約250℃のテレフタル酸と溶媒を含むスラリーを生成させた。この約250℃のテレフタル酸スラリーを、調節弁を設置した移送配管を介して約220℃の後段の晶析槽に供給した。前段の晶析槽と後段の晶析槽を接続する移送配管に設置された調節弁は、前段の晶析槽の液面計からのPID制御に基づく操作出力信号により駆動部が作動して開度が定められ、ブースターリレーにより調節弁の開度を常に変化させた。その周期は約4秒、調節弁の開度の変化は約7%の調節弁の開度振れ幅とした。運転日数3ヵ月の間、調節弁に詰りが発生することはなく安定に運転を継続することができた。
【0018】
(実施例3)
商業規模の高純度テレフタル酸製造装置を用いて液相酸化反応より粗テレフタル酸を得た。精製工程において、液相酸化反応より得られた粗テレフタル酸を用いて281℃で接触水素化反応を行い、該反応液であるテレフタル酸の溶液を前段の晶析槽に送り、フラッシュ蒸発により溶媒の水を蒸発させて約250℃のテレフタル酸と溶媒を含むスラリーを生成させた。この約250℃のテレフタル酸スラリーを、調節弁を設置した移送配管を介して約220℃の後段の晶析槽に供給した。前段の晶析槽と後段の晶析槽を接続する移送配管に設置された調節弁は、前段の晶析槽の液面計からのPID制御に基づく操作出力信号により駆動部が作動して開度が定められ、ブースターリレーにより調節弁の開度を常に変化させた。その周期は約4秒、調節弁の開度の変化は約7%の調節弁の開度振れ幅とした。更に弁内洗浄溶媒として約220℃の水を供給した。運転日数4ヵ月の間、調節弁に詰りが発生することはなく安定に運転を継続することができた。
【0019】
(比較例2)
ブースターリレーを用いない通常のPID制御で調節弁の開度をコントロールした他は実施例2と同様に運転を行ったところ、徐々に調節弁のスラリーの通り道に結晶が付着して流れにくくなり、調節弁の開度が上昇したが3日目に詰まってしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸の溶液またはテレフタル酸の一部が析出したスラリーを前段の晶析槽に送り、前段の晶析槽においてテレフタル酸を析出させ、テレフタル酸と溶媒を含むスラリーを生成させて後段の晶析槽に送る連続的多段階晶析方法であって、前段の晶析槽と後段の晶析槽を接続する移送配管に設置された調節弁が、調節計からのフィードバック制御に基づく操作出力信号により駆動部が作動して調節弁の開度が定められ、通過するテレフタル酸と溶媒を含むスラリーの流量を制御する調節弁であり、その調節弁の開度を0.2〜20秒の周期で1〜40%の調節弁の開度振れ幅で強制的に変化させながらテレフタル酸と溶媒を含むスラリーを送ることを特徴とする晶析方法。
【請求項2】
晶析槽においてテレフタル酸を析出させる方法が溶媒のフラッシュ蒸発による冷却であることを特徴とする請求項1記載の晶析方法。
【請求項3】
調節弁の開度を0.4秒〜10秒の周期で変化させながらテレフタル酸と溶媒を含むスラリーを送ることを特徴とする請求項1又は2に記載の晶析方法。
【請求項4】
調節計からのフィードバック制御に基づく操作出力信号により定められる調節弁の開度が25〜75%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項5】
調節弁の開度を3〜30%の調節弁の開度振れ幅で変化させながらテレフタル酸と溶媒を含むスラリーを送ることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項6】
調節弁を制御する調節計が前段の晶析槽の液面計であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項7】
調節弁のバルブボデーへ弁内洗浄溶媒を供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項8】
調節弁の開度をブースターリレーを用いて変化させる請求項1〜7のいずれかに記載の晶析方法。

【公開番号】特開2007−302561(P2007−302561A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129157(P2006−129157)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(592162324)水島アロマ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】