説明

晶析方法

【課題】晶析装置内の原料の晶析物を含む液を抜出流路から抜き出す際に、晶析物が抜出流路に詰まりにくい晶析方法を提供する。
【解決手段】第1の晶析装置12に原料を含む液(A)を連続的に供給し、第1の晶析装置12内で原料を晶析させ、第1の晶析装置12から原料の晶析物を含む液(B)を断続的に抜き出し、かつ第1の晶析装置12から抜き出した原料の晶析物を含む液(B)を、原料を含む液(A)として第2の晶析装置14に断続的に供給し、第2の晶析装置14内で原料をさらに晶析させ、第2の晶析装置14から原料の晶析物を含む液(B)を断続的に抜き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、晶析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸の精製を目的に、晶析装置内で(メタ)アクリル酸溶液を冷却して、(メタ)アクリル酸を晶析させ、(メタ)アクリル酸の結晶を含むスラリーを得ることが行われる(特許文献1)。そして、(メタ)アクリル酸の晶析を行っている最中に、晶析装置内の、(メタ)アクリル酸の結晶を含むスラリーを抜出流路から連続的に抜き出す際に、(メタ)アクリル酸の結晶が抜出流路に詰まることがある。なお、本明細書において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸をいうものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3559523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、晶析装置内の原料の晶析物を含む液を抜出流路から抜き出す際に、晶析物が抜出流路に詰まりにくい晶析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の晶析方法は、晶析装置に原料を含む液(A)を平均供給速度VsAV(kg/時間)で連続的または断続的に供給しながら、晶析装置内で原料を晶析させる間、下記条件(a)を満足する抜き出しを断続的に行うことを特徴とする。
条件(a):晶析装置からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出し速度Ve(kg/時間)が原料を含む液(A)の平均供給速度VsAVの200%以上となる。
なお、本明細書において平均供給速度(平均抜き出し速度)は、1時間あたりの供給量(抜き出し量)をいい、単なる供給速度(抜き出し速度)は、ある時点における瞬間的な流量(すなわち瞬間速度)をいうものとする。
【0006】
原料を含む液(A)は、アクリル酸溶液、またはアクリル酸の結晶を含むスラリーであり、原料の晶析物を含む液(B)は、アクリル酸の結晶を含むスラリーである、または、原料を含む液(A)は、メタクリル酸溶液、またはメタクリル酸の結晶を含むスラリーであり、原料の晶析物を含む液(B)は、メタクリル酸の結晶を含むスラリーであることが好ましい。
【0007】
本発明の晶析方法においては、晶析装置から原料の晶析物を含む液(B)を抜き出す抜出流路に設けられた抜出弁の開閉を、抜出弁に接続された制御手段によって下記(I)〜(III)のように制御することが好ましい。
(I)前記条件(a)を満足する開放と、下記条件(b)を満足する完全閉止ないし略閉止とを繰り返す。
条件(b):晶析装置からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出し速度Ve(kg/時間)が原料を含む液(A)の平均供給速度VsAVの0〜10%となる。
(II)前記条件(a)を満足する開放の頻度を、10分あたり1回以上とする。
(III)前記条件(a)を満足する開放の合計時間を、原料の晶析開始から晶析終了までの時間の0.1〜20%とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の晶析方法によれば、晶析装置内の原料の晶析物を含む液を抜出流路から抜き出す際に、晶析物が抜出流路に詰まりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の晶析方法に用いる晶析システムの一例を示す構成図である。
【図2】実施例における各弁の開閉のインターバルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(晶析システム)
図1は、本発明の晶析方法に用いられる晶析システムの一例を示す構成図である。晶析システム10は、原料を含む液(A)を冷却して原料の晶析物を含む液(B)を得る第1の晶析装置12と;原料を含む液(A)を冷却して原料の晶析物を含む液(B)を得る第2の晶析装置14と;原料の晶析物を含む液(B)を原料の晶析物とろ液とに分離する固液分離装置16と;ろ液を貯留するろ液タンク18と;原料を含む液(A)を第1の晶析装置12に供給する原料供給流路20と;原料の晶析物を含む液(B)を第1の晶析装置12から抜き出し、原料を含む液(A)として第2の晶析装置14に供給する第1の抜出流路22と;原料の晶析物を含む液(B)を第2の晶析装置14から抜き出し、固液分離装置16に供給する第2の抜出流路24と;固液分離装置16から原料の晶析物を晶析システム10の後段へ移送する移送26と;固液分離装置16からろ液をろ液タンク18へ移送する移送流路28と;ろ液タンク18からろ液を、原料を含む液(A)として晶析システム10よりも前段に返送する返送流路30と;原料供給流路20から分岐し、第1の抜出流路22の途中に原料を含む液(A)を流体(C)として供給する第1の流体供給流路32と;ガスタンク33から第1の抜出流路22の途中にガスを流体(C)として供給する第2の流体供給流路34と;移送流路30から分岐し、第1の抜出流路22の途中にろ液を流体(C)として供給する第3の流体供給流路36と;第1の流体供給流路32から分岐し、第2の抜出流路24の途中に原料を含む液(A)を流体(C)として供給する第4の流体供給流路38と;第2の流体供給流路34から分岐し、第2の抜出流路24の途中にガスを流体(C)として供給する第5の流体供給流路40と;第3の流体供給流路36から分岐し、第2の抜出流路24の途中にろ液を流体(C)として供給する第6の流体供給流路42と;第1の流体供給流路32が分岐する位置よりも下流側の原料供給流路20の途中に設けられた原料供給弁44と;第1の流体供給流路32、第2の流体供給流路34および第3の流体供給流路36が合流する位置よりも下流側の第1の抜出流路22の途中に設けられた第1の抜出弁46と;第4の流体供給流路38、第5の流体供給流路40および第6の流体供給流路42が合流する位置よりも下流側の第2の抜出流路24の途中に設けられた第2の抜出弁48と;第3の流体供給流路36が分岐する位置よりも下流側の返送流路30の途中に設けられた返送弁50と;第4の流体供給流路38が分岐する位置よりも下流側の第1の流体供給流路32の途中に設けられた第1の流体供給弁52と;第5の流体供給流路40が分岐する位置よりも下流側の第2の流体供給流路34の途中に設けられた第2の流体供給弁54と;第6の流体供給流路42が分岐する位置よりも下流側の第3の流体供給流路36の途中に設けられた第3の流体供給弁56と;第4の流体供給流路38の途中に設けられた第4の流体供給弁58と;第5の流体供給流路40の途中に設けられた第5の流体供給弁60と;第6の流体供給流路42の途中に設けられた第6の流体供給弁62と;第1の流体供給流路32が分岐する位置よりも上流側の原料供給流路20の途中に設けられた原料供給ポンプ64と;第3の流体供給流路36が分岐する位置よりも上流側の返送流路30の途中に設けられた返送ポンプ66と;前記各弁の開閉を制御する制御手段68とを具備する。ただし、流体(C)を供給する各流体供給流路(32、34、36、38、40、42)は必要に応じて抜出弁(46、48)の下流側の閉塞を抑制するために、抜出弁(46、48)の下流側にも併せて接続してもよい。
【0011】
第1の晶析装置12および第2の晶析装置14は、それぞれ、晶析槽70と;晶析槽70の外側から晶析槽70およびその内部を冷却するジャケット72と、晶析槽70の内部を撹拌する撹拌翼74を有する撹拌機76と、晶析槽70内の液面の高さを検出する液面検出手段78とを具備する。液面検出手段78は、制御手段68に電気的に接続される。液面検出手段78としては、超音波センサ、フロート式センサ、圧力式センサ、静電容量式センサ等が挙げられる。
【0012】
固液分離装置16としては、ベルト式脱水機、ドラム式脱水機、遠心脱水機等が挙げられる。
移送装置26としては、スクリューフィーダ、ベルトコンベア等が挙げられる。
各弁としては、電磁弁、電動弁、エアー駆動弁等が挙げられる。
【0013】
制御手段68は、処理部(図示略)とインターフェイス部(図示略)と記憶部(図示略)とを具備する。
インターフェイス部は、前記各弁ならびに液面検出手段78と処理部との間を電気的に接続するものである。
処理部は、記憶部に記憶された所定のインターバル、供給速度、抜き出し速度等に基づいて前記各弁のそれぞれの開閉を制御するものである。
【0014】
なお、該処理部は専用のハードウエアにより実現されるものであってもよく、また、該処理部はメモリおよび中央演算装置(CPU)によって構成され、処理部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
また、制御手段68には、周辺機器として、入力装置、表示装置等が接続されるものとする。ここで、入力装置とは、ディスプレイタッチパネル、スイッチパネル、キーボード等の入力デバイスのことをいい、表示装置とは、CRT、液晶表示装置等のことをいう。
【0015】
(晶析方法)
つぎに、晶析システム10を用いた晶析方法について説明する。
まず、原料供給弁44を開き、原料供給ポンプ64を駆動させて、原料供給流路20経由で原料を含む液(A)を第1の晶析装置12に、1時間あたりの供給量が所定量となるように連続的に(場合によっては断続的に)供給する。流体(C)として原料を含む液(A)と同一の流体を用いる場合には、流体(C)中の原料を含む液(A)と同一の成分量も考慮して所定流量となるようにする。
第1の晶析装置12内で、原料を含む液(A)を冷却して原料を晶析させ、原料の晶析物を含む液(B)を得る。
所定のインターバルで第1の抜出弁46の開閉や抜出量の調整を行い、第1の抜出流路22経由で原料の晶析物を含む液(B)を第1の晶析装置12から後述する条件(a1)を満足するように断続的に抜き出し、原料を含む液(A)として第2の晶析装置14に断続的に供給する。
【0016】
第2の晶析装置14内で、原料を含む液(A)を冷却して原料をさらに晶析させ、原料の晶析物を含む液(B)を得る。
所定のインターバルで第2の抜出弁48の開閉や抜出量の調整を行い、第2の抜出流路24経由で原料の晶析物を含む液(B)を第2の晶析装置14から後述する条件(a2)を満足するように断続的に抜き出し、固液分離装置16に断続的に供給する。
【0017】
固液分離装置16内で、原料の晶析物を含む液(B)を原料の晶析物とろ液とに分離しながら、移送装置26によって、固液分離装置16から原料の晶析物を晶析システム10の後段へ移送し、かつ移送流路28経由で、固液分離装置16からろ液をろ液タンク18へ移送する。
必要に応じて、返送弁50を開き、返送ポンプ66を駆動させて、返送流路30経由でろ液タンク18からろ液を、原料を含む液(A)として晶析システム10よりも前段に返送する。
【0018】
本発明においては、第1の晶析装置12の晶析槽70に原料を含む液(A)を平均供給速度Vs1AV(kg/時間)で連続的に(場合によっては断続的に)供給しながら、第1の晶析装置12の晶析槽70内で原料を晶析させる間、下記条件(a1)を満足する抜き出しを断続的に行うことに特徴がある。
条件(a1):第1の晶析装置12の晶析槽70からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出し速度Ve1(kg/時間)が原料を含む液(A)の平均供給速度Vs1AVの200%以上となる。
【0019】
また、第2の晶析装置14の晶析槽70に原料を含む液(A)を平均供給速度Vs2AV(kg/時間)で断続的に供給しながら、第2の晶析装置14の晶析槽70内で原料を晶析させる間、下記条件(a2)を満足する抜き出しを断続的に行うことに特徴がある。
条件(a2):第2の晶析装置14の晶析槽70からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出し速度Ve2(kg/時間)が原料を含む液(A)の平均供給速度Vs2AVの200%以上となる。
【0020】
条件(a1)を満足する原料の晶析物を含む液(B)の抜き出しを断続的に行うことによって、原料の晶析物を含む液(B)を連続的に一定の抜き出し速度で抜き出す場合に比べ、第1の抜出流路22に原料の晶析物を含む液(B)が勢いよく流れ、これにより第1の抜出流路22の入口および内部に付着あるいは滞留した晶析物が押し出され、第1の抜出流路22の入口および内部における晶析物の詰まりを十分に抑制できる。
【0021】
また、条件(a2)を満足する原料の晶析物を含む液(B)の抜き出しを断続的に行うことによって、原料の晶析物を含む液(B)を連続的に一定の抜き出し速度で抜き出す場合に比べ、第2の抜出流路24に原料の晶析物を含む液(B)が勢いよく流れ、これにより第2の抜出流路24の入口および内部に付着あるいは滞留した晶析物が押し出され、第2の抜出流路24の入口および内部における晶析物の詰まりを十分に抑制できる。
【0022】
本発明においては、第1の晶析装置12の晶析槽70から原料の晶析物を含む液(B)を抜き出す前および抜き出す間、第1の抜出流路22に、第1の流体供給流路32、第2の流体供給流路34および第3の流体供給流路36からなる群から選ばれる1つ以上の流体供給流路から、流体(C)を供給することが好ましい。流体(C)を供給する場合、第1の抜出流路22への流体(C)の供給箇所は、第1の抜出弁46よりも上流側が好ましい。
【0023】
また、第2の晶析装置14の晶析槽70から原料の晶析物を含む液(B)を抜き出す前および抜き出す間、第2の抜出流路24に、第4の流体供給流路38、第5の流体供給流路40および第6の流体供給流路42からなる群から選ばれる1つ以上の流体供給流路から、流体(C)を供給することが好ましい。流体(C)を供給する場合、第2の抜出流路24への流体(C)の供給箇所は、第2の抜出弁48よりも上流側が好ましい。
【0024】
原料の晶析物を含む液(B)を抜き出す前および抜き出す間、第1の抜出流路22および第2の抜出流路24に流体(C)を供給し、各抜出流路から各晶析装置の晶析槽70に向かって流体(C)を逆流させることによって、各抜出流路の入口および内部における晶析物の沈降および滞留を防止できるため詰まりをさらに抑制できる。
【0025】
第1の抜出流路22への流体(C)の供給は、第1の流体供給流路32、第2の流体供給流路34および第3の流体供給流路36からなる群から選ばれる1つ以上の流体供給流路から行えばよい。
【0026】
第2の抜出流路24への流体(C)の供給は、第4の流体供給流路38、第5の流体供給流路40および第6の流体供給流路42からなる群から選ばれる1つ以上の流体供給流路から行えばよい。
【0027】
第1の抜出流路22からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出しの開始ならびに終了、および第1の抜出流路22への流体(C)の供給の開始ならびに終了は、制御手段68の記憶部に記憶されたインターバル、供給速度、抜き出し速度等に基づいて、制御手段68の制御部により第1の抜出弁46の開閉と、第1の流体供給弁52、第2の流体供給弁54および第3の流体供給弁56からなる群から選ばれる1つ以上の流体供給弁の開閉を下記(I)〜(IV)のように制御することにより行うことが好ましい。
【0028】
(I)第1の抜出弁46については、条件(a1)を満足する開放と、下記条件(b1)を満足する完全閉止ないし略閉止とを繰り返す。
条件(b1):第1の晶析装置12の晶析槽70からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出し速度Ve1(kg/時間)が原料を含む液(A)の平均供給速度Vs1AVの0〜10%となる。
(II)条件(a1)を満足する第1の抜出弁46の開放の頻度を、10分あたり1回以上とする。
(III)条件(a1)を満足する第1の抜出弁46の開放の合計時間を、第1の晶析装置12の晶析槽70における原料の晶析開始から晶析終了までの時間の0.1〜20%とする。
(IV)流体供給弁については、第1の抜出弁46の開放の1〜60秒前から第1の抜出弁46の開放まで開放しそれ以外は閉止してもよいし、第1の抜出弁46の開放の1〜60秒前から第1の抜出弁46の開放まで、および第1の抜出弁46の開放から第1の抜出弁46の完全閉止ないし略閉止までの間は開放し、それ以外は閉止してもよい。
【0029】
条件(a1)を満足する開放と、条件(b1)を満足する完全閉止ないし略閉止とを繰り返すことによって、原料の晶析物を含む液(B)を連続的に一定の抜き出し速度で抜き出す場合に比べ、第1の抜出流路22における原料の晶析物を含む液(B)の流れにメリハリが付き、これにより第1の抜出流路22の入口および内部に付着あるいは滞留した晶析物が押し出され、第1の抜出流路22の入口および内部における晶析物の詰まりを十分に抑制できる。
【0030】
条件(a1)を満足する開放の頻度を10分あたり1回以上とすることによって、第1の抜出流路22の入口および内部に付着あるいは滞留する晶析物の量を抑えることができる。
【0031】
条件(a1)を満足する第1の抜出弁46の開放の合計時間を、原料の晶析開始から晶析終了までの時間の0.1%以上とすることにより、所定の量を安定的に抜き出せる。
条件(a1)を満足する第1の抜出弁46の開放の合計時間を、原料の晶析開始から晶析終了までの時間の20%以下とすることにより、第1の抜出流路22の径を大きくできるため、第1の抜出流路22の閉塞の頻度を少なくできる。
【0032】
各流体供給弁の開放開始を、条件(a1)を満足する第1の抜出弁46の開放の1秒前およびそれ以前に開始することにより、原料の晶析物を含む液(B)を抜き出す前および抜き出し開始直後の、第1の抜出流路22における晶析物の詰まりを取り除き、第1の抜出流路22の閉塞を十分に抑制できる。
各流体供給弁の開放開始を、条件(a1)を満足する第1の抜出弁46の開放の60秒前およびそれ以降に開始することにより、流体(C)の流量が抑えられる。第1の抜出流路22の閉塞を抑制できる範囲であれば、流体(C)の流量は低く抑える方が好ましい。
各流体供給弁を、第1の抜出弁46の開放から第1の抜出弁46の完全閉止ないし略閉止までの間、開放することにより、原料の晶析物を含む液(B)を抜き出している間の、第1の抜出流路22における晶析物の詰まりを十分に抑制できる。
【0033】
また、第2の抜出流路24からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出しの開始ならびに終了、および第2の抜出流路24への流体(C)の供給の開始ならびに終了は、制御手段68の記憶部に記憶されたインターバル、供給速度、抜き出し速度等に基づいて、制御手段68の制御部により第2の抜出弁48の開閉と、第4の流体供給弁58、第5の流体供給弁60および第6の流体供給弁62からなる群から選ばれる1つ以上の流体供給弁の開閉を下記(I)〜(IV)のように制御することにより行うことが好ましい。
【0034】
(I)第2の抜出弁48については、条件(a2)を満足する開放と、下記条件(b2)を満足する完全閉止ないし略閉止とを繰り返す。
条件(b2):第2の晶析装置14の晶析槽70からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出し速度Ve2(kg/時間)が原料を含む液(A)の平均供給速度Vs2AVの0〜10%となる。
(II)条件(a2)を満足する第2の抜出弁48の開放の頻度を、10分あたり1回以上とする。
(III)条件(a2)を満足する第2の抜出弁48の開放の合計時間を、第2の晶析装置14の晶析槽70における原料の晶析開始から晶析終了までの時間の0.1〜20%とする。
(IV)流体供給弁については、第2の抜出弁48の開放の1〜60秒前から第2の抜出弁48の開放まで、および第2の抜出弁48の開放から第2の抜出弁48の完全閉止ないし略閉止までの間は開放し、それ以外は閉止する。
【0035】
条件(a2)を満足する開放と、条件(b2)を満足する完全閉止ないし略閉止とを繰り返すことによって、原料の晶析物を含む液(B)を連続的に一定の抜き出し速度で抜き出す場合に比べ、第2の抜出流路24における原料の晶析物を含む液(B)の流れにメリハリが付き、これにより第2の抜出流路24の入口および内部に付着あるいは滞留した晶析物が押し出され、第2の抜出流路24の入口および内部における晶析物の詰まりを十分に抑制できる。
【0036】
条件(a2)を満足する開放の頻度を10分あたり1回以上とすることによって、第2の抜出流路24の入口および内部に付着あるいは滞留する晶析物の量を抑えることができる。
【0037】
条件(a2)を満足する第2の抜出弁48の開放の合計時間を、原料の晶析開始から晶析終了までの時間の0.1%以上とすることにより、所定の量を安定的に抜き出せる。
条件(a2)を満足する第2の抜出弁48の開放の合計時間を、原料の晶析開始から晶析終了までの時間の20%以下とすることにより、第2の抜出流路24の径を大きくできるため、第2の抜出流路24の閉塞の頻度を少なくできる。
【0038】
各流体供給弁の開放開始を、条件(a2)を満足する第2の抜出弁48の開放の1秒前およびそれ以前に開始することにより、原料の晶析物を含む液(B)を抜き出す前および抜き出し開始直後の、第2の抜出流路24における晶析物の詰まりを取り除き、第2の抜出流路24の閉塞を十分に抑制できる。
各流体供給弁の開放開始を、条件(a2)を満足する第2の抜出弁48の開放の60秒前およびそれ以降に開始することにより、流体(C)の流量が抑えられる。第2の抜出流路24の閉塞を抑制できる範囲であれば、流体(C)の流量は低く抑える方が好ましい。
各流体供給弁を、第2の抜出弁48の開放から第2の抜出弁48の完全閉止ないし略閉止までの間、開放することにより、原料の晶析物を含む液(B)を抜き出している間の、第2の抜出流路24における晶析物の詰まりを十分に抑制できる。
【0039】
なお、各抜出弁の開閉や流量調整、および各流体供給弁の開閉や流量調整のインターバルは、各晶析装置の晶析槽70に設けられた液面検出手段78からの液面の高さの情報に基づいて、前記(I)〜(IV)の範囲内で適宜調整してもよい。
また、前記(I)〜(III)の範囲内で、晶析装置からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出し速度Ve(kg/時間)が原料を含む液(A)の平均供給速度VsAVの10%超200%未満となるような各抜出弁の開放を適宜行ってもよい。
【0040】
原料を含む液(A)の原料は、冷却によって晶析するものであれば特に限定はされない。該原料としては、アクリル系モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等)が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0041】
原料を含む液(A)としては、アクリル系モノマー溶液、またはアクリル系モノマーの結晶を含むスラリーが好ましく、メタクリル酸溶液、またはメタクリル酸の結晶を含むスラリーがより好ましい。必要に応じて被処理流体に結晶析出温度を調整するための成分を添加してもよい。例えば被処理流体として粗製(メタ)アクリル酸を用いる場合、第二成分として(メタ)アクリル酸と固溶体を形成しない極性有機物質を添加することにより、結晶析出温度を低下させることができる。極性有機物質の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。該第二成分の添加量は1〜35質量%の範囲内が好ましい。
【0042】
原料の晶析物を含む液(B)としては、アクリル系モノマーの結晶を含むスラリーが好ましく、メタクリル酸の結晶を含むスラリーがより好ましい。原料の晶析物を含む液(B)が原料をも含む場合は、該原料の晶析物を含む液(B)は、原料を含む液(A)として取り扱ってもよい。
【0043】
流体(C)としては、原料を含む液(A)、ガス、原料の晶析物を含む液(B)から分離されたろ液(すなわち、再利用される原料を含む液(A))等が挙げられる。ガスとしては、窒素ガス、窒素ガスと空気との混合ガス、ヘリウムガス等が挙げられ、窒素ガスが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
図1に示す晶析システム10を用いて、粗メタクリル酸の精製を行った。
晶析槽70の内部の温度は4〜7℃に調整した。
【0046】
粗メタクリル酸としては、メタクロレインを分子状酸素で接触気相酸化して得られた液体を蒸留して得られたものを用いた。
粗メタクリル酸にメタノールを加え、メタノール濃度が5質量%のメタクリル酸溶液を調製した。
【0047】
メタクリル酸溶液を第1の晶析装置12に平均供給速度Vs1AV=1900kg/時間で連続的(一部断続的)に供給し、メタクリル酸溶液を冷却してメタクリル酸を晶析させ、メタクリル酸の結晶を含むスラリーを得た。
第1の晶析装置12には、原料供給流路20経由で供給されるメタクリル酸溶液(平均供給速度Vs1−1AV=1800kg/時間)と第1の流体供給流路32経由で供給されるメタクリル酸溶液(平均供給速度Vs1−2AV=100kg/時間)の合計として、平均供給速度Vs1AV=1900kg/時間で供給した。
【0048】
メタクリル酸の晶析を行っている間、制御手段68により第1の抜出弁46を、図2に示す(i)のインターバルで開閉させ、これを繰り返し、第1の抜出流路22経由でメタクリル酸の結晶を含むスラリーを第1の晶析装置12から平均抜き出し速度Ve1AV=1900kg/時間で断続的に抜き出し、第2の晶析装置14に平均供給速度Vs2−1AV=1900kg/時間で断続的に供給した。
【0049】
この際、第1の抜出弁46の開放時における、第1の晶析装置12からのメタクリル酸の結晶を含むスラリーの抜き出し速度Ve1(瞬間速度)は22800kg/時間であり、メタクリル酸溶液の平均供給速度Vs1AVの1200%であった。
また、開放時以外は、第1の抜出弁46は完全閉止(すなわち、抜き出し速度Ve1(瞬間速度)は0kg/時間であり、メタクリル酸溶液の平均供給速度Vs1AVの0%)であった。
また、第1の抜出弁46の開放の頻度は、10分あたり10回であった。
また、第1の抜出弁46の開放の合計時間は、原料の晶析開始から晶析終了までの時間の8.3%であった。
【0050】
また同時に、制御手段68により第1の流体供給弁52および第2の流体供給弁54を、図2に示す(ii)のインターバルで開閉させ、これを繰り返し、第1の晶析装置12の晶析槽70からメタクリル酸の結晶を含むスラリーを抜き出す前および抜き出す間、第1の抜出流路22に、第1の流体供給流路32および第2の流体供給流路34から、それぞれメタクリル酸溶液(平均供給速度Vs1−2AV=100kg/時間(第1の流体供給弁52が開の間の供給速度Vs1−2(瞬間速度)=300kg/時間))および窒素ガス(第2の流体供給弁54が開の間の平均供給速度=1m/時間)を供給した。
【0051】
第2の晶析装置14内で、メタクリル酸の結晶を含むスラリーを冷却してメタクリル酸をさらに晶析させ、メタクリル酸の結晶を含むスラリーを得た。
【0052】
第2の晶析装置14には、第1の抜出流路22経由で供給されるメタクリル酸の結晶を含むスラリー(平均供給速度Vs2−1AV=1900kg/時間)と第4の流体供給流路38経由で供給されるメタクリル酸溶液(平均供給速度Vs2−2AV=100kg/時間)の合計として、平均供給速度Vs2AV=2000kg/時間で断続的に供給した。
メタクリル酸の晶析を行っている間、制御手段68により第2の抜出弁48を、図2に示す(i)のインターバルで開閉させ、これを繰り返し、第2の抜出流路24経由でメタクリル酸の結晶を含むスラリーを第2の晶析装置14から平均抜き出し速度Ve2AV=2000kg/時間で断続的に抜き出し、固液分離装置16に断続的に供給した。
【0053】
この際、第2の抜出弁48の開放時における、第2の晶析装置14からのメタクリル酸の結晶を含むスラリーの抜き出し速度Ve2(瞬間速度)は24000kg/時間であり、メタクリル酸溶液の平均供給速度Vs2AVの1200%であった。
また、開放時以外は、第2の抜出弁48は完全閉止(すなわち、抜き出し速度Ve2(瞬間速度)は0kg/時間であり、メタクリル酸溶液の平均供給速度Vs2AVの0%)であった。
また、第2の抜出弁48の開放の頻度は、10分あたり10回であった。
また、第2の抜出弁48の開放の合計時間は、原料の晶析開始から晶析終了までの時間の8.3%であった。
【0054】
また同時に、制御手段68により第4の流体供給弁58および第5の流体供給弁60を、図2に示す(ii)のインターバルで開閉させ、これを繰り返し、第2の晶析装置14の晶析槽70からメタクリル酸の結晶を含むスラリーを抜き出す前および抜き出す間、第2の抜出流路24に、第4の流体供給流路38および第5の流体供給流路40から、それぞれメタクリル酸溶液(平均供給速度Vs2−2AV=100kg/時間(第4の流体供給弁58が開の間の供給速度Vs2−2(瞬間速度)=300kg/時間))および窒素ガス(第5の流体供給弁60が開の間の平均供給速度=1m/時間)を供給した。
【0055】
固液分離装置16内で、メタクリル酸の結晶を含むスラリーを、メタクリル酸の結晶とろ液とに分離しながら、移送装置26によって、固液分離装置16からメタクリル酸の結晶を晶析システム10の後段へ移送し、かつ移送流路28経由で、固液分離装置16からろ液をろ液タンク18へ移送した。
【0056】
200時間連続して粗メタクリル酸の精製を行ったが、各抜出流路の入口および内部においてメタクリル酸の結晶が詰まることはなかった。
【0057】
〔比較例1〕
制御手段68による各抜出弁および各流体供給弁の制御を行わないことによって、各晶析装置から各抜出流路経由でメタクリル酸の結晶を含むスラリーを連続的に抜き出し、かつ各流体供給流路から各抜出流路へメタクリル酸溶液および窒素ガスを供給しなかった以外は、実施例1と同様にして粗メタクリル酸の精製を行った。精製開始から5時間後、抜出流路におけるメタクリル酸の結晶の詰まりが確認されたため、粗メタクリル酸の精製を中止した。
【0058】
〔実施例2〜3〕
各条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして粗メタクリル酸の精製を行った。200時間連続して粗メタクリル酸の精製を行ったが、各抜出流路の入口および内部においてメタクリル酸の結晶が詰まることはなかった。
【0059】
〔実施例4〕
各流体供給流路から各抜出流路へメタクリル酸溶液および窒素ガスを供給しなかった以外は、実施例1と同様にして粗メタクリル酸の精製を行った。比較例1において、粗メタクリル酸の精製の開始から、抜出流路にメタクリル酸の結晶が詰まるまでの時間を超えても、各抜出流路の入口および内部においてメタクリル酸の結晶が詰まることはなかった。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の晶析方法は、メタクリル酸の晶析に特に有用である。
【符号の説明】
【0062】
10 晶析システム
12 第1の晶析装置
14 第2の晶析装置
22 第1の抜出流路
24 第2の抜出流路
46 第1の抜出弁
48 第2の抜出弁
68 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
晶析装置に原料を含む液(A)を平均供給速度VsAV(kg/時間)で連続的または断続的に供給しながら、晶析装置内で原料を晶析させる間、
下記条件(a)を満足する抜き出しを断続的に行うことを特徴とする晶析方法。
条件(a):晶析装置からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出し速度Ve(kg/時間)が原料を含む液(A)の平均供給速度VsAVの200%以上となる。
【請求項2】
原料を含む液(A)が、アクリル酸溶液、またはアクリル酸の結晶を含むスラリーであり、原料の晶析物を含む液(B)が、アクリル酸の結晶を含むスラリーである、または、
原料を含む液(A)が、メタクリル酸溶液、またはメタクリル酸の結晶を含むスラリーであり、原料の晶析物を含む液(B)が、メタクリル酸の結晶を含むスラリーである、請求項1に記載の晶析方法。
【請求項3】
晶析装置から原料の晶析物を含む液(B)を抜き出す抜出流路に設けられた抜出弁の開閉を、抜出弁に接続された制御手段によって下記(I)〜(III)のように制御する、請求項1または2に記載の晶析方法。
(I)前記条件(a)を満足する開放と、下記条件(b)を満足する完全閉止ないし略閉止とを繰り返す。
条件(b):晶析装置からの原料の晶析物を含む液(B)の抜き出し速度Ve(kg/時間)が原料を含む液(A)の平均供給速度VsAVの0〜10%となる。
(II)前記条件(a)を満足する開放の頻度を、10分あたり1回以上とする。
(III)前記条件(a)を満足する開放の合計時間を、原料の晶析開始から晶析終了までの時間の0.1〜20%とする。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−36762(P2011−36762A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184493(P2009−184493)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】