説明

暖冷房方法および暖冷房システム

【課題】放冷熱パネル、又は放冷熱器の室内側への放冷熱効率および放冷熱量が高く、省エネルギー化に有効であり、尚且つ即冷暖性に優れた暖冷房方法を提供する。
【解決手段】放冷熱パネル、又は該放冷熱パネルの表面に表面仕上げ材を有する放冷熱器による暖冷房方法であって、該放冷熱パネル、又は該放冷熱器の表面仕上げ材に、送風装置により風速0.1m/秒以上の風を当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放冷熱パネル、又は放冷熱器による暖冷房方法および該暖冷房システムに関するものであり、詳しくは、住宅等の室内に設置した放冷熱パネル、あるいは床、壁、天井等に設置した放冷熱器によって室内を暖冷房する方法であって、放冷熱パネル、又は放冷熱器から室内側のみに効率よく迅速に放冷熱し、室外への放冷熱を極力抑えることにより、省エネルギーを実現できる暖冷房方法、およびそれに用いる送風装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放冷熱パネル、放冷熱器は、その快適性とコストパフォーマンスから、住宅の室内を暖房する設備として広く普及している。なかでも、熱源機で加熱した温水を、放熱パネル、放熱器に供給することによって、住宅の室内を暖房することが提案されており(特許文献1)、また、広く普及している。放熱パネルとしては、ラジエーターパネル等が挙げられ、放熱器としては、床下に設置した温水マットなどの放熱パネルの表面にフローリング材等の表面仕上げ材を有する床暖房放熱器が挙げられる。最近では、新築住宅への組み込みだけではなく、既築住宅をリフォームする際に、既存の床上に設置することで簡単に床暖房ができるタイプの床暖房放熱パネルも提案されている。また、このような放熱パネルを壁や天井に敷設した暖房設備や、温水に代わり冷水を流す冷房設備も提案されている。さらには、温水に代わり、電気による抵抗加熱を発熱源とするタイプの電気式の放熱パネルも商品化されている。
【0003】
床設置型放冷熱器を例にとると、エネルギー効率の面から、室内側である上面方向にのみ放冷熱がなされることが望まれる。
【0004】
省エネルギーの観点からは、上面への放熱効率をできるだけ高めることが好ましい。財団法人ベターリビングの優良住宅部品認定基準のうち、「暖・冷房システム/床暖房ユニット BLS HS/B−b−8」においても、床暖房放熱器の床上方向への放熱効率は、基礎基準で60%以上、推奨選択基準で80%以上、と規定されており、重要視されている。
【0005】
また、ストーブ、ファンヒーター、エアコンなどの、室内空気を強制的に対流させる暖房方法では寒い室内を短時間のうちに暖めることができるのに対して、放熱パネル又は放熱器を用いた暖房では、輻射による放熱が主体となるため、即暖性に劣る。
【0006】
現在は、その欠点を改善するために、実際に室内で生活する時間帯よりも60分程度早い時刻から暖房運転開始することが推奨されている。放冷熱パネルの室内への放冷熱効率ならびに放冷熱量が高ければ、即暖性も改善され、このような無駄な運転時間を費やすことなく、さらに省エネルギーを実現できるはずである。
【0007】
さらに、他の即暖性改善手法として、床暖房とエアコンを同時に運転する方法も提案されている。
【0008】
以上のような理由から、放冷熱パネル、又は放冷熱器を用いた暖冷房方法では、より一層の放冷熱効率ならびに放冷熱量の向上が望まれている。しかしながら、従来は、放冷熱パネル、又は放冷熱器の表面側への放冷熱効率又は放冷熱量を改善するために、もっぱら放冷熱パネル自体の構造面に着目した提案のみがなされているに過ぎなかった。
【特許文献1】特開2003−287234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1のような温水床暖房構造体においては、熱伝導性のある金属箔によってパイプ外周を被覆した耐熱合成樹脂管を用いているが、放冷熱パネルが、薄い面状の構造体であるため、パネルの上面方向のみならず、床下である下面方向にも放熱し、この下面方向への放熱が放熱ロスとして、エネルギー効率を落とす原因となるという問題がある。
【0010】
また、放冷熱パネル、放冷熱器による冷房は、日本の夏期が極めて湿度が高くなることから、冷熱媒を流す放冷熱パネルでは、冷媒の温度が低すぎると、放冷熱パネル、又は放冷熱器の表面仕上げ材の表面で結露が生じやすい。そこで、結露を抑制するためには、冷媒の温度をより常温に近づけることが好ましいが、10℃以上の冷媒で十分な冷房効果を得るには、放冷熱パネル、又は放冷熱器の室内への放冷熱効率ならびに放冷熱量を一層高めなければならないという問題がある。
【0011】
従来の技術は、もっぱら放冷熱パネルの構造のみに着目しているものの、コスト、組み立て時の作業性、製造効率に難がある上に、放冷熱効率向上効果にも限界があり、結果としてその普及を妨げている。また、放冷熱パネル以外の、周辺環境までを考慮に入れた、多面的な検討はなされていなかったのが実状である。また、既に住宅等に設置された放冷熱パネル、又は放冷熱器の省エネルギー化については、見過ごされてきたといっても過言ではない。
【0012】
本発明は上記従来の問題点を解決し、放冷熱パネル、又は放冷熱器の室内側への放冷熱効率および放冷熱量が高く、省エネルギー化に有効であり、尚且つ即冷暖性に優れた暖冷房方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的に鑑み、本発明者等は鋭意検討した結果、放冷熱パネル、又は該放冷熱パネル表面の表面仕上げ材に、送風装置により風速0.1m/秒以上の風を当てることにより、放冷熱パネル、又は放冷熱器の室内側への放冷熱効率および放冷熱量が大きく、省エネルギー化に有効であり、尚且つ即冷暖性に優れた暖冷房方法を見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明(請求項1)の暖冷房方法は、放冷熱パネル、又は該放冷熱パネルの表面に表面仕上げ材を有する放冷熱器による暖冷房方法であって、該放冷熱パネル、又は該放冷熱器の表面仕上げ材に、送風装置により風速0.1m/秒以上の風を当てることを特徴とするものである。
【0015】
本発明(請求項2)の暖冷房方法は、請求項1の暖冷房方法において、風が加湿空気、又は除湿空気であることを特徴とするものである。
【0016】
本発明(請求項3)の暖冷房システムは、放冷熱パネル、又は該放冷熱パネルの表面に表面仕上げ材を有する放冷熱器と、送風装置とからなるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、放冷熱パネル、又は該放冷熱器の表面仕上げ材に、送風装置により風速0.1m/秒以上の風を当てることにより、放冷熱パネル、又は放冷熱器の表面と室内空気との間の熱伝達係数を増大させる。これにより、風を当てない従来の暖冷房方法と比較して、放冷熱パネル、および放冷熱器と室内空気との間の熱抵抗を大幅に低減させることができるため、室内側への放冷熱量を高めることが可能となり、室内側にのみ効率よく放冷熱し、反対面側への放冷熱を極力抑えることにより、放冷熱パネル、又は放冷熱器の省エネルギー化を実現することができる。また、室内側への放冷熱量の増加にともなって、対流式の暖冷房方法と比較して劣っていた即冷暖性、つまり運転開始からの立ち上がり時間も短縮することができ、その観点からも省エネルギー化を実現できる。しかも、本発明の暖冷房方法は、放冷熱パネル、放冷熱器の構造にはまったく依存しないため、あらゆる種類の放冷熱パネル、又は放冷熱器に適用できるとともに、本発明に則った適切な送風装置を使用すれば、既に住宅に設置されている放冷熱パネル、又は放冷熱器を更新することなく、安価にその省エネルギー化を実現できる。
【0018】
さらに、本発明の送風装置に、室内の湿度に応じた除加湿機能を付与することにより、夏期冷房時の結露、冬期暖房時の乾燥、静電気発生および保温性低下を防ぎ、快適な住環境を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る暖冷房方法の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、実施例1および比較例1で使用した、床構造モデル試験体の構成を示す断面図である。図2は、実施例1および比較例1で使用した、床構造モデル試験体の床暖房パネルの構成を示す平面図である。なお、以下の発明は本発明の実施形態の一例に関する説明であり、本発明は以下の内容に限定されるものではない。
【0020】
なお、本発明の暖冷房方法は、冷房、暖房の両方に適用が可能なものであり、従って、熱媒として温水等の加熱媒体又は冷水等の冷却媒体が流通される、いわゆる冷熱媒式の放冷熱パネル、ならびに電気を流して抵抗加熱により発熱させる、いわゆる電気式の放冷熱パネル、さらには、蓄熱材に冷熱を蓄える、いわゆる蓄熱式の放冷熱パネルなど、冷熱源を問わずに、いずれの種類の放冷熱パネルにも適用できる。
【0021】
先ず、本発明に係る放冷熱パネルについて説明する。放冷熱パネルとしては、室内に設置するラジエーターパネル等の可動式のもの、床下、壁面、および天井等に設置される冷暖房用パネル等の不可動式のものが挙げられる。
【0022】
以下、床下、壁面、天井等に設置される放冷熱パネルについて説明する。なお、放冷熱パネルは、その要旨を超えない限り、以下の内容に限定されるものではない。
【0023】
床下、壁面、天井等に設置される放冷熱パネルは、基材42と、この基材42の表面に貼り付ける均熱箔44と具備している。基材42には、熱媒管41を埋設するための溝が形成されており、この溝に熱媒管41が埋設されている。さらに、基材42には、木質材からなる小根太43が設けられている。
【0024】
基材42は、熱媒管41を埋設し、熱媒管からの熱を基材の溝が形成された側の反対側への放熱を抑制するように機能するものであり、発泡樹脂等の断熱性を有する材料により形成された平板状の部材である。基材42は、一体に形成された1枚の部材からなっていても良く、また、例えば、2枚、あるいは3枚の平板を隣接配置して接合し、一枚の平板として組み上げたものでも良い。基材42の厚さは、放冷熱パネルを施工する建造物の種類及び建造物における施工箇所に応じて、6〜50mmの範囲とすることが好ましい。
【0025】
基材42は、断熱性能に優れ、かつ軽量で柔軟性がある等、取り扱い易いという観点から、発泡樹脂製の素材が好ましく、例えば、発泡ポリスチレン又は発泡ポリウレタン等の発泡プラスチック系断熱材を用いることが好ましい。
【0026】
基材42の表面には、熱媒管41を埋設するための溝が形成されている。溝は、基材の表面側に、基材42の四辺のうち向かい合った二辺に沿って同じ深さでほぼ平行に設けられ、この溝に熱媒管41が埋設される。斯かる溝の開口部の幅は、熱媒管41の外径(例えば7.2mm)と同じ寸法か、又はこれより僅かに大きくすることが好ましい。溝の形状は、溝の深さ方向に切断したときの断面がコの字状、又はU字状になっていてもよいが、熱媒管41の埋設のしやすさ、熱効率の観点からU字状に形成されていることが好ましい。
【0027】
熱媒管41は、例えば、架橋ポリエチレン管、ポリブテン管などの樹脂管、あるいは銅管などの金属管からなる。その直径は放冷熱パネルを設置する建造物の場所、基材42の厚さ並びに熱媒体の種類及び温度などによって変わるが、通常は、外径が7.2mm、内径が5mmの管が一般的である。
【0028】
均熱箔44は、図1に示すように、基材42および、基材42に形成された溝に埋設された熱媒管41を覆うように、基材42の表面に貼り付けられている。均熱箔44の材料としては、熱媒管41からの熱を放冷熱パネルに均一に伝え、放冷熱パネルの表面側への放熱を増加して高い熱効率を達成するために、熱伝導率の高い金属箔、例えば、アルミニウム箔又は銅箔等を用いることが好ましく、製造の容易さおよびコストの観点から、アルミニウム箔が特に好ましい。均熱箔の厚さは、あまり薄いと強度が不十分となって、放冷熱パネルをロール状に巻回するときに破損しやすく、一方、厚すぎると製品の重量が増加し、製造コストも高くなり、いずれも好ましくない。均熱箔44をアルミニウム箔で構成する場合、その厚さの好ましい範囲は、10〜500μmである。
【0029】
小根太43は、放冷熱パネルを構造物に釘等で固定したり、放冷熱パネルに表面仕上げ材5を釘等で固定したり、放冷熱パネルの強度を高めたりするために用いられる部材である。小根太43は、通常、放冷熱パネルの表面と裏面に略面一となる状態で、基材42中に挟み込まれるように嵌め込まれており、熱媒管41と平行となるように配置されている。また、小根太43は、図2のように、基材42の中央部に埋め込まれていてもよいし、基材42を切り欠くように、基材42の端まで延びていてもよい。また、基材42の中央に一本だけ用いてもよいし、他の熱媒管41間において複数用いてもよい。なお、基材42を接着剤のみによって構造物に固定する工法の場合、小根太43は必ずしも設ける必要はない。
【0030】
次に、本発明に係る放冷熱器について説明する。放冷熱器は、放冷熱パネルの表面に表面仕上げ材を具備している。
【0031】
表面仕上げ材は、放冷熱パネルがラジエーターパネル等のように、意匠面、機能面から必ずしも設ける必要がない場合もある。また、放冷熱パネルが、前記床下、壁面、天井等に設置される場合、意匠面、強度面、あるいは機能面から、表面仕上げ材を具備することが好ましい。
【0032】
表面仕上げ材としては、特に限定されないが、例えば、放冷熱パネルが、前記床下、壁面、天井等に設置される場合、放冷熱パネルに対する強度面、人間が直接接触する等の機能面から、好ましくは木質、又は柔軟性を有する物が好ましい。例えば、放冷熱パネルを、床冷暖房用に使用する場合、表面仕上げ材としては、フローリング、カーペット、畳等が好ましい。
【0033】
(風を当てることによる放熱効率向上のメカニズム)
放冷熱パネルからの単位面積あたりの放冷熱量Qは、放冷熱パネルの面積A、放冷熱パネルと放冷熱する側の空気との間の温度差△T、ならびに放冷熱パネルと放冷熱する側の空気との間の熱抵抗Rによって決定し、式1で表すことができる。
Q = △T/R … 式1
【0034】
この熱抵抗Rは、放冷熱パネルと放冷熱する側の空気との間に存在する、各種の構成要素のもつ熱抵抗の総和に等しい。各種構成要素の熱抵抗は、固体の場合は、その構成要素の厚さに比例するとともに、構成要素の材質固有の熱伝導率に反比例する。また、固体と気体の界面での熱抵抗は、熱伝達係数に反比例する。なお、熱伝達係数は構成要素の材質にはよらず、界面での気体の流れの性状や、固体表面の粗さなどによって決定する。よって、放冷熱パネルと室内空気との間の熱抵抗Rを、放冷熱パネルならびに表面仕上げ材という固体内部の熱伝導による部分と、放冷熱パネル又は表面仕上げ材という固体から室内空気という気体への熱伝達による部分に分けて表すと、式2のようになる。
R = Rpu +ds/λs + 1/α … 式2
Rpu : 放冷熱パネルの上面側の熱抵抗
ds : 表面仕上げ材の厚さ
λs : 表面仕上げ材を構成する材質の熱伝導率
α : 表面仕上げ材と室内空気との間の熱伝達係数
【0035】
ここで、第一項である放冷熱パネルの上面側の熱抵抗Rpuは、放冷熱パネルの材質と構造によって変わるため、一概に想定することは難しいが、第二項の表面仕上げ材の熱抵抗、および、第三項の熱伝達による熱抵抗については、一般的な値を簡単に求めることができる。たとえば、第二項については、最も普及している、12mm厚さの木質フローリングの場合、
ds=0.012m
λs=0.16 W/mK
となり、熱抵抗は、
0.012÷0.16=0.075 (mK/W)
となる。また、第三項については、空気が自然対流している場合、つまりは無風な状態での熱伝達率は 3W/mK とるため、熱抵抗は、
1÷3=0.33 (mK/W)
となる。したがって、これらの数値を比較すると、第三項、即ち、固体表面から室内空気への熱伝達による熱抵抗の寄与が大きいことがわかる。よって、熱伝達係数αを大きくして、その分の熱抵抗を小さくすることができれば、全体としての熱抵抗を低減でき、放冷熱パネルや放冷熱器の表面仕上げ材を加工することなく、室内への放冷熱量ならびに放冷熱効率を高めることができる。
【0036】
ここで、空気を強制的に対流させた、すなわち風をあてた状態では、熱伝達係数αは、空気が自然対流している場合と比べて、3〜15倍にもなることが知られている。よって、放冷熱パネルに対して、直接、あるいは、放冷熱器の表面仕上げ材に風を当てることによって、風を当てない従来の暖冷房方法と比較して、放冷熱パネルと室内空気との間、又は放冷熱器の表面仕上げ材と室内空気との間の熱抵抗を大幅に低減させ、室内側への放冷熱量が高めることで、室内側にのみ効率よく放冷熱し、放冷熱パネルの省エネルギー化を実現することができることがわかる。
【0037】
本発明に使用する送風装置には特に制約はなく、シロッコファン、ターボファン、リミットロートファン、エアホイルファン、クロスフローファンなどの遠心式送風機、あるいは、扇風機などで非常に一般的なプロペラ形、チューブ軸流式、ベーン軸流式などの軸流式送風機など、あらゆる種類の送風装置を使用することができる。
【0038】
送風装置によって発生させる送風速度は、放冷熱パネル又は放冷熱器の表面仕上げ材の表面で、無風状態時の温度境界層を壊すに必要十分な送風速度であればよいことから、放冷熱パネル、又は放冷熱器の表面仕上げ材の表面での風速としては、通常0.1m/秒以上、好ましくは0.5m/秒以上、一方、通常10m/秒以下、好ましくは6m/秒以下である。
【0039】
風速が10m/秒より大きい場合、室内にいる人に不快感を与える傾向にある。なお、風速の測定は、床面から5mmの高さに、日本化学工業株式会社製の熱式風速計 CLIMOMASTER MODEL 6511を設置して行う。
【0040】
ちなみに、室内空間の上部に設置したエアコンを室内で運転した場合の、床表面での風速は、発明者等が実測によって確認した限りでは、0.1m/秒未満であった。したがって、既に知られている、床暖房とエアコンを同時運転する暖房方法は、本発明のような放冷熱効率の向上による省エネルギー効果を得られない。
【0041】
送風装置による送風範囲は限定されないが、放冷熱パネル、又は放冷熱器の表面仕上げ材の全面に渡って送風することが好ましい。したがって、放冷熱パネル、又は放冷熱器の表面仕上げ材の全面に風が当たるように、送風口を広くとる、ファンの面積を大きくする、あるいは送風方向をスイングさせる等の措置をとることが好ましい。また、同様な観点から、送風装置は、放冷熱パネルの近傍に設置することが好ましく、床冷暖房の場合であれば、床面上、又は、壁面で非常に低い位置に設置することが好ましい。
【0042】
なお、暖冷房の運転時には、常時送風する必要はなく、暖冷房の運転状況や室内の温度・湿度に応じて、送風運転をオン・オフしたり、送風速度を変化させる、といった制御運転をおこなうことがより好ましい。具体的には、即暖性を重視して、暖房運転開始から室内温度が快適範囲に達するまでの間のみ送風し、その後は送風をやめても良い。また、冷熱媒式の放冷熱パネル、又は放冷熱器を使用する場合は、冷熱媒を循環させる循環ポンプの運転と連動させて、ポンプが起動している間のみ、送風を行い、ポンプが停止している間は、送風を停止しても良い。同様に、電気式の放冷熱パネル、又は放冷熱器を使用する場合は、電気ヒーターの運転と連動させて、ヒーターが起動している間のみ、送風を行い、ヒーターが停止している間は、送風を停止しても良い。
【0043】
ところで、夏期の冷房時に、放冷熱パネル、又は放冷熱器の表面仕上げ材に風を当てた場合、日本のように高温・多湿な環境では、空気中に含まれる湿気が放冷熱パネル表面、又は放冷熱器の表面仕上げ材の表面で冷やされることによって、結露してしまう懸念がある。本発明によれば、放冷熱パネル、又は放冷熱器の表面仕上げ材に規定以上の風を当てることによって、室内への放冷熱効率ならびに放冷熱量を一層高めることが可能となり、放冷熱パネル、又は放冷熱器の表面仕上げ材の表面温度が常温に近い温度であっても、十分な冷房効果を発揮できるようになり、結露の可能性は通常より低減することが可能となる。さらにその可能性を減じるために、本発明の送風装置では、予め除湿した空気を送風することで、結露の回避を図ることも好ましい。除湿の方法としては、冷却、圧縮、吸収、吸着など、いずれの方法を用いても良い。
【0044】
また、冬期の暖房時は、日本は乾燥した環境となるため、本発明の送風装置では、予め加湿した空気を送風することで、室内の乾燥を抑え、静電気等の発生を防ぐとともに、空気自体の保温性能を高めることで、より快適な住環境の提供を図ることが可能となる。このうち、空気の保温性については、乾燥した空気の定圧比熱が 1.00kJ/kgK なのに対して、水蒸気の定圧比熱が 1.85kJ/kgK となるため、湿度の高い空気ほど比熱が高くなることを利用したものである。加湿の方法としては、水噴霧、温水噴霧、蒸気噴霧などの直接噴霧形、あるいは、パン型、毛細管型などの表面蒸発形など、いずれの方法を用いても良い。
【0045】
なお、除湿・加湿の運転に当たっては、室内の温度・湿度を監視し、それらが常に快適範囲に入るよう、室内の温度・湿度に応じて、除湿・加湿運転をオン・オフしたり、単位時間当たりの除湿量・加湿量を変化させる、といった制御運転をおこなうことがより好ましい。
【0046】
また、運転開始から、室内温度が快適範囲に達するまでの時間を短くする、いわゆる即暖性を重視する場合は、運転初期には加湿せずに、室内空気の比熱を低めに保つことで、短時間に少ないエネルギーで室内空気を暖め、室内気温が充分に暖まった後に加湿を開始することが好ましい。
【0047】
なお、本発明の暖冷房方法は、放冷熱パネル、又は放冷熱器の構造にはまったく依存しないため、既に住宅に放冷熱パネル、又は放冷熱器が設置されている場合には、該放冷熱パネル、又は放冷熱器を更新するためのリフォーム工事をすることなく、本発明に則った適切な送風装置を設置するだけで、安価に暖冷房の省エネルギー化を実現することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0049】
図1に示す本発明の実施形態の温水式暖房放熱器を用いて、実施例1、および比較例1を、以下の方法で測定した。
【0050】
(試験体)
財団法人ベターリビングの優良住宅部品性能試験方法書のうち、「暖・冷房システム/床暖房ユニット BLS HS/B−b−8」 の試験装置を参考に、図1および図2に示す試験体を製作した。すなわち、土間との間に100mmの距離を設けて、厚さ50mmの発泡ポリスチレン板、厚さ12mmの下地合板、厚さ12mmの温水式床暖房パネル、厚さ12mmの表面合板、の順に積層し、端部周辺をクランプで固定して、平面寸法909×909mmの床構造モデル試験体を構成した。
【0051】
(試験条件および測定方法)
室内の温度は20℃とし、温水式床暖房パネルには60℃の温水を、0.5L/分の流速で流した。さらに試験体の近傍に軸流式送風機を設置し、試験体の表面に満遍なく規定の風速の風が当たるように送風した。そして、表面合板の上面側、および温水式床暖房パネルと下地合板の間で、それぞれ平面内の中心部に設置した、300×300mmのシート状の熱流計により、温水式床暖房パネルから上面方向および下面方向に流れる放熱量を測定した。なお、風速の測定は、床面から5mmの高さに、日本化学工業株式会社製の熱式風速計 CLIMOMASTER MODEL 6511を設置して行った。
【0052】
「上面放熱効率」とは、上面放熱量と下面放熱量が安定した状態での、上面放熱量と下面放熱量との総和に対する上面放熱量の割合をいう。
【0053】
「立ち上がり時間」とは、表面温度が、運転開始時から安定するまでの間の温度変化の90%に達するまでの時間をいう。
【0054】
(実施例1)
上記床構造モデルの表面に満遍なく風速1〜2m/秒の風が当たるように送風した。その時の、安定した状態での、下面上面放熱量、上面放熱効率、及び立ち上がり時間を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同じ構成の床構造モデル試験体を用いて、送風しない状態での測定を行なった。送風以外の条件は、すべて実施例1と同じとした。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すとおり、実施例1と比較例1とを比較すると、上面放熱量、上面放熱効率、立ち上がり時間の全ての項目にわたって実施例1が優れており、本発明の有効性が立証されていることがわかる。
【0058】
本発明の冷暖房方法は、室内側への高い放冷熱量および放冷熱効率により、省エネルギー化を図ることができるため、非常に有用性が高い。なおかつ、あらゆる種類の放冷熱パネル、又は放冷熱器に適用できるとともに、既設の放冷熱パネル、又は放冷熱器にも安価に適用可能なことから、普及の可能性は高く、その省エネルギー効果をさらに大きくすることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1および比較例1で使用した、床構造モデル試験体の構成を示す断面図である。
【図2】実施例1および比較例1で使用した、床構造モデル試験体の床暖房パネルの構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 支持脚
2 断熱材
3 下地合板
4 放冷熱パネル
5 表面合板
6 熱流計
41 熱媒管
42 基材
43 小根太
44 均熱箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放冷熱パネル、又は該放冷熱パネルの表面に表面仕上げ材を有する放冷熱器による暖冷房方法であって、
該放冷熱パネル、又は該放冷熱器の表面仕上げ材に、送風装置により風速0.1m/秒以上の風を当てることを特徴とする、暖冷房方法。
【請求項2】
前記風が加湿空気、又は除湿空気であることを特徴とする、請求項1に記載の暖冷房方法。
【請求項3】
放冷熱パネル、又は該放冷熱パネルの表面に表面仕上げ材を有する放冷熱器と、送風装置とを有する暖冷房システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−14562(P2008−14562A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185453(P2006−185453)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000236159)三菱化学産資株式会社 (101)
【Fターム(参考)】