説明

曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板及びその製造方法

【課題】曲げ加工性の異方性の少ない、寸法精度に優れたCu−Cr−Zr系の異形断面銅合金板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板であって、質量%でZr;0.05〜0.2%、Cr:0.2〜0.4%、残部はCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験において割れが発生しない最小曲げ半径Rと板厚tとの比(R/t)である曲げ加工性について、BadWay方向の曲げ加工性(R/t)をR、GoodWay方向の曲げ加工性(R/t)をRとした場合に、R/Rが0.8〜1.7である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量%でZr;0.05〜0.2%、Cr:0.2〜0.4%、残部はCu及び不可避的不純物からなる組成を有する曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板は、プレスにて打抜き加工や曲げ加工等が施された後に、必要に応じてめっき処理が施され、コネクタやリードフレーム等の電気・電子部品の素材として使用され、耐熱性、通電性、熱放散性等が要求されている。
一般的に、この異形断面銅合金板は、銅合金鋳塊から板幅方向に一定の厚さを有する平板を製造する平板加工工程と、その平板を用いて板幅方向に厚さの異なる異形断面板を製造する異形加工工程とにより製造される。平板加工工程は、銅合金鋳塊の均熱、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、続いて必要に応じて行われる冷間圧延の各工程からなる。異形加工工程は、平板加工工程によって製造された平板を最終製品形状に加工するにあたり、必要とされる幅に切断した後に、粗冷間加工、焼鈍、仕上げ冷間加工、スリッタ加工、必要に応じて行われる矯正の各工程からなる。この場合、冷間加工の中間で焼鈍を行わず、仕上げ冷間加工後に焼鈍を行うこともある。また、異形加工工程における冷間加工は、異形ロールによる冷間圧延、或いは、異形金型による冷間圧延や鍛造などにより行われ、異なる加工方法が組み合わされることもある。
異形断面銅合金板の素材としては、Cu−Fe−P系銅合金、Cu−Ni−Si系銅合金等が多用されているが、最近の電気・電子部品の更なる小型化に伴って、その内部に組み込まれている接点部材や擦動部材等に流される電流密度がますます高くなってきており、導電率及び強度に優れたCu−Zr−Cr系銅合金も使用され始めている。
【0003】
特許文献1には、鋳塊から板厚方向に一定の厚さを有する平板を製造し、その平板を異形ロールにより冷間圧延して、板幅方向に厚さの異なる異形断面銅合金板を製造するに当たり、異形ロールによる冷間圧延の中間又は最終で一度も焼鈍を行わずに、高耐熱性を有し、かつ高導電性及び優れた曲げ加工性を有する異形断面銅合金板が開示されている。Ni:0.03〜0.5質量%、P:0.01〜0.2質量%を含有し、NiとPとの質量比であるNi/Pが2〜10であり、残部銅及び不可避不純物からなる銅合金を用いる。望ましくはSn:0.005〜0.5%又は/及びFe:0.005〜0.20%を含む。必要に応じてZn:0.005〜0.5%を含む。異形ロールによる冷間圧延において、薄肉部の冷間加工率は30〜90%とされる。
【0004】
特許文献2には、良好な曲げ加工性を備えるとともに、芯線圧着部や嵌合凸部等を簡単にかつ高強度に成形することが可能な端子用銅合金条材及びその製造方法が開示されている。端子を製作するための端子用銅合金条材であって、時効析出型銅合金で構成されるとともに、条材の長手方向に直交する断面において、板厚の厚い厚板部と、この厚板部よりも板厚の薄い薄板部とを備えており、厚板部の引張強度TS1と薄板部の引張強度TS2との比TS1/TS2が、1<TS1/TS2≦1.4の範囲となるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−39735号公報
【特許文献2】特開2009− 9887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の製造方法で製造されたCu−Cr−Zr系の異形断面銅合金板は、その材料特性から、異形圧延加工にて、圧延組織が圧延方向に繊維状に形成され易く、曲げ加工の異方性が大きくなり、特に、BadWay方向の曲げ加工性(R/t)とGoodWay方向の曲げ加工性との差異が大きくなり、また、形成される異形部の寸法精度の公差(バラツキ)が大きくなるという欠点を有していた。
【0007】
本発明では、上述の欠点を改良し、曲げ加工性の異方性の少ない、寸法精度に優れたCu−Cr−Zr系の異形断面銅合金板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、Cu−Cr−Zr系の異形断面銅合金板のBadWay方向の曲げ加工性(JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験において割れが発生しない最小曲げ半径Rと板厚tとの比、以下R/tとする)とGoodWay方向の曲げ加工性(R/t)との差異は、異形圧延加工を、往復する圧延ロールとダイの成形面との間に平板状銅合金素材を挟みこんで連続的に圧延加工し、幅方向の銅合金素材の伸びをW、圧延加工方向の銅合金素材の伸びをWとした場合に、W/Wを1.4〜2.3にて実施することにより、所定範囲内に収まり、異方性が少なくなることを見出した。
また、W/Wを1.4〜2.3とし、異形圧延加工後の異形断面銅合金板の平均送り速度をA(mm/分)、異形断面銅合金板の薄肉部の板厚をT(mm)、圧延ロールの往復回数をB(回/分)とした場合に、(A/B)/Tを1.5〜70にて実施することにより、形成される異形部の寸法精度の公差(バラツキ)を小さくできることも見出した。
【0009】
即ち、本発明の曲げ加工性に優れた異方性の少ない異形断面銅合金板は、厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板であって、質量%でZr;0.05〜0.2%、Cr:0.2〜0.4%、残部はCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験において割れが発生しない最小曲げ半径Rと板厚tとの比(R/t)である曲げ加工性について、BadWay方向の曲げ加工性(R/t)をR、GoodWay方向の曲げ加工性(R/t)をRとした場合に、R/Rが0.8〜1.7であることを特徴とする。
【0010】
Crは、銅合金を溶体化処理後、時効処理を施すことにより、銅母相中に析出し、強度を向上させる合金元素である。Crの含有量が0.2質量%未満では、析出作用による効果が不充分であり、0.4質量%を超えると、強度向上の効果が得られない。
Zrは、銅合金を溶体化処理後、時効処理を施すことにより、銅母相中に析出し、強度を向上させると共に耐熱性を向上させる合金元素である。Zrの含有量は、形成される析出粒子の量や大きさに影響を与えて、導電率と強度とのバランスを変化させるが、0.05〜0.2質量%にて含有させることにより、導電率と強度とを共に高い次元でバランスさせることができる。Zrの含有量が0.05質量%未満では、析出作用による効果が不充分で、耐応力緩和性も低下し、0.2質量%を超えるとCu−Zr析出物の形状が粗大になり易く、強度向上の効果が得られず、曲げ加工性低下の原因ともなる。
BadWay方向の曲げ加工性R、GoodWay方向の曲げ加工性Rとの比であるR/Rが0.8未満、或いは、1.7を超えると、曲げ加工性の異方性が大きくなり、特に、プレスにて打抜き加工や曲げ加工時に支障を来たすことが多くなる。
【0011】
本発明の曲げ加工性の異方性の少ない異形断面銅合金板は、更に、質量%でSi:0.005〜0.03%を含有することを特徴とする。
Siは、Zrと併せて添加することにより、全体的な強度を更に向上させる。Siの含有量が0.005質量% 未満では、効果が充分ではなく、0.03質量%を超えると、導電性が低下し、曲げ加工性にも悪影響を及ぼす。
【0012】
本発明の曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板の製造方法は、冷間圧延後の平板状銅合金素材に、異形圧延加工、仕上げ圧延加工、時効処理をこの順で含む工程で施して前記異形断面銅合金板を製造するに際して、前記異形圧延加工を、往復する圧延ロールとダイの成形面との間に前記平板状銅合金素材を挟みこんで連続圧延加工し、幅方向の伸びをW(%)、圧延加工方向の伸びをW(%)とした場合に、W/Wを1.4〜2.3にて実施することを特徴とする。
【0013】
質量%でZr;0.05〜0.2%、Cr:0.2〜0.4%、残部はCu及び不可避的不純物からなる組成を有する平板状銅合金素材に、異形圧延加工、仕上げ圧延加工、時効処理をこの順で含む工程で施して異形断面銅合金板を製造する。
異形圧延加工は、往復する圧延ロールとダイの成形面との間に前記平板状銅合金素材を挟みこんで連続圧延加工し、被圧延銅合金素材の幅方向の伸びをW、加工方向の伸びをWとした場合に、W/Wを1.4〜2.3にて実施する。
/Wが1.4未満では、R/Rが1.7を超え、寸法精度の公差(バラツキ)も悪くなる傾向があり、W/Wが2.3を超えると、圧延組織が繊維状に圧延方向に形成され易く、R/Rが0.8未満となって曲げ加工性の異方性が大きくなる。
仕上げ圧延加工は、曲げ加工性の異方性には影響を与えない圧延加工であり、表面硬度に分布が生じることがなく、厚肉部及び薄肉部において均一な物性の異形断面合金板を得る為にも、段付きロールと平ロールとからなる圧延ロールによる冷間圧延加工にて実施することが好ましい。
時効処理は、平板状銅合金素材を製造する段階ではなく、異形加工工程の後に実施することにより、厚肉部及び薄肉部における析出粒子の析出状態をそれぞれに調整することができ、厚肉部及び薄肉部の引張強度、導電率等の特性を所定の範囲に調整することが可能となり、この効果を高める為にも、仕上げ圧延加工後に実施することが好ましい。
【0014】
本発明の曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板の製造方法は、更に、前記異形圧延加工において、前記異形圧延加工後の異形断面銅合金板の平均送り速度をA(mm/分)、異形断面銅合金板の薄肉部の板厚をT(mm)、前記圧延ロールの往復回転数をB(回/分)とした場合に、(A/B)/Tを1.5〜70にて実施することを特徴とする。
(A/B)/Tが1.5未満、或いは、70を超えると、形成される異形断面銅合金板の厚肉部及び薄肉部の寸法精度の公差(バラツキ)が大きくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、質量%でZr;0.05〜0.2%、Cr:0.2〜0.4%、残部はCu及び不可避的不純物からなる組成を有する曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の異形断面銅合金板の製造方法の一実施形態について、製造工程順に平板状銅合金素材、粗異形断面銅合金板、異形断面銅合金板を示す斜視図である。
【図2】一実施形態における異形圧延加工で用いられるダイと圧延ロールとを示す正面図である。
【図3】図2のダイの成形面を示す平面図である。
【図4】仕上げ圧延加工で用いられる段付きロールと平ロールを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る異形断面条の製造方法を、Cu−Cr−Zr系の異形断面銅合金板の製造に適用した実施形態について説明する。
本発明の異形断面銅合金板1は、厚肉部2と薄肉部3とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板(図1参照)であり、図示例では、厚肉部2の両側に薄肉部3が配置され、厚肉部2と薄肉部3との間は、所定の立ち上げ傾斜角度βの傾斜部4とされている。
【0018】
この異形断面銅合金板1は、質量%でZr;0.05〜0.2%、Cr:0.2〜0.4%、残部はCu及び不可避的不純物からなる組成を有している。
Crは、銅合金を溶体化処理後、時効処理を施すことにより、銅母相中に析出し、強度を向上させる合金元素である。Crの含有量が0.2質量%未満では、析出作用による効果が不充分であり、0.4質量%を超えると、強度向上の効果が得られない。
Zrは、銅合金を溶体化処理後、時効処理を施すことにより、銅母相中に析出し、強度を向上させると共に耐熱性を向上させる合金元素である。Zrの含有量は、形成される析出粒子の量や大きさに影響を与えて、導電率と強度とのバランスを変化させるが、0.05〜0.2質量%にて含有させることにより、導電率と強度とを共に高い次元でバランスさせることができる。Zrの含有量が0.05質量%未満では、析出作用による効果が不充分で、耐応力緩和性も低下し、0.2質量%を超えるとCu−Zr析出物の形状が粗大になり易く、強度向上の効果が得られず、曲げ加工性低下の原因ともなる。
【0019】
また、この異形断面銅合金板1は、更に、質量%でSi:0.005〜0.03%を含有してもよい。
Siは、Zrと併せて添加することにより、全体的な強度を更に向上させる。Siの含有量が0.005質量% 未満では、効果が充分ではなく、0.03質量%を超えると、導電性が低下し、曲げ加工性にも悪影響を及ぼす。
【0020】
また、この異形断面銅合金板1は、BadWay方向の曲げ加工性(R/t)をR、GoodWay方向の曲げ加工性(R/t)をRとした場合に、R/Rが0.8〜1.7である。BadWay方向の曲げとはLD(圧延方向)を曲げ軸とする曲げであり、GoodWay方向の曲げとはTD(圧延方向および板厚方向に垂直な方向)を曲げ軸とする曲げをいう。その曲げ加工性は、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験において割れが発生しない最小曲げ半径Rと板厚tとの比(R/t)によって表わす。
BadWay方向の曲げ加工性R、GoodWay方向の曲げ加工性Rとの比であるR/Rが0.8未満、或いは、1.7を超えると、曲げ加工性の異方性が大きくなり、特に、プレスにて打抜き加工や曲げ加工時に支障を来たすことが多くなる。
【0021】
次に、本発明の異形断面銅合金板の製造方法につき説明する。
上記組成の平板状銅合金素材10を用意し、冷間圧延後の平板状銅合金素材10に、異形圧延加工、仕上げ圧延加工、時効処理をこの順で含む工程で施して異形断面銅合金板1を製造する。
異形圧延加工では、図2及び図3に示すような成形面21となる凹凸面を有する平板状のダイ22と、このダイ22の成形面21に対向して成形面21に沿って往復移動される圧延ロール23とにより、平板状銅合金素材10を冷間にて異形圧延加工して、粗厚肉部12と粗薄肉部13とが幅方向に並んだ粗異形断面銅合金板11を得る。図示例では、ダイ22の成形面21は、粗薄肉部13を成形する二つの凸部24の間に粗厚肉部12を成形する凹部25が形成されており、粗異形断面銅合金板11は、粗厚肉部12の両側に粗薄肉部13が配置され、粗厚肉部12と粗薄肉部13との間が所定の立ち上げ傾斜角度の傾斜部14とされる(図1参照)。
この異形圧延加工は、平板状銅合金素材10の幅方向の伸びをW(%)、圧延加工方向の伸びをW(%)とした場合に、W/Wが1.4〜2.3となるように実施する。幅方向の伸びW(%)は、平板状銅合金素材10の幅Waに対する粗異形断面銅合金板11の幅Wbの差を百分率で表した(Wb−Wa)/Waであり、圧延加工方向の伸びW(%)は、平板状銅合金素材10の長さLaに対する粗異形断面銅合金板10の長さLbの差を百分率で表した(Lb−La)/Laである。
/Wが1.4未満では、R/Rが1.7を超え、寸法精度の公差(バラツキ)も悪くなる傾向があり、W/Wが2.3を超えると、圧延組織が繊維状に圧延方向に形成され易く、R/Rが0.8未満となって曲げ加工性の異方性が大きくなる。
また、この異形圧延加工において、異形圧延加工後の粗異形断面銅合金板11の平均送り速度をA(mm/分)、粗異形断面銅合金板11の粗薄肉部13の板厚をT(mm)、圧延ロール23の往復回転数をB(回/分)とした場合に、(A/B)/Tを1.5〜70にて実施する。(A/B)/Tが1.5未満、或いは、70を超えると、形成される異形断面銅合金板1の厚肉部2及び薄肉部3の寸法精度の公差(バラツキ)が大きくなる。平均送り速度は、間欠送りされる異形断面加工における単位時間当たりの送り速度の平均値である。
【0022】
次に、図1に矢印の順に示すように、この粗異形断面銅合金板11を仕上げ圧延加工工程により、厚肉部2と薄肉部3とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板1に形成する。
仕上げ圧延加工工程では、図4に示すような段付きロール31と平ロール32とからなる仕上げ圧延ロール33により、粗異形断面銅合金板11を冷間にて仕上げ圧延加工して異形断面銅合金板1を得る。段付きロール31は、薄肉部3を成形する一対の大径部34の間に厚肉部2を成形する小径部35が配置された形状とされ、この仕上げ圧延加工により、厚肉部2の両側に薄肉部3が配置され、厚肉部2と薄肉部3との間が所定の立ち上げ傾斜角度βの傾斜部4とされた異形断面銅合金板1が得られる(図1参照)。この仕上げ圧延加工は、曲げ加工性の異方性には影響を与えない圧延加工であり、表面硬度に分布が生じることがなく、厚肉部2及び薄肉部3において均一な物性の異形断面合金板1を得る為にも、段付きロール31と平ロール32とからなる圧延ロール33による冷間圧延加工にて実施することが好ましい。
【0023】
次に、時効処理を、例えばバッチ処理にて400〜550℃で3〜12時間で施す。この時効処理は、平板状銅合金素材10を製造する段階ではなく、異形加工工程の後に実施することにより、厚肉部2及び薄肉部3における析出粒子の析出状態をそれぞれに調整することができ、厚肉部2及び薄肉部3の引張強度、導電率等の特性を所定の範囲に調整することが可能となり、この効果を高める為にも、仕上げ圧延加工後に実施することが好ましい。
以上の製造方法により、曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板1を得ることができる。
【実施例】
【0024】
表1に示す合金組成のCu−Cr−Zr系銅合金の鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を施し、厚さ2.3mm、幅600mmの銅合金板を製造し、スリッタラインにて厚さ2.3mm、幅45mmの銅合金板を作製した。この銅合金板を、表1に示すW/W、(A/B)/Tにて、往復する圧延ロールとダイの成形面との間に挟みこんで連続圧延加工し、異形断面銅合金板を連続的に作製した。
【0025】
【表1】

【0026】
次に、これらの異形断面銅合金板を、厚肉部を形成するための小径ロール部及び薄肉部を形成するための大径ロール部が軸線方向に並んで形成された段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた平ロールとからなる仕上げ圧延ロールとの間に挟み込んで連続圧延加工した後、450℃で5時間の時効処理を施して、厚肉部の幅が25mm、薄肉部の幅が40mm、厚肉部の厚さが1.5mm、薄肉部の厚さが0.65mm、厚肉部の立上傾斜角度βが10°(水平面から80°)で、厚肉部の両側に薄肉部を有する図1に示す形状の実施例1〜8及び比較例1〜5の異形断面銅合金板を連続的に作製した。
これらの異形断面銅合金板につき、BadWay方向の曲げ加工性RとGoodWay方向の曲げ加工性Rの比、厚肉部と薄肉部の引張強度の比、厚肉部と薄肉部のビッカース硬さの比を求め、厚肉部と薄肉部の厚みの寸法公差を測定した。
【0027】
BadWay方向の曲げ加工性Rは、板材を幅10mm×長さ60mmに切出し、曲げR=0〜0.4mmの0.025mm単位として、BW(BadWay:圧延垂直方向)の90°W曲げを行い、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で観察し、割れの生じない最小の曲げ半径Rと銅合金板の板厚tの比をR/tとして評価した。
GoodWayの曲げ加工性Rは、板材を幅10mm×長さ60mmに切出し、曲げR=0〜0.4mmの0.025mm単位として、GW(GoodWay:圧延方向)の90°W曲げを行い、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で観察し、割れの生じない最小の曲げ半径Rと銅合金板の板厚tの比をR/tとして評価した。いずれも、厚肉部、薄肉部について複数個ずつ切り出して評価し、その平均値を求めた。
引張強度は、JIS5号試験片にて測定した。
ビッカース硬さの測定は、マイクロビッカース硬度計にて、4.9N(0.5kgf)の加重を加えて行った。
これら結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
これらの測定結果より、本発明の製造方法により製造された異形断面銅合金板は、曲げ加工の異方性が少なく、更に、形成された異形部の寸法精度の公差(バラツキ)が小さいことがわかる。寸法精度の公差は、比較例が±0.025mm以上あったのに対して、±0.005〜±0.010mmと小さいものであった。
また、実施例のものは、引張強度比が1.08〜1.12であり、ビッカース硬さ比が1.01〜1.03であり、いずれも比較例より小さい値であった。
【0030】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 異形断面銅合金板
2 厚肉部
3 薄肉部
4 傾斜部
10 平板状銅合金素材
11 粗異形断面銅合金板
12 粗厚肉部
13 粗薄肉部
14 傾斜部
21 成形面
22 ダイ
23 圧延ロール
31 段付きロール
32 平ロール
33 仕上げ圧延ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板であって、質量%でZr;0.05〜0.2%、Cr:0.2〜0.4%、残部はCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験において割れが発生しない最小曲げ半径Rと板厚tとの比(R/t)である曲げ加工性について、BadWay方向の曲げ加工性(R/t)をR、GoodWay方向の曲げ加工性(R/t)をRとした場合に、R/Rが0.8〜1.7であることを特徴とする曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板。
【請求項2】
更に質量%でSi:0.005〜0.03%を含有することを特徴とする請求項1に記載の曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の曲げ加工性に優れた異方性の少ない異形断面銅合金板の製造方法であって、冷間圧延後の平板状銅合金素材に、異形圧延加工、仕上げ圧延加工、時効処理をこの順で含む工程で施して前記異形断面銅合金板を製造するに際して、前記異形圧延加工を、往復する圧延ロールとダイの成形面との間に前記平板状銅合金素材を挟みこんで連続圧延加工し、幅方向の伸びをW(%)、圧延加工方向の伸びをW(%)とした場合に、W/Wを1.4〜2.3にて実施することを特徴とする曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板の製造方法。
【請求項4】
前記異形圧延加工において、前記異形圧延加工後の異形断面銅合金板の平均送り速度をA(mm/分)、異形断面銅合金板の薄肉部の板厚をT(mm)、前記圧延ロールの往復回転をB(回/分)とした場合に、A/B/Tを1.5〜70にて実施することを特徴とする請求項3に記載の曲げ加工性の異方性の少ない異形断面銅合金板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87309(P2013−87309A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226820(P2011−226820)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】