説明

曲面部研削方法

【課題】曲面部のプランジ研削において、研削除去量が最大となる部位の研削による砥石車の消耗を平準化させて砥石車の寿命が長い研削を実現する曲面部研削方法を提供する。
【解決手段】砥石車7の回転軸を含む断面の研削作用面の形状が曲面である砥石車7を工作物Wに相対的に切込む曲面形状部の研削において、
工作物Wの所定の研削数毎に、砥石車7の回転軸と砥石車7の切込み方向とがなす角度を変える。このことにより、曲面部の研削除去量が最大となる部位を研削する砥石車7の位置が移動するため、砥石車7の部位別の消耗が平準化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面の研削方法に関するものであり、詳しくは、研削作用面の断面形状が円弧状の砥石車を用いた曲面部のプランジ研削に関するものである。
【背景技術】
【0002】
曲面部として曲面溝を備えた工作部物の研削においては、溝の断面円弧と同等の円弧形状の研削作用面を持つ砥石車を工作物に切込み砥石車の形状を転写する、いわゆるプランジ研削が一般的に行われている。
また、ゴシックアーク溝の研削においては、砥石を溝の幅方向に揺動させて研削する従来技術1(例えば、特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−145410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、曲面部のプランジ研削においては砥石の研削作用面の場所により研削量が異なる。たとえば、曲面溝の加工においては、溝の両端部において研削除去量が最大となる。このため、溝の両端部を研削する位置の砥石の消耗量が大きくなり、結果として少ない研削個数での砥石の形状修正が必要となり砥石寿命が短くなる。
特許文献1では、ゴシックアーク溝の両面を同時に研削することを主目的としており、砥石寿命に関する記述はない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、研削除去量が最大となる部位の研削による砥石車の消耗を平準化させて砥石車の寿命が長い研削を実現する曲面部研削方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、砥石車の回転軸を含む断面の研削作用面の形状が曲面である前記砥石車を工作物に相対的に切込む曲面形状部の研削において、
前記工作物の所定の研削数毎に、前記砥石車の回転軸と前記砥石車の切込み方向とがなす角度を変えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記研削が、研削能率の異なる複数の工程により構成され、前記複数の工程の少なくも最終の工程は前記角度を所定の角度とすることである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、所定の研削数毎に、砥石車の角度を変えながら研削するので、工作物の研削量の大きい部位の研削を砥石車の一定の位置のみで研削することがなくなり研削量を分散できる。このため、砥石の特定部分の消耗が平準化され、砥石寿命の長い研削加工が可能となる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、最終の工程より前の工程は所定の研削数毎に、砥石車の角度を変えながら研削するので、工作物の研削量の大きい部位の研削を砥石車の一定の位置で研削することがなくなり研削量を分散できる。このため、砥石の特定部分の消耗が平準化され、砥石寿命の長い研削加工が可能となる。最終の工程により、曲面部を砥石車を所定の角度で工作物に切込んだ場合に形成される形状である所望の形状に研削できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の研削盤の全体構成を示す概略図である。
【図2】曲面溝の砥石部位による研削量の差を示す概念図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】曲面溝の研削における砥石部位別の研削量を示すグラフである。
【図5】本実施形態の研削中の砥石車と工作物の接触状態を示す概念図である。
【図6】本実施形態の各研削毎の研削砥石部位別の研削量を示すグラフである。
【図7】本実施形態の研削砥石部位別の全研削の合計研削量を示すグラフである。
【図8】本実施形態の研削盤のメイン工程を示すフローチャート図である。
【図9】本実施形態の研削工程の最終工程で砥石車を所定の角度に割出すサブ工程を示すフローチャート図である。
【図10】本実施形態の研削工程の全で砥石車が同一の角度であるサブ工程を示すフローチャート図である。
【図11】曲面窪み部の砥石部位による研削量の差を示す概念図である。
【図12】図11のA−A断面図である。
【図13】曲面窪み部の研削における砥石部位別の研削量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、円筒研削盤1を用いて円筒の工作物Wの外周に円弧状の断面形状を持つ円弧溝を研削する事例に基づき、図1〜図6を参照しつつ説明する。
図1に示すように、円筒研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能でかつ垂直なB軸周りに旋回可能な砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石車7を回転自在に支持し、砥石車7を回転させる砥石回転モータ(図示省略する)を備えている。テーブル4上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5を備えており、工作物Wは主軸5により支持されて、研削加工時に回転駆動される。砥石車の形状を成形する砥石成形装置6が主軸5に付設されている。
【0012】
この円筒研削盤1は、所定のプログラムを実行することで研削加工や砥石成形を実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御手段31、砥石台3の旋回を制御するB軸制御手段32、テーブル4の送りを制御するZ軸制御手段33、砥石成形装置6を制御する砥石成形装置制御手段34、砥石車7の回転を制御する砥石車制御手段35、主軸5の回転を制御する主軸制御手段36などを具備している。
【0013】
円弧溝の研削取代を図2、図3に基づき説明する。図2において、工作物の研削後の曲面溝の半径をrとすると、研削前の溝は研削後の曲面溝と同心でrの半径を持つ円弧とするのが一般的である。これは、砥石車7と工作物Wの相対位置決め誤差のX方向とZ方向に対して同じ許容差を持たせるためである、また、研削後の曲面溝の両端部a、eは必要な曲面溝の範囲に対してX軸方向で余裕を見た位置に設定されている。
砥石車7をX軸方向に切込みながら研削する場合には、砥石車7の研削作用円弧a−e部の各部の研削量は除去深さsと溝の円周長さの積となり、sは円弧rと円弧rのX軸方向の差である。図3において、網掛け部uの面積が対応する砥石車の位置における砥石車の単位幅当たりの研削量となる。sの値は図2において研削前の溝の両端部を研削するb、dの位置で最大となる。図4にr=10mm、r=9.5mmの場合の砥石車7の研削作用円弧a−e部の各部の研削量の比率を表したグラフを示す。b、dの位置が最大の研削量となり、溝中央部c部の研削量に対して3倍以上となっている。
【0014】
砥石の消耗はほぼ研削量に比例するので、砥石車7の研削作用面に図4に示す曲線に近い半径方向の砥石消耗が生じる。このため、曲面溝のb、dの位置の形状が許容誤差を超えて、砥石車の成形修正が必要となる。
本発明は、曲面溝のb、dの位置の砥石消耗量を低減させることに着目してなされたものである。
【0015】
図5に、砥石車7の回転軸線と砥石車7の切込み方向のなす角度を90度を基準として傾斜角度をΘ、0、−Θの3位置に傾斜させた場合を図5(f)、図5(g)、図5(h)に示す。こうすることで、砥石車7のb、d部に接触する位置を移動させることができる。図6に、砥石車7の傾斜角度をΘ、0、−Θの3位置に傾斜させて研削した場合の砥石車7の研削作用円弧a−e部の研削量の比率を表したグラフを示す。砥石車に対してピーク位置が傾斜角度分ずれて作用し、曲線(f)、(g)、(h)となる。この3回の研削による合計の砥石消耗量は曲線(f)、(g)、(h)を加算したものとなり、ピーク値の比率が低減する。図7にΘを23度−Θを−23度まで2.8度間隔で傾斜させながら研削した場合の合計研削量の比率を示す。中央のc部に対してピーク部の倍率が2倍となり、傾斜をしないで研削した場合に較べて差が小さくなっている。
【0016】
以下に、本発明を適用した研削盤のメイン工程について図8のフローチャートに基づき説明する。
工作物Wを搬入し主軸5に取り付ける(S1)。砥石台3を旋回し所定の角度Θに割出す(S2)。テーブル4と砥石台3を所定の加工原点に割出す。テーブル4をZ=Z(Θ)、砥石台3をX=X(Θ)まで移動する(S3)。サブ工程の研削工程を実施する(S4)。砥石台3を後退させる(S5)。研削加工本数のカウント値Nに1を加算する(S6)。工作物Wを搬出する(S7)。研削加工本数Nが所定値Kより大きいか判定する。N>KならS10へ移動し、N≦KならS9へ移動する(S8)。砥石台割出し角度Θを変更する。Θ=Θ−ΔΘ(S9)。砥石成形工程を実行する(S10)。研削本数NをN=1にリセットする(S11)。砥石台割出し角度Θを初期値に変更する。Θ=Θ。(S12)。加工原点位置をΘを変数とする所定の関数を用いて演算する。テーブル位置ZはZ=fz(Θ)、砥石台位置XはX=fx(Θ)で演算する(S13)。
【0017】
最終の仕上研削時に砥石車7の傾斜角度を所定の角度Θに設定する場合の、サブ工程の研削工手について、図9のフローチャートに基づき説明する。
粗研削工程を実施する(S1)。砥石台3を加工原点位置まで後退させる(S2)。砥石台3を旋回し所定の角度Θに割出す(S3)。テーブル4と砥石台3を所定の仕上加工原点に割出す。テーブル4をZ=Z(Θ)、砥石台3をX=X(Θ)まで移動する(S4)。仕上研削工程を実施する(S5)。
【0018】
以上のように粗研削工程において砥石車の角度を工作物の研削毎にΔΘだけ変更しながら研削することで、研削量の多い曲面溝のb、dの位置の砥石消耗量を低減させることができる。仕上研削工程では砥石車の角度を所定の角度Θに設定して、前工程の研削面を削り残さない切込みを与えて研削することで、所望の溝形状に加工できる。
【0019】
上記の事例では、粗研削のとき砥石角度を変更し、仕上研削では一定の所定角度で研削したが、溝断面形状が円弧の場合は、図10のフローチャートに示すように、仕上研削も粗研削のときの砥石角度のままで研削してもよい。この場合は、砥石車7の研削作用面の角度範囲は加工する溝の角度より大きくしておく。
【0020】
溝以外の曲面部の加工例として図11、図12に示すように、工作物Wの平面に砥石車7をsだけ切込みトロイダル状の窪みを加工する研削がある。この場合は、図13に示すように最大研削量の位置は曲面部の中央位置であるb部となり、b部の研削量を平準化することで砥石寿命を長くすることが可能となる。
【符号の説明】
【0021】
W:工作物 3:砥石台 4:テーブル 5:主軸 6:砥石成形装置 7:砥石車 30:制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石車の回転軸を含む断面の研削作用面の形状が曲面である前記砥石車を工作物に相対的に切込む曲面形状部の研削において、
前記工作物の所定の研削数毎に、前記砥石車の回転軸と前記砥石車の切込み方向とがなす角度を変える曲面部研削方法。
【請求項2】
前記研削が、研削能率の異なる複数の工程により構成され、前記複数の工程の少なくも最終の工程は前記角度を所定の角度とする、請求項1に記載の曲面部研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−236261(P2012−236261A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107209(P2011−107209)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】