説明

書換可能ホログラム記録媒体及びその製造方法

【課題】煩雑な湿式の現像処理を必要とせず、光照射により着色してデータをホログラムとして書き込みでき、加熱により消色してデータを消去できる汎用型であって高信頼性の高感度の書換可能ホログラム記録媒体を提供する。
【解決手段】書換可能ホログラム記録媒体は、銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分とハロゲノ成分とを含むゲル膜が基材上に付されており、前記銀塩由来の銀イオンと銀との可逆な酸化還元反応を起こす1〜100nmの粒径の銀含有ナノ粒子が、該ゲル膜中に分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により着色し加熱により消色して可逆的に記憶データを書換えできる書換可能ホログラム記録媒体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック材料は、光学フィルター、ホログラム素子や光メモリ等の光学的記録媒体、調光素子等の光学素子のための原材料として、用いられる。
【0003】
特に光学的記録媒体のような光学材料に用いられる膜状のフォトクロミック材料は、情報データを光で記録し、熱で消去できる書換え可能な記録媒体としての機能を必要とする。テラビット(Tbits)オーダーの大容量の記録すべき情報を高速に記録再生できる次世代光メモリが強く望まれており、膜状のフォトクロミック材料は、ホログラム記録媒体の最有力候補としてとりわけ注目されている。
【0004】
現在のところ、ホログラム記録媒体の材料の主流は、光重合と未反応モノマーの拡散とを駆動力とするフォトポリマー材料である。しかしこのようなフォトポリマー材料では、十分に満足できる高速記録性、記録内容の高信頼性、それを発現するための低収縮性、均一な膜厚となる平滑性などを奏することによる優れた書換え特性を、実現できていない。
【0005】
また、フォトクロミック材料として、ハロゲン化銀を含むガラスのような無機系材料と、スピロピランのような有機系材料とが知られている。しかし一般に、それを基材上に低温で成膜して、均一なフォトクロミック膜を有する光学的記録媒体のような光学材料を作製することは、困難である。
【0006】
さらに、膜状フォトクロミック材料として、ガラス基材上にハロゲン化銀系のフォトクロミック性被膜を形成する方法が、知られている。例えば、非特許文献1には、アルコキシシランと可溶性銀塩とを含む溶液をガラス基体上に塗布した後、塩化水素ガス中でハロゲン化処理をする膜形成方法が開示され、非特許文献2には、末端がハロゲンで置換された炭化水素基が結合したアルコキシシランで形成した膜を、高温熱処理して熱分解させることによって、遊離ハロゲンを発生させてハロゲン化銀を生成させる膜形成方法が開示されている。また、特許文献1に、銀を含む超微粒子と、ケイ素化合物と、熱分解によりハロゲンを遊離する化合物を含む塗布液をガラス基体上に塗布して下層膜を形成し、さらにケイ素化合物と銅化合物とを含む塗布液を塗布加熱して上層膜を形成するフォトクロミックガラスの製造方法が開示され、特許文献2に、銀微粒子を担持させた酸化チタンを塗布する多色フォトクロミック材料の製造方法が開示されている。
【0007】
その膜状フォトクロミック材料を調製するに際し、銀を用いた酸化還元反応系の材料では、紫外光による還元によって光学特性の変化を誘起することはできるが、ホログラム記録媒体に必要とされる405nm付近の光に対する十分な感度を付与することが困難であった。また、光で記録し、熱で消去する書換え可能型記憶材料としての機能を発現する光学部品を得るのに、前記のように、原料組成物に塩化水素ガスを作用させ塩化銀を生成させる方法では、そのガスの腐食性が強く、扱いが不便であって、生産性が悪い。一方、原料組成物膜を熱分解させる方法では、耐熱性の低い樹脂のような基板への適用が困難であるうえ、ハロゲン化銀結晶が成長して粗大化してフォトクロミック特性が損なわれてしまう。さらに、銀の酸化還元を利用するために銀微粒子を担持させた酸化チタンを塗布する方法では、得られる膜が半透明であり、膜と基材との密着力が弱いという問題がある。さらに、フォトクロミック膜には、着色−消色の繰返安定性及び迅速な応答速度と、膜自体の十分な機械的強度とが、求められているが、未だに十分ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】SPIEProc.,1590,152−159(1991)
【非特許文献2】J.Sol−GelSci.Tech.,1,217−231(1994)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−39739号公報
【特許文献2】特開2004−18549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、煩雑な湿式の現像処理を必要とせず、光照射により着色してデータをホログラムとして書き込みでき、加熱により消色してデータを消去できる汎用型であって高信頼性の高感度の書換可能ホログラム記録媒体、及びそれを簡易に、生産効率良く、均質で安定して大量に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の書換可能ホログラム記録媒体は、銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分とハロゲノ成分とを含むゲル膜が基材上に付されており、前記銀塩由来の銀イオンと銀との可逆な酸化還元反応を起こす1〜100nmの粒径の銀含有ナノ粒子が、該ゲル膜中に分散していることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の書換可能ホログラム記録媒体は、請求項1に記載されたもので、前記ゲル膜が、前記オルガノシロキサン成分と前記チタン化合物成分とからなる共加水分解縮重合複合体を含んでいることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の書換可能ホログラム記録媒体は、請求項1に記載されたもので、前記オルガノシロキサン成分がオルガノシルセスキオキサンであり、前記チタン化合物成分がチタニウムアルコキシド又はチタニアであることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の書換可能ホログラム記録媒体は、請求項3に記載されたもので、前記オルガノシルセスキオキサンが、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、及びメチルトリエトキシシランから選ばれる何れかの重縮合性アルコキシシランが重合したものであることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の書換可能ホログラム記録媒体は、請求項1に記載されたもので、前記ハロゲノ成分が、ハロゲノ酸類、又はハロゲノ脂肪酸誘導体であることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の書換可能ホログラム記録媒体は、請求項1に記載されたもので、前記銀含有ナノ粒子が、光照射により前記ゲル膜中で、前記酸化還元反応を起こして、析出した遊離銀ナノ粒子であって、それによって前記ゲル膜の吸光度を変化させることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の書換可能ホログラム記録媒体は、請求項6に記載されたもので、前記銀含有ナノ粒子が、加熱により前記ゲル膜中で、前記酸化還元反応を起こして、生成したハロゲン化銀ナノ粒子であって、それによって前記ゲル膜の吸光度を変化させることを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の書換可能ホログラム記録媒体は、請求項1に記載されたもので、前記ゲル膜が、銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分とを含むゾルで膜化してゲルにしたものであることを特徴とする。
【0019】
請求項9に記載の書換可能ホログラム記録媒体は、請求項1に記載されたもので、前記ゲル膜中、前記オルガノシロキサン成分のケイ素と前記チタン化合物成分のチタンとのモル分率が、95:5〜20:80であり、前記銀塩成分の銀と前記ハロゲノ成分のハロゲンとのモル分率が1:2〜1:0.01であることを特徴とする。
【0020】
請求項10に記載の書換可能ホログラム記録媒体を製造する方法は、銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分ハロゲノ成分とを含むゾルを、基材上に付してそのゲル膜を形成することにより、前記銀塩由来の銀イオンと銀との可逆な酸化還元反応を起こす1〜100nmの粒径の銀含有ナノ粒子が該ゲル膜中に分散して含有されている書換可能ホログラム記録媒体を、製造するというものであることを特徴とする。
【0021】
請求項11に記載の方法は、請求項10に記載されたもので、前記ゾルが、さらに酸を含有していることを特徴とする。
【0022】
請求項12に記載の方法は、請求項10に記載されたもので、前記ハロゲノ成分が、ハロゲノ酸類、又はハロゲノ脂肪酸誘導体であることを特徴とする。
【0023】
請求項13に記載の方法は、請求項12に記載されたもので、前記銀塩成分と、前記オルガノシロキサン成分を構成する重縮合性アルコキシシランと、前記チタン化合物成分とを、前記ハロゲノ脂肪酸誘導体に溶解し、前記ゾルにすることを特徴とする。
【0024】
請求項14に記載の方法は、請求項10に記載されたもので、前記ゾルから、肥大化した100nmを超える粒径の銀塩結晶粒子を除去することを特徴とする。
【0025】
請求項15に記載の方法は、請求項10に記載されたもので、前記銀塩成分に、アシル酢酸誘導体成分を共存させつつ、前記ゾルにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の書換可能ホログラム記録媒体は、ゲル膜中で、ハロゲン化銀や銀からなる銀含有ナノ粒子が、光照射と加熱とにより不可逆的な酸化還元反応を起こして、遊離銀ナノ粒子の析出や解離を繰り返す過程により、リライタブルホログラムメモリとなり得る簡易な構造である。
【0027】
この記録媒体は、この過程が乾式であるため、煩雑な湿式の現像処理を必要とせず簡便であるうえ、記録と消去とを複数回繰り返しても常に、記録データを完全に消去でき、新たな記録データを追記できるという繰返し安定性に優れたものである。
【0028】
また、この記録媒体は、迅速な光又は加熱に対する応答速度を有し、それ自体が低収縮であって、高い機械的強度を有し、優れた耐久性と層厚に依らず均一な平滑性とを発現するものであるから、信頼性が高く、書換え特性が優れたものである。
【0029】
この記録媒体は、ディスク状にして、1ディスク当たりテラビットオーダーの大容量の記録データを記録できるものである。しかも、様々な波長の光の中でも、実用上重要な青色系の光、特に405nm付近のブルーレイに対する十分な感度を有しているから、大量の記録データ量を高速に記録し、また再生でき、さらに消去できるものである。
【0030】
本発明の書換可能ホログラム記録媒体を製造する方法によれば、このような書換可能ホログラム記録媒体を、短工程の簡易な操作で、生産効率及び歩留まり良く、均質で安定して大量に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用する各種書換可能ホログラム記録媒体の光照射後及び加熱後の紫外−可視吸収スペクトルを示す図である。
【図2】本発明を適用する書換可能ホログラム記録媒体に光照射及び加熱処理を繰返したときの紫外−可視吸収スペクトルを示す図である。
【図3】本発明を適用する書換可能ホログラム記録媒体に光照射及び加熱処理を繰返したときの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図4】本発明を適用する書換可能ホログラム記録媒体に光照射したときの露光時間と回折効率との相関を示す図である。
【図5】本発明を適用する書換可能ホログラム記録媒体のゲル層に光照射したときの透過型電子顕微鏡による拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0033】
本発明の書換可能ホログラム記録媒体の好ましい一形態は、フォトクロミック有効成分として、銀イオンと遊離銀との間での酸化還元反応を引き起こすための硝酸銀のような水可溶性の銀塩成分と、オルガノシルセスキオキサンを形成するためのビニル基又はエポキシ基のような有機官能基を有するオルガノシロキサン成分と、チタニア(酸化チタン)を形成するためのチタニウムアルコキシドのようなチタン化合物成分と、ハロゲノ酢酸誘導体のようなハロゲノ成分とを含むことにより形成された銀元素とハロゲン元素とを含有するオルガノシルセスキオキサン−チタニア系のゲル膜が、透明ガラス板のような基材上に付されたものである。
【0034】
このような書換可能ホログラム記録媒体を製造する方法の好ましい一形態は、以下のようなものである。先ず、酸性条件下で、銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分とハロゲノ成分とを混合して、共加水分解縮重合複合体が含有されたゾル状のホログラム組成物を調製する。この組成物を、遠心分離、自然沈降などを利用し、凝集して肥大化した100nmを超える非溶解の銀塩結晶粒子を分離・除去しておくことが好ましい。この組成物を基板上にコーティングして付し、乾燥などによりゲル化させて、オルガノシルセスキオキサン−チタニア系のゲル膜を形成すると、銀含有ナノ粒子がゲル層に分散し、共ドープして含まれている書換可能ホログラム記録媒体が得られる。
【0035】
このゲル層に、粒径を最大で50nm、好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下で1nm以上とする銀含有ナノ粒子が、高濃度で分散している。このような粒径であると、書換可能ホログラム記録媒体の分解能が高いものとなるので、記録性能が一層向上する。そのためには、マトリックスのゲル膜中でドープされている銀の含有量は、ゲル膜に対して、5〜30モル%であることが好ましい。
【0036】
この共加水分解縮重合複合体は、銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分とハロゲノ成分とにより、共加水分解・縮重合したもので、例えば下記化学式(1)
AgX,RSiO(4−n)/2−TiO ・・・(1)
又は下記化学式(2)
AgX,AgO−RSiO(4−n)/2−TiO ・・・(2)
(式(1)及び(2)中、Rは不飽和基及び/又はエポキシ基を含有する有機官能基、好ましくはビニル基、グリシドキシプロピル基、Xはアニオン、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンのようなハロゲンイオン、nは0<n≦2の数)で表されるものであることが好ましい。
【0037】
このような共加水分解縮重合複合体を形成する銀塩成分は、硝酸銀、酢酸銀などが挙げられる。またオルガノシロキサン成分は、ビニルのような不飽和基、又はグリシジルやエポキシのようなエポキシ含有基の何れかの有機官能基を有していることが好ましい。このようなオルガノアルコキシシランとして、ビニルトリエトキシシラン、γグリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。さらに、チタン化合物成分としてはチタンテトラノルマルブトシキドのようなチタンテトラブトシキドなどや、チタニアが挙げられる。
【0038】
前記式(1)及び(2)中の繰返構造単位であるRSiO(4−x)/2は、Si−O−Si結合を基本骨格構造として、三次元網目構造、又は二次元鎖状構造を有するものであり、そのSi原子にはx個の有機官能基Rが共有結合してペンダント型構造を形成したものである。また、前記式(1)及び(2)中のTi原子は、基本的に4個の酸素原子とイオン結合しており、その酸素原子はSi原子と結合して三次元〜二次元構造を形成している。一部の酸素は水素結合して、非架橋酸素として存在していると考えられる。Ag、XはそれぞれAgイオン、XイオンもしくはAg結晶、AgBr結晶として無機−有機ハイブリッド材料である書換可能ホログラム記録媒体のゲル層中に均質に分散している。
【0039】
このような共加水分解縮重合複合体が前記化学式(1)及び(2)で表されるものであると、それを含有するゾル状のホログラム組成物を、任意の素材からなる種々の基材、例えば樹脂製基材やガラス製基材に塗布乾燥することによって、フォトクロミック性能を付与することができる。
【0040】
共加水分解縮重合複合体は、化学式(1)又は(2)で表されるもののうちx=1であるAgX,RSiO3/2−TiO又はAgX,AgO−RSiO3/2−TiOで表される無機−有機複合体であると、なお一層好ましい。AgOは、硝酸銀など水可溶性銀含有化合物から誘導される。三臭化酢酸、三塩化酢酸、三ヨウ化酢酸のようなハロゲノ脂肪酸を用いることによって、AgBr,AgCl,AgI結晶を膜中に析出させることが可能となる。RSiO3/2のRは、ビニル基又はエポキシ基を有するものが好ましく、ビニルトリエトキシシランやγグリシドキシプロピルトリエトキシシランのような3官能オルガノアルコキシシランから誘導される。TiOはチタンテトラブトシキドなどのチタン化合物から誘導される。
【0041】
前記化学式(1)で示されるAgX,RSiO(4−n)/2−TiO又は前記化学式(2)で示されるAgX,AgO−RSiO(4−n)/2−TiOの膜組成の成分比は、[AgX(及びAgO)]/([RSiO3/2]+[TiO])=1/10〜10/1(mol/mol)、[RSiO3/2]/[TiO]=95/5〜20/80(mol/mol)であることが好ましい。得られたゾル状のホログラム組成物を、樹脂に均一に分散させることで、任意のゲル膜厚を有する書換可能ホログラム記録媒体を作製することができる。
【0042】
ゾル状のホログラム組成物は、酸性条件下、例えば硝酸のような酸の存在下で調製されることが好ましい。
【0043】
ゾル状のホログラム組成物は、チタン化合物成分と、アセト酢酸エステルのようなアシル脂肪酸エステル類との共存下で、調製されることが好ましい。
【0044】
ゾル状のホログラム組成物は、主たる構成成分である銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分の他に、必要に応じて、塗膜面のフォトクロミック性能を改良するために、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などのレベリング剤が添加されていてもよく、密着性等を向上させるために、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油用染料、蛍光染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン・ヒンダードフェノール系等の耐光・耐熱安定剤、耐候性剤、酸化剤、前記オルガノシロキサン以外の有機ケイ素化合物、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂のようなポリエステル樹脂、環状オレフィン系樹脂が添加されていてもよく、液を安定させるためにpH調製剤が添加されていてもよい。
【0045】
ゾルを基板上にコーティングする方法は特に限定されないが、例えばディップコーティング法によって透明基板にゲル膜としてコーティングするものであってもよく、工業的に大量生産する際に用途に応じた所望の形状のものを作製するために、スピンコートやドクターブレード法でコーティングするものであってもよい。
【0046】
この書換可能ホログラム記録媒体は、紫外線やレーザー光やブルーレイのような光照射により、着色し、その後の60〜250℃、好ましくは100℃程度の加熱により、消色するので、吸光度が可逆的に変化する。
【0047】
書換可能ホログラム記録媒体がこのように光照射と加熱とにより着色と消色とを何度でも繰り返すというメカニズムの詳細は、必ずしも明らかではないが、以下の通りであると推察される。
【0048】
書換可能ホログラム記録媒体は、マトリックスであるゲル層中にドープされた銀及びハロゲンが、ゲル膜の多数のマトリックス分子間で、銀塩成分由来の銀イオンおよびハロゲン化銀ナノ粒子として存在しているものである。そして、それらを含んだゲル膜中で、光照射により、表面プラズモン共鳴を示す遊離銀ナノ粒子が析出し、ゲル層が着色し、粒径や形状に応じて様々な波長光を吸収する吸光度をはじめとする各種光学特性が変化する。さらに、熱処理により、遊離銀ナノ粒子は解離し、変化した吸光度等の光学特性はもとに戻る。この吸光度等の光学特性の変化は、この可逆的なメカニズムに由来するから、ゲル膜の着色と消色とも可逆的なものである。
【0049】
より具体的に、ハロゲン化銀ナノ粒子が、ハロゲン化銀(AgX)である臭化銀で形成されているものを例に説明する。
【0050】
このゲル層中、オルガノシロキサンの有機官能基がビニル基又はエポキシ基であると、紫外光照射によって臭化銀(AgBr)が一部還元され臭化銀/金属銀(AgBr/Ag)ナノコロイドとして析出し、光学特性を変化させることが可能となる。ゲル膜中で、臭化銀(バンドギャップ:〜500nm)と銀イオンとが、共存するため、照射された光のエネルギーを吸収した臭化銀が解離する際に放出する臭化物イオンを、ゲル膜中の銀イオンが捕縛し、残った銀イオンがナノ粒子を形成する。また、空気中100℃程度での加熱によって、この光感応性組成物中の非晶質状態の酸化チタン(TiO)成分が、金属銀(Ag)ナノコロイドを再び酸化して銀イオン(Ag)状態に戻して消色させることが可能となる。つまり、銀ナノ粒子はプラズモン共鳴により粒子のサイズや形状に応じて様々な波長の光を吸収するが、この特徴を利用して、光で記録し、熱で消去することができ、書換可能ホログラム記録媒体としての機能が発現する。
【0051】
この書換可能ホログラム記録媒体は、振幅型ホログラムとして非常に高い回折効率(1.5%以上)を示すものであるから、様々なメモリ材料として応用が可能なものである。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明を適用する書換可能ホログラム記録媒体を製造した例を説明する。
【0053】
(製造例1)
オルガノシロキサン成分の原料である3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GP-TMS)に、チタン化合物成分の原料であるチタンテトラブトキシド(TBT)が溶解したアシル酢酸誘導体であるアセト酢酸エチルの溶液を加え、GP-TMS:TBTのモル%比で90:10〜40:60までの10モル%刻みの6種類のGP-TMS及びTBTの合計濃度2.5×10−3mol/mLの各混合溶液を調製した。その各混合溶液の5mLに、銀塩成分の原料である硝酸銀とハロゲノ脂肪酸誘導体であるトリクロロ酢酸とを30:15のモル比(Ag:Cl)で合計濃度1.5×10−4mol/mL溶解させた硝酸水溶液の25mLを加えることにより、それを共加水分解・重縮合し、6種類のゾルを得た。それらのゾルを、透明基板であるに夫々ディップコーティングして、一晩乾燥し、ゲル膜(30Ag15Cl含有GP-SiO3/2−TiO)が付された書換可能ホログラム記録媒体の各試験片を得た。この各試験片について、各種性能評価試験を行った。なお、透過光測定モードで赤外吸収スペクトルを測定する際のみ、シリコン基板を使用した。
【0054】
(製造例1の書換可能ホログラム記録媒体の光学的性能評価試験)
(1)紫外−可視吸収スペクトル測定試験
製造例1で得られた未使用の書換可能ホログラム記録媒体の試験片のゲル膜について、300〜800nmの波長の紫外−可視吸収スペクトル法(UV−vis)により、測定した。
【0055】
先ず、未使用の全試験片のゲル膜に、365nmの紫外線を10分間照射したところ、ゲル膜中に遊離銀ナノ粒子が析出し、その表面のプラズモン共鳴によって、420nm付近の吸光度が増加することが分かった。
【0056】
次いで、未使用の全試験片のゲル膜に、青色レーザー光(405nm,中心の照射強度15mW/cm)を照射した後、同様に紫外−可視吸収スペクトル法により、測定した。さらに青色レーザー光照射した全試験片をゲル膜ごと100℃で1時間加熱した後、同様に紫外−可視吸収スペクトル法により、測定した。GP-TMS:TBTのモル%比が、90:10〜40:60の書換可能ホログラム記録媒体の紫外−可視吸収スペクトルの結果を、夫々図1の(a)〜(f)に、示す。
【0057】
図1から明らかな通り、書換可能ホログラム記録媒体のゲル膜への青色レーザー光照射につき、GP-TMS:TBTのモル%比が90:10の試験片(同図(a))と、同モル比が80:20の試験片(同図(b))と、同モル比が60:40の試験片(同図(d))とは、吸光度が、青色レーザー光照射後の場合に、未使用状態の場合に比べ、全体的に増加していた。一方、同モル比が70:30の試験片(同図(c))と、同モル比が50:50の試験片(同図(e))と、同モル比が40:60の試験片(同図(f))とは、吸光度が、青色レーザー光照射後の場合に、未使用状態の場合に比べ、全体的に長波長側へシフトしていた。このようにこのゲル膜は、青色レーザー光照射によって400〜600nmの吸光度の増加が認められた。
【0058】
なお、X線回折分光分析(XRD)によっても、銀ナノ粒子の析出が確認された。
【0059】
これらの結果は、GP-TMSのモル%比に対応して、ゲル層中のTiOの割合が多くなることで、青色レーザー光照射により遊離銀ナノ粒子が広範囲に析出するようになったためであると考えられる。一方、書換可能ホログラム記録媒体のゲル膜への青色レーザー光照射後の加熱につき、GP-TMSのモル%比が40以上である場合、何れもゲル膜の吸光度が、減少に転じた。これらの結果は、加熱により、一旦析出した遊離銀ナノ粒子が減少したためと考えられる。
【0060】
(2)光照射・加熱繰返しに対する安定性試験
実施例1で得られた未使用のGP-TMS:TBTのモル%比が40:60の書換可能ホログラム記録媒体の試験片のゲル膜(30Ag15Cl−40GPSiO3/2・60TiO)について、そのゲル膜に、青色レーザー光(405nm,中心の照射強度15mW/cm)を照射した後、100℃で1時間加熱するというサイクルを、4回繰返し、光照射・加熱の終了の度に、同様に紫外−可視吸収スペクトル法により測定を行った。その結果を、図2に示す。図2から明らかな通り、光照射後の吸光度は4回とも略同じであり、加熱後の吸光度は回数と共に僅かに吸光後の減少程度が小さくなるものの殆ど同じであり、再現性良く、着色・消色を繰返すことが分かった。
【0061】
(3)赤外吸収スペクトル測定試験
実施例1で得られた未使用のGP-TMS:TBTのモル%比が40:60の書換可能ホログラム記録媒体の試験片のゲル膜(30Ag15Cl−40GPSiO3/2・60TiO)について、フーリエ変換赤外吸収スペクトル法(FT-IR)により測定を行った。次いで、そのゲル膜に、青色レーザー光(405nm,中心の照射強度15mW/cm)を照射した後、100℃で1時間加熱するというサイクルを、2回繰返し、光照射・加熱の終了の度に、同様に赤外吸収スペクトル法により測定を行った。その結果を、図3に示す。図3から明らかな通り、未使用状態、青色レーザー光照射後の状態、及び引き続く加熱後の状態とも、スペクトル変化、特にGP-TMSのエポキシ基に起因する1635及び1280cm−1のピークに変化は認められなかった。このことから、未使用時、青色レーザー光照射時、及び引き続く加熱時に、エポキシ基が着色・消色に関与していないことが分かった。
【0062】
(4)二光束干渉露光試験
実施例1で得られた未使用のGP-TMS:TBTのモル%比が40:60の書換可能ホログラム記録媒体の試験片のゲル膜(30Ag15Cl−40GPSiO3/2・60TiO)について、青色レーザー光をビームスプリッタにより分岐後、波長版により90°異なる偏光方向を付与した2本の光束を、再び集光させて、青色レーザー光による二光束干渉露光試験を行った。そのホログラムを赤色レーザー(633nm)で読みだした結果を図4に示す。露光時間に比例して、透過率強度(Itrans)の減少と回折光強度(Idiff)の増加が見られ、図4に示すように、回折効率(Idiff/(Itrans+Idiff))は、露光時間400秒から増加し、900秒で最大値1.92%を示した。
【0063】
これらの結果から、この書換可能ホログラム記録媒体はホログラムメモリ用材料として有用であることが示された。
【0064】
(製造例2)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GP-TMS)の6.8gを、硝酸銀の1.8gとモノブロモ酢酸とがモル比で1:0、 1:0.5、 1:1又は1:2で含まれた1.2×10−3mol/Lの硝酸水溶液3.2mL中で攪拌した。そこに、エチルアセト酢酸エチル0.2gとチタンテトラブトキシド(TBT)の2.3gとを混合して化学修飾されたTBT含有溶液を加え、さらに攪拌を続けて、ゾルを得た。ディップコーティングにより、ゾルを、透明ガラス基板上に厚さ約5μmとなるように付し、ゲル膜(AgBr:80GP-SiO3/2・20TiO)が付された書換可能ホログラム記録媒体の各試験片を得た。
【0065】
(製造例2の書換可能ホログラム記録媒体の光学的性能評価試験)
(1)吸光度測定試験、X線回折分光分析試験及び透過型電子顕微鏡観察試験
製造例2で得られた未使用の書換可能ホログラム記録媒体の試験片のゲル膜を、365nmの紫外線を10分間照射してから、吸光度測定試験、X線回折分光分析及び透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、特に、硝酸銀とモノブロモ酢酸とのモル比(即ちAg:Brのモル比)が1:0.5である書換可能ホログラム記録媒体のゲル層中に、粒径が約10nmの遊離銀ナノ粒子が分散しており、着色しており、可視域全域で吸光度が著しく増加していることが分かった。
【0066】
また、紫外線照射に代え、405nmの青色レーザー光を10分間照射してから、吸光度測定試験、X線回折分光分析及び透過型電子顕微鏡観察を行った。Ag:Brのモル比が1:0.5である書換可能ホログラム記録媒体の透過型電子顕微鏡観察の拡大写真を図5に示す。図5から明らかな通り、青色レーザー光照射後に、紫外光照射後と同様の結果であったことから、ゲル膜中に遊離銀ナノ粒子が析出していることが分かった。
【0067】
なお、それのAg:Brのモル比が、1:0と1:1と1:2とである各ゲル層では、青色レーザー光照射による吸光度の変化が殆ど観察されなかったが、紫外線照射による吸光度の変化が観察された。このことからAg:Brのモル比が適切でなければ銀含有ナノ粒子が形成されないことが分かった。
【0068】
これらの結果から、光照射による吸光度の増加は、生成した遊離銀ナノ粒子の表面プラズモン共鳴に起因していると分かった。また、Ag:Brのモル比が1:0.5である書換可能ホログラム記録媒体のゲル層中に、臭化銀と銀イオンとが共存しているため、青色レーザー光照射の際にそのエネルギーを吸収した臭化銀が解離するときに放出する臭化物イオンを、ゲル膜中の銀イオンが捕縛し、残った銀イオンがナノ粒子を形成するものと考えられる。
【0069】
(2)二光束青色レーザー光による干渉露光試験、及び赤色レーザーによる回折光の検出試験
402nmの二光束青色レーザー光による干渉露光、および632nmの赤色レーザー光による回折光の検出により、膜のホログラム形成能の評価を行った。厚さ5μmのゲル膜(AgBr:80GP-SiO3/2・20TiO)が付された製造例2の書換可能ホログラム記録媒体は、二光束青色レーザー干渉露光試験の結果、露光時間1300秒で、回折効率が最大約0.03%まで上昇した。このことから、作製したゲル膜が青色レーザー光によるホログラム形成能を有することが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の書換可能ホログラム記録媒体は、本発明の製造方法により製造され、光、中でも特に青色レーザー光に高い感度を有するため、ブルーレイとの互換性を有した読み書き可能ドライブでのホログラムメモリの記録に用いることができる。また、この記録媒体は、光照射で着色し加熱で消色して一枚当たり1テラバイト大容量の記録データを、可逆的に書換えできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分とハロゲノ成分とを含むゲル膜が基材上に付されており、前記銀塩由来の銀イオンと銀との可逆な酸化還元反応を起こす1〜100nmの粒径の銀含有ナノ粒子が、該ゲル膜中に分散していることを特徴とする書換可能ホログラム記録媒体。
【請求項2】
前記ゲル膜が、前記オルガノシロキサン成分と前記チタン化合物成分とからなる共加水分解縮重合複合体を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の書換可能ホログラム記録媒体。
【請求項3】
前記オルガノシロキサン成分がオルガノシルセスキオキサンであり、前記チタン化合物成分がチタニウムアルコキシド又はチタニアであることを特徴とする請求項1に記載の書換可能ホログラム記録媒体。
【請求項4】
前記オルガノシルセスキオキサンが、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、及びメチルトリエトキシシランから選ばれる何れかの重縮合性アルコキシシランが重合したものであることを特徴とする請求項3に記載の書換可能ホログラム記録媒体。
【請求項5】
前記ハロゲノ成分が、ハロゲノ酸類、又はハロゲノ脂肪酸誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の書換可能ホログラム記録媒体。
【請求項6】
前記銀含有ナノ粒子が、光照射により前記ゲル膜中で、前記酸化還元反応を起こして、析出した遊離銀ナノ粒子であって、それによって前記ゲル膜の吸光度を変化させることを特徴とする請求項1に記載の書換可能ホログラム記録媒体。
【請求項7】
前記銀含有ナノ粒子が、加熱により前記ゲル膜中で、前記酸化還元反応を起こして、生成したハロゲン化銀ナノ粒子であって、それによって前記ゲル膜の吸光度を変化させることを特徴とする請求項6に記載の書換可能ホログラム記録媒体。
【請求項8】
前記ゲル膜が、銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分とを含むゾルで膜化してゲルにしたものであることを特徴とする請求項1に記載の書換可能ホログラム記録媒体。
【請求項9】
前記ゲル膜中、前記オルガノシロキサン成分のケイ素と前記チタン化合物成分のチタンとのモル分率が、95:5〜20:80であり、前記銀塩成分の銀と前記ハロゲノ成分のハロゲンとのモル分率が1:2〜1:0.01であることを特徴とする請求項1に記載の書換可能ホログラム記録媒体。
【請求項10】
銀塩成分とオルガノシロキサン成分とチタン化合物成分ハロゲノ成分とを含むゾルを、基材上に付してそのゲル膜を形成することにより、前記銀塩由来の銀イオンと銀との可逆な酸化還元反応を起こす1〜100nmの粒径の銀含有ナノ粒子が該ゲル膜中に分散して含有されている書換可能ホログラム記録媒体を、製造する方法。
【請求項11】
前記ゾルが、さらに酸を含有していることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ハロゲノ成分が、ハロゲノ酸類、又はハロゲノ脂肪酸誘導体であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記銀塩成分と、前記オルガノシロキサン成分を構成する重縮合性アルコキシシランと、前記チタン化合物成分とを、前記ハロゲノ脂肪酸誘導体に溶解し、前記ゾルにすることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ゾルから、肥大化した100nmを超える粒径の銀塩結晶粒子を除去することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記銀塩成分に、アシル酢酸誘導体成分を共存させつつ、前記ゾルにすることを特徴とする請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−112917(P2011−112917A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270037(P2009−270037)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000162076)共栄社化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】