説明

最大ドップラー周波数推定装置及び最大ドップラー周波数推定方法

【課題】振幅を平均するための適切な平均化区間長を設定することにより、フェージング変動以外の要因の影響を受ける場合でも、最大ドップラー周波数の推定精度を高めること。
【解決手段】チャネル推定部103−1〜103−nは、受信信号より所定時間毎の各パスの振幅及び位相差を求める。位相差算出部109は、前回推定された最大ドップラー周波数より算出した第1平均化区間長において、各パスの振幅を平均して振幅平均値を各々算出するとともに各パスの位相差を平均して位相差平均値を各々算出し、振幅平均値に応じて各パスの間で位相差平均値を重み付けして合成する。ドップラー周波数算出部112は、位相差算出部109により重み付けして合成した位相差平均値に基づいて、最大ドップラー周波数を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば移動通信端末装置に適用する最大ドップラー周波数推定装置及び最大ドップラー周波数推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動無線通信においては、フェージングによって受信信号の包絡線及び位相が変動する。移動無線通信システムでは、送信機及び受信機において既知のパイロットシンボルを送信及び受信し、受信機において受信したパイロットシンボルの包絡線及び位相の変動を測定する。受信機は、包絡線及び位相の変動の測定値に基づいて、フェージング変動が受信信号に与える影響を推定する処理であるチャネル推定を行う。チャネル推定では、雑音の影響を抑圧し、フェージング変動の推定精度を高めるために平均化処理を行う場合が多い。平均化処理における最適な平均化区間長は、フェージング変動の速さ、即ち送信機と受信機との移動速度差に依存することが知られている。これより、従来、チャネル推定の推定結果を用いて、フェージング変動の速さに関連する最大ドップラー周波数を推定することにより、フェージング歪を補償する技術(例えば、特許文献1)、及び良好な受信特性を確保する技術(例えば、特許文献2)が開発されている。
【0003】
図1は、I−Q平面における受信信号点の配置を示す図である。
【0004】
図1より、フェージング変動及びフェージング変動以外の要因(例えば白色雑音)の両方の影響を受けた場合において、時刻iのパイロットシンボルの受信信号点の座標#1_1を(Ii_1、Qi_1)とし、その直前の時刻(i−1)のパイロットシンボルの受信信号点の座標#2_1を(Ii_1−1、Qi_1−1)とする。この場合、第1象限の座標#2_1は、Q軸及びI軸を超えて、第3象限の座標#1_1に変移する。この場合、位相差はθ1_1になる。
【0005】
一方、図1より、フェージング変動の影響のみを受けた場合において、時刻iのパイロットシンボルの受信信号点の座標#3_1を(I’i_1、Q’i_1)とし、その直前の時刻(i−1)のパイロットシンボルの受信信号点の座標#2_1を(Ii_1−1、Qi_1−1)とする。この場合、第1象限の座標#2_1は、Q軸のみを超えて、第2象限の座標#3_1に変移する。この場合、位相差はθ1’_1になる。
【0006】
次に、上記の位相差について、図2を用いてさらに詳細に説明する。図2は、従来のパイロットシンボルの振幅、位相差及び振幅が最大のフィンガの位相差の時間推移を示す図である。なお、図2において、比較のために、フェージング変動の影響のみを受けた際に算出される位相差(理想)も示す。
【0007】
図2より、パスが割り当てられたフィンガ#1において、フェージング変動及びフェージング変動以外の要因の影響を受けた受信信号の振幅は、1、4、3、2、・・・[dB]と順次変化する。また、パスが割り当てられたフィンガ#2において、フェージング変動及びフェージング変動以外の要因の影響を受けた受信信号の振幅は、3、1、4、4、・・・[dB]と順次変化する。同様に、フィンガ#1の受信信号の位相差は、90、45、0、45、・・・[degree]と順次変化する。また、フィンガ#2の受信信号の位相差は、45、90、0、0、・・・[degree]と順次変化する。これより、時刻0[msec]〜4[msec]において、振幅が最大であるパスが割り当てられたフィンガの所定時間毎の位相差としては、時刻0[msec]〜1[msec]ではフィンガ#2の45[degree]、時刻1[msec]〜2[msec]ではフィンガ#1の45[degree]、時刻2[msec]〜3[msec]ではフィンガ#2の0[degree]、及び時刻3[msec]〜4[msec]ではフィンガ#2の0[degree]が選択される。そして、選択されたこれらの各位相差を用いて、最大ドップラー周波数を推定する。
【0008】
一方、図2に示すように、時刻0[msec]〜4[msec]において、フェージング変動の影響のみによる位相差は、時刻0[msec]〜1[msec]では45[degree]、時刻1[msec]〜2[msec]では90[degree]、時刻2[msec]〜3[msec]では0[degree]、及び時刻3[msec]〜4[msec]では0[degree]と順次変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−8675号公報
【特許文献2】特開2004−153585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の装置においては、実際の位相差は、フェージング変動以外の要因の影響を受けることにより、フェージング変動の影響のみを受けたときの位相差と異なる。例えば、図1の場合、実際の位相差はθ1_1であるのに対して、フェージング変動の影響のみを受けた場合の位相差はθ1’_1である。また、図2の場合、実際の位相差は、45、45、0、0・・・[degree]と変化するのに対して、フェージング変動の影響のみによる位相差は、45、90、0、0・・・[degree]と変化する。図2におけるこの位相差の相違は、時刻2[msec]において、フェージングの落ち込みにより振幅が1[dB]となったフィンガ#2の位相差ではなく、フィンガ#1の位相差を選択することにより生じたものである。このように、実際の位相差は、フェージング変動の影響のみを受けたときの位相差と異なることにより、実際に算出した位相差から検出したドップラー周波数が不正確になるという問題がある。具体的には、振幅が大きいパスを選択する周期が、フェージングが変動する周期(ドップラー周波数の逆数)よりも短い場合に、フェージングの落ち込みを観測できず、推定される最大ドップラー周波数は小さくなるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、振幅を平均するための適切な平均化区間長を設定することにより、フェージング変動以外の要因の影響を受ける場合でも、最大ドップラー周波数の推定精度を高めることができる最大ドップラー周波数推定装置及び最大ドップラー周波数推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の最大ドップラー周波数推定装置は、受信信号より所定時間毎の各パスの振幅及び位相差を求めるチャネル推定手段と、前回推定された最大ドップラー周波数より算出した第1平均化区間長において、前記各パスの前記振幅を平均して振幅平均値を各々算出するとともに前記各パスの前記位相差を平均して位相差平均値を各々算出し、前記振幅平均値に応じて前記各パスの間で前記位相差平均値を重み付けして合成する位相差算出手段と、前記位相差算出手段により重み付けして合成した前記位相差平均値に基づいて、最大ドップラー周波数を推定するドップラー周波数推定手段と、を具備する構成を採る。
【0013】
本発明の最大ドップラー周波数推定方法は、受信信号より所定時間毎の各パスの振幅及び位相差を求めるチャネル推定ステップと、前回推定された最大ドップラー周波数より算出した第1平均化区間長において、前記各パスの前記振幅を平均して振幅平均値を各々算出するとともに前記各パスの前記位相差を平均して位相差平均値を各々算出し、前記振幅平均値に応じて前記各パスの間で前記位相差平均値を重み付けして合成する位相差算出ステップと、前記位相差算出ステップにより重み付けして合成した前記位相差平均値に基づいて、最大ドップラー周波数を推定するドップラー周波数推定ステップと、を具備するようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、振幅を平均するための適切な平均化区間長を設定することにより、フェージング変動以外の要因の影響を受ける場合でも、最大ドップラー周波数の推定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】I−Q平面における受信信号点の配置を示す図
【図2】従来のパイロットシンボルの振幅、位相差及び振幅が最大のフィンガの位相差の時間推移を示す図
【図3】本発明の実施の形態1における移動通信端末装置の構成を示すブロック図
【図4】本発明の実施の形態1における位相差算出部の構成を示すブロック図
【図5】本発明の実施の形態1におけるパイロットシンボルの振幅の算出例、位相差の算出例、振幅平均値の算出例、位相差平均値の算出例及び振幅平均値に応じて最大比合成した位相差平均値の算出例の時間推移を示す図
【図6】本発明の実施の形態2における位相差算出部の構成を示すブロック図
【図7】本発明の実施の形態2におけるパイロットシンボルの振幅の算出例、位相差の算出例、振幅平均値の算出例、位相差平均値の算出例及び振幅平均値が閾値以上のフィンガの位相差平均値の算出例の時間推移を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態1)
<移動通信端末装置の構成>
図3は、本発明の実施の形態1における移動通信端末装置100の構成を示すブロック図である。移動通信端末装置100は、最大ドップラー周波数推定装置150及びフィンガ処理部160−1〜160−nを含む。最大ドップラー周波数推定装置150は、最大ドップラー周波数を推定する。フィンガ処理部160−1〜160−nは、検出された各パスが割り当てられ、割り当てられた各パスの受信信号に対する各種の受信処理を行う。
【0018】
無線部101は、受信した受信信号に対して無線処理を施して逆拡散部102−1〜102−n及び同期部107に出力する。
【0019】
逆拡散部102−1〜102−nは、無線部101から入力した受信信号のうち、同期部107により割り当てられたパスの受信信号に対して逆拡散処理を行い、逆拡散処理した受信信号をチャネル推定部103−1〜103−nに出力する。
【0020】
チャネル推定部103−1〜103−nは、逆拡散部102−1〜102−nから入力した逆拡散処理後の受信信号よりチャネル推定を行い、受信信号と共にチャネル推定値をコヒーレント検波部104−1〜104−n及び位相差算出部109に出力する。具体的には、チャネル推定部103−1〜103−nは、逆拡散部102−1〜102−nから入力した逆拡散処理後のパイロットシンボルよりチャネル推定を行う。チャネル推定では、各パスのフェージング変動に起因する受信信号の振幅及び位相差を所定時間毎に算出する。チャネル推定値は、チャネル推定により算出した振幅を示す振幅情報、及びチャネル推定により算出した位相差を示す位相変動情報である。
【0021】
コヒーレント検波部104−1〜104−nは、チャネル推定部103−1〜103−nから入力した受信信号に対して、チャネル推定部103−1〜103−nから入力したチャネル推定値の複素共役を乗算することにより、当該受信信号の変動分を補償する。コヒーレント検波部104−1〜104−nは、位相変動補償後の受信信号をレイク信号処理部105に出力する。
【0022】
レイク信号処理部105は、各コヒーレント検波部104−1〜104−nから入力した受信信号を最大比合成してSIR算出部106に出力する。
【0023】
SIR算出部106は、レイク信号処理部105から入力した最大比合成後の受信信号を用いてSIRを算出し、算出したSIRに対応した信頼度情報を生成する。SIR算出部106は、生成した信頼度情報を位相差算出部109に出力する。
【0024】
同期部107は、無線部101から入力した受信信号より、捕捉及び追従すべきパスを検出し、検出したパスをフィンガ処理部160−1〜160−nの逆拡散部102−1〜102−nの各々に割り当てる。また、同期部107は、パスの検出結果をパスタイミング差算出部108に出力する。
【0025】
パスタイミング差算出部108は、同期部107において検出したパスについて周期的にパスタイミングを測定し、現在のパスタイミングと直前のパスタイミングとの差分を示すパスタイミング差分情報を算出する。その際、パスタイミング差算出部108は、受信信号の振幅に対応した信頼度情報に応じて、パスタイミング差分情報に重み付けを行う。パスタイミング差算出部108は、重み付けしたパスタイミング差分情報を周波数誤差算出部110に出力する。
【0026】
位相差算出部109は、チャネル推定部103−1〜103−nから入力したチャネル推定値と、算出周期制御部113から入力した第1平均化区間長と、SIR算出部106から入力した信頼度情報とに基づいて、信頼度情報を考慮した位相差平均値を算出する。
【0027】
具体的には、位相差算出部109は、チャネル推定部103−1〜103−nから入力したチャネル推定値としての位相変動情報より、第1平均化区間長における位相差平均値を算出するとともに、チャネル推定値としての振幅情報より、第1平均化区間長における振幅平均値を算出する。位相差算出部109は、算出した振幅平均値に応じて、各パスの間で位相差平均値を重み付けして合成する。例えば、位相差算出部109は、各パスの間で位相差平均値を最大比合成する。
【0028】
位相差算出部109は、重み付けして合成した位相差平均値を周波数誤差算出部110に出力する。なお、位相差算出部109の構成の詳細については後述する。
【0029】
周波数誤差算出部110は、位相差算出部109から入力した位相差平均値と、パスタイミング差算出部108から入力したパスタイミング差分情報とに基づいて、周波数誤差を算出する。周波数誤差算出部110は、算出した周波数誤差を平均化処理部111に出力する。
【0030】
平均化処理部111は、周波数誤差算出部110から入力した周波数誤差を平均してドップラー周波数算出部112に出力する。この際、平均化処理部111は、算出周期制御部113により設定した、第1平均化区間長より長い第2平均化区間長において平均化する。例えば、平均化処理部111は、第1平均化区間長がパイロット(CPICH)シンボルの4シンボル分である場合に、パイロットシンボルの20シンボル分の第2平均化区間長において平均する。即ち、平均化処理部111は、周波数誤差算出部110により算出された周波数誤差を5回分平均する。
【0031】
なお、第2平均化区間長は、予め電波伝搬環境で試験を行い、移動通信端末装置100単独で推定した最大ドップラー周波数と、外部入力装置を用いて推定した最大ドップラー周波数との差が小さくなるように設定されたものでもよい。外部入力装置を用いて推定した最大ドップラー周波数とは、例えば、GPS等より取得した位置情報を用いて移動速度を求め、この移動速度を用いて推定した最大ドップラー周波数等である。
【0032】
ドップラー周波数算出部112は、平均化処理部111から入力した平均化した周波数誤差に基づいて最大ドップラー周波数を推定する。ドップラー周波数算出部112は、推定した最大ドップラー周波数を、最大ドップラー周波数推定装置150の外部に出力するとともに算出周期制御部113に出力する。
【0033】
算出周期制御部113は、ドップラー周波数算出部112から入力した最大ドップラー周波数より算出した第1平均化区間長を算出し、算出した第1平均化区間長を位相差算出部109に出力する。なお、第1平均化区間長については後述する。
【0034】
<位相差算出部の構成>
図4は、位相差算出部109の構成を示すブロック図である。
【0035】
振幅平均化処理部401は、算出周期制御部113から入力した第1平均化区間長を設定し、チャネル推定部103−1〜103−nから入力したフィンガ毎の振幅情報より、第1平均化区間長においてフィンガ毎に振幅を平均して振幅平均値を求める。振幅平均化処理部401は、求めた振幅平均値を重み係数算出部403に出力する。
【0036】
位相差平均化処理部402は、算出周期制御部113から入力した第1平均化区間長を設定し、チャネル推定部103−1〜103−nから入力したフィンガ毎の位相差より、第1平均化区間長においてフィンガ毎に位相差を平均して位相差平均値を求める。位相差平均化処理部402は、求めた位相差平均値を位相差重み付け部404に出力する。
【0037】
重み係数算出部403は、振幅平均化処理部401から入力した振幅平均値に基づいてフィンガ毎の重み係数を算出し、算出した重み係数を位相差重み付け部404に出力する。
【0038】
位相差重み付け部404は、重み係数算出部403から入力した重み係数を、位相差平均化処理部402から入力した位相差平均値に乗じることにより、フィンガ間で位相差平均値を重み付けして合成する。その際、位相差重み付け部404は、SIR算出部106から入力した信頼度情報を考慮する。位相差重み付け部404は、重み付けして合成した位相差平均値を周波数誤差算出部110に出力する。
【0039】
<位相差算出部の処理>
図5は、本実施の形態におけるパイロットシンボルの振幅の算出例、位相差の算出例、振幅平均値の算出例、位相差平均値の算出例及び振幅平均値に応じて最大比合成した位相差平均値の算出例の時間推移を示す図である。
【0040】
まず、算出周期制御部113は、フェージングが変動する周期(ドップラー周波数の逆数)よりも長い区間を第1平均化区間長とする。
【0041】
例えば、図5に示すように、算出周期制御部113は、フェージングが変動する周期がパイロットシンボル数の3個分に相当する場合には、4シンボル分を第1平均化区間長とする。
【0042】
この際、図5より、振幅平均化処理部401は、時刻4において、フィンガ#1の受信信号の時刻1[msec]〜4[msec]の過去4シンボルの振幅平均値として2.5[dB]を算出し、フィンガ#2の受信信号の時刻1[msec]〜4[msec]の過去4シンボルの振幅平均値として3[dB]を算出する。
【0043】
また、位相差平均化処理部402は、時刻4[msec]において、フィンガ#1の受信信号の時刻1[msec]〜4[msec]の過去4シンボルの位相差平均値として45[degree]を算出し、フィンガ#2の受信信号の時刻1[msec]〜4[msec]の過去4シンボルの位相差平均値として33.75[degree]を算出する。
【0044】
これより、重み係数算出部403は、フィンガ#1及びフィンガ#2の各々の振幅平均値から、フィンガ#1の重み係数として「重み係数=2.5/(2.5+3)」の演算を行い、フィンガ#2の重み係数として「重み係数=3/(2.5+3)」の演算を行う。位相差重み付け部404は、フィンガ#1及びフィンガ#2の重み係数をフィンガ#1及びフィンガ#2の位相差平均値に各々乗じて重み付けすることにより、フィンガ間で位相差平均値を合成する。即ち、位相差重み付け部404は、振幅平均値に応じて最大比合成した位相差平均値として、「位相差平均値=2.5/5.5 × 45 + 3/5.5 × 33.75」の演算を行って39[degree]を算出する。位相差重み付け部404は、時刻1[msec]〜4[msec]の間で重み付けして合成した位相差平均値を、周波数誤差算出部110に出力する。
【0045】
<第1平均化区間長の決定方法>
算出周期制御部113は、初回において、運用上精度よく検出したい最小ドップラー周波数の逆数を第1平均化区間長として予め設定する。例えば、10km/h以上を精度よく検出したい場合、搬送波周波数を2GHzとすると、最大ドップラー周波数は18.5Hzとなり、第1平均化区間長は0.054secである。
【0046】
算出周期制御部113は、初回以降においては、今回算出したドップラー周波数と、移動通信端末装置100を使用するシステムの運用上想定される加速度とにより、次回の最大ドップラー周波数(速度)を推定して第1平均化区間長を決定する。例えば、算出周期制御部113は、今回算出されたドップラー周波数が100Hzで、移動通信端末装置100を使用するシステムの運用上想定される加速度から算出したドップラー周波数が±50Hzの場合、50Hzの逆数を次回の第1平均化区間長として決定する。算出周期制御部113は、今回決定した第1平均化区間長が初回に設定した第1平均化区間長より小さい場合には、初回に設定した第1平均化区間長を次回の第1平均化区間長として設定する。
【0047】
ここで、パスの変動には、移動による比較的ゆっくりした変動と、障害物が急に現れたり、無くなったりすることに起因する比較的急激な変動とがある。なお、比較的急激な変動は、突然発生したパス、または突然消えてしまったパスにより生じる。
【0048】
第1平均化区間長は、ドップラー周波数の逆数よりも長くしなければ、ドップラー周波数を精度よく推定できないが、長くしすぎるとパスの変動により以下の問題を生じる。即ち、従来、同期部107は、平均的な受信信号品質を向上させるために、パスを選択する際に設定する第3平均化区間長を比較的長く設定する。この結果、上記の比較的急激なパス変動に追従できない可能性がある。
【0049】
従って、本実施の形態では、同期部107は、上記の比較的急激なパスの変動にも追従できるように、第3平均化区間長を従来よりも短くしてパスの選択を行う。また、算出周期制御部113は、従来よりも短い第3平均化区間長に応じて、適切な第1平均化区間長を算出する必要がある。
【0050】
<本実施の形態の効果>
本実施の形態によれば、フェージング変動の周期を考慮して適切な長さの第1平均化区間長を設定することにより、フェージング変動以外の要因による影響を受ける場合でも、最大ドップラー周波数の推定精度を高めることができる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、第1平均化区間長で複素インパルスレスポンスの大きさに応じて当該複素インパルスレスポンス位置の位相差を最大比合成するので、第1平均化区間長の全体に渡ってフェージング変動以外の要因による影響を軽減することができる。
【0052】
<本実施の形態の変形例>
本実施の形態において、フィンガ毎の振幅平均値の比を重み係数として最大比合成したが、本発明はこれに限らず、振幅平均値の大きさの順序に応じて予め設定した重み係数を用いて最大比合成してもよい。例えば、位相差算出部109は、振幅平均値が1番大きいフィンガ#2の重み係数を「1」とし、それ以外のフィンガの重み係数を「0」として、「0×45+1×33.75」の演算を行う。そして、位相差算出部109は、演算結果である33.75を、時刻1[msec]〜4[msec]の重み付けして合成した位相差平均値として周波数誤差算出部110に出力してもよい。
【0053】
(実施の形態2)
<位相差算出部の構成>
図6は、本発明の実施の形態2における位相差算出部600の構成を示すブロック図である。なお、本実施の形態において、最大ドップラー周波数推定装置の構成は、位相差算出部109の代わりに位相差算出部600を有する以外は図3と同一構成であるので、その説明を省略する。
【0054】
図6に示す位相差算出部600は、図4に示す実施の形態1に係る位相差算出部109に対して、閾値制御部601及びメモリ602を追加する。なお、図6において、図4と同一構成である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0055】
閾値制御部601は、振幅平均値と比較する複数の閾値を予め記憶する。
【0056】
メモリ602は、位相差重み付け部404により選択された位相差平均値を記憶する。
【0057】
重み係数算出部403は、振幅平均算出部401から入力した振幅平均値と、閾値制御部601から取得した所定の閾値との比較結果に応じて、重み付け係数を算出する。具体的には、重み係数算出部403は、第1平均化区間長より長い第2平均化区間長における振幅平均値が閾値より大きいフィンガがある場合には、閾値より大きい振幅平均値のフィンガのみを用いて重み付け係数を算出する。一方、重み係数算出部403は、第2平均化区間長における振幅平均値が閾値より大きいフィンガが無い場合には、その旨を位相差重み付け部404に通知する。なお、重み係数算出部403におけるその他の処理は、上記の実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0058】
位相差重み付け部404は、上記の実施の形態1と同様の方法により重み付けして合成した位相差平均値を、周波数誤差算出部110に出力する。また、位相差重み付け部404は、振幅平均値が閾値より大きいフィンガが無い旨の通知を重み係数算出部403から受けた際に、振幅平均値が大きい方のフィンガの位相差平均値を選択してメモリ602に記憶させる。この際、例えば、位相差重み付け部404は、第1平均化区間長毎に閾値以下の振幅平均値をメモリ602に記憶させ、第2平均化区間長における振幅平均値が全て閾値以下の場合に、第2平均化区間長が経過する毎に、メモリ602に記憶させた位相差平均値をメモリ602から読み出し、読み出した位相差平均値を周波数誤差算出部110に出力する。
【0059】
<位相差算出部の処理>
図7は、本実施の形態におけるパイロットシンボルの振幅の算出例、位相差の算出例、振幅平均値の算出例、位相差平均値の算出例及び振幅平均値が閾値以上のフィンガの位相差平均値の算出例の時間推移を示す図である。なお、図7において、パイロットシンボルの振幅の算出例、位相差の算出例、振幅平均値の算出例及び位相差平均値の算出例は図5と同一であるので、その説明を省略する。
【0060】
位相差重み付け部404は、閾値制御部601に記憶している閾値2.8を選択した場合において、フィンガ#2の振幅平均値3[dB]のみが閾値2.8より大きいので、フィンガ#2の振幅平均値のみを用いて、位相差平均値を重み付けして合成する。具体的には、位相重み付け部404は、位相差平均値として、「位相差平均値=0/(3+0)×45+3/(3+0)×33.75)」の演算を行う。そして、位相重み付け部404は、演算結果である33.75[degree]を、時刻1[msec]〜4[msec]における重み付けして合成した位相差平均値として周波数誤差算出部110に出力する。この際、位相差重み付け部404は、振幅平均値が閾値より大きいフィンガが複数有る場合には、そのフィンガの位相差平均値をのみを等しい比で合成する。例えば、図7の算出例を用いて、「位相差平均値=1/2×45+1/2×33.75」の演算を行う。そして、位相重み付け部404は、演算結果である39.375[degree]を、時刻1[msec]〜4[msec]における重み付けして合成した位相差平均値として周波数誤差算出部110に出力する。
【0061】
また、位相差重み付け部404は、閾値制御部601に記憶している閾値2を選択した場合において、フィンガ#1の振幅平均値及びフィンガ#2の振幅平均値の両方共に閾値2より大きいので、実施の形態1と同様に、フィンガ#1及びフィンガ#2の振幅平均値より求めた重み係数により、重み付けして合成した位相差平均値を周波数誤差算出部110に出力する。
【0062】
また、位相差重み付け部404は、閾値制御部601に記憶している閾値4を選択した場合において、フィンガ#1の振幅平均値及びフィンガ#2の振幅平均値の両方共に閾値4以下であるので、振幅平均値が最大のフィンガの位相差平均値のみを選択してメモリ602に記憶させる。そして、位相差重み付け部404は、第2平均化区間長における全ての振幅平均値が閾値4以下の場合に、メモリ602に記憶している位相差平均値を周波数誤差算出部110に出力する。
【0063】
例えば、振幅平均算出部401の第1平均化区間長が4シンボル、及び平均化処理部111の第2平均化区間長が20シンボルとすると、重み係数算出部403は、第2平均化区間長において5回閾値と比較する。そして、位相差重み付け部404は、振幅平均値が5回とも閾値以下の場合に、メモリ602に記憶させた5回分の位相差平均値を周波数誤差算出部110に出力する。ただし、この際、1回でも振幅平均値が閾値以上の場合は、閾値以上の振幅平均値の位相差平均値を第2平均化区間長の位相差平均値として周波数誤差算出部110に出力する。
【0064】
<本実施の形態の効果>
本実施の形態によれば、上記の実施の形態1の効果に加えて、閾値以下の振幅平均値を用いずに、位相差平均値に乗ずる重み係数を算出することにより、各パスの振幅平均値に応じて最大ドップラー周波数の推定精度を調整することができる。
【0065】
<本実施の形態の変形例>
本実施の形態において、予め記憶してある閾値を使用したが、本発明はこれに限らず、移動通信端末装置単独で推定した最大ドップラー周波数と、外部入力装置を用いて推定した最大ドップラー周波数との差が小さくなるように算出した閾値を使用してもよい。外部入力装置を用いて推定した最大ドップラー周波数とは、GPSより取得した位置情報を用いて移動速度を求め、この移動速度を用いて推定した最大ドップラー周波数等である。
【0066】
また、本実施の形態において、振幅平均値に応じて位相差平均値を最大比合成したが、本発明はこれに限らず、振幅平均値が1番大きいフィンガの重み係数を「1」とするとともにそれ以外のフィンガの重み係数を「0」として位相差平均値に乗じてもよい。
【0067】
<全ての実施の形態に共通の変形例>
上記の実施の形態1〜実施の形態2において、次回の第1平均化区間長を設定するために、推定した最大ドップラー周波数をフィードバックし、第1平均化区間長を動的に変更するようにしたが、本発明はこれに限らず、運用上精度よく検出したい最小ドップラー周波数の逆数を第1平均化区間長として予め設定し、第1平均化区間長を固定にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明にかかる最大ドップラー周波数推定装置及び最大ドップラー周波数推定方法は、例えば移動通信端末装置に適用するのに好適である。
【符号の説明】
【0069】
100 移動通信端末装置
101 無線部
102−1〜102−n 逆拡散部
103−1〜103−n チャネル推定部
104−1〜104−n コヒーレント検波部
105 レイク信号処理部
106 SIR算出部
107 同期部
108 パスタイミング差算出部
109 位相差算出部
110 周波数誤差算出部
111 平均化処理部
112 ドップラー周波数算出部
113 算出周期制御部
150 最大ドップラー周波数推定装置
160−1〜160−n フィンガ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号より所定時間毎の各パスの振幅及び位相差を求めるチャネル推定手段と、
前回推定された最大ドップラー周波数より算出した第1平均化区間長において、前記各パスの前記振幅を平均して振幅平均値を各々算出するとともに前記各パスの前記位相差を平均して位相差平均値を各々算出し、前記振幅平均値に応じて前記各パスの間で前記位相差平均値を重み付けして合成する位相差算出手段と、
前記位相差算出手段により重み付けして合成した前記位相差平均値に基づいて、最大ドップラー周波数を推定するドップラー周波数推定手段と、
を具備する最大ドップラー周波数推定装置。
【請求項2】
前記位相差算出手段は、
前記重み付けして合成することにより前記各パスの間で前記位相差平均値を最大比合成する、
請求項1記載の最大ドップラー周波数推定装置。
【請求項3】
前記位相差算出手段は、
前記振幅平均値が最大のパスの重み係数を「1」とするとともに前記振幅平均値が最大のパス以外のパスの重み係数を「0」として前記位相差平均値に乗じることにより前記位相差平均値を重み付けする、
請求項1記載の最大ドップラー周波数推定装置。
【請求項4】
前記位相差算出手段は、
前記振幅平均値が所定の閾値よりも大きいパスにおける前記位相差平均値のみを等しい比で合成する、
請求項1記載の最大ドップラー周波数推定装置。
【請求項5】
前記位相差算出手段により選択した前記位相差を、前記第1平均化区間長よりも長い第2平均化区間長において平均する平均化処理手段をさらに具備し、
前記ドップラー周波数推定手段は、
前記平均化処理手段により平均した前記位相差に基づいて最大ドップラー周波数を推定する、
請求項1記載の最大ドップラー周波数推定装置。
【請求項6】
請求項1記載の最大ドップラー周波数推定装置を具備する移動通信端末装置。
【請求項7】
受信信号より所定時間毎の各パスの振幅及び位相差を求めるチャネル推定ステップと、
前回推定された最大ドップラー周波数より算出した第1平均化区間長において、前記各パスの前記振幅を平均して振幅平均値を各々算出するとともに前記各パスの前記位相差を平均して位相差平均値を各々算出し、前記振幅平均値に応じて前記各パスの間で前記位相差平均値を重み付けして合成する位相差算出ステップと、
前記位相差算出ステップにより重み付けして合成した前記位相差平均値に基づいて、最大ドップラー周波数を推定するドップラー周波数推定ステップと、
を具備する最大ドップラー周波数推定方法。
【請求項8】
前記位相差算出ステップは、
前記重み付けして合成することにより前記各パスの間で前記位相差平均値を最大比合成する、
請求項7記載の最大ドップラー周波数推定方法。
【請求項9】
前記位相差算出ステップは、
前記振幅平均値が最大のパスの重み係数を「1」とするとともに前記振幅平均値が最大のパス以外のパスの重み係数を「0」として前記位相差平均値に乗じることにより前記位相差平均値を重み付けする、
請求項7記載の最大ドップラー周波数推定方法。
【請求項10】
前記位相差算出ステップは、
前記振幅平均値が所定の閾値よりも大きいパスにおける前記位相差平均値のみを等しい比で合成する、
請求項7記載の最大ドップラー周波数推定方法。
【請求項11】
前記位相差算出ステップにより選択した前記位相差を、前記第1平均化区間長よりも長い第2平均化区間長において平均する平均化処理ステップをさらに具備し、
前記ドップラー周波数推定ステップは、
前記平均化処理ステップにより平均した前記位相差に基づいて最大ドップラー周波数を推定する、
請求項7記載の最大ドップラー周波数推定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−249041(P2012−249041A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118680(P2011−118680)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(310006855)NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】