説明

最大酸素摂取量計測装置、最大酸素接種量計測方法及びプログラム

【課題】被験者の持久力を計測する技術を提供する。
【解決手段】被験者について測定された血流量ω又は心拍数の値に基づいて、被験者の最大酸素摂取量を算出する又は対応関係テーブルから読み出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の持久力を表す最大酸素摂取量(VO2Max)を計測するための技術に関する。例えば血流量(皮膚温度を通じて計測された血流量、レーザドップラー方式で計測された血流量、心拍数に基づいて算出される血流量)や心拍数に基づいて最大酸素摂取量を計算する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮的に皮膚組織中の血流量を計測する技術として、測定対象部位にレーザ光を照射する方法や熱伝導効果を利用する方法が知られている。
【0003】
前者の例の一つに、レーザ組織血流測定方法がある(特許文献1(図1)及び特許文献2(図1)を参照)。この方法は、測定対象部位(例えば皮膚)に対してレーザ光を照射し、その際に得られる反射光信号又は散乱光信号の強度に重畳する強度変化の周波数を分析することにより血流量を算出することを原理とする。
【0004】
後者の例の一つに、交叉熱電対法(ユニークメディカル社製品UM-200A資料)がある。この方法では、測定対象となる部位の皮膚表面に加熱点とそれに近接する温度測定点を設け、加熱点における加熱と同時に温度測定点の温度を測定する。この際、温度測定点の温度が一定となるように加熱量をフィードバック制御する。この方法の場合、加熱点における加熱量の変化は、その皮下における血流量に比例するという原理に基づいて血流量を算出する。
【0005】
この他、被験者の持久力を計測する技術として、運動負荷法が知られている。以下に、現在用いられている持久力計測方式とその概要を表1に示す。
【0006】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−7559号公報
【特許文献2】特開平7−113743号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Kashima et al.: Model for measurement of tissue oxygenated blood volume by the dynamic light scattering method, J.J.Appl.Phys.,31,4097-4102(1992)
【非特許文献2】血流循環と生体熱輸送現象に関する数値と実験的研究:理研 賀纓他(2004)
【非特許文献3】スポーツ心臓の形態と機能について:東京女子医大 小堀他(1990)
【非特許文献4】http://ci.nii.ac.jp/naid/110002521799/ 「電磁誘導を用いた非観血末梢血流監視システム」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、いずれの血流測定方法も、計測装置の構成が複雑化する又は得られた測定信号に対する高度な信号処理技術が必要となる問題があり、装置の大型化と高コスト化が不可避である。
【0010】
また、いずれの持久力計測方法も、被験者が体力の限界まで運動を実施することが必要であり、被験者の身体的負担が大きい問題がある。さらに、呼気ガスを計測する運動負荷法の場合には、大掛かりな装置が必要であるだけでなく、計測に専門知識が必要である。このため、専門家の補助無しには持久力を計測することはできない。
【0011】
発明者らは、かかる技術課題に着目し、持久力(最大酸素摂取量)を簡便に計測できる仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的の実現のため、本発明は、血流量の測定結果に基づいて持久力を表す最大酸素摂取量(VO2Max)を計測する技術を提供する。なお、血流量の計測方法には、(1) 測定対象部位である皮膚に対する熱負荷の印加を終了した直後から測定対象部位の皮膚温度が熱平衡状態へ回復する過程の温度プロファイルを計測し、計測結果に基づいて血流量を測定する手法、(2) レーザドップラー法に基づいて血流量を測定する方法、(3) 心拍数から血流量を算出する又は取得する方法などを用いることができる。
【0013】
また、(3) に示す方法の変形として、心拍数の測定結果に基づいて持久力を表す最大酸素摂取量(VO2Max)を計測する方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被験者に負担を掛けることなく、血流量に基づいて持久力を簡便に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】発明の実施の形態に係る最大酸素摂取量計測装置の概略構成例を示す図である。
【図2】熱吸収体据え置き型の最大酸素摂取量計測装置の構成例を説明する図である。
【図3】熱吸収体スライド型の最大酸素摂取量計測装置の構成例を説明する図である。
【図4】接触型皮膚温度計を用いる最大酸素摂取量計測装置の構成例を説明する図である。
【図5】熱吸収体の構造例を説明する図である。
【図6】冷却部付熱吸収体の構造例を説明する図である。
【図7】放熱部と冷却部を取り付けた熱吸収体の構造例を説明する図である。
【図8】熱吸収体の他の構造例を説明する図である。
【図9】複数指計測型の血流量計測装置の構成例を説明する図である。
【図10】医療用又は専門家用の表示画面例を示す図である。
【図11】家庭用の表示画面例を示す図である。
【図12】測定処理方法例を説明する図である。
【図13】血流量の計算モデル例を説明する図である。
【図14】血流量計算モデルと皮膚温度の回復過程を説明する図である。
【図15】皮膚温度の測定プロファイルを説明する図である。
【図16】安静時指先血流量最小値と持久力(最大酸素摂取量)の関係を説明する図である。
【図17】最小心拍数と末梢血流最小値との関係を説明する図である。
【図18】安静時心拍数と最小心拍数の関係を説明する図である。
【図19】心拍数を用いて持久力(最大酸素摂取量)を測定する最大酸素摂取量計測装置の概略構成例を示す図である。
【図20】血流量の測定にレーザドップラー血流計を使用する最大酸素摂取量計測装置の概略構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明に係る形態例を図面に基づいて説明する。なお、図面は、専ら発明の説明を目的として作図したものであり、既知や周知の技術との組み合わせや置換も可能である。
【0017】
(基本原理)
冷水に浸す、お湯に浸す等のように指に熱負荷を与えた際に観測される表面温度の回復過程は、指内部の血流量(ω)に依存することが、非特許文献2に報告されている。例えば熱平衡状態にある指を冷水に一定時間浸し、その後、冷水から取り出して室温中で安静にする場合、指の表面温度は以下のように変化する。
【0018】
まず、指を冷水に浸すと、熱平衡状態にあった指表面の温度は、初期温度から一旦低下する。次に、指を冷水から出すと、指表面の温度はゆっくり回復し、最終的には初期温度に到達する。この回復過程において、血流量が多い場合と少ない場合で、温度変化の速度に差異が発生する。すなわち、血流量が多い場合の温度変化の速度は大きく、逆に、血流量が少ない場合の温度変化の速度は小さい。この現象は、熱負荷による指表面の温度の変化、特に熱負荷終了後の温度回復過程における温度測定プロファイルを利用して、指内部の血流が推定できることを示唆している。
【0019】
持久力が向上すると心臓が肥大化して1回の心拍出量が増加する一方で、スポーツ心臓と言われるように心拍数は減少する。表2に、一般人と運動選手の安静時における血液循環量の違いを示す。表2に示すように、持久力の非常に高いマラソン選手になると心拍数が40を下回るケースも珍しくない。そこで一般人と持久力が高い人の安静時に1分間当たりに循環する血液量を比較すると、表のように一般人は約4600〜6400ml、持久力の高い人は3300〜4800mlであり、持久力が高い人の方が安静時では血液循環量が少ない。ただし、運動時は一般人より運動選手のほうが格段に多く2倍になることもある。
【0020】
【表2】

【0021】
実際、スポーツ心臓を持つ一流アイスホッケー選手群と健常男子群の心臓機能を比較した研究によると、アイスホッケー選手群が健常男子群より安静時の心拍出量が少ないことが報告されている(非特許文献3)。また、非特許文献3によると、この現象は複数年についても、他のホッケーチームについても同様に認められ、再現性が確認されたことが報告されている。
【0022】
身体能力の面から検討すると、持久力の高い人は肺換気能力・細胞ガス交換能力が高いこと、運動することですぐに心拍数を上昇させることが可能なことから日常生活では一般人ほどの血流量の必要がないと考えられる。従って、最大酸素摂取量(VO2Max)が高い人の指先皮膚血流量が少ないのは妥当である。この現象は、安静時での血流量を利用して、持久力(最大酸素摂取量)が推定できることを示唆している。
【0023】
以下の実施の形態では、手の指の表面温度の測定を通じて最大酸素摂取量(VO2Max)を測定する装置の形態例を説明する。なお、以下の形態例に示す装置は、最大酸素摂取量(VO2Max)だけでなく、その測定過程で被験者の血流量ωも測定できる。従って、測定結果として血流量ωを出力することも可能である。ただし、以下の説明では、発明の目的の観点から最大酸素摂取量(VO2Max)を測定する装置として表現する。
【0024】
(形態例1)
図1に、最大酸素摂取量測定装置の概略構成例を示す。形態例に係る最大酸素摂取量測定装置は、本体101、測定領域102、熱吸収体103、蓋104、環境温度計105、皮膚表面温度計106、可動板107、操作ボタン108、表示部109、LED110、断熱構造体111、信号処理部112、外部通信部113、核体温計114を有している。
【0025】
形態例に係る本体101は概略直方体形状を有している。本体101は、プラスチック樹脂、金属その他で構成されている。測定領域102は、本体101の表面に配置される。測定領域102は、最大酸素摂取量(VO2Max)の測定時に指を載置するのに用いられる。測定領域102のうち測定部位である指先の載置位置には穴102Aが形成されている。この穴102Aは、本体101の内部と通じている。
【0026】
熱吸収体103には、皮膚表面から熱を効率的に奪うことができる熱伝導性に優れた材料を使用する。例えば金属、熱吸収ゲルを使用する。この形態例における蓋104は回動自在に本体101の筐体に取り付けられている。蓋104は、最大酸素摂取量(VO2Max)の測定時には測定領域102や環境温度計105を筐体表面に露出させるように回動され、非使用時や収納時には測定領域102や環境温度計105を覆うように回動される。もっとも、蓋104の開閉にはスライド機構を採用しても良いし、筐体から取り外せる構造であっても良い。蓋104を閉じることにより、埃等が穴102Aを通じて筐体内部に進入するのを防ぐことができる。
【0027】
環境温度計105は、最大酸素摂取量計測装置の使用環境である外気温を測定する温度計である。皮膚表面温度計106は、被測定部位である指先の温度を測定する温度計である。この形態例の場合、皮膚表面温度計106には非接触式の温度計を使用する。このため、皮膚表面温度計106は、本体101内のうち穴102Aが見える位置に配置する。図1の場合、皮膚表面温度計106は、穴102Aの鉛直下部に配置される。
【0028】
可動板107は、熱吸収体103の負荷位置(熱吸収体103の表面と指が触れる位置)への移動と熱吸収体103の筐体内への移動に使用される可動部品である。可動板107は不図示の駆動機構によって可動される。可動板107は、例えば皮膚温度の測定時には熱吸収体103を測定位置から退避させ、熱負荷の印加時には熱吸収体103を測定位置に位置決めするように駆動される。図1の場合、熱吸収体103が取り付けていない一端側で、可動板107は筐体内壁に回動自在に取り付けられており、回動角は不図示のモーター等により調整される。図1では可動板107の可動方向を矢印で示している。
【0029】
操作ボタン108は、信号処理部112やコンピュータシステムに対する指示入力や電源の供給/供給停止を操作するためのボタンである。例えば表示部109に表示する内容の切り替え(測定結果、履歴)や時間設定に使用する。なお、操作ボタン108は、スイッチとして構成することもできる。
【0030】
表示部109は、計測手順や計測結果の表示に使用される表示デバイスである。例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイを使用する。LED110は、計測時間や測定の進行状況を利用者に教示するために使用される。図1の場合には、点灯の数により4段階の情報を教示する。もっとも、LED110の数は4個に限らない。また、LED110の発光色や点灯状態の変更(例えば点滅)によって必要な情報を利用者に教示する手法を採用しても良い。また、LED110を配置せずに音(音声を含む。)や表示部109の表示内容を通じて計測時間や測定の進行状況を利用者に通知する手法を採用することもできる。
【0031】
断熱構造体111は、皮膚表面温度計106に対して信号処理部112等の熱が影響するのを防ぐために配置される。図1の場合、断熱構造体111は、筐体内部の主要な発熱源と皮膚表面温度計106の配置される空間とを仕切るように配置される。信号処理部112は、(1) 測定された皮膚温度の変化に基づく血流量の演算機能、(2) 血流量と最大酸素摂取量の換算式に基づいた最大酸素摂取量の演算機能、(3) 測定動作に伴う内部システムの制御機能等を提供する。
【0032】
信号処理部112は、例えばコンピュータシステムで構成される。この形態例の場合、信号処理部112は、最大酸素摂取量(VO2Max)の測定動作(前処理としての血流量の測定動作中も含む。)の進捗に伴って、可動板107の可動位置やLED110の点灯状態を制御する。前述した機能の提供に必要なプログラムは、半導体メモリその他の記憶装置1121に格納されている。また、最大酸素摂取量(VO2Max)の測定に関連して各温度計から適時又は継続的に測定される温度も記憶装置1121に格納されている。外部通信部113は、外部装置との通信に使用されるインターフェースである。
【0033】
核体温計114は、被験者の核体温を測定する温度計である。核体温は、中核温や深部温とも呼ばれる。核体温計114には測定部位に応じた体温計が用いられる。測定部位には、例えば舌下、内耳、脇、直腸などがある。なお図1の場合には、最大酸素摂取量測定装置内に環境温度計105や核体温計114を一体的に配置しているが、環境温度や核体温は他の温度計を用いて測定された値が外部通信部113を通じて取得する方式を採用しても良いし、被験者自身が操作ボタン108等を通じて手入力する方式を採用しても良い。
【0034】
続いて、形態例に係る最大酸素摂取量測定装置による皮膚温度の計測方法を示す。皮膚表面の温度は、皮膚表面温度計106により測定される。
【0035】
まず、測定領域102に被験者の指が載置される。この状態で、熱負荷を加える前の初期温度(熱平衡状態の温度)が皮膚表面温度計106により測定される。次に、可動板107により熱吸収体103が測定領域102の穴102Aに位置決めされる。これにより、熱吸収体103の表面が指の皮膚表面に接触する。このとき、熱吸収体103は、接触面から指の熱を奪う。この熱負荷の印加は、予め設定された一定時間について実行される。
【0036】
一定時間の熱負荷の印加が終了すると、可動板107が、熱吸収体103を穴102Aから退避位置に退避する。熱吸収体103の退避と同時に、皮膚表面温度計106による皮膚表面温度の測定が開始される。この測定は、熱負荷印加後の回復過程における温度プロファイルの測定である。従って、皮膚温度の測定は連続的に実行される。好ましくは、初期温度に戻るまで温度の測定が継続される。
【0037】
以上説明した皮膚温度の測定が終了すると、核体温計114を用いた核体温の測定と環境温度計105を用いた環境温度(室温)の測定が実行される。これら3種類の温度計で測定された各温度は信号処理部112に与えられる。信号処理部112は、後述する演算処理に基づいて、各温度から被験者の血流量を計算する。さらに、信号処理部112は、記憶装置1121に格納されている血流量と最大酸素摂取量の換算式に基づいて、測定された血流量に対応する最大酸素摂取量を計算する。
【0038】
この形態例の場合には、血流量を算出する際、皮膚温度の測定後に核体温と環境温度を測定しているが、3種類の温度さえ測定できれば良いので、測定順序は前述した順番に限らない。
【0039】
次に、皮膚温度の回復過程の温度プロファイルに基づいて血流量を測定し、その測定結果に基づいて被験者の持久力を与える最大酸素摂取量(VO2Max)を算出する方法について示す。図15(A)に、血流計測時における皮膚温度の変化と室温との時系列データ例を示す。前述したように、図中の皮膚温度のうち回復過程における温度変化の速度が血流量に応じて異なる特性がある。図13に、血流量を導出する計算モデルを示す。図13(A)は指が熱吸収体103に接触する前の計算モデルであり、図13(B)は指が熱吸収体103に接触した後の計算モデルである。
【0040】
なお、図中のTaは血流温度(核体温)、Tsは皮膚温度、Trは室温である。また、R1は内部熱抵抗、R2は皮膚表面の空気に対する熱抵抗、C1は皮膚表面組織の熱容量である。因みに、R1は、熱伝導率(血流量ωに反比例する成分を含む。)に反比例する特性を有する。また、図13(A)では、熱吸収体103と接触する以前における指の皮膚温度は室温に飽和しているものとし、このときの皮膚温度をTs(0)で表している。また、図13(B)では、熱吸収体103が皮膚温度にt1時間接触した後の皮膚温度をTs(t1)で表している。図14(A)に、図13に示す計算モデルの等価回路を示し、図14(B)に指温度が回復する様子を示す。
【0041】
時間t=0とt=∞のとき、指の皮膚温度は室温と平衡状態にある。この状態の場合、等価回路の容量C1は充電状態にあると考えられる。従って、図14の回路図より、次式が成立する。
【0042】
【数1】

【0043】
皮膚表面温度がTs(t1)からTs(0)まで回復する過程では、図14(B)に示したように、時定数τ=R1・C1に従って温度が上昇する。このため、(式1)と合わせて、次の(式2)が成立する。
【0044】
【数2】

【0045】
なお、R2、C1の値は、実際の装置構成に応じた最適解を試行錯誤的に求められているものとする。従って、信号処理部112は、各温度計で測定された温度Ts、Tr、Taを式2に与えることにより、当該式2を満たすR1を演算により算出することができる。
【0046】
ところで、内部熱抵抗R1と血流量ωの間には、次の(式3)が成立する。
R1=k1/ω+k2 (式3)
【0047】
すなわち、R1は血流量ωに対して反比例の関係が成立する。なお、k1及びk2は、実際の装置構成に応じて試行錯誤的に定まる定数である。従って、内部熱抵抗R1の値が算出されると、信号処理部112は、式3に基づいて被験者の手の指先の血流量ωを算出する。
【0048】
また、精度は落ちるものの、指先皮膚温度から血流を求める簡易的手段として、指先の皮膚表面温度のみを用いる方法もある。具体的には、皮膚温度の回復が不安定な0〜1秒間のデータを削除し,その後の温度データの対数を計算することで血流量ωに比例する値を得ることができる。図15(B)に対数処理前のデータ、図15(C)に対数処理後のデータを示す。この方法によれば、中性温度域で計測している場合は核体温、環境温度を計測せずに皮膚温度のみで末梢血流を導出することができる。
【0049】
次に、血流量ωに基づいて被験者の持久力を表す最大酸素摂取量(VO2Max)を測定(算出)する方法について説明する。
【0050】
最大酸素摂取量(VO2Max)の測定は、望ましくは、室内で座位又は仰臥位安静の状態で行う。理想的には、やや涼しさを感じる状態(半そで半ズボンの状態で室温約22度)で約1時間安静にした後に計測するのが良い。一方、運動後、入浴後、食後、温度差のある場所から移動してきた直後の場合のように心拍数が通常と異なり、皮膚温度も環境温度に慣れていない場合は、最大酸素摂取量(VO2Max)の計測に適さない。
【0051】
理想的な環境(涼しさを感じる室温で1時間安静にした後)で計測した場合における血流量ωと最大酸素摂取量(VO2Max)の間に認められた実験結果を図16に示す。この図16より、(式4)に示す換算式を導きだすことができる。なお、本明細書では、理想的な環境における心拍数を最小心拍数という。
VO2Max=−1159ln(ω)+4897 (式4)
【0052】
なお、最大酸素摂取量(VO2Max)の導出に適する式は(式4)だけに限るものではない。より精度が高い換算式が導出された場合には、精度の高い換算式を適用することが望ましい。例えば血流量ωの自然対数値を変数とする他の関数を用いても良い。また、この実施例の場合には、(式4)に基づく演算処理により最大酸素摂取量(VO2Max)を算出しているが、同等の対応関係を有する対応関係テーブルから血流量ωに対応する最大酸素摂取量(VO2Max)を読み出しても良い。
【0053】
前述したように、最大酸素摂取量(VO2Max)の計測は、理想的な環境下で行われることが好ましい。その一方で、理想的な環境に準じた環境であれば、適切な補間演算により、理想環境下と同等の計測結果を得ることができる。
【0054】
この明細書では、理想的な環境に準じた環境として、立位又は歩行状態から座位に移行し、その後、1分間以上にわたって安静な状態が継続した状態(以下、「安静状態」という。)を考える。この状態での心拍数を、本明細書においては安静時心拍数という。ただし、安静時心拍数は、最小心拍数よりも心拍数が大きな値になる傾向がある。安静時における最大酸素摂取量(VO2Max)の計測では、皮膚温度や室温だけでなく心拍数も考慮した多変量解析により導出した最小血流量ωの導出式を(式4)に代えて適用すれば良い。
【0055】
図12に、形態例に係る最大酸素摂取量計測装置で実行される最大酸素摂取量(VO2Max)の測定手順の一例を示す。操作用ボタン108に対する操作入力に伴って最大酸素摂取量(VO2Max)の計測が開始されると、信号処理部112は、LED110や表示部109等を通じて計測開始を被験者に提示する(ステップS1)。
【0056】
計測開始が提示されると、被験者は、指を測定領域102に載置する。このとき、信号処理部112は、皮膚の初期温度を計測すると共に、環境温度計105で室温を計測する(ステップS2)。次に、皮膚の熱を奪うため、信号処理部112は、可動板107を駆動制御し、熱吸収体103を一定時間皮膚に接触させる(ステップS3)。
【0057】
一定時間が経過すると、信号処理部112は、可動板107を駆動制御して熱吸収体103を皮膚から退避させる(ステップS4)。この退避直後から、信号処理部112は、熱吸収体103によって熱が奪われることによって低下した皮膚温度が回復する様子を皮膚表面温度計106にて計測する(ステップS5)。このとき、信号処理部112は、環境温度計105を通じて室温も計測し、測定中における室温の安定性をチェックする。
【0058】
皮膚表面温度が回復すると、信号処理部112は、LED110や表示部109を通じて核体温の計測を被験者に提示し、核体温計114を通じて被験者の核体温を測定する(ステップS6)。
【0059】
核体温の測定も終了すると、信号処理部112は、LED110や表示部109を通じて計測の終了を被験者に提示する(ステップS7)。この後、信号処理部112は、測定された皮膚温度を(式2)に与え、前述したように血流量ωに反比例するR1の値を算出する(ステップS8)。なお、信号処理部112は、ステップS8において、以下の処理も実行する。R1の値が算出されると、信号処理部112は、算出されたR1の値を(式3)に適用し、被験者の血流量ωを算出する。次に、信号処理部112は、算出された血流量ωを(式4)に適用し、被験者の最大酸素摂取量(VO2Max)を算出する。
【0060】
なお、皮膚温度の測定が安静時心拍数の測定条件で実行されたことは、測定開始時に被験者等が操作ボタン108等を通じて入力することが望ましい。
【0061】
この後、信号処理部112は、少なくとも被験者の最大酸素摂取量(VO2Max)を表示部109に表示し、一連の処理を終了する(ステップS9)。この際、信号処理部112は、必要や設定に応じ、最大酸素摂取量(VO2Max)を測定する過程で得られる血流量ωの情報を表示しても良い。
【0062】
なお、最大酸素摂取量(VO2Max)の測定に関連して必要になる操作は、蓋104の開閉、ブザー音、音声ガイド等を通じて被験者に通知することができる。なお、環境温度や核体温の測定タイミングは必ずしも図12の手順に限られるものではない。
【0063】
以上説明したように、この実施の形態に係る最大酸素摂取量測定装置の場合には、熱吸収体103の接触により指の皮膚表面に熱負荷を与え、その後、指の皮膚温度が回復する過程の温度プロファイルを継続的に測定することにより血流量を測定し、当該測定された血流量に基づいて最大酸素摂取量(VO2Max)を算出する。このため、装置構成と信号処理を従来技術に比して簡素化することができる。因みに、血流量や最大酸素摂取量(VO2Max)の算出に使用する換算式は、実験データの積み重ねなどにより改良された場合に、外部から書き換えられることが望ましい。例えば信号処理部112が使用するファームウェアのアップデートや差分プログラムの適用を通じて書き換えられることが望ましい。
【0064】
また、この実施の形態に係る最大酸素摂取量測定装置の場合には、回動型の蓋104を用いるので、穴102Aの下部に位置する皮膚表面温度計106に埃等が付着するのを回避できる。この構造により、皮膚表面温度計106による検出精度の低下を避けることができる。また、埃等が電子部品や駆動機構に付着して動作不良を発生するのを避けることができる。
【0065】
(形態例2)
図2に、最大酸素摂取量測定装置の他の概略構成例を示す。図2には、図1との対応部分に同一符号を付して示している。図2に示すように、基本的な装置構成は、形態例1と同じである。
【0066】
この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置と形態例1の装置構成との違いは、熱吸収体103を本体101の表面に固定的に配置する点である。図2の場合には、測定領域102との並び位置に熱吸収体103を配置する。
【0067】
この形態例の場合も、基本的な温度の測定手順は形態例1と同じである。ただし、熱吸収体103が固定であるため、指と熱吸収体103との接触タイミングを自動的に制御することができない。そこで、この形態例の場合には、表示部109の表示内容やLED110の点灯状態の制御を通じて接触タイミングを使用者に通知する手法を採用する。勿論、この通知に関する制御は信号処理部112を通じて実現される。
【0068】
以下では、皮膚温度を計測する方法を説明する。まず、表示部109やLED110による合図によって、被験者は、測定領域102に手の指を載せる。このとき、皮膚表面温度計106は、合図に連動して皮膚温度の初期値を測定する。
【0069】
次に、表示部109やLED110の通知態様が変化する。被験者は、この通知態様の変化を合図として、測定領域102に載せていた指を熱吸収体103の表面に移動させる。
【0070】
一定時間が経過すると、表示部109やLED110の通知態様が更に変化する。被験者は、この通知態様の変化を合図として、熱吸収体103に載せていた指を測定領域102に移動させる。この後、皮膚表面温度計106は、皮膚温度が回復過程における温度変化を測定する。
【0071】
以上のように、この形態例の場合には、被験者自身が、血流量の測定プロセスの進捗に応じて被測定対象である指を移動させる必要がある以外は、形態例1と全く同様の手順により最大酸素摂取量(VO2Max)や血流量ωを測定することができる。
【0072】
なお、この形態例の場合には、熱吸収体103が筐体表面に配置されているので、熱吸収体103が汚れた場合にクリーニングすることができる。また、熱吸収体103が破損した場合や機能が低下した場合にも簡単に交換することができる。また、素材の異なる熱吸収体103と交換することで、冷却効果を調整することもできる。
【0073】
さらに、この形態例の場合には、可動部品である可動板107が不要であるので、装置構成が簡単になり、故障の可能性を一段と減らすことができる。また、この形態例の場合、熱吸収体103のサイズを穴102Aの大きさと関係なく定めることが可能になる。形態例1の場合、熱吸収体103の表面を指と接触させるために、穴102Aより小さい形状である必要があった。
【0074】
しかし、この形態例の場合、穴102Aのサイズとの関係により熱吸収体103のサイズを決める必要がないため、形態例1の場合よりも熱吸収体103の表面サイズを大きくすることができる。従って、指との接触面積を簡単に大きくすることができる。また、熱吸収体103の熱容量も簡単に大きくできる。結果的に、この形態例の場合には、熱吸収体103による熱吸収効果を高めることができる。このことは、熱負荷を印加する時間を短縮できることを意味する。
【0075】
(形態例3)
図3に、最大酸素摂取量測定装置の他の概略構成例を示す。図3には、図1との対応部分に同一符号を付して示している。図3に示すように、基本的な装置構成は、形態例1と同じである。
【0076】
この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置と形態例1の装置構成との違いは、熱吸収体103の移動に熱吸収体用ガイド301を使用する点である。すなわち、この形態例の場合、熱吸収体103又はその台は、熱吸収体用ガイド301に沿って搬送される。この際、熱吸収体103の移動に必要な筐体の厚み方向の空間長は、可動板107を回動駆動する場合に比して小さく済む。従って、この形態例の構造を採用することにより、最大酸素摂取量測定装置の図中A−A断面図の高さ方向の長さを小さくすることができる。すなわち、最大酸素摂取量測定装置の体積を小さくすることができる。
【0077】
(形態例4)
図4に、最大酸素摂取量測定装置の他の概略構成例を示す。図4には、図2との対応部分に同一符号を付して示している。図4に示すように、基本的な装置構成は、形態例2と同じである。
【0078】
この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置と形態例2の装置構成との違いは、皮膚表面温度計106に代えて接触温度計401を使用する点である。なお、この形態例の場合には、測定領域102の近傍に固定式の熱吸収体103を配置するため、形態例2の場合と同様に被験者自身が指を移動する必要がある。
【0079】
因みに、接触温度計401は、一般に安価であるので、非接触型の温度計を用いて皮膚表面の温度を測る場合に比して装置コストを低下させることができる。また、接触温度計401そのものが筐体表面に配置されるので形態例2の場合に比してメンテナンスも容易になる。また、非接触型の温度計の場合のように、測定に適した距離だけ温度計と指との間に距離を設ける必要がないので、その分、最大酸素摂取量測定装置の体積を小さくすることができる。
【0080】
なお、この形態例の場合、接触温度計401を環境温度計105と兼用することもできる。この場合、最大酸素摂取量測定装置に搭載する温度計の数を、他の形態例に比して1つ削減できる。
【0081】
(形態例5)
この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置の場合には、測定領域102の表面に断熱材を配置する。形態例1〜4のいずれの形態例の場合にも、指の皮膚温度を測定する間、測定箇所の周囲の部分で指は測定領域102と接触する。測定領域102の材質にもよるが、接触部分では指との間で熱の移動が発生する。特に、熱の移動が大きい場合には、測定される皮膚温度への影響を無視できなくなる。そこで、測定領域102のうち、少なくとも指と触れる可能性のある部分を断熱材で覆い、皮膚温度の測定中における指と測定領域102(または装置本体)との間の熱移動を極力小さくする。この形態例の場合、前述した4つの形態例に係る最大酸素摂取量測定装置よりも測定精度を高めることができる。
【0082】
(形態例6)
この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置の場合には、図5に示すような断面が凸形状の熱吸収体103を使用する。図5(A)は、被験者の指が接触する側(筐体表面側)から見た図であり、図5(B)はA−A断面図である。図5の場合、熱吸収体103は、径の異なる円柱を2段重ねた構造を採用する。径の小さい方の円柱が皮膚との接触面となる。なお、指との接触する部分の面積は、指先等の狭い範囲に適応できるサイズにする。
【0083】
図5の場合には、上段と下段の両方を円柱で構成しているが、角柱その他の形状でも勿論構わない。また、上段と下段で形状が異なっていても良い。ただし、熱吸収体103の熱容量を大きくする観点から考えると下段側の体積が上段側の体積よりも大きい方が望ましい。また、図5のように2段構造とするのではなく、熱吸収体103は、円錐形その他の錐体形状の上部を底面と並行に切り取った形状でも良い。
【0084】
なお、熱吸収体103の素材は、熱伝導率を考えると金属体が好ましい。例えば熱伝導率の良い銅、金、銀やこれらを含む合金が好ましい。もっとも、熱吸収体103の大きさによってはABS樹脂等を使用しても構わない。
【0085】
(形態例7)
この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置の場合には、効率良く皮膚表面から熱を奪うため、熱吸収体103を加熱又は冷却する構造を追加する。図6に、熱吸収体103に冷却機構を取り付けた場合の構造例を示す。図6は、形態例6(図5)で採用した熱吸収体103の下段側表面に冷却ゲル603を挟んでペルチェ素子604を貼り付けた構造例を示す。ペルチェ素子604が冷却構造体である。また、冷却ゲル603は、熱吸収体103の熱を効率的にペルチェ素子604に逃がすのに用いられる。
【0086】
(形態例8)
この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置の場合には、熱吸収体103の冷却効果を監視して皮膚温度の測定精度を高める仕組みを採用する。具体的には、熱吸収体103のうち皮膚と接触する端面付近に温度計601を配置し、吸収した熱を放射する側の端面付近に温度計602を配置する。温度計601及び602には、例えばサーミスタを使用する。
【0087】
この形態例の場合、信号処理部112が、温度計601と602の温度をそれぞれ検出する。この形態例の場合、信号処理部112は、皮膚と接触する側の温度計601の温度がある一定の温度になったか否かによって最大酸素摂取量(VO2Max)の測定プロセスを開始するか否かを判定する。温度が安定していない状態で最大酸素摂取量(VO2Max)の測定プロセスを開始すると外因によって最大酸素摂取量(VO2Max)の測定精度が低下する可能性があるためである。
【0088】
また、信号処理部112は、最大酸素摂取量(VO2Max)の測定プロセスを開始するか否かを判定する際、温度計601の温度が室温より低いか否かも判定する。熱吸収体103の温度が室温より高いと皮膚温度を効果的に吸収できず、測定条件を満たさないためである。
【0089】
また、最大酸素摂取量(VO2Max)の測定プロセスが開始され、熱吸収対103と皮膚との接触が行われると、信号処理部112は、温度計601及び602の温度差を計測することにより、熱吸収体103に移動した熱量を計算する。なお、温度差に基づいた移動熱量の計算は既知であるので説明を省略する。この形態例の場合、信号処理部112は、指から熱吸吸収体103に移動した吸収量が事前に定めた閾値を越えることを条件に、指との接触位置から熱吸収体103を退避させる。このような制御を採用することにより、同じ条件で血流量ωを測定することが可能になる。その結果、血流量ωと持久力を表す最大酸素摂取量(VO2Max)の測定精度を向上することができる。
【0090】
(形態例9)
この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置の場合には、測定開始時における熱吸収体103の温度や熱量の熱負荷を加えている間の熱移動量を一定値に積極的に制御する方式を採用する。この例の場合、熱吸収体103の冷却にはペルチェ素子(図6)や空冷ファンを使用する。また、熱吸収体103の加熱には不図示のヒーターを使用する。信号処理部112によって、積極的に温度を管理することにより、最大酸素摂取量(VO2Max)の測定開始時における温度を積極的に最適な温度に制御することができる。ここでの最適値は、室温との関係も考慮して設定された値であることが望ましい。
【0091】
また、形態例8の場合には、指と熱吸収体103との接触時間の調整によって移動熱量が一定になるように制御しているが、この形態例の場合には例えば接触時間が一定の場合にも熱吸収体103の冷却又は過熱により一定の接触時間内に移動する熱量を一定にすることが可能になる。いずれにしても、測定条件を同じにできることで、血流量ωの測定精度を向上することができる。結果的に、最大酸素摂取量(VO2Max)と血流量ωの測定精度を高めることできる。
【0092】
(形態例10)
この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置の場合には、放熱効果を更に高める構造を採用する。具体的には、図7に示すように、熱吸収体103に対して放熱ファン701と放熱フィン702を取り付ける構造を採用する。なお、図7の場合には、形態例7(図6)の構造に放熱ファン701と放熱フィン702を取り付けた例を示している。なお、放熱ファン701だけを取り付ける構造も可能である。また、放熱フィンに代えて放熱用の金属板を取り付けても良い。いずれにしても、前述した形態例に比して、熱吸収体103の放熱効率を向上することができる。方熱効率の向上により、最大酸素摂取量測定装置による再計測までに要する時間を短縮することができ、計測効率を向上できる。
【0093】
(形態例11)
この形態例11の場合には、熱吸収体103に使用して好適な他の構造例を示す。図8(A)〜(F)に熱吸収体103の構造例を示す。それぞれ、上段側が熱吸収体103を上面側から見た図であり、下段側がA−A断面図である。因みに、図8(A)に示す熱吸収体103aは、形態例6で説明した円柱の2段重ねたタイプである。図8(B)に示す熱吸収体103bは、やはり形態例6で説明した円錐上部を底面と平行に切り落としたタイプである。図8(C)に示す熱吸収体103aは、形態例1で説明した円柱タイプである。これらの形状を適用する最大酸素摂取量測定装置の筺体サイズ、筺体との取り付け方式や駆動機構、筺体内のレイアウトに応じて選択的に使用する。なお、図8(D)〜(F)は、それぞれ図8(A)〜(C)のうち皮膚との接触面を曲面形状に加工したタイプである。接触面を曲面形状に加工することにより皮膚との密着度を高め、吸熱効果を高めることができる。
【0094】
(形態例12)
図9に、最大酸素摂取量測定装置の他の概略構成例を示す。図9には、図1との対応部分に同一符号を付して示している。もっとも、図2に示す最大酸素摂取量測定装置のように固定式の熱吸収体103を用いる場合にも応用可能である。この形態例に係る最大酸素摂取量測定装置の場合、筺体上に測定領域102を2つ並べて配置する。勿論、筺体の内部には、熱吸収体103を測定位置と退避位置との間で移動させる機構部としての可動板107が配置される。
【0095】
この形態例の場合、測定領域102が2つあるので、例えば隣同士に位置する2本の指の血流を測定できる。また例えば右手と左手の各1本の指の血流を測定できる。また例えば隣合う又は近傍に位置する皮膚の血流を測定することができる。なお、血流の測定は同時に行っても良いし、時間差で実行しても良い。いずれにしても複数個所で血流量を測定できることにより、測定位置に依存した血流量のバラツキを平均化することができる。結果的に、被験者についての血流量ωと最大酸素摂取量(VO2Max)の測定結果の信頼性を高めることができる。また、被験者に対する血流量ωと最大酸素摂取量(VO2Max)の計測を複数回実行し、それらの平均値を信号処理部112で計算する場合に比して、平均値が算出されるまでの測定時間長を短縮することができる。
【0096】
また、測定領域102を複数配置することにより、いずれかの測定領域102についての測定が失敗した場合でも、その他の測定領域102についての測定結果を利用することができる。
【0097】
(形態例13)
前述した最大酸素摂取量測定装置の場合には、信号処理部112において、測定された3種類の測定温度に基づいて血流量ωを計算し、(式4)に示す換算式に基づいて最大酸素摂取量(VO2Max)を計算する場合について説明した。しかし、測定温度のデータや計測された血流量ω及び最大酸素摂取量(VO2Max)は、外部通信部113を通じて通信可能な他の計測装置の別の指標と連動させても良い。また、前述した最大酸素摂取量測定装置の機能は、他の指標を示す装置の機能を搭載しても良いし、反対に他の指標を示す装置の内部に最大酸素摂取量測定装置を一体的に取り付けても良い。因みに、ここでの他の指標には、例えば代謝、温熱感覚、ストレス、自律神経の働きなどが考えられる。また、外部通信部113は、測定された温度や計算した血流値ω及び最大酸素摂取量(VO2Max)を外部に出力するのに用いるだけでなく、最大酸素摂取量測定装置に対する各種の設定値の受信等に用いてもよい。
【0098】
(形態例14)
図10及び図11に、信号処理部112による測定結果の表示例を示す。図10(A)は測定された血流量(ω)を実数値として表示する例であり、図10(B)は測定された最大酸素摂取量(VO2Max)を実数値として表示する例である。実数値による表示は、例えば医療機関やスポーツクラブで使用する最大酸素摂取量測定装置に適している。図11(A)は測定された血流量(ω)を前回値や平均値との比較によって表示する例である。血流量レベルは、例えば「血流量は(前回値より)低下しました」、「血流量は(前回値)より向上しました」などのレベル分けで表示する。図11(B)は測定された最大酸素摂取量(VO2Max)を持久力レベルとして前回値や平均値との比較によって表示する例である。持久力レベルは、実数値とは異なり、数段階又は感覚的な表現形式である。例えば「持久力は(前回値より)低下しました」、「持久力は(前回値)より向上しました」などのレベル分けで表示する。ここでの平均値は、特定個人の過去の測定結果の平均値だけでなく、性別や年代別等に統計的に求められた平均値も含まれる。この表示は、一般家庭などで使用する最大酸素摂取量測定装置に適している。表示には、色分けやその他の表示形態を組み合わせても良い。
【0099】
(形態例15)
前述した形態例においては、被験者の血流量を皮膚温度から測定し、測定結果に基づいて最大酸素摂取量(VO2Max)を算出する場合について説明した。しかし、被験者の心拍数に基づいて血流量ωを求め、求められた血流量ωに基づいて最大酸素摂取量(VO2Max)を算出することもできる。
【0100】
理想的な環境下で最小心拍数を計測できる場合には、末梢血流量最小値(最大酸素摂取量の測定に使用する血流量)と最小心拍数との間には、図17に示す関係が実験により確認された。図中、○印がサンプル点であり、直線が(式5)で与えられる換算関係である。
血流量ω=最小心拍数×−0.407+32.51 (式5)
【0101】
従って、(式5)に基づいて血流量ωを算出し、当該血流量ωを(式4)に与えれば最大酸素摂取量(VO2Max)を算出することができる。なお、(式5)を(式4)に統合した換算式を用意すれば、最小心拍数から最大酸素摂取量を直接算出することもできる。
【0102】
なお、前述したように、実際の測定環境下では、安静時での測定が多くなると考えられる。この場合、安静時に測定される安静時心拍数と最小心拍数との間には、図18に示す関係(式6)が実験により確認された。図中、○印がサンプル点であり、直線が(式6)で与えられる換算関係である。
最小心拍数=安静時心拍数×1.032−8.252 (式6)
【0103】
従って、安静時心拍数が測定された場合、(式6)を用いて最小心拍数に変換する演算処理をコンピュータに実行させ、その後、変換後の最小心拍数を(式5)に与えれば血流量ωを算出することができ、理想的な環境下と同じ処理により最大酸素摂取量(VO2Max)を算出することができる。
【0104】
もっとも、(式5)と(式6)を一つにまとめた以下の換算式(式7)を用いれば、安静時心拍数から血流量ωを直接求めることができる。
血流量ω=最小心拍数×−0.407+32.51
=(安静時心拍数×1.032−8.252)×−0.407+32.51
≒−0.42×安静時心拍数+35.87 (式7)
【0105】
勿論、この場合も、(式7)を(式4)に統合した換算式を用意すれば、安静時心拍数から最大酸素摂取量を直接算出することもできる。
【0106】
なお、最小心拍数から血流量ωを導出する式は(式5)だけに限るものではない。より精度が高い換算式が導出された場合には、精度の高い換算式を適用することが望ましい。同じく、安静時心拍数から最小心拍数や血流量を導出する式は(式6)や(式7)だけに限るものではない。より精度が高い換算式が導出された場合には、精度の高い換算式を適用することが望ましい。
【0107】
また、この実施例の場合にも、各換算式と同等の対応関係を有する対応関係テーブルを用意し、最小心拍数や安静時心拍数に対応する値を対応関係テーブルから読み出しても良い。
【0108】
図19に、心拍計191と最大酸素摂取量計測装置192で構成されるシステム例を示す。心拍計191は、既存の装置を使用できる。最大酸素摂取量計測装置192は、測定された心拍数を格納する記憶装置1921と、前述した演算処理又は対応関係テーブルから心拍数に応じた最大酸素摂取量(VO2Max)を出力する信号処理部1922で構成する。形態例1の信号処理部112と同様にコンピュータシステムとして実現できる。
【0109】
なお、図19においては、最大酸素摂取量計測装置192に対して外付けされた心拍計191の例を表しているが、心拍計は最大酸素摂取量計測装置192に内蔵されていても良い。
【0110】
また、被験者又は補助者が被験者の心拍数の数値を最大酸素摂取量計測装置192に入力手段を通じて手入力しても良い。
【0111】
(形態例16)
前述した形態例においては、被験者の血流量を皮膚温度から測定し、測定結果に基づいて最大酸素摂取量(VO2Max)を算出する場合について説明した。しかし、被験者の血流量ωをレーザドップラー法や交叉熱電対法を用いて求め、求められた血流量ωに基づいて最大酸素摂取量(VO2Max)を算出することもできる。
【0112】
図20に、レーザドップラー法を適用して血流量を測定する場合に好適な測定システム例を示す。この測定システムは、レーザドップラー血流計201と、最大酸素摂取量計測装置202で構成される。最大酸素摂取量計測装置202は、測定された血流量ωから最大酸素摂取量(VO2Max)を算出する装置であり、測定された血流量ωを格納する記憶装置2021と(式4)に基づく演算処理を実行する信号処理部2022で構成される。
【0113】
レーザドップラー血流計201は、例えば皮膚203の測定対象部位にレーザ光205を照射する発光部2011(例えばレーザダイオード)と、測定対象部位の血管204に流れる血液の速度に応じてドップラーシフト成分を有する散乱光207と皮膚表面で散乱したドップラーシフト成分を有しない散乱光206を受光する受光部2012(例えばフォトダイオード)と、2種類の干渉光206及び207から血流量ωを算出する信号処理部(不図示)とで構成する。
【0114】
ここでの信号処理部は、両散乱光の干渉により生じるうなり信号I(t)を検出する処理部と、うなり信号I(t)の強度(信号振幅)の2乗平均I2 とパワースペクトル成分P(ω0)とに基づいて次の(式8)により血流量を算出する処理部で構成する。ただし、ω0 はドップラーシフト量である。
血流量∝(∫ω0・P(ω0)・dω0)/I2 (式8)
【産業上の利用可能性】
【0115】
従来より、身体の各部位の血流量は体調や健康などに関係する指標を表すことが知られている。例えば抹消血流が悪化すると、冷えや痺れ、皮膚障害を起こす。また、抹消血管障害に伴うヒビ、アカギレなどを起こす。また、交感神経はアドレナリンを放出する。アドレナリンは血管を収縮させる作用があるため、交感神経の緊張が続き結果的に全身の血行障害がおこる。つまり抹消血流を計測して自律神経の活性度の状態を分析することができる。さらに運動負荷試験やリハビリなどの効果をみるために末梢血流を観察しようという動きも高まっている(非特許文献4)。
【0116】
また、メタボリックシンドロームの予防には、全身持久力を高いレベルで維持することが重要であることが明らかになっている。例えば厚生労働省は、「健康づくりのための運動基準2006」において、健康づくりのため性・年代別の最大酸素摂取量(VO2Max)の基準値を定めている。この基準値によると、日本人はVO2Maxが座位安静時の10倍(男性)・9倍(女性)以上であれば、循環器疾患の危険因子が少ないと言われている。従って、今まで専門の施設などにおいてアスリートを対象に計測していた持久力(VO2Max)を日常生活で計測できることは、健康チェック装置として使用できる。
【符号の説明】
【0117】
101…本体、102…測定領域、103…熱吸収体、104…蓋、105…環境温度計、106…皮膚表面温度計、107…可動板、108…操作ボタン、109…表示部、110…LED、111…断熱構造体、112…信号処理部、1121…記憶装置、113…外部通信部、114…核体温計、301…熱吸収体用ガイド、401…接触温度計、601、602…温度計、603…冷却ゲル、604…ペルチェ素子、701…放熱フィン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から測定された血流量を格納する記憶領域と、
前記記憶領域から読み出された血流量に基づいて最大酸素摂取量を算出する、又は当該算出処理に対応する関係を記憶する対応関係テーブルから血流量に対応する最大酸素摂取量を読み出す信号処理部と
を有することを特徴とする最大酸素摂取量計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の最大酸素摂取量計測装置において、
前記信号処理部は、前記血流量の自然対数値を変数とする関数に基づいて最大酸素摂取量を算出する、又は、当該対応関係を記憶する対応関係テーブルから最大酸素摂取量を読み出す
ことを特徴とする最大酸素摂取量計測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の最大酸素摂取量計測装置は、
血流量の測定時に、被験者の測定対象部位である皮膚表面を接触させる測定領域と、
前記測定領域に載置された前記測定対象部位の皮膚表面温度を測定する皮膚表面温度計と、
血流量の測定時に、前記測定対象部位に対して熱負荷を与える熱負荷印加部と、
前記熱負荷の印加終了後、前記測定対象部位の皮膚温度の温度変化を、前記皮膚表面温度計を通じて測定する温度変化測定部と、
環境温度と、核体温と、前記熱負荷の印加が終了した後の温度変化に基づいて、前記測定対象部位の血流量を演算する信号処理部と
を有することを特徴とする最大酸素摂取量計測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の最大酸素摂取量計測装置において、
被験者から測定された心拍数を格納する記憶領域と、
前記記憶装置から読み出された心拍数に基づいて前記血流量を算出する信号処理部と
を有することを特徴とする最大酸素摂取量計測装置。
【請求項5】
請求項1に記載の最大酸素摂取量計測装置において、
前記信号処理部は、レーザドップラー血流計から入力された被験者の血流量を前記記憶領域から読み出す
ことを特徴とする最大酸素摂取量計測装置。
【請求項6】
被験者から測定された心拍数を格納する記憶領域と、
前記記憶領域から読み出された心拍数に基づいて最大酸素摂取量を算出する、又は、当該算出処理に対応する関係を記憶する対応関係テーブルから心拍数に対応する最大酸素摂取量を読み出す信号処理部と
を有することを特徴とする最大酸素摂取量計測装置。
【請求項7】
最大酸素摂取量計測装置としての機能を提供するコンピュータに、
被験者について測定された血流量を記憶領域から読み出す処理と、
前記記憶領域から読み出された前記血流量の測定値に基づいて最大酸素摂取量を算出する、又は、当該算出処理に対応する関係を記憶する対応関係テーブルから血流量に対応する最大酸素摂取量を読み出す処理と
を実行させるプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムは、
前記血流量の自然対数値を変数とする関数に基づいて最大酸素摂取量を算出する、又は、当該算出処理に対応する関係を記憶する対応関係テーブルから血流量に対応する最大酸素摂取量を読み出す
ことを特徴とするプログラム。
【請求項9】
最大酸素摂取量計測装置としての機能を提供するコンピュータに、
被験者について測定された心拍数を記憶領域から読み出す処理と、
前記記憶領域から読み出された心拍数に基づいて最大酸素摂取量を算出する、又は、当該算出処理に対応する関係を記憶する対応関係テーブルから心拍数に対応する最大酸素摂取量を読み出す処理と
を実行させるプログラム。
【請求項10】
最大酸素摂取量計測装置において実行される最大酸素摂取量の計測方法において、
被験者について測定された血流量を記憶領域から読み出す処理と、
前記記憶領域から読み出された前記血流量の測定値に基づいて最大酸素摂取量を算出する、又は、当該算出処理に対応する関係を記憶する対応関係テーブルから血流量に対応する最大酸素摂取量を読み出す処理と
を有することを特徴とする最大酸素摂取量計測方法。
【請求項11】
請求項10に記載の最大酸素摂取量計測方法において、
前記血流量の自然対数値を変数とする関数に基づいて最大酸素摂取量を算出する、又は、当該算出処理に対応する関係を記憶する対応関係テーブルから血流量に対応する最大酸素摂取量を読み出す
ことを特徴とする最大酸素摂取量計測方法。
【請求項12】
最大酸素摂取量計測装置において実行される最大酸素摂取量の計測方法において、
被験者について測定された心拍数を記憶領域から読み出す処理と、
前記記憶領域から読み出された心拍数に基づいて最大酸素摂取量を算出する、又は、当該算出処理に対応する関係を記憶する対応関係テーブルから心拍数に対応する最大酸素摂取量を読み出す処理と
を有することを特徴とする最大酸素摂取量計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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