説明

月経前及び/又は月経中の身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤

【課題】月経前及び/又は月経中の身体的及び/又は精神的不快症状を手軽に緩和する。
【解決手段】
クラリーセージオイル、フェンネルオイル及びメリッサオイルから選ばれる1種以上の精油を含有する、月経前及び/又は月経中の身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤であって、前記症状の緩和が揮発した精油の吸入によるものである月経前及び/又は月経中の身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤の提供。就寝中、揮発した精油を1日あたり4〜8時間、10〜4000μg/m3濃度で吸入するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、月経前症候群や月経困難症などの月経前及び/又は月経中の、身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
月経前及び/又は月経中の身体的及び、及び精神的不快は、程度の違いはあるが、閉経前の多くの女性が訴える愁訴であり、月経前症候群(Premenstrual Syndrome;以下、PMSという)や月経困難症に代表される。
【0003】
PMSは、1931年にFrankにより初めて報告された月経の1週間程前(黄体期)に発症する身体的症状群、あるいは精神的症状群を指し、医学的には、「月経開始の3〜10日前から始まる身体的、精神的症状で月経開始とともに減退ないし消失するもの」と定義され、月経前緊張症とも呼ばれている。PMSの代表的な症状は、身体的な症状群としては、下腹痛、腰痛、下腹部が張る、頭痛、肩こり、手足の冷え、食欲が増す、下痢、便秘、むくみ、乳房が痛い、乳房が張る、ニキビができやすい、肌荒れ、疲れやすい、眠くなる等が挙げられる。また、精神的な症状群としては、イライラする、怒りやすい、攻撃的になる、憂うつ、涙もろい、不安が高まる等が挙げられる。
【0004】
月経困難症は、一般に、月経に対し異常に強い疼痛または全身障害を伴い、臥床したり仕事ができなくなるようなものと定義されており、月経痛症とも呼ばれる。月経困難症の代表的な症状としては、下腹痛、腰痛などの疼痛や、悪心、嘔吐、下痢、頭痛などのさまざまな身体的に不快な症状が報告されており、婦人科疾患としては比較的頻度の高い疾患である。
【0005】
女性の社会への進出が益々増加する中で、女性の労働生産性とPMSとの関係を指摘する学者もおり、PMSや月経困難症に代表される、月経前又は月経中の身体的及び精神的不快症状を緩和、軽減し女性のQOL(Quality of Life)を向上させることは、大きな社会的課題であると考えられる。
【0006】
精油を種々の疾患や精神状態の改善のために用いることは、「アロマセラピー」として知られており、PMSや月経困難症を軽減する方法としても提案されている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、アロマセラピーの効用は経験に基づくものであり、科学的に有効性や安全性が確認されたものはあまりない。アロマテラピーは、マッサージや沐浴といった方法で知られているように、身体に精油を直接接触させつつ、身体に物理的刺激を与える方法が一般的であった。また、精油の一つであるフェンネル油が月経困難症の軽減に有効である旨の治験報告があるが、これは経口投与によるものである(非特許文献2)。
【0007】
また、月経前緊張症、マタニティブルー、更年期障害による不快症状を改善するためにβ―カリオフィレンを吸入させることが開示されているが、さらに高い効果を発現するものが求められていた(特許文献1)。
【0008】
【非特許文献1】クリスティン・ウェストウッド「最新 アロマテラピーガイドブック」フレグランスジャーナル社、1995年、p.133-141
【非特許文献2】インターナショナル・ジャーナル・オブ・ジネコロジ−・アンド・オブステリクス(Int. J. Gynecol. Obstet.), 2003, 80(2), p.153-7
【特許文献1】特開2004-339191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、特に身体に物理的な刺激を与えることなく、また経口によらず、月経前及び/又は月経中の身体的及び/又は精神的不快症状を手軽に、かつ安全に緩和することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
クラリーセージオイル、フェンネルオイル及びメリッサオイルから選ばれる1種以上の精油を含有する、月経前及び/又は月経中の身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤であって、前記症状の緩和が揮発した精油の吸入によるものである月経前及び/又は月経中の身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、月経前及び/又は月経中の身体的及び、及び精神的不快症状を、特定の精油を例えば就寝中に吸入するという手軽な手段により緩和できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
上記の精油とは、植物体を圧搾、水蒸気蒸留、あるいは溶剤抽出により得られる液状あるいはペースト状の物質をいう。
【0013】
本発明に使用されるクラリーセージ(学名:Salvia sclarea L.)は、地中海沿岸地方原産、シソ科アキギリ属の植物であり、南フランス、イタリア、ルーマニア、モロッコ、イギリス、北米で広く栽培されている。クラリーセージオイルは、例えば開花中の花穂または全草の水蒸気蒸留により、0.1〜0.15%の収率で得られる。クラリーセージオイルの主要成分は、リナロール及びリナリルアセテートであり、両者でオイル中の約80%を占める。
【0014】
フェンネル(学名:Foeniculum vulgare Mill.)は、ヨーロッパ原産のセリ科ウイキョウ属の多年草であり、茴香または小茴香と呼ばれ有史以前より薬草として用いられていた。日本にも平安時代に渡来し、現在では世界中で広く栽培されている。フェンネルオイルは、例えば芳香と甘みを有する果実からの水蒸気蒸留により、6〜7%の収率で得られる。フェンネルオイルの主要成分は、アネトールで、特有の甘い芳香を有している。その他、アニスアルデヒド、カンファー、フェンコン、α−ピネン、リモネン、メチルカビコールなどの香気成分が見出されているが、フェンネルオイル特有の香気はアネトールによるものである。
【0015】
メリッサ(学名:Melissa officinalis L.)は、地中海沿岸地方原産のシソ科メリッサ属の多年草であり、レモンバームの別名の通り、葉は強いレモン様の香りを持つ。メリッサオイルは、例えば茎または葉の水蒸気蒸留により、乾草の0.1%の精油として得ることができる。メリッサオイルの主要成分は、ゲラニオール、リナロール、シトロネロール、シトロネラール、シトラール等であり、精油中のシトロネラールとシトラールの含量が40%に及ぶものもある。
【0016】
これらの精油は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、匂いの強さを調整するため、匂いを有さない水や有機溶剤、例えばクエン酸トリエチル、ジプロピレングリコール、エタノール、ベンジルベンゾエート、イソプロピルミリステート、ジエチルフタレート、流動パラフィン、グリセリン等で希釈して用いてもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、賦香のために他の香料と混合して用いてもよい。
【0017】
また、本発明の精油はそのまま又は希釈した状態で、布、不織布や綿等の繊維、セラミック、シルカゲル、多孔性セルロース粒子等の多孔物質;ゼラチン、寒天、メチルセルロース等の天然高分子物質を使用した水系ゲル;ポリアクリル系化合物、ポリメタクリル酸系化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂等の合成高分子物質や、木材チップ、粘土物質、高級脂肪酸エステル、高級ワックス、油性物質等に担持させて用いてもよい。
【0018】
さらに、本発明の不快症状の緩和剤は、有効成分である前記精油とともに、必要に応じて補助成分と組み合わせて製剤化、もしくは製品化することができる。形態は、香水、コロン、室内芳香剤等のフレグランス製品の外、クリーム、乳液、ボディーローション、ボディーパウダー類、ヘアークリーム、ヘアーローション、ヘアースプレー、消臭剤、生理用品、吸入薬等の医薬品、繊維、衣類等いずれの形態であってもよい。
【0019】
これら製剤への本発明の精油の配合量は、使用目的などを考慮して適宜決定すればよく、吸入により不快症状を緩和する効果が充分得られる量であればよい。使用形態および選択される精油によって異なるが、好ましくは0.001〜50重量%、 より好ましくは0.001〜30質量%、更に好ましくは0.01〜10質量%配合配合する。本発明に係る精油を室内芳香剤として調製する場合、0.05〜20質量%処方するのが好ましい。
【0020】
本発明の不快症状の緩和剤は、揮発した精油成分濃度として、好ましくは、10〜4000μg/m、より好ましくは50〜2000μg/m、更に好ましくは100〜1000μg/mで用いる。また1日あたり4〜8時間、就寝中に用いるのが好ましい。
【実施例】
【0021】
PMSの症状を訴えている女性を対象に、本発明の精油の含浸芳香体を使用して1ヶ月間、就寝中に香気を曝露し、自然に吸入させることによって、これら症状の緩和効果を評価した。
【0022】
すなわち、クラリーセージオイル、フェンネルオイル及びメリッサオイルを、それぞれ無香の溶媒であるクエン酸トリエチルで、匂いの強さが一定になるよう、表1に示す濃度に適宜希釈し、蓋付きのプラスティック容器(直径5cm、高さ3cm/広口ボトルMC−30竹本容器)に入れた化粧用コットン1.5gに、表1に示す質量で染み込ませ、寝室用芳香剤として被験者に配布し、1ヶ月間使用してもらった。試験開始後、3週間目には精油の揮散分を考慮して新しい芳香剤を使用してもらうこととした。
【表1】

【0023】
被験者間で曝露する時間帯を一定にする目的で曝露時間は就寝中にした。すなわち、精油を入れた容器を枕元に置き、就寝前にその容器の蓋を開け、起床時に閉めるという夜間曝露試験を行った。
【0024】
被験者女性は4名ずつの3つのグループに分け、各々異なる精油1種を1ヶ月間就寝時に使用し、試験開始時および試験終了時に、対照期(試験開始前の無処理の1ヶ月間)および試験期における各症状についてアンケート調査を行った。すなわち、PMSメモリーに記載されている表2〜4に示す各症状について、アンケート調査で各被験者が記入した各症状の点数を加算し、PMS得点を求め、効果の判定を行った。本評価では、黄体期、すなわち月経開始約10日前から開始まで、及び月経期、すなわち月経開始から月経終了までの2期間について各症状の程度を評価させた。
【0025】
PMSメモリーとは、PMSの診断用として月経連絡協議会および社団法人日本家族計画協会により開発されたものであり、日本人女性に頻度の多い月経に伴う症状(月経随伴症状)のリストを添付し、被験者自身が毎日の症状と程度を記録するように作成された日誌形式の冊子である。症状リストには、25項目の身体的症状(表2)、15項目の精神的症状(表3)、12項目の社会的症状(表4)が挙げられており、被験者は4段階(0:症状なし、1:少しあるが日常生活には影響なし、2:日常生活に影響する程度にある、3:はげしい)の点数で症状の程度を記録する。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
各被験者のPMS得点からグループ毎にPMS得点の平均値を求め、対照期と試験期のPMS得点を比較した結果を表5に示す。いずれの実施例においても被験者のPMSの症状を顕著に減少させ、試験期のPMS得点は対照期に比べ減少しており、本発明の精油が優れたPMSの症状の緩和効果を有することが明らかとなった。
【0030】
【表5】

【0031】
さらに、PMSの症状リストのうち身体的症状、精神的症状、および社会的症状について、それぞれを対照期と試験期で比較した結果を表6に示す。いずれの実施例においても、各症状の試験期のPMS得点は対照期に比べ減少しており、本発明の香料は精神的不快症状を緩和するだけでなく、身体的な不快症状も緩和する効果を有することが明らかとなった。
【0032】
【表6】

【0033】
さらに、対照期と試験期の間の、黄体期および月経期におけるそれぞれのPMS得点を比較した結果を表7に示す。いずれの実施例においても試験期のPMS得点は対照期に比べ減少しており、本発明の香料は月経前(黄体期)の身体的及び/又は精神的不快症状を緩和するだけでなく、月経中(月経期)のこれら不快症状も緩和する効果を有することが明らかとなった。
【0034】
【表7】

【0035】
このようなことから本発明の香料は、PMSの症状の緩和効果だけでなく、月経時に訴えられる月経困難症の症状や月経痛など、広く月経に伴う月経前及び/又は月経中の身体的及び/又は精神的不快症状を緩和する効果を有することがわかった。
【0036】
また、試験期間中のPMSの症状の緩和効果について、被験者からは以下のような感想が挙げられた。すなわち、身体的症状としては、寝付きが良くなった、眠りが深かった、力が抜けて疲れが取れた、腰痛がかなり楽だった、肌の調子がいつもよりよかった等、精神的症状としては、心身ともにリラックスできた、ゆったりとした気分になった、気持ちが穏やかになった等、社会的症状としては、気が楽になった等である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラリーセージオイル、フェンネルオイル及びメリッサオイルから選ばれる1種以上の精油を含有する、月経前及び/又は月経中の、身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤であって、前記症状の緩和が揮発した精油の吸入によるものである月経前及び/又は月経中の、身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤。
【請求項2】
クラリーセージオイル、フェンネルオイル及びメリッサオイルから選ばれる1種以上の精油を担体に担持させたものであって、月経前及び/又は月経中の、身体的及び/又は精神的不快症状を緩和する旨の表示を付した、吸入による月経前及び/又は月経中の、身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤。
【請求項3】
就寝中に吸入するものである請求項1又は2記載の月経前及び/又は月経中の、身体的及び/又は精神的不快症状の緩和剤。
【請求項4】
クラリーセージオイル、フェンネルオイル及びメリッサオイルから選ばれる1種以上の精油の揮発成分を吸入する、月経前及び/又は月経中の、身体的及び/又は精神的不快症状の緩和方法。

【公開番号】特開2006−249038(P2006−249038A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70917(P2005−70917)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】